ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

FO(U)R(Ⅰ)

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FO(U)R(Ⅰ) ◆LxH6hCs9JU



「ドォクタァァァァ――――ッ! ウェェェェェェストッッ!!」

 静寂と緊張で形成されていた場に、騒音にも似た叫び声が上がる。
 因縁の相手に向いていた視線は、その一瞬の一言で誘導された。
 合わせて十六人分の視線、それが一身に注がれる。

 眠りから覚めた白衣のキ○ガイ――天才科学者ドクター・ウェストに。

「長い長い沈黙を経て、帰ってきたよおっかさん。前回出番が控えめだっただけに、今宵は我輩オン・ステージ!
 愛用のギターが手元にないのは些か不満であるが、ギャラリーがこれだけ集っているならプラマイゼロであ~る。
 者共注目! 我輩こそが大! 天! 才! ドォクタァァ――ッ! ウェェェストッ!! 様であるぞッ!」

 直前の空気をぶち壊しにする破壊的な名乗りに、返ってくる反応はといえば、唖然、呆然、悄然と様々。
 彼の奇行に慣れ親しんだ者は辟易し、彼を知らない者はその怒涛のテンションに置いてけぼりをくらう。
 場がウェストに支配されつつある中、彼と最も縁の深い男が、突っかかるようにして声を荒げた。

「やいウェスト! おまえ、いったいここでなにして――」
「黙らんか! 我が宿敵、大十字九郎君!」
「大十字九郎……君付け!?」

 久しぶりの再会を果たした大十字九郎の言を、ウェストは一蹴する。
 その耳にはノンケーブルのイヤホンが装着されており、足元ではダンセイニが誇らしげにウェストの姿を見上げていた。

「突然の再会、唐突なる因縁の予感に、皆さぞ困惑していることであろう! しかし、事を荒立てるは今にあらず!
 第五回放送時点での生存者が十六名であったことを鑑みれば、ここに集っている人数の意味もおのずとわかろうもの。
 そう、いま論じ確認するべきは、争いへの発展要素があるか否かの一択! なればこそ、我輩は炎凪に問おうぞ!」

 テンションは常のままだが、言動は常時と比べても格段にまともだった。
 九郎やアル・アジフなどは、ウェストの変貌具合に仰天している。
 ウェストの耳に装着された超高性能イヤホン型ネゴシエイター養成機が、彼を口達者にしている――というからくりも知らず。

 超高性能イヤホン型ネゴシエイター養成機は、その名のとおり交渉人を養成する目的で作られた機械である。
 耳の発汗具合から装着者の願望を読み取り、音声マイクで話し相手の声を拾いその内情を判断、
 交渉を進める上で有利になるような言葉をコンピュータが見繕い、電気制御で発言を促す、といったシステムだ。

 では、ウェストの願望とはなにか。それはいかなる状況でも、彼が掲げる三種の行動理念に帰結する。
 面白く、派手に、悪っぽく――つまりは、目立てればそれでいい。
 総勢十四人の参加者と、意思を持つ支給品、主催側の裏切りが一人集うこの場で最も目立つには、どうすればいいのか。
 決まっている。まとめればいいのだ。皆の中心に立ち、話を進める議事役を買って出れば、注目は後からついてくる。

「この場に集っている十四人と二体、もはや一人として優勝を目指すなどとのたまう者はおるまい!?
 言ってしまえば、殺し合う意思がない……それこそ全員で一致団結し、敵陣に乗り込むことも可能なのではないか!?」

 その願望が、彼に破天荒な言動を控えさせ、真っ当な論を可能にさせた。
 これも、超高性能イヤホン型ネゴシエイター養成機の機能によるところが大きい。
 話し相手となる他十六名を釘付けにするには、常のままでは話にならない、と判断されての口内電気制御だ。
 質問を投げかけられた凪は、真面目なウェストに唖然としながらも、ややあって返答を為す。

「そのとおりだよ、ドクター。ここに集まっているみんなには、もう殺し合いに賛同する意思はない。誰一人としてね。
 玲二くんに深優ちゃん、ユメイちゃんも……君たちが碧ちゃんと一緒に来たっていうことは、そういうことなんだよね?」

 凪の問いに、深優・グリーアが首肯して答える。
 吾妻玲二も否定はせず、ユメイは申し訳なさそうに目を伏せるのみだった。

「なら、交わすべきは言葉と言葉だ。残りの生存者でも、源千華留ちゃんは早々にゲームを放棄している。
 殺人の意思を持った、要注意人物と言うべき存在も、今となっては来ヶ谷唯湖ちゃんただ一人ってこと」

 凪の言を受けて、深優が割って入る。

「残念ながら、既に源千華留の死亡は確認されています。下手人は来ヶ谷唯湖に違いありません」
「……そっか。じゃあ、もう会場に残っている危険人物は、ここにいない唯湖ちゃんただ一人ってわけだ」
「聞いたか皆の衆! 十五人中、十四人もの参加者が既に争いを拒む側に立ったのである!」

 凪の返答が得られたところで、話の中軸は再び、ウェストの手によって回される。

「警戒すべきは愚者が一人、その者も襲撃も当然考えうるが、こちらはこれだけの人間が集まっているのである!
 到来を察知できるレーダーもあるゆえ、対策も磐石。加えて絶対の情報源すら手中にあるとくれば、猶予と考えて良し。
 重視すべきは調和なのである! 今こそ我らの英知を結集し、先の展望を明確なものにすべきときではなかろうか!?」

 十字架のモニュメントが神々しくも際立つ時計塔、それに連なる建物を指差し、唱える。

「よって我輩はここに、あやかし懺悔室の開廷を提案するのであ~る!!」

 一触即発の空気を粉砕し、ドクター・ウェストは事態を収拾へと導いた。
 複雑に絡み合う人間関係を清算するには、神の恩恵に縋るしかない。
 彼の地、教会の礼拝堂にて、清算の時間が始まる。


 ◇ ◇ ◇


 情報交換とは、持ち合わせている情報を互い互いに提供し合うことで成立する。
 総勢十七名。こういった大所帯で、それぞれが情報を持ち寄り、交換するというのもなかなかに大変だ。
 誰も彼もが好き勝手に喋っていては、何時間経っても要点すらまとめることはできないだろう。

 なので、今回は形式を変えることとなった。
 あやかし懺悔室――と銘打たれた情報交換の儀は、教会の礼拝堂を舞台として始まる。
 説教壇の前、まるで怪談話でもするかのように、一同が輪を作っていた。

 順に――那岐、玲二、アル、トーニャ、なつき、クリス、碧、九郎、やよいとプッチャン
 ダンセイニ、ウェスト、桂、ユメイ、ファル、深優、美希、といった具合に並ぶ環。

 那岐を起点として、五十音順にそれぞれが情報の提供をする。
 内容は自己紹介と自分語り、このゲームがスタートしてから見てきたものを、一切合財話すというものだ。
 各人との因縁や人間関係を明確にするのが目的であり、持ち時間は一人あたり四分程度。次の放送前には済む計算である。
 もちろん、嘘や隠し事は許されない。目的を改め、利害を一致させるには、すべてをさらけ出す必要があった。

 照合は、ゲームの一部始終を監視してきた那岐が担当する。
 彼自身の信頼性もまだ完璧とは言えなかったが、監視者として持ちうる情報の信憑性は確かだ。

 罪を背負っている者も、そうでない者も、この島での一日半の行いを神に懺悔する。
 それらが終了した先、同じ旗の下で一致団結するか否かは、まだわからない。
 ただ、事実として――この場に争いを持ち込もうとする輩はいない。
 輪の中心に置かれた首輪探知レーダーに、欠席者たる来ヶ谷唯湖の反応はなく。
 あやかし懺悔室の扉が、開かれた。


 ◇ ◇ ◇


【1――那岐(炎凪)の場合】


 改めまして。僕の名前は那岐。炎の言霊はもう失われたから、名前で呼んでくれると嬉しいよ。
 今回の一件、君たちには本当に申し訳ないことをしたと思っている。どうか、謝らせてほしい。

 事情を知らない子もいるだろうから、掻い摘んで説明するけど……今回の殺し合いは、『星詠みの舞』と呼ばれる儀式なんだ。
 HiMEと呼ばれる戦巫女たちが、互いの触媒、つまりは想い人を懸けて戦いを繰り広げる。弥生時代から続く悲しいお話だよ。

 なんでそんなことをするのかって? 媛星を返すためさ。
 そうだね、超巨大隕石と受け取ってくれて構わない。放っておけば、この星に落ちてきて人類滅亡、って規模の代物さ。
 星詠みの舞は、HiMEたちが戦うことで培ってきた想いの力を用いて、媛星の落下軌道を変える儀式なんだよ。
 これがもう、延々続いている。媛星は三百年周期で巡ることが運命づけられていてね。そのつど儀式を行わなければならない。

 もっとも……星詠みの舞の様式も、『黒曜の君』たる神崎黎人とその一団、一番地によって大きく捻じ曲げられてしまった。
 彼らは媛星の軌道を変えるための想いの力、これを自分たちの肥やしにしようと企んでね。
 星詠みの舞で勝ち残った最後の一人、『舞姫』を殺すことで、想いの力を横取りしてしまったのさ。
 そうやって、一番地は世界を牛耳る国家機関へと成長した。もう、何年も昔の話だよ。

 僕はもともと、弥生時代から続く星詠みの舞の進行運営役でね。媛星を返すために、これまでも多くのHiMEたちを戦わせてきた。
 それがあるとき、一番地に存在を封印されてしまってね。進行運営約の立場をごっそり横取りされてしまった。
 それ以来、僕は『炎凪』なんていう傀儡の式神として、一番地の首魁である『黒曜の君』にこき使われるようになっちゃったのさ。
 神崎黎人は、現代の『黒曜の君』ってわけだ。僕は渋々、彼らのパシリとして走りまわされていた。

 けど、いつまでも好きにさせておくわけにはいかない……そこで僕は、神崎を裏切ることに決めた。
 とはいっても、僕が神崎の式神を辞職するには、大昔に施された封印を解かなくちゃならない。
 そんな簡単にいくわけもなかったんだけど、そこにいるやよいちゃんが素晴らしいものを持っていることに気づいた。
 彼女が持っていた短剣、ルールブレイカーは特殊な力を秘めていてね。
 それを使えば僕に施された封印も破れるんじゃないか、って考えたわけ。
 で、実際に僕の目論みは成功した。自由を得た本来の姿こそがこの格好、那岐。

 ……自由を得て、どうするのかだって? もちろん、神崎たち一番地と戦うためさ。
 僕としては、儀式が成功し、媛星を返して星が救えさえすれば、それでいい。
 一番地が甘い汁を啜ろうと、あえて座視してきたのがこれまでの星詠みの舞だ。
 だけど今回ばかりはそうはいかない……今回の星詠みの舞は、もう一つイレギュラーが混在している。

 そのイレギュラーっていうのが……星詠みの舞を下劣な殺し合いにしてしまった黒幕、ナイアさ。
 やよいちゃんが知っている古書店の店主がそう……え? 九郎くんも面識があるのかい?
 それは初耳だ……ああ、ドクター。ブラックロッジやマスター・テリオンはこの件には関わっていないよ。
 組織と呼べるのは一番地と、それに協力するシアーズ財団くらいなもの。ナイアは単独だ。

 断っておくけれど、神崎や一番地にこんな馬鹿げたゲームを実現するだけの力はない。
 異なる世界から人物や物品を集めて、隔離された孤島で殺し合いを強いるだなんて、それこそ邪神の所業だよ。
 ナイアの目的は、媛星を落下させて星を滅ぼすこと。疑わしいけれどね。
 そのために、彼女はスポンサーとして神崎に取り入って、儀式の様式を大きく改竄してしまったのさ。
 勘違いされていそうだけど、本来の星詠みの舞はこんな凄惨な殺し合いじゃない。
 当事者たちにとっての悲劇であることは、変わりないけどね。

 殺し合いで生き残った最後の一人、神崎やナイアはそれを生贄にして、媛星の力を得るつもりなんだろう。
 ドクターの言っていた優勝しても生はない、という論は概ね正しい。
 勝ち残っても、神崎の妹も命ちゃん……ここにはいない六十五人目の参加者に殺されて、終わりだよ。
 僕としては、こんな形での儀式完遂は認められない。星詠みの舞は、元の世界でもう一度やり直すべきだと思う。
 倒すべきはナイア、神埼黎人、一番地、シアーズ財団……敵の数は膨大だ。

 え? 言峰綺礼は何者なのかって? さぁてね……僕も彼については詳しく知らないんだ。
 ナイアが連れて来た協力者、あとは衛宮士郎くんなんかと知り合いらしかった、ってくらいかな。
 ああ、人柄についてはファルちゃんの見解で概ね合ってると思う。つき合いたくはないタイプだよ。
 他にも、ナイアはすずちゃんとエルザちゃんっていう協力者を抱えている。
 この二人に関しては、トーニャちゃんとドクターがよく知っていると思うよ。
 どういうわけか、すずちゃんもエルザちゃんも二人の記憶を失っているようだけれど。

 儀式の裏側は、いっぺんには語り切れないってのが本当のところだけど……大体の事情は察してもらえた?
 じゃあ、僕の番はそろそろおしまい。これだけは信じてほしいんだけど、僕はもう、主催側に戻る気はない。
 裏切り者として、この儀式をひっくり返すつもりでいるからよろしく。

 そう、なにがなんでもね。


 ◇ ◇ ◇


【2――吾妻玲二(ツヴァイ)の場合】


 呼び名はどうとでも構わない。吾妻でも、玲二でも、ツヴァイでも、好きに呼べばいい。
 簡潔に、目的だけ言うぞ……俺は、神崎黎人を殺す。ナイアとかいう黒幕もだ。
 ……いや、本音を言おう。俺はキャルを……キャル・ディヴェンスを取り戻したいんだ。
 キャルについては……追って、話していこう。

 俺はキャルを生かすために、この殺し合いに乗った。最初に襲ったのは、そこにいる高槻やよいだったな。
 あのときは葛木宗一郎とプッチャンに邪魔をされてしまったが……睨むな。

 その後も真アサシン、藤乃静留、古河秋生と立て続けに襲い……藤林杏を殺したのも、俺だ。
 ……トドメを刺したのは桂言葉だって? それでも、死を運んだのは俺に違いない。
 その桂言葉も、彼女と共にいた棗鈴も、俺が殺した。電話の先で、兄貴に散々恨み言を言われもしたな。

 千羽烏月柚原このみを襲ったのもその直後だ。あのときは上手くやり過ごされてしまったがな。
 俺は凶行を重ねた。九鬼耀鋼一乃谷刀子、そこのドクター・ウェストの命ですら摘もうとした。
 実際にキャルに遭遇するまで……直前に、棗恭介の死も見届けたな。本当に、多くの人間を殺してきた。

 俺は暗殺者だ。人を殺すことに感傷は抱かない。この場にいる人間では、俺が最も危険だと判断していいぞ。
 今でこそ得がないが、メリットさえ生まれれば俺はおまえたちに銃口を向けるかもしれない。それだけは、肝に銘じておけ。

 ……ああ、そうそう。キャル・ディヴェンスだったな。彼女は、ここではドライと呼ばれていた。
 彼女もまた、俺と同じ暗殺者だ。俺に復讐心を抱き、彼女も彼女で多くの人間を手にかけてきたらしい。
 俺の知っている彼女と、彼女の知っている俺は、微妙に違っていた。平行世界とかいうのか? よくわからんがな。

 千羽烏月や源千華留、柚原このみを交えた戦いで……俺はキャルを失った。そのとき、誓ったんだ。
 キャルを生き返らせる。彼女の命を奪った主催者に復讐を果たした上で、だ。
 不可能とは思わなかったな。奴らはそれだけの力を持っていると、妙に確信できた。

 それから俺は、主催側の情報を握る人物、そこの深優に出会った。利害は一致し、一時的に組むことになったよ。
 そしてすぐに、九鬼耀鋼と再びやり合うことになった。あの場には、ユメイや山辺美希もいたのか。

 ……あのときだな。明確にスタンスを変えたのは。
 深優は、参加者を殺す道を捨てた。同調を求められた俺も、深優に乗った。そちらのほうが懸命と考えたからだ。
 羽藤桂にも言ったが、俺の取ってきた行動を許してもらおうなどとは思わない。憎いなら大いに憎め。
 信用に足りないと言うんなら、いつでも命を狙って来い。覚悟はある。やられる覚悟も、やられない覚悟も、だ。

 ……このへんでいいか?


 ◇ ◇ ◇


【3――アル・アジフの場合】


 我が名はアル・アジフ。アブドゥル・アルハザードによって記された最強の魔導書『ネクロノミコン』の化身なり!
 こんななりをしてはいるが、おそらくこの場にいる誰よりも高齢だ。大いに敬えよ。

 妾の起点は、そうだな……空港だったろうか。羽藤桂と出会い、契約を交わしたのもそこだった。
 電車に揺られ、各地を周旋する内に……最初の闘争に出くわした。襲ってきたのは衛宮士郎なる男だ。
 そのときに桂が負傷してな。その場にいた九鬼耀鋼の助言を受け、桂の救命に走ったが……襲撃者がしつこくてな。
 浅間サクヤ、桂の知己たる女傑が救援に駆けつけてくれなかったら、妾たちの命もなかったであろう。
 その浅間サクヤも、衛宮士郎に殺された。彼奴めは、桂に大きな爪あとを残していきおったのだ。

 いろいろあったが、それでも妾たちは歩みを止めなかった。
 棗鈴や桂言葉の存在を電話で知り、棗恭介やトルティニタ・フィーネ如月双七と遭遇し行動を共にした。
 クリスや真、なつきや碧に出会ったのは……ちょうど棗恭介らと袂を分かった頃であったな。

 その後が大変だった。真と碧を伴い教会を目指していたのだが、西園寺世界なる怪人と遭遇してな。
 妾でも知りえぬ術式を見せるわ、死霊を操るわ、果てには戦闘機まで持ち出すわ、とんでもない女だった。
 ……なるほど。西園寺世界にもそのような事情があったのか。まったく、度し難いな。

 そのときの闘争で蘭堂りのが殺され、皆も聞いたであろう達意の言が、解除全域に響き渡った。
 ユメイが凶行を働いたのは、その直後のことだ。……これは、本人の口から語られるべきであろう。

 なにはともあれ、妾たちは再び教会を目指した。道中、深優と玲二に出会い、二人を碧に任せ別行動に至った。
 教会にたどり着くまでの道で、九郎やユメイに再会できたのはまこと僥倖であったと言えよう。
 まさか、碧があんなものを引っ下げて駆けつけて来るとまでは思わなかったがな。

 妾からは、こんなところだ。


 ◇ ◇ ◇


【4――アントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナ(トーニャ・アントーノヴナ・ニキーチナ)の場合】


 私はロシアンスパイです。名簿じゃうっかり本名で載ってしまっていますが、気軽にトーニャとお呼びください。
 人妖という種はみなさんご存知で? まあ今は、私のことよりもここでの道程を話すほうが先決でしょうか。

 最初にお会いすることになったのが、井ノ原真人さんという筋肉バカでした。
 そこにいるダンセイニは、彼に支給された……ああ、アル・アジフさんのペットだったんですか。
 すいませんねぇ、なんかやたら筋肉に目覚めてしまったみたいです。恨むならどこぞのグッピーを恨んでください。

 しばらく井ノ原さんと行動を共にしまして……ドライ、吾妻さんの言うキャル・ディヴェンスに襲われたりもしました。
 ドクター・ウェストや藤林杏さんとも巡り会い、西園寺世界や柚原このみと遭遇したのもこの頃だったでしょうか。
 転機は寺を訪れたとき……ですかね。大聖堂からワープしてきた神宮司奏さん、ファルシータ・フォーセットさんを拾い、
 そのときのいざこざから、私一人別離を選択しました。奏さんに隠密に任命された、というのもあるんですがね。

 私はしばらく単独行動を取り、脱出を進める上で有益となりうる人材、物資の探索に励みました。
 時間は食いましたが、狙い通りウェストと再会することに成功し、首輪の謎も解けはしたんですが……結局まだ外していませんね。

 ちょうどこの頃、蘭堂りのさんのテレパシーが会場全域に響き渡りましたか。私も当然耳にしましたよ。
 彼女があんな真似をしなければ、あるいは奏さんも……いえ、これは失言でしたかね。すいません。
 なにはともあれ、私はやよいさんたち教会組とここで合流しました。奏さんや井ノ原さんたちの旅立ちを見送って、ね。

 懺悔室の扉の奥で、すずさんやエルザさんを確認したのもそのときです。
 彼女たちとの遭遇が、私に黒幕の人物像を考えさせる切欠にもなりましたね。
 これは単純な殺し合いなどではない……この教会という施設は、主催本拠地への入り口を担う。
 放送の後は案の定、主催側から刺客が、そこにいる那岐さんが送られてきました。
 まあ結果は裏切りというものですが。考えてみると、神崎黎人も滑稽ですねぇ。まるで部下や同僚や上司に恵まれない。

 っと、イマイチ喋り足りないですが、このへんにしておきましょうか。


 ◇ ◇ ◇


【5――玖我なつきの場合】


 うん……私の番か。名前は玖我なつき。さっき那岐が言っていたHiMEの一人だ。本来の、な。
 先ほどの那岐の弁は、悔しいがすべて真実と受け取ってくれて構わない。
 いや、私も疑わしくはあるのだが……どうやら信じるしかないようだ。癪だがな。

 私は当初、このゲームをただの殺し合いとしか認識していなかった。
 指針もちぐはぐで、とりあえず知人と合流しようと躍起になっていたよ。
 共に行動したのは……伊達スバル若杉葛だったな。二人とは短い縁だった。

 第一回放送を越えてのことだ。対馬レオの死を切欠に、伊達スバルがゲームに乗った。
 葛もそのときに殺されて……私はどうにか、伊達を撃退することで生き延びた。
 ……伊達はその後すぐに、知り合いに殺されたのか。いや、それでも非は私にある。

 一人になった私は、尾花を拾って……加藤虎太郎たちに会ったんだったな。
 深優や美希とも、一度そこで会っている。鉄乙女の襲撃もあり、慌しく過ぎてしまったが。

 加藤虎太郎は……そのときの戦いで死んだのか。すまない……あのときは、加勢しておくべきだった。
 彼に保護を頼まれた美希は無事にここまで生き残れたが、私の功績とも言えないしな。
 尾花についても……私の力が至らなかったがゆえの落ち度だ。本当に、すまない。

 ……ああ。悪いなクリス。どうにも感傷的になってしまったようだ。思い出していくのが、辛くてな……。
 いや、最後まで続けるよ。どこまで話したか……そう、美希と二人で逃げ延びてからは、深優と再会したんだ。

 深優はそのとき、如月双七と一緒にいたな。私はおまえを信用することができなかったんで、このとき同行は拒否した。
 再び一人になって……クリスや真、桂とアルの一団に仲間入りした。すぐに別行動を取ることになったが。

 桂とアル、真の三人と別れてすぐのことだ。大十字九郎を拾った。ああ、本当におまえたちはすれ違いが多かったな。
 山を突っ切って、アルたちとは別ルートで教会を目指していたわけだが……その途中に、会ったんだ。

 …………静留と。覚えているだろう? 開会宣言の場で、神崎に話しかけていた京都弁の彼女さ。

 静留は……あろうことか、私を生かすためにゲームに乗っていたんだ。
 トーニャの先輩である一乃谷刀子を殺害したのも、静留だ。私の……親友だった。

 …………すまん。このときのことは、あまり話したくないんだ。
 静留は、最後は自ら死を選び取ったよ。クリスには、本当に感謝している。

 私からは、以上だ。


 ◇ ◇ ◇


【6――クリス・ヴェルティンの場合】


 ……ごめん。なつきのことはあんまり責めないでやってほしい。
 僕はクリス・ヴェルティン。僕が一番に話しておかなきゃならないのは……ユイコのこと、だと思う。

 僕が最初に出会ったのはキョウだったんだけど、彼女にはすぐに避けられてしまって。
 そのあと、大聖堂を訪れて出会ったのが……ユイコだったんだ。彼女は、演奏をしていた。
 すごく、変な女の子だと思ったよ。うん。彼女とはいろいろあって……争いごとに巻き込まれることも、あった。

 あのとき襲ってきたのは、岡崎朋也と千羽烏月とナゴミ……っていうのかな。僕とユイコはすぐに逃げたんだけど。
 大聖堂から逃げ延びた後は、キョウと再会して、ドクター・ウェストにも会った。
 リセの……リセルシア・チェザリーニの死を知って、フォルテールで彼女を弔ったりもした。

 シズルとも、その後すぐに会ったよ。やっぱり襲われて、ユイコの機転で逃げることもできた。
 今思うと、ユイコとは本当に長い時間を共有していたように思える。
 思い出してみても、やっぱり彼女が変わってしまったとは思いがたい……。

 やがて、僕とユイコはあの……温泉、っていうのかな? そこにたどり着いたんだ。
 そこでミドリに出会って、タチバナさんが降ってきて、それから……シズルとナゴミがまた襲ってきた。
 そのときは、戦って……けど駄目で……僕は、ユイコたちと離れ離れになった。
 一人きりになって、当てもなく彷徨って、僕はユイコが死んでしまったんだと思っていた。
 あのときは、雨の勢いも増している気がしたよ。本当に、ケイに助けられなかったら、駄目だったかもしれない。

 そのあとは、大体なつきと一緒だよ。みんなと一緒に、ここまで来た。
 結局、ユイコとは再会できていない。

 もし、今後ユイコと話す機会が訪れるとするなら、僕がきっと――。


 ◇ ◇ ◇


【7――杉浦碧の場合】


 ……ん、私の番? っていうか、なつきちゃんもクリスくんも暗くなりすぎ!
 私が語りづらいったらないじゃないのさ。ここはも~ちょっと盛り上げてもいいとこだと思うのよねー。

 ってなわけで、杉浦碧じゅうななさいでござーい! おー! ……え、もうちょっと真面目にやれ?
 はいはいわかりましたよーっと。んじゃあ順々に語っていくかねぇ……。

 んーと、私はまず最初にてっちゃん……鉄乙女っていう子と一緒にいたんだよ。
 けど、すぐにミキミキが助けを呼びに来て、一旦離れ離れになっちゃった。
 あのときは、一乃谷愁厳くんって子に襲われてたんだって?
 で、対馬レオくんが殺されて……乙女ちゃんもああなってしまったと。
 ……うん、やっぱり私、あそこでついていくべきだったのかな。って、ネガティブやめーい!

 そのあとはしばらく、美希ちゃんと行動したよ。乙女ちゃんが気になって、すぐ別れちゃったけど。
 瀕死の若杉葛ちゃんを見つけたのはそのとき。私は、死に逝くあの子を前になにもできなかった。

 おっと、だからといって俯いてばかりいる碧ちゃんじゃあございません。
 葛ちゃんのためにも生きなきゃ、って私は強く思ったんだ。クリスくんやユイコちゃんに会ったのはその後。
 温泉ではいろいろあったよねぇ。静留ちゃんとか、橘さんとか……空飛ぶ木に乗って移動したのも、あれっきり。
 ユイコちゃんとは、クリスくんと一緒でそこで離れ離れになっちゃった。

 んで、橘さんと一緒に遊園地にたどり着いて……そこには大集団が待ち構えていたわけですよ。
 直枝理樹くんを筆頭とする、新生リトルバスターズが! ……あの場には、九郎くんやユメイちゃんもいたね。
 うん。せっかく仲間が増えたんだけど、その後てっちゃんや支倉曜子ちゃんに襲われて、また散り散り。
 私は一人になっちゃってさ……有り余る衝動を拡声器にぶつけたら、見事桂ちゃんが私を拾ってくれました。

 やっぱ、正義の味方は誰かの助けになってこそでしょう!
 とは思いつつも、その後りのちゃんと真ちゃんをみすみす死なせちゃって……千華留ちゃんも救えなかった。
 にゃはは~、結局私もダウナーになっちゃったなぁ……やっぱ、悲しいこと思い出すのは辛いや。

 あー、うん、ごめん! ちょっと青春汁が止まらなくなってきた。次の人お願い……。


 ◇ ◇ ◇


【8――大十字九郎の場合】


 で、俺だ。名前は大十字九郎。アーカムシティってところで売れない私立探偵をやっている。
 そいつ――アル・アジフは俺と契約していたパートナーで……ああ、このへんは追い追いでいいか。

 まず話しておかなきゃならないことは、この企画の黒幕だっていうナイアさん。俺は彼女と面識がある。
 アーカムシティで陰気な古書店をやっててな、いろいろと謎な人だよ。正直、ナイアさんの名前が出てくるとは思わなかった。
 実際俺もそんなに親しい仲じゃないんで、目的とか推察しろって言われても無理だが……面と向かって言いたいことは、ある。

 このゲームでの俺の推移だけど……いきなり、列車の先端部分に飛ばされた。しかも、全裸でだ。
 ……おい、引くな! おまえら、頼むから引かないでくれって! アル、おまえまで侮蔑の眼差しを向けるなぁ!!

 うう……ちくしょー……。と、とにかくだ! いきなり死ぬかとも思ったが、そこは咄嗟の機転でどうにか切り抜けたんだよ。
 そのとき一緒になったのが、神宮司奏さんと浅間サクヤさんだ。サクヤさんとは別れて、俺は奏さんと行動を共にした。
 アルや執事さんともすれ違ったりしたんだよなぁ、あのとき。そのあとも……思い出してみりゃ、ありゃコメディだな。

 ああ、深くはツッコまんでくれ。とりあえず、いろいろあって俺は奏さんと離別しちまった。
 一回、ユメイさんにも殺されそうになったらしいんだが……そこで助けてくれたのが、美希だったな。
 俺と美希は二人でみんなを探すことにして、道中、鉄乙女に襲われる理樹とハサンさんに出くわした。
 もちろん放っちゃおけねぇ。俺は果敢にも助けに入ったわけさ。超怖かったけどな!
 結局、あのときはハサンさんを犠牲にしまって、おっちゃん……虎太郎さんに助けられた。

 ……なんか、俺なんにもできてないんじゃないか? 究極的に駄目な主人公なんじゃないか!?
 ぐすっ……泣いてねぇ、泣いてねぇぞ俺! その後のことだって、泣けるくらい情けないことばっかりだよ!
 鉄乙女とのリターンマッチだって、完全決着とはいかなかった。退けるのが精一杯で、おっちゃんも死んじまう!
 仲間が増えたと思ったら、三度目の襲撃かけられてよぉ!
 平蔵さんがなんとか止めてくれたみてぇだけど、やっぱり俺はなにもできなかったんだ!

 ……逃がそうとした理樹も、ドライに殺されちまうしな。そのうえ、犯人は千華留だなんて勘違いまでして。
 まったく、救えねぇバカヤローじゃねぇか、俺。誰か、このバカ殴ってくれよ。思いっきり、グーで。

 …………ぐぼぉっ!?

 ……ちょ、今の、本気だったんじゃねぇか……? なに、長いしウザい!? ざけんな、これでも――あべしっ!?
 ぐぉぉぉ腹がぁぁぁ……そ、その後はクリスやなつきと、一緒だよ。ユメイさんとの一件は、本人から、聞いてくれ。

 やば……あの虹色パンの悪夢が、また……。


 ◇ ◇ ◇


【9――高槻やよいとプッチャンの場合】


 あの~、大丈夫ですかぁ……? あ、次、私の番!?
 うっうー! 高槻やよい、十三歳です! こっちはパペット人形のプッチャン、それ以上でもそれ以下でもねぇ!

 え、テンション高すぎないかって? なに言ってるんですか! こ~んなに人がいっぱい増えたんですよ?
 元気に挨拶、やっちゃいまーす! え? あ、はい。ここに連れてこられてからのこと、ですよね。

 うんと、その、私、怖くてなにもできなくて……あの、その、吾妻玲二さん……に、ひどいことされそうになって、
 そこを葛木先生とプッチャンに助けられて、私、すっごく怖くなっちゃって、二人出会えなかったら、私……

 …………あー、やよいじゃ話が進まねぇからよ。こっからはこの俺、プッチャン様が代弁するぜ。

 基本、俺はやよいとずっと一緒だったからな。共有している情報も同じってわけだ。
 驚いてるヤツも多いみてぇだけど、これは単純な腹話術なんかじゃねぇ。ま、そのへんは後で、な。

 俺はもともと、葛木宗一郎っていう陰気な教師に支給されたのさ。
 で、すぐにツヴァイに襲われるやよいを見つけてな。助けに入った。
 こっから俺とやよいと相棒の物語は始まったってわけさ……教会にたどり着くまでは、結構いい感じだったんだぜ。

 道中に理樹とアサシンから木彫りのヒトデをもらって、そっから伊藤誠菊地真の二人に出会った。
 やよいと真は同じアイドルプロダクションの仲間で、願ってもない再会だったはずなんだけどよ……ちと歯車が狂ってた。
 やよいと真は、共有している記憶が違ったのさ。同僚ではあるんだが、一緒にユニットを組んでいた相手が違ったんだ。
 この妙な食い違いを、俺たちは平行世界なんてSFチックな解釈で片付けたけどよ。実際はどうなのかわからねぇ。
 とにもかくにも、このあたりから妙な空気になっちまってなぁ。やよいも真も、ちっとも再会を喜べなかった。

 で、教会にたどり着いた頃には……やよいの仲間の如月千早と、伊藤誠の彼女だっていう桂言葉が死んでた。
 放送でそれを知った俺たちは、余計にこじれちまってな。伊藤は癇癪起こすわ、真はやよいを避けちまうわ。
 そこを古書店の店主に付け込まれたのさ。なんの意図があったがしらねぇが、俺たちはここで離れ離れになっちまった。
 やよいと相棒は古書店に、伊藤は一人教会の外へ、真はクリスたちのところにワープしたんだったか?

 そうそう、この教会にゃ地下室があってな。そこに、十字架に磔にされた金髪の男がいたんだよ。
 那岐、おまえそいつに関してはなにか知らねぇのか? ……ふーん、おまえさんでも知らないとはね。
 例の古書店にゃ、主催本拠地行きのエレベーターなんかもあったしなぁ。冗談みてぇだけどよ。
 こりゃあますます、ナイアって奴の素性が怪しくなってきたってもんだぜ。

 古書店から戻ってきた俺たちは、まず伊藤と真を探した。けど二人はもういなくなってて、そこを西園寺世界に狙われたんだ。
 そのときは相棒がなんとか頑張ってくれたんだが……楽に勝てる相手じゃなくてな。そこでおさらばさ。
 ……お~い、泣くなよやよい。まだまだ話すことは残ってんだから。おまえが涙声になると、俺まで涙声になるんだぜ?

 相棒を失った俺たちは、例の古書店店主が気がかりで、一度教会に戻った。
 そのときそこにいたのが、ファルと真人と会長さん、それにダンセイニだったのさ。
 夜も遅かったし、朝までそこで篭城するつもりだったんだが……りのが力を使ったのが切欠で、奏が弱っちまった。
 ファルはファルで、記憶喪失だったのがいきなり酷い女~とか言い出すしなぁ。このへんは本人から聞いてくれや。
 まー……そっからファルやトーニャもやって来て、結果、奏はりのを想って後追い自殺。
 真人は懺悔室の扉を開けるために、自分を生贄に差し出しやがった。

 ……ホント、ここは俺とやよいにとっちゃいわくつきの場所でな。ナイアの根城みたいで、いろいろ不穏なんだ。
 その後は、まぁ那岐が怪物で攻め込んできた演技なんかして、今に至るってわけだ。

 ほらやよい、終わったぞ。おまえが締めろ。

 ……うっうー。これで、私とプッチャンからは終わりです。


 ◇ ◇ ◇


【10――ダンセイニの場合】


 てけり・り。


 ◇ ◇ ◇


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