崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE
……それから、驚くほどにあっさりと、山頂に辿り着いた。
ここまで来るのに、何の妨害工作もなかったのは意外というべきか。
あまりにも不自然に思えた。ゴハットが正しければ、本拠地であるはずのこの山頂。あまりにもノーガードである。
決戦の地と呼ぶには、殺風景であった。本当に殺し合いが行われているとは思えなかった。
木々もあらかた撤去され、クリーンな大地に、到底自然から生まれたとは思えない電子の海が乗っかっているのである。
青く、或は黒く光る幾何学的な光が、その山の上で蠢いていた。
欠陥のような赤い糸が青黒い海を駆け巡っている。
臓器──その中でもとりわけ、心臓のようにも見える巨大な物体が、文字通り鼓音を鳴らしていた。
これが、忘却の海レーテである。
孤門一輝と石堀光彦だけが、それを知っていた。この間近で見たのは、彼らと血祭ドウコクだけであった。
◇
「……これから、最後の戦いが始まるのね」
蒼乃美希が、緊張の面持ちで言った。ここまで自分が来ている事が不思議だった。
何か口に出して、その言葉を誰かが拾ってくれて、そうして少しでも誰かと繋がらなければ耐えられないような状態だった。
かつて、管理国家ラビリンスと戦った時よりも、今の美希は恐怖を胸に抱いている。吐き気さえ催されているが、それを必死に飲み込んでいた。この緊張さえ、死ぬほどつらい。何か言葉にして口に出さなければやっていられない。
そうして無意識に出た美希の言葉を拾ったのは、孤門であった。
「ああ。この無意味な殺し合いを終わらせる──完璧にね」
孤門は、美希の口癖で返した。
少しでも緊張を和らがせようとしているようだが、孤門とて命が惜しくないわけがない。──いや、美希以上に、孤門の方がこれからの戦いを恐れているかもしれないほどだ。
年を経るごとにだんだんと受け入れ、諦められていくような死への恐怖が、再び十代の頃のように強くなっていた。
彼には変身する為の道具もなく、最悪の緊急時の為に、パペティアーメモリとアイスエイジメモリが渡されている。片方は、以前使用して暴走しなかったものである。使用が安全な範囲であるとされたのだろうが、それでもやはり極力使いたくはない。パペティアーはその戦闘利用が難しい為か、更に最悪の場合に備えてアイスエイジも支給されている。
同じように、マミにもウェザーメモリが渡されていた。こちらは完全に適合するか否かは、完全に行き当たりばったりの運任せである。一歩間違えばマミの暴走につながりかねない。
とはいえ、それらも所詮は気休めにしかならなそうだった。勿論、恐怖の方が上回っている。
「……孤門さん、ありがとうございます」
「え?」
「一日中、ずっと私に付き添ってくれて」
思えば、孤門と美希とは、この殺し合い始まって以来、殆ど共に行動していた。
強いて言えば、二度ほど美希は単独で行動する羽目になったが、それも結局、美希は深手を負う事もなく孤門のところに帰る事ができている。
そして、今もこうして二人で、忘却の海を前に言葉を交わす事もできるのだ。
決戦の入り口は目の前である。
「私、ウルトラマンっていうのになっちゃったけど……まあ、この力をくれた杏子には悪いけど、本当に私が持つべき力なのかなって今も思うんです」
美希は突然、孤門にそんな事を言った。
もしかすると、これが最後かもしれないと思ったのかもしれない。
孤門が周りを見ると、誰もが、これまで付き添ってきた誰かに言葉をかけている。
それが、孤門にとっては美希だったという事であろうか。
「……だって、孤門さんって、ずっと姫矢さんや千樹憐さんや杏子、色んなデュナミストを支えてきたんですよね」
「いや。支えてなんかいないよ。……僕が支えられてきたんだ。だから、僕が次のウルトラマンっていう事はないと思うし、今は君が持っているべきだと思う」
美希がクスリと笑った。
「孤門さんがみんなを支えて、みんなが孤門さんを支えてきた。……それじゃあ、支え合ってきたっていう事ですね」
孤門が頭を掻いた。
どうも、この子には自分の上を行かれているような気がする。とはいっても、孤門は別段、この子ならば不快感はない。憐を見た後では、自分より頭の良く大人びた年下にプライドを傷つけられる事は、もう当分なさそうである。
彼が情けないと思うのは、こんな女の子をこれから戦力としてここから先に行かせなければならない事だ。
年齢は、十四歳と言っただろうか。
十四歳といえば、孤門はまだ高校の受験の話さえろくに考えておらず、ただレスキュー隊に入ろうという夢だけが頭の中に入っていた頃だ。それからレスキュー隊に入るまでには、五年以上の歳月があった。
夢を叶えるにも、まだ足りない年齢である。
「……ねえ、美希ちゃん。これからやりたい事はある?」
「これから?」
「将来の夢だよ。僕は、昔から誰かを守る仕事につきたかった。……確かにレスキュー隊になれて、ナイトレイダーにもなれた。でも、守れなかった物もたくさんあるから、僕はまだ、全然夢を叶えていないんだ。今はもっとたくさんの人を守りたいと思ってる」
孤門は、これからも生きていく覚悟を確かに持っている。
こんなところで終わるまいと、ここから脱出した後の事まで考えていたのだ。
そんな孤門の前向きさを、美希は受け止めた。
「モデルになるのが私の昔の夢でした。そして、私はそれを叶えたから、次のステップに進みたいと思っています。……今度は、世界に名を轟かすトップモデルになりたいんです」
……結局、美希は孤門の上を行く回答を示してしまった。
彼女も既に一つの夢を叶え、次の夢を追っている。どうやら孤門と同じ場所に立っているようである。
だが、それに関心しつつも、孤門は、そんな美希の夢を守る想いだけは強くした。
「そうか、素敵な夢だね」
「孤門さんも」
「これまで、この殺し合いでそんな夢がいくつも壊されてきたかもしれない。でも、僕は、ここに残っている分は全員守りたいんだ」
美希は、そんな孤門の考えに頷いた。
その時の孤門の表情は、嘘偽りのない精悍さに満ちていた。
孤門が美希を大人びた少女だと認めた以上に、美希は孤門を素直で優しい兄のような人と思っている。
──次に、美希が誰にウルトラマンの光を送るのか、この時に確定した。
◇
「ぶきっ……」
良牙が連れていた子豚が突然、鳴いた。またデイパックから出てきたらしい。
空気穴代わりにデイパックには微弱な隙間を作っているのだが、いつもそこから這い出してしまう。あのあかねとの戦闘を含めて、二回目だ。
「お……?」
良牙は、それに気づいた。
すっかり忘れていたが、こいつも一応、立派な仲間だ。この子豚の健闘がなければ、あかねは元のあかねに戻れなかったかもしれない。
彼女は、この良牙によく似た子豚にPちゃんを重ね、だからこそ正気に戻れたのだ。
「そういえば、お前には前に世話になったな。……そうだ、何かやろう」
そうだ、せめて何か、あのあかねの時の褒美をこの豚にもやろうと──良牙は、自分の頭のバンダナを外し、その豚の首に巻いた。
……とはいえ、良牙の額には、まだバンダナがある。二重、三重……いや、もう多重に巻いていたようである。良牙にとっては武器になるからだろう。
このバンダナは、良牙が気を注入して硬直させればブーメランにもなるしナイフにもなる。彼には布きれでさえ立派な武器だ。特に、山林でサバイバルする羽目になるのが珍しくない彼は、刃物の周りとして手頃なのだろう。
「良牙さん、そのバンダナ、何枚巻いてるんですか?」
不意に、つぼみが訊いた。
今の様子を隣で見ていたのだろう。
「……いっぱいだな。数えた事はない」
「どうしていっぱい買っていっぱい巻く必要があるんですか?」
武器だから、とは答えづらい相手だ。つぼみは優しく、戦いが嫌いな性格である。
正直にこのバンダナを武器のつもりで巻いていると言えば、あんまり良い顔をしないかもしれない。
良牙は誤魔化す事にした。
「そうだな、これは………………気に入ってたから」
「そうなんですか……。それでたくさん持っているんですね」
「あ、ああ……」
全くの嘘であるだけに、どうにも後ろめたさが拭い去れない。
ただ、つぼみも次の一句を切りだしにくいかのように、もじもじとした。
少し躊躇してから、何かを口に出すのはつぼみの方だった。
「あの、良牙さん、もしよろしければ、そのバンダナ、一つ私にもいただけませんか?」
「え?」
「せめて、良牙さんとのお近づきの印です。私たち、お互いに大事な友達を失いましたけど、それでも、良牙さんという大事なお友達ができました。だから……」
つぼみの言っている事は、良牙にもよくわかった。
良牙も、今ではつぼみたちの事を大事な友人の一人に数えている。これまで、友と呼べるような人間が殆どおらず、それが悩みの種でもあった良牙には、ある面では良い一日半になっただろう。大事な武器とは言っても、良牙はまだいくらでもバンダナを所持している。一枚くらいはつぼみに渡そう。全員に配っても足りるかもしれない。
「……まあ、いいぜ。減るもんじゃないしな」
「いや、それ減ると思いますけど……」
つぼみが的確に突っ込んだ。
それから受け取ったバンダナは、本来なら汗がにじんでいてもおかしくないというのに、殆ど埃も汗もなく、新品同様であった。本当にどれだけ巻いているのだろう。幾つも重なっているので、汗がそこまで染みていないようである。
見たところ厚みはないが、こればかりは科学では解明できそうにない。永遠の謎である。
良牙は、少し会話に間が開いてから、つぼみに訊いた。
「で、つぼみは俺に何をくれるんだ?」
「え?」
「元の世界に帰った時に、俺へのお土産として、……まあ、なんだ。記念に少し、残しておこうと思って」
良牙には普段、旅先で土産を買う習慣がある。全国各地、全ての土産をコンプリートしている自信はある。何度も道に迷い、いつの間にか四十七都道府県を全て回るほど──下手をすれば日本の隅から隅まで嘗め尽くすほどにお土産屋を回っている。
しかし、殺し合いの会場に来るのも、そこで異世界の少女と出会うのも、彼にとっては生まれて初めてだ。
つぼみは、自分の体を一通り眺めて、それでも何も気づかなかったようだが、少し経ってから何か閃いたようだった。何か贈れる物に気づいたのだろう。
「……そうですね。じゃあ、このヘアゴムを差し上げます」
髪を二つ束ねたつぼみは、片方の髪を解いた。
つぼみは、黄色い花形の特徴的なヘアゴムをつけていた。正直言えば興味がなかったので、良牙がそのユニークな形に気づくのは今が初めてだ。
つぼみにとっては、お気に入りだが、予備もあるし、それでも足りなければまた買えばいい。──そう、亡き友が住んでいた、あのお隣の家で。
そして、片方だけ縛るのも変なので、つぼみはもう片方のヘアゴムも外した。
「じゃあ、こっちは、こっちの子豚ちゃんに」
そうして、子豚のしっぽには黄色い花が咲いた。バンダナとヘアゴムを巻きつかれて、まるで飼い主に恵まれなかったペットのようである。しかし、どうやらペット本人もまんざらではないらしい。良牙を父、つぼみを母のように思っているかもしれない。
……これから、この子豚は危ない目に遭うかもしれない。デイパックの中に避難してもらいたいと思っていた。
「あっ……ヘアゴムなんて、男の人にあげても仕方がないですか?」
「いや。お土産なんてそんなもんさ。行きたいところへ行くためのお守りになればそれでいい。ありがとう、つぼみ」
お守り。
もし、良牙がそんな物をこの最終決戦の場に持って行けるとしたら、それは本来、天道あかねと雲竜あかりの写真であるべきだっただろう。その写真は、良牙の励ましになる。
しかし、やはり今はそれはいらないと思った。
あかねの姿を見るのは、しばらく勘弁願いたいし、仮に見てしまえば、悲しさと共に殺し合いの主催者への憎しみも湧いてしまうかもしれない。この黄色い花のヘアゴムを、良牙は左手首に通した。
武骨な良牙の手首には、そのファンシーなヘアゴムは不釣合いであった。
しかし、それを見て、つぼみもバンダナを腕に巻いた。
「……良牙さん。実は、私、年上の男の人と友達になるのは初めてかもしれません」
「そうだったのか。……俺なんて、いつも登下校でさえ道に迷って学校にもろくに行けなかったから、友達すら数えるほどしかいないぜ。それに男子校だったからな……こんなに年下の女の子と友達になるのは……ああ、たぶん初めてだ」
「あの、良牙さん、実は────」
つぼみは、少し勇気を絞り出して何かを言おうとした。
「いえ、何でもありません。……それに、やっぱり、これ以上言っても仕方ない事ですから」
そして、やはり結局それだけ言って、良牙が一瞬だけ可愛いと思うくらいに、細やかに笑った。
◇
左翔太郎は、佐倉杏子の方に目をやった。
そういえば、この少女とは、殺し合いが始まってからそうそう時間も経ってない内に遭遇し、それ以来、何度か離れたりまた会ったりして、今また隣にいる。
その度に、杏子の目は変わっていた。
最初に会った時は、彼女は翔太郎を殺すつもりだったのだろう。だが、この杏子は、フェイト・テスタロッサや東せつな、蒼乃美希のように、色んな同性から影響を受けて変わっていった。
最大の功労者は彼女らに譲るが、男性の中で最も彼女を変えられたのは自分であると、翔太郎は自負する。
そんな彼女に、この場を借りて何かを言ってやる必要もあるだろうか。
「杏子、折角だから、戦いの前に一つ願いを聞いてやる。俺が叶えてやるよ」
翔太郎が、ぽんと杏子の頭に手を乗せた。いかにも保護者らしい手つきである。それだけの身長差が二人にはあった。
「は?」
「あらかじめ言っておくが、悪魔の契約じゃないぜ。これは優しいナイトからプリンセスへのプレゼントだ。何がいい? どんな願いでも、俺が体を張って叶えてやる」
翔太郎は気障に言うが、ナイトとプリンセスという設定からするとこんな喋り方は破綻している。
本人がそれに気づいて、わざとお道化ているのか、それとも、全くの天然なのかはわからない。ただ、もしこの場に彼の最大の理解者フィリップの意見を挙げておくなら、「ただの恰好つけ」と答えてくれるだろう。
ふと、翔太郎は暁を思い出して、彼のように下世話な事を言って女心を掴んでみようと思った。
「キスでもいいぜ」
「無理」
「ハグもOKだ」
「最低。大人として恥ずかしくないのか?」
効果なしだったようである。
やはり、暁式ナンパ法は使えそうにない。悔しいが、ナンパに関しては暁の方が一枚上手であろう。既に翔太郎はこの場でナンパに失敗している。逆に、暁が実質成功して守護霊まで獲得している事など翔太郎は知る由もない。
翔太郎らしく言おう。
「そうか。……なら、お前を魔法少女じゃなくしてやるよ」
「……」
その一言に、杏子は翔太郎の方を見た。それから、マミの姿を探した。さやかの事も思い出しただろう。そう、魔法少女の運命から解放される術が、今ならこの場に転がっている。
それは、まぎれもないチャンスだ。
彼はおそらく、それを本命の願いとしている。杏子の身を案じて、その術を力ずくで探すと声をかけてくれているのだ。
しかし、杏子は言葉を返せずに、少し悩んだ。
「……なあ、本当にそんな大それた願いでも、何でもいいのか?」
杏子は、僅かな沈黙の後で訊き返した。これは重要な問題である。
本当に実現するのかはともかく、翔太郎の覚悟は本物だ。彼はきっと、実現の為の自分の力を最大限使う事に躊躇しないだろう。杏子は甘言に騙される事はないだろうと思っていたが、彼になら騙されても良いと思った。
どんな願いでもいいというのなら……。
「ああ。何でも訊いてやる」
翔太郎は迷いなく答えた。
それならば、杏子ももう迷う事はあるまい。
「……じゃあ、あんたが気に入っていて、今被っている、その帽子が欲しい」
「は? 帽子? これが?」
「被り心地が良かったんだ。何より私に似合うんだろ?」
ある戦いを、翔太郎と杏子は絆の証として覚えている。
杏子がウルトラマンとして血祭ドウコクと戦った、昨日の午後の出来事。
この場で今は同盟を組んでいる強敵に一矢報いる為に──いや、もしかすれば杏子自身が変われる為に、翔太郎はこの杏子を一度だけ杏子に預けたのだ。
「……ああ、……ったく、仕方ねえな……こいつは風都でしか手に入らねえWind Scaleっていうブランド物だ。もし、もっと欲しくなったら、今度風都に遊びに来い。街中の人にお前を紹介してやる」
翔太郎は、お気に入りのソフト帽を手放して杏子に渡した。
帽子を被っていないと落ち着かないが、仕方がない。杏子が欲しいと言っているのだ。
やはり、Wind Scaleの帽子をそこまで気に入ってくれたのなら翔太郎も嬉しい。風都特性ブランドの帽子はやはりデザインが一線を画していると言えるだろう。ファッションモデルの美希も興味津々だったほどの帽子である。
そういえば、翔太郎には、(少し変わっているが)異世界を自由に渡れる友人がいる。あいつがまた来てくれれば、きっとここにいる仲間とは生還後もまた会えるだろうし、杏子もWind Scaleの帽子を買いに来る事ができるだろう。その時には一応プレゼントしてやろう。
そう考えていた時、杏子はがさごそとデイパックを漁っていた。
見ると、杏子はデイパックの中から、何やら翔太郎にとって見覚えのある帽子を大量に取り出しているではないか。
「そうか。いつか行くよ。……じゃあ、その代わり、ほら、あんたの事務所でちゃんと拝借しといた帽子がこれだけあるから、こっちを被ってな、ほら」
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ……それだけの数の帽子が次々翔太郎に手渡される。
翔太郎は、一瞬唖然とした様子である。
「って、オイ、帽子あんじゃねえか!! ていうか、それ俺の帽子!! 勝手に!!」
「いや、その帽子は別にいらないよ。……こっちの帽子がいいんだ」
と、杏子が懐かしむようにあの帽子を見た。
その横顔は、まるで生まれたばかりの赤子を見る母のようでもある。と、なると翔太郎はその赤ん坊の祖父か、まあせいぜい年齢的に考えて叔父にでもあたるだろうか。
(そうか、やっぱり……あの時の事が心に残っているのか)
「わかった。そいつはお前にプレゼントする。似合ってるぜ、レディ?」
翔太郎は、杏子が事務所から大量にかっぱらっていたという帽子の山をデイパックに詰め込んで、その中から今の服装に最も似合いそうな黒い帽子を頭に乗せた。
少し調節して、最も良い角度で被る。
杏子も同じく、帽子を被っていた。殆どお揃いである。
「……杏子。本当に、魔法少女をやめるよりもそっちのが大事なのかよ」
「ああ、今はね。それに、さ」
「何だよ」
「……仮面ライダーなら、頼まなくたって、そっちの願いは叶えてくれるんだろ?」
何故か新鮮なその言葉に、翔太郎はどきりとした。
確かに、翔太郎はこのまま杏子を放ってはおく気はない。たとえ、自分がどんな目に遭おうとも彼女を魔法少女のまま放っておくつもりはないし、それまで絶対に魔女にはさせない。彼女だけではなく、泣いている魔法少女たちは全員助けてやりたいと思っている。
「……ったく、がめつい奴だなぁ、お前も。この俺に二つも願いを叶えてもらうってのか」
「あんまり欲張りすぎるとしっぺ返しが来るって、痛いほどわかってるつもりだったんだけど、……でも、これは悪魔の契約じゃないんだろ?」
「……まあ、構わねえぜ。いくらでも聞いてやる。しっぺ返しなんてさせねえよ」
我ながらかっこいい文句が言えた物だ。
翔太郎としても、これは惚れられても文句が言えないレベルである。久々にカッコいい台詞が言えた手ごたえを感じて、自分で自分に惚れそうになったほどである。
しかし、やはりこの年で女子中学生に惚れられるというのは困る。
そういえば、翔太郎は前に銭湯で杏子たち女湯の話題が聞こえた事を思い出した。杏子が魔法少女であるがゆえに恋ひとつできないコンプレックスみたいなものを、翔太郎はそこで耳にしている。
「あ。一応言っとくが、杏子。……魔法少女じゃなくなったからって、俺に惚れるなよ?」
ふざけているのか、本気なのか、翔太郎はすぐに、フォローするようにそう言った。
それを聞いた時、杏子もまた銭湯の一連の会話を思い出したらしい。
その会話に行きつくような手がかりなしに、女の勘が次の一句を発させた。
「────なあ、翔太郎。あんた、まさか、あの銭湯覗いて……」
「は? 人聞きの悪い事言うな! 覗いてねえ、聞こえただけだ!! ……あっ」
「ボロを出したな! 女湯の会話聞くなんて見損なったぞ、翔太郎!!」
「そういうお前だって、ボロを出してるじゃねえか!」
その後、翔太郎は、杏子の呼称が「兄ちゃん」から「翔太郎」になっている事を告げた。
彼女は、今の翔太郎にとってかけがえのない相棒だ。
◇
涼邑零は、一人で思案していた。
これから向かう場には、当然ホラーたちも現れるだろうと推測している。
鋼牙曰く、ホラーであるというガルムやコダマがこの先にいるとなると、やはりソウルメタルを持つ零の存在はこれからの戦いでは必要不可欠だ。
ガルムやコダマの強さは破格だという。零一人で戦う事自体が非常に危険だ。
「いよいよですね、零」
零に声をかけた美女の名はレイジングハート・エクセリオンである。
……どうも、零は人間以外の美女に縁が深いらしい。シルヴァに感じた運命と同種だろうか、このレイジングハートにも何処か惹かれるものがある。
本来の造形を詳しくは知らないが、今も実のところは人間らしい姿には感じない。
人間の形をしたところで、やはり本当の人間に比べると一枚壁を隔てているような違和感はあった。
「ああ。そうだな。このゲームは終わらせる」
「ええ。……しかし、今日までの犠牲も計り知れない物でした。敵を倒したからといって、悲しみや痛みが消えるわけではありません。本当に戦いの傷に終わりは来るのでしょうか」
零は、そんなレイジングハートの言葉に、少し俯いて黙り込んだ。
確かに、御月カオルや倉橋ゴンザに何と言えば良いやら、零にも決心はつかない。
零一人では、彼の家族たちをどれだけ支える事ができようか。
魔戒騎士の力は、その程度の物であった。いくら戦いで勝ったとしても、その後にはしばらく尾を引く傷跡が残る。
世界が経験した幾つもの戦争も、魔戒騎士たちとホラーの古よりの戦いも、全て、簡単には癒えぬ痛みが残り続けている。
魔導輪ザルバが零の指先で言った。
『残念だが、もしかしたら消えないかもしれないな』
「……だな」
零も全くの同感である。
戦いを経験した者、その大事な家族や仲間が生きている限り、悲しみや憎しみ、痛みは消えない。それに、この戦いに限らず、零は元の世界に帰ってからも、また魔戒騎士としての戦いの日々と、──それから、番犬所からの罰が待つだろう。
魔戒騎士同士の争いは掟で禁じられているが、零はそれを元の世界で何度となく破っている。特に零の居所の戒律は厳しい。
「……でも、レイジングハート。誰より悲しみや痛みに震えているのって、実はお前なんじゃないか」
「──」
「……やっぱりな。高町なのはや、その周囲の人間たち……元の世界の知り合いや未来の仲間になるはずだった人が、みんないなくなっちまったっていうんだろ」
冷たいが、それが現実だ。
勿論、元の世界にはそれ以外の仲間もいるが、レイジングハートは既になのはの能力に合わせて最適化されている。しばらくは、レイジングハートを使いこなせる魔導師は現れる事はないだろうし、これから帰っていける場所はない。
零は、そんなレイジングハートに自分を重ねた。
「なあ、レイジングハート。俺も実は、帰ったらしばらく一人なんだ。……一緒に、俺の世界で、ホラーを倒す旅をしないか?」
「一人? それでは、ザルバは?」
『俺様は、次の黄金騎士が現れるまで、しばらくは冴島家で眠りにつくつもりだ。零と一緒にはいられない。次代の黄金騎士が現れるのは、明日か、それとも百年後かもわからないな』
「……」
初めは敵であったが、零は今やレイジングハートの立派な仲間である。
零の提案も、決して悪い申し出だとは思わなかった。
むしろ、レイジングハートにしてみれば、ここにいる人間たちの住む管理外世界は興味深い場所でもあるだろう。
『俺からも言っておくが、零の話は別に悪い提案じゃないと思うぜ? あんたのいた場所では、異世界同士を繋ぐ船があるんだろ? 戻りたい時に元の世界の仲間に会う事だってできるはずだ』
「……」
『零の奴もすっかりあんたに惚れこんでいるみたいだぜ、行くあてがない同士なら丁度良い』
惚れこんでいる、という意味は文字通り恋愛感情があるというわけではないが、ある意味ではそれに近くもある。彼女の美を知り、共に旅をしながら、バラゴの事や魔戒騎士の事を知ってもらおうという計らいもあるのだろう。
「……わかりました。では、その時までに考えておきます」
時間は刻一刻と近づいている。
誰もが、おそらくお互いの別れをどこかで惜しんでいるのだろう。
だから、こうして誰かを自分の世界につなげておきたいと、本気で思っている。
いつかまた会えるかもしれないとは言えど、それがどんなに遠くになるかわからない不安を抱え込んでいるのだ。
「シルヴァが修復されたら、嫉妬するかな」
零は、苦笑した。
◇
巴マミと桃園ラブは、周囲を見て肩を竦めた。
どうやら、周りの女性という女性は須らく男性パートナーのような物がいるらしい。
ラブにもいないわけではないが、その涼村暁は今、到底話しかけられるような状態ではなかった。ラブも、今の彼が石堀光彦の危険性を察知して気にかけている事はよく理解していた。今は話しかけない方が良いだろう。
自分たちだけ、女子二人で肩を寄せている。
「本当にこれで殺し合いは終わるのかしら?」
マミは、ラブに堪えられない疑問と不安を打ち明けた。
彼女だけが抱いている心配ではないようだが、それをはっきり漏らしたのはマミだけである。このゲーム、もしかしたら果てのない物かもしれないと思えたのだ。
「どういう事ですか?」
「これだけの規模の殺し合いを開く相手が、どうして私たちの目と鼻の先で全て見るような真似をしているのか、気になったの」
「それは……」
「変だと思わない? 囮っていう事はないかしら……。この先に爆弾がしかけられているとか、そういう事は考えられない?」
やはり、不安は尽きないようだ。勿論、心配性はこの場においては悪い事ではない。
いくつもの危険な可能性を挙げていき、それを疑い続け、修繕した結果、あらゆる問題は未然に防がれていく。
「爆弾なんかが仕掛けられている可能性は、おそらく低いよ」
横から口を挟んだのは、沖一也である。彼は、ここで二人の会話を聞いていたらしい。
しかし、一也はこういう時は最も役立つエキスパートである。悪の組織の基地に侵入した回数ならば、この中の残りメンバーの中ではトップであろう。爆弾で基地ごと吹き飛ばされかける事もある。
「何故ですか?」
「この基地がおそらく……囮だからだ」
その返答に、ラブが首をかしげていた。
囮、と言われてもピンと来るところがなかったのだ。だいたい、何故囮だとわかっているのならそれを教えず、そこに向かおうとするのかもわからない。
「ゲームメーカーが地下施設を作ってまでやりたい事がわかったんだ。地下には、おそらく加頭や放送担当者をはじめとする、ゲームに直接関係のない幹部はいるかもしれないが、首領はいない」
「え?」
「かつて、本郷さんと一文字さんがゲルショッカーを滅ぼした時の事だ──。その首領を倒した事で、ゲルショッカーは滅んだ。しかし、実はそれ自体は、次に生まれる新たな組織を目下で再編する為の囮、影武者だった」
かなり昔の話に遡るが、一也は自分の知るダブルライダーの武勇伝をデータの一つとして引きだしていた。
その話は、二名にとっては少し理解し難い物だったかもしれない。
「確かにその直後、爆弾で基地が吹き飛ばされたものの、ダブルライダーは脱出した。しかし、今回の基地はおそらく、そういった爆弾は設置されてはいないだろう。俺たちを爆弾で吹き飛ばしてしまえば、ダブルライダーのように『この事件が無事に解決した』と考えて証明する証人はいなくなってしまう」
「……でも、沖さん。このゲームの主催者が、ゲルショッカー? と同じ事を考えているという考えは一体どこから出てきたんですか?」
「この島の外に、別の存在がいるのをバットショットで確認したんだ。この地下施設そのものは、おそらく捨て駒や囮だろう。『ベリアル帝国』の首領がいるのは、ここじゃないはずだ。何故、正体を現さずに島の外で見張る必要があるのかを考えたが、やはり……この殺し合いを捨てて、次の野望を考えている可能性が高い。俺たちには、脱出の為の希望は残されているが、諸悪を叩くのはもっと小さな希望かもしれない……」
一也は、もはやそれを仲間に伝えてもいい段階だと理解していた。
しかし、どうやら伝えられるのはこの二名だけである。
今は、全員が取り込んでいる。こういう休息も必要である。
「倒しているようで、それは本当に諸悪の根源を倒した事になっていないっていう事ですね?」
たとえば、ここで戦いを終えて安心して帰って、まだ敵が生きていようものならば、その存在はまた悪事を繰り返すに違いない。
そう簡単に懲りるような相手ではなさそうである。
これからしばらく悪事を侵さないとしても、時空管理局らが必ず見つけ出すであろう。
「……でも、マミさん、沖さん。もし……もし、これから先の世界でも悪いやつが残っていて、またこんな事を繰り返そうって思っていたら、一体どうするんですか?」
「どうするって……それは……」
ラブに訊かれてうろたえるのはマミだった。
一也は既に覚悟を固めているらしい。
「……私はわかってますよ。二人は、正義の味方だから、きっとここにいる一緒に立ち向かってくれるって」
そうラブが言った時、マミの胸を何かが直撃する感覚がした。
マミにとって、懐かしい一言である。
正義の味方。──この場では、あまりに臭すぎて誰もそんな言葉を使っていなかったのである。その曖昧な定義の言葉は誰も率先して使おうとしなかったのだろう。
この中にいる、「正義の味方」と認定できるであろう仲間は、みな、自分を正義と思うよりもまず、目の前で困っている者を見捨てられない人間というだけであった。正義というより、己の主義に従順なのである。「正義の是非を問う」というテーマは流行るが、やはりそれは答えのない話題であって、続けるだけナンセンスなのかもしれない。
だからこそ、マミはこの頃、それをあまり連呼するのを耐えかねたのかもしれない。
「……そうね。でも、桃園さん、やっぱり一つ訂正があるわ。ここにいる私たちは、正義の味方じゃなくて、巴マミと、沖一也と、桃園ラブよ」
「え?」
「困っている人を放っておけない人、誰かを守りたいと思う人、希望を捨てない人、諦めない人……そして、誰かを幸せにしようとする人。ここにいたら、それを、『正義の味方』なんていう一言で片づけちゃいけないと思ったの」
これまでのマミの生活で、「正義の味方」というのは、テレビ番組や自伝小説の中で映っている存在であった。そこからの影響が大きく、生の目で正義の味方を見た事はない。
だが、マミはおそらく、天然で、何も意識せずに「正義の味方」であれる桃園ラブと出会った。おそらく、マミが己の命を賭けてでもラブを守りたいと願ったのは、そんなラブを助けたいと思ったからだろう。
マミは、これまで正義の味方であろうとしてきた。自分の中にそれだけの器があるのか、何度悩んだ事だろう。
ラブや一也は、ただマミの理想通りの正義の味方だった。何も意識する事なく、ただ脊髄がそのように彼女を動かしていた。いや、彼女だけではなく、ここにいるたくさんの人が同じく、ただ生きていく事が「正義の味方」のようだったのだ。
「『正義の味方』なんて言葉に従わずに……自分が自分であるままに、誰かの支えになる生き方がしたい。そして、きっと、いずれ会った時も、私は巴マミのままでいるわ。だから、そんな私を信じてくれる……?」
「……はい! 本当はずっと、正義の味方っていう言葉よりも、……私はマミさんの事を信じていましたから。だって、マミさんはマミさんのままで、カッコいいんですもん」
二人は、それから笑った。
仮にもし、この先でゲームの主催者を倒した時、そこからまた逃げている者がいたとしても、絶対に過ちは繰り返させない。
二人ならできる。
巴マミと、桃園ラブならば──。
「そうか。君たちは頼もしいな」
一也が、そんな二人の様子を見て微笑んだ。
それは、これまでにない笑顔であった。誰よりも戦いに年期のある仮面ライダーとして、彼女たちの考えを認めてあげなければならないと思ったのだろう。
過ちを正すのも仕事だが、彼の思想上は、彼女たちの気づいた事は誇っていい考え方である。
「ある人が言っていた。仮面ライダーは、正義の為に戦うんじゃない。人間の自由と平和の為に戦うんだと」
正義という言葉は、あまり使わない方が良い、と。
それならば、人間の自由と平和の為に戦う方が、ずっとヒーローである、と。
そんな言葉をかけられた記憶がある。
その「ある人」が誰なのか──沖一也の物語を追っても明かされる事はないだろう。
しかし、仮面ライダーと呼ばれた者たちには、おそらく、いつかその格言を聞き、心に留める日が来る事になる運命にあった。
「……あ。『天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ! 俺は正義の戦士!』なんて名乗る仮面ライダーもいるけど、あの人は特別だから」
正義。その言葉は曖昧であるが、おおよその形式は固まっている。
誰かを助ける事や、人を殺し合わせる蛮行を食い止める姿勢は、現代の社会では間違いなく正義に近い行いであると思われるだろう。
しかし、その手段の是非は明確には、それらの言葉では測れない。悪事を行う根源を、武力によって鎮静し、その脅威の命を絶つ所まで正義とは言えないのである。
あくまで、「正義」と「悪」が存在するのは限られた状況であり、「食い止める」というところまでは正義であっても、「倒す」ところまでは正義とは言えない。その仮面ライダーは、きっと、「倒す」ではなく、「悪を止め、人々を救う」ところまでを正義と定義して叫んでいるのだろう。
悪を食い止め、脅かされる人々を助ける為に、天と地と人が呼んだ、「正義」。
しかし、そこから先、敵を倒すのは、正義ではなく、彼が判断した「最後の手段」なのである。この部分は、「正義」と「悪」の二極で測った場合、おそらくはどちらの理屈も破綻するので、これらの言葉でカバーできる範囲ではない。
殺人は犯罪だが、彼らの「正当防衛」、「過剰防衛」を図れるはずはないのである。
「……はぁ」
その仮面ライダーに全く心当たりはないラブたちは額に汗を浮かべる。
ともかく、一也は「正義の味方」という言葉で定義される範囲が、この殺し合いの最中でも有効とは思えない状況に気づいた彼女を優秀な相手だと思った。
これから先、誰かを守ったり、悪徳を犯したりする相手を、「殺す」という形で果たさなければならないが、そこには「正義」はない。しかし、間違った行いではないのである。
ゆえに、時に「正義」であり、普段は「正義」ではない一也が、彼女たちにかける言葉は、ただ一つ。
「君たちは君たちでいい。間違った事なんて何もしていないんだから。それは、俺たちが保障する。俺は人間の自由と平和の為に戦う。だから、君たちも、自分の信じる大切なものの為に戦ってくれ」
◇
「……辞世の句、みてえなもんか」
血祭ドウコクは、外道シンケンレッドを横に携えて、レーテの前に群がる人間の兵士たちの様子を、一見すると興味なさそうに眺めていた。
彼からすれば、一人一人の行動は少々理解し難い。戦いの前に誰かとくだらない世間話をしているようである。ただ、それがおそらく、人間たちの中では意味のある行動であろうとドウコクも薄々感じる事ができた。
だからこそ、彼は、この時ばかりは水を差す事なく、その光景を静観していたのだろう。
「てめえも、少しは何か感じるか? 志葉の──」
外道シンケンレッドは、そう言われてドウコクの方に体を向けた。
だが、そのゆっくりとしたモーションからは、およそ人気味を感じられなかった。
ドウコクの一生で見てきた人間の所作とは、やはり違った。
「……感じねえか。無理もねえ。感情らしいモンが抜け落ちてるからな」
言葉に反応する事はあるが、それはおよそ人の要素を感じさせない抜け殻のような物だった。仮にもし、志葉丈瑠の魂であるなら、せめて思案する様子は見せるだろう。
しかし、丈瑠は死に、外道として魂もない存在がここに在る。
殺し合いに乗り、三途の川にさえ見初められた怪物。
はぐれ外道の中のはぐれ外道。その魂は、今どこにあるのだろうか。
あるとすれば、どこかでこのはぐれ外道の姿を欲するのだろうか。
「まあいい。これが奴らにとっての盃だ。あまり長引くようなら叩き斬るが、どうやらもうそろそろ、幕を引いてくれるらしい」
ドウコクが、そう言うと同時に、ある男が、一言口を開いた。
◇
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最終更新:2015年07月13日 21:53