「その男の特徴を、もう一度思い出して欲しい」
執務室替わりに使用している『北の教会』大聖堂の一室でルナン・クライトスは、任務から帰還したエムレ・ゼラードに対し、報告を聞き終わると逆に質問をした。
堅牢な樫枠製の窓から差し込む月光の青光と、質素な室内を暖める暖炉の赤い光で、ルナンの顔は、緊迫しているようにも、興奮しているようにも見えた。
いずれにせよ、報告を聞き終えて思考が導きだした過程を、精神が抑え切れずに緊張感が言葉にも顔つきにも現れているのだろう。
-それが、ルナン・クライトスの良い所だ、とエムレは思う。
かつては法王庁異端審問局の六課を束ね、現在は法王庁残党組織の中でも最大規模の『北の教会』の補佐的な立場であるが、およそ腹芸とは程遠い。
だが、その実直なな感情表現を、少なくてもエムレは好きだった。
ルナンがこのような表情をするということは、本当に重要視な事が絡んでいるのだろう。
だから、エムレは記憶の中で、できるだけ『男』の特徴を再現する。
「年齢は四十から四十半ば。
髪は茶色で短く整えているが、癖毛でモシャモシャしててた。
口髭と顎髭も手入れはされている感じだったな。
身長は高いほうだ。ルナン司祭よりも頭ひとつ分は高い。
痩せてはいたが、実践で絞った体つきだ。
それと、肩当てからハーフコートをかけていたが、両手の動きは邪魔されていなかった。
拳の握り形といい、騎士団関係者なんだと思うぜ。
」
「成る程。その男は『剣』を持っていなかったのだな?」
「ああ、夜営で雪狼に襲われた時も、洗礼者が率いた盗賊胎児に手を貸してくれた時も、素手で戦っていた。」
「・・・で、別れ際に名乗った訳だ。『エウゼリオ』と」
「どう思う?」
エムレを労い退室させた後、ルナンは椅子に座ったまま、執務室で一人語りかけた。
「否定する理由がない。本人だろう」
ルナンの背後の扉越しに、ライナス・バルグの声が答える。
「なぜ、今となって動き出す?」
「それを判断するには情報が少ない。だが、ベルザインに与した訳では無さそうだ。ベルザインが知ったら丁度いいオモチャ扱いされるだろうからな」
「では、先に接触を図るか?」
「その必要がなはい」
期待を込めたルナンの提案を、ライナスの冷たい声が否定する。
「本物のエウゼリオであれば、奴は我々法王庁とは決して組まない。・・・それに我々にとっても、奴は今でも異端者だ」
「だが、エウゼリオなら必ず所有しているはずだ。『時越え』の実施に必要な聖剣『インフェルノ・メーカー』を!」
「だろうな」
杖をつく足跡と供に、ライナスの声は扉から離れはじめていた。
「ライナス司祭!?」
「無論、諦めるつもりもない。・・・明日、新たな聖務を伝える。三人程、『使える』のを集めておいてくれ」