
■背景
君は神学校時代、神学史の授業が一番の楽しみだった。
教科書を開けば、そこには神が地上にもたらした様々な奇跡を、その場にいながらにして体感することができた。
「──おお聖マルガレータ、かの聖女こそは神の御業の器なり。ガラリア人(びと)がタラスクと呼びしジュレノの洞窟に住まう邪龍、その呪われし巨体を屠りしは、ただ人の身なるかのマルガレータ‥‥」
たった一本の槍を持ち、神の祝福の元に龍と対峙する聖マルガレータ。
その情景に思いを馳せていた頃から、君の行く道は既に決まっていた。
君が明日の第7教区の神跡調査の準備をしていると、部屋のドアをノックする者がいた。
君はまたかと思い、それを無視する。
気配が消えると、ドアの隙間に一枚の紙片が挟まっていた。
朱文字でこう書いてある。
『南ガリニアの"赤い空"は聖バルトロメイの神跡なり』
──くだらない。
聖バルトロメイは確か第4教区の聖人だ。
この紙はおおかた、あの太った枢機卿の部下が持ってきたものだろう。
偉大なる守護聖人たちの奇跡をそれをさも自分の手柄のように語るのは彼のお得意だが、まだ足りないというのだろうか。
次は聖ジョージか、聖パトリシアか‥‥
君は望みどおりこの仕事に就いた。
だがほどなくして、今日いわれる神の奇跡=神跡の幾つかが偽物であることを知ってしまった。
君の信じていたそれらは、法王庁にあってはただの政治の道具に過ぎなかったのだ。
それでも、君はこの仕事への情熱を失ったわけではない。
聖マルガレータは一本の槍で龍を屠った。
それはまぎれもない、神跡なのだ。
──また、誰か来た。
気にせず君は部屋の明かりを消し、書物に埋もれたベッドに潜り込む。
願わくば、明日は未知なる聖人の足跡に出会えるようにと願って‥‥
■解説:
法王庁管轄の機関「歴史編纂局」に所属する「神にまつわる奇跡(="神跡")」の記録を担当する研究者です。
具体的には、各地に点在する、神が顕したといわれる様々な奇跡、あるいは神に仕える人々の痕跡や伝承を調査発掘し、できるかぎり記録して「歴史編纂局」に持ち帰ることを任務としています。
そのため神跡記録官に任命される人物は古今東西のあらゆる知識に秀でており、知識階級としての社会的認知は錬金術師をも上回ります。
神跡記録官は、その記録官の位階以下の秘匿等級を持つあらゆる記録を閲覧する権限を法王庁から与えられています。
もし彼らの記録閲覧請求を拒否した者がいた場合、あらゆる手段を用いて強制的に閲覧することが認められています。
また、真に必要に迫った場合は、法王庁の承認の元でより上位の閲覧も認められています。
彼らは「ミーミルの指輪(仮)」という指輪の形をしたAFを携帯しています。
これは歴史編纂局内にある記録検索祝器「ミーミル」との通信を行い、「ミーミル」に蓄積されたあらゆる情報を瞬時に取り出すことができるものです(位階による閲覧制限は通常と同様です)。
いくら神跡記録官が知識のエリートといっても、彼らの知らない事象の数は遥かに膨大です。
ですから、こういった装備は彼らの命綱といってもかまいません。
彼らの属する歴史編纂局は、法王庁内で必ずしも高い位置にいるわけではありません。
必要な部署だという認識はありますが、実利という観点から言えば彼らが生み出しているものは少ないといえます。
しかし、実際には彼らが認定した神跡が法王庁のプロパガンダに都合よく利用されているという一面があり、彼らに対する各方面からの圧力は相当なものがあります。
もちろん、PCの神跡記録官もそれらの圧力と無縁というわけにはいかないでしょう。