だんのこまち@wiki
体育祭開始
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いつもより早い朝
目覚ましが鳴る少し前に、自然と目が覚めました。
カーテンの隙間から差し込む朝の光は、まだ少し淡く見えます。
いつもなら、もう一度だけ目を閉じる時間です。
ですが今日は、布団へ戻っても眠れそうにありませんでした。
枕元に置いていたDPo-Xへ手を伸ばします。
すでに、いくつかメッセージが届いていました。
Kirscheのグループには、レンちゃんから。
<早く目が覚めちゃった!>
その少しあとに、フィーちゃん。
<私も。今日は長い一日になりそうだね>
フェタさんからは、
<二年二組は、シロが朝から元気すぎます>
と届いていました。
続けて、シロさん本人から、
<元気な方がいいだろ!>
という返事。
朝から、いつもどおりにぎやかです。
個別の連絡には、先輩の名前がありました。
<おはよう、チョコ>
<今日は最後まで楽しもうね>
短い二行です。
それだけで、胸の奥にあった緊張が少し柔らかくなりました。
<おはようございます、先輩>
<はい。先輩も、競技だけではなく体育祭そのものを楽しんでくださいね>
送信。
少しして、返事が届きます。
<チョコもね>
私はDPo-Xを閉じ、ベッドから出ました。
制服へ着替える前に髪を整え、いつもの位置へ花飾りを留めます。
今日は午前中に現実側の競技。
午後には、デュエル大会があります。
鞄の中には、飲み物。
タオル。
昼食。
学校から配られた競技カード。
何度か確認していると、部屋の扉が少し開きました。
「お姉ちゃん、もう起きてる?」
ミントちゃんが顔を覗かせます。
「はい。準備も、ほとんど終わっています」
「やっぱり早起きしてた」
ミントちゃんも、いつもより早く着替えていました。
今日はマキアートさんと一緒に、来場者席から体育祭を見る予定です。
「マキアートさんとの待ち合わせは、何時ですか?」
「お姉ちゃんが出た少しあと。駅で会うよ」
「遅れないようにしてくださいね」
「大丈夫。もう起きてるって確認したから」
「朝から連絡したんですか?」
「三回くらい」
「一度返事が来れば、十分ではありませんか?」
「念のため」
ミントちゃんは笑いながら、私の鞄を覗き込みました。
「飲み物は?」
「入っています」
「タオル」
「あります」
「お昼」
「用意しました」
「競技カード」
「こちらです」
「よし」
「ミントちゃんは、私の保護者ですか?」
「今日は応援する妹」
ミントちゃんは、少し胸を張りました。
「お姉ちゃんのデュエル、絶対見るからね」
「午後までは、ほかの競技も見てください」
「もちろん。レンちゃんも、シロさんも出るんでしょ?」
「はい。プラリネさんやフィーちゃんも、別の競技へ参加します」
「マキアートにも教えておく」
「ミントちゃんの説明だけで、私の学校の人間関係がほとんど伝わりそうですね」
「もう、かなり伝わってるよ」
「少し恥ずかしいです」
「今さらだよ」
家を出る前。
ミントちゃんが、私の前へ片手を出しました。
私も手のひらを合わせます。
小さい頃から、大事な日にはよくしてきたことです。
「頑張ってね、お姉ちゃん」
「はい。行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
玄関を開けると、朝の空気は少し冷たく、空はよく晴れていました。
だんのこまち第一高等学校の体育祭。
本番の朝です。
カーテンの隙間から差し込む朝の光は、まだ少し淡く見えます。
いつもなら、もう一度だけ目を閉じる時間です。
ですが今日は、布団へ戻っても眠れそうにありませんでした。
枕元に置いていたDPo-Xへ手を伸ばします。
すでに、いくつかメッセージが届いていました。
Kirscheのグループには、レンちゃんから。
<早く目が覚めちゃった!>
その少しあとに、フィーちゃん。
<私も。今日は長い一日になりそうだね>
フェタさんからは、
<二年二組は、シロが朝から元気すぎます>
と届いていました。
続けて、シロさん本人から、
<元気な方がいいだろ!>
という返事。
朝から、いつもどおりにぎやかです。
個別の連絡には、先輩の名前がありました。
<おはよう、チョコ>
<今日は最後まで楽しもうね>
短い二行です。
それだけで、胸の奥にあった緊張が少し柔らかくなりました。
<おはようございます、先輩>
<はい。先輩も、競技だけではなく体育祭そのものを楽しんでくださいね>
送信。
少しして、返事が届きます。
<チョコもね>
私はDPo-Xを閉じ、ベッドから出ました。
制服へ着替える前に髪を整え、いつもの位置へ花飾りを留めます。
今日は午前中に現実側の競技。
午後には、デュエル大会があります。
鞄の中には、飲み物。
タオル。
昼食。
学校から配られた競技カード。
何度か確認していると、部屋の扉が少し開きました。
「お姉ちゃん、もう起きてる?」
ミントちゃんが顔を覗かせます。
「はい。準備も、ほとんど終わっています」
「やっぱり早起きしてた」
ミントちゃんも、いつもより早く着替えていました。
今日はマキアートさんと一緒に、来場者席から体育祭を見る予定です。
「マキアートさんとの待ち合わせは、何時ですか?」
「お姉ちゃんが出た少しあと。駅で会うよ」
「遅れないようにしてくださいね」
「大丈夫。もう起きてるって確認したから」
「朝から連絡したんですか?」
「三回くらい」
「一度返事が来れば、十分ではありませんか?」
「念のため」
ミントちゃんは笑いながら、私の鞄を覗き込みました。
「飲み物は?」
「入っています」
「タオル」
「あります」
「お昼」
「用意しました」
「競技カード」
「こちらです」
「よし」
「ミントちゃんは、私の保護者ですか?」
「今日は応援する妹」
ミントちゃんは、少し胸を張りました。
「お姉ちゃんのデュエル、絶対見るからね」
「午後までは、ほかの競技も見てください」
「もちろん。レンちゃんも、シロさんも出るんでしょ?」
「はい。プラリネさんやフィーちゃんも、別の競技へ参加します」
「マキアートにも教えておく」
「ミントちゃんの説明だけで、私の学校の人間関係がほとんど伝わりそうですね」
「もう、かなり伝わってるよ」
「少し恥ずかしいです」
「今さらだよ」
家を出る前。
ミントちゃんが、私の前へ片手を出しました。
私も手のひらを合わせます。
小さい頃から、大事な日にはよくしてきたことです。
「頑張ってね、お姉ちゃん」
「はい。行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
玄関を開けると、朝の空気は少し冷たく、空はよく晴れていました。
だんのこまち第一高等学校の体育祭。
本番の朝です。
二つの旗の下
校門へ近づくにつれ、生徒の声が増えていきました。
体操着姿で荷物を運ぶ人。
応援席の位置を確認する人。
来場者を案内する実行委員。
普段よりも早い時間のはずなのに、学校全体がすでに動き始めています。
校門の内側では、レンちゃんが待っていました。
「チョコちゃん、おはよう!」
「おはようございます、レンちゃん」
「早いね」
「レンちゃんの方が先に来ていますよ」
「家にいても落ち着かなかったの」
レンちゃんの胸元には、障害物競走の出場番号がついています。
「よく眠れましたか?」
「いつもより少し早く目が覚めたけど、眠れたよ。チョコちゃんは?」
「私も、目覚ましの少し前に起きました」
「同じだね」
二人で校庭へ向かうと、一年二組の旗がすぐに見つかりました。
昨日まで教室で見ていた旗が、朝の風を受けて大きく揺れています。
中央から伸びる何本もの線が、校庭の反対側からでもはっきりと見えました。
「思っていたより大きいですね」
「教室で広げた時も大きかったけど、外だとまた違うね」
旗の近くには、フィーちゃんとプラリネさんがいました。
二人だけではありません。
一年二組のクラスメイトたちが、応援席へ荷物を置いたり、競技カードを確認したりしています。
「おはよう、二人とも」
フィーちゃんが手を上げました。
「おはようございます」
「旗、ちゃんと見えていますね」
私が言うと、フィーちゃんも旗を見上げます。
「うん。教室で見てた時より、ずっと体育祭らしく見える」
その表情には、服や飾りを確認する時とは少し違う嬉しさがありました。
自分たちで考え。
クラスメイト全員で色を塗り。
昨日、校庭へ運んだ旗です。
「みんなで作ったものが、こうして立っているのは不思議ですね」
「途中で増えた線も、ちゃんと自然に見えるよ」
「失敗したところから、増やした部分ですね」
「今見ると、最初からこういう形だったみたい」
私たちは、少しの間だけ旗を見上げていました。
「チョコちゃん、おはよう」
プラリネさんも、近くにあった荷物を置いてこちらへ来ました。
「おはようございます、プラリネさん」
「今日、デュエルでしょう? 応援してるからね」
「ありがとうございます。プラリネさんも、借り人競走に出るんですよね」
「うん。何を引くかわからないから、少し楽しみ」
「難しいお題が出るかもしれませんよ」
「その時は、その場で考えるよ。誰かに話しかける競技なら、たぶん大丈夫」
プラリネさんは、人へ声をかけることをあまりためらいません。
だからといって、一方的に話し続けるわけでもなく。
相手の反応を見ながら、自然に距離を作れる人です。
「チョコちゃんは、朝の競技カードを受け取った?」
「はい。こちらです」
「なら大丈夫だね。私、さっき自分のカードを鞄へ入れたまま応援席まで来ちゃって、もう一度取りに戻ったんだ」
「忘れていたんですか?」
「持ってきたことは覚えてたんだけど、どこへ入れたか忘れてた」
「見つかってよかったです」
「うん。フィーちゃんが、外側のポケットじゃないって教えてくれた」
フィーちゃんが少し笑いました。
「昨日、そこに入れてるのを見たから」
「私より覚えてた」
「そういうこともあるよ」
話しているところへ、二年二組の旗の方から大きな声が聞こえました。
「チョコちゃーん!」
シロさんです。
二年二組の旗の下には、先輩。
つきみさん。
シロさん。
キャラメルさん。
コレットさん。
ミルクさん。
フェタさんが集まっていました。
「皆さん、おはようございます」
私たちも、二年二組の応援席へ近づきます。
「おはよう、チョコちゃん!」
シロさんは、朝からいつもどおり元気です。
「シロさん、まだ開会式前ですよ」
「朝だから元気なんだよ」
「校門へ着く前に、一度走ろうとしていたけどね」
キャラメルさんが、柔らかな笑顔で付け足しました。
「遅れそうだったから」
「集合時間の二十分前だったよ」
コレットさんが言います。
「走る理由にはならないね」
「二十分あれば一周くらいできるだろ?」
「だから止めたの」
ミルクさんはDPo-Xを構え、二年二組の旗と全員が映る位置を探していました。
「朝のうちに写真を撮ろうと思って~」
「では、私たちは一年二組へ戻ります」
私が一歩下がろうとすると、ミルクさんが首を横へ振りました。
「チョコちゃんたちも入ろうよ」
「二年二組の写真では?」
「体育祭の朝の写真だから、大丈夫だよ~」
レンちゃんとフィーちゃん。
プラリネさんも呼ばれ、二つの旗が見える位置へ集まりました。
「チョコ、こっち」
先輩が自分の隣を少し空けてくれます。
私は、そこへ並びました。
「先輩は、今日は競技まで少し時間がありますね」
「うん。午前はみんなの応援」
「デュエルのことばかり考えないでくださいね」
「チョコもね」
「私はレンちゃんや皆さんの競技を応援します」
「じゃあ、僕はシロとつきみのクラスを応援しようかな」
「先輩も同じクラスでしょう?」
「選手の応援って意味」
「そういうことですね」
反対側では、シロさんがつきみさんの肩へ腕を回そうとしていました。
つきみさんは、その腕が届く前に一歩横へ動きます。
「シロ、写真の直前に動かないで」
「肩を組もうとしただけ」
「押されるから、普通に立って」
「今日は優しくするよ」
「昨日も同じこと言って、チョコさんと私を前へ押したでしょう?」
「今日は本番だから気をつける」
「本番だから、最初からしないで」
全員が笑ったところで、ミルクさんが写真を撮りました。
作った笑顔ではありません。
朝からにぎやかな人たちにつられて、自然に笑っている顔でした。
開会式の集合を知らせる放送が流れます。
それぞれのクラス旗の下へ戻る前。
先輩が、小さく手を上げました。
「またあとで、チョコ」
「はい、先輩」
体操着姿で荷物を運ぶ人。
応援席の位置を確認する人。
来場者を案内する実行委員。
普段よりも早い時間のはずなのに、学校全体がすでに動き始めています。
校門の内側では、レンちゃんが待っていました。
「チョコちゃん、おはよう!」
「おはようございます、レンちゃん」
「早いね」
「レンちゃんの方が先に来ていますよ」
「家にいても落ち着かなかったの」
レンちゃんの胸元には、障害物競走の出場番号がついています。
「よく眠れましたか?」
「いつもより少し早く目が覚めたけど、眠れたよ。チョコちゃんは?」
「私も、目覚ましの少し前に起きました」
「同じだね」
二人で校庭へ向かうと、一年二組の旗がすぐに見つかりました。
昨日まで教室で見ていた旗が、朝の風を受けて大きく揺れています。
中央から伸びる何本もの線が、校庭の反対側からでもはっきりと見えました。
「思っていたより大きいですね」
「教室で広げた時も大きかったけど、外だとまた違うね」
旗の近くには、フィーちゃんとプラリネさんがいました。
二人だけではありません。
一年二組のクラスメイトたちが、応援席へ荷物を置いたり、競技カードを確認したりしています。
「おはよう、二人とも」
フィーちゃんが手を上げました。
「おはようございます」
「旗、ちゃんと見えていますね」
私が言うと、フィーちゃんも旗を見上げます。
「うん。教室で見てた時より、ずっと体育祭らしく見える」
その表情には、服や飾りを確認する時とは少し違う嬉しさがありました。
自分たちで考え。
クラスメイト全員で色を塗り。
昨日、校庭へ運んだ旗です。
「みんなで作ったものが、こうして立っているのは不思議ですね」
「途中で増えた線も、ちゃんと自然に見えるよ」
「失敗したところから、増やした部分ですね」
「今見ると、最初からこういう形だったみたい」
私たちは、少しの間だけ旗を見上げていました。
「チョコちゃん、おはよう」
プラリネさんも、近くにあった荷物を置いてこちらへ来ました。
「おはようございます、プラリネさん」
「今日、デュエルでしょう? 応援してるからね」
「ありがとうございます。プラリネさんも、借り人競走に出るんですよね」
「うん。何を引くかわからないから、少し楽しみ」
「難しいお題が出るかもしれませんよ」
「その時は、その場で考えるよ。誰かに話しかける競技なら、たぶん大丈夫」
プラリネさんは、人へ声をかけることをあまりためらいません。
だからといって、一方的に話し続けるわけでもなく。
相手の反応を見ながら、自然に距離を作れる人です。
「チョコちゃんは、朝の競技カードを受け取った?」
「はい。こちらです」
「なら大丈夫だね。私、さっき自分のカードを鞄へ入れたまま応援席まで来ちゃって、もう一度取りに戻ったんだ」
「忘れていたんですか?」
「持ってきたことは覚えてたんだけど、どこへ入れたか忘れてた」
「見つかってよかったです」
「うん。フィーちゃんが、外側のポケットじゃないって教えてくれた」
フィーちゃんが少し笑いました。
「昨日、そこに入れてるのを見たから」
「私より覚えてた」
「そういうこともあるよ」
話しているところへ、二年二組の旗の方から大きな声が聞こえました。
「チョコちゃーん!」
シロさんです。
二年二組の旗の下には、先輩。
つきみさん。
シロさん。
キャラメルさん。
コレットさん。
ミルクさん。
フェタさんが集まっていました。
「皆さん、おはようございます」
私たちも、二年二組の応援席へ近づきます。
「おはよう、チョコちゃん!」
シロさんは、朝からいつもどおり元気です。
「シロさん、まだ開会式前ですよ」
「朝だから元気なんだよ」
「校門へ着く前に、一度走ろうとしていたけどね」
キャラメルさんが、柔らかな笑顔で付け足しました。
「遅れそうだったから」
「集合時間の二十分前だったよ」
コレットさんが言います。
「走る理由にはならないね」
「二十分あれば一周くらいできるだろ?」
「だから止めたの」
ミルクさんはDPo-Xを構え、二年二組の旗と全員が映る位置を探していました。
「朝のうちに写真を撮ろうと思って~」
「では、私たちは一年二組へ戻ります」
私が一歩下がろうとすると、ミルクさんが首を横へ振りました。
「チョコちゃんたちも入ろうよ」
「二年二組の写真では?」
「体育祭の朝の写真だから、大丈夫だよ~」
レンちゃんとフィーちゃん。
プラリネさんも呼ばれ、二つの旗が見える位置へ集まりました。
「チョコ、こっち」
先輩が自分の隣を少し空けてくれます。
私は、そこへ並びました。
「先輩は、今日は競技まで少し時間がありますね」
「うん。午前はみんなの応援」
「デュエルのことばかり考えないでくださいね」
「チョコもね」
「私はレンちゃんや皆さんの競技を応援します」
「じゃあ、僕はシロとつきみのクラスを応援しようかな」
「先輩も同じクラスでしょう?」
「選手の応援って意味」
「そういうことですね」
反対側では、シロさんがつきみさんの肩へ腕を回そうとしていました。
つきみさんは、その腕が届く前に一歩横へ動きます。
「シロ、写真の直前に動かないで」
「肩を組もうとしただけ」
「押されるから、普通に立って」
「今日は優しくするよ」
「昨日も同じこと言って、チョコさんと私を前へ押したでしょう?」
「今日は本番だから気をつける」
「本番だから、最初からしないで」
全員が笑ったところで、ミルクさんが写真を撮りました。
作った笑顔ではありません。
朝からにぎやかな人たちにつられて、自然に笑っている顔でした。
開会式の集合を知らせる放送が流れます。
それぞれのクラス旗の下へ戻る前。
先輩が、小さく手を上げました。
「またあとで、チョコ」
「はい、先輩」
開会式
校庭へ全クラスが整列すると、吹奏楽部の演奏が始まりました。
昨日まで、音楽棟の窓から聞こえていた曲です。
今日の音は校庭全体へ広がり、入場する生徒たちの足音まで、一つの流れへ揃えていきます。
列の前方では、アールグレイさんが楽器を構えていました。
曲の途中。
以前、何度も練習していた短い独奏部分へ入ります。
放課後の音楽室で聞こえた時よりも、音が遠くまで伸びていました。
校庭の空気を強く押すのではなく。
朝の風へ、そのまま乗っていくような音です。
独奏が終わり、全体の演奏へ戻る。
曲が終わった瞬間、来場者席から大きな拍手が起こりました。
楽器を下ろしたアールグレイさんが、少し離れた場所へ目を向けます。
そこには、大きな保温バッグを抱えたワッフルさんがいました。
両手を大きく振り、声を出さずに、
「よかった!」
と伝えています。
その後ろでは、フランボワーズさんが一脚だけ折り畳み椅子を持っていました。
「フランボワーズ、ほかの椅子は?」
演奏位置から戻ってきたアールグレイさんが尋ねます。
「みんなで運んだ」
「あなたは一脚?」
「最後に残ってた一脚」
「一番軽いのを選んだでしょう?」
「残っていたものを持っただけ」
「先に重い方を避けたところ、見てたからね」
ワッフルさんが二人の間へ入ります。
「演奏すごくよかった! 終わったらお茶飲もう!」
「まだ開会式だよ」
「それまで大事に持ってる!」
吹奏楽部が席へ戻ると、開会宣言が始まりました。
校長先生の挨拶。
実行委員長からの注意事項。
選手宣誓。
少し長い話もありましたが、今日は不思議と落ち着いて聞けました。
自分たちが作った旗が並び。
昨日まで運んでいた用具が、競技開始を待っています。
話のすべてが、今日という一日につながっているからかもしれません。
来場者席へ目を向けると、ミントちゃんとマキアートさんがすぐに見つかりました。
ミントちゃんは両手を大きく振っています。
マキアートさんは、その隣で少し控えめに手を上げました。
私も、胸元で小さく手を振り返します。
「妹さん?」
隣にいたプラリネさんが尋ねました。
「はい。隣にいるのがマキアートさんです」
「あとで会えるかな」
「昼休みには、こちらへ来られるそうです」
「楽しみ」
開会式の最後には、全校生徒で準備運動を行いました。
腕を回し。
足を伸ばし。
軽く体をひねる。
二年二組の列では、シロさんが誰よりも大きく動いていました。
キャラメルさんが隣から何かを言い、少しだけ動きを小さくさせています。
つきみさんは、必要な範囲を正確に動かし。
先輩は、周囲へ合わせながらも楽しそうでした。
実行委員の声が校庭へ響きます。
「以上で開会式を終了します!」
「第一競技の参加者は、所定の集合場所へ移動してください!」
一斉に拍手が起こりました。
体育祭本番の競技が始まります。
昨日まで、音楽棟の窓から聞こえていた曲です。
今日の音は校庭全体へ広がり、入場する生徒たちの足音まで、一つの流れへ揃えていきます。
列の前方では、アールグレイさんが楽器を構えていました。
曲の途中。
以前、何度も練習していた短い独奏部分へ入ります。
放課後の音楽室で聞こえた時よりも、音が遠くまで伸びていました。
校庭の空気を強く押すのではなく。
朝の風へ、そのまま乗っていくような音です。
独奏が終わり、全体の演奏へ戻る。
曲が終わった瞬間、来場者席から大きな拍手が起こりました。
楽器を下ろしたアールグレイさんが、少し離れた場所へ目を向けます。
そこには、大きな保温バッグを抱えたワッフルさんがいました。
両手を大きく振り、声を出さずに、
「よかった!」
と伝えています。
その後ろでは、フランボワーズさんが一脚だけ折り畳み椅子を持っていました。
「フランボワーズ、ほかの椅子は?」
演奏位置から戻ってきたアールグレイさんが尋ねます。
「みんなで運んだ」
「あなたは一脚?」
「最後に残ってた一脚」
「一番軽いのを選んだでしょう?」
「残っていたものを持っただけ」
「先に重い方を避けたところ、見てたからね」
ワッフルさんが二人の間へ入ります。
「演奏すごくよかった! 終わったらお茶飲もう!」
「まだ開会式だよ」
「それまで大事に持ってる!」
吹奏楽部が席へ戻ると、開会宣言が始まりました。
校長先生の挨拶。
実行委員長からの注意事項。
選手宣誓。
少し長い話もありましたが、今日は不思議と落ち着いて聞けました。
自分たちが作った旗が並び。
昨日まで運んでいた用具が、競技開始を待っています。
話のすべてが、今日という一日につながっているからかもしれません。
来場者席へ目を向けると、ミントちゃんとマキアートさんがすぐに見つかりました。
ミントちゃんは両手を大きく振っています。
マキアートさんは、その隣で少し控えめに手を上げました。
私も、胸元で小さく手を振り返します。
「妹さん?」
隣にいたプラリネさんが尋ねました。
「はい。隣にいるのがマキアートさんです」
「あとで会えるかな」
「昼休みには、こちらへ来られるそうです」
「楽しみ」
開会式の最後には、全校生徒で準備運動を行いました。
腕を回し。
足を伸ばし。
軽く体をひねる。
二年二組の列では、シロさんが誰よりも大きく動いていました。
キャラメルさんが隣から何かを言い、少しだけ動きを小さくさせています。
つきみさんは、必要な範囲を正確に動かし。
先輩は、周囲へ合わせながらも楽しそうでした。
実行委員の声が校庭へ響きます。
「以上で開会式を終了します!」
「第一競技の参加者は、所定の集合場所へ移動してください!」
一斉に拍手が起こりました。
体育祭本番の競技が始まります。
一年二組、最初の挑戦
最初のクラス競技は、大縄跳びでした。
一年二組の全員で、制限時間内の連続回数を競います。
私も列の中へ入りました。
デュエル大会へ出る生徒も参加できますが、無理に力を使いすぎないよう、先生から念を押されています。
縄を回す二人。
前後の間隔。
跳び始める合図。
練習では何度も合わせました。
ですが、本番の校庭へ並ぶと、クラスメイトの表情はいつもより少し固く見えます。
「一回目は、練習の時と同じ速さでいこう」
学級委員の子が、列の前から声をかけました。
「引っかかっても、すぐに並び直せば大丈夫だからね」
「うん!」
クラス全体から返事が上がります。
私の少し前にはフィーちゃん。
隣にはレンちゃん。
後ろにはプラリネさんがいました。
「チョコちゃん、私、前の人と近すぎない?」
レンちゃんが小声で聞きます。
「今のままで大丈夫です。広げすぎると、縄の低いところへ入りやすくなります」
「わかった」
「もし私が速くなったら、教えてね」
フィーちゃんも振り返りました。
「はい。ですが、私も同じようになる可能性があります」
「じゃあ、みんなで声を聞こう」
「それが一番ですね」
一回目。
縄が回り始めます。
「一、二、三、四!」
前方から、数える声。
全員の足が上がります。
五。
六。
七。
八回目。
後ろの方で、縄が靴へ触れました。
回転が止まります。
「あっ、ごめん!」
引っかかったクラスメイトが、すぐに頭を下げました。
「大丈夫です」
私は後ろを振り返りました。
「まだ一回目です。次は、今より長く跳べます」
「でも、私が……」
「練習でも、全員一度は引っかかっています」
プラリネさんが、すぐ近くから言いました。
「私も昨日、二回引っかかったよ」
「ソフィアも?」
「うん。しかも二回目は、全然違うところで跳んじゃった」
少しだけ笑いが起こります。
「だから、今の一回だけで気にしなくて大丈夫。一緒にもう一回やろう」
大きな声で全体を引っ張ったわけではありません。
ただ、自分の経験を話し。
目の前のクラスメイトへ、もう一度一緒にやろうと伝えました。
「うん」
列を整え直します。
二回目。
縄が回り始めました。
「一、二、三、四!」
今度は、最初から全員の足が軽く上がります。
十。
二十。
途中で、前の列が少しだけ早くなりました。
「今のまま! 急がないで!」
学級委員の声が響きます。
全員が、声へ合わせ直しました。
三十。
呼吸が少しずつ苦しくなります。
それでも、隣からレンちゃんの着地音が聞こえました。
前にはフィーちゃん。
後ろには、プラリネさんの足音。
誰か一人が引っ張っているのではありません。
全員が、近くにいる人の音を聞いています。
四十。
来場者席の声が大きくなりました。
四十五。
四十六。
四十七。
四十八。
次の回転で、縄が列の最後へ触れました。
終了の笛。
全員が、その場へ座り込みます。
一瞬の静けさ。
続けて、一年二組の応援席から大きな歓声が上がりました。
<記録 48回>
現時点で、学年一位です。
「やった!」
レンちゃんが隣から私の手を握りました。
「はい!」
思っていたよりも、大きな声が出ました。
フィーちゃんも息を切らしながら笑っています。
「最後、もう一回いけそうだったのに」
「四十八回でも、十分すごいです」
「でも、少し悔しい」
「では、来年は五十回を目標にしましょう」
「もう来年の話?」
「記録が残りましたから」
プラリネさんは、先ほど引っかかったクラスメイトと一緒に立ち上がりました。
「二回目、最後まで跳べたね」
「うん。ありがとう」
「私も後ろで何回か危なかったから、お互い様だよ」
プラリネさんは、自分の手柄のようには言いませんでした。
それでも、クラスメイトの緊張を少し和らげたことは、間違いありません。
「最初の得点、取れたね」
「はい」
私たちはクラス旗の下へ戻り、全員で結果表示を見上げました。
体育祭最初の記録が、一年二組へ入りました。
一年二組の全員で、制限時間内の連続回数を競います。
私も列の中へ入りました。
デュエル大会へ出る生徒も参加できますが、無理に力を使いすぎないよう、先生から念を押されています。
縄を回す二人。
前後の間隔。
跳び始める合図。
練習では何度も合わせました。
ですが、本番の校庭へ並ぶと、クラスメイトの表情はいつもより少し固く見えます。
「一回目は、練習の時と同じ速さでいこう」
学級委員の子が、列の前から声をかけました。
「引っかかっても、すぐに並び直せば大丈夫だからね」
「うん!」
クラス全体から返事が上がります。
私の少し前にはフィーちゃん。
隣にはレンちゃん。
後ろにはプラリネさんがいました。
「チョコちゃん、私、前の人と近すぎない?」
レンちゃんが小声で聞きます。
「今のままで大丈夫です。広げすぎると、縄の低いところへ入りやすくなります」
「わかった」
「もし私が速くなったら、教えてね」
フィーちゃんも振り返りました。
「はい。ですが、私も同じようになる可能性があります」
「じゃあ、みんなで声を聞こう」
「それが一番ですね」
一回目。
縄が回り始めます。
「一、二、三、四!」
前方から、数える声。
全員の足が上がります。
五。
六。
七。
八回目。
後ろの方で、縄が靴へ触れました。
回転が止まります。
「あっ、ごめん!」
引っかかったクラスメイトが、すぐに頭を下げました。
「大丈夫です」
私は後ろを振り返りました。
「まだ一回目です。次は、今より長く跳べます」
「でも、私が……」
「練習でも、全員一度は引っかかっています」
プラリネさんが、すぐ近くから言いました。
「私も昨日、二回引っかかったよ」
「ソフィアも?」
「うん。しかも二回目は、全然違うところで跳んじゃった」
少しだけ笑いが起こります。
「だから、今の一回だけで気にしなくて大丈夫。一緒にもう一回やろう」
大きな声で全体を引っ張ったわけではありません。
ただ、自分の経験を話し。
目の前のクラスメイトへ、もう一度一緒にやろうと伝えました。
「うん」
列を整え直します。
二回目。
縄が回り始めました。
「一、二、三、四!」
今度は、最初から全員の足が軽く上がります。
十。
二十。
途中で、前の列が少しだけ早くなりました。
「今のまま! 急がないで!」
学級委員の声が響きます。
全員が、声へ合わせ直しました。
三十。
呼吸が少しずつ苦しくなります。
それでも、隣からレンちゃんの着地音が聞こえました。
前にはフィーちゃん。
後ろには、プラリネさんの足音。
誰か一人が引っ張っているのではありません。
全員が、近くにいる人の音を聞いています。
四十。
来場者席の声が大きくなりました。
四十五。
四十六。
四十七。
四十八。
次の回転で、縄が列の最後へ触れました。
終了の笛。
全員が、その場へ座り込みます。
一瞬の静けさ。
続けて、一年二組の応援席から大きな歓声が上がりました。
<記録 48回>
現時点で、学年一位です。
「やった!」
レンちゃんが隣から私の手を握りました。
「はい!」
思っていたよりも、大きな声が出ました。
フィーちゃんも息を切らしながら笑っています。
「最後、もう一回いけそうだったのに」
「四十八回でも、十分すごいです」
「でも、少し悔しい」
「では、来年は五十回を目標にしましょう」
「もう来年の話?」
「記録が残りましたから」
プラリネさんは、先ほど引っかかったクラスメイトと一緒に立ち上がりました。
「二回目、最後まで跳べたね」
「うん。ありがとう」
「私も後ろで何回か危なかったから、お互い様だよ」
プラリネさんは、自分の手柄のようには言いませんでした。
それでも、クラスメイトの緊張を少し和らげたことは、間違いありません。
「最初の得点、取れたね」
「はい」
私たちはクラス旗の下へ戻り、全員で結果表示を見上げました。
体育祭最初の記録が、一年二組へ入りました。
フィーちゃんの台風の目
大縄跳びの次。
一年生の団体競技として、台風の目が始まりました。
四人一組で一本の長い棒を持ち、コーンの周囲を回って戻ってくる競技です。
一年二組からは、フィーちゃんを含む四人が出場します。
「フィーちゃん、頑張ってください」
「うん。チョコちゃんたちも、ちゃんと見ててね」
「もちろんです」
「写真も撮るよ!」
レンちゃんがDPo-Xを構えました。
「走る前に撮るのはやめて。少し緊張するから」
「終わってからにする」
「それならいいよ」
フィーちゃんの組は、三走目です。
最初の二組が走っている間、四人で棒の持ち方を確かめていました。
「曲がる時、内側の人は少し遅く。外側は大きく回ろう」
フィーちゃんが、隣のクラスメイトと確認します。
「速く走るより、全員で同じところへ戻った方がいいよね」
「うん。棒が斜めになると、次の組が受け取りにくいから」
フィーちゃんは、服や見た目の話ではなく。
どうすれば四人で動きやすいかを考えていました。
開始の合図。
一組目。
二組目。
一年二組は、今のところ二位です。
「三走、準備!」
フィーちゃんたちが棒を持ちます。
前の組が戻ってきました。
受け渡し。
四人が走り出します。
最初の直線。
速さは、ほかのクラスと大きく変わりません。
一つ目のコーン。
内側にいるフィーちゃんが速度を落とし、外側の二人へ声をかけます。
「大きく回って!」
四人の棒は、ほとんど傾きませんでした。
コーンを回り終えると、一気に速度を上げます。
二つ目。
今度は進行方向が逆になります。
「持ち替えないで、そのまま!」
一瞬だけ足が乱れました。
ですが、フィーちゃんが棒を押し込むのではなく、隣の人の動きを待ちます。
四人の歩幅が揃いました。
最後の直線。
前を走っていたクラスとの差が縮まります。
次の組へ棒を渡した時。
一年二組は、一位とほとんど同じ位置まで戻っていました。
「フィーちゃん、すごいです!」
私たちは応援席から声を上げました。
フィーちゃんもこちらに気づき、走り終わったあと片手を上げます。
最終走者がゴールへ飛び込みました。
結果は二位。
一位との差は、ほんのわずかでした。
フィーちゃんが戻ってくると、レンちゃんが笑顔で迎えます。
「コーン、すごくきれいに回ってたね」
「速く回るより、棒をまっすぐにした方がいいと思ったの」
「二つ目で少し止まりましたが、そこからすぐに揃いましたね」
私が言うと、フィーちゃんは少し悔しそうにしながらも笑いました。
「あと少しだったんだけどね」
「二位でも、クラスの得点になります」
「うん。それに、楽しかった」
「それが一番ですね」
「チョコちゃんも、午後は楽しんでね」
「はい」
私たちは軽く手を合わせました。
一年生の団体競技として、台風の目が始まりました。
四人一組で一本の長い棒を持ち、コーンの周囲を回って戻ってくる競技です。
一年二組からは、フィーちゃんを含む四人が出場します。
「フィーちゃん、頑張ってください」
「うん。チョコちゃんたちも、ちゃんと見ててね」
「もちろんです」
「写真も撮るよ!」
レンちゃんがDPo-Xを構えました。
「走る前に撮るのはやめて。少し緊張するから」
「終わってからにする」
「それならいいよ」
フィーちゃんの組は、三走目です。
最初の二組が走っている間、四人で棒の持ち方を確かめていました。
「曲がる時、内側の人は少し遅く。外側は大きく回ろう」
フィーちゃんが、隣のクラスメイトと確認します。
「速く走るより、全員で同じところへ戻った方がいいよね」
「うん。棒が斜めになると、次の組が受け取りにくいから」
フィーちゃんは、服や見た目の話ではなく。
どうすれば四人で動きやすいかを考えていました。
開始の合図。
一組目。
二組目。
一年二組は、今のところ二位です。
「三走、準備!」
フィーちゃんたちが棒を持ちます。
前の組が戻ってきました。
受け渡し。
四人が走り出します。
最初の直線。
速さは、ほかのクラスと大きく変わりません。
一つ目のコーン。
内側にいるフィーちゃんが速度を落とし、外側の二人へ声をかけます。
「大きく回って!」
四人の棒は、ほとんど傾きませんでした。
コーンを回り終えると、一気に速度を上げます。
二つ目。
今度は進行方向が逆になります。
「持ち替えないで、そのまま!」
一瞬だけ足が乱れました。
ですが、フィーちゃんが棒を押し込むのではなく、隣の人の動きを待ちます。
四人の歩幅が揃いました。
最後の直線。
前を走っていたクラスとの差が縮まります。
次の組へ棒を渡した時。
一年二組は、一位とほとんど同じ位置まで戻っていました。
「フィーちゃん、すごいです!」
私たちは応援席から声を上げました。
フィーちゃんもこちらに気づき、走り終わったあと片手を上げます。
最終走者がゴールへ飛び込みました。
結果は二位。
一位との差は、ほんのわずかでした。
フィーちゃんが戻ってくると、レンちゃんが笑顔で迎えます。
「コーン、すごくきれいに回ってたね」
「速く回るより、棒をまっすぐにした方がいいと思ったの」
「二つ目で少し止まりましたが、そこからすぐに揃いましたね」
私が言うと、フィーちゃんは少し悔しそうにしながらも笑いました。
「あと少しだったんだけどね」
「二位でも、クラスの得点になります」
「うん。それに、楽しかった」
「それが一番ですね」
「チョコちゃんも、午後は楽しんでね」
「はい」
私たちは軽く手を合わせました。
レンちゃんの障害物競走
障害物競走の集合時間が近づくと、レンちゃんは少しだけ口数が減りました。
出場者用の集合場所へ向かう途中。
私はレンちゃんの隣を歩きます。
「緊張していますか?」
「少しだけ。でも、楽しみの方が大きいよ」
レンちゃんは、コースに並ぶ障害物を見ました。
低いハードル。
地面へ張られた網。
細い平均台。
ジグザグに置かれたコーン。
最後には、大きな布袋へ両足を入れて跳ぶ区間があります。
「本当に、体育祭の障害物競走なんだね」
「偽物があるような言い方ですね」
「そういう意味じゃないよ」
レンちゃんは笑いました。
「日本へ戻ってきた時、こういう競技をやってみたいと思ってたの」
「転ばないようにしてくださいね」
「そこは頑張る」
集合位置へ着くと、フィーちゃんとプラリネさんも追いつきました。
「シュトレンちゃん、三レーンだね」
プラリネさんが競技表示を確認します。
「網の入口、前の組では右側が少し混んでたよ。空いていれば左から入ると抜けやすそう」
「見てたんだ」
「ほかの人とぶつかりそうなら、無理に変えなくていいけどね」
「うん。覚えておく」
フィーちゃんも、レンちゃんの肩へ軽く手を置きました。
「最初のハードルで急ぎすぎないでね。後ろからでも、最後に追いつけるから」
「二人とも、私より落ち着いてる」
「応援する方だからです」
私が答えると、レンちゃんが嬉しそうに笑いました。
「それじゃ、行ってくるね」
「頑張ってください、レンちゃん」
「一年二組、ここから見てるよ!」
出走者が位置へつきます。
開始音。
レンちゃんは最初のハードルを軽く越えました。
一つ。
二つ。
三つ目で少し足が触れましたが、倒しません。
続く網。
プラリネさんの話を思い出したのか、左側へ入ります。
ただ、網をくぐる途中で髪が少し引っかかり、隣の選手に先へ出られました。
「レンちゃん、落ち着いて!」
私が声を上げます。
レンちゃんは無理に引っ張らず、片手で網を持ち上げました。
すぐに抜け出します。
平均台。
先頭の選手は、すでに半分まで進んでいました。
レンちゃんは速度を上げすぎません。
両腕を広げ、一歩ずつ確実に渡ります。
「そのまま!」
フィーちゃんの声。
平均台を下りた瞬間、レンちゃんが走り出しました。
ジグザグのコーン。
右。
左。
もう一度、右。
最後の布袋へ両足を入れます。
一回目の跳躍で、少しだけ前へ倒れそうになりました。
来場者席から声が上がります。
ですがレンちゃんは片手を地面へつき、すぐに体を起こしました。
二回。
三回。
最後の区間を抜けると、袋から足を出してゴールへ走ります。
一着には、ほんの少し届きませんでした。
それでも、二着でゴールしました。
終了線を越えた瞬間。
レンちゃんは息を切らしながら、両手を上げます。
競技者用の出口へ迎えに行くと、頬を赤くしたまま笑っていました。
「楽しかった!」
「途中で、かなり網に引っかかっていました」
「それも含めて!」
「布袋では転びそうになりました」
「立てたでしょう?」
「はい。とても早く」
レンちゃんは校庭と応援席を見回します。
「私、本当に日本の体育祭に出たんだね」
その声は、先ほどまでよりも少しだけ静かでした。
「はい」
私は頷きました。
「私も、レンちゃんが走るところを見られてよかったです」
「応援、聞こえたよ」
「かなり大きな声だったと思います」
「チョコちゃん、あんなに声を出せるんだね」
「必要な時は出します」
フィーちゃんが、撮った写真を見せました。
網をくぐっているところ。
平均台を渡るところ。
最後に笑っているところ。
「網の写真もあるんだ」
レンちゃんが少し恥ずかしそうに言います。
「そこから追いついたことがわかるから、残しておこうと思って」
「それなら、いいかな」
プラリネさんが、レンちゃんへ飲み物を渡しました。
「少し休んでから戻ろう」
「うん」
「次の競技まで時間あるから、急がなくて大丈夫だよ」
誰かを仕切るのではなく。
目の前の友達が必要としていることへ、自然に手を伸ばしていました。
出場者用の集合場所へ向かう途中。
私はレンちゃんの隣を歩きます。
「緊張していますか?」
「少しだけ。でも、楽しみの方が大きいよ」
レンちゃんは、コースに並ぶ障害物を見ました。
低いハードル。
地面へ張られた網。
細い平均台。
ジグザグに置かれたコーン。
最後には、大きな布袋へ両足を入れて跳ぶ区間があります。
「本当に、体育祭の障害物競走なんだね」
「偽物があるような言い方ですね」
「そういう意味じゃないよ」
レンちゃんは笑いました。
「日本へ戻ってきた時、こういう競技をやってみたいと思ってたの」
「転ばないようにしてくださいね」
「そこは頑張る」
集合位置へ着くと、フィーちゃんとプラリネさんも追いつきました。
「シュトレンちゃん、三レーンだね」
プラリネさんが競技表示を確認します。
「網の入口、前の組では右側が少し混んでたよ。空いていれば左から入ると抜けやすそう」
「見てたんだ」
「ほかの人とぶつかりそうなら、無理に変えなくていいけどね」
「うん。覚えておく」
フィーちゃんも、レンちゃんの肩へ軽く手を置きました。
「最初のハードルで急ぎすぎないでね。後ろからでも、最後に追いつけるから」
「二人とも、私より落ち着いてる」
「応援する方だからです」
私が答えると、レンちゃんが嬉しそうに笑いました。
「それじゃ、行ってくるね」
「頑張ってください、レンちゃん」
「一年二組、ここから見てるよ!」
出走者が位置へつきます。
開始音。
レンちゃんは最初のハードルを軽く越えました。
一つ。
二つ。
三つ目で少し足が触れましたが、倒しません。
続く網。
プラリネさんの話を思い出したのか、左側へ入ります。
ただ、網をくぐる途中で髪が少し引っかかり、隣の選手に先へ出られました。
「レンちゃん、落ち着いて!」
私が声を上げます。
レンちゃんは無理に引っ張らず、片手で網を持ち上げました。
すぐに抜け出します。
平均台。
先頭の選手は、すでに半分まで進んでいました。
レンちゃんは速度を上げすぎません。
両腕を広げ、一歩ずつ確実に渡ります。
「そのまま!」
フィーちゃんの声。
平均台を下りた瞬間、レンちゃんが走り出しました。
ジグザグのコーン。
右。
左。
もう一度、右。
最後の布袋へ両足を入れます。
一回目の跳躍で、少しだけ前へ倒れそうになりました。
来場者席から声が上がります。
ですがレンちゃんは片手を地面へつき、すぐに体を起こしました。
二回。
三回。
最後の区間を抜けると、袋から足を出してゴールへ走ります。
一着には、ほんの少し届きませんでした。
それでも、二着でゴールしました。
終了線を越えた瞬間。
レンちゃんは息を切らしながら、両手を上げます。
競技者用の出口へ迎えに行くと、頬を赤くしたまま笑っていました。
「楽しかった!」
「途中で、かなり網に引っかかっていました」
「それも含めて!」
「布袋では転びそうになりました」
「立てたでしょう?」
「はい。とても早く」
レンちゃんは校庭と応援席を見回します。
「私、本当に日本の体育祭に出たんだね」
その声は、先ほどまでよりも少しだけ静かでした。
「はい」
私は頷きました。
「私も、レンちゃんが走るところを見られてよかったです」
「応援、聞こえたよ」
「かなり大きな声だったと思います」
「チョコちゃん、あんなに声を出せるんだね」
「必要な時は出します」
フィーちゃんが、撮った写真を見せました。
網をくぐっているところ。
平均台を渡るところ。
最後に笑っているところ。
「網の写真もあるんだ」
レンちゃんが少し恥ずかしそうに言います。
「そこから追いついたことがわかるから、残しておこうと思って」
「それなら、いいかな」
プラリネさんが、レンちゃんへ飲み物を渡しました。
「少し休んでから戻ろう」
「うん」
「次の競技まで時間あるから、急がなくて大丈夫だよ」
誰かを仕切るのではなく。
目の前の友達が必要としていることへ、自然に手を伸ばしていました。
今日初めて話す人
午前の後半。
借り人競走が始まりました。
プラリネさんの出番です。
「行ってくるね」
「頑張ってください」
「何を引くか、楽しみ」
プラリネさんは、いつもの明るい表情で出走位置へ向かいました。
競技カードを受け取るまでは、本人にも何を探すのかわかりません。
開始音。
出走者たちは中央の箱まで走り、一枚ずつカードを引きます。
プラリネさんがカードを開きました。
ほんの一瞬だけ、校庭全体を見回します。
すぐに方向を変えました。
走っていった先は、一年二組の応援席ではありません。
校庭の外周。
木陰の近くです。
そこには、競技用の予備ケーブルを確認しているエスプレッソさんがいました。
プラリネさんが目の前で立ち止まります。
「エスプレッソさん」
呼ばれた本人が、静かに顔を上げました。
「何?」
「カードが『違う学年で、今日まだお話ししていない人』なんです。一緒に来ていただけますか?」
エスプレッソさんは、差し出されたカードを確認しました。
条件には合っています。
「走る?」
「無理のない速さで大丈夫です」
「わかった」
プラリネさんは相手の手を無理に引きませんでした。
隣へ並び、二人でゴールへ向かいます。
エスプレッソさんは競技へ出ていたわけではありませんが、走り始めると思っていたより速いです。
プラリネさんも先へ行きすぎず、相手が並べる速度へ合わせました。
ゴール。
条件確認。
認定。
プラリネさんの組は一着でした。
「やった!」
プラリネさんが、嬉しそうに声を上げます。
エスプレッソさんは、いつもどおり静かな表情です。
ですが、プラリネさんが差し出した手には、軽く自分の手を合わせました。
「ありがとうございました」
「もう話したから、次は同じカードには使えないね」
「では、次に会った時は普通にお話ししましょう」
「普通に?」
「はい。競技ではなく」
エスプレッソさんは少しだけ考えました。
「それなら」
応援席へ戻ってきたプラリネさんへ、私たちは拍手を送りました。
「プラリネさん、エスプレッソさんを見つけるのが早かったですね」
「前に、チョコちゃんから同じ学校にいるって聞いたでしょう?」
「覚えていたんですか?」
「うん。静かな先輩がいるんだなって、少し気になってたの」
「それで今日、声をかけたんですね」
「競技のおかげだけどね」
プラリネさんは、木陰へ戻るエスプレッソさんを見ました。
「次に会った時、普通に挨拶しても大丈夫かな」
「はい。ただ、大勢で一度に行くよりは、一人か二人の方が話しやすいと思います」
「わかった。次は挨拶だけにする」
「エスプレッソさんも、きっと覚えてくださっています」
「そうだといいな」
自分の明るさを押しつけず。
相手が落ち着ける距離を、考えてくれていました。
借り人競走が始まりました。
プラリネさんの出番です。
「行ってくるね」
「頑張ってください」
「何を引くか、楽しみ」
プラリネさんは、いつもの明るい表情で出走位置へ向かいました。
競技カードを受け取るまでは、本人にも何を探すのかわかりません。
開始音。
出走者たちは中央の箱まで走り、一枚ずつカードを引きます。
プラリネさんがカードを開きました。
ほんの一瞬だけ、校庭全体を見回します。
すぐに方向を変えました。
走っていった先は、一年二組の応援席ではありません。
校庭の外周。
木陰の近くです。
そこには、競技用の予備ケーブルを確認しているエスプレッソさんがいました。
プラリネさんが目の前で立ち止まります。
「エスプレッソさん」
呼ばれた本人が、静かに顔を上げました。
「何?」
「カードが『違う学年で、今日まだお話ししていない人』なんです。一緒に来ていただけますか?」
エスプレッソさんは、差し出されたカードを確認しました。
条件には合っています。
「走る?」
「無理のない速さで大丈夫です」
「わかった」
プラリネさんは相手の手を無理に引きませんでした。
隣へ並び、二人でゴールへ向かいます。
エスプレッソさんは競技へ出ていたわけではありませんが、走り始めると思っていたより速いです。
プラリネさんも先へ行きすぎず、相手が並べる速度へ合わせました。
ゴール。
条件確認。
認定。
プラリネさんの組は一着でした。
「やった!」
プラリネさんが、嬉しそうに声を上げます。
エスプレッソさんは、いつもどおり静かな表情です。
ですが、プラリネさんが差し出した手には、軽く自分の手を合わせました。
「ありがとうございました」
「もう話したから、次は同じカードには使えないね」
「では、次に会った時は普通にお話ししましょう」
「普通に?」
「はい。競技ではなく」
エスプレッソさんは少しだけ考えました。
「それなら」
応援席へ戻ってきたプラリネさんへ、私たちは拍手を送りました。
「プラリネさん、エスプレッソさんを見つけるのが早かったですね」
「前に、チョコちゃんから同じ学校にいるって聞いたでしょう?」
「覚えていたんですか?」
「うん。静かな先輩がいるんだなって、少し気になってたの」
「それで今日、声をかけたんですね」
「競技のおかげだけどね」
プラリネさんは、木陰へ戻るエスプレッソさんを見ました。
「次に会った時、普通に挨拶しても大丈夫かな」
「はい。ただ、大勢で一度に行くよりは、一人か二人の方が話しやすいと思います」
「わかった。次は挨拶だけにする」
「エスプレッソさんも、きっと覚えてくださっています」
「そうだといいな」
自分の明るさを押しつけず。
相手が落ち着ける距離を、考えてくれていました。
二年二組、一本の綱
午前の中盤。
二年生の綱引きが始まりました。
二年二組の列には、シロさん。
つきみさん。
コレットさん。
フェタさんたちが並んでいます。
最後尾はシロさんです。
「シロちゃん、最初から全力で後ろへ倒れないでね」
競技エリアの外から、キャラメルさんが声をかけました。
「わかってるよ。みんなに合わせる」
「本当に?」
「つきみにも言われた」
列の中ほどでは、つきみさんが綱の張り方を確認しています。
コレットさんは、その近くで掛け声を担当するようです。
先輩とキャラメルさん、ミルクさんは応援席から見守っています。
対戦相手は二年一組。
体格の大きな生徒が何人も並んでいました。
一本目。
開始の笛と同時に、二年一組が一気に引きます。
赤い中央印が、すぐに相手側へ動きました。
「二年二組、頑張って!」
校庭から大きな声が上がります。
シロさんが最後尾で腰を落としました。
ですが、一人が強く引くだけでは戻りません。
列の前方と後方で、引くタイミングが少しずれています。
「今は止める!」
つきみさんが声を上げました。
「引き返さなくていい! 足を固定して!」
コレットさんも、すぐに掛け声を変えます。
「耐える! そのまま!」
綱の動きが止まりました。
完全には戻っていません。
ですが、これ以上相手側へも進みません。
二年一組の最初の勢いが、少しずつ弱くなります。
つきみさんは、相手の列を見ていました。
前方の生徒が息を吸う。
後ろの人が足を置き直す。
「次で引く」
短く伝えます。
コレットさんが、全員へ届く声で数えました。
「一、二――今!」
二年二組の全員が、同じ瞬間に体を後ろへ倒しました。
シロさんの力も。
つきみさんの踏ん張りも。
コレットさんの掛け声も。
フェタさんたちクラスメイトの力も。
一本の綱へ、同じ方向に加わります。
中央印が戻りました。
少しずつ。
さらに戻る。
「もう一回!」
「一、二――今!」
二回目。
二年一組の列が崩れます。
中央印が一気に二年二組側へ入りました。
終了の笛。
二年二組の勝利です。
シロさんは綱から手を離すと、その場で両手を上げました。
「勝ったー!」
「シロ、まだ二本目がある」
コレットさんが呼び戻します。
「わかってる!」
「今、応援席へ走ろうとしたでしょう?」
「飲み物を取りに」
「こっちにあるよ」
キャラメルさんが、競技エリアの外から水筒を見せました。
二本目。
二年二組は最初から、同じ動きをしました。
無理に先手を取ろうとはせず。
足を固定し。
コレットさんの掛け声へ合わせます。
相手が一度、大きく引いたあと。
全員で二回。
三回。
同じリズムで引き返しました。
終了の笛。
二本連取。
二年二組が勝ち上がります。
「すごい!」
レンちゃんが、私の隣で拍手をしていました。
「最初は、相手側へかなり動いていましたね」
フィーちゃんも、二年二組の旗を見ながら言います。
「つきみさんが止めたところから、全員が揃いました」
「シロさんだけが引いたのではなく、クラス全員で戻しましたね」
プラリネさんも、綱引きの列を見つめています。
競技を終えたシロさんたちが、私たちの前を通りました。
「シロさん、お疲れさまでした!」
私が声をかけると、シロさんが笑顔で振り返ります。
「チョコちゃん、応援ありがとう!」
「届いていたんですか?」
「思ってたより大きい声だった!」
レンちゃんにも、同じことを言われました。
「必要な時は出します」
「午後もお願いね!」
「もちろんです」
つきみさんも、競技用の手袋を外していました。
「つきみさん、お疲れさまでした」
「ありがとう」
「最初に耐えるよう伝えたところで、流れが変わりましたね」
「相手が最初に大きく引いてきたから。そこで慌てて引き返すと、こっちの足が揃わないと思っただけ」
「それを、すぐに見つけられるのがすごいです」
つきみさんは、少しだけ視線を逸らしました。
「コレットが全員へ伝えてくれたから、動けたんだよ」
「はい。皆さんで勝ったのだと思います」
「うん」
コレットさんが、シロさんの背中を軽く押しました。
「次の競技まで休憩」
「まだ元気だよ」
「元気なうちに休む」
キャラメルさんとミルクさんも、両側へ並びます。
「飲み物、こっちだよ」
「タオルもあるよ~」
「私、捕まった人みたいになってない?」
「自分から休憩へ行かないから」
シロさんは何か言い返そうとしましたが、結局三人と一緒に休憩場所へ向かいました。
二年生の綱引きが始まりました。
二年二組の列には、シロさん。
つきみさん。
コレットさん。
フェタさんたちが並んでいます。
最後尾はシロさんです。
「シロちゃん、最初から全力で後ろへ倒れないでね」
競技エリアの外から、キャラメルさんが声をかけました。
「わかってるよ。みんなに合わせる」
「本当に?」
「つきみにも言われた」
列の中ほどでは、つきみさんが綱の張り方を確認しています。
コレットさんは、その近くで掛け声を担当するようです。
先輩とキャラメルさん、ミルクさんは応援席から見守っています。
対戦相手は二年一組。
体格の大きな生徒が何人も並んでいました。
一本目。
開始の笛と同時に、二年一組が一気に引きます。
赤い中央印が、すぐに相手側へ動きました。
「二年二組、頑張って!」
校庭から大きな声が上がります。
シロさんが最後尾で腰を落としました。
ですが、一人が強く引くだけでは戻りません。
列の前方と後方で、引くタイミングが少しずれています。
「今は止める!」
つきみさんが声を上げました。
「引き返さなくていい! 足を固定して!」
コレットさんも、すぐに掛け声を変えます。
「耐える! そのまま!」
綱の動きが止まりました。
完全には戻っていません。
ですが、これ以上相手側へも進みません。
二年一組の最初の勢いが、少しずつ弱くなります。
つきみさんは、相手の列を見ていました。
前方の生徒が息を吸う。
後ろの人が足を置き直す。
「次で引く」
短く伝えます。
コレットさんが、全員へ届く声で数えました。
「一、二――今!」
二年二組の全員が、同じ瞬間に体を後ろへ倒しました。
シロさんの力も。
つきみさんの踏ん張りも。
コレットさんの掛け声も。
フェタさんたちクラスメイトの力も。
一本の綱へ、同じ方向に加わります。
中央印が戻りました。
少しずつ。
さらに戻る。
「もう一回!」
「一、二――今!」
二回目。
二年一組の列が崩れます。
中央印が一気に二年二組側へ入りました。
終了の笛。
二年二組の勝利です。
シロさんは綱から手を離すと、その場で両手を上げました。
「勝ったー!」
「シロ、まだ二本目がある」
コレットさんが呼び戻します。
「わかってる!」
「今、応援席へ走ろうとしたでしょう?」
「飲み物を取りに」
「こっちにあるよ」
キャラメルさんが、競技エリアの外から水筒を見せました。
二本目。
二年二組は最初から、同じ動きをしました。
無理に先手を取ろうとはせず。
足を固定し。
コレットさんの掛け声へ合わせます。
相手が一度、大きく引いたあと。
全員で二回。
三回。
同じリズムで引き返しました。
終了の笛。
二本連取。
二年二組が勝ち上がります。
「すごい!」
レンちゃんが、私の隣で拍手をしていました。
「最初は、相手側へかなり動いていましたね」
フィーちゃんも、二年二組の旗を見ながら言います。
「つきみさんが止めたところから、全員が揃いました」
「シロさんだけが引いたのではなく、クラス全員で戻しましたね」
プラリネさんも、綱引きの列を見つめています。
競技を終えたシロさんたちが、私たちの前を通りました。
「シロさん、お疲れさまでした!」
私が声をかけると、シロさんが笑顔で振り返ります。
「チョコちゃん、応援ありがとう!」
「届いていたんですか?」
「思ってたより大きい声だった!」
レンちゃんにも、同じことを言われました。
「必要な時は出します」
「午後もお願いね!」
「もちろんです」
つきみさんも、競技用の手袋を外していました。
「つきみさん、お疲れさまでした」
「ありがとう」
「最初に耐えるよう伝えたところで、流れが変わりましたね」
「相手が最初に大きく引いてきたから。そこで慌てて引き返すと、こっちの足が揃わないと思っただけ」
「それを、すぐに見つけられるのがすごいです」
つきみさんは、少しだけ視線を逸らしました。
「コレットが全員へ伝えてくれたから、動けたんだよ」
「はい。皆さんで勝ったのだと思います」
「うん」
コレットさんが、シロさんの背中を軽く押しました。
「次の競技まで休憩」
「まだ元気だよ」
「元気なうちに休む」
キャラメルさんとミルクさんも、両側へ並びます。
「飲み物、こっちだよ」
「タオルもあるよ~」
「私、捕まった人みたいになってない?」
「自分から休憩へ行かないから」
シロさんは何か言い返そうとしましたが、結局三人と一緒に休憩場所へ向かいました。
お昼の輪
午前最後の競技が終わると、昼休みの放送が流れました。
一年二組の応援席へ戻り、クラス旗の下で昼食を広げます。
レンちゃん。
フィーちゃん。
プラリネさんと、同じ場所へ座りました。
「朝から、ずっと動いていた気がする」
レンちゃんが飲み物を一口飲みます。
「実際に障害物競走へ出ていますからね」
「チョコちゃんも、大縄に出たでしょう?」
「レンちゃんほど走ってはいません」
フィーちゃんは、午前中に撮った写真を並べていました。
大縄の最後。
台風の目で四人がコーンを回るところ。
レンちゃんが平均台を渡るところ。
プラリネさんとエスプレッソさんがゴールした瞬間。
二年二組が綱を引き返した場面。
「写真、かなり増えたね」
プラリネさんが画面を覗き込みます。
「まだ午前だけだよ」
「全部きれいに撮れていますね」
私が言うと、フィーちゃんは少し嬉しそうに笑いました。
「見てたら残したくなったの」
「撮ることだけに夢中になって、競技を見逃してはいませんか?」
「ちゃんと見てるよ。レンちゃんが網に引っかかった時も」
「そこは忘れていいよ」
レンちゃんが笑いました。
来場者席から、ミントちゃんとマキアートさんがこちらへ歩いてきます。
昼休みの間は、生徒用の応援席近くまで来てもよいそうです。
「お姉ちゃん!」
「ミントちゃん」
ミントちゃんは私の隣へ座り、朝から見ていた競技の感想を一気に話し始めました。
「大縄すごかった! 途中から、みんな同じ高さで跳んでた!」
「後半は、足が少し重くなりました」
「でも四十八回だよ」
マキアートさんも、私たちへ頭を下げます。
「こんにちは。お邪魔します」
「こんにちは、マキアートさん」
「障害物競走も見ました。シュトレンさん、網から出たあと速かったです」
「ありがとう」
レンちゃんが嬉しそうに笑います。
「途中、かなり引っかかったけどね」
「転ばなかったので大丈夫です」
「マキアートさん、レンちゃんへ少し優しいですね」
「ミントから、初めての日本の体育祭を楽しみにしていたと聞いていたので」
「ミントちゃん、そこまで話したんですか?」
「お姉ちゃんから聞いた話を、少しだけ」
少しではなさそうです。
「こちらがフィーちゃんと、プラリネさんです」
改めて紹介します。
「フィリスフィナンシェです」
「ソフィアプラリネです。今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、見学させていただいています」
プラリネさんは、無理に話題を広げようとはせず。
まず、二人の名前を聞き。
来場者席が見つけやすかったか尋ねました。
「午後もいるんだよね?」
「はい。お姉ちゃんのデュエルまで見ます」
ミントちゃんが答えます。
「じゃあ、一緒に応援しよう」
そのくらいの自然な距離から、会話を始めていました。
少し離れた場所では、エスプレッソさんが一人で昼食を取っています。
プラリネさんも、その姿に気づきました。
「エスプレッソさん、あそこにいるね」
「静かな場所の方が落ち着く方です」
「一緒に来てもらうより、あとで挨拶だけしに行こうかな」
「それがよいと思います」
「うん。借り人競走のお礼も、もう一度言いたいから」
二年二組の人たちも、昼食を持って近くへやってきました。
フェタさんは、そのままKirscheの四人がいる場所へ座ります。
「午前、お疲れさま」
「フェタさんも綱引き、お疲れさまでした」
「腕が少し重い」
「午後は競技がありますか?」
「私は記録と応援。デュエルの進行も確認するよ」
シロさんは、キャラメルさんたちと一緒に座りました。
コレットさんが、昼休み終了までの時間を確認しています。
ミルクさんは、午前中の写真をミントちゃんたちにも見せていました。
つきみさんは、一年二組の大縄の記録を見ます。
「四十八回、すごかったね」
「ありがとうございます」
「途中で少し速くなった時も、すぐ戻ってた」
「全員で声を聞いていましたから」
プラリネさんが、自分のお弁当を食べながら言います。
「最後の方は、誰の足音かわからないくらい揃ってたね」
「プラリネさんも、危なかったと言っていましたね」
「うん。後ろで一回、靴の先が縄へ触れたと思った」
「触れていたら、そこで終わっていたかもしれません」
「だから、四十八回跳べたのは本当にみんなのおかげ」
プラリネさんは、自分だけを中心には置きませんでした。
同じ列の中で、一緒に跳んだ一人として笑っています。
先輩が、私の隣へ腰を下ろしました。
「午前、お疲れさま。大縄、見てたよ」
「先輩も、朝はポッドの最終確認があったのでは?」
「起動確認だけ。競技は見られた」
「レンちゃんの障害物競走も?」
「最後の布袋から」
「網のところを見逃しています」
「そこ、重要なの?」
「一度遅れてから、追いついたところです」
レンちゃんが、すぐに首を横へ振りました。
「網へ引っかかってるところは、見なくていいです」
「でも、そのあとの追い上げを見るには必要なんでしょう?」
「……なら、そこから見てください」
先輩は笑い、今度は私へ向き直りました。
「チョコ、緊張してる?」
午後のデュエル大会。
そのことだと、すぐにわかりました。
「朝よりは、少し強くなりました」
「嫌な緊張?」
「いいえ。午前中が楽しかったので、楽しみも増えました」
「僕も」
「先輩は、まだ競技へ出ていませんよ」
「応援するだけでも、体育祭は楽しいよ」
「午後は、応援される側ですね」
「うん」
先輩は校庭の中央を見ました。
まだ、バーチャルポッドは起動していません。
そこには、現実の白線だけがあります。
「次にあそこが変わったら、本番だね」
「はい」
「決勝まで」
「来てくださいね」
「チョコも」
近くで、つきみさんが私たちの会話を聞いていました。
「また二人で決めてる」
「つきみさんも、同じ場所まで来てください」
「言われなくても行くつもり」
「では、三人ともですね」
シロさんが勢いよく手を上げます。
「全員応援する!」
コレットさんが、その腕を下ろしました。
「食事中に振らないで」
「当たってないよ」
「風が来たよ~」
ミルクさんが笑います。
キャラメルさんは、シロさんの前へ飲み物を置きました。
「シロちゃんは午後のリレーもあるから、今はちゃんと食べようね」
「わかってるって」
にぎやかな昼休み。
クラスも。
学年も。
競技も違います。
それでも、普段一緒にいる人たちが同じ旗の近くへ集まり。
午後を楽しみにしていました。
一年二組の応援席へ戻り、クラス旗の下で昼食を広げます。
レンちゃん。
フィーちゃん。
プラリネさんと、同じ場所へ座りました。
「朝から、ずっと動いていた気がする」
レンちゃんが飲み物を一口飲みます。
「実際に障害物競走へ出ていますからね」
「チョコちゃんも、大縄に出たでしょう?」
「レンちゃんほど走ってはいません」
フィーちゃんは、午前中に撮った写真を並べていました。
大縄の最後。
台風の目で四人がコーンを回るところ。
レンちゃんが平均台を渡るところ。
プラリネさんとエスプレッソさんがゴールした瞬間。
二年二組が綱を引き返した場面。
「写真、かなり増えたね」
プラリネさんが画面を覗き込みます。
「まだ午前だけだよ」
「全部きれいに撮れていますね」
私が言うと、フィーちゃんは少し嬉しそうに笑いました。
「見てたら残したくなったの」
「撮ることだけに夢中になって、競技を見逃してはいませんか?」
「ちゃんと見てるよ。レンちゃんが網に引っかかった時も」
「そこは忘れていいよ」
レンちゃんが笑いました。
来場者席から、ミントちゃんとマキアートさんがこちらへ歩いてきます。
昼休みの間は、生徒用の応援席近くまで来てもよいそうです。
「お姉ちゃん!」
「ミントちゃん」
ミントちゃんは私の隣へ座り、朝から見ていた競技の感想を一気に話し始めました。
「大縄すごかった! 途中から、みんな同じ高さで跳んでた!」
「後半は、足が少し重くなりました」
「でも四十八回だよ」
マキアートさんも、私たちへ頭を下げます。
「こんにちは。お邪魔します」
「こんにちは、マキアートさん」
「障害物競走も見ました。シュトレンさん、網から出たあと速かったです」
「ありがとう」
レンちゃんが嬉しそうに笑います。
「途中、かなり引っかかったけどね」
「転ばなかったので大丈夫です」
「マキアートさん、レンちゃんへ少し優しいですね」
「ミントから、初めての日本の体育祭を楽しみにしていたと聞いていたので」
「ミントちゃん、そこまで話したんですか?」
「お姉ちゃんから聞いた話を、少しだけ」
少しではなさそうです。
「こちらがフィーちゃんと、プラリネさんです」
改めて紹介します。
「フィリスフィナンシェです」
「ソフィアプラリネです。今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、見学させていただいています」
プラリネさんは、無理に話題を広げようとはせず。
まず、二人の名前を聞き。
来場者席が見つけやすかったか尋ねました。
「午後もいるんだよね?」
「はい。お姉ちゃんのデュエルまで見ます」
ミントちゃんが答えます。
「じゃあ、一緒に応援しよう」
そのくらいの自然な距離から、会話を始めていました。
少し離れた場所では、エスプレッソさんが一人で昼食を取っています。
プラリネさんも、その姿に気づきました。
「エスプレッソさん、あそこにいるね」
「静かな場所の方が落ち着く方です」
「一緒に来てもらうより、あとで挨拶だけしに行こうかな」
「それがよいと思います」
「うん。借り人競走のお礼も、もう一度言いたいから」
二年二組の人たちも、昼食を持って近くへやってきました。
フェタさんは、そのままKirscheの四人がいる場所へ座ります。
「午前、お疲れさま」
「フェタさんも綱引き、お疲れさまでした」
「腕が少し重い」
「午後は競技がありますか?」
「私は記録と応援。デュエルの進行も確認するよ」
シロさんは、キャラメルさんたちと一緒に座りました。
コレットさんが、昼休み終了までの時間を確認しています。
ミルクさんは、午前中の写真をミントちゃんたちにも見せていました。
つきみさんは、一年二組の大縄の記録を見ます。
「四十八回、すごかったね」
「ありがとうございます」
「途中で少し速くなった時も、すぐ戻ってた」
「全員で声を聞いていましたから」
プラリネさんが、自分のお弁当を食べながら言います。
「最後の方は、誰の足音かわからないくらい揃ってたね」
「プラリネさんも、危なかったと言っていましたね」
「うん。後ろで一回、靴の先が縄へ触れたと思った」
「触れていたら、そこで終わっていたかもしれません」
「だから、四十八回跳べたのは本当にみんなのおかげ」
プラリネさんは、自分だけを中心には置きませんでした。
同じ列の中で、一緒に跳んだ一人として笑っています。
先輩が、私の隣へ腰を下ろしました。
「午前、お疲れさま。大縄、見てたよ」
「先輩も、朝はポッドの最終確認があったのでは?」
「起動確認だけ。競技は見られた」
「レンちゃんの障害物競走も?」
「最後の布袋から」
「網のところを見逃しています」
「そこ、重要なの?」
「一度遅れてから、追いついたところです」
レンちゃんが、すぐに首を横へ振りました。
「網へ引っかかってるところは、見なくていいです」
「でも、そのあとの追い上げを見るには必要なんでしょう?」
「……なら、そこから見てください」
先輩は笑い、今度は私へ向き直りました。
「チョコ、緊張してる?」
午後のデュエル大会。
そのことだと、すぐにわかりました。
「朝よりは、少し強くなりました」
「嫌な緊張?」
「いいえ。午前中が楽しかったので、楽しみも増えました」
「僕も」
「先輩は、まだ競技へ出ていませんよ」
「応援するだけでも、体育祭は楽しいよ」
「午後は、応援される側ですね」
「うん」
先輩は校庭の中央を見ました。
まだ、バーチャルポッドは起動していません。
そこには、現実の白線だけがあります。
「次にあそこが変わったら、本番だね」
「はい」
「決勝まで」
「来てくださいね」
「チョコも」
近くで、つきみさんが私たちの会話を聞いていました。
「また二人で決めてる」
「つきみさんも、同じ場所まで来てください」
「言われなくても行くつもり」
「では、三人ともですね」
シロさんが勢いよく手を上げます。
「全員応援する!」
コレットさんが、その腕を下ろしました。
「食事中に振らないで」
「当たってないよ」
「風が来たよ~」
ミルクさんが笑います。
キャラメルさんは、シロさんの前へ飲み物を置きました。
「シロちゃんは午後のリレーもあるから、今はちゃんと食べようね」
「わかってるって」
にぎやかな昼休み。
クラスも。
学年も。
競技も違います。
それでも、普段一緒にいる人たちが同じ旗の近くへ集まり。
午後を楽しみにしていました。
最速のアンカー
昼休みのあと。
校庭へ大きな歓声を集めたのは、二年生のクラス対抗リレーでした。
二年二組のアンカーは、シロさん。
対する二年三組のアンカーは、マロンさんです。
出走前。
二人はバトン待機位置で顔を合わせていました。
「シロ、今日は追いかける側かもよ!」
マロンさんが、明るく笑います。
「どうして?」
「うち、前の三人も速いから!」
「二年二組も速いよ」
「じゃあ、並んで受け取れたら一番面白いね」
「負けないからな」
「私も!」
二人とも、競技前とは思えないほど楽しそうです。
アッサムさんは、二年三組の応援席からバトン位置を確認していました。
「マロン、受け取る時に前へ出すぎないで。今日の風だと、外側へ膨らみやすい」
「わかった!」
二年二組側では、キャラメルさんがシロさんの肩を軽く叩きます。
「最初から前だけ見ないでね。バトンを受け取ってから」
「それはわかってる」
コレットさんも続けます。
「前の走者の速度へ合わせる。取る前に離れない」
「みんな、私を何だと思ってる?」
「速く走ることしか考えてない人」
「今日はバトンも考えてるよ」
ミルクさんが笑います。
「なら、きっと大丈夫だね~」
開始の合図。
第一走者が一斉に飛び出しました。
最初のカーブ。
二年二組は三位。
二年三組が、わずかに先頭です。
第二走者へバトン。
二年二組の受け渡しはきれいでしたが、二年三組も崩れません。
差は少しずつ広がります。
第三走者。
二年三組、一位。
二年一組、二位。
二年二組、三位。
「シロさん、かなり離れています」
私が言うと、先輩はトラックから目を離さずに答えました。
「でも、追う方がシロは得意だよ」
二年二組の第三走者が、最後の直線へ入ります。
シロさんが助走を始めました。
バトンを受け取る手を後ろへ伸ばします。
一度目で、きれいに入りました。
「シロ、行け!」
先輩の声。
シロさんが一気に加速します。
最初の数歩で、二年一組のアンカーとの差を縮めました。
コーナーへ入る前に追いつきます。
外側から抜く。
二位。
前にはマロンさん。
二年三組は、まだ八メートルほど先です。
マロンさんも速い。
上体がほとんど揺れず、カーブでも速度が落ちません。
シロさんは直線で差を詰めます。
マロンさんはコーナーで広げる。
最後のカーブ。
残り百メートル。
二人の距離は四メートル。
「シロさん!」
気づけば、私は立ち上がっていました。
レンちゃんも。
フィーちゃんも。
プラリネさんも。
一年二組の応援席から、二年二組のアンカーへ声を送っています。
「マロンさんも頑張って!」
プラリネさんが叫びました。
どちらかだけを見ている余裕がありません。
残り五十メートル。
シロさんが、さらに速度を上げました。
マロンさんも、後ろから近づく足音へ気づいています。
一度だけ横を見ました。
その表情は苦しそうではなく。
むしろ、楽しそうでした。
二人が、ほとんど並びます。
ゴール。
胸が線を通った瞬間。
見ている側からは、どちらが先かわかりませんでした。
校庭全体が、判定表示を待って静かになります。
計測結果。
<一位 二年三組>
<二位 二年二組>
差は、〇・〇四秒。
二年三組の応援席から歓声が上がりました。
二年二組からは、大きなため息。
それでも、すぐに拍手へ変わります。
シロさんは膝へ手をつき、息を整えました。
その隣でマロンさんも肩を上下させています。
「危なかったー!」
マロンさんが、先に笑いました。
「最後、横にいたよね?」
「あと少しだった」
「今度は、最初から同じ位置で走りたい!」
「いいよ。次は勝つから」
二人は、その場で拳を軽く合わせました。
アッサムさんが、マロンさんへタオルを渡します。
「お疲れさま。最後までフォームが崩れなかったね」
「みんなが前でつないでくれたから、絶対守りたかったんだ」
シロさんのところへは、キャラメルさん、コレットさん、ミルクさんがすぐに向かいました。
「シロちゃん、お疲れさま」
「負けたー」
「でも、すごい追い上げだったよ~」
「バトンも一回で取れてた」
コレットさんが記録映像を確認します。
「個人の区間だけなら、シロの方が少し速い。でも、リレーは四人だからね」
「うん」
シロさんは、前の三人の走者を見ました。
「最後に抜けなくて、ごめん」
「何言ってるの?」
一人が笑いました。
「三位から、ほとんど一位まで来たじゃん」
「みんなで二位だよ」
「次は勝とう」
シロさんは少しだけ目を丸くし、すぐに大きく頷きました。
「うん!」
応援席へ戻ったプラリネさんが、トラックを見ながら言いました。
「リレーも、大縄と同じなんだね」
「何がですか?」
「誰か一人だけでは、勝てないところ」
「はい。前の三人がつないだ時間も、最後のシロさんの走りも、すべてが一つの記録です」
「だから、二位も四人の二位なんだ」
プラリネさんは、まだ走者たちがいるトラックを見つめていました。
クラスメイトを支えることはできます。
ですが、すべてを一人で背負うものではありません。
今日の競技を見ながら、彼女自身もそれを感じているようでした。
校庭へ大きな歓声を集めたのは、二年生のクラス対抗リレーでした。
二年二組のアンカーは、シロさん。
対する二年三組のアンカーは、マロンさんです。
出走前。
二人はバトン待機位置で顔を合わせていました。
「シロ、今日は追いかける側かもよ!」
マロンさんが、明るく笑います。
「どうして?」
「うち、前の三人も速いから!」
「二年二組も速いよ」
「じゃあ、並んで受け取れたら一番面白いね」
「負けないからな」
「私も!」
二人とも、競技前とは思えないほど楽しそうです。
アッサムさんは、二年三組の応援席からバトン位置を確認していました。
「マロン、受け取る時に前へ出すぎないで。今日の風だと、外側へ膨らみやすい」
「わかった!」
二年二組側では、キャラメルさんがシロさんの肩を軽く叩きます。
「最初から前だけ見ないでね。バトンを受け取ってから」
「それはわかってる」
コレットさんも続けます。
「前の走者の速度へ合わせる。取る前に離れない」
「みんな、私を何だと思ってる?」
「速く走ることしか考えてない人」
「今日はバトンも考えてるよ」
ミルクさんが笑います。
「なら、きっと大丈夫だね~」
開始の合図。
第一走者が一斉に飛び出しました。
最初のカーブ。
二年二組は三位。
二年三組が、わずかに先頭です。
第二走者へバトン。
二年二組の受け渡しはきれいでしたが、二年三組も崩れません。
差は少しずつ広がります。
第三走者。
二年三組、一位。
二年一組、二位。
二年二組、三位。
「シロさん、かなり離れています」
私が言うと、先輩はトラックから目を離さずに答えました。
「でも、追う方がシロは得意だよ」
二年二組の第三走者が、最後の直線へ入ります。
シロさんが助走を始めました。
バトンを受け取る手を後ろへ伸ばします。
一度目で、きれいに入りました。
「シロ、行け!」
先輩の声。
シロさんが一気に加速します。
最初の数歩で、二年一組のアンカーとの差を縮めました。
コーナーへ入る前に追いつきます。
外側から抜く。
二位。
前にはマロンさん。
二年三組は、まだ八メートルほど先です。
マロンさんも速い。
上体がほとんど揺れず、カーブでも速度が落ちません。
シロさんは直線で差を詰めます。
マロンさんはコーナーで広げる。
最後のカーブ。
残り百メートル。
二人の距離は四メートル。
「シロさん!」
気づけば、私は立ち上がっていました。
レンちゃんも。
フィーちゃんも。
プラリネさんも。
一年二組の応援席から、二年二組のアンカーへ声を送っています。
「マロンさんも頑張って!」
プラリネさんが叫びました。
どちらかだけを見ている余裕がありません。
残り五十メートル。
シロさんが、さらに速度を上げました。
マロンさんも、後ろから近づく足音へ気づいています。
一度だけ横を見ました。
その表情は苦しそうではなく。
むしろ、楽しそうでした。
二人が、ほとんど並びます。
ゴール。
胸が線を通った瞬間。
見ている側からは、どちらが先かわかりませんでした。
校庭全体が、判定表示を待って静かになります。
計測結果。
<一位 二年三組>
<二位 二年二組>
差は、〇・〇四秒。
二年三組の応援席から歓声が上がりました。
二年二組からは、大きなため息。
それでも、すぐに拍手へ変わります。
シロさんは膝へ手をつき、息を整えました。
その隣でマロンさんも肩を上下させています。
「危なかったー!」
マロンさんが、先に笑いました。
「最後、横にいたよね?」
「あと少しだった」
「今度は、最初から同じ位置で走りたい!」
「いいよ。次は勝つから」
二人は、その場で拳を軽く合わせました。
アッサムさんが、マロンさんへタオルを渡します。
「お疲れさま。最後までフォームが崩れなかったね」
「みんなが前でつないでくれたから、絶対守りたかったんだ」
シロさんのところへは、キャラメルさん、コレットさん、ミルクさんがすぐに向かいました。
「シロちゃん、お疲れさま」
「負けたー」
「でも、すごい追い上げだったよ~」
「バトンも一回で取れてた」
コレットさんが記録映像を確認します。
「個人の区間だけなら、シロの方が少し速い。でも、リレーは四人だからね」
「うん」
シロさんは、前の三人の走者を見ました。
「最後に抜けなくて、ごめん」
「何言ってるの?」
一人が笑いました。
「三位から、ほとんど一位まで来たじゃん」
「みんなで二位だよ」
「次は勝とう」
シロさんは少しだけ目を丸くし、すぐに大きく頷きました。
「うん!」
応援席へ戻ったプラリネさんが、トラックを見ながら言いました。
「リレーも、大縄と同じなんだね」
「何がですか?」
「誰か一人だけでは、勝てないところ」
「はい。前の三人がつないだ時間も、最後のシロさんの走りも、すべてが一つの記録です」
「だから、二位も四人の二位なんだ」
プラリネさんは、まだ走者たちがいるトラックを見つめていました。
クラスメイトを支えることはできます。
ですが、すべてを一人で背負うものではありません。
今日の競技を見ながら、彼女自身もそれを感じているようでした。
午後の舞台
リレーが終わると、現実側の一般競技はいったん休止となりました。
校庭へ、体育祭実行委員の放送が流れます。
「これより、午後のメインイベント準備へ移行します」
「デュエル大会出場者は、校舎内の指定接続室へ移動してください」
「観覧者は応援席から離れず、バーチャルポッドの起動をお待ちください」
校庭の空気が、一度に変わりました。
トラック中央から、午前中に使った用具が運び出されます。
実行委員が安全柵を確認し。
四隅のバーチャルポッドへ、本番用の起動信号が送られました。
私は一年二組の応援席へ戻り、鞄から出場カードを取り出します。
「いよいよだね」
レンちゃんが、私の前へ立ちました。
「はい」
「午前はチョコちゃんに応援してもらったから、今度は私の番」
「聞こえるくらいの声でお願いします」
「校庭から接続室までは聞こえないんじゃない?」
「バーチャルポッドの中継で、観客の歓声は少し届くそうです」
「じゃあ、いっぱい呼ぶね」
「最後まで声が出るくらいにしてください」
「シロさんみたいなこと言われてる」
フィーちゃんも、私の隣へ来ました。
「チョコちゃん」
「はい?」
「楽しんできてね」
「勝ってきて、ではないんですか?」
「もちろん勝ってほしいよ。でも、午前の競技を見てたら、勝つことだけじゃないと思ったから」
フィーちゃんは、校庭の方へ目を向けます。
大縄。
台風の目。
障害物競走。
借り人競走。
綱引き。
リレー。
順位がついた競技も。
勝てなかった競技もあります。
それでも、どの競技にも楽しそうに話す人たちがいました。
「チョコちゃんらしく、最後まで戦ってきて」
「はい。ありがとうございます、フィーちゃん」
プラリネさんも、こちらへ歩いてきました。
「チョコちゃん、終わったら戻ってきてね」
「もちろんです」
「勝っても、負けても」
「はい」
「みんなで、おかえりって言いたいから」
その言葉に、胸が少し温かくなりました。
「必ず戻ります」
ミントちゃんからも、メッセージが届きました。
<お姉ちゃん、ずっと見てるからね>
続けてマキアートさん。
<ミントが今から声を出す準備をしています>
<少し止めてください>
<たぶん無理です>
思わず笑ってしまいました。
<ありがとうございます>
<二人とも、最後まで楽しんでください>
送信すると、大きな応援のスタンプが届きます。
二年二組側でも、出場者が移動を始めていました。
先輩。
つきみさん。
二人とも、私と同じ第二演習棟へ向かうようです。
シロさんは応援席へ残り、両手を口元へ当てました。
「みたー! つきみー! チョコちゃーん! 全員勝ってこーい!」
校庭中へ届きそうな声です。
キャラメルさんが、隣から少しだけ腕を下げさせました。
「シロちゃん、最初から全部使わないでね」
「応援の声はなくならないよ」
「喉も休憩が必要」
コレットさんはデュエル大会の進行表を確認しています。
「一回戦から長いよ。最後まで声が出なくなったら困る」
ミルクさんは、午前中の写真を閉じて、今度は投影される決闘場を撮影する準備を始めました。
フェタさんはKirscheへ短いメッセージを送ります。
<応援席は任せて>
私は鞄をレンちゃんたちへ預け、接続室へ向かいました。
校舎へ入る直前。
後ろから呼ばれます。
「チョコ」
振り返ると、先輩がいました。
つきみさんも、少し離れたところで待っています。
「午前、お疲れさま」
「先輩も、お疲れさまでした」
「僕は応援していただけだけどね」
「綱引きの時、かなり大きな声が聞こえました」
「届いてた?」
「はい」
つきみさんが、演習棟の時計を確認します。
「集合まで、あと七分」
「では、行きましょう」
三人で並んで歩き始めます。
会話は多くありませんでした。
言いたいことは、準備期間に何度も話しています。
誰が相手でも、最後まで戦う。
決勝を目指す。
途中で当たれば、遠慮はしない。
第二演習棟へ入ると、学年ごとに接続室が分かれていました。
ここから先。
私たちは、それぞれ別のコネクションシートへ座ります。
「チョコ」
別れる直前。
先輩が、もう一度名前を呼びました。
「決勝で」
「はい。先輩も」
つきみさんが、私たち二人を見ます。
「その前に、私がいるかもしれないよ」
「もちろん、忘れていません」
「ならいい」
つきみさんは小さく笑い、自分の接続室へ向かいました。
先輩も、反対側の扉へ歩いていきます。
「またあとで、チョコ」
「はい、先輩」
私は一年生用の接続室へ入りました。
何列も並ぶコネクションシート。
壁面の表示には、出場者名と接続状態が並んでいます。
自分の番号を確認し、指定された席へ座りました。
背もたれが、ゆっくりと倒れます。
現実側の校庭では、バーチャルポッドが起動していました。
四隅の装置から映像が広がり。
何もなかった校庭中央へ、バーチャル世界の決闘場が立体映像として表示されます。
白い床。
円形の境界線。
大きな観客席。
現実の校庭へ、その姿だけが重ねられていきます。
一年二組の旗が揺れます。
二年二組の旗も。
レンちゃん。
フィーちゃん。
プラリネさん。
フェタさん。
シロさんたち。
ミントちゃんとマキアートさん。
たくさんの人が、投影された決闘場を見上げています。
接続確認の表示が、私の前へ浮かびました。
<学校用アバターを確認>
<武器設定を確認>
<ライフゲージ設定 二百>
<デュエル大会本戦サーバーへ接続します>
私は一度、目を閉じました。
午前中の声が、まだ耳の奥に残っています。
全員で跳んだ大縄。
コーンの周りを駆け抜けたフィーちゃん。
網から抜け出したレンちゃん。
エスプレッソさんと並んで走ったプラリネさん。
綱を引く二年二組。
ゴールへ飛び込んだマロンさんとシロさん。
今日の体育祭は、デュエル大会だけではありません。
すでに、たくさんの出来事がありました。
その全部を持ったまま。
今度は、自分の競技へ向かいます。
確認ボタンを押しました。
視界が、白い光に包まれます。
校庭上空へ、開幕を告げる表示が浮かびました。
<だんのこまち第一高等学校体育祭>
<メインイベント――デュエル大会>
<まもなく開始します>
校庭へ、体育祭実行委員の放送が流れます。
「これより、午後のメインイベント準備へ移行します」
「デュエル大会出場者は、校舎内の指定接続室へ移動してください」
「観覧者は応援席から離れず、バーチャルポッドの起動をお待ちください」
校庭の空気が、一度に変わりました。
トラック中央から、午前中に使った用具が運び出されます。
実行委員が安全柵を確認し。
四隅のバーチャルポッドへ、本番用の起動信号が送られました。
私は一年二組の応援席へ戻り、鞄から出場カードを取り出します。
「いよいよだね」
レンちゃんが、私の前へ立ちました。
「はい」
「午前はチョコちゃんに応援してもらったから、今度は私の番」
「聞こえるくらいの声でお願いします」
「校庭から接続室までは聞こえないんじゃない?」
「バーチャルポッドの中継で、観客の歓声は少し届くそうです」
「じゃあ、いっぱい呼ぶね」
「最後まで声が出るくらいにしてください」
「シロさんみたいなこと言われてる」
フィーちゃんも、私の隣へ来ました。
「チョコちゃん」
「はい?」
「楽しんできてね」
「勝ってきて、ではないんですか?」
「もちろん勝ってほしいよ。でも、午前の競技を見てたら、勝つことだけじゃないと思ったから」
フィーちゃんは、校庭の方へ目を向けます。
大縄。
台風の目。
障害物競走。
借り人競走。
綱引き。
リレー。
順位がついた競技も。
勝てなかった競技もあります。
それでも、どの競技にも楽しそうに話す人たちがいました。
「チョコちゃんらしく、最後まで戦ってきて」
「はい。ありがとうございます、フィーちゃん」
プラリネさんも、こちらへ歩いてきました。
「チョコちゃん、終わったら戻ってきてね」
「もちろんです」
「勝っても、負けても」
「はい」
「みんなで、おかえりって言いたいから」
その言葉に、胸が少し温かくなりました。
「必ず戻ります」
ミントちゃんからも、メッセージが届きました。
<お姉ちゃん、ずっと見てるからね>
続けてマキアートさん。
<ミントが今から声を出す準備をしています>
<少し止めてください>
<たぶん無理です>
思わず笑ってしまいました。
<ありがとうございます>
<二人とも、最後まで楽しんでください>
送信すると、大きな応援のスタンプが届きます。
二年二組側でも、出場者が移動を始めていました。
先輩。
つきみさん。
二人とも、私と同じ第二演習棟へ向かうようです。
シロさんは応援席へ残り、両手を口元へ当てました。
「みたー! つきみー! チョコちゃーん! 全員勝ってこーい!」
校庭中へ届きそうな声です。
キャラメルさんが、隣から少しだけ腕を下げさせました。
「シロちゃん、最初から全部使わないでね」
「応援の声はなくならないよ」
「喉も休憩が必要」
コレットさんはデュエル大会の進行表を確認しています。
「一回戦から長いよ。最後まで声が出なくなったら困る」
ミルクさんは、午前中の写真を閉じて、今度は投影される決闘場を撮影する準備を始めました。
フェタさんはKirscheへ短いメッセージを送ります。
<応援席は任せて>
私は鞄をレンちゃんたちへ預け、接続室へ向かいました。
校舎へ入る直前。
後ろから呼ばれます。
「チョコ」
振り返ると、先輩がいました。
つきみさんも、少し離れたところで待っています。
「午前、お疲れさま」
「先輩も、お疲れさまでした」
「僕は応援していただけだけどね」
「綱引きの時、かなり大きな声が聞こえました」
「届いてた?」
「はい」
つきみさんが、演習棟の時計を確認します。
「集合まで、あと七分」
「では、行きましょう」
三人で並んで歩き始めます。
会話は多くありませんでした。
言いたいことは、準備期間に何度も話しています。
誰が相手でも、最後まで戦う。
決勝を目指す。
途中で当たれば、遠慮はしない。
第二演習棟へ入ると、学年ごとに接続室が分かれていました。
ここから先。
私たちは、それぞれ別のコネクションシートへ座ります。
「チョコ」
別れる直前。
先輩が、もう一度名前を呼びました。
「決勝で」
「はい。先輩も」
つきみさんが、私たち二人を見ます。
「その前に、私がいるかもしれないよ」
「もちろん、忘れていません」
「ならいい」
つきみさんは小さく笑い、自分の接続室へ向かいました。
先輩も、反対側の扉へ歩いていきます。
「またあとで、チョコ」
「はい、先輩」
私は一年生用の接続室へ入りました。
何列も並ぶコネクションシート。
壁面の表示には、出場者名と接続状態が並んでいます。
自分の番号を確認し、指定された席へ座りました。
背もたれが、ゆっくりと倒れます。
現実側の校庭では、バーチャルポッドが起動していました。
四隅の装置から映像が広がり。
何もなかった校庭中央へ、バーチャル世界の決闘場が立体映像として表示されます。
白い床。
円形の境界線。
大きな観客席。
現実の校庭へ、その姿だけが重ねられていきます。
一年二組の旗が揺れます。
二年二組の旗も。
レンちゃん。
フィーちゃん。
プラリネさん。
フェタさん。
シロさんたち。
ミントちゃんとマキアートさん。
たくさんの人が、投影された決闘場を見上げています。
接続確認の表示が、私の前へ浮かびました。
<学校用アバターを確認>
<武器設定を確認>
<ライフゲージ設定 二百>
<デュエル大会本戦サーバーへ接続します>
私は一度、目を閉じました。
午前中の声が、まだ耳の奥に残っています。
全員で跳んだ大縄。
コーンの周りを駆け抜けたフィーちゃん。
網から抜け出したレンちゃん。
エスプレッソさんと並んで走ったプラリネさん。
綱を引く二年二組。
ゴールへ飛び込んだマロンさんとシロさん。
今日の体育祭は、デュエル大会だけではありません。
すでに、たくさんの出来事がありました。
その全部を持ったまま。
今度は、自分の競技へ向かいます。
確認ボタンを押しました。
視界が、白い光に包まれます。
校庭上空へ、開幕を告げる表示が浮かびました。
<だんのこまち第一高等学校体育祭>
<メインイベント――デュエル大会>
<まもなく開始します>