今回あらすじ担当する山形よ。前回は藍と黒鳥君がトゥバンを迎え撃つ作戦を決行し、嵩原君は情報を抜き取るために会社へ潜入し、火元、桃井ちゃん、藤正君は龍香ちゃんの手助けをするためにアジトへと向かったわね。
様々な人達の想いが交錯するこの事態....どうなるのかしら第十一話。
様々な人達の想いが交錯するこの事態....どうなるのかしら第十一話。
とある一室...朝日が入り込み、爽やかな風がそよぐ部屋に嵩原は呼ばれていた。
そして目の前にはベッドに腰かけ、まだ言葉も喋れぬ赤ん坊を抱え、あやす妙齢の女性がいた。長い桃色の髪を伸ばし、穏やかな表情で娘を愛する母がそこにいた。
「龍那さん。その子は?」
「ふふっ。なんとこの度娘が生まれたの。名前は龍香よ。可愛いでしょ。」
「ええ。とても。」
「ありがとう嵩原君。」
龍那、と呼ばれた女性は微笑む。その微笑みに嵩原は思わずドキッとする。ふと横切った邪な考えにいかんいかんと頭を振り邪念を払っていると龍那は微笑んだまま少し、窓の外、遠くを見つめる。
「きっとあの人も喜んでいると思うわ。」
ふと龍那の瞳に悲しみの色が混じる。
「その...ご主人の件は。」
嵩原が何と声をかけるべきか推し量っていてると龍那はアッ、と声を上げ、慌てて取り直す。
「あ!ごめんね。気を使わせちゃって。貴方を呼んだのは他でもないの。」
龍那は母にあやされキャッキャッと嬉しそうに笑う龍香に笑みを投げ掛けながら嵩原に言う。
「この子達のこと、頼みたいの。」
「...え。」
龍那の言葉に嵩原は虚を突かれ、一瞬思考が飛ぶ。何を言われているのか分からなかったが、すぐにその言葉の意味を理解し、余計に頭が混乱する。
「そ、それって」
「世話は冴子さんに頼んでるわ。けど彼女一人じゃ手が足りないこともあると思うの。あ、心配しないで、龍賢もスゴい良い子だから。貴方にも懐いてるし大丈夫だと思うわ。」
「い、いや!そうじゃなくてそんな...その言い方はまるで今からその...」
「...私だってこの子達の行く末を見守って行きたい。けど“先生達”は残念だけどそれが叶う相手じゃないわ。私の命は十中八九無いわね。」
「...でも、それじゃ龍賢君や、龍香ちゃんは。」
嵩原がその先の言葉を言おうとした瞬間龍那の細い指が嵩原の唇に触れ、言葉を遮る。
驚く嵩原に龍那はニッと白い歯を見せて笑みを浮かべながら言う。
「龍賢と龍香なら大丈夫よ。なんてったって私とあの人の子供なんだから。だから、二人をよろしく頼んだわね。」
そして目の前にはベッドに腰かけ、まだ言葉も喋れぬ赤ん坊を抱え、あやす妙齢の女性がいた。長い桃色の髪を伸ばし、穏やかな表情で娘を愛する母がそこにいた。
「龍那さん。その子は?」
「ふふっ。なんとこの度娘が生まれたの。名前は龍香よ。可愛いでしょ。」
「ええ。とても。」
「ありがとう嵩原君。」
龍那、と呼ばれた女性は微笑む。その微笑みに嵩原は思わずドキッとする。ふと横切った邪な考えにいかんいかんと頭を振り邪念を払っていると龍那は微笑んだまま少し、窓の外、遠くを見つめる。
「きっとあの人も喜んでいると思うわ。」
ふと龍那の瞳に悲しみの色が混じる。
「その...ご主人の件は。」
嵩原が何と声をかけるべきか推し量っていてると龍那はアッ、と声を上げ、慌てて取り直す。
「あ!ごめんね。気を使わせちゃって。貴方を呼んだのは他でもないの。」
龍那は母にあやされキャッキャッと嬉しそうに笑う龍香に笑みを投げ掛けながら嵩原に言う。
「この子達のこと、頼みたいの。」
「...え。」
龍那の言葉に嵩原は虚を突かれ、一瞬思考が飛ぶ。何を言われているのか分からなかったが、すぐにその言葉の意味を理解し、余計に頭が混乱する。
「そ、それって」
「世話は冴子さんに頼んでるわ。けど彼女一人じゃ手が足りないこともあると思うの。あ、心配しないで、龍賢もスゴい良い子だから。貴方にも懐いてるし大丈夫だと思うわ。」
「い、いや!そうじゃなくてそんな...その言い方はまるで今からその...」
「...私だってこの子達の行く末を見守って行きたい。けど“先生達”は残念だけどそれが叶う相手じゃないわ。私の命は十中八九無いわね。」
「...でも、それじゃ龍賢君や、龍香ちゃんは。」
嵩原がその先の言葉を言おうとした瞬間龍那の細い指が嵩原の唇に触れ、言葉を遮る。
驚く嵩原に龍那はニッと白い歯を見せて笑みを浮かべながら言う。
「龍賢と龍香なら大丈夫よ。なんてったって私とあの人の子供なんだから。だから、二人をよろしく頼んだわね。」
建物を突き破り、正確に嵩原を捉えた矢が飛んでくる。どうやってこちらの位置を把握しているのかは知らないがこの正確な射撃はあまりにも厄介だ。
「!」
だが、その一撃を嵩原は刀を抜いて弾く。そして今の射撃で嵩原は狙撃手の位置を大体把握する。
(やはり屋上か!)
社長室から狙撃された時点である程度気づいてはいたが、射撃が飛んできた方角からして狙撃手は最初の位置から移動していないようだ。
正確な射撃は厄介だが飛んでくる位置さえ絞り込めれば対応可能だ。
(後は如何にして近づくか...だ。)
能力を使えば容易い。だがこの能力を連続して使うと今の自分にはかなりの負担となる。だが、かと言って普通に近づくにはあまりにもリスクが高い。どちらにせよ、答えは一つ。
(短期決戦あるのみ!!)
嵩原の右目がギラリと輝きを放つ。次の瞬間嵩原の姿は消え、嵩原のいた場所にガラスが落ち、割れた。
「!」
だが、その一撃を嵩原は刀を抜いて弾く。そして今の射撃で嵩原は狙撃手の位置を大体把握する。
(やはり屋上か!)
社長室から狙撃された時点である程度気づいてはいたが、射撃が飛んできた方角からして狙撃手は最初の位置から移動していないようだ。
正確な射撃は厄介だが飛んでくる位置さえ絞り込めれば対応可能だ。
(後は如何にして近づくか...だ。)
能力を使えば容易い。だがこの能力を連続して使うと今の自分にはかなりの負担となる。だが、かと言って普通に近づくにはあまりにもリスクが高い。どちらにせよ、答えは一つ。
(短期決戦あるのみ!!)
嵩原の右目がギラリと輝きを放つ。次の瞬間嵩原の姿は消え、嵩原のいた場所にガラスが落ち、割れた。
「ウザってぇな!!」
別方向から飛んできた長距離射撃をギリギリで防御する。またもや爆発が起こり、閃光と轟音が響く。
トゥバンは煙を引き裂きながら飛んできた方向に疾走するが、上空から烏が現れ、トゥバンの周りを飛び回り、進行を邪魔する。
「またかっ!」
トゥバンは薙刀を振り回して烏を追い払うが、今度はさらに黒い羽根が降り注ぎ、足止めされる。
そしてまたもや別方向からの射撃がトゥバンを襲う。今度は上手く防御出来ず吹っ飛んで地面を転がる。トゥバンは苛立ち紛れに地面を殴る。
「対策はしてきたって訳か!接近戦は避けて遠距離戦に持ち込みてぇみたいだが...」
だが、それは逆に言えば近距離に持ち込めば奴らは自分に勝てないと言っているようなモノだ。上空から羽根を撃ってきている奴は知らないが、今射撃している女ならまず間違いなく勝てる。
相手もそれを理解しているからこその遠距離なのだろうが。
だが近づくには上空にいる奴を何とかするしかない。アイツがいる限り延々と妨害され、隙を突いた遠距離射撃に晒されることになる。
「こっちに遠距離攻撃はないと思ってるみてぇだが。」
トゥバンは薙刀を握り締め、上空にいる妨害者を見据えて構えを取る。
一方の上空でトゥバンを妨害している黒鳥も焦っていた。
(コイツまだ死なないのか!)
雪花の“ヘオース”とて無限に撃てる訳ではない。莫大なエネルギーを消費する“ヘオース”は“デイブレイク”の内部電源のみでは三発しか撃てない。外部電源に繋げようにも射撃位置がバレてしまってはそこに留まり続ける訳にもいかない。話を聞いた限りコイツは接近戦においてはほぼ無敵を誇る。接近戦に持ち込まれる前に何とか致命傷を与えなくては。
(それにそろそろ俺の羽根も少なくなってきたしな。)
黒鳥の羽根も無限にある訳ではない。飛ぶためにもある程度温存しなければならない。黒鳥がどうするか思案を巡らせていた時だった。
トゥバンは薙刀を黒鳥に向ける。何をするのか、黒鳥が一瞬図りかねた瞬間トゥバンは渾身の力で薙刀を黒鳥に“投擲”した。
「何だとッ!?」
予想外の一撃に一瞬反応が遅れる。その遅れが致命的だった。放たれた一撃は黒鳥の右翼を貫いた。貫かれた右翼は飛行能力を失い、黒鳥は左翼で何とかバランスを取ろうとするが、バランスを失った黒鳥に向けてトゥバンは大きく跳躍する。
「くっ!」
黒鳥は向かってくるトゥバンを見て、間に合わないと判断し、無事な左翼を刃にトゥバンを迎撃する。
刃と化した翼がトゥバンに直撃する。だがトゥバンはその翼を両腕で受け止め逆に黒鳥を地面に向けて投げ飛ばす。
「うおっ!?」
黒鳥はそのまま地面へと叩きつけられる。全身を襲う痛みと衝撃に黒鳥は唸る。だが落ちてくる薙刀を手にしたトゥバンが上空から迫りくる。
「ハハッ!!」
「!」
黒鳥は迫りくるトゥバンに向けて最早飛べない翼から羽根を使いきる勢いで発射して迎え撃つ。だがトゥバンは薙刀を回転させ羽根を弾きながら防御する。
「なっ」
「狙いは良いがな!」
黒鳥はトゥバンの一撃を横へと転がってかわす。しかし、トゥバンは立ち上がった黒鳥に一気に距離を詰める。
「クソッ!」
「決定打不足だ!!」
黒鳥は再び刃とした翼を向けるがトゥバンはその翼を薙刀で弾いて、掴むと黒鳥を持ち上げ地面へと叩きつける。
「ガッ!」
「貰ったァッ!!」
黒鳥が怯んだ隙にトゥバンは左腕を足で押さえると薙刀を振り上げ、黒鳥の“右腕”を切断する。
「ぐっ、ガアアアアアアアアアアア!!?」
黒鳥が悲鳴を上げる。鮮血が溢れ、辺りに飛び散る。返り血を浴びながらもトゥバンが黒鳥にトドメを刺そうとした瞬間横から射撃が飛んでくる。
「チッ!」
トドメを中断し、トゥバンは大きく跳躍してその一撃をかわす。
左手が自由になった黒鳥は右肩を押さえながらよろよろと立ち上がる。
[スネーク]
黒鳥のマスクが蛇のように変わり、翼が消えて尻尾が生える。
『黒鳥大丈夫!?一応最低出力で撃ったけど!』
黒鳥の通信機に心配そうな雪花の声が届く。右腕を切断されたのだから無理もない。
「ナイス援護だ藍...今のはヤバかった。」
黒鳥は血で染まる肩を押さえながら、ぐぐっと力を入れる。走る激痛に耐えるように黒鳥は絶叫する。すると切断された右肩から新しく右腕が再生される。
脂汗を浮かべ、息も絶え絶えながらも黒鳥の右腕が再生した様子にトゥバンはヒュウと口笛を吹いてみせる。
「再生能力持ちとはな。だが。」
トゥバンは薙刀を構えて黒鳥を見据える。
「あとどれくらい再生出来る?それ、負担が半端ないんじゃないのか?」
「ぐっ...」
黒鳥はゴクリと唾を呑み込む。今、黒鳥の頭の中はこの疑問が支配していた。
“俺達は本当に奴に勝てるのか?”と。
別方向から飛んできた長距離射撃をギリギリで防御する。またもや爆発が起こり、閃光と轟音が響く。
トゥバンは煙を引き裂きながら飛んできた方向に疾走するが、上空から烏が現れ、トゥバンの周りを飛び回り、進行を邪魔する。
「またかっ!」
トゥバンは薙刀を振り回して烏を追い払うが、今度はさらに黒い羽根が降り注ぎ、足止めされる。
そしてまたもや別方向からの射撃がトゥバンを襲う。今度は上手く防御出来ず吹っ飛んで地面を転がる。トゥバンは苛立ち紛れに地面を殴る。
「対策はしてきたって訳か!接近戦は避けて遠距離戦に持ち込みてぇみたいだが...」
だが、それは逆に言えば近距離に持ち込めば奴らは自分に勝てないと言っているようなモノだ。上空から羽根を撃ってきている奴は知らないが、今射撃している女ならまず間違いなく勝てる。
相手もそれを理解しているからこその遠距離なのだろうが。
だが近づくには上空にいる奴を何とかするしかない。アイツがいる限り延々と妨害され、隙を突いた遠距離射撃に晒されることになる。
「こっちに遠距離攻撃はないと思ってるみてぇだが。」
トゥバンは薙刀を握り締め、上空にいる妨害者を見据えて構えを取る。
一方の上空でトゥバンを妨害している黒鳥も焦っていた。
(コイツまだ死なないのか!)
雪花の“ヘオース”とて無限に撃てる訳ではない。莫大なエネルギーを消費する“ヘオース”は“デイブレイク”の内部電源のみでは三発しか撃てない。外部電源に繋げようにも射撃位置がバレてしまってはそこに留まり続ける訳にもいかない。話を聞いた限りコイツは接近戦においてはほぼ無敵を誇る。接近戦に持ち込まれる前に何とか致命傷を与えなくては。
(それにそろそろ俺の羽根も少なくなってきたしな。)
黒鳥の羽根も無限にある訳ではない。飛ぶためにもある程度温存しなければならない。黒鳥がどうするか思案を巡らせていた時だった。
トゥバンは薙刀を黒鳥に向ける。何をするのか、黒鳥が一瞬図りかねた瞬間トゥバンは渾身の力で薙刀を黒鳥に“投擲”した。
「何だとッ!?」
予想外の一撃に一瞬反応が遅れる。その遅れが致命的だった。放たれた一撃は黒鳥の右翼を貫いた。貫かれた右翼は飛行能力を失い、黒鳥は左翼で何とかバランスを取ろうとするが、バランスを失った黒鳥に向けてトゥバンは大きく跳躍する。
「くっ!」
黒鳥は向かってくるトゥバンを見て、間に合わないと判断し、無事な左翼を刃にトゥバンを迎撃する。
刃と化した翼がトゥバンに直撃する。だがトゥバンはその翼を両腕で受け止め逆に黒鳥を地面に向けて投げ飛ばす。
「うおっ!?」
黒鳥はそのまま地面へと叩きつけられる。全身を襲う痛みと衝撃に黒鳥は唸る。だが落ちてくる薙刀を手にしたトゥバンが上空から迫りくる。
「ハハッ!!」
「!」
黒鳥は迫りくるトゥバンに向けて最早飛べない翼から羽根を使いきる勢いで発射して迎え撃つ。だがトゥバンは薙刀を回転させ羽根を弾きながら防御する。
「なっ」
「狙いは良いがな!」
黒鳥はトゥバンの一撃を横へと転がってかわす。しかし、トゥバンは立ち上がった黒鳥に一気に距離を詰める。
「クソッ!」
「決定打不足だ!!」
黒鳥は再び刃とした翼を向けるがトゥバンはその翼を薙刀で弾いて、掴むと黒鳥を持ち上げ地面へと叩きつける。
「ガッ!」
「貰ったァッ!!」
黒鳥が怯んだ隙にトゥバンは左腕を足で押さえると薙刀を振り上げ、黒鳥の“右腕”を切断する。
「ぐっ、ガアアアアアアアアアアア!!?」
黒鳥が悲鳴を上げる。鮮血が溢れ、辺りに飛び散る。返り血を浴びながらもトゥバンが黒鳥にトドメを刺そうとした瞬間横から射撃が飛んでくる。
「チッ!」
トドメを中断し、トゥバンは大きく跳躍してその一撃をかわす。
左手が自由になった黒鳥は右肩を押さえながらよろよろと立ち上がる。
[スネーク]
黒鳥のマスクが蛇のように変わり、翼が消えて尻尾が生える。
『黒鳥大丈夫!?一応最低出力で撃ったけど!』
黒鳥の通信機に心配そうな雪花の声が届く。右腕を切断されたのだから無理もない。
「ナイス援護だ藍...今のはヤバかった。」
黒鳥は血で染まる肩を押さえながら、ぐぐっと力を入れる。走る激痛に耐えるように黒鳥は絶叫する。すると切断された右肩から新しく右腕が再生される。
脂汗を浮かべ、息も絶え絶えながらも黒鳥の右腕が再生した様子にトゥバンはヒュウと口笛を吹いてみせる。
「再生能力持ちとはな。だが。」
トゥバンは薙刀を構えて黒鳥を見据える。
「あとどれくらい再生出来る?それ、負担が半端ないんじゃないのか?」
「ぐっ...」
黒鳥はゴクリと唾を呑み込む。今、黒鳥の頭の中はこの疑問が支配していた。
“俺達は本当に奴に勝てるのか?”と。
「ここは....」
目を覚ますと白い天井が見えた。目覚めた龍香はぼんやりとする頭を抱えながら起き上がる。
今まで自分は何をしていたのか、確か自分はかおりを救うために廃工場に行って、それから兄の仇のシードゥスと戦って。それで...。
「ッ!かおりは!?」
龍香は辺りを見回す。だが周りには誰もいない。頭に触れてみるとカノープスすらいない。
「カノープス?」
龍香がカノープスの名を呼ぶが、返事は返ってこない。
「みんな...」
周りに誰もいない。静寂が支配する真っ白な空間。そのことに二年前の記憶が呼び起こされる。
頼れるものは誰もいない。呼び掛けても誰も答えてくれない。寂しさが胸を込み上げてくる。孤独と絶望と寂寥。それらが呼び起こされた龍香の心臓が早鐘を打つ。呼吸が上手く出来ず、視界が暗転し、平衡感覚が失われ、何処までも奈落へ落ちていくような感覚を覚え、一種のパニック状態に陥りかけた瞬間だった。
ドタドタと慌ただしい足音が外から聞こえる。そしてその足音の主達は扉の前まで来るとバンと若干乱暴に扉を開け放つ。
「龍香!お待たせ!」
「紫水!起きてたか!」
「龍香ちゃんおはよう~」
《待たせたな龍香!》
「えっ」
泥と擦り傷だらけでボロボロだが皆笑顔で龍香の前に現れる。見知った面々の登場に龍香のパニックは引っ込むが今度はなんでかおりと藤正が火元とカノープスと行動を共にしているのか疑問が沸き上がる。
「えっ。えっ何で。かおりと藤正君が...?」
「大体の事情はコイツから聞いた。」
《コイツとは何だ小僧。》
「誰が小僧だこの骸骨野郎!」
《骸こ...このガキャ...!》
藤正とカノープスがギャンギャン喧嘩する中、かおりは龍香へと近づく。
「水臭いじゃない龍香!何で教えてくれなかったのよ!」
「だ、だって。かおりを...」
「...ま、何で教えてくれなかったのは分かってるわよ。アンタ優しいモン。」
かおりはポカンとする龍香に微笑みかけ、肩に手をおく。
「私は今まで龍香に何度も助けて貰った。だから今度は私にも龍香の手助けをさせて。コイツも手伝うし。」
「...まぁ、紫水のためならやぶさかじゃねぇし...俺も助けて貰ったしな。借りを作りっぱってのも男らしくねぇし。」
照れ臭そうに頭を掻きながら藤正はそっぽを向く。
「龍香ちゃん。彼らのお陰でコレを手にすることが出来ました。受け取ってあげて。」
「これ....」
龍香はかおりから、カノープスと錆びた剣を受け取る。
「マジ大変だったんだぜ。変な黒いのは襲い掛かって来るし!」
「死ぬかと思ったわ!」
「久方ぶりに銃とか撃ったから肩とか痛いわホント。」
《三人のお陰でアイツを倒すことが出来るコイツを手に入れることが出来た。》
三人が笑い合う。きっとこの剣を手に入れる為だけに三人は物凄く頑張ったのだろう。傷だらけの三人を見れば分かる。自分のために友達が身体を張ってくれたのだ。自分はもう孤独じゃない。こんなにも自分を想ってくれる人達がいる。そのことに自然に目頭が熱くなる。
気づけばボロボロと涙が溢れていた。
嗚咽をあげながら泣く龍香に三人と一つがギョッとする。
《ど、どうした龍香?どっか痛むのか?》
「ふ、藤正が臭すぎるとか?」
「んな訳あるか!いや、臭くないよな俺...?」
「龍香ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。もう大丈夫です。」
心配する三人と一つに龍香はそう答えると、涙を拭いながらベッドから出て、立ち上がる。
龍香はカノープスを頭につけると剣を持って三人に向き直る。
「かおり、藤正君、火元さん、カノープス...ありがとう。」
「...ああ。」
「...今、雪花ちゃんと黒鳥君が戦ってるわ。」
「...アタシ達も待ってるから。」
かおりは龍香の背中を強く叩く。
「だから、一発あの野郎にブチかましてきて!」
三人に龍香は笑みを浮かべるとコクリと強く頷く。
「任せて!!」
目を覚ますと白い天井が見えた。目覚めた龍香はぼんやりとする頭を抱えながら起き上がる。
今まで自分は何をしていたのか、確か自分はかおりを救うために廃工場に行って、それから兄の仇のシードゥスと戦って。それで...。
「ッ!かおりは!?」
龍香は辺りを見回す。だが周りには誰もいない。頭に触れてみるとカノープスすらいない。
「カノープス?」
龍香がカノープスの名を呼ぶが、返事は返ってこない。
「みんな...」
周りに誰もいない。静寂が支配する真っ白な空間。そのことに二年前の記憶が呼び起こされる。
頼れるものは誰もいない。呼び掛けても誰も答えてくれない。寂しさが胸を込み上げてくる。孤独と絶望と寂寥。それらが呼び起こされた龍香の心臓が早鐘を打つ。呼吸が上手く出来ず、視界が暗転し、平衡感覚が失われ、何処までも奈落へ落ちていくような感覚を覚え、一種のパニック状態に陥りかけた瞬間だった。
ドタドタと慌ただしい足音が外から聞こえる。そしてその足音の主達は扉の前まで来るとバンと若干乱暴に扉を開け放つ。
「龍香!お待たせ!」
「紫水!起きてたか!」
「龍香ちゃんおはよう~」
《待たせたな龍香!》
「えっ」
泥と擦り傷だらけでボロボロだが皆笑顔で龍香の前に現れる。見知った面々の登場に龍香のパニックは引っ込むが今度はなんでかおりと藤正が火元とカノープスと行動を共にしているのか疑問が沸き上がる。
「えっ。えっ何で。かおりと藤正君が...?」
「大体の事情はコイツから聞いた。」
《コイツとは何だ小僧。》
「誰が小僧だこの骸骨野郎!」
《骸こ...このガキャ...!》
藤正とカノープスがギャンギャン喧嘩する中、かおりは龍香へと近づく。
「水臭いじゃない龍香!何で教えてくれなかったのよ!」
「だ、だって。かおりを...」
「...ま、何で教えてくれなかったのは分かってるわよ。アンタ優しいモン。」
かおりはポカンとする龍香に微笑みかけ、肩に手をおく。
「私は今まで龍香に何度も助けて貰った。だから今度は私にも龍香の手助けをさせて。コイツも手伝うし。」
「...まぁ、紫水のためならやぶさかじゃねぇし...俺も助けて貰ったしな。借りを作りっぱってのも男らしくねぇし。」
照れ臭そうに頭を掻きながら藤正はそっぽを向く。
「龍香ちゃん。彼らのお陰でコレを手にすることが出来ました。受け取ってあげて。」
「これ....」
龍香はかおりから、カノープスと錆びた剣を受け取る。
「マジ大変だったんだぜ。変な黒いのは襲い掛かって来るし!」
「死ぬかと思ったわ!」
「久方ぶりに銃とか撃ったから肩とか痛いわホント。」
《三人のお陰でアイツを倒すことが出来るコイツを手に入れることが出来た。》
三人が笑い合う。きっとこの剣を手に入れる為だけに三人は物凄く頑張ったのだろう。傷だらけの三人を見れば分かる。自分のために友達が身体を張ってくれたのだ。自分はもう孤独じゃない。こんなにも自分を想ってくれる人達がいる。そのことに自然に目頭が熱くなる。
気づけばボロボロと涙が溢れていた。
嗚咽をあげながら泣く龍香に三人と一つがギョッとする。
《ど、どうした龍香?どっか痛むのか?》
「ふ、藤正が臭すぎるとか?」
「んな訳あるか!いや、臭くないよな俺...?」
「龍香ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。もう大丈夫です。」
心配する三人と一つに龍香はそう答えると、涙を拭いながらベッドから出て、立ち上がる。
龍香はカノープスを頭につけると剣を持って三人に向き直る。
「かおり、藤正君、火元さん、カノープス...ありがとう。」
「...ああ。」
「...今、雪花ちゃんと黒鳥君が戦ってるわ。」
「...アタシ達も待ってるから。」
かおりは龍香の背中を強く叩く。
「だから、一発あの野郎にブチかましてきて!」
三人に龍香は笑みを浮かべるとコクリと強く頷く。
「任せて!!」
ビルの屋上から遠距離射撃を繰り返していたルクバトはさらに射撃を叩き込むために敵の位置を把握しているフィクスに尋ねる。
「おい。フィクス。敵の座標は?」
「!目標は不可解な行動を繰り返している。24E,17B...飛ばし飛ばしこちらに来ている。」
「?何を言っている?」
フィクスが言っていることが本当なら相手は瞬間移動を繰り返しているということだ。
あり得ない...と切り捨てようとしたが、ルクバトはふと思い返す。
「いや...それならオフィスから消えたことにも説明がつく。それに確かゲンマの報告ではサダルメリクの瞳を持っていた奴も生きていたんだったな。」
サダルメリク...裏切り者のシードゥスの一人。ツォディアにいながら人間に与し、プロウフに粛清され肉体を失ったシードゥス。
「そんな裏切り者も今では人間の道具、か。」
「こちらに向けて接近中。5G。」
最早肉眼で確認出来るレベルまで近づかれた。だが、そこまで近づけばルクバト自身も視認して攻撃出来る。
見れば向かいのビルに一人の男が現れる。遠くからでも分かる右目に装着した異形の呪眼。まさしく今回の侵入者だろう。
「姿が見えれば。」
ルクバトが射撃体勢を取った瞬間こちらに向けて男は何かよく分からないモノを投げつける。
一瞬爆弾か何かかとルクバトは身構えるがルクバトの優れた動体視力が全てタダのガラクタだと見破る。
「目眩ましのつもりか?」
しかもガラクタは自分達よりも少し上の軌道を取っているため二人には当たらない。
改めて男に狙いを定めてルクバトが矢を放った瞬間だった。
サダルメリクの瞳が輝き、男の姿が消え、そして先程のガラクタがあった場所に男が現れる。
「なっ」
全て男、嵩原の狙い通りだった。投げつけたガラクタを迎撃されればその隙に懐に潜り込むプランもあったが、上手く見破ってくれた。これで完全に相手の上を不意を突く形で取れた。
嵩原は鞘から刀を抜刀し、ルクバトに斬りかかる。ルクバトも不意を突かれながらも右手の刃でギリギリその攻撃を防ぐが、体勢を崩し隙を見せる。
(貰った!)
続く斬撃で仕留めようと振りかぶった瞬間だった。ルクバトは体勢を整えるのを止めて逆に倒れ込む。
普通敵を目の前にして倒れまいと踏ん張るものだが、ルクバトは逆に倒れ込んだのだ。予想外の行動に嵩原の目測の間合いはズレ、斬撃はルクバトを掠めるだけに終わる。
そしてルクバトはお返しにと倒れた状態から嵩原を蹴りつける。
「ぐっ!」
何とか腕で防御するが嵩原は地面を転がる。
「...今のは正直焦った。」
ルクバトはユラリと立ち上がる。埃を払うようにパッパッと自身の服を叩く。
「だが、俺もツォディアの一人だ。残念だが射撃しか出来ない馬鹿ではないぞ。」
嵩原は立ち上がりながら能力の全力使用の反動による激痛に苛まされる。
口の中に徐々に鉄の味と香りが広がる。
「そう、甘くはないか...」
嵩原は刀を構え、鋭くルクバトを見据えると一気に駆け出す。ルクバトもこの距離では射撃よりも接近戦が良いと見たか、嵩原に向けて走り出す。
そして嵩原は刀を、ルクバトは刃を相手に繰り出し、そしてぶつかり合う。互いの斬撃が相手を倒そうと切り結ばれる。ルクバトの鋭い突きを嵩原はしゃがんでかわすと反撃にと刀を振るうが、それをルクバトは身体を捻ってかわす。
「中々、やる。」
ルクバトは余裕綽々の様子を見せる。だが嵩原の方は徐々に傷口が痛み始め、身体は限界へと近づいていく。
サダルメリクの瞳により、ギリギリ相手の攻撃を見切ってはいるが、それも何時まで持つか。
「その瞳。何処まで俺を見切れる?」
「くっ!」
ルクバトもツォディアの位置にいる実力者だ。徐々に嵩原も弱っているのを感じ取っていた。斬撃は戦闘において口以上に自身を物語るものだ。
とうとうルクバトの一撃が刀を弾き、嵩原は完全にバランスを崩す。
さらにルクバトはこれを好機と見たか地面を思い切り蹴りつけ嵩原の顔に瓦礫や砂埃を飛ばして目潰しを仕掛ける。
「!」
サダルメリクの瞳が一瞬視界を奪われる。嵩原はすぐに後ろへと下がろうとした瞬間、足に痛みが走り、動けなくなる。
見ればルクバトが嵩原の足を踏みつけ移動を封じていたのだ。それと同時に右手の刃を構える。
「ッ!?」
「お行儀が良すぎたな。」
次の瞬間完全に動きを封じられた嵩原の身体をルクバトの右手が貫いた。
「おい。フィクス。敵の座標は?」
「!目標は不可解な行動を繰り返している。24E,17B...飛ばし飛ばしこちらに来ている。」
「?何を言っている?」
フィクスが言っていることが本当なら相手は瞬間移動を繰り返しているということだ。
あり得ない...と切り捨てようとしたが、ルクバトはふと思い返す。
「いや...それならオフィスから消えたことにも説明がつく。それに確かゲンマの報告ではサダルメリクの瞳を持っていた奴も生きていたんだったな。」
サダルメリク...裏切り者のシードゥスの一人。ツォディアにいながら人間に与し、プロウフに粛清され肉体を失ったシードゥス。
「そんな裏切り者も今では人間の道具、か。」
「こちらに向けて接近中。5G。」
最早肉眼で確認出来るレベルまで近づかれた。だが、そこまで近づけばルクバト自身も視認して攻撃出来る。
見れば向かいのビルに一人の男が現れる。遠くからでも分かる右目に装着した異形の呪眼。まさしく今回の侵入者だろう。
「姿が見えれば。」
ルクバトが射撃体勢を取った瞬間こちらに向けて男は何かよく分からないモノを投げつける。
一瞬爆弾か何かかとルクバトは身構えるがルクバトの優れた動体視力が全てタダのガラクタだと見破る。
「目眩ましのつもりか?」
しかもガラクタは自分達よりも少し上の軌道を取っているため二人には当たらない。
改めて男に狙いを定めてルクバトが矢を放った瞬間だった。
サダルメリクの瞳が輝き、男の姿が消え、そして先程のガラクタがあった場所に男が現れる。
「なっ」
全て男、嵩原の狙い通りだった。投げつけたガラクタを迎撃されればその隙に懐に潜り込むプランもあったが、上手く見破ってくれた。これで完全に相手の上を不意を突く形で取れた。
嵩原は鞘から刀を抜刀し、ルクバトに斬りかかる。ルクバトも不意を突かれながらも右手の刃でギリギリその攻撃を防ぐが、体勢を崩し隙を見せる。
(貰った!)
続く斬撃で仕留めようと振りかぶった瞬間だった。ルクバトは体勢を整えるのを止めて逆に倒れ込む。
普通敵を目の前にして倒れまいと踏ん張るものだが、ルクバトは逆に倒れ込んだのだ。予想外の行動に嵩原の目測の間合いはズレ、斬撃はルクバトを掠めるだけに終わる。
そしてルクバトはお返しにと倒れた状態から嵩原を蹴りつける。
「ぐっ!」
何とか腕で防御するが嵩原は地面を転がる。
「...今のは正直焦った。」
ルクバトはユラリと立ち上がる。埃を払うようにパッパッと自身の服を叩く。
「だが、俺もツォディアの一人だ。残念だが射撃しか出来ない馬鹿ではないぞ。」
嵩原は立ち上がりながら能力の全力使用の反動による激痛に苛まされる。
口の中に徐々に鉄の味と香りが広がる。
「そう、甘くはないか...」
嵩原は刀を構え、鋭くルクバトを見据えると一気に駆け出す。ルクバトもこの距離では射撃よりも接近戦が良いと見たか、嵩原に向けて走り出す。
そして嵩原は刀を、ルクバトは刃を相手に繰り出し、そしてぶつかり合う。互いの斬撃が相手を倒そうと切り結ばれる。ルクバトの鋭い突きを嵩原はしゃがんでかわすと反撃にと刀を振るうが、それをルクバトは身体を捻ってかわす。
「中々、やる。」
ルクバトは余裕綽々の様子を見せる。だが嵩原の方は徐々に傷口が痛み始め、身体は限界へと近づいていく。
サダルメリクの瞳により、ギリギリ相手の攻撃を見切ってはいるが、それも何時まで持つか。
「その瞳。何処まで俺を見切れる?」
「くっ!」
ルクバトもツォディアの位置にいる実力者だ。徐々に嵩原も弱っているのを感じ取っていた。斬撃は戦闘において口以上に自身を物語るものだ。
とうとうルクバトの一撃が刀を弾き、嵩原は完全にバランスを崩す。
さらにルクバトはこれを好機と見たか地面を思い切り蹴りつけ嵩原の顔に瓦礫や砂埃を飛ばして目潰しを仕掛ける。
「!」
サダルメリクの瞳が一瞬視界を奪われる。嵩原はすぐに後ろへと下がろうとした瞬間、足に痛みが走り、動けなくなる。
見ればルクバトが嵩原の足を踏みつけ移動を封じていたのだ。それと同時に右手の刃を構える。
「ッ!?」
「お行儀が良すぎたな。」
次の瞬間完全に動きを封じられた嵩原の身体をルクバトの右手が貫いた。
「黒鳥君!大丈夫!?」
右手を押さえる黒鳥を画面越しに見ながら山形が叫ぶ。黒鳥は再生した右手の感触を確かめ、トゥバンを見据えながら山形に返す。
『何とか。死ぬほど痛いですが...』
汗を流しながら黒鳥は答える。そう答えてはいるが先程のやり取りで黒鳥もトゥバンとの実力差を感じているようで後ずさりをしている。
「嵩原君は何をしているの!いくら何でも遅すぎよ!買い出しに何時まで...」
そこまで言って山形は一つの可能性に思い当たる。
「まさか、嵩原君...」
『嵩原さんなら大丈夫です。』
黒鳥が答える。
『必ず戻ってくると約束しましたから。』
「....そう、やっぱり。」
向かったのだ。嵩原は前々から龍斗の会社に潜入し、証拠を集め引きずり下ろすべきだと言っていた。確かにこれ以上資金源なしでは限界が近い。資金源を確保するのは確かに急がれるものではあるが。
「だからってこんな肝心な時に...!」
『嵩原は信頼してんのよ。』
雪花はトゥバンへと“ヘオース”を発射する。トゥバンは“ヘオース”を受け止め、爆発が起こる。
『私達だけでも大丈夫だって。信頼してんのよ。だから!』
雪花は再び“ヘオース”を発射する。またもや着弾し、爆発が起こる。
『ここで根性見せなきゃいけないのよ!』
爆炎が辺りを包む中、煙を引き裂き現れたトゥバンは黒鳥に斬りかかる。
「お喋りは済んだか!」
「チッ!」
黒鳥は向けられた刃をしなやかな動きでかわす。そして逆にトゥバンの腕を取り、関節技を決めようと腕をトゥバンに伸ばす。
「対策済みだ!」
だがトゥバンは仕掛けられる前に尻尾で黒鳥の胴を叩いて怯ませ攻撃を中断させる。怯んだ黒鳥にトゥバンの薙刀が襲い掛かる。だが黒鳥はそれをすんでのところでかわし、尻尾で反撃を試みる。
しかし振るわれた薙刀が黒鳥の尻尾を切断し、その攻撃は届かない。
「クソッ!近すぎて狙えない!」
雪花も“ヘオース”を構えるが黒鳥があまりにも近すぎて撃てば巻き込みかねない。かと言ってもう無駄撃ち出来る程エネルギーの残量は“ヘオース”にはない。
トゥバンは黒鳥を殴り付けて体勢を崩させるとそこに思い切り蹴りを叩き込む。
「ぐっ!」
「終わりだ!」
トゥバンが薙刀を黒鳥に向けて振るおうとした瞬間。
「待てーッ!!」
「!?」
突如大声と共に上空から現れた龍香がトゥバンに斬りかかる。トゥバンはその斬撃を受け止めるが、受け止められると同時に繰り出した龍香の蹴りがトゥバンを後退させる。
「また邪魔か...!」
「黒鳥さん!大丈夫!?」
「龍香ちゃん...!」
「龍香!アンタ大丈夫なの!?」
「うん!全然大丈夫!」
龍香は心配する雪花にサムズアップで返す。
「現れたかカノープス!今度は途中でくたばらねぇだろうな?」
龍香の登場にトゥバンはどこか嬉しそうに言う。龍香はそんなトゥバンに向き直ると、剣を構える。
「今度はいきなり全力で来ないのか?」
「...貴方は強い。私とカノープスの力だけじゃ絶対勝てない。」
「?何を...」
龍香の出方を伺うトゥバンに龍香は宣言する。
「けど今の私は皆からの想いを託されてるの。だからもう負けない!」
龍香がそう叫ぶと同時に錆びた剣は虹色の輝きを放ち、恐竜の意匠が施された一振の立派な剣へと覚醒する。
「絆を胸に!!」
次の瞬間大地を突き破り紫の光を放つ恐竜が現れ、龍香を後ろから食べるように包み込む。
「うおおおおおおお!?」
「た、食べられた!」
突然の出来事に黒鳥と雪花が驚愕する。恐竜に食べられた龍香に変化が起こる。髪の毛が伸び、服も広がり、両肩、両腕、両腰に恐竜の頭蓋骨のような鎧が装着され、胸の鎧に変化が起こり、より凶悪な顔つきになる。
紫の光が消えるとそこには新たな姿となった龍香がいた。
《肝胆相照!ティラノカラー・アトロシアス!!》
右手を押さえる黒鳥を画面越しに見ながら山形が叫ぶ。黒鳥は再生した右手の感触を確かめ、トゥバンを見据えながら山形に返す。
『何とか。死ぬほど痛いですが...』
汗を流しながら黒鳥は答える。そう答えてはいるが先程のやり取りで黒鳥もトゥバンとの実力差を感じているようで後ずさりをしている。
「嵩原君は何をしているの!いくら何でも遅すぎよ!買い出しに何時まで...」
そこまで言って山形は一つの可能性に思い当たる。
「まさか、嵩原君...」
『嵩原さんなら大丈夫です。』
黒鳥が答える。
『必ず戻ってくると約束しましたから。』
「....そう、やっぱり。」
向かったのだ。嵩原は前々から龍斗の会社に潜入し、証拠を集め引きずり下ろすべきだと言っていた。確かにこれ以上資金源なしでは限界が近い。資金源を確保するのは確かに急がれるものではあるが。
「だからってこんな肝心な時に...!」
『嵩原は信頼してんのよ。』
雪花はトゥバンへと“ヘオース”を発射する。トゥバンは“ヘオース”を受け止め、爆発が起こる。
『私達だけでも大丈夫だって。信頼してんのよ。だから!』
雪花は再び“ヘオース”を発射する。またもや着弾し、爆発が起こる。
『ここで根性見せなきゃいけないのよ!』
爆炎が辺りを包む中、煙を引き裂き現れたトゥバンは黒鳥に斬りかかる。
「お喋りは済んだか!」
「チッ!」
黒鳥は向けられた刃をしなやかな動きでかわす。そして逆にトゥバンの腕を取り、関節技を決めようと腕をトゥバンに伸ばす。
「対策済みだ!」
だがトゥバンは仕掛けられる前に尻尾で黒鳥の胴を叩いて怯ませ攻撃を中断させる。怯んだ黒鳥にトゥバンの薙刀が襲い掛かる。だが黒鳥はそれをすんでのところでかわし、尻尾で反撃を試みる。
しかし振るわれた薙刀が黒鳥の尻尾を切断し、その攻撃は届かない。
「クソッ!近すぎて狙えない!」
雪花も“ヘオース”を構えるが黒鳥があまりにも近すぎて撃てば巻き込みかねない。かと言ってもう無駄撃ち出来る程エネルギーの残量は“ヘオース”にはない。
トゥバンは黒鳥を殴り付けて体勢を崩させるとそこに思い切り蹴りを叩き込む。
「ぐっ!」
「終わりだ!」
トゥバンが薙刀を黒鳥に向けて振るおうとした瞬間。
「待てーッ!!」
「!?」
突如大声と共に上空から現れた龍香がトゥバンに斬りかかる。トゥバンはその斬撃を受け止めるが、受け止められると同時に繰り出した龍香の蹴りがトゥバンを後退させる。
「また邪魔か...!」
「黒鳥さん!大丈夫!?」
「龍香ちゃん...!」
「龍香!アンタ大丈夫なの!?」
「うん!全然大丈夫!」
龍香は心配する雪花にサムズアップで返す。
「現れたかカノープス!今度は途中でくたばらねぇだろうな?」
龍香の登場にトゥバンはどこか嬉しそうに言う。龍香はそんなトゥバンに向き直ると、剣を構える。
「今度はいきなり全力で来ないのか?」
「...貴方は強い。私とカノープスの力だけじゃ絶対勝てない。」
「?何を...」
龍香の出方を伺うトゥバンに龍香は宣言する。
「けど今の私は皆からの想いを託されてるの。だからもう負けない!」
龍香がそう叫ぶと同時に錆びた剣は虹色の輝きを放ち、恐竜の意匠が施された一振の立派な剣へと覚醒する。
「絆を胸に!!」
次の瞬間大地を突き破り紫の光を放つ恐竜が現れ、龍香を後ろから食べるように包み込む。
「うおおおおおおお!?」
「た、食べられた!」
突然の出来事に黒鳥と雪花が驚愕する。恐竜に食べられた龍香に変化が起こる。髪の毛が伸び、服も広がり、両肩、両腕、両腰に恐竜の頭蓋骨のような鎧が装着され、胸の鎧に変化が起こり、より凶悪な顔つきになる。
紫の光が消えるとそこには新たな姿となった龍香がいた。
《肝胆相照!ティラノカラー・アトロシアス!!》
血を流し暗闇のまどろみに沈みながら嵩原は地面に倒れていた。倒れた嵩原からルクバトはメモリーが入ったUSBを取り出す。
「これで任務完了...だな。」
「疑問?その男はどうする?」
「サダルメリクの瞳を持ってやがるからな...回収してプロウフに渡すか。何かするだろ。」
「了解。」
シードゥス達の声が遠退いていく。嵩原は消えいく意識の中で自問自答をする。
(僕は...何をしている。)
指一本動かせない。身体から熱が引いていく。
(黒鳥君と約束したのに...)
また約束を破ってしまう自分の不甲斐なさに泣けてくる。
(僕は...また...。)
思い返してみれば何一つしてやれない人生だった。龍那との約束は果たせず、龍賢を救うことは出来ず、龍香の痛みにも寄り添ってやれなかった。
そして今も友や慕う人間の託された想いや無念を無下にして死のうとしている。
(こんなものか...僕の人生は...。)
黒鳥が完全に闇に沈もうとした瞬間だった。
『嵩原先生。』
目の前に同僚である雨宮との記憶が思い起こされる。それは一年前の帰り道だった。たまたま帰り道を一緒にした際に嵩原は聞かれたのだ。
『嵩原先生は何故教職の道を目指したのですか。』
ふと、聞かれたなんてことない質問。その時自分はなんと答えたのか。
『私が教職を目指したのは...』
(そうだ....)
自分が教職を目指したのは約束のため、“想い”を託された子供達を支え、彼らの成長を手助けしてやるためだ。
それは何も“新月”の子供達だけではない。学校の生徒達もそうだ。皆親からの“想い”を託され、学びに来ている。
(そんな彼らの力になりたくて...!彼らが健やかに過ごせる世界を作るため...教員に、“新月”に入ったんだ。)
自分は最期の最後に大切なことを見落とすところだった。自分がこの任務に臨むのは、死に場所を見つけるためではない。
「彼らに...!託すためだ...!」
「?」
嵩原は痛む身体に力を込める。刀を掴んで立ち上がると同時にこちらに無防備な近づいてくるフィクスを睨む。
「ッ!まだ生き」
「アアアアアアアアアア!!」
嵩原は叫びながら渾身の力で刀を振るう。鋭い斬撃はフィクスを切り裂き、その命を刈り取る。
「フィクス!!」
まさか虫の息どころか呼吸が止まっていたハズの死に体の人間が反撃に出るとは予想していなかったルクバトは完全に不意を突かれる。
「まだ!まだ死ねない...!!」
嵩原の右目が輝く。すると右目が視界に捉えていたルクバトが握るUSBと嵩原握っていた瓦礫が瞬時に入れ替わる。
「しまっ」
「うあっ!」
嵩原はさらに刀をフィクスに突き刺し蹴り飛ばす。シードゥスは絶命すると爆発する。フィクスはトドメを刺され、完全に生命活動を停止させられる。
蹴り飛ばされたフィクスはルクバトに衝突すると大爆発を起こす。
「ぐおおおおおお!?」
ルクバトは爆発を受けて地面を転がるが素早く体勢を建て直すと弓矢を構えて嵩原がいた場所に目測で矢を放つが手応えはない。
煙が晴れるとそこにはおびただしい量の血痕しか残っていなかった。
辺りを見回しても誰もいない。
「逃げられたか...だが、奴もこの血の量では助からん。」
ルクバトはフィクスが爆発した痕を見つめる。
「...まぁ、なんだ。お疲れだ。」
ルクバトはそう呟くとその場を後にすることにした。これ程までに大騒ぎをした以上自分達の存在が露見されるのはマズイ。
空は満月が明るく夜空を照らしていた。
「これで任務完了...だな。」
「疑問?その男はどうする?」
「サダルメリクの瞳を持ってやがるからな...回収してプロウフに渡すか。何かするだろ。」
「了解。」
シードゥス達の声が遠退いていく。嵩原は消えいく意識の中で自問自答をする。
(僕は...何をしている。)
指一本動かせない。身体から熱が引いていく。
(黒鳥君と約束したのに...)
また約束を破ってしまう自分の不甲斐なさに泣けてくる。
(僕は...また...。)
思い返してみれば何一つしてやれない人生だった。龍那との約束は果たせず、龍賢を救うことは出来ず、龍香の痛みにも寄り添ってやれなかった。
そして今も友や慕う人間の託された想いや無念を無下にして死のうとしている。
(こんなものか...僕の人生は...。)
黒鳥が完全に闇に沈もうとした瞬間だった。
『嵩原先生。』
目の前に同僚である雨宮との記憶が思い起こされる。それは一年前の帰り道だった。たまたま帰り道を一緒にした際に嵩原は聞かれたのだ。
『嵩原先生は何故教職の道を目指したのですか。』
ふと、聞かれたなんてことない質問。その時自分はなんと答えたのか。
『私が教職を目指したのは...』
(そうだ....)
自分が教職を目指したのは約束のため、“想い”を託された子供達を支え、彼らの成長を手助けしてやるためだ。
それは何も“新月”の子供達だけではない。学校の生徒達もそうだ。皆親からの“想い”を託され、学びに来ている。
(そんな彼らの力になりたくて...!彼らが健やかに過ごせる世界を作るため...教員に、“新月”に入ったんだ。)
自分は最期の最後に大切なことを見落とすところだった。自分がこの任務に臨むのは、死に場所を見つけるためではない。
「彼らに...!託すためだ...!」
「?」
嵩原は痛む身体に力を込める。刀を掴んで立ち上がると同時にこちらに無防備な近づいてくるフィクスを睨む。
「ッ!まだ生き」
「アアアアアアアアアア!!」
嵩原は叫びながら渾身の力で刀を振るう。鋭い斬撃はフィクスを切り裂き、その命を刈り取る。
「フィクス!!」
まさか虫の息どころか呼吸が止まっていたハズの死に体の人間が反撃に出るとは予想していなかったルクバトは完全に不意を突かれる。
「まだ!まだ死ねない...!!」
嵩原の右目が輝く。すると右目が視界に捉えていたルクバトが握るUSBと嵩原握っていた瓦礫が瞬時に入れ替わる。
「しまっ」
「うあっ!」
嵩原はさらに刀をフィクスに突き刺し蹴り飛ばす。シードゥスは絶命すると爆発する。フィクスはトドメを刺され、完全に生命活動を停止させられる。
蹴り飛ばされたフィクスはルクバトに衝突すると大爆発を起こす。
「ぐおおおおおお!?」
ルクバトは爆発を受けて地面を転がるが素早く体勢を建て直すと弓矢を構えて嵩原がいた場所に目測で矢を放つが手応えはない。
煙が晴れるとそこにはおびただしい量の血痕しか残っていなかった。
辺りを見回しても誰もいない。
「逃げられたか...だが、奴もこの血の量では助からん。」
ルクバトはフィクスが爆発した痕を見つめる。
「...まぁ、なんだ。お疲れだ。」
ルクバトはそう呟くとその場を後にすることにした。これ程までに大騒ぎをした以上自分達の存在が露見されるのはマズイ。
空は満月が明るく夜空を照らしていた。
新たな姿となった龍香を見てもトゥバンは全く怯まず、寧ろ笑みさえ溢して見せた。
「おいおい。またまた新しいおべべか?衣裳持ちなのは結構だがな。」
トゥバンは薙刀を振り上げると龍香へと向かっていく。
「そいつは俺を倒せるのか!?」
トゥバンは薙刀を龍香に振り下ろす。だが龍香は振り下ろされた薙刀を左手で掴んで受け止める。
「なっ」
トゥバンが薙刀を押したり引いたりするが薙刀はビクとも動かない。トゥバンが薙刀を取り返そうとしていると龍香は剣を握った拳でトゥバンを思い切り殴り飛ばす。拳が顔面にめり込み、ヒビが入る。
「ごっ....!?」
「...これは二年前に貴方に傷つけられた“新月”の人達の分。」
強烈な痛打にトゥバンは一瞬混乱する。だが龍香は堂々と歩いてトゥバンとの距離を詰めると大剣“タイラント・ブレイド”で何度もトゥバンを斬りつける。
その太刀筋はトゥバンでも見切れなかった。
「がっ」
「これは雪花ちゃんと黒鳥さんの分!」
「お、俺が押されている...だと!」
トゥバンが薙刀で再び斬りかかるが、龍香はそれを受け止め、またもや返す刀で斬りつける。
「これはかおりの分!」
そして龍香は怯んだトゥバンを思い切り蹴り飛ばした。
圧倒的な力を見せる龍香に黒鳥と雪花はポカンとする。
「圧倒してる...」
「なんて力なの...」
地面に倒れるトゥバンはドンと地面を殴り付ける。
「何故だ...!?これ程の短期間で何故これほどの力を!」
《教えてやるよ。トゥバン。》
カノープスが答える。
《この剣は俺の本来の力が込められていた。コイツを扱うためには七つの力が必要だが、あの時龍賢は達していなかった領域に龍香は既に達していた。だがらこの力が使えた...それにこの力は俺達だけの力じゃねぇ。》
「かおり、藤正君、雪花ちゃん、黒鳥さん!“新月”の皆!沢山の人達からの想いが託された力なの!それが楽しむためだけに戦う貴方に負けるハズがない!!」
「ぐっ...くっ、クハハハハハハハ!面白ェ!ホントに敵わねぇか確めてみろ!」
トゥバンは笑いながら龍香に斬りかかる。だが、龍香は薙刀が振るわれるより先に懐に潜り込むとトゥバンの顔面をまた殴り飛ばす。
「ぐおぉ!?」
「...これはお兄ちゃんの分!」
トゥバンは殴られながらも笑いを絶やさない。
「く、ハハハハハ。ハハハハハハ!初めてだ!ここまで追い込まれたのは!」
トゥバンは立ち上がると薙刀を構え、力を込める。すると凄まじいオーラが漂い、空気が震え始める。
「我が生涯最強の好敵手よ!この俺の最強の一撃を手向けと受け取れ!!」
「アイツまだこんな力を!」
トゥバンは叫ぶと龍香に向けて薙刀を振るう。振るわれた薙刀から放たれた龍の形をした斬撃が地面を裂きながら龍香へと向かっていく。
「龍香!!」
雪花が叫ぶ。龍香は向かってくる斬撃に対し、真っ向から見据えて“タイラント・ブレイド”を構える。
「これが私達の想いの力!」
龍香も力を込め、そして向かってくる斬撃に向けて一閃。
「ブレイジング!バスタァァァァァド!」
振るわれた一閃は斬撃を裂き、そしてその先にいるトゥバンをも切り裂いた。
紫色の鮮血が宙を舞う。トゥバンは切り裂かれながらも笑みを浮かべる。
「ハハッ。ハハハハハ。ハハハハハハハハッ!!」
トゥバンを走馬灯が駆け巡る。二年前の激闘、プロウフとの、他のシードゥスとのやり取り、“新月”残党との死闘、そして。
『貴方のことが好きだから、と言ったら?』
記憶の中で尋ねる彼女にトゥバンは独りごちた。
(...アンタレス。悪いが俺はお前の想いにゃ応えられねーよ。)
トゥバンが倒れる。そして同時に爆発。爆音が響き、そして黒煙が上がる。
皆最初は呆然としていたが、徐々に状況を読み込んできた全員が歓声を上げる。
「や、やった。」
『勝っ、勝った!勝ったノネ!』
『や、やりましたよ山形さん!』
『えぇ!』
宿敵を倒した龍香は剣を突き刺してへにゃりと脱力する。
「か、勝った....」
《あぁ。龍香。お前の勝ちだ。》
「ま、今日は素直に認めてあげる。やったわね。」
「よくやったぞ。龍香ちゃん。」
「雪花ちゃん、黒鳥さん。」
雪花と黒鳥も龍香に駆け寄って称賛の言葉をかけてくれる。
「にしてもこれ重いのよね。よっと。」
「雪花もよくやってくれたな。お前がいなかったら多分死んでたぞ、俺。」
「ま、トーゼンね。龍香がいなくても私一人で仕留められたし?」
「素直じゃないな...」
三人が談笑している時だった。ザッ、と後ろから足音が聞こえた。
「誰だ!」
黒鳥が叫ぶと、木の陰から一人の男性が現れる。それは血塗れの嵩原だった。
「やぁ、皆...どうやら勝ったみたいだね。」
「ッ」
「嵩原さん!!」
「山形!火元呼んで!嵩原が...嵩原が!」
絶句する三人の前で、嵩原は倒れ込む。嵩原は死の間際だと言うのに黒鳥に微笑みかける。
「どうだい...生きて、帰ってきたろ?」
「嵩原さん...!」
嵩原は震える手で握りしめていた血で真っ赤に染まったUSBを黒鳥に託す。
「これが...会社の情報だ。多分、失脚させるには充分なハズ...だ。」
黒鳥や、雪花は目に涙を浮かべる。素人の龍香から見てもこの出血量は助からない。
「嵩原さん、なんで...」
「ゲホッゲホッ...そう。最期に謝っておきたくてね。」
嵩原は血反吐を吐き、弱々しく唸りながら目線を三人に向ける。
「黒鳥君。君には辛い判断をさせてしまったね...本当に申し訳ない。」
「嵩原さん...俺、嵩原さんがいないと...」
「もう...大丈夫だ。君は僕がいなくてもチームを引っ張っていける...何も心配もなく君に託せるよ。」
黒鳥にそう謂うと今度は雪花に向く。
「藍君...君にはお姉さんのことや、学校を勧めておいて最期まで君のことを見れないこと...ホントに申し訳なく思う。」
「バカ!嵩原が学校勧めてくれたから、私初めて友達が出来たのに...!それに、申し訳なく思ってるなら生きなさいよ...!」
「ふふ...」
そして、嵩原は最後に龍香を見据える。
「先生...」
「龍香君...君には謝ることが沢山ある。お母さんとの約束、龍賢君のこと、君の痛みに寄り添ってやれなかったこと。君にはホントに何もしてやれなかった...」
「そんな事ないです!先生や友達がいたから学校にも行けたし、折れなくていられたんです、だから...」
「...龍香君、あと申し訳ないが雨宮先生に伝えておいてくれ。コンサートの約束、守れなくて申し訳ない...と。」
嵩原は血塗れのチケットを龍香に渡し、そこまで言って空を見つめる。満月が嵩原を照らす。
「あぁ...あと、山形さんにも...ふふっ、謝ることが多過ぎて...まだまだ...死ね...な」
嵩原の視界が暗転する。何もない。真っ白な空間。そこには沢山の友人がいた。そして、目の前に雪花亜美と青い光を称える異形の生命体がいた。
「嵩原さん。もう良いんです?」
「...あぁ。正直まだ、喋りたいけど。」
異形の生命体が話し掛けてくる。
「まさかもうこっちに来るとはね。」
「...サダルメリク。君の瞳を受け取っていながら済まない。君の瞳は彼女に託すよ。」
生命体...サダルメリクはフフッと笑う。
「ま、今はお疲れだ。二年分の土産話でも聞かせてくれ。」
嵩原は友人達と共に光の向こうに消えていく。
(...もう。大丈夫だ。)
熱を失った自分の前で泣く三人を見ながら嵩原は思った。
(君達は僕がいなくても歩いていける。もし困っても頼れる友や、大人もいる。)
嵩原は三人から目の前の光放つ扉へと目をやる。
(これから先の人生、どんなに困難な道のりだとしても、君達なら楽しく、張り切って強く前に進んでいける。だから、君達の行く末を見れないのは...残念かな。)
そして嵩原は光の中へと消えていった。
「おいおい。またまた新しいおべべか?衣裳持ちなのは結構だがな。」
トゥバンは薙刀を振り上げると龍香へと向かっていく。
「そいつは俺を倒せるのか!?」
トゥバンは薙刀を龍香に振り下ろす。だが龍香は振り下ろされた薙刀を左手で掴んで受け止める。
「なっ」
トゥバンが薙刀を押したり引いたりするが薙刀はビクとも動かない。トゥバンが薙刀を取り返そうとしていると龍香は剣を握った拳でトゥバンを思い切り殴り飛ばす。拳が顔面にめり込み、ヒビが入る。
「ごっ....!?」
「...これは二年前に貴方に傷つけられた“新月”の人達の分。」
強烈な痛打にトゥバンは一瞬混乱する。だが龍香は堂々と歩いてトゥバンとの距離を詰めると大剣“タイラント・ブレイド”で何度もトゥバンを斬りつける。
その太刀筋はトゥバンでも見切れなかった。
「がっ」
「これは雪花ちゃんと黒鳥さんの分!」
「お、俺が押されている...だと!」
トゥバンが薙刀で再び斬りかかるが、龍香はそれを受け止め、またもや返す刀で斬りつける。
「これはかおりの分!」
そして龍香は怯んだトゥバンを思い切り蹴り飛ばした。
圧倒的な力を見せる龍香に黒鳥と雪花はポカンとする。
「圧倒してる...」
「なんて力なの...」
地面に倒れるトゥバンはドンと地面を殴り付ける。
「何故だ...!?これ程の短期間で何故これほどの力を!」
《教えてやるよ。トゥバン。》
カノープスが答える。
《この剣は俺の本来の力が込められていた。コイツを扱うためには七つの力が必要だが、あの時龍賢は達していなかった領域に龍香は既に達していた。だがらこの力が使えた...それにこの力は俺達だけの力じゃねぇ。》
「かおり、藤正君、雪花ちゃん、黒鳥さん!“新月”の皆!沢山の人達からの想いが託された力なの!それが楽しむためだけに戦う貴方に負けるハズがない!!」
「ぐっ...くっ、クハハハハハハハ!面白ェ!ホントに敵わねぇか確めてみろ!」
トゥバンは笑いながら龍香に斬りかかる。だが、龍香は薙刀が振るわれるより先に懐に潜り込むとトゥバンの顔面をまた殴り飛ばす。
「ぐおぉ!?」
「...これはお兄ちゃんの分!」
トゥバンは殴られながらも笑いを絶やさない。
「く、ハハハハハ。ハハハハハハ!初めてだ!ここまで追い込まれたのは!」
トゥバンは立ち上がると薙刀を構え、力を込める。すると凄まじいオーラが漂い、空気が震え始める。
「我が生涯最強の好敵手よ!この俺の最強の一撃を手向けと受け取れ!!」
「アイツまだこんな力を!」
トゥバンは叫ぶと龍香に向けて薙刀を振るう。振るわれた薙刀から放たれた龍の形をした斬撃が地面を裂きながら龍香へと向かっていく。
「龍香!!」
雪花が叫ぶ。龍香は向かってくる斬撃に対し、真っ向から見据えて“タイラント・ブレイド”を構える。
「これが私達の想いの力!」
龍香も力を込め、そして向かってくる斬撃に向けて一閃。
「ブレイジング!バスタァァァァァド!」
振るわれた一閃は斬撃を裂き、そしてその先にいるトゥバンをも切り裂いた。
紫色の鮮血が宙を舞う。トゥバンは切り裂かれながらも笑みを浮かべる。
「ハハッ。ハハハハハ。ハハハハハハハハッ!!」
トゥバンを走馬灯が駆け巡る。二年前の激闘、プロウフとの、他のシードゥスとのやり取り、“新月”残党との死闘、そして。
『貴方のことが好きだから、と言ったら?』
記憶の中で尋ねる彼女にトゥバンは独りごちた。
(...アンタレス。悪いが俺はお前の想いにゃ応えられねーよ。)
トゥバンが倒れる。そして同時に爆発。爆音が響き、そして黒煙が上がる。
皆最初は呆然としていたが、徐々に状況を読み込んできた全員が歓声を上げる。
「や、やった。」
『勝っ、勝った!勝ったノネ!』
『や、やりましたよ山形さん!』
『えぇ!』
宿敵を倒した龍香は剣を突き刺してへにゃりと脱力する。
「か、勝った....」
《あぁ。龍香。お前の勝ちだ。》
「ま、今日は素直に認めてあげる。やったわね。」
「よくやったぞ。龍香ちゃん。」
「雪花ちゃん、黒鳥さん。」
雪花と黒鳥も龍香に駆け寄って称賛の言葉をかけてくれる。
「にしてもこれ重いのよね。よっと。」
「雪花もよくやってくれたな。お前がいなかったら多分死んでたぞ、俺。」
「ま、トーゼンね。龍香がいなくても私一人で仕留められたし?」
「素直じゃないな...」
三人が談笑している時だった。ザッ、と後ろから足音が聞こえた。
「誰だ!」
黒鳥が叫ぶと、木の陰から一人の男性が現れる。それは血塗れの嵩原だった。
「やぁ、皆...どうやら勝ったみたいだね。」
「ッ」
「嵩原さん!!」
「山形!火元呼んで!嵩原が...嵩原が!」
絶句する三人の前で、嵩原は倒れ込む。嵩原は死の間際だと言うのに黒鳥に微笑みかける。
「どうだい...生きて、帰ってきたろ?」
「嵩原さん...!」
嵩原は震える手で握りしめていた血で真っ赤に染まったUSBを黒鳥に託す。
「これが...会社の情報だ。多分、失脚させるには充分なハズ...だ。」
黒鳥や、雪花は目に涙を浮かべる。素人の龍香から見てもこの出血量は助からない。
「嵩原さん、なんで...」
「ゲホッゲホッ...そう。最期に謝っておきたくてね。」
嵩原は血反吐を吐き、弱々しく唸りながら目線を三人に向ける。
「黒鳥君。君には辛い判断をさせてしまったね...本当に申し訳ない。」
「嵩原さん...俺、嵩原さんがいないと...」
「もう...大丈夫だ。君は僕がいなくてもチームを引っ張っていける...何も心配もなく君に託せるよ。」
黒鳥にそう謂うと今度は雪花に向く。
「藍君...君にはお姉さんのことや、学校を勧めておいて最期まで君のことを見れないこと...ホントに申し訳なく思う。」
「バカ!嵩原が学校勧めてくれたから、私初めて友達が出来たのに...!それに、申し訳なく思ってるなら生きなさいよ...!」
「ふふ...」
そして、嵩原は最後に龍香を見据える。
「先生...」
「龍香君...君には謝ることが沢山ある。お母さんとの約束、龍賢君のこと、君の痛みに寄り添ってやれなかったこと。君にはホントに何もしてやれなかった...」
「そんな事ないです!先生や友達がいたから学校にも行けたし、折れなくていられたんです、だから...」
「...龍香君、あと申し訳ないが雨宮先生に伝えておいてくれ。コンサートの約束、守れなくて申し訳ない...と。」
嵩原は血塗れのチケットを龍香に渡し、そこまで言って空を見つめる。満月が嵩原を照らす。
「あぁ...あと、山形さんにも...ふふっ、謝ることが多過ぎて...まだまだ...死ね...な」
嵩原の視界が暗転する。何もない。真っ白な空間。そこには沢山の友人がいた。そして、目の前に雪花亜美と青い光を称える異形の生命体がいた。
「嵩原さん。もう良いんです?」
「...あぁ。正直まだ、喋りたいけど。」
異形の生命体が話し掛けてくる。
「まさかもうこっちに来るとはね。」
「...サダルメリク。君の瞳を受け取っていながら済まない。君の瞳は彼女に託すよ。」
生命体...サダルメリクはフフッと笑う。
「ま、今はお疲れだ。二年分の土産話でも聞かせてくれ。」
嵩原は友人達と共に光の向こうに消えていく。
(...もう。大丈夫だ。)
熱を失った自分の前で泣く三人を見ながら嵩原は思った。
(君達は僕がいなくても歩いていける。もし困っても頼れる友や、大人もいる。)
嵩原は三人から目の前の光放つ扉へと目をやる。
(これから先の人生、どんなに困難な道のりだとしても、君達なら楽しく、張り切って強く前に進んでいける。だから、君達の行く末を見れないのは...残念かな。)
そして嵩原は光の中へと消えていった。
To be continued....