幾星霜の果てに邂逅した両者だったが、
まず神の視線は挑戦者ではなく、先約者の方へと向く。
『私に過ちを認めさせる算段はついたかね、ズルワーン』
「当然だろ」
空葬圏でマグサリオンに
姉を討滅されてからずっと、
彼の宇宙規模の長大な滅尽行を傍らで
観てきたと明かすズルワーン
自分は何かを忘れているという違和感を常に抱き続けてきた
マグサリオンも、
ここにきてようやく
第五位魔王に欠けていた最後のピースを嵌める事が出来た。
そして当然、凶剣の冷徹な思考は次に真我と
ズルワーンの間の取り決めへと辿り着く。
「おまえなら、オレの考えが分かるだろ。こいつは礼だ」
銃火が閃き、同時に踏み込む
マグサリオン。勝負は一瞬の内に決着した。
「結構、釣りは来るはずだぜ」
「分かっている」
一刀のもとに
ズルワーンを斬り伏せて、倒れた彼を顧みずに放置する。
その行いは無情な反面、どこか敬意の表明にも見えた。
それは、真我に誠を叩きつけろという、無言で激励にも見え……
『興醒めだな、しょせんおまえはその程度か』
「ふん、まあ……てめえにゃそう見えるかもな」
事実、仰向けで大の字となったズルーワンは、
清々とした顔で真我の侮蔑を一蹴した。
彼の持ち味である不敵さが、今こそ最高の輝きを放つ。
「そもそもよお、難癖つけられた方が無実を証明するってのはおかしいんだよ。オレが糞人形だって言うんなら、証拠はそっちが出せや。この阿呆」
何事においても、“やってない”と証を立てるのは非常に難しい。
ものによっては不可能でさえあり、ゆえに原則、訴えた側が“おまえはやった”と示すのが筋だ。
「手抜きしてんじゃねえぞ神サマ。伏せてるカードをさっさと晒しな」
『いいだろう、口車に乗ってやる。どうやら気付いているようだしな』
ズルワーンの真実とは何なのか。
いったい彼は、どのような意志に操られていたというのか。
答えを真我は語り始めた。
答えは明白だった。
ズルワーンは彼自身も認める通り、
およそまともな生まれではない。
加え、そこからさらに変わった時期があり、事件がある。
マシュヤーナに敗北して殺されたと思いきや、
なぜか人として聖王領に転生したとき。
もっと言えば、故郷の空葬圏に大量の覚醒者が生じたとき。
つまり、
『おまえが誕生した瞬間と、彼がすべてを知った瞬間はほぼ同じだ。そして彼が退場した際、揺り戻しの直撃をおまえが受けたのも偶然ではない。分かるかなズルワーン、つまり一度死んだおまえが生まれ変わった理由とは――』
「スペアだろ。“零”に関わりがあるもん同士、勇者サマの受け皿にされたってわけだ」
そんな彼らの盤上に規格外の第三者が割り込んで、
神剣も
ズルワーンも奪い取ったというのが真相だ。
よって現状は神の計画すら超えたところにあるのだが、
自由を求めた
ズルワーンが、上位の力に傀儡化されていた点は揺るがない。
影であり、人形であり、道具にすぎぬ身らしく意義を全うせよと断言して、
真我は再び天罰を執行した。今度は記憶から抹消される程度で収まらず、
根本から別のモノに変えられる。
「信じる力が奇跡を起こす……なんていうのは嫌いだが、そいつは白い奴らが判で押したみたいに語る実のねえお題目だったからだ。オレは違う」
なのに、いったいどうしてか。
ズルワーンの不敵さは微塵も乱れていなかった。文字通り己が失われていく只中で、変わらず強靭な笑みを浮かべている。
まるで敗北したのはそちらのほうだと言うかのように。
「オレが、オレの意志で、信じたいもんを決めたんだよ。だからそれが証拠だ糞馬鹿野郎。結果に吠え面かきやがれ、あいつの勝ちはオレの勝ちだ」
その結末をもって己の信念を誠にする。順序なんかは問題にしておらず、とっくに自分は勝ってるんだと誇らしげに胸を張り……
最後にタバコを咥えて一吸い。立ち昇る紫煙の香りをわずかに残して、
ズルワーンは今度こそ完全にいなくなった。
関連項目
- 最初はよくわからなかったけど、もう一度読み直すとやっぱズルワーンは司狼の元型(ヴァルナもそうなんだろうけど)って思ったわ -- 名無しさん (2021-11-14 09:24:11)
- ここ一連のセリフはワルフラーンの化け物ぶりの方が印象に残ってる、観測者すらパクれるのかよと -- 名無しさん (2021-11-14 10:20:12)
- なんやかんやで情に篤いよね、マグサリオン -- 名無しさん (2021-11-14 21:49:31)
- まぁ、元々スィリオスの愛やからな。殺意に変換されてって聞くと物騒だけど、根は真面目で向き合う性やで -- 名無しさん (2021-11-15 17:31:06)
- 真我こそナラカの思惑通りに動かされてる節があるのは気のせい?って聞いたら義者にされそうだから黙っていよう -- 名無しさん (2021-11-15 22:00:04)
- アムリタの根源を目にして唯一狂わなかった、ある意味狂ってしまったのがミトラって語られてるしね。 -- 名無しさん (2021-11-17 18:01:19)
- 一度も上手くいったことないって話の通り失敗が絶対ついて回る奴だからな。はじまりから失敗してんのは妥当やろ -- 名無しさん (2021-11-17 19:01:38)
- この後のアイツの登場シーンが何よりも不気味だったわ -- 名無しさん (2021-11-18 21:01:18)
- ↑↑今更ながら全敗の女から無敗の男が生まれるのは、皮肉だけど必然だよな。というか何でミトラさんは、マグサリオンにわからせられるまで、あんな自信満々だったんだよ -- 名無しさん (2021-11-18 22:48:23)
- まぁミトラって言うなれば。余裕の笑み(なんで上手くいかないんだ!イライラ)みたいなことして逆張り繰り返してるみたいなもんやからな。持久戦で覇道資格者待つorマグが覇道に目覚める。って失敗しても成功の論理だったんやろ。結果覇道資格ない奴が無理矢理座についたから、『え?システム的に考慮してないから今後(座が)どうなるか分からん。そもそも計画失敗?』とかいう超挫折味わう羽目になったんやろ -- 名無しさん (2021-11-19 01:38:31)
- アーディティアが負けしかない人生を描くストーリーだとしたら斬新だな -- 名無しさん (2021-11-19 14:57:45)
- くたばれ綾模様ババア!ってアヴェスター連載時にキレてた読者もアーディティヤ中盤辺りでやめたげてよぉ!ってなってそう -- 名無しさん (2021-11-19 18:05:06)
- 波旬と同じで同情できるとこはあっても完全手のひら返しは無理だと思う。言動のマイナスが大きすぎると挽回出来ても一定値までだからな -- 名無しさん (2021-11-20 12:12:43)
- まぁ、俺は波旬も真我も既に好きやけど、正田作品で悪役って華型のひとつやろ。同情できる要素出されてたら、更に人気キャラに転ぶってことも普通にあるやろ。人それぞれなんじゃない -- 名無しさん (2021-11-20 17:19:42)
- 悪だからといって=気に食わないって訳ではないし(セージがいい例)、そもそも綾模様ムーブ自体気に入ってる人も多いだろうしな -- 名無しさん (2021-11-20 18:25:59)
- 綾模様煽りおばさんはネタとして好き、黒白本編の所業はクソ&ざまぁ、アーディティヤでどう見えるか不明、それはそれ、これはこれ -- 名無しさん (2021-11-20 20:30:46)
- 善悪それぞれのキャラクターが見せる人の輝きや人間讃歌こそlight作品の真骨頂だしね。 -- 名無しさん (2021-11-21 20:06:29)
- 魔王&光奴隷「せやな」 -- 名無しさん (2021-11-25 17:54:39)
- ↑対消滅してください -- 名無しさん (2021-11-25 18:22:27)
- ↑対消滅した後にまだだ覚醒で新宇宙誕生する流れじゃないか(恍惚) -- 名無しさん (2021-11-26 09:57:00)
- 男の子ってどうしてこんなに光を求めるんだろうなぁ -- 名無しさん (2021-12-02 13:53:25)
- ↑決まっているとも。手を伸ばそうが決してその手に掴めぬからだ。 -- 名無しさん (2021-12-02 22:45:28)
- ↑なお追い求め過ぎると世界どころか宇宙ごと砕け散る模様 -- 名無しさん (2021-12-09 10:19:26)
- 永遠の凪(へいおん)を追い求めて、並行宇宙規模で滅尽滅相しようとしたヤツもおるで -- 名無しさん (2022-04-14 18:08:40)
- ここをはじめなぜか特定のセリフ項目の内容が半分以上消し飛んだみたいだけど、戻しました -- 名無しさん (2022-04-14 18:31:25)
最終更新:2022年04月14日 18:31