暫しの後、傷を完治させた神裂は、ゆっくりと立ち上がった。
黒く煌めく七天七刀を拾い上げ、ツカツカと、一方通行の屍体へと近付く。
見事に斬り断たれた首は、もう暫くは再生する事もないだろう。
だが。
神裂「――――」
神裂は、その脚で。
落ちていたアタマを、ぐしゃりと踏み潰した。
何も、言わず。
それが当然のように。
続けて、肩。腕。胴体。脚。
ぐしゃり。ぐちゃり。ぐしゃり。ぐちゃり。
踏み、潰し、踏み、潰す。
聖人の脚力で踏み砕かれた骨は粉々になって飛散した。
潰れた脳漿は、赤い雨に混じって見えなくなる。
時折、足裏に付着した肉片を払い除けるように、神裂は軽く足を振るう。
神裂の脚が止まった頃には、かつて少年だった肉の欠片は、その半分ほどが雨に流されて何処かへ消えていた。
これで、この屍人が再び立ち上がるには、全身を丸ごと再生させなければならない。
しかし、聖人のように『身体構造そのものが違う』ならばまだしも、あくまでも人間の範疇を生きていた少年に、
数時間程度で全身を再構成する能力が備わるとも思えない。
つまりは、この白髪の悪魔の脅威は、ほぼ完全に無くなったと見ていいだろう。
神裂は静かに胸を撫で下ろす。
その時、走り寄ってくる気配に、神裂は気が付いた。
異形の気配。
即座に斬り殺そうと刀を構えるが、その屍人の姿に、思わず手を止める。
今まで、崩れたビルの瓦礫の中で隠れて見ていたのか、小さな、少女の姿の屍人だった。
年齢にしておよそ十歳ほどの、愛らしい少女。
顔から赤い涙を流す、化物の少女。
打ち止め「――――ア、ァァ、クセラ、レェタ」
神裂にとっては全く意味の分からない言葉を呟きながら、少女は少年の屍体へ駆け寄る。
否、少年だった肉の欠片へと、駆け寄る。
そして、その傍に屈みこみ、肉の欠片を拾い集め始めた。
打ち止め「ああ、あああああ、アアアア、アアアアああアあア」
少女は、呻くような声を出しながら、肉片を拾う。
少年の欠片を、少年だった欠片を、拾い続ける。
打ち止め「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
拾い続ける。
もう二度と会えない少年の欠片を。
赤い涙を、流しながら。
神裂は、それを見て。
神裂「――――」
無表情で、少女の首を、刎ねた。
容赦無く。
少女の姿をした化物を、殺した。
ごとん。
小さな異形の頭が、地に落ちる。
げしゃり。
神裂は、それも踏み潰した。
さらさら。
赤い雨が、少女の頭だった肉片と、少年の身体だった肉片を、洗い流していく。
神裂は。
何も、言わず。
後には、少女の首から下だけの屍体が、残された。
神裂「――――…………」
そして神裂は、その場を後にする。
異形の身体を引き摺って。
赤い涙を、流しながら。
全ての終着点、異界の中心へと、向かう。
黒銀に耀う刀を、神を裂く刀を、その手に携えて。
最終更新:2011年05月05日 12:57