「で、これからどうすんの?とりあえずワタシはなにをすればいいわけ?」

「うーむ。まずオーブに関する情報を収集せねばならんのう。そのために、この港町マリーデルの遥か北方にある、火の山に住まうという伝説の大賢者、『ルートッシ・モデンナ』に会うことから始めねばならんぞ」ガフンダルは、したり顔でそういった。

「ふーん。大賢者ルートッシねえ。なんかインチキ臭い名前ね」

「これこれ。失礼なことをいってはならんぞ。ルートッシは、もう1000年以上生きているといわれる、地上最高の大賢者だぞ。その力は、もしかしてゴメラドワルを凌駕するやもしれんのだ。この世のことなど、森羅万象すべからく承知しておる。ルビイよ。お前がこの世界にやってきたことなど、とっくに彼の知るところとなっておろう。こうして二人で話しておることも筒抜けになっている可能性が高いのだ。であるからゆめゆめ悪口などいってはならん」

「ちょっと待ってくれる。その性悪魔王、ゴメラドワルより強いんだったら、オーブを壊すの、その人に頼めばいいじゃん。そうしようよ。そしたら私、危ないことしなくてもいいわけじゃん。嫁入り前だし。ね。そうしようよ」真紅は、もうこれ以上の名案はないといった風情で、ガフンダルの肩をポンポンと叩きながら、満面の笑みを浮かべてそういった。

「そのようなことが可能であればよいのじゃが、残念なことにルートッシは、俗世のことにはもう興味を失っておられるようでな。ただこの世界の移り変わりをウオッチするだけの観察者と自らを位置づけておるのじゃ。だから頼んでも無理」

「ケチ」

「ワシにいうな、ワシに。だがルビイよ。ルートッシはお前に対して並々ならぬ興味を示しているようだぞ。その証拠に、なにやら先ほどから、彼の『意識』を感じるのだよ」

「ほんと?」真紅は慌ててキョロキョロと周りを見回す。「わからないけど・・・」

「ふぉふぉふぉ。お前にゃわかるまいぞ。ただ、ルートッシの強力な意識がこの辺りを覆っているおかげて、ゴメラドワルの手下である魍魎どもが、全くお前に近づけない状態になっておる。そこに一匹、逃げ遅れた魍魎が、ルートッシの強烈な意識に押しつぶされてぺしゃんこになっておる。ほれ、お前の足元だ」

「きゃ」驚いて真紅はその場を飛びのいた。

「大丈夫。もう半分消滅しかかっておるから、悪さはできんよ」

「わかったわ。じゃあ今からすぐルートッシに会いに行きましょ。で、飛行船はどこにあるの?」真紅は満面の笑みを浮かべ、不二家のペコちゃんのように首を揺らしながらガフンダルに問いかけた。

「なんだって?」

「飛行船よ。ガフンダル知らないの?飛行船。お空を飛ぶ、でっかいふうせんよ。それに乗って、火の山までひとっとびなんだからね」

「そのようなもの、あるわけがなかろうが」

「ないってどういうこと?じゃあその火の山にはどうやっていくの?大体ここからどれくらい距離があるのよ?その火の山まで」真紅は、心外ここに極まるといった表情で、口をとんがらせてガフンダルに問いただした。

「火の山までは、直線距離にして、そうさな、 800ノルヤード、お前の世界の単位でいえば、 400キロメートル強じゃな。だがあくまで直線距離なのじゃ。この町のはるか北部には、かのノルゴリズム最高峰、デラスカパリスカ山脈が聳えておる、火の山はその山脈の向こう側にあるので、ま、常識で考えれば、山脈越えなどできぬから、このマリーデルから、いったん海路でゲドナンの港へ行き、そこから陸路でもって、コルデナ草原を横断して火の山のふもとにある山岳都市バクーハンへと入り、支度を整えて火の山にアタックすると、こういう段取りになるかな」

「えーっと。位置関係がよくわからないんだけど。地図はないの?」

「コホン。まあ、今回は我慢してくれ。そのうち準備しておくから・・・。だが、先ほど申したルートだと、そうさな。10日以上かかるぞ。えらく遠回りだからな。月重紀まで三週間だから、ルートッシに会うだけで10日もかけていては、まったく間に合わんのだ」

「そりゃ確かにそうね。じゃあどうすんの?」

「実は、このマリーデルの町から、火の山に行くためのルートは、先ほど申した海路プラス陸路のルート、そしてデラスカパリスカ山脈越えのルート以外に、もうひとつルートがあっての。それが、地下大洞窟を行くというルートなのだ。デラスカパリスカ山脈を縦断する洞窟があって、それを通ってひょっこりと向こう側にでるという寸法なのじゃ」

「ふーん。なんとなく嫌な予感がするんだけど、その地下道ルートだと、どれくらいで行けるの?」

「そうさなあ。迷ったり、ばけものに喰われたりしなければ、3日もあれば大洞窟を抜けられようさ」

「ほらやっぱり。チョー危険なのね。その大洞窟。ねえガフンダル。もう一度確認したいんだけど、登山列車はないの?そのデゲレンバリスケ山脈には?」

「デゲレンバリスケではなく、デラスカパリスカだ。残念ながら登山列車は運行しておらんようじゃの」

「じゃあ、じゃあさ。ロープウェイやケーブルカーは?」無駄を承知でたずねてみる真紅。

「ない!」ガフンダルは強く断定した。

「空とぶチョコボはいないの?」

「おらんというに!だいたいだな。ルビイ。お前さんの冒険は今始まろうとしておるところなのじゃぞ。最初からそのような便利な移動手段があっては、ゲームバランスがわるかろう」

「ゲームって・・・。ロールプレイングゲームなの?これ」

「いや、ちょと表現がよくなかったようだの」ガフンダルが慌てて取り消す。

「うーん。ないんならしょうがないわね。とにかくお義母さんの命がかかってるんだもんね。じゃあ早速行きましょ」

「そうかそうか。なあに、このワシがついておるから大丈夫だぞ。この大魔導師、『玉虫色のガフンダル』さんがな」ガフンダルは、握りこぶしで自分の胸を強くどーんと叩いた。

「がほごほげほごほ」

「なにやってんのよ?ところで、大丈夫なの?その地下大洞窟って、迷路になってるんじゃない?本当に、怪物も住み着いてたりさ」

「安心しろ。たいした化け物はおらんはずだし、そもそも、このガフンダルさんは、今まで三度ほど大洞窟を踏破した実績の持ち主なのじゃ」

「へぇー。すごいじゃん」

「二度ほど迷ったがのう」

「だめだこりゃ」

「冗談だ。さあ今日はもう遅い。お前はもう休め。明日の朝一、地下大洞窟の入り口に向かって出立じゃぁー」

「えいえいおー」

真紅とガフンダルの二人は、勇ましくこぶしを振り上げてそう叫んだのであった。

発端(7)に続く
最終更新:2008年12月19日 22:36