湿った風が駆け抜けていく。夕暮れ前の風はあるものには心地よく体を癒してくれ、あるものには季節を感じさせ哀愁を帯びるように思わせる。
それでも全てのものに平等に風は通り抜けていく。壁が壊された図書館に横たわる一人の青年にも、風はやさしく全身をつつみこんでいく。金色の髪がフワリとなびいた。その脇で風に煽られた鎧の破片がカラン、と子守唄かのように優しく鳴いた。

「……クッ…………!」

青年、ディオ・ブランドーは左手の痛みに目を覚ます。その場で起き上がろうとすると痛みは何も左手だけでなく体全身からため間なく響いていることにディオは気付き顔をしかめた。
このままもう一度寝てしまいたいと思えるほど、どうしようもなく体は重かった。

「このディオが……無様だ」

だがそれでもディオは起きあがる。気を抜けばあっという間に眠りに落ちそうな自分に鞭をうち、まずは上半身をその場でおこしあぐらをかくような姿勢をとる。まずは怪我の具合を調べること、そう思いディオは身体中をチェックしていく。
真っ先に目につくのはなくなってしまった左手。他の傷と違い一応処置はしてあるものの、ただ単に布を巻き付けたきつく縛っただけ。本来のきちんとした処置にはほど遠い。このまま放っておいたら間違いなく手遅れになることはディオでもわかった。
とは言っても医術の心得もなく医者でもないディオでは適切な処置などわかりやしない。

だがこのままなにもしないでいたらそれこそ死ぬ、そう結論付けたディオは崩壊した壁に近づき垂れ下がっているカーテンの中でも比較的きれいなものを千切る。
スタンドを傍らに呼び出し、二本の右腕を使い左手の切断面と脇辺りにある左腕の動脈らしき部分をきつく縛る。痛くなるほどのカーテンの圧迫に眉を潜めながらもそのまま心臓より高く左腕をあげておく。
続いてデイバッグの中身を漁り、水分と言えるもの全てを取り出す。基本支給品であるペットボトルの水、ランダム支給品であるチャーイ。貧乏くさいと言いきったのは自分だったが命にはかえられない。
水を飲みほし、チャーイの入った水筒も空にする。失われた血液を補うためにもディオは水分を可能な限り摂取したかったのだ。
尤もそれが正しいかどうかはディオにはわからない。うろ覚えの知識を元に最善を尽くしたのみ、素人のディオにとってはこれが限界だった。

「やれることはやった、後は俺の生命力の問題…。死にたくないという意志が肉体を凌駕すれば…俺は死なないはずだッ………!」

そう言うとディオは立ち上がり痛む左手を抑え、体を休ませようと寝室へ向かって歩いていく。だがその途中で貧血から体がクラリと揺れ、足元を何かにとられたディオは床に倒れる。
普段の自分では考えられない無様な姿に悪態を吐きながら、再び起きあがる。同時に自分が何につまずいたのかに気付いたディオは怒りを露にする。

「タルカスッ…!」

八つ当たりのようにつまずいた鎧の欠片を力いっぱい蹴り飛ばす。吹き抜けの図書室にカラン、と乾いた音が響く。
自分をこんな目にした吉良は当然許せない。しかしタルカスにしても自分の命令に従わず、それどころ下手したら自分の身を危険に晒したのだ。
ディオは改めてタルカスに対して怒りが沸き起こるのを感じた。

「くずめッ」

鎧に唾を吐きかけると振り向きもせずにその場を立ち去る。
タルカスがどうなったか、何故ここにいないのか、ディオにはわからない。だがもはやどうでもいいことだった。
部下を慕う気もなく、気にかける様子も見せず、ディオはその場を後にした。

重い体をひきずり階段を昇る。向かう先は一つ上の階のベットルーム、そこで休息をとること。タルカスはいない、リンゴォも姿が見えない。DIOの館はまるで持ち主の様子を表すように、ボロボロで空っぽだった。
それでも、誇りだけは失わずディオは立ち上がり自らの足で立ち続ける。悠然と立ち尽くす館も同様に多くの参加者を惹き付ける。
魔力のように参加者を呼び集める、DIOの館。それもディオ・ブランドーという男の力なのだろう。

「…? なんだ?」

随分と時間をかけながらも二階にたどり着いた時、ディオの耳が叫び声をとらえた。男のものと女のもの、それに紛れ鈍い打撃音も聞こえてくる。
戦っているやつらがいるのか……だとしたら厄介だな、とディオは舌打ちをする。
今ここで休んだらどうなるかわかったものではないがかといって自身の体調は戦闘を行うには相応しくない、どうしたものかと考えを巡らせる。
とにかく情報が欲しい、戦っているものがどんな人物なのか、どんなスタンドを使い、どちらがどれだけダメージを負っているのか。
ベットルームには向かわず中庭が見渡せる窓へと向かっていく。頭の中では考えるのをやめない。
やり方によっては今の自分でも勝つことができるかもしれない。なんせ今やホワイトスネイクは完全に自分のものとなったのだから。
だがそんな余裕に近い思考もはるか彼方へと吹き飛ぶ衝撃。まるで雷にうたれたかのようにディオに走る電流。
覗きこんだ中庭にいた人物はあまりにディオにとって意外でまた、見慣れていて、そして見たことのない表情をしていたから。

「ジョジョ……」

自分の声が馬鹿みたい間が抜けたものであることをディオ自覚した。だが仕方のないことだろう。
そこにいた男はディオの記憶と何一つ変わらなかったのに、同一人物とは思えなかったのだから。

「ディオ……」

日が沈む。






中庭に走る緊張感。ピリピリと皮膚を焼き尽くすような圧倒的圧迫感。人が殺し、殺される時に流れる特有の雰囲気にJ・ガイルの皮膚が無意識に泡立つ。
だがそれを自分自身の体で味わうことができないのが心底惜しく思える。彼にとってその感覚は大の好物で、なににも代えられないものだった。
J・ガイルはスタンドである『ハングドマン』で徐倫の様子をうかがう。正直な話、死んだかどうかは確信がなかった。相当のダメージを負っていることは脇で見ていた分客観的に判断できたし、出血量からみてもそれは間違いない。
ハイエナがライオンの食い残しを狙うようにJ・ガイルはジョナサンのおこぼれにありつくために声をかけた。生きているなら生きているで、お楽しみを満喫、死体なら死体でまた違った楽しみかたがある。そのためにわざわざジョナサンを助け、『女』を標的とした。
J・ガイルは自分の本能のままに動き、まるで殺しを日常生活のひとこまかのようにしか考えていなかった。

「ククク…」

そして事態はどうやらJ・ガイルにとって都合のいいほうへと動きだしているようだった。
ジョジョと呼ばれた男はもはや女に興味を見せず、館に向き直ったまま凍ったようにその場を動かない。まるで無防備のその背中にザクッと切りつけるもよし、真正面からブスリと心臓を一刺しするのも一興だろう。
もう一人、ディオと呼ばれた男は二階からこちらを見下ろしている。一応射程距離には入っているし、無警戒なようすからこちらも攻撃することは可能だろうがJ・ガイルは手を出さない。
自分の記憶の中のDIOとは違うもののどこか面影の残るその存在に攻撃を仕掛けるのは得策ではないだろうし、もし本人だったら大変なことになる。

「それにどうやらお取り込み中のようだしな…」

そうなると自然とJ・ガイルの視線は残りの一人に向けられる。塀にもたれノックダウンした彼女をみてJ・ガイルはニヤッと笑った。
何も問題はない、二人がお取り込み中なら自分は待ち時間をのんびり過ごせばいいだけだ。
それにすぐに終わりそうな雰囲気じゃないしな、と自分の中で結論付けると、ハンクドマンを操り徐倫の生死を確認するため近づこうとする。
が、その直前、何かを思い出したように動きを止めると笑いを漏らしながら口を開いた。

「なぁ、どうせお前もいるんだろ、アンジェロ……だったら一緒に楽しもうぜ…………!」

次の瞬間、徐倫の周りの空気が歪む。蜃気楼のように一瞬霞がかかり、水滴が集まり出すとアンジェロのスタンド、アクア・ネックレスが姿を表す。

「J・ガイル…………ッ! てめぇ絶対ぶっ殺してやるッ!!」
「ククク……やめとけ、やめとけ。意気がったところでどうにもなんねぇよ、アンジェロさんよォ。俺のスタンドとお前のスタンドじゃ勝負はつかねえよ」

見つめ合うスタンド同士、新たな館の来訪者に緊張感は益々高まっていく。更なる混沌が訪れるも不気味なほど辺りは静寂に包まれる。
誰一人動くきっかけのないまま四人は黙り、互いの相手を睨み付けるのみ。四者四様の想いを抱いたまま、時計の秒針は止まらない。
そのままどのぐらい時間がたったか、静寂を破ったのはブゥン……という低い唸り声に似た物音。徐倫が乗り捨て門の向こうへ消えたはずのバイクのエンジン音が、たちまち大きく騒音とまで言える音を奏で迫ってくる。四人はそれでも動かない。
互いを牽制しあい、警戒し、何を口にすればいいのかもわからない内にバイクは門をくぐり中庭へと侵入してきた。

「シルバー・チャリオッツ!」

沈みかけた夕日がキラリとバイクのボディを反射し光輝く。真っ赤な光を浴び傍らに並び立つ騎士の鎧も普段と違った輝きを見せる。中庭に飛び込んできた男ポルナレフが急ブレーキをかけると砂ぼこりを巻き上げながらバイクは横向きに止まった。
八つの目線が突然の客に突き刺さる。それでも彼は動じず一つ一つの視線をにらみ返し、そして一人の男を見つけると拳をつよく握る。

「J・ガイル……ッ!」

真っ先に動いたのはそのJ・ガイル。窓から窓へと文字通り光の速さで飛び移り、三次元的な攻撃を仕掛けんとポルナレフへ迫っていく。
同時に動いたのはアンジェロ、水蒸気である自分のスタンドを生かし相手の攻撃を恐れることなくシルバー・チャリオッツへと一直線に向かっていく。
J・ガイルとの道中、互いの『獲物』を言い合った時、J・ガイルが挙げた特徴が目の前の男と一致した。だからこそアンジェロはより速く、躊躇うことなく動き出す。
これ以上J・ガイルをいい気にさせるのは我慢ならない、目の前で『獲物』を横取りしJ・ガイルの鼻をあかしてやろう、そうアンジェロは思ったのだ。

ポルナレフへと襲いかかるアクア・ネックレス。水蒸気のまま内部に侵入、風船を割るように体内からバラバラにしてやろうとフェイントをいくつかいれつつ、狙いを口元に定める。
それを一閃、シルバー・チャリオッツの一撃は正確にアクア・ネックレスを真っ二つに叩き切る。そしてそれだけには終わらない。
数々のスタンド使いとの戦いの中で、ポルナレフはアクア・ネックレスのようなスタンドに斬撃が効果的でないことはわかっていた。それでもレイピアを振り、突き、切り上げる。ポルナレフの狙いは相手を倒すことでなかったのだから。
アクア・ネックレスが形をなさないようにめった切りにし、時間を稼ぐのがポルナレフの狙いだった。アクア・ネックレスが足止めされていることを確認すると、塀の脇にうずくまる少女の元へ向かい様子を見る。
意識がなく呼吸は浅い。戦場と化しているこの場を離れるため、少女を抱き抱えると手のひらにヌメリとした液体がこびりつく。髪の毛の間から流れ出た真っ赤な液体を見て内心焦りを感じるも、ポルナレフは自分自身に強く言い聞かせた。
まだ死んじゃいない、まだ助けられる、と。


「隙だらけだな、ポルナレフ」

そんなポルナレフに襲いかからんと迫るハンクドマン。シルバー・チャリオッツは未だアクア・ネックレスにつきっきり、がら空きの本体はお荷物まで抱えている状態。とてもじゃないが避けることはできないだろう。
だがポルナレフの死角から襲いかかろうとバイクのミラーへ移りかけたその刹那、J・ガイルは自らのスタンドを急停止させた。
まるで自分の思考を読み取ったかのようにいつの間にかチャリオッツのレイピアがミラーの前にかざされていたのだから。
冷や汗とともにどうなってやがる、と言葉が勝手に口をつく。危機を察知したJ・ガイルは距離をとるため館の窓へと再びとび移る。
ポルナレフが自分の反射を目で追っているような気配にまさか見えているのか、と焦りを抱く。がどうしようもない、確認するすべもない。
ポルナレフはしつこく追いすがるアクア・ネックレスを最後にもう一度両断するとバイクに股がる。しっかりと徐倫を腕に抱くと器用にバイクを操り走り去っていった。バイクの走行音が余韻をわずかに残し、再び館は沈黙に包まれる。

重苦しい沈黙だった。ポルナレフが来たときも最低限の警戒をしめしただけだったジョナサンとディオ。互いに互いの変化を前に戸惑い、同時に何から語ればいいのかわからず二人はいつまでもにらみ合う。
J・ガイルはポルナレフに自分のスタンド能力がバレてしまったのでは、と自問自答を続け心中穏やかではない。
アンジェロは何の収穫も得られず自分がいいようにあしらわれたことに苛立ったものの、饒舌だったJ・ガイルが急に黙り込んだのを見ていい様だと少し機嫌をよくしていた。

「お取り込みの最中、申し訳ないのだが……」

そんな四人に割り込むような声がどこからともなく聞こえてきた。
館の影から姿を表したその男は地味なものの高級な服装に身を包み、優雅に佇み四人を見渡す。男は気が向かない様子で、少し不機嫌なようだった。
見知らぬ来訪者の突然の言葉に彼を知らないものはただ沈黙を守るのみ。ただ一人、彼を知るディオが眼の色を変えその人物に向け叫ぶ。
ジョナサンとの突然の遭遇に無表情を装っていた顔を怒りに歪める。手当てを施した重症の左手が本人の感情に呼応するかのようにズキズキと痛み始めた。

吉良吉影ッ…………!」

そんなディオの怒りもどこ吹く風、吉良は視線すら向けずにほかの三人の眼をのぞきこむ。
どの眼にも闇がある、それを確認して満足したような息を吐くと吉良は唇を湿らせ言った。

「ちょっとした提案だ……どうだ、ここにいる『五人』で…………協力しないか?」






「死ぬんじゃねえぞ、クソッタレ!死なせるもんか……絶対に助けてやるからなッ!」

そうは言ったもののポルナレフはどうすればいいかわからない。
とりあえず館から無事に脱出出来たのは幸いだった。妹の仇のJ・ガイルやどことなくディオの面影を残す青年など四人が四人、ものすごい殺気を放っていたあの場を潜り抜けられたのは素直に喜ばしい。
自分は怪我を追うこともなく、バイクを手に入れることが出来たのだ。結果で言えばこの上なく上出来と言えるだろう。
だがそんなことを喜んでいられるわけがない。ポルナレフは今、死に繋がりかけない傷を負った重症人を抱えているのだから。
ゆっくりとバイクのスピードを緩める。目的地もわからずやみくもに走っても意味はない。それどころか、事故でもしようものなら今度こそこの娘が死んでしまう。

「死なせるもんか……もう誰も守れないなんてことがあってたまるかよォ!」

だが現実は非情だ。ポルナレフは何の手段も持ち合わせていない。医者でもない、医療道具もない。
カバンの中の支給品は携帯電話と少し大きめのDISCで何の役にも立ちやしない。このままでは確実に間に合わない。

「くそ、俺は間に合わないのかッ!? また俺は守れないのか!? バイクを手に入れた、女の子を館から助けた。でもなんの意味もねぇじゃねえか! 結局俺は遅すぎるんじゃねぇのか!?」

バイクから降りると両腕に彼女を抱きかかえる。どうしようもない、それでもどうにかしたい。ポルナレフに手段を選ぶ余裕はなかった。肺いっぱいに息を吸い込むとそのまま力の限り叫ぶ。

「誰でもいい、助けてくれッ! 怪我人がいるんだ、誰かどうにかしてくれッ! このままじゃ、この娘は死んじまうんだッ! 誰かどうにかして……助けてくれ――――――ッ!」

自分の無力さは嫌というほどわかった。惨めだ、思った通りに自分は遅すぎた。間に合ったと思った今回も、この娘は手からすり抜けるように死んでいく。それも、自分が遅いから。

「けど、けどッ!」

一つぐらい救ってくれたっていいじゃねぇかッ! そうポルナレフは思う。
DIOを倒すという意志のもとで集った仲間を取り上げられ、この場で出会った仲間も死に、助けられたはずの人も死んでいく。

「もういいじゃねぇかッ! これ以上、どうすればいいんだよ! 力の無さもわかった。マヌケっぷりも理解した。だからせめて! せめて、一人ぐらい、救ってくれよッ!」

街にポルナレフの叫びがこだまする。無人の街に寂しく声が跳ね返り帰ってくる。それでも諦めきれないポルナレフは叫んだ。なにもできない自分にできることはそれだけだったのだから。

「徐倫―――――――ッ!!」

遠い声が救いの手のように響きポルナレフの思考を遮る。家と家の間を駆け抜け男は風のように颯爽とこちらへ向かってくる。
どんな男かポルナレフにはわからない、女と男が知り合いかどうかすらもわからない。
けれどそんなことを考える必要はなかった。息をきらせた男が大慌てで、それでいて割れ物を扱うように大切に女の子を抱き締めたのをみてポルナレフはへたりこむ。
まだ何も始まっていない。依然彼女は重症だ。
それでもポルナレフは救われた。

「ありがとう…徐倫を救ってくれて」

男の言葉は素っ気ないものだった。だが関係ない、ポルナレフは間に合ったのだ。この舞台にきて初めてポルナレフは誰かを救うことができた。
抱き締め合う二人の横で、ポルナレフは声をあげることなく、泣いた。






荒木飛呂彦は公平さを第一としてこの殺し合いをスタートさせた。身体に傷を負ったものは治療を施し、戦力か偏ることがないよう支給品を配り、強者には枷さえもつけた。
一方的な殺戮を彼は望まず、運命に翻弄されながらも参加者たちが必死で抗うことを荒木は望んだのだから。
だが精神は違う。荒木は精神には手を出さなかった。それは荒木の気まぐれだろうか、ただ単に『なんとなく』だろうか。
違う、荒木はそれぞれを呼んだ時期に干渉するのを嫌がった。それぞれの参加者が『彼ら』『彼女ら』らしくいることを望んだ。もしも精神に干渉を施し、考え方をねじ曲げたり精神の負担を取り除いたりしてしまったらその時点でその参加者は参加する意味を失ってしまうだろう。
荒木という運命に、その参加者はもはや従ってしまっているのだから。

そういう意味で、吉良吉影ほど不幸な参加者はいないだろう。吉良は平穏を望む人間であり自分が殺人鬼であることをひた隠しにし、生きてきた。
そんな男の平穏な生活は殺し合いに巻き込まれたことで台無し、同時に本来なら吉良を知るはずのなかった人たちまで吉良のことを知ることになった。『吉良吉影は殺人鬼である』、と。
吉良はこの場に参加した時点で『既に』手遅れであった。狡猾な殺人鬼がそんなことに気づくことができなかったのも無理はない。吉良には長いこと心穏やかに、自分のことをじっくりと考える時間は訪れなかった。

東方仗助にギリギリまで追い詰められ、なんとかして切り抜けたと思ったら殺し合いに巻き込まれる。始まった直後に参加者のスタンド攻撃をくらい、宿敵空条承太郎との奇妙な同盟関係を結ぶ。
休息は取るに取れず、一時だって気は抜けず、利用するはずの由花子に利用され自分の『死』を突きつけられる。動揺の中、承太郎は死に、直後に輝くような手と出会う。だが予期せぬ同類との出会いもあり、そして―――

吉良の人生で最も浮き沈みの激しい一日、ジェットコースターのように登っては下り落ちては上がりを繰り返す半日。吉良にとってそんな十数時間はあまりに刺激的でそれ故に一つの結論にたどり着くことができなかった。
吉良吉影の平穏な日々はどうしたってかえってこない、ということに気づくことができなかった。


ガリガリガリガリ……

山岸由花子が私のことを知っていた。やつは私を追っていたわけではない……あくまで協力的であったたけだ。空条承太郎、東方仗助、虹村億泰、岸辺露伴、広瀬康一……
 私の平穏を脅かす邪魔くさいクズどものように自発的に動いていたわけでない。そんな山岸由花子が私のことを知っているのだ……私の死んだ未来ではッ!!」

―――リガリガリガリガリガリガリガリ…………

エンリコ・プッチは時代を越えて参加者が集められているらしいと言った。ならば東方仗助は、虹村億泰は……私の正体を知っているやつらはどの時代から呼び出されたのだ?
この吉良吉影と出会う前か? まだ私の存在を知らない時か? それとも私が死んだ未来からやってきたのか? それを知るすべは私にはない。
クソッ……! こうしている間にも私の情報が参加者の間に広がっている可能性が高いッ! この私がひた隠しにしてきた秘密がッ!」

―――ガリガリリガリガリガリガリガリガリガリ……………

「そもそも呼ばれた時点で『既に』ッ! 『既に』だッ! 荒木が時代を越えるスタンド能力を持っていると言うならば、この吉良吉影をこのドブネズミより下劣なイベントに巻き込んだ時点でッ! この私が『してきた』ことを知っているに違いないッ!」

―――ガリガリガリガリリガリガリガリガリガリガリガリ……………………

「どうしようもない……もう終わりだというのか?! 植物のような平穏な生活を送る、そんな私の幸せな人生は……もはや叶わないのか?!
 クソッ、なぜ私がこんな目にあわなければならない……この私が一生顔も知らない参加者どもに、あの荒木に怯え暮らさなければならないだと?」

―――ガリガリガリガリリガリガリガリガリガリガリガリガリガガリガリ…………………………

「そんなことがあってたまるかッ!皆殺しだ……全員、私を知ってようが知ってまいが全員だッ! 僅かな手懸かりすら残さない、どんな些細な可能性だってあってはならない。疑われることなんてまっぴらだ。
何一つ怯える必要もなく、今まで暮らしてきた。そんな私の人生を台無しにする要素は、塵ひとつ残さないッ!」

血が滲み出るほど噛み締められた爪。その爪はひび割れ、吉良の気持ちを写し出すように二つの文字が刻まれている。
平仮名二文字『かつ』の言葉を振りかざし吉良は自分自身に誓う。

「必ずこの手で、全員殺すッ! 最後の一人まで私は生き延び自由を手にいれるッ!そして……」

植物のような生活を送るため吉良は誓う。

「荒木飛呂彦………ッ!! 貴様も必ず、始末してみせるッ!!」






吉良は考えた。当面の目標は優勝、そして優勝者をあの荒木は放っておくようなことはしないだろう。
もしかしたら大喜びで歓迎するかもしれない。無防備のまま、ひょっとしたら握手なんかを求めてくるのかもしれない。その時を決して逃しはしない。キラ―クイーン、跡形もなく消し飛ばし……そして平穏を手に入れる。
だが逆にいえばそれまでは今まで通り、できればなんの戦いもせずに楽に参加者を減らしたい。だが何もしないままでいたらいつか山岸由花子に言った『最悪の状況』にもなりかねない、そう吉良は考えた。

(ならばどうするか……平穏を手にしつつ、ほかのやつらにやらせればいい。いざとなったら脅されてたとでも言えばいくらでも誤魔化しはきく。
 そのためには参加者どもが集まる場所……やはりこのDIOの館がベスト。かつて私が訪れたように『DIO』の名にひかれ集まるものは多いはずだ。それこそ正義感馬鹿どもや頭の足りないマヌケな殺人鬼どもも含め、な)

無言のまま反応を返さない四人を吉良はじっくり見渡す。本来ならこんな『目立つ』真似は避けたかったがそれも自分の平穏のため、多少は我慢もしよう。
だが二つのスタンドは動かない、二人の男も動かない。突然の提案だ、戦うことに夢中の馬鹿どもはこうなるのも当然だろうと吉良は溜息を吐きたくなるのをこらえる。
すこしせっかちだが返答をもらうために駄目押しでさらなる言葉を紡ぎだす。

「ああ、気に入らないならそう言ってくれて構わない。私はこの場を去り、また君たち四人で殺しあってももらえばいいだけだ。せいぜい楽しんでくれたまえ」

さらなる挑発を繰り返し吉良は笑う。表面上も、そして心の中でも笑みを浮かべる。
戦いを避けるのは『嫌い』なだけであって決して負けるからではない。吉良にはこの場も細やかな気配りと大胆な行動力で切り抜けられるという絶対的な自信があったのだ。

(さぁ、どうする……? )

日が沈んだ。放送が始まる。








【D-3 北東/1日目 夕方】
リンゴォ・ロードアゲイン
[スタンド]:マンダム
[時間軸]:果樹園の家から出てガウチョに挨拶する直前
[状態]:全身にラッシュによるダメージ(中)、身体疲労(大)、右上腕骨骨折、エシディシに対し畏怖の念
[装備]:ジョニィのボウィーナイフ
[道具]: 基本支給品 不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:参加者達と『公正』なる戦いをし、『男の世界』を乗り越える
1.吉良を探すため、移動する。見つけ次第吉良に復讐する。
2.遭遇する参加者と『男の世界』を乗り越える。
3.怪我の手当てがしたい。
[備考]
※骨折は気力でカバーすれば動かせます。
※この後どこへ向かうかは後の書き手さんにお任せします。





【C-4 DIOの館/1日目 夕方】
【吉良吉影】
[時間軸]:限界だから押そうとした所
[状態]:左頬が殴られて腫れている、掌に軽度の負傷、爪の伸びが若干早い
[装備]:ティッシュケースに入れた角砂糖(爆弾に変える用・残り4個)、携帯電話、折り畳み傘、クリップ×2 、ディオの左手
[道具]:ハンカチに包んだ角砂糖(食用)×6、ティッシュに包んだ角砂糖(爆弾に変える用)×7、ポケットサイズの手鏡×2
    未確認支給品×0~2個、支給品一式×2、緑色のスリッパ、マグカップ、紅茶パック(半ダース)、ボールペン二本
[思考・状況]
基本行動方針:植物のような平穏な生活を送るため荒木を含む全員を皆殺し。
0.四人の反応を伺い、対処する。
1.植物のような平穏な生活を送るため荒木を含む全員を皆殺し。ただし無茶はしない。
2.手を組んだ由花子と協力して億泰、早人を暗殺する。ただし無茶はしない。
3.危険からは極力遠ざかる
4.利用価値がなくなったと思ったら由花子を殺して手を愛でる。
[備考]
※バイツァ・ダストは制限されていますが、制限が解除されたら使えるようになるかもしれません。
※プッチの時代を越えて参加者が集められていると考えを聞きました。
※シアーハートアタックに何らかの制限がかかっているかは不明です。



【ディオ・ブランドー】
[時間軸]:大学卒業を目前にしたラグビーの試合の終了後(1巻)
[状態]:内臓の痛み、右腕負傷、左腕欠損(簡易処置済み)、ジョルノ、シーザー、由花子、吉良(と荒木)への憎しみ
[装備]:『ホワイトスネイク』のスタンドDISC
[道具]:ヘリコの鍵、ウェザーの記憶DISC、基本支給品×2(水全て消費)、不明支給品0~3
[思考・状況]
基本行動方針:なんとしても生き残る。スタンド使いに馬鹿にされたくない。
0.吉良の言葉を吟味、判断し、この場でどう動くか考える。
1.スタンド使いを『上に立って従わせる』、従わせてみせる。だが信頼などできるか!
2.ジョルノ、由花子に借りを返す
3.勿論、行動の途中でジョージを見つけたら合流、利用する
4.なるべくジョージを死なせない、ジョナサンには最終的には死んでほしい
5.ジョルノが……俺の息子だと!?
[備考]
※見せしめの際、周囲の人間の顔を見渡し、危険そうな人物と安全(利用でき)そうな人物の顔を覚えています
※ジョルノからスタンドの基本的なこと(「一人能力」「精神エネルギー(のビジョン)であること」など)を教わりました。
  ジョルノの仲間や敵のスタンド能力について聞いたかは不明です。(ジョルノの仲間の名前は聞きました)
ラバーソールと由花子の企みを知りました。
※『イエローテンパランス』の能力を把握しました。
※『ホワイトスネイク』の全能力使用可能。頭部を強打されればDISCが外れるかもしれません。


ジョナサン・ジョースター
[時間軸]:エリナとのハネムーンでアメリカに向かう途中の船上でワンチェンと遭遇する直前
[状態]:波紋の呼吸、唇と右手から少量の出血、鼻の骨折、右肩と左ももに隕石による負傷、額に切り傷
    頬がはれてる、内臓にダメージ(中)、身体ダメージ(大)(いずれも波紋の呼吸で治療中)、ブチャラティの眼光に恐怖
[装備]:“DARBY'S TICKET”、サブマシンガン(残り弾数80%)
[道具]:デイパック*3、不明支給品1~5(全て未確認)、メリケンサック、エリナの首輪、エリナの指輪、ブラフォードの首輪、
    ダニーについて書かれていた説明書(未開封)、民家で見つけた包帯、『プラネット・ウェイブス』のスタンドDISC
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、荒木に全部なかったことにして貰った後、荒木を殺す
0.――――ただ、全て打ち砕くだけだ
1.吉良の言葉を吟味、判断し、この場でどう動くか考える。
2.適当なところで怪我の治療をしたい
【備考】
※ジョージ・ジョースター一世を殺したと思い込もうとしてます。



【J・ガイル】
[時間軸]:ジョースター一行をホル・ホースと一緒に襲撃する直前
[能力]:『吊られた男』
[状態]:左耳欠損、左側の右手の小指欠損、全身ずぶぬれ、右二の腕・右肩・左手首骨折(治療済み)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず殺しを楽しみつつ、自分が死なないよう立ち回る
0.吉良の言葉を吟味、判断し、この場でどう動くか考える。
1.ほかの参加者を可能な限り利用し、参加者を減らす。
2.自分だけが助かるための場所と、『戦力』の確保もしておきたい。
3.20時にDIOの館に向かう?
[備考]
※『吊られた男』の射程距離などの制限の度合いは不明です。
※ヴァニラアイスの能力、ヴェルサス、ティッツァーノアレッシーの容姿を知りました。
※第二放送をアンジェロに話しました。


片桐安十郎(アンジェロ)
[スタンド]:アクア・ネックレス
[時間軸]:アンジェロ岩になりかけ、ゴム手袋ごと子供の体内に入ろうとした瞬間
[状態]:全身を火傷(中度)、身体ダメージ(中)、プッツン
[装備]:ディオのナイフ ライフルの実弾四発、ベアリング三十発  
[道具]:支給品一式×2
[思考・状況]
基本行動方針:安全に趣味を実行したい
0.吉良の言葉を吟味、判断し、この場でどう動くか考える。
1.荒木は良い気になってるから嫌い
2.20時にDIOの館に向かう?
[備考]
※アクア・ネックレスの射程距離は約200mですが制限があるかもしれません(アンジェロは制限に気付いていません) 。
※ヴェルサス、ティッツァーノの容姿を知りました。
※第二放送をJ・ガイルから聞きました。
※ミューミューの基本支給品を回収しました。






【D-4 中央/1日目 夕方】
J・P・ポルナレフ
[スタンド]:『シルバー・チャリオッツ』
[時間軸]:3部終了後
[状態]:右手負傷(軽症)、鼻にダメージ(中)
[装備]:メローネのバイク
[道具]:空条承太郎の記憶DISC、携帯電話
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに乗ってない奴を守り、自分の正義を貫く
0.俺は…間に合ったんだ…
1.仲間を集める
2.死んだはずの仲間達に疑問
3.J・ガイルを殺す
[備考]
※不明支給品は空条承太郎の記憶DISCでした

空条徐倫
【時間軸】:「水族館」脱獄後
【状態】:全身に切り傷、疲労(大)、脇腹に裂傷(大)、出血多量、後頭部に傷、ゆがんだ覚悟、気絶中
【装備】:メローネのバイク
【道具】:支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:荒木と決着ゥ!をつける
0:気絶中
1:DIOの館に向かい、DIOとプッチと決着ゥ!つける
[備考]
ホルマジオは顔しかわかっていません。名前も知りません。
※最終的な目標はあくまでも荒木の打倒なので、積極的に殺すという考えではありません。
 加害者は(どんな事情があろうとも)問答無用で殺害、足手まといは見殺し、といった感じです。

ナルシソ・アナスイ
[時間軸]:「水族館」脱獄後
[状態]:健康、全身ずぶぬれ、右足欠損(膝から下・ダイバーダウンの右足が義足になっている)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料、水2人分)、点滴、クマちゃん人形、双眼鏡、ラング・ラングラーの首輪、トランシーバー(スイッチOFF)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
1.徐倫………!
2.殺し合いに乗った奴ら、襲ってくる奴らには容赦しない
4.徐倫に会った時のために、首輪を解析して外せるようにしたい
5.アラキを殺す
6.万が一アラキに勝てないと分かればその時は……?
7.徐倫に会えたら特別懲罰房へ行く…のか?
[備考]
マウンテン・ティム、ティッツァーノと情報交換しました。
 ベンジャミン・ブンブーンブラックモア、オエコモバ、ブチャラティ、ミスタ、アバッキオ、フーゴ、ジョルノ、チョコラータの姿とスタンド能力を把握しました。
※ティッツァーノとの情報交換で得た情報は↓
 (自分はパッショーネという組織のギャングである。この場に仲間はいない。ブチャラティ一派と敵対している。
  暗殺チームと敵対している。チョコラータは「乗っている」可能性が高い。
  2001年に体に銃弾をくらった状態でここに来た。『トーキングヘッド』の軽い説明。)
  親衛隊の事とか、ボスの娘とかの細かい事は聞いていません。
※ラバーソールとヴェルサスのスタンド能力と容姿を知りました。
※首輪は『装着者が死亡すれば機能が停止する』ことを知りました。
 ダイバー・ダウンを首輪に潜行させた際確認したのは『機能の停止』のみで、盗聴機能、GPS機能が搭載されていることは知りません。
※ヴェルサスの首筋に星型の痣があることに気が付いていません
※ダイバーダウンが義足になっています。他の細かい制限は後の書き手さんにお任せします。
F・Fが殺し合いに乗っていることを把握しました





[備考]
※【C-4 DIOの館 門前】にヨーロッパ・エクスプレスが、【C-4 DIOの館】にラバーソールのデイパック
 (支給品一式 ×5(内一食分食料と方位磁石消費)、ギャンブルチップ20枚、ランダム支給品×1、サブマシンガン(消費 小)、
  巨大なアイアンボールボーガン(弦は張ってある。鉄球は2個)、二分間睡眠薬×1、剃刀&釘セット(約20個))が放置されています。
※ホル・ホースのデイバッグ一式がD-4 中央に放置されてます。
ダイアーの生首はE-5の繁華街の少し東の民家に放置されてます。





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161:悪意の継承者(前編) ジョナサン・ジョースター 182:撲滅の賊
167:vengeance ディオ・ブランドー 182:撲滅の賊
166:Devil In His Heart J・ガイル 182:撲滅の賊
166:Devil In His Heart 片桐安十郎(アンジェロ) 182:撲滅の賊
167:vengeance 吉良吉影 182:撲滅の賊
167:vengeance リンゴォ・ロードアゲイン 179:紅が碧に染まる空にカラスみたく飛んで行きたい
163:Revolution 9 ― 変わりゆく九人の運命(前編) 空条徐倫 185:ヘンゼルとグレーテル
170:空条徐倫の仲間、そして友 ナルシソ・アナスイ 185:ヘンゼルとグレーテル
169:アイ・コール・ユア・ネーム J・P・ポルナレフ 186:霏々として

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最終更新:2016年07月05日 23:17