その正体は
宇宙の大いなる意思の
代行者。
黒白の片割れであり、ナダレは黒の側。ナダレとは黒の
触覚に与えられる称号である。世界の均衡を体現する天秤の役目を担っており、崩界で闘争を誘発、加速させている。
不変である白とは違い概ね2000〜3000年ほどの周期で、ナダレは最後に残った黒の七王として
神剣アフラマズダを持った
勇者と善悪闘争の最終決戦を行い、果てに殺されることでその名前と共に代替わりを行う。そしてナダレが死ぬと同時に宇宙全体を対象にした真の
大転墜が発生し時代も代替わりする。なおナダレは白の究極たる勇者とは同格の対存在であるため必ず相打ちになる。
この代替わり直後に、特異点に招かれていた黒側の人物が新たなナダレとして就任し、後述の
崩界で特異点から神剣を飛ばすことが善悪闘争の再開の合図になる。
神剣とナダレは共に天秤の役割を担っているため、神剣はナダレという概念を滅ぼすことはできないし、ナダレは神剣を破壊できない。
宇宙開闢から存在するナダレという
咒は非常に重い。そのためナダレに就任した人物は自分本来の名を覚えていても、ナダレという名に塗り潰され元の名前を言葉として発することが出来なくなり、本人の意思と関係なくナダレとして生きることを余儀なくさせられてしまう。
これは
善悪闘争を管理する者として生きる運命を強いる真我の
大義式戒律。そして真我の影たるナダレは宇宙に唯一存在を許された
疑似求道神であるため、前述した通り二元論世界ではナダレ以外の求道者はその座に到達不可能になっている。
仮に
バフラヴァーンなどの求道者が仮にナダレを倒しても、彼らが次のナダレになるだけ。
ナダレとはその時代における最も挫折した者。凡人でありながら身に余る大志を抱き、それを自覚しながら諦めきれなかった存在が選ばれる。
黒の究極であるナダレは必ず黒の陣営から選ばれ、候補を確保するために時代の終わりに近づくと小規模大転墜が起こる。
男と女が入れ替えで入る形。
ナダレは永劫の苦悩と挫折を課され何もかもが上手くいかなくなる運命であり、空っぽな勇者とは違い恥辱と
慙愧で塗り固められた真っ黒な存在だが、行き着く先は同じく無である。
もちろんナダレに就任した直後は世の理不尽に怒り、復讐するかのような大暴れを行うのだが7、800年ほどで落ち着くとのこと。
これは自分が神の玩具に過ぎないと気づいてしまうためである(法外な力に見合うだけの器量もそれに不相応に無自覚でもいられない賢明な凡人であることが、ナダレに就任する条件ではないかと、アフラマズダは考えている)。
そして何もかもが上手くいかず挫折を味わい続けるという虚無の螺旋へと堕ちていき、いつしか死による解放を願うことになってしまう。
歴代のナダレは結局のところ、どれだけ宇宙の真実を知って反抗心を抱いたとしても神の奴隷たる立場は変わっておらず、善悪闘争の管理者として何も変えることもできず消えていった。
神座の
元型である黒の七王の中でもナダレは二元論世界を統べる
真我を模しているため、真我と共通した属性を顕著に持っている。つまりこうしたナダレの境遇は
真我の人生を擬えているということ。真我にとってナダレは己の過去を疑似体験させ、その未来を占うためのものという、シミュレーション世界に配置した文字通りの
アバターなのである。
①候補が黒側にいる場合
特異点でナダレになるため大転墜の影響を受けない。つまり自分の精神性が変わらないままかつての敵が新たな同志となる。
②候補が白側にいる場合
時代の節目になるとナダレを選別するために小規模な大転墜が何度か発生させられる。それで黒側に転び、後にナダレになってかつての仲間が自分と同じ側に大転墜で転んできてもナダレだけは一度限定的な転墜を経験しているため壊滅的なほどすれ違ってしまう。
本編のナダレは前者によりナダレに就任しているがどちらの場合も悲惨であり、大転墜が起きても彼女だけは変わることが出来なかった。故にナダレは極め付けの落伍者であり、世界から取り残された存在であるゆえに異質な雰囲気を纏っている。ある意味誰よりも転んでいるといえる。
前代のナダレは男性で、善なる
天将と悪なる
地雄達に争いを強いていた。
彼が世界の流転を止めたかったのか、さっさと死んで楽になりたかったのかは不明。白陣営のクワルナフの開闢が成れば彼が最後のナダレとなるはずであったため、黒の六王が倒れた後に中心人物(勇者を含む残存の地雄やナダレ候補)を崩界で特異点へ呼び寄せる絶対の掟を、破るのは不可能でも身を削る思いで抗ったと推測できるが、結果は挫折に終わった。
今代のナダレは天将と地雄の時代の数少ない生き残りであり、
大転墜後にも唯一その頃の記憶を明確に引き継いでいる。
当時ナダレは善なる黒である天将の下っ端であり、善悪の決戦地となった地雄の本拠地
ヒラニヤプラでの戦闘に参加するも、何も為せずに最後の時まで蚊帳の外にいることになってしまう。
当時の彼女はヒーローになり、新たな世界を見ることを夢に見ていた。ただしそれは自分がどうこうするというものではない。彼女は変化だけを目指しており、その決定打が己であることを望む。世界を変える救世主が大業を成す上で、絶対的に必要なピースになりたいという祈りである。
しかし真我にその在り方を目をつけられたことで、真我の操り人形という地獄へ進むことになってしまう。
今代のナダレはこれまでのナダレとは異なる行動を取っており、就任直後に神剣
アフラマズダとお互いに世界を破壊するために行動するという約束を交わし、別れた。その後は目的は不明ながらこれまでのナダレと同じように500年ほど崩界で宇宙を混乱に陥れる。
今代のナダレも前代と同じく自分が最後のナダレとなるために争いを起こしており、二度と
大転墜を起こしたくないと考えながらも、もう一度還りたいという矛盾した願いも抱いている。
しかし彼女は何度失敗しても未だに世界を崩すことは諦めていない。20年前のワルフラーンとクワルナフの激突は世界崩壊を目的に歪みの拡大を狙ってのものであり、実際これを契機としてクワルナフやスィリオスなどの止まっていた覇道は動きだし、神剣は己を分化するという事態が起きている。
ナダレはみんな”を心から愛してる。
変わってしまう彼らを、変わらない輝きのまま、ここではない何処かに生まれ変わらせてあげたい。みんなの一生が茶番に消えるのではなく、時を超えても残り続ける真の
綾模様となることがナダレの願い。
そのためなら何億年、永遠だろうとナダレを続けると決めた。つまり「みんなの魔王」としての役割を果たそうとしている。
ナダレは
「真の救世主に倒されて世界を変える、最大最後の壁になりたい」と
渇望する。
救世主が大業を成すための絶対に欠かせないピース。替えの効かない確固たる役目を持つことである意味で主役以上に重要な存在だと認められたい。自分がいなければ何も変えられなかったと森羅万象に認めさせたい。
その在り方が「みんなの魔王」。彼女が目指す真の
「魔王」。そして彼女の言う救世主が
覇道資格者達であり、彼らに新世界を生んでもらおうとしていた。何も成し遂げられなかった生だからこそ与えられた役割、ナダレの役割を果たした上で、最後のナダレになるという譲れない祈り。
この世すべての不条理を体現する者。新しい世界に至るため、障害の化身として立ちはだかる究極の絶対悪がナダレが夢と奉じ、求める理想の姿。これこそナダレの「
不変」なのだろう。
彼女はこれまでと同じことを繰り返さないためにも、念には念を入れてナダレとしての役割を全うしながら、同時に新たな神となる存在を選別することができるように動いていたのだ。
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ああなるほどな。貴様の芯がよく分かった |
そもそも彼女は何故絶対に欠かせないピースとなり、世界の変化を望んだのか。それは世界にこんな茶番劇を強いる真我のことを許せなかったから。世界の行く末さえどうだっていい、彼女はただ自分達を弄んだ連中に「吠え面をかかせてやりたい」。
すなわち不変なる“罪”。誰であろうと罪に相応しい罰が降り、屑の勝ち逃げなんて許されることはない。ナダレがマグサリオンの不変を罪だと考えてのはそれが彼女本人の本当の願いであるため。
これは本音を隠していたわけでも忘れていたわけでもない、ナダレという名に塗りつぶされたことで本来の自分を押し込められていただけ。
彼女の本来の名前は シータ。
前任者たちと同じくナダレの塗り潰されており、長らく発音することはできなかったが、 マグサリオンに敗北しナダレの任務から解放されると共に再び伝えることができた。今その名を覚えているのは殺戮の荒野と化した宇宙にただ一人。
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