神裂は、赤い雨の中を、走っていた。
明確な闘志を持って、走り続けていた。
五和を『破壊』して以後、数多の屍人を切り刻み、擂り潰し、殺し尽くした。
時には七天七刀で首を切り、時には鋼糸で身体を刻み、時には魔術で根こそぎ消し飛ばした。
それで、誰かが救えたのか。
神裂には分からなかった。
何故なら、未だ彼女は、誰一人、『生きている』人間に遭遇していなかったから。
目を移した場所に立っているのは、常に屍人達。赤い涙を流し続ける人でなしの群。
それらを殺して殺して殺し続けて、それで誰かが救えると信じて、殺し続けた。
そうしていなければ、彼女の心は折れてしまうだろうから。
そして、知らない内に、第七学区まで来ていたらしい。
第七学区。『彼ら』の住む場所。
走り続けていた足を止める。
目の前に立ちはだかった、一人の屍人。
その人影を、射抜くような視線で見据える。
神裂「――――」
覚悟していた。
こうなるかも知れないのだ、ということは、覚悟していた。
神裂「――――土、御門」
結局、また救えなかった。
でも、何をすれば救えていたのか。何をしても、救えなかったのか。
例え今日という日を初めから繰り返したとして、彼女を、そして目の前の彼を、救う事が出来たのだろうか。
神裂には、分からない。
土御門「――――にゃあ」
土御門元春は、変わり果てた姿で、立っていた。
目からは赤い水を垂れ流し、全身隈なくボロボロで、立っていた。
化物になって、立っていた。
土御門「ねーぇ、ちーぃん?」
同僚で、仲間だった土御門は。
もう、ヒトでなくなっていた。
神裂は、刀を構える。
土御門「アぁ――――まい」
迷いは無い。迷う理由も、迷う暇も無い。
その口から吐き出される言葉を、それ以上耳に入れたくなかった。
神裂「さよう、なら。土御門――――」
五和を切り捨てた時のように、何も考えず、何も想わず、ただ目の前の物体に刃を這わせる。
五体を分ち、五臓を抉り、六腑を潰す。
願わくば、二度と起き上がってこないように。
土御門は、反撃の間も与えられず、肉の破片になって撒き散らされた。
がちゃっ。
何かが、地面に落ちて音を立てた。
どうやら、携帯電話のようだ。
奇跡的に原形を留めていた土御門の右手から、零れ落ちたらしい。
神裂は、特に何かを考えた訳でもなく、不意にその携帯電話を拾い上げた。
画面に映し出されていたのは、通話の着信・発信履歴。
その履歴の大半を占める一つの名前に、神裂は見覚えがあった。
神裂「…………」
十数秒前、土御門は、最後に何を口にしようとしていたのか。
考えるまでも、ない。
神裂「……私は、止まる訳にはいかない」
いつの間にか強く握り締めてしまっていた携帯電話を、無造作に放り捨てる。
そして再び、走り出す。
アーカイブ:『土御門元春の携帯電話』
最終更新:2010年11月07日 05:52