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15:47:39  >  第七学区-条件2

神裂は、赤い雨の中を、走っていた。
 明確な闘志を持って、走り続けていた。

 五和を『破壊』して以後、数多の屍人を切り刻み、擂り潰し、殺し尽くした。
 時には七天七刀で首を切り、時には鋼糸で身体を刻み、時には魔術で根こそぎ消し飛ばした。

 それで、誰かが救えたのか。
 神裂には分からなかった。

 何故なら、未だ彼女は、誰一人、『生きている』人間に遭遇していなかったから。

 目を移した場所に立っているのは、常に屍人達。赤い涙を流し続ける人でなしの群。
 それらを殺して殺して殺し続けて、それで誰かが救えると信じて、殺し続けた。
 そうしていなければ、彼女の心は折れてしまうだろうから。

そして、知らない内に、第七学区まで来ていたらしい。
 第七学区。『彼ら』の住む場所。


 走り続けていた足を止める。
 目の前に立ちはだかった、一人の屍人。
 その人影を、射抜くような視線で見据える。

神裂「――――」

 覚悟していた。
 こうなるかも知れないのだ、ということは、覚悟していた。


神裂「――――土、御門」

 結局、また救えなかった。
 でも、何をすれば救えていたのか。何をしても、救えなかったのか。
 例え今日という日を初めから繰り返したとして、彼女を、そして目の前の彼を、救う事が出来たのだろうか。

 神裂には、分からない。

土御門「――――にゃあ」

 土御門元春は、変わり果てた姿で、立っていた。
 目からは赤い水を垂れ流し、全身隈なくボロボロで、立っていた。
 化物になって、立っていた。

土御門「ねーぇ、ちーぃん?」

 同僚で、仲間だった土御門は。
 もう、ヒトでなくなっていた。


 神裂は、刀を構える。


土御門「アぁ――――まい」

 迷いは無い。迷う理由も、迷う暇も無い。
 その口から吐き出される言葉を、それ以上耳に入れたくなかった。


神裂「さよう、なら。土御門――――」


 五和を切り捨てた時のように、何も考えず、何も想わず、ただ目の前の物体に刃を這わせる。
 五体を分ち、五臓を抉り、六腑を潰す。
 願わくば、二度と起き上がってこないように。

 土御門は、反撃の間も与えられず、肉の破片になって撒き散らされた。


 がちゃっ。

 何かが、地面に落ちて音を立てた。
 どうやら、携帯電話のようだ。
 奇跡的に原形を留めていた土御門の右手から、零れ落ちたらしい。

 神裂は、特に何かを考えた訳でもなく、不意にその携帯電話を拾い上げた。

 画面に映し出されていたのは、通話の着信・発信履歴。
 その履歴の大半を占める一つの名前に、神裂は見覚えがあった。

神裂「…………」

 十数秒前、土御門は、最後に何を口にしようとしていたのか。
 考えるまでも、ない。


神裂「……私は、止まる訳にはいかない」

 いつの間にか強く握り締めてしまっていた携帯電話を、無造作に放り捨てる。

 そして再び、走り出す。




        アーカイブ:『土御門元春の携帯電話』
最終更新:2010年11月07日 05:52
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