工房の主人は自身とキルシェの間にある刃傷だらけの机の上に、二丁の銃を並べた。
彼は机に息の届く距離まで不自然な姿勢で上半身を近づけ、机のきわからの目線でこの銃を視界に収めながら、机の向こうにそびえる彼の依頼者を見上げる。それだけの仕草なのだが、饐えた口臭がこちらに漂ってくるような気がした。
主人が口を開いた。
「君から向かって右の自動拳銃型AFがクルセイダーⅠ。左の動輪式拳銃型AFがクルセイダーⅡ。
正直に言ってワシにとっては凡作だが…君にはこれが扱える精々だろうからな」
「…」
彼は机に息の届く距離まで不自然な姿勢で上半身を近づけ、机のきわからの目線でこの銃を視界に収めながら、机の向こうにそびえる彼の依頼者を見上げる。それだけの仕草なのだが、饐えた口臭がこちらに漂ってくるような気がした。
主人が口を開いた。
「君から向かって右の自動拳銃型AFがクルセイダーⅠ。左の動輪式拳銃型AFがクルセイダーⅡ。
正直に言ってワシにとっては凡作だが…君にはこれが扱える精々だろうからな」
「…」
- 234: 鉛:2016/03/02 00:09 No.576
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「なにせ君は拳銃使いにしては筋力がなさ過ぎる。もちろん女子供にも大の男が倒せるのが銃の偉大さだと、今更なことは言うまいと思うが…。現実的には、倒したい対象に合わせて銃は高威力化し、つまり多くの場合それは重量と反動を増す。ましてや拳銃使いと自らを名乗る者が、銃を使って異端の魔獣や武装した洗礼者を倒そうというのだから、依頼を受けた工房としては女子供は脇に置き、それなりの物を用意してやらねばならん…そういった葛藤の果ての産物だ。まあ葛藤自体は5秒ほどだったがな。短く済んで助かったよ」
主人が息継ぎもなく一気に話し切ったのを、キルシェは冷ややかに見つめていた。
「鍛え直して、それらしくなったつもりだったんだがな」
苦笑いで見下ろされても、主人はまるで気にしていない様子だった。
「ならば、体質なのだろうな。時代が時代なら、書生にでもなっていたのではないかね?」
「…」 - 235: 鉛:2016/03/02 00:10 No.577
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「ともあれ、ようやく農夫よりはマシという程度のたんぱく質の繊維の束を手に入れて、もの乞いから奪ったがごときボロを纏い、どこの馬のものとも知れない鍛冶屋の作った武器で、恐ろしい洗礼者と単身殺りあおうというのだから」
「…」
「君は最高だ。キルシェ君。狂っている」
おしゃべりは終わったかな。キルシェは武器の礼に対価を差し出そうとしたが、「まだ早い」と男が穏やかに制止した。
「さて、本編だ」
ここからかよ、と思わず声が出そうになる。
「こんな時代にわざわざ狂った男にあつらえた武器であるからには、性能も使い方も狂っておるべきであろうところ。
しかし残念ながらこの銃の使い方は至って単純。専用の弾を込めて銃を構え、安全装置を外したならば、よく狙いを定めて引き金を引くこと。
性能の方はどうか。クルセイダーⅠは弾丸と所有者を精神感応で結ぶ。放たれた弾丸は敵と定めた対象を貫き、敵以外の場所に到達した場合『絶対に』跳弾する。反射角度はわずかだが所有者の意思を繁栄させらえるかもしれん。まあ実証しておらん。威力を減衰させながら跳弾は繰り返される。もちろんその間にも第二射以降も可能だ。弾丸の跳弾込みの述べ飛行距離はまあ、1.2㎞程度だ」
周囲の地形をうまく利用すれば、延々鏖殺のために周囲を飛び回る弾丸の出来上がりか。
「クルセイダーⅡの弾丸は銃身から放射される不可視の視線にそってどこまでも直進する。こいつに貫けぬものは、対洗礼者程度ならばほとんどなかろうな。なにせこいつは、弾丸一発一発が、お前たちが昔使った三式グングニルと同等の性能を持っているのだ」
前例はなくはない。すでにグングニルは法王庁の設立から間もなく量産されるようになり、個人に携帯可能なレベルに縮小され、必要に応じて兵器形態に展開変形する技術が確立されていた。
しかしこれを射出しようとするなら、グングニルの威力は既存の武器素材、構造の耐久力を軽々と上回り、銃身と銃弾の精度と強度を限界まで極めてなお、使い手の腕ごと破壊してしまうだろう。だから原理そのものに干渉する錬金術で作られた構造体のみがこの神の槍の力を押さえつけられるとされていたのだ。 - 236: 鉛:2016/03/02 00:12 No.578
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それにしても、こんな無名の工房に、独自にグングニル級の兵器開発技術が眠っていたとは。
いや、言うだけはただだが。
「証拠もある。お前が今来た街道の左側に抉れた山があったろう。あれは俺が試射でやったものだ。驚いたか?」
「…あれか」
言うだけは…ただだ…
「念のために言っておくが、こんなものはワシにとって朝飯前だぞ」
もっとすごいものが、この工房には山ほど眠っておる。と男は小声で付け足した。
そして机の上の自作武器に顔を近づけたまま、目だけをこちらに向けて言った。
「お前たちの、法王庁の敗因はただ一つだよ」
ワシを頼らなかったことだ。ミッシロ工房のプロデューンをな」