――――わったしっにはー、御坂美琴って名前があんのよ! いい加減に覚えろド馬鹿!!
上条の記憶の中にある、初めの会話は、そんな理不尽な怒りで始まっていた。
何だか知らない内に因縁を付けられたり、目の前で自販機をブチ壊されたり、スカートの下は短パンだったり。
あまり、良い思い出とは言えそうにない、御坂美琴と『今の』上条当麻の、ファーストコンタクト。
――――ビリビリ言うな! 私には御坂美琴ってちゃんとした名前があんのよ!
何故かいつも怒っているような顔をして。
何故かいつも喧嘩を吹っ掛けられて。
結局、『かつての』上条当麻は、この娘に一体何をしたのだろう。
それは、考えても分からない。思い出そうとしても、思い出せない。
――――戦えって、言ってんのよ――――ッ!!
けれど。
あの時、御坂美琴を救ったのは。
――――あれは大切な友達なんでしょ。さっさと助けてきなさいよ。こっちは何とかするから。
あの時、御坂美琴に救われたのは。
間違いなく、今、此処に存在する上条当麻だ。
御坂「ケハハハハハハハハハハハハハハハ――――………ッッ」
御坂は笑っている。楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに。
上条の見たことのない、可憐で、綺麗な、歪んだ笑顔。
赤い、笑顔。
上条の拳は、まだ握られていない。
終了条件2:『御坂美琴』を倒す
静謐。
全ての音が、消えている。
その場に立っているのは、二人だけ。
御坂は、雷撃の槍を繰り出した。
上条は、無意識に幻想殺しを突き出して、雷撃の槍を掻き消す。
御坂が電撃を放つ。
上条が右手で払う。
雷撃の槍。右手が殺す。
砂鉄の槍。右手が殺す。
超電磁砲。右手が殺す。
本物の雷。右手が殺す。
上条にとっては、目を瞑っていても避けられそうな攻撃だった。
全て、身体が覚えているくらいに、避け続けてきた攻撃だった。
上条「御坂――――」
美琴「 ア 」
美琴「 ハ ハハ ハ ハハ ハ ハハハ ハ ハハ ハ ハ ハハ ハ
ハハ ハ ハ ハ ハ ハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハ ハハハ」
御坂は、笑った。嬉しそうに。楽しそうに。
上条の顔を、真正面から見つめながら。
上条「……っ」
上条は、嗚咽を呑み込んで、御坂の顔を見る。
赤く染まった顔を。笑みに歪んだ顔を。
そして、脚を踏み出した。
―――恐らく、変わってしまった人達は、二度と、元には、戻らない
神裂の言葉を思い出す。
―――黄泉のモノを取り込んだ人間は、黄泉の住人となる
神裂の言葉。
さっき打ち払った言葉が、今更のように、頭に響く。
上条(そんなワケ、ねえよな)
襲いかかる電撃を、右手一本で払い除けながら、上条は脚を進める。
御坂の顔を見ながら、一歩一歩、進んでいく。
上条(御坂、お前は、俺が、必ず――――!)
美琴「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛―――――――z______ッッッ!!!!」
御坂の叫びも、叫びと共に放たれた電撃すらも、上条の幻想殺しが受け止める。
上条「御坂アアアアアッ!!」
御坂と上条の距離は、既に1メートルも無い。
上条は、最後の一歩を、踏み出した。
御坂の身体から弾け飛ぶ電撃に、右手を突き出す。
それだけで、数億ボルトの電撃が幻のように消え去っていく。
電撃を全て掻き消した瞬間、上条は右拳を握り、大きく振りかぶった。
上条「――――必ず、元に戻してやる」
上条の右拳が、御坂の顔面に突き刺さる。
御坂の細い身体は、車に轢かれたかのように大きく弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
上条「――――っ」
思わず、上条はその場に膝を落とす。
拳にはもう、まるで力は残っていない。
放っておけば肩の付け根から削げ落ちてしまいそうな程、腕が重く感じられた。
アスファルトの路面に転がった御坂に、立ち上がってくる気配は無い。
よくぞこれだけ目一杯殴れたものだ、と自嘲するように、上条は泣き笑う。
恐らく、神裂の別れ際の一言さえ無ければ、きっとここまで思い切れはしなかっただろう。
上条の絶望を更に煮詰めて地獄へ叩き落とすかのような、あの言葉さえ無ければ。
ここまでの覚悟を決める事は、できなかった。
神裂は言った。
――――ただ、一つだけ、貴方にだけは伝えなければいけないことがあります。
絶氷のような瞳を携えて。
白銀のような鋭い口調で。
――――散々に勿体を付けておいて、今更と言われるかも知れませんが。
表情も無く、感慨も無く、ただただ事実だけを述べるように。
――――端的に、この異変を引き起こしたのは、恐らく――――
それでも必死に、何かを堪えるように。
ほんの一押しすれば泣き崩れて死んでしまいそうな空気を纏って。
神裂は、告げた。
――――インデックス。あの子が、この異変の元凶です。
終了条件2達成(エピソードクリア)
最終更新:2010年11月07日 06:00