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C-9
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Cグループ第九話『洗脳』
今回予告
―H275年、1月。「大いなる災厄」を倒したヨハンたちは、『魔王』ルーファスを倒すのに不可欠な”退魔の杖”を獲得した。だが、まだ『魔王』ルーファスを倒せるわけではない。その前に一人、倒しておかなければいけない人物がいるからだ。その名はゲイム・ウォッチ。用心深いこの魔族は、ウノーヴァのどこかに身を潜め、ルーファスの完全な復活を虎視眈々と狙っている。そんなゲイムを倒すため、ヨハンたちは「動物の王」の一柱をファミリアとしているエミリーの神託を受けることにした。
ところが、エミリーの神託の結果は意外なものだった。ゲイムを追い詰めることは難しい。そういわれた一行は、別の選択肢を取るべく、『豊穣の社』へと足を進めることになる。だが、『豊穣の社』はすでに、ゲイムの手に落ちていた―
ところが、エミリーの神託の結果は意外なものだった。ゲイムを追い詰めることは難しい。そういわれた一行は、別の選択肢を取るべく、『豊穣の社』へと足を進めることになる。だが、『豊穣の社』はすでに、ゲイムの手に落ちていた―
登場人物
※年齢は275年時点のものです
PC
- "Mk-C"ヨハン・ルーカス
- サラサ・シノノメ
- グレン・コーサー
- リアノ・スタッカート
- マックス・ボンバー
- セルモクラスィア(NPCとして)
- ゼンマイガーWmk-2nd(NPCとして)
PCの同行者
- マリアンナ(エルダナーン、女性、年齢不詳)
ヨハンの錬金術の師匠。ヨハンの魔術の師匠でもある。得意分野は格闘技。ヨハンと共に、周囲の人間に魔術師の姿を誤解させている元凶。
ゲイムに洗脳され、ヨハンたちと死闘を演じていた。洗脳が解けた現在は、ヨハンたちと共にウノーヴァに向かう。
洗脳が解けた後一年間に渡り眠っていたために体の衰えが激しい。
リハビリにより短期間ならかつての様に活動できるようになったが、普段はヨハンが作った車椅子に乗って行動している。
ゲイムに洗脳され、ヨハンたちと死闘を演じていた。洗脳が解けた現在は、ヨハンたちと共にウノーヴァに向かう。
洗脳が解けた後一年間に渡り眠っていたために体の衰えが激しい。
リハビリにより短期間ならかつての様に活動できるようになったが、普段はヨハンが作った車椅子に乗って行動している。
- ケニー(ヒューリン、男性、13歳)
トバリの漁師であるトニーの息子。ウノーヴァへと連れ去られた父親を取り戻すため、紆余曲折を経てヨハンたちのウノーヴァ行きに同行する。
生意気な言動も多いが、一度決めたことはしっかりやり遂げようとする根性を持つ。
師匠であるサラサや兄貴分のヨハンの猛特訓を受け、心身ともに少しずつ成長している。
生意気な言動も多いが、一度決めたことはしっかりやり遂げようとする根性を持つ。
師匠であるサラサや兄貴分のヨハンの猛特訓を受け、心身ともに少しずつ成長している。
- ティボルト(ドゥアン(セラトス)、男性、30歳)
マックスの友人。威勢のいい喋り方とドレッドモヒカンが特徴。
幾多もの戦いの末に、セルモとの間に運命の赤い糸が結ばれていると勘違いしてしまった。
セルモに素早く技術を教えたため、もう共にいる必要はない・・・はずなのだが、
いかなる手段を用いてか未だにセルモの旅に同行している。
幾多もの戦いの末に、セルモとの間に運命の赤い糸が結ばれていると勘違いしてしまった。
セルモに素早く技術を教えたため、もう共にいる必要はない・・・はずなのだが、
いかなる手段を用いてか未だにセルモの旅に同行している。
- キャサリン(ヒューリン(ハーフネヴァーフ)、女性、20代前半)
帆船『プリンシプル』の船員。副船長のような存在であり、リアノ不在時には他の船員をまとめている。
口と同時に手が出るタイプで、よくヨキが被害にあっている。
その船員としての腕を買われてウノーヴァ行きに同行し、『プリンシプル』でリアノたちの帰りを待っていたが・・・
口と同時に手が出るタイプで、よくヨキが被害にあっている。
その船員としての腕を買われてウノーヴァ行きに同行し、『プリンシプル』でリアノたちの帰りを待っていたが・・・
- ヨキ(エルダナーン、男性、30歳前後)
コウテツ島でリアノと行動を共にした後、帆船『プリンシプル』の船員となった男性。
弱気で悲鳴ばかり上げており、その度にキャサリンに怒られている。
ウノーヴァ行きを嫌がっていたはずが、その場のノリでウノーヴァへと同行することになる。
『プリンシプル』でリアノたちの帰りを待っていたが・・・
弱気で悲鳴ばかり上げており、その度にキャサリンに怒られている。
ウノーヴァ行きを嫌がっていたはずが、その場のノリでウノーヴァへと同行することになる。
『プリンシプル』でリアノたちの帰りを待っていたが・・・
- アイリーン(ヒューリン、女性、19歳)
最近『プリンシプル』の船員となった女性。
優秀な航海士らしく、共にウノーヴァへと行くことになる。
『プリンシプル』でリアノたちの帰りを待っていたが・・・
優秀な航海士らしく、共にウノーヴァへと行くことになる。
『プリンシプル』でリアノたちの帰りを待っていたが・・・
- フェンネル(フォモール、女性、26歳)
ティロンの双子の姉。生贄として大蛇に襲われていたところ、偶然ヨハンたちに出会う。
当初は誰も『大いなる災厄』を倒せないと悲観していたが、グレンの励ましやヨハンたち
がバロン・ザムディを倒したことで彼らなら『大いなる災厄』を倒せると考え直した。
ヨハンたちが『大いなる災厄』を倒した後は、昔ウノーヴァ各地旅していた経験を活かし、ヨハンたちの案内人となる。
当初は誰も『大いなる災厄』を倒せないと悲観していたが、グレンの励ましやヨハンたち
がバロン・ザムディを倒したことで彼らなら『大いなる災厄』を倒せると考え直した。
ヨハンたちが『大いなる災厄』を倒した後は、昔ウノーヴァ各地旅していた経験を活かし、ヨハンたちの案内人となる。
PCの関係者
- スオウ・シノノメ(ヒューリン、男性、53歳)
サラサの父。それなりに名の知れた剣豪。サラサと同じく強い正義感の持ち主。
剣術の弟子でもあったサラサに、もう教えることはないと言い残して数年前に旅立つ。
その後の消息は不明であったが、リアノがトバリでスオウのような人物を目撃する。
だが、そのスオウはただの漁師であるトニーを連れ去り、それを止めようとした
『プリンシプル』の船員に怪我をさせるなど以前のスオウからすると考えられない行動をとっていた。
その後、ウノーヴァでリアノと再開。サラサの名を出したリアノに剣を向ける。これは、どういうことなのだろうか・・・
剣術の弟子でもあったサラサに、もう教えることはないと言い残して数年前に旅立つ。
その後の消息は不明であったが、リアノがトバリでスオウのような人物を目撃する。
だが、そのスオウはただの漁師であるトニーを連れ去り、それを止めようとした
『プリンシプル』の船員に怪我をさせるなど以前のスオウからすると考えられない行動をとっていた。
その後、ウノーヴァでリアノと再開。サラサの名を出したリアノに剣を向ける。これは、どういうことなのだろうか・・・
- トニー(ヒューリン、男性、40歳)
トバリの漁師。ケニーの父親。ケニーいわく、世界一の漁師。
釣りに行きたいという男の申し出に親切心から船を出した結果、そのままウノーヴァに連れ去られる。
その後も男と行動を共にしていたようだが・・・
釣りに行きたいという男の申し出に親切心から船を出した結果、そのままウノーヴァに連れ去られる。
その後も男と行動を共にしていたようだが・・・
- マミ・ブリジット(ヒューリン、女性、20歳)
アキに仕えるからくり士。アキの命を受け、エミリーと共にウノーヴァで活動している。
その知識を見込まれ、『夢の跡地』まで同行していた。
その知識を見込まれ、『夢の跡地』まで同行していた。
- アチャモード(からくり)
どこかで見たような赤いひよこ型のからくり。タマゴを産んだりクルックーと鳴いたりする。
でもひよこ型。ワカシャモードという謎の形態があるらしいが、まだ調整中のようだ。
でもひよこ型。ワカシャモードという謎の形態があるらしいが、まだ調整中のようだ。
- イグナティウス・ロヨラ(ギルマン、男性、21歳)
通称イギー。エミリーたちと共に行動するギルマン三銃士の一人。マミと共にからくりの改良作業を行っていた。三銃士の中では一番の常識人。
- フランシスコ・ザビエル(ギルマン、男性、18歳)
通称ザビー。エミリーたちと共に行動するギルマン三銃士の一人。マックスと共に射的場へと向かった。三銃士の中では一番若い。
- カルロス(ギルマン、男性、19歳)
エミリーたちと共に行動するギルマン三銃士の一人。若い女の子が好きで下着あさりが得意。
エミリーがいないのをいいことに、のびのびしていたらしい。三銃士の中では一番残念。
エミリーがいないのをいいことに、のびのびしていたらしい。三銃士の中では一番残念。
- エミリー(ヒューリン(ハーフエルダナーン)、女性、20歳前後)
本名はエミリエンヌ。自称ノームコプ1の召喚士。動物の王の一柱をファミリアにしている。
ゲイムの居場所を調べるべく、神託を行うが・・・
ゲイムの居場所を調べるべく、神託を行うが・・・
- サトザキ(カラス、雌)
エミリーとマミの連絡係として活躍するカラス。
- ライオン仮面(種族不明、男性、年齢不詳)
射的に向かったマックスたちが出会った男。筋骨隆々としており、何故か半裸。
頭にかぶっているライオンマスクは、どうやら呪いのせいで取れないようだ。
頭にかぶっているライオンマスクは、どうやら呪いのせいで取れないようだ。
『魔王』ルーファスの関係者
- 『魔王』ルーファス(魔族、男性)
今から800年ほど昔にウノーヴァを支配していた魔王。
封印された際に、その力の一部をヨハンの祖先に移していた。
唯一自らを滅ぼすすべを持つヨハンの精神を乗っ取ろうとしている。
封印された際に、その力の一部をヨハンの祖先に移していた。
唯一自らを滅ぼすすべを持つヨハンの精神を乗っ取ろうとしている。
- ゲイム・ウォッチ(魔族、男性)
『魔王』ルーファスの復活を目論む魔族。
人を洗脳する力を持ち、マリアンナやコクサイなど幾人もの人物を操ってきた。
ルーファスの力の一部を体内に持つヨハンを狙うべく、その同行者に様々な策をしかける。
人を洗脳する力を持ち、マリアンナやコクサイなど幾人もの人物を操ってきた。
ルーファスの力の一部を体内に持つヨハンを狙うべく、その同行者に様々な策をしかける。
- パルテナ(ヒューリン(ハーフドゥアン(オルニス))、女性、20代後半)
『豊穣の社』にいるアエマの大神官。だが、既にゲイムに洗脳されている。
アエマの大神官である彼女は、何故ゲイムに洗脳されてしまったのだろうか・・・
アエマの大神官である彼女は、何故ゲイムに洗脳されてしまったのだろうか・・・
セッション内容
ある港町で、窓の外に広がる景色を男が見つめていた。その窓の近くを二匹のカモメが飛んでいく。カモメたちはそのままくるりと方向転換すると、海の方へと向かっていった。男はそんなカモメの様子を懐かしむかのようにみていた。
何を考えていたの。
と、男に声をかける者があった。赤く長い髪をした女性だ。彼女はベッドの上で軽く身を起こしており、その腕で一人のすやすやと眠る赤ん坊を抱いている。
男は彼女の方を振り向きながら言葉を返す、昔のことを考えていたと。
だが、女の方はいたずらっぽい笑みを見せながら、それは嘘だと断定する。
どうせ、また旅にでたいって考えているんでしょう。
男は、女の一言に対して困ったように頭をかいた。図星だったためだ。
相変わらずミヤビは鋭い。困った顔でそう告げると、ミヤビは笑顔で答える。
わたしはあなたの妻ですからね、スオウ。あなたの考えていることくらい、分かりますよ
スオウはその答えに苦笑すると、おもむろに子の顔をのぞき込んだ。
しかし、子どもは親に似るっていうけど、どうなんだろうな。生まれたばかりの時なんて、猿かと思ったし。
ミヤビは即座に答えた。
あなたは昔も今でもゴリラと大差ないんだから、そっくりじゃない。
スオウはまた苦笑する。確かに、彼の筋骨隆々な肉体、見てくれを気にしないぼさぼさな髪と髭は、見る者にゴリラを連想させるには十分なものであった。
しかし、スオウもただゴリラ呼ばわりされただけでは割に合わない。そこで彼は、少しミヤビをいじめることにした。
まあ、世の中にはゴリラみたいな外見が好きな女性もいるわけだし。
そこに込められた言葉の意味に、今度はミヤビが苦笑する。
わたしはあなたの外見じゃなくて、中身が素敵だったから一緒にいようと思ったんですよ
しかし、スオウはその言葉に納得しなかった。スオウは、自分とミヤビの出会いを思い出す。
スオウがミヤビと出会ったのは、街をケンタロウと二人で歩いていた時だった。スオウは後ろから歩いてきたミヤビに小突かれたのである。スオウを、当時の彼氏と間違えたためであった。その場はミヤビが陳謝して事なきを得たが、後日ケンタロウが何故間違えたのか理由を聞いたところ『見た目がゴリラそっくりだから間違えた』との答えが返ってきたのである。二人続けてゴリラのような外見の人間と付き合うことにしたミヤビは、ゴリラみたいな外見が好きと断じられても否定するすべはない。
しかし、ミヤビもゴリラ好きと言われてはいい顔はしない。おまけに、昔の彼氏の話まで蒸し返されているのだ。しかし、そんな彼女のいらいらに気が付くこともなく、スオウは話を続ける。
そう言えば、あいつは元気なのか。なんか変な名前だったと思った記憶があるんだが。
この後もミヤビをからかい続けたスオウは、彼女の逆鱗に触れることになった。
何を考えていたの。
と、男に声をかける者があった。赤く長い髪をした女性だ。彼女はベッドの上で軽く身を起こしており、その腕で一人のすやすやと眠る赤ん坊を抱いている。
男は彼女の方を振り向きながら言葉を返す、昔のことを考えていたと。
だが、女の方はいたずらっぽい笑みを見せながら、それは嘘だと断定する。
どうせ、また旅にでたいって考えているんでしょう。
男は、女の一言に対して困ったように頭をかいた。図星だったためだ。
相変わらずミヤビは鋭い。困った顔でそう告げると、ミヤビは笑顔で答える。
わたしはあなたの妻ですからね、スオウ。あなたの考えていることくらい、分かりますよ
スオウはその答えに苦笑すると、おもむろに子の顔をのぞき込んだ。
しかし、子どもは親に似るっていうけど、どうなんだろうな。生まれたばかりの時なんて、猿かと思ったし。
ミヤビは即座に答えた。
あなたは昔も今でもゴリラと大差ないんだから、そっくりじゃない。
スオウはまた苦笑する。確かに、彼の筋骨隆々な肉体、見てくれを気にしないぼさぼさな髪と髭は、見る者にゴリラを連想させるには十分なものであった。
しかし、スオウもただゴリラ呼ばわりされただけでは割に合わない。そこで彼は、少しミヤビをいじめることにした。
まあ、世の中にはゴリラみたいな外見が好きな女性もいるわけだし。
そこに込められた言葉の意味に、今度はミヤビが苦笑する。
わたしはあなたの外見じゃなくて、中身が素敵だったから一緒にいようと思ったんですよ
しかし、スオウはその言葉に納得しなかった。スオウは、自分とミヤビの出会いを思い出す。
スオウがミヤビと出会ったのは、街をケンタロウと二人で歩いていた時だった。スオウは後ろから歩いてきたミヤビに小突かれたのである。スオウを、当時の彼氏と間違えたためであった。その場はミヤビが陳謝して事なきを得たが、後日ケンタロウが何故間違えたのか理由を聞いたところ『見た目がゴリラそっくりだから間違えた』との答えが返ってきたのである。二人続けてゴリラのような外見の人間と付き合うことにしたミヤビは、ゴリラみたいな外見が好きと断じられても否定するすべはない。
しかし、ミヤビもゴリラ好きと言われてはいい顔はしない。おまけに、昔の彼氏の話まで蒸し返されているのだ。しかし、そんな彼女のいらいらに気が付くこともなく、スオウは話を続ける。
そう言えば、あいつは元気なのか。なんか変な名前だったと思った記憶があるんだが。
この後もミヤビをからかい続けたスオウは、彼女の逆鱗に触れることになった。
パよ
説教がひと段落し、しょげているスオウに対し、ミヤビが告げた。訳が分からないという顔をしたスオウに対し、ミヤビが続ける。
だから、変な名前のあいつ。パ
ミヤビの言葉に対し、スオウが納得した顔を見せる。
ああそうか、パか。そうだった、そうだった。でもあいつ、今なにをしているんだ。
スオウの言葉に、ミヤビは首をかしげる。別れてから、全く会っていないのだ。
とは言え、スオウほどではないものの剣術の腕がたつパだ。どこかで、職にはありついているのだろう。ミヤビはそう推測した。
少なくとも、ミヤビの目の前にいる人物とは異なり、一年中旅をしたがる性格ではない。
風来坊で悪かったなと、告げるスオウ。そんなスオウにミヤビはミヤビは楽しそうな口調で返す。
でもわたしは、風来坊だけど困っている人を見捨ててはおけないあなたの方が大好き。
この子が大きくなったら、また二人で旅に出ましょうね。
ミヤビもスオウも旅が好きな性分だ。おまけに、ミヤビもスオウも行ってみたいところがあった。どちらもすぐに行けるところではないが、いつかは行ける。二人はそう考えていた。
と、ミヤビの腕の中で眠っていた赤ん坊が泣き始める。二人は赤ん坊の世話に忙殺されることとなった。
説教がひと段落し、しょげているスオウに対し、ミヤビが告げた。訳が分からないという顔をしたスオウに対し、ミヤビが続ける。
だから、変な名前のあいつ。パ
ミヤビの言葉に対し、スオウが納得した顔を見せる。
ああそうか、パか。そうだった、そうだった。でもあいつ、今なにをしているんだ。
スオウの言葉に、ミヤビは首をかしげる。別れてから、全く会っていないのだ。
とは言え、スオウほどではないものの剣術の腕がたつパだ。どこかで、職にはありついているのだろう。ミヤビはそう推測した。
少なくとも、ミヤビの目の前にいる人物とは異なり、一年中旅をしたがる性格ではない。
風来坊で悪かったなと、告げるスオウ。そんなスオウにミヤビはミヤビは楽しそうな口調で返す。
でもわたしは、風来坊だけど困っている人を見捨ててはおけないあなたの方が大好き。
この子が大きくなったら、また二人で旅に出ましょうね。
ミヤビもスオウも旅が好きな性分だ。おまけに、ミヤビもスオウも行ってみたいところがあった。どちらもすぐに行けるところではないが、いつかは行ける。二人はそう考えていた。
と、ミヤビの腕の中で眠っていた赤ん坊が泣き始める。二人は赤ん坊の世話に忙殺されることとなった。
エミリーが神託を受けるために儀式を始めてから、一日たった。マミによれば、儀式は長いと数日にも及ぶらしい。
待つのは仕方ないが、その間なにもしないでいるのはもったいない。そう考えたヨハンたちは、交代で見張りをたて、残りの面々は自分のやりたいことをやることにした。
稽古を始めるもの、街へ繰り出しに行くもの、セルモに認められる努力を始めるもの。それぞれが思い思いのことをしている中、グレンは一人寂しく宿舎を歩いていた。
グレンは本来なら、せっかくできた自由の時間を、ゼンマイガーの改良に使おうとしていた。だが、同じく自由な時間を持っていたとある目つきの悪い青年がゼンマイガーをつかむと、グレンに向けて告げたのである。
ゼンマイガーの調整はおれがやるよ。なにしろ、おれのだからな。
いや、おれのなんだけど。グレンの突っ込みを無視した傍若無人な若者はゼンマイガーを連れて去っていったのである。
と、そんなグレンの近くのテントから派手な金属音が響き渡った。なんだ、とグレンが振り向くと、テントの中からギルマンが一人飛び出してきた。
痛いギョ、とびちびちのたうつギルマン。グレンが慌てて駆け寄ると、テントの方から一人の女性が顔を出した。
イギー、大丈夫?
マミである。彼女の顔は多少煤け、手に持つ工具からは彼女がからくりの手入れをしていたことが伺える。
なにがあったんだ、とのグレンの問いかけに、マミは申し訳なさそうな顔をした。
どうやら、マミがからくりをいじっていた際、誤ってイギーの指先に部品を落としてしまったらしい。確かに、イギーの指先は腫れ上がっていた。
すぐさまグレンは持っていたポーションをイギーに振りかける。まもなく、指先の腫れはいくらかおさまった。
イギーと、近くにやってきたマミはグレンに礼を述べる。気にするなと告げるグレンに、イギーが続けて話しかけてきた。
そう言えば、グレンはからくり士だったギョ? ちょっと見てほしいものがあるギョ。
突然のイギーの申し出に対し、横にいたマミはグレンさんにはグレンさんの都合があるでしょうとたしなめる。しかし、グレンは特に予定がなかった。傍若無人な若者にゼンマイガーを持ち去られてしまったためだ。
時間なら、たっぷりある。グレンは笑いながら答えた。ひょっとすると、苦笑だったのかもしれない。
待つのは仕方ないが、その間なにもしないでいるのはもったいない。そう考えたヨハンたちは、交代で見張りをたて、残りの面々は自分のやりたいことをやることにした。
稽古を始めるもの、街へ繰り出しに行くもの、セルモに認められる努力を始めるもの。それぞれが思い思いのことをしている中、グレンは一人寂しく宿舎を歩いていた。
グレンは本来なら、せっかくできた自由の時間を、ゼンマイガーの改良に使おうとしていた。だが、同じく自由な時間を持っていたとある目つきの悪い青年がゼンマイガーをつかむと、グレンに向けて告げたのである。
ゼンマイガーの調整はおれがやるよ。なにしろ、おれのだからな。
いや、おれのなんだけど。グレンの突っ込みを無視した傍若無人な若者はゼンマイガーを連れて去っていったのである。
と、そんなグレンの近くのテントから派手な金属音が響き渡った。なんだ、とグレンが振り向くと、テントの中からギルマンが一人飛び出してきた。
痛いギョ、とびちびちのたうつギルマン。グレンが慌てて駆け寄ると、テントの方から一人の女性が顔を出した。
イギー、大丈夫?
マミである。彼女の顔は多少煤け、手に持つ工具からは彼女がからくりの手入れをしていたことが伺える。
なにがあったんだ、とのグレンの問いかけに、マミは申し訳なさそうな顔をした。
どうやら、マミがからくりをいじっていた際、誤ってイギーの指先に部品を落としてしまったらしい。確かに、イギーの指先は腫れ上がっていた。
すぐさまグレンは持っていたポーションをイギーに振りかける。まもなく、指先の腫れはいくらかおさまった。
イギーと、近くにやってきたマミはグレンに礼を述べる。気にするなと告げるグレンに、イギーが続けて話しかけてきた。
そう言えば、グレンはからくり士だったギョ? ちょっと見てほしいものがあるギョ。
突然のイギーの申し出に対し、横にいたマミはグレンさんにはグレンさんの都合があるでしょうとたしなめる。しかし、グレンは特に予定がなかった。傍若無人な若者にゼンマイガーを持ち去られてしまったためだ。
時間なら、たっぷりある。グレンは笑いながら答えた。ひょっとすると、苦笑だったのかもしれない。
こうして、グレンはマミのテントへと入っていった。マミのからくりであるアチャモードは、ちょうどテントの真ん中にある作業台の上に置かれている。
実はですね、わたしは今アチャモードにモードチェンジ機能を持たせようと思うんですよ。力仕事が出来るような。
マミは話しながら、アチャモードに操作をとばした。
「アチャモード進化! ワカシャモード!」
マミの声と共に、アチャモードのあちこちが動き、まるでヒヨコがニワトリになるかのように体が伸び始めた。そしてまもなく、腕が生えた若いニワトリのような姿をしたからくりが、グレンの目の前に現れる。だが、同時にその腕がぽろりと取れてしまった。
腕が取れたことにマミは嘆息すると、イギーと共に工具を使ってワカシャモードに腕を取り付ける。
本当は、こうなるはずなんですよね。と、マミが出来たワカシャモードを見ながら、グレンに告げる。
マミによると、本来なら伸びるはずの技術を用いているはずなのに、失敗してしまうのだとのことだ。
見せてくれ。そう告げると、グレンはワカシャモ―ドの部品を点検し始める。間もなく、失敗の原因が判明した。
ワカシャモ―ドの肩の関節部分、ちょうど腕の稼働を支えている部分のねじが必要以上に緩みやすくなっていたのである。
ここを直せば、何とかなるはずだ。
グレンはマミたちにそう話すと、てきぱきと修理を始める。
間もなく完成したワカシャモ―ドは、アチャモードから進化しても腕が取れなくなっていた。
ありがとうございます、グレンさん。
マミがグレンに感謝する。横にいたイギーも、グレンを尊敬の目で見つめている。
グレンはすごいギョ。マミでもできなかったことをあっさり解決しちゃうだなんて。
イギーの言葉に、マミは当たり前だと言わんばかりの口調で語り始めた。
イギー、グレンさんの技術は本当にすごいんですよ。ゼンマイガーの・・・
やはり、からくり士だけあって、機械に関する知識は豊富だ。しばし、グレンとマミによる専門的な会話が続くこととなった。
実はですね、わたしは今アチャモードにモードチェンジ機能を持たせようと思うんですよ。力仕事が出来るような。
マミは話しながら、アチャモードに操作をとばした。
「アチャモード進化! ワカシャモード!」
マミの声と共に、アチャモードのあちこちが動き、まるでヒヨコがニワトリになるかのように体が伸び始めた。そしてまもなく、腕が生えた若いニワトリのような姿をしたからくりが、グレンの目の前に現れる。だが、同時にその腕がぽろりと取れてしまった。
腕が取れたことにマミは嘆息すると、イギーと共に工具を使ってワカシャモードに腕を取り付ける。
本当は、こうなるはずなんですよね。と、マミが出来たワカシャモードを見ながら、グレンに告げる。
マミによると、本来なら伸びるはずの技術を用いているはずなのに、失敗してしまうのだとのことだ。
見せてくれ。そう告げると、グレンはワカシャモ―ドの部品を点検し始める。間もなく、失敗の原因が判明した。
ワカシャモ―ドの肩の関節部分、ちょうど腕の稼働を支えている部分のねじが必要以上に緩みやすくなっていたのである。
ここを直せば、何とかなるはずだ。
グレンはマミたちにそう話すと、てきぱきと修理を始める。
間もなく完成したワカシャモ―ドは、アチャモードから進化しても腕が取れなくなっていた。
ありがとうございます、グレンさん。
マミがグレンに感謝する。横にいたイギーも、グレンを尊敬の目で見つめている。
グレンはすごいギョ。マミでもできなかったことをあっさり解決しちゃうだなんて。
イギーの言葉に、マミは当たり前だと言わんばかりの口調で語り始めた。
イギー、グレンさんの技術は本当にすごいんですよ。ゼンマイガーの・・・
やはり、からくり士だけあって、機械に関する知識は豊富だ。しばし、グレンとマミによる専門的な会話が続くこととなった。
しばらく話していると、グレンはテントの外から、何者かの視線を感じた。それはマミも感じたらしく、彼女も外にでる。そこには、フェンネルが一人、少し困った様子で立っていた。
どうした。
とのグレンの問いかけに対し、フェンネルはさらに困った様子で視線を泳がせていたが、やがて小さく呟いた。
凄い音がしたものだから。何だろうと思って。
その言葉に、グレンとマミは申し訳なさそうな表情を作る。
ちょっとからくりの整備をしていたんだ。
心配させて申し訳ない、とグレンが話すと、マミもフェンネルに謝罪する。二人から謝られたフェンネルも申し訳ないと感じたのか、謝罪の言葉を述べた。こちらこそ、一人でおろおろしていて申し訳ないです、と。
その後、三人はしばしたわいのない会話を続けていた。そんな中で、フェンネルがグレンとマミに尋ねる。
お二人は、からくりが好きなんですか。
グレンは即座に頷く。
からくりはおれの人生の半分だ。
グレンの言葉に、フェンネルが尊敬とも羨望ともつかぬ表情を見せる。からくりが大好きなマミは、その表情をフェンネルがからくりに興味を持ったのだろうと解釈した。
フェンネルさんは、からくりに興味があるんですか。
マミの言葉に対し、フェンネルはグレンの方をちらりと向いてから答える。多少は、興味があります。もしよかったら、話を聞かせて下さい。
グレンとマミの話を聞きながら、フェンネルは一つのことを理解させられることになる。からくり士にからくりの話を振るとと、日が暮れると言うことだ。フェンネルが料理当番だからそろそろいかなければならない、と告げるまでの数時間。フェンネルは二人の話に付き合わされることになった。
去ろうとするフェンネルに、グレンは残念そうな表情を向ける。これから、ゼンマイガーの車輪の素晴らしさついて語ろうと思っていたところだったのに。あの車輪は、おれがとても苦労したところだったんだよ。
どうした。
とのグレンの問いかけに対し、フェンネルはさらに困った様子で視線を泳がせていたが、やがて小さく呟いた。
凄い音がしたものだから。何だろうと思って。
その言葉に、グレンとマミは申し訳なさそうな表情を作る。
ちょっとからくりの整備をしていたんだ。
心配させて申し訳ない、とグレンが話すと、マミもフェンネルに謝罪する。二人から謝られたフェンネルも申し訳ないと感じたのか、謝罪の言葉を述べた。こちらこそ、一人でおろおろしていて申し訳ないです、と。
その後、三人はしばしたわいのない会話を続けていた。そんな中で、フェンネルがグレンとマミに尋ねる。
お二人は、からくりが好きなんですか。
グレンは即座に頷く。
からくりはおれの人生の半分だ。
グレンの言葉に、フェンネルが尊敬とも羨望ともつかぬ表情を見せる。からくりが大好きなマミは、その表情をフェンネルがからくりに興味を持ったのだろうと解釈した。
フェンネルさんは、からくりに興味があるんですか。
マミの言葉に対し、フェンネルはグレンの方をちらりと向いてから答える。多少は、興味があります。もしよかったら、話を聞かせて下さい。
グレンとマミの話を聞きながら、フェンネルは一つのことを理解させられることになる。からくり士にからくりの話を振るとと、日が暮れると言うことだ。フェンネルが料理当番だからそろそろいかなければならない、と告げるまでの数時間。フェンネルは二人の話に付き合わされることになった。
去ろうとするフェンネルに、グレンは残念そうな表情を向ける。これから、ゼンマイガーの車輪の素晴らしさついて語ろうと思っていたところだったのに。あの車輪は、おれがとても苦労したところだったんだよ。
一方同じころ。ヨハンはテント近くに作り出した工房の中で、ゼンマイガーをいじくっていた。
この車輪、ださいな。やっぱり無限軌道に変えよう。
上機嫌で改造を始めるヨハン。その近くでは、何かの製錬を行うべくかまどに火がくべられている。
鎧の兄ちゃん、なにやっているんだ。
と、そんなヨハンのもとにやってきたマックスが尋ねる。ヨハンはマックスを見ると、ちょうどいいところに来たな、と意味ありげな笑みを見せる。
その笑みの意味をマックスが問うと、ヨハンはまあ見てろってと言いながら、ヨハンの愛用していた"GP03"の一部。ちょうど、ヨハンが直に着る鎧の部分を持ってきた。
これから、これを改良するんだ。
ヨハンの言葉に、マックスは納得する。しかし、そうするとまた別の疑問がマックスに生じた。でも、どうやって改良するんだ。
マックスの疑問に、ヨハンの笑みが大きくなった。ヨハンは鎧の一部、ちょうど兜の部分を手に持った。
これを火で溶かす。
言いながら、兜をかまどに放り込む。驚くマックスをよそに、ヨハンは全身鎧をすべてかまどに投げていた。
なんでそんなことを、これじゃあ兄ちゃんの鎧がなくなっちまうじゃないか。
マックスの発言に、ヨハンは落ち着いた口調で答える。
なくなりはしない。ただ、マックス。おれは鎧を着ている中で一つ理解したことがある。鎧の持つ防御性能は、凝縮できる。
ど、どうやって。と驚くマックスをよそに、ヨハンは次々と作業をこなしていく。まもなく、一つの首飾りが出来上がった。
あちこちから棘が生え、髑髏のようなものを意匠した飾りが着けられている。そして、その棘は着けた人に刺さってしまうのではないかと思うほど鋭い。
一言でいってしまえば、悪趣味な首飾りであった。
この首飾りは、おれの鎧の防御性能。いや、それ以上の力を持たせている。
と、ヨハンは意地の悪い笑みをマックスに向け、その首飾りをマックスに渡す。つけてみろ、と言うことなのだろうか。
好奇心旺盛なマックスはそれを身に付けた。だが、マックスがそれを身に付けた途端、地面にそのまま落とされるような重圧と体のしびれ、そして強烈なめまいがマックスを襲った。
無理無理無理無理。
マックスは辛うじてそう告げると、根性で首飾りを外す。
こんなの、鎧の兄ちゃんでもつけられないって。
だが、その言葉にヨハンはにやりと笑うと、首飾りをあっさりとつける。何事もない。
唖然としながら賞賛の言葉を贈るマックスに、ヨハンは冷静に告げた。
魔王『ルーファス』の魂を持っている副産物のようだ。普段は死ねと思っているが、こういうときくらいは感謝しないとな。
その口調の中に、どこか冗談めいたものを感じたマックスは軽く笑った。笑いながら、あることに気付く。
あの全身鎧に使われていた金属って、どうなったんだ。全部なくなったのか。
そんなことはない、とヨハンは首を振った。
そこに、大量のがらくたがあるだろう。
マックスがヨハンの指さすところを見ると、たしかに、ばらばらの破片となった全身鎧の残骸が置き捨てられていた。
鎧の兄ちゃん、これ、どうするんだ。
マックスの疑問にヨハンは首をひねりながら答える。
最初は捨てようと思っていたんだが、これだけあれば小さな鎧程度は作れるな。鎧を作ったら、街で売りさばこう。
そして、ヨハンは鎧を作り始めた。その様子をマックスは何気なく見ていたが、少し引っかかるところがあった。鎧って、こんな簡単に作れるのだろうか、ということである。マックスは最初、このがらくたを一度火の中に入れるのかと思っていた。しかし、ヨハンは、そうすることもなく、まるで最初から鎧の部品を作っていたとしか思えないような速度で、次々とがらくたから鎧を組み上げていた。
これで、完成だな。
ヨハンの呟きと共に、鎧が出来上がる。
思ったよりがらくたがなかったから、小さめの鎧になっちまった。おれたちが着けられるようなものじゃないし、やはり売ろう。
確かに、マックスの目から見ても出来上がった鎧は小さめのものであった。しかし、フィルボルやネヴァーフが着るには少し大きい。おそらく、比較的小柄なヒューリンやヴァーナ、エルダナーンなら着ることができるだろう。
鎧の兄ちゃんは、何でも作れるから凄いぜ。な、デストラクション。
マックスの感心した声と共に現れた謎のゴリラは、ヨハンの作った鎧に触れようと手を伸ばし・・・霊体である彼の腕はそのまま鎧を突き抜けていった。だが、どうやらその質感は伝わったらしい。ゴリラは親指を立てヨハンを称賛すると、そのまま弾け飛んだ。
よし!
マックスはそんなデストラクションを見て、満足そうに頷く。と、誰かがヨハンのテントに走り寄ってくる足音が聞こえてきた。疑問に思った二人が外に出ると、そこには木刀を片手にしたケニーが立っていた。
ケニーは今、サラサと稽古中なのではなかろうか。二人の疑問に対し、ケニーは視線を泳がせた。しかし、ケニーに限って稽古をさぼって休むと言うことは考えられない。おそらく、ヨハンに何か用があるのだろう。
ヨハンもそう察したらしい。いつもの籠手をはめながらケニーの前に立つと、いつものように挑発する。
どうした、修行は辛いから止めたのか。全く、意気地のない奴だ。
その言葉をケニーは猛然と否定した。
違う。僕は修行の成果を試しに来たんだ。行くぞ、兄ちゃん。
そう告げると、ケニーはヨハンに突進する。だが、ケニーの刃はヨハンの体にすら届かなかった。ケニーが近づいたとき、ヨハンの首飾りから出た衝撃波がケニーを吹っ飛ばしたのだ。
あ、これすげえ。
ヨハンがそう漏らしたのを、マックスは確かに耳にした。
ヨハンもきっと、この首飾りの実力を試してみたかったのだろう。おれが、新しい弓を試したいのと同じだな。
マックスはそう感じた。実際、マックスは新しく良さそうな弓を見つけると、次々と買って試している。その結果、マックスは今六個の弓を所持していた。当然、一人では持ちきれないのでほとんどはヨハンとグレンの個人用移動要塞の中にしまってもらっている。
一方、ケニーは不満顔だった。
兄ちゃん、魔術なんてずるいぞ。
ケニーの声に、ヨハンは肩をすくめる。
実戦で、魔術が飛んでこないとでも思っているのか。
甘い奴だなあ、とヨハンは馬鹿にするそぶりを見せる。ケニーは更に反論しようとした。しかし、ケニーがいくら反論しようと思っても、ヨハンの指摘は正論である。ケニーはかなりいらだった様子を見せながらも、再び突っ込んでいった。
その後も、マックスが見守る前で、二人の訓練はしばし続いた。やがて、一息入れようと言うことで、休憩となる。だが、休憩に入ってから、ケニーの様子が少しおかしい。どことなく、そわそわしている。ヨハンとマックスの二人がどうしたんだろうと、考えていると、ケニーがヨハンの方を向いて、口を開いた。
なあ、兄ちゃん。兄ちゃんに頼みがあるんだ。
そして、ヨハンの瞳を真摯な表情で見つめる。
兄ちゃんはいつもむかつくことばかり言うし、ひねくれているし、グレンのおじいちゃんに迷惑かけてばっかりだけど、そんな兄ちゃんの他人をかばう技術は本物だ。だから、その技術を僕に教えて欲しいんだ。
そして、両手を地に付けると、頭を下げて頼みこむ。そんなケニーを見ながら、ヨハンは苦笑していた。おそらく、ケニーが自分の稽古を中断してまでヨハンのもとにやってきたのは、かばう技術を学びたかったためだろう。
お前、本当に口が減らないな。まあいい、教えてやるよ。
ヨハンは、横にいたマックスの方を向く。マックス、お前も手伝ってくれ。
任せろ、とマックスは拳を掲げる。で、おれは何をすればいい。
マックスの疑問にヨハンは少し考えると、ちょっと離れたところを指さした。
そこで、立っていてくれ。
マックスは多少嫌な予感がしたが、手伝うと言った手前、引き下がれない。ヨハンに言われた通りの場所に立つ。
一方、ヨハンはマックスが立ったのを確認すると、ケニーの方を向いた。
今からおれがマックスを殴るから、全力でかばえ。失敗したら、罰ゲームだからな。
そう言って笑う。ケニーはそんな特訓方法に驚いていた様子を見せたが、すぐに頷くと、マックスの傍らに立った。
それじゃあいくぞ。
ヨハンはそう告げると、ゆったりとした動作で右腕を大きく引く。ケニーは即座にマックスをかばうべく前に出た。目はその右腕をしっかり見据えている。
そして、ヨハンの左足がマックスを蹴り飛ばした。
卑怯だぞ。
またしても抗議するケニー。だが、ヨハンは再び肩をすくめただけだった。
実戦において、相手はこんなに隙だらけで殴って来るのか。
そうだそうだ、とマックスも続ける。
おれ、ヨハンに全力で蹴られて痛かったんだからな。次は失敗するなよ。
そして、再び特訓が始まった。だが、教えていたはずのヨハンとマックスが途中からヒートアップしてしまったことで、特訓の内容は二人が全力でケニーを殴り、それにケニーが全力で反撃することへと変わってしまう。そして、その様子を途中から、一匹の狐が興味深い目で見ていたことに気付いたものは、いなかった。
この車輪、ださいな。やっぱり無限軌道に変えよう。
上機嫌で改造を始めるヨハン。その近くでは、何かの製錬を行うべくかまどに火がくべられている。
鎧の兄ちゃん、なにやっているんだ。
と、そんなヨハンのもとにやってきたマックスが尋ねる。ヨハンはマックスを見ると、ちょうどいいところに来たな、と意味ありげな笑みを見せる。
その笑みの意味をマックスが問うと、ヨハンはまあ見てろってと言いながら、ヨハンの愛用していた"GP03"の一部。ちょうど、ヨハンが直に着る鎧の部分を持ってきた。
これから、これを改良するんだ。
ヨハンの言葉に、マックスは納得する。しかし、そうするとまた別の疑問がマックスに生じた。でも、どうやって改良するんだ。
マックスの疑問に、ヨハンの笑みが大きくなった。ヨハンは鎧の一部、ちょうど兜の部分を手に持った。
これを火で溶かす。
言いながら、兜をかまどに放り込む。驚くマックスをよそに、ヨハンは全身鎧をすべてかまどに投げていた。
なんでそんなことを、これじゃあ兄ちゃんの鎧がなくなっちまうじゃないか。
マックスの発言に、ヨハンは落ち着いた口調で答える。
なくなりはしない。ただ、マックス。おれは鎧を着ている中で一つ理解したことがある。鎧の持つ防御性能は、凝縮できる。
ど、どうやって。と驚くマックスをよそに、ヨハンは次々と作業をこなしていく。まもなく、一つの首飾りが出来上がった。
あちこちから棘が生え、髑髏のようなものを意匠した飾りが着けられている。そして、その棘は着けた人に刺さってしまうのではないかと思うほど鋭い。
一言でいってしまえば、悪趣味な首飾りであった。
この首飾りは、おれの鎧の防御性能。いや、それ以上の力を持たせている。
と、ヨハンは意地の悪い笑みをマックスに向け、その首飾りをマックスに渡す。つけてみろ、と言うことなのだろうか。
好奇心旺盛なマックスはそれを身に付けた。だが、マックスがそれを身に付けた途端、地面にそのまま落とされるような重圧と体のしびれ、そして強烈なめまいがマックスを襲った。
無理無理無理無理。
マックスは辛うじてそう告げると、根性で首飾りを外す。
こんなの、鎧の兄ちゃんでもつけられないって。
だが、その言葉にヨハンはにやりと笑うと、首飾りをあっさりとつける。何事もない。
唖然としながら賞賛の言葉を贈るマックスに、ヨハンは冷静に告げた。
魔王『ルーファス』の魂を持っている副産物のようだ。普段は死ねと思っているが、こういうときくらいは感謝しないとな。
その口調の中に、どこか冗談めいたものを感じたマックスは軽く笑った。笑いながら、あることに気付く。
あの全身鎧に使われていた金属って、どうなったんだ。全部なくなったのか。
そんなことはない、とヨハンは首を振った。
そこに、大量のがらくたがあるだろう。
マックスがヨハンの指さすところを見ると、たしかに、ばらばらの破片となった全身鎧の残骸が置き捨てられていた。
鎧の兄ちゃん、これ、どうするんだ。
マックスの疑問にヨハンは首をひねりながら答える。
最初は捨てようと思っていたんだが、これだけあれば小さな鎧程度は作れるな。鎧を作ったら、街で売りさばこう。
そして、ヨハンは鎧を作り始めた。その様子をマックスは何気なく見ていたが、少し引っかかるところがあった。鎧って、こんな簡単に作れるのだろうか、ということである。マックスは最初、このがらくたを一度火の中に入れるのかと思っていた。しかし、ヨハンは、そうすることもなく、まるで最初から鎧の部品を作っていたとしか思えないような速度で、次々とがらくたから鎧を組み上げていた。
これで、完成だな。
ヨハンの呟きと共に、鎧が出来上がる。
思ったよりがらくたがなかったから、小さめの鎧になっちまった。おれたちが着けられるようなものじゃないし、やはり売ろう。
確かに、マックスの目から見ても出来上がった鎧は小さめのものであった。しかし、フィルボルやネヴァーフが着るには少し大きい。おそらく、比較的小柄なヒューリンやヴァーナ、エルダナーンなら着ることができるだろう。
鎧の兄ちゃんは、何でも作れるから凄いぜ。な、デストラクション。
マックスの感心した声と共に現れた謎のゴリラは、ヨハンの作った鎧に触れようと手を伸ばし・・・霊体である彼の腕はそのまま鎧を突き抜けていった。だが、どうやらその質感は伝わったらしい。ゴリラは親指を立てヨハンを称賛すると、そのまま弾け飛んだ。
よし!
マックスはそんなデストラクションを見て、満足そうに頷く。と、誰かがヨハンのテントに走り寄ってくる足音が聞こえてきた。疑問に思った二人が外に出ると、そこには木刀を片手にしたケニーが立っていた。
ケニーは今、サラサと稽古中なのではなかろうか。二人の疑問に対し、ケニーは視線を泳がせた。しかし、ケニーに限って稽古をさぼって休むと言うことは考えられない。おそらく、ヨハンに何か用があるのだろう。
ヨハンもそう察したらしい。いつもの籠手をはめながらケニーの前に立つと、いつものように挑発する。
どうした、修行は辛いから止めたのか。全く、意気地のない奴だ。
その言葉をケニーは猛然と否定した。
違う。僕は修行の成果を試しに来たんだ。行くぞ、兄ちゃん。
そう告げると、ケニーはヨハンに突進する。だが、ケニーの刃はヨハンの体にすら届かなかった。ケニーが近づいたとき、ヨハンの首飾りから出た衝撃波がケニーを吹っ飛ばしたのだ。
あ、これすげえ。
ヨハンがそう漏らしたのを、マックスは確かに耳にした。
ヨハンもきっと、この首飾りの実力を試してみたかったのだろう。おれが、新しい弓を試したいのと同じだな。
マックスはそう感じた。実際、マックスは新しく良さそうな弓を見つけると、次々と買って試している。その結果、マックスは今六個の弓を所持していた。当然、一人では持ちきれないのでほとんどはヨハンとグレンの個人用移動要塞の中にしまってもらっている。
一方、ケニーは不満顔だった。
兄ちゃん、魔術なんてずるいぞ。
ケニーの声に、ヨハンは肩をすくめる。
実戦で、魔術が飛んでこないとでも思っているのか。
甘い奴だなあ、とヨハンは馬鹿にするそぶりを見せる。ケニーは更に反論しようとした。しかし、ケニーがいくら反論しようと思っても、ヨハンの指摘は正論である。ケニーはかなりいらだった様子を見せながらも、再び突っ込んでいった。
その後も、マックスが見守る前で、二人の訓練はしばし続いた。やがて、一息入れようと言うことで、休憩となる。だが、休憩に入ってから、ケニーの様子が少しおかしい。どことなく、そわそわしている。ヨハンとマックスの二人がどうしたんだろうと、考えていると、ケニーがヨハンの方を向いて、口を開いた。
なあ、兄ちゃん。兄ちゃんに頼みがあるんだ。
そして、ヨハンの瞳を真摯な表情で見つめる。
兄ちゃんはいつもむかつくことばかり言うし、ひねくれているし、グレンのおじいちゃんに迷惑かけてばっかりだけど、そんな兄ちゃんの他人をかばう技術は本物だ。だから、その技術を僕に教えて欲しいんだ。
そして、両手を地に付けると、頭を下げて頼みこむ。そんなケニーを見ながら、ヨハンは苦笑していた。おそらく、ケニーが自分の稽古を中断してまでヨハンのもとにやってきたのは、かばう技術を学びたかったためだろう。
お前、本当に口が減らないな。まあいい、教えてやるよ。
ヨハンは、横にいたマックスの方を向く。マックス、お前も手伝ってくれ。
任せろ、とマックスは拳を掲げる。で、おれは何をすればいい。
マックスの疑問にヨハンは少し考えると、ちょっと離れたところを指さした。
そこで、立っていてくれ。
マックスは多少嫌な予感がしたが、手伝うと言った手前、引き下がれない。ヨハンに言われた通りの場所に立つ。
一方、ヨハンはマックスが立ったのを確認すると、ケニーの方を向いた。
今からおれがマックスを殴るから、全力でかばえ。失敗したら、罰ゲームだからな。
そう言って笑う。ケニーはそんな特訓方法に驚いていた様子を見せたが、すぐに頷くと、マックスの傍らに立った。
それじゃあいくぞ。
ヨハンはそう告げると、ゆったりとした動作で右腕を大きく引く。ケニーは即座にマックスをかばうべく前に出た。目はその右腕をしっかり見据えている。
そして、ヨハンの左足がマックスを蹴り飛ばした。
卑怯だぞ。
またしても抗議するケニー。だが、ヨハンは再び肩をすくめただけだった。
実戦において、相手はこんなに隙だらけで殴って来るのか。
そうだそうだ、とマックスも続ける。
おれ、ヨハンに全力で蹴られて痛かったんだからな。次は失敗するなよ。
そして、再び特訓が始まった。だが、教えていたはずのヨハンとマックスが途中からヒートアップしてしまったことで、特訓の内容は二人が全力でケニーを殴り、それにケニーが全力で反撃することへと変わってしまう。そして、その様子を途中から、一匹の狐が興味深い目で見ていたことに気付いたものは、いなかった。
その特訓の最中、ヨハンの右ストレートがケニーを襲った時。ヨハンとマックスは後ろから、危険な気配を感じた。慌てて後ろを振り返ると、そこにはサラサが立っている。
あら、何やっているの。
サラサのファミリアである、狐のホムラを撫でながら尋ねるサラサの口調は、仕草と同様穏やかだった。だが、その目は笑っておらず、ただケニーを見つめている。ケニーは二人の修行に付き合わされ、かなりぼろぼろになっていた。
やり過ぎた。
咄嗟にそう感じたマックスは、身の危機を覚える。
いや、ちょっとケニーの特訓に付き合っていただけだよ。
慌ててそう告げる。だが、サラサは一切視線を二人に向けなかった。
あなた方には聞いていないから。で、わたしの用意した特訓を抜け出して、何をしていたの。
その静かな、けれども怒りを内に抱えたサラサの声色に、マックスは一つのことを理解した。サラサは、ケニーを殴ったおれたちよりも、ケニーが修行をさぼったことに怒っている。このままだと、ケニーの身が危ない。
い、いやそのおれたちが修行に誘ったんだよ。なあヨハン。
マックスがフォローする。だが、ヨハンはまだ、サラサの真意に気が付いていなかった。
なあ怒るなよ、サラサ。ケニーはまだ子供だ。遊びたい年頃なんだよ。
なるほど、とサラサがケニーを見据え、低く呟く。マックスはにやにやしているヨハンと無表情な怒りを見せているサラサを交互に見据え、目を近くに置かれたゼンマイガーへと逸らした。
助けて、ゼンマイガー。
と、そのゼンマイガーの後ろから、一人の男が現れた。
おいおい、ヨハン、サラサ。何をやっているんだ。
グレンだった。グレンは、二人を交互に見据える。
なにがあったか知らんが、もうちょっと落ち着け。な。
確かに、と。サラサは頷く。そして、ケニーに話しかける。
ケニー、二人と修行をしていたのね。なら、わたしは『避けない』から、全力で殴ってきなさい。
サラサはそう告げると、ケニーの前に立つ。ケニーは分かった、と頷くとサラサめがけて打ちかかる。
そして、木刀がサラサへと襲い掛かる直前、サラサは動いた。サラサには避けるつもりはなかった。だが、反撃をしないとは言っていない。
会心の一撃。その場で見ている皆が、そう感じた。強烈な一撃がケニーに襲い掛かる。当たれば、ケニーは無事では済まされないだろう。
だが、同時に巨大な防御壁が二つ飛ばされる。一つがヨハン、一つがゼンマイガーの作り出した障壁だ。障壁に阻まれ、二人の攻撃は中断させられることになった。
なんで、邪魔したの。
ヨハンたちの方を向き直ったサラサは、不機嫌そうな表情をしていた。
いや、ケニーが死ぬだろ。
そんなサラサに、ヨハンが即座に反論する。そのまま二人は、ケニーを巡って口論を始める。どちらも、ケニーのことを思ってのことだった。そして、二人の口論をグレンが緩やかに仲裁する。どことなく、懐かしい光景だった。
お取込み中悪いけど、ご飯だよ。
そう言いながら現れたのは、リアノとマリアンナだった。マリアンナが口を開く。
今日のご飯はリアノとフェンネルが作ってくれたうまそうな筍龍カレーだ。早く食べに来ないと、わたしが全部食べちまうぞ。
ヨハンとサラサは互いを見やっていたが、サラサが諦めたようにため息をついた。
まあ、確かに。ケニーの動きはそこそこ良くなってはいるから、そこは認めましょう。
そして、ケニーの方を向く。
ただし、ご飯を食べ終わったらまた特訓だから。
あら、何やっているの。
サラサのファミリアである、狐のホムラを撫でながら尋ねるサラサの口調は、仕草と同様穏やかだった。だが、その目は笑っておらず、ただケニーを見つめている。ケニーは二人の修行に付き合わされ、かなりぼろぼろになっていた。
やり過ぎた。
咄嗟にそう感じたマックスは、身の危機を覚える。
いや、ちょっとケニーの特訓に付き合っていただけだよ。
慌ててそう告げる。だが、サラサは一切視線を二人に向けなかった。
あなた方には聞いていないから。で、わたしの用意した特訓を抜け出して、何をしていたの。
その静かな、けれども怒りを内に抱えたサラサの声色に、マックスは一つのことを理解した。サラサは、ケニーを殴ったおれたちよりも、ケニーが修行をさぼったことに怒っている。このままだと、ケニーの身が危ない。
い、いやそのおれたちが修行に誘ったんだよ。なあヨハン。
マックスがフォローする。だが、ヨハンはまだ、サラサの真意に気が付いていなかった。
なあ怒るなよ、サラサ。ケニーはまだ子供だ。遊びたい年頃なんだよ。
なるほど、とサラサがケニーを見据え、低く呟く。マックスはにやにやしているヨハンと無表情な怒りを見せているサラサを交互に見据え、目を近くに置かれたゼンマイガーへと逸らした。
助けて、ゼンマイガー。
と、そのゼンマイガーの後ろから、一人の男が現れた。
おいおい、ヨハン、サラサ。何をやっているんだ。
グレンだった。グレンは、二人を交互に見据える。
なにがあったか知らんが、もうちょっと落ち着け。な。
確かに、と。サラサは頷く。そして、ケニーに話しかける。
ケニー、二人と修行をしていたのね。なら、わたしは『避けない』から、全力で殴ってきなさい。
サラサはそう告げると、ケニーの前に立つ。ケニーは分かった、と頷くとサラサめがけて打ちかかる。
そして、木刀がサラサへと襲い掛かる直前、サラサは動いた。サラサには避けるつもりはなかった。だが、反撃をしないとは言っていない。
会心の一撃。その場で見ている皆が、そう感じた。強烈な一撃がケニーに襲い掛かる。当たれば、ケニーは無事では済まされないだろう。
だが、同時に巨大な防御壁が二つ飛ばされる。一つがヨハン、一つがゼンマイガーの作り出した障壁だ。障壁に阻まれ、二人の攻撃は中断させられることになった。
なんで、邪魔したの。
ヨハンたちの方を向き直ったサラサは、不機嫌そうな表情をしていた。
いや、ケニーが死ぬだろ。
そんなサラサに、ヨハンが即座に反論する。そのまま二人は、ケニーを巡って口論を始める。どちらも、ケニーのことを思ってのことだった。そして、二人の口論をグレンが緩やかに仲裁する。どことなく、懐かしい光景だった。
お取込み中悪いけど、ご飯だよ。
そう言いながら現れたのは、リアノとマリアンナだった。マリアンナが口を開く。
今日のご飯はリアノとフェンネルが作ってくれたうまそうな筍龍カレーだ。早く食べに来ないと、わたしが全部食べちまうぞ。
ヨハンとサラサは互いを見やっていたが、サラサが諦めたようにため息をついた。
まあ、確かに。ケニーの動きはそこそこ良くなってはいるから、そこは認めましょう。
そして、ケニーの方を向く。
ただし、ご飯を食べ終わったらまた特訓だから。
時間は少しさかのぼる。ヨハンとマックスが、ケニーの特訓を行っていたころ。リアノはフェンネルと二人、筍龍カレーを作っていた。リアノもフェンネルも料理が苦手と言うわけではない。なので、次々と準備が整っていく。そんな中、リアノはフェンネルが先ほどからため息をついてばかりいるのが気になっていた。
理由を聞くと、料理当番だと告げるまでの長きにわたり、グレンとマミからからくりに関する講釈を受けていた疲れだと言う。リアノは、納得した。グレンは常識人ではある。だが、ゼンマイガーのことを尋ねると、ついうっかりしゃべり過ぎてしまうのだ。
リアノが同情すると、フェンネルは感謝の言葉を向ける。ただ、フェンネルはグレンの話を聞いているのは苦ではなかったと答えた。
リアノさん、わたしは最近皆様の旅に同行し始めたばかりです。だから、皆様のことを知れると嬉しいんですよ。
フェンネルの言葉に、リアノは納得した。確かに、リアノと他の仲間たちの付き合いは深い。だから、リアノにとっては当たり前となってしまっていることも、フェンネルには珍しいのであろう。
だから、もしよかったらリアノさんや他の皆様についても教えて下さい。
フェンネルの言葉を受け、リアノは他の皆について軽く紹介を始める。
サラサは昔からの知り合いで、とても真面目な親友。ヨハンは見た目通り、裏表のない人物。
そう言えば、ヨハンさん、よく『魔王』のせいで性格が悪くなってしまう時があるって言ってましたけど・・・
と、フェンネルが尋ねるが、リアノは首を横に振った。
『魔王』の力が現れる前から、あんな感じだったから。
そして、グレンについても紹介する。頼りになる常識人で、レイクと言う昔馴染みの女性と仲がいい。
その言葉に、フェンネルがぴくりと反応した。
その人は、グレンさんの恋人ですか。
リアノはその言葉に考え込んだ。確かに、二人は仲がいい気がするが、少なくともリアノの前でそんな様子を見せたことはない。そもそも、ノームコプにいたころのサラサは、『プリンシプル』のキャプテンとして世界中を飛び回っており、サラサ以外の人物の私生活について気にしたこともなかった。
まあ、違うんじゃない。
結局、あいまいな返事で言葉を濁らせた。他のみんなもどうだったか、とリアノはそのまま考えこんでしまったため、フェンネルが一瞬嬉しそうな表情をしたことに気が付かなかった。
話はそのまま、マックスのことに移る。ただ、リアノはマックスについてほとんど知らなかった。ある意味、純粋な性格なんじゃないかな、と返す。フェンネルもそこまでマックスの性格に興味は持っていなかったようで、なるほどとあっさり同意する、フェンネルには、マックスについてもっと気がかりなことがあったためだ。それは、マックスと共にいる謎のゴリラだ。二人はしばし、ゴリラ談義を続けていた。
そう言えば、みなさんはリアノさんの船でここまで来たんですよね。
一通りゴリラについて話した後、フェンネルがリアノに尋ねる。
その船は、今どうされているんですか。
船は今、ウノーヴァの沿岸に泊められている。そして、『プリンシプル』の船員であるキャサリン、アイリーン、ヨキの三人がそれを守っているはずだった。
みんな強いから、しっかり守ってくれているはずだよ。
リアノが告げると、フェンネルは納得したように頷いた。
確かに、リアノさんの船の人って強そうなイメージがあります。もし皆で船に乗る時が会ったら、紹介してくださいね。
理由を聞くと、料理当番だと告げるまでの長きにわたり、グレンとマミからからくりに関する講釈を受けていた疲れだと言う。リアノは、納得した。グレンは常識人ではある。だが、ゼンマイガーのことを尋ねると、ついうっかりしゃべり過ぎてしまうのだ。
リアノが同情すると、フェンネルは感謝の言葉を向ける。ただ、フェンネルはグレンの話を聞いているのは苦ではなかったと答えた。
リアノさん、わたしは最近皆様の旅に同行し始めたばかりです。だから、皆様のことを知れると嬉しいんですよ。
フェンネルの言葉に、リアノは納得した。確かに、リアノと他の仲間たちの付き合いは深い。だから、リアノにとっては当たり前となってしまっていることも、フェンネルには珍しいのであろう。
だから、もしよかったらリアノさんや他の皆様についても教えて下さい。
フェンネルの言葉を受け、リアノは他の皆について軽く紹介を始める。
サラサは昔からの知り合いで、とても真面目な親友。ヨハンは見た目通り、裏表のない人物。
そう言えば、ヨハンさん、よく『魔王』のせいで性格が悪くなってしまう時があるって言ってましたけど・・・
と、フェンネルが尋ねるが、リアノは首を横に振った。
『魔王』の力が現れる前から、あんな感じだったから。
そして、グレンについても紹介する。頼りになる常識人で、レイクと言う昔馴染みの女性と仲がいい。
その言葉に、フェンネルがぴくりと反応した。
その人は、グレンさんの恋人ですか。
リアノはその言葉に考え込んだ。確かに、二人は仲がいい気がするが、少なくともリアノの前でそんな様子を見せたことはない。そもそも、ノームコプにいたころのサラサは、『プリンシプル』のキャプテンとして世界中を飛び回っており、サラサ以外の人物の私生活について気にしたこともなかった。
まあ、違うんじゃない。
結局、あいまいな返事で言葉を濁らせた。他のみんなもどうだったか、とリアノはそのまま考えこんでしまったため、フェンネルが一瞬嬉しそうな表情をしたことに気が付かなかった。
話はそのまま、マックスのことに移る。ただ、リアノはマックスについてほとんど知らなかった。ある意味、純粋な性格なんじゃないかな、と返す。フェンネルもそこまでマックスの性格に興味は持っていなかったようで、なるほどとあっさり同意する、フェンネルには、マックスについてもっと気がかりなことがあったためだ。それは、マックスと共にいる謎のゴリラだ。二人はしばし、ゴリラ談義を続けていた。
そう言えば、みなさんはリアノさんの船でここまで来たんですよね。
一通りゴリラについて話した後、フェンネルがリアノに尋ねる。
その船は、今どうされているんですか。
船は今、ウノーヴァの沿岸に泊められている。そして、『プリンシプル』の船員であるキャサリン、アイリーン、ヨキの三人がそれを守っているはずだった。
みんな強いから、しっかり守ってくれているはずだよ。
リアノが告げると、フェンネルは納得したように頷いた。
確かに、リアノさんの船の人って強そうなイメージがあります。もし皆で船に乗る時が会ったら、紹介してくださいね。
一夜が明け、エミリーが儀式を始めてから三日目となる。その日も朝から、サラサはケニーに修行をつけていた。よくケニーにちょっかいを出しているヨハンはいない。と言うのも、彼は今日の料理当番であり、朝から虎狩りに出かけていたためだ。
昨日は思わず全力で打ち掛かってしまったため、気付かなかったが、ケニーの腕は少しずつ上達していた。おまけに、ヨハンやマックスの影響を受けているのか、時折想定外のことをしてくる。良くなったな。サラサがそうケニーに告げると、喜ぶケニーに対し、更に苛酷な特訓告げた。もちろん、それもケニーを信頼してのことである。ケニーがそれをこなしていると、あっという間に休憩の時間となった。
そう言えば、師匠。師匠に聞きたいことがあるんだ。
水を飲みながらサラサの方を向くケニーに、サラサは何でも聞きなさい、と返す。じゃあ、と前置きを置いてから、ケニーは口を開いた。
師匠の父ちゃん。つまりスオウって人は、僕の父ちゃんを連れて行った。だから、僕は師匠のお父さんは許せない。でも、師匠はどうなの。これから先、師匠の父ちゃんに会ったら、師匠はどうするの。
サラサは、言葉に詰まった。まさか、スオウのことを聞いてくるとは思わなかったためだ。それに、スオウのことはサラサの気がかりにもなっていたことである。父親が何故そんな非道なことをするようになったのか、サラサにはさっぱりわからなかった。
父が過ちを犯すなら、この手で止める。それがケニー、あなたへの償いになるかはわからないけど。
少しの間の後、サラサが一言一言、噛みしめるように答える。その言葉に、ケニーは大きく頷いた。
師匠、答えてくれてありがとう。
そして、そのままケニーは首をかしげる。
それにしても、師匠。なんで師匠のお父さんはあんな人になっちゃったの。師匠は、そのスオウって人が親であるにもかかわらず、いい人だと思う。僕が師匠の道場で学ぶことも許してくれたし、ウノーヴァについてくるのも許可してくれた。スッグニーさんも、サラサさんほど正義感のある人は見たことないって言っていたよ。でも、なんでそのスオウって人はあんなことをしたの、なんであんな悪い奴なの。昔からずっと、そうだったの?
ケニーの疑問に、サラサは首を横に振った。
なんでそうなったのかは、わたしにもわからない。わたしと一緒にいた時の父は、もっと正義感に溢れていたから。
そして、サラサが子どものころの話をする。その話を聞いて、ケニーは驚いた顔をした。
えーっ、昔はそんないい人だったの。それじゃあ、今の師匠の父ちゃんはまるで別人じゃん。どうしちゃったの。
サラサも、今のケニーと同じ心境であった。
昨日は思わず全力で打ち掛かってしまったため、気付かなかったが、ケニーの腕は少しずつ上達していた。おまけに、ヨハンやマックスの影響を受けているのか、時折想定外のことをしてくる。良くなったな。サラサがそうケニーに告げると、喜ぶケニーに対し、更に苛酷な特訓告げた。もちろん、それもケニーを信頼してのことである。ケニーがそれをこなしていると、あっという間に休憩の時間となった。
そう言えば、師匠。師匠に聞きたいことがあるんだ。
水を飲みながらサラサの方を向くケニーに、サラサは何でも聞きなさい、と返す。じゃあ、と前置きを置いてから、ケニーは口を開いた。
師匠の父ちゃん。つまりスオウって人は、僕の父ちゃんを連れて行った。だから、僕は師匠のお父さんは許せない。でも、師匠はどうなの。これから先、師匠の父ちゃんに会ったら、師匠はどうするの。
サラサは、言葉に詰まった。まさか、スオウのことを聞いてくるとは思わなかったためだ。それに、スオウのことはサラサの気がかりにもなっていたことである。父親が何故そんな非道なことをするようになったのか、サラサにはさっぱりわからなかった。
父が過ちを犯すなら、この手で止める。それがケニー、あなたへの償いになるかはわからないけど。
少しの間の後、サラサが一言一言、噛みしめるように答える。その言葉に、ケニーは大きく頷いた。
師匠、答えてくれてありがとう。
そして、そのままケニーは首をかしげる。
それにしても、師匠。なんで師匠のお父さんはあんな人になっちゃったの。師匠は、そのスオウって人が親であるにもかかわらず、いい人だと思う。僕が師匠の道場で学ぶことも許してくれたし、ウノーヴァについてくるのも許可してくれた。スッグニーさんも、サラサさんほど正義感のある人は見たことないって言っていたよ。でも、なんでそのスオウって人はあんなことをしたの、なんであんな悪い奴なの。昔からずっと、そうだったの?
ケニーの疑問に、サラサは首を横に振った。
なんでそうなったのかは、わたしにもわからない。わたしと一緒にいた時の父は、もっと正義感に溢れていたから。
そして、サラサが子どものころの話をする。その話を聞いて、ケニーは驚いた顔をした。
えーっ、昔はそんないい人だったの。それじゃあ、今の師匠の父ちゃんはまるで別人じゃん。どうしちゃったの。
サラサも、今のケニーと同じ心境であった。
サラサがケニーと修行に励んでいた頃、マックスとリアノはザビーたちのテントへと向かっていた。ザビーとヌヴェーマで遊ぶ約束をしていたためである。
ことの発端は、カルロスが持ってきた情報だった。彼によれば、街の射的場で、なにやら腕試しのようなものが行われている。一見すると簡単そうだが、誰もパーフェクトが取れないくらい難しいという評判であった。そんな射的の話に興味を示したのが、マックスとリアノ、そしてザビーにヨハンであったのだ。射的場に行こう。そう約束して、四人は後で落ち合うことになった。なお、ティボルトも興味は示していたが、おれにはセルモさんがいる、との謎発言を残して参加しなかったようである。
ザビーのテントの前には、既にヨハンとザビーが待っていた。ヨハンの姿を見て、マックスは思い出す。
鎧の兄ちゃん、今日料理当番じゃなかったのか。
その言葉に、ヨハンは頷いた。
そうだった。だが、もう虎は狩った。後のことは、グレンに任せる。わざわざ、『おれの』ゼンマイガーに料理機能を付けて貸したくらいだからな、
料理機能、そんなすごいものまでついているのか。とマックスは思った。
それって、どんな機能なんだ。
その言葉に、ヨハンはいつもの笑みを浮かべ、答える。
料理するものを用意して、ゼンマイガーのボタンを押すんだ。
マックスはヨハンの言葉に相槌をうつ。それで、どうなるんだろう。マックスは興味津々であった。ヨハンはそんなマックスを見ながら話を続ける。
そうすると、ゼンマイガーの頭のモニターに、『ガ・ン・バ・レ』って文字が表示されるんだ。どうだマックス、凄い機能だろう。
凄えぜ、鎧の兄ちゃん。
マックスが深く考えずに新機能をほめる横で、リアノが呆れたような溜息をついていた、
ことの発端は、カルロスが持ってきた情報だった。彼によれば、街の射的場で、なにやら腕試しのようなものが行われている。一見すると簡単そうだが、誰もパーフェクトが取れないくらい難しいという評判であった。そんな射的の話に興味を示したのが、マックスとリアノ、そしてザビーにヨハンであったのだ。射的場に行こう。そう約束して、四人は後で落ち合うことになった。なお、ティボルトも興味は示していたが、おれにはセルモさんがいる、との謎発言を残して参加しなかったようである。
ザビーのテントの前には、既にヨハンとザビーが待っていた。ヨハンの姿を見て、マックスは思い出す。
鎧の兄ちゃん、今日料理当番じゃなかったのか。
その言葉に、ヨハンは頷いた。
そうだった。だが、もう虎は狩った。後のことは、グレンに任せる。わざわざ、『おれの』ゼンマイガーに料理機能を付けて貸したくらいだからな、
料理機能、そんなすごいものまでついているのか。とマックスは思った。
それって、どんな機能なんだ。
その言葉に、ヨハンはいつもの笑みを浮かべ、答える。
料理するものを用意して、ゼンマイガーのボタンを押すんだ。
マックスはヨハンの言葉に相槌をうつ。それで、どうなるんだろう。マックスは興味津々であった。ヨハンはそんなマックスを見ながら話を続ける。
そうすると、ゼンマイガーの頭のモニターに、『ガ・ン・バ・レ』って文字が表示されるんだ。どうだマックス、凄い機能だろう。
凄えぜ、鎧の兄ちゃん。
マックスが深く考えずに新機能をほめる横で、リアノが呆れたような溜息をついていた、
ともあれ、街へとたどり着いた四人は早速射的場へと向かった。腕試しの開催中と言うこともあってか、射的場には人だかりができている。
その人だかりを上手く避けながらマックスたちは入口へと向かう。その入り口には、一人の奇妙な格好をした男性が立っていた。ゴリラを思わせるほど筋骨隆々とした半裸の男性で、腰から一本の刀を下げている。もちろん、ここだけ聞けばまだ普通の男性だが、何故かその頭はライオンマスクに覆われているのだ。その男は、周囲の奇異の目を気にもせず店の入り口を物珍しげに眺めていた。
おっちゃん、なんでそんな恰好をしているんだ。
思わず、マックスが尋ねる。男はマスク越しに、悔しそうな声を出した。
それが、呪いを受けちまってよ。おれはこのマスクが取れないんだ。
その言葉に、リアノは聞き覚えがあった。しかし、ウノーヴァに知り合いはいない。リアノは、気のせいだろうと深く気にすることはなかった。一方、マックスは男の言葉に憤った表情を見せる。
酷いことするやつもいたもんだな。許せねえ。
ありがとよ、坊主。そういってくれると嬉しいぜ。後ろのみんなもおれのことはライオン仮面とでも呼んでくれ。
ライオン仮面は、ヨハンたち四人に向けて言った。そして、一つの疑問をヨハンたちに投げかける。
ここで、何かやっているのか。
マックスが射的大会だと答えると、男は面白そうだな。と言った顔をした。
おれもやってみるかな、坊主たちもやるのか。
その言葉に、マックスは頷く。そして、ライオン仮面も加えた五人は射的場へと入っていった。
その人だかりを上手く避けながらマックスたちは入口へと向かう。その入り口には、一人の奇妙な格好をした男性が立っていた。ゴリラを思わせるほど筋骨隆々とした半裸の男性で、腰から一本の刀を下げている。もちろん、ここだけ聞けばまだ普通の男性だが、何故かその頭はライオンマスクに覆われているのだ。その男は、周囲の奇異の目を気にもせず店の入り口を物珍しげに眺めていた。
おっちゃん、なんでそんな恰好をしているんだ。
思わず、マックスが尋ねる。男はマスク越しに、悔しそうな声を出した。
それが、呪いを受けちまってよ。おれはこのマスクが取れないんだ。
その言葉に、リアノは聞き覚えがあった。しかし、ウノーヴァに知り合いはいない。リアノは、気のせいだろうと深く気にすることはなかった。一方、マックスは男の言葉に憤った表情を見せる。
酷いことするやつもいたもんだな。許せねえ。
ありがとよ、坊主。そういってくれると嬉しいぜ。後ろのみんなもおれのことはライオン仮面とでも呼んでくれ。
ライオン仮面は、ヨハンたち四人に向けて言った。そして、一つの疑問をヨハンたちに投げかける。
ここで、何かやっているのか。
マックスが射的大会だと答えると、男は面白そうだな。と言った顔をした。
おれもやってみるかな、坊主たちもやるのか。
その言葉に、マックスは頷く。そして、ライオン仮面も加えた五人は射的場へと入っていった。
店の中も、多くの人々でにぎわっていた。奥の方で、射的が行われている。
はい、残念でした。またいらしてくださいね。
店主であろう、トロウルの男性の声が聞こえてきた。どうやら、射的を行っていたゴブリンが失敗してしまったらしい。
悔しがるゴブリンを押しのけ前にでたのは、一人のバグベアであった。その気配や背後に持つ弓を見ても、彼の実力はなかなかのものだと言うことがわかる。この男ならパーフェクトが取れるかもしれない。実際、彼は20個ある的に次々と当てていく。
だが、残り2個となったところで彼の持つゴム鉄砲がわずかに動き、弾は無情にもそれてしまった。
はい、残念でした。
トロウルの声が無情にも響く。
お、おかしいだろ。
よほど自分の腕に自信を持っていたのか、バグベアは抗議の声を上げる。
ほう、わたしがなにかいかさまをしていると言いたいわけですね。
その言葉に、店主が大げさな反応を示す。
疑うんですか。まあ、負けを認めたくないって気持ちはわかりますからよ。
そして、店主は頷くと、厭味ったらしい笑みを見せた。
いいでしょう。好きなだけ見てください。あなたが満足するまでね。
店主の言葉に、バグベアは頷くと調べ始める。だが、特にいかさまは見あたらなかった。マックスから見ても、特にいかさまがある様子はない。
バグベアが愕然としながらも再び抗議を始めた。店主はバグベアの抗議に肩をすくめ、言葉を返す
まあ、自分の実力を信じられるのは良いことだとは思いますがね。あなたみたいなの、なんて言うかご存知ですか。負け犬って言うんですよ。見苦しいですし、さっさと次の人に譲ったらどうですか。
そう言われたバグベアは不承不承と言った具合で次の人に譲ると、ぶつぶつ呟きながら去っていった。
はい、残念でした。またいらしてくださいね。
店主であろう、トロウルの男性の声が聞こえてきた。どうやら、射的を行っていたゴブリンが失敗してしまったらしい。
悔しがるゴブリンを押しのけ前にでたのは、一人のバグベアであった。その気配や背後に持つ弓を見ても、彼の実力はなかなかのものだと言うことがわかる。この男ならパーフェクトが取れるかもしれない。実際、彼は20個ある的に次々と当てていく。
だが、残り2個となったところで彼の持つゴム鉄砲がわずかに動き、弾は無情にもそれてしまった。
はい、残念でした。
トロウルの声が無情にも響く。
お、おかしいだろ。
よほど自分の腕に自信を持っていたのか、バグベアは抗議の声を上げる。
ほう、わたしがなにかいかさまをしていると言いたいわけですね。
その言葉に、店主が大げさな反応を示す。
疑うんですか。まあ、負けを認めたくないって気持ちはわかりますからよ。
そして、店主は頷くと、厭味ったらしい笑みを見せた。
いいでしょう。好きなだけ見てください。あなたが満足するまでね。
店主の言葉に、バグベアは頷くと調べ始める。だが、特にいかさまは見あたらなかった。マックスから見ても、特にいかさまがある様子はない。
バグベアが愕然としながらも再び抗議を始めた。店主はバグベアの抗議に肩をすくめ、言葉を返す
まあ、自分の実力を信じられるのは良いことだとは思いますがね。あなたみたいなの、なんて言うかご存知ですか。負け犬って言うんですよ。見苦しいですし、さっさと次の人に譲ったらどうですか。
そう言われたバグベアは不承不承と言った具合で次の人に譲ると、ぶつぶつ呟きながら去っていった。
なあ、坊主たち。
バグベアが去っていくのを見ながら、ライオン仮面が小声でヨハンたちに話しかけてきた。
今の、どう思う。
特にイカサマはしていない。マックスとリアノが次々にそう答えるが、ライオン仮面は納得した声を上げなかった。
おれはイカサマだと思う。ただ、ただの小細工ではないな。さっきの男も、お前たちも見た感じ優れた冒険者のようだ。それが皆わからないとなると、一筋縄ではいかなさそうだ。
そして、ライオン仮面はヨハンたちに話しを続ける。
なあ、おれが先に射的やるだろ。だから、坊主たちはそのときにどんなイカサマがあったか調べて欲しい。なに、武芸は全般的に出来る。あの射的くらいであれば、問題なく突破できるさ。だから、何かイカサマがあるんだったら、おれの時も行われるはずだ。で、お前の番の時にそのイカサマをおれが潰す。どうだ。
マックスは頷く。
おれは問題ない、だが、ライオン仮面はそれでいいのか。あんたはそれで失敗しちゃうじゃないか。
ライオン仮面は、問題ないと言った風に頷いた。
おれはパーフェクトを取りに来たわけじゃないからな。あくまで、腕試しに来ただけだ。だけれどもこんな形でイカサマする奴は許せない。だから、そいつは何としてでも止めさせよう。
こうして、マックスたちはこの射的場で行われているイカサマを暴くことになった。
最初に挑むのは、ヨハン。ヨハンには、他の四人とは異なる考えがあった。このやり方なら、イカサマを潜り抜け問題なくパーフェクトが取れるのではないか、との考え方が。
なあ店主。魔術って禁止か。
ヨハンは始める前に店主に尋ねる。店主は当たり前だと言わんばかりに頷いた。
魔術で的を射ぬくのは禁止されております。
ヨハンはその言葉ににやりと頷いた。
分かった、的を射ぬいてはいけないんだな。
そして、ヨハンは次々と的を射ぬいていく。だが、もとより射撃はヨハンの得意分野ではない。何度か撃ったところで、ついにゴムが的をそれてしまった。
店主がはい、残念でした。と告げるべく口を開く。だが、ヨハンには秘策があった。ヨハンはゴム目掛けて魔術を放つ。正確にゴムを射抜いたその魔術はゴムの軌道を変え、普通ならあり得ない動きをしながら的へとぶつかっていった。
ヨハンがガッツポーズを見せる。
別に、的さえ射抜かなきゃいいんだろ。
店主は苦笑しながら答える。
まあ、ゴムの軌道を魔術で変えることは想定していませんでしたからね。今回に限り、認めましょう。
そして、ヨハンは時に魔術を使いながら、次々と的当てに成功していく。
そしてついに、ヨハンは的が残り二つのところまでたどり着いた。そして、また明後日の方向に飛んだゴムをヨハンが魔術で変更しようとする。だが、その時ヨハンの魔術が上手く発動しなかった。ゴムはそのまま、見当違いの方向へと飛んでいく。
はい、残念でした。
落ち着いた笑みで告げる店主。ヨハンは苦笑した。おれの集中力が切れたせいかな。
その場にいた皆も、ヨハンの魔術が失敗したことが原因だろうと考えていた。ただ一人、マックスを除いては。
マックスはヨハンが失敗する直前、背後からかすかな魔術の気配を感じた。つい先日戦ったバロン・ザムディが使っていたような、シャーマンの魔術だ。誰か魔術を使う人がいるのか。そう考えたマックスは何気なく後ろを振り向くが、誰もいない。おかしい。絶対に何かある。そう考えたマックスは、全神経をかけて背後の様子を覗き見た。その集中力は功を奏する。マックスは、壁の一角に小さな穴が開いていることに気が付いたのである。そして、そこから何者かがこちらを凝視していることにも。
慌ててマックスは他の四人に告げる。
なるほど、そういうことか。
ライオン仮面が納得したように頷く。
じゃあ、後はおれに任せてくれ。このライオン仮面様が何とかしてみせるさ。
同時に、リアノも立ち上がる。
そっちの方が、面白そうだからね。わたしも行くよ。
更に、戻ってきたヨハンも加えた三人が、店から出ていった。イカサマを見つけるために。
そして、店にザビーと共に残されたマックスは、パーフェクトを狙って射的を行うことになった。
次は、マックス・ボンバーさん。
店主がマックスの名を呼び、ゴム鉄砲を手渡す。
どうぞ、始めて下さい。
こうして、マックスの挑戦が始まった。
バグベアが去っていくのを見ながら、ライオン仮面が小声でヨハンたちに話しかけてきた。
今の、どう思う。
特にイカサマはしていない。マックスとリアノが次々にそう答えるが、ライオン仮面は納得した声を上げなかった。
おれはイカサマだと思う。ただ、ただの小細工ではないな。さっきの男も、お前たちも見た感じ優れた冒険者のようだ。それが皆わからないとなると、一筋縄ではいかなさそうだ。
そして、ライオン仮面はヨハンたちに話しを続ける。
なあ、おれが先に射的やるだろ。だから、坊主たちはそのときにどんなイカサマがあったか調べて欲しい。なに、武芸は全般的に出来る。あの射的くらいであれば、問題なく突破できるさ。だから、何かイカサマがあるんだったら、おれの時も行われるはずだ。で、お前の番の時にそのイカサマをおれが潰す。どうだ。
マックスは頷く。
おれは問題ない、だが、ライオン仮面はそれでいいのか。あんたはそれで失敗しちゃうじゃないか。
ライオン仮面は、問題ないと言った風に頷いた。
おれはパーフェクトを取りに来たわけじゃないからな。あくまで、腕試しに来ただけだ。だけれどもこんな形でイカサマする奴は許せない。だから、そいつは何としてでも止めさせよう。
こうして、マックスたちはこの射的場で行われているイカサマを暴くことになった。
最初に挑むのは、ヨハン。ヨハンには、他の四人とは異なる考えがあった。このやり方なら、イカサマを潜り抜け問題なくパーフェクトが取れるのではないか、との考え方が。
なあ店主。魔術って禁止か。
ヨハンは始める前に店主に尋ねる。店主は当たり前だと言わんばかりに頷いた。
魔術で的を射ぬくのは禁止されております。
ヨハンはその言葉ににやりと頷いた。
分かった、的を射ぬいてはいけないんだな。
そして、ヨハンは次々と的を射ぬいていく。だが、もとより射撃はヨハンの得意分野ではない。何度か撃ったところで、ついにゴムが的をそれてしまった。
店主がはい、残念でした。と告げるべく口を開く。だが、ヨハンには秘策があった。ヨハンはゴム目掛けて魔術を放つ。正確にゴムを射抜いたその魔術はゴムの軌道を変え、普通ならあり得ない動きをしながら的へとぶつかっていった。
ヨハンがガッツポーズを見せる。
別に、的さえ射抜かなきゃいいんだろ。
店主は苦笑しながら答える。
まあ、ゴムの軌道を魔術で変えることは想定していませんでしたからね。今回に限り、認めましょう。
そして、ヨハンは時に魔術を使いながら、次々と的当てに成功していく。
そしてついに、ヨハンは的が残り二つのところまでたどり着いた。そして、また明後日の方向に飛んだゴムをヨハンが魔術で変更しようとする。だが、その時ヨハンの魔術が上手く発動しなかった。ゴムはそのまま、見当違いの方向へと飛んでいく。
はい、残念でした。
落ち着いた笑みで告げる店主。ヨハンは苦笑した。おれの集中力が切れたせいかな。
その場にいた皆も、ヨハンの魔術が失敗したことが原因だろうと考えていた。ただ一人、マックスを除いては。
マックスはヨハンが失敗する直前、背後からかすかな魔術の気配を感じた。つい先日戦ったバロン・ザムディが使っていたような、シャーマンの魔術だ。誰か魔術を使う人がいるのか。そう考えたマックスは何気なく後ろを振り向くが、誰もいない。おかしい。絶対に何かある。そう考えたマックスは、全神経をかけて背後の様子を覗き見た。その集中力は功を奏する。マックスは、壁の一角に小さな穴が開いていることに気が付いたのである。そして、そこから何者かがこちらを凝視していることにも。
慌ててマックスは他の四人に告げる。
なるほど、そういうことか。
ライオン仮面が納得したように頷く。
じゃあ、後はおれに任せてくれ。このライオン仮面様が何とかしてみせるさ。
同時に、リアノも立ち上がる。
そっちの方が、面白そうだからね。わたしも行くよ。
更に、戻ってきたヨハンも加えた三人が、店から出ていった。イカサマを見つけるために。
そして、店にザビーと共に残されたマックスは、パーフェクトを狙って射的を行うことになった。
次は、マックス・ボンバーさん。
店主がマックスの名を呼び、ゴム鉄砲を手渡す。
どうぞ、始めて下さい。
こうして、マックスの挑戦が始まった。
マックスは特に妨害もなく、20発連続で当てきった。周りにいた観客からは、歓声が聞こえてくる。皆、マックスの成功を祝っているようだった。ただ一人、店主を除いては。
マックスが20発全て当てたのを見て、店主は動揺していた。
わ、ワタシの作戦は完璧だったハズ…あ、いやなんでもないです
店主はうっかり口を滑らせてしまった。そして、それを見逃すような人物は、この場にいなかった。
それはどういうことなんだギョ。
ザビーが店主に詰め寄る。店主がしどろもどろに言い訳を始めようとした時だった。
簡単な小細工だよ。
店の入り口にヨハンたち三人が現れた。
彼らは、紐でぐるぐる巻きにしたオーガを三人ほどつれていた。皆、シャーマンのような格好をしている。
こいつらが、パーフェクトが出そうになる度に様々な妨害をかけていたんだよ。道理で、いつものような腕が振るえないわけだ。
ライオン仮面が呆れたような声で告げる。
ポディマハッタヤさん、すみません。
オーガの一人が店主に土下座する。店主は皆の白い目をあび、あたふたしていた。
いやそのワタシ、ちちち違いますよ。これは、彼らがその・・・
店主が言い訳を始めようとすると、客の中から一人のバグベアの女性が立ち上がった。
すみません、わたしはこの街の憲兵です。今日はたまたま非番だったので、射的をしようと思ったのですが
ちょっとあなたたちを署まで連行しないといけませんね。
許してください、と涙目になる店主に対し、憲兵の女性が続ける。
それと、その少年にしっかり景品をあげてください
その言葉に、店主は更に涙目となる。
いや、それがその、ワタシ、驚きのあまり景品の場所を忘れてしまいまして。
ポディマハッタヤさん、景品なんていらないって言っていたじゃないですか!
店主の言い訳に、手下のオーガが叫ぶ。女性憲兵は呆れたようなため息をつくと、冷たい声で言った。
死にたくなかったら、今すぐ景品を用意しろ。
こうして、マックスの手元には店主が皆から巻き上げたお金が手に入った。しかし、マックスもライオン仮面と同じで、腕試しの射的大会に興味はあっても商品にそこまで興味はなかった。おまけに、店主がイカサマをして手に入れたお金でもあり、あまり持っていていい気はしない。
だったら、この射的に参加した奴でも集めて、みんなで飯にでも行こうぜ。
マックスの呼びかけに応じて、皆飯屋へと向かうことになった。
その途中、ライオン仮面がマックスに話しかけてきた。
坊主たち、旅をしているんだろ。おれもちょっと目的があって旅をしている。また。どこかで会ったらよろしくな。
その言葉に、マックスは頷いた。その時、ふとサラサのことが頭によぎった。目の前のライオン仮面と同じく、刀を使うものだからかもしれない。
そう言えば、おれの仲間にも刀を使う姉ちゃんがいるんだ。もしライオン仮面がよかったら、明日でも一緒に会いに行くよ。
ライオン仮面は頷く。
刀使いか。話が合いそうだ。楽しみにしてるぜ。
だが、サラサとライオン仮面が会う機会は与えられなかった。何故なら、エミリーの神託が終わったため、翌日からヨハンたちは動き出さなければならなくなったからだ。
マックスが20発全て当てたのを見て、店主は動揺していた。
わ、ワタシの作戦は完璧だったハズ…あ、いやなんでもないです
店主はうっかり口を滑らせてしまった。そして、それを見逃すような人物は、この場にいなかった。
それはどういうことなんだギョ。
ザビーが店主に詰め寄る。店主がしどろもどろに言い訳を始めようとした時だった。
簡単な小細工だよ。
店の入り口にヨハンたち三人が現れた。
彼らは、紐でぐるぐる巻きにしたオーガを三人ほどつれていた。皆、シャーマンのような格好をしている。
こいつらが、パーフェクトが出そうになる度に様々な妨害をかけていたんだよ。道理で、いつものような腕が振るえないわけだ。
ライオン仮面が呆れたような声で告げる。
ポディマハッタヤさん、すみません。
オーガの一人が店主に土下座する。店主は皆の白い目をあび、あたふたしていた。
いやそのワタシ、ちちち違いますよ。これは、彼らがその・・・
店主が言い訳を始めようとすると、客の中から一人のバグベアの女性が立ち上がった。
すみません、わたしはこの街の憲兵です。今日はたまたま非番だったので、射的をしようと思ったのですが
ちょっとあなたたちを署まで連行しないといけませんね。
許してください、と涙目になる店主に対し、憲兵の女性が続ける。
それと、その少年にしっかり景品をあげてください
その言葉に、店主は更に涙目となる。
いや、それがその、ワタシ、驚きのあまり景品の場所を忘れてしまいまして。
ポディマハッタヤさん、景品なんていらないって言っていたじゃないですか!
店主の言い訳に、手下のオーガが叫ぶ。女性憲兵は呆れたようなため息をつくと、冷たい声で言った。
死にたくなかったら、今すぐ景品を用意しろ。
こうして、マックスの手元には店主が皆から巻き上げたお金が手に入った。しかし、マックスもライオン仮面と同じで、腕試しの射的大会に興味はあっても商品にそこまで興味はなかった。おまけに、店主がイカサマをして手に入れたお金でもあり、あまり持っていていい気はしない。
だったら、この射的に参加した奴でも集めて、みんなで飯にでも行こうぜ。
マックスの呼びかけに応じて、皆飯屋へと向かうことになった。
その途中、ライオン仮面がマックスに話しかけてきた。
坊主たち、旅をしているんだろ。おれもちょっと目的があって旅をしている。また。どこかで会ったらよろしくな。
その言葉に、マックスは頷いた。その時、ふとサラサのことが頭によぎった。目の前のライオン仮面と同じく、刀を使うものだからかもしれない。
そう言えば、おれの仲間にも刀を使う姉ちゃんがいるんだ。もしライオン仮面がよかったら、明日でも一緒に会いに行くよ。
ライオン仮面は頷く。
刀使いか。話が合いそうだ。楽しみにしてるぜ。
だが、サラサとライオン仮面が会う機会は与えられなかった。何故なら、エミリーの神託が終わったため、翌日からヨハンたちは動き出さなければならなくなったからだ。
そして、翌日。神託から一晩たち、体力も大分回復したエミリーからヨハンたちに話があった。神託の内容についてだ。それによれば、ゲイムの居場所は、探すだけ無駄とのことであった。なぜなら、ゲイムは転移の魔術が封じられているこのウノーヴァにおいても、魔族の力で自由に転移が行えるためである。
ただし、とエミリーは続ける。これはあくまでも探すのが無駄ってだけだから。ゲイムに会えないわけじゃない。ゲイムには二度、会えると言われている。ただしそれは、ゲイムの方からヨハンたちに会いに来る二回。
エミリーのこの言葉に、口を挟んだのはティボルトだった。
でも、どうやったらゲイムが来てくれるんだ。来なきゃいけない状況なんて、どうやったら作れるんだよ。
ティボルトの疑問に、答えたのはマリアンナだった。
いや、ティボルト。その状況は作れるぞ。ただし、その考えはかなり危険なものだしゲイムも予想しているかもしれない。
どうやって、と更に尋ねるティボルトに、マリアンナが返す。
わたしの考えは、『魔王』ルーファスを復活させる、というものだ。以前、ルーファスを復活させる際に、ゲイムから妨害が飛んできたら面倒だから、先にゲイムを倒した方がいいと私たちは考えた。しかし、逆に、絶対に罠が飛んでくると考えるのであれば・・・もっと言えば、それを潜り抜けてルーファスを復活させて倒そうとするならば、あいつは必ず飛んでくるだろう。そこを、倒す。
マリアンナの意見にエミリーも頷いた。
それが一番でしょう。
そんなエミリーに、マリアンナが尋ねる。
しかし、エミリー。会えるタイミングは二度あるんだよな。そのうち一回は『古代の城』だとして、後一回はどこで会うんだ。
マリアンナさん、それについては順を追って説明します。
エミリーはそう告げると、地図を取り出した。そして、その地図の砂漠部分、『リゾート』と書かれた一角を指さす。
ここのどこかに、『古代の城』が存在します。で、この『城』の玉座の間にルーファスの抜け殻が安置されています。
エミリーの説明に、ティボルトが納得と言った感じに頷いた。
なるほど、じゃあその『リゾート』とやらに行けばいいのか。しかし、そのどのあたりに『古代の城』があるんだ。まさか探すのか、エミリー。
ティボルトの発言に、エミリーは難しそうな表情を取る。
探すだけなら楽なんだけどね、埋まっているんだ。砂漠の中に。
じゃあエミリー、おれたちはそこを掘るのか。
ティボルトがまた尋ねる。エミリーは首を横に振った。
それでもいいんだけど、数年はかかるから、もうちょっと短い方法を取った方がいいかな。
エミリーは話し始める。ストリーアトンから更に川を渡った向こう側に『豊穣の社』と呼ばれる大きなアエマの神殿があること。そこの神器に『風神』と呼ばれる巨大な風を起こす袋があること。その神器を利用すれば、ある程度『リゾート』の砂を払い、『古代の城』を見つけやすくなること。
エミリーの言葉に、マリアンナが頷く。そして、マリアンナはそのまま口を開いた。
しかしエミリー、その神器は我々が自由に使えるのか。
エミリーは申し訳なさそうに首を横に振った。
そこは多分、そこにいるアエマの神殿の大神官の許可が必要になると思います、まあ、事情を説明すれば向こうが持ってきてくれるでしょうけど。ただ、マリアンナさん。気を付けなければならないことがあります。
その場所は、既にゲイムの手に落ちていると。
マリアンナの言葉に、エミリーは頷く。
少なくとも、その社にいるアエマの大神官。彼女はゲイムに囚われていますし、話を聞く限り、ゲイムが何も罠を用意せずにあなた方を待つと言うこともないでしょうから。ただ、動物の王はこうも言っていました。大いなる危機は、好機にもなりうる。危機が大きければ大きいほど、好機だと思え、と。くれぐれも、無理はせず気を付けて下さい。
こうしてヨハンたちは、神器『風神』を求めて『豊穣の社』へと旅立つことになった。
それは同時に、ここからナクレーネへと戻るエミリーやマミ、ギルマンたちとの別れを意味していた。
しかし、ここでのんびりしている時間はない。ヨハンたちは荷物をまとめ上げ、『プリンシプル』へと戻る準備を始めた。今後、『豊穣の社』や『リゾート』へと向かう上で、船が必要になると考えたためである。
そして、エミリーたちとの別れが来た。
ひと月近く一緒に旅していたから、さびしいギョ。
みんな、『魔王』を倒したら、ぜひともナクレーネに遊びに来てほしいギョ。
イギーとザビーが次々に口を開く。マミも、お世話になったと一礼する。
皆様方でしたら必ずや『魔王』を倒してくださると思います。『大いなる災厄』を倒すのを間近で見ていて、あなた方は本当にお強いと実感しましたしね。そしてまた、どこかでお会いできるのを楽しみにしております
そして、互いに別れようとした時だった、一人のギルマンが、ヨハンたちの前に現れた。
おいらとしては、別れの代わりにぜひとも見たいものがあるんだギョ。
カルロスだった。エミリーの鬼のような形相を意に介せず、リアノの前で土下座する。と、そんなカルロスに手を置くものがあった。マックスだ。
分かるよ、お前の見たいって気持ち。
マックスの突然の行動に、ヨハンたちも動揺する。マックス、ついにお前も頭がおかしくなったか。だが、マックスはそれを意に介することなく、話を続ける。
お前の見たいって言っているのは、これだろ。なあ、デストラクション。
そうマックスが告げると、カルロスの目の前に筋肉を誇示する姿勢を取ったゴリラの姿が現れた。
よし。
マックスは頷くと、唖然とした表情をしているカルロスに話しかける。
大丈夫、まだまだ続くぜ。
と、再びゴリラが現れた。今度は先ほどとは異なる筋肉を固辞する姿勢を取っている。マックスは、カルロスがゴリラのポージングを見たいのだろうと思ったのであった。実に、マックスらしいこの考えに、ヨハンたちも胸をなでおろす。そして、デストラクションによるこのショータイムは、実に数十分もの間行われたのであった。それを間近で見なければいけないカルロスの瞳から、徐々に気力が失われていく。逆にその様子を見たエミリーは満面の笑みを浮かべながら、マックスを囃す。
もっとやっちゃって。カルロス、とっても楽しそうな顔をしているから。
ショータイムが終わった後、そこには魂が抜けきった表情をした一人のギルマンの姿があった。その姿を見たエミリーが爆笑している中、不憫に思ったのか、ヨハンが近寄っていく。
なあ、カルロス。おれにはわかるよ。お前の欲しいもの、これだろ。
と、ヨハンは一枚の布きれをカルロスに差し出した。カルロスの顔に、表情が戻る。
こ、この布は・・・
ギルマンの期待するような声に、ヨハンは頷いた。
ああ、カレーを拭いた雑巾だ。勿体ないから、使ってくれ。
カルロスの体から、再び魂が抜けていった。
その後も、うわごとを呟き続けるカルロスを無視し、エミリーたちは、ヨハンたちに別れを告げた。
またいつか、お会いしましょう。
ただし、とエミリーは続ける。これはあくまでも探すのが無駄ってだけだから。ゲイムに会えないわけじゃない。ゲイムには二度、会えると言われている。ただしそれは、ゲイムの方からヨハンたちに会いに来る二回。
エミリーのこの言葉に、口を挟んだのはティボルトだった。
でも、どうやったらゲイムが来てくれるんだ。来なきゃいけない状況なんて、どうやったら作れるんだよ。
ティボルトの疑問に、答えたのはマリアンナだった。
いや、ティボルト。その状況は作れるぞ。ただし、その考えはかなり危険なものだしゲイムも予想しているかもしれない。
どうやって、と更に尋ねるティボルトに、マリアンナが返す。
わたしの考えは、『魔王』ルーファスを復活させる、というものだ。以前、ルーファスを復活させる際に、ゲイムから妨害が飛んできたら面倒だから、先にゲイムを倒した方がいいと私たちは考えた。しかし、逆に、絶対に罠が飛んでくると考えるのであれば・・・もっと言えば、それを潜り抜けてルーファスを復活させて倒そうとするならば、あいつは必ず飛んでくるだろう。そこを、倒す。
マリアンナの意見にエミリーも頷いた。
それが一番でしょう。
そんなエミリーに、マリアンナが尋ねる。
しかし、エミリー。会えるタイミングは二度あるんだよな。そのうち一回は『古代の城』だとして、後一回はどこで会うんだ。
マリアンナさん、それについては順を追って説明します。
エミリーはそう告げると、地図を取り出した。そして、その地図の砂漠部分、『リゾート』と書かれた一角を指さす。
ここのどこかに、『古代の城』が存在します。で、この『城』の玉座の間にルーファスの抜け殻が安置されています。
エミリーの説明に、ティボルトが納得と言った感じに頷いた。
なるほど、じゃあその『リゾート』とやらに行けばいいのか。しかし、そのどのあたりに『古代の城』があるんだ。まさか探すのか、エミリー。
ティボルトの発言に、エミリーは難しそうな表情を取る。
探すだけなら楽なんだけどね、埋まっているんだ。砂漠の中に。
じゃあエミリー、おれたちはそこを掘るのか。
ティボルトがまた尋ねる。エミリーは首を横に振った。
それでもいいんだけど、数年はかかるから、もうちょっと短い方法を取った方がいいかな。
エミリーは話し始める。ストリーアトンから更に川を渡った向こう側に『豊穣の社』と呼ばれる大きなアエマの神殿があること。そこの神器に『風神』と呼ばれる巨大な風を起こす袋があること。その神器を利用すれば、ある程度『リゾート』の砂を払い、『古代の城』を見つけやすくなること。
エミリーの言葉に、マリアンナが頷く。そして、マリアンナはそのまま口を開いた。
しかしエミリー、その神器は我々が自由に使えるのか。
エミリーは申し訳なさそうに首を横に振った。
そこは多分、そこにいるアエマの神殿の大神官の許可が必要になると思います、まあ、事情を説明すれば向こうが持ってきてくれるでしょうけど。ただ、マリアンナさん。気を付けなければならないことがあります。
その場所は、既にゲイムの手に落ちていると。
マリアンナの言葉に、エミリーは頷く。
少なくとも、その社にいるアエマの大神官。彼女はゲイムに囚われていますし、話を聞く限り、ゲイムが何も罠を用意せずにあなた方を待つと言うこともないでしょうから。ただ、動物の王はこうも言っていました。大いなる危機は、好機にもなりうる。危機が大きければ大きいほど、好機だと思え、と。くれぐれも、無理はせず気を付けて下さい。
こうしてヨハンたちは、神器『風神』を求めて『豊穣の社』へと旅立つことになった。
それは同時に、ここからナクレーネへと戻るエミリーやマミ、ギルマンたちとの別れを意味していた。
しかし、ここでのんびりしている時間はない。ヨハンたちは荷物をまとめ上げ、『プリンシプル』へと戻る準備を始めた。今後、『豊穣の社』や『リゾート』へと向かう上で、船が必要になると考えたためである。
そして、エミリーたちとの別れが来た。
ひと月近く一緒に旅していたから、さびしいギョ。
みんな、『魔王』を倒したら、ぜひともナクレーネに遊びに来てほしいギョ。
イギーとザビーが次々に口を開く。マミも、お世話になったと一礼する。
皆様方でしたら必ずや『魔王』を倒してくださると思います。『大いなる災厄』を倒すのを間近で見ていて、あなた方は本当にお強いと実感しましたしね。そしてまた、どこかでお会いできるのを楽しみにしております
そして、互いに別れようとした時だった、一人のギルマンが、ヨハンたちの前に現れた。
おいらとしては、別れの代わりにぜひとも見たいものがあるんだギョ。
カルロスだった。エミリーの鬼のような形相を意に介せず、リアノの前で土下座する。と、そんなカルロスに手を置くものがあった。マックスだ。
分かるよ、お前の見たいって気持ち。
マックスの突然の行動に、ヨハンたちも動揺する。マックス、ついにお前も頭がおかしくなったか。だが、マックスはそれを意に介することなく、話を続ける。
お前の見たいって言っているのは、これだろ。なあ、デストラクション。
そうマックスが告げると、カルロスの目の前に筋肉を誇示する姿勢を取ったゴリラの姿が現れた。
よし。
マックスは頷くと、唖然とした表情をしているカルロスに話しかける。
大丈夫、まだまだ続くぜ。
と、再びゴリラが現れた。今度は先ほどとは異なる筋肉を固辞する姿勢を取っている。マックスは、カルロスがゴリラのポージングを見たいのだろうと思ったのであった。実に、マックスらしいこの考えに、ヨハンたちも胸をなでおろす。そして、デストラクションによるこのショータイムは、実に数十分もの間行われたのであった。それを間近で見なければいけないカルロスの瞳から、徐々に気力が失われていく。逆にその様子を見たエミリーは満面の笑みを浮かべながら、マックスを囃す。
もっとやっちゃって。カルロス、とっても楽しそうな顔をしているから。
ショータイムが終わった後、そこには魂が抜けきった表情をした一人のギルマンの姿があった。その姿を見たエミリーが爆笑している中、不憫に思ったのか、ヨハンが近寄っていく。
なあ、カルロス。おれにはわかるよ。お前の欲しいもの、これだろ。
と、ヨハンは一枚の布きれをカルロスに差し出した。カルロスの顔に、表情が戻る。
こ、この布は・・・
ギルマンの期待するような声に、ヨハンは頷いた。
ああ、カレーを拭いた雑巾だ。勿体ないから、使ってくれ。
カルロスの体から、再び魂が抜けていった。
その後も、うわごとを呟き続けるカルロスを無視し、エミリーたちは、ヨハンたちに別れを告げた。
またいつか、お会いしましょう。
暗い部屋の中に、二人の男がいた。老人の方は、何やら瞑想するかのように胡坐を組み、目を閉じている。もう一人の漁師のような恰好をした男は、無表情で立ち尽くしていた。やがて、老人がゆっくりと閉じていた目を開くと、姿を消した。漁師風の男は、そんな老人の行動に驚いたわけもなく、無言で立っている。間もなく、老人が戻ってきた。老人の横には、一人の剣士風の男が立っている。男は筋骨隆々としており、頭にフードを被っている。男は、そのフードをばさりととった。その中から、長くぼさぼさに散らばった髪と、その髪とくっつくくらいに伸びた髯が現れる。そして、その顔にはいかなる表情も浮かんでいない。
どうした、スオウ。
老人が剣士風の男に尋ねる。スオウと呼ばれたその男は淡々と答えた。
見つけました、ゲイム様。奴らの船でしょう。
ほう、奴らの船か。誰か、いたのか。
ゲイムの質問に、スオウは頷く。船員と思われる二人の女性がその船には乗っていた。スオウの情報に、ゲイムは満足そうな声を上げる。
なるほど、船員か。実に、面白い。スオウ、そいつらの実力は。
スオウは即座に答える。
三秒あれば、楽に殺せます。
だが、その返答にゲイムは首を振る。
その申し出はありがたい、だが、倒してしまっては意味がない。ヨハンと交渉するための切り札が一つ失われることになるのだからな。そいつだってそうだ。
ゲイムは、横で無表情にしている漁師風の男を指さした。
あの男、トニーだって、戦いには何の価値もない。しかし、トニーはもっと別の役目があるからな。
そして、ゲイムは続ける。
捕え、絶望に追い込むのだ。瀕死に追い込むくらいのことはしてもかまわん。心を、砕くのだ。やってこい、スオウ。
どうした、スオウ。
老人が剣士風の男に尋ねる。スオウと呼ばれたその男は淡々と答えた。
見つけました、ゲイム様。奴らの船でしょう。
ほう、奴らの船か。誰か、いたのか。
ゲイムの質問に、スオウは頷く。船員と思われる二人の女性がその船には乗っていた。スオウの情報に、ゲイムは満足そうな声を上げる。
なるほど、船員か。実に、面白い。スオウ、そいつらの実力は。
スオウは即座に答える。
三秒あれば、楽に殺せます。
だが、その返答にゲイムは首を振る。
その申し出はありがたい、だが、倒してしまっては意味がない。ヨハンと交渉するための切り札が一つ失われることになるのだからな。そいつだってそうだ。
ゲイムは、横で無表情にしている漁師風の男を指さした。
あの男、トニーだって、戦いには何の価値もない。しかし、トニーはもっと別の役目があるからな。
そして、ゲイムは続ける。
捕え、絶望に追い込むのだ。瀕死に追い込むくらいのことはしてもかまわん。心を、砕くのだ。やってこい、スオウ。
ヨハンたちがヌヴェーマを出てから二週間がたったころ。ようやく、ヨハンたちの前に蒸気船『プリンシプル』の船影が見えてきた。ほとんど二か月ぶりの『プリンシプル』の姿である。
この二か月間、船員たちは元気にやっていたのだろうか。ケニーの疑問にティボルトが答える。
皆、元気だ。
ティボルトによれば、マミが連れていたカラスのサトザキをアニマルメッセンジャーとして、『プリンシプル』の船員たちと連絡を取り合っていたとのことであった。今はマミと別れてしまったため、アニマルメッセンジャーは使ってはいないものの、少なくとも二週間前までは元気であったらしい。
それに、とティボルトが続ける。
キャサリンもアイリーンも、このウノーヴァ行きに選ばれているんだから、戦闘能力も高い。ちょっとやそっとの敵なら大丈夫だろう。だよなあ、キャプテン。
リアノはもちろんだと言わんばかりに頷いた。
あの子たちは強いからね。大丈夫だよ。
二人の発言にケニーは納得したらしく、なるほどと頷いた。
だが、船に近づくにつれ、ヨハンたちに不安が生じる。そろそろ、向こうの方からもこちらの様子ははっきりと見えている距離に入ってきている。だが、船の方から特に反応はない。皆、気づいていないのだろうか。
いやな予感がするな。
さっきの陽気さとは打って変わって深刻そうな顔をしたティボルトは、その特徴的な髪を抑えつけていた。
おれ髪の毛が、びんびんとしてくるぜ。
そんなティボルトの様子をかわいそうなものを見るような目でセルモの相棒、アアアアが見つめている。
とりあえず、身構えておこう。
グレンが皆にそう告げようとした時だった。
乗り込む。
リアノが短く告げると、アウリラの特徴を生かした跳躍力であっという間に船の中へ入っていった。ヨハンたちも、そんなリアノを追いかける形で、慎重かつ大胆に船に乗り込んでいく。間もなく、その惨状が明らかになった。甲板には、おびただしい量の血の跡があり、キャサリンが使っていた斧がその近くに突き刺さっている。また、その近くで砕け散っている小型の方位磁針は、アイリーンが愛用していたものだ。しかし、二人と、おまけにヨキの姿はない。
キャサリンたちは、どこに。
そう考えたヨハンたちは、手がかりを求めるべく船内を探し回ることになった。
と、最初に入った操舵室で、突然マリアンナが魔術を放つ。何かの壊れるような音が響き、機械がヨハンたちの方へと転がってきた。
盗聴器だ。
マリアンナが、壊れた機械を手に取りながら告げる。
こんなせこいものをこの船につけようとするやつなんて、一人しか思いつかんな。
ゲイムか。
グレンが苦々しい顔で告げる。みな、頷いた。
しかし、奴らはキャサリンたちをどうしたんだ。
ティボルトの疑問に、マリアンナが答える。
おそらく殺してはいない。奴のことだから、洗脳して交渉の材料にでもするつもりだろう、と。
犯人が分かった後も、ヨハンたちは更なる手がかりやゲイムの魔の手から逃れた人がいないかどうか船内を引き続き探索することにした。そして、その行動は船倉で報われることになる。
船倉を、リアノが開けた時だった。
キャプテン!
その声と共にリアノの元へかけてくる人物がいた。特徴的ともいえる弱気な声と表情。そう、ヨキだ。
ヨキ! 無事だったのか!
そう声をかけながら、マックスがヨキに抱き着いた。マックスはヨキの無事がよほど嬉しいらしく、彼の背中をしきりにばしばしと叩いている。
本当に良かったよなあ、デストラクション。
そうマックスが告げると、実体化したゴリラも叫び声を上げながら、ヨキへと抱き着こうとする・・・が、当然霊体であるゴリラは何もつかむことができず、ヨキの体を突き抜けていった。そのままゴリラは、唖然とするヨキに対し親指を立て、弾けた。
よし。
その様子を見たマックスが、満足そうに頷く。そして、ヨキはそンなマックスを見ながら安堵のため息をつく。本当に、本物のキャプテンたちだ。良かった。
そのまま、ヨキの体から力が抜けていく。どうやら、安堵のあまり失神してしまったらしい。
この二か月間、船員たちは元気にやっていたのだろうか。ケニーの疑問にティボルトが答える。
皆、元気だ。
ティボルトによれば、マミが連れていたカラスのサトザキをアニマルメッセンジャーとして、『プリンシプル』の船員たちと連絡を取り合っていたとのことであった。今はマミと別れてしまったため、アニマルメッセンジャーは使ってはいないものの、少なくとも二週間前までは元気であったらしい。
それに、とティボルトが続ける。
キャサリンもアイリーンも、このウノーヴァ行きに選ばれているんだから、戦闘能力も高い。ちょっとやそっとの敵なら大丈夫だろう。だよなあ、キャプテン。
リアノはもちろんだと言わんばかりに頷いた。
あの子たちは強いからね。大丈夫だよ。
二人の発言にケニーは納得したらしく、なるほどと頷いた。
だが、船に近づくにつれ、ヨハンたちに不安が生じる。そろそろ、向こうの方からもこちらの様子ははっきりと見えている距離に入ってきている。だが、船の方から特に反応はない。皆、気づいていないのだろうか。
いやな予感がするな。
さっきの陽気さとは打って変わって深刻そうな顔をしたティボルトは、その特徴的な髪を抑えつけていた。
おれ髪の毛が、びんびんとしてくるぜ。
そんなティボルトの様子をかわいそうなものを見るような目でセルモの相棒、アアアアが見つめている。
とりあえず、身構えておこう。
グレンが皆にそう告げようとした時だった。
乗り込む。
リアノが短く告げると、アウリラの特徴を生かした跳躍力であっという間に船の中へ入っていった。ヨハンたちも、そんなリアノを追いかける形で、慎重かつ大胆に船に乗り込んでいく。間もなく、その惨状が明らかになった。甲板には、おびただしい量の血の跡があり、キャサリンが使っていた斧がその近くに突き刺さっている。また、その近くで砕け散っている小型の方位磁針は、アイリーンが愛用していたものだ。しかし、二人と、おまけにヨキの姿はない。
キャサリンたちは、どこに。
そう考えたヨハンたちは、手がかりを求めるべく船内を探し回ることになった。
と、最初に入った操舵室で、突然マリアンナが魔術を放つ。何かの壊れるような音が響き、機械がヨハンたちの方へと転がってきた。
盗聴器だ。
マリアンナが、壊れた機械を手に取りながら告げる。
こんなせこいものをこの船につけようとするやつなんて、一人しか思いつかんな。
ゲイムか。
グレンが苦々しい顔で告げる。みな、頷いた。
しかし、奴らはキャサリンたちをどうしたんだ。
ティボルトの疑問に、マリアンナが答える。
おそらく殺してはいない。奴のことだから、洗脳して交渉の材料にでもするつもりだろう、と。
犯人が分かった後も、ヨハンたちは更なる手がかりやゲイムの魔の手から逃れた人がいないかどうか船内を引き続き探索することにした。そして、その行動は船倉で報われることになる。
船倉を、リアノが開けた時だった。
キャプテン!
その声と共にリアノの元へかけてくる人物がいた。特徴的ともいえる弱気な声と表情。そう、ヨキだ。
ヨキ! 無事だったのか!
そう声をかけながら、マックスがヨキに抱き着いた。マックスはヨキの無事がよほど嬉しいらしく、彼の背中をしきりにばしばしと叩いている。
本当に良かったよなあ、デストラクション。
そうマックスが告げると、実体化したゴリラも叫び声を上げながら、ヨキへと抱き着こうとする・・・が、当然霊体であるゴリラは何もつかむことができず、ヨキの体を突き抜けていった。そのままゴリラは、唖然とするヨキに対し親指を立て、弾けた。
よし。
その様子を見たマックスが、満足そうに頷く。そして、ヨキはそンなマックスを見ながら安堵のため息をつく。本当に、本物のキャプテンたちだ。良かった。
そのまま、ヨキの体から力が抜けていく。どうやら、安堵のあまり失神してしまったらしい。
しばらくして、ようやく起き上ったヨキは、一行に事の顛末を語り始めた。
それによると、事の発端は二日前のこと。ヨキが二人に頼まれて船倉で作業をしていると、上の方から喧噪が聞こえてきた。何事だろうと思ったヨキは、様子を見るべくこっそりと上の階に向かう。すると、以前キャサリンと戦ったことのある大男が甲板の上に立っていた。彼は、あっという間にキャサリンとアイリーンを倒してしまう。次は自分だ。身の危険を覚えたヨキはこっそりと船倉に戻り、様子を伺っていた。そうすると、間もなく一人の老人がスオウと共に現れ、アイリーンとキャサリンを連れてどこかへと消えていったのである。ヨキはそれ以降、再び彼らが現れるかもしれないとの恐怖心から船倉の外に出られず、今まで過ごしていたのだった。
で、なんですけど。
と、ヨキが続ける。彼は、ゲイムとスオウの話を聞いていた。それによれば、彼らはヨハンたちが『豊穣の社』にやってくると考え、そこで罠としてキャサリンとアイリーンを使おうとしているようだった。
なるほど。
ヨキの話を聞いた、マリアンナが呟く。
まあ、奴のしそうなことは分かる。まあ、分かっていても気を付けろ、以外に言えることは少ないのだが。
マリアンナは頭を振ると、ヨハンたちの方を向いた。
みんな、罠には気を付けてくれ。特に、仲間を利用した罠にはな。
それによると、事の発端は二日前のこと。ヨキが二人に頼まれて船倉で作業をしていると、上の方から喧噪が聞こえてきた。何事だろうと思ったヨキは、様子を見るべくこっそりと上の階に向かう。すると、以前キャサリンと戦ったことのある大男が甲板の上に立っていた。彼は、あっという間にキャサリンとアイリーンを倒してしまう。次は自分だ。身の危険を覚えたヨキはこっそりと船倉に戻り、様子を伺っていた。そうすると、間もなく一人の老人がスオウと共に現れ、アイリーンとキャサリンを連れてどこかへと消えていったのである。ヨキはそれ以降、再び彼らが現れるかもしれないとの恐怖心から船倉の外に出られず、今まで過ごしていたのだった。
で、なんですけど。
と、ヨキが続ける。彼は、ゲイムとスオウの話を聞いていた。それによれば、彼らはヨハンたちが『豊穣の社』にやってくると考え、そこで罠としてキャサリンとアイリーンを使おうとしているようだった。
なるほど。
ヨキの話を聞いた、マリアンナが呟く。
まあ、奴のしそうなことは分かる。まあ、分かっていても気を付けろ、以外に言えることは少ないのだが。
マリアンナは頭を振ると、ヨハンたちの方を向いた。
みんな、罠には気を付けてくれ。特に、仲間を利用した罠にはな。
数刻後。ヨハンたちは『豊穣の社』へと向かうべく大急ぎで出航の準備を行っていた。そんな時、西の方からカラスの鳴き声が聞こえてきた。口に手紙のようなものを咥えている。
あれ、あのカラスって。
フェンネルが呟く。そのカラスは、見覚えがあった。マミと行動を共にしていたカラスのサトザキだ。何か、あったのだろうか。ヨハンたちが手紙を開くと、エミリーからの言伝が記されていた。
それによれば、マミとイギー・ザビーがナクレーネで何度が襲撃を受けたので、危険を避けるためにしばらくノームコプに戻るとのことが書かれていた。
何かあったら、サトザキにメッセージを持たせてちょうだい。わたしのもとに戻って来るから。それと、わたしとカルロスは狙われていないみたいだから、またすぐにナクレーネに戻ると思う。
手紙の最後には、そう書かれていた。
ひとまず、エミリーたちは無事の様だな。少なくとも、ノームコプにはゲイムの手下はいないし、奴がノームコプに戻ることもないだろう。
マリアンナが、いくらか安堵した声で告げる。
後はさっさと『豊穣の社』に行って、仲間たちを取り返そう。
あれ、あのカラスって。
フェンネルが呟く。そのカラスは、見覚えがあった。マミと行動を共にしていたカラスのサトザキだ。何か、あったのだろうか。ヨハンたちが手紙を開くと、エミリーからの言伝が記されていた。
それによれば、マミとイギー・ザビーがナクレーネで何度が襲撃を受けたので、危険を避けるためにしばらくノームコプに戻るとのことが書かれていた。
何かあったら、サトザキにメッセージを持たせてちょうだい。わたしのもとに戻って来るから。それと、わたしとカルロスは狙われていないみたいだから、またすぐにナクレーネに戻ると思う。
手紙の最後には、そう書かれていた。
ひとまず、エミリーたちは無事の様だな。少なくとも、ノームコプにはゲイムの手下はいないし、奴がノームコプに戻ることもないだろう。
マリアンナが、いくらか安堵した声で告げる。
後はさっさと『豊穣の社』に行って、仲間たちを取り返そう。
H275年、3月。蒸気船『プリンシプル』に乗ったヨハンたちは、ようやく『豊穣の社』の近くへとたどり着いた。
あの大きな鳥居が見えるところが、『豊穣の社』です
フェンネルが指さす。確かに、近くにある山の中に鳥居らしきものが確認できる。だが、『社』の近くに川はなく、『プリンシプル』はここに置いて行かざるを得ないようだった。ここで、思わぬ問題が生じる、それは、残された『プリンシプル』をどうするかとの問題であった。普段なら誰かを見張りとして残していくのだが、残した人間が、キャサリンとアイリーンのようにゲイムに洗脳されてしまう可能性がある。かといって、全員で出て行ってしまっては、万一盗賊がこの船を襲った時に対応しきれない。ヨハンたちは協議を重ねる。その結果、ヨハンたちが出した結論は『プリンシプル』に大量の罠を設置しようとのものであった。
任せろ。
その結論が出た途端、立ち上がったものがいる。ヨハンだ。彼は盗賊ではないので、罠の設置に離れていない。しかし、ヨハンは錬金術師だった。それも、ロマンを求める錬金術師だ。
盗賊がこの船に入ったら、その場で消滅するような爆弾を置こう。それくらいなら、すぐ作れる。
ヨハンはそう言い切った。近くにいるマックスが、尊敬の眼差しでヨハンを見つめる。
凄いぜ、兄ちゃん。
ヨハンはにやりと笑うと、早速爆弾を作ろうとする。それに待ったをかけたのが、リアノだった。
その爆弾が、爆発したら、この船はどうなるの。
リアノの問いかけに、ヨハンは真面目な顔で答える。
当然、この船も木端微塵だ。だが、そんなことは盗賊の侵入を許すことに比べたら、些細な問題だろう。
この答えを聞いたリアノは、即座にヨハンのアイデアを却下した。
しかし、爆弾を採用するのはいいアイデアかもしれない。そう話し始めたは、グレンだった。グレンは提案する。おれはちょうど今、予備のからくりパーツを持っている。これをうまく利用すれば船の防衛に使えるからくりを作れるかもしれない。
数刻後、グレンは予備の部品をほとんど活用し、一体のからくりを作り出した。グレンによってボマーと名付けられたこのからくりは、ユイ・リイと言う古の魔術師が作り出した、超高性能な機械爆弾を模したものであるらしい。
その破壊力は、その辺の塊怨樹であればたちまちのうちに吹き飛んでしまうほどのものである。おまけに、自立起動型であるため、船の中で爆発して船を破壊する心配もない。
グレンの説明に納得した一行は、ボマーに船を任せて『豊穣の社』へと向かうことになった。
あの大きな鳥居が見えるところが、『豊穣の社』です
フェンネルが指さす。確かに、近くにある山の中に鳥居らしきものが確認できる。だが、『社』の近くに川はなく、『プリンシプル』はここに置いて行かざるを得ないようだった。ここで、思わぬ問題が生じる、それは、残された『プリンシプル』をどうするかとの問題であった。普段なら誰かを見張りとして残していくのだが、残した人間が、キャサリンとアイリーンのようにゲイムに洗脳されてしまう可能性がある。かといって、全員で出て行ってしまっては、万一盗賊がこの船を襲った時に対応しきれない。ヨハンたちは協議を重ねる。その結果、ヨハンたちが出した結論は『プリンシプル』に大量の罠を設置しようとのものであった。
任せろ。
その結論が出た途端、立ち上がったものがいる。ヨハンだ。彼は盗賊ではないので、罠の設置に離れていない。しかし、ヨハンは錬金術師だった。それも、ロマンを求める錬金術師だ。
盗賊がこの船に入ったら、その場で消滅するような爆弾を置こう。それくらいなら、すぐ作れる。
ヨハンはそう言い切った。近くにいるマックスが、尊敬の眼差しでヨハンを見つめる。
凄いぜ、兄ちゃん。
ヨハンはにやりと笑うと、早速爆弾を作ろうとする。それに待ったをかけたのが、リアノだった。
その爆弾が、爆発したら、この船はどうなるの。
リアノの問いかけに、ヨハンは真面目な顔で答える。
当然、この船も木端微塵だ。だが、そんなことは盗賊の侵入を許すことに比べたら、些細な問題だろう。
この答えを聞いたリアノは、即座にヨハンのアイデアを却下した。
しかし、爆弾を採用するのはいいアイデアかもしれない。そう話し始めたは、グレンだった。グレンは提案する。おれはちょうど今、予備のからくりパーツを持っている。これをうまく利用すれば船の防衛に使えるからくりを作れるかもしれない。
数刻後、グレンは予備の部品をほとんど活用し、一体のからくりを作り出した。グレンによってボマーと名付けられたこのからくりは、ユイ・リイと言う古の魔術師が作り出した、超高性能な機械爆弾を模したものであるらしい。
その破壊力は、その辺の塊怨樹であればたちまちのうちに吹き飛んでしまうほどのものである。おまけに、自立起動型であるため、船の中で爆発して船を破壊する心配もない。
グレンの説明に納得した一行は、ボマーに船を任せて『豊穣の社』へと向かうことになった。
『豊穣の社』への道は、最近誰も利用するものがいなかったのか、ほとんど整備されていなかった。なので、ヨハンたちは倒木を乗り越え、岩を登りながら少しずつ『社』へと近づいていく。幸いにして、大きな鳥居とその後ろに見えるアエマの像が目印となっているので、場所が分かりやすい。ヨハンたちは着実に『社』へと近づいていった。
だが、ここで一つの問題が生じる。ヨハンたちが『社』へと近づく中で、少しずつその視界に霧がかかってきたのである。初めは気にするほどのものではなかったが、その霧はどんどんと濃くなっていった。このままでは互いの姿すら満足に視認できなくなってしまう。
その霧に、渋い顔をしていたのがマリアンナだった。
みんな、気を付けてくれ。こういう時こそ、ゲイムが何か罠を仕掛けてきそうなものだ。
その言葉に、ヨハンが応じた。
だったらおれに考えがある。みんな、腰にロープを巻いてくれ。これなら、霧が濃くなっても誰かがはぐれることもない。
名案だった。そこで、ヨハンたちは早速ロープを取り出していく。だが、その時予期せぬ出来事が起こった。
最初にそれに気が付いたのはマックス。彼の優秀な知覚は、山頂の方から聞こえてくるわずかな音を聞き取った。そして、それが何を意味するのかも。
山が崩れるぞ! 気を付けろ!
マックスが警告すると同時に、地鳴りが響いてくる。この場にいては、山崩れに巻き込まれる。そう判断したヨハンたちは、思い思いの方向へと逃げ出す。ケニーも、その場から逃げようとした。だが、ひときわ大きな地響きがしたかと思うと、ケニーの足元が揺れる。しまった、と思った時には遅く、ケニーはバランスを崩し転んでしまった。
慌てて起き上がろうとするも、山崩れの音はすぐそこまで近づいてきている。飲み込まれる、そう思った時、何者がケニーを引っ張った。その人物に、引っ張り上げられたままケニーの体は宙へと浮いていく。その真下を、轟音を立てながら土砂が通過していった。ケニーは、自らの無事に安堵すると、引っ張り上げてくれた人物に礼をする。
ありがとう、兄ちゃん。
ケニーを助け出したのは、ヨハンだった。ヨハンはたまたま、ケニーがバランスを崩したのを見ていたのだ。ヨハンは新兵器、Mk-C(マーク・ハンドレッド)をとっさに呼び出すと、ケニーを連れて上空へと飛んだのである。
兄ちゃんのおかげで助かったよ。でも、他のみんなは大丈夫かな。
ケニーが心配そうな表情でヨハンを見る。ヨハンは肩をすくめた。
むしろ、おれたちが一番やばいだろ。戦力足らんぞ。
と、そんな二人に通信が入った。マリアンナが作った通信からだ。
ヨハンが出ると、マリアンナの陽気な声が聞こえてくる。
マリアンナも、皆からはぐれてしまったらしい。おまけに、山が崩れてあちこちに倒木や落石があるらしく、目印がなければ合流も難しいとのことであった。
だから、あの大きな鳥居の前で待ち合わせよう。
マリアンナが、通信機越しにヨハンに告げた。いや、ヨハンだけではない、他の皆にも。こうして、ヨハンたちは各自ばらばらに、『豊穣の社』の入り口にある大きな鳥居へと向かうことになった。
だが、ここで一つの問題が生じる。ヨハンたちが『社』へと近づく中で、少しずつその視界に霧がかかってきたのである。初めは気にするほどのものではなかったが、その霧はどんどんと濃くなっていった。このままでは互いの姿すら満足に視認できなくなってしまう。
その霧に、渋い顔をしていたのがマリアンナだった。
みんな、気を付けてくれ。こういう時こそ、ゲイムが何か罠を仕掛けてきそうなものだ。
その言葉に、ヨハンが応じた。
だったらおれに考えがある。みんな、腰にロープを巻いてくれ。これなら、霧が濃くなっても誰かがはぐれることもない。
名案だった。そこで、ヨハンたちは早速ロープを取り出していく。だが、その時予期せぬ出来事が起こった。
最初にそれに気が付いたのはマックス。彼の優秀な知覚は、山頂の方から聞こえてくるわずかな音を聞き取った。そして、それが何を意味するのかも。
山が崩れるぞ! 気を付けろ!
マックスが警告すると同時に、地鳴りが響いてくる。この場にいては、山崩れに巻き込まれる。そう判断したヨハンたちは、思い思いの方向へと逃げ出す。ケニーも、その場から逃げようとした。だが、ひときわ大きな地響きがしたかと思うと、ケニーの足元が揺れる。しまった、と思った時には遅く、ケニーはバランスを崩し転んでしまった。
慌てて起き上がろうとするも、山崩れの音はすぐそこまで近づいてきている。飲み込まれる、そう思った時、何者がケニーを引っ張った。その人物に、引っ張り上げられたままケニーの体は宙へと浮いていく。その真下を、轟音を立てながら土砂が通過していった。ケニーは、自らの無事に安堵すると、引っ張り上げてくれた人物に礼をする。
ありがとう、兄ちゃん。
ケニーを助け出したのは、ヨハンだった。ヨハンはたまたま、ケニーがバランスを崩したのを見ていたのだ。ヨハンは新兵器、Mk-C(マーク・ハンドレッド)をとっさに呼び出すと、ケニーを連れて上空へと飛んだのである。
兄ちゃんのおかげで助かったよ。でも、他のみんなは大丈夫かな。
ケニーが心配そうな表情でヨハンを見る。ヨハンは肩をすくめた。
むしろ、おれたちが一番やばいだろ。戦力足らんぞ。
と、そんな二人に通信が入った。マリアンナが作った通信からだ。
ヨハンが出ると、マリアンナの陽気な声が聞こえてくる。
マリアンナも、皆からはぐれてしまったらしい。おまけに、山が崩れてあちこちに倒木や落石があるらしく、目印がなければ合流も難しいとのことであった。
だから、あの大きな鳥居の前で待ち合わせよう。
マリアンナが、通信機越しにヨハンに告げた。いや、ヨハンだけではない、他の皆にも。こうして、ヨハンたちは各自ばらばらに、『豊穣の社』の入り口にある大きな鳥居へと向かうことになった。
だが、なかなかそこに至るための道は容易ではない。マリアンナが行っていたように、道のあちこちが通じなくなっており、時には大きく迂回したり障害物を取り除いたりする必要があった。おまけに、鳥居までの道のり自体も短くはない。
おれたち、いつたどり着けるんだろうか。
ヨハンは、目の前にある倒木にケニーが悪戦苦闘しているのを横目に見ながら、ため息をついた。
何かあったとしても、もう終わってそうだ。
おれたち、いつたどり着けるんだろうか。
ヨハンは、目の前にある倒木にケニーが悪戦苦闘しているのを横目に見ながら、ため息をついた。
何かあったとしても、もう終わってそうだ。
同じころ、グレンとマックスは順調に鳥居へと近づいていた。もとより、グレンもマックスも鈍重ではない。だが、この二人はどちらも怪力ではなかった。障害物となっている倒木を前に、二人は苦笑する。
とは言え、倒木に時間をかけては、他の仲間たちに心配をかける。そう考えた二人は、ゼンマイガーと協力し、根性で倒木を跳ねのけた。
とは言え、倒木に時間をかけては、他の仲間たちに心配をかける。そう考えた二人は、ゼンマイガーと協力し、根性で倒木を跳ねのけた。
サラサとリアノも、順調に鳥居へと近づいていた。共に、ヨハンたちの中では力仕事を得意とする。おまけに、幼馴染と言うだけはあり、息が合った連係も可能だ。二人は、倒木や落石をどけながら、順調に進んでいた。どちらかと言えば、二人を悩ませたのは、霧である。この霧は、ともすれば二人の方向感覚を麻痺させようとしてくる。二人は、互いに迷わないよう気を付けながら、進んでいった。
だが、最初に鳥居へとたどり着いたのは、サラサでもリアノでもグレンでもマックスでもなかった。ヨキである。
一人ぼっちで怖い思いをしていたヨキは、鳥居に近づくなり喜びの声を上げた。きっと、誰かいるだろう。だが、彼は一番乗りであった。従って、その場には誰もいない。頼りになりそうな仲間たちの名前を呼ぶが、返事もない。ヨキはすぐにしょげてしまった。
こんなところで、一人ぼっちだなんて。何かあったらどうしよう。
その気持ちは、彼の恐怖心を増大させていた。おまけに、その恐怖心を煽るように霧が濃くなっていく。と、そんなヨキの近くで、何かが動く音がした。
慌ててヨキが飛び退くと、彼の視界の端をネズミが駆け抜けていく。
なんだ、ネズミか。
驚かせやがって、とヨキが安堵のため息をつく。その時、ヨキの視界の先、『社』の方から人影が見えてきた。その影は次第にはっきりしていき、リアノの姿を映し出す。
キャプテン!
ヨキは喜びの声を上げる。リアノもそんなヨキに声をかける。
どうしたの、ヨキ。一人で大丈夫だった?
思えば、リアノがこんな優しい台詞をヨキに残すだろうか。そもそも、なぜリアノが『社』の方から現れたのか。冷静に考えてみると、疑い出す点は多く存在したが、この時のヨキにそんなことを気にする時間はなかった。
キャプテン、探したんですよ、この霧、いかにも危なそうじゃないですか。
ヨキの言葉に、リアノは頷く。
危ないからヨキ、あなたはしばらくわたしの言うとおりに動いた方がいいわ。良い、ヨキ? ちょっとあなたの行動を操るからね。
ヨキは深く考えず、即座に頷く。
もちろんですよ。
ヨキは疑いもせずに、そう答える。それが、命取りになった。ヨキの意識が失われ、虚ろな目になる。
やれやれ。
同時に、リアノの顔が霧の中に溶けていく。代わりに現れたのは、ゲイムだった。
こいつは、馬鹿かのう。
ゲイムは、洗脳が完了したヨキの方を見ながら、呟く。
まあ、いい。見るからに弱そうだが、多少の役には立つじゃろう。それにしても、この霧・・・昔、エネミーの研究をしている男から色々な薬を融通してもらったが、とても便利じゃのう。なあ、アエマの大神官、パルテナよ。
ゲイムが振り返ると、そこには虚ろな表情で立ち尽くす、一人の女性がいた。体格的にはヒューリンであるが、ドゥアンの血でも混じっているのか、白い翼が背中に生えている。その翼を彼女が一振りすると、霧がさらに濃くなった。どうやら、彼女が霧を操っているようであった。しかし、それはいかなるヒューリンにもできることではない。彼女が手に握りしめている空になった注射器、その中身が彼女にこの力を持たせていたのだ。
後は、着た順番で幻覚を見せ、捕らえればいい。
そして、ゲイムはすぐそばに咲く女王花を見た。
万一失敗しても、こいつがいるからのう。
一人ぼっちで怖い思いをしていたヨキは、鳥居に近づくなり喜びの声を上げた。きっと、誰かいるだろう。だが、彼は一番乗りであった。従って、その場には誰もいない。頼りになりそうな仲間たちの名前を呼ぶが、返事もない。ヨキはすぐにしょげてしまった。
こんなところで、一人ぼっちだなんて。何かあったらどうしよう。
その気持ちは、彼の恐怖心を増大させていた。おまけに、その恐怖心を煽るように霧が濃くなっていく。と、そんなヨキの近くで、何かが動く音がした。
慌ててヨキが飛び退くと、彼の視界の端をネズミが駆け抜けていく。
なんだ、ネズミか。
驚かせやがって、とヨキが安堵のため息をつく。その時、ヨキの視界の先、『社』の方から人影が見えてきた。その影は次第にはっきりしていき、リアノの姿を映し出す。
キャプテン!
ヨキは喜びの声を上げる。リアノもそんなヨキに声をかける。
どうしたの、ヨキ。一人で大丈夫だった?
思えば、リアノがこんな優しい台詞をヨキに残すだろうか。そもそも、なぜリアノが『社』の方から現れたのか。冷静に考えてみると、疑い出す点は多く存在したが、この時のヨキにそんなことを気にする時間はなかった。
キャプテン、探したんですよ、この霧、いかにも危なそうじゃないですか。
ヨキの言葉に、リアノは頷く。
危ないからヨキ、あなたはしばらくわたしの言うとおりに動いた方がいいわ。良い、ヨキ? ちょっとあなたの行動を操るからね。
ヨキは深く考えず、即座に頷く。
もちろんですよ。
ヨキは疑いもせずに、そう答える。それが、命取りになった。ヨキの意識が失われ、虚ろな目になる。
やれやれ。
同時に、リアノの顔が霧の中に溶けていく。代わりに現れたのは、ゲイムだった。
こいつは、馬鹿かのう。
ゲイムは、洗脳が完了したヨキの方を見ながら、呟く。
まあ、いい。見るからに弱そうだが、多少の役には立つじゃろう。それにしても、この霧・・・昔、エネミーの研究をしている男から色々な薬を融通してもらったが、とても便利じゃのう。なあ、アエマの大神官、パルテナよ。
ゲイムが振り返ると、そこには虚ろな表情で立ち尽くす、一人の女性がいた。体格的にはヒューリンであるが、ドゥアンの血でも混じっているのか、白い翼が背中に生えている。その翼を彼女が一振りすると、霧がさらに濃くなった。どうやら、彼女が霧を操っているようであった。しかし、それはいかなるヒューリンにもできることではない。彼女が手に握りしめている空になった注射器、その中身が彼女にこの力を持たせていたのだ。
後は、着た順番で幻覚を見せ、捕らえればいい。
そして、ゲイムはすぐそばに咲く女王花を見た。
万一失敗しても、こいつがいるからのう。
次にその場へとやってきたのは、マックスだった。彼が鳥居にたどり着くと、ほぼ同時に後ろからヨハンが到着する。
お、兄ちゃん。無事だったのか。
ヨハンは頷く。いつもより多少ヨハンのテンションが低めだが、それはきっと他のみんなが到着していないからだろう。マックスはそう考え深く気にしなかった。
と、ヨハンがマックスに話しかけてきた。
なあマックス、折り入って話したいことがあるんだ。おれたち、大親友じゃないか。
ヨハンはさわやかな笑みをマックスに向ける。
鎧の兄ちゃんって、こんなにさわやかな笑みができたのか。
マックスはその意外性に驚きつつも、頷く。誰がどう見てもこのヨハンは怪しいのだが、不幸なことにマックスは友人を疑わない性格であった。
だが、その場には救世主がいた。ゴリラのデストラクションだ。デストラクションは突然この世に現れると、戸惑ったような視線をヨハンに送る。かつてデストラクションがこんな困惑した表情をしたことがあったのだろうか。困惑した表情のまま弾け飛んだデストラクションを見ながら、マックスは思った。マックスの純粋な心に、疑いの念が浮かんできたのだ。
しかし、マックスは実直な少年である。人に探りを入れることが得意なわけではない。そこで、マックスは自分が日ごろ思っていることをヨハンに尋ねた。
なあ、鎧の兄ちゃん。ケニーの特訓はどうする。
その発言に、ヨハンはさわやかな笑みを浮かべ、答える。
なに、ケニーは剣術を覚えようとしているんだ。それはおれじゃなくて、サラサが考えることだろう。
その言葉と表情で、マックスの疑念は確信に変わった。
鎧の兄ちゃんはそんなに腰抜けな奴じゃない。兄ちゃんは、ケニーのことをもっと真剣に考えている。お前は偽物だ!
マックスがヨハンに指を突き付ける。と、ヨハンの体が少しずつ薄れ、代わりにゲイムの姿が現れた。近くには神官めいた女性と、巨大な花もいる。ゲイムは、マックスを見つめ、頷いた。
この幻影を見破るとは、なかなかのようじゃな。流石、マックスと言ったところか。
だが、とゲイムは下卑た笑みを含んだ声で、続ける。
お主がいくら強いとはいえ、一人しかおらぬ。一人で、この女王花に勝てるかな。
そう告げると、ゲイムと神官はこの場から去っていく。マックスは背負っていた弓に矢を通しながら、怒りに満ちた表情で叫んだ。
おれは一人じゃない! おれには、デストラクションがいる!
そうだ、と言わんばかりにゴリラが横に現れ、吠える。そのゴリラがはじけ飛ぶさまを満足げに眺めると、マックスは女王花に向けて告げた。
お前には何の恨みもないが、おれは今怒っているんだよ。悪いけど、やっちゃっていいよな。
こうして、戦いは始まった。マックスは最初から全力でエネルギーを込めた攻撃を女王花に放つ。女王花は決して弱い敵ではない。むしろ、手ごわい敵だ。だが、怒っているマックスはそんな女王花の攻撃すらも許さず、一方的に攻撃していた。
しかし、女王花の体力は並大抵のものではなかった。そして、マックスの難点として、持久力のなさがあげられる。何度か攻撃を放つうちに、マックスはバテてきた。おまけに、女王花の樹皮は熱く、マックスの弓による攻撃は、満足のいくようなダメージを与えることが出来ない。マックスは弓をつがえながら、歯噛みする。と、女王花が突然苦しむ様子を見せた。
その原因は、飛ぶように駈けつけてきたサラサだった。サラサの攻撃も樹皮に阻まれてはいたが、一人仲間が増えたことは、この戦いの状況を、大きくマックス優位なものへと変えていた。
更に、サラサの背後から誰かが跳んできたかと思うと、女王花の樹皮を鞭ではぎ取っていく。リアノだ。たちまちのうちに、女王花の防御はなくなっていった。
間に合ったようだな、マックス。
更に、マックスの横にグレンが現れる。グレンはマックスの消耗を見て取ると、レイクから貰ったスプレッダーを利用して体力を回復させた。
そして、元気になったマックスたちによって、女王花はあっさりと倒されたのである。
こうして、戦いはヨハンが到着する前に終わりを告げたのであった。
お、兄ちゃん。無事だったのか。
ヨハンは頷く。いつもより多少ヨハンのテンションが低めだが、それはきっと他のみんなが到着していないからだろう。マックスはそう考え深く気にしなかった。
と、ヨハンがマックスに話しかけてきた。
なあマックス、折り入って話したいことがあるんだ。おれたち、大親友じゃないか。
ヨハンはさわやかな笑みをマックスに向ける。
鎧の兄ちゃんって、こんなにさわやかな笑みができたのか。
マックスはその意外性に驚きつつも、頷く。誰がどう見てもこのヨハンは怪しいのだが、不幸なことにマックスは友人を疑わない性格であった。
だが、その場には救世主がいた。ゴリラのデストラクションだ。デストラクションは突然この世に現れると、戸惑ったような視線をヨハンに送る。かつてデストラクションがこんな困惑した表情をしたことがあったのだろうか。困惑した表情のまま弾け飛んだデストラクションを見ながら、マックスは思った。マックスの純粋な心に、疑いの念が浮かんできたのだ。
しかし、マックスは実直な少年である。人に探りを入れることが得意なわけではない。そこで、マックスは自分が日ごろ思っていることをヨハンに尋ねた。
なあ、鎧の兄ちゃん。ケニーの特訓はどうする。
その発言に、ヨハンはさわやかな笑みを浮かべ、答える。
なに、ケニーは剣術を覚えようとしているんだ。それはおれじゃなくて、サラサが考えることだろう。
その言葉と表情で、マックスの疑念は確信に変わった。
鎧の兄ちゃんはそんなに腰抜けな奴じゃない。兄ちゃんは、ケニーのことをもっと真剣に考えている。お前は偽物だ!
マックスがヨハンに指を突き付ける。と、ヨハンの体が少しずつ薄れ、代わりにゲイムの姿が現れた。近くには神官めいた女性と、巨大な花もいる。ゲイムは、マックスを見つめ、頷いた。
この幻影を見破るとは、なかなかのようじゃな。流石、マックスと言ったところか。
だが、とゲイムは下卑た笑みを含んだ声で、続ける。
お主がいくら強いとはいえ、一人しかおらぬ。一人で、この女王花に勝てるかな。
そう告げると、ゲイムと神官はこの場から去っていく。マックスは背負っていた弓に矢を通しながら、怒りに満ちた表情で叫んだ。
おれは一人じゃない! おれには、デストラクションがいる!
そうだ、と言わんばかりにゴリラが横に現れ、吠える。そのゴリラがはじけ飛ぶさまを満足げに眺めると、マックスは女王花に向けて告げた。
お前には何の恨みもないが、おれは今怒っているんだよ。悪いけど、やっちゃっていいよな。
こうして、戦いは始まった。マックスは最初から全力でエネルギーを込めた攻撃を女王花に放つ。女王花は決して弱い敵ではない。むしろ、手ごわい敵だ。だが、怒っているマックスはそんな女王花の攻撃すらも許さず、一方的に攻撃していた。
しかし、女王花の体力は並大抵のものではなかった。そして、マックスの難点として、持久力のなさがあげられる。何度か攻撃を放つうちに、マックスはバテてきた。おまけに、女王花の樹皮は熱く、マックスの弓による攻撃は、満足のいくようなダメージを与えることが出来ない。マックスは弓をつがえながら、歯噛みする。と、女王花が突然苦しむ様子を見せた。
その原因は、飛ぶように駈けつけてきたサラサだった。サラサの攻撃も樹皮に阻まれてはいたが、一人仲間が増えたことは、この戦いの状況を、大きくマックス優位なものへと変えていた。
更に、サラサの背後から誰かが跳んできたかと思うと、女王花の樹皮を鞭ではぎ取っていく。リアノだ。たちまちのうちに、女王花の防御はなくなっていった。
間に合ったようだな、マックス。
更に、マックスの横にグレンが現れる。グレンはマックスの消耗を見て取ると、レイクから貰ったスプレッダーを利用して体力を回復させた。
そして、元気になったマックスたちによって、女王花はあっさりと倒されたのである。
こうして、戦いはヨハンが到着する前に終わりを告げたのであった。
しばらくしてから、ヨハンとケニーは鳥居の前に到着した。他のみんなはすでにそろっている。どうやら、ヨハンたちが最後のようであった。そんなヨハンたちに、他の皆が先ほどまでにあったことを話す。
兄ちゃん、相変わらず何もできなかったね。
皆からの話を聞いて、状況を理解したケニーが呟く。その後頭部を、ヨハンは軽く殴った。
お前が倒木で苦戦していたからだろうが。
二人はそのまま口論を始める。マックスは、そんな二人を満足そうな眼で眺めていた。
やっぱ、あれが鎧の兄ちゃんだよな。
兄ちゃん、相変わらず何もできなかったね。
皆からの話を聞いて、状況を理解したケニーが呟く。その後頭部を、ヨハンは軽く殴った。
お前が倒木で苦戦していたからだろうが。
二人はそのまま口論を始める。マックスは、そんな二人を満足そうな眼で眺めていた。
やっぱ、あれが鎧の兄ちゃんだよな。
軽い休憩を挟んだ後、ヨハンたちが鳥居の中へと進もうとした時だった。鳥居の向こう側から、一人の大男が現れた。その胴は、ゴリラのように筋骨隆々としてきており、深いフードの中の表情は読み取れない。
男は、先ほどまで女王花が立っていた辺りを見ると、ヨハンに向けて告げる。
流石、未来の魔王様ってところか。
その声に、リアノは聞き覚えがあった。おそらく、スオウと思われる男の声だ。だが、その事実を気にする風もなくヨハンは即座に言い返した。
未来の魔王はなにもしていない。道に迷っていただけだ。
そんな簡単なこともわからないのか、と挑発するようにヨハンは肩をすくめる。だが、男は無表情に目線をヨハンからケニーに移す。
お前がケニーか。お前の父親は無事だ、今もすぐそばにいる。
男の言葉に、ケニーの瞳は驚きのあまり大きく見開かれる。男は、そんなケニーの様子を意に介さず、言葉を続けた。
だが、会えるかどうかはお前次第だ。お前が、おれの後についてきてくれるのなら、君の父親にあわせてあげよう。
その言葉に、ケニーは首を横に振った。
じゃあ嫌だね。僕はそんな罠には乗らないよ。そんなことして僕まで操られてしまったら、思う壺じゃないか。
ケニーの言葉に男は、そうか。と、全く残念そうではない口調で答える。
では、仕方ない。実は先ほどの会話には続きがあったのだ。来なければ、君の父親はこの場で殺す。
どこからか、男の絶叫が聞こえてきた。誰の叫び声かは、言うまでもないだろう。ケニーの顔は、見る見るうちに青ざめていった。
大丈夫だ、まだ死んでいない。今のはまだ片腕が折れた程度だ。次は、もう片腕かな。
男は、淡々と告げる。ケニーは、困ったようにヨハンたちの方を向く。父親を助けに行きたいのだろう。
マリアンナが、男に尋ねる。
別に、付添がいてもいいんだろう。
その言葉に、男は頷く。そして、口を開いた。
ただし、ついてくるかどうかは、こいつらを見て決めた方がいいぞ。
男が指を鳴らすと、霧の中から二人の女性と一人の男性が現れた。キャサリンとアイリーン、そしてヨキだ。キャサリンは斧を構えており、アイリーンはグレネードのようなものを手に持っている。どちらも、二人が得意とする武器だ。ヨキはと言えば、素手であるが、その首にはいくつもの笛が下げられている。そして、キャサリンとアイリーンはおもむろに懐から注射器を取り出すと、自分の首筋にその中身を送り込む。それに反応したのは、マリアンナだ。
ゲイムの奴、あれをまだ残していたのか。
ヨハンたちにも、あの注射器は見覚えがあった。かつて、ゲイムに操られたサラサの姉弟子、コクサイが使っていた注射器と同じものだ。注射器を撃った者はその中身に応じた生き物の能力が使えるようになるが、その反面副作用が激しく三回打てば使用者死ぬと言われている代物だ。
このままでは、キャサリンとアイリーンの命が危ない。早急に、彼らをゲイムの洗脳から解放しなければ。
しかし、だからと言ってケニーを一人で男について行かせるわけにはいかない。どうしたらいいのか。
おれが、ケニーと行こう。
ヨハンが、皆に告げる。ヨハンがケニーをかばいながら時間を稼いでいる間に、他のみんなが急いでキャサリンたちを倒し、ヨハンたちのもとに向かう。これが、ヨハンたちの出した結論であった。
任せたぞ。
サラサが、ヨハンを見据えて告げる。ヨハンは頷くと、グレンの横にいたゼンマイガーを抱えた。
グレン、おれのゼンマイガーをよこせ。
グレンは苦笑したが、止めはしなかった。この状況では、ゼンマイガーの防御性能は、ヨハンと共にいた方が輝く。そう判断したのだ。
ヨハンは、男の後について行こうとしたケニーに話しかけた。
一人で行くなよ。遠足はみんなで行くものだろ。
そして、二人は男と共に、サラサたちの前から姿を消した。
男は、先ほどまで女王花が立っていた辺りを見ると、ヨハンに向けて告げる。
流石、未来の魔王様ってところか。
その声に、リアノは聞き覚えがあった。おそらく、スオウと思われる男の声だ。だが、その事実を気にする風もなくヨハンは即座に言い返した。
未来の魔王はなにもしていない。道に迷っていただけだ。
そんな簡単なこともわからないのか、と挑発するようにヨハンは肩をすくめる。だが、男は無表情に目線をヨハンからケニーに移す。
お前がケニーか。お前の父親は無事だ、今もすぐそばにいる。
男の言葉に、ケニーの瞳は驚きのあまり大きく見開かれる。男は、そんなケニーの様子を意に介さず、言葉を続けた。
だが、会えるかどうかはお前次第だ。お前が、おれの後についてきてくれるのなら、君の父親にあわせてあげよう。
その言葉に、ケニーは首を横に振った。
じゃあ嫌だね。僕はそんな罠には乗らないよ。そんなことして僕まで操られてしまったら、思う壺じゃないか。
ケニーの言葉に男は、そうか。と、全く残念そうではない口調で答える。
では、仕方ない。実は先ほどの会話には続きがあったのだ。来なければ、君の父親はこの場で殺す。
どこからか、男の絶叫が聞こえてきた。誰の叫び声かは、言うまでもないだろう。ケニーの顔は、見る見るうちに青ざめていった。
大丈夫だ、まだ死んでいない。今のはまだ片腕が折れた程度だ。次は、もう片腕かな。
男は、淡々と告げる。ケニーは、困ったようにヨハンたちの方を向く。父親を助けに行きたいのだろう。
マリアンナが、男に尋ねる。
別に、付添がいてもいいんだろう。
その言葉に、男は頷く。そして、口を開いた。
ただし、ついてくるかどうかは、こいつらを見て決めた方がいいぞ。
男が指を鳴らすと、霧の中から二人の女性と一人の男性が現れた。キャサリンとアイリーン、そしてヨキだ。キャサリンは斧を構えており、アイリーンはグレネードのようなものを手に持っている。どちらも、二人が得意とする武器だ。ヨキはと言えば、素手であるが、その首にはいくつもの笛が下げられている。そして、キャサリンとアイリーンはおもむろに懐から注射器を取り出すと、自分の首筋にその中身を送り込む。それに反応したのは、マリアンナだ。
ゲイムの奴、あれをまだ残していたのか。
ヨハンたちにも、あの注射器は見覚えがあった。かつて、ゲイムに操られたサラサの姉弟子、コクサイが使っていた注射器と同じものだ。注射器を撃った者はその中身に応じた生き物の能力が使えるようになるが、その反面副作用が激しく三回打てば使用者死ぬと言われている代物だ。
このままでは、キャサリンとアイリーンの命が危ない。早急に、彼らをゲイムの洗脳から解放しなければ。
しかし、だからと言ってケニーを一人で男について行かせるわけにはいかない。どうしたらいいのか。
おれが、ケニーと行こう。
ヨハンが、皆に告げる。ヨハンがケニーをかばいながら時間を稼いでいる間に、他のみんなが急いでキャサリンたちを倒し、ヨハンたちのもとに向かう。これが、ヨハンたちの出した結論であった。
任せたぞ。
サラサが、ヨハンを見据えて告げる。ヨハンは頷くと、グレンの横にいたゼンマイガーを抱えた。
グレン、おれのゼンマイガーをよこせ。
グレンは苦笑したが、止めはしなかった。この状況では、ゼンマイガーの防御性能は、ヨハンと共にいた方が輝く。そう判断したのだ。
ヨハンは、男の後について行こうとしたケニーに話しかけた。
一人で行くなよ。遠足はみんなで行くものだろ。
そして、二人は男と共に、サラサたちの前から姿を消した。
しばらくヨハンとケニーは、男につき従いながら歩いていた。しばらく歩くと、本堂へとたどり着く。そこには、ゲイムが待っていた。その脇には、左腕があり得ない方向に曲がっているトニーと、彼の右腕を抑えているアエマの大神官、パルテナが立っている。
ようやく来たか。
ゲイムは、二人を見て告げる。
だがお主たち、今から儂の言うことにお主たちが逆らったらどうなるかわかっているか。
その言葉に、ヨハンが即座に言い返した。
お前こそ、その男にこれ以上危害を加えてみろ。おれたちはこの場から帰るぞ。良いのか、おれが帰っても。
その後も、ヨハンはゲイムを煽り続けた。ゲイムは苦笑すると、ヨハンとの会話を中断した。煽りとは言え、ヨハンの言うことに、分があったためだ。ゲイムはパルテナにトニーを解放するよう告げると、男とパルテナに告げる。
遠慮はいらん、やれ。
ようやく来たか。
ゲイムは、二人を見て告げる。
だがお主たち、今から儂の言うことにお主たちが逆らったらどうなるかわかっているか。
その言葉に、ヨハンが即座に言い返した。
お前こそ、その男にこれ以上危害を加えてみろ。おれたちはこの場から帰るぞ。良いのか、おれが帰っても。
その後も、ヨハンはゲイムを煽り続けた。ゲイムは苦笑すると、ヨハンとの会話を中断した。煽りとは言え、ヨハンの言うことに、分があったためだ。ゲイムはパルテナにトニーを解放するよう告げると、男とパルテナに告げる。
遠慮はいらん、やれ。
一方そのころ、サラサたちはキャサリンたちとの戦いを始めていた。口火を切ったのは、リアノ。一刻も早く船員たちを洗脳から解放したいと考えた彼女は、ありったけの力をこめて船員たちを攻撃した。その攻撃の危険性を知っているキャサリンとアイリーンは、妨害をしようと武器を構えるが、リアノの後ろにいたマックスとセルモがあっさりと妨害を止めた。こうして、リアノの攻撃がキャサリンたちに襲い掛かる。その攻撃は、アイリーンにこそ、キャサリンの身を挺しての防御により届かなかったが、あっという間に残りの二人を無力化した。そこに、マックスとサラサが続けざまに攻撃する。かくて、キャサリンたちはあっという間に地に伏せることとなった。しかし、サラサたちに休んでいる時間はない。すぐに、ヨハンとケニーを見つけなければ。サラサたちは、その場に倒れたキャサリンたちをマリアンナに任せ、ヨハンとケニーが向かった場所を探すべく鳥居の中へ踏み込んでいった。
一方、ヨハンはゼンマイガーと共に、ケニーをかばう姿勢を見せながら男とパルテナの前に立っていた。二人のその脇にいる、ゲイムが男たちに声をかける。
スオウ、パルテナ。こいつは見た目以上に強い。全力でいけ。
その言葉に二人は無言で頷く。パルテナが武器の威力を高める呪文をかけ、スオウと呼ばれた男は全力で殴り掛かってきた。その攻撃は受け止めたヨハンの装甲を弾き飛ばす不思議な一撃だった。だが、ヨハンの新型の移動要塞Mk-Cは、その一撃にも屈しなかった。そのコアとなる部分は、ヨハンが身に付けている首飾りである。首飾りから発せられた衝撃波は、男の攻撃を弱める。更に、ヨハン自身とゼンマイガーが障壁を放つ。こうして、男の一撃をヨハンは受け止めたのである。だが、男の攻撃はそれで終わったわけではない。更にもう一発、男の攻撃がヨハンを襲った。これは受け切れない。とっさにそう感じたヨハンは、ゼンマイガーの隠し玉である巨大な障壁を起動させた。この障壁に阻まれ、男の攻撃はヨハンに届かない。
その様子を横で見ていたゲイムが、感心したような声を上げる。ヨハンは、グレンから貰ったポーションを飲みながら、ゲイムを挑発した。
お前は戦いに加わらないのか、そんなにおれのことが怖いか。
ゲイムは苦笑し、更に攻撃するよう男とパルテナに告げる。
スオウが再び殴り掛かってくる。その威力は先ほどより増していたが、半面、防御をはぎ取る不思議な一撃は消えたようだった。ヨハンは自分が一発目を受け止めると、二発目をゼンマイガーに防がせる。更にヨハンは、パルテナの杖による攻撃も受け止めた。
この時点で、ヨハンの体力はまだ余裕があった。とはいえ、再び同じような攻撃を受け続けた場合、ヨハンとゼンマイガーがかなりの苦境に立たされることは間違いがなかった。
ゲイムもそれをわかっているようであり、嫌な笑みを浮かべるとヨハンに告げる。
お主たち、そろそろ降伏せんか。わしにスオウにアエマの大神官。三人とも、お主たちより強い。それに対して、お主は一人。倒そうと思えば、今にでもお主たちを倒すことができる。なに、ろうそくの火を消すほど簡単だとは言わぬよ。しかし、お主たちは暗闇にいる蚊と同じような存在。厄介だし、迷惑ではあるが儂をかゆがらせる程度の存在よ。わしが潰せば一撃で死ぬのだ。大人しく諦めよ。のうヨハン。
ヨハンは、不敵な笑みを浮かべる。
生憎だが、おれは一人じゃないんでね。おれは確かに、他人に迷惑をかけている。だが、おれがいつも誰かに迷惑をかけていると、それを止めようと飛んでくるやつがいるんだよ。
ゲイムはそれを鼻で笑うと、再び攻撃を二人に命じる。
だが、二人はヨハンの体力を削りきることはできなかった。そこに、一人の男が到着したためだ。
待たせたな、ヨハン。
グレンはそう告げると、スプレッダーを通じてヨハンの体力を回復させる。
グレンの到着を見たゲイムは、歯噛みした。グレンが到着したということは、間もなく他の仲間たちもやってくると言うことである。
やれやれ、本当にお主たちは強情じゃのう。儂は長年生きてきたが、お主たちより強情な奴は見たことがないわ。
ゲイムは呟くと、憎々しげな眼でヨハンを見つめた。
だが、そろそろお主たちに付き合ってもいいことはなさそうなのでな。方針は変えることにしたよ、ヨハン。お主以外は殺す。その方がお主も絶望し、ルーファス様が蘇りやすくなるじゃろう。やれ。
ゲイムが低く命じると、後ろにいたパルテナが頷き、注射器を取り出した。そして、それを自らの首筋に突き刺す。彼女はそのまま絶叫すると、黒い瘴気のようなものを口から吐きながら、辺りをのた打ち回る。だが、間もなくその絶叫は収まり、パルテナは再び立ち上がった。
このエキスは飛び切り強力なものだからな。使った奴は、そのエキスの強力な副作用により死ぬかもしれないと言われていたが、それに打ち勝つとは。流石大神官よ。
ゲイムの呟きと共に、立ち上がったパルテナが絶叫した。その叫び声は、人のものと言うよりは、獣の咆哮に近い。そして、それと同時にパルテナの体が光りながら膨張し、一体のドラゴンが生まれた。そのドラゴンの口には、先ほどパルテナが出していた黒い瘴気を吐いている。
スオウ、パルテナ。後は任せたぞ。
ゲイムはそう言い残し、消えていった。
同時に、男の構えが変わる。どうやら、防御を捨て攻撃に特化した構えらしい。
と、そこにマックスがやってくる。
間に合ったか、ケニーは無事か。
マックスの言葉に、近くにいたケニーが返事をする。マックスは安堵したように頷いた。
後はあの二人を倒すだけだ。
マックスが弓を構えるのと同じくして、男が突然ヨハンに向けて切りかかっていった。『奥義・一の太刀』と呼ばれる男の技だ。予備動作すらないこの攻撃は、マックスをもってしても妨害することすらかなわなかった。だが、ヨハンのMk-Cは、装甲を引きはがされてもなお硬い。ヨハンが出力を最大限まで引き上げるとその攻撃を弾き返す。男がもし操られていなかったら、驚きに満ちた表情をしていただろう。続いて、ドラゴンに変化したパルテナがブレスを吐こうとするが、その一撃は放たれることがなかった。マックスの弓が、パルテナを牽制していたためだ。更に、そんなパルテナ目掛け鞭が襲い掛かる。リアノも到着したのだ。パルテナはとっさにもとの姿へと戻ると、どうにかリアノの攻撃を回避する。
リアノは、そのまま男を見た。トバリで、ストリーアトンであったあの男。おそらく、スオウだ。その構えはサラサの構えとはいくらか異なる。スオウの剣技も、ゆがんでしまった性格と同じく、この数年の間に変わってしまったのだろうか。
男はちらりとリアノの方を向いたが、すぐに視線を正面に戻した。と言っても、リアノを無視したわけではない。その方角から、男へと一目散に駈けてくる者がいたのだ。そう、サラサだ。
サラサは乗っていた馬から飛び降りながら、男へと攻撃を仕掛ける。しかし、男はその動きを読んでいた。サラサめがけて刀を振る。そこに、パルテナがすかさず威力増加の呪文を放つ。その刀による一撃が刺さっていれば、サラサは大きな打撃を受けていただろう。
しかし、男とサラサの間にはヨハンがいた。ヨハンはサラサめがけて振り下ろされた刀を持ち前の防御力で受け止める。
そして、サラサと男による壮絶な斬り合いが始まった。サラサの放つ刀の一撃を、男は受け止めながらそれ以上の攻撃で返す。男の一撃は、鋭く重たかった。傍目に見ても会心の一撃だと思われるような攻撃を何度も見舞ってくる。おまけに、そこにパルテナが呪文をかけて威力を上げるのだ。いくら、サラサが優れた剣士とは言え、その場にサラサしかいなかったら、サラサは負けていただろう。
しかし、その場には仲間たちがいた。グレンが、リアノが、マックスが、セルモが。そして何より、サラサの隣にはヨハンが立っていた。仲間の中で随一の堅牢さを誇る、魔術師が。
大丈夫か、ケニーの師匠。
軽口を叩きながら、ヨハンはスオウの攻撃をほとんど受け止めていた。そして、サラサもそんなヨハンの硬さを信じ、自らの身を顧みることなく鋭い一撃を放ち続ける。そして、ついに。サラサの怒りを込めた一撃が、男を打ち倒したのだった。
スオウ、パルテナ。こいつは見た目以上に強い。全力でいけ。
その言葉に二人は無言で頷く。パルテナが武器の威力を高める呪文をかけ、スオウと呼ばれた男は全力で殴り掛かってきた。その攻撃は受け止めたヨハンの装甲を弾き飛ばす不思議な一撃だった。だが、ヨハンの新型の移動要塞Mk-Cは、その一撃にも屈しなかった。そのコアとなる部分は、ヨハンが身に付けている首飾りである。首飾りから発せられた衝撃波は、男の攻撃を弱める。更に、ヨハン自身とゼンマイガーが障壁を放つ。こうして、男の一撃をヨハンは受け止めたのである。だが、男の攻撃はそれで終わったわけではない。更にもう一発、男の攻撃がヨハンを襲った。これは受け切れない。とっさにそう感じたヨハンは、ゼンマイガーの隠し玉である巨大な障壁を起動させた。この障壁に阻まれ、男の攻撃はヨハンに届かない。
その様子を横で見ていたゲイムが、感心したような声を上げる。ヨハンは、グレンから貰ったポーションを飲みながら、ゲイムを挑発した。
お前は戦いに加わらないのか、そんなにおれのことが怖いか。
ゲイムは苦笑し、更に攻撃するよう男とパルテナに告げる。
スオウが再び殴り掛かってくる。その威力は先ほどより増していたが、半面、防御をはぎ取る不思議な一撃は消えたようだった。ヨハンは自分が一発目を受け止めると、二発目をゼンマイガーに防がせる。更にヨハンは、パルテナの杖による攻撃も受け止めた。
この時点で、ヨハンの体力はまだ余裕があった。とはいえ、再び同じような攻撃を受け続けた場合、ヨハンとゼンマイガーがかなりの苦境に立たされることは間違いがなかった。
ゲイムもそれをわかっているようであり、嫌な笑みを浮かべるとヨハンに告げる。
お主たち、そろそろ降伏せんか。わしにスオウにアエマの大神官。三人とも、お主たちより強い。それに対して、お主は一人。倒そうと思えば、今にでもお主たちを倒すことができる。なに、ろうそくの火を消すほど簡単だとは言わぬよ。しかし、お主たちは暗闇にいる蚊と同じような存在。厄介だし、迷惑ではあるが儂をかゆがらせる程度の存在よ。わしが潰せば一撃で死ぬのだ。大人しく諦めよ。のうヨハン。
ヨハンは、不敵な笑みを浮かべる。
生憎だが、おれは一人じゃないんでね。おれは確かに、他人に迷惑をかけている。だが、おれがいつも誰かに迷惑をかけていると、それを止めようと飛んでくるやつがいるんだよ。
ゲイムはそれを鼻で笑うと、再び攻撃を二人に命じる。
だが、二人はヨハンの体力を削りきることはできなかった。そこに、一人の男が到着したためだ。
待たせたな、ヨハン。
グレンはそう告げると、スプレッダーを通じてヨハンの体力を回復させる。
グレンの到着を見たゲイムは、歯噛みした。グレンが到着したということは、間もなく他の仲間たちもやってくると言うことである。
やれやれ、本当にお主たちは強情じゃのう。儂は長年生きてきたが、お主たちより強情な奴は見たことがないわ。
ゲイムは呟くと、憎々しげな眼でヨハンを見つめた。
だが、そろそろお主たちに付き合ってもいいことはなさそうなのでな。方針は変えることにしたよ、ヨハン。お主以外は殺す。その方がお主も絶望し、ルーファス様が蘇りやすくなるじゃろう。やれ。
ゲイムが低く命じると、後ろにいたパルテナが頷き、注射器を取り出した。そして、それを自らの首筋に突き刺す。彼女はそのまま絶叫すると、黒い瘴気のようなものを口から吐きながら、辺りをのた打ち回る。だが、間もなくその絶叫は収まり、パルテナは再び立ち上がった。
このエキスは飛び切り強力なものだからな。使った奴は、そのエキスの強力な副作用により死ぬかもしれないと言われていたが、それに打ち勝つとは。流石大神官よ。
ゲイムの呟きと共に、立ち上がったパルテナが絶叫した。その叫び声は、人のものと言うよりは、獣の咆哮に近い。そして、それと同時にパルテナの体が光りながら膨張し、一体のドラゴンが生まれた。そのドラゴンの口には、先ほどパルテナが出していた黒い瘴気を吐いている。
スオウ、パルテナ。後は任せたぞ。
ゲイムはそう言い残し、消えていった。
同時に、男の構えが変わる。どうやら、防御を捨て攻撃に特化した構えらしい。
と、そこにマックスがやってくる。
間に合ったか、ケニーは無事か。
マックスの言葉に、近くにいたケニーが返事をする。マックスは安堵したように頷いた。
後はあの二人を倒すだけだ。
マックスが弓を構えるのと同じくして、男が突然ヨハンに向けて切りかかっていった。『奥義・一の太刀』と呼ばれる男の技だ。予備動作すらないこの攻撃は、マックスをもってしても妨害することすらかなわなかった。だが、ヨハンのMk-Cは、装甲を引きはがされてもなお硬い。ヨハンが出力を最大限まで引き上げるとその攻撃を弾き返す。男がもし操られていなかったら、驚きに満ちた表情をしていただろう。続いて、ドラゴンに変化したパルテナがブレスを吐こうとするが、その一撃は放たれることがなかった。マックスの弓が、パルテナを牽制していたためだ。更に、そんなパルテナ目掛け鞭が襲い掛かる。リアノも到着したのだ。パルテナはとっさにもとの姿へと戻ると、どうにかリアノの攻撃を回避する。
リアノは、そのまま男を見た。トバリで、ストリーアトンであったあの男。おそらく、スオウだ。その構えはサラサの構えとはいくらか異なる。スオウの剣技も、ゆがんでしまった性格と同じく、この数年の間に変わってしまったのだろうか。
男はちらりとリアノの方を向いたが、すぐに視線を正面に戻した。と言っても、リアノを無視したわけではない。その方角から、男へと一目散に駈けてくる者がいたのだ。そう、サラサだ。
サラサは乗っていた馬から飛び降りながら、男へと攻撃を仕掛ける。しかし、男はその動きを読んでいた。サラサめがけて刀を振る。そこに、パルテナがすかさず威力増加の呪文を放つ。その刀による一撃が刺さっていれば、サラサは大きな打撃を受けていただろう。
しかし、男とサラサの間にはヨハンがいた。ヨハンはサラサめがけて振り下ろされた刀を持ち前の防御力で受け止める。
そして、サラサと男による壮絶な斬り合いが始まった。サラサの放つ刀の一撃を、男は受け止めながらそれ以上の攻撃で返す。男の一撃は、鋭く重たかった。傍目に見ても会心の一撃だと思われるような攻撃を何度も見舞ってくる。おまけに、そこにパルテナが呪文をかけて威力を上げるのだ。いくら、サラサが優れた剣士とは言え、その場にサラサしかいなかったら、サラサは負けていただろう。
しかし、その場には仲間たちがいた。グレンが、リアノが、マックスが、セルモが。そして何より、サラサの隣にはヨハンが立っていた。仲間の中で随一の堅牢さを誇る、魔術師が。
大丈夫か、ケニーの師匠。
軽口を叩きながら、ヨハンはスオウの攻撃をほとんど受け止めていた。そして、サラサもそんなヨハンの硬さを信じ、自らの身を顧みることなく鋭い一撃を放ち続ける。そして、ついに。サラサの怒りを込めた一撃が、男を打ち倒したのだった。
そのままの勢いでパルテナまでも打ち倒したヨハンたちは、どうにかこの戦いに勝利した。それを確認したケニーが無表情に立ち尽くしている父親のもとへと駆け寄っていく。
父ちゃん、父ちゃん、大丈夫か。
しかし、ケニーの叫びもむなしく、トニーはうつろな目をしたまま返事はない。おかしな方向に向いた左手だけが、ぷらぷらと動いている。
そんなケニーの背後で、ヨハンたちは身構えていた。ゲイムのことだ、何らかの罠をトニーに仕掛けていてもおかしくはない。ヨハンたちの意識は、完全にケニーとトニーへと向いていた。だが、ゲイムが仕掛けた罠は、トニーではなかった。スオウと思しき剣士に、仕掛けていたのである。
お前を殺し、絶望させてやる!
そう言いながら、男はケニーへと突進した。虚を突かれたこともあってヨハンたちはそれに反応できない。
ケニーも驚いた表情で振り返ったが、体がそれ以上ついて行けないようであり、そのまま固まってしまう。そこに、刀を振りかぶった剣士の一撃が飛んでいった。
ケニー!
ケニーの近くにいたフェンネルは、この先に予想される悲痛な展開を予想し、思わず目を瞑った。だが、いつまでたってもケニーの悲鳴は聞こえて来ず、代わりに、何か鋭い金属音が響いてきた。フェンネルが恐る恐る目を開けると、男の刀が、別の刀によってケニーの近くで受け止められている光景が目に入ってきた。ケニーは、無事だったのだ。
とは言え、刀の主はサラサではない。もちろん、トニーでもない。いつの間にか、ケニーの隣には一人の男性が立っていた。大柄で、筋骨隆々とした男性だ。頭には、ライオンマスクを被っている。
ライオン仮面!
マックスが驚いたような声を上げる。なんでこんなところにライオン仮面がいるのか、皆目見当もつかなかったためだ。ライオン仮面は笑っているような声を上げた。
旅の最中だ。しかし、辺りがうるさいと思ったら・・・坊主、なんだこのゴリラみたいなやつは。
ライオン仮面は、自身もゴリラみたいな体格をしていることを棚に上げ、目の前の男を見ながらマックスに尋ねる。マックスが事情を話すと、ライオン仮面は頷いた。
なるほど、こいつを倒さなきゃなんねえのか。ま、このおれ様に任せてくれよな。
ライオン仮面は、自信満々と言った表情で呟く。突然の出来事に、マックス以外の面々は唖然としていた。だが、そんな中でも、サラサはこのライオン仮面の声と、自信満々な口調に聞き覚えを感じていた。どこか、懐かしい。
そうそう、坊主。あの時おれの正式な名前を言いそびれたな。
ライオン仮面はマックスにそう告げると、気合を込めて刀を振りぬき、男の刀を弾き飛ばした。そして、ケニーの安全を確保されたのを確認すると、ライオン仮面はおもむろにライオンマスクを脱ぎ捨てる。その中から出てきた男の顔をみて、サラサとリアノがはっとしたような顔をする。ライオン仮面は、そんな二人の反応に気付くこともなく、大声で名乗りを上げた。
おれはスオウ・シノノメ。世界一の剣豪だ。覚えとけよ。
その姿に、サラサは確信する。自信満々な声、自分と同じくと鳶色の瞳を持った顔、筋骨隆々としたゴリラのような体つき。数年の間に多少ふけてはいたが、まぎれもなくサラサの父スオウその人であった。
父ちゃん、父ちゃん、大丈夫か。
しかし、ケニーの叫びもむなしく、トニーはうつろな目をしたまま返事はない。おかしな方向に向いた左手だけが、ぷらぷらと動いている。
そんなケニーの背後で、ヨハンたちは身構えていた。ゲイムのことだ、何らかの罠をトニーに仕掛けていてもおかしくはない。ヨハンたちの意識は、完全にケニーとトニーへと向いていた。だが、ゲイムが仕掛けた罠は、トニーではなかった。スオウと思しき剣士に、仕掛けていたのである。
お前を殺し、絶望させてやる!
そう言いながら、男はケニーへと突進した。虚を突かれたこともあってヨハンたちはそれに反応できない。
ケニーも驚いた表情で振り返ったが、体がそれ以上ついて行けないようであり、そのまま固まってしまう。そこに、刀を振りかぶった剣士の一撃が飛んでいった。
ケニー!
ケニーの近くにいたフェンネルは、この先に予想される悲痛な展開を予想し、思わず目を瞑った。だが、いつまでたってもケニーの悲鳴は聞こえて来ず、代わりに、何か鋭い金属音が響いてきた。フェンネルが恐る恐る目を開けると、男の刀が、別の刀によってケニーの近くで受け止められている光景が目に入ってきた。ケニーは、無事だったのだ。
とは言え、刀の主はサラサではない。もちろん、トニーでもない。いつの間にか、ケニーの隣には一人の男性が立っていた。大柄で、筋骨隆々とした男性だ。頭には、ライオンマスクを被っている。
ライオン仮面!
マックスが驚いたような声を上げる。なんでこんなところにライオン仮面がいるのか、皆目見当もつかなかったためだ。ライオン仮面は笑っているような声を上げた。
旅の最中だ。しかし、辺りがうるさいと思ったら・・・坊主、なんだこのゴリラみたいなやつは。
ライオン仮面は、自身もゴリラみたいな体格をしていることを棚に上げ、目の前の男を見ながらマックスに尋ねる。マックスが事情を話すと、ライオン仮面は頷いた。
なるほど、こいつを倒さなきゃなんねえのか。ま、このおれ様に任せてくれよな。
ライオン仮面は、自信満々と言った表情で呟く。突然の出来事に、マックス以外の面々は唖然としていた。だが、そんな中でも、サラサはこのライオン仮面の声と、自信満々な口調に聞き覚えを感じていた。どこか、懐かしい。
そうそう、坊主。あの時おれの正式な名前を言いそびれたな。
ライオン仮面はマックスにそう告げると、気合を込めて刀を振りぬき、男の刀を弾き飛ばした。そして、ケニーの安全を確保されたのを確認すると、ライオン仮面はおもむろにライオンマスクを脱ぎ捨てる。その中から出てきた男の顔をみて、サラサとリアノがはっとしたような顔をする。ライオン仮面は、そんな二人の反応に気付くこともなく、大声で名乗りを上げた。
おれはスオウ・シノノメ。世界一の剣豪だ。覚えとけよ。
その姿に、サラサは確信する。自信満々な声、自分と同じくと鳶色の瞳を持った顔、筋骨隆々としたゴリラのような体つき。数年の間に多少ふけてはいたが、まぎれもなくサラサの父スオウその人であった。
一方、取り残された剣士の男は、忘れるなよと言わんばかりに絶叫をあげ、スオウの方へと突進する。いや、しようとした。突如、男の真上から巨大な火球が降ってきたのだ。男は絶叫を上げ、倒れる。突然のことに驚くスオウに対し、横から話しかけたのは、車いすに乗ったマリアンナだった。
ケニーに危害を加えられても困るのでな。なんだその、空気を読めみたいな目は。
スオウに話しかけようとしたマリアンナは皆からの視線に気が付き、苦笑いしながら弁解した。
ケニーに危害を加えられても困るのでな。なんだその、空気を読めみたいな目は。
スオウに話しかけようとしたマリアンナは皆からの視線に気が付き、苦笑いしながら弁解した。