だんのこまち@wiki
日常の違和感
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模擬戦のあとで
模擬戦授業から一週間ほどが経ちました。
授業そのものはもう終わっています。
けれど、決勝戦の記録映像やAグループへ入った生徒の一覧は、合同授業に参加する二年生にも共有されていました。
その影響なのか、廊下で知らない上級生から声をかけられることが増えています。
「決勝、すごかったね」
「最後、本当に同時に見えたよ」
「今度の体育祭、期待してる」
最初は、どう返せばいいのか迷いました。
ですが、悪く言われているわけではありません。
今では、立ち止まってくださった方へ、
「ありがとうございます。まだ練習中ですが、頑張ります」
と答えられるようになりました。
注目されることには慣れていません。
それでも、模擬戦の話をしていただくこと自体は嬉しいです。
あの試合で、自分が何を考えていたのか。
どこが危なかったのか。
次はどう動きたいのか。
そういう話なら、私も楽しく話せました。
その日の放課後。
Aグループの一年生は、二年生と合同で簡単な交流練習を行いました。
本格的な指導授業ではなく、武器を持たずに間合いや足運びを確認するだけの内容です。
みた先輩との練習を終え、シュトレンさんとフィナンシェさんの待つ昇降口へ向かっていた時でした。
「チョコチップさん」
後ろから名前を呼ばれ、振り返ります。
明るい茶色の髪をした男子生徒が、こちらへ歩いてきました。
制服の表示を見ると、二年三組。
デュエル授業のグループタグはAです。
「はい」
「急にごめん。俺、ノアフロランタン。今日、隣のフィールドで練習してたんだ」
「初めまして。チョコチップです」
「それは知ってる。模擬戦の決勝、見たから」
フロランタン先輩は、親しみやすそうに笑いました。
「最後、相手の攻撃を防御判定にしたまま前へ入ったよね。あれ、最初から狙ってたの?」
いきなり外見や一位になったことだけを褒めるのではなく、試合の動きを聞かれました。
そのことが少し嬉しくて、私は足を止めます。
「完全に狙っていたわけではありません。相手の二撃目が戻りきる前なら、こちらの木刀が届くと思ったんです」
「やっぱり、ちゃんと見てたんだ」
「相手の武器をですか?」
「武器だけじゃなくて、腕と肩。直前まで目線が動いてたから」
フロランタン先輩も、私の動きをよく見ていたようです。
そこからしばらく、模擬戦の話をしました。
大型武器の間合い。
銃を相手にした時の詰め方。
学校のデュエルと、ゲーム内戦闘の違い。
フロランタン先輩は話し方が明るく、こちらの言葉にもよく笑います。
初対面というより、同じ競技をしている人同士で話しているような気楽さがありました。
「そういえば、みんなからチョコちゃんって呼ばれてるよね」
「はい。そう呼ばれることが多いです」
「じゃあ、俺もチョコちゃんでいい?」
「構いません」
「俺のことも、ノアでいいよ。先輩って呼ばれると固いし」
私は少し考えました。
出会ったばかりの上級生を、いきなり名前だけで呼ぶのは落ち着きません。
「しばらくは、フロランタン先輩とお呼びします」
「真面目だなぁ」
「呼び慣れてから考えます」
「じゃあ、そのうちね」
フロランタン先輩は楽しそうに笑いました。
「今度、Aグループの練習でも当たるかもしれないし、よろしく」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
別れたあと、昇降口へ向かいます。
最初に感じた印象は、話しやすい先輩でした。
模擬戦のことをきちんと見てくれていた。
同じAグループとして、今後も話す機会があるかもしれない。
その時は、それだけでした。
授業そのものはもう終わっています。
けれど、決勝戦の記録映像やAグループへ入った生徒の一覧は、合同授業に参加する二年生にも共有されていました。
その影響なのか、廊下で知らない上級生から声をかけられることが増えています。
「決勝、すごかったね」
「最後、本当に同時に見えたよ」
「今度の体育祭、期待してる」
最初は、どう返せばいいのか迷いました。
ですが、悪く言われているわけではありません。
今では、立ち止まってくださった方へ、
「ありがとうございます。まだ練習中ですが、頑張ります」
と答えられるようになりました。
注目されることには慣れていません。
それでも、模擬戦の話をしていただくこと自体は嬉しいです。
あの試合で、自分が何を考えていたのか。
どこが危なかったのか。
次はどう動きたいのか。
そういう話なら、私も楽しく話せました。
その日の放課後。
Aグループの一年生は、二年生と合同で簡単な交流練習を行いました。
本格的な指導授業ではなく、武器を持たずに間合いや足運びを確認するだけの内容です。
みた先輩との練習を終え、シュトレンさんとフィナンシェさんの待つ昇降口へ向かっていた時でした。
「チョコチップさん」
後ろから名前を呼ばれ、振り返ります。
明るい茶色の髪をした男子生徒が、こちらへ歩いてきました。
制服の表示を見ると、二年三組。
デュエル授業のグループタグはAです。
「はい」
「急にごめん。俺、ノアフロランタン。今日、隣のフィールドで練習してたんだ」
「初めまして。チョコチップです」
「それは知ってる。模擬戦の決勝、見たから」
フロランタン先輩は、親しみやすそうに笑いました。
「最後、相手の攻撃を防御判定にしたまま前へ入ったよね。あれ、最初から狙ってたの?」
いきなり外見や一位になったことだけを褒めるのではなく、試合の動きを聞かれました。
そのことが少し嬉しくて、私は足を止めます。
「完全に狙っていたわけではありません。相手の二撃目が戻りきる前なら、こちらの木刀が届くと思ったんです」
「やっぱり、ちゃんと見てたんだ」
「相手の武器をですか?」
「武器だけじゃなくて、腕と肩。直前まで目線が動いてたから」
フロランタン先輩も、私の動きをよく見ていたようです。
そこからしばらく、模擬戦の話をしました。
大型武器の間合い。
銃を相手にした時の詰め方。
学校のデュエルと、ゲーム内戦闘の違い。
フロランタン先輩は話し方が明るく、こちらの言葉にもよく笑います。
初対面というより、同じ競技をしている人同士で話しているような気楽さがありました。
「そういえば、みんなからチョコちゃんって呼ばれてるよね」
「はい。そう呼ばれることが多いです」
「じゃあ、俺もチョコちゃんでいい?」
「構いません」
「俺のことも、ノアでいいよ。先輩って呼ばれると固いし」
私は少し考えました。
出会ったばかりの上級生を、いきなり名前だけで呼ぶのは落ち着きません。
「しばらくは、フロランタン先輩とお呼びします」
「真面目だなぁ」
「呼び慣れてから考えます」
「じゃあ、そのうちね」
フロランタン先輩は楽しそうに笑いました。
「今度、Aグループの練習でも当たるかもしれないし、よろしく」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
別れたあと、昇降口へ向かいます。
最初に感じた印象は、話しやすい先輩でした。
模擬戦のことをきちんと見てくれていた。
同じAグループとして、今後も話す機会があるかもしれない。
その時は、それだけでした。
近い呼び方
翌朝。
シュトレンさんと一緒に教室へ向かっていると、階段の近くにフロランタン先輩が立っていました。
こちらを見つけると、すぐに手を上げます。
「おはよう、チョコちゃん」
「おはようございます、フロランタン先輩」
「昨日の練習ログ、共有できるみたいだから送ろうと思って」
フロランタン先輩がDPo-Xを開きます。
私も端末を取り出し、連絡先を交換しました。
理由もはっきりしていますし、同じAグループの上級生です。
断る必要はありません。
「ありがとうございます。自分の動きを外から確認したかったんです」
「チョコちゃんなら、何回か見ればまたすぐ直しそう」
「そこまで簡単ではありません」
「でも、真面目だから全部見そうだよね」
「時間があれば、確認します」
「ほら、やっぱり」
少し先を歩いていたシュトレンさんが、こちらを振り返りました。
私は彼女の隣へ戻ろうとします。
その前に、フロランタン先輩が私の髪へ目を向けました。
「今日も花、つけてるんだね」
「はい」
「模擬戦の時も目立ってた。すごく似合ってるよ」
「ありがとうございます」
「チョコちゃんって、おとなしくてかわいい感じなのに、戦うと全然違うよね。そのギャップ、いいと思う」
褒めてくださっているのだと思います。
ですが、「おとなしい」と言われると、少しだけ違う気もしました。
「私は、そこまでおとなしくはないと思います」
シュトレンさんやフィナンシェさんとは、冗談も言います。
ミントちゃんとは、家でよく話します。
FoFでは、自分から敵へ踏み込むこともあります。
以前より人へ話しかけることにも慣れてきました。
「そういうふうに言うところも、かわいいけどね」
フロランタン先輩は笑いました。
私は返事を探しました。
違うと伝えたつもりでした。
けれど、先ほどの言葉まで、同じ「かわいい」の中へ入れられてしまったようです。
「それじゃ、またあとで」
フロランタン先輩は先に階段を上がっていきました。
シュトレンさんの隣へ戻ります。
「昨日、知り合った先輩?」
「はい。二年三組のフロランタン先輩です。Aグループで、模擬戦の話をしてくださいました」
「話しやすそうな人だね」
「そうですね」
答えながら、先ほどの会話を思い返します。
嫌なことを言われたわけではありません。
怒ってもいません。
ただ、自分の言葉が相手へ届く前に、別の意味へ置き換えられたような感覚だけが残っていました。
「チョコちゃん?」
シュトレンさんが、少し横から私の顔を覗き込みます。
「何か気になった?」
「少しだけ、不思議な話し方だと思いました」
「不思議?」
「私が答えたあとも、答える前と同じ話が続いていたので」
シュトレンさんは少し考えました。
「距離を縮めるのが早い人なのかもね」
「それだけなら、私が慣れていないだけかもしれません」
「無理に慣れなくてもいいと思うよ」
シュトレンさんは、いつもの明るい声で言いました。
「話してみて楽しかったところは楽しかった。変だと思ったところは変だった。それでいいんじゃない?」
「そういうものですか?」
「全部一つの感想にまとめなくてもいいでしょ?」
その考え方は、少し気持ちが楽になりました。
フロランタン先輩は話しやすい。
模擬戦の話は楽しかった。
ただ、一部だけ不思議だった。
今のところは、それでよいのかもしれません。
シュトレンさんと一緒に教室へ向かっていると、階段の近くにフロランタン先輩が立っていました。
こちらを見つけると、すぐに手を上げます。
「おはよう、チョコちゃん」
「おはようございます、フロランタン先輩」
「昨日の練習ログ、共有できるみたいだから送ろうと思って」
フロランタン先輩がDPo-Xを開きます。
私も端末を取り出し、連絡先を交換しました。
理由もはっきりしていますし、同じAグループの上級生です。
断る必要はありません。
「ありがとうございます。自分の動きを外から確認したかったんです」
「チョコちゃんなら、何回か見ればまたすぐ直しそう」
「そこまで簡単ではありません」
「でも、真面目だから全部見そうだよね」
「時間があれば、確認します」
「ほら、やっぱり」
少し先を歩いていたシュトレンさんが、こちらを振り返りました。
私は彼女の隣へ戻ろうとします。
その前に、フロランタン先輩が私の髪へ目を向けました。
「今日も花、つけてるんだね」
「はい」
「模擬戦の時も目立ってた。すごく似合ってるよ」
「ありがとうございます」
「チョコちゃんって、おとなしくてかわいい感じなのに、戦うと全然違うよね。そのギャップ、いいと思う」
褒めてくださっているのだと思います。
ですが、「おとなしい」と言われると、少しだけ違う気もしました。
「私は、そこまでおとなしくはないと思います」
シュトレンさんやフィナンシェさんとは、冗談も言います。
ミントちゃんとは、家でよく話します。
FoFでは、自分から敵へ踏み込むこともあります。
以前より人へ話しかけることにも慣れてきました。
「そういうふうに言うところも、かわいいけどね」
フロランタン先輩は笑いました。
私は返事を探しました。
違うと伝えたつもりでした。
けれど、先ほどの言葉まで、同じ「かわいい」の中へ入れられてしまったようです。
「それじゃ、またあとで」
フロランタン先輩は先に階段を上がっていきました。
シュトレンさんの隣へ戻ります。
「昨日、知り合った先輩?」
「はい。二年三組のフロランタン先輩です。Aグループで、模擬戦の話をしてくださいました」
「話しやすそうな人だね」
「そうですね」
答えながら、先ほどの会話を思い返します。
嫌なことを言われたわけではありません。
怒ってもいません。
ただ、自分の言葉が相手へ届く前に、別の意味へ置き換えられたような感覚だけが残っていました。
「チョコちゃん?」
シュトレンさんが、少し横から私の顔を覗き込みます。
「何か気になった?」
「少しだけ、不思議な話し方だと思いました」
「不思議?」
「私が答えたあとも、答える前と同じ話が続いていたので」
シュトレンさんは少し考えました。
「距離を縮めるのが早い人なのかもね」
「それだけなら、私が慣れていないだけかもしれません」
「無理に慣れなくてもいいと思うよ」
シュトレンさんは、いつもの明るい声で言いました。
「話してみて楽しかったところは楽しかった。変だと思ったところは変だった。それでいいんじゃない?」
「そういうものですか?」
「全部一つの感想にまとめなくてもいいでしょ?」
その考え方は、少し気持ちが楽になりました。
フロランタン先輩は話しやすい。
模擬戦の話は楽しかった。
ただ、一部だけ不思議だった。
今のところは、それでよいのかもしれません。
返事より先に
昼休み。
私はシュトレンさん、フィナンシェさん、プラリネさんと一緒に昼食を食べていました。
机の上には、プラリネさんが持ってきてくれた小さなパンが並んでいます。
「今日は、くるみとチーズ」
「おいしいです」
一口食べると、香ばしい生地の中に、少し塩気のあるチーズが入っていました。
「くるみの食感もいいですね」
「本当? お店でも出せそう?」
「朝より、お昼に食べたい感じかも」
シュトレンさんが言いました。
「スープと一緒に食べたくなるね」
フィナンシェさんは、パンの形を見ています。
「もう少し細長くしたら、持ちやすそう」
「今度試してみる」
四人で話していると、教室の扉の方から私を呼ぶ声がしました。
「チョコちゃん」
フロランタン先輩です。
二年生が一年生の教室へ来たことで、周囲の何人かがこちらを見ました。
「少しいい?」
「はい」
私は席を立ち、教室の外へ出ました。
「今から、学校のカフェへ行かない?」
「今からですか?」
「昼休み、まだ時間あるでしょ?」
確かに時間はあります。
ですが、私はすでに友人たちと昼食を食べている途中です。
「今日は皆さんと食事をしていますので」
「じゃあ、食べ終わってから少しだけ」
「そのあと、次の授業の準備があります」
「真面目だなぁ。なら、放課後にしようか」
「今日はKirscheで、キャンプ場の候補を確認する予定です」
「いつも、あの三人と一緒なんだね」
フロランタン先輩は、開いた教室の扉から中を見ました。
「たまには、俺にも時間をくれていいでしょ?」
言い方は明るいままです。
冗談のようにも聞こえます。
けれど、私はその言葉に引っかかりました。
時間を差し上げる約束をしたことはありません。
「では、予定が空いている時に」
「いつ空いてる?」
「まだ確認していません」
「確認できたら教えて。先に予定を入れておけば、今度は大丈夫だよね」
私が返事をするより先に、次に二人で出かけることが決まったような話し方でした。
「まだ、どこへ行くかも決めていませんよね」
「それは一緒に決めればいいよ。チョコちゃん、甘いもの好きそうだから、いい店を探しておく」
「料理は好きですが、甘いものだけが好きというわけではありません」
「じゃあ、そこも今度教えて」
フロランタン先輩は笑いました。
「また連絡するね」
廊下の向こうへ歩いていきます。
私はその場に残りました。
一つ一つの言葉だけなら、変ではありません。
カフェへ誘われた。
都合が悪いと伝えた。
次の予定を聞かれた。
好きな食べ物を知りたいと言われた。
どれも、友人同士なら普通にある会話です。
それなのに、全部を続けて聞くと、私の返事が入る場所だけが少ないように感じました。
教室へ戻ると、三人がこちらを見ます。
「何の話だったの?」
フィナンシェさんが尋ねました。
「カフェへ行かないかと誘っていただきました」
「行くの?」
「今日は断りました。ですが、次に行く予定は、いつの間にか決まったようです」
「決まったよう?」
シュトレンさんが首を傾げます。
「私は『行きます』とは言っていないのですが、空いている日を教えることになっていました」
フィナンシェさんはパンを一口食べ、少し考えました。
「話を進めるのが早い人なんだね」
「フィナンシェさんも早いですよ」
「私は、嫌なら嫌って言えるところで止めるよ」
「確かに、フィナンシェさんは確認しますね」
服を選ぶ時も。
週末の予定を決める時も。
フィナンシェさんは話を早く進めます。
ですが、私たちの表情を見ます。
嫌だと言えば、別の案を出してくれます。
決まったあとも、変更できます。
フロランタン先輩との会話は、それとは少し違いました。
「嫌なの?」
プラリネさんが尋ねます。
「嫌だとは、まだ思っていません」
話していて楽しい内容もあります。
優しく接してくださいます。
「ただ、話し終わったあとに、私が言っていないことが増えているんです」
自分で言葉にすると、少しだけ違和感の形が見えました。
「それなら、すぐに返事をしなくてもいいと思う」
シュトレンさんが言いました。
「次に聞かれた時に、自分で決めてから答えればいいよ」
「はい」
三人はそれ以上、フロランタン先輩を悪く言いませんでした。
私も、悪い人だとは思っていません。
そのことに、少し安心します。
私はシュトレンさん、フィナンシェさん、プラリネさんと一緒に昼食を食べていました。
机の上には、プラリネさんが持ってきてくれた小さなパンが並んでいます。
「今日は、くるみとチーズ」
「おいしいです」
一口食べると、香ばしい生地の中に、少し塩気のあるチーズが入っていました。
「くるみの食感もいいですね」
「本当? お店でも出せそう?」
「朝より、お昼に食べたい感じかも」
シュトレンさんが言いました。
「スープと一緒に食べたくなるね」
フィナンシェさんは、パンの形を見ています。
「もう少し細長くしたら、持ちやすそう」
「今度試してみる」
四人で話していると、教室の扉の方から私を呼ぶ声がしました。
「チョコちゃん」
フロランタン先輩です。
二年生が一年生の教室へ来たことで、周囲の何人かがこちらを見ました。
「少しいい?」
「はい」
私は席を立ち、教室の外へ出ました。
「今から、学校のカフェへ行かない?」
「今からですか?」
「昼休み、まだ時間あるでしょ?」
確かに時間はあります。
ですが、私はすでに友人たちと昼食を食べている途中です。
「今日は皆さんと食事をしていますので」
「じゃあ、食べ終わってから少しだけ」
「そのあと、次の授業の準備があります」
「真面目だなぁ。なら、放課後にしようか」
「今日はKirscheで、キャンプ場の候補を確認する予定です」
「いつも、あの三人と一緒なんだね」
フロランタン先輩は、開いた教室の扉から中を見ました。
「たまには、俺にも時間をくれていいでしょ?」
言い方は明るいままです。
冗談のようにも聞こえます。
けれど、私はその言葉に引っかかりました。
時間を差し上げる約束をしたことはありません。
「では、予定が空いている時に」
「いつ空いてる?」
「まだ確認していません」
「確認できたら教えて。先に予定を入れておけば、今度は大丈夫だよね」
私が返事をするより先に、次に二人で出かけることが決まったような話し方でした。
「まだ、どこへ行くかも決めていませんよね」
「それは一緒に決めればいいよ。チョコちゃん、甘いもの好きそうだから、いい店を探しておく」
「料理は好きですが、甘いものだけが好きというわけではありません」
「じゃあ、そこも今度教えて」
フロランタン先輩は笑いました。
「また連絡するね」
廊下の向こうへ歩いていきます。
私はその場に残りました。
一つ一つの言葉だけなら、変ではありません。
カフェへ誘われた。
都合が悪いと伝えた。
次の予定を聞かれた。
好きな食べ物を知りたいと言われた。
どれも、友人同士なら普通にある会話です。
それなのに、全部を続けて聞くと、私の返事が入る場所だけが少ないように感じました。
教室へ戻ると、三人がこちらを見ます。
「何の話だったの?」
フィナンシェさんが尋ねました。
「カフェへ行かないかと誘っていただきました」
「行くの?」
「今日は断りました。ですが、次に行く予定は、いつの間にか決まったようです」
「決まったよう?」
シュトレンさんが首を傾げます。
「私は『行きます』とは言っていないのですが、空いている日を教えることになっていました」
フィナンシェさんはパンを一口食べ、少し考えました。
「話を進めるのが早い人なんだね」
「フィナンシェさんも早いですよ」
「私は、嫌なら嫌って言えるところで止めるよ」
「確かに、フィナンシェさんは確認しますね」
服を選ぶ時も。
週末の予定を決める時も。
フィナンシェさんは話を早く進めます。
ですが、私たちの表情を見ます。
嫌だと言えば、別の案を出してくれます。
決まったあとも、変更できます。
フロランタン先輩との会話は、それとは少し違いました。
「嫌なの?」
プラリネさんが尋ねます。
「嫌だとは、まだ思っていません」
話していて楽しい内容もあります。
優しく接してくださいます。
「ただ、話し終わったあとに、私が言っていないことが増えているんです」
自分で言葉にすると、少しだけ違和感の形が見えました。
「それなら、すぐに返事をしなくてもいいと思う」
シュトレンさんが言いました。
「次に聞かれた時に、自分で決めてから答えればいいよ」
「はい」
三人はそれ以上、フロランタン先輩を悪く言いませんでした。
私も、悪い人だとは思っていません。
そのことに、少し安心します。
違うなら、よかった
数日後。
Aグループの訓練授業がありました。
みた先輩と一対一の間合い練習を行い、そのあと二対二の基礎連携を確認します。
みた先輩は、私が攻撃へ移る直前の癖を細かく指摘しました。
「チョコ、また左肩が上がってる」
「前よりは直っていると思います」
「前よりはね」
そう言いながらも、練習は楽しかったです。
試合のように勝敗を決めるわけではありません。
失敗しても、その場でやり直せます。
みた先輩の動きを見ながら、自分が届かない理由を一つずつ考える時間は、FoFで初めて戦いを教わった頃を思い出しました。
授業が終わり、演習室の外へ出ると、フロランタン先輩が壁際で待っていました。
「お疲れ、チョコちゃん」
「お疲れさまです」
「みたらしっぽと組んでるんだね」
「はい。指導ペアですから」
「ずいぶん仲がいいよね。学校へ入る前から知ってるんだっけ?」
「中学校の頃からです。FoFでは、それより前からお世話になっています」
フロランタン先輩の視線が、私の花飾りへ移りました。
「その花も、みたらしっぽから?」
「はい」
「もしかして、付き合ってる?」
あまりにも直接的な質問で、すぐには言葉が出ませんでした。
みた先輩は、私にとって大切な人です。
FoFで助けていただいた恩人で。
学校の先輩で。
目標でもあります。
ですが、今聞かれている意味での関係ではありません。
「いいえ。みた先輩は、大切な先輩です」
「そっか。違うならよかった」
フロランタン先輩は、安心したように笑いました。
私は反射的に尋ねます。
「何が、よかったんですか?」
「少し気になってただけ」
それ以上は説明せず、別の話へ移りました。
「そういえば、チョコちゃんって学校ではいつもお団子だよね。休日は髪、下ろしてるの?」
「はい。学校以外では下ろすこともあります」
「見てみたいな。今度二人で出かけたら、その時は下ろしてきてよ」
私が出かけると答える前に。
髪型まで、先に決まっていました。
「髪型は、その日の服に合わせて決めます」
「じゃあ、俺が似合いそうな店を選ぶよ」
「そういう意味ではありません」
「わかってるって」
フロランタン先輩は笑っています。
悪意は感じません。
私を困らせたいわけでもないのでしょう。
それでも、その日は会話を続ける気持ちになれませんでした。
「皆さんを待たせていますので、失礼します」
「うん。また連絡する」
頭を下げ、先に歩き出しました。
廊下を曲がっても、胸の奥に言葉が残っています。
――違うならよかった。
何がよかったのか。
なぜ、フロランタン先輩が安心するのか。
答えは、何となく想像できそうでした。
けれど、その答えを認めるには、自分の中の経験が足りません。
今まで、誰かからこのような距離の詰め方をされたことはありませんでした。
同じ言葉を、シュトレンさんやフィナンシェさんに言われた場合を考えます。
きっと、ここまで引っかかりません。
みた先輩やシロさんなら。
ミントちゃんやエスプレッソさんなら。
やはり、違います。
言葉の内容ではなく。
言われるまでに積み重ねてきた距離が、違うのだと思いました。
Aグループの訓練授業がありました。
みた先輩と一対一の間合い練習を行い、そのあと二対二の基礎連携を確認します。
みた先輩は、私が攻撃へ移る直前の癖を細かく指摘しました。
「チョコ、また左肩が上がってる」
「前よりは直っていると思います」
「前よりはね」
そう言いながらも、練習は楽しかったです。
試合のように勝敗を決めるわけではありません。
失敗しても、その場でやり直せます。
みた先輩の動きを見ながら、自分が届かない理由を一つずつ考える時間は、FoFで初めて戦いを教わった頃を思い出しました。
授業が終わり、演習室の外へ出ると、フロランタン先輩が壁際で待っていました。
「お疲れ、チョコちゃん」
「お疲れさまです」
「みたらしっぽと組んでるんだね」
「はい。指導ペアですから」
「ずいぶん仲がいいよね。学校へ入る前から知ってるんだっけ?」
「中学校の頃からです。FoFでは、それより前からお世話になっています」
フロランタン先輩の視線が、私の花飾りへ移りました。
「その花も、みたらしっぽから?」
「はい」
「もしかして、付き合ってる?」
あまりにも直接的な質問で、すぐには言葉が出ませんでした。
みた先輩は、私にとって大切な人です。
FoFで助けていただいた恩人で。
学校の先輩で。
目標でもあります。
ですが、今聞かれている意味での関係ではありません。
「いいえ。みた先輩は、大切な先輩です」
「そっか。違うならよかった」
フロランタン先輩は、安心したように笑いました。
私は反射的に尋ねます。
「何が、よかったんですか?」
「少し気になってただけ」
それ以上は説明せず、別の話へ移りました。
「そういえば、チョコちゃんって学校ではいつもお団子だよね。休日は髪、下ろしてるの?」
「はい。学校以外では下ろすこともあります」
「見てみたいな。今度二人で出かけたら、その時は下ろしてきてよ」
私が出かけると答える前に。
髪型まで、先に決まっていました。
「髪型は、その日の服に合わせて決めます」
「じゃあ、俺が似合いそうな店を選ぶよ」
「そういう意味ではありません」
「わかってるって」
フロランタン先輩は笑っています。
悪意は感じません。
私を困らせたいわけでもないのでしょう。
それでも、その日は会話を続ける気持ちになれませんでした。
「皆さんを待たせていますので、失礼します」
「うん。また連絡する」
頭を下げ、先に歩き出しました。
廊下を曲がっても、胸の奥に言葉が残っています。
――違うならよかった。
何がよかったのか。
なぜ、フロランタン先輩が安心するのか。
答えは、何となく想像できそうでした。
けれど、その答えを認めるには、自分の中の経験が足りません。
今まで、誰かからこのような距離の詰め方をされたことはありませんでした。
同じ言葉を、シュトレンさんやフィナンシェさんに言われた場合を考えます。
きっと、ここまで引っかかりません。
みた先輩やシロさんなら。
ミントちゃんやエスプレッソさんなら。
やはり、違います。
言葉の内容ではなく。
言われるまでに積み重ねてきた距離が、違うのだと思いました。
返せない通知
その日の夜。
私はFoFで、エスプレッソさんと王都近郊の林へ来ていました。
ギルド倉庫で不足していた薬草を集める、短い依頼です。
大きな戦闘はありません。
時々現れるグラスボアを倒しながら、月明かりの当たる草地を探します。
「右」
エスプレッソさんの声で、私は刀を構えました。
木々の間から、一体のグラスボアが飛び出します。
突進。
横へ避ける。
いつもなら、そのまま脇へ一撃を入れます。
ですが、踏み込みが一歩早くなりました。
刀の先がわずかに外れます。
グラスボアが方向を変えました。
「っ……」
次の突進へ備えようとした時、黒い刃が地面へ刺さります。
グラスボアの足が止まりました。
「今」
「はい!」
一閃。
光の粒が散り、戦闘が終わります。
「ありがとうございます」
「集中が少し早い」
「遅い、ではなく?」
「相手が動く前に、自分で終わりを決めていた」
その言葉に、昼間の会話が重なりました。
戦闘へ入る直前。
DPo-Xへ、フロランタン先輩からの通知が届いていました。
<休日、いつ空いてる?>
続けて。
<チョコちゃんの行きたい場所でもいいよ>
さらに。
<髪下ろしてきてね>
私は、まだ返事をしていません。
「学校の連絡?」
エスプレッソさんが尋ねました。
「はい。返事を考えていました」
「今、返す必要がある?」
「すぐに返さないと、失礼でしょうか」
「約束の時間が決まっている?」
「いいえ」
「なら、あとでいい」
エスプレッソさんは、それだけ言って薬草を探し始めました。
返事を急かしません。
誰からの連絡なのかも。
何を言われたのかも。
こちらが話す前に決めようとはしませんでした。
私は通知を閉じ、周囲へ意識を戻します。
「エスプレッソさん」
「何?」
「返事をしないことも、返事の一つでしょうか」
「場合による」
「そうですよね」
「ただ、考える時間がほしいなら、その時間は取っていい」
短い答えでした。
それでも、少しだけ呼吸がしやすくなります。
私たちは必要な薬草を集め、王都へ戻りました。
依頼を終えても、フロランタン先輩への返事は決まりませんでした。
私はFoFで、エスプレッソさんと王都近郊の林へ来ていました。
ギルド倉庫で不足していた薬草を集める、短い依頼です。
大きな戦闘はありません。
時々現れるグラスボアを倒しながら、月明かりの当たる草地を探します。
「右」
エスプレッソさんの声で、私は刀を構えました。
木々の間から、一体のグラスボアが飛び出します。
突進。
横へ避ける。
いつもなら、そのまま脇へ一撃を入れます。
ですが、踏み込みが一歩早くなりました。
刀の先がわずかに外れます。
グラスボアが方向を変えました。
「っ……」
次の突進へ備えようとした時、黒い刃が地面へ刺さります。
グラスボアの足が止まりました。
「今」
「はい!」
一閃。
光の粒が散り、戦闘が終わります。
「ありがとうございます」
「集中が少し早い」
「遅い、ではなく?」
「相手が動く前に、自分で終わりを決めていた」
その言葉に、昼間の会話が重なりました。
戦闘へ入る直前。
DPo-Xへ、フロランタン先輩からの通知が届いていました。
<休日、いつ空いてる?>
続けて。
<チョコちゃんの行きたい場所でもいいよ>
さらに。
<髪下ろしてきてね>
私は、まだ返事をしていません。
「学校の連絡?」
エスプレッソさんが尋ねました。
「はい。返事を考えていました」
「今、返す必要がある?」
「すぐに返さないと、失礼でしょうか」
「約束の時間が決まっている?」
「いいえ」
「なら、あとでいい」
エスプレッソさんは、それだけ言って薬草を探し始めました。
返事を急かしません。
誰からの連絡なのかも。
何を言われたのかも。
こちらが話す前に決めようとはしませんでした。
私は通知を閉じ、周囲へ意識を戻します。
「エスプレッソさん」
「何?」
「返事をしないことも、返事の一つでしょうか」
「場合による」
「そうですよね」
「ただ、考える時間がほしいなら、その時間は取っていい」
短い答えでした。
それでも、少しだけ呼吸がしやすくなります。
私たちは必要な薬草を集め、王都へ戻りました。
依頼を終えても、フロランタン先輩への返事は決まりませんでした。
嫌ではないのに
現実へ戻ると、ミントちゃんが台所にいました。
夕食の準備を始めてくれたようで、野菜を並べています。
「おかえり、お姉ちゃん」
「ただいま戻りました」
「今日はスープでいい?」
「はい。私も手伝います」
隣へ立ち、野菜を切り始めます。
しばらくは、いつものように学校の話をしました。
ミントちゃんの授業。
マキアートさんとの帰り道。
私のデュエル訓練。
みた先輩から、また左肩の癖を指摘されたこと。
その途中でも、DPo-Xの通知表示が視界の端に残っていました。
ミントちゃんが、包丁を置きます。
「お姉ちゃん」
「はい?」
「今日、端末見るたびに困った顔してるよ」
「顔に出ていますか?」
「かなり」
隠しているつもりはありませんでした。
ですが、どう説明すればよいのかは、まだ決まっていません。
「学校の先輩から、何度かお誘いをいただいているんです」
「遊びに行こうって?」
「はい」
「行きたくないの?」
私は少し考えました。
「わかりません」
ミントちゃんは急かさず、続きを待ってくれます。
「模擬戦の話は楽しいです。親切にもしてくださいます。悪い方ではないと思います」
「うん」
「ですが、私がまだ答えていないことが、先輩の中では決まっているようなんです」
野菜を切る手を止めました。
「二人で出かけることも。髪を下ろしていくことも。みた先輩と付き合っていないなら、先輩にとって何かがよかったことも」
「なるほど」
ミントちゃんは、鍋へ水を入れながら言いました。
「お姉ちゃんの話を聞いてるようで、その先輩が思ってる『チョコちゃん』と話してる感じなのかな」
その言葉が、一番近い気がしました。
「たぶん、そうです」
私は、フロランタン先輩へ自分のことを話しました。
そこまでおとなしくはないこと。
甘いものだけが好きなわけではないこと。
予定はまだ決めていないこと。
髪型は自分で選びたいこと。
けれど、伝えるたびに、
かわいい。
真面目。
照れている。
次に教えて。
別の言葉へ変わっていきました。
「嫌なことをされたわけではありません」
「嫌なことじゃなくても、嫌な感じはすることあるよ」
「まだ、嫌だと決めてよいのかわかりません」
「じゃあ今は、違和感ってことでいいんじゃない?」
ミントちゃんは、いつも通りの声で言いました。
「好きか嫌いかまで、今日決めなくてもいいでしょ」
「シュトレンさんも、似たことを言っていました」
「さすが、お姉ちゃんの友達」
「皆さんへ、もう少し相談した方がいいでしょうか」
「してもいいと思う。でも、お姉ちゃんは違う人にも聞いてみたい顔してる」
やはり、妹にはよくわかるようです。
同じ学校の友人へ相談すれば、心配してくれるでしょう。
ですが、まだ相手を悪く言いたいわけではありません。
みた先輩へ話せば、フロランタン先輩から関係を聞かれたことまで説明する必要があります。
エスプレッソさんは、必要な言葉をくれました。
けれど、このような人間関係について、もう少し長く話したい時に誰を頼ればよいのか。
考えているうちに、一つの店を思い出しました。
静かな猫カフェ。
カフェのんびりひっそり。
チロルさんは、誰かの話を途中で決めつけるような方ではありません。
ギルドでは知り合いですが、学校の人間関係からは少し離れています。
店の中なら、急がずに話すこともできそうです。
その時、フロランタン先輩から新しいメッセージが届きました。
<明日の昼休み、空いてる?>
すぐには返しません。
無視をしたいわけではありません。
困らせたいわけでもありません。
ただ、相手の望む返事を探す前に。
自分が何を感じているのかを、きちんと確かめたいと思いました。
私は通知を閉じます。
カフェのんびりひっそりへ、行ってみることにしました。
夕食の準備を始めてくれたようで、野菜を並べています。
「おかえり、お姉ちゃん」
「ただいま戻りました」
「今日はスープでいい?」
「はい。私も手伝います」
隣へ立ち、野菜を切り始めます。
しばらくは、いつものように学校の話をしました。
ミントちゃんの授業。
マキアートさんとの帰り道。
私のデュエル訓練。
みた先輩から、また左肩の癖を指摘されたこと。
その途中でも、DPo-Xの通知表示が視界の端に残っていました。
ミントちゃんが、包丁を置きます。
「お姉ちゃん」
「はい?」
「今日、端末見るたびに困った顔してるよ」
「顔に出ていますか?」
「かなり」
隠しているつもりはありませんでした。
ですが、どう説明すればよいのかは、まだ決まっていません。
「学校の先輩から、何度かお誘いをいただいているんです」
「遊びに行こうって?」
「はい」
「行きたくないの?」
私は少し考えました。
「わかりません」
ミントちゃんは急かさず、続きを待ってくれます。
「模擬戦の話は楽しいです。親切にもしてくださいます。悪い方ではないと思います」
「うん」
「ですが、私がまだ答えていないことが、先輩の中では決まっているようなんです」
野菜を切る手を止めました。
「二人で出かけることも。髪を下ろしていくことも。みた先輩と付き合っていないなら、先輩にとって何かがよかったことも」
「なるほど」
ミントちゃんは、鍋へ水を入れながら言いました。
「お姉ちゃんの話を聞いてるようで、その先輩が思ってる『チョコちゃん』と話してる感じなのかな」
その言葉が、一番近い気がしました。
「たぶん、そうです」
私は、フロランタン先輩へ自分のことを話しました。
そこまでおとなしくはないこと。
甘いものだけが好きなわけではないこと。
予定はまだ決めていないこと。
髪型は自分で選びたいこと。
けれど、伝えるたびに、
かわいい。
真面目。
照れている。
次に教えて。
別の言葉へ変わっていきました。
「嫌なことをされたわけではありません」
「嫌なことじゃなくても、嫌な感じはすることあるよ」
「まだ、嫌だと決めてよいのかわかりません」
「じゃあ今は、違和感ってことでいいんじゃない?」
ミントちゃんは、いつも通りの声で言いました。
「好きか嫌いかまで、今日決めなくてもいいでしょ」
「シュトレンさんも、似たことを言っていました」
「さすが、お姉ちゃんの友達」
「皆さんへ、もう少し相談した方がいいでしょうか」
「してもいいと思う。でも、お姉ちゃんは違う人にも聞いてみたい顔してる」
やはり、妹にはよくわかるようです。
同じ学校の友人へ相談すれば、心配してくれるでしょう。
ですが、まだ相手を悪く言いたいわけではありません。
みた先輩へ話せば、フロランタン先輩から関係を聞かれたことまで説明する必要があります。
エスプレッソさんは、必要な言葉をくれました。
けれど、このような人間関係について、もう少し長く話したい時に誰を頼ればよいのか。
考えているうちに、一つの店を思い出しました。
静かな猫カフェ。
カフェのんびりひっそり。
チロルさんは、誰かの話を途中で決めつけるような方ではありません。
ギルドでは知り合いですが、学校の人間関係からは少し離れています。
店の中なら、急がずに話すこともできそうです。
その時、フロランタン先輩から新しいメッセージが届きました。
<明日の昼休み、空いてる?>
すぐには返しません。
無視をしたいわけではありません。
困らせたいわけでもありません。
ただ、相手の望む返事を探す前に。
自分が何を感じているのかを、きちんと確かめたいと思いました。
私は通知を閉じます。
カフェのんびりひっそりへ、行ってみることにしました。