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Cグループ第十一話『魔王』
今回予告
―H276年、2月。ヨハンたちの旅は、いよいよ終わりを迎えようとしていた。ヨハンの中に巣食っていた『魔王』ルーファスの魂。それがいつかヨハンを乗っ取ってしまうかもしれない。マリアンナからそう忠告を受けたヨハンたちは、ルーファスの眠る『古代の城』を探す旅に出た。ルーファスの腹心の部下、ゲイム・ウォッチの妨害を受けながらも、ヨハンたちは『古代の城』へとたどり着く。その地でヨハンたちはルーファスを復活させることに成功。ヨハンの中からルーファスの魂を消滅させ、更にはゲイムとの戦いに決着をつけた。だが、ヨハンたちにはまだ倒さなければいけない敵がいる。800年もの昔に、ウノーヴァを支配していた『魔王』ルーファス、その人だ。彼を倒さなければウノーヴァは、いやこの世界さえも危ういかもしれない。そして、ルーファスを滅ぼすことができるのは、一時的にその魂が中に入っていたヨハンのみ。果たして、ヨハンはルーファスを倒しこの世に平和をもたらすことができるのか・・・―
登場人物
※年齢は276年時点のものです
PC
PCの同行者
- マリアンナ(エルダナーン、女性、年齢不詳)
ヨハンの錬金術の師匠。同時に、ヨハンの魔術の師匠でもある。得意分野は格闘技。
その拳は重厚な扉すらも一撃で粉砕する。鉄壁の守りを誇るヨハンと共に、周囲の人間に魔術師の姿を誤解させている元凶。
かつてはゲイムに洗脳されており、ヨハンたちと死闘を演じていた。洗脳が解けた現在は、ヨハンたちのウノーヴァでの旅に同行している。
ゲイムに洗脳された後遺症のせいか体の衰えが激しく、普段はヨハンが作った車椅子に乗って行動していることが多い。
とは言え、長きに渡る旅の中で少しずつ体力を取り戻してきている。
その拳は重厚な扉すらも一撃で粉砕する。鉄壁の守りを誇るヨハンと共に、周囲の人間に魔術師の姿を誤解させている元凶。
かつてはゲイムに洗脳されており、ヨハンたちと死闘を演じていた。洗脳が解けた現在は、ヨハンたちのウノーヴァでの旅に同行している。
ゲイムに洗脳された後遺症のせいか体の衰えが激しく、普段はヨハンが作った車椅子に乗って行動していることが多い。
とは言え、長きに渡る旅の中で少しずつ体力を取り戻してきている。
- スオウ・シノノメ(ヒューリン、男性、54歳)
サラサの父。それなりに名の知れた剣豪。サラサと同じく強い正義感の持ち主。
剣術の弟子でもあったサラサに、もう教えることはないと言い残して数年前に旅立つ。
その後はウノーヴァに渡って活動していたようだが、ふとしたことからライオンマスクを被らざるを得なくなり、ライオン仮面と名乗っていた。
正義感の強い性格もあって、ヨハンたちの旅の目的を知るや、同行を申し出る。
その剣技は相当なものであり、『古代の城』に襲い掛かる魔族を倒す際はマリアンナ共に主力となっていた。
剣術の弟子でもあったサラサに、もう教えることはないと言い残して数年前に旅立つ。
その後はウノーヴァに渡って活動していたようだが、ふとしたことからライオンマスクを被らざるを得なくなり、ライオン仮面と名乗っていた。
正義感の強い性格もあって、ヨハンたちの旅の目的を知るや、同行を申し出る。
その剣技は相当なものであり、『古代の城』に襲い掛かる魔族を倒す際はマリアンナ共に主力となっていた。
- ティボルト(ドゥアン(セラトス)、男性、31歳)
マックスの友人。威勢のいい喋り方とアルパカヘアーと称されるドレッドモヒカンが特徴。
幾多もの戦いの末に、セルモとの間に運命の赤い糸が結ばれていると勘違いしてしまった。
セルモに素早く動く技術を教えたため、もう共にいる必要はないはずなのだが、いかなる手段を用いてか未だにセルモに同行している。
なんと、『魔王』ルーファスとの戦いに際し、唯一ヨハンたちに同行した仲間となる。
その積極性は見習うべきものもあるのかもしれない・・・いや、ないか。
幾多もの戦いの末に、セルモとの間に運命の赤い糸が結ばれていると勘違いしてしまった。
セルモに素早く動く技術を教えたため、もう共にいる必要はないはずなのだが、いかなる手段を用いてか未だにセルモに同行している。
なんと、『魔王』ルーファスとの戦いに際し、唯一ヨハンたちに同行した仲間となる。
その積極性は見習うべきものもあるのかもしれない・・・いや、ないか。
- ヨキ(エルダナーン、男性、30歳前後)
コウテツ島でリアノと行動を共にした後、帆船『プリンシプル』の船員となった男性。
弱気でよく悲鳴を上げる上に、危険を前にするとすぐ震えてしまう性格。もちろん、戦闘力も皆無に等しい。
だが、色々な偶然もあって、ヨハンたちには優秀で勇敢な船員だと思われている。
ただ、その性格が功を奏し何度も死線を潜り抜けてきていることは事実であり、『プリンシプル』の船員の中でも唯一ウノーヴァに残ることとなった。
グレンから借りたからくりボマーを相棒として、『プリンシプル』へとやってきた多くの魔族を相手に奮闘することになる。
弱気でよく悲鳴を上げる上に、危険を前にするとすぐ震えてしまう性格。もちろん、戦闘力も皆無に等しい。
だが、色々な偶然もあって、ヨハンたちには優秀で勇敢な船員だと思われている。
ただ、その性格が功を奏し何度も死線を潜り抜けてきていることは事実であり、『プリンシプル』の船員の中でも唯一ウノーヴァに残ることとなった。
グレンから借りたからくりボマーを相棒として、『プリンシプル』へとやってきた多くの魔族を相手に奮闘することになる。
- ボマー(からくり、性別なし)
グレンが船の見張り用にと作り出したからくり。爆弾に手足が生えたような外見。最近はその両手に荷電粒子砲を装備している。
古の魔術士ユイ・リイが作り出した機械爆弾をもとに作られており、この時点でも塊怨樹を一撃で爆殺する力はもっていた。
だが、それだけでは火力が足りないとの意見を受けて大々的に魔改造された結果、『大地震撼』ダイダーラを一撃で爆殺するほどの火力を持つようになる。
ヨキを相棒として、『プリンシプル』にやってきた魔族を相手に戦うことに。
古の魔術士ユイ・リイが作り出した機械爆弾をもとに作られており、この時点でも塊怨樹を一撃で爆殺する力はもっていた。
だが、それだけでは火力が足りないとの意見を受けて大々的に魔改造された結果、『大地震撼』ダイダーラを一撃で爆殺するほどの火力を持つようになる。
ヨキを相棒として、『プリンシプル』にやってきた魔族を相手に戦うことに。
- フェンネル(フォモール、女性、27歳)
ストリーアトンの村長、ティロンの双子の姉。『大いなる災厄』への生贄として大蛇に襲われていたところ、偶然ヨハンたちに出会う。
ヨハンたちが『大いなる災厄』を倒した後は、昔ウノーヴァ各地旅していた経験を活かし、ヨハンたちの案内人となる。
地味ではあるが、彼女の道案内によってヨハンたちの旅は問題なく進められていた。
ヨハンたちが『大いなる災厄』を倒した後は、昔ウノーヴァ各地旅していた経験を活かし、ヨハンたちの案内人となる。
地味ではあるが、彼女の道案内によってヨハンたちの旅は問題なく進められていた。
- パ・クリ(ヒューリン、男性、54歳)
スオウ・シノノメのふりをしていた男。その目的は、個人的な怨恨からスオウの評判をさげるため。
そのあまりに身勝手な理由もあって、ゴリラに似た人物に優しいマックスですら彼を擁護しようとしなかった。
その後は心を入れ替えたらしく、ヨハンたちの旅に同行しそれなりの活躍をしていた。
マリアンナやスオウたちと共に『古代の城』を目指してやってくる魔族と戦っていたが、
マリアンナたちが魔族を瞬殺して回っていたため出番が少なかった。
そのあまりに身勝手な理由もあって、ゴリラに似た人物に優しいマックスですら彼を擁護しようとしなかった。
その後は心を入れ替えたらしく、ヨハンたちの旅に同行しそれなりの活躍をしていた。
マリアンナやスオウたちと共に『古代の城』を目指してやってくる魔族と戦っていたが、
マリアンナたちが魔族を瞬殺して回っていたため出番が少なかった。
- パルテナ(ヒューリン(ハーフドゥアン(オルニス))、女性、20代後半)
『豊穣の社』にいるアエマの大神官。『魔王』ルーファスのいる『古代の城』を探すためには『社』にある神器が必要不可欠であった。
しかし、その身はゲイムに洗脳されており、ヨハンたちは苦労して彼女を奪還した。
その後、神器を片手にヨハンたちの旅に同行。最終決戦時はマリアンナたちのサポートに回る。
また、神官として倒れたウェンディのことを気にかけていた。
しかし、その身はゲイムに洗脳されており、ヨハンたちは苦労して彼女を奪還した。
その後、神器を片手にヨハンたちの旅に同行。最終決戦時はマリアンナたちのサポートに回る。
また、神官として倒れたウェンディのことを気にかけていた。
- ウェンディ(ドラゴネット(メディオン)、女性、10代後半?)
アンデラの村でヨハンたちが出会った冒険者の少女。頭に生える二本の捻じ曲がった角と背中から腰に掛けて生えている黒い翼が特徴的。
実は昔の記憶を失っており、その記憶を取り戻すために冒険者として各地を旅している。
ヨハンたちと共にアンデラの村の危機を救った後、ヨハンたちの旅に同行を申し出る。
実は元ルーファスの部下、黒色凶竜『ディアブロス』であり、記憶を取り戻させようとするゲイムの攻撃を受け気を失っていた。
目覚めた彼女がとった行動は・・・
実は昔の記憶を失っており、その記憶を取り戻すために冒険者として各地を旅している。
ヨハンたちと共にアンデラの村の危機を救った後、ヨハンたちの旅に同行を申し出る。
実は元ルーファスの部下、黒色凶竜『ディアブロス』であり、記憶を取り戻させようとするゲイムの攻撃を受け気を失っていた。
目覚めた彼女がとった行動は・・・
PCの関係者
- レイク(ネヴァーフ、女性、40歳)
グレンの大学時代からの友人である錬金術師。同じ錬金術師として、ヨハンとも仲は良い。
グレンがウノーヴァに旅立つ際、錬金術で作り上げた特製の魔道銃を渡した。
以降はタンバ島に留まり、グレンがウノーヴァから帰ってくるのをただ待ち続けている。
グレンがウノーヴァに旅立つ際、錬金術で作り上げた特製の魔道銃を渡した。
以降はタンバ島に留まり、グレンがウノーヴァから帰ってくるのをただ待ち続けている。
- ケニー(ヒューリン、男性、14歳)
トバリの漁師トニーの息子。ウノーヴァへと連れ去られた父親を取り戻すため、紆余曲折を経てヨハンたちのウノーヴァ行きに同行する。
生意気な言動も多いが、一度決めたことはしっかりやり遂げようとする根性を持つ。
父トニーとの再会を果たしたため、ヨハンたちと別れノームコプへと帰還。
別れの際にヨハンから借りた鎧を返せるようになるため、アサギの剣道場で日々鍛錬を続けている。
生意気な言動も多いが、一度決めたことはしっかりやり遂げようとする根性を持つ。
父トニーとの再会を果たしたため、ヨハンたちと別れノームコプへと帰還。
別れの際にヨハンから借りた鎧を返せるようになるため、アサギの剣道場で日々鍛錬を続けている。
- コクサイ(ヒューリン(ハーフフィルボル)、女性、29歳)
緑髪を二つに結んだ女性。サラサの姉弟子。
ウノーヴァに向かうサラサに道場のことを頼まれ、一時的に道場主となる。
ケニーやアサギの兵士たちに稽古をつける日々を過ごしており、アサギでは有名人。
ウノーヴァに向かうサラサに道場のことを頼まれ、一時的に道場主となる。
ケニーやアサギの兵士たちに稽古をつける日々を過ごしており、アサギでは有名人。
- ブースト・スター(ヒューリン、男性、35歳)
アサギの太守。セルモの上司であり、元部下であるサラサとの親交も深い。
ヨハンたちがウノーヴァに行く際は、その目的を理解しており同行できないことを残念がっていた。
アサギとそこに住む人々のことを第一に考え、ヒロズ国の将来を真剣に憂いている数少ない人でもある。
だが、その性格が災いしヨハンが去った後のヒロズ国で思わぬことを行ってしまう。
ヨハンたちがウノーヴァに行く際は、その目的を理解しており同行できないことを残念がっていた。
アサギとそこに住む人々のことを第一に考え、ヒロズ国の将来を真剣に憂いている数少ない人でもある。
だが、その性格が災いしヨハンが去った後のヒロズ国で思わぬことを行ってしまう。
- アーク・ポケェ(ヒューリン、男性、39歳)
ブーストの古い友人。セルモとは昔から親交があり、彼女をブーストの下に誘った人物。
ブーストたちの参謀格であったが、魔術師としてもかなりの実力を持っている。
妹のことで暴走しがちなブーストを冷静にいなすことができる貴重な人材として、周りから頼りにされている。
ブーストたちの参謀格であったが、魔術師としてもかなりの実力を持っている。
妹のことで暴走しがちなブーストを冷静にいなすことができる貴重な人材として、周りから頼りにされている。
- キャサリン(ヒューリン(ハーフネヴァーフ)、女性、20代半ば)
帆船『プリンシプル』の船員。副船長のような存在であり、リアノ不在時には他の船員をまとめていた。
その船員としての腕を買われてウノーヴァ行きに同行したが、ゲイムの策により洗脳されてしまう。
リアノたちの尽力で洗脳から解放されるが、このまま船に乗っていても足手まといになると考えたため下船。
ノームコプに戻った後は、リアノが戻ってきたときに備えてかつての仲間たちを集め貿易を始める。
その船員としての腕を買われてウノーヴァ行きに同行したが、ゲイムの策により洗脳されてしまう。
リアノたちの尽力で洗脳から解放されるが、このまま船に乗っていても足手まといになると考えたため下船。
ノームコプに戻った後は、リアノが戻ってきたときに備えてかつての仲間たちを集め貿易を始める。
- スッグニー・ゲル(ヴァーナ(アウリル)、男性、50代くらい)
キマイラベムスターによって多くが破壊されてしまった街、ポケトピアの太守。逃げ足は誰よりも早い。
一時期部下であったサラサとは妙な縁が続いており、個人的な頼みごとを良く持ってきていた。
サラサがウノーヴァに向かった後は、サラサの姉弟子であるコクサイに色々な頼みごとを持って行ったようだ。
戦乱の続くノームコプでは、ポケトピアが争いの場にならないよう上手く立ち回っている。
一時期部下であったサラサとは妙な縁が続いており、個人的な頼みごとを良く持ってきていた。
サラサがウノーヴァに向かった後は、サラサの姉弟子であるコクサイに色々な頼みごとを持って行ったようだ。
戦乱の続くノームコプでは、ポケトピアが争いの場にならないよう上手く立ち回っている。
- エミリー(ヒューリン(ハーフエルダナーン)、女性、20歳前後)
本名はエミリエンヌ。自称ノームコプ1の召喚士で動物の王の一柱をファミリアにしている。
ギルマンと人間との間に友好関係を築くべく、ウノーヴァで活動中。ギルマンのカルロスとは腐れ縁である。
キャステリアにやってきたヨハンたちと再会し、ある提案を行う。
ギルマンと人間との間に友好関係を築くべく、ウノーヴァで活動中。ギルマンのカルロスとは腐れ縁である。
キャステリアにやってきたヨハンたちと再会し、ある提案を行う。
- マミ・ブリジット(ヒューリン、女性、21歳)
アキに仕えるからくり士。アキの命を受け、エミリーと共にウノーヴァで活動中。
アチャモードと名乗る赤いひよこのからくりを所持している。
アチャモードと名乗る赤いひよこのからくりを所持している。
- エスポワール・ド・メイソン(エルダナーン、男性、18歳)
コウテツ島でマックスと行動を共にしていた少年。その後はイングラム・ウェールズの両名と共にコトブキに移住し、アキにとり立てられている。
アキのもとで調練に励んだ結果、将来を期待される将校の一人と目されるようになった。
まだ実戦経験は少ないが、いずれその実力を発揮する機会も出てくるだろう。
アキのもとで調練に励んだ結果、将来を期待される将校の一人と目されるようになった。
まだ実戦経験は少ないが、いずれその実力を発揮する機会も出てくるだろう。
- イングラム(ヒューリン、男性、29歳)
コウテツ島襲撃にヨハンたちとともに参加した青年。その後はエスポワールと共にコトブキに移り住む。
元々、遺跡探索を主とするギルド『ブリティッシュ』のギルドマスターであり、実戦経験は豊富であった。
その経験を活かし、アキのもとでエスポワールを補佐しながら活躍している。
元々、遺跡探索を主とするギルド『ブリティッシュ』のギルドマスターであり、実戦経験は豊富であった。
その経験を活かし、アキのもとでエスポワールを補佐しながら活躍している。
- ウェールズ(ドラゴネット(メディオン)、女性、20歳前後)
金髪長身の美人で、まだ若いながら知性溢れる女性・・・なのだが、極めて独特な喋り方もあって周りからは奇異の目で見られることが多い。
ただし、その実力は周囲も認めている。元々はイングラムと同じくギルド『ブリティッシュ』のメンバー。
現在はエスポワールと同じくコトブキに残り、戦いに逸るエスポワールを抑えている。
ただし、その実力は周囲も認めている。元々はイングラムと同じくギルド『ブリティッシュ』のメンバー。
現在はエスポワールと同じくコトブキに残り、戦いに逸るエスポワールを抑えている。
- アキ・ロン(ヒューリン、女性、27歳)
ヒロズ国の王女。武闘派でもあり、ハーテン教の反乱の頃から前線で戦い続けてきた。
ヒロズ国の将来を真剣に憂いている人物の一人。
キマイラ討伐の際にブーストと協力したのが縁となり、ヨハンたちに陰ながら協力していた。
ヒロズ国の将来を真剣に憂いている人物の一人。
キマイラ討伐の際にブーストと協力したのが縁となり、ヨハンたちに陰ながら協力していた。
- ジョー(ヒューリン、男性、31歳)
ハーテン教の乱の途中からアキに騎士として仕えることとなった人物。アキの護衛として何度も彼女の窮地を救っており、その信頼は厚い。
ヨハンたちとは、キマイラ討伐の際に話し合ったことから面識を持っている。
ヨハンたちとは、キマイラ討伐の際に話し合ったことから面識を持っている。
『魔王』ルーファスとその関係者
- 『魔王』ルーファス(魔族、男性)
今から800年ほど昔にウノーヴァを支配していた魔王。その目的は、魔族中心の世界を作ること。
封印された際に、その力の一部をヨハンの祖先に移しており、ゆっくりとその意識を乗っ取ろうとしてきた。
ヨハンたちの策により復活し、ついに戦いとなる。
封印された際に、その力の一部をヨハンの祖先に移しており、ゆっくりとその意識を乗っ取ろうとしてきた。
ヨハンたちの策により復活し、ついに戦いとなる。
- ゲイム・ウォッチ(魔族、男性)
『魔王』ルーファスの復活を目論む魔族。
人を洗脳する力を持ち、マリアンナやコクサイなど幾人もの人物を操ってきた。
ルーファスの力の一部を体内に持つヨハンを狙うべく、その同行者に様々な策をしかけていた。
ヨハンたちの尽力により、倒される。
人を洗脳する力を持ち、マリアンナやコクサイなど幾人もの人物を操ってきた。
ルーファスの力の一部を体内に持つヨハンを狙うべく、その同行者に様々な策をしかけていた。
ヨハンたちの尽力により、倒される。
- 『流星剣士』ナグモ(魔族、女性)
『六傑』の一人。一見すると人間のような容姿だが、真っ青な体を持つ。優れた剣士であり、『六傑』の中でも最も腕の立つ人物。
ただ、不用意な戦いは好まないようであり、サラサ、スオウの前に現れた際も正々堂々勝負を挑んだ。
その実力は、ノームコプ有数の剣豪であるスオウを二度も不利な状態に持ち込むほどである。
「流星剣」と呼ばれる五連撃と、避けることのできない特殊な剣技を利用して戦う。
ただ、不用意な戦いは好まないようであり、サラサ、スオウの前に現れた際も正々堂々勝負を挑んだ。
その実力は、ノームコプ有数の剣豪であるスオウを二度も不利な状態に持ち込むほどである。
「流星剣」と呼ばれる五連撃と、避けることのできない特殊な剣技を利用して戦う。
- 『黒色凶竜』ディアブロス(ドラゴン、女性)
『六傑』の一人。二本の巨大な角と黒い体が特徴的なドラゴン。
だが、その外見に反して優しい性格の持ち主であったらしく、ナグモを除く他の『六傑』の面々とは折り合いが悪かったようだ。
死んだと考えられていたが、実はヨハンたちの仲間であるウェンディがその正体。
だが、ウェンディ本人も記憶を失っており、そのことは覚えていなかった。
だが、その外見に反して優しい性格の持ち主であったらしく、ナグモを除く他の『六傑』の面々とは折り合いが悪かったようだ。
死んだと考えられていたが、実はヨハンたちの仲間であるウェンディがその正体。
だが、ウェンディ本人も記憶を失っており、そのことは覚えていなかった。
セッション内容
ヨハンたちが、『古代の城』に入ってから、二時間が経過していた。『城』の方は、パが何度かその様子を見に行っているものの、特に変わった様子はない。大量の魔族たちも、その多くはまだ到着できておらず、わずかばかり先走った魔族が、マリアンナやスオウの餌食となっていたくらいであった。
雑魚の大群が到着するまで後、一時間。魔族たちの様子を見ていたマリアンナがそう呟いていたのを、パルテナは聞いていた。そのパルテナは今、『プリンシプル』にある医務室へと向かっていた。そこで倒れているウェンディの状態を確かめる必要があったからだ。
「パルテナさん、ウェンディさんはまだ目覚めません」
そう告げたのは、フォモールのフェンネル。彼女はパルテナと共にウェンディの看護を買って出ていたのだった。だが、大神官であるパルテナが見ても、ウェンディがいつ目覚めるかは想像がつかない。だが、わずかに想像できることはある。
「フェンネルさん、ウェンディさんは今、心の中で失った記憶を取り戻している最中なのだと思います。ですから、それが整理できるまでは目が覚めないでしょう。とは言え、ウェンディを攻撃した際のゲイムの口ぶりから察するに、そう遠くはないはずです。フェンネルさん、私が船を出た後は、よろしくお願いします」
今、リアノの船『プリンシプル』は少しずつ『古代の城』から遠ざかりつつあった。『城』の近くは、城に入ろうとする魔族たちとそれを防ごうとするマリアンナたちとの間で戦いになる。その際、戦闘に巻き込まれて船が消失することを防ぐためだ。魔族との戦闘に耐えうるマリアンナ、スオウ、パルテナ、パ。この四人が『古代の城』近くへと戻り、フェンネルとグレンからボマーを借り受けたヨキが船に残ってウェンディの看病を行うことになっていた。
「パルテナさん、そろそろ戻った方がいいかもしれないぜ」
船を動かしていたヨキが、ボマーと共に医務室に顔を出した。パルテナは頷く。
「わかりました。ヨキさん、フェンネルさん、後のことはよろしくお願いします」
「ウェンディさんのことは、任せて下さい」
「キャプテンを後ろから守るって約束しましたからね。この船はもちろん、ボマーと共に守り切ります」
「ボマーモ、グレンサント約束シタ。ダカラ、コノ船ハ任セテ」
ヨキが、ボマーが頷く。二人とも、『古代の城』へと入っていった仲間たちと約束をしていた。パルテナも、そうだった。ゴリラと共にいる快活な少年と、パルテナも約束したのだ。
「マックスさん・・・ウェンディさんのことは、必ず、私たちが」
雑魚の大群が到着するまで後、一時間。魔族たちの様子を見ていたマリアンナがそう呟いていたのを、パルテナは聞いていた。そのパルテナは今、『プリンシプル』にある医務室へと向かっていた。そこで倒れているウェンディの状態を確かめる必要があったからだ。
「パルテナさん、ウェンディさんはまだ目覚めません」
そう告げたのは、フォモールのフェンネル。彼女はパルテナと共にウェンディの看護を買って出ていたのだった。だが、大神官であるパルテナが見ても、ウェンディがいつ目覚めるかは想像がつかない。だが、わずかに想像できることはある。
「フェンネルさん、ウェンディさんは今、心の中で失った記憶を取り戻している最中なのだと思います。ですから、それが整理できるまでは目が覚めないでしょう。とは言え、ウェンディを攻撃した際のゲイムの口ぶりから察するに、そう遠くはないはずです。フェンネルさん、私が船を出た後は、よろしくお願いします」
今、リアノの船『プリンシプル』は少しずつ『古代の城』から遠ざかりつつあった。『城』の近くは、城に入ろうとする魔族たちとそれを防ごうとするマリアンナたちとの間で戦いになる。その際、戦闘に巻き込まれて船が消失することを防ぐためだ。魔族との戦闘に耐えうるマリアンナ、スオウ、パルテナ、パ。この四人が『古代の城』近くへと戻り、フェンネルとグレンからボマーを借り受けたヨキが船に残ってウェンディの看病を行うことになっていた。
「パルテナさん、そろそろ戻った方がいいかもしれないぜ」
船を動かしていたヨキが、ボマーと共に医務室に顔を出した。パルテナは頷く。
「わかりました。ヨキさん、フェンネルさん、後のことはよろしくお願いします」
「ウェンディさんのことは、任せて下さい」
「キャプテンを後ろから守るって約束しましたからね。この船はもちろん、ボマーと共に守り切ります」
「ボマーモ、グレンサント約束シタ。ダカラ、コノ船ハ任セテ」
ヨキが、ボマーが頷く。二人とも、『古代の城』へと入っていった仲間たちと約束をしていた。パルテナも、そうだった。ゴリラと共にいる快活な少年と、パルテナも約束したのだ。
「マックスさん・・・ウェンディさんのことは、必ず、私たちが」
「お待たせしました」
『城』の入り口で軽く体を動かしているマリアンナたちのもとに、パルテナがやってきた。
「ウェンディはどうなんだ?」
スオウの質問に、パルテナは首を横に振る。どうやら、未だ目覚めていないようである。
「ゲイムの口ぶりから察するに、目覚めてからが心配だ。だが、そんな心配もしていられなくなりそうだな」
マリアンナが、軽く上を見ながら、告げた。パもつられて上を見る。そこには、ライオンの頭と腕、鷲の脚、四枚の羽根とサソリの尾を持った巨大な魔族が現れた。
「パズス、悪霊を引き連れて現れる上位魔族だ」
マリアンナが、短く告げた後、にやりと笑った。
「ま、わたしたちの準備運動には向いているかな」
準備運動、と言われたことに怒ったのだろう。魔族はマリアンナたちに攻撃してくる。だが、パルテナの作り出した障壁がそれを防ぎ、マリアンナの拳と魔術、そしてスオウの剣技が閃くとパズスは倒れていた。
「ま、こんなもんか・・・どうした、パ? 何を驚いている」
刀をしまいながら、スオウが尋ねる。パの口は、本人も気が付かぬうちにあんぐりと開いていた。
「い、いや、強いなって」
そして、その後、思いついたことを口にする。
「なあ、なんでルーファスをヨハンたちに任せたんだ? お前たちがいた方がヨハンたちも助けになるんじゃないのか?」
その言葉に、マリアンナは当然だろと言わんばかりの口調で答える。
「ここに向かっている魔族も強力だ。今のパズスみたいな雑魚ばかりならいいが、そうもいかない。わたしたちも向かってしまうと、行く先々でそんな魔族と戦う必要が出てきてしまい、余計に体力を消耗する。だから、二手に分かれたのさ」
「でも、お前たち二人がルーファスを倒しに行った方が良かったんじゃないのか?」
「それじゃ、ダメなんだよ」
マリアンナが答える。
「確かに、わたしもスオウも、個人の力だったらヨハンたちより強いと思う。ただ、ヨハンたちが力を合わせた時の強さ。それはわたしたち二人の力を足したものよりよっぽど強い。そして、彼らが一番力を活かせるのは、ヨハンたち七人とゼンマイガーの組み合わせさ。わたしたちが入っても彼らほどうまく連携はできない」
その言葉に、パは少し考えこんだ。
「そういうものか」
パの返答に、マリアンナは肩をすくめる
「そういうものさ。それに、ヨハンは必ずやってくれる。なんたって、この私の愛弟子だからね」
「サラサもな。あいつは強くなった。それに、グレンやセルモさんのような優れた支援役もいる。彼らの優れた支援能力は、サラサやマックスみたいなやつには喉から手が出るほど欲しいはずだ」
スオウも同意する。
「みなさん、新しい敵です!」
一人、見張りに立っていたパルテナが声を上げる。
「大分、魔族の群れも接近してきました。この後は、連戦になるかもしれません!」
スオウが、パの肩に手を置く
「おれたちは、おれたちに出来ることをしていこう。仲間を信じろ」
『城』の入り口で軽く体を動かしているマリアンナたちのもとに、パルテナがやってきた。
「ウェンディはどうなんだ?」
スオウの質問に、パルテナは首を横に振る。どうやら、未だ目覚めていないようである。
「ゲイムの口ぶりから察するに、目覚めてからが心配だ。だが、そんな心配もしていられなくなりそうだな」
マリアンナが、軽く上を見ながら、告げた。パもつられて上を見る。そこには、ライオンの頭と腕、鷲の脚、四枚の羽根とサソリの尾を持った巨大な魔族が現れた。
「パズス、悪霊を引き連れて現れる上位魔族だ」
マリアンナが、短く告げた後、にやりと笑った。
「ま、わたしたちの準備運動には向いているかな」
準備運動、と言われたことに怒ったのだろう。魔族はマリアンナたちに攻撃してくる。だが、パルテナの作り出した障壁がそれを防ぎ、マリアンナの拳と魔術、そしてスオウの剣技が閃くとパズスは倒れていた。
「ま、こんなもんか・・・どうした、パ? 何を驚いている」
刀をしまいながら、スオウが尋ねる。パの口は、本人も気が付かぬうちにあんぐりと開いていた。
「い、いや、強いなって」
そして、その後、思いついたことを口にする。
「なあ、なんでルーファスをヨハンたちに任せたんだ? お前たちがいた方がヨハンたちも助けになるんじゃないのか?」
その言葉に、マリアンナは当然だろと言わんばかりの口調で答える。
「ここに向かっている魔族も強力だ。今のパズスみたいな雑魚ばかりならいいが、そうもいかない。わたしたちも向かってしまうと、行く先々でそんな魔族と戦う必要が出てきてしまい、余計に体力を消耗する。だから、二手に分かれたのさ」
「でも、お前たち二人がルーファスを倒しに行った方が良かったんじゃないのか?」
「それじゃ、ダメなんだよ」
マリアンナが答える。
「確かに、わたしもスオウも、個人の力だったらヨハンたちより強いと思う。ただ、ヨハンたちが力を合わせた時の強さ。それはわたしたち二人の力を足したものよりよっぽど強い。そして、彼らが一番力を活かせるのは、ヨハンたち七人とゼンマイガーの組み合わせさ。わたしたちが入っても彼らほどうまく連携はできない」
その言葉に、パは少し考えこんだ。
「そういうものか」
パの返答に、マリアンナは肩をすくめる
「そういうものさ。それに、ヨハンは必ずやってくれる。なんたって、この私の愛弟子だからね」
「サラサもな。あいつは強くなった。それに、グレンやセルモさんのような優れた支援役もいる。彼らの優れた支援能力は、サラサやマックスみたいなやつには喉から手が出るほど欲しいはずだ」
スオウも同意する。
「みなさん、新しい敵です!」
一人、見張りに立っていたパルテナが声を上げる。
「大分、魔族の群れも接近してきました。この後は、連戦になるかもしれません!」
スオウが、パの肩に手を置く
「おれたちは、おれたちに出来ることをしていこう。仲間を信じろ」
『古代の城』は広い。ヨハンたちは今、痛切にそれを思い知らされていた。『城』に入ってから既に三時間近くたっている。だが、それでもまだ入り口から三つ目の階層までしか探索が終わっていないのだ。
「また、行き止まりだったぜ。全く、嫌になる」
四層目に入ってすぐの通路の探索を行っていたティボルトが、首を振りながらヨハンたちの元へと戻ってくる。まさに、迷路であった。しかし、ヨハンたちに休んでいる暇はない。何しろ、ヨハンたちが探索をしている一方で、『魔王』ルーファスは、本来の力を取り戻すべく瞑想しているのだ。時間をかければかけるほど、ルーファスが強力になるのは言うまでもない。
ただひたすら、先を目指し進んでいく。そんなヨハンたちに進展があったのは、五層目に入ってからのことだった。
「おいみんな、あっちになんかあるぜ」
五層目の様子を見るべく先行していたティボルトが戻って来るなり、口を開いた。
「なんか、今までの部屋とは雰囲気が違うんだ」
ヨハンたちもその部屋に入ると、ティボルトが行っている言葉の意味が何となく理解できた。その部屋は、これまでのただの通路や小部屋とは異なり、大きく、そして荘厳であった。そして、部屋の反対側には五本の道が伸びている。その横には、何らかの像が配置されていたのだろう。像を置くような台座が置かれており、ところどころ像の破片が散らばっている。だが、その破片はあまりにも少なく、その破片からどんな像が立っていたのかを推測することは難しい。
「おい、あそこ、なんか書いてあるぜ」
ティボルトが指を指す。見ると、真ん中の道の上の方に何やら文字が書かれている。ただ、ノームコプでは見慣れぬ文字であり、何が書かれているかはわかりにくい。だが、ウノーヴァに来てからそれなりの日数が立っていたこともあり、ヨハンを筆頭とした何人かはここに書かれている文字を読むことができた。
『正しき道へと進め。さもなくば、その運命は歪曲され銀の女神から見捨てられるであろう。正しき道は、牛の道なり』
「牛の道?」
言葉を聞いた、ティボルトが素っ頓狂な声を上げる。
「ひょっとして、この像がそれぞれ動物を表していたのか・・・ただ、壊れているってことは、どの道かわからないな。セルモさん、決して先に道に入らないでくださいね。何があるかわかりませんから。もし、怪しげな道を思いつきましたら、マックスあたりでも適当に先行させてください。大丈夫です。『義賊のゴリラ』と呼ばれたマックスなら何とかしてくれます」
「よくわかんねえけど、牛の道だって? そんなわけねえよ。きっとゴリラの道があるはずだ! な、デストラクション!」
呼び出されたデストラクションは頷きながら、ある一点を指さしている。
「あ、あそこに文字が書かれているぜ」
ティボルトが気付く。どうやら、この謎解きの手がかりとなる言葉らしい。ヨハンたちは、この言葉をもとに正しい道を探し始めた。
「また、行き止まりだったぜ。全く、嫌になる」
四層目に入ってすぐの通路の探索を行っていたティボルトが、首を振りながらヨハンたちの元へと戻ってくる。まさに、迷路であった。しかし、ヨハンたちに休んでいる暇はない。何しろ、ヨハンたちが探索をしている一方で、『魔王』ルーファスは、本来の力を取り戻すべく瞑想しているのだ。時間をかければかけるほど、ルーファスが強力になるのは言うまでもない。
ただひたすら、先を目指し進んでいく。そんなヨハンたちに進展があったのは、五層目に入ってからのことだった。
「おいみんな、あっちになんかあるぜ」
五層目の様子を見るべく先行していたティボルトが戻って来るなり、口を開いた。
「なんか、今までの部屋とは雰囲気が違うんだ」
ヨハンたちもその部屋に入ると、ティボルトが行っている言葉の意味が何となく理解できた。その部屋は、これまでのただの通路や小部屋とは異なり、大きく、そして荘厳であった。そして、部屋の反対側には五本の道が伸びている。その横には、何らかの像が配置されていたのだろう。像を置くような台座が置かれており、ところどころ像の破片が散らばっている。だが、その破片はあまりにも少なく、その破片からどんな像が立っていたのかを推測することは難しい。
「おい、あそこ、なんか書いてあるぜ」
ティボルトが指を指す。見ると、真ん中の道の上の方に何やら文字が書かれている。ただ、ノームコプでは見慣れぬ文字であり、何が書かれているかはわかりにくい。だが、ウノーヴァに来てからそれなりの日数が立っていたこともあり、ヨハンを筆頭とした何人かはここに書かれている文字を読むことができた。
『正しき道へと進め。さもなくば、その運命は歪曲され銀の女神から見捨てられるであろう。正しき道は、牛の道なり』
「牛の道?」
言葉を聞いた、ティボルトが素っ頓狂な声を上げる。
「ひょっとして、この像がそれぞれ動物を表していたのか・・・ただ、壊れているってことは、どの道かわからないな。セルモさん、決して先に道に入らないでくださいね。何があるかわかりませんから。もし、怪しげな道を思いつきましたら、マックスあたりでも適当に先行させてください。大丈夫です。『義賊のゴリラ』と呼ばれたマックスなら何とかしてくれます」
「よくわかんねえけど、牛の道だって? そんなわけねえよ。きっとゴリラの道があるはずだ! な、デストラクション!」
呼び出されたデストラクションは頷きながら、ある一点を指さしている。
「あ、あそこに文字が書かれているぜ」
ティボルトが気付く。どうやら、この謎解きの手がかりとなる言葉らしい。ヨハンたちは、この言葉をもとに正しい道を探し始めた。
この謎解きで思わぬ力を発揮したのが、サラサであった。どうやら、サラサはこの手の謎かけが好きであるらしく、推論を立てはじめる。その推論をもとに、ヨハンとデストラクションが協議を重ね、途中マックスがゴリラの道を正解と勘違いしかけるハプニングもあったものの、ヨハンたちは正解の道を見つけ出すこととに成功した。
ティボルトを先頭として、一向はその道を進んでいく。それは細長い通路になっているものの、一本道であり探索の手間が少ない。おまけに、その通路は途中から階段のようになっており、徐々に徐々に上の層へと進んでいることが感じられた。案外、ルーファスまでの道のりは近いのかもしれない。
「ん?」
と、先行しているティボルトが何かを見つけた。扉だ。その先は外に続いているのか、扉からいくらか明かりが漏れている。
「おっと、セルモさん、ここはおれに任せて下さい。扉に罠がある可能性もありますからね」
ティボルトが、胸を張って前に出ようとする。そこを、マックスが遮った。
「おい、ティボルト。罠を探すのはおれにも任せてくれよ」
マックスが純粋な親切心からその言葉を発しているのは、横にいるゴリラのポーズからも明らかであった。しかし、その空気が読めない行動に対してヨハンが横から蹴りを入れる。
「なにするんだよ、兄ちゃん!」
マックスの抗議に対し、ヨハンは素知らぬ顔をしている。ティボルトはにやりと笑うと、ヨハンとマックスを見た。
「な、分かるだろ? ここはおれに任せてくれよ」
ティボルトの言葉に、ヨハンは頷く。
「ああ、任せたぜ」
そう言いながら、ヨハンは指を鳴らす。MK-Ⅽが、ヨハンの前に現れた。さながら、ティボルトとヨハンたちの間の壁となるように。
「おい、それはなんのつもりだよ!」
ティボルトはヨハンに抗議する。当然、ティボルトが罠を調べ損ねた時の保険であった。そんなヨハンの行動に白い目を送りながら、ティボルトは目の前の扉を調べ始めた。
「こ、これは」
ティボルトが、そう呟いた時だった。同時に、スイッチが押されたような音がヨハンたちの耳に入る。
「あっ しまった」
ヨハンたちは、慌ててMk-Ⅽの後ろへと避難する。すると、轟音を立てながら扉が開き始めた。しばし、沈黙が流れる。ティボルトが、重々しい表情でヨハンたちを振り返った。
「どうも、これを押すと自動で扉が開くみたいだ」
「いや、見てたらわかるから」
ティボルトの言葉に対し、リアノが冷静に突っ込む。ヨハンがMk-Ⅽの後ろから出てくると、無言でティボルトを袋叩きにし始めた。
「なんで、ここまでこんなに時間かけさせておいて、この扉は自動なんだよ・・・」
マックスも、思わず呟く。
「なんか、納得いかないよなあ・・・謎かけの正解も、ゴリラじゃなくて牛だったし。なあ、デストラクション?」
マックスは、傍らのゴリラを見る。ゴリラも不満そうな表情だ。
「だよなあ」
ヨハンたちは扉の先へと向かう。そこは、大きなステンドグラスが壁一面に広がる部屋だった。外の光景は分からないものの、光はいくらか差し込んでくる。そして、そこには一人の女性が立っていた。青い肌に、刀を持った女性。ナグモだ。
ティボルトを先頭として、一向はその道を進んでいく。それは細長い通路になっているものの、一本道であり探索の手間が少ない。おまけに、その通路は途中から階段のようになっており、徐々に徐々に上の層へと進んでいることが感じられた。案外、ルーファスまでの道のりは近いのかもしれない。
「ん?」
と、先行しているティボルトが何かを見つけた。扉だ。その先は外に続いているのか、扉からいくらか明かりが漏れている。
「おっと、セルモさん、ここはおれに任せて下さい。扉に罠がある可能性もありますからね」
ティボルトが、胸を張って前に出ようとする。そこを、マックスが遮った。
「おい、ティボルト。罠を探すのはおれにも任せてくれよ」
マックスが純粋な親切心からその言葉を発しているのは、横にいるゴリラのポーズからも明らかであった。しかし、その空気が読めない行動に対してヨハンが横から蹴りを入れる。
「なにするんだよ、兄ちゃん!」
マックスの抗議に対し、ヨハンは素知らぬ顔をしている。ティボルトはにやりと笑うと、ヨハンとマックスを見た。
「な、分かるだろ? ここはおれに任せてくれよ」
ティボルトの言葉に、ヨハンは頷く。
「ああ、任せたぜ」
そう言いながら、ヨハンは指を鳴らす。MK-Ⅽが、ヨハンの前に現れた。さながら、ティボルトとヨハンたちの間の壁となるように。
「おい、それはなんのつもりだよ!」
ティボルトはヨハンに抗議する。当然、ティボルトが罠を調べ損ねた時の保険であった。そんなヨハンの行動に白い目を送りながら、ティボルトは目の前の扉を調べ始めた。
「こ、これは」
ティボルトが、そう呟いた時だった。同時に、スイッチが押されたような音がヨハンたちの耳に入る。
「あっ しまった」
ヨハンたちは、慌ててMk-Ⅽの後ろへと避難する。すると、轟音を立てながら扉が開き始めた。しばし、沈黙が流れる。ティボルトが、重々しい表情でヨハンたちを振り返った。
「どうも、これを押すと自動で扉が開くみたいだ」
「いや、見てたらわかるから」
ティボルトの言葉に対し、リアノが冷静に突っ込む。ヨハンがMk-Ⅽの後ろから出てくると、無言でティボルトを袋叩きにし始めた。
「なんで、ここまでこんなに時間かけさせておいて、この扉は自動なんだよ・・・」
マックスも、思わず呟く。
「なんか、納得いかないよなあ・・・謎かけの正解も、ゴリラじゃなくて牛だったし。なあ、デストラクション?」
マックスは、傍らのゴリラを見る。ゴリラも不満そうな表情だ。
「だよなあ」
ヨハンたちは扉の先へと向かう。そこは、大きなステンドグラスが壁一面に広がる部屋だった。外の光景は分からないものの、光はいくらか差し込んでくる。そして、そこには一人の女性が立っていた。青い肌に、刀を持った女性。ナグモだ。
村が、燃えていた。五歳の少女には、何が起きたのか分からなかった。少女は当惑した表情で思い返す。先ほどまで、少女は生まればかりの弟と両親と共に家で食事を取っていたはずだった。異変のきっかけは、そこに数人の村人たちが入ってきたことだろう。彼ら全員が武装しており、村長である父と何か深い話し合いをしていた。少女に詳しい話の内容は分からなかったが、父と村人たちの話の声から、事の深刻さだけは理解することができた。やがて、少女の両親は村人たちと共に出かけていった。
「ディアブロス、モノブロスをよろしくね」
家を出る直前、母がディアブロスを振り向き、告げた。ディアブロスは頷く。両親はそんなディアブロスに微笑みかけると、家を出ていった。それ以降、両親の顔は見ていない。そもそも、人の姿が全くといって良いほど見あたらなかった。
「ほう、まだ人がおったのかのう」
モノブロスを抱え、途方にくれながら歩いていたディアブロスの背後から声がした。振り返ると、一人の老人が立っている。
「あなたは?」
「儂の名前など、気にするだけ時間の無駄じゃよ。お主こそ、この村の子どもか?」
老人はその瞳をディアブロスに向け、尋ねる。答えようとディアブロスが口を開いたとき、目と目があった。次の瞬間、彼女の両手が意に反して動きそうになる。ディアブロスは慌てた。このまま手を動かしてしまうと腕の中にいるモノブロスがを落としてしまう。少女は意志に反した動きに抵抗した。まもなく、その動きは止んだ。
「ほう」
目の前の老人が、感心したような声を上げる。
「これに抵抗するかのう・・・ならば」
「ゲイム」
別の方角から、重々しい声がした。しかし、その声から危険は感じられない。ディアブロスがその方角を向くと、黒い翼と赤い体を持った男が立っていた。
「ルーファス様、どうされましたか?」
ゲイムと呼ばれた老人が、男の方を向きながら尋ねる。
「その少女は?」
「どうやら、生き残りのようです。どうされますか?」
ルーファスは少し、考え込む。ディアブロスはその様子を見ながら、二人に尋ねた。
「あの、他のみんなは?」
「死んだ」
ルーファスがこともなげに呟く。
「死んだ?」
「ああ。余を殺そうとしたのでな」
「殺そうとした?」
ディアブロスの顔に疑問が浮かんでいる。ルーファスはそれを見て少し悩んだようだった。
「つまりだな、なんだその…」
ルーファスの困っている様子を見て、ゲイムが笑う。ルーファスは、ゲイムの方を軽く睨んだ。
「申し訳ありません、ルーファス様。ルーファス様が困ることはあまりないので、つい」
「覚えていろよ、ゲイム」
さておき、とルーファスが告げる。そして、紆余曲折を経てディアブロスは自分の両親が、ルーファスを殺そうとして死んだことを知った。
「余のことが、嫌いになったか?」
一通り話した後、ルーファスがディアブロスに尋ねる。ディアブロスは、首を横に振った。子どもだからと無視せず、丁寧に説明してくれたルーファスのことが嫌いではなかったからだ。
「そうか…とは言え、両親を殺してしまったことは謝ろう。代わりに、何かできることはあるか?」
「弟を」
ディアブロスは、それだけ答えた。弟は、守らなければいけない。両親との約束であった。
「わかった。弟の無事は保証しよう。ついでに君もだ。君、名前は?」
「ディアブロス」
「よし、ディアブロス。君と弟の面倒は今日からそこにいるゲイムが見てくれる」
ゲイムが、唖然とする。
「そんな」
「さっき、覚えていろと言っただろう、ゲイム」
こうして、ディアブロスはゲイムの元で過ごすこととなった。
「ディアブロス、モノブロスをよろしくね」
家を出る直前、母がディアブロスを振り向き、告げた。ディアブロスは頷く。両親はそんなディアブロスに微笑みかけると、家を出ていった。それ以降、両親の顔は見ていない。そもそも、人の姿が全くといって良いほど見あたらなかった。
「ほう、まだ人がおったのかのう」
モノブロスを抱え、途方にくれながら歩いていたディアブロスの背後から声がした。振り返ると、一人の老人が立っている。
「あなたは?」
「儂の名前など、気にするだけ時間の無駄じゃよ。お主こそ、この村の子どもか?」
老人はその瞳をディアブロスに向け、尋ねる。答えようとディアブロスが口を開いたとき、目と目があった。次の瞬間、彼女の両手が意に反して動きそうになる。ディアブロスは慌てた。このまま手を動かしてしまうと腕の中にいるモノブロスがを落としてしまう。少女は意志に反した動きに抵抗した。まもなく、その動きは止んだ。
「ほう」
目の前の老人が、感心したような声を上げる。
「これに抵抗するかのう・・・ならば」
「ゲイム」
別の方角から、重々しい声がした。しかし、その声から危険は感じられない。ディアブロスがその方角を向くと、黒い翼と赤い体を持った男が立っていた。
「ルーファス様、どうされましたか?」
ゲイムと呼ばれた老人が、男の方を向きながら尋ねる。
「その少女は?」
「どうやら、生き残りのようです。どうされますか?」
ルーファスは少し、考え込む。ディアブロスはその様子を見ながら、二人に尋ねた。
「あの、他のみんなは?」
「死んだ」
ルーファスがこともなげに呟く。
「死んだ?」
「ああ。余を殺そうとしたのでな」
「殺そうとした?」
ディアブロスの顔に疑問が浮かんでいる。ルーファスはそれを見て少し悩んだようだった。
「つまりだな、なんだその…」
ルーファスの困っている様子を見て、ゲイムが笑う。ルーファスは、ゲイムの方を軽く睨んだ。
「申し訳ありません、ルーファス様。ルーファス様が困ることはあまりないので、つい」
「覚えていろよ、ゲイム」
さておき、とルーファスが告げる。そして、紆余曲折を経てディアブロスは自分の両親が、ルーファスを殺そうとして死んだことを知った。
「余のことが、嫌いになったか?」
一通り話した後、ルーファスがディアブロスに尋ねる。ディアブロスは、首を横に振った。子どもだからと無視せず、丁寧に説明してくれたルーファスのことが嫌いではなかったからだ。
「そうか…とは言え、両親を殺してしまったことは謝ろう。代わりに、何かできることはあるか?」
「弟を」
ディアブロスは、それだけ答えた。弟は、守らなければいけない。両親との約束であった。
「わかった。弟の無事は保証しよう。ついでに君もだ。君、名前は?」
「ディアブロス」
「よし、ディアブロス。君と弟の面倒は今日からそこにいるゲイムが見てくれる」
ゲイムが、唖然とする。
「そんな」
「さっき、覚えていろと言っただろう、ゲイム」
こうして、ディアブロスはゲイムの元で過ごすこととなった。
ゲイムの元で過ごし始めて、10年がたった。ディアブロスはこの間にいくつかのことを学んでいた。ディアブロスを助けてくれたルーファスが、『魔王』と呼ばれ大きな力を持っていること。自分にドラゴンになれる力があり、ドラゴンになっている間は強力な力を持っていること、等である。
「精が出るな、ディアブロス」
いつものように、ゲイムが拠点としている隠れ家で槍の稽古を一人積んでいるディアブロスに、ルーファスが話しかけてきた。
「ありがとうございます。ルーファス様。ですがまだ、ルーファス様には遠く及びません」
「なにを言う。お主がドラゴンになって暴れているのを止めるのは、ひと苦労だったのだぞ」
ルーファスが笑う。
「ドラゴンになったお主とまともに戦えるのは・・・ダイダーラぐらいであろうな。あの巨人は強いぞ」
ルーファスには、ゲイムを始めとして優秀な部下が数多く揃っていた。だが、ディアブロスはゲイムしかあったことはない。
「そんなお主に、今日は折り入って頼みがある」
ルーファスが、口を開いた。ディアブロスは、その口ぶりから、内容を察する。
「ルーファス様の部下になれとの話でしょうか?」
「そうだ。余はお主の実力があれば、ウノーヴァの統一はより確かなものだと考えている」
ルーファスは、そう告げるとディアブロスをじっと見つめてくる。ディアブロスは、その視線に耐えられず、目を逸らした。
「以前からお伝えしている通り、私は向いていません。私は誰かが傷つくのが耐えられないんです。もちろん、襲ってきたならず者を倒すことはありますが、自分から攻撃したりするのは嫌です」
「お主の力があれば、無益な殺傷を抑えることにもつながる。その方が、弟のモノブロスにとっても安心だろう」
モノブロスは、ディアブロスと違って戦いの才能を持っていなかった。今は、ルーファスが本拠地としている街の中で平和に暮らしている。最近は、ウェンディとの名の犬を飼い始めており、最後に会った時はその犬に妙になつかれて困ったことを覚えている。
「・・・少し、考えさせてください」
これで、三回目の勧誘であった。その度に、ディアブロスはこう答え、答えを引き延ばしにしていた。
「ああ、分かった。お主の今後にかかわる話だからな、好きなだけ悩むがいい」
ルーファスは頷く。おそらく、どれだけ先延ばしにしても嫌な顔一つしないだろう。ルーファスは、自分に敵対しないものに対しては優しい。それが分かっているので、つい甘えてしまうのであった。
「精が出るな、ディアブロス」
いつものように、ゲイムが拠点としている隠れ家で槍の稽古を一人積んでいるディアブロスに、ルーファスが話しかけてきた。
「ありがとうございます。ルーファス様。ですがまだ、ルーファス様には遠く及びません」
「なにを言う。お主がドラゴンになって暴れているのを止めるのは、ひと苦労だったのだぞ」
ルーファスが笑う。
「ドラゴンになったお主とまともに戦えるのは・・・ダイダーラぐらいであろうな。あの巨人は強いぞ」
ルーファスには、ゲイムを始めとして優秀な部下が数多く揃っていた。だが、ディアブロスはゲイムしかあったことはない。
「そんなお主に、今日は折り入って頼みがある」
ルーファスが、口を開いた。ディアブロスは、その口ぶりから、内容を察する。
「ルーファス様の部下になれとの話でしょうか?」
「そうだ。余はお主の実力があれば、ウノーヴァの統一はより確かなものだと考えている」
ルーファスは、そう告げるとディアブロスをじっと見つめてくる。ディアブロスは、その視線に耐えられず、目を逸らした。
「以前からお伝えしている通り、私は向いていません。私は誰かが傷つくのが耐えられないんです。もちろん、襲ってきたならず者を倒すことはありますが、自分から攻撃したりするのは嫌です」
「お主の力があれば、無益な殺傷を抑えることにもつながる。その方が、弟のモノブロスにとっても安心だろう」
モノブロスは、ディアブロスと違って戦いの才能を持っていなかった。今は、ルーファスが本拠地としている街の中で平和に暮らしている。最近は、ウェンディとの名の犬を飼い始めており、最後に会った時はその犬に妙になつかれて困ったことを覚えている。
「・・・少し、考えさせてください」
これで、三回目の勧誘であった。その度に、ディアブロスはこう答え、答えを引き延ばしにしていた。
「ああ、分かった。お主の今後にかかわる話だからな、好きなだけ悩むがいい」
ルーファスは頷く。おそらく、どれだけ先延ばしにしても嫌な顔一つしないだろう。ルーファスは、自分に敵対しないものに対しては優しい。それが分かっているので、つい甘えてしまうのであった。
事件が起きたのは、その矢先のことだった。
「ディアブロス、不味いことが起きたぞ」
いつものように隠れ家にいたディアブロスのもとを訪れたのは、ゲイムであった。
「お主の弟が、襲われたのじゃ」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。どうにか気を取り直して事情を聞くと、モノブロスはルーファスと敵対している勢力が奇襲を行った際、運悪く近くを通りかかって巻き込まれてしまったらしい。
「モノブロスは、無事なの?」
「どうにかな、ただ・・・」
モノブロスは、頭の角をおられるなど重傷を負ったが、近くにいたミスター・チーバの奮闘もあって生きていた。ただし、身代わりとなって愛犬のウェンディが亡くなったらしい。
「今回は何とか無事じゃったが、同じようなことが次起こると・・・どうなるかはわからんな」
ゲイムが考え込む表情をする。
「ねえ、ゲイムさん。今回の奇襲って、戦いが長引いたせいなのかな?」
「まあ・・・きわめて簡潔に言えばそうだと考えられるな」
だったら、ディアブロスは考えた。早く戦いを終わらせないといけないだろう。
翌日、モノブロスの無事を確かめたディアブロスは、ドラゴンとなってルーファスのもとを訪れた。
「どうした、ディアブロス。突然そんな姿で来るから、ミスター・チーバが慌てていたぞ」
「すみません・・・ただ、お願いがあります。わたしは、この姿でルーファス様の部下になりたいのです。この姿の方が、力はあります」
この姿の欠点は、一つ。ドラゴンになったために言葉が格段に伝えにくいことであった。今、ルーファスと話している時も吠えるような声になってしまっている。だが、ルーファスはディアブロスの言葉を、しっかりと理解していた。
「・・・モノブロスのことか?」
「そうです。わたしは、弟に平和に過ごしてもらいたいので。ですが、モノブロスが弟だと伝わると危害が加わる可能性があるので、別人だと言うことにしておいてください」
「まあ、別居していたわけだし、それは可能だろう。問題ない。ただ・・・戦いは、苛酷だぞ」
「弟のためなら、多少のことなら大丈夫です。それに、ルーファス様には弟を守ってもらった恩もあります」
「わかった」
ルーファスは頷く。
「ただ、一つだけ言っておくと、お礼は余ではなくミスター・チーバに行ってくれ。モノブロスを守ったのはあいつだ」
「はい、わかりました」
「ディアブロス、不味いことが起きたぞ」
いつものように隠れ家にいたディアブロスのもとを訪れたのは、ゲイムであった。
「お主の弟が、襲われたのじゃ」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。どうにか気を取り直して事情を聞くと、モノブロスはルーファスと敵対している勢力が奇襲を行った際、運悪く近くを通りかかって巻き込まれてしまったらしい。
「モノブロスは、無事なの?」
「どうにかな、ただ・・・」
モノブロスは、頭の角をおられるなど重傷を負ったが、近くにいたミスター・チーバの奮闘もあって生きていた。ただし、身代わりとなって愛犬のウェンディが亡くなったらしい。
「今回は何とか無事じゃったが、同じようなことが次起こると・・・どうなるかはわからんな」
ゲイムが考え込む表情をする。
「ねえ、ゲイムさん。今回の奇襲って、戦いが長引いたせいなのかな?」
「まあ・・・きわめて簡潔に言えばそうだと考えられるな」
だったら、ディアブロスは考えた。早く戦いを終わらせないといけないだろう。
翌日、モノブロスの無事を確かめたディアブロスは、ドラゴンとなってルーファスのもとを訪れた。
「どうした、ディアブロス。突然そんな姿で来るから、ミスター・チーバが慌てていたぞ」
「すみません・・・ただ、お願いがあります。わたしは、この姿でルーファス様の部下になりたいのです。この姿の方が、力はあります」
この姿の欠点は、一つ。ドラゴンになったために言葉が格段に伝えにくいことであった。今、ルーファスと話している時も吠えるような声になってしまっている。だが、ルーファスはディアブロスの言葉を、しっかりと理解していた。
「・・・モノブロスのことか?」
「そうです。わたしは、弟に平和に過ごしてもらいたいので。ですが、モノブロスが弟だと伝わると危害が加わる可能性があるので、別人だと言うことにしておいてください」
「まあ、別居していたわけだし、それは可能だろう。問題ない。ただ・・・戦いは、苛酷だぞ」
「弟のためなら、多少のことなら大丈夫です。それに、ルーファス様には弟を守ってもらった恩もあります」
「わかった」
ルーファスは頷く。
「ただ、一つだけ言っておくと、お礼は余ではなくミスター・チーバに行ってくれ。モノブロスを守ったのはあいつだ」
「はい、わかりました」
「ミスター・チーバさん、先日はモノブロスを助けて下さりありがとうございます」
ディアブロスの声を聞くや、ミスター・チーバは耳をふさいだ。犬耳を持つ、ミスター・チーバは音に敏感である。ディアブロスは気を付けているつもりでも、大声は辛いのかもしれない。
「おっ、お前がモノブロスの友人とかいうやつカスカベ? 全く、お前の友人のせいで、新発売のソウカセンベイミント味を買いに行くのが遅れてしまったんだサイタマ」
ミスター・チーバは肩をすくめる。返事に窮するディアブロスに、ミスター・チーバはため息をつく。
「全く、そう言う時はお礼にソウカセンベイを箱ごと渡しますとか言えばいいんだサイタマ。で、モノブロスは無事なのカスカベ?」
「はい、無事です」
ディアブロスは、そう吠えた。
「死なれていたら気分も悪くなるし、なら問題ないサイタマ」
おそらく、人助けをしてお礼を言われていることに照れているのだろう。ディアブロスは、ようやく理解した。
「ま、お礼のソウカセンベイ、待ってイルマ」
何はともあれ、こうしてディアブロスはルーファスの部下となったのだった。
ディアブロスの声を聞くや、ミスター・チーバは耳をふさいだ。犬耳を持つ、ミスター・チーバは音に敏感である。ディアブロスは気を付けているつもりでも、大声は辛いのかもしれない。
「おっ、お前がモノブロスの友人とかいうやつカスカベ? 全く、お前の友人のせいで、新発売のソウカセンベイミント味を買いに行くのが遅れてしまったんだサイタマ」
ミスター・チーバは肩をすくめる。返事に窮するディアブロスに、ミスター・チーバはため息をつく。
「全く、そう言う時はお礼にソウカセンベイを箱ごと渡しますとか言えばいいんだサイタマ。で、モノブロスは無事なのカスカベ?」
「はい、無事です」
ディアブロスは、そう吠えた。
「死なれていたら気分も悪くなるし、なら問題ないサイタマ」
おそらく、人助けをしてお礼を言われていることに照れているのだろう。ディアブロスは、ようやく理解した。
「ま、お礼のソウカセンベイ、待ってイルマ」
何はともあれ、こうしてディアブロスはルーファスの部下となったのだった。
ヨハンたちが、五つの道から正しい道を選び、進み始めていたころ。『古代の城』の外側では、迫りくる魔族たちとマリアンナたちの戦いが始まっていた。ヨハンたちが集中してルーファスと戦えるよう、魔族を侵入させないことが、マリアンナたちの目的であった。
「くくく・・・貴様が先ほど、パズスを倒したものたちか」
マリアンナが顔を上げると、マリアンナの目の前には、先ほど倒したパズスそっくりの顔だちをした魔族が、三頭立っていた。違うのは、その体の色だ。どちらかといえば、この魔族は白い色をした肌を持っている。
「おれたちはデーモンロード。パズスの弟だ」
「それが遺言になるけど、いいよね?」
マリアンナはそう告げると、跳躍した。跳びながら、一番近くのデーモンロード首筋に拳を打ち込む。そのデーモンロードは倒れた。隣にいたデーモンロードが、驚きの表情を浮かべる。
「ば、バカな・・・」
だが、それはすぐに笑みへと変わった。
「なんてな。もともと、死は覚悟のうちだぜ」
同時に、残りのデーモンロードの体が白く輝き出す。自爆しようとしているのだ。マリアンナがそれをかわそうにも、距離が近い。マリアンナは、舌打ちしながら辺りを見渡す。
「さよならだぜ!」
爆音が、響いた。同時に激しい砂埃が巻き上がる。他の魔族たちは、それを遠巻きに眺めていた。皆、マリアンナの拳と魔術に恐れおののき、近寄れずに困っていた連中だ。砂埃が収まった時、そこには何もいなかった。デビルロードたちが、マリアンナと相打ちしたのだ。感激のあまり興奮する魔族たち。直後、そこに火の玉と拳の嵐が降り注いだ。
もちろん、マリアンナだ。その近くで、何か鉄の塊が煙を上げている。
「大丈夫ですか?」
爆音を聞きつけた、パルテナが近寄ってくる。マリアンナは頷いた
「まさか、船の廃材からこっそり持ち出して、車椅子に付けていたエンジンが役に立つ日が来るとはな」
マリアンナは、咄嗟の《ファイアピラー》で車椅子を自身の目の前に転送させ、そのまま車椅子のエンジンを起動することで爆発から逃れたのであった。マリアンナのすぐそばにある鉄の塊は、音速の犠牲になった車椅子であった。
「車椅子は、また作ればいい」
どこかで、ヨハンがどうせ作るのはおれなんだろとぼやく姿が見て取れる。だが、マリアンナはそれを気にしない図太さの持ち主だった。
「それより、他のみんなは大丈夫か?」
「ええ、今のところは」
パルテナが答えた途端、爆音が響いた。慌てて二人が振り返ると、上空を二本の巨大な角を持つドラゴンが、飛んできていた。おまけに、『城』へと一直線に進んでくる。
「新手の敵か」
マリアンナは舌打ちすると、両手に魔力を込める。と、そこで顔色を変えたのはパルテナだった。
「マリアンナさん、待ってください! あのドラゴン、ひょっとしたら・・・」
パルテナの言葉に、ピンと来るものがあった。ゲイムが、ヨハンたちと戦う前に言い残していたことだ。マリアンナの表情に、パルテナも頷く。
「あのドラゴンは、ウェンディさんの真の姿なのかもしれません」
だから、攻撃はしないでほしい。パルテナは言外にそう告げていた。マリアンナは、逡巡したが、まもなく
手を下した。ウェンディだから見逃すと言うよりは、そのドラゴンからあまり殺気が見られなかったからである。
マリアンナたちが見ている前で、ドラゴンはひときわ大きな叫び声をあげると、城の壁を突き破り中へと入っていった。
「くくく・・・貴様が先ほど、パズスを倒したものたちか」
マリアンナが顔を上げると、マリアンナの目の前には、先ほど倒したパズスそっくりの顔だちをした魔族が、三頭立っていた。違うのは、その体の色だ。どちらかといえば、この魔族は白い色をした肌を持っている。
「おれたちはデーモンロード。パズスの弟だ」
「それが遺言になるけど、いいよね?」
マリアンナはそう告げると、跳躍した。跳びながら、一番近くのデーモンロード首筋に拳を打ち込む。そのデーモンロードは倒れた。隣にいたデーモンロードが、驚きの表情を浮かべる。
「ば、バカな・・・」
だが、それはすぐに笑みへと変わった。
「なんてな。もともと、死は覚悟のうちだぜ」
同時に、残りのデーモンロードの体が白く輝き出す。自爆しようとしているのだ。マリアンナがそれをかわそうにも、距離が近い。マリアンナは、舌打ちしながら辺りを見渡す。
「さよならだぜ!」
爆音が、響いた。同時に激しい砂埃が巻き上がる。他の魔族たちは、それを遠巻きに眺めていた。皆、マリアンナの拳と魔術に恐れおののき、近寄れずに困っていた連中だ。砂埃が収まった時、そこには何もいなかった。デビルロードたちが、マリアンナと相打ちしたのだ。感激のあまり興奮する魔族たち。直後、そこに火の玉と拳の嵐が降り注いだ。
もちろん、マリアンナだ。その近くで、何か鉄の塊が煙を上げている。
「大丈夫ですか?」
爆音を聞きつけた、パルテナが近寄ってくる。マリアンナは頷いた
「まさか、船の廃材からこっそり持ち出して、車椅子に付けていたエンジンが役に立つ日が来るとはな」
マリアンナは、咄嗟の《ファイアピラー》で車椅子を自身の目の前に転送させ、そのまま車椅子のエンジンを起動することで爆発から逃れたのであった。マリアンナのすぐそばにある鉄の塊は、音速の犠牲になった車椅子であった。
「車椅子は、また作ればいい」
どこかで、ヨハンがどうせ作るのはおれなんだろとぼやく姿が見て取れる。だが、マリアンナはそれを気にしない図太さの持ち主だった。
「それより、他のみんなは大丈夫か?」
「ええ、今のところは」
パルテナが答えた途端、爆音が響いた。慌てて二人が振り返ると、上空を二本の巨大な角を持つドラゴンが、飛んできていた。おまけに、『城』へと一直線に進んでくる。
「新手の敵か」
マリアンナは舌打ちすると、両手に魔力を込める。と、そこで顔色を変えたのはパルテナだった。
「マリアンナさん、待ってください! あのドラゴン、ひょっとしたら・・・」
パルテナの言葉に、ピンと来るものがあった。ゲイムが、ヨハンたちと戦う前に言い残していたことだ。マリアンナの表情に、パルテナも頷く。
「あのドラゴンは、ウェンディさんの真の姿なのかもしれません」
だから、攻撃はしないでほしい。パルテナは言外にそう告げていた。マリアンナは、逡巡したが、まもなく
手を下した。ウェンディだから見逃すと言うよりは、そのドラゴンからあまり殺気が見られなかったからである。
マリアンナたちが見ている前で、ドラゴンはひときわ大きな叫び声をあげると、城の壁を突き破り中へと入っていった。
時はいくらか戻る。正解の道を歩いていたヨハンたちは、通路の先にある部屋で、一人の女性と遭遇していた。青い肌に長い髪を持つ女性。ナグモだ。
「遅かったですね」
ナグモが、口を開いた。
「結構急いだんだけどな」
思わず、ヨハンがぼやく。マックスも不満な表情を浮かべていた。
「お前らが妙な時間稼ぎばっかり考えているからだろ!」
「ルーファス様は、この先でまだ瞑想中です。瞑想が終わるまで、あなた方を先に進ませるわけにはいきません。最も、ルーファス様に危害を加えようとする方は、いつでもお断りですが」
ナグモはそう告げると、腰に下げていた刀をゆっくりと抜いた。
「先に言っておきます。私は何も、あなた方の命を不用意にとろうとは考えていません。ですので、あなた方がここから去るなら、止めはしません。あくまで私が戦うのは、あなた方が向かってきたときです」
当然、誰もその場から去ろうとしなかった。やがて、マックスが口を開く。
「お前らが誰も傷つけたくないって気持ちは分かる。だが、お前たちのせいで兄ちゃんは危機に陥ったんだ。そいつを無視するわけにはいかないだろ。だから、行くしかない!」
「その通りだ」
マックスの言葉に、ヨハンが頷く。
「お前らが、どんな誰も傷つけない。そんな誓いを立てていようと関係ない。お前たちはおれをむかつかせた。それだけでも、死ぬ理由としては十分だ」
ヨハンが、ナグモを指さしながら告げる。隣では、サラサが既に武器を構えている。ヨハンはそんなサラサを見て苦笑した。昔から、サラサは変わらないことがある、それこそ、ヨハンと初めて出会い、刀を突き付けられたあの時からだ。サラサは、敵対するものに対して血の気が多い。さながら、瞬間沸騰湯沸かし器だ。マックスも同じことを思ったようで、にやにや笑いながらサラサに声をかけている。そんなマックスの言葉を聞きながら、ヨハンはナグモを見据えた。
「通してもらうぞ」
ナグモはヨハンを見据え、仕方ないと言った具合に頷いた。
「まあ、ここまで来た時点で、去ろうとしないことは分かっていました。『流星剣士』と呼ばれた私の力、お見せしましょう」
「遅かったですね」
ナグモが、口を開いた。
「結構急いだんだけどな」
思わず、ヨハンがぼやく。マックスも不満な表情を浮かべていた。
「お前らが妙な時間稼ぎばっかり考えているからだろ!」
「ルーファス様は、この先でまだ瞑想中です。瞑想が終わるまで、あなた方を先に進ませるわけにはいきません。最も、ルーファス様に危害を加えようとする方は、いつでもお断りですが」
ナグモはそう告げると、腰に下げていた刀をゆっくりと抜いた。
「先に言っておきます。私は何も、あなた方の命を不用意にとろうとは考えていません。ですので、あなた方がここから去るなら、止めはしません。あくまで私が戦うのは、あなた方が向かってきたときです」
当然、誰もその場から去ろうとしなかった。やがて、マックスが口を開く。
「お前らが誰も傷つけたくないって気持ちは分かる。だが、お前たちのせいで兄ちゃんは危機に陥ったんだ。そいつを無視するわけにはいかないだろ。だから、行くしかない!」
「その通りだ」
マックスの言葉に、ヨハンが頷く。
「お前らが、どんな誰も傷つけない。そんな誓いを立てていようと関係ない。お前たちはおれをむかつかせた。それだけでも、死ぬ理由としては十分だ」
ヨハンが、ナグモを指さしながら告げる。隣では、サラサが既に武器を構えている。ヨハンはそんなサラサを見て苦笑した。昔から、サラサは変わらないことがある、それこそ、ヨハンと初めて出会い、刀を突き付けられたあの時からだ。サラサは、敵対するものに対して血の気が多い。さながら、瞬間沸騰湯沸かし器だ。マックスも同じことを思ったようで、にやにや笑いながらサラサに声をかけている。そんなマックスの言葉を聞きながら、ヨハンはナグモを見据えた。
「通してもらうぞ」
ナグモはヨハンを見据え、仕方ないと言った具合に頷いた。
「まあ、ここまで来た時点で、去ろうとしないことは分かっていました。『流星剣士』と呼ばれた私の力、お見せしましょう」
戦いが始まると同時にグレンが指示を飛ばす。熟練の経験が、ナグモに対する戦い方を即座に考え出していた。ナグモの前にやってきたのは、ヨハン。
「ナーグーモくん、あーそーぼ」
いつもと変わらぬ、育ち過ぎた悪童のような笑みを浮かべながら、ナグモに手招きする。ナグモはそんなヨハンの挑発に、笑みを浮かべる。
「いいでしょう。私の力、まずはあなたにお見せしましょう」
ナグモの言葉が言い終わらぬうちに、ヨハンは身に危険を感じた。冷や汗が、全身から吹き出てくる。ヨハンの勘が、次の攻撃に当たってはいけないと告げていた。
「マックス、助けてくれ!」
ヨハンがとっさに叫ぶ。マックスはすでに弓をつがえていた。ゴリラ譲りの野生の勘が、マックスにそうさせたのだろう。
「兄ちゃん、任せろ!」
マックスの放った弓はナグモに命中こそしなかったが、ナグモの行動を阻害するには十分なものであった。ヨハンは、胸に手を当てる。鼓動が、大きくなっていた。
「ナグモ、多分その攻撃はおれに凄く効くから」
当然、冷や汗もまだ止まっていない。
「やめて」
ヨハンの正直な告白に、ナグモは苦笑する。
「そうですか、では別の手段に変えましょう」
実は、ナグモにとっても、今の攻撃は一度きりの奇襲であった。二度使えるものではない。ナグモは再び刀を振るい、ヨハンを攻撃する。
「兄ちゃん、もう一発は任せろ!」
マックスが掛け声と共に、再び弓を放つ。だが、ナグモも負けてはいない。マックスの弓により最初の斬撃こそ止められてしまったが、即座に身を翻すと再びの斬撃を放つ。今度は、マックスと言えど止められない。ナグモの刀が、ヨハンにぶつかる。寸前、二つの障壁がナグモの刀とヨハンとの間に出現する。セルモとゼンマイガーが作り出した障壁だ。ナグモの斬撃は、二つの強大な障壁に威力を弱められる。更に、ヨハンの首飾りが禍々しく光ると、ナグモの斬撃はそこで止まってしまった。
「ダメージは、ゼロじゃ」
ヨハンが不敵な笑みを浮かべ、ナグモに告げる。
「これが、魔術師の力ってやつだぜ」
ヨハンの言葉に、ナグモは苦笑する。普通の魔術士であれば、そもそもナグモの斬撃を正面から受け止めようとしない。
「まあ、そう言うことにしておきましょうか」
一方、ナグモがヨハンに打ちかかっている隙に他の味方は動き出していた。セルモがサラサ、リアノ、マックスの三人に支援の魔術をかけると、アウリラの敏捷性をいかしたリアノが飛び出す。そして、リアノはそのまま鞭を振った。リアノの蛇のような鞭の動きは、ナグモと言えど反応しきれない。おまけに、セルモが支援を飛ばし、その鞭の動きをより洗練されたものへと変えていた。
「流石ですね」
更に続けて何かを言おうとしたナグモであったが、素早く刀を構える。マックスが矢を続けざまに放ったのだ。ナグモは弓を弾き返そうとするが、マックスの放った矢は想像以上に早く、ナグモであっても止められない。
そして、そこにサラサが飛ぶように突っ込んでいく。サラサとナグモは、素早い斬り合いを演じ始めた。サラサの斬撃は鋭い。おまけに、サラサ自身も防御を捨てたかのような斬り込みである。いくらナグモでも躱せそうにはない。代わりに、ナグモもサラサに切りかかっていた。ナグモの刀の切れ味は凄まじく、サラサがまともに切られたら無事であるか怪しいものであった。
だが、サラサは防御を気にしない。何故なら、そこにヨハンがいるからだ。ヨハンはナグモの斬撃を何度も受け止める。
「なるほど、見事な連携ですね」
ナグモは微笑む。同時に、ナグモを取り囲んでいた殺気が増した。その気は、これまでナグモの攻撃をほぼ全て受け止めてきたヨハンですら、危機を抱くものであった。だが、ヨハンはその一撃に立ち向かった。サラサを庇うのが、ヨハンの役目だからだ。そして、ヨハンにはまだ勝算があった。
「!!」
ナグモの顔が、驚きに満ちる。突然、ヨハンの前に巨大な障壁が現れたのだ。作り出したのは、ゼンマイガー。最大出力で作り出した障壁は、ナグモの刀を完全に受け止めていた。その障壁を避けながら、ナグモは二発目の斬撃を放つが、一発目ほどの威力はない。
「やりますね」
ナグモは感心した表情を浮かべる。再び、気がナグモに集中していく。先ほどの殺気より、危険性が増していた。並の人間であれば、この気だけで倒れてしまうかもしれない。そして、流石にこの殺気を込めた攻撃は、ヨハンと言えど受け止められそうになかった。だが、まだ誰も諦めていなかった。
「任せろっ!」
マックスが、渾身の矢を放つ。その一撃はナグモの剣先をわずかに逸らすと、刀を空振りさせる。
「ですが、もう一発あります!」
ナグモが身を翻し、再び刀を振るう。だが、その刀は岩盤のようなものに跳ね返された。巨大化した、アアアアだ。セルモの、切り札であった。想定外の出来事に、ナグモはわずかながら隙を生じさせる。そこをマックスは見逃さなかった。
「デストラクション、今が気合いの入れどこだっ!」
マックスはそう叫ぶと、右肩に浮かんだデストラクションと共に矢を射かける。だが、ナグモはそれをすぐに察知すると、刀を振るって矢を撃ち落そうとした。実際、タイミングは完璧であった。そこに、グレンの妨害さえなければ。
矢が続けざまにナグモに吸い込まれていく。
「流石、ルーファス様と戦おうとする意志をお持ちの方々だけのことはありますね」
ナグモが、微笑みながら呟いた。おそらく彼女は、ヨハンたちとの戦いを楽しんでいるのだろう。まだ、倒れそうもない。
「ですが、『流星剣士』の名に懸けて、負けるわけにはいきません。私と愛刀、ソール・カティの力をお見せしましょう。不可避の、流星剣を」
ナグモが、刀を構える。と、突然、サラサは自分の体がナグモの方へと引っ張られていくように感じた。その力は強力であり、抵抗するのは難しそうだ。かつて父スオウが受けた、避けられない流星剣と同じものだろう。サラサは、ひるむことなく刀を構えることに集中した。ナグモの刀の射程に入った時が、勝負である。だが、その瞬間は訪れなかった。サラサたちの背後で、轟音が鳴り響いたためだ。
「何者?」
ヨハンたちだけでなく、ナグモにとってもその侵入者は想定外だったようだ。サラサから飛びずさり、音のした方へと刀を向ける。同時に、サラサを引っ張る力も消えた。轟音が鳴り響いた箇所を向くと、そこは砂埃にまみれていた。天井から大量の瓦礫が落下したためだろう。砂埃が少し収まってきた時、ヨハンたちは何が侵入してきたか理解した。巨大な、ドラゴンである。紫色の体に、二本の巨大な角が生えている。そして、マックスはそのドラゴンに見覚えがあった。
「ウェンディ!?」
「ナーグーモくん、あーそーぼ」
いつもと変わらぬ、育ち過ぎた悪童のような笑みを浮かべながら、ナグモに手招きする。ナグモはそんなヨハンの挑発に、笑みを浮かべる。
「いいでしょう。私の力、まずはあなたにお見せしましょう」
ナグモの言葉が言い終わらぬうちに、ヨハンは身に危険を感じた。冷や汗が、全身から吹き出てくる。ヨハンの勘が、次の攻撃に当たってはいけないと告げていた。
「マックス、助けてくれ!」
ヨハンがとっさに叫ぶ。マックスはすでに弓をつがえていた。ゴリラ譲りの野生の勘が、マックスにそうさせたのだろう。
「兄ちゃん、任せろ!」
マックスの放った弓はナグモに命中こそしなかったが、ナグモの行動を阻害するには十分なものであった。ヨハンは、胸に手を当てる。鼓動が、大きくなっていた。
「ナグモ、多分その攻撃はおれに凄く効くから」
当然、冷や汗もまだ止まっていない。
「やめて」
ヨハンの正直な告白に、ナグモは苦笑する。
「そうですか、では別の手段に変えましょう」
実は、ナグモにとっても、今の攻撃は一度きりの奇襲であった。二度使えるものではない。ナグモは再び刀を振るい、ヨハンを攻撃する。
「兄ちゃん、もう一発は任せろ!」
マックスが掛け声と共に、再び弓を放つ。だが、ナグモも負けてはいない。マックスの弓により最初の斬撃こそ止められてしまったが、即座に身を翻すと再びの斬撃を放つ。今度は、マックスと言えど止められない。ナグモの刀が、ヨハンにぶつかる。寸前、二つの障壁がナグモの刀とヨハンとの間に出現する。セルモとゼンマイガーが作り出した障壁だ。ナグモの斬撃は、二つの強大な障壁に威力を弱められる。更に、ヨハンの首飾りが禍々しく光ると、ナグモの斬撃はそこで止まってしまった。
「ダメージは、ゼロじゃ」
ヨハンが不敵な笑みを浮かべ、ナグモに告げる。
「これが、魔術師の力ってやつだぜ」
ヨハンの言葉に、ナグモは苦笑する。普通の魔術士であれば、そもそもナグモの斬撃を正面から受け止めようとしない。
「まあ、そう言うことにしておきましょうか」
一方、ナグモがヨハンに打ちかかっている隙に他の味方は動き出していた。セルモがサラサ、リアノ、マックスの三人に支援の魔術をかけると、アウリラの敏捷性をいかしたリアノが飛び出す。そして、リアノはそのまま鞭を振った。リアノの蛇のような鞭の動きは、ナグモと言えど反応しきれない。おまけに、セルモが支援を飛ばし、その鞭の動きをより洗練されたものへと変えていた。
「流石ですね」
更に続けて何かを言おうとしたナグモであったが、素早く刀を構える。マックスが矢を続けざまに放ったのだ。ナグモは弓を弾き返そうとするが、マックスの放った矢は想像以上に早く、ナグモであっても止められない。
そして、そこにサラサが飛ぶように突っ込んでいく。サラサとナグモは、素早い斬り合いを演じ始めた。サラサの斬撃は鋭い。おまけに、サラサ自身も防御を捨てたかのような斬り込みである。いくらナグモでも躱せそうにはない。代わりに、ナグモもサラサに切りかかっていた。ナグモの刀の切れ味は凄まじく、サラサがまともに切られたら無事であるか怪しいものであった。
だが、サラサは防御を気にしない。何故なら、そこにヨハンがいるからだ。ヨハンはナグモの斬撃を何度も受け止める。
「なるほど、見事な連携ですね」
ナグモは微笑む。同時に、ナグモを取り囲んでいた殺気が増した。その気は、これまでナグモの攻撃をほぼ全て受け止めてきたヨハンですら、危機を抱くものであった。だが、ヨハンはその一撃に立ち向かった。サラサを庇うのが、ヨハンの役目だからだ。そして、ヨハンにはまだ勝算があった。
「!!」
ナグモの顔が、驚きに満ちる。突然、ヨハンの前に巨大な障壁が現れたのだ。作り出したのは、ゼンマイガー。最大出力で作り出した障壁は、ナグモの刀を完全に受け止めていた。その障壁を避けながら、ナグモは二発目の斬撃を放つが、一発目ほどの威力はない。
「やりますね」
ナグモは感心した表情を浮かべる。再び、気がナグモに集中していく。先ほどの殺気より、危険性が増していた。並の人間であれば、この気だけで倒れてしまうかもしれない。そして、流石にこの殺気を込めた攻撃は、ヨハンと言えど受け止められそうになかった。だが、まだ誰も諦めていなかった。
「任せろっ!」
マックスが、渾身の矢を放つ。その一撃はナグモの剣先をわずかに逸らすと、刀を空振りさせる。
「ですが、もう一発あります!」
ナグモが身を翻し、再び刀を振るう。だが、その刀は岩盤のようなものに跳ね返された。巨大化した、アアアアだ。セルモの、切り札であった。想定外の出来事に、ナグモはわずかながら隙を生じさせる。そこをマックスは見逃さなかった。
「デストラクション、今が気合いの入れどこだっ!」
マックスはそう叫ぶと、右肩に浮かんだデストラクションと共に矢を射かける。だが、ナグモはそれをすぐに察知すると、刀を振るって矢を撃ち落そうとした。実際、タイミングは完璧であった。そこに、グレンの妨害さえなければ。
矢が続けざまにナグモに吸い込まれていく。
「流石、ルーファス様と戦おうとする意志をお持ちの方々だけのことはありますね」
ナグモが、微笑みながら呟いた。おそらく彼女は、ヨハンたちとの戦いを楽しんでいるのだろう。まだ、倒れそうもない。
「ですが、『流星剣士』の名に懸けて、負けるわけにはいきません。私と愛刀、ソール・カティの力をお見せしましょう。不可避の、流星剣を」
ナグモが、刀を構える。と、突然、サラサは自分の体がナグモの方へと引っ張られていくように感じた。その力は強力であり、抵抗するのは難しそうだ。かつて父スオウが受けた、避けられない流星剣と同じものだろう。サラサは、ひるむことなく刀を構えることに集中した。ナグモの刀の射程に入った時が、勝負である。だが、その瞬間は訪れなかった。サラサたちの背後で、轟音が鳴り響いたためだ。
「何者?」
ヨハンたちだけでなく、ナグモにとってもその侵入者は想定外だったようだ。サラサから飛びずさり、音のした方へと刀を向ける。同時に、サラサを引っ張る力も消えた。轟音が鳴り響いた箇所を向くと、そこは砂埃にまみれていた。天井から大量の瓦礫が落下したためだろう。砂埃が少し収まってきた時、ヨハンたちは何が侵入してきたか理解した。巨大な、ドラゴンである。紫色の体に、二本の巨大な角が生えている。そして、マックスはそのドラゴンに見覚えがあった。
「ウェンディ!?」
それはまだ、ヨハンたちが『古代の城』が埋まっていた砂漠、『リゾート』へと向かっていたころ。ある日、ヨハンたちは水や食料を補給するため、川沿いにある村へとやってきていた。もちろん、何人かは船の中に残っているものの、好奇心が旺盛な面々は船に残ることが少ない。当然、マックスとウェンディもその面々の中に含まれていた。
マックスとウェンディの二人は、商店の並ぶ場所を端から順に見ていた。別に、必要なものを探しているわけではない。好奇心の塊ともいえるこの二人は、その心を満たしてくれるような店を探していたのであった。間もなく、二人は怪しげな店を見つけた。謎の彫刻や壺が店頭に大量に置かれている。二人は、好奇心の赴くままにそれらの品物を眺め始めた。間もなく、マックスの目が留まる。そこに、一つの壺があった。人の顔くらいの大きさで、どこか魔力を帯びている。そして、最大の特徴として、ゴリラのような紋章が描かれていた。
「やった、これは買いだな」
マックスは、思わず呟く。と、その声に反応したのか、店内から一人のオーガが現れた。
「安いよ、安いよ~」
どうやら、店主らしい。優しそうな顔つきをしているが、オーガらしい筋肉のついた体の持ち主でもある。
「すげー、ゴリラの紋章だ! ウェンディ、見ろよ!」
マックスが、それを指さしながら隣にいるウェンディに話しかける。
「ゴリラの紋章。なんか、とっても面白そうな壺だね」
「だよな! デストラクションも大喜びだぜ!」
マックスの隣に現れたデストラクションは興奮しているのか、弾けながら跳ねまわっている。
「おっ、兄ちゃん、面白いものに目を付けたね。その壺は古代の魔術師、ゴ・リラが作ったとされるゴリラゴリラの壺だよ。この壺にすっぽりと入るようなものを入れて、チンパンジー! って叫ぶと、ゴリラ型の紋章をくっつけてくれる優れものだ。最近、人から買ったものなんだが、どうだい兄ちゃんたち? なんなら、一個くらいなら試しにやってみてもいいぜ。手にとってみなよ」
「試させてくれるのか? やったぜデストラクション! 世の中いい人がいるなあ」
そう言いながら、マックスが壺に手を伸ばした時だった。これまで弾け、興奮していたデストラクションが突然、はっとした表情をした。そして、その壺に触れてはいけないと示すかのように、激しくドラミングをする。普段のマックスであったら、そこで危機に気付いたかもしれない。
「なんだ、デストラクション? 喜んでいるのか?」
しかし、彼は普通ではなかった。ゴリラの壺に夢中なのだ。従って、マックスとウェンディは、デストラクションの警告を気にすることなく壺に触れてしまった。
その瞬間。その場からマックスとウェンディが消えた。
マックスとウェンディの二人は、商店の並ぶ場所を端から順に見ていた。別に、必要なものを探しているわけではない。好奇心の塊ともいえるこの二人は、その心を満たしてくれるような店を探していたのであった。間もなく、二人は怪しげな店を見つけた。謎の彫刻や壺が店頭に大量に置かれている。二人は、好奇心の赴くままにそれらの品物を眺め始めた。間もなく、マックスの目が留まる。そこに、一つの壺があった。人の顔くらいの大きさで、どこか魔力を帯びている。そして、最大の特徴として、ゴリラのような紋章が描かれていた。
「やった、これは買いだな」
マックスは、思わず呟く。と、その声に反応したのか、店内から一人のオーガが現れた。
「安いよ、安いよ~」
どうやら、店主らしい。優しそうな顔つきをしているが、オーガらしい筋肉のついた体の持ち主でもある。
「すげー、ゴリラの紋章だ! ウェンディ、見ろよ!」
マックスが、それを指さしながら隣にいるウェンディに話しかける。
「ゴリラの紋章。なんか、とっても面白そうな壺だね」
「だよな! デストラクションも大喜びだぜ!」
マックスの隣に現れたデストラクションは興奮しているのか、弾けながら跳ねまわっている。
「おっ、兄ちゃん、面白いものに目を付けたね。その壺は古代の魔術師、ゴ・リラが作ったとされるゴリラゴリラの壺だよ。この壺にすっぽりと入るようなものを入れて、チンパンジー! って叫ぶと、ゴリラ型の紋章をくっつけてくれる優れものだ。最近、人から買ったものなんだが、どうだい兄ちゃんたち? なんなら、一個くらいなら試しにやってみてもいいぜ。手にとってみなよ」
「試させてくれるのか? やったぜデストラクション! 世の中いい人がいるなあ」
そう言いながら、マックスが壺に手を伸ばした時だった。これまで弾け、興奮していたデストラクションが突然、はっとした表情をした。そして、その壺に触れてはいけないと示すかのように、激しくドラミングをする。普段のマックスであったら、そこで危機に気付いたかもしれない。
「なんだ、デストラクション? 喜んでいるのか?」
しかし、彼は普通ではなかった。ゴリラの壺に夢中なのだ。従って、マックスとウェンディは、デストラクションの警告を気にすることなく壺に触れてしまった。
その瞬間。その場からマックスとウェンディが消えた。
マックスの目の前には、深い森が広がっていた。何が起こったのか、さっぱりとわからない。隣を見ると、ウェンディが唖然とした顔をしている。
「何が起こったんだ?」
マックスが、思わず呟く。ウェンディは首を横に振った。わけがわからないのだろう。
と、マックスは眼前に見知った人物がいるのに気が付いた。ゲイムだ。
「てめえ!」
マックスは、ゲイムに警戒の表情を向ける。だが、壺を大事に抱えているためか、いまいち警戒しにくい。だが、それはゴリラ好きの宿命であり、仕方のないことであった。
「よくぞここにたどり着いたののう、マックス」
そう告げるゲイムの顔は不気味にほくそえんでいた。
「まあ、お主がわしの仕掛けた罠にはまっただけじゃがな」
「罠だって?」
マックスが、驚きの声を上げる。
「このおれが、いったいいつ罠にはまったっていうんだ!」
その手に壺を大事そうに抱えたまま、マックスが続けた。と、横にいたウェンディが何かに気が付いたかのように、手で口を押えた。
「ま、まさか」
「なんだよウェンディ、何かに気が付いたのか?」
「ひょっとしたら、さっきの店主が怪しげな呪文を唱えたのかもしれない」
「くそっ、やっぱり妙にいい奴だとは思ったんだよな。妙にゴリラの壺について詳しかったし」
ゲイムは、二人の少しずれた会話を困った顔で聞いていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「まあ、細かいことはいい」
「確かに。ゲイム、お前は何をしに来たんだ!」
マックスの指摘を、ゲイムは無視すると、ゆっくりと話し始めた。
「いくつかのことをお伝えしよう。まず、その壺。その壺は転送装置代わりになっておる。ただし、二回だけだ。一回目は、先ほどの。そして、二回目は先ほどいた場所に戻ることができる」
「な、なんだって!」
ゲイムによって明かされた衝撃の事実に、マックスは震えるほど驚いていた。
「こ、こんなゴリラの素敵な絵があるいかした壺が、転送装置だっていうのかよ」
マックスの言葉に、ゲイムは当然だと言わんばかりに頷いた。
「じゃあ、さっきのチンパンジーの呪文は?」
「それは本当に紋章が付く」
ガッツポーズをとるデストラクションを無視し、会話が進んでいく。
「ちきしょう、おれとしたことが!」
マックスは丁重に壺を地面に置くと、悔しがり始めた。そんなマックスを慰めるかのように、ゲイムが口を開く。
「なに、安心するがよい。これから出てくる敵をお主たちが倒すことが出来れば、再び壺の転送効果が発動し、お主たちは元の場所へと変えることができる」
ただし、とゲイムは笑みを浮かべた
「敵は強いぞ。お主たち二人ではとてもかなわぬような強大な者どもだ。もちろんマックス、お主が今すぐ儂のもとに下るのなら、その敵は出さぬ」
「それは絶対にないぜ」
マックスは、いつものマックスに戻っていた。ゲイムに怒りの目を向けながら、叫ぶ。
「おれは兄ちゃんたちを裏切らない!」
「誰が、あなたみたいな嫌な奴のもとに!」
ウェンディが即座に同意する。マックスはウェンディの方を向いた。
「そうだよな。ウェンディ、力を合わせようぜ! このジジイを、ぶっ飛ばしてやる!」
「何が起こったんだ?」
マックスが、思わず呟く。ウェンディは首を横に振った。わけがわからないのだろう。
と、マックスは眼前に見知った人物がいるのに気が付いた。ゲイムだ。
「てめえ!」
マックスは、ゲイムに警戒の表情を向ける。だが、壺を大事に抱えているためか、いまいち警戒しにくい。だが、それはゴリラ好きの宿命であり、仕方のないことであった。
「よくぞここにたどり着いたののう、マックス」
そう告げるゲイムの顔は不気味にほくそえんでいた。
「まあ、お主がわしの仕掛けた罠にはまっただけじゃがな」
「罠だって?」
マックスが、驚きの声を上げる。
「このおれが、いったいいつ罠にはまったっていうんだ!」
その手に壺を大事そうに抱えたまま、マックスが続けた。と、横にいたウェンディが何かに気が付いたかのように、手で口を押えた。
「ま、まさか」
「なんだよウェンディ、何かに気が付いたのか?」
「ひょっとしたら、さっきの店主が怪しげな呪文を唱えたのかもしれない」
「くそっ、やっぱり妙にいい奴だとは思ったんだよな。妙にゴリラの壺について詳しかったし」
ゲイムは、二人の少しずれた会話を困った顔で聞いていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「まあ、細かいことはいい」
「確かに。ゲイム、お前は何をしに来たんだ!」
マックスの指摘を、ゲイムは無視すると、ゆっくりと話し始めた。
「いくつかのことをお伝えしよう。まず、その壺。その壺は転送装置代わりになっておる。ただし、二回だけだ。一回目は、先ほどの。そして、二回目は先ほどいた場所に戻ることができる」
「な、なんだって!」
ゲイムによって明かされた衝撃の事実に、マックスは震えるほど驚いていた。
「こ、こんなゴリラの素敵な絵があるいかした壺が、転送装置だっていうのかよ」
マックスの言葉に、ゲイムは当然だと言わんばかりに頷いた。
「じゃあ、さっきのチンパンジーの呪文は?」
「それは本当に紋章が付く」
ガッツポーズをとるデストラクションを無視し、会話が進んでいく。
「ちきしょう、おれとしたことが!」
マックスは丁重に壺を地面に置くと、悔しがり始めた。そんなマックスを慰めるかのように、ゲイムが口を開く。
「なに、安心するがよい。これから出てくる敵をお主たちが倒すことが出来れば、再び壺の転送効果が発動し、お主たちは元の場所へと変えることができる」
ただし、とゲイムは笑みを浮かべた
「敵は強いぞ。お主たち二人ではとてもかなわぬような強大な者どもだ。もちろんマックス、お主が今すぐ儂のもとに下るのなら、その敵は出さぬ」
「それは絶対にないぜ」
マックスは、いつものマックスに戻っていた。ゲイムに怒りの目を向けながら、叫ぶ。
「おれは兄ちゃんたちを裏切らない!」
「誰が、あなたみたいな嫌な奴のもとに!」
ウェンディが即座に同意する。マックスはウェンディの方を向いた。
「そうだよな。ウェンディ、力を合わせようぜ! このジジイを、ぶっ飛ばしてやる!」
そうか、と。ゲイムは肩をすくめる。なら、しかたないと言った風な表情だ。
「まあ、この敵を見て、降参したくなったら、いつでも言うがよい。儂はその時を待っておるぞ」
ゲイムがそう告げると共にその姿が掻き消える。と、ゲイムの居たところに別の敵が現れた。それは、三体のジャガーノート。おそらく、一対一ならマックスでも勝てるかもしれない。しかし、相手は三体だ。
「不味いよ、マックス君」
ウェンディは不安げな口調で呟く。マックスは、ウェンディの方を向いた。
「任せろウェンディ、あいつらはおれが倒すから」
ウェンディを安心させるように、余裕のある口調で告げる。そして、弓を取り出すとそこに矢をつがえた。
「フォローは任せたぜ」
そして、一歩踏み出そうとした時だった。ウェンディの手が、マックスを止めた。
「大丈夫。むしろ、わたしには隠し玉があるから」
「なんだって?」
マックスが、思わず振り向く。ウェンディの表情は、何かを決意していた。
「それを使えばこの三体は止めることができると思う。だから、マックス君はこの三体を倒すことに専念して!」
その言葉で、マックスの頭にひらめくものがあった
「まさかウェンディ、お前もデストラクションを?」
突然の発言にウェンディは苦笑し、そのあとゆっくり首を横に振った。
「わたしにデストラクションはいないけど」
そうなのか、と肩を落とすマックスの横を歩きながら、ウェンディは続けた。
「わたしがデストラクションになる!」
ウェンディの言葉に、マックスは顔を上げた。
「なん、だ、って?」
マックスは、デストラクションと交互に顔を見合わせる。
「デストラクションに、なる? このおれが出来なかったことを? ウェンディ、お前ってやつは!」
「見ていて!」
言うや否や、ウェンディはジャガーノートたちの目の前に立った。そして、マックスの目の前で、ウェンディはドラゴンになった。二本の角を持つ黒竜だ。マックスは、驚きのあまり叫んでいた。
ウェンディが、低くうなった。何を言っているかはマックスには分からない。おそらく、この姿が隠し玉だと告げているのだろう。そして、目の前のジャガーノートに向けて突進していく、恐らく、ウェンディが突っ込んでいる間に何とかしろとのことであろう。マックスは、慌てて弓を構える。そして、ついにはジャガーノート三体を倒したのであった。
「勝ったね」
元のドラゴネットの姿に戻ったウェンディが呟く。マックスは驚きを隠せないでいた。
「ウェンディ、今の、お前・・・」
「わたし、昔からこんな能力があるみたいなの。多分、記憶を失う前から」
「昔から、龍になれるのか」
「記憶を失う前からのことだと思うから、詳しくは分からないけど・・・きっと、どこかで修業して身に付けたんだと思う」
マックスは、ウェンディの口調がいくらか暗いことに気が付いた。ドラゴンの体を隠し絵いたことが、後ろめたいのかもしれない。
「そうか・・・ウェンディの過去にもいろいろあるのかもしれないな」
マックスは、納得したように頷く。
「でもまあ、さっきの戦いではおれのことを考えて動いてくれていたし、お前はおれたちの仲間だ」
そして、ウェンディの方を向いて笑った。
「過去はどうなのかわからないけど、それはこれから取り戻していこうぜ!」
「ありがとう」
ウェンディも笑い返してくる。マックスの表情に、安堵しているのかもしれない。
「もしよかったら、ルーファスを倒した後、一緒に旅をしない? わたしの、自分の記憶を戻す旅をしようと思っているの」
「ああいいぜ、任せろ」
マックスは頷く。
「だから、もし記憶が戻ったらさ、おれがデストラクションになる方法を教えてくれないか?」
ウェンディは、少し困った顔をした。
「う、うん。頑張ってみる」
その後、おどけた様子でウィンクする。
「あ、でも、これは隠し玉だから、他のみんなには内緒にしてね」
「か、隠し・・・?」
マックスは少し考え込んだ。マックスは、隠し事が非常に苦手である。
「お、おう。任せろよ。隠し事・・・だろ? お、おれは口がこう見えても固い方だぜ」
「まあ、この敵を見て、降参したくなったら、いつでも言うがよい。儂はその時を待っておるぞ」
ゲイムがそう告げると共にその姿が掻き消える。と、ゲイムの居たところに別の敵が現れた。それは、三体のジャガーノート。おそらく、一対一ならマックスでも勝てるかもしれない。しかし、相手は三体だ。
「不味いよ、マックス君」
ウェンディは不安げな口調で呟く。マックスは、ウェンディの方を向いた。
「任せろウェンディ、あいつらはおれが倒すから」
ウェンディを安心させるように、余裕のある口調で告げる。そして、弓を取り出すとそこに矢をつがえた。
「フォローは任せたぜ」
そして、一歩踏み出そうとした時だった。ウェンディの手が、マックスを止めた。
「大丈夫。むしろ、わたしには隠し玉があるから」
「なんだって?」
マックスが、思わず振り向く。ウェンディの表情は、何かを決意していた。
「それを使えばこの三体は止めることができると思う。だから、マックス君はこの三体を倒すことに専念して!」
その言葉で、マックスの頭にひらめくものがあった
「まさかウェンディ、お前もデストラクションを?」
突然の発言にウェンディは苦笑し、そのあとゆっくり首を横に振った。
「わたしにデストラクションはいないけど」
そうなのか、と肩を落とすマックスの横を歩きながら、ウェンディは続けた。
「わたしがデストラクションになる!」
ウェンディの言葉に、マックスは顔を上げた。
「なん、だ、って?」
マックスは、デストラクションと交互に顔を見合わせる。
「デストラクションに、なる? このおれが出来なかったことを? ウェンディ、お前ってやつは!」
「見ていて!」
言うや否や、ウェンディはジャガーノートたちの目の前に立った。そして、マックスの目の前で、ウェンディはドラゴンになった。二本の角を持つ黒竜だ。マックスは、驚きのあまり叫んでいた。
ウェンディが、低くうなった。何を言っているかはマックスには分からない。おそらく、この姿が隠し玉だと告げているのだろう。そして、目の前のジャガーノートに向けて突進していく、恐らく、ウェンディが突っ込んでいる間に何とかしろとのことであろう。マックスは、慌てて弓を構える。そして、ついにはジャガーノート三体を倒したのであった。
「勝ったね」
元のドラゴネットの姿に戻ったウェンディが呟く。マックスは驚きを隠せないでいた。
「ウェンディ、今の、お前・・・」
「わたし、昔からこんな能力があるみたいなの。多分、記憶を失う前から」
「昔から、龍になれるのか」
「記憶を失う前からのことだと思うから、詳しくは分からないけど・・・きっと、どこかで修業して身に付けたんだと思う」
マックスは、ウェンディの口調がいくらか暗いことに気が付いた。ドラゴンの体を隠し絵いたことが、後ろめたいのかもしれない。
「そうか・・・ウェンディの過去にもいろいろあるのかもしれないな」
マックスは、納得したように頷く。
「でもまあ、さっきの戦いではおれのことを考えて動いてくれていたし、お前はおれたちの仲間だ」
そして、ウェンディの方を向いて笑った。
「過去はどうなのかわからないけど、それはこれから取り戻していこうぜ!」
「ありがとう」
ウェンディも笑い返してくる。マックスの表情に、安堵しているのかもしれない。
「もしよかったら、ルーファスを倒した後、一緒に旅をしない? わたしの、自分の記憶を戻す旅をしようと思っているの」
「ああいいぜ、任せろ」
マックスは頷く。
「だから、もし記憶が戻ったらさ、おれがデストラクションになる方法を教えてくれないか?」
ウェンディは、少し困った顔をした。
「う、うん。頑張ってみる」
その後、おどけた様子でウィンクする。
「あ、でも、これは隠し玉だから、他のみんなには内緒にしてね」
「か、隠し・・・?」
マックスは少し考え込んだ。マックスは、隠し事が非常に苦手である。
「お、おう。任せろよ。隠し事・・・だろ? お、おれは口がこう見えても固い方だぜ」
そして、マックスたちは壺のもう一つの効果を使って元の場所へと戻ってきた。胸をなでおろすマックスたちの目の前に飛び込んできたのは、店主のオーガをヨハンとマリアンナの二人が詰問している光景であった。
「だから、なんでそんな怪しげな壺をそのあたりに置いているんだよ」
「で、ですからその……」
「仲間がいなくなったんだぞ? お前はそんな怪しげなものも確認せずにおいておいたのか?」
ヨハンも頷くと、店主の左手をつかむ。
「なあ、お前、死にたいらしいな。それとも・・・指、何本目で吐くかな」
「わ、わたしは本当に何もしていないんです」
そう告げる店主の顔は、真っ青であった。彼の筋肉質な体も、魔術師―つまり、肉体言語をより理解する人種―の前では何の役にも立たない。オーガの目の間で、マリアンナが拳を鳴らす。マックスは、遅まきながらその状況の危険性に気が付いた。慌てて声を出すと、壺を丁重に抱えたままヨハンの方へと向かう。
「兄ちゃんたち、大丈夫だよ。おれとウェンディはここだぜ!」
ヨハンは、マックスの方を向くと、少し驚いた顔をした。
「どうしたマックス、ちょっと服が煤けているぞ。まるでドラゴンにでも襲われたみたいじゃないか」
「ああ、さっきウェン・・・」
実体化したデストラクションが、すかさずマックスに拳をぶつける。
「ウェンディが、どうした?」
ヨハンがにやにやした表情で疑問を呈する。マックスは誤魔化すかのように手で頭を軽く掻いた。
「まあ、とりあえずおれたちは大丈夫だからよ」
そこまで告げたマックスの肩を、誰かが叩く。振り返ると、リアノがいた。
「どこに行ってたの?」
「なんかジャングルでさ、おまけにすげえ敵が出てきて、ウェン・・・」
マックスは、はっとしたように口をつぐむ。気まずい沈黙が、流れた。
「わたしと、マックスが良くわからない敵を一生懸命倒してきたの。本当に辛かったんだから」
ウェンディが、マックスに助け船を出してきた。彼女の額にうっすらと汗が見えるのは、先ほどの戦闘によるものだけではないだろう。
「マックス君なんか、ドラゴンの攻撃を受けて少し煤けちゃったし」
マックスも、慌てて同意する。
「そ、そ、そう。おれ結構大変。今」
もちろん、隠し事をするのが大変なのである。
「まあ、辛かったんだろう」
ヨハンが、落ち着いた口調で頷く。しかし、その目には光があった。何か、面白いものを見つけた時に見せる、光だ。ヨハンは、隣にいるマリアンナの方を向く。マリアンナの目にも、ヨハンと同様の光が見えた。
「なあ」
そう言ってヨハンが話しかけたのは、いくらか血の気が戻ってきた店主だった。
「うちの仲間の精神的な苦痛についてね、どうしてくれるのかな」
再び店主の顔が、青くなっていく。その横で、マリアンナが、店のカウンターに拳を叩きつける。その仕草には全く力が込められていないように感じられたが、カウンターは真っ二つになった。そのカウンターを満足げに見下ろすと、マリアンナは店主の方を向く。
「誠意ってものをね、見せてもらおうか?」
別の意味で、とても危険な事態になっている。マックスはそのことを理解した。しかし、マックスはこの二人に油を注ぐことはできても、止めることはできない。狼狽えるマックスの後ろから、一人の救世主がやってきた。
「二人ともそこまでにしておけ」
グレンだった。
「カウンターまで破壊しちまったら、お前らの方が悪い奴だぞ」
マリアンナが、はっとする。
「しまった。これだと、私たちが訴えられる側に」
だが、隣にいたヨハンは冷静だった。ふてぶてしい笑みを浮かべ、マリアンナに話しかける。
「大丈夫だ、マリアンナ。確かにきっと、これはこの村の法に反した行為だ。いくらお前の拳でも、法そのものを破壊することはできない。だが、法を操る人間は別だ」
「そうか」
「そうかじゃないだろ」
笑顔でうなずくマリアンナに、グレンが突っ込みを入れる。更に口を開こうとしたヨハンに、慌ててマックスが話しかける。
「まあ、兄ちゃん良いだろ。おれは別に、そいつのことは怒ってないよ」
なんでだ、と言った表情を見せるヨハンに、マックスは傍らの壺を示した。
だって、こんないけてる壺にめぐり合わせてくれたんだぜ!」
結局、この壺はマックスの部屋に置かれることとなった。そして、ウェンディがドラゴンになるとの事実も、マックスは頑張って秘密にし続けていた。ティボルトには、うっかり伝わってしまったようだが。
「だから、なんでそんな怪しげな壺をそのあたりに置いているんだよ」
「で、ですからその……」
「仲間がいなくなったんだぞ? お前はそんな怪しげなものも確認せずにおいておいたのか?」
ヨハンも頷くと、店主の左手をつかむ。
「なあ、お前、死にたいらしいな。それとも・・・指、何本目で吐くかな」
「わ、わたしは本当に何もしていないんです」
そう告げる店主の顔は、真っ青であった。彼の筋肉質な体も、魔術師―つまり、肉体言語をより理解する人種―の前では何の役にも立たない。オーガの目の間で、マリアンナが拳を鳴らす。マックスは、遅まきながらその状況の危険性に気が付いた。慌てて声を出すと、壺を丁重に抱えたままヨハンの方へと向かう。
「兄ちゃんたち、大丈夫だよ。おれとウェンディはここだぜ!」
ヨハンは、マックスの方を向くと、少し驚いた顔をした。
「どうしたマックス、ちょっと服が煤けているぞ。まるでドラゴンにでも襲われたみたいじゃないか」
「ああ、さっきウェン・・・」
実体化したデストラクションが、すかさずマックスに拳をぶつける。
「ウェンディが、どうした?」
ヨハンがにやにやした表情で疑問を呈する。マックスは誤魔化すかのように手で頭を軽く掻いた。
「まあ、とりあえずおれたちは大丈夫だからよ」
そこまで告げたマックスの肩を、誰かが叩く。振り返ると、リアノがいた。
「どこに行ってたの?」
「なんかジャングルでさ、おまけにすげえ敵が出てきて、ウェン・・・」
マックスは、はっとしたように口をつぐむ。気まずい沈黙が、流れた。
「わたしと、マックスが良くわからない敵を一生懸命倒してきたの。本当に辛かったんだから」
ウェンディが、マックスに助け船を出してきた。彼女の額にうっすらと汗が見えるのは、先ほどの戦闘によるものだけではないだろう。
「マックス君なんか、ドラゴンの攻撃を受けて少し煤けちゃったし」
マックスも、慌てて同意する。
「そ、そ、そう。おれ結構大変。今」
もちろん、隠し事をするのが大変なのである。
「まあ、辛かったんだろう」
ヨハンが、落ち着いた口調で頷く。しかし、その目には光があった。何か、面白いものを見つけた時に見せる、光だ。ヨハンは、隣にいるマリアンナの方を向く。マリアンナの目にも、ヨハンと同様の光が見えた。
「なあ」
そう言ってヨハンが話しかけたのは、いくらか血の気が戻ってきた店主だった。
「うちの仲間の精神的な苦痛についてね、どうしてくれるのかな」
再び店主の顔が、青くなっていく。その横で、マリアンナが、店のカウンターに拳を叩きつける。その仕草には全く力が込められていないように感じられたが、カウンターは真っ二つになった。そのカウンターを満足げに見下ろすと、マリアンナは店主の方を向く。
「誠意ってものをね、見せてもらおうか?」
別の意味で、とても危険な事態になっている。マックスはそのことを理解した。しかし、マックスはこの二人に油を注ぐことはできても、止めることはできない。狼狽えるマックスの後ろから、一人の救世主がやってきた。
「二人ともそこまでにしておけ」
グレンだった。
「カウンターまで破壊しちまったら、お前らの方が悪い奴だぞ」
マリアンナが、はっとする。
「しまった。これだと、私たちが訴えられる側に」
だが、隣にいたヨハンは冷静だった。ふてぶてしい笑みを浮かべ、マリアンナに話しかける。
「大丈夫だ、マリアンナ。確かにきっと、これはこの村の法に反した行為だ。いくらお前の拳でも、法そのものを破壊することはできない。だが、法を操る人間は別だ」
「そうか」
「そうかじゃないだろ」
笑顔でうなずくマリアンナに、グレンが突っ込みを入れる。更に口を開こうとしたヨハンに、慌ててマックスが話しかける。
「まあ、兄ちゃん良いだろ。おれは別に、そいつのことは怒ってないよ」
なんでだ、と言った表情を見せるヨハンに、マックスは傍らの壺を示した。
だって、こんないけてる壺にめぐり合わせてくれたんだぜ!」
結局、この壺はマックスの部屋に置かれることとなった。そして、ウェンディがドラゴンになるとの事実も、マックスは頑張って秘密にし続けていた。ティボルトには、うっかり伝わってしまったようだが。
「ウェンディ!?」
そして今、マックスは叫んでいた。先ほどまで、ナグモと戦っていたこの部屋は、半壊している。部屋に、ドラゴンが飛び込んできたためだ。そして、そのドラゴンに、マックスは見覚えがあった。かつて、共にジャガーノートと戦った、ウェンディだ。
「ウェンディ!?」
もう一度、叫ぶ。ヨハンたちは、ティボルトを除き皆唖然とした表情を取っている。ヨハンたちが、何かを言うより先に、ナグモが口を開いた。
「ディアブロス、あなたですね」
ナグモはウェンディの侵入によって、ヨハンたちと戦う気をなくしたようだった。先ほどまで発せられていた殺気は失われている。
マックスは、そんなナグモを怒りのこもった眼で見つめた。
「なんだ、ディアブロスってのは? こいつはウェンディだよ。こいつは確かに龍みたいに見えるかもしれないし、魔物にも見えるかもしれないが、おれたちの仲間だ! ウェンディなんだぞ!」
マックスが叫ぶ。その隣で、ヨハンが珍しく困惑した表情を浮かべていた。
「マックス、何を言っているんだ? あれはどう見てもただのドラゴンだろ? あれが『六傑』の一人なら、倒すしか道はない」
ヨハンたちはウェンディがドラゴンになることを知らないのだ。そう考えるのも無理はない。
「違うよ、兄ちゃん! あれはウェンディなんだ」
マックスはそう告げると、ウェンディがドラゴンと化した時のことをヨハンたちに話そうとする。しかし、ここで一つの問題が生じた。マックスは、あまり説明が上手くなかったのだ。マックスのたどたどしい説明と、デストラクションの身振り手振りによって、ヨハンたちの頭には見る間に疑問符が浮かんでいく。
「私が、代わりに説明しましょうか?」
見かねたのか、ナグモがヨハンたちに尋ねる。そして、ナグモの話もあって、ヨハンたちはウェンディが『六傑』の一人ディアブロスであり、目の前のドラゴンであることを無事理解したのであった。
「ディアブロス」
ナグモは一通りの話し終えると、ウェンディの方を向いた。
「何か、私とそこの人たちに伝えたいことがあるのでしょう? ドラゴンより、人の体の方が、物事が伝えやすいと思いますよ」
ドラゴンは頷くと、その姿が消える。代わりに、ヨハンたちのすぐ近くにウェンディが立っていた。
そして今、マックスは叫んでいた。先ほどまで、ナグモと戦っていたこの部屋は、半壊している。部屋に、ドラゴンが飛び込んできたためだ。そして、そのドラゴンに、マックスは見覚えがあった。かつて、共にジャガーノートと戦った、ウェンディだ。
「ウェンディ!?」
もう一度、叫ぶ。ヨハンたちは、ティボルトを除き皆唖然とした表情を取っている。ヨハンたちが、何かを言うより先に、ナグモが口を開いた。
「ディアブロス、あなたですね」
ナグモはウェンディの侵入によって、ヨハンたちと戦う気をなくしたようだった。先ほどまで発せられていた殺気は失われている。
マックスは、そんなナグモを怒りのこもった眼で見つめた。
「なんだ、ディアブロスってのは? こいつはウェンディだよ。こいつは確かに龍みたいに見えるかもしれないし、魔物にも見えるかもしれないが、おれたちの仲間だ! ウェンディなんだぞ!」
マックスが叫ぶ。その隣で、ヨハンが珍しく困惑した表情を浮かべていた。
「マックス、何を言っているんだ? あれはどう見てもただのドラゴンだろ? あれが『六傑』の一人なら、倒すしか道はない」
ヨハンたちはウェンディがドラゴンになることを知らないのだ。そう考えるのも無理はない。
「違うよ、兄ちゃん! あれはウェンディなんだ」
マックスはそう告げると、ウェンディがドラゴンと化した時のことをヨハンたちに話そうとする。しかし、ここで一つの問題が生じた。マックスは、あまり説明が上手くなかったのだ。マックスのたどたどしい説明と、デストラクションの身振り手振りによって、ヨハンたちの頭には見る間に疑問符が浮かんでいく。
「私が、代わりに説明しましょうか?」
見かねたのか、ナグモがヨハンたちに尋ねる。そして、ナグモの話もあって、ヨハンたちはウェンディが『六傑』の一人ディアブロスであり、目の前のドラゴンであることを無事理解したのであった。
「ディアブロス」
ナグモは一通りの話し終えると、ウェンディの方を向いた。
「何か、私とそこの人たちに伝えたいことがあるのでしょう? ドラゴンより、人の体の方が、物事が伝えやすいと思いますよ」
ドラゴンは頷くと、その姿が消える。代わりに、ヨハンたちのすぐ近くにウェンディが立っていた。
「ウェンディ」
マックスが、口を開く。
「今、ディアブロスって言われていたけど、お前は・・・」
ウェンディは、複雑な表情でうなずく。そして、ヨハンたち全員に目を向けた。
「わたしはディアブロス。今はウェンディと名乗っているけど、『六傑』の一人、『黒色凶竜』ディアブロスはわたしです」
ゲイムとの会話から、ある程度予想はついていたことであった。しかし、やはり衝撃は大きい。しばしの沈黙が流れる。やがて、意を決したようにマックスが口を開いた。
「記憶を取り戻したのか?」
ウェンディは、少し悲しげな顔で頷いた。再び、皆が沈黙する。しかし、今度の沈黙は短かった。意を決したように、ウェンディが顔を上げたからだ。
「でも、記憶を取り戻したからと言ってわたしはマックスたちとは戦いたくない。かといって、ナグモさん、あなたとも戦いたくない」
ウェンディは、その場にいる皆の顔を見た。
「どうしても、戦わないといけないの? わたしは、ルーファス様に助けてもらった恩がある。かといって、マックスたちと戦いたいとも思わない。友達だから。もっとお互い、話し合えないのかな?」
「ウェンディ・・・」
マックスは、そう呟くと黙ってウェンディと目を合わせる。どうやら、マックスはウェンディの言葉に、心を動かされたようだった。ウェンディも、期待を込めた目でマックスを見つめ返す。しかし、その横でナグモが静かに首を横に振った。
「それは、難しいでしょう。ルーファス様の理想は、魔族中心の世界を作り上げること。この人たちはそれに反対しています。確かに、場所が違えば友人になることはできたのかもしれませんが、私たちとこの人たちは根本的な部分が異なっています。そして今はその一番大切なところで戦っているときです。残念ながら、話し合うことはできないでしょう」
「そんな・・・」
ウェンディは愕然とし、何か呟こうとした。そこに、ナグモが近づいていく。ウェンディは、そのまま倒れた。
「てめえ!」
マックスが叫ぶ。しかし、即座に気付いた。ナグモの行動が、当身であったことに。
「大丈夫です。彼女は、無傷です」
そう告げると、ナグモはウェンディを背負った。そして、ヨハンたち一人一人の顔を見る。
「皆様に、折り入って頼みがあります。ディアブロス・・・あなた方が、ウェンディと呼ぶこの少女についてです。彼女は、しばらく気絶をしています。しばらくすれば目が覚めるでしょうが、それまでに私やルーファス様とあなた方の戦いは終わっているはずです。私は負けるつもりもありませんが、万一、私やルーファス様が負けてしまった場合は、彼女のことをよろしくお願いしてもらってもいいでしょうか? 彼女は、ご存じのとおり、情に流されやすすぎるところはありますが、悪い人ではありません。そして、例え誰かが死んだとしてもそれを乗り越えるだけの強さは持っています。だから、この戦いに勝った方が、その結末を彼女に伝えるということで、よろしいでしょうか?」
「その前に、一つ聞きたいことがあるんだよ」
マックスが、ナグモに背負われているウェンディをじっと見ながら尋ねる。
「なんでしょうか?」
「ウェンディは、なんでお前たちとおれたちが分かり合えるって言ったのかな」
その質問は、ナグモにとっては想定外だったらしい。ナグモはしばし考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「おそらく、私たちもあなた方も、自分の正義に対して率直に行動しているからだと思います。私とルーファス様は魔族中心の、魔族が平和に過ごせる世界を築こうとしてきました。その中で、少なくとも私たちは卑怯な手を使ったことはありません」
確かに、そう言ったことはゲイムが担当していた。おそらく、この二人は純粋に魔族中心の世の中を目指していたのだろう。
「私たちも、あなた方も、ウェンディも、みな強い正義感の持ち主です。残念ながら、私たちとあなた方の正義感は、根本的なところで違うので協力することは難しいです。ですが、困っている人がいたら助けたい、そう言った面では共通したところも多いはずです。だから、ウェンディは分かり合えると思ったのでしょう」
ナグモの言葉に、マックスは頷くと、しばし何かを考えるかのように沈黙した。
「そうか、おれも考えたよ」
マックスは、顔を上げるとナグモを見る。
「ウェンディも言ってくれたし、確かにみんな仲良くなれればいいって思ったけど、でもやっぱり、兄ちゃんたちをこんな目にあわせたお前たちを許していくわけにはいかない。お前はさっき、ウェンディが起きたら寝ている間のことを伝えてほしいって言っていた。おれはその時、ひょっとしたらウェンディに嫌われてしまうかもしれないし、軽蔑されてしまうかもしれないけど・・・でもやっぱり、お前たちをこのままにはしておけないんだと思う」
そうは言っても、先ほど、ウェンディに言われたことが頭に引っ掛かる。本当に、戦っていいのだろうか。マックスは、傍らのヨハンに尋ねる。
「兄ちゃん、行くしかないよな?」
「ああ、そうだな」
ヨハンは頷く。ヨハンの目は、迷いがなかった。ヨハンは本当に迷わない。マックスは、素直に凄いと思っていた。だが、今のマックスは迷っている。
「そう言えば、兄ちゃんは何で魔王を倒したいの?」
マックスがヨハンに尋ねた。ヨハンはにやりと笑う。
「むかつくから」
短い返事だった。しかし、それだけである程度のことは、マックスに伝わってくる。。ヨハンは、ルーファスによってこれまでの人生を動かされてきた。両親は焼死し、マリアンナは一度操られ、ヨハン本人も何度もどん底に突き落とされた。ヨハンには、それが許せないのだろう。そして、ルーファスを倒すことが、そのむかつきをなくす最大の方法であることに間違いはない。
「そっか」
「確かに、あいつらはそれほどむかつくやつじゃないかもしれない。ただ、おれがこれから生きていくにあたって、あいつらは邪魔なんだ」
ヨハンの言葉で、ようやくマックスは迷いを断ち切った。
「ヨハンの兄ちゃんとは長い旅だもんな。兄ちゃんだけじゃない、サラサの姉ちゃんも、グレンのじっちゃんも、キャプテンも、セルモの姉ちゃんも。おれはみんなと一緒にいて思ったよ。何考えているかわからないところもあるし、人間のクズかもしれないと思うこともあるけど・・・でもやっぱさ、みんながやろうとしていたことは間違いじゃなかった。だから、兄ちゃんたちがやろうとしていることをおれは信じる。ウェンディの言葉を最後まで信じられなかったのは残念だけど、それはこれから話し合っていくよ。おれはいいよ。おれは戦う。おれはこの戦場に、命を捧げるよ」
マックスが言い終わると、その背中をヨハンが思い切り叩く。しかし、その口調はクズ呼ばわりされた割には優しいものであった。
「そう気負うなよ。それとマックス」
ヨハンがにやりと笑う。
「お前今日、晩飯抜きな」
マックスが、口を開く。
「今、ディアブロスって言われていたけど、お前は・・・」
ウェンディは、複雑な表情でうなずく。そして、ヨハンたち全員に目を向けた。
「わたしはディアブロス。今はウェンディと名乗っているけど、『六傑』の一人、『黒色凶竜』ディアブロスはわたしです」
ゲイムとの会話から、ある程度予想はついていたことであった。しかし、やはり衝撃は大きい。しばしの沈黙が流れる。やがて、意を決したようにマックスが口を開いた。
「記憶を取り戻したのか?」
ウェンディは、少し悲しげな顔で頷いた。再び、皆が沈黙する。しかし、今度の沈黙は短かった。意を決したように、ウェンディが顔を上げたからだ。
「でも、記憶を取り戻したからと言ってわたしはマックスたちとは戦いたくない。かといって、ナグモさん、あなたとも戦いたくない」
ウェンディは、その場にいる皆の顔を見た。
「どうしても、戦わないといけないの? わたしは、ルーファス様に助けてもらった恩がある。かといって、マックスたちと戦いたいとも思わない。友達だから。もっとお互い、話し合えないのかな?」
「ウェンディ・・・」
マックスは、そう呟くと黙ってウェンディと目を合わせる。どうやら、マックスはウェンディの言葉に、心を動かされたようだった。ウェンディも、期待を込めた目でマックスを見つめ返す。しかし、その横でナグモが静かに首を横に振った。
「それは、難しいでしょう。ルーファス様の理想は、魔族中心の世界を作り上げること。この人たちはそれに反対しています。確かに、場所が違えば友人になることはできたのかもしれませんが、私たちとこの人たちは根本的な部分が異なっています。そして今はその一番大切なところで戦っているときです。残念ながら、話し合うことはできないでしょう」
「そんな・・・」
ウェンディは愕然とし、何か呟こうとした。そこに、ナグモが近づいていく。ウェンディは、そのまま倒れた。
「てめえ!」
マックスが叫ぶ。しかし、即座に気付いた。ナグモの行動が、当身であったことに。
「大丈夫です。彼女は、無傷です」
そう告げると、ナグモはウェンディを背負った。そして、ヨハンたち一人一人の顔を見る。
「皆様に、折り入って頼みがあります。ディアブロス・・・あなた方が、ウェンディと呼ぶこの少女についてです。彼女は、しばらく気絶をしています。しばらくすれば目が覚めるでしょうが、それまでに私やルーファス様とあなた方の戦いは終わっているはずです。私は負けるつもりもありませんが、万一、私やルーファス様が負けてしまった場合は、彼女のことをよろしくお願いしてもらってもいいでしょうか? 彼女は、ご存じのとおり、情に流されやすすぎるところはありますが、悪い人ではありません。そして、例え誰かが死んだとしてもそれを乗り越えるだけの強さは持っています。だから、この戦いに勝った方が、その結末を彼女に伝えるということで、よろしいでしょうか?」
「その前に、一つ聞きたいことがあるんだよ」
マックスが、ナグモに背負われているウェンディをじっと見ながら尋ねる。
「なんでしょうか?」
「ウェンディは、なんでお前たちとおれたちが分かり合えるって言ったのかな」
その質問は、ナグモにとっては想定外だったらしい。ナグモはしばし考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「おそらく、私たちもあなた方も、自分の正義に対して率直に行動しているからだと思います。私とルーファス様は魔族中心の、魔族が平和に過ごせる世界を築こうとしてきました。その中で、少なくとも私たちは卑怯な手を使ったことはありません」
確かに、そう言ったことはゲイムが担当していた。おそらく、この二人は純粋に魔族中心の世の中を目指していたのだろう。
「私たちも、あなた方も、ウェンディも、みな強い正義感の持ち主です。残念ながら、私たちとあなた方の正義感は、根本的なところで違うので協力することは難しいです。ですが、困っている人がいたら助けたい、そう言った面では共通したところも多いはずです。だから、ウェンディは分かり合えると思ったのでしょう」
ナグモの言葉に、マックスは頷くと、しばし何かを考えるかのように沈黙した。
「そうか、おれも考えたよ」
マックスは、顔を上げるとナグモを見る。
「ウェンディも言ってくれたし、確かにみんな仲良くなれればいいって思ったけど、でもやっぱり、兄ちゃんたちをこんな目にあわせたお前たちを許していくわけにはいかない。お前はさっき、ウェンディが起きたら寝ている間のことを伝えてほしいって言っていた。おれはその時、ひょっとしたらウェンディに嫌われてしまうかもしれないし、軽蔑されてしまうかもしれないけど・・・でもやっぱり、お前たちをこのままにはしておけないんだと思う」
そうは言っても、先ほど、ウェンディに言われたことが頭に引っ掛かる。本当に、戦っていいのだろうか。マックスは、傍らのヨハンに尋ねる。
「兄ちゃん、行くしかないよな?」
「ああ、そうだな」
ヨハンは頷く。ヨハンの目は、迷いがなかった。ヨハンは本当に迷わない。マックスは、素直に凄いと思っていた。だが、今のマックスは迷っている。
「そう言えば、兄ちゃんは何で魔王を倒したいの?」
マックスがヨハンに尋ねた。ヨハンはにやりと笑う。
「むかつくから」
短い返事だった。しかし、それだけである程度のことは、マックスに伝わってくる。。ヨハンは、ルーファスによってこれまでの人生を動かされてきた。両親は焼死し、マリアンナは一度操られ、ヨハン本人も何度もどん底に突き落とされた。ヨハンには、それが許せないのだろう。そして、ルーファスを倒すことが、そのむかつきをなくす最大の方法であることに間違いはない。
「そっか」
「確かに、あいつらはそれほどむかつくやつじゃないかもしれない。ただ、おれがこれから生きていくにあたって、あいつらは邪魔なんだ」
ヨハンの言葉で、ようやくマックスは迷いを断ち切った。
「ヨハンの兄ちゃんとは長い旅だもんな。兄ちゃんだけじゃない、サラサの姉ちゃんも、グレンのじっちゃんも、キャプテンも、セルモの姉ちゃんも。おれはみんなと一緒にいて思ったよ。何考えているかわからないところもあるし、人間のクズかもしれないと思うこともあるけど・・・でもやっぱさ、みんながやろうとしていたことは間違いじゃなかった。だから、兄ちゃんたちがやろうとしていることをおれは信じる。ウェンディの言葉を最後まで信じられなかったのは残念だけど、それはこれから話し合っていくよ。おれはいいよ。おれは戦う。おれはこの戦場に、命を捧げるよ」
マックスが言い終わると、その背中をヨハンが思い切り叩く。しかし、その口調はクズ呼ばわりされた割には優しいものであった。
「そう気負うなよ。それとマックス」
ヨハンがにやりと笑う。
「お前今日、晩飯抜きな」
その言葉にしょげたマックスを除き、皆ナグモの方を見つめる。サラサに至っては、再び刀を構えなおしていた。その視線に、ナグモは満足げに頷く。
「おい、どうした姉ちゃん。笑ってるぜ」
ヨハンが指摘すると、ナグモは軽く頷いた。
「私は全力を出せる相手を求めているのです。あなた方が中途半端な気持ちで来られても、つまらないと思っていました。しかし、今のあなたたちなら全力を出すことができるでしょう。それが、嬉しいのです」
「私も、こちらの方が分かりやすいですからね」
サラサが、刀をナグモに突きつけながら返答する。ナグモは、再び頷くと、口を開いた。
「さて、ルーファス様の瞑想は、そろそろ終わりを迎えるころでしょう。私も、ディアブロスを安全なところに置いてこようと思いますし・・・先ほどの戦いの続きは、ルーファス様も加えて行いましょう」
そう告げると、ナグモは去っていった。
「おい、どうした姉ちゃん。笑ってるぜ」
ヨハンが指摘すると、ナグモは軽く頷いた。
「私は全力を出せる相手を求めているのです。あなた方が中途半端な気持ちで来られても、つまらないと思っていました。しかし、今のあなたたちなら全力を出すことができるでしょう。それが、嬉しいのです」
「私も、こちらの方が分かりやすいですからね」
サラサが、刀をナグモに突きつけながら返答する。ナグモは、再び頷くと、口を開いた。
「さて、ルーファス様の瞑想は、そろそろ終わりを迎えるころでしょう。私も、ディアブロスを安全なところに置いてこようと思いますし・・・先ほどの戦いの続きは、ルーファス様も加えて行いましょう」
そう告げると、ナグモは去っていった。
「じっちゃん、あいつ本気じゃなかったのかな?」
去っていったナグモの後を眺めながら、マックスが呟く。
「そうだな、まだ奥の手をいくつか残している気がするぜ」
グレンの言葉に、マックスは頷く。
「だが、おれだって奥の手がある」
驚きの表情を見せるグレンに、マックスは指を立てながら説明する。
「おれの奥の手は気合と、根性と、なによりデストラクション!」
マックスの叫びと共に、隣にゴリラが出現する。ガッツポーズをしながら、ゴリラは弾けていった。
「よし!」
「・・・まあ、そんな気はした」
グレンは何とも言えない表情を浮かべ、頷いていた。
去っていったナグモの後を眺めながら、マックスが呟く。
「そうだな、まだ奥の手をいくつか残している気がするぜ」
グレンの言葉に、マックスは頷く。
「だが、おれだって奥の手がある」
驚きの表情を見せるグレンに、マックスは指を立てながら説明する。
「おれの奥の手は気合と、根性と、なによりデストラクション!」
マックスの叫びと共に、隣にゴリラが出現する。ガッツポーズをしながら、ゴリラは弾けていった。
「よし!」
「・・・まあ、そんな気はした」
グレンは何とも言えない表情を浮かべ、頷いていた。
一時間ほど後、巨大な扉の前にヨハンたちは立っていた。最初、ルーファスとあった部屋の扉とは異なり、荘厳な装飾などは施されていない、普通の巨大な扉だ。ただ、開けるのには少し苦労するかもしれない。
そう考えていると、突然、扉が音を立ててゆっくりと開き始めた。かと思ったその時、ヨハンが両手に込めた魔力を発射した。その威力は設計者の想定を上回っていたようで、扉が音を立てて崩壊していく。
「おいおい、せっかく開けようとしているのにぶっ壊してどうするんだよ」
ヨハンの行動に、グレンが苦笑しながら突っ込みを入れる。
「誘われていくわけじゃないからな」
ヨハンがにやりと笑った。
「私も開けようと思っていたんだが」
サラサが刀を腰に戻しながら、呟く。そんなサラサに対し、ヨハンが大げさな反応を示した
「キャプテン、あの人恐い」
「いつもあんな感じでしょ」
リアノは取り合おうともしない。マックスは、いつもと変わらぬ仲間たちに思わず笑ってしまった。
「でもよ、本当に安心するぜ。最後までこうだとさ」
中の様子が見える。部屋の中央には、巨大な椅子があり、そこに赤い体をした男が座っていた。ルーファスだ。
「よう、ルーファス」
ヨハンが、古い友人に出会ったかのような声で話しかける。ルーファスは、苦笑していた。
「お前たち、余の城をこれ以上壊さないでくれ」
「やだ」
ヨハンが即答する。ルーファスは呆れたようなため息をつく。グレンはそんなルーファスの姿に、妙な親近感を抱いてしまった。
「まあいい。お前たちが到着するのを待っていたぞ。いよいよ決着をつけようではないか」
ヨハンがにやりと笑う。
「おれも、お前に会える時を楽しみに待っていたぜ」
「ナグモ!」
ルーファスの声とともに、ルーファスの背後に音もなくナグモが現れた。
「あなた方に、先に申し上げておきます」
ナグモが、口を開いた。ナグモの声の端々からは、自分たちは絶対に負けないとの自信が感じられた。
「あなた方がウェンディと呼ぶ少女は、この先の部屋で寝かされています。万が一、本当に万が一ですが、あなた方が私とルーファス様を倒すようなことがあれば、彼女を連れて帰ってください」
そうか、とヨハンが呟く。
「それじゃ億が一、いや兆が一、お前たちが勝ったら、ウェンディはお前たちの仲間だと認めてやってもいいぜ」
ナグモはにやりと笑った。
「そうです。京が一、いや垓が一、あなた方が勝つことがありましたら、彼女を連れて帰ってくださってかまいません」
ヨハンもにやりと笑う。
「そうか。じゃあ抒が一、いや穣が一、お前たちが勝ったら、お前たちの好きにするといい」
「ナグモ、その辺にしておけ」
更に何かを言おうとするナグモを、ルーファスが制する。
「ですが、ここは譲れないところです」
「そうだ、ここは譲れない」
二人の言葉に、ルーファスは再び苦笑していた。
「よくわかんねえけど、やっぱり勝つってことだよな?」
マックスが、ヨハンに確認する。ヨハンは頷いた。
「ああ、そうだ。おれたちが負ける可能性は溝が一、いや潤が一もない」
グレンが、ため息をついた。
「そんなこと言ってないで、さっさと戦うぞ」
そう考えていると、突然、扉が音を立ててゆっくりと開き始めた。かと思ったその時、ヨハンが両手に込めた魔力を発射した。その威力は設計者の想定を上回っていたようで、扉が音を立てて崩壊していく。
「おいおい、せっかく開けようとしているのにぶっ壊してどうするんだよ」
ヨハンの行動に、グレンが苦笑しながら突っ込みを入れる。
「誘われていくわけじゃないからな」
ヨハンがにやりと笑った。
「私も開けようと思っていたんだが」
サラサが刀を腰に戻しながら、呟く。そんなサラサに対し、ヨハンが大げさな反応を示した
「キャプテン、あの人恐い」
「いつもあんな感じでしょ」
リアノは取り合おうともしない。マックスは、いつもと変わらぬ仲間たちに思わず笑ってしまった。
「でもよ、本当に安心するぜ。最後までこうだとさ」
中の様子が見える。部屋の中央には、巨大な椅子があり、そこに赤い体をした男が座っていた。ルーファスだ。
「よう、ルーファス」
ヨハンが、古い友人に出会ったかのような声で話しかける。ルーファスは、苦笑していた。
「お前たち、余の城をこれ以上壊さないでくれ」
「やだ」
ヨハンが即答する。ルーファスは呆れたようなため息をつく。グレンはそんなルーファスの姿に、妙な親近感を抱いてしまった。
「まあいい。お前たちが到着するのを待っていたぞ。いよいよ決着をつけようではないか」
ヨハンがにやりと笑う。
「おれも、お前に会える時を楽しみに待っていたぜ」
「ナグモ!」
ルーファスの声とともに、ルーファスの背後に音もなくナグモが現れた。
「あなた方に、先に申し上げておきます」
ナグモが、口を開いた。ナグモの声の端々からは、自分たちは絶対に負けないとの自信が感じられた。
「あなた方がウェンディと呼ぶ少女は、この先の部屋で寝かされています。万が一、本当に万が一ですが、あなた方が私とルーファス様を倒すようなことがあれば、彼女を連れて帰ってください」
そうか、とヨハンが呟く。
「それじゃ億が一、いや兆が一、お前たちが勝ったら、ウェンディはお前たちの仲間だと認めてやってもいいぜ」
ナグモはにやりと笑った。
「そうです。京が一、いや垓が一、あなた方が勝つことがありましたら、彼女を連れて帰ってくださってかまいません」
ヨハンもにやりと笑う。
「そうか。じゃあ抒が一、いや穣が一、お前たちが勝ったら、お前たちの好きにするといい」
「ナグモ、その辺にしておけ」
更に何かを言おうとするナグモを、ルーファスが制する。
「ですが、ここは譲れないところです」
「そうだ、ここは譲れない」
二人の言葉に、ルーファスは再び苦笑していた。
「よくわかんねえけど、やっぱり勝つってことだよな?」
マックスが、ヨハンに確認する。ヨハンは頷いた。
「ああ、そうだ。おれたちが負ける可能性は溝が一、いや潤が一もない」
グレンが、ため息をついた。
「そんなこと言ってないで、さっさと戦うぞ」
「さて」
玉座に座っていたルーファスが、立ち上がった。
「まずは、小手調べといこうか」
ルーファスの右手に、黒い炎が現れた。見る間に、その炎は巨大化し、ヨハンたちがすっぽり入ってしまうような巨大な球体となる。
「受けてみろ」
ルーファスが軽く右腕を振る。次の瞬間には、その火球がヨハンたちの目の前にあった。かわすのは、無理だろう。マックスが慌てている。だが、ヨハンは冷静だった。
「おれたちには、ゼンマイガーがいる」
ヨハンがゼンマイガーを軽くたたくと、ゼンマイガーの姿が見る間に変化していく。次の瞬間には、ヨハンたちの前に巨大な壁が用意されていた。
「シールドモード」
ヨハンが呟く。ゼンマイガーの、新たな形態であった。更に、セルモとゼンマイガー本人が巨大な障壁を作り出す。そこへ、巨大な火球が襲い掛かった。
爆炎が鎮まった時、そこには無傷で立っているヨハンたちの姿があった。当然、ゼンマイガーにはひび一つ入っていない。
「おれのゼンマイガーは無敵だ」
ヨハンが、自慢げな表情を見せる。ルーファスも感心したような声を上げた。
「ほう・・・余のこの一撃を受けるとはな。流石、余と戦おうとするだけのものではある」
その顔は笑顔だ。ルーファスの攻撃を耐えられるような強敵と巡り合えて、喜んでいるのかもしれない。
「それでこそ、戦いがいがある」
そう告げたルーファスの体から、より禍々しい瘴気が放たれる。その瘴気の強さは、それだけで膝をつきそうになるほどだ。不意に、その圧力が弱くなった。ヨハンが、自らの籠手を掲げている。そこにはめ込まれた緑色の宝玉が、ルーファスの瘴気を吸い取っていた。
「それが、あの小娘が使っていた力か」
ルーファスが、苦々しく呟く。その横で、ナグモが刀をわずかに動かした。そこに、リアノの鞭が襲い掛かる。ナグモは身をよじって躱す。だが、それはリアノのフェイントだった。素早く動いたセルモの支援魔法を受けながら、リアノが両手に構えた鞭を器用に動かす。ルーファスもナグモもその動きを避けることはできず、鞭による攻撃が直撃した。
直後、サラサがナグモに突っ込んでいく。グレンが、熟練の勘からナグモを先に倒すべきだと判断したためだ。そして、壮絶な斬り合いが発生した。サラサの切り込みは鋭く、幾らナグモと言えど躱すことはできない。だが、ナグモの刀捌きをサラサはよけることはできない。一太刀でも受ければただでは済まされないような攻撃が、サラサを襲い続ける。だが、サラサは気にも留めない。ヨハンが、ゼンマイガーが、セルモの障壁が、マックスの矢による牽制が、それを全て受け止め、阻んでくれるからだ。
「サラサさん」
しばしの斬り合いの末、ナグモが話しかける。その声には、気の合う人間に出会った時の嬉しさのようなものが詰まっていた。ナグモは微笑むと、刀をサラサに向ける。
「わたしはこれから、不可避の流星剣をあなたに打ち込みます。一発くらいは、止めてみてください」
ナグモが話し終えると同時に、サラサは、先ほどの感覚を再び味わうことになった。意思に反して、その体がナグモの方に向かって行く。このままでは、ただ斬撃を受けるだけだ。サラサは、身構える。父のスオウは、反撃することでこの攻撃を無理やり中断させた。当然、今のナグモは当然それを警戒しているだろう。しかし、やるしかない。サラサは、全神経を目の前のことに集中させた。気の流れが、わずかに感じられる。サラサは、更に集中する。と、サラサの見ている世界が突然ゆっくりになった。ナグモの刀が近づいてくる。
「見切った」
サラサは呟くと、わずかに体をずらしナグモの攻撃を避けた。そのまま続けざまにくる斬撃を最低限の行動で避けながら、刀を振るう。手ごたえがあった。
「姉ちゃん、すげえ。人間の動きじゃねえ」
マックスの呟きが、サラサを我に返らせた。そこには、驚きに満ちた表情をしたナグモの姿があった。
「な、なんで・・・」
ナグモのわき腹からは、血が流れている。しかし、ナグモはそのことに気をとめた様子はない。流星剣を破られた衝撃が、大きいのだろう。しかし、その驚きも一瞬のことだった。すぐにナグモは刀を構えなおす。そこに、先ほどまでの表情はない。ルーファスはそんなナグモの様子を見て頷くと、ヨハンを見た。
「ヨハン、お前も仲間も強いな。お蔭で余は楽しめている。だが、負けるわけにはいかぬのでな・・・これを受けて、みな大人しく死んでもらおう」
ルーファスが再び巨大な火球を作り始める。同時に、ルーファスの居る場所を中心に、強烈な熱気が発生した。普通の人間なら、倒れてしまうほどの熱量だ。だが、ルーファスの目の前に立つヨハンは、涼しげな顔をしている。
「ほう、流石ヨハンと言ったところか」
ルーファスが、ヨハンを見ながらつぶやく。ヨハンはにやりと笑った。
「この力は、お前がくれたものじゃないか」
ルーファスから返事はない。代わりに、巨大な火球が辺り一帯に降り注いできた。
「はじいたぞ」
火球から飛び散った炎がいくらか弱まった時、ヨハンがルーファスを見て告げる。実際、彼は全く打撃を受けていなかった。ゼンマイガーに庇われたグレンたちも同様である。ただし、一人ナグモと戦っていたサラサはかわしきれず、まともにダメージを受けていた。だが、サラサもナグモも、気にすることなく斬り合いを続けている。
そこにマックスが、矢を放つ。だが、ナグモはその矢が来ることを見越していたかのように刀を振るった。矢が、勢いをつけて跳ね返ってくる。
「嘘だ、おれの矢がっ!?」
マックスが驚く。即座に回避を試みるが、返ってくる矢の速度は速く、かわせそうにない。駄目か、と思った時、矢が止まった。ヨハンが、受け止めたのだ。
「兄ちゃん!?」
「慌てんなよ」
ヨハンが、マックスをみて笑う。
「ひやっとしたぜ」
グレンが、声をかけてくる。マックスは、ヨハンとグレンの顔を交互に見た後、頷く。
「大丈夫。もう、狼狽えないぜ」
「なに、何回狼狽えても大丈夫さ」
ヨハンが、マックスの肩を叩く。
「おれがいる」
「全く、兄ちゃんにはかなわないな」
マックスは、そう告げると再びサラサとナグモの戦いを見つめた。神経を集中させ、矢を再びつがえる。
「悪かったよ。あんたのこと、どこかでなめてた」
マックスは、ナグモに向けて呟く。
「でも、あんただってそろそろ体力の限界だ。おれだってそうさ。でも、おれは限界に来てからがクライマックスなんだよ!」
マックスは、渾身の矢を放った。だが、その矢はまたも予測されていた。ナグモの刀が動き、矢を跳ね返そうとする。しかし、その手は途中で止まった。グレンの、呪術だ。
「じいちゃん!」
マックスは歓喜する。その視線の先で、ナグモの胸を矢が貫いた。攻撃は、致命的なものだった。人間であれば、間違いなく死んでいる。だが、ナグモはまだ動いていた。
「ルーファス様には、触れさせない」
ナグモが呟くと同時に、ナグモから放たれる殺気が、ひときわ強くなった。何か、とてつもない一撃が来る。ヨハンたちがそう感じるには、十分なほどの気であった。
「奥義」
ナグモは目を瞑り、体から力を抜いた。だが、ナグモから放たれる殺気は強くなるばかりだ。
「大流星」
しかし、ナグモは動けなかった。その後ろにやってきていたヨハンが、彼女の腕を掴んだからだ。
「ようやく、隙を見せたな」
ヨハンは、サラサとナグモの斬り合いが激しくなる中で、一つのタイミングを見計らっていた。それが、ナグモが制止する瞬間である。奥義のため、止まったこの瞬間こそが、ヨハンにとって最大のチャンスであった。同時に、ヨハンの籠手に込められた”退魔”の力が、ナグモの体力を奪っていく。
「ルーファス、様・・・」
ナグモはそのまま、倒れた。
「飛んでもねえ奴だったな、姉ちゃん」
マックスもまた、倒れていた。ナグモを倒した安堵からか、体に力が入らなくなったのだ。そんなマックスに、サラサが険しい表情を見せる。
「マックス、起きなさい。まだ戦いは終わっていません」
「姉ちゃんも、すげえなあ」
感心しながら、マックスはどうにか身を起こす。その近くで、ヨハンがルーファスに笑みを浮かべる。
「お前の味方、減っちまったぜ?」
ルーファスは、目を閉じていた。だが、すぐに目を開く。
「ナグモ、ゆっくり休め。余が勝った後、復活するがよい」
そして、ヨハンを真っ直ぐ見据えた。
「ヨハン、お前たちを倒さなければならない理由が、また一つ増えたな」
その体からは、今まで以上の瘴気が立ち上っている。ヨハンは、そんなルーファスを鼻で笑った。
「それがどうした。おれがお前を倒す理由は、無限に存在するぜ」
ルーファスへの攻撃は、身を起こしたマックスからだった。邪念の弓の効果を利用すべく、率先して矢を射かける。しかし、まだルーファスが動じる気配はない。そこに、弾丸のようにサラサが突っ込んでいく。サラサの怒りを込めた連撃は、ルーファスに痛撃を与える。
「やるな」
ルーファスは、右手で巨大な火球を作る。三度目の、火の玉だ。まるで黒い太陽のような輝きを放つその火球を、ヨハンたち目掛け放とうとする。だが、その腕に、マックスの放った矢が突き刺さっていた。その隙を見逃さず、サラサが刀を再び振るう。塊怨樹が軽く吹き飛ぶその連撃は、ルーファスにかなりのダメージを与えていた。しかし、まだルーファスは動じていない。
「ふむ」
短く頷く。ルーファスの顔は、冷静そのものであった。そして、その体から強烈な熱気が放たれる。見る間に、巨大な火球が、誕生した。これまでの火球と比べ、一回りは大きい。ルーファスが指を鳴らすと、その火球が飛んでいく。だが、その火球がヨハンたちにあたることはなかった。火球は、ヨハンたちを避けるように曲がっていく。
「じっちゃん、おれの専売特許を真似するのか?」
マックスが、上機嫌な声ではやし立てる。グレンが、呪術の力を振り絞り、火球の軌道を変えたのである。それはさながら、マックスが日ごろやっている弓による牽制のようだった。
「阿呆、おれだってたまにはやるわ」
グレンがにやりと笑みを浮かべ、答える。
「グレン、張り切っているじゃないか。年寄りの冷や水はごめんだぜ」
ヨハンも、上機嫌であった。二人とも、グレンが活躍したことが嬉しいのだろう。
「問題ない、筋肉痛は二日後だ」
グレンの言葉に、セルモが笑っている。ヨハンも一通り笑うと、ルーファスへと向き直った。右手を突き出す、その右手に、魔力が集約されていく。それは、ルーファスの作り出した黒い火球ほどの大きさはない。しかし、威力だけならその火球をも上回るのではないか。それほど、ヨハンの魔力が、怒りが、決意が、込められていた。
「お前らが、おれの両親を殺した」
ヨハンの右手から、魔力の球が続けざまに放たれた。それは、爆音を上げてルーファスへと命中する。直撃だった。
「これは、そのお蔭で出会えた師匠から学んだ技だ」
お礼だ、との皮肉を言わんばかりの口調で、ヨハンが告げる。
「そうか、見事な技だ」
ルーファスが、低い声で頷く。直撃を食らってもまだ、ルーファスは動いていた。流石に、無事とはいかないが、まだ致命的な打撃は与えられていない。
「あれを食らって、まだ動くのか」
マックスが呻く。ルーファスは、両手を横につき出すと、それぞれの手で、黒い火球を作り始めた。先ほどの巨大さはないが、それでも最初に放った火球と大きさはそう変わらない。
「これを受けてみろ」
ルーファスが、ヨハンめがけて続けざまに火球を放とうとする。放たれてしまったそれを、避けることは難しいだろう。だが、ヨハンに避けるつもりはない。受け止めるのだ。しかし、これだけの火球を続けざまに受けてはいくらヨハンと言えど、受け止めきることは難しいかもしれない。マックスは、神経を研ぎ澄ませていた。自分がルーファスを止める、その一瞬を。
「兄ちゃんと、じっちゃんにばっかり、いい恰好させられないぜ!」
マックスが放った矢は、火球を止めるには至らない。しかし、火球のコントロールをわずかに逸らすことに成功していた。
「でかした!」
火球を避けることができた、ヨハンが叫ぶ。
「お前も、なかなかやるようだな」
ルーファスが、マックスを見据える。
「そりゃそうさ! おれたちはこの力でここまで来たんだからよ!」
マックスが、ゴリラと共に吠える。その横で、ヨハンの右手に魔力が集約されていった。先ほどのものと同等の魔力を、再び放とうと言うのだろう。ヨハンから、続けざまに強烈な魔力が放たれる。
「お前たちは、本当に強いな」
魔力の直撃を受けたルーファスが、呟く。流石に『魔王』と言えど、ここまでのヨハンたちとの戦闘で、かなりのダメージを負っているようであった。
「余の攻撃をここまで耐えた者など、これまではいなかった。余にここまで打撃を与えた者も、いなかった。見実に事なものだ。だが、それもここまでだ」
ルーファスが、ヨハンたちに語りかける。同時に、ルーファスの両手付近から黒い何かが螺旋状に動いていることが確認できた。おそらく、ルーファスの周りで、凝縮しつくした魔力であろう。
「嘘だろ・・・」
マックスが呟く。その魔力が、今ルーファスのもとで巨大な火球へと変わっていた。その威力は、ヨハンが先ほどまでに放ったものとそう変わりはしないだろう。もしその直撃を受けた場合、生き残れることは難しいだろう。火球が十分な大きさに達した時、ルーファスはヨハンを見た。
「ヨハン、余はお前を倒し、この世界を魔族の楽園にして見せよう」
だが、その火球が、ヨハンに向けて放たれることはなかった。ヨハンが、籠手を掲げたのだ。そこにはめ込まれた緑色の宝球が、光り輝く。すると、火球に込められた魔力が、その宝球へと吸われ始めた。
「これが、”退魔”の力か・・・」
ルーファスが、苦々しげに呟いた。今やその宝球の力は、ルーファスが込めた魔力の力を上回っている。火球は、溶けるように消えた。
「おれは、お前の力によって家を焼かれた」
籠手を下しながら、ヨハンがルーファスを見返す。
「そんなおれに、もう炎は通用しない」
ヨハンの声は静かだった。それだけに、ヨハンの怒りが返って伝わってくる。それに呼応するかのように、リアノが動き出した。鞭を唸らせると、ルーファスに打ち掛かる。これまで受けてきた攻撃に比べると、その威力は大人しいものではあったが、無視できるものではない。ルーファスは舌打ちすると、自らの前で魔力を再び凝縮させようとする。だが、集まらない。ルーファスの眼前にいるヨハンが、全ての魔力を吸い寄せていた。そこにセルモが支援を飛ばし、魔力の精度をより強固なものにしている。
「魔王、ルーファス」
ヨハンが、ルーファスを見据えた。
「終わりにしよう」
ヨハンの右手付近から、魔力の塊が放たれる。綺麗な角度を描いて放たれたその魔力は、ルーファスの胸を貫くと、爆散した。
「見事だ」
ルーファスは、ヨハンを見て頷く。その顔には、どこか満足そうなものがあった。
「お前たちのようなやつと最後に戦えて、余は楽しかったぞ」
ルーファスが、崩れ落ちる。
「そうか」
ヨハンは頷くと、ルーファスに近づく。その首をつかむと、ルーファスの顔を覗き込んだ。
「実を言うと、おれはあんたが嫌いじゃない。ただ、邪魔なんだ。だから、消えろ」
そう告げると、ヨハンはルーファスに止めを刺した。ルーファスの体が少しずつ溶けていく。間もなく、ルーファスの体は跡形もなく消え去った。
玉座に座っていたルーファスが、立ち上がった。
「まずは、小手調べといこうか」
ルーファスの右手に、黒い炎が現れた。見る間に、その炎は巨大化し、ヨハンたちがすっぽり入ってしまうような巨大な球体となる。
「受けてみろ」
ルーファスが軽く右腕を振る。次の瞬間には、その火球がヨハンたちの目の前にあった。かわすのは、無理だろう。マックスが慌てている。だが、ヨハンは冷静だった。
「おれたちには、ゼンマイガーがいる」
ヨハンがゼンマイガーを軽くたたくと、ゼンマイガーの姿が見る間に変化していく。次の瞬間には、ヨハンたちの前に巨大な壁が用意されていた。
「シールドモード」
ヨハンが呟く。ゼンマイガーの、新たな形態であった。更に、セルモとゼンマイガー本人が巨大な障壁を作り出す。そこへ、巨大な火球が襲い掛かった。
爆炎が鎮まった時、そこには無傷で立っているヨハンたちの姿があった。当然、ゼンマイガーにはひび一つ入っていない。
「おれのゼンマイガーは無敵だ」
ヨハンが、自慢げな表情を見せる。ルーファスも感心したような声を上げた。
「ほう・・・余のこの一撃を受けるとはな。流石、余と戦おうとするだけのものではある」
その顔は笑顔だ。ルーファスの攻撃を耐えられるような強敵と巡り合えて、喜んでいるのかもしれない。
「それでこそ、戦いがいがある」
そう告げたルーファスの体から、より禍々しい瘴気が放たれる。その瘴気の強さは、それだけで膝をつきそうになるほどだ。不意に、その圧力が弱くなった。ヨハンが、自らの籠手を掲げている。そこにはめ込まれた緑色の宝玉が、ルーファスの瘴気を吸い取っていた。
「それが、あの小娘が使っていた力か」
ルーファスが、苦々しく呟く。その横で、ナグモが刀をわずかに動かした。そこに、リアノの鞭が襲い掛かる。ナグモは身をよじって躱す。だが、それはリアノのフェイントだった。素早く動いたセルモの支援魔法を受けながら、リアノが両手に構えた鞭を器用に動かす。ルーファスもナグモもその動きを避けることはできず、鞭による攻撃が直撃した。
直後、サラサがナグモに突っ込んでいく。グレンが、熟練の勘からナグモを先に倒すべきだと判断したためだ。そして、壮絶な斬り合いが発生した。サラサの切り込みは鋭く、幾らナグモと言えど躱すことはできない。だが、ナグモの刀捌きをサラサはよけることはできない。一太刀でも受ければただでは済まされないような攻撃が、サラサを襲い続ける。だが、サラサは気にも留めない。ヨハンが、ゼンマイガーが、セルモの障壁が、マックスの矢による牽制が、それを全て受け止め、阻んでくれるからだ。
「サラサさん」
しばしの斬り合いの末、ナグモが話しかける。その声には、気の合う人間に出会った時の嬉しさのようなものが詰まっていた。ナグモは微笑むと、刀をサラサに向ける。
「わたしはこれから、不可避の流星剣をあなたに打ち込みます。一発くらいは、止めてみてください」
ナグモが話し終えると同時に、サラサは、先ほどの感覚を再び味わうことになった。意思に反して、その体がナグモの方に向かって行く。このままでは、ただ斬撃を受けるだけだ。サラサは、身構える。父のスオウは、反撃することでこの攻撃を無理やり中断させた。当然、今のナグモは当然それを警戒しているだろう。しかし、やるしかない。サラサは、全神経を目の前のことに集中させた。気の流れが、わずかに感じられる。サラサは、更に集中する。と、サラサの見ている世界が突然ゆっくりになった。ナグモの刀が近づいてくる。
「見切った」
サラサは呟くと、わずかに体をずらしナグモの攻撃を避けた。そのまま続けざまにくる斬撃を最低限の行動で避けながら、刀を振るう。手ごたえがあった。
「姉ちゃん、すげえ。人間の動きじゃねえ」
マックスの呟きが、サラサを我に返らせた。そこには、驚きに満ちた表情をしたナグモの姿があった。
「な、なんで・・・」
ナグモのわき腹からは、血が流れている。しかし、ナグモはそのことに気をとめた様子はない。流星剣を破られた衝撃が、大きいのだろう。しかし、その驚きも一瞬のことだった。すぐにナグモは刀を構えなおす。そこに、先ほどまでの表情はない。ルーファスはそんなナグモの様子を見て頷くと、ヨハンを見た。
「ヨハン、お前も仲間も強いな。お蔭で余は楽しめている。だが、負けるわけにはいかぬのでな・・・これを受けて、みな大人しく死んでもらおう」
ルーファスが再び巨大な火球を作り始める。同時に、ルーファスの居る場所を中心に、強烈な熱気が発生した。普通の人間なら、倒れてしまうほどの熱量だ。だが、ルーファスの目の前に立つヨハンは、涼しげな顔をしている。
「ほう、流石ヨハンと言ったところか」
ルーファスが、ヨハンを見ながらつぶやく。ヨハンはにやりと笑った。
「この力は、お前がくれたものじゃないか」
ルーファスから返事はない。代わりに、巨大な火球が辺り一帯に降り注いできた。
「はじいたぞ」
火球から飛び散った炎がいくらか弱まった時、ヨハンがルーファスを見て告げる。実際、彼は全く打撃を受けていなかった。ゼンマイガーに庇われたグレンたちも同様である。ただし、一人ナグモと戦っていたサラサはかわしきれず、まともにダメージを受けていた。だが、サラサもナグモも、気にすることなく斬り合いを続けている。
そこにマックスが、矢を放つ。だが、ナグモはその矢が来ることを見越していたかのように刀を振るった。矢が、勢いをつけて跳ね返ってくる。
「嘘だ、おれの矢がっ!?」
マックスが驚く。即座に回避を試みるが、返ってくる矢の速度は速く、かわせそうにない。駄目か、と思った時、矢が止まった。ヨハンが、受け止めたのだ。
「兄ちゃん!?」
「慌てんなよ」
ヨハンが、マックスをみて笑う。
「ひやっとしたぜ」
グレンが、声をかけてくる。マックスは、ヨハンとグレンの顔を交互に見た後、頷く。
「大丈夫。もう、狼狽えないぜ」
「なに、何回狼狽えても大丈夫さ」
ヨハンが、マックスの肩を叩く。
「おれがいる」
「全く、兄ちゃんにはかなわないな」
マックスは、そう告げると再びサラサとナグモの戦いを見つめた。神経を集中させ、矢を再びつがえる。
「悪かったよ。あんたのこと、どこかでなめてた」
マックスは、ナグモに向けて呟く。
「でも、あんただってそろそろ体力の限界だ。おれだってそうさ。でも、おれは限界に来てからがクライマックスなんだよ!」
マックスは、渾身の矢を放った。だが、その矢はまたも予測されていた。ナグモの刀が動き、矢を跳ね返そうとする。しかし、その手は途中で止まった。グレンの、呪術だ。
「じいちゃん!」
マックスは歓喜する。その視線の先で、ナグモの胸を矢が貫いた。攻撃は、致命的なものだった。人間であれば、間違いなく死んでいる。だが、ナグモはまだ動いていた。
「ルーファス様には、触れさせない」
ナグモが呟くと同時に、ナグモから放たれる殺気が、ひときわ強くなった。何か、とてつもない一撃が来る。ヨハンたちがそう感じるには、十分なほどの気であった。
「奥義」
ナグモは目を瞑り、体から力を抜いた。だが、ナグモから放たれる殺気は強くなるばかりだ。
「大流星」
しかし、ナグモは動けなかった。その後ろにやってきていたヨハンが、彼女の腕を掴んだからだ。
「ようやく、隙を見せたな」
ヨハンは、サラサとナグモの斬り合いが激しくなる中で、一つのタイミングを見計らっていた。それが、ナグモが制止する瞬間である。奥義のため、止まったこの瞬間こそが、ヨハンにとって最大のチャンスであった。同時に、ヨハンの籠手に込められた”退魔”の力が、ナグモの体力を奪っていく。
「ルーファス、様・・・」
ナグモはそのまま、倒れた。
「飛んでもねえ奴だったな、姉ちゃん」
マックスもまた、倒れていた。ナグモを倒した安堵からか、体に力が入らなくなったのだ。そんなマックスに、サラサが険しい表情を見せる。
「マックス、起きなさい。まだ戦いは終わっていません」
「姉ちゃんも、すげえなあ」
感心しながら、マックスはどうにか身を起こす。その近くで、ヨハンがルーファスに笑みを浮かべる。
「お前の味方、減っちまったぜ?」
ルーファスは、目を閉じていた。だが、すぐに目を開く。
「ナグモ、ゆっくり休め。余が勝った後、復活するがよい」
そして、ヨハンを真っ直ぐ見据えた。
「ヨハン、お前たちを倒さなければならない理由が、また一つ増えたな」
その体からは、今まで以上の瘴気が立ち上っている。ヨハンは、そんなルーファスを鼻で笑った。
「それがどうした。おれがお前を倒す理由は、無限に存在するぜ」
ルーファスへの攻撃は、身を起こしたマックスからだった。邪念の弓の効果を利用すべく、率先して矢を射かける。しかし、まだルーファスが動じる気配はない。そこに、弾丸のようにサラサが突っ込んでいく。サラサの怒りを込めた連撃は、ルーファスに痛撃を与える。
「やるな」
ルーファスは、右手で巨大な火球を作る。三度目の、火の玉だ。まるで黒い太陽のような輝きを放つその火球を、ヨハンたち目掛け放とうとする。だが、その腕に、マックスの放った矢が突き刺さっていた。その隙を見逃さず、サラサが刀を再び振るう。塊怨樹が軽く吹き飛ぶその連撃は、ルーファスにかなりのダメージを与えていた。しかし、まだルーファスは動じていない。
「ふむ」
短く頷く。ルーファスの顔は、冷静そのものであった。そして、その体から強烈な熱気が放たれる。見る間に、巨大な火球が、誕生した。これまでの火球と比べ、一回りは大きい。ルーファスが指を鳴らすと、その火球が飛んでいく。だが、その火球がヨハンたちにあたることはなかった。火球は、ヨハンたちを避けるように曲がっていく。
「じっちゃん、おれの専売特許を真似するのか?」
マックスが、上機嫌な声ではやし立てる。グレンが、呪術の力を振り絞り、火球の軌道を変えたのである。それはさながら、マックスが日ごろやっている弓による牽制のようだった。
「阿呆、おれだってたまにはやるわ」
グレンがにやりと笑みを浮かべ、答える。
「グレン、張り切っているじゃないか。年寄りの冷や水はごめんだぜ」
ヨハンも、上機嫌であった。二人とも、グレンが活躍したことが嬉しいのだろう。
「問題ない、筋肉痛は二日後だ」
グレンの言葉に、セルモが笑っている。ヨハンも一通り笑うと、ルーファスへと向き直った。右手を突き出す、その右手に、魔力が集約されていく。それは、ルーファスの作り出した黒い火球ほどの大きさはない。しかし、威力だけならその火球をも上回るのではないか。それほど、ヨハンの魔力が、怒りが、決意が、込められていた。
「お前らが、おれの両親を殺した」
ヨハンの右手から、魔力の球が続けざまに放たれた。それは、爆音を上げてルーファスへと命中する。直撃だった。
「これは、そのお蔭で出会えた師匠から学んだ技だ」
お礼だ、との皮肉を言わんばかりの口調で、ヨハンが告げる。
「そうか、見事な技だ」
ルーファスが、低い声で頷く。直撃を食らってもまだ、ルーファスは動いていた。流石に、無事とはいかないが、まだ致命的な打撃は与えられていない。
「あれを食らって、まだ動くのか」
マックスが呻く。ルーファスは、両手を横につき出すと、それぞれの手で、黒い火球を作り始めた。先ほどの巨大さはないが、それでも最初に放った火球と大きさはそう変わらない。
「これを受けてみろ」
ルーファスが、ヨハンめがけて続けざまに火球を放とうとする。放たれてしまったそれを、避けることは難しいだろう。だが、ヨハンに避けるつもりはない。受け止めるのだ。しかし、これだけの火球を続けざまに受けてはいくらヨハンと言えど、受け止めきることは難しいかもしれない。マックスは、神経を研ぎ澄ませていた。自分がルーファスを止める、その一瞬を。
「兄ちゃんと、じっちゃんにばっかり、いい恰好させられないぜ!」
マックスが放った矢は、火球を止めるには至らない。しかし、火球のコントロールをわずかに逸らすことに成功していた。
「でかした!」
火球を避けることができた、ヨハンが叫ぶ。
「お前も、なかなかやるようだな」
ルーファスが、マックスを見据える。
「そりゃそうさ! おれたちはこの力でここまで来たんだからよ!」
マックスが、ゴリラと共に吠える。その横で、ヨハンの右手に魔力が集約されていった。先ほどのものと同等の魔力を、再び放とうと言うのだろう。ヨハンから、続けざまに強烈な魔力が放たれる。
「お前たちは、本当に強いな」
魔力の直撃を受けたルーファスが、呟く。流石に『魔王』と言えど、ここまでのヨハンたちとの戦闘で、かなりのダメージを負っているようであった。
「余の攻撃をここまで耐えた者など、これまではいなかった。余にここまで打撃を与えた者も、いなかった。見実に事なものだ。だが、それもここまでだ」
ルーファスが、ヨハンたちに語りかける。同時に、ルーファスの両手付近から黒い何かが螺旋状に動いていることが確認できた。おそらく、ルーファスの周りで、凝縮しつくした魔力であろう。
「嘘だろ・・・」
マックスが呟く。その魔力が、今ルーファスのもとで巨大な火球へと変わっていた。その威力は、ヨハンが先ほどまでに放ったものとそう変わりはしないだろう。もしその直撃を受けた場合、生き残れることは難しいだろう。火球が十分な大きさに達した時、ルーファスはヨハンを見た。
「ヨハン、余はお前を倒し、この世界を魔族の楽園にして見せよう」
だが、その火球が、ヨハンに向けて放たれることはなかった。ヨハンが、籠手を掲げたのだ。そこにはめ込まれた緑色の宝球が、光り輝く。すると、火球に込められた魔力が、その宝球へと吸われ始めた。
「これが、”退魔”の力か・・・」
ルーファスが、苦々しげに呟いた。今やその宝球の力は、ルーファスが込めた魔力の力を上回っている。火球は、溶けるように消えた。
「おれは、お前の力によって家を焼かれた」
籠手を下しながら、ヨハンがルーファスを見返す。
「そんなおれに、もう炎は通用しない」
ヨハンの声は静かだった。それだけに、ヨハンの怒りが返って伝わってくる。それに呼応するかのように、リアノが動き出した。鞭を唸らせると、ルーファスに打ち掛かる。これまで受けてきた攻撃に比べると、その威力は大人しいものではあったが、無視できるものではない。ルーファスは舌打ちすると、自らの前で魔力を再び凝縮させようとする。だが、集まらない。ルーファスの眼前にいるヨハンが、全ての魔力を吸い寄せていた。そこにセルモが支援を飛ばし、魔力の精度をより強固なものにしている。
「魔王、ルーファス」
ヨハンが、ルーファスを見据えた。
「終わりにしよう」
ヨハンの右手付近から、魔力の塊が放たれる。綺麗な角度を描いて放たれたその魔力は、ルーファスの胸を貫くと、爆散した。
「見事だ」
ルーファスは、ヨハンを見て頷く。その顔には、どこか満足そうなものがあった。
「お前たちのようなやつと最後に戦えて、余は楽しかったぞ」
ルーファスが、崩れ落ちる。
「そうか」
ヨハンは頷くと、ルーファスに近づく。その首をつかむと、ルーファスの顔を覗き込んだ。
「実を言うと、おれはあんたが嫌いじゃない。ただ、邪魔なんだ。だから、消えろ」
そう告げると、ヨハンはルーファスに止めを刺した。ルーファスの体が少しずつ溶けていく。間もなく、ルーファスの体は跡形もなく消え去った。
同時に、激しい音が鳴り響く。城の土台を揺るがすような、激しい音だ。床も、大きく揺れ始めていた。身を起こそうとしたヨハンは大きくよろけてしまう。そんなヨハンに、手を差し出すものがあった。サラサだ。
「ありがとよ」
ヨハンはそう告げると、サラサの手を取り、立ち上がった。その近くで、ティボルトが苦い顔をしながら叫ぶ。
「不味いぞ、城が崩れ始めている!」
そのすぐ横で、脱兎のごとくかけていくものがいた。マックスだ。
「悪い、ここは任せた!」
「おい、マックス!」
突然の行動に困惑するティボルトに、リアノが待ったをかけた。
「マックスは、行かなきゃいけないところがあるからね」
その言葉で、ティボルトは理解したようだった。そう、ウェンディだ。
「ありがとよ」
ヨハンはそう告げると、サラサの手を取り、立ち上がった。その近くで、ティボルトが苦い顔をしながら叫ぶ。
「不味いぞ、城が崩れ始めている!」
そのすぐ横で、脱兎のごとくかけていくものがいた。マックスだ。
「悪い、ここは任せた!」
「おい、マックス!」
突然の行動に困惑するティボルトに、リアノが待ったをかけた。
「マックスは、行かなきゃいけないところがあるからね」
その言葉で、ティボルトは理解したようだった。そう、ウェンディだ。
マックスは、ナグモが話していた部屋へと飛び込む。ウェンディは、その部屋で寝かされていた。かなりの轟音と振動が響いているが、意識が戻っていないようだ。
「おいウェンディ、大丈夫か?」
マックスは叫びながら近寄っていく、しかし、目覚める気配はない。胸が上下しているので、生きていることは確認できる。こうなれば、担いでいくしかない。マックスは、ウェンディを背負うと、大急ぎでヨハンたちのいる部屋へと戻っていった。
「おいウェンディ、大丈夫か?」
マックスは叫びながら近寄っていく、しかし、目覚める気配はない。胸が上下しているので、生きていることは確認できる。こうなれば、担いでいくしかない。マックスは、ウェンディを背負うと、大急ぎでヨハンたちのいる部屋へと戻っていった。
ウェンディを連れたヨハンたちは、大急ぎで下の階へと向かって行く。だが、ルーファスのもとへと向かうのに数時間とかかった城である。すぐに戻れるわけではない。ヨハンたちは、ようやく、最初にナグモと戦った部屋へと戻ってきたところだった。だが、そんなヨハンたちをあざ笑うかのように、城の崩壊する速度はどんどん早まっている。
「このままだと、おれたちが出る前に城が崩壊しちまう!」
ティボルトが、いくらか焦った声を出した。
「いくらデストラクションでも、この量の瓦礫は無理だぜ」
マックスも、慌てていた。おまけに、この部屋は崩壊が進んでいた。ウェンディが飛び込んできた際に壁に大穴を開けてしまったことが、原因なのかもしれない。
「くそっ」
ティボルトが、苛立ったような呟きを漏らすと、辺りを見渡す。彼の後ろには、セルモが立っていた。ティボルトは、急に満面に笑みを浮かべる。
「ただ、安心してくださいセルモさん。何があろうと、おれはあなたのことは守ります。『運命』の名にかけて」
皆がいつものティボルトに苦笑した時だった。
「みなさん!」
マックスの背中から、声がした。ウェンディだ。
「ウェンディ!?」
マックスが、驚きと安堵の入り混じった声を上げる。
「そうです、ウェンディです」
ウェンディは頷く。そして、マックスから降りるとヨハンたちを見渡した。目覚めたばかりだが、冒険者として長年過ごしてきた経験からか、この危険な状況を即座に理解したらしい。
「みなさん、私を信じてもらっていいですか? ここから、飛んで逃げます」
ウェンディは、言うや否やドラゴンへと素早く変身した。瓦礫がいくらかウェンディにあたるが、意に介した様子はない。そんなウェンディに、マックスが近づいていく。その顔は、少し険しかった。
「ウェンディあのな、おれな・・・」
そんなマックスの肩を、誰かが叩く。振り返ると、ヨハンがいた。
「おれにはMk-Ⅽがあるからいつでも逃げられるんだけどな。せっかくだから、ウェンディに乗っていこうぜ」
ウェンディも背中に乗れと言わんばかりに、大きく吠えた。マックスは頷くと、ウェンディの背に乗る。ヨハンたちも、それに続いた。ウェンディは、皆が乗ったことを確認すると、先ほど自らがあけた大穴から外へと飛び出していく。
「このままだと、おれたちが出る前に城が崩壊しちまう!」
ティボルトが、いくらか焦った声を出した。
「いくらデストラクションでも、この量の瓦礫は無理だぜ」
マックスも、慌てていた。おまけに、この部屋は崩壊が進んでいた。ウェンディが飛び込んできた際に壁に大穴を開けてしまったことが、原因なのかもしれない。
「くそっ」
ティボルトが、苛立ったような呟きを漏らすと、辺りを見渡す。彼の後ろには、セルモが立っていた。ティボルトは、急に満面に笑みを浮かべる。
「ただ、安心してくださいセルモさん。何があろうと、おれはあなたのことは守ります。『運命』の名にかけて」
皆がいつものティボルトに苦笑した時だった。
「みなさん!」
マックスの背中から、声がした。ウェンディだ。
「ウェンディ!?」
マックスが、驚きと安堵の入り混じった声を上げる。
「そうです、ウェンディです」
ウェンディは頷く。そして、マックスから降りるとヨハンたちを見渡した。目覚めたばかりだが、冒険者として長年過ごしてきた経験からか、この危険な状況を即座に理解したらしい。
「みなさん、私を信じてもらっていいですか? ここから、飛んで逃げます」
ウェンディは、言うや否やドラゴンへと素早く変身した。瓦礫がいくらかウェンディにあたるが、意に介した様子はない。そんなウェンディに、マックスが近づいていく。その顔は、少し険しかった。
「ウェンディあのな、おれな・・・」
そんなマックスの肩を、誰かが叩く。振り返ると、ヨハンがいた。
「おれにはMk-Ⅽがあるからいつでも逃げられるんだけどな。せっかくだから、ウェンディに乗っていこうぜ」
ウェンディも背中に乗れと言わんばかりに、大きく吠えた。マックスは頷くと、ウェンディの背に乗る。ヨハンたちも、それに続いた。ウェンディは、皆が乗ったことを確認すると、先ほど自らがあけた大穴から外へと飛び出していく。
外は、室内での戦いが嘘のように、青空が広がっていた。ヨハンたちが出発する前に、『古代の城』へと向かっていた魔族たちの姿も、見当たらない。
「魔王がいなくなって消えたのか、それとも下にいる仲間たちがやってくれたのか・・・」
そんな周りの様子を見ながら、グレンが呟く。そんなグレンに、ヨハンが話しかけてきた。その顔は、少し笑みを浮かべている。
「グレン、お前はあいつと短い付き合いだからわからないかもしれないが・・・あいつが、そんな温情あることをすると思うか?」
グレンの頭の中に、マリアンナの姿が思い出される。
「短い付き合いだが・・・わかったよ」
グレンは、呆れたようなため息をついた。と、ヨハンたちの背後で、ひときわ大きな音がした。城の主柱が折れたのだ。城が完全に崩壊するまで、そう時間はかからないだろう。
そして、城が完全に崩壊するのと同じくして、ウェンディが地面に降り立った。ヨハンたちも、一人一人ウェンディの背中から降りていく。
「セルモさん、大丈夫ですか? 怪我はないですか?」
先に地面に降りたティボルトが、声を上げる。そのまま、ティボルトは降りてくるセルモの手助けをしようと両手を差し出した。だが、セルモは気付かなかったようでそのまま降りてしまう。ティボルトはそのまま両手を地面に付けると、大きく落ち込んでいた。やがて起き上がると、マックスの方を向く。
「マックス、彼女のことは頼んだぞ」
ウェンディのことだろう。
「おれはその間に、セルモさんと『運命』について語り合っているからさ。ですよね、セルモさん?」
「ま、まあこの後も色々とやることはあるので、二人きりではないとは思いますが」
多少はいいとのことなのだろうか。ティボルトは狂喜乱舞している。そんなティボルトに冷めた表情を送りつつ、マックスはウェンディを見上げた。まもなく、皆が背中から降りたことを確認したウェンディが人の形へと戻る。
「ウェンディ、あの・・・」
マックスは、ウェンディの顔を見た。ウェンディは喜びとも悲しみともつかぬ、複雑な表情をしている。
「なにがあったか、もう知っているのか?」
ウェンディは、マックスを見つめる。しばしの沈黙の後、ウェンディは、口を開いた。
「まずは、おめでとうって言った方がいいのかな?」
そう告げると、若干ひきつったような笑みを浮かべる。もともと、感情を表に出しやすい性格のウェンディだ。彼女が、無理をしているのは誰の目にも明らかだった。
「わかんねえな。兄ちゃんたちには、おめでとうって言えるけど」
マックスは答える。
「ただ、おれにとってはお前も大事な友達だし、お前の考えていることも大事だと思っている。でも、おれは結局兄ちゃんたちがやりたい方を選んだ。おれは、お前にとって許せないことをしたかもしれないけどよ」
マックスは、ウェンディの目を真っ直ぐ見つめながら話していく。ウェンディも、マックスの方を向いていた。やがて、ウェンディの目から涙が溢れ出す。
「ルーファスさんとナグモさんは、死んじゃったんだよね・・・」
ウェンディは、泣きながら話していた。
「ああ、おれたちが倒した。おれたちは、この結末が正しいと思ったからだ。ただ、おれはあいつらのことを絶対に忘れない。あいつら、本当に強かったしな。お前が、本気で入れ込んだのも分かるやつらだったよ」
ウェンディはしばらく、泣いていた。マックスは、そんなウェンディの傍らに立っていた。やがて、小さな声でウェンディが呟く。
「マックス・・・」
マックスは、黙ってウェンディの肩に手を置いた。マックスも、しんみりとした気分になっていた。
「マックス、ありがとう」
ウェンディが顔を上げ、マックスを向く。ウェンディは相変わらず泣いていたが、少しだけ笑顔を見せていた。マックスは、慌てて下を向く。もらい泣きをしそうになったためだ。
「ごめんな、これからもよろしく」
「魔王がいなくなって消えたのか、それとも下にいる仲間たちがやってくれたのか・・・」
そんな周りの様子を見ながら、グレンが呟く。そんなグレンに、ヨハンが話しかけてきた。その顔は、少し笑みを浮かべている。
「グレン、お前はあいつと短い付き合いだからわからないかもしれないが・・・あいつが、そんな温情あることをすると思うか?」
グレンの頭の中に、マリアンナの姿が思い出される。
「短い付き合いだが・・・わかったよ」
グレンは、呆れたようなため息をついた。と、ヨハンたちの背後で、ひときわ大きな音がした。城の主柱が折れたのだ。城が完全に崩壊するまで、そう時間はかからないだろう。
そして、城が完全に崩壊するのと同じくして、ウェンディが地面に降り立った。ヨハンたちも、一人一人ウェンディの背中から降りていく。
「セルモさん、大丈夫ですか? 怪我はないですか?」
先に地面に降りたティボルトが、声を上げる。そのまま、ティボルトは降りてくるセルモの手助けをしようと両手を差し出した。だが、セルモは気付かなかったようでそのまま降りてしまう。ティボルトはそのまま両手を地面に付けると、大きく落ち込んでいた。やがて起き上がると、マックスの方を向く。
「マックス、彼女のことは頼んだぞ」
ウェンディのことだろう。
「おれはその間に、セルモさんと『運命』について語り合っているからさ。ですよね、セルモさん?」
「ま、まあこの後も色々とやることはあるので、二人きりではないとは思いますが」
多少はいいとのことなのだろうか。ティボルトは狂喜乱舞している。そんなティボルトに冷めた表情を送りつつ、マックスはウェンディを見上げた。まもなく、皆が背中から降りたことを確認したウェンディが人の形へと戻る。
「ウェンディ、あの・・・」
マックスは、ウェンディの顔を見た。ウェンディは喜びとも悲しみともつかぬ、複雑な表情をしている。
「なにがあったか、もう知っているのか?」
ウェンディは、マックスを見つめる。しばしの沈黙の後、ウェンディは、口を開いた。
「まずは、おめでとうって言った方がいいのかな?」
そう告げると、若干ひきつったような笑みを浮かべる。もともと、感情を表に出しやすい性格のウェンディだ。彼女が、無理をしているのは誰の目にも明らかだった。
「わかんねえな。兄ちゃんたちには、おめでとうって言えるけど」
マックスは答える。
「ただ、おれにとってはお前も大事な友達だし、お前の考えていることも大事だと思っている。でも、おれは結局兄ちゃんたちがやりたい方を選んだ。おれは、お前にとって許せないことをしたかもしれないけどよ」
マックスは、ウェンディの目を真っ直ぐ見つめながら話していく。ウェンディも、マックスの方を向いていた。やがて、ウェンディの目から涙が溢れ出す。
「ルーファスさんとナグモさんは、死んじゃったんだよね・・・」
ウェンディは、泣きながら話していた。
「ああ、おれたちが倒した。おれたちは、この結末が正しいと思ったからだ。ただ、おれはあいつらのことを絶対に忘れない。あいつら、本当に強かったしな。お前が、本気で入れ込んだのも分かるやつらだったよ」
ウェンディはしばらく、泣いていた。マックスは、そんなウェンディの傍らに立っていた。やがて、小さな声でウェンディが呟く。
「マックス・・・」
マックスは、黙ってウェンディの肩に手を置いた。マックスも、しんみりとした気分になっていた。
「マックス、ありがとう」
ウェンディが顔を上げ、マックスを向く。ウェンディは相変わらず泣いていたが、少しだけ笑顔を見せていた。マックスは、慌てて下を向く。もらい泣きをしそうになったためだ。
「ごめんな、これからもよろしく」
「終わったな」
崩落した城を見ながら、グレンがヨハンに語りかける。
「世話になった」
「お前とは長い付き合いだが・・・これが、始まりなんだろ?」
グレンの言葉に、ヨハンが頷く。
「ああ、お蔭で始められるよ。おれを」
グレンは、遠くを見つめた。
「そうだな・・・思えば、随分長い旅だった」
グレンはヨハンを向くと、にやりと笑う。
「最初に会ったときは、お前みたいな聞かん坊をどうしてやろうかと思ったよ」
ヨハンも、にやりと笑った
「最初に会ったときは、こんなわけのわからないやつ、どうしてくれようと思ったよ」
お互い笑った後、グレンは真顔に戻る。
「すまないな」
ヨハンが何か返そうとした時だった。
「キャプテン! グレンさーん!」
二人の耳に、聞きなれた声が飛び込んできた。近くにいたリアノも、顔を上げて声のする方角を向く。見れば、ヨキがボマーを連れて走ってきていた。ヨキは、泣き腫らしているのか真っ赤な目をしていた。
「キャプテエェェェン!!」
近づいてきたヨキは、感動のあまりかリアノに抱きつこうとする。リアノが軽く身をかわすと、ヨキは砂地に飛び込んだ。だが、すぐに身を起こすとリアノの方を向く。
「キャプテン、無事で何よりです!」
ヨキは涙を両手で拭っている。
「グレンサンモ、無事デ良カッタ」
近くにいたボマーも、グレンに語りかける。
「流石キャプテン! キャプテンたちならきっとやってくれるって、おれたちは信じていたんだ! ただ、魔族の群れと戦っている中で、船が・・・」
聞けば、船に残っていたヨキたちは、船全体を利用して戦っていたらしい。その結果、魔族を撃退することはできたものの、船はかなりのダメージを負ってしまったようだ。
「この前、改良したばかりのマストもまた壊れちまいましたし・・・申し訳ないです」
「まあ、みんなが無事だったんだから、良かったんじゃない。船は直そうと思えば、いくらでも直せるでしょ」
リアノが軽く笑いながら、返事をする。ヨキはそんなリアノの言葉に安堵したのか、また泣き始めた。
「グレンサン、ゴメン」
ボマーも、ぺこりと頭―もともと一頭身なので、分かりにくいがーを下げる。
「気にするな。それよりお前たちが無事でよかった」
グレンも軽く返す。と、また別の方角から向こうから声が聞こえてきた。
「おっ、『魔王』を倒した、英雄さんたちじゃないか」
マリアンナだ。
「あ、魔族の群れを倒した英雄さんじゃないか」
ヨハンがからかうように告げる。マリアンナはおどけたような表情を取った。
「いやあ、照れるなあ」
「あの剣士も、倒したようだな。サラサ、お前と仲間たちのお蔭だ」
スオウの声も、聞こえてくる。
「わたし一人では、無理でした。わたしは、わたしの力のなさをまた実感しました」
サラサが、呟く。
「わたしはもっと、強くならないと」
そんなサラサの肩に、スオウが手を置く。
「なに、お前は強くなったんだよ。ちょっとくらい、自慢してもばちは当たらねえぞ」
そう告げると、豪快に笑う。
「マックスさん、ウェンディさんは大丈夫ですか?」
いつの間にか、スオウの近くにいたパルテナが、ヨハンたちに尋ねる。
「おれたちだったら、ここだよ」
マックスが、近くの砂丘から顔を見せた。その後ろには、ウェンディもいる。
「お二方が無事なら、良かったです」
パルテナが、笑みを見せる。特に、ウェンディの顔を見て安心したようだった。
「神官の姉ちゃんも、世話になったな」
「わたしに出来ることは何もありませんでした。あなたのお蔭ですよ」
パルテナが、マックスにウィンクする。その近くで、マリアンナがヨハンに向けてにやりと笑った。
「ま、ともあれヨハン。わたしが言いたいことは一つある」
ヨハンの肩に手を置く。その表情が、少し真面目なものになった。
「お前は私の誇りだよ。出会えて、共に過ごすことが出来て本当に良かった」
ヨハンは、少し俯いた。思わぬ微笑みが出てしまい、恥ずかしかったのだろう。が、すぐにいつもの笑みを浮かべる。
「期待には答えられたかな、師匠?」
「もちろんだよ。だから」
マリアンナは、少し恥ずかしそうな表情をした。マリアンナが、恥ずかしい表情を取る。それは天地鳴動級の出来事であった。ヨハンは、慌てて姿勢を正すと、緊張した面持ちになる。マリアンナは、口を開いた。
「だから、一緒に車椅子を作り直してくれ」
一瞬、マリアンナの話したことが理解できなかった。が、ヨハンはすぐに苦笑する。
「まったく、手のかかる師匠だぜ」
その横で、スオウgがサラサに話しかける。
「サラサ、おれが最も嬉しいと思うことは二つある。一つが、ミヤビみたいな素敵な女性と出会い、共に過ごせたこと。もう一つが、お前みたいな娘が生まれてきてくれたことだ。ありがとう」
崩落した城を見ながら、グレンがヨハンに語りかける。
「世話になった」
「お前とは長い付き合いだが・・・これが、始まりなんだろ?」
グレンの言葉に、ヨハンが頷く。
「ああ、お蔭で始められるよ。おれを」
グレンは、遠くを見つめた。
「そうだな・・・思えば、随分長い旅だった」
グレンはヨハンを向くと、にやりと笑う。
「最初に会ったときは、お前みたいな聞かん坊をどうしてやろうかと思ったよ」
ヨハンも、にやりと笑った
「最初に会ったときは、こんなわけのわからないやつ、どうしてくれようと思ったよ」
お互い笑った後、グレンは真顔に戻る。
「すまないな」
ヨハンが何か返そうとした時だった。
「キャプテン! グレンさーん!」
二人の耳に、聞きなれた声が飛び込んできた。近くにいたリアノも、顔を上げて声のする方角を向く。見れば、ヨキがボマーを連れて走ってきていた。ヨキは、泣き腫らしているのか真っ赤な目をしていた。
「キャプテエェェェン!!」
近づいてきたヨキは、感動のあまりかリアノに抱きつこうとする。リアノが軽く身をかわすと、ヨキは砂地に飛び込んだ。だが、すぐに身を起こすとリアノの方を向く。
「キャプテン、無事で何よりです!」
ヨキは涙を両手で拭っている。
「グレンサンモ、無事デ良カッタ」
近くにいたボマーも、グレンに語りかける。
「流石キャプテン! キャプテンたちならきっとやってくれるって、おれたちは信じていたんだ! ただ、魔族の群れと戦っている中で、船が・・・」
聞けば、船に残っていたヨキたちは、船全体を利用して戦っていたらしい。その結果、魔族を撃退することはできたものの、船はかなりのダメージを負ってしまったようだ。
「この前、改良したばかりのマストもまた壊れちまいましたし・・・申し訳ないです」
「まあ、みんなが無事だったんだから、良かったんじゃない。船は直そうと思えば、いくらでも直せるでしょ」
リアノが軽く笑いながら、返事をする。ヨキはそんなリアノの言葉に安堵したのか、また泣き始めた。
「グレンサン、ゴメン」
ボマーも、ぺこりと頭―もともと一頭身なので、分かりにくいがーを下げる。
「気にするな。それよりお前たちが無事でよかった」
グレンも軽く返す。と、また別の方角から向こうから声が聞こえてきた。
「おっ、『魔王』を倒した、英雄さんたちじゃないか」
マリアンナだ。
「あ、魔族の群れを倒した英雄さんじゃないか」
ヨハンがからかうように告げる。マリアンナはおどけたような表情を取った。
「いやあ、照れるなあ」
「あの剣士も、倒したようだな。サラサ、お前と仲間たちのお蔭だ」
スオウの声も、聞こえてくる。
「わたし一人では、無理でした。わたしは、わたしの力のなさをまた実感しました」
サラサが、呟く。
「わたしはもっと、強くならないと」
そんなサラサの肩に、スオウが手を置く。
「なに、お前は強くなったんだよ。ちょっとくらい、自慢してもばちは当たらねえぞ」
そう告げると、豪快に笑う。
「マックスさん、ウェンディさんは大丈夫ですか?」
いつの間にか、スオウの近くにいたパルテナが、ヨハンたちに尋ねる。
「おれたちだったら、ここだよ」
マックスが、近くの砂丘から顔を見せた。その後ろには、ウェンディもいる。
「お二方が無事なら、良かったです」
パルテナが、笑みを見せる。特に、ウェンディの顔を見て安心したようだった。
「神官の姉ちゃんも、世話になったな」
「わたしに出来ることは何もありませんでした。あなたのお蔭ですよ」
パルテナが、マックスにウィンクする。その近くで、マリアンナがヨハンに向けてにやりと笑った。
「ま、ともあれヨハン。わたしが言いたいことは一つある」
ヨハンの肩に手を置く。その表情が、少し真面目なものになった。
「お前は私の誇りだよ。出会えて、共に過ごすことが出来て本当に良かった」
ヨハンは、少し俯いた。思わぬ微笑みが出てしまい、恥ずかしかったのだろう。が、すぐにいつもの笑みを浮かべる。
「期待には答えられたかな、師匠?」
「もちろんだよ。だから」
マリアンナは、少し恥ずかしそうな表情をした。マリアンナが、恥ずかしい表情を取る。それは天地鳴動級の出来事であった。ヨハンは、慌てて姿勢を正すと、緊張した面持ちになる。マリアンナは、口を開いた。
「だから、一緒に車椅子を作り直してくれ」
一瞬、マリアンナの話したことが理解できなかった。が、ヨハンはすぐに苦笑する。
「まったく、手のかかる師匠だぜ」
その横で、スオウgがサラサに話しかける。
「サラサ、おれが最も嬉しいと思うことは二つある。一つが、ミヤビみたいな素敵な女性と出会い、共に過ごせたこと。もう一つが、お前みたいな娘が生まれてきてくれたことだ。ありがとう」
「そうそう、ヨハン。お前と話しておきたいことがあった。今後のことだ」
マリアンナが口を開く。
「わたしは、みんなと一緒にノームコプに戻った後、ウノーヴァに再度向かおうと思っている。この土地は面白そうだからな。ヨハンはどうだ?」
マリアンナらしい言葉に、ヨハンは軽く笑う。
「やっぱり、師匠だな。ただ、師匠の提案はありがたいけど、おれは」
ヨハンはそこで言葉を考えるように沈黙すると、マリアンナの方を向いた。
「おれはこのあと少ししたら、しばらく一人で旅に出ようと思っている」
その言葉に驚いたのは、マリアンナではなく後ろにいるマックスだった。
「本当かよ、兄ちゃん?」
マックスの言葉に、ヨハンは頷く。
「ほら、おれは今まで『魔王』ルーファスを生き返らせるためだけに、他人の都合で踊ってきたわけだろ? だから、歩いていきたいんだよ。自分の足で」
「ま、一人がいいと思うのなら、それもいいと思うよ。まだまだ、わたしたちの人生は長いんだから」
マリアンナは、いつもよりいくらか優しげな口調で、ヨハンに告げた。
「そうだぜ、まだどこかで会うかもしれないしな」
マックスも同意する。ヨハンも頷くと、にやりとマリアンナを見た。
「ただ、あんたはおれの両親が死んでから、親同前に色々と面倒を見てくれた。感謝してるし、あんたがしてくれたことは、一生忘れない。だからもし、おれになんか頼みがあるなら読んでくれ。世界のどこにいても、必ず駆けつけるよ」
その近くで、スオウもサラサに話しかけていた。
「ちなみにサラサ。おれもマリアンナさん、それとパの三人で出かけようと思っている。おれは前も言ったようにウノーヴァにある五つの橋、『ウノーヴァ五橋』を見ることが目標なんだ。だから、道場のことは申し訳ないが、おれはもうしばらくウノーヴァにいる。サラサはどうする?」
「父上がそのまま旅を続けることは分かっていました。わたしは、ノームコプに戻ろうと思います。道場も長い間空けていましたし、ずっと住んでいたアサギがどうなっているのかも気になりますからね」
真面目なサラサらしい、答えであった。
「サラサ、お前は戻るんだな?」
横からヨハンが確認してくる。ヨハンが人の予定を気にするのは、珍しいことだった。だが、サラサはその内容になんとなく察しがついていた。
「戻るけど」
「道場には顔を出すんだよな?」
「顔を出すも何も、そこの師範だから」
何かを更に言いかけようとする、ヨハンを制し、サラサが続ける。
「あの子のことは、任せておいて」
その言葉に、ヨハンは頷く。
「おれの友達は、頼んだ」
「何をいまさら」
そんな当たり前のこと、気にする必要はない。サラサの瞳はそう語っていた。
「鍛えれば、伸びる見込みのあるやつだったしな」
マックスが、頷く。
「ま、強くなれるとは思わないけどな」
ヨハンが、にやりと笑う。いつもの笑みだ。
「兄ちゃんは、また」
マックスが、呆れたように笑う。その話を聞いた全員も、笑っていた。
「よし、じゃあみんな、船に戻ろう」
マリアンナの一言で、皆はフェンネルの待つ、船へと向かい始めた。まもなく、船が見えてくる。確かに、船は酷い惨状になっていた。さらながら、かつてヒィッツカラルドに襲われた時のようだ。マストは倒れ、船室に穴は開き、倉庫も荒らされている。水上に浮いているのが奇蹟なくらいで、移動させることは難しいだろう。リアノの目には、十分な資材があったとして、修理にひと月くらいかかると思われた。常人であれば、これからの修理を考え気が重くなるところだろう。しかし、そうでない人間もいた。
「グレン、やるしかあるまい」
ヨハンが、楽しげな声で傍らのグレンに告げる。
「からくり士グレンの最高の力を見せろと言うことか・・・やってやるぜ」
グレンも、瞳を輝かせていた。錬金術師やからくり士にとって、船の再建はご褒美のようなものであったようだ。
「キャプテン、大丈夫ですかね?」
目を輝かせている二人を見ながら、ヨキがリアノに囁く。
「そうね・・・後で、わたしたちの方針を決めるわ」
と、サラサがグレンに話しかけた。少し笑っている。
「気合が入るのはいいんだけど、もう歳なんだから」
「サラサまで、それを言うかあ・・・」
グレンが嘆息する。皆、爆笑していた。
「サラサ、情熱に歳は関係ない」
ひとしきり笑った後、ヨハンが告げる。マックスも頷く。
「そうだぜ、おれだって80歳になってもデストラクションと一緒だからな!」
情熱がないと、デストラクションと一緒にいられないのだろうか。そんな疑問の横で、スオウが二人に同意する。
「そうだ、歳は関係ない」
「流石ライオン仮面、いいこと言うぜ!」
マックスが、上機嫌で答える。
「だろ。世の中やる気だからな」
ヨハンとマックスが頷く。そんな二人を見ながら、リアノがヨキに耳打ちした。
「ヨハンは監視しておいてね」
「任せて下さい! 何かあったら、ボマーを起動するので!」
翌日、川でおぼれかけているヨキが発見されることになったが、関係性は定かではない。
マリアンナが口を開く。
「わたしは、みんなと一緒にノームコプに戻った後、ウノーヴァに再度向かおうと思っている。この土地は面白そうだからな。ヨハンはどうだ?」
マリアンナらしい言葉に、ヨハンは軽く笑う。
「やっぱり、師匠だな。ただ、師匠の提案はありがたいけど、おれは」
ヨハンはそこで言葉を考えるように沈黙すると、マリアンナの方を向いた。
「おれはこのあと少ししたら、しばらく一人で旅に出ようと思っている」
その言葉に驚いたのは、マリアンナではなく後ろにいるマックスだった。
「本当かよ、兄ちゃん?」
マックスの言葉に、ヨハンは頷く。
「ほら、おれは今まで『魔王』ルーファスを生き返らせるためだけに、他人の都合で踊ってきたわけだろ? だから、歩いていきたいんだよ。自分の足で」
「ま、一人がいいと思うのなら、それもいいと思うよ。まだまだ、わたしたちの人生は長いんだから」
マリアンナは、いつもよりいくらか優しげな口調で、ヨハンに告げた。
「そうだぜ、まだどこかで会うかもしれないしな」
マックスも同意する。ヨハンも頷くと、にやりとマリアンナを見た。
「ただ、あんたはおれの両親が死んでから、親同前に色々と面倒を見てくれた。感謝してるし、あんたがしてくれたことは、一生忘れない。だからもし、おれになんか頼みがあるなら読んでくれ。世界のどこにいても、必ず駆けつけるよ」
その近くで、スオウもサラサに話しかけていた。
「ちなみにサラサ。おれもマリアンナさん、それとパの三人で出かけようと思っている。おれは前も言ったようにウノーヴァにある五つの橋、『ウノーヴァ五橋』を見ることが目標なんだ。だから、道場のことは申し訳ないが、おれはもうしばらくウノーヴァにいる。サラサはどうする?」
「父上がそのまま旅を続けることは分かっていました。わたしは、ノームコプに戻ろうと思います。道場も長い間空けていましたし、ずっと住んでいたアサギがどうなっているのかも気になりますからね」
真面目なサラサらしい、答えであった。
「サラサ、お前は戻るんだな?」
横からヨハンが確認してくる。ヨハンが人の予定を気にするのは、珍しいことだった。だが、サラサはその内容になんとなく察しがついていた。
「戻るけど」
「道場には顔を出すんだよな?」
「顔を出すも何も、そこの師範だから」
何かを更に言いかけようとする、ヨハンを制し、サラサが続ける。
「あの子のことは、任せておいて」
その言葉に、ヨハンは頷く。
「おれの友達は、頼んだ」
「何をいまさら」
そんな当たり前のこと、気にする必要はない。サラサの瞳はそう語っていた。
「鍛えれば、伸びる見込みのあるやつだったしな」
マックスが、頷く。
「ま、強くなれるとは思わないけどな」
ヨハンが、にやりと笑う。いつもの笑みだ。
「兄ちゃんは、また」
マックスが、呆れたように笑う。その話を聞いた全員も、笑っていた。
「よし、じゃあみんな、船に戻ろう」
マリアンナの一言で、皆はフェンネルの待つ、船へと向かい始めた。まもなく、船が見えてくる。確かに、船は酷い惨状になっていた。さらながら、かつてヒィッツカラルドに襲われた時のようだ。マストは倒れ、船室に穴は開き、倉庫も荒らされている。水上に浮いているのが奇蹟なくらいで、移動させることは難しいだろう。リアノの目には、十分な資材があったとして、修理にひと月くらいかかると思われた。常人であれば、これからの修理を考え気が重くなるところだろう。しかし、そうでない人間もいた。
「グレン、やるしかあるまい」
ヨハンが、楽しげな声で傍らのグレンに告げる。
「からくり士グレンの最高の力を見せろと言うことか・・・やってやるぜ」
グレンも、瞳を輝かせていた。錬金術師やからくり士にとって、船の再建はご褒美のようなものであったようだ。
「キャプテン、大丈夫ですかね?」
目を輝かせている二人を見ながら、ヨキがリアノに囁く。
「そうね・・・後で、わたしたちの方針を決めるわ」
と、サラサがグレンに話しかけた。少し笑っている。
「気合が入るのはいいんだけど、もう歳なんだから」
「サラサまで、それを言うかあ・・・」
グレンが嘆息する。皆、爆笑していた。
「サラサ、情熱に歳は関係ない」
ひとしきり笑った後、ヨハンが告げる。マックスも頷く。
「そうだぜ、おれだって80歳になってもデストラクションと一緒だからな!」
情熱がないと、デストラクションと一緒にいられないのだろうか。そんな疑問の横で、スオウが二人に同意する。
「そうだ、歳は関係ない」
「流石ライオン仮面、いいこと言うぜ!」
マックスが、上機嫌で答える。
「だろ。世の中やる気だからな」
ヨハンとマックスが頷く。そんな二人を見ながら、リアノがヨキに耳打ちした。
「ヨハンは監視しておいてね」
「任せて下さい! 何かあったら、ボマーを起動するので!」
翌日、川でおぼれかけているヨキが発見されることになったが、関係性は定かではない。
こうして、ヨハンたちは船の修理を始める。同時に、別れもあった。パルテナとフェンネルだ。大神官であるパルテナは、『豊穣の社』に。フェンネルは故郷のストリーアトンにそれぞれ戻ると話し、共に去っていった。
「では、ごきげんよう」
そう告げて別れようとしたパルテナであったが、何かを思い出したようにマックスの方へと向かう。
「マックスさん、ウェンディさんと一番仲のいいあなたに、最後の頼みがあります」
「おう、なんだよ」
マックスも、応じる。
「ウェンディさんはこれから、自分の中にある気持ちを整理していくことになります。その際、色々な苦難に直面すると思いますが、もしよろしければ、それを見守ってあげて下さい。明るく優しい、あなたならできると思います」
「言われなくても、おれはしばらくあいつと一緒にいるよ。あいつの気持ちが落ち着くまでな。そうしたら、あいつもやりたい自分をみつけられるよ。兄ちゃんみたいに。おれは、それを見届けるよ」
マックスは、親指を立てる。
「なんてったって、あいつはデストラクションになれるやつだからな!」
パルテナは、怪訝な顔をしていたが、気を取り直すとヨハンたちに別れを告げ、去っていった。。
「では、ごきげんよう」
そう告げて別れようとしたパルテナであったが、何かを思い出したようにマックスの方へと向かう。
「マックスさん、ウェンディさんと一番仲のいいあなたに、最後の頼みがあります」
「おう、なんだよ」
マックスも、応じる。
「ウェンディさんはこれから、自分の中にある気持ちを整理していくことになります。その際、色々な苦難に直面すると思いますが、もしよろしければ、それを見守ってあげて下さい。明るく優しい、あなたならできると思います」
「言われなくても、おれはしばらくあいつと一緒にいるよ。あいつの気持ちが落ち着くまでな。そうしたら、あいつもやりたい自分をみつけられるよ。兄ちゃんみたいに。おれは、それを見届けるよ」
マックスは、親指を立てる。
「なんてったって、あいつはデストラクションになれるやつだからな!」
パルテナは、怪訝な顔をしていたが、気を取り直すとヨハンたちに別れを告げ、去っていった。。
ともあれ、ヨハンたちは精力的に船を復旧させていった。ヨキが七回ほど川で溺れかけたり、それを見て爆笑していたヨハンが後日、砂地に突き刺さっていたりと謎の事故が多発したものの、5月の初めには船は元通りになっていた。
「このまま、南下しよう」
マリアンナが告げる。どうやら、このあたりの地形について召喚士のエミリーと伝書ガラスを用いて連絡していたようだった。
「この砂漠の南に、キャステリアと呼ばれる街がある。なんでも、ウノーヴァ最大級の都市らしい。エミリーはその街と近くにあるギルマンの街、ナクネーレを交互に行き来しているようだ。まずはこの、キャステリアを目指すことにする」
そう告げ、川を南に下っていく。ヨハンたちが、キャステリアへと到着したのは6月のことだった。
「このまま、南下しよう」
マリアンナが告げる。どうやら、このあたりの地形について召喚士のエミリーと伝書ガラスを用いて連絡していたようだった。
「この砂漠の南に、キャステリアと呼ばれる街がある。なんでも、ウノーヴァ最大級の都市らしい。エミリーはその街と近くにあるギルマンの街、ナクネーレを交互に行き来しているようだ。まずはこの、キャステリアを目指すことにする」
そう告げ、川を南に下っていく。ヨハンたちが、キャステリアへと到着したのは6月のことだった。
キャステリアは、大きな街だった。何より、高い建物が多い。ノームコプにもない、塔のような建物が数多くそびえ立っている。船で遠くから見ていた時も大きいと感じてはいたが、近くで見るとその摩天楼には驚嘆せざるを得ない。
「この街の入り口で、エミリーたちと待ち合わせているのだが・・・それにしても、大きいな」
マリアンナが感歎するような声を上げる。錬金術師でもある彼女は、この街の建造物に興味があるようだった。と、そんなマリアンナに話しかける女性がいた。
「この街の建築物は、数百年も昔から存在していたようです。ただ、その分老朽化も進んでいるので、最近はまた錬金術や建築の技術を使って、少しずつ新しい建物になっているみたいですよ。本当に、凄いですよね」
赤い髪を一つに結び、ひよこによく似たからくりを抱えている。エミリーの友人である、マミだった。ヨハンたちと再会できたことがうれしいのか、その顔は満面の笑みを浮かべている。
「みなさん、お久しぶりです。そして何より、このウノーヴァを救ってくださり、ありがとうございます!」
マミが、深々とお辞儀する。
「なに、救ったのはついでさ」
グレンが、あっさりとして口調で述べた。
「若干一名の用事がてら、救っただけのことだからな」
「そうだとしても、あなた方がやり遂げたことは素晴らしいことなのですから、お礼ぐらいは言わせてください」
マミは、再び笑みを見せ、答える。そんなマミに対し、ティボルトが口を開いた。
「あれ、エミリーは?」
マミの目が、少し泳いだ。
「その・・・なんというか・・・」
どうやら、ギルマンのカルロスが通りすがりの女性にセクハラしたらしく、今現在も説教をしているらしい。
「イギーとザビーも待っていますし、積もり積もる話も聞きたいので、エミリーのもとへお連れしますね」
「この街の入り口で、エミリーたちと待ち合わせているのだが・・・それにしても、大きいな」
マリアンナが感歎するような声を上げる。錬金術師でもある彼女は、この街の建造物に興味があるようだった。と、そんなマリアンナに話しかける女性がいた。
「この街の建築物は、数百年も昔から存在していたようです。ただ、その分老朽化も進んでいるので、最近はまた錬金術や建築の技術を使って、少しずつ新しい建物になっているみたいですよ。本当に、凄いですよね」
赤い髪を一つに結び、ひよこによく似たからくりを抱えている。エミリーの友人である、マミだった。ヨハンたちと再会できたことがうれしいのか、その顔は満面の笑みを浮かべている。
「みなさん、お久しぶりです。そして何より、このウノーヴァを救ってくださり、ありがとうございます!」
マミが、深々とお辞儀する。
「なに、救ったのはついでさ」
グレンが、あっさりとして口調で述べた。
「若干一名の用事がてら、救っただけのことだからな」
「そうだとしても、あなた方がやり遂げたことは素晴らしいことなのですから、お礼ぐらいは言わせてください」
マミは、再び笑みを見せ、答える。そんなマミに対し、ティボルトが口を開いた。
「あれ、エミリーは?」
マミの目が、少し泳いだ。
「その・・・なんというか・・・」
どうやら、ギルマンのカルロスが通りすがりの女性にセクハラしたらしく、今現在も説教をしているらしい。
「イギーとザビーも待っていますし、積もり積もる話も聞きたいので、エミリーのもとへお連れしますね」
エミリーは、ギルマンたちと共に、彼女たちが泊まっている宿屋で待っていた。
「久しぶりです」
エミリーは、軽く手を上げる。
「そして何より、この世界を救ってくださり、ありがとうございます」
エミリーもまた、頭を下げた。ただ、その顔はいくらか浮かない。
「何か、あったのか?」
怪訝な顔をして、ヨハンが尋ねる。
「そうなんです」
エミリーが頷く。
「わたしはあなた方に一つ、謝らないといけないことがあります」
ヨハンがにやりと笑った。
「すべては私の、計画通り」
「だといいんですけどね」
エミリーが、間髪入れずに返す。ヨハンとのやり取りが面白かったのか、一瞬だけ笑みが見えた。軽くため息をつくと、エミリーが続ける。
「久しぶりです」
エミリーは、軽く手を上げる。
「そして何より、この世界を救ってくださり、ありがとうございます」
エミリーもまた、頭を下げた。ただ、その顔はいくらか浮かない。
「何か、あったのか?」
怪訝な顔をして、ヨハンが尋ねる。
「そうなんです」
エミリーが頷く。
「わたしはあなた方に一つ、謝らないといけないことがあります」
ヨハンがにやりと笑った。
「すべては私の、計画通り」
「だといいんですけどね」
エミリーが、間髪入れずに返す。ヨハンとのやり取りが面白かったのか、一瞬だけ笑みが見えた。軽くため息をつくと、エミリーが続ける。
「わたしは、あなた方がウノーヴァに向かってから、一つだけ嘘の報告を流し続けていました。ノームコプに関してのことです。ノームコプは平和だと伝えていましたが、そんなことはありません。ノームコプは、あなた方が去ってから、今に至るまで、多くの人々が反乱を起こし、戦乱の状態になっています」
そして、サラサとセルモの方を向く。
「そして、一番申し訳にくいことなのですが、その反乱を起こしている一人が、あなた方の上司であるブースト・スターなのです」
そう告げると、エミリーはヨハンたちが去ってから今に至るまでのノームコプの状況を語り始めた。大将軍だったカタスト・レイサイトが反乱を起こしたこと、アサギの人々の平和を守るためブーストが反乱を起こしたこと、若手将校サン・ホーエンハイムも反乱を起こしたこと。それらの勢力が手を結び、ヒロズ国と戦いを起こしていること、などである。エミリーの話がひと段落すると、ヨハンたちの多くは、困惑した表情を取った。場の雰囲気も、少し重くなっている。
「やーいやーい、お前の上司、反逆者―」
唯一、場の雰囲気を明るくするかのようにヨハンが、はやし立てるようにサラサに話しかけていた。サラサはそんなヨハンの言葉を意に介せず、深刻そうな表情を取っている。
「他に、詳しい情報は?」
しばらく考え込んだ後、サラサが口を開いた。マックスも、それに同調する、
「そうだよ。反逆って言っても、どんなことなんだ?」
「一つだけ申し上げておくと、わたしはアキ殿下と共に、ヒロズ国を守る立場にいます。なので、話し方が少し公平ではないところもあるかもしれませんが、そこはご容赦ください」
そう告げると、エミリーはより詳しい話をし始めた。公平ではないと断ってはいたものの、エミリーが可能な限り中立な立場で話そうとしていることは感じられた。一通り話し終えると、エミリーは改めてヨハンたち一人一人の顔を見る。
「なので、あなた方は大きく三つの身の振り方があるとわたしは考えています。一つが、わたしやアキ殿下に協力してヒロズ国を守る道。もう一つが、ブーストのもとに行き、彼のもとに使える道。そして、もう一つが誰にも使えずにウノーヴァで過ごす道です。ノームコプに戻って、自由気ままに過ごしたい方もいるかもしれませんが、ノームコプはあちこちが戦場になっており、どこで戦いに巻き込まれるかわかりません。ましてや、あなた方は強い力を持っています。何がきっかけで、それが誰に伝わるかわかったものではありません」
エミリーはそこで一息つくと、すぐに口を開いた。
「で、わたしとしては、『魔王』ルーファスを倒すような力を持ったあなた方がブースト軍に加わることは好ましくありません。しかし、アキ殿下はルーファスを倒したり、ミリオンズを壊滅させる手助けをしてくれたりしたあなた方には大きな恩があると考えておいでです。なので、あなた方がブーストの元に戻りたいのであれば、それを助けてあげて欲しいと言われています。ですので、戻りたい場合は気兼ねなく言ってください」
おそらく、事前に何を伝えるかしっかり考えていたのであろう。エミリーの説明はよどみないものだった。
そして、サラサとセルモの方を向く。
「そして、一番申し訳にくいことなのですが、その反乱を起こしている一人が、あなた方の上司であるブースト・スターなのです」
そう告げると、エミリーはヨハンたちが去ってから今に至るまでのノームコプの状況を語り始めた。大将軍だったカタスト・レイサイトが反乱を起こしたこと、アサギの人々の平和を守るためブーストが反乱を起こしたこと、若手将校サン・ホーエンハイムも反乱を起こしたこと。それらの勢力が手を結び、ヒロズ国と戦いを起こしていること、などである。エミリーの話がひと段落すると、ヨハンたちの多くは、困惑した表情を取った。場の雰囲気も、少し重くなっている。
「やーいやーい、お前の上司、反逆者―」
唯一、場の雰囲気を明るくするかのようにヨハンが、はやし立てるようにサラサに話しかけていた。サラサはそんなヨハンの言葉を意に介せず、深刻そうな表情を取っている。
「他に、詳しい情報は?」
しばらく考え込んだ後、サラサが口を開いた。マックスも、それに同調する、
「そうだよ。反逆って言っても、どんなことなんだ?」
「一つだけ申し上げておくと、わたしはアキ殿下と共に、ヒロズ国を守る立場にいます。なので、話し方が少し公平ではないところもあるかもしれませんが、そこはご容赦ください」
そう告げると、エミリーはより詳しい話をし始めた。公平ではないと断ってはいたものの、エミリーが可能な限り中立な立場で話そうとしていることは感じられた。一通り話し終えると、エミリーは改めてヨハンたち一人一人の顔を見る。
「なので、あなた方は大きく三つの身の振り方があるとわたしは考えています。一つが、わたしやアキ殿下に協力してヒロズ国を守る道。もう一つが、ブーストのもとに行き、彼のもとに使える道。そして、もう一つが誰にも使えずにウノーヴァで過ごす道です。ノームコプに戻って、自由気ままに過ごしたい方もいるかもしれませんが、ノームコプはあちこちが戦場になっており、どこで戦いに巻き込まれるかわかりません。ましてや、あなた方は強い力を持っています。何がきっかけで、それが誰に伝わるかわかったものではありません」
エミリーはそこで一息つくと、すぐに口を開いた。
「で、わたしとしては、『魔王』ルーファスを倒すような力を持ったあなた方がブースト軍に加わることは好ましくありません。しかし、アキ殿下はルーファスを倒したり、ミリオンズを壊滅させる手助けをしてくれたりしたあなた方には大きな恩があると考えておいでです。なので、あなた方がブーストの元に戻りたいのであれば、それを助けてあげて欲しいと言われています。ですので、戻りたい場合は気兼ねなく言ってください」
おそらく、事前に何を伝えるかしっかり考えていたのであろう。エミリーの説明はよどみないものだった。
しばしの沈黙の後、最初に口を開いたのはスオウだった。
「なかなか、面倒なことになっているんだな」
「戦争かよ、今度は」
マックスも嫌気のさした顔で同意する。スオウはマックスの言葉に頷くと、話を続けた。
「だがまあ、そのあたりの大義がどうこうみたいな戦争は、おれの出る幕じゃないだろう。一刻も早く、ノームコプが平和になって欲しいとは思うがな。おれは、おれのやりたいことをしようと思う。だから、ウノーヴァに残る」
続いて口を開いたのは、マリアンナだった。
「わたしもこれは、ウノーヴァに残った方がよさそうだね。こういった面倒事は、あまり得意じゃないんだよ。元々、ウノーヴァに戻ろうとは思っていたし、エミリーの主君とかブーストに会ったら何を言われるかわからないからね」
その言い方に、エミリーが苦笑している。
「スオウとマリアンナさんが残るなら、おれも残るか」
そう告げたのは、パである。ただし、パは少し心残りがあるようだった。
「ただ、先に戻ったトニーさんとその子どもが、気になるんだよな。迷惑をかけちまったし」
そして、ヨハンたちの方を向く。
「もし誰か、ノームコプに戻ってトニーさんたちに会うことがあったら、あなたと出会えたお蔭で、おれは真人間に戻る機会を得ることができた。出会えて本当に良かった、と礼を言っていたと伝えてくれないか?」
パが口を閉じるのと同じくして、誰かが口を開いた。特徴的な、アルパカフェイスの男だ。
「おれは、セルモさんが行くところなら、どこにでもついて行きます! なにしろ、おれとセルモさんは『運命』と言う名の赤い糸で繋がれていますからね。セルモさんを困らせるような悪い虫がつかないよう、おれが見張りますよ!」
「だとさ」
アルパカの言葉に、グレンは呆れた顔でセルモを見た。隣にいたヨハンが、無言でボマーをセルモに渡している。グレンは、滔々とボマーの使い方を説明し始めた。そんな様子に苦笑しながら、ヨキが口を開く。
「キャプテン、おれもキャプテンについて行きます! また、キャサリンやアイリーンも集めて、みんなで航海しましょうぜ! それとグレンさん、お願いがあるんだ」
「なんだ?」
グレンが、怪訝な顔でヨキを見る。ヨキは、セルモの手にあるボマーを指さした。
「もしグレンさんさえよかったら、ボマーをしばらくおれに貸してくれないか? おれは何か月もこのボマーと一緒に過ごして、色々な機能を教わるうちに、すっかりこのからくりが気に入っちまったんだ。ボマーと一緒なら、どんな敵でも倒せるかもしれないって勇気ももらえるしな。頼む、グレンさん!」
ヨキは、お願いするかのようにグレンに対し両手を合わせる。グレンはにやりと笑うと、頷いた。
「いいか、からくりってのは一見すればただの機械だが、愛をこめれば生き物と何ら変わりはない。きっちり使ってやってくれ」
「そうだ、機械だって気合いだよな!」
マックスが、良くわからない理由を並べながら、ボマーを手に持ち叩き始める。何か、スイッチの入る音がした。
「あれ?」
マックスとゴリラが凍りつく。間もなく、爆音が鳴り響いた、
「まあ、こうやって使うんだ。ちゃんと、愛のこもった接し方をしてくれよ」
爆発で吹き飛ばされたマックスを見ながら、グレンがヨキに頷く。ヨキも頷き返した。
「分かってますぜ!」
この後どうするか、次々と仲間たちが決めていく。そんな中で、一人だけ何も言わない人物がいた。ウェンディだ。ウェンディは暗い顔をして、どこか遠くを眺めている。ウェンディは以前より立ち直りつつあるものの、ルーファスの死をまだ乗り越えきれていなかった。
「ウェンディ、大丈夫だよ」
そんなウェンディが気になったのだろう。マックスが、声をかける。
「今はまだ、そんな難しいこと考えなくていいって。色々なところ行こうぜ。なんか大変なこともあるかもしれないけど、おれもお前も強いしさ。別に、旅することに苦労はしないよ。ゆっくり考えていこうぜ、色々とよ」
「そうだね、マックス」
ウェンディは、顔を上げて答える。少しまだ、無理をしている感じがあった。
「でも、マックスは戻らなくていいの?」
「戻るって?」
「故郷とか」
マックスは、少し考え込んだ。確かに、故郷はあるにはある。しかし、マックスは特に故郷に戻ろうとは考えていなかった。もともと、気の赴くまま、好奇心の示すとおりに生きてきたのである。
「ウェンディは、どこか見てみたいところはあるか?」
「見たいところ・・・」
ウェンディは、少し考え込む表情をした。元々、マックス並の好奇心を持つ少女である。実は、見てみたいところが数多くあってもおかしくはない。マックスは、そんな悩んでいるウェンディに再び声をかけた。
「なかなか思いつかないか。じゃあ、おれがデストラクションと最初に出会った森に行こうぜ」
「森?」
ウェンディが尋ね返す。マックスは頷いた。
「あの辺はそもそも、人もあんまりいないからな。多分、戦争にもあんまり巻き込まれていないよ。あの森はいろんな動物がいっぱいいてよ、おれはその中でもゴリラが一番格好いいと思ったんだ」
ホウエン地方南部にある密林地帯、そこがマックスとデストラクションの出会った場所であった。あのゴリラ溢れる森はいつだってマックスにゴリラパワーをもたらしてくれた。耳を閉じれば、あの場で聞いたゴリラたちの遠吠えが聞こえてくる気がする。最高の森だった。マックスはその森を思い出し、軽く興奮した声を上げた。そんなマックスに、ウェンディは軽く笑みを見せた。
「そうだね、ゴリラは格好いいからね。デストラクションもいるし」
どこからともなく現れたデストラクションが、大きく頷く。そして弾けた。
「よし!」
マックスが頷く。そして、再びウェンディを見た。
「だから、おれはひとまずそこに行きたいな。だから、お前も一緒に行こうぜ。そうしたら、また他のところも見たくなるだろう。もう、昔のことは思い出したんだからさ。新しいことを知っていこうぜ。そんな中で、これからどうしていくかを考えていけばいいんだよ」
ウェンディは、再び微笑んだ。
「わかった、じゃあ、まずはその森に向かおう」
「じゃあ、キャプテンに頼まないとな」
マックスはそう告げると、リアノに話し始める。
「あのさ、おれが行きたいところなんだけど、森があって、その近くにでかい川があるんだよ。で、この川の麓の・・・」
「いや、わけわかんないから」
「なかなか、面倒なことになっているんだな」
「戦争かよ、今度は」
マックスも嫌気のさした顔で同意する。スオウはマックスの言葉に頷くと、話を続けた。
「だがまあ、そのあたりの大義がどうこうみたいな戦争は、おれの出る幕じゃないだろう。一刻も早く、ノームコプが平和になって欲しいとは思うがな。おれは、おれのやりたいことをしようと思う。だから、ウノーヴァに残る」
続いて口を開いたのは、マリアンナだった。
「わたしもこれは、ウノーヴァに残った方がよさそうだね。こういった面倒事は、あまり得意じゃないんだよ。元々、ウノーヴァに戻ろうとは思っていたし、エミリーの主君とかブーストに会ったら何を言われるかわからないからね」
その言い方に、エミリーが苦笑している。
「スオウとマリアンナさんが残るなら、おれも残るか」
そう告げたのは、パである。ただし、パは少し心残りがあるようだった。
「ただ、先に戻ったトニーさんとその子どもが、気になるんだよな。迷惑をかけちまったし」
そして、ヨハンたちの方を向く。
「もし誰か、ノームコプに戻ってトニーさんたちに会うことがあったら、あなたと出会えたお蔭で、おれは真人間に戻る機会を得ることができた。出会えて本当に良かった、と礼を言っていたと伝えてくれないか?」
パが口を閉じるのと同じくして、誰かが口を開いた。特徴的な、アルパカフェイスの男だ。
「おれは、セルモさんが行くところなら、どこにでもついて行きます! なにしろ、おれとセルモさんは『運命』と言う名の赤い糸で繋がれていますからね。セルモさんを困らせるような悪い虫がつかないよう、おれが見張りますよ!」
「だとさ」
アルパカの言葉に、グレンは呆れた顔でセルモを見た。隣にいたヨハンが、無言でボマーをセルモに渡している。グレンは、滔々とボマーの使い方を説明し始めた。そんな様子に苦笑しながら、ヨキが口を開く。
「キャプテン、おれもキャプテンについて行きます! また、キャサリンやアイリーンも集めて、みんなで航海しましょうぜ! それとグレンさん、お願いがあるんだ」
「なんだ?」
グレンが、怪訝な顔でヨキを見る。ヨキは、セルモの手にあるボマーを指さした。
「もしグレンさんさえよかったら、ボマーをしばらくおれに貸してくれないか? おれは何か月もこのボマーと一緒に過ごして、色々な機能を教わるうちに、すっかりこのからくりが気に入っちまったんだ。ボマーと一緒なら、どんな敵でも倒せるかもしれないって勇気ももらえるしな。頼む、グレンさん!」
ヨキは、お願いするかのようにグレンに対し両手を合わせる。グレンはにやりと笑うと、頷いた。
「いいか、からくりってのは一見すればただの機械だが、愛をこめれば生き物と何ら変わりはない。きっちり使ってやってくれ」
「そうだ、機械だって気合いだよな!」
マックスが、良くわからない理由を並べながら、ボマーを手に持ち叩き始める。何か、スイッチの入る音がした。
「あれ?」
マックスとゴリラが凍りつく。間もなく、爆音が鳴り響いた、
「まあ、こうやって使うんだ。ちゃんと、愛のこもった接し方をしてくれよ」
爆発で吹き飛ばされたマックスを見ながら、グレンがヨキに頷く。ヨキも頷き返した。
「分かってますぜ!」
この後どうするか、次々と仲間たちが決めていく。そんな中で、一人だけ何も言わない人物がいた。ウェンディだ。ウェンディは暗い顔をして、どこか遠くを眺めている。ウェンディは以前より立ち直りつつあるものの、ルーファスの死をまだ乗り越えきれていなかった。
「ウェンディ、大丈夫だよ」
そんなウェンディが気になったのだろう。マックスが、声をかける。
「今はまだ、そんな難しいこと考えなくていいって。色々なところ行こうぜ。なんか大変なこともあるかもしれないけど、おれもお前も強いしさ。別に、旅することに苦労はしないよ。ゆっくり考えていこうぜ、色々とよ」
「そうだね、マックス」
ウェンディは、顔を上げて答える。少しまだ、無理をしている感じがあった。
「でも、マックスは戻らなくていいの?」
「戻るって?」
「故郷とか」
マックスは、少し考え込んだ。確かに、故郷はあるにはある。しかし、マックスは特に故郷に戻ろうとは考えていなかった。もともと、気の赴くまま、好奇心の示すとおりに生きてきたのである。
「ウェンディは、どこか見てみたいところはあるか?」
「見たいところ・・・」
ウェンディは、少し考え込む表情をした。元々、マックス並の好奇心を持つ少女である。実は、見てみたいところが数多くあってもおかしくはない。マックスは、そんな悩んでいるウェンディに再び声をかけた。
「なかなか思いつかないか。じゃあ、おれがデストラクションと最初に出会った森に行こうぜ」
「森?」
ウェンディが尋ね返す。マックスは頷いた。
「あの辺はそもそも、人もあんまりいないからな。多分、戦争にもあんまり巻き込まれていないよ。あの森はいろんな動物がいっぱいいてよ、おれはその中でもゴリラが一番格好いいと思ったんだ」
ホウエン地方南部にある密林地帯、そこがマックスとデストラクションの出会った場所であった。あのゴリラ溢れる森はいつだってマックスにゴリラパワーをもたらしてくれた。耳を閉じれば、あの場で聞いたゴリラたちの遠吠えが聞こえてくる気がする。最高の森だった。マックスはその森を思い出し、軽く興奮した声を上げた。そんなマックスに、ウェンディは軽く笑みを見せた。
「そうだね、ゴリラは格好いいからね。デストラクションもいるし」
どこからともなく現れたデストラクションが、大きく頷く。そして弾けた。
「よし!」
マックスが頷く。そして、再びウェンディを見た。
「だから、おれはひとまずそこに行きたいな。だから、お前も一緒に行こうぜ。そうしたら、また他のところも見たくなるだろう。もう、昔のことは思い出したんだからさ。新しいことを知っていこうぜ。そんな中で、これからどうしていくかを考えていけばいいんだよ」
ウェンディは、再び微笑んだ。
「わかった、じゃあ、まずはその森に向かおう」
「じゃあ、キャプテンに頼まないとな」
マックスはそう告げると、リアノに話し始める。
「あのさ、おれが行きたいところなんだけど、森があって、その近くにでかい川があるんだよ。で、この川の麓の・・・」
「いや、わけわかんないから」
リアノが持ち出してきた海図をもとに、マックスが頑張ってその森を見つけ出そうとしている。そんな光景を横に見ながら、エミリーが口を開いた。
「じゃあ、マリアンナさんと、スオウさん、それにパさん以外の人たちは、船でブーストのもとへ戻るんですね。分かりました。ここからですと、船で真っ直ぐ南下していけばポケトピア近くの海岸にたどり着くことができるはずです。ただ、二か月半近くかかるので、到着は9月ごろになってしまうと思いますが」
エミリーはそう告げると、少し考え込んだ。
「・・・それと、これはわたしの独断ですが、皆様にお願いしたいことがあります。この手紙を、ブーストさんに届けていただけませんか?」
そう告げると、エミリーは近くの机の引き出しを開け、厳重に封がされた手紙を、セルモに渡した。
「この書類の中身は、アキ殿下とブーストさんの間で同盟が結べないかとの提案が書かれています」
エミリーは、ヨハンたち一人一人の顔を見た。
「わたしはこのウノーヴァの地から、ノームコプを眺めてきました。ノームコプには今、三つの反乱軍が存在します。カタスト軍、サン軍、そしてブースト軍です。彼らはいずれも世直しを訴え、それぞれ共闘関係にありますが、このうちブースト軍とサン軍。この二つに軍閥はあくまでも腐敗した官僚の根絶や民の平和を求めており、ヒロズ国を守ろうとの考えか我らと同じです。ですから、しっかりとしたきっかけさえあれば協力可能だとわたしは考えています。そして、そのきっかけこそが、あなたたちだとわたしは考えています。本来、こういった書類の中身は告げるべきではないかもしれませんが、皆様は十分に信頼がおける仲間だと、わたし個人は思っています。わたしはこれから殿下を説得するので、もしよろしければ、皆様はブーストさんを説得するお手伝いをしていただけないでしょうか」
エミリーの目が、いつになく熱を帯びている。おそらく、ずっと考えてきたことなのであろう。ヨハンが、頭を掻きながら答える。エミリーの頼みだから聞いているとはいえ、そこまで興味はないのだろう。
「まあ、好きにすればいいんじゃないの」
他のみんなも同意見の様だった。少なくとも、反対する人間はいない。ブーストもエミリーも悪い人間ではない、そう考えているからだろう。
「わかりました。それでは自分の体験も踏まえながら、ないい具合になるよう口添えはしておきます」
手紙を受け取ったセルモが、微笑みながら答える。エミリーは、そんなセルモの手をつかみ、嬉しそうな声を上げる。
「ありがとうございます」
「よくわからないけど、仲たがいしているやつらがまた話し合うってわけなんだろ?」
マックスが尋ねる。エミリーは頷いた。
「そういうことです」
「じゃあ、それはいいことだな。それが出来ずに終わっちまったこともあるわけだし」
マックスの頭の中には、ルーファスの姿がよぎる。別に、ルーファスは悪人ではない。しかし、彼とは仲よくすることはできなかった。目指す方向が、違ったためだ。結果、ルーファスは死にウェンディは落ち込んでいる。この結果が間違っていると思ったことはないが、不要な戦いがなくなるなら、それに越したことはない。
「ま、手紙の案件はこれで問題ないだろう」
グレンが頷く。エミリーは頭を下げた。
「よろしく、お願いします」
「じゃあ、マリアンナさんと、スオウさん、それにパさん以外の人たちは、船でブーストのもとへ戻るんですね。分かりました。ここからですと、船で真っ直ぐ南下していけばポケトピア近くの海岸にたどり着くことができるはずです。ただ、二か月半近くかかるので、到着は9月ごろになってしまうと思いますが」
エミリーはそう告げると、少し考え込んだ。
「・・・それと、これはわたしの独断ですが、皆様にお願いしたいことがあります。この手紙を、ブーストさんに届けていただけませんか?」
そう告げると、エミリーは近くの机の引き出しを開け、厳重に封がされた手紙を、セルモに渡した。
「この書類の中身は、アキ殿下とブーストさんの間で同盟が結べないかとの提案が書かれています」
エミリーは、ヨハンたち一人一人の顔を見た。
「わたしはこのウノーヴァの地から、ノームコプを眺めてきました。ノームコプには今、三つの反乱軍が存在します。カタスト軍、サン軍、そしてブースト軍です。彼らはいずれも世直しを訴え、それぞれ共闘関係にありますが、このうちブースト軍とサン軍。この二つに軍閥はあくまでも腐敗した官僚の根絶や民の平和を求めており、ヒロズ国を守ろうとの考えか我らと同じです。ですから、しっかりとしたきっかけさえあれば協力可能だとわたしは考えています。そして、そのきっかけこそが、あなたたちだとわたしは考えています。本来、こういった書類の中身は告げるべきではないかもしれませんが、皆様は十分に信頼がおける仲間だと、わたし個人は思っています。わたしはこれから殿下を説得するので、もしよろしければ、皆様はブーストさんを説得するお手伝いをしていただけないでしょうか」
エミリーの目が、いつになく熱を帯びている。おそらく、ずっと考えてきたことなのであろう。ヨハンが、頭を掻きながら答える。エミリーの頼みだから聞いているとはいえ、そこまで興味はないのだろう。
「まあ、好きにすればいいんじゃないの」
他のみんなも同意見の様だった。少なくとも、反対する人間はいない。ブーストもエミリーも悪い人間ではない、そう考えているからだろう。
「わかりました。それでは自分の体験も踏まえながら、ないい具合になるよう口添えはしておきます」
手紙を受け取ったセルモが、微笑みながら答える。エミリーは、そんなセルモの手をつかみ、嬉しそうな声を上げる。
「ありがとうございます」
「よくわからないけど、仲たがいしているやつらがまた話し合うってわけなんだろ?」
マックスが尋ねる。エミリーは頷いた。
「そういうことです」
「じゃあ、それはいいことだな。それが出来ずに終わっちまったこともあるわけだし」
マックスの頭の中には、ルーファスの姿がよぎる。別に、ルーファスは悪人ではない。しかし、彼とは仲よくすることはできなかった。目指す方向が、違ったためだ。結果、ルーファスは死にウェンディは落ち込んでいる。この結果が間違っていると思ったことはないが、不要な戦いがなくなるなら、それに越したことはない。
「ま、手紙の案件はこれで問題ないだろう」
グレンが頷く。エミリーは頭を下げた。
「よろしく、お願いします」
こうして、エミリーの手紙を携えたヨハンたちは、ウノーヴァに残るマリアンナやスオウ、そしてパと別れ、ノームコプへと船で戻ることになった。
「サラサ、道場のことは、お前に任せたぞ。それと、コクサイやケニー君によろしくな」
スオウが、サラサに話しかける。
「ええ、父上もお元気で」
サラサはそう告げた後に、少し笑った。
「いえ、行ってらっしゃい」
「ありがとう」
スオウが頷く。
「おれは、おれが見たいものを見てくるぜ。お前も、好きなことして過ごせよ」
その横では、ヨハンとマリアンナが珍しく抱擁をかわしていた。ヨハンが、軽く頭を下げる。
「ありがとう」
マリアンナはその言葉に少し照れたようだが、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「ヨハン、くたばんなよ」
「あんたこそ、長生きしろよ」
「お前に出会ってから色々あったけど、お蔭で人生、楽しめているんだ」
マリアンナが、手を前に出した。ヨハンはその手を握り返す。互いに、目を合わせるとにやりと笑った。不敵な笑みが似合う、二人組である。船に乗り込む直前、ヨハンは振り返った。背筋をしっかりと伸ばす。そして、マリアンナに対し深々と頭を下げた。
「師匠、これまでお世話になりました!」
返事はない。ヨハンが顔を上げると、照れくさそうに顔を赤らめるマリアンナの姿があった。
「お前に会えて、共に過ごせて、本当に良かったよ」
そして、ヨハンに対し手を振った。
「達者でな」
「はい、師匠こそ壮健で!」
もう一度、深々とヨハンは礼をした。
「サラサ、道場のことは、お前に任せたぞ。それと、コクサイやケニー君によろしくな」
スオウが、サラサに話しかける。
「ええ、父上もお元気で」
サラサはそう告げた後に、少し笑った。
「いえ、行ってらっしゃい」
「ありがとう」
スオウが頷く。
「おれは、おれが見たいものを見てくるぜ。お前も、好きなことして過ごせよ」
その横では、ヨハンとマリアンナが珍しく抱擁をかわしていた。ヨハンが、軽く頭を下げる。
「ありがとう」
マリアンナはその言葉に少し照れたようだが、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「ヨハン、くたばんなよ」
「あんたこそ、長生きしろよ」
「お前に出会ってから色々あったけど、お蔭で人生、楽しめているんだ」
マリアンナが、手を前に出した。ヨハンはその手を握り返す。互いに、目を合わせるとにやりと笑った。不敵な笑みが似合う、二人組である。船に乗り込む直前、ヨハンは振り返った。背筋をしっかりと伸ばす。そして、マリアンナに対し深々と頭を下げた。
「師匠、これまでお世話になりました!」
返事はない。ヨハンが顔を上げると、照れくさそうに顔を赤らめるマリアンナの姿があった。
「お前に会えて、共に過ごせて、本当に良かったよ」
そして、ヨハンに対し手を振った。
「達者でな」
「はい、師匠こそ壮健で!」
もう一度、深々とヨハンは礼をした。
やがて、マリアンナの姿が見えなくなると、ヨハンは船室へと向かっていく。そこには、マックスの姿があった。心なしか、驚いた表情をしている。ヨハンが部屋に戻ろうとすると、マックスがヨハンの腕をつかんだ。
「お前、本当にヨハン兄ちゃんか?」
ヨハンはくすりと笑う。そのまま、マックスを海に蹴落とした。
「お前、本当にヨハン兄ちゃんか?」
ヨハンはくすりと笑う。そのまま、マックスを海に蹴落とした。
H276年、9月中旬。ヨハンたちは、ポケトピアに到着した。かつて、ヨハンたちがキマイラベムスターを相手に死闘を演じた街である。思えば、あれから三年もたっていた。キマイラベムスターによって破壊された港も、多くが元通りに戻っている。エミリーの渡してくれた情報によれば、この街は現在もスッグニー・ゲルが太守となっている。ただし、ヒロズ国ではなく、ブースト軍の支配下にあるそうだ。スッグニーは、上手く立ち回って太守の座を維持しているらしい。
「あ、あなたは・・・」
ヨハンたちが、船から降りていると、その様子を見ていた衛兵の一人が、反応する。どうやら、サラサを指さしているようだ。
「あなたはサラサ隊長!」
サラサは、その衛兵に見覚えがあった。スッグニーに稽古をつけてくれと言われていた、兵士の一人である。
「隊長、隊長だ!」
その隣にいた背の高い衛兵も、声を上げる。ただし、最初の衛兵と比べると、いくらか青い顔をしていた。サラサは、その衛兵もいくらか見覚えがあった。生意気な発言をしたので、叩きのめした兵士の一人だったはずだ。ヨハンが、そんな兵士を見ながらにやりと笑った。
「隊長、あいつ怯えているぞ。なんか、隊長に前科があるんじゃないか」
その後もやたらとからかってくるヨハンを無視すると、サラサは兵士たちを見る。
「た、隊長。お、おれはちゃんと鍛錬してますよ?」
背の高い男が、青い顔で告げる。
「嘘つけよ。お前、隊長が修行の旅に出たって聞いて、タロウと二人で小躍りするほど喜んでいたじゃねえか」
もう一人の男が呆れた声を出す。背の高い男は、冷や汗をかいていた。
「ば、ばか、止めろって。お前何を言うんだよ、こ、今晩おごるからさ」
隣の男に、慌てた様子で告げると、サラサを向く。
「違うんですって、違うんです。おれ、違うんです。隊長・・・」
そんな背の高い男の様子を見ながら、サラサは、にこりとほほ笑んだ。
「後で、部屋に来なさい」
背の高い男は、甲高い声で返事する、彼に正常な意識があるのかどうか、少し怪しかった。もう一人の男は、そんな男の様子にため息をつくと、サラサの方を向いた。
「そんなことより、隊長! 修行の旅は終わったんですか? 隊長がいなくなってから、このポケトピアは色々あって大変だったんですよ。スッグニーさんは、相変わらずすぐ逃げようとするし・・・」
男が、ポケトピアの話を始める。ブースト軍に攻められたこと、ヒロズ国軍が奇襲を仕掛けてきたこと、ブースト軍に再度攻められたこと。しかし、どれもポケトピアが戦場になることはなかった。スッグニーが、上手く立ち回っているのだろう。兵士たちもそれが分かっているのか、スッグニーについて話すときはどこか笑顔であった。
「おお、サラサ、それにそのお友達の方々も、久しぶりじゃないか」
スッグニーはヨハンたちを見ると、笑顔で出迎えてくれた。その二年前と同じ、軽薄そうな声色のスッグニーに、サラサは思わず苦笑してしまう。グレンも、呆れているようだ。
「ブースト殿には、修行に向かわれたと聞いていたけれども、修行は終わったのかな?」
そんな二人の様子に気づかず、スッグニーは話を続ける。サラサたちの後ろで、ヨハンがマックスの肩を叩く。
「おれまだ今日、本気の魔術をまだ使ってないよなあ」
マックスは苦笑する。
「一般人にそれはまずいんじゃないか、兄ちゃん」
「ひとまずは落ち着いているようだけど、街の様子を見るにただ事ではなかったみたいね」
その間に、サラサとスッグニーの話は進んでいたらしい。どうやら、この街の現状を話し合っているようだった。
「そうなんですよね。なんか、色々と穏やかじゃないんですよ」
「民間人の被害は?」
「この街はほとんどないですが、酷いところは酷いですね。ヒワダに至っては、街を巡って何度も戦争が起きてますし」
スッグニーが、複雑な表情を取る。それからも、しばしサラサとスッグニーの話は続いた。
「しかし、そう言うことなら、まずはブースト殿のもとに行く感じかな?」
話しがひと段落すると、スッグニーがヨハンたちに尋ねる。ヨハンたちが頷くと、スッグニーは懐の転送石を取り出した。
「これでアサギの近くまで行けるから、早く会いに行きなよ。まあ、別の移動手段があるなら無理にとは言わないけどね」
相談の末、ヨハンたちはスッグニーの意見に乗ることにした。転送石を使い、アサギへと向かう。
「あ、あなたは・・・」
ヨハンたちが、船から降りていると、その様子を見ていた衛兵の一人が、反応する。どうやら、サラサを指さしているようだ。
「あなたはサラサ隊長!」
サラサは、その衛兵に見覚えがあった。スッグニーに稽古をつけてくれと言われていた、兵士の一人である。
「隊長、隊長だ!」
その隣にいた背の高い衛兵も、声を上げる。ただし、最初の衛兵と比べると、いくらか青い顔をしていた。サラサは、その衛兵もいくらか見覚えがあった。生意気な発言をしたので、叩きのめした兵士の一人だったはずだ。ヨハンが、そんな兵士を見ながらにやりと笑った。
「隊長、あいつ怯えているぞ。なんか、隊長に前科があるんじゃないか」
その後もやたらとからかってくるヨハンを無視すると、サラサは兵士たちを見る。
「た、隊長。お、おれはちゃんと鍛錬してますよ?」
背の高い男が、青い顔で告げる。
「嘘つけよ。お前、隊長が修行の旅に出たって聞いて、タロウと二人で小躍りするほど喜んでいたじゃねえか」
もう一人の男が呆れた声を出す。背の高い男は、冷や汗をかいていた。
「ば、ばか、止めろって。お前何を言うんだよ、こ、今晩おごるからさ」
隣の男に、慌てた様子で告げると、サラサを向く。
「違うんですって、違うんです。おれ、違うんです。隊長・・・」
そんな背の高い男の様子を見ながら、サラサは、にこりとほほ笑んだ。
「後で、部屋に来なさい」
背の高い男は、甲高い声で返事する、彼に正常な意識があるのかどうか、少し怪しかった。もう一人の男は、そんな男の様子にため息をつくと、サラサの方を向いた。
「そんなことより、隊長! 修行の旅は終わったんですか? 隊長がいなくなってから、このポケトピアは色々あって大変だったんですよ。スッグニーさんは、相変わらずすぐ逃げようとするし・・・」
男が、ポケトピアの話を始める。ブースト軍に攻められたこと、ヒロズ国軍が奇襲を仕掛けてきたこと、ブースト軍に再度攻められたこと。しかし、どれもポケトピアが戦場になることはなかった。スッグニーが、上手く立ち回っているのだろう。兵士たちもそれが分かっているのか、スッグニーについて話すときはどこか笑顔であった。
「おお、サラサ、それにそのお友達の方々も、久しぶりじゃないか」
スッグニーはヨハンたちを見ると、笑顔で出迎えてくれた。その二年前と同じ、軽薄そうな声色のスッグニーに、サラサは思わず苦笑してしまう。グレンも、呆れているようだ。
「ブースト殿には、修行に向かわれたと聞いていたけれども、修行は終わったのかな?」
そんな二人の様子に気づかず、スッグニーは話を続ける。サラサたちの後ろで、ヨハンがマックスの肩を叩く。
「おれまだ今日、本気の魔術をまだ使ってないよなあ」
マックスは苦笑する。
「一般人にそれはまずいんじゃないか、兄ちゃん」
「ひとまずは落ち着いているようだけど、街の様子を見るにただ事ではなかったみたいね」
その間に、サラサとスッグニーの話は進んでいたらしい。どうやら、この街の現状を話し合っているようだった。
「そうなんですよね。なんか、色々と穏やかじゃないんですよ」
「民間人の被害は?」
「この街はほとんどないですが、酷いところは酷いですね。ヒワダに至っては、街を巡って何度も戦争が起きてますし」
スッグニーが、複雑な表情を取る。それからも、しばしサラサとスッグニーの話は続いた。
「しかし、そう言うことなら、まずはブースト殿のもとに行く感じかな?」
話しがひと段落すると、スッグニーがヨハンたちに尋ねる。ヨハンたちが頷くと、スッグニーは懐の転送石を取り出した。
「これでアサギの近くまで行けるから、早く会いに行きなよ。まあ、別の移動手段があるなら無理にとは言わないけどね」
相談の末、ヨハンたちはスッグニーの意見に乗ることにした。転送石を使い、アサギへと向かう。
ほぼ、二年ぶりのアサギであった。とは言え、街並みにさほど変わりはない。ヒロズ国に反抗している中心地域なのかと疑うほど、穏やかで街は活気にあふれていた。ヨハンが使っていた錬金工房も、行った時と同じままで残されていた。埃が溜まっていないのは、定期的に誰かが掃除してくれたのであろう。
記憶を頼りに、ヨハンたちはブーストたちが仕事を行っている建物へと向かう。建物も、見たところ変わりはない。
「何者だ?」
入ろうとした時、ヨハンたちは入り口を守る兵士に尋ねられた。アサギに長らく住んでいたサラサやセルモも見たことはない顔の兵士だ。恐らくは新兵であろう。
「おれだ!」
そう告げて入ろうとするヨハンに、兵士は槍を向けた。剣呑だが、百戦錬磨のヨハンたちからすれば、隙だらけである。
「ここは、ブーストさんが仕事をしている場だ。ここに入ろうとするなら、名前と要件を言え」
ヨハンはにこりと笑う。その右手に、魔力が集中していくのを他のサラサたちは感じた。
「やめとけ、ただの一般人だ」
グレンが苦笑しながら、ヨハンに告げる。
「一般人だと?」
そう言われたことに、兵士がいきり立つ。と、兵士の背後に一人の男が現れた。
「おいおい、職務熱心なのはいいが、相手の言うことくらいしっかり聞いてやれ」
ブーストの腹心であり、知恵袋とも言えるアーク・ポケェだった。
「しかし、アークさん」
「君は彼らと自分の実力差にも気がつけないのか? 君はいつ彼らに倒されても、おかしくはない。おそらく、ほぼ全員が素手でも君に勝てるだろう。君に気付かれず、この建物に入ることも余裕だろう。それにもかかわらず、堂々と入って来るんだから、敵じゃない」
アークが落ち着いた口調で告げる。ヨハンは、そんな兵士にあてつけるかのように、いい笑顔で手を挙げた。
「久しぶりだな!」
アークも軽く手を振る。その仕草全てが、ヨハンとアークは旧知の中だと告げていた。その様子を見た兵士が落ち込んだ様子を見せる。アークは、そんな兵士を励ますように声を出した。
「まあ、職務熱心なのはいいことだ。それと、そこの刀を持った女の人から武芸を学ぶといい。彼女は、コクサイさんのいる道場の師範だ」
男の顔が、驚きに満ちる。
「そんな、あのコクサイさんのところの?」
男の目には、少し畏怖があった。ひょっとすると、コクサイに稽古で打ちのめされたのかもしれない。
「そうだ。まあ、今は急ぎの様だから、通してやれ。今度、稽古をつけてもらうといい」
「はい!」
兵士は慌てて敬礼すると、横にずれた。そんな兵士にヨハンが話しかける。
「ばか、あいつに稽古をつけてもらったら、死ぬぞ」
顔が青くなる兵士を見て、サラサは苦笑する。
「まあ、来る者は拒まないから」
死ぬ可能性については、否定しない。そんなヨハンたちに、アークが尋ねる。
「ここに戻ってきたと言うことは、目的は達したのか?」
「やることはやった。それだけだ」
グレンが、アークに頷く。アークは、感心したような声を出した。
「そうか・・・君たちは、本当に凄いやつだ。おれは、マリアンナさん相手に防戦するので精一杯だったのに。それより強い相手に、勝ったわけだからな」
アークは、かつてゲイムに操られていたころのマリアンナと戦ったことがあった。その時のことを、思い出しているようだ。
「ま、おれたちは強いからな」
マックスが、当然だと言わんばかりの口調で告げる。
「君たちは、本当に強くなったことが分かる・・・それだけに、今の状況が申し訳ない。今のノームコプのことは、知っているか?」
「聞いたけど、正直よくわからねえよ。おれはそう言ったことは苦手だし、今はそういったことを考える場合じゃないやつもいるからさ」
マックスが首を振ると、ヨハンが続ける。
「もともとそこかしこに火種は潜んでいたんだろう。それが爆発しただけなんだから、驚くことじゃないさ」
ヨハンたちの言葉に、アークは申し訳なさそうな表情になった。
「すまないな。まあ、せめてブーストのことを一目くらいは見てやってくれ。あいつは、置かれている立場こそ昔と違うが、性格的には何も変わっちゃいないさ」
そう告げると、アークは、ブーストの執務室へと続く扉を開けた。そこでは、ブーストが書類の山と格闘していた。以前はそう言った光景を見ることは少なかった。優秀な文官であった、セルモが出払ってしまっていためだろうか。ヨハンたちの物音に気付いたブーストが顔を上げた。その顔に、驚きが浮かぶ。
「帰ってきたのか! つまり、倒したんだな? 『魔王』を」
「ああ、倒した」
ヨハンの答えを聞いたブーストは破顔した。
「凄いじゃないか! そいつは、今年一番の吉報だ。いや、モエが可愛いことが一番だから、今年二番かな。そうそう、聞いてくれよみんな。モエのやつ、みんながいなくなってからもそのかわいさ・美しさ・愛らしさに磨きをかけてきて。元々世界一かわいかったんだが、更にさらに・・・」
「すまん、こいつは二年前から進歩できていないんだ」
アークが、白い目をブーストに向けながら告げる。
「まあ、ある意味安心するよ」
マックスが苦笑する。アークも、つられたように苦笑した。
「あの状態は勝手に収まるから、みんながウノーヴァに行った後の話を聞かせてくれないか? 最初のうちは、アキ殿下を通して話が伝わってきていたんだがな。おれたちがヒロズ国に戦争を仕掛けてからはさっぱりだったんだ。ただ、一度だけアキ殿下の部下が君らの仲間たちを連れてきてくれたことがあって、彼らが色々なことを教えてくれたよ」
どうやら、キャサリンとアイリーン、そしてケニーのことのようだ。現在、キャサリンとアイリーンはタンバ島を中心として、かつての船員たちと共に貿易活動を行っているらしい。そして、ケニーはトバリに戻った父トニーと別れ、一人で剣道場にいるようだった。ヨハンたちは、ケニーと別れた後の話を二人にする。二人は、驚いたり感心したりしながら、話を聞いていた。
「本当に『魔王』を倒すだなんて・・・おれは、まるで自分がやったかのように嬉しいよ。『魔王』がこのノームコプに来たら、ただじゃ済まなかっただろうしな」
ブーストの言葉の端々から、彼が感謝しているであろうと言うことは伝わってくる。そこで、ブーストが話を変えた。
「おれたちの話は、知っているんだっけ?」
「まあ、ずいぶんと賑やかなことになっているみたいじゃないか」
ヨハンが皮肉めいた表情で告げる、ブーストは苦笑すると、真面目な表情に戻って口を開いた。
「おれは、ヒロズ国に恨みがあるわけじゃない。アキ殿下のような王族がいることは知っている。バレーやフォールのように、優れた人間がいることも知っている。しかし、ゲマのようなどうしようもないクズが、この国には多い。それを何とかしない限り、カタストのように反乱を起こす奴は出てくるはずだ。だったら一度、ここで徹底的に国を洗い流すことで、建国当時のようないい国に戻すべきなんじゃないか。そうすれば、今までノームコプでは出来なかった、300年以上続く国もできるんじゃないか。おれはそう考えている」
ブーストが語り終えた時、しばしの沈黙が流れた。ヨハンたちはやはり、こういった話題を得意としていない。
「たしかに、そりゃいいことができるのかもしれないけどよ」
最初に口を開いたのは、マックスだった。
「でも、こんなことになっちまうと、おれは何が正しいのかわからないよ」
ブーストは、その言葉に頷いた。
「マックスの気持ちは分かる。おれもたまに、反乱が本当に正しい道だったのかと考えることはある。ただ、おれは一つだけ目標としていることがある。それは、このアサギをよりよい街にしたいと言うことだ。おれはアサギの街が平和であることが世界で一番なことだと・・・いや、一番はモエのことかな。彼女が世界一かわいくて、美しくて」
「すまん」
アークが、即座に謝ってくる。またしても妹の自慢を始めてしまうブーストに、ヨハンたちは苦笑していた。
「ともあれ、おれもブーストも、このアサギとか他の町に住む人のことを考えて反乱を起こしたんだ。起こしたからには、このあたりに住む人がより良く暮らせるように努力している」
アークの言葉に、マックスが返事をする。
「確かに、ブーストは少しおかしいところもあるけど、真面目な奴だってことも知ってるからさ。その辺に関しては、おれはあんたたちに任せるさ。でも、おれはしばらくあんたたちの手伝いはできないな」
「それは、構わないさ」
いつもの状態に戻ったブーストが答えた。
「みんな、やりたいことがあるわけだろう。君たちには十分恩がある。だから、君たちがこれから何をしようと、おれは気にしないさ。まあ、敵になったら戦うしかないかもしれないけど」
「敵になりたいわけじゃないさ」
マックスが、気まずそうに苦笑いする。
「ちょっと前にあったルーファスも、似たようなことを言っていたよ」
そこで口を開いたのは、ヨハンだった。ルーファスとの言葉に、それまで興味なさそうに話を聞いていたウェンディが、顔を上げる。
「そいつは、自分の仲間のために、理想の国を作りたかったらしいぜ。で、お前と同じように自分にとって大切なもののために闘ってきた」
「そうか」
ブーストが何かを考えるように、頷く。
「ルーファスと言うと、お前が戦ってきた『魔王』か?」
「ああ、おれが殺した」
ヨハンの言葉に、ブーストは少し寂しそうな表情を取る。
「ひょっとすると、おれも同じような宿命になるのかもしれない。だが、それはアサギの街を少しでも良くするためだ」
そこから更に言いかけようとするブーストに、ヨハンが告げる。
「だったら、お前はそれを貫け。おれはそれに共感もしないし、評価もしない。だが、理解はできる」
「そして、それでも迷うことがあったら、他の人の意見を聞いてみるのも、いいかもしれません」
そこで口を挟んだのは、セルモだった。セルモは、エミリーから託された手紙をブーストに渡す。
「この手紙は?」
ブーストが、尋ねる。
「ご自分で見てみて、しっかり確かめて下さい。読んだ後でしたら、わたしはいくらでも相談に乗りますよ」
セルモが、微笑みながら答えた。
「わかった」
そう告げると、ブーストは手紙の封を切り、読み始める。しばらく、沈黙が続いた。
「なるほど」
読み終わった後、ブーストが頷いた。何事かと問うアークに、手紙を見せる。
「この手紙を書いた、エミリーの気持ちは分かる。だが、すぐには難しいな」
ブーストは告げた。
「ただ、可能性がないわけじゃない。と言うのも、カタストはこの国を本気で滅ぼそうとしている。おれは、この国を滅ぼそうとは考えていない。だから、今はやむを得ず協力しているとはいえ、機を見てカタストとは袂を分かつつもりだ。しかし、アキ殿下も、部下にこういうことをさせる割には手厳しくてな。ゴンを失ったのも、アキ殿下の部下との戦いだったんだ」
特に、ユウキ・ジンエツという青年が率いる部隊が強かったらしい。ブーストが、そのことを思い出したかのように天井を見ながら嘆息した。そして、再びヨハンたちを見る。
「それで、君たちに頼みがある。もしよかったら、そのことを誰かがアキ殿下に伝えてくれないか? ノームコプを救った英雄である君たちだったら、アキ殿下とも話をつけやすいだろう」
「じゃあ、わたしが行きます」
ブーストの言葉に、間髪入れず返事を返したのはウェンディだった。
「ウェンディ!? ウェンディ、本気か?」
マックスが驚きの声を上げる。ウェンディは頷いた。
「本気です」
「でもよ、戦争だぜ。そんなところに身を置いて、大丈夫なのかよ?」
「確かに、何があるかわかりません。けれども、無益な戦争が起きるのを止めることは大切だと思っています。ブーストさん。わたしは以前、あなたのような人と仲良くしてきました。でも、その人は死んでしまいました。わたしは、同じようなことを繰り返したくありません。だから、わたしができることがあれば、少しでも協力させてください」
「ありがとう」
ブーストが礼を述べる。
「しかし、ウェンディのことをアキ殿下は知らないんじゃないか? おれたちだって、さっきのヨハンたちの話で初めて聞いたんだし」
横から口を挟んだのは、アークだった。ブーストは、少し困った表情をした。
「確かに、それはそうだな」
「おれも行く」
そこで口を開いたのは、マックスだった。マックスはウェンディを見る。
「森に行くのは、しばらくお預けだな。ウェンディ」
「ごめんね、マックス」
申し訳なさそうな顔をするウェンディに、マックスは首を横に振った。
「いいんだよ、おれはお前の行きたいところに行くって最初に言ったろう。お前がそれを見つけたんだ。こんなに嬉しいことはないさ」
それに、とマックスが笑う。
「森に行かなくったって、デストラクションはここにいるからな!」
マックスの右に出てきたゴリラは、笑顔で親指を立てると弾け去った。
「よし」
マックスが、満足そうに頷いた。こうして、マックスとウェンディは、アキの居るコトブキへと向かうことになった。
「ところで、他のみんなはこれからどうするんだ? 何かおれができることがあるなら、なんでもしよう。なにしろ、君たちはノームコプの救世主だ」
ブーストが、話を変える。その言葉に、食いついたのはヨハンだった。
「本当に、何でもしてくれるのか?」
ブーストが苦笑する。
「おれができる範囲ならな」
「じゃあ、金をくれ。しばらく旅がしたいんだ」
ヨハンが答える。意外にも、まともな回答であった。ブーストたちから金を受け取ると、ヨハンは笑った。
「まあ、おれはどこの陣営に協力するつもりもないし、正直、政治の闘争はくそみたいなもんだと思っている。でも、個人的にあんたが話をしたいときは、呼んでくれ。話を聞くくらいなら、いくらでも付き合えるからな」
ブーストも笑った。
「ありがとう。良いやつだな、お前は」
ヨハンは当然だと言わんばかりに、頷いた。
「当然だろ、俺は宇宙一良いやつだぜ」
「いや、それはモエかな。あいつの優しさは宇宙一だぜ。この前もさ」
目の前で幸せそうに話しているブーストを見ながら、ヨハンは頭を抱えた。
「地雷踏んじまった」
モエに関する話は、当分終わりそうもない。
「兄ちゃんも、こんな失敗することあるんだな」
マックスが、妙に感心していた。
「わたしは、船に戻る」
そう告げたのは、リアノだった。元々、『プリンシプル』の船長である、元通りの生活に戻るだけだった。ヨキも、リアノと共に船に残るようだ。サラサも、道場に戻ると告げる。セルモもブーストのもとに残るようだった。そもそも、セルモはブーストの部下である。違和感はない。だが、ここで一つの問題が発生する。セルモの言葉を聞くや否や、ブースト軍に残ることを選んだ男がいたのである
「セルモさん! あなたと『運命』の赤い糸で結ばれたこのティボルト、あなたの命じるところであればたとえ火の中水の中、任せて下さい!」
そんなティボルトを見ながら、セルモがブーストに話しかける。
「そう言えば一人、自分の部下が出来ました」
「なるほど。誰かは分かる」
ブーストが、苦笑しながらうなずく。ティボルトは、セルモに部下と言われたことが嬉しいのか、喜びの叫び声をあげていた。
「それ相応に、使ってあげて下さい」
「なかなか個性的な部下を、見つけてきたようだな」
ブーストが、笑いながら述べる。
「大丈夫大丈夫。あいつ見た目はアルパカみたいだけど、ああ見えても人間だからさ。役には立つよ」
そう言って話に入ってきたのは、マックスだった。その言葉に、ティボルトは反応する。
「誰がアルパカだって?」
だが、そこでティボルトはにやりと笑った。
「まあでも、おれはセルモさんの部下だからな。この程度の罵詈雑言には耐える。そう、おれは出来る男、ティボルト」
「まあ、日に三度ニンジンを上げるだけで絶対に裏切らないアルパカが手に入ったと思えば、安いものだろう」
ヨハンがそんなティボルトを見ながら、ブーストに笑いかける。
「いや、一応は人間だろう」
ブーストも苦笑しながら返す。
「そう言えば、ティボルトは人間でしたね」
セルモが、思い出したように呟く。一瞬、時が止まった。
「ちょっと待って、それは」
リアノが堪えきれず笑い出す。みんな、爆笑し始めた。
「アルパカだ!」
ヨハンとマックスが、交互に連呼する。ティボルトがむきになって反論し始めた。そのため、セルモのこの発言は、軽く流されてしまった。セルモは考えていたのだ。エルダナーンで、これからの人生も長い自分の傍に、ティボルトはいるのだろうかと。いなくなったら、少し寂しいかもしれない。
「決まりだな」
他のみんなの答えを聞き終わると、グレンが呟く。
「じゃあ、おれはここらで失礼するぜ」
「おい、じっちゃん。どこ行くんだよ」
マックスが、疑問を呈する。
「そうだな、待たせている人を迎えに行くんだ」
「待たせてる人って・・・レイクか?」
マックスの言葉に、グレンが頷く。
「そうだ。なんだかんだあっちに二年近くいたからな。首を長くして待っているに違いない。それについでに言っちまうと戦うのはもうこりごりなんだ。いい歳したおっさんが、こんなところででしゃばりたくはない」
グレンの言葉に、マックスは衝撃を受けたようだった。
「じっちゃん、どうしたんだよ。自分からそんなこと言うなんて」
目には、軽く涙が浮かんでいる。
「じっちゃんは余計だ・・・が、どちらにせよ歳には勝てないからな」
グレンが、肩をすくめる。
「そうは言うけどよ・・・グレンのじっちゃんほど根性のある大人は初めて見たぜ。グレンのじっちゃんがずっといてくれたから、おれは戦えたと思う」
「そいつはちょっと、買被りすぎだ。おれはただの支援役で、全員をまとめる立場だっただけだ。なかなかいい仲間たちだったけどな」
マックスは、グレンの言葉ににやりと笑う。
「なに言ってんだよ、あのヨハン兄ちゃんがいるところだぜ。それをまとめあげるなんて、ただの人間じゃできないぜ」
マックスの言葉にグレンは苦笑した。
「本当に、しんどかったぜ。初めて四人で行動した時、おれが何をしていたか知っているか? 先頭に立って敵の攻撃で死にかけていたんだ」
キンバリーの隠れ家に潜ったときのことだった。些細なことから対立するヨハンとサラサに業を煮やしたグレンは先陣を切って切り込もうとしたのである。今となれば、とても考えられないことであった。互いに対する信頼が、以前とは比べ物にならない。
そんなグレンの話を聞いたマックスは、けらけら笑っていた。
「ま、じっちゃんはしばらくレイクのところにいるんだろ?」
グレンは首を横に振った。
「いや、あいつと合流したら適当に身を隠すつもりだ」
「じゃあ、おれにはこっそりと教えてくれよな。どこにいるかとか、その時、お互い別れてから何があったか話し合おうぜ。多分また、すぐに会いに行くからさ」
マックスが笑顔で告げる。
「じゃあ、落ち着いたら連絡するぜ」
ただ、とグレンが笑みを浮かべる。
「おれの送る手紙は、ちょっとした謎解きがついている。それが隠れ家のヒントだ」
マックスは苦笑した。頭を使うことは、得意ではない。
「お、おう。ヒントか。おう、分かったぜ。おれそう言うの得意だからさ」
そう言いながら、傍らのウェンディに視線を送る。ウェンディは、少し困ったようだった。
「ごめん。わたしは頭を使うの、苦手なんだ」
申し訳なさそうに、告げる。グレンは苦笑した。
「まあ、仲間なら分かるようなヒントを残しておくよ」
そう告げると、グレンは手を振る。どうやら、本当にこの場から去るようだった。
「じゃあ、じっちゃん。また会おうぜ。じっちゃんは身を隠すっていうけど、なかなかそんなたまじゃないって」
マックスが、大きく手を振る。他のみんなも、手を振った。ただ、皆すぐ会えると考えているのだろう。盛大な別れは、なかった。
記憶を頼りに、ヨハンたちはブーストたちが仕事を行っている建物へと向かう。建物も、見たところ変わりはない。
「何者だ?」
入ろうとした時、ヨハンたちは入り口を守る兵士に尋ねられた。アサギに長らく住んでいたサラサやセルモも見たことはない顔の兵士だ。恐らくは新兵であろう。
「おれだ!」
そう告げて入ろうとするヨハンに、兵士は槍を向けた。剣呑だが、百戦錬磨のヨハンたちからすれば、隙だらけである。
「ここは、ブーストさんが仕事をしている場だ。ここに入ろうとするなら、名前と要件を言え」
ヨハンはにこりと笑う。その右手に、魔力が集中していくのを他のサラサたちは感じた。
「やめとけ、ただの一般人だ」
グレンが苦笑しながら、ヨハンに告げる。
「一般人だと?」
そう言われたことに、兵士がいきり立つ。と、兵士の背後に一人の男が現れた。
「おいおい、職務熱心なのはいいが、相手の言うことくらいしっかり聞いてやれ」
ブーストの腹心であり、知恵袋とも言えるアーク・ポケェだった。
「しかし、アークさん」
「君は彼らと自分の実力差にも気がつけないのか? 君はいつ彼らに倒されても、おかしくはない。おそらく、ほぼ全員が素手でも君に勝てるだろう。君に気付かれず、この建物に入ることも余裕だろう。それにもかかわらず、堂々と入って来るんだから、敵じゃない」
アークが落ち着いた口調で告げる。ヨハンは、そんな兵士にあてつけるかのように、いい笑顔で手を挙げた。
「久しぶりだな!」
アークも軽く手を振る。その仕草全てが、ヨハンとアークは旧知の中だと告げていた。その様子を見た兵士が落ち込んだ様子を見せる。アークは、そんな兵士を励ますように声を出した。
「まあ、職務熱心なのはいいことだ。それと、そこの刀を持った女の人から武芸を学ぶといい。彼女は、コクサイさんのいる道場の師範だ」
男の顔が、驚きに満ちる。
「そんな、あのコクサイさんのところの?」
男の目には、少し畏怖があった。ひょっとすると、コクサイに稽古で打ちのめされたのかもしれない。
「そうだ。まあ、今は急ぎの様だから、通してやれ。今度、稽古をつけてもらうといい」
「はい!」
兵士は慌てて敬礼すると、横にずれた。そんな兵士にヨハンが話しかける。
「ばか、あいつに稽古をつけてもらったら、死ぬぞ」
顔が青くなる兵士を見て、サラサは苦笑する。
「まあ、来る者は拒まないから」
死ぬ可能性については、否定しない。そんなヨハンたちに、アークが尋ねる。
「ここに戻ってきたと言うことは、目的は達したのか?」
「やることはやった。それだけだ」
グレンが、アークに頷く。アークは、感心したような声を出した。
「そうか・・・君たちは、本当に凄いやつだ。おれは、マリアンナさん相手に防戦するので精一杯だったのに。それより強い相手に、勝ったわけだからな」
アークは、かつてゲイムに操られていたころのマリアンナと戦ったことがあった。その時のことを、思い出しているようだ。
「ま、おれたちは強いからな」
マックスが、当然だと言わんばかりの口調で告げる。
「君たちは、本当に強くなったことが分かる・・・それだけに、今の状況が申し訳ない。今のノームコプのことは、知っているか?」
「聞いたけど、正直よくわからねえよ。おれはそう言ったことは苦手だし、今はそういったことを考える場合じゃないやつもいるからさ」
マックスが首を振ると、ヨハンが続ける。
「もともとそこかしこに火種は潜んでいたんだろう。それが爆発しただけなんだから、驚くことじゃないさ」
ヨハンたちの言葉に、アークは申し訳なさそうな表情になった。
「すまないな。まあ、せめてブーストのことを一目くらいは見てやってくれ。あいつは、置かれている立場こそ昔と違うが、性格的には何も変わっちゃいないさ」
そう告げると、アークは、ブーストの執務室へと続く扉を開けた。そこでは、ブーストが書類の山と格闘していた。以前はそう言った光景を見ることは少なかった。優秀な文官であった、セルモが出払ってしまっていためだろうか。ヨハンたちの物音に気付いたブーストが顔を上げた。その顔に、驚きが浮かぶ。
「帰ってきたのか! つまり、倒したんだな? 『魔王』を」
「ああ、倒した」
ヨハンの答えを聞いたブーストは破顔した。
「凄いじゃないか! そいつは、今年一番の吉報だ。いや、モエが可愛いことが一番だから、今年二番かな。そうそう、聞いてくれよみんな。モエのやつ、みんながいなくなってからもそのかわいさ・美しさ・愛らしさに磨きをかけてきて。元々世界一かわいかったんだが、更にさらに・・・」
「すまん、こいつは二年前から進歩できていないんだ」
アークが、白い目をブーストに向けながら告げる。
「まあ、ある意味安心するよ」
マックスが苦笑する。アークも、つられたように苦笑した。
「あの状態は勝手に収まるから、みんながウノーヴァに行った後の話を聞かせてくれないか? 最初のうちは、アキ殿下を通して話が伝わってきていたんだがな。おれたちがヒロズ国に戦争を仕掛けてからはさっぱりだったんだ。ただ、一度だけアキ殿下の部下が君らの仲間たちを連れてきてくれたことがあって、彼らが色々なことを教えてくれたよ」
どうやら、キャサリンとアイリーン、そしてケニーのことのようだ。現在、キャサリンとアイリーンはタンバ島を中心として、かつての船員たちと共に貿易活動を行っているらしい。そして、ケニーはトバリに戻った父トニーと別れ、一人で剣道場にいるようだった。ヨハンたちは、ケニーと別れた後の話を二人にする。二人は、驚いたり感心したりしながら、話を聞いていた。
「本当に『魔王』を倒すだなんて・・・おれは、まるで自分がやったかのように嬉しいよ。『魔王』がこのノームコプに来たら、ただじゃ済まなかっただろうしな」
ブーストの言葉の端々から、彼が感謝しているであろうと言うことは伝わってくる。そこで、ブーストが話を変えた。
「おれたちの話は、知っているんだっけ?」
「まあ、ずいぶんと賑やかなことになっているみたいじゃないか」
ヨハンが皮肉めいた表情で告げる、ブーストは苦笑すると、真面目な表情に戻って口を開いた。
「おれは、ヒロズ国に恨みがあるわけじゃない。アキ殿下のような王族がいることは知っている。バレーやフォールのように、優れた人間がいることも知っている。しかし、ゲマのようなどうしようもないクズが、この国には多い。それを何とかしない限り、カタストのように反乱を起こす奴は出てくるはずだ。だったら一度、ここで徹底的に国を洗い流すことで、建国当時のようないい国に戻すべきなんじゃないか。そうすれば、今までノームコプでは出来なかった、300年以上続く国もできるんじゃないか。おれはそう考えている」
ブーストが語り終えた時、しばしの沈黙が流れた。ヨハンたちはやはり、こういった話題を得意としていない。
「たしかに、そりゃいいことができるのかもしれないけどよ」
最初に口を開いたのは、マックスだった。
「でも、こんなことになっちまうと、おれは何が正しいのかわからないよ」
ブーストは、その言葉に頷いた。
「マックスの気持ちは分かる。おれもたまに、反乱が本当に正しい道だったのかと考えることはある。ただ、おれは一つだけ目標としていることがある。それは、このアサギをよりよい街にしたいと言うことだ。おれはアサギの街が平和であることが世界で一番なことだと・・・いや、一番はモエのことかな。彼女が世界一かわいくて、美しくて」
「すまん」
アークが、即座に謝ってくる。またしても妹の自慢を始めてしまうブーストに、ヨハンたちは苦笑していた。
「ともあれ、おれもブーストも、このアサギとか他の町に住む人のことを考えて反乱を起こしたんだ。起こしたからには、このあたりに住む人がより良く暮らせるように努力している」
アークの言葉に、マックスが返事をする。
「確かに、ブーストは少しおかしいところもあるけど、真面目な奴だってことも知ってるからさ。その辺に関しては、おれはあんたたちに任せるさ。でも、おれはしばらくあんたたちの手伝いはできないな」
「それは、構わないさ」
いつもの状態に戻ったブーストが答えた。
「みんな、やりたいことがあるわけだろう。君たちには十分恩がある。だから、君たちがこれから何をしようと、おれは気にしないさ。まあ、敵になったら戦うしかないかもしれないけど」
「敵になりたいわけじゃないさ」
マックスが、気まずそうに苦笑いする。
「ちょっと前にあったルーファスも、似たようなことを言っていたよ」
そこで口を開いたのは、ヨハンだった。ルーファスとの言葉に、それまで興味なさそうに話を聞いていたウェンディが、顔を上げる。
「そいつは、自分の仲間のために、理想の国を作りたかったらしいぜ。で、お前と同じように自分にとって大切なもののために闘ってきた」
「そうか」
ブーストが何かを考えるように、頷く。
「ルーファスと言うと、お前が戦ってきた『魔王』か?」
「ああ、おれが殺した」
ヨハンの言葉に、ブーストは少し寂しそうな表情を取る。
「ひょっとすると、おれも同じような宿命になるのかもしれない。だが、それはアサギの街を少しでも良くするためだ」
そこから更に言いかけようとするブーストに、ヨハンが告げる。
「だったら、お前はそれを貫け。おれはそれに共感もしないし、評価もしない。だが、理解はできる」
「そして、それでも迷うことがあったら、他の人の意見を聞いてみるのも、いいかもしれません」
そこで口を挟んだのは、セルモだった。セルモは、エミリーから託された手紙をブーストに渡す。
「この手紙は?」
ブーストが、尋ねる。
「ご自分で見てみて、しっかり確かめて下さい。読んだ後でしたら、わたしはいくらでも相談に乗りますよ」
セルモが、微笑みながら答えた。
「わかった」
そう告げると、ブーストは手紙の封を切り、読み始める。しばらく、沈黙が続いた。
「なるほど」
読み終わった後、ブーストが頷いた。何事かと問うアークに、手紙を見せる。
「この手紙を書いた、エミリーの気持ちは分かる。だが、すぐには難しいな」
ブーストは告げた。
「ただ、可能性がないわけじゃない。と言うのも、カタストはこの国を本気で滅ぼそうとしている。おれは、この国を滅ぼそうとは考えていない。だから、今はやむを得ず協力しているとはいえ、機を見てカタストとは袂を分かつつもりだ。しかし、アキ殿下も、部下にこういうことをさせる割には手厳しくてな。ゴンを失ったのも、アキ殿下の部下との戦いだったんだ」
特に、ユウキ・ジンエツという青年が率いる部隊が強かったらしい。ブーストが、そのことを思い出したかのように天井を見ながら嘆息した。そして、再びヨハンたちを見る。
「それで、君たちに頼みがある。もしよかったら、そのことを誰かがアキ殿下に伝えてくれないか? ノームコプを救った英雄である君たちだったら、アキ殿下とも話をつけやすいだろう」
「じゃあ、わたしが行きます」
ブーストの言葉に、間髪入れず返事を返したのはウェンディだった。
「ウェンディ!? ウェンディ、本気か?」
マックスが驚きの声を上げる。ウェンディは頷いた。
「本気です」
「でもよ、戦争だぜ。そんなところに身を置いて、大丈夫なのかよ?」
「確かに、何があるかわかりません。けれども、無益な戦争が起きるのを止めることは大切だと思っています。ブーストさん。わたしは以前、あなたのような人と仲良くしてきました。でも、その人は死んでしまいました。わたしは、同じようなことを繰り返したくありません。だから、わたしができることがあれば、少しでも協力させてください」
「ありがとう」
ブーストが礼を述べる。
「しかし、ウェンディのことをアキ殿下は知らないんじゃないか? おれたちだって、さっきのヨハンたちの話で初めて聞いたんだし」
横から口を挟んだのは、アークだった。ブーストは、少し困った表情をした。
「確かに、それはそうだな」
「おれも行く」
そこで口を開いたのは、マックスだった。マックスはウェンディを見る。
「森に行くのは、しばらくお預けだな。ウェンディ」
「ごめんね、マックス」
申し訳なさそうな顔をするウェンディに、マックスは首を横に振った。
「いいんだよ、おれはお前の行きたいところに行くって最初に言ったろう。お前がそれを見つけたんだ。こんなに嬉しいことはないさ」
それに、とマックスが笑う。
「森に行かなくったって、デストラクションはここにいるからな!」
マックスの右に出てきたゴリラは、笑顔で親指を立てると弾け去った。
「よし」
マックスが、満足そうに頷いた。こうして、マックスとウェンディは、アキの居るコトブキへと向かうことになった。
「ところで、他のみんなはこれからどうするんだ? 何かおれができることがあるなら、なんでもしよう。なにしろ、君たちはノームコプの救世主だ」
ブーストが、話を変える。その言葉に、食いついたのはヨハンだった。
「本当に、何でもしてくれるのか?」
ブーストが苦笑する。
「おれができる範囲ならな」
「じゃあ、金をくれ。しばらく旅がしたいんだ」
ヨハンが答える。意外にも、まともな回答であった。ブーストたちから金を受け取ると、ヨハンは笑った。
「まあ、おれはどこの陣営に協力するつもりもないし、正直、政治の闘争はくそみたいなもんだと思っている。でも、個人的にあんたが話をしたいときは、呼んでくれ。話を聞くくらいなら、いくらでも付き合えるからな」
ブーストも笑った。
「ありがとう。良いやつだな、お前は」
ヨハンは当然だと言わんばかりに、頷いた。
「当然だろ、俺は宇宙一良いやつだぜ」
「いや、それはモエかな。あいつの優しさは宇宙一だぜ。この前もさ」
目の前で幸せそうに話しているブーストを見ながら、ヨハンは頭を抱えた。
「地雷踏んじまった」
モエに関する話は、当分終わりそうもない。
「兄ちゃんも、こんな失敗することあるんだな」
マックスが、妙に感心していた。
「わたしは、船に戻る」
そう告げたのは、リアノだった。元々、『プリンシプル』の船長である、元通りの生活に戻るだけだった。ヨキも、リアノと共に船に残るようだ。サラサも、道場に戻ると告げる。セルモもブーストのもとに残るようだった。そもそも、セルモはブーストの部下である。違和感はない。だが、ここで一つの問題が発生する。セルモの言葉を聞くや否や、ブースト軍に残ることを選んだ男がいたのである
「セルモさん! あなたと『運命』の赤い糸で結ばれたこのティボルト、あなたの命じるところであればたとえ火の中水の中、任せて下さい!」
そんなティボルトを見ながら、セルモがブーストに話しかける。
「そう言えば一人、自分の部下が出来ました」
「なるほど。誰かは分かる」
ブーストが、苦笑しながらうなずく。ティボルトは、セルモに部下と言われたことが嬉しいのか、喜びの叫び声をあげていた。
「それ相応に、使ってあげて下さい」
「なかなか個性的な部下を、見つけてきたようだな」
ブーストが、笑いながら述べる。
「大丈夫大丈夫。あいつ見た目はアルパカみたいだけど、ああ見えても人間だからさ。役には立つよ」
そう言って話に入ってきたのは、マックスだった。その言葉に、ティボルトは反応する。
「誰がアルパカだって?」
だが、そこでティボルトはにやりと笑った。
「まあでも、おれはセルモさんの部下だからな。この程度の罵詈雑言には耐える。そう、おれは出来る男、ティボルト」
「まあ、日に三度ニンジンを上げるだけで絶対に裏切らないアルパカが手に入ったと思えば、安いものだろう」
ヨハンがそんなティボルトを見ながら、ブーストに笑いかける。
「いや、一応は人間だろう」
ブーストも苦笑しながら返す。
「そう言えば、ティボルトは人間でしたね」
セルモが、思い出したように呟く。一瞬、時が止まった。
「ちょっと待って、それは」
リアノが堪えきれず笑い出す。みんな、爆笑し始めた。
「アルパカだ!」
ヨハンとマックスが、交互に連呼する。ティボルトがむきになって反論し始めた。そのため、セルモのこの発言は、軽く流されてしまった。セルモは考えていたのだ。エルダナーンで、これからの人生も長い自分の傍に、ティボルトはいるのだろうかと。いなくなったら、少し寂しいかもしれない。
「決まりだな」
他のみんなの答えを聞き終わると、グレンが呟く。
「じゃあ、おれはここらで失礼するぜ」
「おい、じっちゃん。どこ行くんだよ」
マックスが、疑問を呈する。
「そうだな、待たせている人を迎えに行くんだ」
「待たせてる人って・・・レイクか?」
マックスの言葉に、グレンが頷く。
「そうだ。なんだかんだあっちに二年近くいたからな。首を長くして待っているに違いない。それについでに言っちまうと戦うのはもうこりごりなんだ。いい歳したおっさんが、こんなところででしゃばりたくはない」
グレンの言葉に、マックスは衝撃を受けたようだった。
「じっちゃん、どうしたんだよ。自分からそんなこと言うなんて」
目には、軽く涙が浮かんでいる。
「じっちゃんは余計だ・・・が、どちらにせよ歳には勝てないからな」
グレンが、肩をすくめる。
「そうは言うけどよ・・・グレンのじっちゃんほど根性のある大人は初めて見たぜ。グレンのじっちゃんがずっといてくれたから、おれは戦えたと思う」
「そいつはちょっと、買被りすぎだ。おれはただの支援役で、全員をまとめる立場だっただけだ。なかなかいい仲間たちだったけどな」
マックスは、グレンの言葉ににやりと笑う。
「なに言ってんだよ、あのヨハン兄ちゃんがいるところだぜ。それをまとめあげるなんて、ただの人間じゃできないぜ」
マックスの言葉にグレンは苦笑した。
「本当に、しんどかったぜ。初めて四人で行動した時、おれが何をしていたか知っているか? 先頭に立って敵の攻撃で死にかけていたんだ」
キンバリーの隠れ家に潜ったときのことだった。些細なことから対立するヨハンとサラサに業を煮やしたグレンは先陣を切って切り込もうとしたのである。今となれば、とても考えられないことであった。互いに対する信頼が、以前とは比べ物にならない。
そんなグレンの話を聞いたマックスは、けらけら笑っていた。
「ま、じっちゃんはしばらくレイクのところにいるんだろ?」
グレンは首を横に振った。
「いや、あいつと合流したら適当に身を隠すつもりだ」
「じゃあ、おれにはこっそりと教えてくれよな。どこにいるかとか、その時、お互い別れてから何があったか話し合おうぜ。多分また、すぐに会いに行くからさ」
マックスが笑顔で告げる。
「じゃあ、落ち着いたら連絡するぜ」
ただ、とグレンが笑みを浮かべる。
「おれの送る手紙は、ちょっとした謎解きがついている。それが隠れ家のヒントだ」
マックスは苦笑した。頭を使うことは、得意ではない。
「お、おう。ヒントか。おう、分かったぜ。おれそう言うの得意だからさ」
そう言いながら、傍らのウェンディに視線を送る。ウェンディは、少し困ったようだった。
「ごめん。わたしは頭を使うの、苦手なんだ」
申し訳なさそうに、告げる。グレンは苦笑した。
「まあ、仲間なら分かるようなヒントを残しておくよ」
そう告げると、グレンは手を振る。どうやら、本当にこの場から去るようだった。
「じゃあ、じっちゃん。また会おうぜ。じっちゃんは身を隠すっていうけど、なかなかそんなたまじゃないって」
マックスが、大きく手を振る。他のみんなも、手を振った。ただ、皆すぐ会えると考えているのだろう。盛大な別れは、なかった。
数時間後、グレンはアサギの街を歩いていた。ヨハンに、呼び出されたためだ。おれの工房に来い、ヨハンはそう告げていた。
「こんなところに呼び出して、どうした?」
工房に入ったグレンが、大声で尋ねる。ヨハンの姿はない。代わりに、ヨハンに貸したままになっていたゼンマイガーが、近づいてくる。間もなく、工房の奥から不機嫌そうな顔のヨハンが出てきた。ヨハンは、ゼンマイガーを軽く蹴飛ばす。
「おいお前、なんだよこのがらくたは」
どこかで聞いたような、言葉だった。グレンの頭の中に、五年前の出来事が思い出される。出会うや否や、ゼンマイガーを赤き斜陽の剣で叩いた、あの不届き者との出会いだ。グレンは、その頃のことを思い出し、軽く苦笑する。
「おれの、最高のからくりだ」
そして、その時と同じように言葉を返した。その言葉を聞いたヨハンは、頷く。その顔は、笑顔になっていた。
「ああ、その通りだ」
「あんたには随分改造されちまったが、これはこれでいい出来になったと思うぜ」
グレンが、昔を懐かしむような声色で告げる。ヨハンも頷いた。
「長いこと借りてたからな、返すよ。おれの」
ヨハンは、にやりと笑うと言葉を止めた。
「いや、おれたちのゼンマイガーを」
グレンも笑みを浮かべる。
「そうか。じゃあ、ありがたく返させていただこう。おれたちのゼンマイガーを」
ゼンマイガーが、グレンのもとへと戻っていく。ヨハンはそれを満足そうに眺めた後、口を開いた。
「まあでも、おれたちのゼンマイガーだからな」
ヨハンは、懐から一つの回路を取り出した。それは、かつてグレンがゼンマイガーを作る際、埋め込んだ回路によく似ていた。
「お前、それどこで作ったんだよ」
グレンが、尋ねる。ヨハンは、ヨハンらしい笑みを浮かべる。
「ゼンマイガーの回路を少しずつ複製させてもらったんだよ」
ヨハンはそう告げるとその回路を禍々しい首飾りの中心部にはめ込んだ。
「これで、ゼンマイガーの能力は、おれも手に入れたことになる」
グレンは苦笑すると、懐から一つの魔道銃を取り出す。
「おれの奴の改良型だ。持っていけ」
ヨハンは、腰のホルスターにその魔道銃を差し込む。
「そうだ、おれも餞別がある」
ゼンマイガーが、どこからともなく一つの籠手を持ってきた。ヨハンが使っていた籠手の、片手版だ。
「おれの籠手の劣化版だ。だがまあ、爺さん一人を守るには充分じゃないか?」
そう告げたヨハンが、にやりと笑う。
「まあ、一度つけたら二度と取れないが、些細な問題だ」
グレンも笑う。
「その程度のことなら、おれが改良しておくさ」
二人はしばらく笑っていた。やがて、グレンが呟く。
「お前、旅に出るんだろ?」
ヨハンが頷くと、グレンは懐から小さなお守りを取り出した。何の変哲もない、ただのお守りだ。安全祈願とだけ書かれている。グレンは、それをヨハンに手渡した。
「そうか、ちょっと待ってろ」
受け取ったヨハンは、そう告げると工房の奥に戻る。間もなく、お守り代わりの呪符を一つ、持ってきた。にやりと笑う。
「これは、レイクに渡しといてくれ」
グレンは頷く。
「また会おう」
「ああ、じゃあな兄弟」
「こんなところに呼び出して、どうした?」
工房に入ったグレンが、大声で尋ねる。ヨハンの姿はない。代わりに、ヨハンに貸したままになっていたゼンマイガーが、近づいてくる。間もなく、工房の奥から不機嫌そうな顔のヨハンが出てきた。ヨハンは、ゼンマイガーを軽く蹴飛ばす。
「おいお前、なんだよこのがらくたは」
どこかで聞いたような、言葉だった。グレンの頭の中に、五年前の出来事が思い出される。出会うや否や、ゼンマイガーを赤き斜陽の剣で叩いた、あの不届き者との出会いだ。グレンは、その頃のことを思い出し、軽く苦笑する。
「おれの、最高のからくりだ」
そして、その時と同じように言葉を返した。その言葉を聞いたヨハンは、頷く。その顔は、笑顔になっていた。
「ああ、その通りだ」
「あんたには随分改造されちまったが、これはこれでいい出来になったと思うぜ」
グレンが、昔を懐かしむような声色で告げる。ヨハンも頷いた。
「長いこと借りてたからな、返すよ。おれの」
ヨハンは、にやりと笑うと言葉を止めた。
「いや、おれたちのゼンマイガーを」
グレンも笑みを浮かべる。
「そうか。じゃあ、ありがたく返させていただこう。おれたちのゼンマイガーを」
ゼンマイガーが、グレンのもとへと戻っていく。ヨハンはそれを満足そうに眺めた後、口を開いた。
「まあでも、おれたちのゼンマイガーだからな」
ヨハンは、懐から一つの回路を取り出した。それは、かつてグレンがゼンマイガーを作る際、埋め込んだ回路によく似ていた。
「お前、それどこで作ったんだよ」
グレンが、尋ねる。ヨハンは、ヨハンらしい笑みを浮かべる。
「ゼンマイガーの回路を少しずつ複製させてもらったんだよ」
ヨハンはそう告げるとその回路を禍々しい首飾りの中心部にはめ込んだ。
「これで、ゼンマイガーの能力は、おれも手に入れたことになる」
グレンは苦笑すると、懐から一つの魔道銃を取り出す。
「おれの奴の改良型だ。持っていけ」
ヨハンは、腰のホルスターにその魔道銃を差し込む。
「そうだ、おれも餞別がある」
ゼンマイガーが、どこからともなく一つの籠手を持ってきた。ヨハンが使っていた籠手の、片手版だ。
「おれの籠手の劣化版だ。だがまあ、爺さん一人を守るには充分じゃないか?」
そう告げたヨハンが、にやりと笑う。
「まあ、一度つけたら二度と取れないが、些細な問題だ」
グレンも笑う。
「その程度のことなら、おれが改良しておくさ」
二人はしばらく笑っていた。やがて、グレンが呟く。
「お前、旅に出るんだろ?」
ヨハンが頷くと、グレンは懐から小さなお守りを取り出した。何の変哲もない、ただのお守りだ。安全祈願とだけ書かれている。グレンは、それをヨハンに手渡した。
「そうか、ちょっと待ってろ」
受け取ったヨハンは、そう告げると工房の奥に戻る。間もなく、お守り代わりの呪符を一つ、持ってきた。にやりと笑う。
「これは、レイクに渡しといてくれ」
グレンは頷く。
「また会おう」
「ああ、じゃあな兄弟」
数日後、グレンはタンバ島南部の都市サファリへとやってきた。かつて、ヨハンたちと戦った海賊『カテゴリーエフ』が本拠地としていた都市である。ここには、ハーテン教の反乱の際、ブーストが対キマイラ用の研究所を設置してあった。そして、そこは現在、錬金術師が集まる研究所となっており、レイクもここで働いている。グレンがその研究所を訪れた時、レイクはちょうど作業中であった。
「すぐ、呼びましょうか?」
代わりに応対してくれた男が尋ねる。間もなく、レイクの姿が見えた。
レイクは、どうやらグレンが来たとは知らされていなかったらしい。少し疲れた表情をしながら、グレンの方へと向かってくる。
「どなたでしょうか?」
そして、グレンを一目見ると、時が凍ったかのように凍りついた。
「お仕事お疲れさん、とでも言うべきか?」
グレンが軽く笑う。
「・・・グ、グレン?」
しばらくして、絞り出したかのように、かすかな声を上げた。
「ああ、ただいま帰ったぜ」
「本当に、グレンなの?」
同時に、目から大粒の涙が零れ落ちていく。だが、レイクはそれをぬぐおうともしなかった。やがて、はっとしたような表情を浮かべると、涙をぬぐう。
「ごめんね、グレン。せっかく久しぶりに会えたのに、こんなに泣いちゃって」
「いやいや、仕方ないだろ」
グレンが答える。レイクは涙をぬぐうと、グレンの方を向いた。
「私、待ってた。あなたが帰ってくるのを、ずっとずっと、待ってた。だからその・・・お帰りなさい、グレン」
レイクの言葉に、グレンは大きく頷いた。
「ただいま、だな」
レイクは、微笑んだ。
「グレン、もしよかったら、ウノーヴァでどんなことがあったのか私に教えて? 私、あなたがどんなことをしていたか、とても気になるんだ」
「二年近くに渡るウノーヴァの活動。本にしてまとめようと思っていたところだ。土産話は、たくさんある」
レイクは頷く。
「ぜひ、聞かせて。それとグレン、あなたはこれからどうするの?」
「そうだな・・・」
グレンは少し、返答に悩んだようだった。だが、意を決したように話し始める。
「いささかこのやかましい喧騒から逃れて、一緒に暮らさないか?」
「一緒に、暮らす?」
「そう。適当に小さな家でも用意するからさ」
そこで、レイクはグレンの言葉の意味を理解したらしい。レイクの顔は見る間に赤くなった。恥ずかしそうに、顔を押さえながらレイクは頷く。
「わかった。わたしも実は、あなたと一緒に暮らしていきたかったんだ」
「すぐ、呼びましょうか?」
代わりに応対してくれた男が尋ねる。間もなく、レイクの姿が見えた。
レイクは、どうやらグレンが来たとは知らされていなかったらしい。少し疲れた表情をしながら、グレンの方へと向かってくる。
「どなたでしょうか?」
そして、グレンを一目見ると、時が凍ったかのように凍りついた。
「お仕事お疲れさん、とでも言うべきか?」
グレンが軽く笑う。
「・・・グ、グレン?」
しばらくして、絞り出したかのように、かすかな声を上げた。
「ああ、ただいま帰ったぜ」
「本当に、グレンなの?」
同時に、目から大粒の涙が零れ落ちていく。だが、レイクはそれをぬぐおうともしなかった。やがて、はっとしたような表情を浮かべると、涙をぬぐう。
「ごめんね、グレン。せっかく久しぶりに会えたのに、こんなに泣いちゃって」
「いやいや、仕方ないだろ」
グレンが答える。レイクは涙をぬぐうと、グレンの方を向いた。
「私、待ってた。あなたが帰ってくるのを、ずっとずっと、待ってた。だからその・・・お帰りなさい、グレン」
レイクの言葉に、グレンは大きく頷いた。
「ただいま、だな」
レイクは、微笑んだ。
「グレン、もしよかったら、ウノーヴァでどんなことがあったのか私に教えて? 私、あなたがどんなことをしていたか、とても気になるんだ」
「二年近くに渡るウノーヴァの活動。本にしてまとめようと思っていたところだ。土産話は、たくさんある」
レイクは頷く。
「ぜひ、聞かせて。それとグレン、あなたはこれからどうするの?」
「そうだな・・・」
グレンは少し、返答に悩んだようだった。だが、意を決したように話し始める。
「いささかこのやかましい喧騒から逃れて、一緒に暮らさないか?」
「一緒に、暮らす?」
「そう。適当に小さな家でも用意するからさ」
そこで、レイクはグレンの言葉の意味を理解したらしい。レイクの顔は見る間に赤くなった。恥ずかしそうに、顔を押さえながらレイクは頷く。
「わかった。わたしも実は、あなたと一緒に暮らしていきたかったんだ」
その頃、リアノもまた、ヨキと共にサファリにたどり着いていた。目的は、キャサリンたちに会うことである。
「まあ大丈夫、港に行けばいつでも会えるから」
別れを惜しむマックスに、リアノはそう告げてきていた。
「そうだな。確かにおれも、どこでもキャプテンに会える気がするよ。キャプテンはいつも、世界のどこかを巡っているもんな」
マックスも、笑いながらそう返していた。数日前の、話である。リアノとヨキが街を探索しながら港に向かっていると、後ろから話しかけてくるものがあった。
「キャプテン! キャプテンじゃないですか!」
かつて、共に『プリンシプル』に乗っていた船員の一人であった。
「久しぶりね」
「ウノーヴァから、戻ってこられたんですね! 今、おれたちはキャサリンさんのもとでまとまって貿易をやっているんですよ」
そんな船員の言葉に、リアノは頷く。
「ちょうどよかった。大至急、船員を集めて」
「分かりました、任せて下さい!」
船員が走り去っていく。間もなく、キャサリンが走りながらやってきた。
「キャプテン、お久しぶりです」
「ええ、久しぶり」
リアノの近くへやってきたキャサリンは、片手を差し出す。
「戻って来るってことは、信じていましたよ。キャプテン、あなたは本当に凄い人だ」
リアノはにやりと笑った。
「大丈夫、これからもっと凄いことになるから」
「と言うと?」
「ウノーヴァとの、航路を開くの」
キャサリンの目が、大きく見開かれた。
「大丈夫なんですか? それは」
「大丈夫。ちゃんと、現地に知り合いは作ったから。わたしやヨハンの名前を出せば、問題なく交易は出来る」
航路も、問題ない。実は、ウノーヴァから戻る最中、リアノは海流の流れに着目し続けていた。そして、これまでの自らの経験と合わせた結果、タンバ島からウノーヴァへと行く海路に気が付いたのである。これを利用すれば、恒久的にウノーヴァと交易できる。これは、世界的に見ても大きな発見であった。
「そいつは、凄いことですね。キャプテンらしいや」
キャサリンも、笑みを浮かべた。
「それに、ちょうど今この街に凄い錬金術師がいるらしいから」
「凄い錬金術師の人?」
キャサリンが疑問を呈する。リアノは、グレンのことを思い浮かべていた。静かに暮らしたいと言っていた彼だが、これくらいのことは手伝ってくれるだろう。いや、手伝わせる。リアノはそう決めていた。
「彼が、いい船を作ってくれるの」
「いい船ですか、流石キャプテン。広い人脈ですね。わたしも早く、ウノーヴァとの交易をやってみたいです」
リアノの言葉に、キャサリンが頷く。どうやら、グレンの静かな生活は、まだ先のようだ。
「まあ大丈夫、港に行けばいつでも会えるから」
別れを惜しむマックスに、リアノはそう告げてきていた。
「そうだな。確かにおれも、どこでもキャプテンに会える気がするよ。キャプテンはいつも、世界のどこかを巡っているもんな」
マックスも、笑いながらそう返していた。数日前の、話である。リアノとヨキが街を探索しながら港に向かっていると、後ろから話しかけてくるものがあった。
「キャプテン! キャプテンじゃないですか!」
かつて、共に『プリンシプル』に乗っていた船員の一人であった。
「久しぶりね」
「ウノーヴァから、戻ってこられたんですね! 今、おれたちはキャサリンさんのもとでまとまって貿易をやっているんですよ」
そんな船員の言葉に、リアノは頷く。
「ちょうどよかった。大至急、船員を集めて」
「分かりました、任せて下さい!」
船員が走り去っていく。間もなく、キャサリンが走りながらやってきた。
「キャプテン、お久しぶりです」
「ええ、久しぶり」
リアノの近くへやってきたキャサリンは、片手を差し出す。
「戻って来るってことは、信じていましたよ。キャプテン、あなたは本当に凄い人だ」
リアノはにやりと笑った。
「大丈夫、これからもっと凄いことになるから」
「と言うと?」
「ウノーヴァとの、航路を開くの」
キャサリンの目が、大きく見開かれた。
「大丈夫なんですか? それは」
「大丈夫。ちゃんと、現地に知り合いは作ったから。わたしやヨハンの名前を出せば、問題なく交易は出来る」
航路も、問題ない。実は、ウノーヴァから戻る最中、リアノは海流の流れに着目し続けていた。そして、これまでの自らの経験と合わせた結果、タンバ島からウノーヴァへと行く海路に気が付いたのである。これを利用すれば、恒久的にウノーヴァと交易できる。これは、世界的に見ても大きな発見であった。
「そいつは、凄いことですね。キャプテンらしいや」
キャサリンも、笑みを浮かべた。
「それに、ちょうど今この街に凄い錬金術師がいるらしいから」
「凄い錬金術師の人?」
キャサリンが疑問を呈する。リアノは、グレンのことを思い浮かべていた。静かに暮らしたいと言っていた彼だが、これくらいのことは手伝ってくれるだろう。いや、手伝わせる。リアノはそう決めていた。
「彼が、いい船を作ってくれるの」
「いい船ですか、流石キャプテン。広い人脈ですね。わたしも早く、ウノーヴァとの交易をやってみたいです」
リアノの言葉に、キャサリンが頷く。どうやら、グレンの静かな生活は、まだ先のようだ。
サラサの視界の先に、懐かしい建物が見えてきた。剣道場だ。スオウがいなくなった後、戸惑いながらも師範を続けていた、あの日のことが思い出される。あの頃と何も変わらない、懐かしい空気が辺りを漂っていた。
「あの子に、顔を見せてあげたら?」
この剣道場に行く前、サラサはヨハンの工房を訪れていた。ヨハンが、ケニーのことを気にしているのは分かっていたからだ。ヨハンは少し考えた後、首を横に振った。
「それは、あいつが来るまで待つよ」
「それは、そうかもね」
「姉ちゃん、ケニーのこと育ててくれるのか?」
たまたま工房にいた、マックスが尋ねてくる。
「それも考えたけど・・・あの子は、着実に強くなっているはずだから」
言外に、道場にすぐ戻るつもりはないことを告げていた。その言葉に、マックスが驚いた表情を見せる。
「おれさ、サラサ姉ちゃんは真っ先に道場に戻るのかと思っていたよ。言っちゃあなんだけど、刀にしか興味がないのかと思っていたし。でも、そうじゃないんだな。姉ちゃん、何がやりたいんだい?」
「そうだそうだ、怠慢経営」
サラサは、無言でヨハンの首をつかんだ。
「ごめんなさい」
ヨハンの首を離しながら、サラサは口を開いた。
「道場に戻る道も考えたけど。今回の戦いでわたしはわたしたちと違う正義を見た。このノームコプでも、色々な人が異なった正義を掲げている、わたしは、その正義を見て回りたい」
「それはつまり、姉ちゃん自身の正義を確かめたいからかい?」
「それもあるけど」
サラサは、少し考え込む。サラサ自身の考えていることに、適した言葉が見当たらないのだ。マックスはそれを察したようで、頷く。
「サラサ姉ちゃんは刀にしか興味がないような顔してるけど、ずっと真面目な人間だもんな。自分が何のために戦うのか、いつもちゃんと考えているし。ルーファスとの戦いのときだって、そうだからおれは安心して戦えたよ」
マックスは、サラサの手を握る。
「姉ちゃん、今までありがとうな。すげえ強くて、頼りになったよ」
「こちらこそ、ありがとう」
サラサは微笑み、工房から出ていった。そして、剣道場へと向かったのだ。
「あ、サラサちゃん!」
剣道場に入り、稽古を見つめていたサラサをまず見つけたのは、コクサイだった。もう間もなく三十歳になるはずだが、フィルボルの血が入っている彼女は相変わらず、子どものような雰囲気を漂わせている。
「お久しぶりです。姉上」
サラサが、頭を下げる。
「よし、久しぶりにみんなの師匠も返ってきたし、いったん休憩!」
コクサイはそう告げると、サラサの元へとやってきた。
「戻ってきたってことは、『魔王』は無事倒せたってことだよね?」
「ええなんとか、みんなの力もあって倒すことが出来ました」
サラサの返事を聞くと、コクサイは大きく頷いた。
「凄いね! おまけに、スオウ師匠にも会えたんでしょ? ケニー君から聞いたよ。わたしも師匠に会いたかったなあ・・・。師匠は、元気にしてた?」
サラサはスオウの様子を思い返し、苦笑する。
「ええ、元気でした。」
コクサイは、サラサの話を聞くと頷く。
「やっぱり、師匠は師匠だね。あ、そうだ、ケニー君!」
コクサイが呼ぶと、間もなくケニーが現れた。
「お久しぶりです! 師匠!」
ケニーと会うのは、一年半ぶりであった。ケニーは背が大きくなっていた。以前は、サラサより小さかったのに、今はサラサよりもいくらか大きくなっている。そしておそらく、まだまだその背は伸びるのだろう。
「師匠、ヨハンさんは元気にしてますか?」
ケニーは、以前と比べて落ち着いた雰囲気を持っていた。おそらく、日々の鍛練で成長したのだろう。
「僕は早く、ヨハンさんに恩を返せるくらい強くなりたいんです。ただ、ここで稽古を積めば積むほど、僕の未熟さが分かるばかりで・・・」
とはいえ、十四歳との年齢を考えれば、かなりの実力を持っているだろう。
「ケニー君はまだまだこれから一杯伸びていくんだから、まだ焦る必要はないよ。それよりまずは、しっかり体力をつけること。あなたにはあの鎧があるんだから、それを身に付けてちゃんと走ってる?」
「もちろんですよ、ちゃんと鎧を付けて走って、稽古の時には脱いでいます」
あの鎧とは、ヨハンが貸している鎧だろう。
「ただ、あの鎧はまだ、返せそうもないですね」
ケニーが、苦笑しながらサラサに告げる。
「でもきっと、近いうち・・・数年以内には、鎧を返せるだけの実力を身に付けたいと思っています。だから師匠、また稽古をつけて下さい!」
「そうね。でも」
と、サラサは首を横に振った。
「わたしはこれから旅に出ようと思っているの」
「旅に、ですか?」
「ええ。今回の戦いの中で、わたしは色々な正義を見てきた。でも、何が正しいかは分からなかった。この大陸でも多くの人が争っているから、わたしはどんな正義があるかを旅する中で見ていきたい」
サラサが、ケニーの疑問に答える。ケニーは、少し目を輝かせた。
「じゃあ、僕もついて行きたいです!」
「それは駄目」
そう告げたのは、コクサイだった。
「あなたはまだ修行中なんだから、せめて、わたしを倒せるようにならないと。それまでは行かせられないよ」
そして、サラサの方を向く。
「ま、なんにせよサラサちゃんが好きなことをやるのが一番だね。大変なことも多いかもしれないけど、またおいでよ」
「姉上、苦労をかけますがよろしくお願いします」
サラサは、深々と頭を下げた。コクサイは軽く笑った。
「大丈夫、大丈夫。わたしがこれまで楽してきただけなんだから」
「あの子に、顔を見せてあげたら?」
この剣道場に行く前、サラサはヨハンの工房を訪れていた。ヨハンが、ケニーのことを気にしているのは分かっていたからだ。ヨハンは少し考えた後、首を横に振った。
「それは、あいつが来るまで待つよ」
「それは、そうかもね」
「姉ちゃん、ケニーのこと育ててくれるのか?」
たまたま工房にいた、マックスが尋ねてくる。
「それも考えたけど・・・あの子は、着実に強くなっているはずだから」
言外に、道場にすぐ戻るつもりはないことを告げていた。その言葉に、マックスが驚いた表情を見せる。
「おれさ、サラサ姉ちゃんは真っ先に道場に戻るのかと思っていたよ。言っちゃあなんだけど、刀にしか興味がないのかと思っていたし。でも、そうじゃないんだな。姉ちゃん、何がやりたいんだい?」
「そうだそうだ、怠慢経営」
サラサは、無言でヨハンの首をつかんだ。
「ごめんなさい」
ヨハンの首を離しながら、サラサは口を開いた。
「道場に戻る道も考えたけど。今回の戦いでわたしはわたしたちと違う正義を見た。このノームコプでも、色々な人が異なった正義を掲げている、わたしは、その正義を見て回りたい」
「それはつまり、姉ちゃん自身の正義を確かめたいからかい?」
「それもあるけど」
サラサは、少し考え込む。サラサ自身の考えていることに、適した言葉が見当たらないのだ。マックスはそれを察したようで、頷く。
「サラサ姉ちゃんは刀にしか興味がないような顔してるけど、ずっと真面目な人間だもんな。自分が何のために戦うのか、いつもちゃんと考えているし。ルーファスとの戦いのときだって、そうだからおれは安心して戦えたよ」
マックスは、サラサの手を握る。
「姉ちゃん、今までありがとうな。すげえ強くて、頼りになったよ」
「こちらこそ、ありがとう」
サラサは微笑み、工房から出ていった。そして、剣道場へと向かったのだ。
「あ、サラサちゃん!」
剣道場に入り、稽古を見つめていたサラサをまず見つけたのは、コクサイだった。もう間もなく三十歳になるはずだが、フィルボルの血が入っている彼女は相変わらず、子どものような雰囲気を漂わせている。
「お久しぶりです。姉上」
サラサが、頭を下げる。
「よし、久しぶりにみんなの師匠も返ってきたし、いったん休憩!」
コクサイはそう告げると、サラサの元へとやってきた。
「戻ってきたってことは、『魔王』は無事倒せたってことだよね?」
「ええなんとか、みんなの力もあって倒すことが出来ました」
サラサの返事を聞くと、コクサイは大きく頷いた。
「凄いね! おまけに、スオウ師匠にも会えたんでしょ? ケニー君から聞いたよ。わたしも師匠に会いたかったなあ・・・。師匠は、元気にしてた?」
サラサはスオウの様子を思い返し、苦笑する。
「ええ、元気でした。」
コクサイは、サラサの話を聞くと頷く。
「やっぱり、師匠は師匠だね。あ、そうだ、ケニー君!」
コクサイが呼ぶと、間もなくケニーが現れた。
「お久しぶりです! 師匠!」
ケニーと会うのは、一年半ぶりであった。ケニーは背が大きくなっていた。以前は、サラサより小さかったのに、今はサラサよりもいくらか大きくなっている。そしておそらく、まだまだその背は伸びるのだろう。
「師匠、ヨハンさんは元気にしてますか?」
ケニーは、以前と比べて落ち着いた雰囲気を持っていた。おそらく、日々の鍛練で成長したのだろう。
「僕は早く、ヨハンさんに恩を返せるくらい強くなりたいんです。ただ、ここで稽古を積めば積むほど、僕の未熟さが分かるばかりで・・・」
とはいえ、十四歳との年齢を考えれば、かなりの実力を持っているだろう。
「ケニー君はまだまだこれから一杯伸びていくんだから、まだ焦る必要はないよ。それよりまずは、しっかり体力をつけること。あなたにはあの鎧があるんだから、それを身に付けてちゃんと走ってる?」
「もちろんですよ、ちゃんと鎧を付けて走って、稽古の時には脱いでいます」
あの鎧とは、ヨハンが貸している鎧だろう。
「ただ、あの鎧はまだ、返せそうもないですね」
ケニーが、苦笑しながらサラサに告げる。
「でもきっと、近いうち・・・数年以内には、鎧を返せるだけの実力を身に付けたいと思っています。だから師匠、また稽古をつけて下さい!」
「そうね。でも」
と、サラサは首を横に振った。
「わたしはこれから旅に出ようと思っているの」
「旅に、ですか?」
「ええ。今回の戦いの中で、わたしは色々な正義を見てきた。でも、何が正しいかは分からなかった。この大陸でも多くの人が争っているから、わたしはどんな正義があるかを旅する中で見ていきたい」
サラサが、ケニーの疑問に答える。ケニーは、少し目を輝かせた。
「じゃあ、僕もついて行きたいです!」
「それは駄目」
そう告げたのは、コクサイだった。
「あなたはまだ修行中なんだから、せめて、わたしを倒せるようにならないと。それまでは行かせられないよ」
そして、サラサの方を向く。
「ま、なんにせよサラサちゃんが好きなことをやるのが一番だね。大変なことも多いかもしれないけど、またおいでよ」
「姉上、苦労をかけますがよろしくお願いします」
サラサは、深々と頭を下げた。コクサイは軽く笑った。
「大丈夫、大丈夫。わたしがこれまで楽してきただけなんだから」
「ヨハンの兄ちゃん」
工房では、ヨハンにマックスが話しかけていた。
「どうした?」
「前も言ってたけどよ、本当に一人で行くのか? おれもウェンディもさ、正直、どうやって行くかとかそんなに決めているわけじゃないんだよ。ヨハンの兄ちゃんがいてくれるなら心強いしさ」
珍しく弱気なことを告げるマックスの額を、ヨハンは軽く叩く。
「兄ちゃん?」
「いいじゃないか。お互い、自由なんだしさ。たまには別々に行動することもあるし、生きてたらまた会えるだろ」
マックスは、じっとヨハンを見た。
「でも、おれたちはみんな、今までずっと一緒だったじゃないか。兄ちゃんは、寂しくないのか?」
ヨハンから、すぐに返事はなかった。
「そうだな」
しばらくしてから、ヨハンが口を開く。ヨハンは、悩んでいるようだった。ヨハンが悩むのは、珍しい。
「今まで何度も、ひとりで生きてきたよ。こんな大勢と一緒に行動するのは初めてだった。でも、長いことずっと一緒だった。それがなくなるんだから、今までと勝手が違ってくることもあるだろうさ」
「でも、兄ちゃんはあえてそうするのか?」
「まあ、そうだな」
今度は、マックスが黙る番だった。
「そうか、そうだよな」
マックスが、何かを確認するように呟く。
「兄ちゃんは、自分の人生の中で、一番大きな問題を片付けたばっかりだもんな」
「そうだな」
ヨハンが頷く。マックスは、そんなヨハンを改めてしっかり見た。
「でもさ兄ちゃん、これだけは答えてくれよ。そうやって進んだらさ、兄ちゃんはそうしてよかったって思えるような未来を見つけられるかい?」
ヨハンも、マックスを見て頷く。
「ああ、これから見つけに行く」
そして、いつもの笑みを見せる。
「悪い『魔王』を倒したんだ。おれの未来は幸福が約束されているに決まっているさ」
マックスも笑った。
「確かに、兄ちゃんをどうこうできるようなやつは、この大陸にはもういないかもしれないよなあ」
ヨハンは頷く。
「なにしろ、ゼンマイガーの力をおれは手に入れたからな」
その後、隣にいるウェンディに話しかける。
「おい、ウェンディ」
ウェンディが、顔を上げた。
「お前にとって、ルーファスがどんなやつだったのかおれにはわかっているつもりだ。知った上で、おれはやつを殺した。お前がこれから生きていく上で、ルーファスのことを思い出して納得できないことや割り切れないことも出てくるだろう。そういう時は、おれを恨め。ルーファスを殺したのは、おれだ」
「でも、兄ちゃん」
横から口を挟んできたのは、マックスだった。そんなマックスに対し、ヨハンは邪険に手を振る。マックスは何かを察したのか、口を閉じた。ウェンディは、そんな二人を見ながら、呟く。
「それはできないよ。確かに、あなたはわたしにとって大切な人を殺した。その点では、あなたは許されないことをしたのかもしれない。でも、わたしとあなたは友人じゃない。なんで、友人同士憎み合う必要があるの?」
ウェンディの言葉に、ヨハンはけたけたと笑った。
「まあ、おれはひねくれ者だからな。ひねくれた考え方をしているんだ。まあ、割り切れないことがあったとき、すべてに結論が出るわけじゃない。まあ」
そう言って、ヨハンはマックスの髪をぐしゃぐしゃにする。
「こいつと一緒だったら、そう言ったことが浮かんでくるまでもないような、騒がしい毎日になるだろうよ」
「なんだよ兄ちゃん、おれがまるでなんも考えていないみたいな言い方はよ。おれだって色々考えているんだよ。デストラクションは、どんなバナナが好きかとかさ」
マックスが、苦笑する。ウェンディは、そんな二人を見て微笑んだ。
「まあ、大丈夫。わたしはマックスと一緒だから。あなたが一番知っているでしょ? マックス君の凄いところを」
「そうだな、あいつは色々と凄かったよ」
ヨハンが、遠い昔のことを語るかのように頷いた。
「なんで過去形なんだよ、兄ちゃん」
マックスの突っ込みを無視して、ヨハンは遠い目を浮かべる。
「マックスはここだよ、兄ちゃん!」
二人の横で、ウェンディが笑っていた。
工房では、ヨハンにマックスが話しかけていた。
「どうした?」
「前も言ってたけどよ、本当に一人で行くのか? おれもウェンディもさ、正直、どうやって行くかとかそんなに決めているわけじゃないんだよ。ヨハンの兄ちゃんがいてくれるなら心強いしさ」
珍しく弱気なことを告げるマックスの額を、ヨハンは軽く叩く。
「兄ちゃん?」
「いいじゃないか。お互い、自由なんだしさ。たまには別々に行動することもあるし、生きてたらまた会えるだろ」
マックスは、じっとヨハンを見た。
「でも、おれたちはみんな、今までずっと一緒だったじゃないか。兄ちゃんは、寂しくないのか?」
ヨハンから、すぐに返事はなかった。
「そうだな」
しばらくしてから、ヨハンが口を開く。ヨハンは、悩んでいるようだった。ヨハンが悩むのは、珍しい。
「今まで何度も、ひとりで生きてきたよ。こんな大勢と一緒に行動するのは初めてだった。でも、長いことずっと一緒だった。それがなくなるんだから、今までと勝手が違ってくることもあるだろうさ」
「でも、兄ちゃんはあえてそうするのか?」
「まあ、そうだな」
今度は、マックスが黙る番だった。
「そうか、そうだよな」
マックスが、何かを確認するように呟く。
「兄ちゃんは、自分の人生の中で、一番大きな問題を片付けたばっかりだもんな」
「そうだな」
ヨハンが頷く。マックスは、そんなヨハンを改めてしっかり見た。
「でもさ兄ちゃん、これだけは答えてくれよ。そうやって進んだらさ、兄ちゃんはそうしてよかったって思えるような未来を見つけられるかい?」
ヨハンも、マックスを見て頷く。
「ああ、これから見つけに行く」
そして、いつもの笑みを見せる。
「悪い『魔王』を倒したんだ。おれの未来は幸福が約束されているに決まっているさ」
マックスも笑った。
「確かに、兄ちゃんをどうこうできるようなやつは、この大陸にはもういないかもしれないよなあ」
ヨハンは頷く。
「なにしろ、ゼンマイガーの力をおれは手に入れたからな」
その後、隣にいるウェンディに話しかける。
「おい、ウェンディ」
ウェンディが、顔を上げた。
「お前にとって、ルーファスがどんなやつだったのかおれにはわかっているつもりだ。知った上で、おれはやつを殺した。お前がこれから生きていく上で、ルーファスのことを思い出して納得できないことや割り切れないことも出てくるだろう。そういう時は、おれを恨め。ルーファスを殺したのは、おれだ」
「でも、兄ちゃん」
横から口を挟んできたのは、マックスだった。そんなマックスに対し、ヨハンは邪険に手を振る。マックスは何かを察したのか、口を閉じた。ウェンディは、そんな二人を見ながら、呟く。
「それはできないよ。確かに、あなたはわたしにとって大切な人を殺した。その点では、あなたは許されないことをしたのかもしれない。でも、わたしとあなたは友人じゃない。なんで、友人同士憎み合う必要があるの?」
ウェンディの言葉に、ヨハンはけたけたと笑った。
「まあ、おれはひねくれ者だからな。ひねくれた考え方をしているんだ。まあ、割り切れないことがあったとき、すべてに結論が出るわけじゃない。まあ」
そう言って、ヨハンはマックスの髪をぐしゃぐしゃにする。
「こいつと一緒だったら、そう言ったことが浮かんでくるまでもないような、騒がしい毎日になるだろうよ」
「なんだよ兄ちゃん、おれがまるでなんも考えていないみたいな言い方はよ。おれだって色々考えているんだよ。デストラクションは、どんなバナナが好きかとかさ」
マックスが、苦笑する。ウェンディは、そんな二人を見て微笑んだ。
「まあ、大丈夫。わたしはマックスと一緒だから。あなたが一番知っているでしょ? マックス君の凄いところを」
「そうだな、あいつは色々と凄かったよ」
ヨハンが、遠い昔のことを語るかのように頷いた。
「なんで過去形なんだよ、兄ちゃん」
マックスの突っ込みを無視して、ヨハンは遠い目を浮かべる。
「マックスはここだよ、兄ちゃん!」
二人の横で、ウェンディが笑っていた。
「じゃあ、兄ちゃん。ここでお別れだな」
マックスが、ヨハンに告げる。そろそろ、マックスとウェンディはコトブキに向けて出発する頃であった。
「ああ、お別れだ。ま、みんなで集まる時は必ず呼べよ」
ヨハンが、軽い口調で答える。マックスは頷いた。
「ああ、そうだな。兄ちゃんがおれたちのことを思い出したくなった時にでも呼ぶよ」
ヨハンはにやりと笑う。
「おれも、退屈したらお前の所に押し掛けるとするよ」
マックスも、笑い返した。
「全く、兄ちゃんはいつも勝手だよな」
「ああ、そうだよ。おれのことは、これから全部おれが決めるわけだからな」
マックスが、頷く。
「兄ちゃん、ちゃんと自分の道を選んで行けよ。達者でな」
マックスが、手を振って工房から出ていく。
「ああ、じゃあな、マックス・ボンバー」
ヨハンも、大きく手を振り返した。
「じゃあな、ヨハンの兄ちゃん」
マックスは工房の扉を開いた。そこで、くるりと振り向き、叫ぶ。
「兄ちゃん、最後に言っておきたいんだけど。兄ちゃん、おれのことはよく蹴るし、考えることは意味わかんないんだけどさ。でもさ、やっぱり頼りになるいい兄ちゃんだったよ!」
ヨハンも、工房の奥から叫び返す
「わけわかんないのは、お互い様だ!」
そして、二人は笑って別れた。
マックスが、ヨハンに告げる。そろそろ、マックスとウェンディはコトブキに向けて出発する頃であった。
「ああ、お別れだ。ま、みんなで集まる時は必ず呼べよ」
ヨハンが、軽い口調で答える。マックスは頷いた。
「ああ、そうだな。兄ちゃんがおれたちのことを思い出したくなった時にでも呼ぶよ」
ヨハンはにやりと笑う。
「おれも、退屈したらお前の所に押し掛けるとするよ」
マックスも、笑い返した。
「全く、兄ちゃんはいつも勝手だよな」
「ああ、そうだよ。おれのことは、これから全部おれが決めるわけだからな」
マックスが、頷く。
「兄ちゃん、ちゃんと自分の道を選んで行けよ。達者でな」
マックスが、手を振って工房から出ていく。
「ああ、じゃあな、マックス・ボンバー」
ヨハンも、大きく手を振り返した。
「じゃあな、ヨハンの兄ちゃん」
マックスは工房の扉を開いた。そこで、くるりと振り向き、叫ぶ。
「兄ちゃん、最後に言っておきたいんだけど。兄ちゃん、おれのことはよく蹴るし、考えることは意味わかんないんだけどさ。でもさ、やっぱり頼りになるいい兄ちゃんだったよ!」
ヨハンも、工房の奥から叫び返す
「わけわかんないのは、お互い様だ!」
そして、二人は笑って別れた。
マックスは、ウェンディと共にコトブキに向けて出発した。途中、目的としていたアキが一時行方不明になるなどいくつか問題もあったが、ひと月後の10月にはコトブキへとたどり着いていた。ただ、アキは新しく反乱を起こしたヒート・テックという男に対峙すべく、近くにある別の待ち、ハクタイに出向いている。とは言え、マックスたちはコトブキによっていた。そこにいる知り合いにあって、話を進めた方が早いと考えたためだ。知り合いとは、エスポワール・ド・メイソン。かつて、ヨハンたちと共にコウテツ島を襲撃した少年だ。彼は今、アキのもとで将校になっていた。
「マックス、久しぶり!」
「おっ、エスポワール! 見違えたな」
久しぶりに会ったエスポワールもまた、成長していた。初めて出会った時にあった、どこか弱弱しい感じがなくなっている。アキのもとで、育てられているからだろうか。
「大丈夫か? こっちは色々と大変だったんだろ?」
「僕はまだ全然。実戦にも出ていないしね」
エスポワールは、首を横に振った。
「いいんだよ、そう言ったことはおれたちみたいなやつがやることなんだからさ」
マックスは、軽く笑う。エスポワールはそんなマックスとウェンディをエスポワールの家へと案内する。どうやら、イングラムはいないようだった。イングラムは、その経験を買われ、ハクタイにいるアキに急遽呼び出されたらしい。
「僕もいずれ、イングラムさんみたいに頼りにされるようにならないと」
「なれる、なれる。要は気合だぜ、エスポワール」
マックスが、大きく頷いた。
「でも、焦っては駄目・・・」
近くにいた、ウェールズがエスポワールに語りかける。
「あなたは、将来を嘱望されているの。わたしの手に持つ魔剣『アブソリュートダークフォース』も、今は時じゃないと告げているわ。だから、今はここで待ちながら、世の中がどうなっているのか、世界の破滅をもたらそうとする巨悪は誰かを見極めるときなの。わたしだって、戦いたい。でも、今は大人しく、わたしの出番がある時まで新魔術『エターナルシャドウβ』を開発しているんだから」
マックスは、突然の言葉にいくらか混乱したようだった。
「ええと、その『アブソリュートダークフォース』ってなんなんだ?」
思わず、素で聞いてしまう。
「この魔剣よ。気を付けて、選ばれし者以外が触ると、不幸をもたらすと言われているわ」
「こいつか?」
マックスは剣を見た。見たところ、普通の剣と変わりはない。
「剣のことはサラサの姉ちゃんに聞かないと、よくわかんないな」
マックスは、首を横に振った。と、そこでエスポワールが手を叩いた。その顔は、いくらか苦笑いを浮かべている。
「そうそう、実は二人に助けてほしいことがあって」
「助けてほしいこと? なんだよエスポワール、水臭いなあ」
「ちょっと来てください」
エスポワールが部屋の扉を開ける。そこには、誰よりもくつろいでいるヨハンの姿があった。
「あ」
「あ」
お互い、見つめ合う。気まずい沈黙が、流れた。
「短い別れだったな」
気を取り直したように、ヨハンが話しかける。
「兄ちゃん・・・おれ、この一か月くらいで兄ちゃんのことを頭の中で結構美化していたことに気が付いたぜ」
そう言われたことが悔しいのか、ヨハンはきりっとした顔になる。
「おれのやることは、おれが決める」
マックスは、思わず吹き出してしまった。
「でも、確かにヨハン兄ちゃんだな」
エスポワールも横で苦笑している。
「マックス。この人、毎日この調子なんだよ」
「お前が! とっとと! ここから出さないからだろ!」
ヨハンが指摘する。マックスは爆笑し始めた。
「マックス、久しぶり!」
「おっ、エスポワール! 見違えたな」
久しぶりに会ったエスポワールもまた、成長していた。初めて出会った時にあった、どこか弱弱しい感じがなくなっている。アキのもとで、育てられているからだろうか。
「大丈夫か? こっちは色々と大変だったんだろ?」
「僕はまだ全然。実戦にも出ていないしね」
エスポワールは、首を横に振った。
「いいんだよ、そう言ったことはおれたちみたいなやつがやることなんだからさ」
マックスは、軽く笑う。エスポワールはそんなマックスとウェンディをエスポワールの家へと案内する。どうやら、イングラムはいないようだった。イングラムは、その経験を買われ、ハクタイにいるアキに急遽呼び出されたらしい。
「僕もいずれ、イングラムさんみたいに頼りにされるようにならないと」
「なれる、なれる。要は気合だぜ、エスポワール」
マックスが、大きく頷いた。
「でも、焦っては駄目・・・」
近くにいた、ウェールズがエスポワールに語りかける。
「あなたは、将来を嘱望されているの。わたしの手に持つ魔剣『アブソリュートダークフォース』も、今は時じゃないと告げているわ。だから、今はここで待ちながら、世の中がどうなっているのか、世界の破滅をもたらそうとする巨悪は誰かを見極めるときなの。わたしだって、戦いたい。でも、今は大人しく、わたしの出番がある時まで新魔術『エターナルシャドウβ』を開発しているんだから」
マックスは、突然の言葉にいくらか混乱したようだった。
「ええと、その『アブソリュートダークフォース』ってなんなんだ?」
思わず、素で聞いてしまう。
「この魔剣よ。気を付けて、選ばれし者以外が触ると、不幸をもたらすと言われているわ」
「こいつか?」
マックスは剣を見た。見たところ、普通の剣と変わりはない。
「剣のことはサラサの姉ちゃんに聞かないと、よくわかんないな」
マックスは、首を横に振った。と、そこでエスポワールが手を叩いた。その顔は、いくらか苦笑いを浮かべている。
「そうそう、実は二人に助けてほしいことがあって」
「助けてほしいこと? なんだよエスポワール、水臭いなあ」
「ちょっと来てください」
エスポワールが部屋の扉を開ける。そこには、誰よりもくつろいでいるヨハンの姿があった。
「あ」
「あ」
お互い、見つめ合う。気まずい沈黙が、流れた。
「短い別れだったな」
気を取り直したように、ヨハンが話しかける。
「兄ちゃん・・・おれ、この一か月くらいで兄ちゃんのことを頭の中で結構美化していたことに気が付いたぜ」
そう言われたことが悔しいのか、ヨハンはきりっとした顔になる。
「おれのやることは、おれが決める」
マックスは、思わず吹き出してしまった。
「でも、確かにヨハン兄ちゃんだな」
エスポワールも横で苦笑している。
「マックス。この人、毎日この調子なんだよ」
「お前が! とっとと! ここから出さないからだろ!」
ヨハンが指摘する。マックスは爆笑し始めた。
エスポワールが話してくれたことによると、ヨハンとサラサの二人はヨハンのMk-Ⅽをに乗って早くもコトブキにたどり着いていたようである。ヨハンはどうやら、マックスに先んじてアキと交渉してみたかったらしい。ただ、ここで一つの問題が発生した。ヨハンはコトブキにいる誰にも断りなく、Mk-Ⅽ―つまりは兵器―に乗り込んでやってきたのだ。当然、コトブキにいた兵士たちは迎撃体制をとる。しかし、相手はヨハンだった。跳んでくる矢や大砲の弾をものともせず、コトブキの城へと降り立った。
「おれは客だ!」
そう叫びながら、魔力をためる。
「とっとともてなせや!」
しかし、ヨハンは忘れていた。ヨハンの後ろには、サラサがいたのだ。まもなく、近くの地面にヨハンが突き刺さった。
「サラサ様、ごめんなさい」
流石に、こんな事件を起こしてしまったので、ヨハンはひと月の間、エスポワールの屋敷で謹慎処分になってしまったらしい。
「おれは客だ!」
そう叫びながら、魔力をためる。
「とっとともてなせや!」
しかし、ヨハンは忘れていた。ヨハンの後ろには、サラサがいたのだ。まもなく、近くの地面にヨハンが突き刺さった。
「サラサ様、ごめんなさい」
流石に、こんな事件を起こしてしまったので、ヨハンはひと月の間、エスポワールの屋敷で謹慎処分になってしまったらしい。
「わたしは、ブーストと戦ったユウキって人物に興味がある」
部屋へとやってきたサラサが、マックスに告げる。どうやら、マックスたちがやって来るまで、ヨハンの番をしていたようだった。
「でも、だったらなんで、おれたちと一緒に来なかったんだ?」
その問いに、サラサは困ったような顔をした。
「それはその・・・せっかくの二人旅を邪魔したくなくて」
こんどは、マックスたちが苦笑する番だった。エスポワールを向き、話を変える。
「で、エスポワール。おれたちはこれからどうしたらいいんだ?」
マックスがエスポワールに尋ねる。エスポワールは頷いた。
「アキ殿下にお会いしたいんですよね。それだったら、僕もハクタイに行く口実が出来ることになる。もちろん、戦いに参加したりはしませんが、仲間たちには会いたいですからね。案内しますよ」
部屋へとやってきたサラサが、マックスに告げる。どうやら、マックスたちがやって来るまで、ヨハンの番をしていたようだった。
「でも、だったらなんで、おれたちと一緒に来なかったんだ?」
その問いに、サラサは困ったような顔をした。
「それはその・・・せっかくの二人旅を邪魔したくなくて」
こんどは、マックスたちが苦笑する番だった。エスポワールを向き、話を変える。
「で、エスポワール。おれたちはこれからどうしたらいいんだ?」
マックスがエスポワールに尋ねる。エスポワールは頷いた。
「アキ殿下にお会いしたいんですよね。それだったら、僕もハクタイに行く口実が出来ることになる。もちろん、戦いに参加したりはしませんが、仲間たちには会いたいですからね。案内しますよ」
エスポワールと共に、ヨハンたちはハクタイに到着した。エスポワールに促されるまま、ヨハンたちはハクタイ中央部にある城を進んでいく。と、エスポワールに話しかける者があった。
「どうした、エスポワール。お前はコトブキで待っているはずだろう」
イングラムだった。エスポワールは、後ろにいるヨハンたちを指さした。イングラムは、それで理解したらしい。
「お前たち、ウノーヴァから生きて帰ってきたのか! 凄いな。エミリーたちでも冒険しないような、ウノーヴァの奥地まで行ったんだろ? お前ら、やっぱりすごい奴だな」
「いや、それほどでも・・・」
マックスが、柄にもなく謙遜した表情を取る。その横で、ヨハンがにやりと口を開いた。
「あるぜ!」
「イングラムさん、アキ殿下はどこにいるかわかりますか?」
エスポワールが、イングラムに尋ねる。
「ああ。この奥にいる。ただ、気を付けろよ。護衛のジョーってやつは、アキを守ることに全力を尽くしている。今は、こんなこともあって気が立っているからな。変なことを言うと首が飛ぶぞ」
「あまり、おれについての冗談を飛ばすな。イングラム」
イングラムの後ろから、男の声がした。大柄な男だった。更に、その背には巨大な両手剣を持っている。
「姫様がお前たちのことを待っている」
ヨハンたちはこの男に見覚えがあった。ミリオンズを倒すための兵器を開発しようとした時や、ヨハンたちがウノーヴァに行くとき、この男はヨーコと名乗る若い女性と共にアキの代理としてよくヨハンたちの前に姿を現していた。ジョーに促されるままヨハンたちは、ジョーが出てきた部屋へと向かう。
「この部屋だ」
ジョーが案内してくれた部屋では、ヨーコが書類を読んでいた。よく、ジョーと行動を共にしていた女性だ。
「あれ、あんたは見送りの時の姉ちゃん?」
思わず、ヨハンが怪訝な顔をする。
「久しぶりだな。わたしのこと、覚えていてくれたのか」
ヨーコが、少し驚いた顔をする。そして、苦笑しながら話を始める。
「実は、わたしがアキだ。初めて会った時、本名を名乗らなくて申し訳ない。ジョーに、もっと忍んで動けと怒られるんだ」
「姫様、人のせいにするのはどうかと」
「まあいいじゃないか、ジョー。それはそうとして、ここに来たのは、エミリーが言っていた和平のことかな?」
ヨハンたちの言葉に、アキは頷く。
「おう、そうだよ。和平、和平。和平だよ、和平」
マックスが、何かを思い出したかのように大きく頷く。本当に内容を覚えているのか、怪しい。危険視したヨハンが、手刀を飛ばした。
「和平の交渉がどうのこうのって話だな」
ウェンディを見ながら、ヨハンが頷く。ウェンディがブーストから手紙を、アキに渡す。
「わたしとしても、ブーストが味方になってくれるのなら、とても心強い。何しろ、今わたしたちヒロズ国は、四方に敵を抱えているんだ。本当は、カタストを倒すのに全力を尽くしたいんだが、今はヒートが何よりも問題でな。わたしも、危うく死にかけたよ」
アキは笑う。
「それはそうとして、この世界を救ってくれて、ありがとう。『魔王』だけじゃない。君たちがいなかったら、ノームコプはハーテン教の生み出した人造生物に蹂躙されていたかもしれないし、コガネの街はハーテン教から奪還できなかっただろう。君たちのお蔭で、この世界は何度も救われているんだ。本当に、ありがとう。君らには感謝してもしきれない。この世界が平和になったら、出来る限りのお礼をさせてくれ」
アキはそう告げると、深く頭を下げた。
「そんなものは必要ない」
ヨハンが答える。
「金と、自分の都合でやっただけさ」
マックスも頷く。
「おれも、自分の周りの人が正しいと思ったから、協力しただけさ」
そして、ウェンディを見る。
「今は今で、別の目的もあるしな」
「そうか」
アキは頷いた。ひょっとしたら、マックスについては少し何かを勘違いしたのかもしれない。
「ただ、恐らく、今すぐに同盟を表に出すのは難しいだろうな。わたしはいつでも歓迎だが、ブースト軍が今、カタストたちを裏切ったとして、ブースト軍の手助けをすることは難しい。まず、背後のヒート軍をなんとかしてからだな」
アキはそう告げると、ブーストに渡す書類を書きはじめた。そうしながら、ふとヨハンたちを見る。
「そう言えば、わたしの部下にも君たちによく似たやつらがいるんだ。もちろん、性格とかは似ていないんだが・・・『運命』を切り開くと言うのかな。ここぞという場面で、何かすごいことをやり遂げてくれる。そう言った連中だ。君たちや彼らのような人々を見ていると、ノームコプは希望があると、本当に思えてくる」
これからも、よろしく頼む。アキはヨハンと、サラサ、マックス、そしてウェンディに、頭を下げた。
「どうした、エスポワール。お前はコトブキで待っているはずだろう」
イングラムだった。エスポワールは、後ろにいるヨハンたちを指さした。イングラムは、それで理解したらしい。
「お前たち、ウノーヴァから生きて帰ってきたのか! 凄いな。エミリーたちでも冒険しないような、ウノーヴァの奥地まで行ったんだろ? お前ら、やっぱりすごい奴だな」
「いや、それほどでも・・・」
マックスが、柄にもなく謙遜した表情を取る。その横で、ヨハンがにやりと口を開いた。
「あるぜ!」
「イングラムさん、アキ殿下はどこにいるかわかりますか?」
エスポワールが、イングラムに尋ねる。
「ああ。この奥にいる。ただ、気を付けろよ。護衛のジョーってやつは、アキを守ることに全力を尽くしている。今は、こんなこともあって気が立っているからな。変なことを言うと首が飛ぶぞ」
「あまり、おれについての冗談を飛ばすな。イングラム」
イングラムの後ろから、男の声がした。大柄な男だった。更に、その背には巨大な両手剣を持っている。
「姫様がお前たちのことを待っている」
ヨハンたちはこの男に見覚えがあった。ミリオンズを倒すための兵器を開発しようとした時や、ヨハンたちがウノーヴァに行くとき、この男はヨーコと名乗る若い女性と共にアキの代理としてよくヨハンたちの前に姿を現していた。ジョーに促されるままヨハンたちは、ジョーが出てきた部屋へと向かう。
「この部屋だ」
ジョーが案内してくれた部屋では、ヨーコが書類を読んでいた。よく、ジョーと行動を共にしていた女性だ。
「あれ、あんたは見送りの時の姉ちゃん?」
思わず、ヨハンが怪訝な顔をする。
「久しぶりだな。わたしのこと、覚えていてくれたのか」
ヨーコが、少し驚いた顔をする。そして、苦笑しながら話を始める。
「実は、わたしがアキだ。初めて会った時、本名を名乗らなくて申し訳ない。ジョーに、もっと忍んで動けと怒られるんだ」
「姫様、人のせいにするのはどうかと」
「まあいいじゃないか、ジョー。それはそうとして、ここに来たのは、エミリーが言っていた和平のことかな?」
ヨハンたちの言葉に、アキは頷く。
「おう、そうだよ。和平、和平。和平だよ、和平」
マックスが、何かを思い出したかのように大きく頷く。本当に内容を覚えているのか、怪しい。危険視したヨハンが、手刀を飛ばした。
「和平の交渉がどうのこうのって話だな」
ウェンディを見ながら、ヨハンが頷く。ウェンディがブーストから手紙を、アキに渡す。
「わたしとしても、ブーストが味方になってくれるのなら、とても心強い。何しろ、今わたしたちヒロズ国は、四方に敵を抱えているんだ。本当は、カタストを倒すのに全力を尽くしたいんだが、今はヒートが何よりも問題でな。わたしも、危うく死にかけたよ」
アキは笑う。
「それはそうとして、この世界を救ってくれて、ありがとう。『魔王』だけじゃない。君たちがいなかったら、ノームコプはハーテン教の生み出した人造生物に蹂躙されていたかもしれないし、コガネの街はハーテン教から奪還できなかっただろう。君たちのお蔭で、この世界は何度も救われているんだ。本当に、ありがとう。君らには感謝してもしきれない。この世界が平和になったら、出来る限りのお礼をさせてくれ」
アキはそう告げると、深く頭を下げた。
「そんなものは必要ない」
ヨハンが答える。
「金と、自分の都合でやっただけさ」
マックスも頷く。
「おれも、自分の周りの人が正しいと思ったから、協力しただけさ」
そして、ウェンディを見る。
「今は今で、別の目的もあるしな」
「そうか」
アキは頷いた。ひょっとしたら、マックスについては少し何かを勘違いしたのかもしれない。
「ただ、恐らく、今すぐに同盟を表に出すのは難しいだろうな。わたしはいつでも歓迎だが、ブースト軍が今、カタストたちを裏切ったとして、ブースト軍の手助けをすることは難しい。まず、背後のヒート軍をなんとかしてからだな」
アキはそう告げると、ブーストに渡す書類を書きはじめた。そうしながら、ふとヨハンたちを見る。
「そう言えば、わたしの部下にも君たちによく似たやつらがいるんだ。もちろん、性格とかは似ていないんだが・・・『運命』を切り開くと言うのかな。ここぞという場面で、何かすごいことをやり遂げてくれる。そう言った連中だ。君たちや彼らのような人々を見ていると、ノームコプは希望があると、本当に思えてくる」
これからも、よろしく頼む。アキはヨハンと、サラサ、マックス、そしてウェンディに、頭を下げた。
こうしてH276年11月、ヨハンたちの尽力によってアキとブーストとの間で秘密裏に同盟が結ばれることとなった。この同盟が日の目を見るのは、もう少し後のことになる。
セルモこと、セルモクラスィアはアサギへと戻った。ブーストの参謀役であるアーク・ポケェから、文官として帰ってきてほしいとの誘いを再三にわたって受け続けたためだ。実際、セルモの能力は高く、こともなげに三人分の作業をこなしていた。仕事の合間合間に、アアアアを愛でながらもだ。なお、彼女の背後には絶えずアルパカヘアーの男が付きまとっていたようだが、詳細は定かではない。
マックス・ボンバーは、ウェンディと共に行動する道を選んだ。多くの人にウェンディのことを任されたし、マックス自身もウェンディのことを気にしていたのだろう。ウェンディは、アキとブーストの間での同盟を締結させるべく、飛び回るようにコトブキとアサギを往復していた。両者の間で同盟が結ばれるようになったのは、マックスとウェンディの努力があったからと言っても、過言ではないだろう。
リアノは再び、船へと戻った。タンバ島とウノーヴァ、この二つの間での航路を安定させるべく、彼女は尽力していた。時として、貿易のためにノームコプ中の港を駆け巡る彼女に国は関係ない。そんなものはリアノには関係がない。自由人たる彼女は、今日もキャサリン、アイリーン、ヨキたちとノームコプのどこか、時にはウノーヴァすらも航海している。
グレンは、レイクと結婚した。同時に二人は隠遁し、争いとは無縁のからくり屋敷で暮らし始めることになった。とは言え、時々目つきの悪い青年や船の改修を頼みに来る女性、ゴリラ野郎などが訪れることもあって、完全な隠遁はまだまだ難しそうである。また、彼は本を書きはじめた。ノームコプやウノーヴァでヨハンたちに起きたことを、記録としてまとめ始めたのである。タイトルは『プリンシプル』。いつかそれが、日の目を見る時が来るのかもしれない。
サラサは、旅に出た。ノームコプの各地を巡ることで、多くの人が考える正義の意味を知ろうとしたのだろう。特に、サラサは、ユウキ・ジンエツに会いたがっていた。ブーストすらも感心する、彼はいったいどのような正義を抱えているのだろうか。他にも、多くの人の意見を聞きながら、今日もサラサは旅をしている。
そして、ヨハンも旅に出ていた。ただし、ノームコプではない。ヨハンは一人、ウノーヴァで旅をしていた。時には魔族を倒したりもしながら、自由気ままな一人旅である。どこに行くかは、その日の気分で決めていた。かつて旅していた時は、必ずヨハンには目的があった。やらなければいけないことがあったからだ。そうではなく、自分で考えた通り誰にも縛られることなく、ヨハンは旅を始めていた。
セルモこと、セルモクラスィアはアサギへと戻った。ブーストの参謀役であるアーク・ポケェから、文官として帰ってきてほしいとの誘いを再三にわたって受け続けたためだ。実際、セルモの能力は高く、こともなげに三人分の作業をこなしていた。仕事の合間合間に、アアアアを愛でながらもだ。なお、彼女の背後には絶えずアルパカヘアーの男が付きまとっていたようだが、詳細は定かではない。
マックス・ボンバーは、ウェンディと共に行動する道を選んだ。多くの人にウェンディのことを任されたし、マックス自身もウェンディのことを気にしていたのだろう。ウェンディは、アキとブーストの間での同盟を締結させるべく、飛び回るようにコトブキとアサギを往復していた。両者の間で同盟が結ばれるようになったのは、マックスとウェンディの努力があったからと言っても、過言ではないだろう。
リアノは再び、船へと戻った。タンバ島とウノーヴァ、この二つの間での航路を安定させるべく、彼女は尽力していた。時として、貿易のためにノームコプ中の港を駆け巡る彼女に国は関係ない。そんなものはリアノには関係がない。自由人たる彼女は、今日もキャサリン、アイリーン、ヨキたちとノームコプのどこか、時にはウノーヴァすらも航海している。
グレンは、レイクと結婚した。同時に二人は隠遁し、争いとは無縁のからくり屋敷で暮らし始めることになった。とは言え、時々目つきの悪い青年や船の改修を頼みに来る女性、ゴリラ野郎などが訪れることもあって、完全な隠遁はまだまだ難しそうである。また、彼は本を書きはじめた。ノームコプやウノーヴァでヨハンたちに起きたことを、記録としてまとめ始めたのである。タイトルは『プリンシプル』。いつかそれが、日の目を見る時が来るのかもしれない。
サラサは、旅に出た。ノームコプの各地を巡ることで、多くの人が考える正義の意味を知ろうとしたのだろう。特に、サラサは、ユウキ・ジンエツに会いたがっていた。ブーストすらも感心する、彼はいったいどのような正義を抱えているのだろうか。他にも、多くの人の意見を聞きながら、今日もサラサは旅をしている。
そして、ヨハンも旅に出ていた。ただし、ノームコプではない。ヨハンは一人、ウノーヴァで旅をしていた。時には魔族を倒したりもしながら、自由気ままな一人旅である。どこに行くかは、その日の気分で決めていた。かつて旅していた時は、必ずヨハンには目的があった。やらなければいけないことがあったからだ。そうではなく、自分で考えた通り誰にも縛られることなく、ヨハンは旅を始めていた。
アリアンロッド・ノームコプ・Cグループ 完