①
ミナス峠、麓の廃村。
降り続く雨。
朽ちかけた物見小屋の壁に、背を預けるイルドルフ。
「イルドルフ殿ではありませんか?」
自分の名を呼ぶ涼やかな声に、朦朧としていた意識が五感を回復していく。
鮮明になった視界は、甲冑の騎士たちを認識。
聖都ロンバルディア外苑部を守護する‘聖輪騎士団’の精悍な足音が近づく。
「挑発行為を仕掛けてきた不審者を追っていたのですが、このような場所でお会いするとは。 キスリング導師はいかがなされた?ベルン殿とレスター審問官はご一緒では?」
騎士団長は女性。
法王庁内部を守護する聖冠騎士団長の妹(余談)。
「不覚をとった私を貴公らと合流させるため、異端者と交戦中です。・・・応援を、要請します」
「・・・ひどい傷を負われている。救護班、急げ!」
「イルドルフ殿にここまでの手傷を負わせるとは」
「相手は‘逆十字団’。・・・ミナス峠に残った三人への増援を、早く」
「‘逆十字団’。・・・・ならば、増援を急がせましょう」
「オーギス!ジョルディ!レンヌ!貴公らは先行し、キスリング導師並びに異端審問官殿の援護にあたれ!」
聖輪騎士団の精鋭三名が呼ばれる。
「だから、最初から俺をいかせればよかったんだ」
聖騎士オーギス
筋肉質の偉丈夫。
赤魔石の埋め込まれた‘聖剣’。
不敵な笑み。
「お言葉、拝命いたしました」
聖騎士ジョルディ
最年少。
育ちがよさそうな顔立ち。
二種の魔石の埋め込まれた双剣。
「
必ず、ご期待に応えましょう」
聖騎士レンヌ・バレイアス
女性騎士。
白い肌と長い睫毛。
細身の聖剣。
三人はミナス峠に向かい、雨の中、消える。
「我々も移動するぞ」
先行した三人を追うように、統一された動きで馬を進めようとする聖輪騎士団。
一人の騎士が気づく。
「団長、子供がいます」
雨の中、廃村の片隅にたたずむ少女。
虚ろな瞳が鈍く輝く。
②
ミナス峠、中腹。
細身の体に皮鎧、大小二本の剣を下げた男が廃村を見下ろしている。
‘典型的な傭兵’姿だが、首から提げた‘8’という数字が刻まれた‘逆十字印’が、雨風に揺れている。
「遅かったじゃないか、先輩方」
廃村から視線を動かさず、背後に声をかける。