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マグノリア@Wiki

発動編:前編

最終更新:

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
発動篇①

「完全な奇襲、か。見事なものだ」

眼下に広がる光景に、サリエ・プシューケスは呟く。
吹き抜ける風が、身に纏った古の戦衣と長髪を乱す。

時間と距離。
戦場で、最も頭を悩ませるこの2つの問題を、北の教会は逆手に取った。
残存戦力の集中という、洗礼者にとって『北の教会壊滅の機会』を作り出す。
功に焦った『連結のゴイコエチェア』が単独で奇襲を仕掛け、その『空間結合』を逆に利用した。
残党軍が集結したクルア・セルラからこのロンバラディアまで、時間と距離を省略し、精鋭部隊が次々と『空間結合』を通じて開いた通路より乗り込んでくる。

『だが』
『所詮は奇襲に過ぎない』
ルンバルディアには、『チルドレン』子飼いの洗礼者達が数多く集結している。
純粋な戦力では、北の教会には圧倒的な差がある。
奇襲を受けた今だからこそ、混乱しているが、落ち着けば制圧は難しくはない。

『だからこそ、確認なんですぅ』
遠話機器を通し、甘えた声が耳にこびりつく。

『私達のルールに変更はないですよね』
ベルザインの子供たち(チルドレン)の間で交わされたルール。
ベルザインにより見留られた事だけが、共通項。
、元々横の繋がりなど皆無であったチルドレンが取り交わした数少ないルール。

「ああ、変更はない」
『安心しましたぁ』

通信が切れる。
確認と同時に通話先で行動に移ったのだろう。

「フッ」
サリエリも行動に移す一歩足を進め、塔の最上階より飛び降りた。
目指すは、敵の大将首。

ルールは至ってシンプルだ。

すなわち、『早い者勝ち』
56:拾郎:
2023/08/29 (Tue) 18:08:16
 
②『聖冠騎士団副団長ナーディア』

『転送酔い』は確かにあった。
‘死せる都クルア・セルラ’から‘聖都ロンバルディア’への空間転移。
経路(パス)の通過中は、上下が逆になり、左右が反転し、前に進みながら後ろに戻っている感覚だった。
だが、経路(パス)を抜け、聖ロンバルディアの地を踏んだマーディアの受けた衝撃は、全く別のものだ。

聖都ロンバルディアにそびえる、巨大なー『塔』-。
ベルザインが不時着させた巨大な‘箱舟’。
かつて、ロンバルディアを守護する‘聖冠騎士団’の副団長であったナーディアには、大聖堂に突き刺さった巨大な剣のように映った。
57:拾郎:
2023/08/31 (Thu) 19:35:14
 
②続き

夕刻に差し掛かり、太陽は西へと傾いている。
夕日に照らし出された『塔』から伸びた巨大な影が、ナーディアが中央広場だけではなく、ロンバルディア全体を覆っていた。

ナーディアを襲う小刻みな震えは、決して『転送酔い』だけが原因ではない。

『塔』を見るものに与える、―圧倒的な威圧感。
それは、かつて聖都を守護する聖冠騎士団副団長を務めたナーディアにとって、痛烈な痛みになって襲い掛かった。
聖都に突き刺さった大剣であり、墓標。

・・・だが。

「白銀の風よ!、西方へと進め!」
ナーディアは抜き放った剣を、‘カテリナ通り’と向ける。
直後に経路(パス)より飛び出してきた白銀騎士団は、ナーディアが指示した先へと馬を駆り、駆け抜ける。
馬蹄の音だけを中央広場に残し、17騎の騎士たちが‘カテリナ通り’へと駆けていく。

今回は、完全な‘奇襲’だ。
奇襲は相手が混乱しているうち、即ち速さが勝負。
‘聖冠騎士団’ほど、ロンバルディアの構造を知り尽くしている存在はいない。
‘白銀騎士団’は、古風とも言える伝統と鍛錬により極限まで研ぎ澄まされた馬術の騎士団だ。
「いざ、進まん!一番槍は戦の華ぞ!」
気力に満ちた白銀騎士団団長の勲(いさおし)が、聖都に響き渡る。
‘カテリナ通り’は、ロンバルディアで唯一の中央広場から大聖堂をつなぐ、『舗装されていない道』、すなわち『土の道』
‘白銀’騎士団の走力が最も生きる道だ。



『塔』から受ける威圧感。
聖都を守れなかった後悔。
今ののうのうと生きている屈辱。

それがどうした。

そんなものは、とうに乗り越えている。
埃にまみれ、泥をすすり、この場に立っている。
‘あの男’との決着をつけるには、前に進むしかなかった。
傷も痛みも受入れ、‘自分の役割’を果たし、前へと進む。
今のナーディアの役割は、最前線での陣頭指揮だ。
次々と、経路(パス)通過してくる仲間たちに、進軍先を指示する。


―‘決着’をつけるべく、あなたは必ずここに現れる
―待ってなさい、
―私は、必ずあなたの最後を見届ける
58:拾郎:
2023/09/02 (Sat) 09:23:44
 
③『鉄道騎士団』

人は年齢と共に変化する。
精神も、肉体も。
都市も経年と共に変化する
規模も、構造も、法律も。
そして、住民も。
皮膚が代謝するかの如く、古い住民が去り、新たな住民が住み着く。
結果、同じ都市でも年代により、その性格が異なる。

ロンバラディアはその意味では、特異な都市だ。
百年の間、信仰と秩序の象徴である聖都である事は変わらない。
『塔』がそびえる現在でも変わらない。
ただ、信仰と秩序の対象が変わっただけだ。
信仰の対象が、聖典から調停者ベルザインに。
秩序の内容が、調和から力に。

故に現在のロンバルディアの住民は、純粋な力を持つ者達だ。
『洗礼』により超常の力に目覚め、ベルザインを信仰する者達。
すなわち、洗礼者。
59:拾郎:
2023/09/04 (Mon) 18:26:18
 
③-1

・中央通りを鉄道騎士団の走行車両が駆け抜ける。
・いち早く反応した洗礼者達が襲撃をかけてくるが、速度と装甲で強引に突破。
・鉄道騎士団の任務は、三つ。その一つ一つが、後続する味方の進軍につながる。
「つまりは、‘定刻どおり’の運行管理は鉄道騎士団の本会である」

・中央通りを最速で駆け抜け、連結した砲台列車の射角の確保。列車砲の射撃により、『巨神の出撃口を破壊』
→懸念①、巨神に出撃されては、一層されてしまう。
鉄道騎士ジェームス「今度は、まあまあかな」→砲台の出来にまあまあ満足

・観測担当。「『塔」より、‘羽あり’が出撃確認!」
→懸念②、上空からの攻撃。
砲台列車の切り離し。対空装備に換装。
‘羽あり’を引き連れつつ、三つ目の任務にとりかかる。
60:拾郎:
2023/09/04 (Mon) 18:32:14
 
④ 『フランク・ラパード 対 ‘氷結’のメリサ・リトリーム』
 
「経路(パス)」を渡り、突如ロンバルディアへと現れた『北の教会』の残存部隊。
ある部隊は、機動力を生かし・
別の部隊は、隠密性を生かし、『塔』へと最短で進行する。

首都決戦、あるいは首都侵攻とも言えるこの状況に対し、ロンバルディアに居を構える洗礼者達はどうとらえるのか?
ある者は、上り詰めた地位が脅かされると恐怖し。
ある者は、調停者の居城が汚されたと憤慨した。
だが、‘氷結’のメルサ・リトリームは、ロンバルディアに鳴り響く警鐘を聞きながら、こう考えた。
―これは千歳一隅のチャンスだ、と。

メルサ・リトリームの能力は‘氷結’。
洗礼者としては、発現例も多い能力だが、能力の研磨により、様々な局面に合わせて使いこなす。
特に特化したのは、『都市での戦闘』
他の洗礼者を蹴落とし、彼女をこの地位まで持ち上げた必勝パターンだ。
62:拾郎:
2023/09/25 (Mon) 23:54:18
 
〜・〜・〜・〜

ロメロ・バステンは、半年前に異端審問官に昇進した際に、痛烈に自覚した事実がある。

『己は凡人である』と。

ルナン・クライトスから託された聖務を果たした時も。
師から引き継いだ『聖鉄盾』を発動させた時も。
初めての洗礼者を討伐した時も。
才能などという物は、自身に備わっていない事を痛感した。

自分は持ち合わせていない。
アンジェのような、天才的なAFを扱うセンスも。
レーベンのような積み重ねた経験も。
エムレのような覚悟と度胸も。
ただ、凡人の延長にある努力が、仲間と、師と、僅か幸運に恵まれてここまで来ただけだ。

『第三次大聖伐』

決して負けられない戦いの場所に。

ロメロの任務は、中央広場で指揮を執るナーディアの護衛。
聖鉄盾は、北の教会が所有するAFの中でも、最も防御に適した能力。
先代所有者であり、師であるラーガンは、空中要塞襲撃時に、軍馬20頭分の体重を誇る雪原の魔獣イエティの渾身の一撃を防ぎ切った。
凡人である自身がどこまで、その性能を引き出せるかは分からないが、『守る』事に専念するのであれば、やれる所まではやれる。
大聖伐に参加するにあたって、そう思ったのが、遠い昔の用に思える。

そして、今。
自身が凡人である事を痛感している。

確かに、性能鉄盾は、洗礼者達の放つ攻撃を防ぎ切る。
火も、水も。
風も、音も、影も。
手にした盾から展開された力場を貫く事はない。

たが、ロメロは程なく気がつく。
敵陣の中央での守備任務。
文字通り、全方位からの攻撃。
そして、この戦いには『終わりがない』。
このロンバルディアに住み着いた全ての洗礼者が、次から次へと襲い掛かり、その攻撃は激しさを増していく。
終わりがあるとすれば『全員倒すか』『自分が死ぬか』。
これが大聖伐。
これが運命の一戦。
その使命の重さに耐えられる精神を、凡人である自分は持ち合わせていない。

逃げたい。
降伏は出来るのか。
誰か助けてくれ。
いや、助けてくれなくてもいい。
せめて、教えてくれ。
焼かれて死ぬのと、貫かれて死ぬのでは、どちらが苦痛が少ないのか。

彷徨う視線の先に、一人の人物が写った。
護衛の対象、元聖カンムリ騎士団副長ナーディア。
白銀の鎧を身に纏い、径路(パス)から現れる友軍に、的確な指示を送る。
遠方より放たれた火炎弾が、その間際で炸裂するが、固く結んだ金髪がほどけても、その表情は微動だにしない。
いや、その凛々しい横顔が
僅かに、ロメロに振り向いた。

「感謝する」

今の炸裂弾は、聖鉄盾が防いだものではない。
だが、そな一言で、浮ついていたロメロの心は落ち着いた。

ロメロ・バステンは凡人である。 
だからこそ、単純な覚悟を決める事が出来た。

『この人は、俺が守る』と。
63:拾郎:
2023/09/26 (Tue) 17:59:51
 
〜・〜・〜・〜

品性は、下劣。
求めるものは酒と煙草、そして肉と女。

それが、メルサ・リトリームが評価するカルバハルの人間性だ。
自身の配下にして三年が経過するが、その評価は変わる事はない。
最も軽蔑している人間であるが、同時に最も重宝している人間でもある。
カルバハルの能力は‘氷嵐’
半径20~30メトル―を範囲とし、大小の氷のナイフを嵐として放出する。
氷雪系洗礼者としては珍しい能力ではないが、特筆すべきは、その持続力である。
‘脅威的なスタミナ’
‘氷嵐’を連続使用しても、息切れを起こさない。
例え、上位洗礼者でもスタミナにおいては、カルバハルには及ばない。

無尽蔵の‘氷嵐’によりバラまかれた、雪と氷。
メリサの‘氷結’は、その雪と氷を触媒として利用する。
氷の刃を、槍を、壁を、塹壕を、網を、そして顎を。
都市での戦闘に特化したのは、そのためだ。
対峙する相手を、氷を自在に結合させる事で出現する‘氷の地獄’に引き釣り込む。


例外はない。
例え相手が、‘生ける伝説’であろうとも。

「ようこそ、‘氷の地獄’へ、フランク・ラパード」
 
64:拾郎:
2023/09/26 (Tue) 18:25:38
 
「・・・いや、参ったよ」

溜息ともぼやきともとれる呟きが漏れる。
実際、フランク・ラパードは追い込まれていた。
吹き荒れる‘氷嵐’の範囲を脱出するために、ロンバルディアの凱旋通りを驚異的な速度で疾走していたが、
足元を凍結されられ、移動速度を殺された所で捕まった。
即座に周囲を囲むように出現した氷壁。
その頭上には、射出可能な氷槍が無数のつららとして、その先端をフランクに向ける。

「どうしました、フランク・ラパード?お得意の獣化はしないのかしら」

氷壁の先端に立ったメリサは、文字通り、氷漬けとなったフランクを見下ろすと、満足げな笑みを浮かべる。
勝利を前にしたいつもの光景。

「ここだけの話だけど、な」
 フランク・ラパードが顎鬚をについた霜を払うと、メリサを見上げる
「‘アレ’にはもう頼れない。地下尖塔でベルザインと対峙した時に無理したからな。・・・使えて後一回、それも俺の命と引き換えだ」
「お気の毒様。‘生ける伝説’も哀れなものね」

「それが、そうでもない」
「そうかしら、確か‘参った’と言っていたのではなくて?」
「そう、参った。・・・こんなにも予想通りの展開だとな」

不意に、‘氷嵐’が止まった。

「・・・どういう事?」
「あんたらの‘氷の地獄’は大層なものだが、本職を前には甘すぎる。
・・・いるんだよ。この環境での戦闘を最も得意とする主役がな」
遠くから響く、獣の息遣い。
「俺が移動したこの凱旋通りを、あんたらは見事に雪原と氷壁に変えてくれた。
これで中央広場の後方に‘壁’が出来た訳だ。
経路’パス’が閉じるまで、まだ時間があるからな。
ずいぶんと守りやすくなるだろうよ」
「・・・何を、言っている?」
「俺は、‘囮’だと言っている。主役を引き立てるためのな」
フランク・ラパードは、メリサの後方に視線を送る。
その先には、獰猛な息遣いと共に、二匹の獣が疾走していた。

獣は、熊羊という。
名のとおり巨大な体躯に豊かな体毛をまとわりつかせた、アスガルド北部にのみ生息する独特の生物である。
その小山ほどの背には、朴訥としているが緻密に組まれた鞍がしつらえてあり、その上に騎手がはりつくように手綱を繰っていた。
熊羊の全長は馬ほど、幅はその倍はある。
分厚い体毛に埋もれると、角度によっては乗り手がいるかどうかもわからなくなることすらある。
乗り手を選ぶ性質のあるこの従順かつ獰猛な生き物に認められるということは、それだけ善き戦士であるということの証でもある。
騎手たちが身に纏うのは、古の戦衣装。
ヤタカ草の実の汁で重ね染めすることで得られる鮮やかな紺の皮鎧を纏い、その中に熊羊の毛を詰め込んだ耐寒服を着込んでいる。
腰周りの皮袋から意匠を凝らした短剣の柄が出っ張り、がっちりと収められていた。
左腕に二つ折りの可動弓を取り付け、布で厳重に巻いてある。
背には開封した矢筒がくくりつけてあった。
如何なる理由か、少数にして孤高、いかなる文明との交わりを禁忌とする彼らが、『経路(パス)』を抜け、この決戦の地にやってきた。
氷上戦闘における不敗にして絶対の支配者である彼らの名は・・・

「‘北の穂先族’!」
 
-ひっ
獣の息遣いが迫る中、その事実を認識したメリサの喉の奥で、空気が漏れる
他の部族との生存領域を巡る争いの中で研磨されてきた戦闘民族でもある彼らに、雪上での戦闘で適う者はいない。
いかなる‘氷雪系’能力をも操ろうと、巧みであろうとも、熊羊と戦士の人獣一体の突進を防ぐことは事実上不可能である。

「‘囮’のこれにて退場だ。・・・主役が存分に活躍できる舞台を整えてくれた礼を残してな」
手にした槍で、足元の氷を砕きながら、フランク・ラパードは『礼』の言葉を贈る

「ようこそ、‘氷の地獄’へ」
65:拾郎:
2023/10/07 (Sat) 10:51:04
 
⑤-1 「‘光の聖女’」

・ロンバルディア郊外。
 ‘「北の教会」によるロンバルディア襲撃’を前に、多くの洗礼者は動揺していた。
 ‘上位洗礼者’には及ばない、ロンバルディアの中では‘一般市民’的な存在
 非常事態宣言を告げる警鐘が鳴り響く中、「参戦」か「様子見」か、洗礼者達が議論を交わすが、状況が掴めない中では結論が出ない。
 

・「北の教会=旧法王庁残党」を討伐する事は、調停者ベルザインによる新秩序では「是」とされてきた。
 多くの洗礼者達が、「旧法王庁関係者」を討つ事で地位を得てきた。
 「北の教会」指導者のライナス・バルグがベルザインにより倒された後では、辛うじて組織を維持しているものの、所詮は‘烏合の衆’。
 今回の襲撃も、‘最後の悪あがき’’‘せめてもの一矢’ではないか?

・「参戦するなら早い方がいい」に流れが傾きかけた中、‘光の聖女サーシャ’が登場。
 「人の役割はそれぞれある」と説き、‘奇跡’発動 →‘決して砕けぬ’と言われたロンバルディアを取り囲む外壁の一部が割れ、外部への脱出経路となる
 サーシャ「皆さんとは、また後でお会いしましょう。その時は、改めて力を貸して下さい」
 ‘一般市民’達は、納得し一時退避を始める
 


 
 
66:拾郎:
2023/10/07 (Sat) 11:41:01
 
⑤-2

・‘一般市民’達の退避を見送った‘サーシャ’の背後に、もう一人の‘サーシャ’が現れる。
 「面白いものを見せてもらいましたから・・・、‘お礼’をさせて下さい」
 ‘説得をしていたサーシャ’の姿がぼやけ、地味系の女性の姿が現れる。
  →‘仮面’の能力でサーシャに変身していた
  →正体は、「南の王国編・第二部」にてローフェルマウスの影武者を演じていた‘仮面’のマリーメイズ
  参照:https://w.atwiki.jp/filinion/pages/341.html

・「そんなに怯えないでください」
 緊張で全身を硬直させるマリーの前に、ゆっくりと歩を進めるサーシャ。
 「私は嬉しいんですよぉ。‘私が人気がある’という所を、客観的にみせて貰えましたから」
 「それと・・・」
 サーシャ、‘聖壁’を二重に展開。
 マリーの背後の家屋を‘聖壁’で挟み、‘押しつぶす’。
 潰される直前に、人影が飛び出す。
 「珍しい人を連れてきてくれましたから。・・・お会いするのは‘聖陵墓’以来で合ってますかね?」
 粉塵が舞う中、サーシャは現れた人影に懐かし気に声をかける。
「法王庁異端審問局、第三課課長・・・ロイドリッツさん」

・「久しぶりの再会を祝して、お茶でも奢りたいところだけど・・・」
 降りかかった埃を払いながら、マリーの前に出るロイドリッツ。
 「こんな日に限って、持ち合わせが無くてね」
 「またまたぁ。・・・相変わらず嘘つきですね、ロイドリッツさん」
 「そして、嘘をつくのが下手になりました」
  サーシャの笑顔が一層濃くなる。
 「もっているじゃないですか、‘お値打ちもの’を」
 「ちょっと、私にも見せてくださいよぉ」
 ロイドリッツ、一歩後退しつつ
 「君の俺との仲だ」
 「・・・少しなら、ね」

・ロイドリッツのAFは、最古のAFである『24AF』の一つ、‘戦神都市(バトルシティ)’
 地脈を操作に、地形を作り変える。
 ロンバルディア襲撃前、‘死せる都クルア・セルア’終結時にも防御用として使用。
 https://w.atwiki.jp/filinion/pages/377.html ←⑧-3参照

・サーシャの足元から、石畳が‘槍’に変化し、四方から伸びる。
 「前に使っていた‘天奏至紋符’の時は、言わなかったんですけどぉ」
 サーシャ、‘羽衣’を発動し、回避。
 「相変わらず、面倒くさい割には、微妙な効果’の扱いが好きですねぇ。・・・とは言うものの」
 ‘羽衣’の効果により、空中に舞う埃の上に立ち、静止。
 「‘大聖伐’発動による‘24AF’への影響は、私も興味あるんですよぉ」
 視線がロイドリッツの首元で淡い光を放つ‘異端審問印’に注がれる。
「こんな小技じゃなくて、もっと気前よく行きましょうよ」
「俺は嘘つきだけど、約束は守るんだ。・・・悪いけど」
サーシャとの間に巨大な‘壁’を出現させ、マリーを抱えて逃亡。
「今日は、先約がある」
67:拾郎:
2023/10/07 (Sat) 12:08:40
 
⑤-3

・「あらら、フラれちゃいましたねぇ」
 溜息をつくサーシャの背後から、‘銀の糸’が降り注ぐ
 「で、アナタがお相手してくれるんですか?」
 瞬時に‘聖壁’を展開させ、サーシャは振り返る。
 「ご不満ですか?」
  手甲から伸びた‘鋼糸’を張り巡らせ、ファースティーは微笑む。

・「ひどいですよ、ロイドリッツさん」
 小脇に抱えられたマリーが真剣に抗議する。
 「ファースティーさんを一人で残すなんて」

・「優しいんですね、ロイドリッツさん
 サーシャと対峙しながら、ファースティーは笑う。
 「僕を一人にしてくれるなんて」

・サーシャ「不満じゃないですよぉ、手間がかかるだけでぇ」
 「私たちのルールは‘早い者勝ち’なんですよぉ。私の第一希望はロイドリッツさんで変わらないです」
 サーシャ、空中より着地。
 同時に‘聖壁による挟撃’を発動。
「まあ、その手間も‘ひと手間だなんですけどね」

「知っていますか、法王庁の歴史の中で、第四課課長‘光の聖女’は私を含めて14人。
 私以外の13人は、長くて5年で退位しています」
「全員が‘ベスティアの紋章’に‘喰いつくされた’んですよぉ。私だけが‘ベスティア’を飼いならせた。
・・・だから私だけが‘本物の光の聖女’なんです。

そう言い残すと、ロイドリッツを追撃するため、‘羽衣’を発動。
跳躍するための、一歩を踏み出し、・・・その足首が落ちた。

切り落としたのは、石畳の隙間に予め仕込まれて‘鋼糸’
円環上に配置された中心を踏み抜いたサーシャの足首に絡みつく。
極細の‘鋼糸’は鋭利な刃物より切れ味は鋭く、瞬時にサーシャの足首を切り落とした。

「僕も一つ教えてあげるよ」
両手首に幾重にも巻き付いた‘鋼糸’は、手甲と一体化し、指先一つの動きと連動し、ファースティーの意志に従う生き物のごとく自在に動く
左右の建造物の間にに無数に張り巡らせた‘鋼糸’は、ファースティーのみに使用可能な足場として、迫りくる『‘聖壁’の挟撃』からの脱出を可能とした。
「『天国への扉』は‘黄昏の時代’より続く『由緒正しい』暗殺組織なんだよ。
 その3百年以上続く歴史の中で、『最高の暗殺者』に与えられる『死神』の称号を継いだものは、歴代で4人」
異様な光景だ。
‘羽衣’の奇跡により、自在に空中を舞う‘聖人’であるサーシャが地を這い、
鍛えられた肉体のみの‘常人’であるファースティーがそれを見下ろしている。
「その上で改めて、自己紹介をしようか。
 僕はファースティー
 ‘銀の雨’のファースティー。
 ・・・史上5人目の‘死神’だ」

「じゃあ、アナタも私と同じ理由かもしれないですね。・・・ここにいる理由が」
『横たわったまま無造作に靴を履く』ように、サーシャは切断された足を横たわる足首に向けて何度か伸ばす。
「さあ、どうかな?・・・多分違うと思うけど」
「そんなぁ、謙遜しなくてもいいんですよぉ」
幾度かは空振りだったが、切断面同士が僅かに接触すると瞬時に足首は接続した。
直後、ふわり、と体重を感じさせない優雅な動きで立ち上がる。
「頂点に立つ者だけが行使できる特権」
「つまりは?」
「‘おいしいモノは独り占め’」
屈託のない笑みで答えるサーシャに対し、ファースティーも微笑みを浮かべて返す
 
「一緒にするなよ、寄生虫」
「あははっ、冷たいじゃないですか、ゴミ虫さん」
 
ファースティーは両手を左右に広げる。
十本の指先から伸びた‘鋼糸’が、沈みかけた陽光を跳ね返し、‘銀の雨’となってサーシャへと降り注ぐ。
‘鋼糸’が全身に接触する直前、サーシャは哄笑とともに、‘奇跡’を展開させた。
 
68:拾郎:
2023/10/09 (Mon) 19:05:20
 
⑥‐1『竜害』

・対空戦。上空からの攻撃に対して、北の教会側が、どうやって攻略するか、のシーン。

・「羽つき」に対して:有翼の亜人の群れによる上空からの攻撃
→対策①:鉄道騎士団による対空砲を積んだ迎撃列車
→対策②:ガゼル銃装隊によるスナイパーライフルによる射撃。

・「魔蟲(バグ)」の群れに対して:4枚羽を回転させて飛行する、複眼の甲虫。人の体温を認識し、ホバリングと不規則飛行により追跡し、複数の針射出により仕留める。いわゆるドローン。

→導師キスリングの錬金術。
→錬金術:低温により、体温を感知させない。対象を認識出来ない魔蟲に対し、錬金術:加熱を発動。「体温」を誤認した魔蟲が一箇所に集まる。
→水を鉄粉をぶち撒けた上で、錬金術:雷撃により、一網打尽。

・「羽つき」にしろ「魔蟲」にしろ、事前に情報を入手していなければ、ここまでの対策は取れなかった。
(スナイパーライフルの準備、錬成陣の作成)
→「彼の手記の通りね。」
安堵の吐息を洩らすキスリング。
その手には内通者からの手記が握られている
→内通者とは誰なのか、という引き。
69:拾郎:
2023/10/12 (Thu) 18:28:47
 
⑥-2

『塔』の先端より、一体の‘竜’が飛び立った。


‘竜’。
戦乱の時代であった‘黄昏の時代’において、そのヒエラルキーの最上位に位置する存在。
圧倒的な戦闘力にて、敵軍を蹴散らし、敵陣を陥落させる。
比類なき硬度を誇る‘竜鱗’。
城壁をも打ち砕く‘竜爪’
広範囲、長距離射撃壁である‘竜息’
下位種ですら、その体長は人馬の3倍以上に匹敵する5~6メトル―。
上位種であれば、15メトルークラスの巨躯を誇る個体すら存在した。

法王庁の成立以来、‘竜’は異端審問官にとって最悪の脅威であり、
異端者にとっては最高の存在であり続けた。
旧時代より、その存在自体が不可侵。
新時代でも、‘個’で立ち向かう事は不可能。
立ち向かう事が出来たとすれば、それは‘英雄’、あるいは‘伝説’として語り継がれた。


『塔』より、飛び立った‘竜’は、そのイメージとは大きく離れていた。
体長は3メトル―にも満たず、無敵の鎧である‘竜鱗’ではなく、長い体毛で全身を覆ている。
灰褐色の毛並みは、ロンバルディアを照らす夕日を浴びても、輝く事はない。
単調な翼の羽ばたきに合わせ、聖都上空の風にあおられ揺れている。
手脚は細く、体重を支えるのが限度。
明らかに接近戦には向いていない。

他の‘竜’と比較するまでもなく、小柄で、貧弱な個体。

だが、このロンバルディアでベルザインだけが知っている。
この貧相な‘竜’が、‘黄昏の時代’において、ヨルツヘルム王国を滅亡寸前まで追い込んだ事を。

ベルザインだけが知っている。
‘技術のタブー’を嫌う彼が、‘例外とし、封印した3つの禁忌’のうちの一つである事を。

ベルザインだけが知っている。
この‘竜’一体で、聖都に奇襲をかけた『北の教会』のみならず、敵味方全てを抹消できる存在である事を。

ベルザインだけが知っている。
その‘竜’はかつて『竜害‘ドラゴン・ハザード’』と呼ばれていた事を。
 
70:拾郎:
2023/10/15 (Sun) 17:31:17
 
⑥-3

・『竜害』に気づいた者から倒されていくシーン
・『竜害』による異変(特殊能力)は二点
 ⇒「攻撃をしかけると自分に跳ね返る」
 ⇒「音」が奪われる
  ※奪われる範囲が次第に拡大する。


・弓手リーベン。
‘聖石’により能力強化された感覚により、上空の『竜害』を捉える。
 通常の弓、銃では射程外だが、聖石の力で弓で射る。
 →自分が吹き飛ぶ。

・リーベンの異変に気付いたガゼル銃装隊。
 スナイパーライフルにより『竜害』を射撃 →隊全員が吹き飛ぶ

・ジョジョでよくある『効果・結果から能力を推測するシーン』
71:拾郎:
2023/10/18 (Wed) 17:41:28
 
⑥-4

~◇~◇~◇~


理解している事は一つ。
―歩みを止めてはいけない。

‘法王庁崩壊‘以降、アスガルド半島に吹き荒れた洗礼者による『法王庁残党狩り』。
旧法王庁関係者は、半島各地に四散し、「北の教会」「西の岩壁」「南の王国」等の各地の抵抗組織に合流したが、一部は洗礼者の前に降伏し、投降した。
投降者の一部は、その技術・知識をロンバルディアの管理の為に使う事を余儀なくされた。
洗礼者の‘邪視’により、強力な精神束縛を受けた上で。
男は、投降者であり、敗北者だった。
法王庁時代、苦楽を共有した仲間たちは、最後まで抵抗し、殺された。
‘凡庸’である事を自覚している男は、‘敗北者’となる事に活路を見出す。
ロンバルディア内部に入り込み、屈辱と侮蔑にまみれながらも、知りうるあらゆる情報を「北の教会」へ密かに提供する。
いつの日か、かつての仲間たちが立ち上がる時のため、自分は‘敗北者’であり続ける。その日まで決して諦めない。

-異端審問官だから諦めないのではない
かつての仲間が言った。
-諦めない者だけが異端審問官になるのだ。
72:拾郎:
2023/10/22 (Sun) 13:27:46
 
⑥-5

自身に掛けられた『精神束縛』は、単純にして巧妙なものだった。
肉体を束縛するものでも、苦痛を与えるものでもない。
ただ、『反逆』となる行動をとった際に幻覚を見せる。
男の精神に帰属する、本能的な安らぎと懐古に基づく幻覚だ。
幻覚に屈せば、結果は自身の死、あるいは『反逆』内容の露呈。
今日に至るまで、自身の知りうるロンバルディアの情報を『廃棄』してきた。
自身に課せられた正当な統制行為だ。
『反逆』には当たらない。
例え、『廃棄』した情報が、廃棄先で誰が入手し、どの様に活用されようとも。

だが、今の自身の行動は、明確な『反逆』行為に当たる。
放たれた『竜害(ドラゴン・ハザード)』の弱点を、「北の教会」に伝えようとしてる。
そのために『塔』より抜け出し、「北の教会」に合流すべく走っている。
だから、幻覚が現れる。

『よう、‘新入り’。ちょっと付き合えよ。どうせ暇なんだろ?』
男を呼び止めたのは、野太い声。
振り向くと巨漢が立っていた。
全身についた脂肪と、その脂肪を上回る筋肉が、袖を破いた異端審問服を内側から押し上げる
酒やけした赤ら顔の上に無数の傷だが、親しげに話しかける際に浮かんでいる笑顔は、案外人懐っこい。

『見て分からないか?‘新入り君’は、大事なお仕事中だ』
巨漢の後方から、長身の男が現れる。
巨漢とは対照的な、痩躯。
細く鋭い目つきの下半分を、黒い布面で覆ている。
街の誘拐犯か強盗犯といった悪相であるが、全身を捉えると不思議な‘品’がある。
黒一色の異端審問服を、この男が纏う‘品’は、役者の舞台衣装のように映えさせる。

『なら、暇ってことじゃねえか』
『‘新入り君’に対して失礼だよ。彼は‘真面目に仕事をこなさないといけない程、要領が悪い’だけさ』
『・・・お前の方が、失礼だろ』
 掛け合いの様な、懐かしい会話。
 二人が近づくにつれ、風景も変わる。
 山積みにされた木箱からあふれる書類。壁一面に掛けられた大小さまざまな武器。
 ‘山賊のアジト’と揶揄された、かつての執務室。

『こいよ、‘新入り’。俺はお前みたく頭は良くねえが・・・‘仕事のサボり方’なら教えてやれるぜ』
『やめとけ。逆効果だ。・・・私なら‘効率の良い仕事の進め方’を教えるが?』
『同じ事じゃねえかよ!』
 膝が、震える。
 懐かしい、会話。
 粗雑で不躾、だが暖かく、確かな絆があった懐かしい日々。
『・・・ついて来いよ』
 二人が手を伸ばす。
 膝の震えが、全身に広がる。
 延ばされた手に向かい、自身も手を伸ばし。

 袖口から出したナイフで切りつけた。

 対象も見ず、滅茶苦茶に振るう。
-これは、幻覚だ。
-皆、‘残党狩り’で最後まで抵抗し、死んでしまった。
-生き残ったのは、‘敗北者’である自分だけだ。


 
 
73:拾郎:
2023/10/22 (Sun) 14:08:57
 
⑥-6

気が付けば‘巨漢’と‘痩躯’の姿は消え、ナイフを握りしめながら、路上の石畳の上に四つ這いになり、荒い息を吐いていた。
あのまま、二人について行けば、元の‘塔’へ戻るか、あるいは「北の教会」に致命的な被害を及ぼしていたか。

-確かに貴方は強くないわ
 かつて‘邪視’により、‘精神の相’を除き込んだ洗礼者は言った。
-だけど、恐ろしく頑固。あるいは知識による正解を求めている。
-正解に辿りつけなければ、決して後退しない。
-どんな苦痛や屈辱を受けようともね。
 ベルザインの高弟、‘十人の子供たち(テン・チルドレン)’の一人、‘邪視’のエルロイドは、微笑みながら言った。
-だから、貴方への‘精神拘束’は、苦痛や恐怖でな意味がないわ。
-貴方は、決して屈服しない
 白い繊手が、頬に伸びる。

-貴方への‘精神拘束’は・・・

『あの、・・・大丈夫ですか?』
 石畳から動けない男に声が掛けられた。
『大丈夫ですか?立てますか?』

 相手は、30代過ぎの平凡な姿の婦人。
 背中には幼子を結紐で背負っている。
 一見して、ロンバルディアに住む、非洗礼者。
 だが、油断は出来ない。
 幻覚かもしれないし、洗礼者であるかもしれない。
 差し伸べられた手は握らず、自力で立ち上がる。
 立ち上がりつつ、相手を観察する。
 立ち振る舞いには、完全な素人だ。
 武装の気配もない。
 表情は無警戒そのもので、あくまで路上に蹲っていた自分を心配している表情が浮かんでいる。
 年相応の小皺。
 解れた髪。
 首元の黒子。

-まて
 思考が止まる。
-まて、この人は

『本当に無理はしないでね』

-俺の、・・・母さん
-そんなはずはない
-母さんは、肺の病で死んだ
-俺が七歳の時、病に罹った俺を看病し、逆に母さんが病に罹って死んだんだ。
-これは幻覚だ。
 すぐに、ナイフを握り締め、手がとまる。
-母さんは、こんなに小さかったのか
-背中の背負っているのは、幼い日の俺なのか!?
-あんなに安心した顔で眠っているのは、俺なのか!?

『あの、顔色が優れないわよ。家で少し休んでいくといいわ。すぐそこだから』
 景色が変わる。
 幼き日を過ごした、懐かしい故郷。
 細い路地。
 明かりがともる長屋。
 どこからか夕食の匂い。

-幻覚だ。
-ナイフを動かせ。
-あの二人と同じだ。
-対象を‘殺せば’、幻覚は消える。

-だが、
-殺せというのか
-俺に、この人を
-俺の、母さんを!

「ああああ!!」

喉が避ける程の叫び声をあげ、ナイフを振り下ろした。
自身の太腿に向かって。
何度も。
痛みを。
何度も。
与え続ける。

幻覚が消える頃には、痛みと出血で意識が朦朧としていた。
左右の脚の感覚はない。
だが進まなくては行けない。
かつての仲間たちが立ち上がる時のため、自分は‘敗北者’であり続けた。
つまろは、‘今日’の日のために、自分は生き続けた。
『竜害’ドラゴン・ハザード』の弱点を、「北の教会」へ伝えるのが、最後の使命だ。

-歩みを止めてないけない。


 
74:拾郎:
2023/10/22 (Sun) 15:48:40
 
⑥-7

-貴方は苦痛や屈辱では屈しない。
 かつて、‘邪視’のエルロイドは言った。

-だから貴方には、‘憧憬’を見せる。
-貴方の魂が求める、穏やかで安らげる場所。
-その光景に足を止めれば、貴方の目的と望みはかなう事はない。
-だけど悪くはないでしょう?
-貴方の‘終わり’は、貴方が‘心から求めた場所’なんですもの。

前に進もうとして、足が動かず石畳の上に倒れた。
だが、進まなくてはいけない。
爪を石畳の減りに立て、重くなった体を這わせる。
『竜害(ドラゴン・ハザード)』の能力範囲は拡大を続けている。
間もなく、ロンバルディア全域から『音が奪われる』だろう。
そうなれば、「北の教会」に勝ち目はない。
いや、敵も味方も、全てが死滅する。
-だから

-歩みを止めてはならない。

「面白そうな事やっているじゃない」
 小柄な人影が目の前に立っていた。
 派手な襟飾りが着けられた尼僧服。
 頭巾は用いず、伸ばした髪は安物のアクセサリーで無造作に後頭部で纏めている。

「あ、あ、」
 顔を上げながら、声にならない事が漏れる。
-死んだはずでは?

「色々あって、ここに居るわけよ」
 言葉にならない万感の思いを、その一言で済ませた。

「それにしても」
 脇を掴み、無造作に立たせる。
 ケガへの配慮も、感慨の一欠けらもない、無遠慮で自然な仕草。
 幻覚を警戒し、身構える余地もなかった。
「情けない顔ね。・・・マナーとして笑うのは我慢してあげるけど」
-いや、笑っている。
-隠そうともしていない。

-だが、間違いない。
 安息とは無縁。
 常に危険と理不尽に振り回されてきた。
-だが、間違いない
 野性味あふれる獣の感性と、危険な香りを求め続ける戦士の闘争本能。
 ‘戦闘’に特化した法王庁異端審問局十一課。
 クセ者揃いの十一課審問官を束ねる歴代初の女性課長である‘紅蓮腕’。
-間違いない
 懐から‘鍵’を取り出す。
 『竜害’(ドラゴン・ハザード)』を攻略する為の、唯一の‘鍵’。


「あ、あ・・」
-後は、頼みます
「フェ、ルメ・・・」

「何言ってんのよ」
 崩れ落ちる男の体を、細見の体が抱え上げる。
「アンタも行くのよ。・・・舐められたら、百倍にして舐め返す。私達、十一課がね」
 男が意識を失う前に見たのは、獲物を前にした、肉食獣の笑みだった。

「私とアンタで舐め返す。‘洗礼者’も、‘竜なんとか’も、‘ベルザイン’も。
 いいわね?・・・クェイル・バーネット」
 
⑥-8

~ ◇ ~ ◇ ~ ◇ ~ 

その『竜』は、『音』を喰べた。

『竜』の周囲200メルテでは、あらゆる『音』が『竜』に喰われた。
家屋の崩壊音も、銃声も、剣劇も、喚声も、悲鳴も。
全ての『音』は『竜』に喰われ、完全な静寂の中、「北の教会」は混乱の極みに陥った。

『竜』の全身を覆う灰褐色の体毛。
その一本一本の表面には、微細な『孔』が開いている。
あらゆる『音』は体毛の『孔』を通り、体毛奥部の粘性気泡にて摩擦振動を熱エネルギーへと変換される。
熱エネルギーは、『竜』の活動エネルギーであると同時に、体内中枢の収束基幹へと送られ、反射・増幅を繰り返しながらも蓄積。
『竜』の口膣より、熱線として放出される。
熱線に破壊された対象が発生する『音』を喰い、『竜』の活動は更に活性化する。
結果、建造物が立ち並び、人口が密集している都市部では、一度活動を始めると、全てを破壊するまで止まる事はない。

「北の教会」の奇襲部隊を率いていたルナン・クライトスは、部隊を一時後退させる。
『音を喰う竜』
『竜への攻撃は吸収され、熱線として跳ね返る』
その二点に気づいたのは、『竜』を攻撃した射撃部隊及び、奇襲部隊の先鋒が壊滅した後、後手に回った指示だ。
伝令も、警鐘も『喰われる』ため、身振り手振りでの必死の撤退指示。
攻撃するにも、攻撃時の『音』と攻撃そのものの『音』に『喰われ』、熱線による照射を受ける。
突破しようにも、足音を『喰われ』、やはり熱線を浴びる。
-打つ手はない。
自身への攻撃が引くと、『竜』が路上に舞い降りる。
『塔』と中央広場を結ぶ直線の中間部。
中央広場の『経路(パス)』より、最終部隊は到着していない。
自身の舞台がここで躊躇すれば、奇襲行動全てに蓋をする事になる。
『竜』がこれ以上全身すれば、中央広場の『経路<パス>』そのものを潰される。
-打つ手はない。
-だが、考えろ
ルナン・クライトスは思案する
-これ以上、時間は無駄に出来ない
-『アレ』を使うか?
-迷うな
-使うなら今だ

一瞬の躊躇の後、ルナン・クライトスは『竜』の全面に一歩踏み出し、
そして、『その女』と目が合った。

『竜』の後方。
破壊を免れた商工会議所の屋根に上に立っていた。
ルナンの視線に気づくと、笑みを浮かべていた口角が動いた。
-野暮はやめてよ
続く言葉は、『私の獲物なんだから』、か。
浮かべた笑みは獲物を前にした肉食獣の笑み。
同時に、野生に身を置く気品漂う笑み。

間違いない。
ルナン・クライトスは理解する。
見間違えるはずはない。
法王庁崩壊のあの日以来。
十一課壊滅の報を受けて以来。
消息を絶っていた彼女だ。
かつての異端審問局十一課課長。
戦闘特化した審問官を束ねる、‘紅蓮腕。

風により『音』が生まれるのを警戒してか、長く伸ばした髪は後頭部でまとめ、尼僧服の袖と裾は引きちぎっていた。
その剥き出しの白い右肩には、刺青が刻まれていた。
『翼だけ色の無い鴉』の入れ墨が。

無造作に屋根から飛び降りると、石畳の路上に音もなく着地。
『音が喰われる』状況なので、音がしないのは当たり前だが、『竜』が反応しない。
瓦解する周囲の建物の『音』に合わせ、首を左右に揺らしている
『竜』の能力ではない。
実際に『音を絶たずに』着地をしたのだ。
直後に路上を全力疾走。
完全な無音疾走なのか、やはり『竜』は反応しない。
瞬時に『竜』との距離を詰める‘紅蓮腕’の右肩に刻まれた『翼だけ色の無い鴉』の刺青が、疾走に合わせ羽ばたくように揺れる。

-噂は聞いたことがある
ルナン・クライトスは戦況を見守りながら思い出す。
-受けた依頼は必ず執行する、『銀翼の黒鴉(シルヴァーレイヴン)』と呼ばれた暗殺者
-黒い該当に身を包み、‘音もなく’仕事を完遂してきたが、ある日忽然と姿を消し
-新たな洗礼名を受け、法王庁の異端審問官になった、という噂を
『銀翼の黒鴉(シルヴァーレイヴン)』の規格外の身体能力と暗殺技術であれば、跳躍も疾走も音を立てずに行う事も可能だろう。
だが『竜』への攻撃はどうする?
いかなる攻撃でも『竜』の体毛と接触した瞬間に衝撃と『音』は生じる。
即座に熱エネルギーに変換され放たれる熱線は、至近距離では躱しようがない。
-どうする、‘紅蓮腕’?
―どうする、『銀翼の黒鴉』?

『竜』の後方から跳躍した右手には、鎖の巻かれた黒革の手袋が嵌められている。
手袋の表面が淡く発光すると、『竜』との接触の瞬間、その体内に潜りこむ。

-『シャランサの右手』
ルナン・クライトスは喉の奥で呻いた。
-かつて、‘ライナス・バルグの犬’と呼ばれた異端審問官ジャンルイジが使用していた、『物質透過』能力を持つAF!

『物質透過』を纏ったに手刀は、体毛に触れることなく、『竜』の体内にめり込んだ。
76:拾郎:
2023/10/27 (Fri) 19:27:37
 
⑥-8 つづき

『音』が戻っている。

ルナン・クライトスが、その事実に気づいた直後、『竜』の首が路上に落ちた。
重量感のある『音』が改めて、『竜』の撃破を実感させられる。

放たれた手刀は『物質透過』により、体毛に触れることなく『竜』を惨殺した。

‘竜殺し’の英雄は、自身が屠った『竜』の背の上で、全身に返り血を浴びていた。
肩まで剥き出しの白い腕は、自身が異端審問局十一課課長‘紅蓮腕’である事を証明するかの如く、赤く、赤く染まっている。
同時にその肩に刻まれた『翼だけ色の無い鴉』の刺青は、自身が伝説の暗殺者『銀翼の黒鴉(シルヴァーレイヴン)』である事を声高に主張している。
いずれにせよ。

「死んだとは思っていなかったが・・・」
ルナン・クライトスは、‘声’の発生を確認するように問いかける。
法王庁崩壊以降、何をしていたのかは、知らない。
ここに来るまで、如何なる理由があったのかは、知らない。
「・・・籠から飛び立った鴉は、戻る事はないと思っていた」

「フツーはそうよね。
 窮屈な籠より、野良暮らしの方が気ままでいいし。
 ・・・私もそう思っていたけれど」
返り血で染まった顔の中心で、白い歯が覗く。
笑ったらしい。
「部下が残っていたって、知っちゃったのよね。
・・・要領が悪くて、クソ真面目で、投げ出す事も、逃げる事もしない、出来の悪い部下がね。」

-私が戻ってくるのを待っていた。

「部下がいるなら、私は‘課長’でしょ?
 悪名高いならず者集団の」
 自身で語りながら、こらえ切れず、喉の奥で笑う。
 不思議な高揚感だ。
 強敵を前にした高ぶりとも異なる高鳴り。
 一言で言えば、‘誇らしい’
 法王庁崩壊以来、自身がこの名前を名乗る事はなかった。
 だが、再び名乗るこの瞬間が、‘誇らしい’
 
 
 ルナン・クライトスも笑う。
 ‘第三次大聖伐’が発動して以来、久しぶりに笑った。
 いや、それより前も笑った記憶はない。
 笑うのはいつ以来だろう。
 返り血を拭うと、白い腕が胸元から取り出した‘銀の聖印’を見ると、笑わずにいられない。
 決して枯れない‘泰山木の花’が刻まれた聖印。
 最強の鴉が、捨てることもできたであろう『異端審問印(マグノリア)』を、この日まで持ち続けた事を思うと、笑わずにはいられない。

 ここにいるのは、伝説の暗殺者『銀翼の黒鴉(シルヴァーレイヴン)』ミサエラ・シュトラールではない。
 ここにいるのは・・・
 私の名前は・・・

「・・・法王庁異端審問局十一課課長フェルメノ・キルス」
 

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