 作:Grok |
| 基本情報 |
| 軌道半径 |
12.4天文単位(AU) |
| 直径 |
約141,000km(木星サイズに準拠) |
| 質量 |
1.9x10^27kg(木星と同等、約318地球質量) |
| 重力 |
自然状態:地球の約2.5倍 施設圏内:地球の約1.1倍(重力制御装置による) |
| 平均気温 |
外気:-145°C 施設圏内:10°C |
| 大気組成 |
窒素:82% 二酸化炭素:15% その他ガス:3% |
概要
エールミトナ星系第9惑星マルステイナは、
ユピトル領内に存在する。
著名な監獄惑星の一つとして知られる。
全域が氷で閉ざされており、特異存在を中心に外界から隔てる収容の場となった。
暦
マルステイナの暦は、
共立公暦を公式の基準としたまま施設圏の生活を自転の周期で区切り、星系外とのやり取りには二つの暦を対照表で照らし合わせる手順を踏む。
- 秒の長さ: マルステイナの1秒は地球秒の1.15倍にあたり、重力制御装置の微調整を反映した値が、日射の細る施設圏で機械の刻む精度を支える。
- 1分の長さ: 労働効率を基準に組まれた1分は70秒で、極寒の屋外作業では、短い時間で成果を上げる段取りが求められる。
- 1時間の長さ: 75分を1時間とする厳格な区切りに沿って、キメラの監視当番から労働の交替までが割り振られる。
- 1日の長さ: 自転周期に基づく1日は22時間と定められ、施設圏の人工照明も同じ周期で昼夜を切り替える。
- 1月の長さ: 1月は40日に統一された人工の区分で、労働と配給の割り当てが、資源の在庫や氷の状態に応じて月ごとに組み直される。
- 1年の長さ: 公転の一巡にあたる世代年は長期計画の物差しとなり、極域では極夜が一巡の大半を覆って受刑者の心を蝕む一方、闇の明ける短い光の季節が貴重な日照として記録に残る。
- 月の数: 自然衛星は存在せず、極夜の空に浮かぶ空中要塞の灯火が、時刻と方角を読み取る手掛かりとなる。
- 曜日の数: 1週間は5日で構成され、名を共立公暦から借りるものの、自転に基づく一日が同暦の暦日を大きく上回るため、同じ名の曜日も両暦の間では週を追うごとに離れていく。公的な日付は共立公暦に委ねられる一方、曜日の巡りは単調な極夜の暮らしに区切りを刻んでいる。
歴史
マルステイナの開拓は、
セトルラーム共立連邦の手で始まった。氷下の希少鉱石に加えて、エネルギー源の採掘を進めたのも連邦であり、犯罪者の流刑地としても充てられた。やがて軍事利用を目指した生物実験が制御の手を離れ、
変異キメラの脅威を惑星の全域に広げていく。
戦争の苛烈化に加え、
ノクターナル・コラプス(キメラ・インパクト)の発生も、暴走の拡大した時期に重なっている。大戦中期において、
帝国遠征軍が襲来すると、不毛の度合いは一段と深まった。マルステイナを接収したのは、長い空白の時代を経て連邦から独立した
ユピトリー王国(現:ユピトル学園主権連合体)である。監獄としての機能は、
文明共立機構の発足後、第1惑星
ユミルレンデルが担ってきた隔離の役目を引き継いで拡充され、上空には7基の空中要塞も築かれた。要塞群の守りと周辺空域の警戒には、
航空宇宙軍の打撃群が就いている。共立公暦950年、
学生理事会の行政改革によってジベルス管区が成立し、監守長と主任受刑者の協力体制も以後の調整を機に築かれた。現代に入ると系外企業も参入したが、キメラの脅威は、今も氷下に根を張り、企業を交えた支配の均衡を揺らし続けている。
収容体制
マルステイナの収容体制は、
学生理事会の定めた刑務行政の枠に属しつつ、日々の運営をジベルス管区の裁量に委ねている。
収容者
施設圏で暮らす受刑者が人数の大半を占めるものの、収容体制の重心は、単独で軍の一隊を相手取れる力を備えた
特異存在の身柄に置かれる。特異存在の出どころは二つに分かれ、
ユピトルの国内で罪に問われた者に、他の加盟勢力から引き渡された者が加わる。引き渡しの多くは、自国の施設で抱え続ける負担に耐えかねた側の求めに応じて行われ、身柄には罪状を記した書類に能力の評価を添えた記録が付く。受け入れの済んだ個体は施設圏の居住区から切り離され、外縁の氷原に掘り込まれた隔離房に一体ずつ収められる。通常の受刑者を施設圏に繋ぎ止める寒さと重さは、特異存在の力を削ぐ枷の一つにも数えられ、隔離房の配置も枷の効き方を基準に定められている。収容の人数が増えるたびに氷原の区画は外側へ掘り広げられ、房同士の間には、一体が暴れた際の揺れを隣の房の手前で吸収できる距離が取られてきた。特異存在の房に通常の受刑者が近づけるのは、自ら志願した世話役に限られる。世話役には刑期の短縮が約束される一方、任期を勤め上げた者の名は記録の中で一握りを数えるのみである。
委託収容
他の加盟勢力から特異存在を預かる際、
ユピトルは収容の委託料を受け取り、維持費の重さを歳入の源に転じてきた。委託料は身柄を引き渡す側が負担し、
文明共立機構も
封鎖の待機に要する費用の一部を拠出の形で肩代わりする。料率は個体ごとの能力の評価に応じて段階を分けて定められ、危険の度合いが高いほど受け入れの対価も重くなる。扱いに困る者を引き取らせる先として、マルステイナの価値は委託国にも機構にも認められ、支払いを渋る声は委託の継続を望む声にかき消されてきた。歳入に組み入れられた委託料の一部は、刑務官に支払う危険手当に回される。手当の額は他の任地の報酬を大きく上回り、敬遠されがちな異動に自ら手を挙げる志願者が相次いだ。特異存在と隣り合う緊張そのものに惹かれる者も志願者の一角を占め、職場の空気は手当の厚みとともに尖っていく。異能の力を備えた各国の被告人にとって、判決の末にマルステイナへ送られる道は最も避けたい行き先にあたり、送致の可能性を告げられた途端に供述を翻す者も現れる。力に自信を持つ一部の者は、送致の話を聞かされた後も挑発の言葉を重ね、法廷の空気を凍らせてきた。
封鎖待機
マルステイナの全域は、
異能封鎖プロトコルをいつでも発動できる待機の状態に置かれている。待機の構えは二重に組まれ、
文明共立機構の
技術安全保障局(OSTS)から派遣された要員が
虚構結界の展開に備える一方、
ユピトルの側は
令咏術の技術者を揃えて
次元隔離の準備を自前で整えている。機構の要員は要塞の一角に常駐の区画を与えられ、結界面を受け持つ術者の交代表も、駐留先の勤務表に組み込まれて管理される。ユピトルの技術者は隔離房ごとに折り畳みの起点となる座標を割り当て、結晶構造を持つ薄膜を高純度の
エーテルとともに房の近くへ備蓄してきた。いずれの系統も待機の間に資源を食い続け、エーテルの補充から術者の休養に至るまで、収容者が一体増えるごとに維持の負担が積み増される。発動の判断は、個体の出力が定められた水準を越えた時点で下される取り決めとなっており、両者のうち、どちらが先に動くかは、異変の起きた区画の受け持ちで決まる。開設の日から今日まで、待機の構えは連日敷かれ続けている。昂ぶった個体が出力を上げるたびに監視の段階が引き上げられ、術者も技術者も交代の時刻を繰り上げて持ち場に詰める。
監守団
収容者を直に扱う刑務官と、ジベルス管区を預かる監守長が、監獄の運営の要を占める。特異存在を抑え込む務めから、刑務官には
序列の上位層が求められ、7基の要塞には、グランド・マスター相当の実力者が少なくとも一人ずつ配された。残る要員はマスター層を軸に組まれ、ミッテルの上段が手薄な持ち場を補うものの、資格の関門を越えられる者は限られており、上位の刑務官に欠員が出れば補充には長い時間を要する。監守長の座にも同じ水準の実力者が選ばれ、監獄で異変が起きれば、追及の矢面に立つのも同じ座の主である。失脚すれば、身柄を収められる先としてはマルステイナの隔離房が残るのみとなる。かつて自らが扱った収容者と同じ区画に入る行く末を、歴代の監守長は執務室の窓の外に見下ろしながら務めてきた。上層で贅を尽くす暮らしの裏で系列企業との取引が続くのも、異変の芽を摘む資金と人手を、正規の予算の外から掻き集める事情と表裏をなす。
学生理事会の内部にも体質の改善を求める声は上がるものの、監守団の人事に手を入れれば封じ込めの継ぎ目が緩み、緩みが露見した時点で政権の命運が問われるため、是正の議論は着手の時期を巡って先送りが重ねられている。
施設圏内
施設圏内は、重力制御装置の働きで人の暮らせる重力と気温を保ち、数百万の受刑者と労働者を抱えている。人工ドームの内側から地下都市にまで広がる居住の場では、22時間の周期で切り替わる人工照明が昼夜の区切りを刻む。
セトルラーム時代に建てられた居住区は造りが粗く、受け入れる人数が増えるたびに過密の度合いを深めてきた。寒さに強い作物を育てる農場も、氷下の資源を加工する工場も、居住区と同じ圏内に収められている。極寒に加えて惑星本来の重力も、施設圏の境を一歩越えた者を待ち受け、外への逃亡を阻む壁となる。日々の秩序を保つのは、ジベルス管区に置かれた監守長と主任受刑者の協力であり、後者が居住区ごとに受刑者を束ねて、前者の定めた割り当てを区画の末端まで行き渡らせる。受刑者の側にも独自の結束があり、
キメラの侵入に備えて持ち場を分け合う取り決めが、氷の掟として根付いた。制御を外れた異能が区画を損なう事故も幾度となく発生し、
ユピトルの系列企業が異能力者を兵器開発に駆り出してきた経緯が、発生の度に問われている。混乱の陰では、解放者の到来を信じるカルトが反乱の機を窺っている。
氷下領域
氷下領域は、厚さ数キロメートルに及ぶ氷の下に広がる。相当の危険地帯であり、施設圏の足元から惑星の全域にわたって続いている。氷の底では惑星本来の重さが身体にのしかかり、極寒が装備の継ぎ目から体温を奪っていく。
セトルラーム時代の遺跡も、採掘基地の跡と並んで凍りつき、キメラの実験施設までが同じ氷に閉じ込められた。封印に用いられた冷却装置の一部は、今も弱い出力で稼働を続けており、装置の周囲では氷の厚みが年を追って少しずつ増していく。
変異キメラは氷の裂け目に潜んで異形の姿を時折地表に現し、活動の活発になる極昼の時期を迎えると、施設圏の監視も厳しさを増す。資源と旧時代の技術が眠る宝庫として氷下に目を付けたのは、
ユピトルの系列企業である。企業の探索には受刑者が駆り出され、巨大な掘削機を携えた探索隊は、耐寒装備に身を固めたまま、キメラの襲撃と氷の崩落に常に晒される。過去の氷下蜂起では、地下から這い上がったキメラが施設圏に侵入し、居住区の一角を呑み込んで数千の命を奪った。犠牲の拡大を嫌う監守長は、成果を急ぐ企業との間に、今も張り詰めた空気を抱えている。
空中要塞
マルステイナの上空には7基の空中要塞が浮かび、施設圏と氷原の動きを高みから見張っている。
運用
空中要塞は、
ユピトル政府が設置した都市級の構造物である。惑星の巨大さに見合う規模を備えており、各種の制御機構によって極夜の空に浮かんでいる。施設圏の真上から氷原の外縁まで、各基の受け持ちを重ねた監視の網が張り巡らされており、一基が機能を失った場合も隣接する基が空白を埋める。一基ごとに役割が割り振られ、権限の及ぶ範囲も定められていることから、多くの職員を抱えた各基は独立した都市の趣を帯びる。全基の監視記録は第1要塞に集められ、各基を往来する連絡艇の発着も同基の管制によって一括して捌かれる。連絡艇の船倉には交代の要員に紛れて人目を憚る荷も積まれ、往来の目印には各基の灯火の色が用いられる。要塞群の守りに就くのは
航空宇宙軍の打撃群であり、周辺空域では
平和維持軍の艦隊も展開している。全基を束ねる指揮系統は名目の上で一つにまとまるものの、監守長の思惑に系列企業の利害が絡み、各基の派閥も独自の計算で動くことから、表向きの秩序の陰では裏取引が繰り返される。権力争いの火種が、要塞の間を行き交っている。
第1要塞「メトルアルバ」
直径10kmに達する円形の巨体に監守長の司令部を構え、惑星の全域に及ぶ監視を一手に統べる。漆黒の外殻にはアンテナが林立し、規則正しく明滅する赤い標識灯の列が、施設圏から見上げる空に要塞の所在を示している。最新鋭のレーダー網に連なる数百機の無人ドローンは、氷下の異変から施設圏の些細な動きまでを刻々と拾い上げ、他の基の受け持ちに生じた監視の隙を埋める。常駐する数万の要員を構成するのは、監守長直属の精鋭部隊に官僚を加えた編成で、上下の序列は厳しく定められた。金の装飾を施した上層階では、人工水晶のシャンデリアが権威を誇示し、パノラマ窓を備えた監守長の執務室が要塞の全容を一望に収める。執務室に通じる通路が幾重もの検問で区切られたのは、かつて監守長の暗殺が企てられて以降のことである。同じ上層の奥に秘密通路で結ばれた会議室では、系列企業の幹部が監守長と顔を合わせ、氷下資源の分配から物資の横流しまでを卓上で取り決めてきた。受刑者の身柄を実験材料として企業の手に渡す取引も、密談の卓で交わされた。華美な上層の暮らしは下級の兵士に不満を募らせ、反乱を企てる動きも芽生えつつある。
第2要塞「バルワーク・ヘルスタ」
施設圏の気象を整える防壁の要塞で、氷嵐の吹き付けから
キメラの群れの襲来までを、外縁に張った障壁で受け止める。楕円形の構体は直径8kmを測り、表面に並んだ展開式の大型シールド発生装置が、極夜の空に淡い青色の膜を広げている。障壁の内側では気流が整えられ、勢いを殺がれた風だけが施設圏に降りるため、住民にとっては青い膜そのものが守りの所在を確かめる目印となった。
キメラ大群襲撃の折に過負荷で障壁が崩れ、東翼の半ばが失われた際には、数百の兵士が命を落としている。失われた区画の残骸は、今も氷下に沈んだままで、補修を終えた東翼の外壁には、爪痕を残した装甲板が組み込まれた。同じ教訓に基づいて発生装置の一部は予備に回され、主系統が落ちた際には半径を縮めて障壁を張り直す手順が整えられている。防衛を優先した内部の居住区画は狭く、兵士は簡素な寝台を武器庫の隣に並べて暮らす。修復に要する資源は系列企業からの供給に頼り切っており、見返りに押し付けられた危険な氷下偵察の任務が、兵士の士気を下降の一途に追い込んでいる。修復の資金を巡っては、横領の疑いも持ち上がっている。
第3要塞「ロックレンダー」
変異キメラの封じ込めを専らとする最前線の要塞で、氷下領域の真上に浮かび、裂け目から這い上がる個体を最初に迎え撃つ。キメラの実験は
ラムティス条約によって禁じられているため、公式の任務は封じ込めの維持に定められた。鋭角に張り出した構体は直径7kmに及び、下面から突き出した巨大な掘削機が氷面を貫くと、周囲に据えられた高出力の冷却兵器が、穿たれた穴の縁を凍らせて塞ぐ。爪痕に氷嵐の傷が重なった外装には、修繕の追いつく間もなく新たな損傷が刻まれる。監視棟を中心に隔離区画の連なる内部では、軍人が昼夜を問わずキメラの動向を追う一方、系列企業が条約の隙を突いて過去の実験記録の解析を密かに進めてきた。解析の進行に伴って捕獲した個体が隔離区画を破る事故も増え、侵入を許した通路は封鎖壁で幾重にも仕切り直され、咆哮の幻聴に苛まれて心を病む兵士も相次いでいる。氷下の監視任務には受刑者が強制的に駆り出され、耐寒装備を与えられて送り出された者のうち、生還を果たすのは5割を下回る。企業の思惑を巡っては軍の側にも反発が募り、監守長の命令を独自の判断で差し止める将校まで現れた。
第4要塞「ザーランザ」
風紀委員会とは別系統の、秘密警察が拠点を構える。情報収集の要塞で、施設圏の反乱分子から要塞間の裏取引まで、あらゆる動きを記録に収める。直径6kmの流線形の構体を暗色の外装が覆い、静音の推進機関を備えることから、他の要塞からも施設圏からも所在を掴むのは難しく、正確な座標は監守長の側近だけに知らされる。中枢には監視カメラの映像が集められ、盗聴網から拾った通信も暗号解読機を通して読み解かれていく。地下階に設けられた尋問室では、捕らえた反逆者の取り調べが拷問を伴って行われる。監守長の命を受けて主任受刑者の動向を探る一方、企業の不正も帳簿に書き留めている。集めた情報が企業に高値で売り渡される場合もあり、要員の中には二重の主に仕える者が紛れ込む。黒装束で顔を隠した隊員は、極夜の闇に紛れて施設圏へドローンの奇襲を仕掛けた後、要塞の所在を悟られる前に機体を回収する。爆圧を逃がす補強材が外装の継ぎ目に加えられたのは、カルト集団の指導者を拉致した報復として、外壁に爆弾を仕掛けられた後である。内部では秘密警察同士の裏切りが日常となり、誰もが互いを監視する緊張が要塞の隅々を覆っている。
第5要塞「スタクセル・デポ」
施設圏の暮らしを支える物資は全てこの要塞から投下され、直径9kmの箱型の構体には、巨大な貨物倉の下部に数十基のドロップポッドが吊り下げられている。食料の梱包と燃料の容器は区画を分けて積まれ、武器の箱は封印を施した別倉で管理される。内部の大半を倉庫が占め、残りの区画を埋める整備工場では、兵士に代わって労働者が要員の多くを務めている。油の匂いの染みた通路には、荷役の喧騒が昼夜を通して響く。配分の優先順位は主任受刑者との取引で決まり、忠誠を誓う集団には上乗せの食料が回る一方、反抗する者たちは飢えに追いやられる。腐敗した将校が物資を海賊に高値で売り渡す行為も常態化し、投下量が半減した黒い冬には、暴動の末に数千の受刑者が餓死した。ポッドの誘導に二重の照合が課されたのは、誤投下で居住区が押し潰され、数百人が圧死した事故の後である。投下の経路は施設圏の天蓋に設けられた受け口に合わせて定められ、受け口の周辺には荷を待つ列が常に伸びる。極夜の空に黄色い投光が差す時、施設圏の住民は物資の到着を知る。
第6要塞「フェアハース」
中央に据えた巨大な核融合炉が施設圏の電力から重力制御の動力までを一手に賄い、直径8kmの球形の構体は、炉心を幾重もの殻で包む形に組まれている。長年の熱が生んだ歪みは外殻の金属板に残り、炉の鼓動に合わせて外装に滲む赤橙色の照り返しが、極夜の空に浮かぶ要塞の輪郭を際立たせる。炉から引き出された電力は施設圏に降ろされ、人工照明の周期から農場の温度管理までを支える。また、重力制御装置の稼働も同じ送電の経路に依存している。排熱の扱いは設計の要であり、炉心の熱は、外殻の上半分に沿って幾列も並ぶ放熱翼から宇宙側に逃がされる。排熱を地表の側に向ける経路は、かつて過熱した炉の熱が直下の氷原に及び、溶けた氷水が施設圏に流れ込んで数百人を溺れさせ、覚醒した
キメラの襲撃が被害を広げた出来事を境に、全て塞がれた。高温の機械室を挟んで並ぶ兵器工房では、企業の求める対キメラ用の火炎放射器やプラズマ砲が製造され、試作の失敗に伴う内部火災も多い。技術者の側では、試作を急かす軍との対立が火災のたびに深まり、炉の運転方針を巡る議論も繰り返されている。
第7要塞「オバルドラ」
脱走者の追撃を任とする裁きの要塞で、施設圏の境を越えた全ての影が照準の対象となる。鋭い三角形の構体は直径7kmに達し、過去の砲撃で焦げた跡を残す灰色の外装の三辺に沿って、ミサイルランチャーを従えた高出力レーザーの砲列が並ぶ。戦闘員の訓練場を武器庫が取り囲む内部には
航空宇宙軍の精鋭部隊が駐留し、砲列の冷却を担う区画は構体の中心部に収められた。照準の範囲は施設圏の境から氷原の外縁まで同心円状に区切られ、境に近い区画ほど警告の猶予が短い。氷下蜂起の鎮圧に向けた「裁きの光」作戦では、要塞のレーザーが施設圏の反乱区域を焼き払い、数千の受刑者を抹殺し、以来、極夜の空を白く貫く照準光が、地上から見上げる者に逃げ場の欠如を突きつけている。命令の系統は、指揮官同士の権力争いが続く精鋭部隊の内部で、派閥ごとに割れ始めた。系列企業は要塞の火力を買い取り、氷下資源の奪取に充てる計画を練ってきたが、監守長の反対が実現を阻んでいる。かつて脱走を図った兵士も現れたが、自らが照準に捉えられる側に回り、施設圏の境の手前で砲列の餌食となった。
国際関係
マルステイナの監獄運営は
共立三原則に照らして評価が割れ、必要悪と見る声と潜在的脅威とみなす声が対立する。
黙認
文明共立機構の加盟勢力の多くは、マルステイナの監獄運営に疑義を抱きながらも、扱いに困る
特異存在の受け皿として頼る道を選んできた。機構の側でも、特異存在を長期にわたって封じ続ける負担は文明圏の資源計画を圧迫する懸案に挙がっており、身柄を一か所に預けて費用の一部を分担する方式が、問題を抱えたまま先へ進む現実の手立てとなった。委託国にとっては、自国の施設で封鎖を維持する危険を手放せる利点が大きく、受け皿の運営を問題視する声が各国の議会から上がる場面は稀である。空域の守りも同じ構図の内にあり、
平和維持軍の艦隊は独立保障の名目で要塞群の外側に陣取り、惑星の地表から距離を置いて警備に就く。空域を国際部隊に委ね、監獄の運営を自国の手に留め置く線引きは、
ユピトル政府にとっても機構にとっても都合の良い分担であり、互いの領分を荒らす口実を遠ざけてきた。受け皿の役目は、契約書の上で収容業務の委託として表記され、特異存在の名は個体番号に置き換えられている。
追及
マルステイナの処遇に最も厳しい目を注ぐのは、
オクシレイン大衆自由国と
ソルキア諸星域首長国連合の二国である。両国は委託の輪の外に立ち、受刑者の処遇から系列企業の取引に至るまで、捜査を求める材料を外から積み上げてきた。オクシレインは、内政不干渉の原則の見直しを掲げる立場から追及の先頭に立ちながら、学園の出資国として投じてきた資金の行方も計算に入れている。体制の解体を迫れば出資先の財政が揺らぐため、同国の要求は是正の線で止まり、明るみに出た不正は交渉の席で有利な条件を引き出す札に転じられる。ソルキアの追及は人道の筋に沿って貫かれ、改善の確約を得るまで声を上げ続ける構えにある。もっとも、押し込みすぎれば外交が拗れる局面も読んでおり、制裁の発議は機を見て控え、圧力を言葉の上に保つ形を選んだ。両国の求めを受けて、
文明共立機構は
共立憲章に基づく調査団をマルステイナに送り込んでいる。捜査を拒む行為は
指定評価の引き上げを自ら招く自殺行為にあたり、
ユピトル政府は全面的な協力に徹した。調査の矛先は、受刑者の身柄を巡る取引の疑いに加え、系列企業が
変異キメラの実験記録を密かに解析してきた活動にも向けられている。
保留
調査団の報告を受けた
文明共立機構の最高評議会は、黙認を公に認める道も受け皿を取り上げる道も足元を揺るがすことから、判断を保留したまま今日に至っている。機構自身が封鎖待機の費用を拠出している以上、受け皿の是非を正面から問えば、評議会の決裁の履歴にも跳ね返ってくる。
共立憲章は、原則の解釈に疑義が生じた場合に管理評議会が争点を整理して管轄裁判所へ付託すると定め、確定した判断を後の同種事案の参照基準に据える。マルステイナの扱いが裁判所の判断として確定すれば、身柄を預けた各国の委託そのものが同じ基準で裁かれる恐れがあり、争点化を避けたい委託国の思惑は、付託の動きが起こるたびに管理評議会の周辺での調整となって表れ、保留を後押ししてきた。最高評議会は是正勧告の文案を練り直す作業を続けて時間を稼ぎ、解決策の糸口が見えるまで、捜査の継続を承認しては報告を受理する手続きを繰り返している。マルステイナの行方は
ユピトル一国の裁量を離れ、委託国の思惑に追及国の圧力が絡み、機構の打算も加わる盤上に移った。調査団の報告書の写しは評議会の書庫に積み上がり、閲覧を求める各国の代表の申請も年を追って重なっている。
抗弁
ユピトル政府は、捜査の範囲を越える介入に一貫して異を唱え、
共立憲章の条文を抗弁の土台に据えてきた。処断の方針も早くから示され、刑務官の不正に加えて尋問の場の虐待も自国の司法で裁く構えのもと、個々の違法行為は監獄の体制から切り離されている。内政不干渉の例外となる措置について、憲章第3条は必要性に相当性を重ね、侵害を最小に抑える要件まで課す。共同管理の導入は封鎖待機の継ぎ目を揺るがし、
ソルキア解釈が介入の根拠に挙げる国際秩序への脅威を、乗り込んだ側の手で呼び込む結果になると同政府は論じる。
共立主義が介入の判断に用いる基準のうち、撤退条件の明確化も抗弁の柱に据えられた。収容者を外へ出す道が閉ざされている以上、介入者は撤退の日取りを描く手立てを失い、収容の負担を丸ごと引き継ぐ立場に置かれる。預けられた身柄の移送まで介入者の判断に委ねられれば、委託の契約を結んだ各国の責任も同じ卓に載る。同政府の答弁は、「監獄の鍵を求める者は、鍵の掛かった扉の向こうにいる者ごと引き取る覚悟を示してほしい」の一文に集約される。旧宗主国の施した冷却の封印を自らの手で保ってきた実績も同政府は語るものの、氷に閉ざされるまでの経緯の責任については、答弁の中で沈黙が貫かれている。
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最終更新:2025年03月03日 17:59