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C-10
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Cグループ第十話『六傑』
今回予告
―ルーファス。かつて、名も知られぬ女性に封印されたその魔王は、数百年の時を越えて復活しつつあった。
魔王の魂が眠るのは、女性の子孫であるヨハン・ルーカス。今はヨハンの所持する指輪がその意識を抑えているが、数年のうちにヨハンの意識を乗っ取るだろう。だが、ヨハンは仲間とともに魔王の復活を止めるべく、魔王の眠るウノーヴァへと向かったのであった。
だが、魔王が眠る『古代の城』は、『リゾート』と呼ばれる砂漠の地中に埋もれていた。それを掘り返していては間に合わない。そう考えたヨハンたちは、強風を起こすと言われる神器を求めアエマの大神殿『豊穣の社』へと向かう。だが、『社』の大神官パルテナは、既にゲイムに洗脳されていた。そして、『豊穣の社』へとたどり着いたヨハンたちはパルテナとサラサの父スオウと思しき人物との戦いになる。
戦いの末にこれを倒したヨハンたち。だが、一瞬の隙をついてスオウと思しき人物がケニーへと襲いかかる。
だが、その一撃は思わぬ人物によって阻まれた。そう、ライオン仮面と名を偽っていたスオウ・シノノメ本人によって。
スオウの協力もあって、『豊穣の社』での戦いに勝利したヨハンたち。だが、勝利の余韻に浸るヨハンたちに二つの陰が迫る。それは、ヨハンたちとゲイムの、いや、復活した魔王ルーファスの部下、『六傑』との新たな戦いの幕開けでもあった。『六傑』が復活した原因は一人の男にあった。その男を追い詰めるため、ヨハンたちは『海辺の洞穴』へと向かう。だが、そこで待ち構えていたのはその男だけではなかった。―
魔王の魂が眠るのは、女性の子孫であるヨハン・ルーカス。今はヨハンの所持する指輪がその意識を抑えているが、数年のうちにヨハンの意識を乗っ取るだろう。だが、ヨハンは仲間とともに魔王の復活を止めるべく、魔王の眠るウノーヴァへと向かったのであった。
だが、魔王が眠る『古代の城』は、『リゾート』と呼ばれる砂漠の地中に埋もれていた。それを掘り返していては間に合わない。そう考えたヨハンたちは、強風を起こすと言われる神器を求めアエマの大神殿『豊穣の社』へと向かう。だが、『社』の大神官パルテナは、既にゲイムに洗脳されていた。そして、『豊穣の社』へとたどり着いたヨハンたちはパルテナとサラサの父スオウと思しき人物との戦いになる。
戦いの末にこれを倒したヨハンたち。だが、一瞬の隙をついてスオウと思しき人物がケニーへと襲いかかる。
だが、その一撃は思わぬ人物によって阻まれた。そう、ライオン仮面と名を偽っていたスオウ・シノノメ本人によって。
スオウの協力もあって、『豊穣の社』での戦いに勝利したヨハンたち。だが、勝利の余韻に浸るヨハンたちに二つの陰が迫る。それは、ヨハンたちとゲイムの、いや、復活した魔王ルーファスの部下、『六傑』との新たな戦いの幕開けでもあった。『六傑』が復活した原因は一人の男にあった。その男を追い詰めるため、ヨハンたちは『海辺の洞穴』へと向かう。だが、そこで待ち構えていたのはその男だけではなかった。―
登場人物
※年齢は275年時点のものです
PC
PCの同行者
- マリアンナ(エルダナーン、女性、年齢不詳)
ヨハンの錬金術の師匠。同時に、ヨハンの魔術の師匠でもある。得意分野は格闘技。
その拳は重厚な扉すらも一撃で粉砕する。鉄壁の守りを誇るヨハンと共に、周囲の人間に魔術師の姿を誤解させている元凶。
かつてはゲイムに洗脳されており、ヨハンたちと死闘を演じていた。洗脳が解けた現在は、ヨハンたちと共にウノーヴァに向かう。
ゲイムに洗脳された後遺症でもあって体の衰えが激しく、普段はヨハンが作った車椅子に乗って行動している。
その拳は重厚な扉すらも一撃で粉砕する。鉄壁の守りを誇るヨハンと共に、周囲の人間に魔術師の姿を誤解させている元凶。
かつてはゲイムに洗脳されており、ヨハンたちと死闘を演じていた。洗脳が解けた現在は、ヨハンたちと共にウノーヴァに向かう。
ゲイムに洗脳された後遺症でもあって体の衰えが激しく、普段はヨハンが作った車椅子に乗って行動している。
- ケニー(ヒューリン、男性、13歳)
トバリの漁師であるトニーの息子。ウノーヴァへと連れ去られた父親を取り戻すため、紆余曲折を経てヨハンたちのウノーヴァ行きに同行する。
生意気な言動も多いが、一度決めたことはしっかりやり遂げようとする根性を持つ。
師匠であるサラサや兄貴分のヨハンの猛特訓を受け、心身ともに少しずつ成長している。
ついに父親のトニーとの再会を果たすが、それは同時に・・・
生意気な言動も多いが、一度決めたことはしっかりやり遂げようとする根性を持つ。
師匠であるサラサや兄貴分のヨハンの猛特訓を受け、心身ともに少しずつ成長している。
ついに父親のトニーとの再会を果たすが、それは同時に・・・
- ティボルト(ドゥアン(セラトス)、男性、30歳)
マックスの友人。威勢のいい喋り方とドレッドモヒカンが特徴。
幾多もの戦いの末に、セルモとの間に運命の赤い糸が結ばれていると勘違いしてしまった。
セルモに素早く動く技術を教えたため、もう共にいる必要はない・・・はずなのだが、いかなる手段を用いてか未だにセルモに同行している。
その人間性はゲイムたちにも伝わっているらしく、ミスター・チーバには呆れられていた。
幾多もの戦いの末に、セルモとの間に運命の赤い糸が結ばれていると勘違いしてしまった。
セルモに素早く動く技術を教えたため、もう共にいる必要はない・・・はずなのだが、いかなる手段を用いてか未だにセルモに同行している。
その人間性はゲイムたちにも伝わっているらしく、ミスター・チーバには呆れられていた。
- キャサリン(ヒューリン(ハーフネヴァーフ)、女性、20代前半)
帆船『プリンシプル』の船員。副船長のような存在であり、リアノ不在時には他の船員をまとめている。
その船員としての腕を買われてウノーヴァ行きに同行。『プリンシプル』でリアノたちの帰りを待っていたが、
ゲイムや偽スオウの襲撃によって連れ去られてしまった。
このまま船に乗っていても足手まといになると考え、アイリーンと共に自分たちが船から降りることを提案する。
その船員としての腕を買われてウノーヴァ行きに同行。『プリンシプル』でリアノたちの帰りを待っていたが、
ゲイムや偽スオウの襲撃によって連れ去られてしまった。
このまま船に乗っていても足手まといになると考え、アイリーンと共に自分たちが船から降りることを提案する。
- アイリーン(ヒューリン、女性、19歳)
最近『プリンシプル』の船員となった女性。
優秀な航海士らしく、共にウノーヴァへと行くことになる。
『プリンシプル』でリアノたちの帰りを待っていたが、キャサリンと共にゲイムたちに連れ去られてしまう。
このまま船に乗っていても足手まといになると考え、キャサリンと共に自分たちが船から降りることを提案した。
優秀な航海士らしく、共にウノーヴァへと行くことになる。
『プリンシプル』でリアノたちの帰りを待っていたが、キャサリンと共にゲイムたちに連れ去られてしまう。
このまま船に乗っていても足手まといになると考え、キャサリンと共に自分たちが船から降りることを提案した。
- ヨキ(エルダナーン、男性、30歳前後)
コウテツ島でリアノと行動を共にした後、帆船『プリンシプル』の船員となった男性。
弱気でよく悲鳴を上げる上に、危険を前にするとすぐ震えてしまう性格。だが、色々な偶然もあって、ヨハンたちには優秀で勇敢な船員だと思われている。
ただ、その性格が功を奏し何度も死線を潜り抜けてきていることは事実であり、『プリンシプル』の船員の中でも唯一ウノーヴァに残ることとなった。
『大地震撼』ダイダーラとの戦いでは、重要な役目を担う。
弱気でよく悲鳴を上げる上に、危険を前にするとすぐ震えてしまう性格。だが、色々な偶然もあって、ヨハンたちには優秀で勇敢な船員だと思われている。
ただ、その性格が功を奏し何度も死線を潜り抜けてきていることは事実であり、『プリンシプル』の船員の中でも唯一ウノーヴァに残ることとなった。
『大地震撼』ダイダーラとの戦いでは、重要な役目を担う。
- フェンネル(フォモール、女性、26歳)
ストリーアトンの村長、ティロンの双子の姉。『大いなる災厄』への生贄として大蛇に襲われていたところ、偶然ヨハンたちに出会う。
ヨハンたちが『大いなる災厄』を倒した後は、昔ウノーヴァ各地旅していた経験を活かし、ヨハンたちの案内人となる。
今回は尺の都合上全く出番がなかったが、案内人として未だ同行していることを忘れてはいけない。
ヨハンたちが『大いなる災厄』を倒した後は、昔ウノーヴァ各地旅していた経験を活かし、ヨハンたちの案内人となる。
今回は尺の都合上全く出番がなかったが、案内人として未だ同行していることを忘れてはいけない。
- ボマー(からくり、性別なし)
グレンが船の見張り用にと作り出したからくり。爆弾に手足が生えたような外見。
古の魔術士ユイ・リイが作り出した機械爆弾をもとに作られており、塊怨樹程度なら一撃で粉砕する。
しかし、それだけでは火力不足だろうとの意見を受け、今回大々的に魔改造されることとなった。
古の魔術士ユイ・リイが作り出した機械爆弾をもとに作られており、塊怨樹程度なら一撃で粉砕する。
しかし、それだけでは火力不足だろうとの意見を受け、今回大々的に魔改造されることとなった。
今回からの同行者
- スオウ・シノノメ(ヒューリン、男性、53歳)
サラサの父。それなりに名の知れた剣豪。サラサと同じく強い正義感の持ち主。
剣術の弟子でもあったサラサに、もう教えることはないと言い残して数年前に旅立つ。
その後はウノーヴァに渡って活動していたようだが、ふとしたことからライオンマスクを被り、ライオン仮面と名乗っていた。
正義感の強い性格もあって、ヨハンたちの窮状を知るや同行を申し出る。
剣術の弟子でもあったサラサに、もう教えることはないと言い残して数年前に旅立つ。
その後はウノーヴァに渡って活動していたようだが、ふとしたことからライオンマスクを被り、ライオン仮面と名乗っていた。
正義感の強い性格もあって、ヨハンたちの窮状を知るや同行を申し出る。
- パ・クリ(ヒューリン、男性、54歳)
スオウ・シノノメのふりをしていた男。その目的は、個人的な怨恨からスオウの評判をさげるため。
そのあまりに身勝手な理由もあって、ゴリラに似た人物に優しいマックスですら彼を擁護しようとしなかった。
だが、トニーの取り成しと、サラサやスオウの発言もあって、一応は許されることに。
その後は心を入れ替えたらしく、ヨハンたちの旅に同行しそれなりの活躍をしていた。
そのあまりに身勝手な理由もあって、ゴリラに似た人物に優しいマックスですら彼を擁護しようとしなかった。
だが、トニーの取り成しと、サラサやスオウの発言もあって、一応は許されることに。
その後は心を入れ替えたらしく、ヨハンたちの旅に同行しそれなりの活躍をしていた。
- パルテナ(ヒューリン(ハーフドゥアン(オルニス))、女性、20代後半)
『豊穣の社』にいるアエマの大神官。『魔王』ルーファスのいる『古代の城』を探すためには『社』にある神器が必要不可欠である。
しかし、その身はすでにゲイムに洗脳されており、洗脳から解放された後もしばらくは昏睡状態にあった。
目が覚めた後は神器を利用してヨハンたちが『古代の城』を見つけるのに一役買うこととなる。
しかし、その身はすでにゲイムに洗脳されており、洗脳から解放された後もしばらくは昏睡状態にあった。
目が覚めた後は神器を利用してヨハンたちが『古代の城』を見つけるのに一役買うこととなる。
- ウェンディ(ドラゴネット(メディオン)、女性、10代後半?)
アンデラの村でヨハンたちが出会った冒険者の少女。頭に生える二本の捻じ曲がった角と背中から腰に掛けて生えている黒い翼が特徴的。
若そうな見た目に反し、邪竜槍ダマーヴァンドを手に持つなど冒険者としての腕前はそこそこにある様子。
困っている人を助けたいとして、アンデラの村の危機を救おうとするも、自分一人では危機の正体がつかめず困惑していた。
実は昔の記憶を失っており、その記憶を取り戻すために冒険者として各地を旅している。
ヨハンたちと共にアンデラの村の危機を救った後、ヨハンたちの旅に同行を申し出る。
若そうな見た目に反し、邪竜槍ダマーヴァンドを手に持つなど冒険者としての腕前はそこそこにある様子。
困っている人を助けたいとして、アンデラの村の危機を救おうとするも、自分一人では危機の正体がつかめず困惑していた。
実は昔の記憶を失っており、その記憶を取り戻すために冒険者として各地を旅している。
ヨハンたちと共にアンデラの村の危機を救った後、ヨハンたちの旅に同行を申し出る。
その他PCの関係者
- トニー(ヒューリン、男性、40歳)
トバリの漁師。ケニーの父親。ケニーいわく、世界一の漁師。
釣りに行きたいという男の申し出に親切心から船を出した結果、そのままウノーヴァに連れ去られてしまう。
その後、ゲイムに洗脳されヨハンたちの前に姿を現した。
だが、ヨハンたちの尽力によって洗脳から解放され、無事ケニーとの再会を果たすことになる。
釣りに行きたいという男の申し出に親切心から船を出した結果、そのままウノーヴァに連れ去られてしまう。
その後、ゲイムに洗脳されヨハンたちの前に姿を現した。
だが、ヨハンたちの尽力によって洗脳から解放され、無事ケニーとの再会を果たすことになる。
- エミリー(ヒューリン(ハーフエルダナーン)、女性、20歳前後)
本名はエミリエンヌ。自称ノームコプ1の召喚士。動物の王の一柱をファミリアにしている。
ギルマンと人間との間に友好関係を築くべく、ウノーヴァで行動する。
『六傑』の復活を止めるため、その原因となる『虚無術士』ドーマの居場所をヨハンたちに告げた。
ギルマンと人間との間に友好関係を築くべく、ウノーヴァで行動する。
『六傑』の復活を止めるため、その原因となる『虚無術士』ドーマの居場所をヨハンたちに告げた。
- カルロス(ギルマン、男性、19歳)
エミリーたちと共に行動するギルマン三銃士の一人。若い女の子が好きで下着あさりが得意。
その暴走を止めるため、エミリーは常に彼を監視している。
その暴走を止めるため、エミリーは常に彼を監視している。
『魔王』ルーファスの関係者
- 『魔王』ルーファス(魔族、男性)
今から800年ほど昔にウノーヴァを支配していた魔王。
封印された際に、その力の一部をヨハンの祖先に移していた。
唯一自らを滅ぼすすべを持つヨハンの精神を乗っ取ろうとしている。
今回、ヨハンたちの策でついに復活を果たす。
封印された際に、その力の一部をヨハンの祖先に移していた。
唯一自らを滅ぼすすべを持つヨハンの精神を乗っ取ろうとしている。
今回、ヨハンたちの策でついに復活を果たす。
- ゲイム・ウォッチ(魔族、男性)
『魔王』ルーファスの復活を目論む魔族。
人を洗脳する力を持ち、マリアンナやコクサイなど幾人もの人物を操ってきた。
ルーファスの力の一部を体内に持つヨハンを狙うべく、その同行者に様々な策をしかけていた。
今回、ルーファスが復活したことでヨハンを狙う必要がなくなり、ついにヨハンたちを滅ぼすべく対決することに。
人を洗脳する力を持ち、マリアンナやコクサイなど幾人もの人物を操ってきた。
ルーファスの力の一部を体内に持つヨハンを狙うべく、その同行者に様々な策をしかけていた。
今回、ルーファスが復活したことでヨハンを狙う必要がなくなり、ついにヨハンたちを滅ぼすべく対決することに。
- 『虚無術士』ドーマ(アンデッド、男性)
ルーファス配下の『六傑』の一人。優れた魔術の知識と腕を持つ。
800年前に魔族同士の内紛で殺された際、自らに転生の魔術をかけていたことで現代に復活する。
そして、自らが持つ転生魔術を利用して他の『六傑』の面々を復活させていった。
800年前に魔族同士の内紛で殺された際、自らに転生の魔術をかけていたことで現代に復活する。
そして、自らが持つ転生魔術を利用して他の『六傑』の面々を復活させていった。
- 『流星剣士』ナグモ(魔族、女性)
『六傑』の一人。一見すると人間のような容姿だが、真っ青な体を持つ。優れた剣士であり、『六傑』の中でも最も腕の立つ人物。
ただ、不用意な戦いは好まないようであり、サラサ、スオウの前に現れた際も正々堂々勝負を挑んだ。
その実力は、ノームコプ有数の剣豪であるスオウを二度も不利な状態に持ち込むほどである。
「流星剣」と呼ばれる五連撃と、避けることのできない特殊な剣技を利用して戦う。
ただ、不用意な戦いは好まないようであり、サラサ、スオウの前に現れた際も正々堂々勝負を挑んだ。
その実力は、ノームコプ有数の剣豪であるスオウを二度も不利な状態に持ち込むほどである。
「流星剣」と呼ばれる五連撃と、避けることのできない特殊な剣技を利用して戦う。
- 『一指両断』ヒィッツカラルド(魔族、男性)
『六傑』の一人。指を鳴らすことで、あらゆるものを両断する真空破を放つ。
奇襲を得意としているようであり、セルモとヨキしか残っていなかった蒸気船『プリンシプル』の甲板に現れる。
ボ・マーと船を破壊して回ったものの、ティボルトの決死の一撃やヨハンたちの到来により撤退。
後、ゲイムと協力してヨハンたちに戦いを挑む。
奇襲を得意としているようであり、セルモとヨキしか残っていなかった蒸気船『プリンシプル』の甲板に現れる。
ボ・マーと船を破壊して回ったものの、ティボルトの決死の一撃やヨハンたちの到来により撤退。
後、ゲイムと協力してヨハンたちに戦いを挑む。
- 『黒蝕凶竜』ディアブロス(ドラゴン、女性)
『六傑』の一人。二本の巨大な角と黒い体が特徴的なドラゴン。
だが、その外見に反して優しい性格の持ち主であったらしく、ナグモを除く他の『六傑』の面々とは折り合いが悪かったようだ。
『六傑』の中で最後まで生き残っていたためか、『虚無術士』ドーマですらその遺体を見つけることはできなかった。
だが、その外見に反して優しい性格の持ち主であったらしく、ナグモを除く他の『六傑』の面々とは折り合いが悪かったようだ。
『六傑』の中で最後まで生き残っていたためか、『虚無術士』ドーマですらその遺体を見つけることはできなかった。
- 『大地震撼』ダイダーラ(魔族、男性)
『六傑』の一人。山と見紛うような巨体の持ち主。普段は山に擬態している。
『虚無術士』ドーマの手によって復活させられるも、その目立つ外見によって注目を浴びないよう、その行動は大きく制限されていた。
そのあまりにも大きな巨体を倒す手段はほとんどないと考えられていたが・・・
『虚無術士』ドーマの手によって復活させられるも、その目立つ外見によって注目を浴びないよう、その行動は大きく制限されていた。
そのあまりにも大きな巨体を倒す手段はほとんどないと考えられていたが・・・
- 『災蛇魔拳』ミスター・チーバ(魔族、男性)
『六傑』の一人。真っ赤な体と犬のような顔が特徴的。
房総の拳との異名を持つ彼の拳から放たれる一撃は、全てのものを破壊すると評されている。
予想外の動きを持った彼の拳はヨハンたちを窮地に追い込んだ。
房総の拳との異名を持つ彼の拳から放たれる一撃は、全てのものを破壊すると評されている。
予想外の動きを持った彼の拳はヨハンたちを窮地に追い込んだ。
セッション内容
見渡す限り、荒涼とした砂漠があった。その厳しい環境に、生き物は適応できないのだろう。何かが動く気配は、まるで感じられない。唯一動くものと言えば、時折吹く風に巻き上げられた砂くらいであった。
その砂漠に、二人の男が突然現れた。彼らはともに、夜に溶け込もうとするかのような黒いローブを身に付けている。そして、互いの表情が確認できないほど目深にフードを被っていた。
「このあたり、であっているのじゃな?」
フードの男の片割れが、老人のようなしわがれ声でもう一人に確認する。もう一人の男は、腕を組みながら頷く。この男は、よくよく見ると奇妙ないでたちをしていた。ローブの先から見えるはずの、足が見えないのだ。足ごと魔術で浮いているのか、それとも本当に足がないのか。
ともあれ、足の見えない男は、頷くと骨ばった手で懐を探る。間もなく、一本の杖が出てきた。その杖の先端には髑髏を思わせる装飾が着けられており、その目にあたる部分にはめ込まれた宝石から赤い光が強く放たれていた。その光を満足げに眺めた足の見えない男は、もう一人の男に向けて告げる。
「そうとも。『六傑』の一人、『流星剣士』ナグモが埋められているのは、このあたりのはずだ。この赤い光が、物語っている。とは言え、この砂漠の下で埋もれているのを探さねばならんのだがな」
足の見えない男の一言に、もう一人の男はフードの奥でにやりと笑った。
「なに、任せておけ、適任がおる」
そう告げると、一人の男の姿が消えた。転移の魔術を使ったのだろう。間もなく、男は一人の女性を伴って戻ってきた。緑色の長髪に、白い翼を持った女性だ。その右手には杖を持ち、左手に白い袋を手にしている。
「この女が手に持つ袋は、風を自在に起こすことができる。これを使えば、ナグモが埋もれている場所まで掘り起こすのは容易だろう」
男の言葉に、足の見えない男は頷いた。
「その通りだな。流石ゲイム。準備がいい」
「なに、それもそなたがちょうどこの時期に復活してくれたから活かせるだけのものよ」
足の見えない男の言葉にそう答えると、ゲイムは指を鳴らした。同時に女性が、手に持つ袋をわずかに開く。女性は即座に袋を占めたものの、十分と言えるほどの暴風が、砂漠を吹き荒れていた。やがて砂埃が収まった時、ゲイムたちの前には、刀が刺さった墓標が見えていた。
「これかのう?」
ゲイムの言葉に、足の見えない男は頷く。
「おそらくそうだろう。この刀は、ナグモが生前愛用していたものだ」
「ならば、後は任せたぞ、『虚無術師』ドーマよ」
ドーマと呼ばれた男は頷くと、フードを脱ぎ捨てる。そこからあらわになった顔は、髑髏そのものであった。ドーマは墓の前に立つと、懐から今度は一冊の本を取り出す。そして、その本を墓の前に建てると、何やら呪文を唱えだした。その言葉に呼応するかのように本から黒い靄のようなものが吐き出され、墓の周りを覆っていく。やがて、その靄が墓の周りをすべて囲んだ時、突然その靄が消え去った。
代わりに、その墓の前には一人の女性が立っていた。一見すると、その容姿は普通のヒューリンと変わりはないものの、その青い肌は彼女がただの人間ではないことを物語っている。女性は、何が起きたか理解できないと言った表情をしている。そんな女性を見ながら、ドーマはにやりと笑った。
「久しぶりだな、『流星剣士』ナグモよ」
ナグモは、訝しげな顔をドーマに向けていた。
「ここはどこ? そして、ルーファス様は?」
ドーマは、後ろにいるゲイムの方を向いた。ゲイムは、顎に手を当てながら呟く。
「さて、どこから話したものかのう」
その砂漠に、二人の男が突然現れた。彼らはともに、夜に溶け込もうとするかのような黒いローブを身に付けている。そして、互いの表情が確認できないほど目深にフードを被っていた。
「このあたり、であっているのじゃな?」
フードの男の片割れが、老人のようなしわがれ声でもう一人に確認する。もう一人の男は、腕を組みながら頷く。この男は、よくよく見ると奇妙ないでたちをしていた。ローブの先から見えるはずの、足が見えないのだ。足ごと魔術で浮いているのか、それとも本当に足がないのか。
ともあれ、足の見えない男は、頷くと骨ばった手で懐を探る。間もなく、一本の杖が出てきた。その杖の先端には髑髏を思わせる装飾が着けられており、その目にあたる部分にはめ込まれた宝石から赤い光が強く放たれていた。その光を満足げに眺めた足の見えない男は、もう一人の男に向けて告げる。
「そうとも。『六傑』の一人、『流星剣士』ナグモが埋められているのは、このあたりのはずだ。この赤い光が、物語っている。とは言え、この砂漠の下で埋もれているのを探さねばならんのだがな」
足の見えない男の一言に、もう一人の男はフードの奥でにやりと笑った。
「なに、任せておけ、適任がおる」
そう告げると、一人の男の姿が消えた。転移の魔術を使ったのだろう。間もなく、男は一人の女性を伴って戻ってきた。緑色の長髪に、白い翼を持った女性だ。その右手には杖を持ち、左手に白い袋を手にしている。
「この女が手に持つ袋は、風を自在に起こすことができる。これを使えば、ナグモが埋もれている場所まで掘り起こすのは容易だろう」
男の言葉に、足の見えない男は頷いた。
「その通りだな。流石ゲイム。準備がいい」
「なに、それもそなたがちょうどこの時期に復活してくれたから活かせるだけのものよ」
足の見えない男の言葉にそう答えると、ゲイムは指を鳴らした。同時に女性が、手に持つ袋をわずかに開く。女性は即座に袋を占めたものの、十分と言えるほどの暴風が、砂漠を吹き荒れていた。やがて砂埃が収まった時、ゲイムたちの前には、刀が刺さった墓標が見えていた。
「これかのう?」
ゲイムの言葉に、足の見えない男は頷く。
「おそらくそうだろう。この刀は、ナグモが生前愛用していたものだ」
「ならば、後は任せたぞ、『虚無術師』ドーマよ」
ドーマと呼ばれた男は頷くと、フードを脱ぎ捨てる。そこからあらわになった顔は、髑髏そのものであった。ドーマは墓の前に立つと、懐から今度は一冊の本を取り出す。そして、その本を墓の前に建てると、何やら呪文を唱えだした。その言葉に呼応するかのように本から黒い靄のようなものが吐き出され、墓の周りを覆っていく。やがて、その靄が墓の周りをすべて囲んだ時、突然その靄が消え去った。
代わりに、その墓の前には一人の女性が立っていた。一見すると、その容姿は普通のヒューリンと変わりはないものの、その青い肌は彼女がただの人間ではないことを物語っている。女性は、何が起きたか理解できないと言った表情をしている。そんな女性を見ながら、ドーマはにやりと笑った。
「久しぶりだな、『流星剣士』ナグモよ」
ナグモは、訝しげな顔をドーマに向けていた。
「ここはどこ? そして、ルーファス様は?」
ドーマは、後ろにいるゲイムの方を向いた。ゲイムは、顎に手を当てながら呟く。
「さて、どこから話したものかのう」
ゲイムからかいつまんだ現状を聞いたナグモは、顔を顰めた。
「つまり、今から何百年も前にルーファス様は小娘の不意打ちを受けて封印され、私やドーマたち『六傑』も、その後の魔族たちの内紛の中で一度殺されたわけですね。でも、ドーマが死の直前にかけていた転生の呪文のお蔭で、ドーマはつい最近蘇ることができた。そして、生き残っていたゲイムと共に、封印されたルーファス様を復活させようとしている、ってことであっていますか?」
なぐものまとめに、ゲイムは頷く。
「多少違うところもあるが、おおむねそんな具合じゃな。そのため、儂はヨハンと言うヒューリンを追っておる。あやつはルーファス様の魂を持っておる。我らの救世主であり、同時にルーファス様を倒す可能性を持つ我らの敵じゃよ。まあ、数日もすれば儂が罠を張った『豊穣の社』にやってくるはずじゃろうから、そこで奴を捕まえる予定じゃ。その後は、ルーファス様と共に世界を征服して回ればよい」
ゲイムの言葉に、ナグモは頷く。そこに口を挟んだのが、ドーマだ。
「しかし、ゲイムよ。そのヨハンとかいう輩はこれまで幾度もお前の策を潜り抜けてきたのであろう。用心すべきではないか」
ドーマの言葉に、ゲイムは重々しく頷いた。何しろ、ヨハンたちの実力を最も肌で感じているのはゲイムである。
「もちろん、用心はしておる。後ろにいる女も、この前手に入れた剣豪も儂の部下にはおるのでな。ただ、確かに念には念を入れるべきじゃな。ドーマ、ヒィッツカラルドはどうしておる?」
「『一指両断』ヒィッツカラルドか? おれに代わり、他の『六傑』の場所を探している。ヒィッツとナグモはおれより先に亡くなっていたから場所が分かるが、他の三人はそうもいかないからな。ゲイム、お前が早々に逃げなければこんな苦労はしなくて良かったのだが」
恨めしげなドーマの声に、ゲイムは飄々と答える。
「じゃが、儂がこうして生きているお蔭で、お主も素早く行動できるじゃろう。儂はもともと支援要員。戦いはお主たちに任せておる」
ゲイムの言葉に、ドーマは軽くため息をついた。
「おれも『六傑』の中では支援要員なんだが。まあいい。ヒィッツをお前のところに送ればいいのだな」
ドーマの言葉に、ゲイムは再び頷く。
「そうじゃ。ヒィッツさえいれば万一の際も大丈夫であろう。ナグモ、お主も来るか?」
当然のことだと言わんばかりにナグモも頷く。それを見たゲイムは、邪悪な笑みを浮かべた。
「お主たちがいれば、大丈夫であろうな。万一の際は、任せたぞ」
「つまり、今から何百年も前にルーファス様は小娘の不意打ちを受けて封印され、私やドーマたち『六傑』も、その後の魔族たちの内紛の中で一度殺されたわけですね。でも、ドーマが死の直前にかけていた転生の呪文のお蔭で、ドーマはつい最近蘇ることができた。そして、生き残っていたゲイムと共に、封印されたルーファス様を復活させようとしている、ってことであっていますか?」
なぐものまとめに、ゲイムは頷く。
「多少違うところもあるが、おおむねそんな具合じゃな。そのため、儂はヨハンと言うヒューリンを追っておる。あやつはルーファス様の魂を持っておる。我らの救世主であり、同時にルーファス様を倒す可能性を持つ我らの敵じゃよ。まあ、数日もすれば儂が罠を張った『豊穣の社』にやってくるはずじゃろうから、そこで奴を捕まえる予定じゃ。その後は、ルーファス様と共に世界を征服して回ればよい」
ゲイムの言葉に、ナグモは頷く。そこに口を挟んだのが、ドーマだ。
「しかし、ゲイムよ。そのヨハンとかいう輩はこれまで幾度もお前の策を潜り抜けてきたのであろう。用心すべきではないか」
ドーマの言葉に、ゲイムは重々しく頷いた。何しろ、ヨハンたちの実力を最も肌で感じているのはゲイムである。
「もちろん、用心はしておる。後ろにいる女も、この前手に入れた剣豪も儂の部下にはおるのでな。ただ、確かに念には念を入れるべきじゃな。ドーマ、ヒィッツカラルドはどうしておる?」
「『一指両断』ヒィッツカラルドか? おれに代わり、他の『六傑』の場所を探している。ヒィッツとナグモはおれより先に亡くなっていたから場所が分かるが、他の三人はそうもいかないからな。ゲイム、お前が早々に逃げなければこんな苦労はしなくて良かったのだが」
恨めしげなドーマの声に、ゲイムは飄々と答える。
「じゃが、儂がこうして生きているお蔭で、お主も素早く行動できるじゃろう。儂はもともと支援要員。戦いはお主たちに任せておる」
ゲイムの言葉に、ドーマは軽くため息をついた。
「おれも『六傑』の中では支援要員なんだが。まあいい。ヒィッツをお前のところに送ればいいのだな」
ドーマの言葉に、ゲイムは再び頷く。
「そうじゃ。ヒィッツさえいれば万一の際も大丈夫であろう。ナグモ、お主も来るか?」
当然のことだと言わんばかりにナグモも頷く。それを見たゲイムは、邪悪な笑みを浮かべた。
「お主たちがいれば、大丈夫であろうな。万一の際は、任せたぞ」
どんよりと暗く曇った空から、雨が降っていた。その雨はさほど強くないが、既にあたりの草むらには水たまりが出来つつある。その光景を気に寄りかかりながら眺めている、ドラゴネットの少女がいた。頭に生える二本の捻じ曲がった角と背中から腰に掛けて生えている黒い翼は、少女がドラゴネットのメディオンであることを物語っている。彼女は何かをすることもなく、ただ魂が抜けたような目で空から落ちてくる雨粒を見ていた。
どれくらい時が過ぎただろうか。彼女の目が、動いた。視界の端で、動くものがあったためだ。その方向を見ると、一匹のカエルがのそのそと動いていた。
「なんだ、カエルかあ・・・」
少女は少し間の抜けた声で呟く。その言葉は、これまで時が止まっていたかのような彼女を動かし始めた。首を軽くひねり、手を大きく伸ばす。同時に、あくびが出た。
「う~ん、少し眠いし、帰って寝ようかなあ」
彼女は気楽そうな表情で述べると、立ち上がる。だが、その顔は即座に真面目なものとなった。重大なことに、気が付いてしまったためだ。
「どこに、帰るの?」
彼女は、自問した。どこからどうやって、ここに来たのか。彼女はさっぱり記憶がなかったのだ。そもそも、この彼女が今いる場所も、見覚えがない。そして、記憶の糸をたどろうとした彼女の顔は、見る見るうちに青ざめていった。彼女の過去を考えようとしても、記憶に靄がかかったかのように何も思い出せないのだ。友人、故郷、生業の仕事、そしてなにより自分の名前。彼女は、全く覚えていなかった。
「ウソでしょ。なんで、何も覚えてないの。何があったの。ここはどこなの」
混乱し、自問自答し続ける彼女の横で、カエルが鳴き続けていた。
どれくらい時が過ぎただろうか。彼女の目が、動いた。視界の端で、動くものがあったためだ。その方向を見ると、一匹のカエルがのそのそと動いていた。
「なんだ、カエルかあ・・・」
少女は少し間の抜けた声で呟く。その言葉は、これまで時が止まっていたかのような彼女を動かし始めた。首を軽くひねり、手を大きく伸ばす。同時に、あくびが出た。
「う~ん、少し眠いし、帰って寝ようかなあ」
彼女は気楽そうな表情で述べると、立ち上がる。だが、その顔は即座に真面目なものとなった。重大なことに、気が付いてしまったためだ。
「どこに、帰るの?」
彼女は、自問した。どこからどうやって、ここに来たのか。彼女はさっぱり記憶がなかったのだ。そもそも、この彼女が今いる場所も、見覚えがない。そして、記憶の糸をたどろうとした彼女の顔は、見る見るうちに青ざめていった。彼女の過去を考えようとしても、記憶に靄がかかったかのように何も思い出せないのだ。友人、故郷、生業の仕事、そしてなにより自分の名前。彼女は、全く覚えていなかった。
「ウソでしょ。なんで、何も覚えてないの。何があったの。ここはどこなの」
混乱し、自問自答し続ける彼女の横で、カエルが鳴き続けていた。
『豊穣の社』での戦いは、終わりを迎えていた。ヨハンたちの目の前で、マリアンナの放った火球をまともに受けたスオウは地に伏した。だが、その人物が地に伏しても、皆すぐには反応できなかった。唖然としていたからだ。理由は簡単である。ライオン仮面が先ほど放った言葉が、衝撃的だったのだ。
「おれの名は、スオウ・シノノメだ!」
ライオン仮面はそう言い切っていた。ライオン仮面と倒れている男、どちらが本物のスオウなのか。その場にいるほとんどの人間は、突然の展開について行けず、唖然としている。だが、ライオン仮面はそんな周囲の様子を気にすることなく、倒れている男に襲われていたケニーに話しかけた。
「どうした坊主? 大丈夫か?」
ケニーは口をあんぐりと開けたまま、答える。
「ありがとうございます。僕は大丈夫です。ところで、おじさんは本当にスオウさんなんですか?」
その言葉に、怪訝な表情を浮かべながらライオン仮面は答える。
「ああ、おれはスオウ・シノノメだが」
「じゃあ、僕の師匠を見て何か思わない?」
ケニーはそう告げると、サラサを指さす。そこに、マックスも割り込んできた。
「シノノメってことはライオン仮面、あそこの刀の姉ちゃんはさあ・・・」
しかし、ここで珍しくマックスは言いよどむ。このままこの事実を告げていいのか、マックスは軽く悩んでしまった。少しの逡巡ののち、マックスは間接的にその事実を指摘しようとサラサに向かって話しかける。
「確か、姉ちゃん。あんたの名前は?」
だが、サラサは突然の父の来訪にどう対応したらいいかわからないようで、頭を抱えてしまっており、マックスの言葉が耳に入っていない。おまけに、サラサは狐のお面を被っているため、スオウがその顔を見ることは難しい状況であった。
「あの仮面の姉ちゃんか? うーん、見覚えはあるような気もするが・・・」
その困惑したような様子に思わず声をかけようとしてしまったのがマックスだ。
「いや、そりゃあだって、あの姉ちゃんはよ・・・」
「お前の娘だろ」
マックスの後を継いで冷静に続けたのは、ヨハンだった。その指摘は流石のスオウにとっても予想外だったようで、その目が驚きに満ちる。
「お前、サラサなのか?」
その言葉に、サラサは観念したのか仮面を外す。そして、突然のことに困ったような表情を見せつつも、いつもの口調でスオウに告げた。
「全く、どこに行っていたのですか父上は」
サラサの疑問に、スオウは飄々とした顔で答える。
「どこに行っていたって? 見たらわかるじゃないか。おれはウノーヴァにいるんだよ」
そして、真面目な顔をすると、逆にサラサに尋ね返した。
「お前こそなんでこんなところにいるんだ? お前は用もなくこんなところに来るタイプじゃないだろう」
父の返答に、サラサは苦笑しつつも自分たちの現状を告げるのであった。
理由を聞くや、スオウは腕を組んでしかめっ面をした。
「なるほど・・・そいつは、厄介だな。お前だけのことだったら、お前だけで何とかしろとは思うが、これはそういうことを言えるようなもんじゃねえな」
そして、大きく頷く。
「よし、わかった。このおれも手伝おう。何ができるかわからんが、何かできることがあれば言ってくれ」
スオウの言葉に、マックスとヨハンが続けざまに喜びの声を上げた。
「マジかよ、ライオン仮面! ついてきてくれるのか」
「助かるぜ、ライオン仮面!」
二人のはしゃぎっぷりを見ながら、グレンが軽く尋ねる。
「本名もわかったわけだし、スオウさんって呼んだ方がいいのか?」
スオウは笑いながら答える。
「おれのことはスオウでもライオン仮面でもいい。好きなように呼んでくれ」
その言葉を受け、ヨハンとマックスの二人が謎のライオン仮面コールを始める。と、その途中でヨハンは何かに思い当たったらしく、サラサとスオウを交互に見た。
「ところで、お前たちがいつもお面をつけているのって、家訓かなんかなの?」
ヨハンの言葉に、スオウは首を横に振りながら否定した。
「それは違う。おれはもともと仮面をつけていたわけじゃないんだが、誰かがおれの名を語って好き勝手していたみたいでな。素顔を見せると警戒されちまうんで、仮面をつけたってわけよ。本当はもっとおれの格好いい素顔を見せたいんだが・・・」
その言葉に、マックスも頷く。
「確かに、ライオン仮面の素顔、ゴリラっぽくて凄くいけてるぜ。おれはいつも思っているんだ。ゴリラに似ている人間に悪い奴はいないって。なあ、デストラクション!」
マックスが叫ぶと、突如虚空から一頭のゴリラが飛び出す。そして、スオウに向けて親指を立てるといつものように弾けていく。それを見ながら、マックスは満足げに頷いた。
「よし」
スオウはそんなマックスとデストラクションのやり取りに対し、にやりと笑うと答える。
「なるほど、いい仲間じゃないか」
「だろう、それにデストラクション以外も、みんないい仲間なんだ。特に、サラサの姉ちゃんにはいつも助けられているぜ」
マックスの言葉を受け、スオウは改めてサラサの方を向いた。
「それにしても、サラサ、お前ちょっと変わったな。なんていうか、周りを見る余裕ができた気がするよ。昔のお前は周りを見る余裕なんてなかった。だから、リアノちゃんとコクサイくらいしかお前とまともに話せる人間もいなかった。だが、今はケニー君を始め多くの仲間がいるようだしな。どんな魔法を使って、成長したんだ?」
スオウの問いに、サラサはどう答えていいか少し迷ったようだった。が、やがてスオウの方を見て答える。
「自覚はありません・・・ただ、周りのことも少し信じてみようと思っただけです」
サラサの回答に対し、スオウはいい答えだと言わんばかりに、大きく頷いた。そして、少し離れたところからサラサとスオウのやり取りを見守っていたリアノの方を向いて、軽く手を振った。
「久しぶりだな、リアノちゃん。サラサの貴重な友達でいてくれたことに、感謝するぜ。まあ、サラサのことだから、これからまたなんか迷惑をかけることがあるかもしれないが、その時はよろしく頼むよ。リアノちゃんは昔の誰かと違って、しっかりしているからな」
「サラサちゃんは私と一緒にいる間に、色々ありましたからね。きっと、話すことがいっぱいですよ」
リアノはそう答えながら、サラサの父親であるスオウはこんな人柄であったとの過去の記憶を懐かしく思い出していた。
その後も、スオウとの話は続いたが、倒れている人々を放置するわけにはいかないとの意見もあり、ヨハンたちは倒れている人々を担ぎ上げるといったん船へと戻ることにした。その道中、ヨハンたちはスオウからどうしてスオウがウノーヴァに渡ったのかとの話も聞くことになった。スオウはどうやら、亡くなった妻ミヤビの夢を実現すべくこのウノーヴァへと来ているようだった。建築家であるミヤビは、このウノーヴァにある五つの大きな橋、通称『ウノーヴァ五橋』を見ることを目標としていた。ミヤビ本人がその夢を叶えることはできない。けれども、かわりに自分が叶える。それが、スオウがウノーヴァにいる理由であった。
と、スオウの話を聞いていたマックスは突然、わずかだが鋭い殺気を感じた。だが、その殺気に気付いたものはほとんどいない。スオウとマリアンナが軽く反応した程度である。マックスは、近くにいたスオウに尋ねる。
「なあ、ライオン仮面。なんか今感じなかったか? なんかいるよな、いや、いたんだよな」
マックスの言葉に、スオウは頷く。
「確かに、何かがいた。しかし、よくわからん」
しかし、二人で考えていても思いつくことはない。なにしろ、ヨハンたちはウノーヴァに来てから始終死線を潜り抜けさせられている。殺気が放たれるのは日常茶飯事だ。
結局、これだけではどうしようもないと言うことで一行は先に進むこととなった。
「おれの名は、スオウ・シノノメだ!」
ライオン仮面はそう言い切っていた。ライオン仮面と倒れている男、どちらが本物のスオウなのか。その場にいるほとんどの人間は、突然の展開について行けず、唖然としている。だが、ライオン仮面はそんな周囲の様子を気にすることなく、倒れている男に襲われていたケニーに話しかけた。
「どうした坊主? 大丈夫か?」
ケニーは口をあんぐりと開けたまま、答える。
「ありがとうございます。僕は大丈夫です。ところで、おじさんは本当にスオウさんなんですか?」
その言葉に、怪訝な表情を浮かべながらライオン仮面は答える。
「ああ、おれはスオウ・シノノメだが」
「じゃあ、僕の師匠を見て何か思わない?」
ケニーはそう告げると、サラサを指さす。そこに、マックスも割り込んできた。
「シノノメってことはライオン仮面、あそこの刀の姉ちゃんはさあ・・・」
しかし、ここで珍しくマックスは言いよどむ。このままこの事実を告げていいのか、マックスは軽く悩んでしまった。少しの逡巡ののち、マックスは間接的にその事実を指摘しようとサラサに向かって話しかける。
「確か、姉ちゃん。あんたの名前は?」
だが、サラサは突然の父の来訪にどう対応したらいいかわからないようで、頭を抱えてしまっており、マックスの言葉が耳に入っていない。おまけに、サラサは狐のお面を被っているため、スオウがその顔を見ることは難しい状況であった。
「あの仮面の姉ちゃんか? うーん、見覚えはあるような気もするが・・・」
その困惑したような様子に思わず声をかけようとしてしまったのがマックスだ。
「いや、そりゃあだって、あの姉ちゃんはよ・・・」
「お前の娘だろ」
マックスの後を継いで冷静に続けたのは、ヨハンだった。その指摘は流石のスオウにとっても予想外だったようで、その目が驚きに満ちる。
「お前、サラサなのか?」
その言葉に、サラサは観念したのか仮面を外す。そして、突然のことに困ったような表情を見せつつも、いつもの口調でスオウに告げた。
「全く、どこに行っていたのですか父上は」
サラサの疑問に、スオウは飄々とした顔で答える。
「どこに行っていたって? 見たらわかるじゃないか。おれはウノーヴァにいるんだよ」
そして、真面目な顔をすると、逆にサラサに尋ね返した。
「お前こそなんでこんなところにいるんだ? お前は用もなくこんなところに来るタイプじゃないだろう」
父の返答に、サラサは苦笑しつつも自分たちの現状を告げるのであった。
理由を聞くや、スオウは腕を組んでしかめっ面をした。
「なるほど・・・そいつは、厄介だな。お前だけのことだったら、お前だけで何とかしろとは思うが、これはそういうことを言えるようなもんじゃねえな」
そして、大きく頷く。
「よし、わかった。このおれも手伝おう。何ができるかわからんが、何かできることがあれば言ってくれ」
スオウの言葉に、マックスとヨハンが続けざまに喜びの声を上げた。
「マジかよ、ライオン仮面! ついてきてくれるのか」
「助かるぜ、ライオン仮面!」
二人のはしゃぎっぷりを見ながら、グレンが軽く尋ねる。
「本名もわかったわけだし、スオウさんって呼んだ方がいいのか?」
スオウは笑いながら答える。
「おれのことはスオウでもライオン仮面でもいい。好きなように呼んでくれ」
その言葉を受け、ヨハンとマックスの二人が謎のライオン仮面コールを始める。と、その途中でヨハンは何かに思い当たったらしく、サラサとスオウを交互に見た。
「ところで、お前たちがいつもお面をつけているのって、家訓かなんかなの?」
ヨハンの言葉に、スオウは首を横に振りながら否定した。
「それは違う。おれはもともと仮面をつけていたわけじゃないんだが、誰かがおれの名を語って好き勝手していたみたいでな。素顔を見せると警戒されちまうんで、仮面をつけたってわけよ。本当はもっとおれの格好いい素顔を見せたいんだが・・・」
その言葉に、マックスも頷く。
「確かに、ライオン仮面の素顔、ゴリラっぽくて凄くいけてるぜ。おれはいつも思っているんだ。ゴリラに似ている人間に悪い奴はいないって。なあ、デストラクション!」
マックスが叫ぶと、突如虚空から一頭のゴリラが飛び出す。そして、スオウに向けて親指を立てるといつものように弾けていく。それを見ながら、マックスは満足げに頷いた。
「よし」
スオウはそんなマックスとデストラクションのやり取りに対し、にやりと笑うと答える。
「なるほど、いい仲間じゃないか」
「だろう、それにデストラクション以外も、みんないい仲間なんだ。特に、サラサの姉ちゃんにはいつも助けられているぜ」
マックスの言葉を受け、スオウは改めてサラサの方を向いた。
「それにしても、サラサ、お前ちょっと変わったな。なんていうか、周りを見る余裕ができた気がするよ。昔のお前は周りを見る余裕なんてなかった。だから、リアノちゃんとコクサイくらいしかお前とまともに話せる人間もいなかった。だが、今はケニー君を始め多くの仲間がいるようだしな。どんな魔法を使って、成長したんだ?」
スオウの問いに、サラサはどう答えていいか少し迷ったようだった。が、やがてスオウの方を見て答える。
「自覚はありません・・・ただ、周りのことも少し信じてみようと思っただけです」
サラサの回答に対し、スオウはいい答えだと言わんばかりに、大きく頷いた。そして、少し離れたところからサラサとスオウのやり取りを見守っていたリアノの方を向いて、軽く手を振った。
「久しぶりだな、リアノちゃん。サラサの貴重な友達でいてくれたことに、感謝するぜ。まあ、サラサのことだから、これからまたなんか迷惑をかけることがあるかもしれないが、その時はよろしく頼むよ。リアノちゃんは昔の誰かと違って、しっかりしているからな」
「サラサちゃんは私と一緒にいる間に、色々ありましたからね。きっと、話すことがいっぱいですよ」
リアノはそう答えながら、サラサの父親であるスオウはこんな人柄であったとの過去の記憶を懐かしく思い出していた。
その後も、スオウとの話は続いたが、倒れている人々を放置するわけにはいかないとの意見もあり、ヨハンたちは倒れている人々を担ぎ上げるといったん船へと戻ることにした。その道中、ヨハンたちはスオウからどうしてスオウがウノーヴァに渡ったのかとの話も聞くことになった。スオウはどうやら、亡くなった妻ミヤビの夢を実現すべくこのウノーヴァへと来ているようだった。建築家であるミヤビは、このウノーヴァにある五つの大きな橋、通称『ウノーヴァ五橋』を見ることを目標としていた。ミヤビ本人がその夢を叶えることはできない。けれども、かわりに自分が叶える。それが、スオウがウノーヴァにいる理由であった。
と、スオウの話を聞いていたマックスは突然、わずかだが鋭い殺気を感じた。だが、その殺気に気付いたものはほとんどいない。スオウとマリアンナが軽く反応した程度である。マックスは、近くにいたスオウに尋ねる。
「なあ、ライオン仮面。なんか今感じなかったか? なんかいるよな、いや、いたんだよな」
マックスの言葉に、スオウは頷く。
「確かに、何かがいた。しかし、よくわからん」
しかし、二人で考えていても思いつくことはない。なにしろ、ヨハンたちはウノーヴァに来てから始終死線を潜り抜けさせられている。殺気が放たれるのは日常茶飯事だ。
結局、これだけではどうしようもないと言うことで一行は先に進むこととなった。
一方、ヨハンたちの居るところからそう遠くない山の上で、一組の男女がそれぞれ思い思いのことをしていた。
「なんか、ヤバいの一人増えてねーか?」
そのうちの片方、長い髪に三白眼の男が左手を望遠鏡のようにして遠くを見ながら呟く。
「そうなの?」
それに答えたのは、青い肌に白い髪を持った女だ。とは言え、彼女は手に持つ刀を磨くことに注意を傾けており、男の発言を本当に聞いているかは怪しい。だが、男はそんな女の様子を気にすることもなく続ける。
「そうだよ。今、軽く殺気を放ったんだけど、ゲイムがヤバいって言っていた車椅子の女と弓を持ったガキ以外に、なんか刀を持ったゴリラが反応してきたんだ。この距離から見分けるのは、相当なモンだぞ」
「刀?」
女はその言葉に興味を持ったのか、刀をしまうと男と同じように手を丸め、遠くを見始める。まもなく女は目的の人物を見つけると、軽く頷く。
「ヒィッツカラルド」
女の表情を見たヒィッツカラルドは、苦笑しながら答えた。
「わかったわかった、ナグモにあのゴリラとサラサって女剣士は任せたから。ただ、残りの連中全部おれが相手にするのは大変だと思うんだよね」
ヒィッツカラルドの答えに対し、ナグモは首を横に振る。
「ヒィッツカラルド、『六傑』の一人たるあなたがそれぐらいの敵でおびえるの?」
「ナグモ、お前も同じ『六傑』の一人だよな・・・それに、同じ『六傑』って言っても、ディアブロスみたいな役立たずもいたわけだし、おびえる奴はおびえるんだろう。とは言え、それもその通りだな。基本的におれがやろう。ただ、その二人と共にいる奴くらいは任せたよ」
ヒィッツカラルドの言葉に、ナグモは軽くため息をつき、頷いた。
「ディアブロスは弱いんじゃなくて、優しすぎただけ・・・まあ、それはいいとして、もう行くの?」
「いや、今行っても警戒されている。さっきまで戦っていたばかりだしな。ただ、もう少したてば警戒もゆるむだろう。そこで行こう。おれたちの役目は、正々堂々戦うことじゃないわけだしな」
「わかった。タイミングはあなたに任せるから」
そう告げると、ナグモは再び刀を磨きだした。
「なんか、ヤバいの一人増えてねーか?」
そのうちの片方、長い髪に三白眼の男が左手を望遠鏡のようにして遠くを見ながら呟く。
「そうなの?」
それに答えたのは、青い肌に白い髪を持った女だ。とは言え、彼女は手に持つ刀を磨くことに注意を傾けており、男の発言を本当に聞いているかは怪しい。だが、男はそんな女の様子を気にすることもなく続ける。
「そうだよ。今、軽く殺気を放ったんだけど、ゲイムがヤバいって言っていた車椅子の女と弓を持ったガキ以外に、なんか刀を持ったゴリラが反応してきたんだ。この距離から見分けるのは、相当なモンだぞ」
「刀?」
女はその言葉に興味を持ったのか、刀をしまうと男と同じように手を丸め、遠くを見始める。まもなく女は目的の人物を見つけると、軽く頷く。
「ヒィッツカラルド」
女の表情を見たヒィッツカラルドは、苦笑しながら答えた。
「わかったわかった、ナグモにあのゴリラとサラサって女剣士は任せたから。ただ、残りの連中全部おれが相手にするのは大変だと思うんだよね」
ヒィッツカラルドの答えに対し、ナグモは首を横に振る。
「ヒィッツカラルド、『六傑』の一人たるあなたがそれぐらいの敵でおびえるの?」
「ナグモ、お前も同じ『六傑』の一人だよな・・・それに、同じ『六傑』って言っても、ディアブロスみたいな役立たずもいたわけだし、おびえる奴はおびえるんだろう。とは言え、それもその通りだな。基本的におれがやろう。ただ、その二人と共にいる奴くらいは任せたよ」
ヒィッツカラルドの言葉に、ナグモは軽くため息をつき、頷いた。
「ディアブロスは弱いんじゃなくて、優しすぎただけ・・・まあ、それはいいとして、もう行くの?」
「いや、今行っても警戒されている。さっきまで戦っていたばかりだしな。ただ、もう少したてば警戒もゆるむだろう。そこで行こう。おれたちの役目は、正々堂々戦うことじゃないわけだしな」
「わかった。タイミングはあなたに任せるから」
そう告げると、ナグモは再び刀を磨きだした。
船に戻ったヨハンたちは、倒れている者たちを寝かしつけた後、今後のことを協議すべく会議を始めることになった。
「今の私たちは、身動きが取りにくい」
会話の口火を切ったのはマリアンナだ。
「そもそも、今の私たちは下の階で寝ている大神官が起きるのを待って、彼女から神器を受け取らねばならない。しかし、彼女がいつ目覚めるかがわからない。ゲイムの能力から察するに、最大で一年近くは待たねばならないだろう。この期間、ゲイムが何もしてこないとは考えられないが、神出鬼没なゲイムの動きを止められるすべがあるわけでもない」
「でもよ、そのゲイムってやつだって、毎日そのあたりで野宿しているわけじゃないんだろ?」
そう口を挟んだのはスオウだった。
「ゲイム本人は神出鬼没かもしれないけどよ、協力するやつがゲイムと同じように動き回れるわけでもないだろうし。そういった拠点を一つ一つ潰していけばいいんじゃねーの?」
「つまり、仲間になりそうな奴を片っ端からぶっ潰していけばいいんだな、ライオン仮面?」
マックスの問いかけに、スオウが頷く。しかし、そこで口を挟んだのはマリアンナだった。
「スオウさんとマックスが言うことはもっともなんだが、あいつは拠点すらもなかなかつかませてくれなくてね。おまけに、これまでの感じから察すると、ゲイムはウノーヴァの各地に洗脳したやつを用意しているようなんだ」
「つまり、一カ所にデカい拠点を持つわけじゃないから、攻める場所もわかりにくいってことか。難儀だな」
スオウは頭を掻いた。
「なあ」
と、会議場の隅の方から声を上げた人物がいた。ゲイムの一時的な洗脳から解放されたばかりのヨキだ。わずかな間しか洗脳されていなかったこともあってか、目立った後遺症もない。
「だったらとりあえず、そこの大神官さん以外の面々が目を覚ますのを待てばいいんじゃないか?ノームコプにいたころ、サラサの友達が洗脳されたことがあっただろ。確か、彼女は4ヶ月洗脳されて、一週間もしないうちに目が覚めた。キャサリンとかアイリーンは洗脳されてひと月もたってないし、数日もすれば目が覚めるだろう。彼女たちが何かを知っているかもしれないし、それを待てばいいんじゃないか?」
ヨキにしては珍しく、いい意見だった。マックスも即座に頷く。
「凄いぜ、流石ヨキ!」
「まぁ、この天才ヨキ様だからな。ゲイムに対する策なんて、いつでも思いつけちゃうんだよ」
と、つい数時間前には洗脳されていたことを棚に上げ、高々と自慢を始め出した。冷静なグレンは何かを言いたそうであったが、純粋なマックスは素直に感動していた。
「いやー、やっぱりヨキは他のみんなとは違う才能の持ち主だと思ってたよ」
ヨハンも頷く
「そうだな。こいつならたとえ自分がどんなひどい拷問を受けても任務を全うするだろう」
ヨキはそんなヨハンの発言にがたがたと震えながらもゆっくりと頷いた。
「お、おお、おおお、おおおお、おう」
「凄いぜヨキ! なあ、デストラクション!」
マックスとデストラクションがいつもの調子でそう叫ぶ。マックスの隣で、がたがたと震えるヨキを見ながらスオウも続ける。
「なるほど、あれが武者震いと言うやつか」
その言葉に、ヨキは目を大きく見開く。その目を見ながら、ヨハンが冷静に告げた。
「見ろよマックス、血に飢えた獣の目をしているぜ」
そんなヨキの様子に、マックスが感歎する。
「おれでもあそこまではいけないぜ。どうやったらあんなやつになれるのかなあ」
そんなヨキに対する称賛の声を聞きつつ、マリアンナが口を開いた。
「じゃあ、みんなが目を覚ますまで待つこととしよう。それまでは皆、思い思いのことをして過ごそうか」
「今の私たちは、身動きが取りにくい」
会話の口火を切ったのはマリアンナだ。
「そもそも、今の私たちは下の階で寝ている大神官が起きるのを待って、彼女から神器を受け取らねばならない。しかし、彼女がいつ目覚めるかがわからない。ゲイムの能力から察するに、最大で一年近くは待たねばならないだろう。この期間、ゲイムが何もしてこないとは考えられないが、神出鬼没なゲイムの動きを止められるすべがあるわけでもない」
「でもよ、そのゲイムってやつだって、毎日そのあたりで野宿しているわけじゃないんだろ?」
そう口を挟んだのはスオウだった。
「ゲイム本人は神出鬼没かもしれないけどよ、協力するやつがゲイムと同じように動き回れるわけでもないだろうし。そういった拠点を一つ一つ潰していけばいいんじゃねーの?」
「つまり、仲間になりそうな奴を片っ端からぶっ潰していけばいいんだな、ライオン仮面?」
マックスの問いかけに、スオウが頷く。しかし、そこで口を挟んだのはマリアンナだった。
「スオウさんとマックスが言うことはもっともなんだが、あいつは拠点すらもなかなかつかませてくれなくてね。おまけに、これまでの感じから察すると、ゲイムはウノーヴァの各地に洗脳したやつを用意しているようなんだ」
「つまり、一カ所にデカい拠点を持つわけじゃないから、攻める場所もわかりにくいってことか。難儀だな」
スオウは頭を掻いた。
「なあ」
と、会議場の隅の方から声を上げた人物がいた。ゲイムの一時的な洗脳から解放されたばかりのヨキだ。わずかな間しか洗脳されていなかったこともあってか、目立った後遺症もない。
「だったらとりあえず、そこの大神官さん以外の面々が目を覚ますのを待てばいいんじゃないか?ノームコプにいたころ、サラサの友達が洗脳されたことがあっただろ。確か、彼女は4ヶ月洗脳されて、一週間もしないうちに目が覚めた。キャサリンとかアイリーンは洗脳されてひと月もたってないし、数日もすれば目が覚めるだろう。彼女たちが何かを知っているかもしれないし、それを待てばいいんじゃないか?」
ヨキにしては珍しく、いい意見だった。マックスも即座に頷く。
「凄いぜ、流石ヨキ!」
「まぁ、この天才ヨキ様だからな。ゲイムに対する策なんて、いつでも思いつけちゃうんだよ」
と、つい数時間前には洗脳されていたことを棚に上げ、高々と自慢を始め出した。冷静なグレンは何かを言いたそうであったが、純粋なマックスは素直に感動していた。
「いやー、やっぱりヨキは他のみんなとは違う才能の持ち主だと思ってたよ」
ヨハンも頷く
「そうだな。こいつならたとえ自分がどんなひどい拷問を受けても任務を全うするだろう」
ヨキはそんなヨハンの発言にがたがたと震えながらもゆっくりと頷いた。
「お、おお、おおお、おおおお、おう」
「凄いぜヨキ! なあ、デストラクション!」
マックスとデストラクションがいつもの調子でそう叫ぶ。マックスの隣で、がたがたと震えるヨキを見ながらスオウも続ける。
「なるほど、あれが武者震いと言うやつか」
その言葉に、ヨキは目を大きく見開く。その目を見ながら、ヨハンが冷静に告げた。
「見ろよマックス、血に飢えた獣の目をしているぜ」
そんなヨキの様子に、マックスが感歎する。
「おれでもあそこまではいけないぜ。どうやったらあんなやつになれるのかなあ」
そんなヨキに対する称賛の声を聞きつつ、マリアンナが口を開いた。
「じゃあ、みんなが目を覚ますまで待つこととしよう。それまでは皆、思い思いのことをして過ごそうか」
こうして、皆が思い思いの時間を過ごすこととなった・・・かと思ったが、ここで一つの問題が生じる。ヨハンたちがキャサリンやトニーを助けるために大急ぎで『豊穣の社』へと向かっていたことが仇となり、『プリンシプル』内での生活必需品が足りなくなっていたのだ。特に足りないのは肉と薪の二つである。そこで、夕食までの間、ヨハンたちは大きく三班に分かれ作業を行うこととなった。
一つ目の班がヨハン、リアノ、マックス、ティボルト、マリアンナからなるハンティング班。二つ目の班がセルモ、フェンネル、ヨキと見張りのボマーからなる料理班。三つ目の班がサラサ、スオウ、ケニー、そしてグレンからなる薪割り班であった。
一つ目の班がヨハン、リアノ、マックス、ティボルト、マリアンナからなるハンティング班。二つ目の班がセルモ、フェンネル、ヨキと見張りのボマーからなる料理班。三つ目の班がサラサ、スオウ、ケニー、そしてグレンからなる薪割り班であった。
この班割りは、一部の人間に衝撃をもたらした。なにしろ、セルモとティボルトが別の班になっていたのだ。おまけに、日ごろなら猛抗議をしそうなティボルトが、何も文句を言ってこない。まさか、天変地異の前触れではないのだろうか。
しかし、一部の人間のこの心配が杞憂であったことは間もなく判明する。何故なら、ハンティングへと向かう前、ティボルトは料理をしに向かうセルモにこう声をかけたためだ。
「おれがハンティングした動物をセルモさんがクッキングする。これも一つの『運命』。セルモさん、おれとあなたの間にはやっぱり運命の赤い糸が結ばれているんですね。見ていてください、セルモさん!おれは必ず、最高の獲物をハンティングしてきます!」
ティボルトは、やはりティボルトであった。ヨハンたちの多くがあきれ果てた顔をティボルトに向ける。だが、セルモ本人はいつもと変わらぬ笑顔を見せ、ティボルトの言葉に答えていた。
「ゴリラの肉とか、アルパカの肉なら食べてみたいかもしれません」
ティボルトはその言葉に、即座に頷く。
「ゴリラなら、すぐそばにいるので一瞬です。任せて下さい」
ティボルトはマックスの方を向いた。マックスは二人の会話を聞いていなかったようだが、彼の中に眠る潜在的なゴリラパワーが、危機を察知した。
「おい今、なんて言った?」
その言葉に答えたのは、ヨハンであった。
「セルモさんが、アルパカの肉が食いたいってさ。おいマックス、あそこのアルパカ狩ろうぜ」
と、まるでアルパカのような顔と髪型をしたティボルトの方を見ながら告げる。ティボルトは、その視線の意味を即座に理解した。
「おれはアルパカじゃないって言っているだろ!」
しかし、一部の人間のこの心配が杞憂であったことは間もなく判明する。何故なら、ハンティングへと向かう前、ティボルトは料理をしに向かうセルモにこう声をかけたためだ。
「おれがハンティングした動物をセルモさんがクッキングする。これも一つの『運命』。セルモさん、おれとあなたの間にはやっぱり運命の赤い糸が結ばれているんですね。見ていてください、セルモさん!おれは必ず、最高の獲物をハンティングしてきます!」
ティボルトは、やはりティボルトであった。ヨハンたちの多くがあきれ果てた顔をティボルトに向ける。だが、セルモ本人はいつもと変わらぬ笑顔を見せ、ティボルトの言葉に答えていた。
「ゴリラの肉とか、アルパカの肉なら食べてみたいかもしれません」
ティボルトはその言葉に、即座に頷く。
「ゴリラなら、すぐそばにいるので一瞬です。任せて下さい」
ティボルトはマックスの方を向いた。マックスは二人の会話を聞いていなかったようだが、彼の中に眠る潜在的なゴリラパワーが、危機を察知した。
「おい今、なんて言った?」
その言葉に答えたのは、ヨハンであった。
「セルモさんが、アルパカの肉が食いたいってさ。おいマックス、あそこのアルパカ狩ろうぜ」
と、まるでアルパカのような顔と髪型をしたティボルトの方を見ながら告げる。ティボルトは、その視線の意味を即座に理解した。
「おれはアルパカじゃないって言っているだろ!」
何はともあれ、ヨハンたちは狩りに向かうこととなった。とは言え、五人同時で狩りに向かっても効率が悪い。ヨハンたちは話し合いの結果、三つの組に分かれることとなった。ヨハンとマックス、リアノとティボルト。そしてマリアンナ一人のグループだ。
リアノの横にいるティボルトは、テンションが高かった。何が何でも獲物を持ち帰り、料理に使ってもらおうと考えている。リアノは、セルモがこれからすぐに料理を始めるので、今からティボルトが狩りに行く獲物を食材として使えるわけがないと言うことを知ってはいたものの、黙っていた。世の中には、知らない方がいいこともある。
そんなリアノに対し、ティボルトは熱を帯びた口調で語りかけてきた。
「おれとセルモさんとの間にある『運命』、リアノもわかるだろ? だから、おれは運命を信じている。そしておれは、ここでセルモさんのためにすごい獲物を見つける『運命』のもとにいると信じているんだ」
「まあ、頑張ってね」
深くかかわり合いになってもいいことはない。そう判断したリアノは、適当な返事を返す。しかし、ティボルトがこれくらいの発言で、言いたいことを諦めるような男ではない。
「じゃあリアノ、おれの援護をしてくれ。おれはこのあたりから『運命』を感じるんだ・・・」
ティボルトはそう呟きながら、あたりの気配に気を配っていた。セルモとの運命なのか、はたまた偶然か。リアノとティボルトは何か巨大な動物が近くにいることに気がついた。
「あ、あいつは・・・」
ティボルトは軽く息を飲んだ。そこにいたのは、高さがティボルトの三倍はあろうかと言う巨大なゴリラだったのだ。ティボルトが知る由もなかったが、このゴリラは食べたキノコを利用して猛毒のガスをまき散らし、自らの糞を投げつけ相手の戦意を奪う、『根絶やしのキルビル』と呼ばれる凶悪なゴリラであったのだ。だが、ティボルトはそんな強大なゴリラを前にしても、臆することはなかった。
「あれを狩れば、おれはセルモさんに素敵な贈り物ができる。な、そうだろ? なに、大丈夫。おれとリアノのコンビだ。倒せないものなんてないぜ!」
ティボルトはリアノに尋ねる。リアノが軽く頷くのを確認すると、ティボルトはキルビルの前へと飛び出していった。
リアノの横にいるティボルトは、テンションが高かった。何が何でも獲物を持ち帰り、料理に使ってもらおうと考えている。リアノは、セルモがこれからすぐに料理を始めるので、今からティボルトが狩りに行く獲物を食材として使えるわけがないと言うことを知ってはいたものの、黙っていた。世の中には、知らない方がいいこともある。
そんなリアノに対し、ティボルトは熱を帯びた口調で語りかけてきた。
「おれとセルモさんとの間にある『運命』、リアノもわかるだろ? だから、おれは運命を信じている。そしておれは、ここでセルモさんのためにすごい獲物を見つける『運命』のもとにいると信じているんだ」
「まあ、頑張ってね」
深くかかわり合いになってもいいことはない。そう判断したリアノは、適当な返事を返す。しかし、ティボルトがこれくらいの発言で、言いたいことを諦めるような男ではない。
「じゃあリアノ、おれの援護をしてくれ。おれはこのあたりから『運命』を感じるんだ・・・」
ティボルトはそう呟きながら、あたりの気配に気を配っていた。セルモとの運命なのか、はたまた偶然か。リアノとティボルトは何か巨大な動物が近くにいることに気がついた。
「あ、あいつは・・・」
ティボルトは軽く息を飲んだ。そこにいたのは、高さがティボルトの三倍はあろうかと言う巨大なゴリラだったのだ。ティボルトが知る由もなかったが、このゴリラは食べたキノコを利用して猛毒のガスをまき散らし、自らの糞を投げつけ相手の戦意を奪う、『根絶やしのキルビル』と呼ばれる凶悪なゴリラであったのだ。だが、ティボルトはそんな強大なゴリラを前にしても、臆することはなかった。
「あれを狩れば、おれはセルモさんに素敵な贈り物ができる。な、そうだろ? なに、大丈夫。おれとリアノのコンビだ。倒せないものなんてないぜ!」
ティボルトはリアノに尋ねる。リアノが軽く頷くのを確認すると、ティボルトはキルビルの前へと飛び出していった。
一方、ヨハンとマックスの二人は全く獲物に恵まれていなかった。そもそも、動物に会わないのである。普段、狩りを得意とするマックスは首を捻った。
「なあ、鎧の兄ちゃん、獲物が全然出てこないな」
轟音を上げながらMK-Ⅽを操作しているヨハンも困ったように頷いていた。彼らの考えとしては、MK-Ⅽの音に驚いて出てきた動物をマックスが確実に仕留める予定であった。だが、想像以上に動物を怯えさせてしまっていたようだ。そこで、ヨハンは新しい考えを口にした。
「とりあえず、このあたり一帯を焼き払ってみるか」
この場にいた人物が、サラサかグレンであったら、この狂気に満ちた考えは止められただろう。だが、幸か不幸か隣にいたのはマックスであった。
「そうしたらなんか、動物たちもやばいって思って出てくるかもしれないもんな!」
名案だ。と言わんばかりにマックスは頷く。ヨハンはMK-Ⅽの中に入れられていたガソリンをあたりにかけると、火をつけた。たちまちのうちに、火が燃え広がっていく。あたりに広がった火は絶大であった。木を薙ぎ払い、隠れていた動物の姿があらわになる。初めのうちこそ喜んでクマを二頭射止めたマックスであったが、その熊たちを狩りに行こうとしたところで一つの問題に気が付いた。ヨハンとマックスの周囲にも火は燃え広がっており、このままだと彼ら二人も焼死しかねないということに。
「なあ、鎧の兄ちゃん、このままだとおれたちもやばいんじゃない?」
マックスの言葉に、ヨハンは満面の笑みを浮かべた。
「なあ、マックス・・・どうしよう?」
「なあ、鎧の兄ちゃん、獲物が全然出てこないな」
轟音を上げながらMK-Ⅽを操作しているヨハンも困ったように頷いていた。彼らの考えとしては、MK-Ⅽの音に驚いて出てきた動物をマックスが確実に仕留める予定であった。だが、想像以上に動物を怯えさせてしまっていたようだ。そこで、ヨハンは新しい考えを口にした。
「とりあえず、このあたり一帯を焼き払ってみるか」
この場にいた人物が、サラサかグレンであったら、この狂気に満ちた考えは止められただろう。だが、幸か不幸か隣にいたのはマックスであった。
「そうしたらなんか、動物たちもやばいって思って出てくるかもしれないもんな!」
名案だ。と言わんばかりにマックスは頷く。ヨハンはMK-Ⅽの中に入れられていたガソリンをあたりにかけると、火をつけた。たちまちのうちに、火が燃え広がっていく。あたりに広がった火は絶大であった。木を薙ぎ払い、隠れていた動物の姿があらわになる。初めのうちこそ喜んでクマを二頭射止めたマックスであったが、その熊たちを狩りに行こうとしたところで一つの問題に気が付いた。ヨハンとマックスの周囲にも火は燃え広がっており、このままだと彼ら二人も焼死しかねないということに。
「なあ、鎧の兄ちゃん、このままだとおれたちもやばいんじゃない?」
マックスの言葉に、ヨハンは満面の笑みを浮かべた。
「なあ、マックス・・・どうしよう?」
ヨハンとマックスが山火事に立ち向かい始めたころ、ティボルトとキルビルの戦いは終わりを迎えていた。リアノによる援護を受けたティボルトは、キルビルの攻撃により全身が糞まみれになったものの、どうにか戦いに勝利したのである。
「な、言った通りだっただろ?」
ティボルトは倒れたキルビルに背を向け、リアノに親指を立てた。糞まみれになったティボルトの全身から発せられる臭いさえなければ、なかなか格好のいいポーズである。
と、そんな二人の耳に、誰かの話し声が聞こえてきた。どうやら、ゴブリンの二人組のようだ。リアノとティボルトの二人には気づいていないらしく、どちらの罠がキルビルに止めを刺したのか言い争っている。そんな二人に、ティボルトは話しかけようとした。
「取り込み中悪いが、そのゴリラを倒したのはおれたちだよ」
ゴブリンたちは、驚きのあまり飛び上がった。
「うわああああ」
「こいつ、くさいいいいいい」
ゴブリンたちは突然現れたティボルトに対して恐慌してしまったらしく、ティボルトが何を言っても聞こえていない。そこで、見かねたリアノがティボルトとゴブリンの仲を仲裁することになった。
「なるほど、お二方とも強いんだゴブ」
「とはいえ、そんな臭いだと大変だと思うゴブ。近くに川があるから、そこで体でも洗うと言いゴブ」
こうして、リアノたちはゴブリンに案内されるまま、近くの川へと向かうことになった。
「それにしても、お姉ちゃんたち本当に強いゴブ・・・どこの村の人なんだゴブ?」
ティボルトが川で体を洗っている間に、ゴブリンの一人がリアノに話しかけてきた。
「村というか、大陸の外から来たんだよ」
リアノの言葉に、ゴブリンは驚いたようで目を丸くした。
「大陸の外から? なんだか、凄いところから来たんだゴブ。じゃあ、せっかく出会えたわけだし、もしよかったらおいらの占いでも受けないかゴブ? おれの占い、当たるって評判なんだゴブ」
ゴブリンの言葉に興味をそそられたリアノは頷く。そうすると、ゴブリンは懐から何枚かのカードを出してきた。一枚取って欲しいと言うことらしい。リアノが取ったそのカードは、いくつもの交差路が描かれていた。ゴブリンはそれを見ながら、リアノに告げる。
「これから先、君はいくつかのものを失うかもしれないゴブ。でも、失うことを恐れてはいけないゴブ。きっと君が望めば、それは返ってくるゴブ」
占いは、それだけらしい。ゴブリンは更にその後、ティボルトにも占いを勧める。
「おれは自分の『運命』を信じているから、占いに興味はない・・・のだが、せっかくだ。やってみよう」
こうして、ティボルトがカードを引くと、そこには、『歯車』のようなものが描かれていた。
「これかな? 結果はどうなんだい?」
ティボルトがゴブリンに尋ねると、ゴブリンは申し訳なさそうな顔をした。
「え~っと・・・これは、ちょっとよくない奴だゴブ。申し訳ないゴブ」
しかし、ティボルトはさして気にした様子もなく、ゴブリンに話しかける。
「なに、気にすんなって。で、どんな意味なんだ?」
「要約すると、キミの運命は間もなく危機を迎えるんだ。特に危ないのが、火の近く。だからといって、水の近くも危険。獣の側なら、危機をやり過ごせるかもだって」
「火か・・・ひょっとして、あれか?」
ティボルトが近くの山を指さす。ヨハンとマックスが原因となった山火事は、もはや遠くにいてもわかるまでに勢いを増していた。しかし、ゴブリンは首を横に振った。
「あ~、確かにあれはやばそうだゴブ。でも、おいらの勘は違うって言っているゴブ。あれは別の誰かの危機だゴブ」
違うと言われたティボルトは少し考え込む。と、何かに気が付いたようで、リアノの方を向いた。その顔は真面目そのものだ
「なあ、リアノ。セルモさんって今、料理しているんだよな? 料理って火を使わずにできるか? セルモさんって、今、船の中にいるよな? 水、近いよな」
ティボルトの言葉を、リアノは否定できなかった。
「それはそうかも、でも、船には他の人も乗っているから」
リアノの言葉に、ティボルトは軽く頷く。
「確かに、それはそうだ。しかしリアノ、おれはセルモさんが心配になってきた。一回戻る。リアノは他のみんなに今のことを伝えてくれ! お二人さん、ありがとう!」
そう告げるやいなやティボルトは駆けだしていった。
後に残された、ゴブリンの一人が呟く。
「あの占いの内容は、あの人のことを指しているんだゴブ。だから、危ないのは多分、その人じゃなくてあの人なんだゴブ」
しかし、風のように去ってしまったティボルトを追うことは難しい。どうすべきか、リアノは少し考え込んだ。やがて、ゴブリンたちに話しかける。
「さっき倒したやつを運びたいんだけど、手伝ってくれないかな?」
「もちろん手伝うゴブ」
ティボルトはきっと大丈夫だろう。そう考えたリアノは、ゴブリンたちと共にキルビルの倒れている場所へと向かうことにした。
「な、言った通りだっただろ?」
ティボルトは倒れたキルビルに背を向け、リアノに親指を立てた。糞まみれになったティボルトの全身から発せられる臭いさえなければ、なかなか格好のいいポーズである。
と、そんな二人の耳に、誰かの話し声が聞こえてきた。どうやら、ゴブリンの二人組のようだ。リアノとティボルトの二人には気づいていないらしく、どちらの罠がキルビルに止めを刺したのか言い争っている。そんな二人に、ティボルトは話しかけようとした。
「取り込み中悪いが、そのゴリラを倒したのはおれたちだよ」
ゴブリンたちは、驚きのあまり飛び上がった。
「うわああああ」
「こいつ、くさいいいいいい」
ゴブリンたちは突然現れたティボルトに対して恐慌してしまったらしく、ティボルトが何を言っても聞こえていない。そこで、見かねたリアノがティボルトとゴブリンの仲を仲裁することになった。
「なるほど、お二方とも強いんだゴブ」
「とはいえ、そんな臭いだと大変だと思うゴブ。近くに川があるから、そこで体でも洗うと言いゴブ」
こうして、リアノたちはゴブリンに案内されるまま、近くの川へと向かうことになった。
「それにしても、お姉ちゃんたち本当に強いゴブ・・・どこの村の人なんだゴブ?」
ティボルトが川で体を洗っている間に、ゴブリンの一人がリアノに話しかけてきた。
「村というか、大陸の外から来たんだよ」
リアノの言葉に、ゴブリンは驚いたようで目を丸くした。
「大陸の外から? なんだか、凄いところから来たんだゴブ。じゃあ、せっかく出会えたわけだし、もしよかったらおいらの占いでも受けないかゴブ? おれの占い、当たるって評判なんだゴブ」
ゴブリンの言葉に興味をそそられたリアノは頷く。そうすると、ゴブリンは懐から何枚かのカードを出してきた。一枚取って欲しいと言うことらしい。リアノが取ったそのカードは、いくつもの交差路が描かれていた。ゴブリンはそれを見ながら、リアノに告げる。
「これから先、君はいくつかのものを失うかもしれないゴブ。でも、失うことを恐れてはいけないゴブ。きっと君が望めば、それは返ってくるゴブ」
占いは、それだけらしい。ゴブリンは更にその後、ティボルトにも占いを勧める。
「おれは自分の『運命』を信じているから、占いに興味はない・・・のだが、せっかくだ。やってみよう」
こうして、ティボルトがカードを引くと、そこには、『歯車』のようなものが描かれていた。
「これかな? 結果はどうなんだい?」
ティボルトがゴブリンに尋ねると、ゴブリンは申し訳なさそうな顔をした。
「え~っと・・・これは、ちょっとよくない奴だゴブ。申し訳ないゴブ」
しかし、ティボルトはさして気にした様子もなく、ゴブリンに話しかける。
「なに、気にすんなって。で、どんな意味なんだ?」
「要約すると、キミの運命は間もなく危機を迎えるんだ。特に危ないのが、火の近く。だからといって、水の近くも危険。獣の側なら、危機をやり過ごせるかもだって」
「火か・・・ひょっとして、あれか?」
ティボルトが近くの山を指さす。ヨハンとマックスが原因となった山火事は、もはや遠くにいてもわかるまでに勢いを増していた。しかし、ゴブリンは首を横に振った。
「あ~、確かにあれはやばそうだゴブ。でも、おいらの勘は違うって言っているゴブ。あれは別の誰かの危機だゴブ」
違うと言われたティボルトは少し考え込む。と、何かに気が付いたようで、リアノの方を向いた。その顔は真面目そのものだ
「なあ、リアノ。セルモさんって今、料理しているんだよな? 料理って火を使わずにできるか? セルモさんって、今、船の中にいるよな? 水、近いよな」
ティボルトの言葉を、リアノは否定できなかった。
「それはそうかも、でも、船には他の人も乗っているから」
リアノの言葉に、ティボルトは軽く頷く。
「確かに、それはそうだ。しかしリアノ、おれはセルモさんが心配になってきた。一回戻る。リアノは他のみんなに今のことを伝えてくれ! お二人さん、ありがとう!」
そう告げるやいなやティボルトは駆けだしていった。
後に残された、ゴブリンの一人が呟く。
「あの占いの内容は、あの人のことを指しているんだゴブ。だから、危ないのは多分、その人じゃなくてあの人なんだゴブ」
しかし、風のように去ってしまったティボルトを追うことは難しい。どうすべきか、リアノは少し考え込んだ。やがて、ゴブリンたちに話しかける。
「さっき倒したやつを運びたいんだけど、手伝ってくれないかな?」
「もちろん手伝うゴブ」
ティボルトはきっと大丈夫だろう。そう考えたリアノは、ゴブリンたちと共にキルビルの倒れている場所へと向かうことにした。
一方その頃、サラサとグレンはスオウやケニーと薪割りを行っていた。斧を使って手ごろな木を切り倒し、船の近くに持ってきてはちょうどいい大きさに割る。この一連の作業はかなりの重労働であったが、同時に武術の稽古にも繋がっていた。切り倒した木を持ち運ぶために筋力が鍛えられ、適切な大きさに切ることが武器を器用に操る練習にもなる。サラサもかつてはよく、スオウに薪割りをさせられていた。
そして今、そのことを思い出しながら薪を割っていたサラサに、スオウが話しかけてきた。
「サラサ、あのころが懐かしいなあ。稽古が終わった後、毎日最低三本分の木から薪を作らせていたっけ」
スオウは、何かを閃いた子供のような笑顔をしている。
「ええ、昔を思い出しますね」
と、サラサが答えると、その笑みはより深くなった。何かを企んでいる、そんな笑みだ。その笑みのまま、スオウはサラサに一つの提案を持ちかけた。
「おし、サラサ、マリアンナさんたちが帰ってくるまでの間に、どっちの方が多く薪を用意できるか勝負しないか?」
そして、サラサの返事も聞かず、傍らでようやく木を一本持ってきたケニーに話しかける。
「お、そう言えば、ケニー君。サラサの元で特訓しているんだっけ。じゃあ、昔のサラサと同じく三本分の薪割りが君の目標だぞ」
そして、サラサの方を向く。
「ケニーのことは、それでいいよな?」
どうやら、サラサがスオウと薪割りで対決することは拒否できないらしい。内心、苦笑しながらもサラサは頷いた。
「ケニー、修行の一環としてやってみなさい」
ケニーは肩で息をしながらも、威勢良く頷いた。
こうして、サラサたち三人は薪割りを始めることになった。
そして今、そのことを思い出しながら薪を割っていたサラサに、スオウが話しかけてきた。
「サラサ、あのころが懐かしいなあ。稽古が終わった後、毎日最低三本分の木から薪を作らせていたっけ」
スオウは、何かを閃いた子供のような笑顔をしている。
「ええ、昔を思い出しますね」
と、サラサが答えると、その笑みはより深くなった。何かを企んでいる、そんな笑みだ。その笑みのまま、スオウはサラサに一つの提案を持ちかけた。
「おし、サラサ、マリアンナさんたちが帰ってくるまでの間に、どっちの方が多く薪を用意できるか勝負しないか?」
そして、サラサの返事も聞かず、傍らでようやく木を一本持ってきたケニーに話しかける。
「お、そう言えば、ケニー君。サラサの元で特訓しているんだっけ。じゃあ、昔のサラサと同じく三本分の薪割りが君の目標だぞ」
そして、サラサの方を向く。
「ケニーのことは、それでいいよな?」
どうやら、サラサがスオウと薪割りで対決することは拒否できないらしい。内心、苦笑しながらもサラサは頷いた。
「ケニー、修行の一環としてやってみなさい」
ケニーは肩で息をしながらも、威勢良く頷いた。
こうして、サラサたち三人は薪割りを始めることになった。
対決をすることになったサラサとスオウの二人は、ものすごい速度で木を切り倒し、運び、薪割りを始めていた。それは、見る人が見れば何か芸術的なものを感じてしまいそうになるほど、無駄な動きのない薪割りである。だが、それはあくまでも超人的な肉体を持ってしまった二人だから出来る芸当であった。
「はあ・・・はあ・・・」
必死の形相で、切り倒した木を運んでいるのが、ケニーだった。ケニーはどうにか二本分の木を切り倒し、薪割りをするところまでは終えていた。だが、ケニーの腕はすでに鉛のように重く、三本目の木をどうやって切り倒せたのかも思い出せないほど、疲労困憊していた。おそらく、サラサやスオウ、それにグレンのうちの誰かが見ていたら既に止めているだろう。だが、不幸なことに、サラサとスオウは今、芸術的な動きで薪割りをしている最中であり、グレンもケニーの居る場所からは離れたところにいた。つまり、誰もケニーの姿を見ていなかったのだ。
ケニーは薪の重みをこらえながら、一歩一歩歩き出していく。だが、彼の足先に、わずかな突起があった。疲れ切っていたケニーはそれに気が付かず、大きくバランスを崩してしまう。
「しまっ・・・」
転んだケニーの体の上に、木が迫ってくる。ケニーはその衝撃を和らげようと体を丸め、恐怖のあまり目を閉じようとした。木がケニーの頭上で真っ二つに割られるのを見るまでは。
「はあ・・・はあ・・・」
必死の形相で、切り倒した木を運んでいるのが、ケニーだった。ケニーはどうにか二本分の木を切り倒し、薪割りをするところまでは終えていた。だが、ケニーの腕はすでに鉛のように重く、三本目の木をどうやって切り倒せたのかも思い出せないほど、疲労困憊していた。おそらく、サラサやスオウ、それにグレンのうちの誰かが見ていたら既に止めているだろう。だが、不幸なことに、サラサとスオウは今、芸術的な動きで薪割りをしている最中であり、グレンもケニーの居る場所からは離れたところにいた。つまり、誰もケニーの姿を見ていなかったのだ。
ケニーは薪の重みをこらえながら、一歩一歩歩き出していく。だが、彼の足先に、わずかな突起があった。疲れ切っていたケニーはそれに気が付かず、大きくバランスを崩してしまう。
「しまっ・・・」
転んだケニーの体の上に、木が迫ってくる。ケニーはその衝撃を和らげようと体を丸め、恐怖のあまり目を閉じようとした。木がケニーの頭上で真っ二つに割られるのを見るまでは。
一方その頃、サラサとスオウの薪割り対決は、サラサがスオウに僅差で勝っていた。だが、まだ勝負は途中であり、ここからまだどちらが勝つかはわからない。まさに手に汗握る接戦であった。そして、グレンはゼンマイガーと共にこの親子対決を暖かい目で見守っていた。
「師匠―! スオウさーん! グレンさーん!」
そんな三人を、ケニーが呼びとめた。声の方を見ると、ケニーが一人の女性を連れてきている。その女性は、青い肌に白い髪を持った人物であった。種族は、サラサはおろか旅の知識を豊富に持つグレンすらもわからない。そんな彼女であったが、割れた木を軽々と背負っており、人並み外れた筋力を持っていることが伺える。一体、何者だろうか。
「この人、僕のことを助けてくれたんだよ。おまけに、薪まで持ってくれて」
ケニーが先ほどの出来事を二人に伝える。隣にいた女性が、軽く頭を下げた。腰から刀を下げている。サラサたちと同じく、剣士のようだ。
「ケニーを助けてくれて、ありがとうございます」
サラサも頭を下げる。そんなサラサに対し、女性は当然のことをしただけだと答えた。
「どうも、このあたりを旅しているもので、ナグモと申します」
「この人、剣の腕が本当に凄いんだよ」
ケニーが告げる。確かに、ケニーの述べたことが本当ならかなりの実力者であろう。実際、ケニーの横に立つ彼女は全くと言っていいほど隙がなかった。無表情であるが、特にこちらに対する敵意はない。ナグモは落ち着いた口調でサラサたちに話しかけてくる。
「ここに来るまでの間にケニー君から聞きましたが、お二人とも、お強い剣士なんですね」
その言葉に、サラサは首を横に振った。
「いえ、わたしはまだ未熟です」
その言葉に、ケニーが反応した。
「師匠、そんなことないよ! 僕の師匠も、師匠の師匠もとっても強いんだ!」
ナグモは笑顔でうなずくと、サラサたちの方に向き直った。
「そんなお二方に話したいことがあります・・・が、ここでは話しにくいことなので、もしよろしければついてきていただけませんか?」
「まあいいが、どこで話すんだ?」
スオウの質問に、ナグモは奥の森を指さした。
「ちょっと、ついてきてください」
ナグモから殺気は全く出ていなかった。だが、サラサもスオウも熟練の剣士である。ナグモの要件をおおよそ、察することはできた。だが、ここで留まると、ケニーにも被害が及ぶ。そう考え、ナグモの言葉に二人は頷く。
去り際に、スオウはグレンの方を向いて、口を開いた。
「グレンさん、悪いけどケニーをよろしく頼むぜ」
グレンは仕方がないと言った口調で、それに答える。
「とっとと行って来い」
「師匠―! スオウさーん! グレンさーん!」
そんな三人を、ケニーが呼びとめた。声の方を見ると、ケニーが一人の女性を連れてきている。その女性は、青い肌に白い髪を持った人物であった。種族は、サラサはおろか旅の知識を豊富に持つグレンすらもわからない。そんな彼女であったが、割れた木を軽々と背負っており、人並み外れた筋力を持っていることが伺える。一体、何者だろうか。
「この人、僕のことを助けてくれたんだよ。おまけに、薪まで持ってくれて」
ケニーが先ほどの出来事を二人に伝える。隣にいた女性が、軽く頭を下げた。腰から刀を下げている。サラサたちと同じく、剣士のようだ。
「ケニーを助けてくれて、ありがとうございます」
サラサも頭を下げる。そんなサラサに対し、女性は当然のことをしただけだと答えた。
「どうも、このあたりを旅しているもので、ナグモと申します」
「この人、剣の腕が本当に凄いんだよ」
ケニーが告げる。確かに、ケニーの述べたことが本当ならかなりの実力者であろう。実際、ケニーの横に立つ彼女は全くと言っていいほど隙がなかった。無表情であるが、特にこちらに対する敵意はない。ナグモは落ち着いた口調でサラサたちに話しかけてくる。
「ここに来るまでの間にケニー君から聞きましたが、お二人とも、お強い剣士なんですね」
その言葉に、サラサは首を横に振った。
「いえ、わたしはまだ未熟です」
その言葉に、ケニーが反応した。
「師匠、そんなことないよ! 僕の師匠も、師匠の師匠もとっても強いんだ!」
ナグモは笑顔でうなずくと、サラサたちの方に向き直った。
「そんなお二方に話したいことがあります・・・が、ここでは話しにくいことなので、もしよろしければついてきていただけませんか?」
「まあいいが、どこで話すんだ?」
スオウの質問に、ナグモは奥の森を指さした。
「ちょっと、ついてきてください」
ナグモから殺気は全く出ていなかった。だが、サラサもスオウも熟練の剣士である。ナグモの要件をおおよそ、察することはできた。だが、ここで留まると、ケニーにも被害が及ぶ。そう考え、ナグモの言葉に二人は頷く。
去り際に、スオウはグレンの方を向いて、口を開いた。
「グレンさん、悪いけどケニーをよろしく頼むぜ」
グレンは仕方がないと言った口調で、それに答える。
「とっとと行って来い」
ナグモに連れられてサラサとスオウがやってきたのは、森の中の少し開けたところであった。
「さて、お二方、こんなところまで呼んでしまってすみません。ちょっと、お二方と話しておきたいことがありまして」
ナグモはそう述べると、二人を交互に見た。
「お二方は、何のために刀の腕を磨かれているのですか?」
その質問に、サラサは考え込むこととなった。今までサラサは、自分が何のために刀を取っていたか、あまり考える機会がなかったのかもしれない。それくらい、サラサにとって剣士としての生活は当たり前のものであった。
「始めたのは、父の影響が大きかったのかもしれません」
少し間をおいてから、サラサは話し始めた。ようやく、自分の中で答えが出たためだ。
「でも、今も刀を続けているのは己を高めるためです」
元々、サラサは精神的に打たれ弱かった。確かに、スオウの娘でもあるサラサは常人に比べはるかに刀の才能に優れてはいたが、父と比べて圧倒的に他者より強いわけではない。そんな自分の弱さを直すため、刀を取り続けていたのだった。その言葉に、ナグモは頷く。続いて、スオウが口を開いた。
「おれはもともと、人の役に立ちたかったんだ。だが、あいにく頭はあんまりよくなくてな。唯一、人並み以上だったのが剣術だった。だから、おれは刀で人の役に立とうと考えた。本当に、役に立てたのかはわからんがな。だからまあ、月並みな回答になっちまうが、おれは人のためだ。誰かを助けるために、この刀はあると思っている」
正義感に満ちているスオウらしい回答であった。ナグモは、二人の答えを聞くと満足そうに頷く。
「お二方とも、ありがとうございます。何故こんなことを聞いたのか、疑問に思うかもしれませんが・・・その前に、私が刀を取る理由も聞いてほしいと思います。私はもともと、強い人と戦うのが大好きでした。強い剣士との命を懸けたやり取り、それが昔の私の全てです。ですから、その頃は強い人と戦うために手段は問いませんでした。でした、というのは、今と少し異なっているからです。もちろん、今でも私は強い人と戦うことを待ち望んではいますが、そのために無関係な人を巻き込もうとは思いませんし、戦う気のない人間を無理に戦わせようとは思わないからです」
ナグモは息を吸い込むと、真剣な目で続けた。
「今の私が刀を取る理由も変わりました。今の私が刀を取る理由は、忠誠を奉げている主のためです。我が主の目的のために、私は刀を取っています。しかし、同時に可能な限りは戦いと無関係なものを巻き込む必要もないと考えています」
ナグモはそこまで述べると、刀を鞘から抜き、サラサとスオウに突きつける。
「スオウさん、サラサさん。私と戦ってください。我が主は、あなた方を殺そうとは考えていませんが、このウノーヴァにいて欲しいとも考えていません。だから、私に負けたらグレンさんやケニー君と共にノームコプにお引き取り下さい」
サラサとスオウが、予想していた通りであった。ナグモは、二人に決闘を申し込もうとしているのだ。スオウは大きく息を吐くと、サラサに尋ねる。
「やれやれ、こいつは困ったことになったな。どうするサラサ?」
サラサはナグモの目を見ながら、はっきりと答えた。
「あなたの言いたいことは分かりました。ですが、私たちにはやらなければならないことがあります。それを成し遂げるまでは、引くわけにはいきません。受けて立ちます」
スオウも続ける。
「サラサの言うとおりだな。申し訳ないけど、おれらは帰るわけにはいかないんだよ」
その言葉を聞いたナグモは少し悲しげな表情をする。無益な戦いをしたくなかったのは、本心なのであろう。
「予想はしていましたが・・・それならば、仕方ないですね」
そう告げると、ナグモの体中から溢れんばかりの殺気が放たれた。直後、ナグモの姿がサラサの目の前から消えたかと思うと、目の前に刃が迫っていた。
サラサが反応できないほどの不意打ちである。だが、その刃がサラサにぶつかることはなかった。スオウが、直前で止めたためである。
そのままサラサの目の前で、スオウとナグモによる激しい打ち合いが始まった。あまりにも目まぐるしく動き回っているため、サラサが戦いに入るタイミングは見いだせない。ただ、ナグモのあまりにも早い剣術に、少しずつスオウが押されてきていた。サラサが覚えている限り、父が押されているところを見るのは初めてのことだった。特に、ナグモが『流星剣』と叫びながら放った5連撃は圧倒的な速さを持ってスオウに打撃を与えていた。
「なに、心配すんなって」
スオウは余裕そうな口ぶりを見せているが、守りに回らざるを得ない。時折、ナグモの隙をついて攻撃を仕掛けるも、その攻撃はナグモに当たらず、背後の木が轟音と共に倒れるのみであった。
「そろそろ、降参した方がいいのではないでしょうか?」
何度か打ち合った後、ナグモが一旦距離を取って、スオウに話しかける。彼女の表情には、汗一つ浮かんでいない。それに対し、スオウは全身から玉のような汗が噴き出ている。
「負けが決まったわけでもないのに、降参する必要はないな」
スオウは落ち着き払った声で答える。その答えに、ナグモは少し顔を顰めた。
「私とあなたの間にどれくらいの実力差があるか、あなたなら見極められると思ったんですけどね。久しぶりにまともに相手が出来そうな人がいたから楽しんでいたのですが、時間も時間ですし。仕方ありませんね」
ナグモはそう告げると、両手で刀を構えなおす。
「『流星剣士』と呼ばれる所以、教えて差し上げましょう。私がこれから放つ『流星剣』を、あなたは避けることはできない」
ナグモはそう告げると、スオウに向かって走りながら、『流星剣』と叫び、刀を振るった。しかし、スオウまでの距離はまだある。いくらなんでも当たらない。距離を読み違えたのだろうか。しかし、スオウはナグモがこの一撃をかわせないと告げた理由を、身を持って理解することとなった。
「うおっ!!」
ナグモが刀を振るうと同時に、スオウの体が刀の方へと引き寄せられていった。スオウは突然のことに体のバランスを崩してしまう。そこに、ナグモの『流星剣』が命中した・・・わけではなかった。
突然、ナグモが刀を引くと、その場から飛びのく。その胴が、わずかに切られていた。スオウが体制を崩しながらも、ナグモの胴に鋭い一撃を叩きいれたのである。
「やれやれ」
スオウは頭を掻きながら、飛びのいたナグモを見る。
「避けられないんだったら、向かって行けばいいだけだろう。簡単な話だ」
スオウの返答に、ナグモは青筋を立て、何かを答えようとした。だが、そんなナグモを火の玉が襲った。
「騒がしいと思ったら・・・サラサ、スオウさん、いったい何が?」
火の玉の飛んできた方角を見ると、そこにはヨハンたちと共に狩りに出ていったはずの、マリアンナの姿があった。スオウたちの戦いの物音に気付き、慌ててやってきたようである。
「あそこで山火事も起こっているし」
マリアンナが指さした先を見れば、確かに近くの山から火の手が見えていた。もちろん、火事の原因はヨハンとマックスなのだが、サラサたちにそれを知るすべはない。
「この女を何とかすれば、分かるかもしれん」
スオウはナグモを見つめながら、マリアンナに告げる。だが、落ち着きを取り戻していたナグモは、軽く笑った。
「スオウさん、お見事でした。私の負けです。ただ、私を捕らえている暇はないでしょうね。」
「どういう意味だ?」
スオウの言葉に、ナグモは告げる。
「私は争いと無関係な人を極力利用したくありませんし、戦う際はあなた方のような戦闘員とだけ戦います。しかし、全ての人がそうでもないと言うことは、あなた方もよくご存じでしょう。むしろ、無関係そうな非戦闘員から率先して狙っていく人だっているんですよ。私が言えることは、これだけです」
そう告げると、ナグモは去っていった。ナグモの姿が消えると同時に、マリアンナが口を開く。
「サラサ、スオウさん、他のみんなが心配だ。まずはあの火事を何とかしよう」
「さて、お二方、こんなところまで呼んでしまってすみません。ちょっと、お二方と話しておきたいことがありまして」
ナグモはそう述べると、二人を交互に見た。
「お二方は、何のために刀の腕を磨かれているのですか?」
その質問に、サラサは考え込むこととなった。今までサラサは、自分が何のために刀を取っていたか、あまり考える機会がなかったのかもしれない。それくらい、サラサにとって剣士としての生活は当たり前のものであった。
「始めたのは、父の影響が大きかったのかもしれません」
少し間をおいてから、サラサは話し始めた。ようやく、自分の中で答えが出たためだ。
「でも、今も刀を続けているのは己を高めるためです」
元々、サラサは精神的に打たれ弱かった。確かに、スオウの娘でもあるサラサは常人に比べはるかに刀の才能に優れてはいたが、父と比べて圧倒的に他者より強いわけではない。そんな自分の弱さを直すため、刀を取り続けていたのだった。その言葉に、ナグモは頷く。続いて、スオウが口を開いた。
「おれはもともと、人の役に立ちたかったんだ。だが、あいにく頭はあんまりよくなくてな。唯一、人並み以上だったのが剣術だった。だから、おれは刀で人の役に立とうと考えた。本当に、役に立てたのかはわからんがな。だからまあ、月並みな回答になっちまうが、おれは人のためだ。誰かを助けるために、この刀はあると思っている」
正義感に満ちているスオウらしい回答であった。ナグモは、二人の答えを聞くと満足そうに頷く。
「お二方とも、ありがとうございます。何故こんなことを聞いたのか、疑問に思うかもしれませんが・・・その前に、私が刀を取る理由も聞いてほしいと思います。私はもともと、強い人と戦うのが大好きでした。強い剣士との命を懸けたやり取り、それが昔の私の全てです。ですから、その頃は強い人と戦うために手段は問いませんでした。でした、というのは、今と少し異なっているからです。もちろん、今でも私は強い人と戦うことを待ち望んではいますが、そのために無関係な人を巻き込もうとは思いませんし、戦う気のない人間を無理に戦わせようとは思わないからです」
ナグモは息を吸い込むと、真剣な目で続けた。
「今の私が刀を取る理由も変わりました。今の私が刀を取る理由は、忠誠を奉げている主のためです。我が主の目的のために、私は刀を取っています。しかし、同時に可能な限りは戦いと無関係なものを巻き込む必要もないと考えています」
ナグモはそこまで述べると、刀を鞘から抜き、サラサとスオウに突きつける。
「スオウさん、サラサさん。私と戦ってください。我が主は、あなた方を殺そうとは考えていませんが、このウノーヴァにいて欲しいとも考えていません。だから、私に負けたらグレンさんやケニー君と共にノームコプにお引き取り下さい」
サラサとスオウが、予想していた通りであった。ナグモは、二人に決闘を申し込もうとしているのだ。スオウは大きく息を吐くと、サラサに尋ねる。
「やれやれ、こいつは困ったことになったな。どうするサラサ?」
サラサはナグモの目を見ながら、はっきりと答えた。
「あなたの言いたいことは分かりました。ですが、私たちにはやらなければならないことがあります。それを成し遂げるまでは、引くわけにはいきません。受けて立ちます」
スオウも続ける。
「サラサの言うとおりだな。申し訳ないけど、おれらは帰るわけにはいかないんだよ」
その言葉を聞いたナグモは少し悲しげな表情をする。無益な戦いをしたくなかったのは、本心なのであろう。
「予想はしていましたが・・・それならば、仕方ないですね」
そう告げると、ナグモの体中から溢れんばかりの殺気が放たれた。直後、ナグモの姿がサラサの目の前から消えたかと思うと、目の前に刃が迫っていた。
サラサが反応できないほどの不意打ちである。だが、その刃がサラサにぶつかることはなかった。スオウが、直前で止めたためである。
そのままサラサの目の前で、スオウとナグモによる激しい打ち合いが始まった。あまりにも目まぐるしく動き回っているため、サラサが戦いに入るタイミングは見いだせない。ただ、ナグモのあまりにも早い剣術に、少しずつスオウが押されてきていた。サラサが覚えている限り、父が押されているところを見るのは初めてのことだった。特に、ナグモが『流星剣』と叫びながら放った5連撃は圧倒的な速さを持ってスオウに打撃を与えていた。
「なに、心配すんなって」
スオウは余裕そうな口ぶりを見せているが、守りに回らざるを得ない。時折、ナグモの隙をついて攻撃を仕掛けるも、その攻撃はナグモに当たらず、背後の木が轟音と共に倒れるのみであった。
「そろそろ、降参した方がいいのではないでしょうか?」
何度か打ち合った後、ナグモが一旦距離を取って、スオウに話しかける。彼女の表情には、汗一つ浮かんでいない。それに対し、スオウは全身から玉のような汗が噴き出ている。
「負けが決まったわけでもないのに、降参する必要はないな」
スオウは落ち着き払った声で答える。その答えに、ナグモは少し顔を顰めた。
「私とあなたの間にどれくらいの実力差があるか、あなたなら見極められると思ったんですけどね。久しぶりにまともに相手が出来そうな人がいたから楽しんでいたのですが、時間も時間ですし。仕方ありませんね」
ナグモはそう告げると、両手で刀を構えなおす。
「『流星剣士』と呼ばれる所以、教えて差し上げましょう。私がこれから放つ『流星剣』を、あなたは避けることはできない」
ナグモはそう告げると、スオウに向かって走りながら、『流星剣』と叫び、刀を振るった。しかし、スオウまでの距離はまだある。いくらなんでも当たらない。距離を読み違えたのだろうか。しかし、スオウはナグモがこの一撃をかわせないと告げた理由を、身を持って理解することとなった。
「うおっ!!」
ナグモが刀を振るうと同時に、スオウの体が刀の方へと引き寄せられていった。スオウは突然のことに体のバランスを崩してしまう。そこに、ナグモの『流星剣』が命中した・・・わけではなかった。
突然、ナグモが刀を引くと、その場から飛びのく。その胴が、わずかに切られていた。スオウが体制を崩しながらも、ナグモの胴に鋭い一撃を叩きいれたのである。
「やれやれ」
スオウは頭を掻きながら、飛びのいたナグモを見る。
「避けられないんだったら、向かって行けばいいだけだろう。簡単な話だ」
スオウの返答に、ナグモは青筋を立て、何かを答えようとした。だが、そんなナグモを火の玉が襲った。
「騒がしいと思ったら・・・サラサ、スオウさん、いったい何が?」
火の玉の飛んできた方角を見ると、そこにはヨハンたちと共に狩りに出ていったはずの、マリアンナの姿があった。スオウたちの戦いの物音に気付き、慌ててやってきたようである。
「あそこで山火事も起こっているし」
マリアンナが指さした先を見れば、確かに近くの山から火の手が見えていた。もちろん、火事の原因はヨハンとマックスなのだが、サラサたちにそれを知るすべはない。
「この女を何とかすれば、分かるかもしれん」
スオウはナグモを見つめながら、マリアンナに告げる。だが、落ち着きを取り戻していたナグモは、軽く笑った。
「スオウさん、お見事でした。私の負けです。ただ、私を捕らえている暇はないでしょうね。」
「どういう意味だ?」
スオウの言葉に、ナグモは告げる。
「私は争いと無関係な人を極力利用したくありませんし、戦う際はあなた方のような戦闘員とだけ戦います。しかし、全ての人がそうでもないと言うことは、あなた方もよくご存じでしょう。むしろ、無関係そうな非戦闘員から率先して狙っていく人だっているんですよ。私が言えることは、これだけです」
そう告げると、ナグモは去っていった。ナグモの姿が消えると同時に、マリアンナが口を開く。
「サラサ、スオウさん、他のみんなが心配だ。まずはあの火事を何とかしよう」
道中でグレンとケニーを拾ったサラサたちは、大急ぎで山火事のもとへと向かった。そこでは、ヨハンとマックスが、ぼろぼろになりながらも火の勢いを弱めつつあった。大急ぎで水をあたりへと撒きながら、マリアンナがヨハンたちに尋ねる。
「大丈夫か?」
ヨハンは苦々しい顔でうなずく。
「急に山火事が起きてな・・・おそらくこれも全部、『魔王』ルーファスの仕業だ」
そうなんだよ。と、隣にやってきたマックスが肩で息をしながら続ける。
「獲物が全然見つからなくって困ってたらさ、兄ちゃんが急に、獣を見つけるにはこうしたらいいって・・・」
ヨハンは無言でマックスの鳩尾をどつく。急な突っ込みに、上手く身構えられず苦しむマックスを見ながら、ヨハンがわざとらしい声で心配し始めた。
「ど、どど、どうしたマックス、これも全部、『魔王』ルーファスの仕業か」
なるほど、とその言葉を聞いたマリアンナが頷く。どうやら、マリアンナはこの二人のやりとりで全てを察したようであった。
「どうやら、ヨハンの中にいる『魔王』ルーファスが目覚めたようだな」
ヨハンも即座に返す。
「ああそうだな、早く奴を倒してくれ。この緑豊かだった山を禿山に変えたあいつを。ちきしょう、『魔王』ルーファス、絶対に許さねえ」
このやり取りを近くで見ていたグレンは、軽くため息をつくと心の中で呟いた。
どう考えてもこれ、ヨハンのせいだろ。
「大丈夫か?」
ヨハンは苦々しい顔でうなずく。
「急に山火事が起きてな・・・おそらくこれも全部、『魔王』ルーファスの仕業だ」
そうなんだよ。と、隣にやってきたマックスが肩で息をしながら続ける。
「獲物が全然見つからなくって困ってたらさ、兄ちゃんが急に、獣を見つけるにはこうしたらいいって・・・」
ヨハンは無言でマックスの鳩尾をどつく。急な突っ込みに、上手く身構えられず苦しむマックスを見ながら、ヨハンがわざとらしい声で心配し始めた。
「ど、どど、どうしたマックス、これも全部、『魔王』ルーファスの仕業か」
なるほど、とその言葉を聞いたマリアンナが頷く。どうやら、マリアンナはこの二人のやりとりで全てを察したようであった。
「どうやら、ヨハンの中にいる『魔王』ルーファスが目覚めたようだな」
ヨハンも即座に返す。
「ああそうだな、早く奴を倒してくれ。この緑豊かだった山を禿山に変えたあいつを。ちきしょう、『魔王』ルーファス、絶対に許さねえ」
このやり取りを近くで見ていたグレンは、軽くため息をつくと心の中で呟いた。
どう考えてもこれ、ヨハンのせいだろ。
ヨハンたちがどうにか山火事の鎮火に成功したころ、セルモはフェンネルと共にリアノの船『プリンシプル』の船内で料理を作っていた。『プリンシプル』には現在、この二人にヨキを加えた三人しか残っていない。しかし、戦闘を得意としない三人だけでは流石に危険だと考えられたため、グレンが最近作り上げたからくり、ボマーが甲板で怪しい動きがないか見張っていた。
と、ドアが開き、先ほどまで外に出ていたヨキが調理室へと戻ってきた。その両手には、魚が掲げられている。
「ふふふ、キャプテンのもとで鍛えられたおれの魚捌き、今見せてやるぜ。前回は洗脳されてみんなの足手まといになっちまったし、このあたりで汚名返上しないと・・・そう言えば、セルモさん。おれ、甲板から網を仕掛けておいたんだ。もしかしたら何か引っかかっているかもしれないし、網を引くのを手伝ってくれないか?」
セルモはちょうど料理を一つ作り終えたところで、手も空いていた。従って、特に断る理由はなく頷く。
フェンネルを調理室に残し、セルモはヨキと共に船の甲板へと出た。確かに、端の方にヨキが仕掛けた網が見える。その近くで、ボマーが網を興味深げに眺めていた。
「よし、早速引っ張ろう」
ヨキがそう告げ網の方へと向き直る。と、ヨキははるか前方に何か不審なものを見つけたらしく、首を横に傾けた。
「セルモさん、あれ、なんだろう?」
ヨキの目線の先には、一人の男が走っていた。ただし、この男は色々とおかしい。まずは走り方だ。よほど速く走っているのだろう。足の動きを目で追うのは難しい。一方で、男の上半身は全く動くことなく腕を組みながら走っていることが遠目にもうかがえた。次に、場所だ。男が走っているのは、水の上であった。そして男は一目散にこの船目掛けて走ってくる。
そして、この船が目前に迫った時、男は跳躍すると船の甲板へと降り立った。長い髪に、三白眼を持つ男だ。
「ここが、ヨハン・ルーカスのいる船かな?」
男は、セルモとヨキを見ながら尋ねる。ヨキはあまりの突然の展開に驚いているのか、声も出ないようだ。そんなヨキの様子を見ながら、セルモは平然と答えた。
「いませんけど」
心の中で『今は』という文字を付け足しながら、ではあるが。
だが、そんなセルモの心の中を知らない男は、セルモの答えに驚いたようだった。
「え? 違うの?」
少し動揺した様子を見せる。
「そんな人、いませんけど」
と、セルモは復唱する。もちろん、心の中で『今は』という文字を付け足しながら。
「あ、なんだ違う船か。それは失礼しました・・・って、そんなわけあるか!」
男は自分自身に突っ込みを入れた。とは言え、その突っ込みにキレはなく、どことなくダメな雰囲気がこの男から漂ってくる。セルモの周りには、どうしてこうもダメな男ばかり集まるのであろうか。
と、そんな男にボマーが反応した。
「侵入者デス! 侵入者デス! タダチニ、コノ船カラ降リテ下サイ」
「うるさいなあ」
男はそう告げると、ボマーに向けて、指を鳴らした。白い光が男の指から見えたかと思うと、ボマーは真っ二つに裂けていた。
「さて、うるさいのもいなくなったし、もう一度訪ねよう。この船には、ヨハン・ルーカスが乗っているんだよな、普段は?」
男は念入りに確認する。これならきっと頷くだろう。男はそう考えていた。しかし、その意に反してセルモは首をかしげる。
「日常的には、乗ってませんけど」
セルモの返事に、男は笑顔を向けた。だが、その額には青筋がいくつも浮かんでいる。
「まあ、君がそう言うならそうなんだろう。だが、おれはこの船にヨハンがたまに乗ることを知っている。そして、おれはもう一つ理解した。君が、なかなかうざいってことだ」
そして、男はセルモに向けて言い放つ。
「おれの目的は、この船を破壊することなんだが、ついでにもう一つ。君も壊してあげよう」
男は再び指を鳴らした。と、マックスがよく乗っていたマストが真っ二つに裂ける。それを満足げに眺めながら、男は告げる。
「次は君かな」
男はそう告げると、セルモ目掛けて右手の指を鳴らそうとする。
「させるかぁぁぁぁ!!!」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。同時に、銃声が鳴り響く。男が指を抑えた。そこから、血が噴き出している。
「セルモさん、大丈夫ですか?」
ティボルトだった。ティボルトは自らの魔道銃に軽く息を吹きかけると、セルモの方を向いた。
「こいつはおれが何とかします。だから、セルモさんはどこかに逃げて下さい。早く!」
「助かったわ、ありがとう」
セルモがティボルトに礼を述べる。そんなセルモに対し、ティボルトは得意げな声で答える。
「まあ、当然です。おれとセルモさんには『運命』がありますからね」
その表情は、お礼を言われたことに対する感動に包まれていた。そんなティボルトの表情を一切気にすることなく、セルモが述べる。
「でも、あなた一人だと心配ですし。わたしも後ろから援護しますね」
セルモの言葉に、ティボルトは更に満足げな表情を浮かべる。
「セルモさんがいるなら百人力! いや、千人力! いや、むしろ万人力です!」
と、ドアが開き、先ほどまで外に出ていたヨキが調理室へと戻ってきた。その両手には、魚が掲げられている。
「ふふふ、キャプテンのもとで鍛えられたおれの魚捌き、今見せてやるぜ。前回は洗脳されてみんなの足手まといになっちまったし、このあたりで汚名返上しないと・・・そう言えば、セルモさん。おれ、甲板から網を仕掛けておいたんだ。もしかしたら何か引っかかっているかもしれないし、網を引くのを手伝ってくれないか?」
セルモはちょうど料理を一つ作り終えたところで、手も空いていた。従って、特に断る理由はなく頷く。
フェンネルを調理室に残し、セルモはヨキと共に船の甲板へと出た。確かに、端の方にヨキが仕掛けた網が見える。その近くで、ボマーが網を興味深げに眺めていた。
「よし、早速引っ張ろう」
ヨキがそう告げ網の方へと向き直る。と、ヨキははるか前方に何か不審なものを見つけたらしく、首を横に傾けた。
「セルモさん、あれ、なんだろう?」
ヨキの目線の先には、一人の男が走っていた。ただし、この男は色々とおかしい。まずは走り方だ。よほど速く走っているのだろう。足の動きを目で追うのは難しい。一方で、男の上半身は全く動くことなく腕を組みながら走っていることが遠目にもうかがえた。次に、場所だ。男が走っているのは、水の上であった。そして男は一目散にこの船目掛けて走ってくる。
そして、この船が目前に迫った時、男は跳躍すると船の甲板へと降り立った。長い髪に、三白眼を持つ男だ。
「ここが、ヨハン・ルーカスのいる船かな?」
男は、セルモとヨキを見ながら尋ねる。ヨキはあまりの突然の展開に驚いているのか、声も出ないようだ。そんなヨキの様子を見ながら、セルモは平然と答えた。
「いませんけど」
心の中で『今は』という文字を付け足しながら、ではあるが。
だが、そんなセルモの心の中を知らない男は、セルモの答えに驚いたようだった。
「え? 違うの?」
少し動揺した様子を見せる。
「そんな人、いませんけど」
と、セルモは復唱する。もちろん、心の中で『今は』という文字を付け足しながら。
「あ、なんだ違う船か。それは失礼しました・・・って、そんなわけあるか!」
男は自分自身に突っ込みを入れた。とは言え、その突っ込みにキレはなく、どことなくダメな雰囲気がこの男から漂ってくる。セルモの周りには、どうしてこうもダメな男ばかり集まるのであろうか。
と、そんな男にボマーが反応した。
「侵入者デス! 侵入者デス! タダチニ、コノ船カラ降リテ下サイ」
「うるさいなあ」
男はそう告げると、ボマーに向けて、指を鳴らした。白い光が男の指から見えたかと思うと、ボマーは真っ二つに裂けていた。
「さて、うるさいのもいなくなったし、もう一度訪ねよう。この船には、ヨハン・ルーカスが乗っているんだよな、普段は?」
男は念入りに確認する。これならきっと頷くだろう。男はそう考えていた。しかし、その意に反してセルモは首をかしげる。
「日常的には、乗ってませんけど」
セルモの返事に、男は笑顔を向けた。だが、その額には青筋がいくつも浮かんでいる。
「まあ、君がそう言うならそうなんだろう。だが、おれはこの船にヨハンがたまに乗ることを知っている。そして、おれはもう一つ理解した。君が、なかなかうざいってことだ」
そして、男はセルモに向けて言い放つ。
「おれの目的は、この船を破壊することなんだが、ついでにもう一つ。君も壊してあげよう」
男は再び指を鳴らした。と、マックスがよく乗っていたマストが真っ二つに裂ける。それを満足げに眺めながら、男は告げる。
「次は君かな」
男はそう告げると、セルモ目掛けて右手の指を鳴らそうとする。
「させるかぁぁぁぁ!!!」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。同時に、銃声が鳴り響く。男が指を抑えた。そこから、血が噴き出している。
「セルモさん、大丈夫ですか?」
ティボルトだった。ティボルトは自らの魔道銃に軽く息を吹きかけると、セルモの方を向いた。
「こいつはおれが何とかします。だから、セルモさんはどこかに逃げて下さい。早く!」
「助かったわ、ありがとう」
セルモがティボルトに礼を述べる。そんなセルモに対し、ティボルトは得意げな声で答える。
「まあ、当然です。おれとセルモさんには『運命』がありますからね」
その表情は、お礼を言われたことに対する感動に包まれていた。そんなティボルトの表情を一切気にすることなく、セルモが述べる。
「でも、あなた一人だと心配ですし。わたしも後ろから援護しますね」
セルモの言葉に、ティボルトは更に満足げな表情を浮かべる。
「セルモさんがいるなら百人力! いや、千人力! いや、むしろ万人力です!」
そして、ティボルトは男に向き直る。
「お前、セルモさんに何をしようとした! 許さねえ!!」
ティボルトは立て続けに銃を放つ。そのすべての銃弾は炎を身にまとい、男へと向かっていく。だが、そのすべての銃弾は男が指を鳴らすと真っ二つに弾けた。
「全く、その程度の実力でおれ様に傷をつけただと」
男の三白眼が、いっそう白くなる。
「許せないのはこっちだ。まず、お前を血祭りにあげてやろう」
男が指を鳴らした。ティボルトはその攻撃をどうにかかわそうとしたが、かわしきれず、胸の辺りから派手な血しぶきが飛ぶ。
「ぐっ・・・だが、おれはまだやられるわけにはいかない。何故なら、セルモさんがいるからだ!」
ティボルトはそう告げると、魔道銃を握る。だが、男が指を鳴らすと、その魔道銃も真っ二つに裂けてしまった。
「おいお前、どうやって死にたい? 頭を割られたいか? 首と胴を切り離されたいか? それとも、両手両足を吹っ飛ばしてから死にたいか? ・・・いや、ここはやはり、全部だな」
そう告げると、男はティボルトを殺すべく両手の指を鳴らそうとした。だが。
「ぐっ」
男は突然、右腕を抑えた。そこには、一本の矢が突き刺さっている。誰かが放ったものであった。しかし、男はその痛みにもめげず、左手の指を鳴らす。指から放たれる衝撃波が、今度こそティボルトに襲い掛かる。が、突然ティボルトの前に現れた痩せた身なりの男が、その衝撃波をたやすく打ち消した。ヨハンである。
「な・・・」
突然の出来事に男は驚く。更に何か言いかけようとしたが、それを遮るような大声が遠くから聞こえてきた。
「いったいなんだってんだよ!」
マックスの声だった。先ほどの矢は、彼の放った一撃であった。彼は甲板に飛び乗ると、辺りを見回す。彼の近くでは、ティボルトが痛みに苦しんでいた。マックスの目が、そこで止まる。
「なんだよ、おい! いったいなんだと・・・マストがああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
マックスの瞳は、ティボルトの先にある真っ二つに折れたマストを見つめていた。マックスは、そのマストに乗ってはるか遠くを見ることが好きであった。見たこともない場所を誰よりも先に発見し、相棒のゴリラと一緒に騒ぐ。これがマックスの楽しみの一つだった。しかし、そのマストは今、真っ二つになって横たわっている。マックスの瞳は、復讐に燃えていた。マストの恨みは、食べ物の恨みより深い。
「いや、もっと心配するものがあるだろ!」
マックスの叫びを聞いた、男が思わず突っ込む。その言葉に、マックスは少し冷静になり、辺りを見渡す。そこには、痛みに苦しむティボルトと、そのそばに立つセルモの姿があった。マックスは、慌てて心配そうな表情を浮かべた。
「セルモさん、大丈夫かよ? 怪我はないか?」
セルモは頷く。
「大丈夫よ、ティボルトが守ってくれたから」
「ティボルト?」
マックスは、そこで初めて自分の友人が怪我で苦しんでいることに気が付いた。
「お、おれはセルモさんを守ったんだ」
ティボルトは、痛みに苦しみながら、マックスに向けて親指を立てる。その言葉に、マックスは感心したような表情を見せた。
「お前がセルモさんを? お前にも役に立つことがあったんだな! やったぜティボルト!」
「そんな扱いでいいのか!!」
男が思わず突っ込む。その一言に、マックスははっとした表情を浮かべた。
「確かに、ティボルトがこんなにやられるなんて・・・まあ、それはよくあることか」
男は愕然とした表情を浮かべる。
「おいお前、もうちょっとそいつの心配をしてあげなくていいのか?」
その言葉に、マックスは大きく頷いた。
「ああ、こいつは死んだと思っても気が付いたら逃げ延びている奴だからな! だが、それはともかく」
マックスの瞳が再び、怒りに燃える。
「てめえ、よくもマストとセルモさんを!」
「そしてボマーもだ。許せねえ」
真っ二つに裂けたボマーの断片を見ながら、ヨハンが続ける。錬金術師であるヨハンからすれば、からくりを真っ二つにすることは、ティボルトに怪我を負わせることより大罪であった。
「まったく、こいつらはなんなんだ、どいつもこいつも・・・」
男は思わず呟く。と、男は大きく後ずさった。同時に、男が先ほどまでいた場所に、刀の一撃が加わる。サラサだった。少し遅れて、グレンも甲板に顔を出す。
「サラサ! グレンのじっちゃん!」
マックスが二人の到着に、喜びの声を上げる。
「じいちゃんは余計だ・・・って、ボマーが壊れてる」
真っ二つに転がるボマーに気が付いたグレンが、哀愁のこもった声で呟く。その言葉に、ヨハンも頷く。
「あいつがやったんだ、絶対に許さねえ」
「お前ら、からくりとかマストとかはいいから、そんなことより人命をもっと大事にしろよ!!」
男が、ろくに手当てもされずに放置されているティボルトを見ながら、ヨハンたちに指摘する。だが、ヨハンはその当たり前の指摘を右から左に聞き流した。
「おいお前、ゼンマイガーに手を出してみろ。てめえは今から、地獄よりひどい目にあうぞ」
そんなヨハンの発言に、男は呆れた表情を見せながら辺りを見渡す。
「全くもって、お前ら全員相手にしてやりてえが・・・少し数が多すぎるな」
その言葉に、ヨハンは男を指さしながら大声で笑いだした。
「あれ、数が多いと恐いから逃げるのか? 少人数には喜び勇んでかかっていくけど、数が多いと逃げる」
弱い者いじめしかできないのか、と言わんばかりに全身で男を挑発し始める。それに乗っかったのが、マックスだった。
「流石、セルモさんしかいないところにやってきただけのことはあるな」
「なるほどなるほど、セルモさんみたいな戦いに向いていない人だけだと強気に出られるけど、サラサみたいな戦いの専門家が来ると、もう逃げちゃう。お前、ホントは弱い奴としか戦えないんだろ?」
ヨハンの挑発を受け、男の額に青筋が浮かぶ。しかし、男は冷静だった。
「お前らさあ、おれを煽るのはいいんだけど、その前にもっと大切なことがあるだろ? そこで倒れている奴とか」
男は再びティボルトを指さす。それに対し、マックスが力強く頷いた。
「大丈夫だって、生きているから!」
親友が言うんだから間違いないだろ、と言わんばかりの頷き方だ。ヨハンも男を小馬鹿にするような声で続ける。
「そんなことはいいから、とっととかかってこいよ。パンチの打ち方は分かるか? 教えてやろうか、ぼくちゃん?」
男の額に、再び青筋が浮かぶ。そこにグレンが声をかけた。
「言いたいことは色々あるが、こっちはけが人の手当てをしてえんだ。帰るならとっとと帰ってくれ」
グレンの言葉で、更にヨハンの挑発は勢いづいた。
「お前、運が良かったな。グレンが帰してくれるってよ。おれだったら絶対に帰さないけど、グレン様がそう言っているんだ。とっとと逃げな」
帰れ、帰れとそのままマックスと二人で掛け声をかけ始める。そんな二人を見ながら、男は思わず呟いた。
「おれ、もっと格好よく帰る予定だったんだけどな」
そのまま去っていく男の背中には、哀愁が漂っていた。
「お前、セルモさんに何をしようとした! 許さねえ!!」
ティボルトは立て続けに銃を放つ。そのすべての銃弾は炎を身にまとい、男へと向かっていく。だが、そのすべての銃弾は男が指を鳴らすと真っ二つに弾けた。
「全く、その程度の実力でおれ様に傷をつけただと」
男の三白眼が、いっそう白くなる。
「許せないのはこっちだ。まず、お前を血祭りにあげてやろう」
男が指を鳴らした。ティボルトはその攻撃をどうにかかわそうとしたが、かわしきれず、胸の辺りから派手な血しぶきが飛ぶ。
「ぐっ・・・だが、おれはまだやられるわけにはいかない。何故なら、セルモさんがいるからだ!」
ティボルトはそう告げると、魔道銃を握る。だが、男が指を鳴らすと、その魔道銃も真っ二つに裂けてしまった。
「おいお前、どうやって死にたい? 頭を割られたいか? 首と胴を切り離されたいか? それとも、両手両足を吹っ飛ばしてから死にたいか? ・・・いや、ここはやはり、全部だな」
そう告げると、男はティボルトを殺すべく両手の指を鳴らそうとした。だが。
「ぐっ」
男は突然、右腕を抑えた。そこには、一本の矢が突き刺さっている。誰かが放ったものであった。しかし、男はその痛みにもめげず、左手の指を鳴らす。指から放たれる衝撃波が、今度こそティボルトに襲い掛かる。が、突然ティボルトの前に現れた痩せた身なりの男が、その衝撃波をたやすく打ち消した。ヨハンである。
「な・・・」
突然の出来事に男は驚く。更に何か言いかけようとしたが、それを遮るような大声が遠くから聞こえてきた。
「いったいなんだってんだよ!」
マックスの声だった。先ほどの矢は、彼の放った一撃であった。彼は甲板に飛び乗ると、辺りを見回す。彼の近くでは、ティボルトが痛みに苦しんでいた。マックスの目が、そこで止まる。
「なんだよ、おい! いったいなんだと・・・マストがああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
マックスの瞳は、ティボルトの先にある真っ二つに折れたマストを見つめていた。マックスは、そのマストに乗ってはるか遠くを見ることが好きであった。見たこともない場所を誰よりも先に発見し、相棒のゴリラと一緒に騒ぐ。これがマックスの楽しみの一つだった。しかし、そのマストは今、真っ二つになって横たわっている。マックスの瞳は、復讐に燃えていた。マストの恨みは、食べ物の恨みより深い。
「いや、もっと心配するものがあるだろ!」
マックスの叫びを聞いた、男が思わず突っ込む。その言葉に、マックスは少し冷静になり、辺りを見渡す。そこには、痛みに苦しむティボルトと、そのそばに立つセルモの姿があった。マックスは、慌てて心配そうな表情を浮かべた。
「セルモさん、大丈夫かよ? 怪我はないか?」
セルモは頷く。
「大丈夫よ、ティボルトが守ってくれたから」
「ティボルト?」
マックスは、そこで初めて自分の友人が怪我で苦しんでいることに気が付いた。
「お、おれはセルモさんを守ったんだ」
ティボルトは、痛みに苦しみながら、マックスに向けて親指を立てる。その言葉に、マックスは感心したような表情を見せた。
「お前がセルモさんを? お前にも役に立つことがあったんだな! やったぜティボルト!」
「そんな扱いでいいのか!!」
男が思わず突っ込む。その一言に、マックスははっとした表情を浮かべた。
「確かに、ティボルトがこんなにやられるなんて・・・まあ、それはよくあることか」
男は愕然とした表情を浮かべる。
「おいお前、もうちょっとそいつの心配をしてあげなくていいのか?」
その言葉に、マックスは大きく頷いた。
「ああ、こいつは死んだと思っても気が付いたら逃げ延びている奴だからな! だが、それはともかく」
マックスの瞳が再び、怒りに燃える。
「てめえ、よくもマストとセルモさんを!」
「そしてボマーもだ。許せねえ」
真っ二つに裂けたボマーの断片を見ながら、ヨハンが続ける。錬金術師であるヨハンからすれば、からくりを真っ二つにすることは、ティボルトに怪我を負わせることより大罪であった。
「まったく、こいつらはなんなんだ、どいつもこいつも・・・」
男は思わず呟く。と、男は大きく後ずさった。同時に、男が先ほどまでいた場所に、刀の一撃が加わる。サラサだった。少し遅れて、グレンも甲板に顔を出す。
「サラサ! グレンのじっちゃん!」
マックスが二人の到着に、喜びの声を上げる。
「じいちゃんは余計だ・・・って、ボマーが壊れてる」
真っ二つに転がるボマーに気が付いたグレンが、哀愁のこもった声で呟く。その言葉に、ヨハンも頷く。
「あいつがやったんだ、絶対に許さねえ」
「お前ら、からくりとかマストとかはいいから、そんなことより人命をもっと大事にしろよ!!」
男が、ろくに手当てもされずに放置されているティボルトを見ながら、ヨハンたちに指摘する。だが、ヨハンはその当たり前の指摘を右から左に聞き流した。
「おいお前、ゼンマイガーに手を出してみろ。てめえは今から、地獄よりひどい目にあうぞ」
そんなヨハンの発言に、男は呆れた表情を見せながら辺りを見渡す。
「全くもって、お前ら全員相手にしてやりてえが・・・少し数が多すぎるな」
その言葉に、ヨハンは男を指さしながら大声で笑いだした。
「あれ、数が多いと恐いから逃げるのか? 少人数には喜び勇んでかかっていくけど、数が多いと逃げる」
弱い者いじめしかできないのか、と言わんばかりに全身で男を挑発し始める。それに乗っかったのが、マックスだった。
「流石、セルモさんしかいないところにやってきただけのことはあるな」
「なるほどなるほど、セルモさんみたいな戦いに向いていない人だけだと強気に出られるけど、サラサみたいな戦いの専門家が来ると、もう逃げちゃう。お前、ホントは弱い奴としか戦えないんだろ?」
ヨハンの挑発を受け、男の額に青筋が浮かぶ。しかし、男は冷静だった。
「お前らさあ、おれを煽るのはいいんだけど、その前にもっと大切なことがあるだろ? そこで倒れている奴とか」
男は再びティボルトを指さす。それに対し、マックスが力強く頷いた。
「大丈夫だって、生きているから!」
親友が言うんだから間違いないだろ、と言わんばかりの頷き方だ。ヨハンも男を小馬鹿にするような声で続ける。
「そんなことはいいから、とっととかかってこいよ。パンチの打ち方は分かるか? 教えてやろうか、ぼくちゃん?」
男の額に、再び青筋が浮かぶ。そこにグレンが声をかけた。
「言いたいことは色々あるが、こっちはけが人の手当てをしてえんだ。帰るならとっとと帰ってくれ」
グレンの言葉で、更にヨハンの挑発は勢いづいた。
「お前、運が良かったな。グレンが帰してくれるってよ。おれだったら絶対に帰さないけど、グレン様がそう言っているんだ。とっとと逃げな」
帰れ、帰れとそのままマックスと二人で掛け声をかけ始める。そんな二人を見ながら、男は思わず呟いた。
「おれ、もっと格好よく帰る予定だったんだけどな」
そのまま去っていく男の背中には、哀愁が漂っていた。
「敵襲があったのね」
ゴブリンたちと共に、先ほどティボルトが倒したゴリラを運んできたリアノが、船の惨状を見ながら呟いた。
「キャプテン、ボマーとマストと、あとティボルトがやられたんだ」
ボマーを甲板で修理しながら、ヨハンが冷静に答える。
「敵はよくわからない長髪の三白眼だった。おれが言えることはただ一つ」
ヨハンは重々しく頷いた。
「『魔王』ルーファスのせいだ」
いつもの冗談である。と、そこにマリアンナが現れた。
「どうやら、今回は本当にそうなりそうだ」
ゴブリンたちと共に、先ほどティボルトが倒したゴリラを運んできたリアノが、船の惨状を見ながら呟いた。
「キャプテン、ボマーとマストと、あとティボルトがやられたんだ」
ボマーを甲板で修理しながら、ヨハンが冷静に答える。
「敵はよくわからない長髪の三白眼だった。おれが言えることはただ一つ」
ヨハンは重々しく頷いた。
「『魔王』ルーファスのせいだ」
いつもの冗談である。と、そこにマリアンナが現れた。
「どうやら、今回は本当にそうなりそうだ」
ヨハンたちは、マリアンナの提案で再び会議を開くことになった。
「不味いことになった」
マリアンナが口を開いた。
「さっきの指パッチン野郎のことか?」
スオウの指摘に、マリアンナが頷く。
「二割くらいは、そうだ」
その言葉に疑問を感じたマックスが尋ねる。
「他になんか、やばいことでもあったのかよ?」
「残りの八割は、さっきサラサとスオウさんが出会った、ナグモって女についてだ」
マリアンナは、ヨハンたちを見渡す。
「ヨハンの先祖が書いてくれた本には、ルーファスだけでなく、その部下として戦っていたやつらの情報も載っている。それによれば、ルーファスには『六傑』と呼ばれる優秀な部下がいたらしい。こいつらだ」
そう告げると、マリアンナは六人の名前が書かれた紙を見せる。
『虚無術士』ドーマ
『流星剣士』ナグモ
『一指両断』ヒィッツカラルド
『黒蝕凶竜』ディアブロス
『大地震撼』ダイダーラ
『災蛇魔拳』ミスター・チーバ
この六人が、六傑であった。マリアンナは続ける。
「てっきり遙か昔に死んだ連中だと思っていたが・・・ただ、いくつか考えられることがある。まず、このうちドーマとディアブロス以外の四人は魔族で、真の死をうけている。しかし、それにもかかわらず奴らは蘇った。何故なのか・・・いくつか考えられることはあるが、どれも推測の域を出ない。とにかく、船を直しながら警戒するくらいしか出来そうにないな」
こうして、ヨハンたちは船の修理をしながら、倒れたままの他の面々が起き出すのを待つこととした。
「不味いことになった」
マリアンナが口を開いた。
「さっきの指パッチン野郎のことか?」
スオウの指摘に、マリアンナが頷く。
「二割くらいは、そうだ」
その言葉に疑問を感じたマックスが尋ねる。
「他になんか、やばいことでもあったのかよ?」
「残りの八割は、さっきサラサとスオウさんが出会った、ナグモって女についてだ」
マリアンナは、ヨハンたちを見渡す。
「ヨハンの先祖が書いてくれた本には、ルーファスだけでなく、その部下として戦っていたやつらの情報も載っている。それによれば、ルーファスには『六傑』と呼ばれる優秀な部下がいたらしい。こいつらだ」
そう告げると、マリアンナは六人の名前が書かれた紙を見せる。
『虚無術士』ドーマ
『流星剣士』ナグモ
『一指両断』ヒィッツカラルド
『黒蝕凶竜』ディアブロス
『大地震撼』ダイダーラ
『災蛇魔拳』ミスター・チーバ
この六人が、六傑であった。マリアンナは続ける。
「てっきり遙か昔に死んだ連中だと思っていたが・・・ただ、いくつか考えられることがある。まず、このうちドーマとディアブロス以外の四人は魔族で、真の死をうけている。しかし、それにもかかわらず奴らは蘇った。何故なのか・・・いくつか考えられることはあるが、どれも推測の域を出ない。とにかく、船を直しながら警戒するくらいしか出来そうにないな」
こうして、ヨハンたちは船の修理をしながら、倒れたままの他の面々が起き出すのを待つこととした。
ヨハンたちがヒィッツカラルドらの襲撃を受けてから二日後、キャプテンとして船の修理の先頭に立っていたリアノの元に、ヨキが駆け寄ってきた。
「キャプテン! キャプテン! いい知らせがあります! 倒れていたキャサリンとアイリーンが、目を覚ましました!」
キャサリンはリアノが『プリンシプル』の船長になったころからつき従っている古株の船員で、他の船員たちをまとめる立場にあった女性だ。アイリーンは最近船員になったばかりの女性であるが、優れた航海技術を持っている。両者とも『プリンシプル』には欠かせないと言うことで、ウノーヴァへの旅に同行していた。そして、ひと月ほど前にゲイムたちの奇襲を受けた際、どちらもゲイムにつかまり洗脳されていたのであった。
リアノはその知らせを聞くや、すぐさま二人のもとへと向かった。
「キャプテン! キャプテン! いい知らせがあります! 倒れていたキャサリンとアイリーンが、目を覚ましました!」
キャサリンはリアノが『プリンシプル』の船長になったころからつき従っている古株の船員で、他の船員たちをまとめる立場にあった女性だ。アイリーンは最近船員になったばかりの女性であるが、優れた航海技術を持っている。両者とも『プリンシプル』には欠かせないと言うことで、ウノーヴァへの旅に同行していた。そして、ひと月ほど前にゲイムたちの奇襲を受けた際、どちらもゲイムにつかまり洗脳されていたのであった。
リアノはその知らせを聞くや、すぐさま二人のもとへと向かった。
『プリンシプル』の医務室のようなところに、キャサリンとアイリーンは寝かされていた。今は二人とも、半身を起している。
「キャプテン、私たちがキャプテンの足手まといとなってしまって申し訳ありません」
リアノに対し、キャサリンが頭を下げた。
「あのスオウとかいう輩に、二度も負けてしまうだなんて・・・私は自分の腕の未熟さに腹が立ちます」
「無事だったことが一番だから、気にしないで」
リアノはそんなキャサリンに、励ますように言葉をかける。それに加え、キャサリンが戦った男が、実はスオウではなかったと言うことも告げた。その言葉を聞いたキャサリンは、驚いた顔をする。
「えっ? あの男はスオウではなかったんですか? そ、それは良かったというかなんというか・・・」
キャサリンは困惑した顔をしていた。
「しかし、あれは誰なんですか?」
それは、リアノもよくわかっていなかった。一応、倒れたあの男は船に寝かしつけているものの、スオウ本人もその男に見覚えがなく、誰なのかは皆目見当もついていなかった。リアノからそのことを告げられると、キャサリンは軽く頷いた。
「なるほど。わかりました。ちなみにキャプテン。今キャプテンたちがしなければならないことはなんなのでしょうか? もう今すぐに、ルーファスを倒しに行けるんでしょうか?」
リアノはキャサリンに現状を告げた。砂漠に埋もれた「古代の城」を見つけるため、パルテナの持つ神器が必要なこと。そのパルテナが倒れているため、目が覚めるまでは待つしかないこと。その言葉を聞いた、キャサリンは再び頷いた。
「なるほど・・・まだまだ時間はかかるわけなのですね。それでしたらキャプテン、私からキャプテンに申し上げたいことが二点ほどあります」
「まず一点目なのですが、ゲイムは、かつてルーファスがこの世にいたころの仲間を復活させようとしています。なんでも、ドーマとかいう男が怪しげな魔術を使うようで、彼がゲイムと協力して各地にあるルーファスの部下の墓所を訪れているようです。ただ、詳しい状況は分かりません。恥ずかしながら、あの時の私もアイリーンも重傷だったもので、辺りの状況を把握できる余裕がなかったのです」
スオウのふりをしていたあの男なら分かるかもしれない。キャサリンはそう告げると、リアノの目を見据えて言葉をつづけた。
「それと、二点目です。アイリーンとも話していたのですが、私たち船員は他の皆様のお荷物になってしまうかもしれません。だとすれば、そうなる前にノームコプに戻った方がいいのかもしれないと考えています。確か、以前同乗していたマミとその仲間たちがウノーヴァにいたはずですし。彼女たちと共に私とアイリーンは戻るべきかと。またゲイムに洗脳されても申し訳は立ちませんしね」
よほど、この前洗脳されたことが堪えているのだろう。キャサリンの瞳は、それを翻意させるのは難しいと物語っていた。なら、仕方ないだろう。いずれ、リアノがノームコプに戻った時に、再び副船長になってもらえばいい。リアノが頷くと、キャサリンは続けた。
「ただ、ヨキはガッツがある奴だから、船に残ります。私とアイリーンがゲイムにつかまった時も、彼は逃げおおせましたしね」
ヨキはおそらく、自分もキャサリンたちと一緒に帰ると思っていたのだろう。突然、一人だけウノーヴァに残ると言われたことに動揺を見せ、怯えきった眼をしながらがたがたと震えした。そんなヨキを近くで見ていたマックスは、リアノに声をかける。
「キャプテン、流石、ヨキだな。いつも通りの武者震いだぜ」
ヨハンも、ヨキの怯えきった瞳を覗き込みながら頷く。
「見ろよ、こいつの目。こんな血に飢えた獣みたいな目、初めて見たぜ」
ヨハンとマックスの思わぬ発言に、面食らったヨキは思わず目を大きく見開いてしまう。その目は恐怖のあまりか、血走っていた。そんな目を見ながら、マックスはヨキの肩を叩く。
「ヨキ、お前は今この瞬間も血に飢えた獣として成長しているんだな。兄ちゃん、おれたちも負けられないぜ」
マックスの言葉に、ヨハンは重々しい表情で同意する。ヨハンの返事を確認すると、マックスは再びリアノの方を向いた。
「やっぱりこいつはおれたちには必要な人間だな。なあキャプテン、やっぱりヨキには残ってもらおうぜ」
こうして、今にも卒倒しそうな表情のヨキは、周囲の人間に勘違いされたまま、この場に残ることになった。と、そこでヨハンが何かを思い出したようにリアノに話を振った。
「なあ、キャプテン。ところで誰だっけ、あの小僧」
ヨハンが話に出そうとしているのは、ケニーのことである。ヨハンがケニーのことを気にかけ弟のように可愛がっていることは、この船にいる誰もが知っていた。しかし、そのことが恥ずかしいのか、ヨハンは彼の名前を出そうとすらしない。
「あいつもキャサリンたちと一緒に帰ってもらおうぜ。このままここにいてもお荷物だし」
まずは師匠であるサラサの意見を聞くべきだろう。リアノの言葉もあって、ヨハンたちはサラサの元へと向かい、事情を説明することにした。
「どうしましょうか・・・」
サラサは迷っている様子であった。が、やがて意を決したように告げる。
「ここから先は危険だから、戻ってもらった方がいいわね」
「キャプテン、私たちがキャプテンの足手まといとなってしまって申し訳ありません」
リアノに対し、キャサリンが頭を下げた。
「あのスオウとかいう輩に、二度も負けてしまうだなんて・・・私は自分の腕の未熟さに腹が立ちます」
「無事だったことが一番だから、気にしないで」
リアノはそんなキャサリンに、励ますように言葉をかける。それに加え、キャサリンが戦った男が、実はスオウではなかったと言うことも告げた。その言葉を聞いたキャサリンは、驚いた顔をする。
「えっ? あの男はスオウではなかったんですか? そ、それは良かったというかなんというか・・・」
キャサリンは困惑した顔をしていた。
「しかし、あれは誰なんですか?」
それは、リアノもよくわかっていなかった。一応、倒れたあの男は船に寝かしつけているものの、スオウ本人もその男に見覚えがなく、誰なのかは皆目見当もついていなかった。リアノからそのことを告げられると、キャサリンは軽く頷いた。
「なるほど。わかりました。ちなみにキャプテン。今キャプテンたちがしなければならないことはなんなのでしょうか? もう今すぐに、ルーファスを倒しに行けるんでしょうか?」
リアノはキャサリンに現状を告げた。砂漠に埋もれた「古代の城」を見つけるため、パルテナの持つ神器が必要なこと。そのパルテナが倒れているため、目が覚めるまでは待つしかないこと。その言葉を聞いた、キャサリンは再び頷いた。
「なるほど・・・まだまだ時間はかかるわけなのですね。それでしたらキャプテン、私からキャプテンに申し上げたいことが二点ほどあります」
「まず一点目なのですが、ゲイムは、かつてルーファスがこの世にいたころの仲間を復活させようとしています。なんでも、ドーマとかいう男が怪しげな魔術を使うようで、彼がゲイムと協力して各地にあるルーファスの部下の墓所を訪れているようです。ただ、詳しい状況は分かりません。恥ずかしながら、あの時の私もアイリーンも重傷だったもので、辺りの状況を把握できる余裕がなかったのです」
スオウのふりをしていたあの男なら分かるかもしれない。キャサリンはそう告げると、リアノの目を見据えて言葉をつづけた。
「それと、二点目です。アイリーンとも話していたのですが、私たち船員は他の皆様のお荷物になってしまうかもしれません。だとすれば、そうなる前にノームコプに戻った方がいいのかもしれないと考えています。確か、以前同乗していたマミとその仲間たちがウノーヴァにいたはずですし。彼女たちと共に私とアイリーンは戻るべきかと。またゲイムに洗脳されても申し訳は立ちませんしね」
よほど、この前洗脳されたことが堪えているのだろう。キャサリンの瞳は、それを翻意させるのは難しいと物語っていた。なら、仕方ないだろう。いずれ、リアノがノームコプに戻った時に、再び副船長になってもらえばいい。リアノが頷くと、キャサリンは続けた。
「ただ、ヨキはガッツがある奴だから、船に残ります。私とアイリーンがゲイムにつかまった時も、彼は逃げおおせましたしね」
ヨキはおそらく、自分もキャサリンたちと一緒に帰ると思っていたのだろう。突然、一人だけウノーヴァに残ると言われたことに動揺を見せ、怯えきった眼をしながらがたがたと震えした。そんなヨキを近くで見ていたマックスは、リアノに声をかける。
「キャプテン、流石、ヨキだな。いつも通りの武者震いだぜ」
ヨハンも、ヨキの怯えきった瞳を覗き込みながら頷く。
「見ろよ、こいつの目。こんな血に飢えた獣みたいな目、初めて見たぜ」
ヨハンとマックスの思わぬ発言に、面食らったヨキは思わず目を大きく見開いてしまう。その目は恐怖のあまりか、血走っていた。そんな目を見ながら、マックスはヨキの肩を叩く。
「ヨキ、お前は今この瞬間も血に飢えた獣として成長しているんだな。兄ちゃん、おれたちも負けられないぜ」
マックスの言葉に、ヨハンは重々しい表情で同意する。ヨハンの返事を確認すると、マックスは再びリアノの方を向いた。
「やっぱりこいつはおれたちには必要な人間だな。なあキャプテン、やっぱりヨキには残ってもらおうぜ」
こうして、今にも卒倒しそうな表情のヨキは、周囲の人間に勘違いされたまま、この場に残ることになった。と、そこでヨハンが何かを思い出したようにリアノに話を振った。
「なあ、キャプテン。ところで誰だっけ、あの小僧」
ヨハンが話に出そうとしているのは、ケニーのことである。ヨハンがケニーのことを気にかけ弟のように可愛がっていることは、この船にいる誰もが知っていた。しかし、そのことが恥ずかしいのか、ヨハンは彼の名前を出そうとすらしない。
「あいつもキャサリンたちと一緒に帰ってもらおうぜ。このままここにいてもお荷物だし」
まずは師匠であるサラサの意見を聞くべきだろう。リアノの言葉もあって、ヨハンたちはサラサの元へと向かい、事情を説明することにした。
「どうしましょうか・・・」
サラサは迷っている様子であった。が、やがて意を決したように告げる。
「ここから先は危険だから、戻ってもらった方がいいわね」
ケニーはその頃、ヨハンに言われた通り船内の掃除をしていた。ケニーの掃除は丁寧であり、軽く見た限りでは特に汚れはない。しかし、ヨハンはケニーがまだ掃除していないところを指さし、告げる。
「お前まだ、埃が残ってるんじゃないか?」
ケニーは即座に反論した。
「今からそこを掃除しようとしていたところだよ! だいたい、兄ちゃんが来たから汚れが増えちゃったじゃないか!」
ヨハンはケニーの反論が気に入ったようで、にやりと笑った。
「口と同じくらい、師匠とライオン仮面には鍛えられたんだろうな?」
ケニーは頷く。
「当たり前だよ! 今度こそ、兄ちゃんから一本取ってやるんだからね!」
ならかかってこい。ヨハンがそう告げると、ケニーが持っていたモップでヨハンに打ちかかろうとした・・・が、ヨハンが放った魔術によりケニーは吹き飛ばされ、壁に激突する。
「魔術を使うのは卑怯だって!」
何度目かわからないこの言葉に、ヨハンは苦笑する。
「ケニー、お前、本当に成長しないな」
その言葉にケニーが言い返し、ヨハンもさらに言葉を返す。二人のそんなやり取りを見ながら、マックスは傍らにいるサラサに呟いた。
「なあ、姉ちゃん。あの二人、楽しそうだよな」
それは、このやりとりがもう見れなくなることへの、惜別だったのかもしれない。サラサも、それを察したのかマックスに言葉を返す。
「まあ、楽しいのはいいんだけど、ここから先は危険だから」
そして、ケニーに言葉をかけようとするが、それを察したヨハンがサラサを制する。
待ってくれ、おれが話す。
ヨハンの気持ちを察したサラサは同意したように頷く。それを見たヨハンは、おもむろにケニーのもとへと歩み寄ると、挑発するように声をかけた。
「ケニー、この距離なら魔術を気にすることなくお前の剣があてられるだろ? かかってこいよ」
ケニーは即座に打ちかかってきた。が、ケニーのその一撃はヨハンの毒々しい首飾りの力に阻まれ、軽々と受け止められてしまう。そのままヨハンはケニーを殴り飛ばした。
「いいか、魔術なんかに頼らなくても、お前なんか軽々倒せるんだよ。ここから先は、本当に洒落にならないくらい危険な場所だ。お荷物を背負ってどうにかなるところじゃない。だからお前は、親父を連れてとっとと帰れ」
しばし、沈黙がながれた。ケニーはヨハンの表情から、この言葉が本気であることを悟ったらしい。ひどくショックを受けた顔をしながら、ケニーはどうにか言葉を絞り出した。
「た、確かに、僕は足手まといかもしれない。けれども、僕はもっとこの船にいたいんだ。みんなの役に立つくらい、強くなりたいんだ!」
「だが、お前は弱い」
ヨハンは即座に言葉を返した。ケニーは、何かをこらえるかのようにひどくゆがんでいる。
「じゃあどうしたら、僕はこの船に残れるんだ?」
ケニーの表情を見ながら、ヨハンは落ち着いた声で答えた
「ケニー、それは無理だ」
再び、長い沈黙が流れた。ケニーは、何かを食いしばった表情でずっとヨハンの方を向いている。やがて、ケニーがヨハンに尋ねる。
「じゃあどうしたら、僕はもう一度、みんなに雇ってもらえる?」
その言葉に、ヨハンは無言で近くにあった箱のようなものを持つ。そして、その箱ごとケニーに殴り掛かった。が、その箱はケニーにあたる直前で展開し始めると、すぐさまケニーにぴったりの鎧となった。
マックスはその鎧に見覚えがあった。かつてマックスの目の前で、ヨハンが自らの鎧を解体して首飾りを作った時、その場には大量のがらくたが残っていた。そのがらくたから、ヨハンが小さめの鎧を一つ作りだしていた。ケニーが今身に付けているのは、まさにその鎧であった。
「おれが暇つぶしに作った鎧だ。おれが身に付けていた鎧とは比べ物にならないくらい貧弱な鎧だ。だがまあ、貧弱なお前がその鎧を身に付ければ、そのあたりの雑魚になら勝てるかもしれん。だが、その鎧を着て満足に動けないようなら、それはただの的だ。だから今のお前は、連れて行けない」
ヨハンは軽く頭を掻き、続ける。
「そいつは繭だ。お前のことを守ってくれるが、そいつを着ている限り、何かに頼っている限り、お前は強くなれない」
ヨハンもかつて、重厚な鎧を身にまとっていた。それが全てを守ってくれるかのように。だが、重厚な鎧だけでは、足りないこともあった。コウテツ島では、固い鎧は自らを守ってくれたものの、共に戦った仲間を守ることはできなかった。だが、今は守れる。それは、ヨハンが新たに得た力があったからだ。ヨハンは、ケニーを軽く小突きながら続ける。
「そうだな、じゃあいつか助けてくれよ。お前が、そいつが必要なくなるくらい、強くなったらな」
ケニーは大きく頷いた。ケニーの表情から、何かをこらえているような部分は消え去っていた。
「わかったよ。何年かかるかわからないけど、必ずこの鎧もいらないくらい強い人になって、僕は兄ちゃんを助けに行くから」
その言葉に、ヨハンは笑みを浮かべた。
「ちゃんと強くなるって決めたんだよな?」
近くにいた、マックスがケニーに尋ねる。ケニーは頷いた。
「もちろんだよ」
「絶対に、その言葉を忘れるなよ。いいか、本気で気合を入れて思い続ければなんだってできるんだ。いつか兄ちゃんとタメをはれるくらい、強くなるさ」
他の誰かが言ったら、この言葉に説得性はなかったかもしれない。だが、マックスは本気でそう信じており、実際に彼は気合で全てを乗り越えてきていた。それ故に、マックスの言葉には、重みがあった。マックスは軽快な口調と共に、親指を立てた。
「全部終わったら、また会おうな。な、デストラクション!」
マックスの言葉に応じてできたゴリラは、ケニーの決意を認めるかのように満面の笑みを浮かべ、そして弾けていった。
「よし!」
マックスが頷くと同時に、ヨハンが再び口を開いた。
「それと、もう一つ」
改めて、ヨハンはケニーに向き直る。
「いいか、おれは別にお前の師匠じゃないぞ。お前の師匠はサラサだ。だけど」
ヨハンはそこで言葉をいったん区切ると、ケニーと同じ目線の高さまで身をかがめた。
「おれはお前の友達だ。だから、貸し借りがあっちゃダメだ。いつかしっかり返しに来い、お前が鎧を必要としなくなったらな」
ケニーは再び、大きく頷いた。
「絶対に、兄ちゃんのところに返しに行くから」
そして、ケニーはサラサの方を向いた。
「師匠、僕は父ちゃんが目を覚ましたら船を降ります。でも、それまでは僕のこと、鍛えて下さい!」
そのまま一礼するケニーに対し、サラサが答えた。
「思う存分、鍛えてあげましょう」
それと、とサラサが続ける。
「先に帰ったからって、わたしがいないときにさぼらないように」
ケニーはにやりと笑った。
「もちろんです、師匠。兄ちゃんも、マックスもよろしくお願いします!」
その言葉に、ヨハンは立ち上がるとケニーの方を見ながらけらけらと笑った。
「一時間後に、後悔していないといいけどな」
「お前まだ、埃が残ってるんじゃないか?」
ケニーは即座に反論した。
「今からそこを掃除しようとしていたところだよ! だいたい、兄ちゃんが来たから汚れが増えちゃったじゃないか!」
ヨハンはケニーの反論が気に入ったようで、にやりと笑った。
「口と同じくらい、師匠とライオン仮面には鍛えられたんだろうな?」
ケニーは頷く。
「当たり前だよ! 今度こそ、兄ちゃんから一本取ってやるんだからね!」
ならかかってこい。ヨハンがそう告げると、ケニーが持っていたモップでヨハンに打ちかかろうとした・・・が、ヨハンが放った魔術によりケニーは吹き飛ばされ、壁に激突する。
「魔術を使うのは卑怯だって!」
何度目かわからないこの言葉に、ヨハンは苦笑する。
「ケニー、お前、本当に成長しないな」
その言葉にケニーが言い返し、ヨハンもさらに言葉を返す。二人のそんなやり取りを見ながら、マックスは傍らにいるサラサに呟いた。
「なあ、姉ちゃん。あの二人、楽しそうだよな」
それは、このやりとりがもう見れなくなることへの、惜別だったのかもしれない。サラサも、それを察したのかマックスに言葉を返す。
「まあ、楽しいのはいいんだけど、ここから先は危険だから」
そして、ケニーに言葉をかけようとするが、それを察したヨハンがサラサを制する。
待ってくれ、おれが話す。
ヨハンの気持ちを察したサラサは同意したように頷く。それを見たヨハンは、おもむろにケニーのもとへと歩み寄ると、挑発するように声をかけた。
「ケニー、この距離なら魔術を気にすることなくお前の剣があてられるだろ? かかってこいよ」
ケニーは即座に打ちかかってきた。が、ケニーのその一撃はヨハンの毒々しい首飾りの力に阻まれ、軽々と受け止められてしまう。そのままヨハンはケニーを殴り飛ばした。
「いいか、魔術なんかに頼らなくても、お前なんか軽々倒せるんだよ。ここから先は、本当に洒落にならないくらい危険な場所だ。お荷物を背負ってどうにかなるところじゃない。だからお前は、親父を連れてとっとと帰れ」
しばし、沈黙がながれた。ケニーはヨハンの表情から、この言葉が本気であることを悟ったらしい。ひどくショックを受けた顔をしながら、ケニーはどうにか言葉を絞り出した。
「た、確かに、僕は足手まといかもしれない。けれども、僕はもっとこの船にいたいんだ。みんなの役に立つくらい、強くなりたいんだ!」
「だが、お前は弱い」
ヨハンは即座に言葉を返した。ケニーは、何かをこらえるかのようにひどくゆがんでいる。
「じゃあどうしたら、僕はこの船に残れるんだ?」
ケニーの表情を見ながら、ヨハンは落ち着いた声で答えた
「ケニー、それは無理だ」
再び、長い沈黙が流れた。ケニーは、何かを食いしばった表情でずっとヨハンの方を向いている。やがて、ケニーがヨハンに尋ねる。
「じゃあどうしたら、僕はもう一度、みんなに雇ってもらえる?」
その言葉に、ヨハンは無言で近くにあった箱のようなものを持つ。そして、その箱ごとケニーに殴り掛かった。が、その箱はケニーにあたる直前で展開し始めると、すぐさまケニーにぴったりの鎧となった。
マックスはその鎧に見覚えがあった。かつてマックスの目の前で、ヨハンが自らの鎧を解体して首飾りを作った時、その場には大量のがらくたが残っていた。そのがらくたから、ヨハンが小さめの鎧を一つ作りだしていた。ケニーが今身に付けているのは、まさにその鎧であった。
「おれが暇つぶしに作った鎧だ。おれが身に付けていた鎧とは比べ物にならないくらい貧弱な鎧だ。だがまあ、貧弱なお前がその鎧を身に付ければ、そのあたりの雑魚になら勝てるかもしれん。だが、その鎧を着て満足に動けないようなら、それはただの的だ。だから今のお前は、連れて行けない」
ヨハンは軽く頭を掻き、続ける。
「そいつは繭だ。お前のことを守ってくれるが、そいつを着ている限り、何かに頼っている限り、お前は強くなれない」
ヨハンもかつて、重厚な鎧を身にまとっていた。それが全てを守ってくれるかのように。だが、重厚な鎧だけでは、足りないこともあった。コウテツ島では、固い鎧は自らを守ってくれたものの、共に戦った仲間を守ることはできなかった。だが、今は守れる。それは、ヨハンが新たに得た力があったからだ。ヨハンは、ケニーを軽く小突きながら続ける。
「そうだな、じゃあいつか助けてくれよ。お前が、そいつが必要なくなるくらい、強くなったらな」
ケニーは大きく頷いた。ケニーの表情から、何かをこらえているような部分は消え去っていた。
「わかったよ。何年かかるかわからないけど、必ずこの鎧もいらないくらい強い人になって、僕は兄ちゃんを助けに行くから」
その言葉に、ヨハンは笑みを浮かべた。
「ちゃんと強くなるって決めたんだよな?」
近くにいた、マックスがケニーに尋ねる。ケニーは頷いた。
「もちろんだよ」
「絶対に、その言葉を忘れるなよ。いいか、本気で気合を入れて思い続ければなんだってできるんだ。いつか兄ちゃんとタメをはれるくらい、強くなるさ」
他の誰かが言ったら、この言葉に説得性はなかったかもしれない。だが、マックスは本気でそう信じており、実際に彼は気合で全てを乗り越えてきていた。それ故に、マックスの言葉には、重みがあった。マックスは軽快な口調と共に、親指を立てた。
「全部終わったら、また会おうな。な、デストラクション!」
マックスの言葉に応じてできたゴリラは、ケニーの決意を認めるかのように満面の笑みを浮かべ、そして弾けていった。
「よし!」
マックスが頷くと同時に、ヨハンが再び口を開いた。
「それと、もう一つ」
改めて、ヨハンはケニーに向き直る。
「いいか、おれは別にお前の師匠じゃないぞ。お前の師匠はサラサだ。だけど」
ヨハンはそこで言葉をいったん区切ると、ケニーと同じ目線の高さまで身をかがめた。
「おれはお前の友達だ。だから、貸し借りがあっちゃダメだ。いつかしっかり返しに来い、お前が鎧を必要としなくなったらな」
ケニーは再び、大きく頷いた。
「絶対に、兄ちゃんのところに返しに行くから」
そして、ケニーはサラサの方を向いた。
「師匠、僕は父ちゃんが目を覚ましたら船を降ります。でも、それまでは僕のこと、鍛えて下さい!」
そのまま一礼するケニーに対し、サラサが答えた。
「思う存分、鍛えてあげましょう」
それと、とサラサが続ける。
「先に帰ったからって、わたしがいないときにさぼらないように」
ケニーはにやりと笑った。
「もちろんです、師匠。兄ちゃんも、マックスもよろしくお願いします!」
その言葉に、ヨハンは立ち上がるとケニーの方を見ながらけらけらと笑った。
「一時間後に、後悔していないといいけどな」
更に、二日がたった。この間、ヨハンたちはカラスのサトザキを利用して、マミとその友人のエミリーに連絡を送っていた。内容はケニーと父トニー、そして『プリンシプル』の船員であったキャサリンとアイリーンをノームコプに連れ帰ってもらうことである。そして、その返事を待っている時、船内では一つの変化が訪れた。
この日、ヨハンはマックスと共にケニーの修行に付き合っていた。他人をかばう技術を向上させたいと告げるケニーに対し、ヨハンはこう告げていた。
「マックスに全力でリゼントメントするから、それをかばえ」
「おれかケニーが死ぬわ!」
と、マックスから突っ込みが即座に入る。ケニーも突然の一言に驚きを隠せずにいたが、ヨハンは二人の反応をすべて無視して、両手に魔力を込め始めた。慌ててケニーがマックスをかばいに行く。ヨハンから放たれた魔術の一撃は、流石に加減こそされていたがケニーを吹き飛ばすには十分なものであった。
ケニーが壁に打ち付けられる。それと同時に、三人の居る場所にマリアンナがやってきた。マリアンナは、ぐったりしているケニーを見ながら、軽く笑った。
「相変わらず、精が出るねえ」
マリアンナの言葉に、ヨハンもにやりと笑う。いつもの、良くないことを企んでいる笑みだ。
「そうだケニー、今からマリアンナがおれを攻撃するから、それをかばってみろよ」
唖然とするケニー。だが、それとは対照的にマリアンナの表情は晴れ晴れとしていた。
「最近、全力で魔術を使う機会もなかったから困っていたんだけど、ヨハン相手なら全力を出しても良さそうだしね」
ちょうどいい、そう告げるとマリアンナは巨大な火球を作り出した。想像以上に乗り気なマリアンナに対し、動揺したのがヨハンである。
「お、おお、おう」
彼の額には、汗が浮かんでいた。
「お、お、おれはケニーが絶対に守ってくれるからいいんだけど、念のためゼンマイガーを呼んできていいかな?」
この日、ヨハンはマックスと共にケニーの修行に付き合っていた。他人をかばう技術を向上させたいと告げるケニーに対し、ヨハンはこう告げていた。
「マックスに全力でリゼントメントするから、それをかばえ」
「おれかケニーが死ぬわ!」
と、マックスから突っ込みが即座に入る。ケニーも突然の一言に驚きを隠せずにいたが、ヨハンは二人の反応をすべて無視して、両手に魔力を込め始めた。慌ててケニーがマックスをかばいに行く。ヨハンから放たれた魔術の一撃は、流石に加減こそされていたがケニーを吹き飛ばすには十分なものであった。
ケニーが壁に打ち付けられる。それと同時に、三人の居る場所にマリアンナがやってきた。マリアンナは、ぐったりしているケニーを見ながら、軽く笑った。
「相変わらず、精が出るねえ」
マリアンナの言葉に、ヨハンもにやりと笑う。いつもの、良くないことを企んでいる笑みだ。
「そうだケニー、今からマリアンナがおれを攻撃するから、それをかばってみろよ」
唖然とするケニー。だが、それとは対照的にマリアンナの表情は晴れ晴れとしていた。
「最近、全力で魔術を使う機会もなかったから困っていたんだけど、ヨハン相手なら全力を出しても良さそうだしね」
ちょうどいい、そう告げるとマリアンナは巨大な火球を作り出した。想像以上に乗り気なマリアンナに対し、動揺したのがヨハンである。
「お、おお、おう」
彼の額には、汗が浮かんでいた。
「お、お、おれはケニーが絶対に守ってくれるからいいんだけど、念のためゼンマイガーを呼んできていいかな?」
ケニーへの修行と言う名の何かが一通り終わった後、マリアンナが口を開いた。
「ケニー君。君にいい知らせがあるよ。お父さんが目を覚ましたんだ」
「マリアンナさん、それ、本当?」
ケニーは、嬉しそうな悲しそうな顔をしていた。父が目を覚ましたこと自体は、嬉しいのであろう。しかしそれはすなわち、ヨハンたちとの別れも意味しており、素直に喜ぶわけにはいかなかったのであろう。
「本当だ。早くいってあげな」
マリアンナがウィンクする。ケニーはたちまちのうちに駆け出していった。
「さて、ヨハン私たちも行こうか。と言っても、ケニー君とトニーさんの再会を邪魔しちゃ悪いからね。私たちはもう一人、目を覚ました奴のところに行こうか。スオウさんのふりをしていた、あいつのところにね」
そう告げると、マリアンナは先陣を切って歩こうとする・・・も、長い間立っていた疲れか、その場に座り込んでしまった。そんなマリアンナに、ヨハンはそっと車椅子を差し出す。
「お、ヨハン、ありがとう」
マリアンナは珍しく礼を述べる。そんなマリアンナを連れ、ヨハンたちは目を覚ました「スオウ・シノノメ」のもとへと向かっていった。
「ケニー君。君にいい知らせがあるよ。お父さんが目を覚ましたんだ」
「マリアンナさん、それ、本当?」
ケニーは、嬉しそうな悲しそうな顔をしていた。父が目を覚ましたこと自体は、嬉しいのであろう。しかしそれはすなわち、ヨハンたちとの別れも意味しており、素直に喜ぶわけにはいかなかったのであろう。
「本当だ。早くいってあげな」
マリアンナがウィンクする。ケニーはたちまちのうちに駆け出していった。
「さて、ヨハン私たちも行こうか。と言っても、ケニー君とトニーさんの再会を邪魔しちゃ悪いからね。私たちはもう一人、目を覚ました奴のところに行こうか。スオウさんのふりをしていた、あいつのところにね」
そう告げると、マリアンナは先陣を切って歩こうとする・・・も、長い間立っていた疲れか、その場に座り込んでしまった。そんなマリアンナに、ヨハンはそっと車椅子を差し出す。
「お、ヨハン、ありがとう」
マリアンナは珍しく礼を述べる。そんなマリアンナを連れ、ヨハンたちは目を覚ました「スオウ・シノノメ」のもとへと向かっていった。
ともあれ、ヨハンたちは目覚めた「スオウ」のもとへとやってきた。「スオウ」は、半身を起してはいたが、自分の置かれている現状がよくわかっていないのか、困惑した表情を浮かべている。
「なあ、ここはどこなんだ?」
部屋に入ってきたヨハンたちに、「スオウ」が問いかける。ヨハンがまず口を開いた。
「ここは海賊船の中だ。お前は捕虜として捕まった。これから捕虜交換に・・・」
口から出まかせを並べるヨハンを制し、代わってリアノが話し始める。
「ここはウノーヴァ。ウノーヴァにある川の近くです。ところであなたはどこの出身なの?」
「おれの出身地か? まあ、ノームコプのどこかだと言っておこう」
男は淡々と答える。
「お前の名前は何だ?」
今度はヨハンが質問する。
「お前の名前が分からないと、いちいち会話が面倒なんだよ」
しかし、男は名乗る必要はないと言わんばかりにだんまりを決め込む。そんな男を、マリアンナはじろりとにらんだ。
「お前の名前を聞く前に、お前にあわせたい人がいる」
マリアンナがそう告げると同時に、部屋のドアが開き、スオウが中に入ってきた。
「げっ・・・お前は」
男は、スオウの顔を見るや顔を顰める。
「そうだ、お前が名前を借りていたスオウだ。なあ、お前は何故スオウの名前を借りていたんだ?」
マリアンナが尋ねる。
「そんなこと、おれが話す理由はないだろう」
男はマリアンナの顔を見て答える。
「さんざんスオウやその娘たちに迷惑をかけながら、よくそんな発言ができるな」
マリアンナは、呆れたような声を出す。ヨハンも頷いた。
「おれにも多大な苦労がかかった。お前の攻撃を受け止め続けた身にもなってみろ」
「だったら、スオウにでも聞いてくれよ。スオウならおれの名前くらい、憶えているだろ」
そう告げると、男はマリアンナから顔をそむけた。しかし、
「いや、全然わからないんだよなあ。お前みたいなひげもじゃのおっさんなんか、知り合いにいなかったし」
と、ぼさぼさの髯を持ったスオウが答える。
「こうして、お前の本名を知る者はいないことがわかったな。早く言った方がいいぞ」
ヨハンも続ける。
「でないと、お前の愛刀はマックスのおもちゃだ」
ヨハンが、近くに立てかけられた刀を指さし、告げる。
しかし、男はヨハンの話を聞いてはいなかった。ショックを受けたような表情で、スオウの方をまじまじと見つめている。
「おれのことを、覚えていないのか?」
男の声色には、失望が混じっていた。
「ああ、悪いな。記憶力はよくなくてさ」
「なんでおれのことを覚えていないんだよ!」
申し訳なさそうな声を出すスオウに対し、偽スオウが怒鳴る。
「で、おれについてか。あまり話したくはないが、この状況から察するに、君たちがおれをあの謎の老人から助けてくれたんだろう。ならば、そのお礼もあるし言わなければならないな。おれの名前は・・・」
男がもったいぶりながら、話を続ける。と、突然後ろのドアが開いた。
「ねえ、みんな!」
ケニーだった。その背後には、トニーを支えているヨキがいる。
「そのおじちゃん、パって人らしいよ」
その場にいた全員が、怪訝な顔をした。
「パ?」
思わず、その名前を次々に呟いてしまう。
「そう、パなんだって」
ケニーが答える。それを聞いたスオウは、しみじみとした声をあげた。
「パか・・・お前さん、なんつーか変わった名前だな」
「30年以上前にもそう言われたよ」
スオウのふりをした男・・・パは嫌そうな表情でそう答えた。
「パ・・・ああ、そう言えば、そんなやつがいたかもしれない。確か、ミヤビがダメな男だって言っていたような気がする」
スオウが頭を掻きながらヨハンたちに告げる。
「だ、ダメ男だと?」
その言葉に、ショックを受けたような表情をパがとる。
「確か、短気で気に入らないことがあるとすぐ暴力を振う粗暴なやつだって。おまけに、何か嫌なことがあると凄い根に持つって」
こいつは、本当に駄目な奴だ。スオウの言葉を聞いた一同は、皆心の中でそう思った。あの、ゴリラが大好きなマックスですら、例外ではない。この男の顔が比較的ゴリラに似ていたことで、好意を持っていたマックスですら、このゴリラ顔の男に失望を感じていた。
そこに、ケニーが怒りの表情で割り込んでくる。
「よくも僕の父ちゃんをさらったな! お前のせいで、僕の父ちゃんがどれだけ苦労したのかわかっているのか?」
ケニーは激怒していた。
「まあまあ」
と、そこで割って入ったのはトニーだった。
「パさんはそんな過去の自分のことを反省していると、私と共に旅しているときに何度か言っていたよ。パさんには、パさんなりの理由があったようだからね」
そう言って、トニーが語り始める。トニーによれば、パこと、パ・クリはスオウと言う人のせいで失恋していた。おまけに彼女を取り戻そうとスオウに決闘を申し込むもあっという間にやられてしまった。そこで、パは彼女を取り戻すために必死で剣の修行をしてきたのだ。そしてついに、パは二つの奥義を完成させる。その奥義を使ってスオウに決闘を挑み彼女を取り返そうとアサギに向かうが、パが好きだったミヤビが既に故人になっていたこととスオウがどこかに去ったことを知る。
パはミヤビが亡くなった原因はスオウにあると考え、スオウの評判を落とそうと考えた。彼は幸か不幸か外見がスオウに似ていたので、彼がスオウの振りをして色々しょうもないことを各地で行うと共に、ミヤビが亡くなった原因となったスオウを倒すべく、スオウが向かったとされるウノーヴァへと向かうことにしたのである。なお、ウノーヴァにやってきた理由としては、ウノーヴァにある伝説の刀を求めていたこともある。トニーは無理矢理誘拐したものの、その後は理由を話しあえる程度には仲良くなっていたようであった。
トニーがパについて話をしている間、皆がパを見る目がどんどん冷たくなっていた。それに気が付いたトニーは、慌ててフォローを入れる。
「確かに、彼がしょうもない悪事を働いたことや、以前リアノさんを殺しかけたことは許されることではないと思う。けれども彼はウノーヴァについた後、わたしを見捨てることもできたのにそれをしなかった。それは、パさんなりの優しさなんじゃないかと私は思う。どうか私に免じて、彼を許してやってほしい」
トニーがそう頭を下げると、パも頭を下げる。
「スオウのことばかりに血が上ってしまい、皆様には本当に迷惑をかけた。特に、トニーさんとケニー君には本当に申し訳ない。謝って許されることではないが、せめてまず謝らせてくれ。償いもする。このパ・クリ、本当に申し訳ないことをした」
「ま、おれは正直、こいつのことは全然気にしてないから、他のみんなが気にしないならそれでいいんじゃないか、とは思うぜ」
そう述べたのはスオウだ。マリアンナもそれに頷く。
「大事なのは、ケニー君とトニーさん、それに怪我をさせられたキャサリンとアイリーンがどう思うかだな」
「僕は・・・父ちゃんが許すなら、それでいいです。皆さんが助けてくれたおかげで、父ちゃんはちゃんと帰ってきたんだし。兄ちゃん、師匠、スオウさん、マリアンナさん、それに他のみなさんも、本当にありがとう」
ケニーが頭を下げる。別室にいるキャサリンとアイリーンも特に気にはしていないようではあった。パはそれを受けて、改めて頭を下げる。
「トニーさんが悪いわけじゃないから、頭を上げなよ」
そう告げたのは、意外なことにヨハンであった。息子のケニーが見ている前で、父親が頭を下げるのを見せるわけにはいかないだろう、そう考えての行動であった。そのまま、振り返るとリアノに尋ねる。
「で、キャプテン、こいつどうする? 殺す?」
リアノが何かを告げるより先に、グレンが口を開いた。
「殺すわけにもいかないだろう、こいつは色々な情報を持っているんだからな」
リアノも、グレンの発言を受けて頷いた。
「とりあえず、情報を聞き出しましょう」
こうして、リアノたちはパから多くの情報を入手することになった。
まず、パが囚われ、洗脳されるまでの間にゲイムのもとに、ドーマと名乗る人物が現れたこと。次に、ドーマは他の魔族を復活させる手段を持っているらしく、他の仲間が死んだ場所を尋ねていたこと。そして、ゲイムとドーマが死んだ場所を知っていたのはナグモとヒィッツカラルドと名乗る二人だけであったこと。更に、ドーマは瞬間移動はできないようで、ゲイムがそいつらの墓まで送ろうとしているようだったということ。最後に、いくつかのゲイムの隠れ家であった。
「だから、ここに行ってドーマとかいうやつを早く倒さないと、奴らの仲間がどんどん増えてしまうのではないでしょうか?」
「それは一理あるな。ただ」
パの発言に、マリアンナが腕を組んで答える。
「ゲイムはいくつもの隠れ家を持っている。だからパ、お前が私たちに囚われた時点でドーマはお前が知らない隠れ家に移すんじゃないのか」
「確かに・・・それじゃあ、この情報は無意味なのか・・・」
「それも違うはずだ」
マリアンナが答える。
「ドーマは瞬間移動はできないと言った。ゲイムとドーマが始終いつも行動を一緒にしているわけではないだろう。と言うことは、ゲイムがいないときに隠れ家に行ってドーマを倒しに行けばいいんじゃないか?」
「でも、その隠れ家の場所はどうやって見つけるんだ?」
スオウが尋ねる。
「それは・・・神頼みだな。いや、動物の王頼みと言うべきか」
マリアンナが難しい顔で答える。状況がよくわかっていないスオウとパは、不審な表情を取っていた。
マリアンナの考えは、動物の王をファミリアとしているエミリーに、ドーマを何とかする手段を見つけ出してもらおうとの考えであった。ただし、現在、エミリーたちとの連絡役となっている伝書ガラスのサトザキは旅立っているため、戻ってくるのを待って、再度連絡を送らなければならない。おおよそ、二週間はかかる作業であった。しかし、幸か不幸かヨハンたちはしばし、この場所に留まらざるを得なかった。船の修理をしなければならなかったためである。こうして、ヨハンたちは船の修理をしながら、エミリーとの連絡を行うことになった。
「なあ、ここはどこなんだ?」
部屋に入ってきたヨハンたちに、「スオウ」が問いかける。ヨハンがまず口を開いた。
「ここは海賊船の中だ。お前は捕虜として捕まった。これから捕虜交換に・・・」
口から出まかせを並べるヨハンを制し、代わってリアノが話し始める。
「ここはウノーヴァ。ウノーヴァにある川の近くです。ところであなたはどこの出身なの?」
「おれの出身地か? まあ、ノームコプのどこかだと言っておこう」
男は淡々と答える。
「お前の名前は何だ?」
今度はヨハンが質問する。
「お前の名前が分からないと、いちいち会話が面倒なんだよ」
しかし、男は名乗る必要はないと言わんばかりにだんまりを決め込む。そんな男を、マリアンナはじろりとにらんだ。
「お前の名前を聞く前に、お前にあわせたい人がいる」
マリアンナがそう告げると同時に、部屋のドアが開き、スオウが中に入ってきた。
「げっ・・・お前は」
男は、スオウの顔を見るや顔を顰める。
「そうだ、お前が名前を借りていたスオウだ。なあ、お前は何故スオウの名前を借りていたんだ?」
マリアンナが尋ねる。
「そんなこと、おれが話す理由はないだろう」
男はマリアンナの顔を見て答える。
「さんざんスオウやその娘たちに迷惑をかけながら、よくそんな発言ができるな」
マリアンナは、呆れたような声を出す。ヨハンも頷いた。
「おれにも多大な苦労がかかった。お前の攻撃を受け止め続けた身にもなってみろ」
「だったら、スオウにでも聞いてくれよ。スオウならおれの名前くらい、憶えているだろ」
そう告げると、男はマリアンナから顔をそむけた。しかし、
「いや、全然わからないんだよなあ。お前みたいなひげもじゃのおっさんなんか、知り合いにいなかったし」
と、ぼさぼさの髯を持ったスオウが答える。
「こうして、お前の本名を知る者はいないことがわかったな。早く言った方がいいぞ」
ヨハンも続ける。
「でないと、お前の愛刀はマックスのおもちゃだ」
ヨハンが、近くに立てかけられた刀を指さし、告げる。
しかし、男はヨハンの話を聞いてはいなかった。ショックを受けたような表情で、スオウの方をまじまじと見つめている。
「おれのことを、覚えていないのか?」
男の声色には、失望が混じっていた。
「ああ、悪いな。記憶力はよくなくてさ」
「なんでおれのことを覚えていないんだよ!」
申し訳なさそうな声を出すスオウに対し、偽スオウが怒鳴る。
「で、おれについてか。あまり話したくはないが、この状況から察するに、君たちがおれをあの謎の老人から助けてくれたんだろう。ならば、そのお礼もあるし言わなければならないな。おれの名前は・・・」
男がもったいぶりながら、話を続ける。と、突然後ろのドアが開いた。
「ねえ、みんな!」
ケニーだった。その背後には、トニーを支えているヨキがいる。
「そのおじちゃん、パって人らしいよ」
その場にいた全員が、怪訝な顔をした。
「パ?」
思わず、その名前を次々に呟いてしまう。
「そう、パなんだって」
ケニーが答える。それを聞いたスオウは、しみじみとした声をあげた。
「パか・・・お前さん、なんつーか変わった名前だな」
「30年以上前にもそう言われたよ」
スオウのふりをした男・・・パは嫌そうな表情でそう答えた。
「パ・・・ああ、そう言えば、そんなやつがいたかもしれない。確か、ミヤビがダメな男だって言っていたような気がする」
スオウが頭を掻きながらヨハンたちに告げる。
「だ、ダメ男だと?」
その言葉に、ショックを受けたような表情をパがとる。
「確か、短気で気に入らないことがあるとすぐ暴力を振う粗暴なやつだって。おまけに、何か嫌なことがあると凄い根に持つって」
こいつは、本当に駄目な奴だ。スオウの言葉を聞いた一同は、皆心の中でそう思った。あの、ゴリラが大好きなマックスですら、例外ではない。この男の顔が比較的ゴリラに似ていたことで、好意を持っていたマックスですら、このゴリラ顔の男に失望を感じていた。
そこに、ケニーが怒りの表情で割り込んでくる。
「よくも僕の父ちゃんをさらったな! お前のせいで、僕の父ちゃんがどれだけ苦労したのかわかっているのか?」
ケニーは激怒していた。
「まあまあ」
と、そこで割って入ったのはトニーだった。
「パさんはそんな過去の自分のことを反省していると、私と共に旅しているときに何度か言っていたよ。パさんには、パさんなりの理由があったようだからね」
そう言って、トニーが語り始める。トニーによれば、パこと、パ・クリはスオウと言う人のせいで失恋していた。おまけに彼女を取り戻そうとスオウに決闘を申し込むもあっという間にやられてしまった。そこで、パは彼女を取り戻すために必死で剣の修行をしてきたのだ。そしてついに、パは二つの奥義を完成させる。その奥義を使ってスオウに決闘を挑み彼女を取り返そうとアサギに向かうが、パが好きだったミヤビが既に故人になっていたこととスオウがどこかに去ったことを知る。
パはミヤビが亡くなった原因はスオウにあると考え、スオウの評判を落とそうと考えた。彼は幸か不幸か外見がスオウに似ていたので、彼がスオウの振りをして色々しょうもないことを各地で行うと共に、ミヤビが亡くなった原因となったスオウを倒すべく、スオウが向かったとされるウノーヴァへと向かうことにしたのである。なお、ウノーヴァにやってきた理由としては、ウノーヴァにある伝説の刀を求めていたこともある。トニーは無理矢理誘拐したものの、その後は理由を話しあえる程度には仲良くなっていたようであった。
トニーがパについて話をしている間、皆がパを見る目がどんどん冷たくなっていた。それに気が付いたトニーは、慌ててフォローを入れる。
「確かに、彼がしょうもない悪事を働いたことや、以前リアノさんを殺しかけたことは許されることではないと思う。けれども彼はウノーヴァについた後、わたしを見捨てることもできたのにそれをしなかった。それは、パさんなりの優しさなんじゃないかと私は思う。どうか私に免じて、彼を許してやってほしい」
トニーがそう頭を下げると、パも頭を下げる。
「スオウのことばかりに血が上ってしまい、皆様には本当に迷惑をかけた。特に、トニーさんとケニー君には本当に申し訳ない。謝って許されることではないが、せめてまず謝らせてくれ。償いもする。このパ・クリ、本当に申し訳ないことをした」
「ま、おれは正直、こいつのことは全然気にしてないから、他のみんなが気にしないならそれでいいんじゃないか、とは思うぜ」
そう述べたのはスオウだ。マリアンナもそれに頷く。
「大事なのは、ケニー君とトニーさん、それに怪我をさせられたキャサリンとアイリーンがどう思うかだな」
「僕は・・・父ちゃんが許すなら、それでいいです。皆さんが助けてくれたおかげで、父ちゃんはちゃんと帰ってきたんだし。兄ちゃん、師匠、スオウさん、マリアンナさん、それに他のみなさんも、本当にありがとう」
ケニーが頭を下げる。別室にいるキャサリンとアイリーンも特に気にはしていないようではあった。パはそれを受けて、改めて頭を下げる。
「トニーさんが悪いわけじゃないから、頭を上げなよ」
そう告げたのは、意外なことにヨハンであった。息子のケニーが見ている前で、父親が頭を下げるのを見せるわけにはいかないだろう、そう考えての行動であった。そのまま、振り返るとリアノに尋ねる。
「で、キャプテン、こいつどうする? 殺す?」
リアノが何かを告げるより先に、グレンが口を開いた。
「殺すわけにもいかないだろう、こいつは色々な情報を持っているんだからな」
リアノも、グレンの発言を受けて頷いた。
「とりあえず、情報を聞き出しましょう」
こうして、リアノたちはパから多くの情報を入手することになった。
まず、パが囚われ、洗脳されるまでの間にゲイムのもとに、ドーマと名乗る人物が現れたこと。次に、ドーマは他の魔族を復活させる手段を持っているらしく、他の仲間が死んだ場所を尋ねていたこと。そして、ゲイムとドーマが死んだ場所を知っていたのはナグモとヒィッツカラルドと名乗る二人だけであったこと。更に、ドーマは瞬間移動はできないようで、ゲイムがそいつらの墓まで送ろうとしているようだったということ。最後に、いくつかのゲイムの隠れ家であった。
「だから、ここに行ってドーマとかいうやつを早く倒さないと、奴らの仲間がどんどん増えてしまうのではないでしょうか?」
「それは一理あるな。ただ」
パの発言に、マリアンナが腕を組んで答える。
「ゲイムはいくつもの隠れ家を持っている。だからパ、お前が私たちに囚われた時点でドーマはお前が知らない隠れ家に移すんじゃないのか」
「確かに・・・それじゃあ、この情報は無意味なのか・・・」
「それも違うはずだ」
マリアンナが答える。
「ドーマは瞬間移動はできないと言った。ゲイムとドーマが始終いつも行動を一緒にしているわけではないだろう。と言うことは、ゲイムがいないときに隠れ家に行ってドーマを倒しに行けばいいんじゃないか?」
「でも、その隠れ家の場所はどうやって見つけるんだ?」
スオウが尋ねる。
「それは・・・神頼みだな。いや、動物の王頼みと言うべきか」
マリアンナが難しい顔で答える。状況がよくわかっていないスオウとパは、不審な表情を取っていた。
マリアンナの考えは、動物の王をファミリアとしているエミリーに、ドーマを何とかする手段を見つけ出してもらおうとの考えであった。ただし、現在、エミリーたちとの連絡役となっている伝書ガラスのサトザキは旅立っているため、戻ってくるのを待って、再度連絡を送らなければならない。おおよそ、二週間はかかる作業であった。しかし、幸か不幸かヨハンたちはしばし、この場所に留まらざるを得なかった。船の修理をしなければならなかったためである。こうして、ヨハンたちは船の修理をしながら、エミリーとの連絡を行うことになった。
しかし、ここで新たな問題が生じてくる。一つ目が、食料の問題。もう一つが、真っ二つにされたボマーであった。
数日前にヨハンたちが中心となって狩りを行ったことで、数日分の食料は残されていた。しかし、これからの航海を考えた場合、もっとたくさんの肉と野菜が必要となる。それを、ここにいる間に手に入れたいと言うのが『プリンシプル』の船員たちの意見であった。
肉は、動物を狩れば手に入る。しかし、肉はともあれ野菜はどこで手に入るのか。困っている船員たちに、マリアンナが助け船を出した。リアノとティボルトが数日前に会ったゴブリンたちが、この近くに住んでいるのではないだろうか。幸い、その読みは当たり、この近くでゴブリンたちが住む集落をヨハンたちは発見する。彼らは、野菜が欲しいと言うヨハンたちの提案を快く承知してくれた。ただし、ただではない。ゴブリンたちは代案を出した。それは、この近くを荒らすエネミーたちを討伐したり、ゴブリンたちが苦労するような肉体労働を代わりにやると言うものだった。ともあれ、これで野菜を獲得する目星はついた。
最後に、ボマーである。実のところ、グレンの不休の努力により、ボマーはある程度まで復活していた。しかし、ここで茶々を入れた人物がいる。これでは、火力が足りないと。その人物―有力な説によれば、古の魔術師、ユイ・リイの幽霊―は告げる。もっとボマーの火力が上がる調整をすべきなんだ。塊怨樹ではなく、巨人族最強の剣士、アルキュオネスを一撃で粉砕できるくらいじゃないと。
こうして、船を修理する傍ら、ヨハンたちは大きく三つの作業を開始することになった。一つ目は、肉を獲得するための狩猟。二つ目は、野菜を獲得するためのゴブリンたちの手伝い。そして、最後がボマーの火力を上げるための魔改造である。
数日前にヨハンたちが中心となって狩りを行ったことで、数日分の食料は残されていた。しかし、これからの航海を考えた場合、もっとたくさんの肉と野菜が必要となる。それを、ここにいる間に手に入れたいと言うのが『プリンシプル』の船員たちの意見であった。
肉は、動物を狩れば手に入る。しかし、肉はともあれ野菜はどこで手に入るのか。困っている船員たちに、マリアンナが助け船を出した。リアノとティボルトが数日前に会ったゴブリンたちが、この近くに住んでいるのではないだろうか。幸い、その読みは当たり、この近くでゴブリンたちが住む集落をヨハンたちは発見する。彼らは、野菜が欲しいと言うヨハンたちの提案を快く承知してくれた。ただし、ただではない。ゴブリンたちは代案を出した。それは、この近くを荒らすエネミーたちを討伐したり、ゴブリンたちが苦労するような肉体労働を代わりにやると言うものだった。ともあれ、これで野菜を獲得する目星はついた。
最後に、ボマーである。実のところ、グレンの不休の努力により、ボマーはある程度まで復活していた。しかし、ここで茶々を入れた人物がいる。これでは、火力が足りないと。その人物―有力な説によれば、古の魔術師、ユイ・リイの幽霊―は告げる。もっとボマーの火力が上がる調整をすべきなんだ。塊怨樹ではなく、巨人族最強の剣士、アルキュオネスを一撃で粉砕できるくらいじゃないと。
こうして、船を修理する傍ら、ヨハンたちは大きく三つの作業を開始することになった。一つ目は、肉を獲得するための狩猟。二つ目は、野菜を獲得するためのゴブリンたちの手伝い。そして、最後がボマーの火力を上げるための魔改造である。
ボマーについては、からくりに詳しいヨハンとグレンが担当することとなった。二人は、嬉々としながら木を切り倒して木材を集め、余っている廃材から金属を流用し、ボマーの装備を整えていく、気づけば、荷電粒子砲を二門装着したからくりの姿が、そこにはあった。
食料については、残りの四人が交代交代で集めることとなった。かくして、ゴブリンの頼みを聞きながら、山に入っては食料を調達する。そんな日々が始まった。ゴブリンの手伝いは、大きく畑作業と近隣に出る害獣の駆除であった。農作業が苦手なマックスなどは、害獣駆除を進んで申し出ていたものの、たちまちのうちに害獣は取りつくしてしまった。かくて、マックスはニンジン畑の作成を手伝わされる。その他にも、セルモがレタス畑を作り、からくり作成の息抜きに村を訪れたヨハンがキャベツ畑を作っていた。そうこうしながら、一行はゴブリンたちと友好を深めていく。
狩りは、意外なものたちが才能を発揮した。グレンとセルモである。狩りが得意そうなリアノやマックス、そして優れた剣士であるサラサがジャイアントクラブやフライングバッファローを狩る横で、二人はどこからかドラゴンを狩ってきたのである。
「ボマーのお蔭さ」
狩りのコツを聞かれたグレンは、こう答えていた。かくて、ヨハンたちは無事食料を集め終え、ボマーの魔改造も済ませたのである。
食料については、残りの四人が交代交代で集めることとなった。かくして、ゴブリンの頼みを聞きながら、山に入っては食料を調達する。そんな日々が始まった。ゴブリンの手伝いは、大きく畑作業と近隣に出る害獣の駆除であった。農作業が苦手なマックスなどは、害獣駆除を進んで申し出ていたものの、たちまちのうちに害獣は取りつくしてしまった。かくて、マックスはニンジン畑の作成を手伝わされる。その他にも、セルモがレタス畑を作り、からくり作成の息抜きに村を訪れたヨハンがキャベツ畑を作っていた。そうこうしながら、一行はゴブリンたちと友好を深めていく。
狩りは、意外なものたちが才能を発揮した。グレンとセルモである。狩りが得意そうなリアノやマックス、そして優れた剣士であるサラサがジャイアントクラブやフライングバッファローを狩る横で、二人はどこからかドラゴンを狩ってきたのである。
「ボマーのお蔭さ」
狩りのコツを聞かれたグレンは、こう答えていた。かくて、ヨハンたちは無事食料を集め終え、ボマーの魔改造も済ませたのである。
ヨハンたちが三つの目標をすべて達成し、船の修理もほとんど終わりを迎えている。そんなある日のことだった。
「うわぁぁぁぁぁっ」
ヨハンたちが船の修理をしていると、双眼鏡を使って見張りをしていたヨキが、すっとんきょうな声を上げる。
「どうした?」
ヨキの近くで作業をしていたヨハンとマックスが、怪訝そうな顔でヨキに尋ねる。
「り、龍がこっちに! もうダメだぁぁぁ」
「こないだ食べたばかりじゃないか! なんでそんなに慌てるんだよ」
マックスが思わずヨキに突っ込むと、ヨキの指さす方角を見る。そこには、かすかに生き物と思しき姿が見えた。真っ直ぐと、こちらに向かってきている。
ヨハンとマックスは、身構えながら近づくのを待つことにした。間もなく、その姿がはっきりと見えるようになる。その生き物は、龍というよりは蛇とウナギを足して割ったような外見をしている。そして、その背には人影が見えた。召喚士のエミリーと、ギルマンのカルロスであった。
「来ちゃった」
甲板に降りたエミリーはいたずらめいた口調で告げる。カルロスもそれに頷いた。
「ここはパンツが見れそうな女の人がいっぱいいて、オイラは幸せだギョ」
横にいたエミリーが、即座にカルロスに鉄拳を下す。
「ぼ、暴力的すぎるギョ!」
頭を抑えながら、カルロスがヨハンたちに訴える。しかし、ヨハンたちは軽蔑するかのような白い目でカルロスを見るばかりであり、誰もカルロスに助け船を出すものはいなかった。残念でもないし当然である。
エミリーもカルロスに対し、ゴミを見るような目つきで一瞥すると、ヨハンたちの方を向き直り、要件を告げる。一つは、神託の内容が極めて重大であったため、その内容を直接伝えに来たことであり、もう一つは、ケニーやキャサリンなど、ここでノームコプに戻る面々を引き取ることであった。
「さておき、ドーマのことだったよね。ドーマは『海辺の洞穴』にいます」
あまりウノーヴァの奥地のことは詳しくないのだけれども、と前置きをしながら、エミリーは一枚の地図を出した。そこには、手書きでウノーヴァの地図とメモが書かれている。彼女が書いてきたようであった。それを見ながら、エミリーが説明を始める。それによれば、ウノーヴァ北東部の海沿いにリバース山と呼ばれる巨大な山があり、その麓、アンデラと呼ばれる村の近くに『海辺の洞穴』があるそうであった。この洞穴内に、ドーマがいる。
「なるほど」
マリアンナが頷いた。
「しかし、私たちが堂々と『海辺の洞穴』の近くに向かうことで、ゲイムたちが警戒してしまうのではないか?」
マリアンナの発言に、エミリーはもっともだと頷く。
「もちろん、その可能性がないわけではありません。神託によれば、あなた方が『海辺の洞穴』に向かうより先に魔族と戦闘になってしまった場合、この襲撃は失敗するとのお告げを受けています。でも、逆を言えば、近くに来たくらいではゲイムもドーマも気にしないのかもしれません」
「なるほど」
と、真っ先に頷いたのはマックスだった。基本的に難しい話は苦手なマックスであったが、今回ばかりは、エミリーの告げたことを直感的に理解していた。
「魔族と戦闘になったら失敗するってことは、魔族と戦闘にならない道もあるってことだよな」
その言葉に、エミリーは頷く。そこに口を挟んだのは、ティボルトであった。ヒィッツカラルドに襲われた怪我はほぼ完治している。ティボルトによれば。セルモが狩ってきてくれたドラゴンの肉が、完治の決め手とのことであった。
「エミリー、マリアンナさん。ドーマが待っていること自体が罠って可能性はないんですか?」
「大いにあり得るでしょうね」
エミリーが頷く。おいおい、と言った顔をしたティボルトにエミリーが話を続ける。
「でも、ドーマを倒せる可能性があるのはこの『海辺の洞穴』だけのようです。そう考えたら、そこで待ち受けるのが何であれ、行かざるを得ないのではないでしょうか?」
マリアンナが頷く。
「その通りだな。ドーマを倒すことが出来れば、この後の展開も楽になるだろう。とは言え、むざむざと罠に飛び込みたくはないからな。最大限、警戒して進むようにしよう」
「うわぁぁぁぁぁっ」
ヨハンたちが船の修理をしていると、双眼鏡を使って見張りをしていたヨキが、すっとんきょうな声を上げる。
「どうした?」
ヨキの近くで作業をしていたヨハンとマックスが、怪訝そうな顔でヨキに尋ねる。
「り、龍がこっちに! もうダメだぁぁぁ」
「こないだ食べたばかりじゃないか! なんでそんなに慌てるんだよ」
マックスが思わずヨキに突っ込むと、ヨキの指さす方角を見る。そこには、かすかに生き物と思しき姿が見えた。真っ直ぐと、こちらに向かってきている。
ヨハンとマックスは、身構えながら近づくのを待つことにした。間もなく、その姿がはっきりと見えるようになる。その生き物は、龍というよりは蛇とウナギを足して割ったような外見をしている。そして、その背には人影が見えた。召喚士のエミリーと、ギルマンのカルロスであった。
「来ちゃった」
甲板に降りたエミリーはいたずらめいた口調で告げる。カルロスもそれに頷いた。
「ここはパンツが見れそうな女の人がいっぱいいて、オイラは幸せだギョ」
横にいたエミリーが、即座にカルロスに鉄拳を下す。
「ぼ、暴力的すぎるギョ!」
頭を抑えながら、カルロスがヨハンたちに訴える。しかし、ヨハンたちは軽蔑するかのような白い目でカルロスを見るばかりであり、誰もカルロスに助け船を出すものはいなかった。残念でもないし当然である。
エミリーもカルロスに対し、ゴミを見るような目つきで一瞥すると、ヨハンたちの方を向き直り、要件を告げる。一つは、神託の内容が極めて重大であったため、その内容を直接伝えに来たことであり、もう一つは、ケニーやキャサリンなど、ここでノームコプに戻る面々を引き取ることであった。
「さておき、ドーマのことだったよね。ドーマは『海辺の洞穴』にいます」
あまりウノーヴァの奥地のことは詳しくないのだけれども、と前置きをしながら、エミリーは一枚の地図を出した。そこには、手書きでウノーヴァの地図とメモが書かれている。彼女が書いてきたようであった。それを見ながら、エミリーが説明を始める。それによれば、ウノーヴァ北東部の海沿いにリバース山と呼ばれる巨大な山があり、その麓、アンデラと呼ばれる村の近くに『海辺の洞穴』があるそうであった。この洞穴内に、ドーマがいる。
「なるほど」
マリアンナが頷いた。
「しかし、私たちが堂々と『海辺の洞穴』の近くに向かうことで、ゲイムたちが警戒してしまうのではないか?」
マリアンナの発言に、エミリーはもっともだと頷く。
「もちろん、その可能性がないわけではありません。神託によれば、あなた方が『海辺の洞穴』に向かうより先に魔族と戦闘になってしまった場合、この襲撃は失敗するとのお告げを受けています。でも、逆を言えば、近くに来たくらいではゲイムもドーマも気にしないのかもしれません」
「なるほど」
と、真っ先に頷いたのはマックスだった。基本的に難しい話は苦手なマックスであったが、今回ばかりは、エミリーの告げたことを直感的に理解していた。
「魔族と戦闘になったら失敗するってことは、魔族と戦闘にならない道もあるってことだよな」
その言葉に、エミリーは頷く。そこに口を挟んだのは、ティボルトであった。ヒィッツカラルドに襲われた怪我はほぼ完治している。ティボルトによれば。セルモが狩ってきてくれたドラゴンの肉が、完治の決め手とのことであった。
「エミリー、マリアンナさん。ドーマが待っていること自体が罠って可能性はないんですか?」
「大いにあり得るでしょうね」
エミリーが頷く。おいおい、と言った顔をしたティボルトにエミリーが話を続ける。
「でも、ドーマを倒せる可能性があるのはこの『海辺の洞穴』だけのようです。そう考えたら、そこで待ち受けるのが何であれ、行かざるを得ないのではないでしょうか?」
マリアンナが頷く。
「その通りだな。ドーマを倒すことが出来れば、この後の展開も楽になるだろう。とは言え、むざむざと罠に飛び込みたくはないからな。最大限、警戒して進むようにしよう」
ヨハンたちとの話し合いを終えたエミリーたちは、このまますぐに、ノームコプに戻るとのことであった。従って、それはケニーやキャサリンたちとの別れの時でもある。
リアノは、無言でキャサリンやアイリーンに頷いていた。それで、十分に伝わるのだろう。キャサリンとアイリーンはリアノに敬礼すると、エミリーのもとへと向かった。
「大丈夫、必ず戻って来るから」
サラサが、弟子であるケニーに話しかける。ケニーは大きく頷いた。
「師匠、剣道場で待ってます!」
「自分の信じた道を忘れんじゃねえぞ。ここだぞ、ここ」
と、マックスも自分の胸を叩きながらケニーに告げる。
「忘れないさ、僕にはいっぱい目標があるからね!」
ケニーもマックスに言葉を返す。そして、ケニーはヨハンの方を向いた。ヨハンも、ケニーの方を向く。二人はしばし、無言で見つめ合っていた。
「もう出るよ」
巨大な生き物に乗った、エミリーの声が聞こえてくる。ケニーは、去る前にヨハンに何か言いたいようであった。しかし、言葉が出てこない。そんなケニーを見ながら、ヨハンは笑った。いつもの嫌味めいた笑いではなく、優しい笑顔であった。
「元気でな」
ヨハンが告げる。ケニーは、大きく頷く。
「兄ちゃん、ありがとう!」
そして、踵を返すとノームコプへと戻るべく、エミリーのもとへと向かっていった。
ケニーたちが去っていくのを見送った後、マックスはにやりと笑ってヨハンの方を向いた。
「兄ちゃん、珍しく笑ったな」
そんなマックスに対し、ヨハンは真顔で答える。
「笑ってないよ」
その後も珍しく必死で弁解するヨハンを見ながら、マックスはにやにや笑っていた。
そんな中、近くにいたヨキが呟く。
「それにしても、何でエミリーさんはいつもあのギルマンを一緒に連れているんでしょうね?」
ティボルトが、肩をすくませながら答える
「エミリーが見ていないと、カルロスが何をしでかすかわからないからじゃないか。おれはエミリーの気持ちがよくわかるぜ。おれも、セルモさんに怪しげな虫が寄り付いたりしないかどうか凄く心配だからな。ですがセルモさん、ご安心下さい。怪しげな虫はすべてこの、ティボルトが駆除しますので」
セルモに向けて、自信たっぷりな表情で告げるティボルトを横目で見ながら、マックスは思った。怪しげな虫はもう、セルモさんにくっついているよなあ。
リアノは、無言でキャサリンやアイリーンに頷いていた。それで、十分に伝わるのだろう。キャサリンとアイリーンはリアノに敬礼すると、エミリーのもとへと向かった。
「大丈夫、必ず戻って来るから」
サラサが、弟子であるケニーに話しかける。ケニーは大きく頷いた。
「師匠、剣道場で待ってます!」
「自分の信じた道を忘れんじゃねえぞ。ここだぞ、ここ」
と、マックスも自分の胸を叩きながらケニーに告げる。
「忘れないさ、僕にはいっぱい目標があるからね!」
ケニーもマックスに言葉を返す。そして、ケニーはヨハンの方を向いた。ヨハンも、ケニーの方を向く。二人はしばし、無言で見つめ合っていた。
「もう出るよ」
巨大な生き物に乗った、エミリーの声が聞こえてくる。ケニーは、去る前にヨハンに何か言いたいようであった。しかし、言葉が出てこない。そんなケニーを見ながら、ヨハンは笑った。いつもの嫌味めいた笑いではなく、優しい笑顔であった。
「元気でな」
ヨハンが告げる。ケニーは、大きく頷く。
「兄ちゃん、ありがとう!」
そして、踵を返すとノームコプへと戻るべく、エミリーのもとへと向かっていった。
ケニーたちが去っていくのを見送った後、マックスはにやりと笑ってヨハンの方を向いた。
「兄ちゃん、珍しく笑ったな」
そんなマックスに対し、ヨハンは真顔で答える。
「笑ってないよ」
その後も珍しく必死で弁解するヨハンを見ながら、マックスはにやにや笑っていた。
そんな中、近くにいたヨキが呟く。
「それにしても、何でエミリーさんはいつもあのギルマンを一緒に連れているんでしょうね?」
ティボルトが、肩をすくませながら答える
「エミリーが見ていないと、カルロスが何をしでかすかわからないからじゃないか。おれはエミリーの気持ちがよくわかるぜ。おれも、セルモさんに怪しげな虫が寄り付いたりしないかどうか凄く心配だからな。ですがセルモさん、ご安心下さい。怪しげな虫はすべてこの、ティボルトが駆除しますので」
セルモに向けて、自信たっぷりな表情で告げるティボルトを横目で見ながら、マックスは思った。怪しげな虫はもう、セルモさんにくっついているよなあ。
ケニーたちがエミリーたちと共に去ってからひと月が過ぎた、H275年5月。陸に沿って船を進めていたヨハンたちはようやく、リバース山のふもとにある村アンデラへとたどり着いていた。アンデラは山がすぐ近くにありながら、海にも面しており、それなりの港もあった。平和な時勢だったら、観光地として名を馳せたかもしれない。そう思わせるだけの綺麗な自然と涼しい空気、のどかな雰囲気がこの村からは感じられた。
そして、その村の中をグレンとマックスが歩いていた。何故、彼らが歩くことになったか。そこには全く深くない理由があった。見知らぬ他者に怖がられず、友好的に話を進められそうな人間が他にいなかったためだ。
もちろん、リアノやセルモも友好的な人間である。しかし、リアノはキャプテンである。キャサリンたちが去った今、そう簡単に船から出ていくわけにもいかない。セルモも、彼女と離れたがらない非常識なストーカーが一人いたので、船に残ることになったのだ。
しかし、この心配は杞憂だったのかもしれない。二人はそう思い始めていた。何故なら、全く人に出会わないのである。港からもう数分は歩いているが、誰にも出くわさない。何か、あったのだろうか。そう不思議がる二人の耳に、誰かが大声で話している音が聞こえていた。その声には、若干不穏なものが混じっている。
不穏な声を出しているのは、若い女性だった。頭から二本の捻じ曲がった角を生やし、背中から腰に掛けて黒い翼を生やしているドラゴネットのメディオンの女性で、その若い顔立ちは少女と呼んでも差支えがないかもしれない。そして、背に抱えている大きな槍は彼女が冒険者か何かであることを物語っている。グレンとマックスは、名称こそ思い出せなかったものの、その槍に何となく見覚えがあった。
少女は、身振り手振りを交えながら、目の前にいるトロウルの老人に抗議をしていた。
「ですから、なんでダメなんですか?」
「理由を告げることは出来ぬ。じゃが、とにかく危険なのじゃ」
「わたしはこう見えても冒険者です。それなりに腕は立ちます。ですから、多少の危険であれば大丈夫です」
確かに、彼女の槍はかなり使い古されており、彼女が長きにわたり冒険していることが伺える。案外、年齢も高いのかもしれない。と、そんな彼女は突然振り返ると、グレンとマックスの方を向いた。
「そこのお二人さん!」
呼びかけられている。返事を返したのは、マックスであった。
「どうした、なんか騒がしいじゃないか?」
「お二人は冒険者ですか?」
その質問に、二人は顔を見合わせた。考えたことがなかったのである。
「いや、違うな」
しばしの間の後、グレンが呟く。彼の本業は、からくりの研究である。もとはと言えば、そのために旅をしていたのだ。だから、冒険者ではない。グレンはそう考えていた。その言葉を受けてか、マックスも申し訳なさそうに少女に告げる。
「あ、ごめん、おれも多分違うわ。悪い悪い」
「えっ? 違うの?」
少女は、あてが外れたのか動揺した様子を見せた。だが、それも一瞬のことであり、気を取り直した少女は再び口を開いた。
「で、でも二人ともお強いですよね?」
その言葉に、マックスは頷く。
「それはまあ、腕には自信あるよ。なあ、じっちゃん?」
マックスの言葉にグレンが答える。
「まあ、誇るほどじゃないけどな」
その言葉を受けて、少女は再び勢いづいたかのように喋り出した。
「やっぱりお強いですよね! ですから、お二人の強さを見込んでお願いします。このおじさまを説得するの、手伝ってください!」
「あ、私ウェンディって言います。冒険者をやっていて、こう見えてもそれなりに腕には自信があります。で、昨日このアンデラにたどり着いたんですけど、この村の人たち、何かに困っているらしいんですよ。でも、それがなんだか教えてくれないんですよね。どうも、わたし一人だと危険だと思っているみたいで。でも、腕の立つお二人でしたら、わたしがそれなりに強いと言うことは分かると思います」
確かに、ほとんどグレンたちと変わらないくらいの実力を持っていることが、彼女の仕草などからうかがえる。
「たとえばこの槍、見てください! これは邪竜槍ダマーヴァンドと呼ばれる槍で、アジ・ダハーカと呼ばれる邪竜を倒さないと手に入らない槍です。お二方とも、ご存知ですよね?」
グレンとマックスは、思わず顔を見合わせてしまった。良く知っている、どころではない。アジ・ダハーカとはかつて、二度ほど戦ったことがある。どちらもかなり激しい戦いであった。当然、この槍もその時に見ているはずなのだが、槍を扱わない彼らは即座にこれを売ってしまっていたので、彼らの記憶には残らなかったのだった。
「これを持っているってことは、わたしは少なくともアジ・ダハーカくらいであれば倒せるってことです」
確かに、その通りであった。実際、グレンやマックスから見ても、ウェンディの実力は自分たちと遜色ないだろう。
「ちなみに、なんでお前ここにいるんだ? この村の窮状を知って、助けに来たのか?」
そう尋ねたのは、マックスであった。
「そう言うわけではないんですよね。私はもともと旅をしていましたから。ただ単に、旅の途中で困っていた人がいたから、見過ごせなくなってしまっただけです」
そこまで答えると、ウェンディは少し苦笑する。
「ただ、困っている人たちが理由を教えてくれないことには、少しいらいらしていましたけどね」
先ほど、老人と揉めていたのはそれが原因のようだった。ウェンディの目的が分かったことで、マックスは大きく頷き、拳を突き出した。
「なるほど、こいつら困っているのか! だったらこいつら助けてやろうぜ!」
と、そこでマックスは何かに気が付き、言葉を止めた。
「で、何で困っているんだっけ?」
その言葉に、老人が答える。
「そうじゃのう・・・そこのお嬢ちゃんは心配だが、お主たちならやれそうじゃ」
そいつはどうも、と口を挟んだのはグレンであった。グレンは、老人から聞いておきたいことがあった。それは、『海辺の洞穴』に関する情報だ。
「じいさん、この近くに洞窟はないか?」
老人によれば、人がほとんど利用しない洞窟が一つ、街の北にあるとのことであった。
「じゃが、そこは行ってはならぬ洞窟と儂は祖父から教わった。行かないに越したことはないと思うぞ」
グレンに念を押す老人に対し、マックスは答える。
「洞窟に危険な奴がいるのは、おれも知っているんだよ。でも、行かなきゃいけない理由もあるからな」
と、その言葉に対し、ウェンディが反応した。
「ひょっとして、この村を襲っている危険っていうのは、その洞窟のことなの?」
老人は首を横に振った。
「いや、違う。あそこに山があるじゃろう」
老人は、近くにあるリバース山の方を向いた。リバース山には山頂が二つ存在し、ラクダを思わせる形となっている。老人はそのうち、小さい方の山頂を指さした。
「あれが実は巨人なんじゃ」
「えっ?」
驚きのあまり、グレンとマックスは声を出してしまった。それくらい、老人の述べる言葉が突拍子もなかったのだ。
「あれが、巨人?」
マックスは山頂を指さしながら、思わず呟く。その山頂には、ここから見てもわかるほどの大樹が三本生えている。とてもではないが、あの頂が巨人だとは信じられない。
「そうなんじゃ。儂らも信じたくはないが・・・あの山は動き出すんじゃ」
そう告げると、老人―彼は村の長老でもあった―は巨人について、語り始めた。あの巨人は、今から二ヶ月ほど前に突然現れたこと。次に、普段は山の一部にとけ込んでおり、近くに誰かがやってきても全く反応せず、普段は無害であること。ただ、満月の夜になるとあの態勢を解いて暴れ回ると言うこと。次の満月は、今日の夜であること。溶け込んでいるときは無敵なのか、討伐しようとしても傷一つつかないことであった。
「まだ村に直接の害が出ているわけではないが、村の近くまで来たことはあってな。これから先、村に被害が出る可能性は大いにあると言えるじゃろう」
老人は、グレンたち三人にそう告げた。
「困っている人を見過ごしたくないし、わたしは何とかしようと思います」
真っ先にそう告げたのは、ウェンディだった。
「ただ、確かに一人だと危険かもしれません。もしよろしければ、一緒に手伝ってもらってもよろしいでしょうか?」
ウェンディは、グレンたちに尋ねる。
「おれは手伝いたいんだけど・・・」
そう答えると、マックスはグレンに尋ねる。
「時間はあるかな、じっちゃん?」
一刻も早く、ドーマを倒す。それが、ヨハンたちがこの村へとやってきた目的である。一方で、マックスもウェンディと同様、困っている人を見過ごせない性格であった。
「悩ましいな・・・ただ、できれば見過ごしたくはない」
マックスに尋ねられたグレンも、考え込む表情を取る。グレンも、優しい人間である。困っている人は見過ごしたくないのだ。おまけに、旅の間に多くの怪物に出会ったグレンは、あの巨人の危険性を誰よりも感じていた。
「これを見過ごしていくのも寝覚めが悪いよな?」
悩むグレンに、マックスが言葉をかける。こうして、二人はその巨人を倒すことに同意した。しかし、ヨハンたちにそのことを伝える必要はある。グレンたちは、ひとまず船へと戻ることに決めた。
「他の仲間たちと一緒に相談しようと思うんだ。お前も一緒に来るか?」
マックスが、ウェンディに尋ねる。ウェンディは頷いた。
「もちろん、私も行きます」
「よし、じゃあ一緒に行こうぜ! いいよなじっちゃん?」
グレンも頷いた。こうして、三人と一頭のゴリラは手を振りながら老人と別れ、一旦船へと戻った。
そして、その村の中をグレンとマックスが歩いていた。何故、彼らが歩くことになったか。そこには全く深くない理由があった。見知らぬ他者に怖がられず、友好的に話を進められそうな人間が他にいなかったためだ。
もちろん、リアノやセルモも友好的な人間である。しかし、リアノはキャプテンである。キャサリンたちが去った今、そう簡単に船から出ていくわけにもいかない。セルモも、彼女と離れたがらない非常識なストーカーが一人いたので、船に残ることになったのだ。
しかし、この心配は杞憂だったのかもしれない。二人はそう思い始めていた。何故なら、全く人に出会わないのである。港からもう数分は歩いているが、誰にも出くわさない。何か、あったのだろうか。そう不思議がる二人の耳に、誰かが大声で話している音が聞こえていた。その声には、若干不穏なものが混じっている。
不穏な声を出しているのは、若い女性だった。頭から二本の捻じ曲がった角を生やし、背中から腰に掛けて黒い翼を生やしているドラゴネットのメディオンの女性で、その若い顔立ちは少女と呼んでも差支えがないかもしれない。そして、背に抱えている大きな槍は彼女が冒険者か何かであることを物語っている。グレンとマックスは、名称こそ思い出せなかったものの、その槍に何となく見覚えがあった。
少女は、身振り手振りを交えながら、目の前にいるトロウルの老人に抗議をしていた。
「ですから、なんでダメなんですか?」
「理由を告げることは出来ぬ。じゃが、とにかく危険なのじゃ」
「わたしはこう見えても冒険者です。それなりに腕は立ちます。ですから、多少の危険であれば大丈夫です」
確かに、彼女の槍はかなり使い古されており、彼女が長きにわたり冒険していることが伺える。案外、年齢も高いのかもしれない。と、そんな彼女は突然振り返ると、グレンとマックスの方を向いた。
「そこのお二人さん!」
呼びかけられている。返事を返したのは、マックスであった。
「どうした、なんか騒がしいじゃないか?」
「お二人は冒険者ですか?」
その質問に、二人は顔を見合わせた。考えたことがなかったのである。
「いや、違うな」
しばしの間の後、グレンが呟く。彼の本業は、からくりの研究である。もとはと言えば、そのために旅をしていたのだ。だから、冒険者ではない。グレンはそう考えていた。その言葉を受けてか、マックスも申し訳なさそうに少女に告げる。
「あ、ごめん、おれも多分違うわ。悪い悪い」
「えっ? 違うの?」
少女は、あてが外れたのか動揺した様子を見せた。だが、それも一瞬のことであり、気を取り直した少女は再び口を開いた。
「で、でも二人ともお強いですよね?」
その言葉に、マックスは頷く。
「それはまあ、腕には自信あるよ。なあ、じっちゃん?」
マックスの言葉にグレンが答える。
「まあ、誇るほどじゃないけどな」
その言葉を受けて、少女は再び勢いづいたかのように喋り出した。
「やっぱりお強いですよね! ですから、お二人の強さを見込んでお願いします。このおじさまを説得するの、手伝ってください!」
「あ、私ウェンディって言います。冒険者をやっていて、こう見えてもそれなりに腕には自信があります。で、昨日このアンデラにたどり着いたんですけど、この村の人たち、何かに困っているらしいんですよ。でも、それがなんだか教えてくれないんですよね。どうも、わたし一人だと危険だと思っているみたいで。でも、腕の立つお二人でしたら、わたしがそれなりに強いと言うことは分かると思います」
確かに、ほとんどグレンたちと変わらないくらいの実力を持っていることが、彼女の仕草などからうかがえる。
「たとえばこの槍、見てください! これは邪竜槍ダマーヴァンドと呼ばれる槍で、アジ・ダハーカと呼ばれる邪竜を倒さないと手に入らない槍です。お二方とも、ご存知ですよね?」
グレンとマックスは、思わず顔を見合わせてしまった。良く知っている、どころではない。アジ・ダハーカとはかつて、二度ほど戦ったことがある。どちらもかなり激しい戦いであった。当然、この槍もその時に見ているはずなのだが、槍を扱わない彼らは即座にこれを売ってしまっていたので、彼らの記憶には残らなかったのだった。
「これを持っているってことは、わたしは少なくともアジ・ダハーカくらいであれば倒せるってことです」
確かに、その通りであった。実際、グレンやマックスから見ても、ウェンディの実力は自分たちと遜色ないだろう。
「ちなみに、なんでお前ここにいるんだ? この村の窮状を知って、助けに来たのか?」
そう尋ねたのは、マックスであった。
「そう言うわけではないんですよね。私はもともと旅をしていましたから。ただ単に、旅の途中で困っていた人がいたから、見過ごせなくなってしまっただけです」
そこまで答えると、ウェンディは少し苦笑する。
「ただ、困っている人たちが理由を教えてくれないことには、少しいらいらしていましたけどね」
先ほど、老人と揉めていたのはそれが原因のようだった。ウェンディの目的が分かったことで、マックスは大きく頷き、拳を突き出した。
「なるほど、こいつら困っているのか! だったらこいつら助けてやろうぜ!」
と、そこでマックスは何かに気が付き、言葉を止めた。
「で、何で困っているんだっけ?」
その言葉に、老人が答える。
「そうじゃのう・・・そこのお嬢ちゃんは心配だが、お主たちならやれそうじゃ」
そいつはどうも、と口を挟んだのはグレンであった。グレンは、老人から聞いておきたいことがあった。それは、『海辺の洞穴』に関する情報だ。
「じいさん、この近くに洞窟はないか?」
老人によれば、人がほとんど利用しない洞窟が一つ、街の北にあるとのことであった。
「じゃが、そこは行ってはならぬ洞窟と儂は祖父から教わった。行かないに越したことはないと思うぞ」
グレンに念を押す老人に対し、マックスは答える。
「洞窟に危険な奴がいるのは、おれも知っているんだよ。でも、行かなきゃいけない理由もあるからな」
と、その言葉に対し、ウェンディが反応した。
「ひょっとして、この村を襲っている危険っていうのは、その洞窟のことなの?」
老人は首を横に振った。
「いや、違う。あそこに山があるじゃろう」
老人は、近くにあるリバース山の方を向いた。リバース山には山頂が二つ存在し、ラクダを思わせる形となっている。老人はそのうち、小さい方の山頂を指さした。
「あれが実は巨人なんじゃ」
「えっ?」
驚きのあまり、グレンとマックスは声を出してしまった。それくらい、老人の述べる言葉が突拍子もなかったのだ。
「あれが、巨人?」
マックスは山頂を指さしながら、思わず呟く。その山頂には、ここから見てもわかるほどの大樹が三本生えている。とてもではないが、あの頂が巨人だとは信じられない。
「そうなんじゃ。儂らも信じたくはないが・・・あの山は動き出すんじゃ」
そう告げると、老人―彼は村の長老でもあった―は巨人について、語り始めた。あの巨人は、今から二ヶ月ほど前に突然現れたこと。次に、普段は山の一部にとけ込んでおり、近くに誰かがやってきても全く反応せず、普段は無害であること。ただ、満月の夜になるとあの態勢を解いて暴れ回ると言うこと。次の満月は、今日の夜であること。溶け込んでいるときは無敵なのか、討伐しようとしても傷一つつかないことであった。
「まだ村に直接の害が出ているわけではないが、村の近くまで来たことはあってな。これから先、村に被害が出る可能性は大いにあると言えるじゃろう」
老人は、グレンたち三人にそう告げた。
「困っている人を見過ごしたくないし、わたしは何とかしようと思います」
真っ先にそう告げたのは、ウェンディだった。
「ただ、確かに一人だと危険かもしれません。もしよろしければ、一緒に手伝ってもらってもよろしいでしょうか?」
ウェンディは、グレンたちに尋ねる。
「おれは手伝いたいんだけど・・・」
そう答えると、マックスはグレンに尋ねる。
「時間はあるかな、じっちゃん?」
一刻も早く、ドーマを倒す。それが、ヨハンたちがこの村へとやってきた目的である。一方で、マックスもウェンディと同様、困っている人を見過ごせない性格であった。
「悩ましいな・・・ただ、できれば見過ごしたくはない」
マックスに尋ねられたグレンも、考え込む表情を取る。グレンも、優しい人間である。困っている人は見過ごしたくないのだ。おまけに、旅の間に多くの怪物に出会ったグレンは、あの巨人の危険性を誰よりも感じていた。
「これを見過ごしていくのも寝覚めが悪いよな?」
悩むグレンに、マックスが言葉をかける。こうして、二人はその巨人を倒すことに同意した。しかし、ヨハンたちにそのことを伝える必要はある。グレンたちは、ひとまず船へと戻ることに決めた。
「他の仲間たちと一緒に相談しようと思うんだ。お前も一緒に来るか?」
マックスが、ウェンディに尋ねる。ウェンディは頷いた。
「もちろん、私も行きます」
「よし、じゃあ一緒に行こうぜ! いいよなじっちゃん?」
グレンも頷いた。こうして、三人と一頭のゴリラは手を振りながら老人と別れ、一旦船へと戻った。
「どうだった?」
船に戻ったグレンたちに、マリアンナが話しかけてきた。近くには、ヨハンたちもいる。グレンたちはまず、事情を話すことにした。
「鎧の兄ちゃん、あの山が巨人だって、信じられるか?」
全て話し終えた後、マックスがヨハンに尋ねる。流石のヨハンも、動揺しているようであった。だが、その一方で、一人楽しそうな表情をしている人物がいた。マリアンナだ。
「なかなか楽しそうな話題じゃないか。巨人だよ? 巨人と戦えるなんて、そうはないじゃないか」
マリアンナの言葉に、ヨハンが冷静に返す。
「おれは、あなたと違って、人類なんですよ」
「でも兄ちゃん、山みたいな巨人だぜ? 楽しくなってこないか?」
そう言ったのは、マックスだ。その言葉に、マリアンナは頷いた。
「わたしもこう見えて、若いころは山を破壊しようと修行していた時期もあったからね。で、その巨人みたいなやつ、あの山のどの部分だって?」
マリアンナは、皆に指摘された場所を見た。と、その顔が少し険しいものになる。
「これはひょっとすると、嫌な予感がするなあ。あの、三本の木が生えている方でしょ?」
マリアンナが、皆に尋ねる。その返答を聞いて、マリアンナの表情は更に険しいものになった。
「あの山の形、あれは本の記述と照らし合わせると、『大地震撼』ダイダーラにそっくりなんだよね」
ヨハンたちは顔を見合わせることになった。やがて、巨人の存在に対し、珍しく弱気になっていたヨハンが口を開く。
「非常に本当に全く持って、不本意で無念で痛切極まりないんだが、ルーファス関係なら・・・」
「戦うしかないってことだな」
グレンが途中から言葉を続ける。他のみんなも、そう感じていた。だが、ここでそれに待ったをかけたのは、先ほどまで誰よりも巨人と戦いたがっていたマリアンナであった。
「この村に明日ダイダーラが襲ってくる。そして、私たちはドーマを倒すため『海辺の洞穴』に行く必要がある。ダイダーラを倒してから洞穴に行きたいんだが・・・問題がある。ダイダーラは魔族だ。従って、神託の結果を信じるのであれば、ドーマに出会う前にヤツとの戦いが始まってしまうと、ドーマが逃げてしまう恐れがある。そうならないように、我々は工夫しなければならない」
マリアンナはどうやら、何か考えがあるようだった。皆、マリアンナの考えを聞くべく彼女に視線を向ける。
「なので、我々の戦略は簡単だ」
マリアンナの口ぶりは、その日の買い物の予定を復唱するかのように、軽かった。
「今すぐにでも船を出して、『海辺の洞穴』を見つけにいく。発見したらすぐに中に入ってドーマを倒す。そして、返す刀でダイダーラを倒す。これで完璧だ」
ただの力押しであった。あまりに単純明快な策に、マックスは腹を抱えて笑っている。その横で、ヨハンが突っ込んだ。
「ちょっと待ってくれ、マリアンナ。おれは『常識的な』人間だからよくわからないんだが、『六傑』の面々ってのは、そんなあっさり倒せるのか?」
マリアンナは少し考え込んだ後、答えた。
「なに、大丈夫だろう。ドーマは『六傑』の中でも支援要因だと言われている」
「いや、待ってくれよ。支援要員っていうけど、セルモさんもグレンのじっちゃんも、どっちも強いじゃないか!」
「そうだそうだ、二人とも、ドラゴンを一人で倒しているんだぞ」
マックスとヨハンが、次々に抗議の声を上げる。マリアンナはそんな二人に対し、腕を組みながら答える。
「確かに」
思わず苦笑するヨハンたちに、続けて話す。
「だが、やるしかないだろう。時間もない」
こうしてヨハンたちは、万一の場合に備えて村に残ると告げたウェンディを残し、急ぎ『海辺の洞穴』へと向かうことになった。
「悪いなウェンディ。一緒に戦いたいのはやまやまなんだけど、おれたちにもやらなきゃいけないことがあって」
マックスが、申し訳なさそうにウェンディに告げる。
「気にしないでよ。それに、私は一つ切り札があるんだ。大丈夫だよ」
ウェンディは、軽く親指を立てた。
「すげぇな、流石! 根性あるぜ。なあ、デストラクション!」
マックスが、傍らにいるゴリラに語りかける。ゴリラは、ウェンディを鼓舞するかのように激しく自分の胸を叩いた。
「何かあったら、このドラミングを思い出せ!」
ゴリラはその通りだと言わんばかりにひときわ強く胸を叩き、弾け去った。
「よし、これで大丈夫だ。お前ならやれる!」
「もちろん、任せといてよ。そっちもちゃんとやってきてね」
そう告げると、ウェンディはマックスに軽くウィンクした。
船に戻ったグレンたちに、マリアンナが話しかけてきた。近くには、ヨハンたちもいる。グレンたちはまず、事情を話すことにした。
「鎧の兄ちゃん、あの山が巨人だって、信じられるか?」
全て話し終えた後、マックスがヨハンに尋ねる。流石のヨハンも、動揺しているようであった。だが、その一方で、一人楽しそうな表情をしている人物がいた。マリアンナだ。
「なかなか楽しそうな話題じゃないか。巨人だよ? 巨人と戦えるなんて、そうはないじゃないか」
マリアンナの言葉に、ヨハンが冷静に返す。
「おれは、あなたと違って、人類なんですよ」
「でも兄ちゃん、山みたいな巨人だぜ? 楽しくなってこないか?」
そう言ったのは、マックスだ。その言葉に、マリアンナは頷いた。
「わたしもこう見えて、若いころは山を破壊しようと修行していた時期もあったからね。で、その巨人みたいなやつ、あの山のどの部分だって?」
マリアンナは、皆に指摘された場所を見た。と、その顔が少し険しいものになる。
「これはひょっとすると、嫌な予感がするなあ。あの、三本の木が生えている方でしょ?」
マリアンナが、皆に尋ねる。その返答を聞いて、マリアンナの表情は更に険しいものになった。
「あの山の形、あれは本の記述と照らし合わせると、『大地震撼』ダイダーラにそっくりなんだよね」
ヨハンたちは顔を見合わせることになった。やがて、巨人の存在に対し、珍しく弱気になっていたヨハンが口を開く。
「非常に本当に全く持って、不本意で無念で痛切極まりないんだが、ルーファス関係なら・・・」
「戦うしかないってことだな」
グレンが途中から言葉を続ける。他のみんなも、そう感じていた。だが、ここでそれに待ったをかけたのは、先ほどまで誰よりも巨人と戦いたがっていたマリアンナであった。
「この村に明日ダイダーラが襲ってくる。そして、私たちはドーマを倒すため『海辺の洞穴』に行く必要がある。ダイダーラを倒してから洞穴に行きたいんだが・・・問題がある。ダイダーラは魔族だ。従って、神託の結果を信じるのであれば、ドーマに出会う前にヤツとの戦いが始まってしまうと、ドーマが逃げてしまう恐れがある。そうならないように、我々は工夫しなければならない」
マリアンナはどうやら、何か考えがあるようだった。皆、マリアンナの考えを聞くべく彼女に視線を向ける。
「なので、我々の戦略は簡単だ」
マリアンナの口ぶりは、その日の買い物の予定を復唱するかのように、軽かった。
「今すぐにでも船を出して、『海辺の洞穴』を見つけにいく。発見したらすぐに中に入ってドーマを倒す。そして、返す刀でダイダーラを倒す。これで完璧だ」
ただの力押しであった。あまりに単純明快な策に、マックスは腹を抱えて笑っている。その横で、ヨハンが突っ込んだ。
「ちょっと待ってくれ、マリアンナ。おれは『常識的な』人間だからよくわからないんだが、『六傑』の面々ってのは、そんなあっさり倒せるのか?」
マリアンナは少し考え込んだ後、答えた。
「なに、大丈夫だろう。ドーマは『六傑』の中でも支援要因だと言われている」
「いや、待ってくれよ。支援要員っていうけど、セルモさんもグレンのじっちゃんも、どっちも強いじゃないか!」
「そうだそうだ、二人とも、ドラゴンを一人で倒しているんだぞ」
マックスとヨハンが、次々に抗議の声を上げる。マリアンナはそんな二人に対し、腕を組みながら答える。
「確かに」
思わず苦笑するヨハンたちに、続けて話す。
「だが、やるしかないだろう。時間もない」
こうしてヨハンたちは、万一の場合に備えて村に残ると告げたウェンディを残し、急ぎ『海辺の洞穴』へと向かうことになった。
「悪いなウェンディ。一緒に戦いたいのはやまやまなんだけど、おれたちにもやらなきゃいけないことがあって」
マックスが、申し訳なさそうにウェンディに告げる。
「気にしないでよ。それに、私は一つ切り札があるんだ。大丈夫だよ」
ウェンディは、軽く親指を立てた。
「すげぇな、流石! 根性あるぜ。なあ、デストラクション!」
マックスが、傍らにいるゴリラに語りかける。ゴリラは、ウェンディを鼓舞するかのように激しく自分の胸を叩いた。
「何かあったら、このドラミングを思い出せ!」
ゴリラはその通りだと言わんばかりにひときわ強く胸を叩き、弾け去った。
「よし、これで大丈夫だ。お前ならやれる!」
「もちろん、任せといてよ。そっちもちゃんとやってきてね」
そう告げると、ウェンディはマックスに軽くウィンクした。
ヨハンたちが『海辺の洞穴』を見つけたのは、その日の夕方のことである。日没まで、およそ一時間と言ったところであろうか。
「不味いな」
マリアンナが、口を開いた。このまま、ドーマを探し出して倒すことが目標である。しかし、今からドーマを探し出して倒すとなると、村に戻る前にダイダーラが動き出してしまう。村にはウェンディが残っているとはいえ、一人で『六傑』と戦わせるのは不安であった。
ヨハンたちは軽く話し合い、結果としてヨハンたち六人とティボルトだけがこの場に残り、他の面々はダイダーラに備えるため村に戻ることとなった。いくら洞穴とは言え、今から村に戻るまでの間にドーマのもとにたどり着けるだろう。ヨハンたちはそう考えたのである。
そして、船に戻るマリアンナたちを見送ると、ヨハンたちは大急ぎで洞穴に侵入することとなった。
「不味いな」
マリアンナが、口を開いた。このまま、ドーマを探し出して倒すことが目標である。しかし、今からドーマを探し出して倒すとなると、村に戻る前にダイダーラが動き出してしまう。村にはウェンディが残っているとはいえ、一人で『六傑』と戦わせるのは不安であった。
ヨハンたちは軽く話し合い、結果としてヨハンたち六人とティボルトだけがこの場に残り、他の面々はダイダーラに備えるため村に戻ることとなった。いくら洞穴とは言え、今から村に戻るまでの間にドーマのもとにたどり着けるだろう。ヨハンたちはそう考えたのである。
そして、船に戻るマリアンナたちを見送ると、ヨハンたちは大急ぎで洞穴に侵入することとなった。
一方その頃、その洞穴の最深部で、ドーマがため息をついていた
「やれやれ、ダイダーラのやつ。何故辛抱できんのだ。ここで暴れて、騒ぎになったらどうするつもりなんだ。万一、ゲイムの警戒している連中に倒されても見ろ、おれがまた復活させなければならんのだ。あいつを復活させるのは面倒なのに」
「でも、ダイダーラの気持ちにもなってみてくだサイタマ」
そう答えたのは、犬のような顔をした真っ赤な男である。ヴァーナのアウリルとは違って、純粋に犬のような面をしている。
「ダイダーラは僕やドーマみたいに小さくないわけだサイタマ。だから、背中がかゆかったり、ちょっと背伸びしたかったりしても全くできないんだサイタマ。だから、月に一度くらいは動かないと、ストレスで死んじゃうんだサイタマ」
「しかしだ、ミスター・チーバ。ものには限度と言うものがあるだろう。なんでわざわざあんな村の近くまで行きたくなってしまうのか。お蔭で、何かあった時のために、おれがそばにいなきゃいけないじゃないか」
「早くディアブロスを見つけるといいんだサイタマ。昔は、ダイダーラに何かあった時は、ディアブロスがなだめていたんだサイタマ。あいつを見つけられたら、あいつをお目付け役にすればいいから、こんな危ないところにいなくてすむんだサイタマ」
「ああ、ホントだよ。ディアブロスがいてくれれば・・・だが、アイツの墓の話はしただろう、ミスター・チーバ?」
「お墓の中にいなかったって話だったサイタマ」
ミスター・チーバの発言にドーマが頷く。
「ああ、何でかはわからんが、あいつだけ墓の中にいなかった。あいつは最後まで生き残っていたから、死を偽装した可能性もなくはないが・・・とはいえ、アイツはドラゴンだ。あんな巨体でばれないわけがない。現実的な考えとしては、アイツがドラゴンだってことから、どっかのバカなネクロマンサーが遺体を掘り返したってあたりか? まあ、とは言えあいつは無駄に正義感が強くて、面倒な奴だったからなあ。いなきゃいないで、問題はなかろう」
ドーマの発言に、ミスター・チーバは肩をすくめる。
「確かに、ディアブロスは見かけに反して弱気な奴だったサイタマ。誰かを殺そうとするとすぐ反対するから、アイツがいると物事が進みにくかったのは事実だサイタマ」
と、そこでミスター・チーバは顔を顰めた。
「どうした? ミスター・チーバ?」
ドーマが尋ねる。ミスター・チーバはけげんな表情で答える。
「いや、ちょっと嗅ぎなれない匂いがしたんだサイタマ。ただ、この基地はばっちり偽装しているはずだから、そう簡単に誰かが侵入してくることもないはずなんだサイタマ」
そう告げると、ミスター・チーバは部屋の外を見て驚きの声を上げた。そこに、見知らぬ人間がいたのである。そう、ヨハンたちであった。
「やれやれ、ダイダーラのやつ。何故辛抱できんのだ。ここで暴れて、騒ぎになったらどうするつもりなんだ。万一、ゲイムの警戒している連中に倒されても見ろ、おれがまた復活させなければならんのだ。あいつを復活させるのは面倒なのに」
「でも、ダイダーラの気持ちにもなってみてくだサイタマ」
そう答えたのは、犬のような顔をした真っ赤な男である。ヴァーナのアウリルとは違って、純粋に犬のような面をしている。
「ダイダーラは僕やドーマみたいに小さくないわけだサイタマ。だから、背中がかゆかったり、ちょっと背伸びしたかったりしても全くできないんだサイタマ。だから、月に一度くらいは動かないと、ストレスで死んじゃうんだサイタマ」
「しかしだ、ミスター・チーバ。ものには限度と言うものがあるだろう。なんでわざわざあんな村の近くまで行きたくなってしまうのか。お蔭で、何かあった時のために、おれがそばにいなきゃいけないじゃないか」
「早くディアブロスを見つけるといいんだサイタマ。昔は、ダイダーラに何かあった時は、ディアブロスがなだめていたんだサイタマ。あいつを見つけられたら、あいつをお目付け役にすればいいから、こんな危ないところにいなくてすむんだサイタマ」
「ああ、ホントだよ。ディアブロスがいてくれれば・・・だが、アイツの墓の話はしただろう、ミスター・チーバ?」
「お墓の中にいなかったって話だったサイタマ」
ミスター・チーバの発言にドーマが頷く。
「ああ、何でかはわからんが、あいつだけ墓の中にいなかった。あいつは最後まで生き残っていたから、死を偽装した可能性もなくはないが・・・とはいえ、アイツはドラゴンだ。あんな巨体でばれないわけがない。現実的な考えとしては、アイツがドラゴンだってことから、どっかのバカなネクロマンサーが遺体を掘り返したってあたりか? まあ、とは言えあいつは無駄に正義感が強くて、面倒な奴だったからなあ。いなきゃいないで、問題はなかろう」
ドーマの発言に、ミスター・チーバは肩をすくめる。
「確かに、ディアブロスは見かけに反して弱気な奴だったサイタマ。誰かを殺そうとするとすぐ反対するから、アイツがいると物事が進みにくかったのは事実だサイタマ」
と、そこでミスター・チーバは顔を顰めた。
「どうした? ミスター・チーバ?」
ドーマが尋ねる。ミスター・チーバはけげんな表情で答える。
「いや、ちょっと嗅ぎなれない匂いがしたんだサイタマ。ただ、この基地はばっちり偽装しているはずだから、そう簡単に誰かが侵入してくることもないはずなんだサイタマ」
そう告げると、ミスター・チーバは部屋の外を見て驚きの声を上げた。そこに、見知らぬ人間がいたのである。そう、ヨハンたちであった。
ヨハンたちの目の前で、赤い体をした犬面の男が驚きの声を上げている。と、男の叫び声に反応したのか、近くにある部屋から、骸骨のような顔をした男が一人現れた。この男こそ、ドーマであろう。
「侵入者だな」
ドーマが、ヨハンたちの方を向いて告げる。
「違います」
ヨハンが即答した。
「僕たちはコロポックルです」
ヨハンの言葉に、犬面の男が安心したような声を上げる。
「なら大丈夫だサイタマ。こいつら、コロポックルって言っているサイタマ」
「待て、ミスター・チーバ。どう考えても敵だろうこいつらは!」
ドーマが、ミスター・チーバに突っ込みを入れた。ミスター・チーバが驚きの表情を浮かべる。
「驚いたサイタマ。こいつらが、侵入者なのカスカベ?」
ミスター・チーバが、尋ねる。
「おそらくそうだ。そして、ゲイムの話していた七人組は、こいつらに違いない」
「七人組って・・・まさか、ヨハンたちカスカベ?」
ミスター・チーバの言葉に、ヨハンは返す。
「確かに、おれはヨハンって名前だが、君たちが捜しているのは別のヨハンかもしれない」
「確かに、それはそうかもしれなイルマ」
大きく頷くミスター・チーバに対し、ドーマが疲れたような声を上げた。
「まあ待て、おれの意見も聞け。目つきの悪い痩せた男がヨハン。怖そうな雰囲気の剣士がサラサ。苦労してそうな男がグレン。鞭を持っているのがキャプテン・リアノ、弓使いのゴリラが・・・違う。弓使いのマックスがゴリラ。それから、ストーカーに付きまとわれているセルモ。これがおれたちの相手だろう」
どうだ、とドーマがミスター・チーバに告げる。でも、と声を上げたのはセルモだ。
「それだと、六人しかいないですよね。私たち、七人組なんですけど」
「ストーカーとお前はセットだ」
ドーマの言葉の横で、ミスター・チーバがため息をつく
「なんか、同情したい奴が何人かいるサイタマ」
「お前に同情されたくないわ!」
マックスが即座に言い返す。その反応にむっとしたミスター・チーバに近寄る者があった。リアノだ。
「ところで、一つ聞きたいんだけど。あなたたちは、『魔王』ルーファスを復活させようとしているの?」
リアノの言葉に、ミスター・チーバは文字通り飛び上がった。
「な、なんでお前はそんな秘密を知っているんだサイタマ?」
「そりゃ、おれたちの敵なんだから知っていて当たり前だろう」
ドーマが、相変わらずの疲れた声でミスター・チーバに告げる。ミスター・チーバはその言葉に大きく頷いた。
「その通りだサイタマ・・・さて、お前たち。ここであったのが運の尽きだサイタマ。この災蛇魔拳『ミスター・チーバ』の真の力、見せてやろウラワ!」
ミスター・チーバが身構える。
「お前たち、降伏するなら今のうちだぞ」
ドーマもゆっくりと告げる。
「本気を出したミスター・チーバは、すべてのものを破壊して回るからな。そしてなにより、このおれ。『虚無術師』ドーマ様が相手をするのだ。勝てると思うか?」
その言葉に、ヨハンが重々しく頷いた。
「勝てるさ。お前もミスター・チーバもここから出してはいけない存在だ。必ず、お前たちを倒す。」
こうして、戦いが始まった。
「侵入者だな」
ドーマが、ヨハンたちの方を向いて告げる。
「違います」
ヨハンが即答した。
「僕たちはコロポックルです」
ヨハンの言葉に、犬面の男が安心したような声を上げる。
「なら大丈夫だサイタマ。こいつら、コロポックルって言っているサイタマ」
「待て、ミスター・チーバ。どう考えても敵だろうこいつらは!」
ドーマが、ミスター・チーバに突っ込みを入れた。ミスター・チーバが驚きの表情を浮かべる。
「驚いたサイタマ。こいつらが、侵入者なのカスカベ?」
ミスター・チーバが、尋ねる。
「おそらくそうだ。そして、ゲイムの話していた七人組は、こいつらに違いない」
「七人組って・・・まさか、ヨハンたちカスカベ?」
ミスター・チーバの言葉に、ヨハンは返す。
「確かに、おれはヨハンって名前だが、君たちが捜しているのは別のヨハンかもしれない」
「確かに、それはそうかもしれなイルマ」
大きく頷くミスター・チーバに対し、ドーマが疲れたような声を上げた。
「まあ待て、おれの意見も聞け。目つきの悪い痩せた男がヨハン。怖そうな雰囲気の剣士がサラサ。苦労してそうな男がグレン。鞭を持っているのがキャプテン・リアノ、弓使いのゴリラが・・・違う。弓使いのマックスがゴリラ。それから、ストーカーに付きまとわれているセルモ。これがおれたちの相手だろう」
どうだ、とドーマがミスター・チーバに告げる。でも、と声を上げたのはセルモだ。
「それだと、六人しかいないですよね。私たち、七人組なんですけど」
「ストーカーとお前はセットだ」
ドーマの言葉の横で、ミスター・チーバがため息をつく
「なんか、同情したい奴が何人かいるサイタマ」
「お前に同情されたくないわ!」
マックスが即座に言い返す。その反応にむっとしたミスター・チーバに近寄る者があった。リアノだ。
「ところで、一つ聞きたいんだけど。あなたたちは、『魔王』ルーファスを復活させようとしているの?」
リアノの言葉に、ミスター・チーバは文字通り飛び上がった。
「な、なんでお前はそんな秘密を知っているんだサイタマ?」
「そりゃ、おれたちの敵なんだから知っていて当たり前だろう」
ドーマが、相変わらずの疲れた声でミスター・チーバに告げる。ミスター・チーバはその言葉に大きく頷いた。
「その通りだサイタマ・・・さて、お前たち。ここであったのが運の尽きだサイタマ。この災蛇魔拳『ミスター・チーバ』の真の力、見せてやろウラワ!」
ミスター・チーバが身構える。
「お前たち、降伏するなら今のうちだぞ」
ドーマもゆっくりと告げる。
「本気を出したミスター・チーバは、すべてのものを破壊して回るからな。そしてなにより、このおれ。『虚無術師』ドーマ様が相手をするのだ。勝てると思うか?」
その言葉に、ヨハンが重々しく頷いた。
「勝てるさ。お前もミスター・チーバもここから出してはいけない存在だ。必ず、お前たちを倒す。」
こうして、戦いが始まった。
「お前たちに、『カスカベの奇跡』を見せてやろウラワ!」
戦いの始まりと同時に、ミスター・チーバが目をつむる。
「今日はこいつだサイタマ!」
その言葉と同時に、ミスター・チーバのただでさえ真っ赤な拳が、更に赤く光り出す。
その拳の危険性に真っ先に気が付いたのは、グレンだった。長年の旅で培ってきた経験をもとに、グレンはドーマとミスター・チーバの戦力を分析していた。
あの拳はヤバい。グレンの判断に、ミスター・チーバが感心する。
「ほう、この『房総の拳』の危険性に気が付くとは、なかなかできる奴だサイタマ」
なんだ、そのネーミングは。誰もがそう思った。だが、うかつに笑うこともできない。それほどの力を秘めていた。ヨハンたちは、グレンの指示によってヨハンを残し、全員が大きく下がった。マックスの弓が、どうにかドーマに届くかと言った距離である。
「くくく・・・更に。このサイタマ最大の壁『チチブ』!」
ミスター・チーバの声とともに、ミスター・チーバの周囲に障壁が誕生する。これが、『チチブ』なのだろうか。
「この壁は特殊な壁だサイタマ。お前らの攻撃はほぼこれで通らないサイタマ」
おまけに、高笑いするサイタマの横にはドーマがいた。
「おれを忘れるなよ」
ドーマが杖を掲げると同時に高度な魔術が放たれる。圧倒的な範囲に広がる《フレイムクラック》だ。この攻撃が、大きく後退していたサラサたちの周囲に襲い掛かる。だが、サラサたちも負けてはいない。
リアノとマックス、身軽な二人は普通の人間なら回避することが許されないこの攻撃を、わずかな隙間をぬって避ける。
「ちっ。だが、残りの三人には当たるだろう」
確かに、サラサ、グレン、セルモの三人はこの魔術を避けることはできそうもなかった。だが、魔術が広がる直前に、サラサたちの前にゼンマイガーが現れ、皆をかばう。そこに、ゼンマイガー本人の障壁とセルモの魔術が加わり、ゼンマイガーはこの攻撃を耐えきることとなる。
「ちっ」
ドーマが再び舌打ちする。
「だが、おれの魔術はもう一発あるぞ」
ドーマが再び杖を掲げる。今度の《フレイムクラック》は、誰も避けることができなかった。やむを得ず、ゼンマイガーがセルモをかばい、セルモの指示を受けたサラサがグレンをかばう。体力に余裕のあるサラサはまだしも、先ほどドーマの一撃を受けたゼンマイガーがこの攻撃を受け止めることは不可能に近かった。だが、グレンが適切な指示を飛ばし、ゼンマイガーはこの攻撃を耐えきることに成功する。こうして、ヨハンたちはドーマの魔術を耐えきった。だが、被害は大きい。サラサとゼンマイガーは大きな被害を受けているし、リアノとマックスは《フレイムクラック》の影響で、その場から動きが取れなくなってしまった。
「おれの魔術を耐えきられたことは想定外だが、お前たちもいつもの様には動けまい」
ドーマが高らかに述べると、リアノの方を向く。
「お前の鞭が攻撃の起点になっていることは知っている。だが、遠くに下がった挙句《フレイムクラック》で身動きが取れない今、何もすることはないだろう。残念だったな」
しかし、リアノはドーマの言葉に首を横に振った。
「手はある。切り札を使えばいい」
そう述べると、リアノは傍らのウェポンケースから一振りの太刀を抜きだした。その真意を理解したセルモが素早く魔術を唱え、リアノとサラサ、そしてマックスの攻撃力を底上げする。
「なんだ、その太刀は?」
ドーマが疑問に満ちた声をあげる。リアノが、その場で太刀を振った。そのひと振りは空間をゆがめ、遠くにいるドーマとミスター・チーバに降り注ぐ。おまけに、その攻撃にグレンとセルモが支援を乗せる。
「なんだと?」
その攻撃を想定していなかったドーマであったが、とっさに魔術で応戦しようとする・・・が、リアノたちの居る場所までの距離は遠く反撃の魔術はリアノに届かない。やむを得ず避けようとするも、リアノの攻撃をかわせるわけもない。まともに攻撃が命中する。更に、堅い防御壁である『チチブ』を貫きミスター・チーバまで届いた攻撃が、ドーマに打撃を与えないはずがない。たちまちのうちに、ドーマの体はぼろぼろになった。
そこに、マックスの放った矢が降り注ぐ。
「この野郎、ぶち殺してやるぜ!」
マックスの言葉が通じたのか、ドーマが倒れる。だが、わずかな間の後、ドーマは何事もなかったかのように起き上った。この力こそが、ドーマが『虚無術士』たる所以である。
「どうだ、恐れ入ったか」
復活したドーマが、ヨハンたちに話しかける。だが、そこに再びマックスの矢が襲い掛り、ドーマは再び倒れる。
「ど、どうだ、恐れ入ったか・・・」
再びドーマが起き上がる。だが、そのすぐそばに一人の剣士が急接近していた。サラサだ。飛ぶような勢いでドーマの近くにやってきたサラサは、刀を続けざまに振るう。ドーマは反撃の魔術を放つものの、ヨハンがサラサをかばい、攻撃はほとんど通らない。
「ば、馬鹿な・・・」
サラサの刀を受けたドーマが倒れる。
「だが、おれの命はまだ・・・」
そう言って起き上がろうとするドーマの眉間に、リアノの短剣が刺さる。再びドーマは倒れ、もう起き上がってくることはなかった。
「ドーマを倒すとは・・・お前たち、許サイタマ! 『ウラワ七拳』、『ウラワ!』」
ミスター・チーバの房総の拳がヨハンとサラサを襲う。ヨハンはいつものようにサラサをかばった。ヨハンが作成し、今も身に付けている首飾りは、並大抵の攻撃であれば無力化させることができる。先ほどのドーマの攻撃ですら、ほとんどヨハン本人に打撃は入らなかった。だが、ミスター・チーバが放つ房総の拳は、並大抵の一撃ではなかった。拳を受けたヨハンが、一撃で昏倒する。
「どうだサイタマ! もう一発くらえサイタマ!」
「ふざけんじゃねえ! よくもヨハンの兄ちゃんを!」
マックスの怒りの一撃が、ミスター・チーバの拳を逸らし、サラサへの攻撃を無効化する。
「なかなかやるやつだサイタマ」
攻撃を逸らされたミスター・チーバが唸る。とは言え、依然として房総の拳が危険であることに変わりはない。一か所に固まっていたグレンたちは散開し、攻撃に対する被害を最小限に抑えようとする。
「なるほど・・・だが、この房総の拳が全てを薙ぎ払ってくれるサイタマ!」
ミスター・チーバが拳を構える。と、今度はその拳が青く光り出す。
「くくく、『カスカベの奇跡』の力、思い知らせてくれよう」
この拳の力は強力なものだった。その身がとても身軽になり、通常よりはるかに相手の攻撃を回避しやすくなると言ったものだ。
だが、ミスター・チーバは油断していた。その場には、彼女がいた。キャプテン・リアノだ。
リアノが鞭を振う。複雑な起動で襲い掛かる鞭は、いくら攻撃を回避しやすくなったミスター・チーバと言えどもかわすことは不可能であった。おまけに、その鞭の不思議な力がミスター・チーバの体力を奪い、『チチブ』を弱体化させる。
「よくもおいらを怒らせてくれたサイタマ!」
ミスター・チーバが怒りの表情でリアノを見つめる。
「くらえ、『ウラワ七拳』、『キタウラワ!』」
ミスター・チーバの房総の拳が唸る。リアノはこの攻撃を回避しようとするが、避けきれず昏倒してしまった。
「はっはっは、これがおれをバカにした罰だサイタマ!」
ミスター・チーバが高らかに笑う。
「この野郎・・・ぶっ潰す!」
マックスの目に、怒りが満ちる。だが、マックスが動くより先に、動いたものがあった。サラサだ。刀が一閃したかと思うと、ミスター・チーバの体が崩れ落ちていった。こうして、戦いは終わりを告げた。
戦いの始まりと同時に、ミスター・チーバが目をつむる。
「今日はこいつだサイタマ!」
その言葉と同時に、ミスター・チーバのただでさえ真っ赤な拳が、更に赤く光り出す。
その拳の危険性に真っ先に気が付いたのは、グレンだった。長年の旅で培ってきた経験をもとに、グレンはドーマとミスター・チーバの戦力を分析していた。
あの拳はヤバい。グレンの判断に、ミスター・チーバが感心する。
「ほう、この『房総の拳』の危険性に気が付くとは、なかなかできる奴だサイタマ」
なんだ、そのネーミングは。誰もがそう思った。だが、うかつに笑うこともできない。それほどの力を秘めていた。ヨハンたちは、グレンの指示によってヨハンを残し、全員が大きく下がった。マックスの弓が、どうにかドーマに届くかと言った距離である。
「くくく・・・更に。このサイタマ最大の壁『チチブ』!」
ミスター・チーバの声とともに、ミスター・チーバの周囲に障壁が誕生する。これが、『チチブ』なのだろうか。
「この壁は特殊な壁だサイタマ。お前らの攻撃はほぼこれで通らないサイタマ」
おまけに、高笑いするサイタマの横にはドーマがいた。
「おれを忘れるなよ」
ドーマが杖を掲げると同時に高度な魔術が放たれる。圧倒的な範囲に広がる《フレイムクラック》だ。この攻撃が、大きく後退していたサラサたちの周囲に襲い掛かる。だが、サラサたちも負けてはいない。
リアノとマックス、身軽な二人は普通の人間なら回避することが許されないこの攻撃を、わずかな隙間をぬって避ける。
「ちっ。だが、残りの三人には当たるだろう」
確かに、サラサ、グレン、セルモの三人はこの魔術を避けることはできそうもなかった。だが、魔術が広がる直前に、サラサたちの前にゼンマイガーが現れ、皆をかばう。そこに、ゼンマイガー本人の障壁とセルモの魔術が加わり、ゼンマイガーはこの攻撃を耐えきることとなる。
「ちっ」
ドーマが再び舌打ちする。
「だが、おれの魔術はもう一発あるぞ」
ドーマが再び杖を掲げる。今度の《フレイムクラック》は、誰も避けることができなかった。やむを得ず、ゼンマイガーがセルモをかばい、セルモの指示を受けたサラサがグレンをかばう。体力に余裕のあるサラサはまだしも、先ほどドーマの一撃を受けたゼンマイガーがこの攻撃を受け止めることは不可能に近かった。だが、グレンが適切な指示を飛ばし、ゼンマイガーはこの攻撃を耐えきることに成功する。こうして、ヨハンたちはドーマの魔術を耐えきった。だが、被害は大きい。サラサとゼンマイガーは大きな被害を受けているし、リアノとマックスは《フレイムクラック》の影響で、その場から動きが取れなくなってしまった。
「おれの魔術を耐えきられたことは想定外だが、お前たちもいつもの様には動けまい」
ドーマが高らかに述べると、リアノの方を向く。
「お前の鞭が攻撃の起点になっていることは知っている。だが、遠くに下がった挙句《フレイムクラック》で身動きが取れない今、何もすることはないだろう。残念だったな」
しかし、リアノはドーマの言葉に首を横に振った。
「手はある。切り札を使えばいい」
そう述べると、リアノは傍らのウェポンケースから一振りの太刀を抜きだした。その真意を理解したセルモが素早く魔術を唱え、リアノとサラサ、そしてマックスの攻撃力を底上げする。
「なんだ、その太刀は?」
ドーマが疑問に満ちた声をあげる。リアノが、その場で太刀を振った。そのひと振りは空間をゆがめ、遠くにいるドーマとミスター・チーバに降り注ぐ。おまけに、その攻撃にグレンとセルモが支援を乗せる。
「なんだと?」
その攻撃を想定していなかったドーマであったが、とっさに魔術で応戦しようとする・・・が、リアノたちの居る場所までの距離は遠く反撃の魔術はリアノに届かない。やむを得ず避けようとするも、リアノの攻撃をかわせるわけもない。まともに攻撃が命中する。更に、堅い防御壁である『チチブ』を貫きミスター・チーバまで届いた攻撃が、ドーマに打撃を与えないはずがない。たちまちのうちに、ドーマの体はぼろぼろになった。
そこに、マックスの放った矢が降り注ぐ。
「この野郎、ぶち殺してやるぜ!」
マックスの言葉が通じたのか、ドーマが倒れる。だが、わずかな間の後、ドーマは何事もなかったかのように起き上った。この力こそが、ドーマが『虚無術士』たる所以である。
「どうだ、恐れ入ったか」
復活したドーマが、ヨハンたちに話しかける。だが、そこに再びマックスの矢が襲い掛り、ドーマは再び倒れる。
「ど、どうだ、恐れ入ったか・・・」
再びドーマが起き上がる。だが、そのすぐそばに一人の剣士が急接近していた。サラサだ。飛ぶような勢いでドーマの近くにやってきたサラサは、刀を続けざまに振るう。ドーマは反撃の魔術を放つものの、ヨハンがサラサをかばい、攻撃はほとんど通らない。
「ば、馬鹿な・・・」
サラサの刀を受けたドーマが倒れる。
「だが、おれの命はまだ・・・」
そう言って起き上がろうとするドーマの眉間に、リアノの短剣が刺さる。再びドーマは倒れ、もう起き上がってくることはなかった。
「ドーマを倒すとは・・・お前たち、許サイタマ! 『ウラワ七拳』、『ウラワ!』」
ミスター・チーバの房総の拳がヨハンとサラサを襲う。ヨハンはいつものようにサラサをかばった。ヨハンが作成し、今も身に付けている首飾りは、並大抵の攻撃であれば無力化させることができる。先ほどのドーマの攻撃ですら、ほとんどヨハン本人に打撃は入らなかった。だが、ミスター・チーバが放つ房総の拳は、並大抵の一撃ではなかった。拳を受けたヨハンが、一撃で昏倒する。
「どうだサイタマ! もう一発くらえサイタマ!」
「ふざけんじゃねえ! よくもヨハンの兄ちゃんを!」
マックスの怒りの一撃が、ミスター・チーバの拳を逸らし、サラサへの攻撃を無効化する。
「なかなかやるやつだサイタマ」
攻撃を逸らされたミスター・チーバが唸る。とは言え、依然として房総の拳が危険であることに変わりはない。一か所に固まっていたグレンたちは散開し、攻撃に対する被害を最小限に抑えようとする。
「なるほど・・・だが、この房総の拳が全てを薙ぎ払ってくれるサイタマ!」
ミスター・チーバが拳を構える。と、今度はその拳が青く光り出す。
「くくく、『カスカベの奇跡』の力、思い知らせてくれよう」
この拳の力は強力なものだった。その身がとても身軽になり、通常よりはるかに相手の攻撃を回避しやすくなると言ったものだ。
だが、ミスター・チーバは油断していた。その場には、彼女がいた。キャプテン・リアノだ。
リアノが鞭を振う。複雑な起動で襲い掛かる鞭は、いくら攻撃を回避しやすくなったミスター・チーバと言えどもかわすことは不可能であった。おまけに、その鞭の不思議な力がミスター・チーバの体力を奪い、『チチブ』を弱体化させる。
「よくもおいらを怒らせてくれたサイタマ!」
ミスター・チーバが怒りの表情でリアノを見つめる。
「くらえ、『ウラワ七拳』、『キタウラワ!』」
ミスター・チーバの房総の拳が唸る。リアノはこの攻撃を回避しようとするが、避けきれず昏倒してしまった。
「はっはっは、これがおれをバカにした罰だサイタマ!」
ミスター・チーバが高らかに笑う。
「この野郎・・・ぶっ潰す!」
マックスの目に、怒りが満ちる。だが、マックスが動くより先に、動いたものがあった。サラサだ。刀が一閃したかと思うと、ミスター・チーバの体が崩れ落ちていった。こうして、戦いは終わりを告げた。
「流石にこいつはやばかったぜ、大丈夫か、兄ちゃんとキャプテン?」
マックスが倒れている味方に声をかける。二人ともぼろぼろだが、息はあるようだ。皆、戦いが終わった安堵感に満ちていた。だが、そんな中で一人呟くものがあった。
「待て、まだ終わっていない」
ティボルトだ。
「こいつは魔族だ。『真の死』とやらを与えない限り、こいつは蘇ってくる」
「ティボルト、魔族の情報を知っているのか? おれの助けは必要か?」
マックスが尋ねると、ティボルトは重々しい表情で首を横に振った。
「大丈夫だ。おれに任せてくれ。鼻の頭を三回たたけばいいんだ」
ティボルトの言葉に、マックスは疑問の表情を浮かべた。
「バカいうなよ。そんなんで死ぬわけないだろ?」
ティボルトはそんなマックスの方を向いてにやりと笑うと、倒れているミスター・チーバに近づく。そして、鼻の頭を三回押すと、ミスター・チーバの体は溶けて消え去っていった。真の死を迎えたのであろう。
唖然とするマックスの隣で、グレンも驚いたような声を上げる。
「凄いなマックス、魔族が死んじまった」
確かに、死んだ。しかし、本当にあのような死に方でいいんだろうか。マックスは少し考えた後、グレンに話しかけた。
「ところでグレンのじっちゃん、相談があるんだけど」
そのまま、倒れているヨハンとキャプテンに目を向ける。
「ヨハンの兄ちゃんとキャプテンには、ミスター・チーバはもうちょっと格好よく死んだって伝えよう」
「そうだな。見ていたのはおれたちだけだし、いいんじゃないか」
「大丈夫だ、おれも見ていた。そんなことでおれは落ち込んだりしない」
二人の後方から、ヨハンが声をかけた。どうやら、ティボルトが鼻の頭を押すところを見ていたようだ。
「とはいえ、まあ、うん、久しぶりにちょっと泣きそうだよ」
マックスが倒れている味方に声をかける。二人ともぼろぼろだが、息はあるようだ。皆、戦いが終わった安堵感に満ちていた。だが、そんな中で一人呟くものがあった。
「待て、まだ終わっていない」
ティボルトだ。
「こいつは魔族だ。『真の死』とやらを与えない限り、こいつは蘇ってくる」
「ティボルト、魔族の情報を知っているのか? おれの助けは必要か?」
マックスが尋ねると、ティボルトは重々しい表情で首を横に振った。
「大丈夫だ。おれに任せてくれ。鼻の頭を三回たたけばいいんだ」
ティボルトの言葉に、マックスは疑問の表情を浮かべた。
「バカいうなよ。そんなんで死ぬわけないだろ?」
ティボルトはそんなマックスの方を向いてにやりと笑うと、倒れているミスター・チーバに近づく。そして、鼻の頭を三回押すと、ミスター・チーバの体は溶けて消え去っていった。真の死を迎えたのであろう。
唖然とするマックスの隣で、グレンも驚いたような声を上げる。
「凄いなマックス、魔族が死んじまった」
確かに、死んだ。しかし、本当にあのような死に方でいいんだろうか。マックスは少し考えた後、グレンに話しかけた。
「ところでグレンのじっちゃん、相談があるんだけど」
そのまま、倒れているヨハンとキャプテンに目を向ける。
「ヨハンの兄ちゃんとキャプテンには、ミスター・チーバはもうちょっと格好よく死んだって伝えよう」
「そうだな。見ていたのはおれたちだけだし、いいんじゃないか」
「大丈夫だ、おれも見ていた。そんなことでおれは落ち込んだりしない」
二人の後方から、ヨハンが声をかけた。どうやら、ティボルトが鼻の頭を押すところを見ていたようだ。
「とはいえ、まあ、うん、久しぶりにちょっと泣きそうだよ」
「ほう、なかなかやるのう」
「この声は・・・」
セルモが呟く。聞き覚えのある声だった。この状況で聞きたい声ではない。そう、ゲイムだった。その背後には、ナグモが控えている。
「儂の長年の仲間であった、ドーマを倒すとは。おまけに、ミスター・チーバまで。だが、その代償としてお主たちは今、満身創痍のはずじゃのお。今、わしと後ろにいるナグモに襲い掛かられて、無事でいられるかのう。どうだ、ヨハン? お主がわしのもとに下るなら、他のみんなを見逃してやってもよいぞ」
いつもの言葉であった。もう何度聞いたかわからない。
「なあ、ゲイム」
ヨハンが、呆れたような声でゲイムに話しかける。
「前からうすうす思っていたんだけど、お前暇だろ。それに、もうちょっと早く来ていたらおれたちを全滅させられたんじゃないか? ミスター・チーバも死ぬことはなかっただろうし」
「いや、儂はこれでも急いだんじゃよ」
ヨハンの指摘に、何故かゲイムが弁解を始める。
「いいかヨハン、儂は忙しいのじゃ。わかるだろう? 四六時中お主のことを考えねばならんのだ」
「だったらおれのことを考える時間を減らして部下を大切にしてくれ」
何故か、ヨハンが説教している。他のみんなは唖然としているのか、会話に参加できない。
「・・・まあ、とにかくだな。お主が儂のもとに来ないなら仕方ない。大人しく、他の皆がやられるのを見守るがよい。やれ、ナグモ」
ゲイムの言葉に頷いたナグモが刀を構えたその時だった。爆音が、洞穴の外から聞こえてきた。
「これは、まずいの」
ゲイムがそう告げると同時に、ゲイムとヨハンたちの間に、巨大な岩が降ってきた。先ほどの爆発により、洞穴が崩れてきたのだ。しかし、何の衝撃なのか。それを話すには、時を少し戻す必要がある。
「この声は・・・」
セルモが呟く。聞き覚えのある声だった。この状況で聞きたい声ではない。そう、ゲイムだった。その背後には、ナグモが控えている。
「儂の長年の仲間であった、ドーマを倒すとは。おまけに、ミスター・チーバまで。だが、その代償としてお主たちは今、満身創痍のはずじゃのお。今、わしと後ろにいるナグモに襲い掛かられて、無事でいられるかのう。どうだ、ヨハン? お主がわしのもとに下るなら、他のみんなを見逃してやってもよいぞ」
いつもの言葉であった。もう何度聞いたかわからない。
「なあ、ゲイム」
ヨハンが、呆れたような声でゲイムに話しかける。
「前からうすうす思っていたんだけど、お前暇だろ。それに、もうちょっと早く来ていたらおれたちを全滅させられたんじゃないか? ミスター・チーバも死ぬことはなかっただろうし」
「いや、儂はこれでも急いだんじゃよ」
ヨハンの指摘に、何故かゲイムが弁解を始める。
「いいかヨハン、儂は忙しいのじゃ。わかるだろう? 四六時中お主のことを考えねばならんのだ」
「だったらおれのことを考える時間を減らして部下を大切にしてくれ」
何故か、ヨハンが説教している。他のみんなは唖然としているのか、会話に参加できない。
「・・・まあ、とにかくだな。お主が儂のもとに来ないなら仕方ない。大人しく、他の皆がやられるのを見守るがよい。やれ、ナグモ」
ゲイムの言葉に頷いたナグモが刀を構えたその時だった。爆音が、洞穴の外から聞こえてきた。
「これは、まずいの」
ゲイムがそう告げると同時に、ゲイムとヨハンたちの間に、巨大な岩が降ってきた。先ほどの爆発により、洞穴が崩れてきたのだ。しかし、何の衝撃なのか。それを話すには、時を少し戻す必要がある。
ヨハンたちが、ドーマと戦いを始めたのと時を同じくして、アンデラの街近郊でも動きがあった。ついに、ダイダーラが動き出したのだ。ダイダーラは、村に向かって一直線に向かってくる。
「マックス君たちは、間に合わなかったかあ」
慌てふためく村人たちを村とダイダーラから遠ざけながら、残念そうにウェンディが呟く。まだ、『プリンシプル』も戻ってきてはいないのだった。
「でも、大丈夫。きっとわたしならやれる。あの奥の手もあるし」
ウェンディはそう呟くと、村に近づいてきたダイダーラを迎撃すべく、槍を手に取った。そして、そのまま村の入り口まで駆け出す。ここで、ダイダーラを待ち構えるつもりだった。ダイダーラの体は、どんどん迫ってくる。本当に、大きかった。足の親指が、ウェンディと同じくらいの大きさだろう。そして、いざ相手にしようとしたその時だった。
突然、ダイダーラが向きを変えた。実のところ、ヨハンたちに襲撃されたドーマが身の危機を感じて呼んだのだが、ウェンディはそれを知る由もない。訝しみながらも、ダイダーラを追って駆け出す。
と、大砲の音が響きわたった。同時に、ダイダーラの横腹で何かが爆発した。音のした方角を振り向くと、そこには一つの船があった。
「マックス君たちは、間に合わなかったかあ」
慌てふためく村人たちを村とダイダーラから遠ざけながら、残念そうにウェンディが呟く。まだ、『プリンシプル』も戻ってきてはいないのだった。
「でも、大丈夫。きっとわたしならやれる。あの奥の手もあるし」
ウェンディはそう呟くと、村に近づいてきたダイダーラを迎撃すべく、槍を手に取った。そして、そのまま村の入り口まで駆け出す。ここで、ダイダーラを待ち構えるつもりだった。ダイダーラの体は、どんどん迫ってくる。本当に、大きかった。足の親指が、ウェンディと同じくらいの大きさだろう。そして、いざ相手にしようとしたその時だった。
突然、ダイダーラが向きを変えた。実のところ、ヨハンたちに襲撃されたドーマが身の危機を感じて呼んだのだが、ウェンディはそれを知る由もない。訝しみながらも、ダイダーラを追って駆け出す。
と、大砲の音が響きわたった。同時に、ダイダーラの横腹で何かが爆発した。音のした方角を振り向くと、そこには一つの船があった。
「おっしゃあ! これがおれの実力だ!」
大砲を撃ったヨキが、叫ぶ。その声とは裏腹に、ヨキの全身はがたがたと震えている。そんなヨキに、スオウが話しかける。
「流石ヨキ。相変わらずの武者震いだな。後はこの船の近くまで近づけてくれ。そうしたら、おれとマリアンナさんが相手をする。ヨキ、お前はタイミングを見計らってこのボマーを投げてくれ」
スオウとマリアンナがダイダーラのもとへと向かう。しかし、ヨキがボマーを投げられるタイミングは、すぐには出てこなかった。何故なら、ダイダーラは人間離れした速度で、移動していたためだ。最初、ヨキは攻撃を仕掛けた船目掛けてダイダーラが進むと考えていた。しかし、ダイダーラは船を無視し、どこかに移動しようとしている。どこなのか。ダイダーラが歩く先を見渡したヨキは、ある可能性に気が付く。
『海辺の洞穴』の近くに行こうとしているのではないか!
あの洞穴には、ダイダーラの仲間もおり、ヨハンたちと戦闘中だ。そこへ向かったとしても何の不思議もない。そう考えたヨキは船を大慌てで動かし始め、ダイダーラを海辺の洞穴近くで待つことにした。そして、
「今だ、ボマー!」
『海辺の洞穴』近くへとやってきたダイダーラに、ボマーが火を噴いた。
大砲を撃ったヨキが、叫ぶ。その声とは裏腹に、ヨキの全身はがたがたと震えている。そんなヨキに、スオウが話しかける。
「流石ヨキ。相変わらずの武者震いだな。後はこの船の近くまで近づけてくれ。そうしたら、おれとマリアンナさんが相手をする。ヨキ、お前はタイミングを見計らってこのボマーを投げてくれ」
スオウとマリアンナがダイダーラのもとへと向かう。しかし、ヨキがボマーを投げられるタイミングは、すぐには出てこなかった。何故なら、ダイダーラは人間離れした速度で、移動していたためだ。最初、ヨキは攻撃を仕掛けた船目掛けてダイダーラが進むと考えていた。しかし、ダイダーラは船を無視し、どこかに移動しようとしている。どこなのか。ダイダーラが歩く先を見渡したヨキは、ある可能性に気が付く。
『海辺の洞穴』の近くに行こうとしているのではないか!
あの洞穴には、ダイダーラの仲間もおり、ヨハンたちと戦闘中だ。そこへ向かったとしても何の不思議もない。そう考えたヨキは船を大慌てで動かし始め、ダイダーラを海辺の洞穴近くで待つことにした。そして、
「今だ、ボマー!」
『海辺の洞穴』近くへとやってきたダイダーラに、ボマーが火を噴いた。
先ほどの爆発による衝撃で、『海辺の洞穴』は上部から崩落を起こした。その崩落が収まった時、ヨハンたちの眼前には、満天の星空と、それを覆うかのように立ち尽くすダイダーラの姿があった。
そしてそのまま、その巨体はゆっくりと倒れていく。ダイダーラが、倒れたのだ。おそらく、ボマーの超火力がダイダーラを爆殺したのであろう。しかし、ヨハンたちはまだ油断できなかった。
「ほう・・・ダイダーラまでも倒すとは、お主たち。なかなかやりおるのう」
ゲイムの声が、ヨハンたちの近くで聞こえる。そう、まだヨハンたちの近くには、ゲイムがいたのであった。そして、その隣には、刀を構えたナグモの姿も。
「ナグモ、やれ」
ゲイムがそう呟いた時だった。ヨハンたちの背後から、毒霧のようなものがナグモの居たところに放たれる。
「まさか、この攻撃は・・・ウェンディ!」
マックスが振り返る。予想通り、そこにいたのは邪竜槍ダマーヴァンドを抱えたウェンディだった。
「みなさん! 大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない!」
「わかった」
満身創痍のヨハンの声を受け、ウェンディはヨハンたちのもとへと急行する。そして、単身ゲイムたちの前に立ちはだかった。
「お前こそ、大丈夫なのかよ?」
マックスが尋ねる。ウェンディは頷いた。
「大丈夫です。わたしは強いので」
確かに、ウェンディの実力はヨハンたちとそう変わらないだろう。しかし、その実力では一人でゲイムたちを相手にするのは難しい。
「ウェンディが来てくれたのはいいが・・・このまま応戦するしかないのか、兄ちゃん?」
マックスがヨハンに尋ねる。ヨハンはにやりと笑った。
「このままウェンディを盾に・・・冗談だ。戦おう」
満身創痍ではあったが、ヨハンたちも身構える。と、更にそこに駆けつける者があった。遠くでダイダーラと戦っていた、マリアンナとスオウだ。二人が近づいてくるのを見たゲイムは、忌々しげに首を振った。
「多勢に無勢だな・・・ナグモ、退くぞ」
ナグモは黙ってうなずく。次の瞬間、二人の姿は消えていた。
そしてそのまま、その巨体はゆっくりと倒れていく。ダイダーラが、倒れたのだ。おそらく、ボマーの超火力がダイダーラを爆殺したのであろう。しかし、ヨハンたちはまだ油断できなかった。
「ほう・・・ダイダーラまでも倒すとは、お主たち。なかなかやりおるのう」
ゲイムの声が、ヨハンたちの近くで聞こえる。そう、まだヨハンたちの近くには、ゲイムがいたのであった。そして、その隣には、刀を構えたナグモの姿も。
「ナグモ、やれ」
ゲイムがそう呟いた時だった。ヨハンたちの背後から、毒霧のようなものがナグモの居たところに放たれる。
「まさか、この攻撃は・・・ウェンディ!」
マックスが振り返る。予想通り、そこにいたのは邪竜槍ダマーヴァンドを抱えたウェンディだった。
「みなさん! 大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない!」
「わかった」
満身創痍のヨハンの声を受け、ウェンディはヨハンたちのもとへと急行する。そして、単身ゲイムたちの前に立ちはだかった。
「お前こそ、大丈夫なのかよ?」
マックスが尋ねる。ウェンディは頷いた。
「大丈夫です。わたしは強いので」
確かに、ウェンディの実力はヨハンたちとそう変わらないだろう。しかし、その実力では一人でゲイムたちを相手にするのは難しい。
「ウェンディが来てくれたのはいいが・・・このまま応戦するしかないのか、兄ちゃん?」
マックスがヨハンに尋ねる。ヨハンはにやりと笑った。
「このままウェンディを盾に・・・冗談だ。戦おう」
満身創痍ではあったが、ヨハンたちも身構える。と、更にそこに駆けつける者があった。遠くでダイダーラと戦っていた、マリアンナとスオウだ。二人が近づいてくるのを見たゲイムは、忌々しげに首を振った。
「多勢に無勢だな・・・ナグモ、退くぞ」
ナグモは黙ってうなずく。次の瞬間、二人の姿は消えていた。
翌日、アンデラ村に戻ったヨハンたちは、長老や他の村人からの祝福を受けることとなった。
「流石、お主たちじゃな」
長老が述べる。
「みんなの力で何とかなったな。ウェンディも頑張ったし」
「おかげさまで、助かったぜ」
マックスとグレンが皆を代表して言葉を述べる。長老は、二人の言葉を聞くと、満足そうに頷いた。
「儂はお主たちの実力を信じておったのじゃよ。ウェンディ、お主も含めてな」
長老の言葉に、思わずグレンとマックスは顔を見合わせる。
「そうだったっけか、じっちゃん?」
「なにを言うんのじゃ、そこの若いの。儂はこう見えても『腰砕き』のチャオチャオと言われた長老じゃぞ。30年前まではお主たちと同じような冒険者だったのじゃ。お主たちの実力なぞ、分かるに決まっておるわ」
「な、なるほど・・・」
マックスは一応納得した。しかし、代わりに一つ、新しい疑問が浮かんでくる。
「なんで『腰砕き』って名前なんだ?」
長老の目が一瞬、泳いだ。と、長老の隣に一人の老婆がやってくる。
「冒険者の方々、それはですねえ、チャオチャオはいつも、何かあるたびに腰を抜かしていたからなんですよ。『腰抜かし』じゃ格好悪いからと、自分で『腰砕き』と名乗るようになったんですね」
「確かに、そりゃ格好悪いな」
マックスが同意する。
「ただ、とは言え長老になっているのだから、いいじっちゃんなんだろう?」
その通りだ、と言わんばかりに長老が頷いていた。
「流石、お主たちじゃな」
長老が述べる。
「みんなの力で何とかなったな。ウェンディも頑張ったし」
「おかげさまで、助かったぜ」
マックスとグレンが皆を代表して言葉を述べる。長老は、二人の言葉を聞くと、満足そうに頷いた。
「儂はお主たちの実力を信じておったのじゃよ。ウェンディ、お主も含めてな」
長老の言葉に、思わずグレンとマックスは顔を見合わせる。
「そうだったっけか、じっちゃん?」
「なにを言うんのじゃ、そこの若いの。儂はこう見えても『腰砕き』のチャオチャオと言われた長老じゃぞ。30年前まではお主たちと同じような冒険者だったのじゃ。お主たちの実力なぞ、分かるに決まっておるわ」
「な、なるほど・・・」
マックスは一応納得した。しかし、代わりに一つ、新しい疑問が浮かんでくる。
「なんで『腰砕き』って名前なんだ?」
長老の目が一瞬、泳いだ。と、長老の隣に一人の老婆がやってくる。
「冒険者の方々、それはですねえ、チャオチャオはいつも、何かあるたびに腰を抜かしていたからなんですよ。『腰抜かし』じゃ格好悪いからと、自分で『腰砕き』と名乗るようになったんですね」
「確かに、そりゃ格好悪いな」
マックスが同意する。
「ただ、とは言え長老になっているのだから、いいじっちゃんなんだろう?」
その通りだ、と言わんばかりに長老が頷いていた。
アンデラの人々から、お礼としていくらかの報奨金を貰ったヨハンたちは、一旦船に戻った。今後の方針を相談するためである。話し合った末、出した結論は、ゲイムの持っていた隠れ家をいくつも潰していくことであった。そうすれば、少なからずゲイムを弱らせることはできるし、運が良ければ『六傑』の一人くらいは倒せるかもしれない。
「一番注意しないといけないのは、『流星剣士』とか言われていた奴だな」
ヨハンの言葉にマックスが頷く。
「あの侍はすげえ強かったよな、刀の姉ちゃん」
「正直、刃の動きを見ることできなかった」
サラサが、難しい表情で答える。ナグモと自分との実力差を感じているのかもしれない。だが、決して越せない壁ではないはずだ。
会議も終わり、皆がそれぞれの作業を始めようとする中で、一人船を尋ねる者があった。ウェンディだ。
「みなさん、昨日はありがとうございました!」
ウェンディは深々とお辞儀する。
「いやいや、助けられちまったぜ。悪いな、ウェンディ。結局、おれは巨人に何もできなかったしな」
マックスが言葉を返す。
「わたしこそ、何もできていません。すべてはあなた方が用意して下さった。そこにいるボマーのお蔭です」
ウェンディが、船内の片隅にいるボマーを見ながら告げる。ボマーは昨日の爆発が嘘のように、元の姿に戻っている。
「そう言えば、おれもよくわかってないんだけど・・・ヨハンの兄ちゃん、あいつはどうなってるの?」
ヨハンは頷いた。
「あれに詰まっているのは夢と、おれたちの悪ふざけだ」
「凄かったんですよ、あのボマーを投げた時のヨキさん!」
ウェンディがヨキの様子を語り始める。
「やっぱりな」
ヨキの活躍を聞き終えると、マックスが満足したように頷く。
「おれには分かるぜ、あいつは血に飢えた獣だ」
ヨハンも納得した表情で続ける。
「きっと大砲を撃った時も高笑いをしながらだったんだろう」
マックスの言葉に、ウェンディがその時の様子を思い出したようだった。
「実際笑ってましたよ、ヨキさん。すごい楽しそうでした」
実のところ、ヨキは恐怖のあまりひきつった顔をしていただけなのだが、誰もそのことには気づいていなかった。
「あいつはやるやつだと思ってたよ」
「全くリアノめ。あんな怪物をどうやって飼いならしているのやら」
その後、ヨハンたちはしばらくヨキの話で盛り上がっていた。
「ところで、わたしは皆様にお願いしたいことがあるんです。」
ウェンディが、切り出した。
「もしよければ、皆様の旅に私も同行させていただけませんか?」
ヨハンたちは互いに顔を見合わせた。誰も、反対する人はいない。
「大丈夫だと思うが、どうしてだ?」
皆を代表して、グレンが尋ねる。
「実はわたしが旅を始めた理由は少し変わっているんです」
そう述べると、ウェンディは話し始めた。
「わたしは記憶がないんです。わたしはある日突然、目を覚ましました。目を覚ました場所は草原で、それ以前のことは一切覚えていません。だから、わたしは何者なのかよくわかりません。だから、わたしのことを良く知りたいと思い各地を旅していたのですが・・・皆様と旅していく中で、何かわかるかもしれないと思ったんです。強い冒険者である皆様と一緒でしたら、色々なところに行けると思いますしね」
「おれは全然構わねえぜ。ただよ、おれたちの旅って・・・」
マックスがヨハンの方を向く。マックスがそれ以上続けようとしないのを見て、ヨハンが口を開いた。
「おれたちは『魔王』ルーファスとかいう古い化け物を倒すために旅をしているから、危険が多いぜ」
「大丈夫ですよ。わたし、こう見えても腕は立ちますからね」
ウェンディは、背に抱えているダマーヴァンドを指さしながら、答えた。
「そういうわけで、いいよな、じっちゃん?」
マックスの言葉に、グレンはため息をついた。
「別にいいが、じっちゃんは余計だ」
他の皆も、反対はなさそうであった。礼を述べるウェンディに、マックスが肩を叩きながら話しかける。
「記憶を失っているって大変だよな。でも、記憶を失っていても人を助けたいって思ったってことは、きっともともと良い奴だったんだよ」
こうして、ウェンディが船に加わることになった。
「一番注意しないといけないのは、『流星剣士』とか言われていた奴だな」
ヨハンの言葉にマックスが頷く。
「あの侍はすげえ強かったよな、刀の姉ちゃん」
「正直、刃の動きを見ることできなかった」
サラサが、難しい表情で答える。ナグモと自分との実力差を感じているのかもしれない。だが、決して越せない壁ではないはずだ。
会議も終わり、皆がそれぞれの作業を始めようとする中で、一人船を尋ねる者があった。ウェンディだ。
「みなさん、昨日はありがとうございました!」
ウェンディは深々とお辞儀する。
「いやいや、助けられちまったぜ。悪いな、ウェンディ。結局、おれは巨人に何もできなかったしな」
マックスが言葉を返す。
「わたしこそ、何もできていません。すべてはあなた方が用意して下さった。そこにいるボマーのお蔭です」
ウェンディが、船内の片隅にいるボマーを見ながら告げる。ボマーは昨日の爆発が嘘のように、元の姿に戻っている。
「そう言えば、おれもよくわかってないんだけど・・・ヨハンの兄ちゃん、あいつはどうなってるの?」
ヨハンは頷いた。
「あれに詰まっているのは夢と、おれたちの悪ふざけだ」
「凄かったんですよ、あのボマーを投げた時のヨキさん!」
ウェンディがヨキの様子を語り始める。
「やっぱりな」
ヨキの活躍を聞き終えると、マックスが満足したように頷く。
「おれには分かるぜ、あいつは血に飢えた獣だ」
ヨハンも納得した表情で続ける。
「きっと大砲を撃った時も高笑いをしながらだったんだろう」
マックスの言葉に、ウェンディがその時の様子を思い出したようだった。
「実際笑ってましたよ、ヨキさん。すごい楽しそうでした」
実のところ、ヨキは恐怖のあまりひきつった顔をしていただけなのだが、誰もそのことには気づいていなかった。
「あいつはやるやつだと思ってたよ」
「全くリアノめ。あんな怪物をどうやって飼いならしているのやら」
その後、ヨハンたちはしばらくヨキの話で盛り上がっていた。
「ところで、わたしは皆様にお願いしたいことがあるんです。」
ウェンディが、切り出した。
「もしよければ、皆様の旅に私も同行させていただけませんか?」
ヨハンたちは互いに顔を見合わせた。誰も、反対する人はいない。
「大丈夫だと思うが、どうしてだ?」
皆を代表して、グレンが尋ねる。
「実はわたしが旅を始めた理由は少し変わっているんです」
そう述べると、ウェンディは話し始めた。
「わたしは記憶がないんです。わたしはある日突然、目を覚ましました。目を覚ました場所は草原で、それ以前のことは一切覚えていません。だから、わたしは何者なのかよくわかりません。だから、わたしのことを良く知りたいと思い各地を旅していたのですが・・・皆様と旅していく中で、何かわかるかもしれないと思ったんです。強い冒険者である皆様と一緒でしたら、色々なところに行けると思いますしね」
「おれは全然構わねえぜ。ただよ、おれたちの旅って・・・」
マックスがヨハンの方を向く。マックスがそれ以上続けようとしないのを見て、ヨハンが口を開いた。
「おれたちは『魔王』ルーファスとかいう古い化け物を倒すために旅をしているから、危険が多いぜ」
「大丈夫ですよ。わたし、こう見えても腕は立ちますからね」
ウェンディは、背に抱えているダマーヴァンドを指さしながら、答えた。
「そういうわけで、いいよな、じっちゃん?」
マックスの言葉に、グレンはため息をついた。
「別にいいが、じっちゃんは余計だ」
他の皆も、反対はなさそうであった。礼を述べるウェンディに、マックスが肩を叩きながら話しかける。
「記憶を失っているって大変だよな。でも、記憶を失っていても人を助けたいって思ったってことは、きっともともと良い奴だったんだよ」
こうして、ウェンディが船に加わることになった。
「ゲイム、何故わたしを止めたんですか?」
ナグモが、ゲイムに尋ねる。ゲイムは重々しく頷いた。
「ああ、お主の力であれば、あの辺りにいた面々全員とも互角以上に戦えることは分かっておったよ。じゃがのう・・・」
と、ゲイムは何事かをナグモに告げる。ナグモはそれを聞いて、怪訝な顔をした。
「馬鹿な、彼女を見間違えるわけがないだろう。他の『六傑』の面々と違って、わたしは彼女を嫌っていなかったからな」
「それはそうじゃ。だが、彼女はいつもお主たち以外に見せている姿がある。そういうことじゃ。儂はたまたま、見たことがあった。そして、それを利用しない手はない」
そう告げたゲイムの顔は、にやりと笑っていた。
ナグモが、ゲイムに尋ねる。ゲイムは重々しく頷いた。
「ああ、お主の力であれば、あの辺りにいた面々全員とも互角以上に戦えることは分かっておったよ。じゃがのう・・・」
と、ゲイムは何事かをナグモに告げる。ナグモはそれを聞いて、怪訝な顔をした。
「馬鹿な、彼女を見間違えるわけがないだろう。他の『六傑』の面々と違って、わたしは彼女を嫌っていなかったからな」
「それはそうじゃ。だが、彼女はいつもお主たち以外に見せている姿がある。そういうことじゃ。儂はたまたま、見たことがあった。そして、それを利用しない手はない」
そう告げたゲイムの顔は、にやりと笑っていた。
その後も、ヨハンたちは各地を旅してまわり、パやキャサリンたちが知っていたゲイムの隠れ家をいくつか壊して回っていた。しかし、ドーマたちを倒して以降、ヨハンたちとゲイム本人や『六傑』が出会うことはなかった。そして、H275年12月、事態は大きく変わることとなる。アエマの大神官が、目を覚ましたためだ。
目を覚ました後、しばらく彼女は無言だった。そして、目覚めたとの報告を聞いてやってきたヨハンたちを困ったような目で見つめる。だが、やがて状況がつかめてきたのだろう。女性は、ヨハンたちに頭を下げた。
「あなたたちが、このわたしをあの老人から救ってくださったんですね。ありがとうございます。わたしの名前はパルテナ。アエマの大神官で、『豊穣の社』の管理人です。・・・まあ、もう二度と自分の言葉で喋れるとは思っていなかったですけどね。本当に、あなた方は命の恩人です」
どうやら彼女は、大神官になった直後に操られてしまったようだ。
「あの老人のことは、胡散臭いとは思ったのですが。甘い言葉に乗せられてしまったんです」
そのことを思い出したのか、彼女は顔を覆う。よほど何か、彼女の心に響くようなことをゲイムは話したのだろう。しばらくしてから、彼女は顔を上げ、再び話し始めた。
「ともあれ、そんな命の恩人であるあなた方にはいくら感謝してもしきれません。もし何か、アエマの神殿を頼りたいときがありましたら、いつでも言ってください。最大限の協力はさせていただきますよ」
「じゃあ、神器をよこせ」
即座にヨハンが反応する。ただ、その言い方はあまりにも直接的であった。パルテナも、怪訝そうな顔をしている。慌てて、皆がこれまでの事情を説明する。
「・・・だからおれは、ケニーを守るために、お前に殴られ続けたんだぜ」
ヨハンが当時のことを思い返し、痛そうな表情で説明する。なお、実際には辛かったのはパとの戦いであり、パルテナの攻撃はMK-Ⅽがほぼ無効化していたのだが、ヨハンはあえて告げなかった。
「それは申し訳ありませんでした」
パルテナは謝ると、言葉を続ける。
「わかりました。そのような事情であれば、使用は問題ないでしょう。アエマ様も喜んでいただけると思います。ただ、『風神』を操ることができるのは、アエマ様に選ばれたものだけ。すなわち、この私しか使えません。なので、わたしが同行してもよろしいでしょうか?」
こうして、パルテナも旅に同行することになった。最初の目的地は、神器のある『豊穣の社』だ。
目を覚ました後、しばらく彼女は無言だった。そして、目覚めたとの報告を聞いてやってきたヨハンたちを困ったような目で見つめる。だが、やがて状況がつかめてきたのだろう。女性は、ヨハンたちに頭を下げた。
「あなたたちが、このわたしをあの老人から救ってくださったんですね。ありがとうございます。わたしの名前はパルテナ。アエマの大神官で、『豊穣の社』の管理人です。・・・まあ、もう二度と自分の言葉で喋れるとは思っていなかったですけどね。本当に、あなた方は命の恩人です」
どうやら彼女は、大神官になった直後に操られてしまったようだ。
「あの老人のことは、胡散臭いとは思ったのですが。甘い言葉に乗せられてしまったんです」
そのことを思い出したのか、彼女は顔を覆う。よほど何か、彼女の心に響くようなことをゲイムは話したのだろう。しばらくしてから、彼女は顔を上げ、再び話し始めた。
「ともあれ、そんな命の恩人であるあなた方にはいくら感謝してもしきれません。もし何か、アエマの神殿を頼りたいときがありましたら、いつでも言ってください。最大限の協力はさせていただきますよ」
「じゃあ、神器をよこせ」
即座にヨハンが反応する。ただ、その言い方はあまりにも直接的であった。パルテナも、怪訝そうな顔をしている。慌てて、皆がこれまでの事情を説明する。
「・・・だからおれは、ケニーを守るために、お前に殴られ続けたんだぜ」
ヨハンが当時のことを思い返し、痛そうな表情で説明する。なお、実際には辛かったのはパとの戦いであり、パルテナの攻撃はMK-Ⅽがほぼ無効化していたのだが、ヨハンはあえて告げなかった。
「それは申し訳ありませんでした」
パルテナは謝ると、言葉を続ける。
「わかりました。そのような事情であれば、使用は問題ないでしょう。アエマ様も喜んでいただけると思います。ただ、『風神』を操ることができるのは、アエマ様に選ばれたものだけ。すなわち、この私しか使えません。なので、わたしが同行してもよろしいでしょうか?」
こうして、パルテナも旅に同行することになった。最初の目的地は、神器のある『豊穣の社』だ。
H276年2月。蒸気船『プリンシプル』に乗った一行は、ついに『リゾート』へとたどり着いた。『リゾート』といっても、見渡す限り一面の砂漠だ。
「それにしても暑い…」
ティボルトが口を開く。
「だが、こんな時にも準備万端! この俺様が用意した傘をお使いください。セルモさん」
ティボルトが傘をセルモに差し出す。
「ありがとう」
セルモはティボルトから傘を受け取る。感激の表情を浮かべるティボルトに、マックスが話しかけた。
「ティボルト、水はちゃんと持ってきたのか?」
ティボルトは、きょとんとした表情を浮かべる。
「水? もちろん、セルモさんの分は持ってきたぜ」
「おれらのは?」
少し、間があった。
「お、おう」
「今の間は何だ!」
ティボルトの答えに、グレンが反応する。
「しまった・・・あと持っているものはバナナしか・・・」
マックスが絶望的な声を上げる。彼は、自分の分の水を持ってきていなかったのだ。
「でも、バナナはあるんだ」
リアノが、妙に感心する。
「デストラクションが必要としているだろ!」
「それにしても暑い…」
ティボルトが口を開く。
「だが、こんな時にも準備万端! この俺様が用意した傘をお使いください。セルモさん」
ティボルトが傘をセルモに差し出す。
「ありがとう」
セルモはティボルトから傘を受け取る。感激の表情を浮かべるティボルトに、マックスが話しかけた。
「ティボルト、水はちゃんと持ってきたのか?」
ティボルトは、きょとんとした表情を浮かべる。
「水? もちろん、セルモさんの分は持ってきたぜ」
「おれらのは?」
少し、間があった。
「お、おう」
「今の間は何だ!」
ティボルトの答えに、グレンが反応する。
「しまった・・・あと持っているものはバナナしか・・・」
マックスが絶望的な声を上げる。彼は、自分の分の水を持ってきていなかったのだ。
「でも、バナナはあるんだ」
リアノが、妙に感心する。
「デストラクションが必要としているだろ!」
「どうやら、わたしの出番のようですね」
いつでもどうぞ、と言いながらパルテナが『風神』を構える。
そして
「ゴッドウィング!」
パルテナの叫びと共に、『風神』にため込まれていた凄まじい風が、『リゾート』を襲った。その風は強大な砂嵐を巻き起こし、甲板にたっていたヨハンたちはそれを避けるために船内へと戻らざるを得なかった。
そして、丸一日に渡って砂嵐が吹き荒れた後、翌日。巨大な城が見えているのかと思って外に出た一行は、驚いた。外には、いつもと何ら変わらぬ砂漠が広がっていたのだ。
いつでもどうぞ、と言いながらパルテナが『風神』を構える。
そして
「ゴッドウィング!」
パルテナの叫びと共に、『風神』にため込まれていた凄まじい風が、『リゾート』を襲った。その風は強大な砂嵐を巻き起こし、甲板にたっていたヨハンたちはそれを避けるために船内へと戻らざるを得なかった。
そして、丸一日に渡って砂嵐が吹き荒れた後、翌日。巨大な城が見えているのかと思って外に出た一行は、驚いた。外には、いつもと何ら変わらぬ砂漠が広がっていたのだ。
「そ、そんな。アエマ様の力添えまで受けたのに・・・」
がっくりと肩を落とすパルテナ。と、
「キャプテン!」
朝、見張り台から双眼鏡を使って遠くを見ていたヨキが叫ぶ。
「あのあたりに、なにやら塔みたいなものが見えます!」
確かに、わずかながら、白い塔のようなものが砂の間から顔をのぞかせていた。
「やった、わたしやりました!」
ガッツポーズをとるパルテナ。その様子を横目でみながら、マリアンナが皆に告げる。
「ありがとう、パルテナさん。さて、じゃあ次は我々の番だな。あの塔から古代の城に忍び込もう」
がっくりと肩を落とすパルテナ。と、
「キャプテン!」
朝、見張り台から双眼鏡を使って遠くを見ていたヨキが叫ぶ。
「あのあたりに、なにやら塔みたいなものが見えます!」
確かに、わずかながら、白い塔のようなものが砂の間から顔をのぞかせていた。
「やった、わたしやりました!」
ガッツポーズをとるパルテナ。その様子を横目でみながら、マリアンナが皆に告げる。
「ありがとう、パルテナさん。さて、じゃあ次は我々の番だな。あの塔から古代の城に忍び込もう」
ヨハンたちは、『風神』の巻き起こした風により現れた塔から、『古代の城』へと侵入することにした。とはいえ、ここからすぐに進めたわけではない。
長年砂漠の中に埋もれていたため、城の中も、大量の土砂が入り込んでいた。おまけに、ゲイムが設置したのか、罠も至る所に仕掛けられている。ヨハンたちは砂と罠を乗り越えながら城の中を進んでいった。
そして、『古代の城』に入ってから数日後、ヨハンたちは最深部と思しき巨大で荘厳な扉の目の前へとやってきたのである。その扉の中からは、圧倒的な邪気が発されている。
「おそらく、あの先にルーファスがいる」
マリアンナが告げる。
「それにしても、なんて苛酷なトラップの数々だったんだ」
ヨハンが、道中の出来事を思い出し、思わず呟く。城内には、触れたものの防具を溶かす罠がいくつも用意されていた。装備品が命のヨハンがそれに触れてしまったら、パーティーの防衛線は崩壊していただろう。
「なんて恐ろしい罠だったんだ。危なかった」
グレンも頷く。城内には、触れたものの所持品を破壊する罠も、いくつも用意されていた。様々な道具を駆使すするグレンがそれに触れてしまったら、パーティーは立ち行かなかっただろう。
「兄ちゃん危なかったよな、あの時とか。姉ちゃんも危なかったし」
マックスの言葉に、ヨハンとサラサが同意する。ティボルトも大きく頷いた。
「あの時、おれがいたからセルモさんを救うことができたからな。なあ、マックス」
「それはなかったけど、お前がいたからあの落とし穴は誰も落ちずにすんだよな」
「おれが落ちたからわかったことだろ」
それにしても、ヨハンが悲しい声を上げる。
「ここに来るまでの間に、ヨキが左足の小指を骨折してしまった・・・」
ヨキはリアノやマックス、ティボルトに混じって罠の探知を行っていた。だが、彼は罠の解除に一度失敗し、降ってきた大量のポメロの重みによって小指を骨折していたのだった。
長年砂漠の中に埋もれていたため、城の中も、大量の土砂が入り込んでいた。おまけに、ゲイムが設置したのか、罠も至る所に仕掛けられている。ヨハンたちは砂と罠を乗り越えながら城の中を進んでいった。
そして、『古代の城』に入ってから数日後、ヨハンたちは最深部と思しき巨大で荘厳な扉の目の前へとやってきたのである。その扉の中からは、圧倒的な邪気が発されている。
「おそらく、あの先にルーファスがいる」
マリアンナが告げる。
「それにしても、なんて苛酷なトラップの数々だったんだ」
ヨハンが、道中の出来事を思い出し、思わず呟く。城内には、触れたものの防具を溶かす罠がいくつも用意されていた。装備品が命のヨハンがそれに触れてしまったら、パーティーの防衛線は崩壊していただろう。
「なんて恐ろしい罠だったんだ。危なかった」
グレンも頷く。城内には、触れたものの所持品を破壊する罠も、いくつも用意されていた。様々な道具を駆使すするグレンがそれに触れてしまったら、パーティーは立ち行かなかっただろう。
「兄ちゃん危なかったよな、あの時とか。姉ちゃんも危なかったし」
マックスの言葉に、ヨハンとサラサが同意する。ティボルトも大きく頷いた。
「あの時、おれがいたからセルモさんを救うことができたからな。なあ、マックス」
「それはなかったけど、お前がいたからあの落とし穴は誰も落ちずにすんだよな」
「おれが落ちたからわかったことだろ」
それにしても、ヨハンが悲しい声を上げる。
「ここに来るまでの間に、ヨキが左足の小指を骨折してしまった・・・」
ヨキはリアノやマックス、ティボルトに混じって罠の探知を行っていた。だが、彼は罠の解除に一度失敗し、降ってきた大量のポメロの重みによって小指を骨折していたのだった。
ティボルトが目の前の扉を点検し、後ろにいるヨハンたちを振り返る。
「しかし、この扉はどうやって開けるんだ? 見たところ罠はないが、ちょっとやそっとの力じゃ開かないぞ?」
その言葉を受け、マックスも困った顔をする。
「どうするんだそれは? 力ずくで開かない扉なんて、おれは知らないぞ」
マリアンナがにやっと笑った。
「なに、私に任せてくれ。魔術の中にはこういうときに使える便利なものもある」
皆がマリアンナの発言に感心する中、ヨハンは一人、防具を身に付け始めた。マリアンナはそんなヨハンを見て頷くと、マリアンナは車椅子から立ち上がった。おそらく、魔術を使うためだろう。そして手袋をはめた両手が赤く光り出す。
「すげえな、サラサの姉ちゃん。あれなんだろう?」
マックスが、はしゃいでいる。他の皆も、興味津々といった目でその様子を眺めていたが、ヨハンには分かった。あれは、《エンハンスブレス:火》マリアンナの拳の力を増すための魔術である。そのままマリアンナは扉に近づくと、その拳を扉に向けてはなった。《ペネトレイトブロウ》。貫通だ。轟音と共に扉は崩れさった。
「これが魔術の力だ」
マリアンナが手袋についた粉を払いながら述べる。その様子を見ながら、サラサが呟いた。
「あ、あれは魔術と言うより武術なのでは・・・」
「魔術、魔術ねえ・・・」
マックスも首をしきりにかしげていたが、何か思ったようで、ヨハンの方を向く。
「なあヨハンの兄ちゃん、おれ、今まで魔術はできないと思っていたけど、今なら魔術が使える気がするよ」
「なに言ってるんだマックス。お前は素手でドラゴンを殺せるのか?」
そんなヨハンの隣に、苦笑の表情を浮かべたスオウがやってきた。
「なあヨハン、お前の師匠って、いつもあんな感じなのか?」
「ああ。魔術の様な破壊力だろ」
スオウはまだ、首をかしげている。
「どうしたみんな、さっさと行くぞ」
周りの反応を気にすることなく、粉を払いのけ終わったマリアンナが皆に告げた。
「しかし、この扉はどうやって開けるんだ? 見たところ罠はないが、ちょっとやそっとの力じゃ開かないぞ?」
その言葉を受け、マックスも困った顔をする。
「どうするんだそれは? 力ずくで開かない扉なんて、おれは知らないぞ」
マリアンナがにやっと笑った。
「なに、私に任せてくれ。魔術の中にはこういうときに使える便利なものもある」
皆がマリアンナの発言に感心する中、ヨハンは一人、防具を身に付け始めた。マリアンナはそんなヨハンを見て頷くと、マリアンナは車椅子から立ち上がった。おそらく、魔術を使うためだろう。そして手袋をはめた両手が赤く光り出す。
「すげえな、サラサの姉ちゃん。あれなんだろう?」
マックスが、はしゃいでいる。他の皆も、興味津々といった目でその様子を眺めていたが、ヨハンには分かった。あれは、《エンハンスブレス:火》マリアンナの拳の力を増すための魔術である。そのままマリアンナは扉に近づくと、その拳を扉に向けてはなった。《ペネトレイトブロウ》。貫通だ。轟音と共に扉は崩れさった。
「これが魔術の力だ」
マリアンナが手袋についた粉を払いながら述べる。その様子を見ながら、サラサが呟いた。
「あ、あれは魔術と言うより武術なのでは・・・」
「魔術、魔術ねえ・・・」
マックスも首をしきりにかしげていたが、何か思ったようで、ヨハンの方を向く。
「なあヨハンの兄ちゃん、おれ、今まで魔術はできないと思っていたけど、今なら魔術が使える気がするよ」
「なに言ってるんだマックス。お前は素手でドラゴンを殺せるのか?」
そんなヨハンの隣に、苦笑の表情を浮かべたスオウがやってきた。
「なあヨハン、お前の師匠って、いつもあんな感じなのか?」
「ああ。魔術の様な破壊力だろ」
スオウはまだ、首をかしげている。
「どうしたみんな、さっさと行くぞ」
周りの反応を気にすることなく、粉を払いのけ終わったマリアンナが皆に告げた。
マリアンナが叩き割った扉の先は、大きな部屋だった。豪華な装飾品が、部屋の隅の方に置かれている。この部屋は、砂による侵食を全く受けていないようだ。そして、部屋の中央には何か大きな、繭のようなものにくるまれたものが鎮座していた。おそらく、『魔王』ルーファスであろう。体の中にいるルーファスの魂の影響か、ヨハンは即座に理解する。あれにルーファスの魂を送れば、ヨハンはルーファスから解放され、『魔王』は目覚める。
「魂は、本来自分が存在しているところに戻りたがるはずです。アエマの大神官である私が言うのですから、間違いはありません。ですからおそらく、ルーファスの繭に触れ、念じれば魂は戻ります」
パルテナが述べる。その言葉を受け、ヨハンはルーファスの繭へと近づいていった。そして、
「とっとと戻れ!」
その言葉と共に、ヨハンは繭を殴りつけた。その接触部分から、光が溢れだす。同時に、ヨハンは触れている部分から熱さを感じた。多少の熱さではない。燃え盛る火炎のような熱さであった。手を放したくなるヨハンだが、彼の本能は今、手を放すことは危険だと告げている。
ヨハンの置かれている状況に真っ先に気が付いたのは、大神官であるパルテナだった。彼女はヨハンの元に駆け寄ると、万一にでも手を離さないようにと手を添えようとする。だが、
「熱っ」
想像以上にその手は熱かったようであり、パルテナは思わず手を離してしまう。その手を振りながら、パルテナは深刻そうな表情で皆に告げる。
「ヨハンさんが今、手を離してしまうと、魂が中途半端な状態で覚醒してしまます! ヨハンさんが乗っ取られてしまうかも!」
「どうすればいいんだ、何かできることはあるのか?」
マックスの言葉に、パルテナは頷く。
「みなさん、ヨハンさんが手を離さないようにしてください!」
「わかった!」
「任せろ」
その言葉を聞くや否や、グレンとマックスがヨハンの手に、自らの手を被せる。
「「あっつっ!!」」
グレンもマックスも想像以上の熱さに、手を放しそうになる。だが、二人とも手を離さなかった。
と、赤い光が突然、ヨハンの手に浮き上がった。それはヨハンの手から繭へと少しずつ移動していく。そして、ついには繭の中へ吸い込まれるように入っていった。少しの間の後、音を立てて繭にひびが入り始めた。
「成功したのか?」
マックスの言葉に、パルテナが頷く。
「魂が、魔王の中へと入っていった」
ひときわ強い光が繭から発せられた。その光が収まった時、ヨハンたちの眼前には、漆黒の翼と赤い体を持ち、ヨハンの倍ほどの背を持つ一人の魔族がたっていた。
「長い、時がたった」
その魔族が静かな、けれども決して小さくはない声で語り始める。
「余が封印されてから、幾百年もの月日が流れた。だが、余はこうして帰ってくることができた。お前たちが、余を復活させた親切なものたちか。礼を言おう。望めば、余の部下としていかなる地位にもつけてやるぞ」
そこまで告げ、『魔王』は復活させたヨハンたちの発する敵意に気がついたらしい。
「・・・いや、お前たちの目的は、余の部下になることではなさそうだな」
ヨハンたち一人一人の顔を見ていたルーファスは、ヨハンの籠手と一体化している宝玉に目を止める。
「その宝玉・・・なるほど、お前があの小娘の子孫か。となると、お前たちの目的は、余を滅ぼすことか」
「ああ、そうだ」
ヨハンが言葉を返す。
「おれはお前を封印したものの子孫で、名をヨハン・ルーカスという。そして、今からお前を滅ぼすものだ」
要約すると、とヨハンはいったん言葉を切る。
「こんにちは、じゃあ死ね」
面白い、とヨハンの言葉を聞いたルーファスが頷く。
「いいだろう、相手になってやろう・・・とは言え、余も復活したてで万全ではないのでな。ゲイム!」
ルーファスがヨハンたちの背後に向けて叫ぶ。そこには、一人の老人がたっていた。
「ルーファス様、何用でしょうか?」
ゲイムが返す。
「余とお前の二人で、この人間どもを倒すぞ」
「それは承知しかねます」
「どうしてだ?」
「それはルーファス様、あなたの復活を待っていたのは、わたしだけではないからです」
ゲイムの姿が一瞬掻き消える、と、戻ってきたときのゲイムは二人の仲間をともなっていた。
「おお、お主たちも息災であったか」
ルーファスの言葉に、ナグモが頷き、ヒィッツカラルドが答える。
「いえ、ルーファス様。おれたちも一度は裏切り者どもの手にかかり殺されてしまいました。しかし、『虚無術師』ドーマがおれたちを復活させてくれたのです。しかし、そのドーマは目の前にいる奴らの手によって、倒されてしまいました。おまけに、『大地震撼』ダイダーラと『災蛇魔拳』ミスター・チーバはやられ、『黒蝕凶竜』ディアブロスは見つかっておりません」
その言葉に、ルーファスは短く、そうかと告げる。
「いや、そんなことはありませんぞ」
その言葉に、異を唱えたのはゲイムであった。
「ディアブロスのことは、実はとうの昔に見つけております。おまけに、すぐそばにおります。ほら、そこに」
ゲイムはそう告げると、ウェンディの方を指さす。
「えっ?」
思わずマックスが呟く。他の仲間たちも、困惑していた。特に混乱しているのはウェンディだ。だが、ルーファスはそんなウェンディを見ながら深く頷く。
「おお、確かにそなたはディアブロスではないか。どうした人型になって。本来の姿には戻らぬのか?」
「わ、わたし? いや、わたしはウェンディと言って・・・」
「そうだ、こいつはウェンディだ! おれたちの仲間だよ」
マックスの言葉に、ゲイムが不気味な笑みを見せながら、首を横に振る。そして、ルーファスの方を向いた。
「どうやらウェンディは、以前の記憶をなくし、彼らに協力している様子です。今すぐにでも、過去の記憶を呼び起こしましょう」
ゲイムはそう告げると、ウェンディの方に向き直り指を鳴らす。その音が周囲に響き渡るのと同時に、ウェンディが崩れ落ちた。
「おい、ウェンディ、大丈夫か? 大丈夫かよ?」
マックスがウェンディに呼びかける。
「じっちゃん、蘇生薬だ!」
「お、おう。ちょっと待ってろ」
マックスの言葉を受けたグレンが、懐から蘇生薬を取り出す。そんな、二人の様子を眺めながら、ゲイムが話し始めた。
「なに、そやつにはしばらく眠ってもらった。目覚めたころには、かつての記憶を取り戻しているじゃろう。もちろん、今のうちにそやつを殺したいなら、殺せばいい。まあ、お主たちがそんなことをせぬのはわかっておるがな。目覚めれば、こちらの仲間が一人増える。それだけのことよ」
「ああ? ふざけたこといってんじゃねえぞ! ウェンディはおれたちとずっと一緒にいたんだ。おれたちの仲間だよ!」
マックスがゲイムの方に向き直る。その目には、怒りが満ちていた。
「そうだ。それに過去の記憶を取り戻したからって、必ずしもお前たちの味方をするとは限らないだろう」
その隣に立ったマリアンナが冷静に述べる。しかし、その目にはマックスと同じく、怒りが見え隠れしていた。
「いや、そやつはルーファス様に『借り』があるからの。必ず、我らの味方をすると思うぞ。何しろディアブロスは義理堅いからな」
「黙れよ! そんな御託を聞きに来たわけじゃねえんだよ!」
マックスが怒鳴る。
「その通りだな」
そう告げたのは、意外にもルーファス。魔王その人であった。
「ディアブロスが目覚めるまで待つわけにはいかないだろうし。戦おうか」
「魂は、本来自分が存在しているところに戻りたがるはずです。アエマの大神官である私が言うのですから、間違いはありません。ですからおそらく、ルーファスの繭に触れ、念じれば魂は戻ります」
パルテナが述べる。その言葉を受け、ヨハンはルーファスの繭へと近づいていった。そして、
「とっとと戻れ!」
その言葉と共に、ヨハンは繭を殴りつけた。その接触部分から、光が溢れだす。同時に、ヨハンは触れている部分から熱さを感じた。多少の熱さではない。燃え盛る火炎のような熱さであった。手を放したくなるヨハンだが、彼の本能は今、手を放すことは危険だと告げている。
ヨハンの置かれている状況に真っ先に気が付いたのは、大神官であるパルテナだった。彼女はヨハンの元に駆け寄ると、万一にでも手を離さないようにと手を添えようとする。だが、
「熱っ」
想像以上にその手は熱かったようであり、パルテナは思わず手を離してしまう。その手を振りながら、パルテナは深刻そうな表情で皆に告げる。
「ヨハンさんが今、手を離してしまうと、魂が中途半端な状態で覚醒してしまます! ヨハンさんが乗っ取られてしまうかも!」
「どうすればいいんだ、何かできることはあるのか?」
マックスの言葉に、パルテナは頷く。
「みなさん、ヨハンさんが手を離さないようにしてください!」
「わかった!」
「任せろ」
その言葉を聞くや否や、グレンとマックスがヨハンの手に、自らの手を被せる。
「「あっつっ!!」」
グレンもマックスも想像以上の熱さに、手を放しそうになる。だが、二人とも手を離さなかった。
と、赤い光が突然、ヨハンの手に浮き上がった。それはヨハンの手から繭へと少しずつ移動していく。そして、ついには繭の中へ吸い込まれるように入っていった。少しの間の後、音を立てて繭にひびが入り始めた。
「成功したのか?」
マックスの言葉に、パルテナが頷く。
「魂が、魔王の中へと入っていった」
ひときわ強い光が繭から発せられた。その光が収まった時、ヨハンたちの眼前には、漆黒の翼と赤い体を持ち、ヨハンの倍ほどの背を持つ一人の魔族がたっていた。
「長い、時がたった」
その魔族が静かな、けれども決して小さくはない声で語り始める。
「余が封印されてから、幾百年もの月日が流れた。だが、余はこうして帰ってくることができた。お前たちが、余を復活させた親切なものたちか。礼を言おう。望めば、余の部下としていかなる地位にもつけてやるぞ」
そこまで告げ、『魔王』は復活させたヨハンたちの発する敵意に気がついたらしい。
「・・・いや、お前たちの目的は、余の部下になることではなさそうだな」
ヨハンたち一人一人の顔を見ていたルーファスは、ヨハンの籠手と一体化している宝玉に目を止める。
「その宝玉・・・なるほど、お前があの小娘の子孫か。となると、お前たちの目的は、余を滅ぼすことか」
「ああ、そうだ」
ヨハンが言葉を返す。
「おれはお前を封印したものの子孫で、名をヨハン・ルーカスという。そして、今からお前を滅ぼすものだ」
要約すると、とヨハンはいったん言葉を切る。
「こんにちは、じゃあ死ね」
面白い、とヨハンの言葉を聞いたルーファスが頷く。
「いいだろう、相手になってやろう・・・とは言え、余も復活したてで万全ではないのでな。ゲイム!」
ルーファスがヨハンたちの背後に向けて叫ぶ。そこには、一人の老人がたっていた。
「ルーファス様、何用でしょうか?」
ゲイムが返す。
「余とお前の二人で、この人間どもを倒すぞ」
「それは承知しかねます」
「どうしてだ?」
「それはルーファス様、あなたの復活を待っていたのは、わたしだけではないからです」
ゲイムの姿が一瞬掻き消える、と、戻ってきたときのゲイムは二人の仲間をともなっていた。
「おお、お主たちも息災であったか」
ルーファスの言葉に、ナグモが頷き、ヒィッツカラルドが答える。
「いえ、ルーファス様。おれたちも一度は裏切り者どもの手にかかり殺されてしまいました。しかし、『虚無術師』ドーマがおれたちを復活させてくれたのです。しかし、そのドーマは目の前にいる奴らの手によって、倒されてしまいました。おまけに、『大地震撼』ダイダーラと『災蛇魔拳』ミスター・チーバはやられ、『黒蝕凶竜』ディアブロスは見つかっておりません」
その言葉に、ルーファスは短く、そうかと告げる。
「いや、そんなことはありませんぞ」
その言葉に、異を唱えたのはゲイムであった。
「ディアブロスのことは、実はとうの昔に見つけております。おまけに、すぐそばにおります。ほら、そこに」
ゲイムはそう告げると、ウェンディの方を指さす。
「えっ?」
思わずマックスが呟く。他の仲間たちも、困惑していた。特に混乱しているのはウェンディだ。だが、ルーファスはそんなウェンディを見ながら深く頷く。
「おお、確かにそなたはディアブロスではないか。どうした人型になって。本来の姿には戻らぬのか?」
「わ、わたし? いや、わたしはウェンディと言って・・・」
「そうだ、こいつはウェンディだ! おれたちの仲間だよ」
マックスの言葉に、ゲイムが不気味な笑みを見せながら、首を横に振る。そして、ルーファスの方を向いた。
「どうやらウェンディは、以前の記憶をなくし、彼らに協力している様子です。今すぐにでも、過去の記憶を呼び起こしましょう」
ゲイムはそう告げると、ウェンディの方に向き直り指を鳴らす。その音が周囲に響き渡るのと同時に、ウェンディが崩れ落ちた。
「おい、ウェンディ、大丈夫か? 大丈夫かよ?」
マックスがウェンディに呼びかける。
「じっちゃん、蘇生薬だ!」
「お、おう。ちょっと待ってろ」
マックスの言葉を受けたグレンが、懐から蘇生薬を取り出す。そんな、二人の様子を眺めながら、ゲイムが話し始めた。
「なに、そやつにはしばらく眠ってもらった。目覚めたころには、かつての記憶を取り戻しているじゃろう。もちろん、今のうちにそやつを殺したいなら、殺せばいい。まあ、お主たちがそんなことをせぬのはわかっておるがな。目覚めれば、こちらの仲間が一人増える。それだけのことよ」
「ああ? ふざけたこといってんじゃねえぞ! ウェンディはおれたちとずっと一緒にいたんだ。おれたちの仲間だよ!」
マックスがゲイムの方に向き直る。その目には、怒りが満ちていた。
「そうだ。それに過去の記憶を取り戻したからって、必ずしもお前たちの味方をするとは限らないだろう」
その隣に立ったマリアンナが冷静に述べる。しかし、その目にはマックスと同じく、怒りが見え隠れしていた。
「いや、そやつはルーファス様に『借り』があるからの。必ず、我らの味方をすると思うぞ。何しろディアブロスは義理堅いからな」
「黙れよ! そんな御託を聞きに来たわけじゃねえんだよ!」
マックスが怒鳴る。
「その通りだな」
そう告げたのは、意外にもルーファス。魔王その人であった。
「ディアブロスが目覚めるまで待つわけにはいかないだろうし。戦おうか」
「余と戦いたいのは、どいつだ?」
ルーファスの声に応じ、マリアンナとスオウ。そしてパルテナの三人が前に出た。その人数にルーファスは驚いたようだった。
「残りはみな、見物人か?」
「まさか」
そう返したのはマリアンナだった。
「あんたと他の奴、倒しやすい方を先に倒したくてね。それと、確かに人は少ないかもしれないが・・・個人の力は強いよ」
指を鳴らし、腕を大きく回転させながら、魔術師のマリアンナが告げる。その後ろでは、パルテナが杖を構えていた。
と、ルーファスの横に、一人の女性が立った。ナグモだ。
「ルーファス様、あの剣士は私が」
そう告げると、ナグモは刀をスオウに向けた。
「以前は不覚を取ったけど、今日はそうはいかない。覚悟しなさい」
その言葉を受け、スオウも刀を抜いた。
「望むところだ」
ルーファスの声に応じ、マリアンナとスオウ。そしてパルテナの三人が前に出た。その人数にルーファスは驚いたようだった。
「残りはみな、見物人か?」
「まさか」
そう返したのはマリアンナだった。
「あんたと他の奴、倒しやすい方を先に倒したくてね。それと、確かに人は少ないかもしれないが・・・個人の力は強いよ」
指を鳴らし、腕を大きく回転させながら、魔術師のマリアンナが告げる。その後ろでは、パルテナが杖を構えていた。
と、ルーファスの横に、一人の女性が立った。ナグモだ。
「ルーファス様、あの剣士は私が」
そう告げると、ナグモは刀をスオウに向けた。
「以前は不覚を取ったけど、今日はそうはいかない。覚悟しなさい」
その言葉を受け、スオウも刀を抜いた。
「望むところだ」
「そうなると、余の相手は二人だけか。まあいい、余もちょうど準備運動がしたかったのでな。ゲイム! ヒィッツ!」
ルーファスは二人に話しかける。
「お前は、お前と相手したがっているやつらをまず倒せ。不利になったら逃げても構わんが、余の相手は倒すなよ」
「御意」
ゲイムが短く述べ、ヒィッツカラルドもわかったと言わんばかりに大きく頷いた。
ルーファスは二人に話しかける。
「お前は、お前と相手したがっているやつらをまず倒せ。不利になったら逃げても構わんが、余の相手は倒すなよ」
「御意」
ゲイムが短く述べ、ヒィッツカラルドもわかったと言わんばかりに大きく頷いた。
ゲイムが、ヨハンたちの居る方へと近づいていく。
「やれやれ、お主たちとはだいぶ長い付き合いになったのう」
ゲイムは、ヨハンたち一人一人の顔を眺めまわした。初めて出会った時から、五年近い月日がたっている。
「全くだぜ」
マックスがゲイムの言葉に同意する。
「何度その面をぶっ潰してやりたいと思ったことか」
その言葉に、ゲイムは余裕の笑みを浮かべる。
「これまではルーファス様をお守りせねばならなかったので、儂もできることが限られておった。だが、もう遠慮はいらんな。お主たちに用はない。ヨハン、例えお前でも殺してくれよう」
ヨハンも不敵な笑みを浮かべた。
「ようやく、長らく付きまとってきたストーカーと別れられると思うと、せいせいするぜ」
「やれやれ、お主たちとはだいぶ長い付き合いになったのう」
ゲイムは、ヨハンたち一人一人の顔を眺めまわした。初めて出会った時から、五年近い月日がたっている。
「全くだぜ」
マックスがゲイムの言葉に同意する。
「何度その面をぶっ潰してやりたいと思ったことか」
その言葉に、ゲイムは余裕の笑みを浮かべる。
「これまではルーファス様をお守りせねばならなかったので、儂もできることが限られておった。だが、もう遠慮はいらんな。お主たちに用はない。ヨハン、例えお前でも殺してくれよう」
ヨハンも不敵な笑みを浮かべた。
「ようやく、長らく付きまとってきたストーカーと別れられると思うと、せいせいするぜ」
戦いの火蓋を切ったのは、リアノだった。手に持つ二本の短剣を素早く落とすと、曲芸のような手つきで二本の鞭を取り出し、ゲイムとヒィッツカラルド目掛けて振るおうとする。だが、その直前、ゲイムがリアノを鋭く見つめた。途端、リアノの意思に反してその体が動きそうになる。洗脳を得意とするゲイムの技の一つ、《瞬間操作》だ。だが。
「ほう・・・限界を超えてきたかのう」
ゲイムが軽くうなる。実際、日ごろのリアノであれば操られていたであろう。しかし、リアノは狙い澄ましたかのように限界を超えてきた。いや、リアノだけではない、ヨハンたち全員がだ。いくらゲイムと言えども、限界を超えた人間はそう操ることができない。ゲイムは苦笑した。
一方、リアノは改めて鞭を振おうとする。リアノの特技、《トゥルーブレイク》だ。ヨハンたちの戦術は、この《トゥルーブレイク》から始まると言っても過言ではない。そしてそのことを、ゲイムは熟知していた。ゲイムはリアノを見据えると、語りかけた。
「お主の実力は良く知っておる。いつも先陣を切るのはお主じゃからな。だが、リアノよ。儂に攻撃してもいいのか? この前、儂はお主の船員たちを操った。いとも簡単にな。また、同じように操ってお主と戦わせてもよいのだぞ? どうじゃリアノ、儂らのもとに来ないかね?」
同時に、強力な呪術をリアノにかける。呪術によって精神的に弱った人間は、操りやすい。だが、リアノはリアノだった。
「そんなことに、興味ないから」
リアノはゲイムの妨害をものともせず、二人を攻撃した。その攻撃に対し、ヒィッツカラルドも動く。
「ふん、おれがいることを忘れるなよ」
そう言いながら、ヒィッツカラルドが指を鳴らす。たちまち真空刃が生じ、リアノに襲いかかった。互いに互いの攻撃が命中し、衝撃で吹き飛ぶ。
「おれの本気の攻撃を受けて立っていたものはいない。残念だったな」
しばしの間の後、立ち上がったヒィッツカラルドが肩をすくめ、吹き飛んだであろうリアノの方を向く。ヒィッツカラルドは、リアノの攻撃で大打撃を受けていた。だが、ヒィッツカラルドには確信があった。自分の攻撃を受けたリアノも、無事では済まされないだろうと言う確信だ。しかし、真空刃によって生じた煙が収まった時、そこには無傷のリアノがたっていた。何故だ、と疑問に思うヒィッツカラルドであったが、すぐにその理由を理解する。その横で、真空刃からリアノをかばったヨハンが立ち上がったためだ。その外見に、目立った傷はない。攻撃は、全てゼンマイガーの障壁と禍々しい首飾りが受け止めていたためだ。
「なあ、兄ちゃんよ。遊びたいなら言ってくれよ。いくらでも付き合うぜ」
ヨハンが余裕たっぷりな表情で述べる。一方で、ヒィッツカラルドは愕然としていた
「お、おれの攻撃が・・・」
「すげえぜ兄ちゃん」
マックスも感嘆の声を上げる。そんなマックスの目の前で、ヨハンは籠手を高く掲げた。同時に、その籠手につけられた緑色の宝玉が輝き出す。その輝きには、魔族を弱らせる”退魔”の効果があった。当然、ゲイムもヒィッツカラルドも魔族であるため、その効果を受ける。ゲイムは、顔を顰めながら唸った。
「ほう・・・その宝玉、本当に嫌なものじゃ。やはりお主たちを生かしてはおけない。葬ってくれよう」
「葬られるのは、お前だ」
ヨハンが短く返す。それはどうかの、と返しながらゲイムは目を閉じ、何か短い言葉を念じ始めた。それは《精神世界》と呼ばれるゲイムの得意技だった。だが、これまで攻防の間にゲイムの能力を把握したグレンが、その危険性を皆に伝える。その言葉を受けたリアノとマックスが、素早く鞭と弓による牽制を行う。その結果、ゲイムの集中は途絶え、《精神世界》は不発に終わった。
「なかなかやるのう・・・だが、お主たちの攻撃は、この儂が誰よりもわかっておる。何度も見てきたしのう。その分、対策も容易じゃ。まずは、一番洗脳し甲斐がある奴を狙わせてもらおう」
そう告げたゲイムが、洗脳のターゲットにしたのはマックスだった。継戦能力の低いマックスの力を強引に使わせることで、攻め手を減らそうとの考えである。だが、マックスもそうおいそれと洗脳されるわけにはいかない。
「ふざけんなよ、てめえ! てめえみたいなやつに操られてたまるかよ!」
その掛け声とともに、気合でゲイムの洗脳を乗り切っていた。
「ほう・・・なかなかやるのう」
ゲイムが感心と苦々しさの混じった声をあげる。
「だが、まだおれたちの攻撃は終わっちゃいない」
そう告げたのは、ヒィッツカラルドだった。彼は両腕を上げると、その指を鳴らす構えを取る。先ほどの真空刃を出そうとしているのだ。ヨハンには効かなかったものの、その攻撃を他の誰かが受ければただでは済まされないだろう。だが、彼の指がなることはなかった。その手に、マックスの放った矢が刺さったからだ。
「ここからは、こっちの番だな」
弓を構え、マックスがにやりと笑う。
まず動こうとしたのはセルモだった。いつも通り、ティボルトから教わった素早く動く方法をもとに、サラサ、マックス、リアノに強化の魔術をかけようとする。そんなセルモに、ゲイムが話しかけてきた。
「セルモよ、お主はアアアアと喋ってみたいと思わんかね。儂のもとに来れば、アアアアと喋ることなどたやすいぞ。どうじゃセルモ、儂のもとに来ないかね? そこのわけのわからない珍獣ともおさらば出来るぞ」
ゲイムはそう告げると、傍らにいるティボルトを指さした。
「誰が珍獣だ! 誰がアルパカだ! このボケ!」
激怒するティボルトの前で、セルモはいつも自分と共にいるトカゲを見詰めた後、ゲイムに向き直った。
「アアアアとはそんなことをしなくてもちゃんと通じ合っているから。それと、後ろのこの人、とっても暑苦しいしうるさいけど、一緒にいることに慣れ過ぎているから、もしいなかったら物足りなくなるかもしれないわね」
セルモの言葉に、即座に反応したのはティボルトだった。その表情、挙動、口調全てに今の言葉に対する感動が詰め込まれている。
「セルモさああああん! やっぱりあなたはおれのことを! やっぱりセルモさんとおれは『運命』の赤い糸で結ばれている」
そして、くるりと首を回すと、マックスを向く。
「お前もそう思わないか、マックス?」
「いや、そうは思わないけど」
マックスは即座に切り捨てる。ただ、それだけではティボルトがかわいそうだと思ったのか、言葉を続ける。
「でも、セルモさんがお前を見捨てるようなことを言うやつじゃないってことは知っていたよ」
ティボルトはまだセルモに感激の表情を向けていた。そんなティボルトを見ながら、セルモは苦笑する。
「あ、でもうるさいから少し離れてね。もう一歩くらい」
「ほう・・・限界を超えてきたかのう」
ゲイムが軽くうなる。実際、日ごろのリアノであれば操られていたであろう。しかし、リアノは狙い澄ましたかのように限界を超えてきた。いや、リアノだけではない、ヨハンたち全員がだ。いくらゲイムと言えども、限界を超えた人間はそう操ることができない。ゲイムは苦笑した。
一方、リアノは改めて鞭を振おうとする。リアノの特技、《トゥルーブレイク》だ。ヨハンたちの戦術は、この《トゥルーブレイク》から始まると言っても過言ではない。そしてそのことを、ゲイムは熟知していた。ゲイムはリアノを見据えると、語りかけた。
「お主の実力は良く知っておる。いつも先陣を切るのはお主じゃからな。だが、リアノよ。儂に攻撃してもいいのか? この前、儂はお主の船員たちを操った。いとも簡単にな。また、同じように操ってお主と戦わせてもよいのだぞ? どうじゃリアノ、儂らのもとに来ないかね?」
同時に、強力な呪術をリアノにかける。呪術によって精神的に弱った人間は、操りやすい。だが、リアノはリアノだった。
「そんなことに、興味ないから」
リアノはゲイムの妨害をものともせず、二人を攻撃した。その攻撃に対し、ヒィッツカラルドも動く。
「ふん、おれがいることを忘れるなよ」
そう言いながら、ヒィッツカラルドが指を鳴らす。たちまち真空刃が生じ、リアノに襲いかかった。互いに互いの攻撃が命中し、衝撃で吹き飛ぶ。
「おれの本気の攻撃を受けて立っていたものはいない。残念だったな」
しばしの間の後、立ち上がったヒィッツカラルドが肩をすくめ、吹き飛んだであろうリアノの方を向く。ヒィッツカラルドは、リアノの攻撃で大打撃を受けていた。だが、ヒィッツカラルドには確信があった。自分の攻撃を受けたリアノも、無事では済まされないだろうと言う確信だ。しかし、真空刃によって生じた煙が収まった時、そこには無傷のリアノがたっていた。何故だ、と疑問に思うヒィッツカラルドであったが、すぐにその理由を理解する。その横で、真空刃からリアノをかばったヨハンが立ち上がったためだ。その外見に、目立った傷はない。攻撃は、全てゼンマイガーの障壁と禍々しい首飾りが受け止めていたためだ。
「なあ、兄ちゃんよ。遊びたいなら言ってくれよ。いくらでも付き合うぜ」
ヨハンが余裕たっぷりな表情で述べる。一方で、ヒィッツカラルドは愕然としていた
「お、おれの攻撃が・・・」
「すげえぜ兄ちゃん」
マックスも感嘆の声を上げる。そんなマックスの目の前で、ヨハンは籠手を高く掲げた。同時に、その籠手につけられた緑色の宝玉が輝き出す。その輝きには、魔族を弱らせる”退魔”の効果があった。当然、ゲイムもヒィッツカラルドも魔族であるため、その効果を受ける。ゲイムは、顔を顰めながら唸った。
「ほう・・・その宝玉、本当に嫌なものじゃ。やはりお主たちを生かしてはおけない。葬ってくれよう」
「葬られるのは、お前だ」
ヨハンが短く返す。それはどうかの、と返しながらゲイムは目を閉じ、何か短い言葉を念じ始めた。それは《精神世界》と呼ばれるゲイムの得意技だった。だが、これまで攻防の間にゲイムの能力を把握したグレンが、その危険性を皆に伝える。その言葉を受けたリアノとマックスが、素早く鞭と弓による牽制を行う。その結果、ゲイムの集中は途絶え、《精神世界》は不発に終わった。
「なかなかやるのう・・・だが、お主たちの攻撃は、この儂が誰よりもわかっておる。何度も見てきたしのう。その分、対策も容易じゃ。まずは、一番洗脳し甲斐がある奴を狙わせてもらおう」
そう告げたゲイムが、洗脳のターゲットにしたのはマックスだった。継戦能力の低いマックスの力を強引に使わせることで、攻め手を減らそうとの考えである。だが、マックスもそうおいそれと洗脳されるわけにはいかない。
「ふざけんなよ、てめえ! てめえみたいなやつに操られてたまるかよ!」
その掛け声とともに、気合でゲイムの洗脳を乗り切っていた。
「ほう・・・なかなかやるのう」
ゲイムが感心と苦々しさの混じった声をあげる。
「だが、まだおれたちの攻撃は終わっちゃいない」
そう告げたのは、ヒィッツカラルドだった。彼は両腕を上げると、その指を鳴らす構えを取る。先ほどの真空刃を出そうとしているのだ。ヨハンには効かなかったものの、その攻撃を他の誰かが受ければただでは済まされないだろう。だが、彼の指がなることはなかった。その手に、マックスの放った矢が刺さったからだ。
「ここからは、こっちの番だな」
弓を構え、マックスがにやりと笑う。
まず動こうとしたのはセルモだった。いつも通り、ティボルトから教わった素早く動く方法をもとに、サラサ、マックス、リアノに強化の魔術をかけようとする。そんなセルモに、ゲイムが話しかけてきた。
「セルモよ、お主はアアアアと喋ってみたいと思わんかね。儂のもとに来れば、アアアアと喋ることなどたやすいぞ。どうじゃセルモ、儂のもとに来ないかね? そこのわけのわからない珍獣ともおさらば出来るぞ」
ゲイムはそう告げると、傍らにいるティボルトを指さした。
「誰が珍獣だ! 誰がアルパカだ! このボケ!」
激怒するティボルトの前で、セルモはいつも自分と共にいるトカゲを見詰めた後、ゲイムに向き直った。
「アアアアとはそんなことをしなくてもちゃんと通じ合っているから。それと、後ろのこの人、とっても暑苦しいしうるさいけど、一緒にいることに慣れ過ぎているから、もしいなかったら物足りなくなるかもしれないわね」
セルモの言葉に、即座に反応したのはティボルトだった。その表情、挙動、口調全てに今の言葉に対する感動が詰め込まれている。
「セルモさああああん! やっぱりあなたはおれのことを! やっぱりセルモさんとおれは『運命』の赤い糸で結ばれている」
そして、くるりと首を回すと、マックスを向く。
「お前もそう思わないか、マックス?」
「いや、そうは思わないけど」
マックスは即座に切り捨てる。ただ、それだけではティボルトがかわいそうだと思ったのか、言葉を続ける。
「でも、セルモさんがお前を見捨てるようなことを言うやつじゃないってことは知っていたよ」
ティボルトはまだセルモに感激の表情を向けていた。そんなティボルトを見ながら、セルモは苦笑する。
「あ、でもうるさいから少し離れてね。もう一歩くらい」
ティボルトは少しさみしそうな表情で、セルモから一歩離れる。同時にリアノが跳躍した。
そのままリアノは、ヒィッツカラルド目掛け鞭を振るう。当然、ヒィッツカラルドもリアノに反撃した。
「喰らえっ!」
ヒィッツカラルドの真空刃は確かにリアノを捕らえた、はずだった。だが、実際はリアノの前に現れた痩せた男が、空気の震えをあっさりと手で受け止めていた。
「ば、馬鹿な・・・おれの旋風がまたしても・・・」
「こんなつむじ風が効くか、おれは無敵だ」
痩せた男、ヨハンがにやりと笑みを浮かべる。愕然としたヒィッツカラルドをリアノの鞭が襲う。そこに、セルモがすかさず支援を乗せる。リアノの持てる力の大半を出し切ったこの攻撃は、サラサの一撃すらも上回る火力を叩き出していた。
「ば、馬鹿な・・・」
間髪入れずに、二発目の攻撃が飛んでくる。辛うじて体制を立て直したヒィッツカラルドは精神を集中させ、渾身の真空刃を放った。いくらヨハンと言えど、この攻撃からリアノをかばうことはできない。だが、リアノはその攻撃を予測していた。素早く鞭をしならせ、真空刃の威力をそぎ落とす。そこにセルモとゼンマイガーの作り出した障壁が現れ、真空刃はリアノに触れることなく消滅した。
「ば、馬鹿な!」
ヒィッツカラルドは愕然とした。城壁のような防御力を持つヨハンならまだしも、相手はほとんど防御に気を遣っていないリアノである。ヒィッツカラルドの顔に、焦りが浮かぶ。
「おまえさん、さっきから同じ言葉しか言ってないな」
グレンが冷静な突っ込みも、動揺したヒィッツカラルドには入っていないようだった。そんなヒィッツカラルドにリアノの鞭が再度襲い掛かる。その攻撃を受けたヒィッツカラルドは、派手な音を立てて壁に激突した。だが、ヒィッツカラルドを倒すには至らず、ヒィッツカラルドはゆっくりと立ち上がった。
「おれは心のどこかでお前らのことを甘く見ていたようだ」
激しくせき込みながら、ヒィッツカラルドが呟く。
「ここからは、本気で活かせてもらう」
ヨハンたちにも、ヒィッツカラルドの雰囲気がただならないものに変わったことは感じられた。だが、攻撃をやめるわけにはいかない。
続けて動き出そうとしたのは、マックスだった。矢筒から素早くウーツの矢を取り出すと、弓につがえる。そんなマックスに、ゲイムが口を開いた。
「お主はマックスじゃな。デストラクションとの友情を大切にしている義理に熱い少年。それがお主じゃ」
「おれとデストラクションとの仲を裂こうったってそうはいかないぜ! なあ、デストラクション!」
言葉と同時に、マックスの横にゴリラが現れ、当然だと言わんばかりに深く頷く。そして弾けた。
「よし!」
だが、次にゲイムが発する言葉はマックスの想定とは異なったものであった。
「だが、そんなお主にはできぬことがある。デストラクションと触れ合うことだ。儂は魔族じゃ。儂やルーファス様の力をもってすれば、デストラクションを実体化させることなどたやすい。どうじゃマックス、儂のもとに来ないかね?」
「デストラクションを実体化させるだと? デストラクションが・・・」
その言葉は、マックスを大いに悩ませるには十分なものであった。デストラクションだって、この世でもっと楽しみたいだろう。それは、この世に現れた時のデストラクションの破天荒な行動が物語っている。
だが、ここにきて動揺したマックスを立ち直らせたのもデストラクションだった。彼は再びマックスの隣に現れると、悲しげな表情で首を横に振ったのだ。デストラクションは即座に弾けたが、マックスは彼の言いたいことをすべて理解していた。
「本人が無理だって言ってるだろ!」
尚も何かを言おうとするゲイムに対し、マックスが怒鳴る。
「デストラクションは実体化しなくたっていいんだよ! おれと常に一緒にいるんだよ。な?」
デストラクションが三度マックスの横に現れ、そうだと言わんばかりに頷く。そして、またも弾けた。マックスは満足そうに頷くと、ゲイムの方を向いた。
「ほらな、見たかよ。てめえが今どんなでたらめを言おうとしたのか知らないけどよ、てめえらはてめえらの都合のいいことばかり言っておれたちをかき回そうとしている。さっきのウェンディのこともそうだ! そんなものに乗るかよ!!」
そして、マックスはヒィッツカラルド目掛け弓を放った。その一撃はマックスの怒りもあって完璧な軌道を描いていた。まず、普通の人間なら避けることもまともに受け止めることもできない。それほどの一撃だった。だが、本気を出したヒィッツカラルドはその軌道を即座に読み切り、指を鳴らそうとした。グレンの見事な妨害さえ入らなければ。
グレンの邪魔によって指を鳴らし損ねたヒィッツカラルドに、マックスの強烈な攻撃が突き刺さる。その攻撃は、先ほどのリアノの一撃とそう変わらない威力を持っていた。そして、もう一発。
だが、本気を出したヒィッツカラルドも負けてはいない。マックスの再びの攻撃にあわせて指を鳴らす。それはまさに、会心の指ならしと言っても過言ではないほどだった。その真空刃の威力は、マックスの放った弓の一撃とそう変わりはない。これをマックスが受ければ、ひとたまりもないだろう。だが、セルモとゼンマイガーの作り出した強固な障壁が真空刃の威力を和らげ、マックスでも受け止められる程度のものにする。
「ば、馬鹿な・・・このおれの攻撃が・・・」
一方、マックスの攻撃を受けたヒィッツカラルドはそう呟き、そのまま固まった。その目は、見開いたままだ。
「どうした、敵はどうなった? 兄ちゃん、奴はどうなった?」
マックスがそんなヒィッツカラルドを見ながら、ヨハンに尋ねる。『六傑』の面々は、強力な奴が多かった。ミスター・チーバなどヨハンとリアノの犠牲があっての勝利だったのだ。そう簡単に倒れはしないだろう。マックスはそう考えていた。
「これはその・・・死んでません?」
ヨハンが、目を見開いたままのヒィッツカラルドを見ながら、冷静に述べる。ヒィッツカラルドの表情は、どこか満足したものがあった。
「ほう、ヒィッツを倒すとは」
ゲイムが唸る。同時に、ヒィッツカラルドの体が、前に倒れた。
「え? マジで?」
驚いているマックスの横で、サラサがゲイム目掛けて飛び出していく。ゲイムもそんなサラサを見つめていた。
「サラサ、良かったのう。実の父親と会うことが出来て。じゃが、お主の父親はちと戦っている相手が悪いのう。ナグモは手加減を知らぬ。だが、儂のもとに下るのであれば、父親を助けてやってもよいぞ。どうじゃサラサ、儂のもとに来ないかね?」
「黙れ、わたしはお前なんかに絶対に屈したりしない」
そう告げると、サラサはゲイムに急接近した。そして、なおも何かを告げようとするゲイムを一瞥する。
「黙れ、切り殺す」
その言葉と共に、サラサが素早く刀を振るった。だが、ゲイムはその攻撃を受けながら、何かを唱える。グレンは即座にその詠唱の内容に気が付いた。セルモとゼンマイガーの放つ障壁を無効化する呪術だ。グレンが警戒の言葉を述べるが、誰もそれを中断させようとはしなかった。誰も操られなければ、障壁などは必要ない。そう考えたためだ。
「いいのかのう、これを通してしまって」
「おれたちは、一歩も引く気なんかねえんだよ!」
ゲイムのあざ笑うかのような言葉に対し、マックスが、皆の気持ちを代弁して答えた。ゲイムは首を振ると、軽くため息をついた。
「まあいい、すぐにお主たちを殴ってやろう。もちろん、儂の手は使わずにな」
そして、ゲイムはグレンの方を向いた。グレンが、サラサを再度、行動させようとしていたためだ。そんなグレンにもゲイムから甘言が飛ぶ。
「グレン、お主とは一度、どこかの街であったのう。ところで、レイクが今無事なのか気にならんかね? お主がそばにいれば守ることもできたろうに。残念ながら今のお主ははるか遠く、ウノーヴァにおる。ひょっとすると、お主が戻ってきたときには既にこの世にいないかも知れぬのう……まあ、儂のもとに来るなら、レイクの無事は保障してやるがの。どうじゃグレン、儂のもとに来ないかね?」
「そうだな・・・あいつの無事を確かめるのは確かに難しい」
だが、とグレンはレイクから貰ったスプレッダーを取り出しながら続ける。
「あいつがおれとの約束を破って先に逝くとは考えられないからな。とりあえず、無事を確かめるとしてもお前を倒してからだ。てめえに下るつもりはねえよ」
グレンは、ゲイムをにらみつけた。ゲイムは、再び溜息を吐く。
「ほう・・・ならば仕方がないのう。苦しみながら死ぬがよい」
だが、ゲイムが何かしようとするより先に、サラサの刃が閃いた。ゲイムの顔が、苦痛にゆがむ。だが、ゲイムもただやられるばかりではない。
「まあ見ておれ、お主たち。儂の真の力というものを教えてやろう」
その言葉と共に、ゲイムはマックスの方を向く。同時に、ゲイムの全身から黒い気配のようなものが立ち上り始めた。だが、その気配はマックスの方へと向かう途中で方向を変えた。ゲイムの顔に、一瞬驚きの表情が浮かぶ。その気配は、ヨハンの掲げた籠手に吸収されていた。籠手につけられた宝玉の”退魔”の効果を再度発動させたのである。
「無駄だ!」
ヨハンが叫ぶ。ゲイムは深いため息をついた。
「本当にお主は、儂の邪魔ばかりしてくれるのう」
「おいおい、随分とつれないじゃないか。昔はもっとフレンドリーだったのに」
「わしはルーファス様が中にいたからこそ、お主と仲良くなろうとしたのじゃ。ルーファス様がいないお主など、価値はない。さっさとおさらばして欲しいところだ」
ゲイムの言葉に、ヨハンは不敵な笑みを浮かべる。
「どの道お別れはするけどな、お前が死ぬから」
ヨハンの声と同時に、ゼンマイガーの支援を受けたマックスが矢を放つ。矢はゲイムに命中し、ゲイムに確かな打撃を与えた。だが、ゲイムも先ほどの黒い気配を、サラサめがけ放とうとする。ヨハンが再び籠手を掲げたことで、この攻撃は回避できたものの、籠手につけられた宝玉の輝き具合から、ヨハンは察する。この宝玉の効果が使えるのは、あと一回。だが、だからと言って諦めるわけにはいかないだろう。ヨハンは、両手に魔力を込め始めた。そんなヨハンの行動に気が付いたゲイムが、向き直る。
「やれやれ、お主には本当に手間をかけさせられたのう。お主がいまさら儂のもとに下るとは思えん。なので、お主に言えることはたった一つ。お主の仲間たちがここで苦しむのを、指を咥えてみているがいいわ。ルーファス様を蘇らせたお主にもう用はない。お主自身も、苦しみながら死ぬがよい」
「あいつらが死ぬわけないだろう。おれの仲間だ。それに何より」
ヨハンは右手をゲイムに向ける。
「死ぬのはお前だ」
直後、ゲイム目掛けて巨大な魔力が放出された。それはゲイムを飲み込み、壁へと激突する。
「おれたちも長い付き合いだからな。これはほんの《リゼントメント》だ」
受け取ってくれと言わんばかりにヨハンが呟く。間もなく、ゲイムが瓦礫の中から姿を現した。ゲイムは全身に傷が増えてきているとはいえ、まだまだ余力を残しているように思える。
「やれやれ、お主は本当にむかつくやつじゃのう」
ゲイムはそう告げると、軽く目を瞑る。すると、倒れたはずのヒィッツカラルドが立ち上がった。
「これでも喰らうがいい」
ゲイムの声と同時にヒィッツカラルドが指を鳴らす。そこから生じる真空刃は、軌道上にいるヨハンとマックスを巻き込みながら、その先にいるグレンとセルモを狙っていた。慌ててヨハンとゼンマイガーが、グレンとセルモをそれぞれかばう。そして、ゼンマイガーの作り出した障壁が真空刃の威力を和らげる。こうして、ヨハンたちはヒィッツカラルドからの奇襲を耐えきったのだった。
「ほう・・・やるのう。とは言え、お主たちはもはや満身創痍。諦めて降伏した方がいいのではないかのう?」
確かに、攻撃の直撃を受けたヨハンとマックスはぼろぼろになっていた。だが、まだ生きている。そして、ヨハンにはまだ切り札が残されていた。ここが使い時だろう、そう感じたヨハンは皆を見渡し、告げる。
「ここはおれに、はっちゃけさせてくれ」
だれも異論はない。それを確認すると、ヨハンはサラサから習った技術、怒りを力に変える技術を思い出しながら魔力を両手に込め始めた。ヨハンには一つの確信があった。ゲイムは、ヨハンのことを強引に操ることはできないとの確信だ。何故なら、他の皆とは異なり、ヨハンにはゲイムの妨害や洗脳が全く飛んでこない。そもそも、これまでも強引であればヨハンを操る機会はいくらでもあったはずだ。それをしてこなかったと言うことは、ゲイムはヨハンを強引に操ることはできないと言うことを意味している。だから、他の仲間たちであれば洗脳されてしまう可能性があるこの状態で、最も自由に動きやすいのは、ヨハンである。ヨハンはそう考えていた。
そして、ヨハンは魔力をゲイム目掛けて放つ。両手から放たれた二発の魔力のエネルギーは、塊怨樹程度の生物であればその場で跡形もなく消し飛ぶほどのものであった。
だが、ゲイムは塊怨樹ではない。この攻撃によって大きな打撃を受けたことは間違いないが、まだ生きていた。そして、ゲイムの目には、憤怒が込められている。
「お主らに、地獄を思い知らせてやろう」
この言葉と同時にサラサやグレン、リアノ、マックス、セルモの五人は体に違和感を覚え始めた。体のどこかが自由に動かなくなるような、そんな感覚だ。そして、理解する。ゲイムは今この五人全員を、洗脳しようとしていると言うことを。だが、セルモが辛うじてその洗脳を脱し、魔術を使ってゲイムを妨害する。その効果で、サラサたちはゲイムの洗脳を脱することに成功した。舌打ちするゲイムに、ヨハンから再度の魔力が放たれる。その一撃はゲイムに命中し、ゲイムに多大な打撃を与えることに成功した。そして、ゲイムの目の前にサラサが現れ、ゲイムの洗脳をものともせず刀を一閃させる。これで、ゲイムは戦闘不能になるはずだった。
だが、ゲイムは諦めない。ゲイムも隠し玉を持っていた。非常の際に、その場から緊急脱出する特殊な力である。
「儂が生き延びれば、まだ次の機会がある・・・」
だが、発動できない。むしろ、ゲイムは自分の力が何かに奪われている感覚を覚えた。その感覚の先を見る。そこには、籠手を掲げたヨハンの姿があった。最後の”退魔”の効果を利用したのだ。
「馬鹿な・・・儂の最後の隠し玉が・・・」
ゲイムは愕然とする。ヨハンはそんなゲイムに近づくと、首根っこをつかみ、ゲイムを持ち上げる。
「ようやく掴んだな」
ヨハンがゲイムに告げる。ゲイムの目に、かすかな怯えが見える。だが、ゲイムはそれをすぐに隠すと、サラサたちの方を向いた。
「まだだ、儂はまだ負けるわけにはいかん。どうだ、お主たち、今の儂を助けたら、後でルーファス様に頼んで、いかなる地位にもつけてやるぞ。どうだ、サラサ? グレン? リアノ? マックス? セルモ?」
ゲイムは、ヨハンを除く仲間たちに次々と語りかける。だが、誰も頷かない。
「おれたちの答えは決まっている」
グレンがそう告げると、頷く。その言葉を受け、ヨハンは苦々しい表情をしたゲイムの方を向いた。
「みんなの意見を、僭越ながらおれが代表しよう。嫌なこった」
ゲイムの苦々しい表情が、いっそう深くなる。
「お主たち、儂をここで助けなかったことを後悔するがいい。それにわしは魔族。お主たち、魔族が死んだらどうなるか知っているだろう? 儂も同じだぞ。倒すだけ無駄だ。お主たちが老人になったころ復活して、お主たちを殺すだけだ。それが嫌だったら、さっさとわしを助けるがいい」
「そうかそうか」
ヨハンの声色が。急に優しいものになる。
「おれたちが爺さんになった後のことなんか知ったこっちゃないし。第一、お前、生き返れるならそんなびびるなよ」
「第一、わたしたちがあなたの真の死の条件を知らないとでも思ったの?」
リアノが冷静に指摘する。ゲイムの『真の死』は、死を与えること。それは、かつてエミリーが行った神託によって明らかになっていたことであった。リアノの指摘に青くなっていたゲイムの顔が、血の気を帯びたようにいくらか赤くなった。
「お・・・おのれ、この儂、ゲイム。ウォッチがこんなところで死ぬだと。たかが人間風情に! こんな奴らに、この儂が負けるわけない。何かの間違いだ。それに、そうだ。儂にはルーファス様がいる。そうですよね、ルーファス様。助けて下さい」
だが、ルーファスの居るところからは、激しい爆発音が聞こえるのみで、返事はない。どうやら、マリアンナたちとの戦いに忙しく、それどころではないようだ。
「ル、ルーファス様・・・」
「なあ、ゲイム」
ヨハンの顔は穏やかに笑っていた。
「もう十分喋ったろ、もういいよな」
ヨハンはゲイムの頭をつかみ、潰した。ゲイムに『真の死』を与えたのである。ゲイムの体は見る見るうちに溶けて消えていく。こうして、ヨハンたちは一つの戦いに勝利した。五年に渡る、長き戦いに。
「ったく・・・」
ヨハンがゲイムを倒したのを見届けたグレンが、やれやれと言った風に口を開いた。
「てめえと戦っているうちに四十越しちまったぜ」
そのままリアノは、ヒィッツカラルド目掛け鞭を振るう。当然、ヒィッツカラルドもリアノに反撃した。
「喰らえっ!」
ヒィッツカラルドの真空刃は確かにリアノを捕らえた、はずだった。だが、実際はリアノの前に現れた痩せた男が、空気の震えをあっさりと手で受け止めていた。
「ば、馬鹿な・・・おれの旋風がまたしても・・・」
「こんなつむじ風が効くか、おれは無敵だ」
痩せた男、ヨハンがにやりと笑みを浮かべる。愕然としたヒィッツカラルドをリアノの鞭が襲う。そこに、セルモがすかさず支援を乗せる。リアノの持てる力の大半を出し切ったこの攻撃は、サラサの一撃すらも上回る火力を叩き出していた。
「ば、馬鹿な・・・」
間髪入れずに、二発目の攻撃が飛んでくる。辛うじて体制を立て直したヒィッツカラルドは精神を集中させ、渾身の真空刃を放った。いくらヨハンと言えど、この攻撃からリアノをかばうことはできない。だが、リアノはその攻撃を予測していた。素早く鞭をしならせ、真空刃の威力をそぎ落とす。そこにセルモとゼンマイガーの作り出した障壁が現れ、真空刃はリアノに触れることなく消滅した。
「ば、馬鹿な!」
ヒィッツカラルドは愕然とした。城壁のような防御力を持つヨハンならまだしも、相手はほとんど防御に気を遣っていないリアノである。ヒィッツカラルドの顔に、焦りが浮かぶ。
「おまえさん、さっきから同じ言葉しか言ってないな」
グレンが冷静な突っ込みも、動揺したヒィッツカラルドには入っていないようだった。そんなヒィッツカラルドにリアノの鞭が再度襲い掛かる。その攻撃を受けたヒィッツカラルドは、派手な音を立てて壁に激突した。だが、ヒィッツカラルドを倒すには至らず、ヒィッツカラルドはゆっくりと立ち上がった。
「おれは心のどこかでお前らのことを甘く見ていたようだ」
激しくせき込みながら、ヒィッツカラルドが呟く。
「ここからは、本気で活かせてもらう」
ヨハンたちにも、ヒィッツカラルドの雰囲気がただならないものに変わったことは感じられた。だが、攻撃をやめるわけにはいかない。
続けて動き出そうとしたのは、マックスだった。矢筒から素早くウーツの矢を取り出すと、弓につがえる。そんなマックスに、ゲイムが口を開いた。
「お主はマックスじゃな。デストラクションとの友情を大切にしている義理に熱い少年。それがお主じゃ」
「おれとデストラクションとの仲を裂こうったってそうはいかないぜ! なあ、デストラクション!」
言葉と同時に、マックスの横にゴリラが現れ、当然だと言わんばかりに深く頷く。そして弾けた。
「よし!」
だが、次にゲイムが発する言葉はマックスの想定とは異なったものであった。
「だが、そんなお主にはできぬことがある。デストラクションと触れ合うことだ。儂は魔族じゃ。儂やルーファス様の力をもってすれば、デストラクションを実体化させることなどたやすい。どうじゃマックス、儂のもとに来ないかね?」
「デストラクションを実体化させるだと? デストラクションが・・・」
その言葉は、マックスを大いに悩ませるには十分なものであった。デストラクションだって、この世でもっと楽しみたいだろう。それは、この世に現れた時のデストラクションの破天荒な行動が物語っている。
だが、ここにきて動揺したマックスを立ち直らせたのもデストラクションだった。彼は再びマックスの隣に現れると、悲しげな表情で首を横に振ったのだ。デストラクションは即座に弾けたが、マックスは彼の言いたいことをすべて理解していた。
「本人が無理だって言ってるだろ!」
尚も何かを言おうとするゲイムに対し、マックスが怒鳴る。
「デストラクションは実体化しなくたっていいんだよ! おれと常に一緒にいるんだよ。な?」
デストラクションが三度マックスの横に現れ、そうだと言わんばかりに頷く。そして、またも弾けた。マックスは満足そうに頷くと、ゲイムの方を向いた。
「ほらな、見たかよ。てめえが今どんなでたらめを言おうとしたのか知らないけどよ、てめえらはてめえらの都合のいいことばかり言っておれたちをかき回そうとしている。さっきのウェンディのこともそうだ! そんなものに乗るかよ!!」
そして、マックスはヒィッツカラルド目掛け弓を放った。その一撃はマックスの怒りもあって完璧な軌道を描いていた。まず、普通の人間なら避けることもまともに受け止めることもできない。それほどの一撃だった。だが、本気を出したヒィッツカラルドはその軌道を即座に読み切り、指を鳴らそうとした。グレンの見事な妨害さえ入らなければ。
グレンの邪魔によって指を鳴らし損ねたヒィッツカラルドに、マックスの強烈な攻撃が突き刺さる。その攻撃は、先ほどのリアノの一撃とそう変わらない威力を持っていた。そして、もう一発。
だが、本気を出したヒィッツカラルドも負けてはいない。マックスの再びの攻撃にあわせて指を鳴らす。それはまさに、会心の指ならしと言っても過言ではないほどだった。その真空刃の威力は、マックスの放った弓の一撃とそう変わりはない。これをマックスが受ければ、ひとたまりもないだろう。だが、セルモとゼンマイガーの作り出した強固な障壁が真空刃の威力を和らげ、マックスでも受け止められる程度のものにする。
「ば、馬鹿な・・・このおれの攻撃が・・・」
一方、マックスの攻撃を受けたヒィッツカラルドはそう呟き、そのまま固まった。その目は、見開いたままだ。
「どうした、敵はどうなった? 兄ちゃん、奴はどうなった?」
マックスがそんなヒィッツカラルドを見ながら、ヨハンに尋ねる。『六傑』の面々は、強力な奴が多かった。ミスター・チーバなどヨハンとリアノの犠牲があっての勝利だったのだ。そう簡単に倒れはしないだろう。マックスはそう考えていた。
「これはその・・・死んでません?」
ヨハンが、目を見開いたままのヒィッツカラルドを見ながら、冷静に述べる。ヒィッツカラルドの表情は、どこか満足したものがあった。
「ほう、ヒィッツを倒すとは」
ゲイムが唸る。同時に、ヒィッツカラルドの体が、前に倒れた。
「え? マジで?」
驚いているマックスの横で、サラサがゲイム目掛けて飛び出していく。ゲイムもそんなサラサを見つめていた。
「サラサ、良かったのう。実の父親と会うことが出来て。じゃが、お主の父親はちと戦っている相手が悪いのう。ナグモは手加減を知らぬ。だが、儂のもとに下るのであれば、父親を助けてやってもよいぞ。どうじゃサラサ、儂のもとに来ないかね?」
「黙れ、わたしはお前なんかに絶対に屈したりしない」
そう告げると、サラサはゲイムに急接近した。そして、なおも何かを告げようとするゲイムを一瞥する。
「黙れ、切り殺す」
その言葉と共に、サラサが素早く刀を振るった。だが、ゲイムはその攻撃を受けながら、何かを唱える。グレンは即座にその詠唱の内容に気が付いた。セルモとゼンマイガーの放つ障壁を無効化する呪術だ。グレンが警戒の言葉を述べるが、誰もそれを中断させようとはしなかった。誰も操られなければ、障壁などは必要ない。そう考えたためだ。
「いいのかのう、これを通してしまって」
「おれたちは、一歩も引く気なんかねえんだよ!」
ゲイムのあざ笑うかのような言葉に対し、マックスが、皆の気持ちを代弁して答えた。ゲイムは首を振ると、軽くため息をついた。
「まあいい、すぐにお主たちを殴ってやろう。もちろん、儂の手は使わずにな」
そして、ゲイムはグレンの方を向いた。グレンが、サラサを再度、行動させようとしていたためだ。そんなグレンにもゲイムから甘言が飛ぶ。
「グレン、お主とは一度、どこかの街であったのう。ところで、レイクが今無事なのか気にならんかね? お主がそばにいれば守ることもできたろうに。残念ながら今のお主ははるか遠く、ウノーヴァにおる。ひょっとすると、お主が戻ってきたときには既にこの世にいないかも知れぬのう……まあ、儂のもとに来るなら、レイクの無事は保障してやるがの。どうじゃグレン、儂のもとに来ないかね?」
「そうだな・・・あいつの無事を確かめるのは確かに難しい」
だが、とグレンはレイクから貰ったスプレッダーを取り出しながら続ける。
「あいつがおれとの約束を破って先に逝くとは考えられないからな。とりあえず、無事を確かめるとしてもお前を倒してからだ。てめえに下るつもりはねえよ」
グレンは、ゲイムをにらみつけた。ゲイムは、再び溜息を吐く。
「ほう・・・ならば仕方がないのう。苦しみながら死ぬがよい」
だが、ゲイムが何かしようとするより先に、サラサの刃が閃いた。ゲイムの顔が、苦痛にゆがむ。だが、ゲイムもただやられるばかりではない。
「まあ見ておれ、お主たち。儂の真の力というものを教えてやろう」
その言葉と共に、ゲイムはマックスの方を向く。同時に、ゲイムの全身から黒い気配のようなものが立ち上り始めた。だが、その気配はマックスの方へと向かう途中で方向を変えた。ゲイムの顔に、一瞬驚きの表情が浮かぶ。その気配は、ヨハンの掲げた籠手に吸収されていた。籠手につけられた宝玉の”退魔”の効果を再度発動させたのである。
「無駄だ!」
ヨハンが叫ぶ。ゲイムは深いため息をついた。
「本当にお主は、儂の邪魔ばかりしてくれるのう」
「おいおい、随分とつれないじゃないか。昔はもっとフレンドリーだったのに」
「わしはルーファス様が中にいたからこそ、お主と仲良くなろうとしたのじゃ。ルーファス様がいないお主など、価値はない。さっさとおさらばして欲しいところだ」
ゲイムの言葉に、ヨハンは不敵な笑みを浮かべる。
「どの道お別れはするけどな、お前が死ぬから」
ヨハンの声と同時に、ゼンマイガーの支援を受けたマックスが矢を放つ。矢はゲイムに命中し、ゲイムに確かな打撃を与えた。だが、ゲイムも先ほどの黒い気配を、サラサめがけ放とうとする。ヨハンが再び籠手を掲げたことで、この攻撃は回避できたものの、籠手につけられた宝玉の輝き具合から、ヨハンは察する。この宝玉の効果が使えるのは、あと一回。だが、だからと言って諦めるわけにはいかないだろう。ヨハンは、両手に魔力を込め始めた。そんなヨハンの行動に気が付いたゲイムが、向き直る。
「やれやれ、お主には本当に手間をかけさせられたのう。お主がいまさら儂のもとに下るとは思えん。なので、お主に言えることはたった一つ。お主の仲間たちがここで苦しむのを、指を咥えてみているがいいわ。ルーファス様を蘇らせたお主にもう用はない。お主自身も、苦しみながら死ぬがよい」
「あいつらが死ぬわけないだろう。おれの仲間だ。それに何より」
ヨハンは右手をゲイムに向ける。
「死ぬのはお前だ」
直後、ゲイム目掛けて巨大な魔力が放出された。それはゲイムを飲み込み、壁へと激突する。
「おれたちも長い付き合いだからな。これはほんの《リゼントメント》だ」
受け取ってくれと言わんばかりにヨハンが呟く。間もなく、ゲイムが瓦礫の中から姿を現した。ゲイムは全身に傷が増えてきているとはいえ、まだまだ余力を残しているように思える。
「やれやれ、お主は本当にむかつくやつじゃのう」
ゲイムはそう告げると、軽く目を瞑る。すると、倒れたはずのヒィッツカラルドが立ち上がった。
「これでも喰らうがいい」
ゲイムの声と同時にヒィッツカラルドが指を鳴らす。そこから生じる真空刃は、軌道上にいるヨハンとマックスを巻き込みながら、その先にいるグレンとセルモを狙っていた。慌ててヨハンとゼンマイガーが、グレンとセルモをそれぞれかばう。そして、ゼンマイガーの作り出した障壁が真空刃の威力を和らげる。こうして、ヨハンたちはヒィッツカラルドからの奇襲を耐えきったのだった。
「ほう・・・やるのう。とは言え、お主たちはもはや満身創痍。諦めて降伏した方がいいのではないかのう?」
確かに、攻撃の直撃を受けたヨハンとマックスはぼろぼろになっていた。だが、まだ生きている。そして、ヨハンにはまだ切り札が残されていた。ここが使い時だろう、そう感じたヨハンは皆を見渡し、告げる。
「ここはおれに、はっちゃけさせてくれ」
だれも異論はない。それを確認すると、ヨハンはサラサから習った技術、怒りを力に変える技術を思い出しながら魔力を両手に込め始めた。ヨハンには一つの確信があった。ゲイムは、ヨハンのことを強引に操ることはできないとの確信だ。何故なら、他の皆とは異なり、ヨハンにはゲイムの妨害や洗脳が全く飛んでこない。そもそも、これまでも強引であればヨハンを操る機会はいくらでもあったはずだ。それをしてこなかったと言うことは、ゲイムはヨハンを強引に操ることはできないと言うことを意味している。だから、他の仲間たちであれば洗脳されてしまう可能性があるこの状態で、最も自由に動きやすいのは、ヨハンである。ヨハンはそう考えていた。
そして、ヨハンは魔力をゲイム目掛けて放つ。両手から放たれた二発の魔力のエネルギーは、塊怨樹程度の生物であればその場で跡形もなく消し飛ぶほどのものであった。
だが、ゲイムは塊怨樹ではない。この攻撃によって大きな打撃を受けたことは間違いないが、まだ生きていた。そして、ゲイムの目には、憤怒が込められている。
「お主らに、地獄を思い知らせてやろう」
この言葉と同時にサラサやグレン、リアノ、マックス、セルモの五人は体に違和感を覚え始めた。体のどこかが自由に動かなくなるような、そんな感覚だ。そして、理解する。ゲイムは今この五人全員を、洗脳しようとしていると言うことを。だが、セルモが辛うじてその洗脳を脱し、魔術を使ってゲイムを妨害する。その効果で、サラサたちはゲイムの洗脳を脱することに成功した。舌打ちするゲイムに、ヨハンから再度の魔力が放たれる。その一撃はゲイムに命中し、ゲイムに多大な打撃を与えることに成功した。そして、ゲイムの目の前にサラサが現れ、ゲイムの洗脳をものともせず刀を一閃させる。これで、ゲイムは戦闘不能になるはずだった。
だが、ゲイムは諦めない。ゲイムも隠し玉を持っていた。非常の際に、その場から緊急脱出する特殊な力である。
「儂が生き延びれば、まだ次の機会がある・・・」
だが、発動できない。むしろ、ゲイムは自分の力が何かに奪われている感覚を覚えた。その感覚の先を見る。そこには、籠手を掲げたヨハンの姿があった。最後の”退魔”の効果を利用したのだ。
「馬鹿な・・・儂の最後の隠し玉が・・・」
ゲイムは愕然とする。ヨハンはそんなゲイムに近づくと、首根っこをつかみ、ゲイムを持ち上げる。
「ようやく掴んだな」
ヨハンがゲイムに告げる。ゲイムの目に、かすかな怯えが見える。だが、ゲイムはそれをすぐに隠すと、サラサたちの方を向いた。
「まだだ、儂はまだ負けるわけにはいかん。どうだ、お主たち、今の儂を助けたら、後でルーファス様に頼んで、いかなる地位にもつけてやるぞ。どうだ、サラサ? グレン? リアノ? マックス? セルモ?」
ゲイムは、ヨハンを除く仲間たちに次々と語りかける。だが、誰も頷かない。
「おれたちの答えは決まっている」
グレンがそう告げると、頷く。その言葉を受け、ヨハンは苦々しい表情をしたゲイムの方を向いた。
「みんなの意見を、僭越ながらおれが代表しよう。嫌なこった」
ゲイムの苦々しい表情が、いっそう深くなる。
「お主たち、儂をここで助けなかったことを後悔するがいい。それにわしは魔族。お主たち、魔族が死んだらどうなるか知っているだろう? 儂も同じだぞ。倒すだけ無駄だ。お主たちが老人になったころ復活して、お主たちを殺すだけだ。それが嫌だったら、さっさとわしを助けるがいい」
「そうかそうか」
ヨハンの声色が。急に優しいものになる。
「おれたちが爺さんになった後のことなんか知ったこっちゃないし。第一、お前、生き返れるならそんなびびるなよ」
「第一、わたしたちがあなたの真の死の条件を知らないとでも思ったの?」
リアノが冷静に指摘する。ゲイムの『真の死』は、死を与えること。それは、かつてエミリーが行った神託によって明らかになっていたことであった。リアノの指摘に青くなっていたゲイムの顔が、血の気を帯びたようにいくらか赤くなった。
「お・・・おのれ、この儂、ゲイム。ウォッチがこんなところで死ぬだと。たかが人間風情に! こんな奴らに、この儂が負けるわけない。何かの間違いだ。それに、そうだ。儂にはルーファス様がいる。そうですよね、ルーファス様。助けて下さい」
だが、ルーファスの居るところからは、激しい爆発音が聞こえるのみで、返事はない。どうやら、マリアンナたちとの戦いに忙しく、それどころではないようだ。
「ル、ルーファス様・・・」
「なあ、ゲイム」
ヨハンの顔は穏やかに笑っていた。
「もう十分喋ったろ、もういいよな」
ヨハンはゲイムの頭をつかみ、潰した。ゲイムに『真の死』を与えたのである。ゲイムの体は見る見るうちに溶けて消えていく。こうして、ヨハンたちは一つの戦いに勝利した。五年に渡る、長き戦いに。
「ったく・・・」
ヨハンがゲイムを倒したのを見届けたグレンが、やれやれと言った風に口を開いた。
「てめえと戦っているうちに四十越しちまったぜ」
だが、まだ全ての戦いに決着がついたわけではなかった。ヒィッツカラルドにも『真の死』を与えたヨハンたちが隣を見ると、そこではマリアンナたちとルーファス、スオウとナグモ。この二組の勝負が続けられていた。
スオウとナグモは互いに睨み合っていた。何度か既に切り結んだのであろう。互いの体にはいくつか切り傷のようなものが見えている。だが、どちらのものも重傷ではない。状況は、多少ナグモ有利なように見えるが、今は膠着状態に陥っていた。
マリアンナとパルテナも魔王相手に善戦していた。しかし、相手は魔王である。魔王の魔力、体術、そして何より莫大な体力は、彼ら二人をもってしても削りきれるようなものではなかった。ルーファスはまだ、余裕の笑みを浮かべている。逆に、二人。特に体力が未だ万全でないマリアンナは、ヨハンたちから見ても息が上がりつつあった。
「セルモさん、おれたちもいきましょう!」
その状況を危険だと感じたのか、ティボルトがセルモに声をかけると魔道銃から炎を放った。その炎はルーファスに打撃を与えたようには見えなかったが、ルーファスの注意はこちらに向いた。
「おい、逃げろ!」
ルーファスから放たれている殺気に危険なものを感じたマックスが、咄嗟に叫ぶ。だが、ルーファスはティボルトを一瞥しただけで、攻撃はしかけてこなかった。
「ほう」
ルーファスが口を開く。
「ゲイムとヒィッツがやられたか。やつらはああ見えて、義理深い奴だったのに、残念だ」
ルーファスは一瞬悲しげな表情をすると、全員を見渡す。
「しかし、ここまで大人数だと、少し分が悪いな。ならば、もう少し余にとって都合のいいところでやらせてもらおう」
ルーファスが指を鳴らす、と、ヨハンたちを突然の地鳴りが襲った。立つこともままならないような地震は、ヨハンたちをルーファスのいる一室から弾き飛ばす。そして、ヨハンたちが部屋から出るのと同じくして、部屋が上昇を始めた。いや、その部屋だけではない。『古代の城』全体が上昇を始めていた。それと同時に、ヨハンたちがいる場所が崩落を始める。
「いったん逃げるぞ!!」
誰かの発言と共に、ヨハンたちは城の外へと脱出を果たした。そして、外へと出たヨハンたちが後ろを振り返ると、そこにはかつて砂漠の中に沈んだはずの『古代の城』が、その完全な姿を見せて現れていた。
そして、その一角。ひときわ高い一室から一筋の黒いの閃光が迸る。
「あれは?」
ティボルトの疑問に、肩で息をしながら、マリアンナが答える。
「あれは、『魔王』ルーファスが力を溜め始めたことを表すしるしだ。完全に力が溜まってしまっては、勝つことは難しい。だから、あの力が溜めきる前に倒さなければならない。しかし、あの光は更に新しい問題を生む」
どんな、とみんながいだいた疑問は、遠くの方から聞こえてきた身の毛もよだつような叫びによって解決した。遠くの空に、見たこともないような異形の集団がいたのである。
「魔族を呼ぶんだ。あいつらが護衛を始めては、近寄るのも難しい。ヨハン」
マリアンナが、ヨハンに告げる。
「あいつに『真の死』を与えられるのは、お前だけだ。お前は魔王を倒しに行ってくれ。わたしは体力が回復したら、やってくる魔族どもでも倒しに向かうよ」
マリアンナの言葉に、ヨハンは頷く。
「ああ、任せろ」
「マリアンナさんよ。いくらあんたが強い魔術師でも、一人じゃ辛いだろう。おれも手伝うぜ。パ、お前もやるだろ?」
スオウの言葉に、パも頷く。
「てなわけで、サラサ。お前はヨハンと一緒に『魔王』を倒して来い。『魔王』の横には強い剣士の姉ちゃんもいるからな。あいつは残念ながら、おれの力じゃ倒すことはできなかった。ここから先に進む中でその剣士もお前たちの前に現れるだろう。だが、お前とその仲間たちの絆なら、きっと奴を打ち破ることができる。後は任せたぞ」
スオウが、サラサに向けて手を伸ばす。サラサは、その手を握ると頷く。
「行ってまいります」
「そう言えば、ウェンディはどうなったんだ? じっちゃん、ウェンディは?」
マックスが、ウェンディの心配をしていた。気を失ったまま、瓦礫の崩落に巻き込まれていたら大事である。
「お前が連れ出したんじゃないのか?」
尋ねられたグレンはウェンディのことを見ていなかったようで、怪訝な顔をする。
「ウェンディさんなら、ここにいますよ」
振り返ると、そこにはパルテナがいた。両腕で、ウェンディを抱いている。ウェンディは倒れたままの様で、いまだに目を覚ましていない。
「まだ目を覚まさないのかよ」
マックスがウェンディの顔を軽くたたきながら呟く。
「ウェンディさんのことは私が何とかします。ですからマックスさん、あなたは安心して先に進んでください」
「任せていいのか?」
「大丈夫です、わたしはこう見えてもアエマの大神官ですからね」
パルテナの言葉に、マックスは安心したように頷く。
「なら、頼む。おれたちは兄ちゃんの力になってやらなきゃいけない」
「マックス、おれはもちろんついて行くぜ」
ティボルトだ。
「なにしろ、一緒にセルモさんも行くのだからな。この『運命』でつながった仲、たとえ魔王の襲来だろうと、揺らぐことはない。セルモさん、あなたの命とあらばこのティボルト、たとえ日の中水の中。どこまでもついて行きます! 行くぞマックス、お前もだ!」
マックスは苦笑した。確かに、目指す場所は一緒である。
「別に、お前のために一緒に行くわけじゃないけどな」
と、ヨキがグレンとリアノの元にやってくる。まだ小指の調子は完全ではないようだが、『古代の城』から逃げる時は誰よりも早かった。
「キャプテン! グレンさん! 後のことはおれに任せて下さい。大丈夫です、こう見えてもボマーの扱いには自信があります。グレンさん、あなたからボマーの扱い方についてはたくさん学びましたからね。」
リアノは、そんなヨキを見て軽く笑った。
「少し、成長したじゃない。ここに来るときはあんなに怖がっていたのに。やっぱりあなたは凄い人だわ」
ヨキは感激したような表情を見せる。
「おれは、キャプテンのお蔭で強くなることができたんです。ですから、今はキャプテンのことを後ろから守るくらいのことはします!」
「信頼してるわ」
ボマーも機械音を唸らせながら、グレンの方を向く。
「ワタシ、頑張ル。グレンサンモ、頑張ッテ」
グレンは頷いた。
「ここで諦めたら、意味ないしな」
そんなグレンの肩を軽くたたく者がいた。ヨハンだ。
「思えば、おれたちの旅も随分と長いこと続いたな」
「ああ、気づけばおれも四十だ。」
そう告げた後、グレンは自分の年齢に改めて感慨を覚えたのか、しばし無言になった。
「そうだな・・・四十になった祝いとして、お前から貰いたいものがある」
しばらくの間の後、口を開いたグレンは目の前にそびえる『古代の城』を見上げた。
「ここでの勝利と、お前の笑顔だ」
ヨハンは俯きながらにやりと笑うと、グレンの背中を思いっきり叩いた。
「行くぞ、兄弟」
そんなヨハンとグレンの様子を見ながら、マリアンナがにやりと笑った。
「ま、そんなわけでここは私たちが何とかするから。みんな、行ってらっしゃい」
「お前は無茶するなよ」
ヨハンの言葉に、マリアンナはにやりと笑った。
「任せときなよ。大丈夫、『魔術師』ってのは無茶しないもんだろう」
何かを確認するかのようなマリアンナの言葉に、ヨハンもにやりと笑った。
「ああ、そうだな。マリアンナ、期待に応えてやるよ。じゃあ、行ってくる」
こうして、ヨハンたちは『魔王』ルーファスを止めるべく、『古代の城』へと足を踏み入れるのであった。
スオウとナグモは互いに睨み合っていた。何度か既に切り結んだのであろう。互いの体にはいくつか切り傷のようなものが見えている。だが、どちらのものも重傷ではない。状況は、多少ナグモ有利なように見えるが、今は膠着状態に陥っていた。
マリアンナとパルテナも魔王相手に善戦していた。しかし、相手は魔王である。魔王の魔力、体術、そして何より莫大な体力は、彼ら二人をもってしても削りきれるようなものではなかった。ルーファスはまだ、余裕の笑みを浮かべている。逆に、二人。特に体力が未だ万全でないマリアンナは、ヨハンたちから見ても息が上がりつつあった。
「セルモさん、おれたちもいきましょう!」
その状況を危険だと感じたのか、ティボルトがセルモに声をかけると魔道銃から炎を放った。その炎はルーファスに打撃を与えたようには見えなかったが、ルーファスの注意はこちらに向いた。
「おい、逃げろ!」
ルーファスから放たれている殺気に危険なものを感じたマックスが、咄嗟に叫ぶ。だが、ルーファスはティボルトを一瞥しただけで、攻撃はしかけてこなかった。
「ほう」
ルーファスが口を開く。
「ゲイムとヒィッツがやられたか。やつらはああ見えて、義理深い奴だったのに、残念だ」
ルーファスは一瞬悲しげな表情をすると、全員を見渡す。
「しかし、ここまで大人数だと、少し分が悪いな。ならば、もう少し余にとって都合のいいところでやらせてもらおう」
ルーファスが指を鳴らす、と、ヨハンたちを突然の地鳴りが襲った。立つこともままならないような地震は、ヨハンたちをルーファスのいる一室から弾き飛ばす。そして、ヨハンたちが部屋から出るのと同じくして、部屋が上昇を始めた。いや、その部屋だけではない。『古代の城』全体が上昇を始めていた。それと同時に、ヨハンたちがいる場所が崩落を始める。
「いったん逃げるぞ!!」
誰かの発言と共に、ヨハンたちは城の外へと脱出を果たした。そして、外へと出たヨハンたちが後ろを振り返ると、そこにはかつて砂漠の中に沈んだはずの『古代の城』が、その完全な姿を見せて現れていた。
そして、その一角。ひときわ高い一室から一筋の黒いの閃光が迸る。
「あれは?」
ティボルトの疑問に、肩で息をしながら、マリアンナが答える。
「あれは、『魔王』ルーファスが力を溜め始めたことを表すしるしだ。完全に力が溜まってしまっては、勝つことは難しい。だから、あの力が溜めきる前に倒さなければならない。しかし、あの光は更に新しい問題を生む」
どんな、とみんながいだいた疑問は、遠くの方から聞こえてきた身の毛もよだつような叫びによって解決した。遠くの空に、見たこともないような異形の集団がいたのである。
「魔族を呼ぶんだ。あいつらが護衛を始めては、近寄るのも難しい。ヨハン」
マリアンナが、ヨハンに告げる。
「あいつに『真の死』を与えられるのは、お前だけだ。お前は魔王を倒しに行ってくれ。わたしは体力が回復したら、やってくる魔族どもでも倒しに向かうよ」
マリアンナの言葉に、ヨハンは頷く。
「ああ、任せろ」
「マリアンナさんよ。いくらあんたが強い魔術師でも、一人じゃ辛いだろう。おれも手伝うぜ。パ、お前もやるだろ?」
スオウの言葉に、パも頷く。
「てなわけで、サラサ。お前はヨハンと一緒に『魔王』を倒して来い。『魔王』の横には強い剣士の姉ちゃんもいるからな。あいつは残念ながら、おれの力じゃ倒すことはできなかった。ここから先に進む中でその剣士もお前たちの前に現れるだろう。だが、お前とその仲間たちの絆なら、きっと奴を打ち破ることができる。後は任せたぞ」
スオウが、サラサに向けて手を伸ばす。サラサは、その手を握ると頷く。
「行ってまいります」
「そう言えば、ウェンディはどうなったんだ? じっちゃん、ウェンディは?」
マックスが、ウェンディの心配をしていた。気を失ったまま、瓦礫の崩落に巻き込まれていたら大事である。
「お前が連れ出したんじゃないのか?」
尋ねられたグレンはウェンディのことを見ていなかったようで、怪訝な顔をする。
「ウェンディさんなら、ここにいますよ」
振り返ると、そこにはパルテナがいた。両腕で、ウェンディを抱いている。ウェンディは倒れたままの様で、いまだに目を覚ましていない。
「まだ目を覚まさないのかよ」
マックスがウェンディの顔を軽くたたきながら呟く。
「ウェンディさんのことは私が何とかします。ですからマックスさん、あなたは安心して先に進んでください」
「任せていいのか?」
「大丈夫です、わたしはこう見えてもアエマの大神官ですからね」
パルテナの言葉に、マックスは安心したように頷く。
「なら、頼む。おれたちは兄ちゃんの力になってやらなきゃいけない」
「マックス、おれはもちろんついて行くぜ」
ティボルトだ。
「なにしろ、一緒にセルモさんも行くのだからな。この『運命』でつながった仲、たとえ魔王の襲来だろうと、揺らぐことはない。セルモさん、あなたの命とあらばこのティボルト、たとえ日の中水の中。どこまでもついて行きます! 行くぞマックス、お前もだ!」
マックスは苦笑した。確かに、目指す場所は一緒である。
「別に、お前のために一緒に行くわけじゃないけどな」
と、ヨキがグレンとリアノの元にやってくる。まだ小指の調子は完全ではないようだが、『古代の城』から逃げる時は誰よりも早かった。
「キャプテン! グレンさん! 後のことはおれに任せて下さい。大丈夫です、こう見えてもボマーの扱いには自信があります。グレンさん、あなたからボマーの扱い方についてはたくさん学びましたからね。」
リアノは、そんなヨキを見て軽く笑った。
「少し、成長したじゃない。ここに来るときはあんなに怖がっていたのに。やっぱりあなたは凄い人だわ」
ヨキは感激したような表情を見せる。
「おれは、キャプテンのお蔭で強くなることができたんです。ですから、今はキャプテンのことを後ろから守るくらいのことはします!」
「信頼してるわ」
ボマーも機械音を唸らせながら、グレンの方を向く。
「ワタシ、頑張ル。グレンサンモ、頑張ッテ」
グレンは頷いた。
「ここで諦めたら、意味ないしな」
そんなグレンの肩を軽くたたく者がいた。ヨハンだ。
「思えば、おれたちの旅も随分と長いこと続いたな」
「ああ、気づけばおれも四十だ。」
そう告げた後、グレンは自分の年齢に改めて感慨を覚えたのか、しばし無言になった。
「そうだな・・・四十になった祝いとして、お前から貰いたいものがある」
しばらくの間の後、口を開いたグレンは目の前にそびえる『古代の城』を見上げた。
「ここでの勝利と、お前の笑顔だ」
ヨハンは俯きながらにやりと笑うと、グレンの背中を思いっきり叩いた。
「行くぞ、兄弟」
そんなヨハンとグレンの様子を見ながら、マリアンナがにやりと笑った。
「ま、そんなわけでここは私たちが何とかするから。みんな、行ってらっしゃい」
「お前は無茶するなよ」
ヨハンの言葉に、マリアンナはにやりと笑った。
「任せときなよ。大丈夫、『魔術師』ってのは無茶しないもんだろう」
何かを確認するかのようなマリアンナの言葉に、ヨハンもにやりと笑った。
「ああ、そうだな。マリアンナ、期待に応えてやるよ。じゃあ、行ってくる」
こうして、ヨハンたちは『魔王』ルーファスを止めるべく、『古代の城』へと足を踏み入れるのであった。