「こらまべ、じゃなくてルビイ。でたぁーとはなんだ!でたぁーとは?ん?しかも、この世の終わりのような悲鳴を上げよって!お父さんはチョーセツナイぞ」VAIOは、空中に浮かび、全てのパイロットランプをチカチカと点滅させつつ、くるくる回りながらそういった。

「だって、お父さんの出現は、ほぼこの世の終わりと一緒なんだもん。ワタシにとってさあ・・・」

「ふん。まったく実の父親をつかまえて、一体全体なんという言い草であろうか。ちょっとカレシができたと思っていい気になりよってからに。あーあ。こうやって娘は父親の手から離れていくんだねい」

「べ、別にいい気になってなんかいないわよ!」真紅は、顔を真っ赤にして反論した。恥ずかしいのか、怒っているのかよくわからない。

真紅と健一郎の話を聞いていたヒマワリが、ガフンダルのコートの袖をくいくい引っ張りながら「ねえねえガフンダルさぁん。ルビイさんのお父さんってあの、不思議なハコさんなんですかぁ?ヒマワリ、もう何がなんだかわけがわからないですぅ」と訊ねた。

「うーむ。ヒマワリちゃんや。これにはちと、事情があってのう。一言では説明できんのじゃよ。まあ、遠くの世界にいるルビイのお父さんが、魂だけがふらーっとこっちにやってきて、不思議なハコ、即ち長七郎殿の意識を乗っ取って、憑依していると考えてもらえばよい」ガフンダルが非常に奇怪な説明をする。

「ふーん。なるほどですぅ」そんな説明で納得できたのか、そもそもガフンダルが何を言っているか理解できないので、それ以上の追及を諦めたのか、ヒマワリはそういって黙り込んでしまった。

「ルビイよ。私は別にお前を困らせようと思って出てきたわけではないぞ。お前が今まさにチャレンジしようとしている三山崩しゲームの必勝法を知っておるので、こうして出てきたのだよ」

「パパ、それほんと?」

「ああ本当だとも。よいか。これを見てくれ」健一郎がそう言うと、スクリーンに、ウインドウがポコッと現われた。そこには、露店商のものと同じゲームが映し出されている。



「あら。また一段と手が込んでいるわねパパ。ねえパパ、パパってもしかして暇なの?アメリカで、ベンチャー企業を立ち上げて、仕事場で寝泊りするほど忙しいんじゃなかった?」真紅が不思議そうに訊ねた。

「ぐ。コホン。えーっと、えーっと。そりゃあ勿論忙しいさ。でも娘のピンチに手を拱いているわけにはいかないからなあ。わはは。ではちょっとこのプログラムについて説明させていただこうかな」と、健一郎は、会社が潰れて自分が過労で入院中ということを真紅に伝えていないので、泡を食って苦しい弁解をする。

まずは、プレイ方法から説明させていただこうかな。このように、三つの皿があって、そこに木の実が3個、5個、7個と乗っておる。これを順番に取っていくわけだが、一つだけルールがある。自分の順番には、木の実を何個取ってもよい。ただし、同じ皿からしか取ることはできないぞ。こっちの皿から1個、あっちの皿から2個という取り方はできないのだ。交互に木の実を取っていって、最後の木の実を取って、全ての皿からなくした方が勝ちになるのだ。

そのルールをまず頭に入れておいて、スタートボタンを押して欲しい。このゲームはコンピュータが先攻だ。

コンピュータは、何番目の山からいくつとるぞということを宣言してくるので、OKボタンを押して欲しい。その次はプレイヤーの番だ。取り除きたい木の実をクリックすると、画像が反転する。それと同時に、『取り除く』ボタンが画面に現れるので、これでいいと思ったら、ボタンを押して欲しい。その後、またプレイヤーの番になる。

もし、途中でどうにも旗色が悪くなれば、リセットボタンを押してやり直すことができるぞ。

実際にプレイする場合はここだ。

コードだけならばこちら(三山崩しコード)から見ることが出来るぞ。

なお、このプログラムでは、ついに『ユーザー定義クラス』が登場する。是非、実際の動きと、コードを見比べていただきたい。

「あ。パパ。説明終わった?おーし。やい!インチキオヤジ!勝負よ」真紅はそういって、ガフンダルから貰った5ペノン銅貨をぺしっと露店商の目の前に叩きつける!

「ちょっと待てルビイ。まだお前に必勝法を話していないぞ。待てったら」健一郎が大慌てで叫ぶ。

「いいのパパ。助けに来てくれてありがと。でもこれぐらいのピンチ、自分の力でなんとかしなきゃ、とても暗黒のオーブを探し出してかち割ったり、ましてや魔王ゴメラドワルなんて倒せやしないと思うの」ガラにもなく真剣な表情で真紅はそう言った。

「ル、ルビイ・・・」

― なあんて。ちょっとカッコよくね?ワタシって。でもホントは、最後までパパのアドバイス通りにやると、よくない結果がでそうな気がするのよね。 ―

「わかったよルビイ。お前にも何か考えがあるようだね。よし。パパに見せてくれ。成長したお前の姿を!」健一郎は既に涙声になっている。

― オーバーね全く。別に何も考えなんてないわ。野生のカンよ、野生のカン。えーっと。どれにしようかな、裏のごんべえさんに聞いたらよくわかる、そのあとプッとこいてプッとこいてプップップッっと。よし -

「インチキオヤジ!覚悟しなさいよ。ワタシが先行でしょ!?お客さんなんだから。ワタシはこれを取るわ」といって、真紅は木の実が7個のっている皿から、1個の木の実を取り除いた。すると、露店商の顔が見る見る蒼白になっていく。脂汗もたらありと流している。

「まいったあぁ!嬢ちゃん、俺の負けだ。恐れ入りました」両手をついて、深々と土下座する露店商。

「へ?」

「でがじだぞズビイ!ざずがば私ど娘だ。いぎなりごれ以上ない最善手をぶぢがまじよっだな」健一郎は、興奮し過ぎて、CPUファンフル回転で、非常に濁った声で叫んだ。

― うそ?これが最善手なの?パパより裏のごんべえさんの方が役に立つってこと? ―

「この『三山崩し』は、各山のアイテムの数を2進数に変換して、各桁のビット合計が偶数になるように取っていけば必ず勝てるのだ。今回のゲームの場合、3つの皿に、それぞれ7個、5個、3個とアイテムがあるわけだから、これを2進数で現すと次のようになる。

7=0111
5=0101
3=0011
------
   223

この状態から、7個ある山から1個アイテムを取り除くと、次のような状態になる。

6=0110
5=0101
3=0011
------
   222

このような状態になってしまうと、相手はもう手の打ちようがない。なぜなら、どの山から何個取ろうが、必ずビットの合計が奇数になる桁ができてしまうのだ。仕方なく、相手が適当に取って奇数のところができれば、それを偶数に戻すよう取り直せばよいというわけだ」

「なあるほどぉ」はからずも、その感嘆の言葉は、真紅、ガフンダル、パイソン、ヒマワリが全員揃えて発したものであった。

「お前が最初に7個の山から1個取り除いたのがマグレで、その後の方法が全然わからなくて、そのまま続けていると負けていたかもしれんが、そこの露店商の御仁は、お前の自信満々な態度を見て、必勝法がばれたと勘違いし、一発で投了してくれたのだろうが。まあ、でかしたといってよいだろうな」

「パパ、いらないこと言わなくていいったら」

「嬢ちゃん。なんにせよ俺の負けだ。さあ、賞品のネズ公だよ。受け取れ。それから、コイツも副賞としてつけといてやらあ」そう言って、露天商は真紅にデラスカバリスカ穴ネズミのカピチューと、男の子の人形を手渡した。

「あら。なによ?アンタもしかしていいヤツだったの?」真紅は、ネズミと人形を受け取りながらそう言った。それらをそのままナデシコに渡してやると、彼女は大喜びで、「わーいわーい」などと叫びながら、真紅の周りをクルクル回っている。

「へん。普通ならこんなサービスはしねえがな。俺は嬢ちゃんの気風と度胸にまいっちまったのよ」露店商は照れくさそうに、鼻の下を指でさすったりしている。

「まずは、めでたしめでたしというところかのう?我らの旅も、滑り出しはまあまあ順調だわい。わはははははは。見よ、明日いよいよ、はるか北、アリャネーへ向け出発するわけだが、我らの門出を祝うが如き好天となるぞ」と、ガフンダルの高笑いが響き渡る。彼の指差す方角を見れば、そこには真っ赤な夕焼けが広がっていた。

火の山(8)へ続く
最終更新:2009年01月07日 08:18