著:二畳庵主人 、 加地 伸行
言わずとしれた最強の参考書。
大学受験と言わず、漢文を本気で学びたい向け。文庫ながら500ベージを超える大著であり即効性を求めるなら向かない。
文末に伝説のポルノ漢文を収録してみました。ただし、今日的感覚からすると性的な表現は一切ないので期待外れかもしれません。噂が先行した感じがどうも否めないですね。
基礎とは何か-基礎の意味-
1.それでは、基礎とはなにか。二畳庵先生が考える基礎ということばは、基礎医学とか、基礎物理研究所といったことばで使われているような意味なんだ。いやいや、なにも難しいことじゃないんだ。こんなことわざを知っているか。「魚つりは、フナつりに始まってフナつりに終わる」。
2.魚つりをする人は、最初は池あたりでフナつりから始めると言う。やさしいからである。そのうちに、もっと高度なつりを望み出す。川へ行く、季節を考える。海に行く、夜づりをする、といったグアイに、高度になってゆく。さてしかし、そういうバラエティに富んだ経験を経たのち、またフナつりにもどると言う。しかし、このときのフナつりは、決して魚つりを始めたころのフナつり技術ではない。さまざまな経験を経た上のフナつりだ。この境地が楽しいと言う。もっと言えば、もう釣竿なんかいらない。それは言いすぎか。ただし、釣竿はあっても、釣糸はなし。ただ釣竿だけを池の水上に向けて差し出す。そして、無念無想、なにも考えずにじっとしていて、心の中で、魚が餌に食いついたと感じると、さっと釣竿を引く。こういう名人の境地に最後はなるんだなあ。ホント。
3.私の言おうとする基礎とは、あれこれ経験を経たのちの最後の段階のフナつりに当たる。初歩的知識というのは、魚つりを始めるころのフナつりを指している。最後の境地のフナつりは、形こそフナつりで同じだが、その内容は、まったく異なるのだ。基礎というのは、初歩的知識に対して、いったいそれはいかなる意味を持っているのか、ということ。つまりその本質を反省することなのである。初歩的知識を確認したり、初歩的知識を覚える、といったことではなく、その初歩的知識を材料にして、それのもっている本質を根本的に反省するということなのだ。I
am a
boy.という文ひとつを見ても、その文の構造を徹底的に反省し、その第二文型というものの持っている意味を根本的に反省するということ、これが基礎の勉強なのである。それは、英語の学習を中学校以来、さまざまに学んできた経験を有する受験生諸君にして初めてできることなのだ。abc
を習いたての中学一年坊主は、トテモそんな芸当はできない。I am a
boy.という文を覚えるだけで精一杯だ。つまり、初歩的知識の吸収で精一杯なんだ。「魚つりは、フナつりに始まってフナつりに終わる」。これが初歩と基礎との違いであり、この基礎を養うところに意味があるのだ。この本がねらっているのは、そういう意味の「基礎」なのである。だから、諸君が漢文の初歩をすでに知っているということを前提として話を進めたい。
P34 ~ 35
第二部 助字編
人牧 rén mù 人が養う→君主
牧人 mù rén 牧畜をする人、役人。
漢文・中国語は語順で意味が変わってしまう。なので語順が大事。
漢辞海P65
①:用(もちいる)の意の動詞
以テレ人ヲ治ムレ人ヲYǐ
rénzhì rén 人を以て人を治む
②:前置詞の以
以テレ善ヲ及ボスレ人ニYǐ
shàn jí rén 善を以て人に及ぼす
原則的に②の様に 名詞句の前において述語に対して手段や方法を補足する。
以A(二)B【Bは名詞句】(一) 「AをもってBする」と訓読する
例文~以テレ徳ヲ報ルレ怨ミニYǐ
dé bàoyuàn 徳をもって怨みに報いる
③:(名詞句)述語の後に置くパターン。
B以(二)A(一) BするにAをもってす
報イルニレ怨ミニ以テスレ徳ヲ怨みに報いるに徳を以てす
授之以政 Shòu zhī yǐ zhèng これをさずくるにまつりごとを以てす
④:後置するパターン A以(Aもって)
忠臣以テ得タリレ之ヲZhōngchén yǐ dé zhī
忠臣以て之を得たり
通常は以二忠臣一(忠臣を以て)とするところを、後置するパターンもある。
以是Yǐ shì
これをもって以テレ是ヲ:是は何かある特定のものを指す
例外~是以(ここをもって)是ヲ以テ:こういうわけで 接続詞として使う
可以敬為主kěyǐ jìng wéi zhǔ
礼以行之、孫以出之、信以成之lǐ yǐ xíng zhī, sūn yǐ chū zhī, xìn yǐ chéng zhī
以A為B Yǐ A wèi B Aヲ以テBト為ス 意味はAとBとが等しい、AをBとみなす
(3)而 然 Ér rán
順接、逆接どちらもあるので、文脈で判断するしかない。
無極即太極也。無極而太極。Wújí jí tàijí yě. Wújí ér tàijí.
人而不仁、如礼何。Rén ér bùrén, rú lǐ hé.
而 漢辞海P1138
然 漢辞海P875
順接の場合 しかシテ しこうシテ
逆接の場合 しかルニ しかレドモ しかモ ドモ
(4)其 此 彼 夫Qí cǐ bǐ fū
其:漢辞海P141
①接続詞の其
②所有代名詞 先治其国、先斉其家、先修其身。
③強意、感嘆
流言其レ興ランLiúyán qí xìng
流言其れ興らん デマがおこるだろうよ
知而不行 其富巨高 Zhī ér bùxíng qí fù jù gāo
此:これ 近いもの
彼:かれ 遠いもの
(5)於Yú于yú乎hū諸zhū
於(漢辞海P647)
三年無改、於父之道
三年父の道に改めず。
於yú・于 yúは原則的に「に」を使う
于(漢辞海P47)
述部の前の前置詞「于」(於)
于(ニ)A(一)「動詞」⇒Aニ于イテ動詞ス と訓読する
于今三年 于イテレ今ニ三年ナリ今に于いて三年なりyú jīn sān
nián
述部の後の前置詞「于」(於)
動詞(ニ)于A(一) ⇒Aニ動詞ス と訓読
受禄于天shòu lù yú tiān
禄を天に受く
乎(漢辞海P37)
乎は「に」の他に「を」を使う場合もある
運用之妙存乎一心yùnyòng zhī miào cún yīxīn
運用の妙一心に存す
諸(漢辞海P1316)
之於Zhī yúの合成音としての諸Zhū
学問固不当求諸瞑想、亦不当求諸書冊。Xuéwèn gù bùdāng qiú zhū míngxiǎng, yì bùdāng qiú zhūshū
cè.
示諸斯shì zhū sī ⇒示之於斯 shì zhī yú sī
えば、「若……然」の説明。
ところで「若……然」というタイプがある。例えば、
若視其肺肝然
という文。(中略)「其の肺肝を視るがごとくしかり」と読むことになる。「その肺肝を視るのしかるがごとし」と読んではいけない。(中略)興味深いことに、現代中国語にもそれが投影されている。(中略)例えば、
好像飛機一様(「飛機」は「飛行機」のこと)
は、「好(あたか)も飛機に像(かたど)りて一様なり」或いは「好(よ)く飛機に像りて一様なり」「飛機に像ることを好くして一様なり」とでも訓読できるタイプで、「若飛機然」(飛機のごとくしかり)と同じようなものである。(p.188-190)
所謂いわゆる
所以ゆえん
加之しかのみならず
上記の読み方が定められたのは明治45年官報 漢文教授に
本来は色々な読み方があった
所謂 いうところの
所以 もって~するところ
加之 これに加ふるに
(7)所
I LOVE YOU
愛者 愛する者〰行為者
所愛 愛するところ〜受動の意味
A:the boy who loves C
the girl whom A loves
Aは愛者
C=(A之)所愛 whom A loves
英語の関係代名詞には先行詞が必ずあるが、
所は必ずしも先行詞がない。(代名詞そのものだから)
所というのは、対象化する働きをもつ語である。
所愛は愛するという行為の対象であり、愛する相手である
漢辞海では下記のようにかかれている。
動詞または動詞句の前に置き、それらを体言化する。
所二動詞一
所三動詞二目的語一 「目的語を(に)動詞するところ」
(28)自・従
文語(漢文)では 自・・・至
口語(白話)では 従・・・到
自:漢辞海P1172 前置詞~より 時間や場所の起点を表す。
有朋自遠方来
従:前置詞 よーり
従台上弾人 台上従(よ)り人に弾く
共に同義である「自従(より)」とすることもある
至~至レ今為悔 今に至り悔と為す
自十日至十五日
伝説のポルノ漢文全文
山陰公主淫恣。悦猪彦回、以白帝。帝召彦回上閣宿十日。
公主夜就之、備見逼迫。彦回整身而立、從夕至曉、略不移志。
公主謂曰「君須髯如戟、何無丈夫意。」彦回曰、回雖不敏、何敢首為亂階。
山陰公主淫恣。悦ニ猪彦回一ヲ、以白帝。帝召ニシ彦回ヲ上閣一ニ宿十日。
公主夜ゴト就レキ之ニ、備見逼迫。彦回整へレ身ヲ而立チ、從リレ夕至レル曉ニ、略不移志。
公主謂ヒテ曰ク「君須髯如レ戟、何無丈夫意。」彦回曰ク、回雖モ二不敏ト一、何ゾ敢テ首為サンヤト二亂階ヲ一。
山陰公主=皇女の名。 褚彦回 = 人名 須髯=あごひげ
問題 1「以白帝」の読みかたをひらがなで示せ。かつ具体的に訳せ。(3点)
「宿十日」を書き下し文にせよ。 (3点)
「備見逼迫」を書き下し文にせよ。 (4点)
「略不移志」を書き下し文にせよ。 (4点)
「君須髯如レ戟、何無丈夫意。」の前句は、どういうことを暗喩しているのか。十字以内で述べよ。
翻訳
山陰公主(お姫様)は色事が好きな人でした。特に猪彦回という男が気に入って、父である帝に言ってお願いしました。帝は彦回を傍に召し出して、帝の傍の警備のための宿直を10日間命じました。公主は毎夜、彼のそばまで、迫りました。しかし彦回は夕方から朝まで直立したままで、気持ちを少しも移さず、誘惑されませんでした。公主は、「あなたのあご髯は戟のようにぴんと張っているのに、あなたの男心はどこにあるの?」と聞くと彦回は答えました。「わたくしは不器用で田舎者でございますが、どうしてこの、戟であなたを殺せましょう」
https://note.com/alan_jiro/n/n26d9d358bd55
『漢文法基礎』存疑