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更新日:2024/04/20 Sat 17:40:42
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セブンスカラー
セブンスカラー
薄暗い劇場のシアターの前に一人の年配の男性と二人の子供が座って流れる物語を観ていた。
物語は一人の英雄が人々の願いを受け、邪悪な龍を討ち滅ぼすといった話だ。
その物語は二人の子供の心を捉え、その瞳を輝かせる。そして龍を倒した主人公が姫と手を取り合って物語は終わる。
「父上!スゴイ面白かった!」
子供の内、年下の弟であろう男の子の方が目を輝かせながら言う。もう片方の年上の兄も口にこそ出さないが、だいぶ気に入ったらしく頬を紅く、上気させている。
「そうか、楽しめたか。」
男性、父は二人に微笑みかける。そして父はエンディングが流れる映像に視線を映すと。
「この物語の主人公だが…龍を倒した後も、数々の人の願いの為に冒険を続ける。時に傷つき、投げ出しそうになりながらも、彼は人々の願いにその身を捧げた。そんな辛くて苦しい旅路を主人公が続けたのは何故だと思う?」
父のその問いかけに、弟は首を傾げる。
「えー?なんで?」
「……それは主人公にしか出来ないから、ですか?」
兄の解答に父はうむと頷く。
「そうだ。人には役割がある。そして、我々緋威家には人々を守り、導く役割がある。」
父は二人の肩に手を置く。
「騎真、騎助。我々の役割をゆめゆめ忘れるな。どれ程辛く、困難な道のりで、例え思い通りの結末にならなかったとしても。それは必ずお前達の誇りになるハズだ。」
そう言う父の言葉は、弟の騎助は首を傾げていたが、騎真の胸に深く刻まれたのだった。
物語は一人の英雄が人々の願いを受け、邪悪な龍を討ち滅ぼすといった話だ。
その物語は二人の子供の心を捉え、その瞳を輝かせる。そして龍を倒した主人公が姫と手を取り合って物語は終わる。
「父上!スゴイ面白かった!」
子供の内、年下の弟であろう男の子の方が目を輝かせながら言う。もう片方の年上の兄も口にこそ出さないが、だいぶ気に入ったらしく頬を紅く、上気させている。
「そうか、楽しめたか。」
男性、父は二人に微笑みかける。そして父はエンディングが流れる映像に視線を映すと。
「この物語の主人公だが…龍を倒した後も、数々の人の願いの為に冒険を続ける。時に傷つき、投げ出しそうになりながらも、彼は人々の願いにその身を捧げた。そんな辛くて苦しい旅路を主人公が続けたのは何故だと思う?」
父のその問いかけに、弟は首を傾げる。
「えー?なんで?」
「……それは主人公にしか出来ないから、ですか?」
兄の解答に父はうむと頷く。
「そうだ。人には役割がある。そして、我々緋威家には人々を守り、導く役割がある。」
父は二人の肩に手を置く。
「騎真、騎助。我々の役割をゆめゆめ忘れるな。どれ程辛く、困難な道のりで、例え思い通りの結末にならなかったとしても。それは必ずお前達の誇りになるハズだ。」
そう言う父の言葉は、弟の騎助は首を傾げていたが、騎真の胸に深く刻まれたのだった。
様々な機器やモニターが並ぶ白く清潔な部屋の中に騎真に連れられるようにして月乃助が入る。
騎真は部屋の中に入ると、低く頭を下げる。
「さて、乱暴な招待になってしまって申し訳ない。心から謝罪させていただく。」
「あー、いい、いい。そういう上っ面だけの言葉。さっさと用件を言いたまえよ。」
月乃助はそう言いながら部屋をぐるりと見渡す。
「って言うか君、なんで私を拐うなんてリスクのある行為をしたんだい。技術提供が目的かい?」
「ええ。」
「なら、理解に苦しむな。君、私に及ばないにしても、結構な技術畑の人間だったと記憶しているが。」
「早急に、貴女の技術力が必要になる事情がありましてね。」
「へぇ。存外緋威家の経営が苦しいのかい?」
月乃助が茶化すように言うと、騎真は決意を固めたまっすぐな瞳で月乃助を見据えながら言う。
「いいえ。“世界を救うため”ですよ。」
騎真は部屋の中に入ると、低く頭を下げる。
「さて、乱暴な招待になってしまって申し訳ない。心から謝罪させていただく。」
「あー、いい、いい。そういう上っ面だけの言葉。さっさと用件を言いたまえよ。」
月乃助はそう言いながら部屋をぐるりと見渡す。
「って言うか君、なんで私を拐うなんてリスクのある行為をしたんだい。技術提供が目的かい?」
「ええ。」
「なら、理解に苦しむな。君、私に及ばないにしても、結構な技術畑の人間だったと記憶しているが。」
「早急に、貴女の技術力が必要になる事情がありましてね。」
「へぇ。存外緋威家の経営が苦しいのかい?」
月乃助が茶化すように言うと、騎真は決意を固めたまっすぐな瞳で月乃助を見据えながら言う。
「いいえ。“世界を救うため”ですよ。」
「──報告は以上です。」
机に座る貝塚、塩田、氷室に気をつけの姿勢をしたまま、“灰被姫”が報告する。
「成る程、緋威が結衣月乃助とその妹を拉致した…と。」
報告を聞くと、貝塚ははぁ、やれやれと頬杖をつく。
「勝手に動かれるのは困るが…まぁ、他に目撃者がいないのなら、ひとまずはいい。それはそれとして真意は後程聞かなくてはならんな。」
「まぁ結衣のアホが良いようにやられたのは正直気分が良いが…それよりも気になるのは君が交戦したコイツだ。」
氷室が“灰被姫”が記録した映像を興味深そうに見つめる。そこには“灰被姫”の攻撃の悉くを耐えて前身してきる赤い龍人が映っていた。
「見たことない装甲だ。見る限りまるで生物のような質感、爆発を受けてもビクともしない耐久性……正直見たことが無い。」
「えぇ。私もこのようなスーツは見た事ありません。」
二人があーでもないこーでもないと議論しているとふと、塩田が呟く。
「……来ていたのか。」
「?何か言ったかね?」
「いいえ。特に。」
「そっけないなぁ……」
貝塚に塩田がそっけなく答える。そんな彼女のいつもと変わり無い態度に少しぶつくさ文句言いつつも、貝塚は立ち上がる。
「おや、どちらへ?」
氷室が尋ねると、貝塚は上着を着込みながら答える。
「緋威君達のとこだよ。事情を聞かにゃならん。」
「通話すればいいでしょうに。」
「こちらの連絡に応答せんのだよ。全く。最近の若い奴は年寄りを軽視していかん。」
「おや。なら私達も行きましょうか。“黄金の騎士”の戦闘データも欲しいですし。」
そう言って氷室が立ち上がる。塩田が立ち上がった貝塚にコートをかける。
「では、私も準備をさせていただきます。」
「いや、塩田君は残ってくれ。氷室君も来るのだ。事務仕事を片付けておいてくれたまえ。」
「承知致しました。」
貝塚の言葉に塩田はぺこりと頭を下げる。
──その時、扉へと振り向いた貝塚は気づかなかった。頭を下げた彼女の口角が吊り上がっていたことを。
机に座る貝塚、塩田、氷室に気をつけの姿勢をしたまま、“灰被姫”が報告する。
「成る程、緋威が結衣月乃助とその妹を拉致した…と。」
報告を聞くと、貝塚ははぁ、やれやれと頬杖をつく。
「勝手に動かれるのは困るが…まぁ、他に目撃者がいないのなら、ひとまずはいい。それはそれとして真意は後程聞かなくてはならんな。」
「まぁ結衣のアホが良いようにやられたのは正直気分が良いが…それよりも気になるのは君が交戦したコイツだ。」
氷室が“灰被姫”が記録した映像を興味深そうに見つめる。そこには“灰被姫”の攻撃の悉くを耐えて前身してきる赤い龍人が映っていた。
「見たことない装甲だ。見る限りまるで生物のような質感、爆発を受けてもビクともしない耐久性……正直見たことが無い。」
「えぇ。私もこのようなスーツは見た事ありません。」
二人があーでもないこーでもないと議論しているとふと、塩田が呟く。
「……来ていたのか。」
「?何か言ったかね?」
「いいえ。特に。」
「そっけないなぁ……」
貝塚に塩田がそっけなく答える。そんな彼女のいつもと変わり無い態度に少しぶつくさ文句言いつつも、貝塚は立ち上がる。
「おや、どちらへ?」
氷室が尋ねると、貝塚は上着を着込みながら答える。
「緋威君達のとこだよ。事情を聞かにゃならん。」
「通話すればいいでしょうに。」
「こちらの連絡に応答せんのだよ。全く。最近の若い奴は年寄りを軽視していかん。」
「おや。なら私達も行きましょうか。“黄金の騎士”の戦闘データも欲しいですし。」
そう言って氷室が立ち上がる。塩田が立ち上がった貝塚にコートをかける。
「では、私も準備をさせていただきます。」
「いや、塩田君は残ってくれ。氷室君も来るのだ。事務仕事を片付けておいてくれたまえ。」
「承知致しました。」
貝塚の言葉に塩田はぺこりと頭を下げる。
──その時、扉へと振り向いた貝塚は気づかなかった。頭を下げた彼女の口角が吊り上がっていたことを。
「ここが奴らのアジトか。」
月乃助が残した機械の鳥のナビゲートの元、龍賢と龍斗の二人はとあるビルの前に到着する。
「ここに深春さん達が…!」
龍斗が血気盛んに走り出そうとするが、それを龍賢が止める。
「待て。お前の話だと、俺達と張り合える位の敵がいるのだろう。それに、正面から乗り込んだら彼女達を人質にされるのが目に見えてしまう。ここは、彼女達の救出を最優先にしたい。」
龍賢に諌められ、龍斗は走り出すのを止める。
「しかし、救出って言ったってどうすれば」
「そうだな……裏口から入るか……」
龍賢の目線の先に外回りだろうか、ビルから出てくる制服姿の二人組の男性に視線を流す。それを龍斗も龍賢の意図を察する。
「ふむ、ちょうどいい。」
「あぁ、やっちまうか。」
月乃助が残した機械の鳥のナビゲートの元、龍賢と龍斗の二人はとあるビルの前に到着する。
「ここに深春さん達が…!」
龍斗が血気盛んに走り出そうとするが、それを龍賢が止める。
「待て。お前の話だと、俺達と張り合える位の敵がいるのだろう。それに、正面から乗り込んだら彼女達を人質にされるのが目に見えてしまう。ここは、彼女達の救出を最優先にしたい。」
龍賢に諌められ、龍斗は走り出すのを止める。
「しかし、救出って言ったってどうすれば」
「そうだな……裏口から入るか……」
龍賢の目線の先に外回りだろうか、ビルから出てくる制服姿の二人組の男性に視線を流す。それを龍斗も龍賢の意図を察する。
「ふむ、ちょうどいい。」
「あぁ、やっちまうか。」
「ふむ。やはり全ての出入り口にセキュリティが仕掛けてある、か。」
「なぁ、龍賢。おかしくないか?」
「大丈夫だ。俺とお前一応社長経験済みだからな。ある程度は溶け込めるだろ。」
「その話はやめてくれ、死にたくなる。」
あの後男達を張り倒して気絶させ、制服を頂戴した二人はそれに着替えると、彼らの社員証兼カードキーを使用して、ビル内へと潜入する。
「取り敢えず、ビルの見取り図だな。」
二人はビルの案内図のようなものを見つけるとパシャリと写真を取る。その案内図によると、ビルは八階立てであり、地下二階と、かなり大きなものであることが分かる。
「結構デカいな。俺の親父の会社よりデカいんじゃないか。」
「そうだな…しかし、時間が惜しい。少々危険だが、手分けして探そう。」
「分かった。じゃあ俺は屋上から、お前は地下からだ。」
「あぁ。見つけたら連絡をくれ。気をつけてな。」
「おう、お前もな!」
そう言うと二人は二手に分かれて行動を開始するのだった。
「なぁ、龍賢。おかしくないか?」
「大丈夫だ。俺とお前一応社長経験済みだからな。ある程度は溶け込めるだろ。」
「その話はやめてくれ、死にたくなる。」
あの後男達を張り倒して気絶させ、制服を頂戴した二人はそれに着替えると、彼らの社員証兼カードキーを使用して、ビル内へと潜入する。
「取り敢えず、ビルの見取り図だな。」
二人はビルの案内図のようなものを見つけるとパシャリと写真を取る。その案内図によると、ビルは八階立てであり、地下二階と、かなり大きなものであることが分かる。
「結構デカいな。俺の親父の会社よりデカいんじゃないか。」
「そうだな…しかし、時間が惜しい。少々危険だが、手分けして探そう。」
「分かった。じゃあ俺は屋上から、お前は地下からだ。」
「あぁ。見つけたら連絡をくれ。気をつけてな。」
「おう、お前もな!」
そう言うと二人は二手に分かれて行動を開始するのだった。
「さて、しばらくはここが君の部屋だ。ちょいと不自由をかけるけど、そこの電話で食事とか、ルームサービスのリクエストがあれば出来る限り対応するから、まぁ、楽にしてくれ。」
大きな来客の用の部屋に通された深春に、騎助が朗らかに話しかける。しかし、警戒して眉間に皺を寄せる彼女に騎助はフッと笑うと。
「ま、ボクがいちゃあ、リラックス出来ないか。」
そう言って彼は部屋を後にしようとする。その時。
「あの…!」
「?どうしたんだい?」
深春に呼び止められ、騎助が立ち止まって振り返る。深春は彼の顔を真っ直ぐ見つめながら尋ねる。
「どうして、姉さんを、私達姉妹を攫ったんですか。身代金目当てですか。」
彼女の問いに、一瞬彼は虚を突かれたように目を見開く。しかし、すぐに笑みを浮かべてると。
「いや、身代金目当てではないよ。急務で君のお姉さんの技術力がどうしてもすぐ欲しくてね。君達姉妹には悪いけど、強引な手を打たせてもらった。」
「……こんな手を使わなければならない程ですか?」
「あぁ。“世界を救うため”にね。」
騎助の答えに今度は深春が虚を突かれる。
「世界を……救う?」
「あぁ。今、世界は危機に直面している。今はまだ表面化していないけど、放っておけば確実に世界を蝕み、大きな犠牲が生まれる危機にね。」
騎助の表情は笑っているが、その目は真剣そのもので、嘘をついているようには深春には思えなかった。
「そんな、なら尚更ちゃんと姉さんに伝えれば……」
「僕達もそれが出来れば一番だったんたけどね。…この荒唐無稽な話は理解してもらう時間すら無いんだ。」
騎助は彼女の目を真っ直ぐ見返して言う。
「“宇宙から飛来した未確認生物”によって地球が危機に瀕している、なんて信じられないだろう?」
大きな来客の用の部屋に通された深春に、騎助が朗らかに話しかける。しかし、警戒して眉間に皺を寄せる彼女に騎助はフッと笑うと。
「ま、ボクがいちゃあ、リラックス出来ないか。」
そう言って彼は部屋を後にしようとする。その時。
「あの…!」
「?どうしたんだい?」
深春に呼び止められ、騎助が立ち止まって振り返る。深春は彼の顔を真っ直ぐ見つめながら尋ねる。
「どうして、姉さんを、私達姉妹を攫ったんですか。身代金目当てですか。」
彼女の問いに、一瞬彼は虚を突かれたように目を見開く。しかし、すぐに笑みを浮かべてると。
「いや、身代金目当てではないよ。急務で君のお姉さんの技術力がどうしてもすぐ欲しくてね。君達姉妹には悪いけど、強引な手を打たせてもらった。」
「……こんな手を使わなければならない程ですか?」
「あぁ。“世界を救うため”にね。」
騎助の答えに今度は深春が虚を突かれる。
「世界を……救う?」
「あぁ。今、世界は危機に直面している。今はまだ表面化していないけど、放っておけば確実に世界を蝕み、大きな犠牲が生まれる危機にね。」
騎助の表情は笑っているが、その目は真剣そのもので、嘘をついているようには深春には思えなかった。
「そんな、なら尚更ちゃんと姉さんに伝えれば……」
「僕達もそれが出来れば一番だったんたけどね。…この荒唐無稽な話は理解してもらう時間すら無いんだ。」
騎助は彼女の目を真っ直ぐ見返して言う。
「“宇宙から飛来した未確認生物”によって地球が危機に瀕している、なんて信じられないだろう?」
コツコツと音を立て、見張りの兵士が薄暗い廊下を歩いていた。ふあぁっ、と欠伸を噛み殺しながらいつもの巡回ルートを歩いていたその時、ふと視界の隅に一人の女性の姿が入る。
それは自分達の雇い主である貝塚の秘書である女性、塩田の姿だった。彼女は特に周りを気にするでもなく、ごく自然に研究室に入っていく。
「?」
普段なら無視するところだが、普段貝塚と共にいる彼女が一人で重要な研究サンプルがある研究室に入ったのが無性に気になった。
技術職でもない彼女が研究室に何のようだろうか。気になった彼は彼女の後をコッソリつけ、研究室の中を扉の隙間から覗く。
彼女は研究室の中に入ると、例の隕石が保管されているケージの前に立つ。
するとシュルと衣が擦れる音を立てながら、服を脱ぎ始める。
突然の行動に男が驚く中、塩田は愛おしそうに隕石を眺めながらそのケージに触れる。
次の瞬間、ピシッと亀裂が入ったと同時にケージがバラバラに音を立てて砕ける。そして、一方の隕石は重力に従って落ちることも無く、むしろ逆らってフワフワと浮遊している。
彼女がその隕石に向けて手を伸ばす。すると、隕石はおどろおどろしい影の触手となって彼女に伸びる。その触手は段々と彼女を覆い隠すように包み込む。
彼女が触手によって完全に見えなくなると、触手は不気味に胎動する。
そして一際強く蠢いたかと思うと触手が弾け飛び、中から黒衣のドレスに身を包んだ彼女が現れる。
「ふふっ。ふふふふ。ようやく我が元へ。」
彼女は目を閉じ、全身で興奮を噛み締め、実感するように身を震わせる。
そして近くにある“尾白の心臓”の入った容器に手を翳すと、黒い靄を漂わせる輪が出現し、そこから伸びた触手が容器を破壊し、心臓をそこから取り出して彼女の元へと運ぶ。
彼女は満足そうにそれを手に取ると、口を開けてそれを丸呑みにする。ゴクリ、と音を鳴らして彼女がそれを飲み込むと、ぶるると身震いをして、恍惚の表情を浮かべる。
「あぁ。染み渡る……!分たれた“我ら”が今一つに…!」
彼女がそう悦びの声を上げると、彼女の周りを黒い靄のような影が纏わりつき、異様な雰囲気を放つ。
あまりにも異様かつ見るものの恐怖を掻き立てる踊り狂う影に男はうすら寒いものを感じ、逃げ出そうとする。
しかし、逃げ出そうとする直前、彼女と目が合ってしまう。海の深淵のように暗く深く、得体の知れない色に染まった彼女の瞳を見た彼の本能が警鐘を鳴らす。
“今すぐここから逃げなくてはならない”と。
彼は駆け出そうと振り返る。だが、足元がほんの一瞬。黒ずんだと思った次の瞬間。
それは一瞬にして広がって穴となると、そこから伸びた触手が彼を絡め取り、悲鳴を上げる時間もなく、穴へと呑み込む。
それを見て、塩田は身震いしながら、笑みを浮かべるのだった。
それは自分達の雇い主である貝塚の秘書である女性、塩田の姿だった。彼女は特に周りを気にするでもなく、ごく自然に研究室に入っていく。
「?」
普段なら無視するところだが、普段貝塚と共にいる彼女が一人で重要な研究サンプルがある研究室に入ったのが無性に気になった。
技術職でもない彼女が研究室に何のようだろうか。気になった彼は彼女の後をコッソリつけ、研究室の中を扉の隙間から覗く。
彼女は研究室の中に入ると、例の隕石が保管されているケージの前に立つ。
するとシュルと衣が擦れる音を立てながら、服を脱ぎ始める。
突然の行動に男が驚く中、塩田は愛おしそうに隕石を眺めながらそのケージに触れる。
次の瞬間、ピシッと亀裂が入ったと同時にケージがバラバラに音を立てて砕ける。そして、一方の隕石は重力に従って落ちることも無く、むしろ逆らってフワフワと浮遊している。
彼女がその隕石に向けて手を伸ばす。すると、隕石はおどろおどろしい影の触手となって彼女に伸びる。その触手は段々と彼女を覆い隠すように包み込む。
彼女が触手によって完全に見えなくなると、触手は不気味に胎動する。
そして一際強く蠢いたかと思うと触手が弾け飛び、中から黒衣のドレスに身を包んだ彼女が現れる。
「ふふっ。ふふふふ。ようやく我が元へ。」
彼女は目を閉じ、全身で興奮を噛み締め、実感するように身を震わせる。
そして近くにある“尾白の心臓”の入った容器に手を翳すと、黒い靄を漂わせる輪が出現し、そこから伸びた触手が容器を破壊し、心臓をそこから取り出して彼女の元へと運ぶ。
彼女は満足そうにそれを手に取ると、口を開けてそれを丸呑みにする。ゴクリ、と音を鳴らして彼女がそれを飲み込むと、ぶるると身震いをして、恍惚の表情を浮かべる。
「あぁ。染み渡る……!分たれた“我ら”が今一つに…!」
彼女がそう悦びの声を上げると、彼女の周りを黒い靄のような影が纏わりつき、異様な雰囲気を放つ。
あまりにも異様かつ見るものの恐怖を掻き立てる踊り狂う影に男はうすら寒いものを感じ、逃げ出そうとする。
しかし、逃げ出そうとする直前、彼女と目が合ってしまう。海の深淵のように暗く深く、得体の知れない色に染まった彼女の瞳を見た彼の本能が警鐘を鳴らす。
“今すぐここから逃げなくてはならない”と。
彼は駆け出そうと振り返る。だが、足元がほんの一瞬。黒ずんだと思った次の瞬間。
それは一瞬にして広がって穴となると、そこから伸びた触手が彼を絡め取り、悲鳴を上げる時間もなく、穴へと呑み込む。
それを見て、塩田は身震いしながら、笑みを浮かべるのだった。
上階に登り、すれ違う人々を適当にやり過ごしながら、龍斗は深春達を探し回る。
「…って、結構デケェなここ…。虱潰しだと埒があかねぇぞ。」
龍斗がそうボヤきながら、散策を続けていると、ふと向こうから二人組の黒スーツの男達が近づいて来るのが見える。
それに気づいた龍斗はスッと物陰に隠れてやり過ごそうとする。どうやら相手方二人は龍斗に気づいてなかったようで談笑しながら、通り過ぎようとする。
その時ふと、龍斗の耳に二人の談笑している内容が耳に入る。
「そうだ、そう言えばあの社長の弟が連れて来た女の子見たか。」
「えっ。何ですかそれ。」
「たまたま見ちまったんだけどよ。社長の弟が長いブロンド髪の女の子をよ、ここの会社に連れ込んでいるのをたまたま見ちまったんだよ。」
「えっ!そうなんですか?」
「おう。しかも結構な童顔でさ。可愛い子だったぜ。」
「でも、女の子なら彼、三人の秘書が着いているじゃないですか。」
「本命がその子なんじゃないか?ま、英雄色を好むってよく言──」
片方の男がそこまで言いかけた次の瞬間。ガシッと。背後から突然現れた腕が二人の首に手を回される。
「なんだいきな──」
いきなり腕を回してきた人物に文句を言おうと振り返った瞬間、社員の顔が強張る。
何故ならそこにいたのは──傷だらけでかなり強面の魚人に変身した龍斗がいたからだ。
「その子……どこにいる?」
「…って、結構デケェなここ…。虱潰しだと埒があかねぇぞ。」
龍斗がそうボヤきながら、散策を続けていると、ふと向こうから二人組の黒スーツの男達が近づいて来るのが見える。
それに気づいた龍斗はスッと物陰に隠れてやり過ごそうとする。どうやら相手方二人は龍斗に気づいてなかったようで談笑しながら、通り過ぎようとする。
その時ふと、龍斗の耳に二人の談笑している内容が耳に入る。
「そうだ、そう言えばあの社長の弟が連れて来た女の子見たか。」
「えっ。何ですかそれ。」
「たまたま見ちまったんだけどよ。社長の弟が長いブロンド髪の女の子をよ、ここの会社に連れ込んでいるのをたまたま見ちまったんだよ。」
「えっ!そうなんですか?」
「おう。しかも結構な童顔でさ。可愛い子だったぜ。」
「でも、女の子なら彼、三人の秘書が着いているじゃないですか。」
「本命がその子なんじゃないか?ま、英雄色を好むってよく言──」
片方の男がそこまで言いかけた次の瞬間。ガシッと。背後から突然現れた腕が二人の首に手を回される。
「なんだいきな──」
いきなり腕を回してきた人物に文句を言おうと振り返った瞬間、社員の顔が強張る。
何故ならそこにいたのは──傷だらけでかなり強面の魚人に変身した龍斗がいたからだ。
「その子……どこにいる?」
部屋の中で一人、ベッドに深春は座り、俯いていた。騎助はあの後、そう意味深に言い残すとこれ以上は言えない、と答えて去って行った。
姉は自分のせいで捕まった。何とかしたいが、ただの少女である自分に何が出来るか──そんな風に堂々めぐりの考えに彼女が陥っていたその時。
コンコン、と部屋のドアをノックされる。
『ルームサービスです。開錠願えますでしょうか。』
若い男の声がする。それを聞いた深春は小首を傾げる。自分はルームサービスなど頼んだ覚えはない。だが、反応しない訳にもいかない。
はーい、と返事をして、深春は立ち上がり、ガチャリとドアを開ける。
そしてそこに立っていた人物を見て、深春は驚いて目を丸くする。
「助けに来たよ。深春さん。」
深春を見ながら龍斗はニコリと笑顔を見せる。
「…龍斗君!?なんでここに…どうやって……」
「君のお姉さんの置き土産を辿ってね。もう居ても立っても居られ──」
龍斗が言い切る前に深春は龍斗に抱きつく。彼女の柔らかい感触と甘い香りが彼の脳みそを激しく揺さぶり、心臓を跳ね上げさせる。
「み、深春さ──、そんな、大胆な……」
顔を真っ赤にしながら龍斗は彼女を見下ろし、そして気づく。
自身の胸の中で震えて、涙を流す彼女に。
「う、うぅ……ごめんね、私、怖くて……龍斗君の顔を見たら安心して…」
「深春さん……」
そう、深春はただの女の子だ。戦いなんて血生臭い世界から離れている彼女にこの現状がどれほど異常で恐怖のものだったかは計り知れない。
龍香達を見ていたのもあって、こんなことすら失念していた自分に怒りすら覚える。
一刻も早く、彼女を元の日常に戻さなくては。
「そうだよな。怖くて、当然だよな。」
泣く彼女を安心させるよう、ぎゅっと抱きしめながら、彼は囁く。
「帰ろう深春さん。君はこんな事に関わるべきじゃない。」
「龍斗君……」
龍斗が深春の手を引き、その場から離れようとしたその時。
「おーとっと。そうは問屋が下ろさないってね。」
彼らの前に騎助と、武装した三人が立ちはだかる。
「お前は……!」
「君は確か、そこの彼女とデートをしてた……彼氏君だったかな?ここをどうやって突き止めたかは知らないけど…これ以上は関わらない方がいいよ。僕もイタズラに一般人に怪我させたくないし。」
龍斗は彼らから深春を隠すように前に出て、言う。
「お前らが何を企んでいるか知ったこっちゃないがな。けど、一つ分かることはある。」
龍斗は真っ直ぐ彼らを見据える。
「お前らのせいで深春さんは泣いてる。俺は彼女を泣かせる奴は絶対に許さない。」
「龍斗君…」
「ふふふっ。この状況で啖呵を切れる度胸は認めるけどね。」
騎助達が一歩前に出る。逃げ場のない一直線の廊下。流石に“人間の姿”のまま彼女とここを逃げ出すのは不可能だ。
ならば。
「深春さん。少し離れていて。」
「え?はいっ」
龍斗は彼女が距離を取ったのを確認すると、四人に向き直り構える。そして彼の姿が水面のように揺らいだかと思った次の瞬間には、怪物に変身した龍斗の姿があった。
「なにっ」
「ふんっ!」
そして突然龍斗が怪物に変化したことに驚く騎助達に龍斗は容赦なく杖を振るい、そこから水の散弾を発射する。
「騎助様!」
だが、すぐさま武装している三人が反応し、身を挺して彼を守る。
攻撃は彼女達に止められ、騎助には届かない。
「ちっ。」
「……成る程。君があの時の怪物の正体か…」
騎助はそう言うと、リストバンドのように腕についている機械のスイッチを入れ、黄金の鎧を身に纏う。
「また、僕達が華麗に退治してあげよう。」
「リベンジマッチだ。前の俺とは違うとこを見せてやる。」
そして互いに駆け出す。次の瞬間振り上げられた剣と杖が激しくぶつかり合った。
姉は自分のせいで捕まった。何とかしたいが、ただの少女である自分に何が出来るか──そんな風に堂々めぐりの考えに彼女が陥っていたその時。
コンコン、と部屋のドアをノックされる。
『ルームサービスです。開錠願えますでしょうか。』
若い男の声がする。それを聞いた深春は小首を傾げる。自分はルームサービスなど頼んだ覚えはない。だが、反応しない訳にもいかない。
はーい、と返事をして、深春は立ち上がり、ガチャリとドアを開ける。
そしてそこに立っていた人物を見て、深春は驚いて目を丸くする。
「助けに来たよ。深春さん。」
深春を見ながら龍斗はニコリと笑顔を見せる。
「…龍斗君!?なんでここに…どうやって……」
「君のお姉さんの置き土産を辿ってね。もう居ても立っても居られ──」
龍斗が言い切る前に深春は龍斗に抱きつく。彼女の柔らかい感触と甘い香りが彼の脳みそを激しく揺さぶり、心臓を跳ね上げさせる。
「み、深春さ──、そんな、大胆な……」
顔を真っ赤にしながら龍斗は彼女を見下ろし、そして気づく。
自身の胸の中で震えて、涙を流す彼女に。
「う、うぅ……ごめんね、私、怖くて……龍斗君の顔を見たら安心して…」
「深春さん……」
そう、深春はただの女の子だ。戦いなんて血生臭い世界から離れている彼女にこの現状がどれほど異常で恐怖のものだったかは計り知れない。
龍香達を見ていたのもあって、こんなことすら失念していた自分に怒りすら覚える。
一刻も早く、彼女を元の日常に戻さなくては。
「そうだよな。怖くて、当然だよな。」
泣く彼女を安心させるよう、ぎゅっと抱きしめながら、彼は囁く。
「帰ろう深春さん。君はこんな事に関わるべきじゃない。」
「龍斗君……」
龍斗が深春の手を引き、その場から離れようとしたその時。
「おーとっと。そうは問屋が下ろさないってね。」
彼らの前に騎助と、武装した三人が立ちはだかる。
「お前は……!」
「君は確か、そこの彼女とデートをしてた……彼氏君だったかな?ここをどうやって突き止めたかは知らないけど…これ以上は関わらない方がいいよ。僕もイタズラに一般人に怪我させたくないし。」
龍斗は彼らから深春を隠すように前に出て、言う。
「お前らが何を企んでいるか知ったこっちゃないがな。けど、一つ分かることはある。」
龍斗は真っ直ぐ彼らを見据える。
「お前らのせいで深春さんは泣いてる。俺は彼女を泣かせる奴は絶対に許さない。」
「龍斗君…」
「ふふふっ。この状況で啖呵を切れる度胸は認めるけどね。」
騎助達が一歩前に出る。逃げ場のない一直線の廊下。流石に“人間の姿”のまま彼女とここを逃げ出すのは不可能だ。
ならば。
「深春さん。少し離れていて。」
「え?はいっ」
龍斗は彼女が距離を取ったのを確認すると、四人に向き直り構える。そして彼の姿が水面のように揺らいだかと思った次の瞬間には、怪物に変身した龍斗の姿があった。
「なにっ」
「ふんっ!」
そして突然龍斗が怪物に変化したことに驚く騎助達に龍斗は容赦なく杖を振るい、そこから水の散弾を発射する。
「騎助様!」
だが、すぐさま武装している三人が反応し、身を挺して彼を守る。
攻撃は彼女達に止められ、騎助には届かない。
「ちっ。」
「……成る程。君があの時の怪物の正体か…」
騎助はそう言うと、リストバンドのように腕についている機械のスイッチを入れ、黄金の鎧を身に纏う。
「また、僕達が華麗に退治してあげよう。」
「リベンジマッチだ。前の俺とは違うとこを見せてやる。」
そして互いに駆け出す。次の瞬間振り上げられた剣と杖が激しくぶつかり合った。
「今、世界は危機に瀕している。きっかけは8年前に飛来した一つの隕石だ。」
騎真がモニターを操作しながら月乃助に説明する。
「このアメリカの北西部の山地に飛来した隕石を調査しようと私の父、緋威 騎一(ひおどし きいち)は彼の地に降り立ち、調査を開始した。そして調べて行く内にある事が分かった。それはその隕石の内部には謎の生命体がいたのだ。」
「む?しかし、そんな新発見があったなぞ聞いた事がなが。」
「聞いた事がないのも無理は無い。何故なら、この調査はその生物が起こした事故によって隠蔽されたのだから。」
騎真の言葉に月乃助がピクリと反応する。彼女の脳裏には前の世界にて多くの人間の人生を狂わせ、壮絶な激戦を繰り広げた寄生型粘液生命体“シードゥス”。しかし、それらは紫水龍香によって、存在自体を消滅させられたハズである。
思考を巡らす彼女に騎真は話を続ける。
「これらの情報は死する直前の父より私に齎された。勿論私も信じられなかったが……だが、聡明な父がこんな時に冗談を言うとは思えなかった。」
「……へぇ。それで?」
「父から送って貰ったデータを元に……私は対抗出来るスーツの開発に着手した。それがこれだ。」
そう言うと、騎真はモニターにあるスーツを映す。それはルビーのように赤く煌めく、古代ローマの剣闘士のようなトサカが特徴的なフルフェイスのスーツだった。
「私はこのスーツ、“ニーベルンゲン”を作成した。だがこれは私が要求する性能に遠く及ばなかった。ならば、作れる者を誘致しよう、と考えた。」
「成る程話が見えて来た。つまりあの黄金の騎士は氷室にカスタマイズさせたのか。」
「ご明察だ。」
「で、それでも納得いかなかったから今度は私…ってことかい。」
「私の作った物よりかは遥かに優れているとは思うがね。」
そこまで彼が話したその時。ドォンッと大きな音がして、建物が微かに揺れる。
「何だ?」
騎真が状況を確認しようとすると、部下から報告が入る。
「報告します!騎真様!どうやら8階フロアにて騎助様と秘書達が敵と交戦状態に入った模様!」
「何?」
報告を聞いた彼が部屋の監視モニターに目を向ける。そこには魚のような怪物と騎助達がオフィス内で大乱闘を繰り広げていた。それを見た月乃助は彼らが自分の置き土産に気づいてくれたのだと察する。
「報告にあった奴か……どうやって入ったかは知らんが…分かった。俺も向かう。」
部下の報告を受けた騎真が身を翻して向かおうとする。
だが、月乃助が複数ある監視モニターの内、一つの画面に映るピンク色の髪の青年の発見すると。
「ふむ。待ちたまえ。」
「何だ?」
月乃助に呼び止められ、騎真が立ち止まる。
「君のやりたいことは分かった。その想いも、だ。ならば最後に一つ君に見せて欲しいものがある。それを見せてくれたなら、私は君に協力すると約束しよう。」
「……どういう心変わりですか?」
さっきまで提案を拒絶していた彼女が突然協力を申し出たのだ。彼が訝しむものも無理は無い。
月乃助はモニターに映る龍賢を見ながら騎真に言う。
「力を見せて欲しいのだよ。君が“邪竜を倒す英雄”たる力を持っているかどうかのね。」
騎真がモニターを操作しながら月乃助に説明する。
「このアメリカの北西部の山地に飛来した隕石を調査しようと私の父、緋威 騎一(ひおどし きいち)は彼の地に降り立ち、調査を開始した。そして調べて行く内にある事が分かった。それはその隕石の内部には謎の生命体がいたのだ。」
「む?しかし、そんな新発見があったなぞ聞いた事がなが。」
「聞いた事がないのも無理は無い。何故なら、この調査はその生物が起こした事故によって隠蔽されたのだから。」
騎真の言葉に月乃助がピクリと反応する。彼女の脳裏には前の世界にて多くの人間の人生を狂わせ、壮絶な激戦を繰り広げた寄生型粘液生命体“シードゥス”。しかし、それらは紫水龍香によって、存在自体を消滅させられたハズである。
思考を巡らす彼女に騎真は話を続ける。
「これらの情報は死する直前の父より私に齎された。勿論私も信じられなかったが……だが、聡明な父がこんな時に冗談を言うとは思えなかった。」
「……へぇ。それで?」
「父から送って貰ったデータを元に……私は対抗出来るスーツの開発に着手した。それがこれだ。」
そう言うと、騎真はモニターにあるスーツを映す。それはルビーのように赤く煌めく、古代ローマの剣闘士のようなトサカが特徴的なフルフェイスのスーツだった。
「私はこのスーツ、“ニーベルンゲン”を作成した。だがこれは私が要求する性能に遠く及ばなかった。ならば、作れる者を誘致しよう、と考えた。」
「成る程話が見えて来た。つまりあの黄金の騎士は氷室にカスタマイズさせたのか。」
「ご明察だ。」
「で、それでも納得いかなかったから今度は私…ってことかい。」
「私の作った物よりかは遥かに優れているとは思うがね。」
そこまで彼が話したその時。ドォンッと大きな音がして、建物が微かに揺れる。
「何だ?」
騎真が状況を確認しようとすると、部下から報告が入る。
「報告します!騎真様!どうやら8階フロアにて騎助様と秘書達が敵と交戦状態に入った模様!」
「何?」
報告を聞いた彼が部屋の監視モニターに目を向ける。そこには魚のような怪物と騎助達がオフィス内で大乱闘を繰り広げていた。それを見た月乃助は彼らが自分の置き土産に気づいてくれたのだと察する。
「報告にあった奴か……どうやって入ったかは知らんが…分かった。俺も向かう。」
部下の報告を受けた騎真が身を翻して向かおうとする。
だが、月乃助が複数ある監視モニターの内、一つの画面に映るピンク色の髪の青年の発見すると。
「ふむ。待ちたまえ。」
「何だ?」
月乃助に呼び止められ、騎真が立ち止まる。
「君のやりたいことは分かった。その想いも、だ。ならば最後に一つ君に見せて欲しいものがある。それを見せてくれたなら、私は君に協力すると約束しよう。」
「……どういう心変わりですか?」
さっきまで提案を拒絶していた彼女が突然協力を申し出たのだ。彼が訝しむものも無理は無い。
月乃助はモニターに映る龍賢を見ながら騎真に言う。
「力を見せて欲しいのだよ。君が“邪竜を倒す英雄”たる力を持っているかどうかのね。」
「おおおおっ!」
龍斗と騎助がもつれ合いながら廊下で激闘を繰り広げる。
「コイツはボクが押さえる!君達は結衣深春の身柄を抑えろ!」
「はっ!」
騎助の号令で三人が深春へと向かう。だが、それを見た龍斗が三人に左手を翳す。
「させるかよ!」
龍斗の足元から噴き出た水の鞭が三人を絡めとるとそのまま引っ張ってエントラスへ続く吹き抜けから下層へとぶん投げる。
放り投げられた三人が下層の廊下を転がる中、龍斗は手首をクイクイとこまねきながら騎助を挑発する。
「時間は稼がせて貰ったぜ…!」
「お前ッ」
騎助が地面を踏み抜くと共に、爆発的な加速で龍斗の間合いへと突っ込む。
「はぁっ!」
「うおおっ!」
振るわれた剣の一撃を龍斗は杖で受け止める。受け止めると同時にそれを横へと逸らす事で相手の体勢を崩す。
「くっ」
「オラよっ!」
姿勢が崩れた騎助が体勢を立て直すより早くカチ上げられた杖の一撃が炸裂し、装甲が火花を散らす。
「ぐっ!」
「うおらぁっ!」
さらに追撃に振るわれた杖が火花を散らす。続く衝撃によろめいた彼に龍斗は尾白中段蹴りをかまして、吹き飛ばす。
「ぐおっ」
騎助は背中から廊下に叩きつけられる。
「へっ、どうだ。複数人ならまだしもタイマンなら負けねぇぞ。」
「…なるほど。君のこと、ちょっと甘く見てたな…反省反省。」
騎助はそう言いながら立ち上がると、剣を構える。
「けど。まだ全然修正可能範囲内だ。」
そう言う彼の纏う雰囲気が一変し、肌を刺すような殺気を放つ。
「!」
そして、またスタートダッシュを切る。彼は剣を上段に振り上げる。
(振り下ろしたのを受け止めて反撃!)
それを見た龍斗がその一撃を受け止めたようとしたその時。
(──!?)
ゾクッと。龍斗の背筋に冷や汗が流れる。騎助の攻撃に対し、彼の勘が警鐘を鳴らし、半歩下がらせる。
「───ッッ!!!」
そして怒号のような雄叫びと共に剛剣の一撃が振り下ろされる。
その一撃は龍斗の構えた杖と激しくぶつかり合う。それと同時にメキッと何かが折れたような音が響き、龍斗の杖が叩き折られる。
「んなっ」
そして振り下ろされた剛剣の一撃はそのまま龍斗の身体を激しく袈裟斬りする。
「うおおおっ!?」
激しく切り裂かれた痛みと出血に驚きながらも龍斗は後退する。
(半歩下がってなかったら、致命傷だったぞ…!?なんだこの馬鹿力は…ッ!?)
「逃がさないよ!」
後退して距離を離そうとする龍斗に喰らいつくように騎助が迫る。
「チィッ!」
龍斗は折れた杖を騎助に向かって投げつける。
「ふんっ!」
だが、騎助は投げつけられたそれを左肩の装甲で受けながら、無理やりこじ開けるように突進して距離を潰しにかかる。
龍斗は迫る彼に手を翳す。するとそこから水が溢れ、渦巻く盾が生成される。
「このヤロ…!」
「ぜええええいっ!」
しかし今度は横薙ぎに振るわれた一撃が盾ごと龍斗の胸を切り裂く。
「ッ…!いい加減離れろ!」
だが今度は盾を間に挟み込んだことで大ダメージをなんとか避けた龍斗が振り終わりの隙を晒した騎助に蹴りを放ち、吹き飛ばす。
「ふっ。」
一方の騎助もない当たる直前に後ろへ下がることでダメージを軽減しており、今度は蹴り飛ばされつつもふわりと着地する。
今の攻防で龍斗は肩から胸にかけて切り裂かれ、大ダメージを負ってしまった。傷口からは血がとめどなく溢れ、彼の口から漏れる吐息が荒くなる。
(焦んな。傷は臓器まではいってねぇ。まだやれる…!)
「流石だね。その傷でも動けるなんて。けどね!僕は君のような怪物を倒す為にこの力を得たんだ!」
騎助は切先を龍斗に向ける。
「お前らが何と戦うかは知ったこっちゃねぇけどよ…関係ない深春さんを巻き込むのは違うだろ…!」
切先を向けられた龍斗が怒気を孕んだ口調で言うが、騎助は寸分もだしろがない。
「どうだかな……君のような怪物と交友関係を持っているんだ。彼女が関係ないとは言い切れないんじゃないかい?」
「テメェ…」
「いや、むしろ君の存在が彼女を危険に晒している。君はこれから先、彼女に襲いかかる魔の手から彼女を守り切れると言えるのか?」
「………」
(彼女を……守り切れるのか?俺に?)
騎助の言葉に龍斗は逡巡する。そもそも。自分に彼女の隣に立つ資格があるのか。怪物と化した姿を見られた今、彼女はそれでも自分を好いてくれるのか。一瞬にも満たない思考が隙を産む。
「それは軽率なんじゃないかなぁっ!」
騎助がそれを見逃すハズもなく、爆発的な加速でスタートを切る。最早迅雷と見紛う速度の踏み込みで間合いを侵略する。
「しまっ──」
龍斗もすぐさま防御体勢を取るが、騎助の振るう一撃は──防御不可の剛剣。
次の瞬間、鮮血が宙を舞った。
龍斗と騎助がもつれ合いながら廊下で激闘を繰り広げる。
「コイツはボクが押さえる!君達は結衣深春の身柄を抑えろ!」
「はっ!」
騎助の号令で三人が深春へと向かう。だが、それを見た龍斗が三人に左手を翳す。
「させるかよ!」
龍斗の足元から噴き出た水の鞭が三人を絡めとるとそのまま引っ張ってエントラスへ続く吹き抜けから下層へとぶん投げる。
放り投げられた三人が下層の廊下を転がる中、龍斗は手首をクイクイとこまねきながら騎助を挑発する。
「時間は稼がせて貰ったぜ…!」
「お前ッ」
騎助が地面を踏み抜くと共に、爆発的な加速で龍斗の間合いへと突っ込む。
「はぁっ!」
「うおおっ!」
振るわれた剣の一撃を龍斗は杖で受け止める。受け止めると同時にそれを横へと逸らす事で相手の体勢を崩す。
「くっ」
「オラよっ!」
姿勢が崩れた騎助が体勢を立て直すより早くカチ上げられた杖の一撃が炸裂し、装甲が火花を散らす。
「ぐっ!」
「うおらぁっ!」
さらに追撃に振るわれた杖が火花を散らす。続く衝撃によろめいた彼に龍斗は尾白中段蹴りをかまして、吹き飛ばす。
「ぐおっ」
騎助は背中から廊下に叩きつけられる。
「へっ、どうだ。複数人ならまだしもタイマンなら負けねぇぞ。」
「…なるほど。君のこと、ちょっと甘く見てたな…反省反省。」
騎助はそう言いながら立ち上がると、剣を構える。
「けど。まだ全然修正可能範囲内だ。」
そう言う彼の纏う雰囲気が一変し、肌を刺すような殺気を放つ。
「!」
そして、またスタートダッシュを切る。彼は剣を上段に振り上げる。
(振り下ろしたのを受け止めて反撃!)
それを見た龍斗がその一撃を受け止めたようとしたその時。
(──!?)
ゾクッと。龍斗の背筋に冷や汗が流れる。騎助の攻撃に対し、彼の勘が警鐘を鳴らし、半歩下がらせる。
「───ッッ!!!」
そして怒号のような雄叫びと共に剛剣の一撃が振り下ろされる。
その一撃は龍斗の構えた杖と激しくぶつかり合う。それと同時にメキッと何かが折れたような音が響き、龍斗の杖が叩き折られる。
「んなっ」
そして振り下ろされた剛剣の一撃はそのまま龍斗の身体を激しく袈裟斬りする。
「うおおおっ!?」
激しく切り裂かれた痛みと出血に驚きながらも龍斗は後退する。
(半歩下がってなかったら、致命傷だったぞ…!?なんだこの馬鹿力は…ッ!?)
「逃がさないよ!」
後退して距離を離そうとする龍斗に喰らいつくように騎助が迫る。
「チィッ!」
龍斗は折れた杖を騎助に向かって投げつける。
「ふんっ!」
だが、騎助は投げつけられたそれを左肩の装甲で受けながら、無理やりこじ開けるように突進して距離を潰しにかかる。
龍斗は迫る彼に手を翳す。するとそこから水が溢れ、渦巻く盾が生成される。
「このヤロ…!」
「ぜええええいっ!」
しかし今度は横薙ぎに振るわれた一撃が盾ごと龍斗の胸を切り裂く。
「ッ…!いい加減離れろ!」
だが今度は盾を間に挟み込んだことで大ダメージをなんとか避けた龍斗が振り終わりの隙を晒した騎助に蹴りを放ち、吹き飛ばす。
「ふっ。」
一方の騎助もない当たる直前に後ろへ下がることでダメージを軽減しており、今度は蹴り飛ばされつつもふわりと着地する。
今の攻防で龍斗は肩から胸にかけて切り裂かれ、大ダメージを負ってしまった。傷口からは血がとめどなく溢れ、彼の口から漏れる吐息が荒くなる。
(焦んな。傷は臓器まではいってねぇ。まだやれる…!)
「流石だね。その傷でも動けるなんて。けどね!僕は君のような怪物を倒す為にこの力を得たんだ!」
騎助は切先を龍斗に向ける。
「お前らが何と戦うかは知ったこっちゃねぇけどよ…関係ない深春さんを巻き込むのは違うだろ…!」
切先を向けられた龍斗が怒気を孕んだ口調で言うが、騎助は寸分もだしろがない。
「どうだかな……君のような怪物と交友関係を持っているんだ。彼女が関係ないとは言い切れないんじゃないかい?」
「テメェ…」
「いや、むしろ君の存在が彼女を危険に晒している。君はこれから先、彼女に襲いかかる魔の手から彼女を守り切れると言えるのか?」
「………」
(彼女を……守り切れるのか?俺に?)
騎助の言葉に龍斗は逡巡する。そもそも。自分に彼女の隣に立つ資格があるのか。怪物と化した姿を見られた今、彼女はそれでも自分を好いてくれるのか。一瞬にも満たない思考が隙を産む。
「それは軽率なんじゃないかなぁっ!」
騎助がそれを見逃すハズもなく、爆発的な加速でスタートを切る。最早迅雷と見紛う速度の踏み込みで間合いを侵略する。
「しまっ──」
龍斗もすぐさま防御体勢を取るが、騎助の振るう一撃は──防御不可の剛剣。
次の瞬間、鮮血が宙を舞った。
囚われた月乃助を探し、ビル内を奔走する龍賢。そんな彼に月乃助をサポートしていた機械の鳥が背中から宙に地図を映し出す。
その地図の一室に赤い星マークがついているのを彼は見つける。
「そこか。」
龍賢は走り出すと、マークがついていた部屋に向かい、そのの扉に手をやり、ゆっくりと静かにその部屋へと入って行く。
その部屋はまるで劇場のような場所で、前の方に舞台があり、舞台の前には観客席が並ぶ。
龍賢が警戒しながら、観客席を分断するように伸びる中道に足を踏み入れたその時。
「よくここまで来たな。」
観客席の一席から話しかけられる。龍賢が声がした方に目を向けると、そこには緋色の髪を持つ、静かながらも凄まじいオーラを放つ男、騎真がいた。
「……月乃助さんはどこだ。」
負けじと龍賢が睨み返す。そんな彼に騎真は目配せする。男の視線の先には上の方の座席に拘束され、猿轡をかまされた月乃助がいた。
「月乃助さん!」
龍賢が駆け寄ろうとするが、騎真がそれを阻むように間に入り込む。
「時間がない。本来ならこのような戯れには付き合わんが。」
そう言って彼は右腕のブレスレットを起動させる。それが強く輝き、彼の身体を光が包んだ次の瞬間、全身を血のように真っ赤な装甲、ローマの剣闘士のようなフルフェイスのスーツに身を包んだ騎真がいた。騎真は両手に片手剣を持つと、切先を龍賢に向ける。
「さぁ、そちらも剣を抜け。」
「……不本意だが、やらざるを得ないようだな。」
最早言葉による交渉は不可だと判断した龍賢が構える。すると彼の身体が揺らぐように靡いたかと思うとこちらも赤黒い表皮を持つ龍人へと変貌する。槍を構える彼を見て、騎真は剣を構えながら下へと下りる。
「見たこともない装甲だな。まるで邪竜だ。」
「彼女は返してもらうぞ。」
そう言いながらも二人は間合いを測る。そして示し合わせたように同時に武器を構えてスタートを切る。
「速攻で決める!」
龍賢が神速の槍を突き出す。並の動体視力では捉えることの出来ない一撃。しかし、その攻撃に対し、騎真は剣の切先を沿わせるように当てる。すると、槍の軌道は騎真を逸れ、明後日の方へと飛んでいく。
「!」
「中々の速さだ。だが。」
防御使用した方とは逆の方の剣が龍賢に牙を剥く。反撃に繰り出された一撃が龍賢に迫る。だが龍賢もそれにすぐ反応し、上体を反らして回避する。
しかし、その一撃は龍賢の薄皮を切り裂く。
「ならば!」
龍賢は槍を短く構え、突き、薙ぎ払い、振り下ろしと素早く手数で勝負をかける。
しかし、その攻撃に対しても騎真は両手の剣で攻撃を逸らし、防ぐ。
まさしく鉄壁の防御に龍賢は思わず舌を巻く。
(なんて奴だ。防御の技術に関しては今まで戦ったどの敵よりも…!)
「どうした。貴様の攻撃は一撃たりとも私を捉えていないぞ!」
そう叫んだ瞬間騎真の剣が反撃に転じる。素早く的確な攻撃に今度は龍賢が防戦に追いやられる。
「ちぃっ」
「──貴様は何のために戦っている?」
「何?」
騎真の問いに龍賢は敵の意図を測る。だが、騎真は剣を振りながら続ける。
「私は、世界を救うために戦っている。父の意思を継ぎ、全てを世界に捧げてきた!」
そう叫び、鬼気迫る迫力で攻撃をする彼の姿に過去の自分が一瞬重なる。
「貴様の戦う理由はなんだ?それは私の目的を邪魔するに足る理由なのか?」
攻撃の激しさが増し、掠る刃で龍賢の身体に血が滲む。
「世界を救うより優先される理由があるのか!?」
突然騎真が蹴りを繰り出す。剣に集中していた龍賢は虚を突かれ、腹部に蹴りを思い切り受けてしまう。
「ぐっ」
よろめいた彼に赤い軌跡を描きながら斬撃が炸裂する。その攻撃を受けた龍賢は鮮血を散らしながら座席を巻き込んで倒れる。
倒れた龍賢に剣を向けながら騎真は問う。
「答えてみろ。貴様の戦う理由を。」
その地図の一室に赤い星マークがついているのを彼は見つける。
「そこか。」
龍賢は走り出すと、マークがついていた部屋に向かい、そのの扉に手をやり、ゆっくりと静かにその部屋へと入って行く。
その部屋はまるで劇場のような場所で、前の方に舞台があり、舞台の前には観客席が並ぶ。
龍賢が警戒しながら、観客席を分断するように伸びる中道に足を踏み入れたその時。
「よくここまで来たな。」
観客席の一席から話しかけられる。龍賢が声がした方に目を向けると、そこには緋色の髪を持つ、静かながらも凄まじいオーラを放つ男、騎真がいた。
「……月乃助さんはどこだ。」
負けじと龍賢が睨み返す。そんな彼に騎真は目配せする。男の視線の先には上の方の座席に拘束され、猿轡をかまされた月乃助がいた。
「月乃助さん!」
龍賢が駆け寄ろうとするが、騎真がそれを阻むように間に入り込む。
「時間がない。本来ならこのような戯れには付き合わんが。」
そう言って彼は右腕のブレスレットを起動させる。それが強く輝き、彼の身体を光が包んだ次の瞬間、全身を血のように真っ赤な装甲、ローマの剣闘士のようなフルフェイスのスーツに身を包んだ騎真がいた。騎真は両手に片手剣を持つと、切先を龍賢に向ける。
「さぁ、そちらも剣を抜け。」
「……不本意だが、やらざるを得ないようだな。」
最早言葉による交渉は不可だと判断した龍賢が構える。すると彼の身体が揺らぐように靡いたかと思うとこちらも赤黒い表皮を持つ龍人へと変貌する。槍を構える彼を見て、騎真は剣を構えながら下へと下りる。
「見たこともない装甲だな。まるで邪竜だ。」
「彼女は返してもらうぞ。」
そう言いながらも二人は間合いを測る。そして示し合わせたように同時に武器を構えてスタートを切る。
「速攻で決める!」
龍賢が神速の槍を突き出す。並の動体視力では捉えることの出来ない一撃。しかし、その攻撃に対し、騎真は剣の切先を沿わせるように当てる。すると、槍の軌道は騎真を逸れ、明後日の方へと飛んでいく。
「!」
「中々の速さだ。だが。」
防御使用した方とは逆の方の剣が龍賢に牙を剥く。反撃に繰り出された一撃が龍賢に迫る。だが龍賢もそれにすぐ反応し、上体を反らして回避する。
しかし、その一撃は龍賢の薄皮を切り裂く。
「ならば!」
龍賢は槍を短く構え、突き、薙ぎ払い、振り下ろしと素早く手数で勝負をかける。
しかし、その攻撃に対しても騎真は両手の剣で攻撃を逸らし、防ぐ。
まさしく鉄壁の防御に龍賢は思わず舌を巻く。
(なんて奴だ。防御の技術に関しては今まで戦ったどの敵よりも…!)
「どうした。貴様の攻撃は一撃たりとも私を捉えていないぞ!」
そう叫んだ瞬間騎真の剣が反撃に転じる。素早く的確な攻撃に今度は龍賢が防戦に追いやられる。
「ちぃっ」
「──貴様は何のために戦っている?」
「何?」
騎真の問いに龍賢は敵の意図を測る。だが、騎真は剣を振りながら続ける。
「私は、世界を救うために戦っている。父の意思を継ぎ、全てを世界に捧げてきた!」
そう叫び、鬼気迫る迫力で攻撃をする彼の姿に過去の自分が一瞬重なる。
「貴様の戦う理由はなんだ?それは私の目的を邪魔するに足る理由なのか?」
攻撃の激しさが増し、掠る刃で龍賢の身体に血が滲む。
「世界を救うより優先される理由があるのか!?」
突然騎真が蹴りを繰り出す。剣に集中していた龍賢は虚を突かれ、腹部に蹴りを思い切り受けてしまう。
「ぐっ」
よろめいた彼に赤い軌跡を描きながら斬撃が炸裂する。その攻撃を受けた龍賢は鮮血を散らしながら座席を巻き込んで倒れる。
倒れた龍賢に剣を向けながら騎真は問う。
「答えてみろ。貴様の戦う理由を。」
「ごっ、おおっ…!」
龍斗の胸を剣が大きく斬り裂かれ、鮮血が飛び散る。ギリギリ杖を防御に挟んだ事で何とか致命傷こそ避けたが、大ダメージを受けた事に変わりない。
意識が飛びかけるが、龍斗は何とか持ち堪えると左手に水を集中させる。
「怨水勾玉!」
龍斗は左手にためたそれを騎助に翳す。すると水が勢いよく弾けて彼を吹き飛ばす。
「ぐおっ!」
彼の身体が床を転がる。だが、龍斗は全身が脱力し、思わず片膝をついてしまう。
(やばい……!身体に力が入らねぇ。)
口から逆流した血が流れる。全身ズタボロ、しかも時間をかければせっかく下位層に吹き飛ばした三人も戦線に復帰してしまう。
引き離している今のうちに騎助を手早く倒さねばならないと分かっていても龍斗の身体は徐々に言うことを聞かなくなってくる。
(……中々上手くやれないもんだな、全く。)
ふと、過去を思い起こす。自分なら救えるのだと宣っておきながら、彼女を救えない情けなさを。自分の無力を周囲に闇雲にぶつけた自分の弱さを。力を手に入れたのに、間違い続けてばかりの愚かさを。
(…分かっていた。分かっていたさ。“俺”には彼女を救えない事くらい。)
龍斗は立ち上がり、剣を構える騎助をぼやける視界で捉える。
(……俺はどうなってもいい。せめて彼女を逃す。あとは龍賢が上手くやってくれる。)
龍斗はククッと独りごちる。アレだけ憎んで、拒絶したのに。それでも龍賢を自分は信頼しているのだと思うと、あまりにも滑稽で笑えてくる。
「……さて。いっちょかましてやるか。」
龍斗がそう呟き、覚悟を決めた次の瞬間。
「龍斗君!」
後ろから聞こえてきた声に龍斗は思わず驚いて、後ろを振り返る。
そこにいたのは、龍斗をまっすぐ見つめる結衣深春だった。
「なっ、深春さん。」
深春は龍斗の前に来るとバッと彼を守るように両手を広げる。
「……何のつもりだい?」
そんな深春を見て、怪訝そうにしながらも騎助は剣を下ろす。
「これ以上彼を傷つけさせない。来るなら来なさい!今度は私が相手よ!」
「なっ、何を…」
気丈にそう言い放つ彼女に龍斗はやめさせようとして気づく。
彼女の足が、身体が小さく震えている。無理もない龍斗と違い何の力も持たない少女だ。騎助がその気になれば彼女は1秒とて持たずに殺されてしまうだろう。
だが、それでも彼女は勇気を振り絞り、龍斗の前に立ち、守ろうとしている。
「……貴女のその行動は…ナンセンスだ。心意気は立派だが力無い者がいくら叫ぼうが誰の心にも届きはしない。無意味だ。」
騎助が立ち塞がる彼女を見てそう言う。だが、それに反論するように龍斗が立ち上がる。
「いや……意味はある。」
「龍斗君。」
立ち上がった龍斗が深春の横に並ぶ。
「こんな俺に……立ち上がる力をくれた。これ以上ないくらい有意義だ。」
龍斗の身体にビシリと亀裂が入る。
だが、騎助の後ろに先程吹き飛ばした三人が到着し、戦線復帰する。
「騎助様!」
「お待たせいたしました!」
「ん。戦える?」
「3名とも問題ありません!」
4対1。しかも龍斗は手負いだ。明らかに不利な状況。だが、龍斗の目から戦意が衰えることはない。むしろ、先程よりか増しているように見える。
それを見た騎助は思わず尋ねる。
「君は何故戦うんだ?何故立っていられる?」
騎助の問いに龍斗は応える。
「俺が今ここに立っているのは、世界を救うためだとか、大層なお題目じゃない……彼女を、深春さんが好きだからだ。愛しているからだ!」
龍斗の宣言じみた告白に場が固まる。深春も一瞬理解出来なかったのかポカンとしていたが、すぐに言葉の意味を理解すると、徐々に顔が赤くなり、狼狽する。
「り、龍斗君…!今、今言っちゃうのそれ…?」
「これだけは譲れない。彼女を守る!そのためなら俺はどんな敵とだって戦える。命を賭ける価値がある!」
龍斗がそう叫んだ次の瞬間、その全身にヒビが広がり、音を立て、水を撒き散らして割れる。
「割れた!?」
「……!」
割れた破片の中から先程の姿よりも鋭く、スリムになった新たな姿へと変貌した龍斗が姿を現す。
「……どうやら、俺にはまだまだ成長の余地があったみたいだな。さて。」
新たな姿に変わった龍斗は槍を構え、四人に切先を向ける。
「かかってこいよ。さっきまでの俺とはちょいと違うぜ。」
「……こけおどしだ!」
騎助が踏み込む。振り上げた剛剣が唸りを上げて両断せんと振り下ろされる。
だが、龍斗は槍を構え、剣と槍がぶつかった瞬間、サイドステップを踏みながらその一撃を受け流す。
「ちっ」
横に回り込んだ龍斗が槍の柄の部分を跳ね上げて腹部に叩きつける。
「ぐっ」
思わず怯んだ騎助のトサカを龍斗は掴むとその顔面に額を思い切り叩きつける。
「ぐぅう!?」
ビキリ、と頭突きが直撃した箇所にヒビが入る。
「騎助様!」
「下郎が!」
騎助と入れ替わる様に三人が流れる様なコンビネーションで翻弄しながら武器を構えて龍斗へ迫る。
「水影朧鏡(すいえいおぼろかがみ)」
龍斗の身体をアンリ、イユ、ウツキの三人の武器が貫く。しかし、その身体が揺らいだかと思うとバシャリと水になって地面に落ちる。
「なっ。」
驚く三人が辺りを見回すと、三人はさらに驚きの表情へと変わる。
何故なら。彼女達を囲むように大勢の龍斗がいたからだ。
「分身って、やつだよ。」
「なんっじゃそりゃ…!?」
驚く三人に大勢の龍斗が迫る。三人がそれぞれが迎撃の構えを取る。しかし、それらは水の分身を打ち砕き、水をばら撒くだけだ。そしてイユのすぐ右横に龍斗が立ち、右手を翳す。
「亡海荼毘死突!(ぼうかいだびしとつ)」
「しまっ」
放たれた水の槍が次々とイユに直撃し、壁に叩きつけてその意識を刈り取る。
意識を失い倒れる同僚に二人が動揺する。
「イユ!」
「死海哀毀骨!(しかいあいきこつ)」
動揺した二人の内アイリの方に龍斗は水球を纏った槍を振るう。槍がアイリに直撃した瞬間水球は弾け、強い衝撃が彼女を襲い、その身体を勢いよく吹き飛ばす。
しかも吹き飛ばされたアイリはもう一人のウツキにぶつかり、二人はもんどり打って倒れて意識を失う。
「お前っ!」
それを見て激昂した騎助が龍斗へと迫る。その剣を槍で防御しながら龍斗も迎え撃つ。
「よくも三人をやってくれたな!」
「お互い様だろうが!」
騎助の剣がパチッと弾けてプラズマを纏う。それを見た龍斗も槍に水を纏わせる。
「世界のために!兄さんのために!速攻で堕とす!」
騎助はプラズマを纏った剣を振り下ろす。
「“トネール•エスパーダ”!」
放たれるは生半可な防御すら許さない剛剣の一撃。だが、その一撃に対し、龍斗が取ったのは回避でも、防御でもなかった。
「お前も重いもん背負ってるみてぇだけどな…!」
その攻撃に対し、放たれたのは龍斗の全力をただ一点に込めた強烈な水を纏った槍による一撃。剛剣を打ち破らんとする狂魚の獰猛な牙だ。
その一撃は剣とぶつかり合う。互いに放たれた強烈な一撃は一瞬の拮抗する。だが、プラズマと水がぶつかり弾け、衝撃と共に大きな音を立て、互いの武器は弾かれて、使用者の手から離れる。
「しまっ」
騎助は武器を拾おうと、一瞬龍斗から武器へと意識を向ける。だが、龍斗は──吹き飛ばされた槍には目もくれず、力強く拳を握り締め、騎助へと駆け出していた。
「なっ」
「こんな俺でもよ、これだけは譲れないんだよ!!」
騎助が防御の構えを取るが、龍斗の拳は防がれるよりも早く彼を撃ち抜いた。
「ごっ……!?」
激しく脳を揺さぶられた騎助の意識が闇に沈む。彼が倒れると同時に龍斗も殴り抜けた勢いのまま地面に転がって変身が解ける。
「龍斗君!」
倒れた龍斗に深春が駆け寄る。彼女の手を借りて上体を起こした龍斗は後頭部をかいて恥ずかしそうに笑う。
「いってて…ははっ、我ながら締まらないなぁ。」
「そんなことない。カッコよかったよ。“守ってくれて”ありがとう。」
深春の言葉に龍斗は目を見開く。無事な彼女を見て、今度こそ守れたのだ、と言う実感が湧くと胸の奥が熱くなり、目頭から涙がとめどなく溢れ出す。
「えっ、どうしたの龍斗君?どこか痛い?結構ぶった斬られてたもんね!?」
「いや、大丈夫です……ホント……あなたが無事なら…」
そうしていると、ざわざわと辺りが騒がしくなり、向こうから人がやってくる気配を二人は感じ取る。
「誰か来る!」
「そりゃあんだけ騒げばそうなるよな……!逃げましょう深春さん!」
「うん!」
二人は立ち上がってその場を後にする。まだ、ここは敵地だ。安心は出来ない。龍斗は涙を拭きつつ、電話を取り出した。
龍斗の胸を剣が大きく斬り裂かれ、鮮血が飛び散る。ギリギリ杖を防御に挟んだ事で何とか致命傷こそ避けたが、大ダメージを受けた事に変わりない。
意識が飛びかけるが、龍斗は何とか持ち堪えると左手に水を集中させる。
「怨水勾玉!」
龍斗は左手にためたそれを騎助に翳す。すると水が勢いよく弾けて彼を吹き飛ばす。
「ぐおっ!」
彼の身体が床を転がる。だが、龍斗は全身が脱力し、思わず片膝をついてしまう。
(やばい……!身体に力が入らねぇ。)
口から逆流した血が流れる。全身ズタボロ、しかも時間をかければせっかく下位層に吹き飛ばした三人も戦線に復帰してしまう。
引き離している今のうちに騎助を手早く倒さねばならないと分かっていても龍斗の身体は徐々に言うことを聞かなくなってくる。
(……中々上手くやれないもんだな、全く。)
ふと、過去を思い起こす。自分なら救えるのだと宣っておきながら、彼女を救えない情けなさを。自分の無力を周囲に闇雲にぶつけた自分の弱さを。力を手に入れたのに、間違い続けてばかりの愚かさを。
(…分かっていた。分かっていたさ。“俺”には彼女を救えない事くらい。)
龍斗は立ち上がり、剣を構える騎助をぼやける視界で捉える。
(……俺はどうなってもいい。せめて彼女を逃す。あとは龍賢が上手くやってくれる。)
龍斗はククッと独りごちる。アレだけ憎んで、拒絶したのに。それでも龍賢を自分は信頼しているのだと思うと、あまりにも滑稽で笑えてくる。
「……さて。いっちょかましてやるか。」
龍斗がそう呟き、覚悟を決めた次の瞬間。
「龍斗君!」
後ろから聞こえてきた声に龍斗は思わず驚いて、後ろを振り返る。
そこにいたのは、龍斗をまっすぐ見つめる結衣深春だった。
「なっ、深春さん。」
深春は龍斗の前に来るとバッと彼を守るように両手を広げる。
「……何のつもりだい?」
そんな深春を見て、怪訝そうにしながらも騎助は剣を下ろす。
「これ以上彼を傷つけさせない。来るなら来なさい!今度は私が相手よ!」
「なっ、何を…」
気丈にそう言い放つ彼女に龍斗はやめさせようとして気づく。
彼女の足が、身体が小さく震えている。無理もない龍斗と違い何の力も持たない少女だ。騎助がその気になれば彼女は1秒とて持たずに殺されてしまうだろう。
だが、それでも彼女は勇気を振り絞り、龍斗の前に立ち、守ろうとしている。
「……貴女のその行動は…ナンセンスだ。心意気は立派だが力無い者がいくら叫ぼうが誰の心にも届きはしない。無意味だ。」
騎助が立ち塞がる彼女を見てそう言う。だが、それに反論するように龍斗が立ち上がる。
「いや……意味はある。」
「龍斗君。」
立ち上がった龍斗が深春の横に並ぶ。
「こんな俺に……立ち上がる力をくれた。これ以上ないくらい有意義だ。」
龍斗の身体にビシリと亀裂が入る。
だが、騎助の後ろに先程吹き飛ばした三人が到着し、戦線復帰する。
「騎助様!」
「お待たせいたしました!」
「ん。戦える?」
「3名とも問題ありません!」
4対1。しかも龍斗は手負いだ。明らかに不利な状況。だが、龍斗の目から戦意が衰えることはない。むしろ、先程よりか増しているように見える。
それを見た騎助は思わず尋ねる。
「君は何故戦うんだ?何故立っていられる?」
騎助の問いに龍斗は応える。
「俺が今ここに立っているのは、世界を救うためだとか、大層なお題目じゃない……彼女を、深春さんが好きだからだ。愛しているからだ!」
龍斗の宣言じみた告白に場が固まる。深春も一瞬理解出来なかったのかポカンとしていたが、すぐに言葉の意味を理解すると、徐々に顔が赤くなり、狼狽する。
「り、龍斗君…!今、今言っちゃうのそれ…?」
「これだけは譲れない。彼女を守る!そのためなら俺はどんな敵とだって戦える。命を賭ける価値がある!」
龍斗がそう叫んだ次の瞬間、その全身にヒビが広がり、音を立て、水を撒き散らして割れる。
「割れた!?」
「……!」
割れた破片の中から先程の姿よりも鋭く、スリムになった新たな姿へと変貌した龍斗が姿を現す。
「……どうやら、俺にはまだまだ成長の余地があったみたいだな。さて。」
新たな姿に変わった龍斗は槍を構え、四人に切先を向ける。
「かかってこいよ。さっきまでの俺とはちょいと違うぜ。」
「……こけおどしだ!」
騎助が踏み込む。振り上げた剛剣が唸りを上げて両断せんと振り下ろされる。
だが、龍斗は槍を構え、剣と槍がぶつかった瞬間、サイドステップを踏みながらその一撃を受け流す。
「ちっ」
横に回り込んだ龍斗が槍の柄の部分を跳ね上げて腹部に叩きつける。
「ぐっ」
思わず怯んだ騎助のトサカを龍斗は掴むとその顔面に額を思い切り叩きつける。
「ぐぅう!?」
ビキリ、と頭突きが直撃した箇所にヒビが入る。
「騎助様!」
「下郎が!」
騎助と入れ替わる様に三人が流れる様なコンビネーションで翻弄しながら武器を構えて龍斗へ迫る。
「水影朧鏡(すいえいおぼろかがみ)」
龍斗の身体をアンリ、イユ、ウツキの三人の武器が貫く。しかし、その身体が揺らいだかと思うとバシャリと水になって地面に落ちる。
「なっ。」
驚く三人が辺りを見回すと、三人はさらに驚きの表情へと変わる。
何故なら。彼女達を囲むように大勢の龍斗がいたからだ。
「分身って、やつだよ。」
「なんっじゃそりゃ…!?」
驚く三人に大勢の龍斗が迫る。三人がそれぞれが迎撃の構えを取る。しかし、それらは水の分身を打ち砕き、水をばら撒くだけだ。そしてイユのすぐ右横に龍斗が立ち、右手を翳す。
「亡海荼毘死突!(ぼうかいだびしとつ)」
「しまっ」
放たれた水の槍が次々とイユに直撃し、壁に叩きつけてその意識を刈り取る。
意識を失い倒れる同僚に二人が動揺する。
「イユ!」
「死海哀毀骨!(しかいあいきこつ)」
動揺した二人の内アイリの方に龍斗は水球を纏った槍を振るう。槍がアイリに直撃した瞬間水球は弾け、強い衝撃が彼女を襲い、その身体を勢いよく吹き飛ばす。
しかも吹き飛ばされたアイリはもう一人のウツキにぶつかり、二人はもんどり打って倒れて意識を失う。
「お前っ!」
それを見て激昂した騎助が龍斗へと迫る。その剣を槍で防御しながら龍斗も迎え撃つ。
「よくも三人をやってくれたな!」
「お互い様だろうが!」
騎助の剣がパチッと弾けてプラズマを纏う。それを見た龍斗も槍に水を纏わせる。
「世界のために!兄さんのために!速攻で堕とす!」
騎助はプラズマを纏った剣を振り下ろす。
「“トネール•エスパーダ”!」
放たれるは生半可な防御すら許さない剛剣の一撃。だが、その一撃に対し、龍斗が取ったのは回避でも、防御でもなかった。
「お前も重いもん背負ってるみてぇだけどな…!」
その攻撃に対し、放たれたのは龍斗の全力をただ一点に込めた強烈な水を纏った槍による一撃。剛剣を打ち破らんとする狂魚の獰猛な牙だ。
その一撃は剣とぶつかり合う。互いに放たれた強烈な一撃は一瞬の拮抗する。だが、プラズマと水がぶつかり弾け、衝撃と共に大きな音を立て、互いの武器は弾かれて、使用者の手から離れる。
「しまっ」
騎助は武器を拾おうと、一瞬龍斗から武器へと意識を向ける。だが、龍斗は──吹き飛ばされた槍には目もくれず、力強く拳を握り締め、騎助へと駆け出していた。
「なっ」
「こんな俺でもよ、これだけは譲れないんだよ!!」
騎助が防御の構えを取るが、龍斗の拳は防がれるよりも早く彼を撃ち抜いた。
「ごっ……!?」
激しく脳を揺さぶられた騎助の意識が闇に沈む。彼が倒れると同時に龍斗も殴り抜けた勢いのまま地面に転がって変身が解ける。
「龍斗君!」
倒れた龍斗に深春が駆け寄る。彼女の手を借りて上体を起こした龍斗は後頭部をかいて恥ずかしそうに笑う。
「いってて…ははっ、我ながら締まらないなぁ。」
「そんなことない。カッコよかったよ。“守ってくれて”ありがとう。」
深春の言葉に龍斗は目を見開く。無事な彼女を見て、今度こそ守れたのだ、と言う実感が湧くと胸の奥が熱くなり、目頭から涙がとめどなく溢れ出す。
「えっ、どうしたの龍斗君?どこか痛い?結構ぶった斬られてたもんね!?」
「いや、大丈夫です……ホント……あなたが無事なら…」
そうしていると、ざわざわと辺りが騒がしくなり、向こうから人がやってくる気配を二人は感じ取る。
「誰か来る!」
「そりゃあんだけ騒げばそうなるよな……!逃げましょう深春さん!」
「うん!」
二人は立ち上がってその場を後にする。まだ、ここは敵地だ。安心は出来ない。龍斗は涙を拭きつつ、電話を取り出した。
「貴様の戦う理由はなんだ?」
剣を突きつけながら騎真が問う。痛む身体に鞭を打ち、立ちあがろうとしたその時。ピコン、と着信音がなる。
騎真に注意をやりながら、龍賢はスマホを取り出すと、メッセージを確認する。
メッセージは龍斗からで、そこには短く救出成功、とだけ書かれていた。
それを見た龍賢はフッと笑うと、力を込めて立ち上がる。
「……俺が何故戦うか、か。そうだな。」
龍賢は騎真を見据える。
「……世界のため、でもない。正義のためでもない。俺が戦うのは。」
龍賢は親指を自分の胸に立て、言う。
「俺が愛した、俺を支えてくれる守りたい人達のためだ。そのために俺は戦う。」
「そうか。ならば、世界の為の礎となれ。」
答えを聞いた騎真が駆け出す。躊躇など欠片もない、命を刈り取る正確無比な攻撃。
迫る攻撃に対し、龍賢は槍を構え直すと、それを振るう。火花と硬いものがぶつかり合う音が撒き散らされる。
だが、龍賢に傷はない。放たれた二振りの一撃を龍賢が槍で打ち払ったからだ。
「なっ。」
「…言っておくが、俺は大切なものを守るためなら。」
龍賢の繰り出した突きが騎真に炸裂し、火花を散らす。攻撃を受けた騎真が被弾箇所を押さえながら後退する。
「“邪竜”になっても構わん!」
龍賢がそう叫ぶと、その全身が赤黒く輝き、隆起する。より力強く、凶悪な見た目へと変貌し、額に当たる部分から新たに角が伸び、薄い皮膜が背中から飛び出て、マントのようにはためく。
槍も巨大な大剣へと形を変え、まさしく魔王のような姿へと変身した龍賢に月乃助が興奮したように目を輝かせる。
「おおっ!すごい!自力で進化を成し遂げるとは!」
パワーアップした龍賢を見て、騎真は微塵も怯えず、剣を構えて龍賢を見据える。
「……まさしく魔王のような形相だな。」
「おとなしく彼女を解放しろ。そうすれば俺は退くぞ。」
「するわけないだろう。むしろますます倒しがいがある。」
そう言うと騎真が龍賢へ迫る。一方の龍賢も騎真目掛けて走り出す。
「そうか。ならば打ちのめすだけだ!」
そう言うと龍賢の持つ大剣が二つに分かれ、柄が展開し、刃が折り畳まれ、二つの双斧に変わる。
龍賢が斧を振るう。しかし、騎真はその一撃を剣で直撃から逸らすと、もう片方の剣で反撃を繰り出す。
繰り出された一撃は龍賢を切り裂く。だが、龍賢は少しもたじろがず、もう片方の斧を騎真へと叩きつける。
「ぐうぅ!」
火花が散り、装甲越しとは言え、衝撃が彼を襲う。よろめく彼に龍賢が再び攻撃を仕掛ける。
だが、同じように騎真の剣が龍賢の攻撃を逸させ、反撃の剣が彼の身体を切り裂く。
するとまたもや攻撃後の硬直に斧が騎真に炸裂する。
「ぐっ…!」
「…俺はお前のように高度な技術は持っていない。そのガードを無傷で越えることは今の俺には出来ない。ならば」
龍賢は斧を構え直す。
「男らしく我慢比べと行こうか!」
再び攻撃が放たれる。その一撃を騎真はまた逸らせる。
「俺に同じ手は何度も通じん!」
騎真は今度は剣ではなく、蹴りを繰り出す。龍賢の脚を目掛けて放たれるローキックが龍賢に直撃する。
「むっ……」
意識外からの攻撃に意表を突かれた龍賢の体勢が崩れる。その隙を逃さず、騎真は剣を突き出す。龍賢はそれを斧で防ぐ。
だが続くもう片方の剣はかわしきれず、鮮血が飛び散る。
転がりながらも距離をとって龍賢は立ち上がる。
「龍爪双雷斧(りゅうそうそうらいふ)!」
すると龍賢は騎真に向けて斧を投げつける。それは赤黒い雷を纏った二振りの斧は騎真へと向かう。
「チィッ!」
これは防げないと見た騎真は床を蹴ってかわす。先程まで彼が立っていた場所に斧が炸裂し、大爆発を起こす。
その爆風に押されて、転がりながらも騎真はなんとか立ち上がる。だが、立ち上がったその先には龍賢が目と鼻の先に来ていた。
「なっ」
「場所を変えようか。建物を壊しかねん。」
そう言うと龍賢は騎真に掴みかかる。そしてそのまま壁を突き破り、外へと二人は飛び出る。
それと同時に龍賢は騎真を思い切り殴り飛ばす。しかし、騎真も負けじと剣の一撃を放つ。
「俺は負けん!世界を守る……!それが緋威の使命…!俺は立ち止まる訳にはいかんのだ!」
騎真が雄叫びをあげながら二振りの剣を振るう。その攻撃は龍賢に炸裂する。だが、龍賢は攻撃を喰らいながらもその腕を両腕で絡め取って拘束する。
「それがお前の決意なら…!俺は敬意を持って貴様を打ち倒す!」
「武器もない貴様が何を!」
腕を掴まれて、身動き出来ない騎真が吼える。だが、次の瞬間龍賢の角から光の刃が噴出する。
「この一撃で終わらせる!」
龍賢が頭を振り下ろす。避けようにも騎真は両腕を掴まれていて動けない。
「ぐっ…!こんなところで…!」
次の瞬間、光の刃が騎真に直撃する。爆発が起き、騎真は吹き飛ばされて変身が解除される。
「ぐおおっ…!」
地面に倒れ伏した彼の前に同じく変身解除した龍賢が立つ。
「…勝負ありだ。」
「ぐっ……」
傷だらけになりながらも騎真は龍賢を睨む。その時。
「おっ。決着は着いたようだね。」
月乃助がひょっこりと顔を表す。
「月乃助さん。どうやって。」
「ふっ。天才は一手二手自体を予測しているものさ。」
月乃助の横に機械の鳥が止まる。その翼に着いている鋭い刃がキラリも光る。
「…成る程な。」
「助けてくれて感謝するよ。…礼をしたいが、その前に。」
月乃助はかがみ込むと倒れ込む騎真に手を差し伸べる。
「……何の真似だ。」
「乱暴な手段を取られた事は気に入らないが…君の決心は見せて貰った。ならば私が君に言える事はただ一つだ。君に協力しよう。」
「なっ」
「えっ」
月乃助の言葉に騎真だけでなく龍賢も驚く。
「いいのか……私は負けたんだぞ…?」
困惑気味の騎真の手を取り、立たせて月乃助はフッと笑うと。
「私は君に力を見せて欲しいとは言っただけ。負けたからと言って協力しないとは言ってないぞ?」
「確かにそうだが……良いのか?」
「うむ。天才に二言はない。」
どうも釈然としていない騎真にニコニコする月乃助に龍賢が尋ねる。
「……いいんですか?」
「うむ。…どうにも、彼が抱えている案件に少し懸念があってね。それこそ……“シードゥスの再来”かもしれん。」
「!」
月乃助の言葉に龍賢は冷や水をかけられたような衝撃を受ける。シードゥス。前の世界で多くの人の人生を狂わせ、悲劇を生み出した最悪の宇宙寄生体。
それの再来とまで言わせうる事態が迫っていることに龍賢は強い危機感を抱く。
「お姉ちゃん!」
どこかから声がする。声がした方を向くと、そこには龍斗に肩を貸してこちらへと向かってくる龍斗と深春がいた。
「深春!」
「龍斗!」
龍賢が二人に駆け寄る。そんな彼に龍斗は親指を立てて、ニッと笑う。
「どうだ……深春さんを助け出せたぜ。」
「あぁ。やったな、龍斗。」
「うん。龍斗君が助けてくれたの。」
三人が和気藹々とする中、騎真の方にも。
「兄さん!」
「……騎助か。」
「任せて兄さん。今度こそ…!」
騎助を筆頭に三人娘と部下達が現れる。騎助は傷だらけだが、四人を見るとブレスレットを構える。
「いや、いい。もう大丈夫だ。」
そんな彼を騎真は腕で制する。制された彼はブレスレットを下ろし、尋ねる。
「…良いのかい?」
「あぁ。彼女は私達に協力すると言ってくれた。ならばもう戦う必要もない。」
騎真は弟達を下がらせると、月乃助に右手を差し出す。
「ふっ。話が早い男は好きだよ。」
月乃助もそれに応えようと手を差し出した。
──その時だった。パァンッと渇いた弾けるような音が鳴り、月乃助の顔にピチャリと生暖かい液体がかかる。
「──な」
「え。」
目の前にいた騎真が崩れ落ち、ブレスレットがどこかへと転がっていく。倒れた彼から血の赤い波紋が広がっていく。月乃助は顔にかかった彼の血を拭うことも忘れ、彼に寄り添う。
「お、おい!君!」
「兄さん!」
「騎真様!」
倒れた彼に弟を始めとした部下達が駆け寄る。
「あーらあらあら。騎真様ぁ。いけませんねぇ。」
カラカラと鈴を転がしたような声がする。嘲りと憤怒が混じったような笑いと共に一人の女性が転がっていたブレスレットを拾い上げる。
そこにいたのは銃口から硝煙を立ち昇らせる銃を握ったメガネをかけ、青のメッシュが入った銀髪の女性……氷室とその付き人“灰被姫”、そして少し驚いたような男、貝塚だった。
そんな彼女を見た騎助が睨み、憤怒の表情で叫ぶ。
「お前…!誰がお前を拾い、研究資金を提供したと思っているんだ!」
騎助の怒りに当てられても、氷室はどこ吹く風と言った様子で飄々と応える。
「えぇ。ええ。それはそこに倒れている騎真様ですとも。それについてはもちろん感謝してるわ。けど。」
次の瞬間先程までの態度から豹変して、怒りの表情を表に出す。
「“私を捨てて、その女を取る”なんて、許せるハズないでしょう?」
そう吐き捨てる氷室に月乃助が立ち上がる。
「…氷室、君って奴は……!」
「ひ、氷室君。怒る気持ちは分かるが、今その行動を取るのはどう考えても悪手だよ…!」
怯える貝塚の言う通りで、相手は殺気立つ騎助達にそれらを打ち負かした龍賢達。それに対して戦えるのは“灰被姫”のみ。
“灰被姫”もそれを理解しているのか、若干冷や汗をかいている。
月乃助が絡むと爆発するのは知っていたが、ここまでとは思わなかった二人がどうしたものかと思案しつつ、一触即発の雰囲気が流れるその時。
ピリッと。龍賢と龍斗、月乃助の戦いの中で研ぎ澄まされた直感が警鐘を鳴らす。
「なんだ…!」
三人が思わず構えたと同時に空から黒いモヤのような闇が降ってくる。
「なっ、えぇっ…」
突然降り注いだ闇に皆が警戒する中、降り注いだ闇の中から一人の女性が現れる。
整った切れ目に長い黒髪、漆黒のドレスに身を包んでいるが、何より彼女の纏う死の気配がこの場にいる全員を威圧する。
「ふふふっ。良いわぁ。衝動的で、暴力的で、無鉄砲な貴女の怒り。いつ見てもたまらない…。」
黒い女は黒く濁った瞳で氷室を見ながら、冷たい笑みを浮かべる。だが、そんな彼女を見た貝塚があることに気づく。
「…えっ。君、塩田君か…?」
「あら。気づかれました?」
黒い女……塩田が貝塚にニコリと微笑みかける。自分といた時は鉄仮面のように無表情だった彼女の笑みは彼に薄気味悪い恐怖を掻き立てる。
「ですが貝塚様。私の本当の名前は塩田ではありません。」
彼女は両腕を広げ、言う。
「私の名前は“グリムネビュラ”。闇より出し、闇に還るもの。」
「グリム…ネビュラ…?」
グリムネビュラと名乗った彼女は右手をかざすと、そこから黒いモヤのような闇を噴出し、その闇は氷室と“灰被姫”を包み込み、その闇が晴れると、そこに二人の姿は無かった。
「えっ……、二人は?」
「ええ。彼女達は別の場所に移動させました。まだやって貰いたいことがありますので。」
「わ、私は?」
貝塚が尋ねると、彼女はニコッと微笑みかける。
「貴方は良い“隠れ蓑”でした。私が力を取り戻すために必要な人材を持つ組織を動かせる駒。その気があったにしても無かったにしても大いに役立ったのは事実です。ならばそれに報いるのが私の務め。」
彼女はスッと彼に手を翳す。すると彼女の手から黒いモヤのようなものが溢れ出す。
「祝福を授けましょう。古い体を捨て、“新人類”として生まれ変わるのです。」
次の瞬間黒いモヤが爆発的に広がり、貝塚を包み込む。暗黒に包まれ、何かを潰すような、液体が弾けるような音に混じり、彼の悲鳴が辺りに響く。
「貴様っ、何を……!」
龍賢が叫ぶ。しかし、彼女は恍惚な笑みを浮かべながら言う。
「すぐに分かりますわ。」
しばらくすると暗闇が晴れる。だが、そこにいたのは太り気味の中年の男性だった貝塚ではなく、醜く隆起した筋肉に、飛び出んばかりにまで見開いた双眸をもち、口から涎を垂れ流す鋭い剣のような右腕と熊のように太く強靭な左腕を持った怪物だった。
「────ッッ!!!」
怪物は低く、くぐもった悍ましい声にもならない声で叫ぶと剣を振るう。
振るわれた斬撃は周囲のあちこちの壁や建造物を切り裂いて砕き、辺りで悲鳴が上がる。
「ふふふっ。良いお姿ですわ貝塚様。それでは、後はお任せしますね。」
そう言うとネビュラは闇を噴き出し、それに紛れて姿を消す。
驚く騎助の部下達に怪物は狙いを定めたのか、咆哮を上げながら突撃してくる。
「龍斗!彼を頼んだ!」
「は?っておい!?」
龍賢はそう言うと赤黒い龍人に変身すると、剣を構えて怪物に掴み掛かり、部下達から狙いを外す。
「あぁ、もう!なんだか知らねぇけど!」
一方の龍斗も魚人に変身すると、倒れている騎真に手を翳す。
すると彼の手から水が放たれ、それは傷口へとかかると、みるみる内にその傷を修復していく。
「兄さん!……治してくれた、のか。」
尋ねる彼に龍斗は少しバツが悪そうに頭をかくと、ぶっきらぼうに言う。
「…目の前で死なれちゃ気分悪いからだよ。…月乃助さん、彼らを頼みます!」
「任せたまえ。」
龍斗はそう言うと、怪物と化した貝塚を抑える龍賢に加勢しに走り出す。
一方龍斗に治療された騎真はムッ…と唸った後、薄く目を開ける。
「兄さん!大丈夫かい!?」
「騎助……。」
彼は震えながら上半身を起こすと、騎助の胸に拳を当てて、言う。
「……彼らに、力を貸してやれ。世界を……救うんだ。緋威家の……使命を……果たせ…。」
騎真はそう言うと、フッと糸が切れたように再び倒れる。
「兄さん!」
「心配しなくていい。気絶しただけ。」
倒れた彼の脈を測った月乃助は騎助にそう言い、深春に目配せをすると。
「深春。取り敢えず彼らが気兼ねなく戦えるようこの場を離れるぞ。」
「うん。」
月乃助と深春は気絶した騎真の肩に手を回して支えながらその場を去ろうとする。
そんな彼女達に騎助が頭を下げる。
「……感謝する。そして、すまない。僕は……」
「…今は、良いわ。それより、貴方にはやるべきことがあるんでしょう?」
「すまない。アンリ、イユ、ウツキ!みんなの避難を頼む!」
「「「了解!」」」
深春がそう返すと、騎助はぺこり、と頭を下げ、部下に指示を出すと、戦いの場へと走り出す。
そんな彼を背に月乃助が深春に言う。
「すまないな深春。私のせいで迷惑をかけた。」
「ううん。良いのお姉ちゃん。確かにびっくりしたけど。」
深春は少し照れ臭そうにはにかんで。
「おかげで、龍斗君の良いとこ、知れたし。ちょっと見直しちゃったと言うか、男らしいとこ見れたって言うか。」
「………へぇ。ふーん。」
嬉しそうにそう言う深春を見た月乃助の胸に、何故か龍斗への敵意が渦巻いた。
剣を突きつけながら騎真が問う。痛む身体に鞭を打ち、立ちあがろうとしたその時。ピコン、と着信音がなる。
騎真に注意をやりながら、龍賢はスマホを取り出すと、メッセージを確認する。
メッセージは龍斗からで、そこには短く救出成功、とだけ書かれていた。
それを見た龍賢はフッと笑うと、力を込めて立ち上がる。
「……俺が何故戦うか、か。そうだな。」
龍賢は騎真を見据える。
「……世界のため、でもない。正義のためでもない。俺が戦うのは。」
龍賢は親指を自分の胸に立て、言う。
「俺が愛した、俺を支えてくれる守りたい人達のためだ。そのために俺は戦う。」
「そうか。ならば、世界の為の礎となれ。」
答えを聞いた騎真が駆け出す。躊躇など欠片もない、命を刈り取る正確無比な攻撃。
迫る攻撃に対し、龍賢は槍を構え直すと、それを振るう。火花と硬いものがぶつかり合う音が撒き散らされる。
だが、龍賢に傷はない。放たれた二振りの一撃を龍賢が槍で打ち払ったからだ。
「なっ。」
「…言っておくが、俺は大切なものを守るためなら。」
龍賢の繰り出した突きが騎真に炸裂し、火花を散らす。攻撃を受けた騎真が被弾箇所を押さえながら後退する。
「“邪竜”になっても構わん!」
龍賢がそう叫ぶと、その全身が赤黒く輝き、隆起する。より力強く、凶悪な見た目へと変貌し、額に当たる部分から新たに角が伸び、薄い皮膜が背中から飛び出て、マントのようにはためく。
槍も巨大な大剣へと形を変え、まさしく魔王のような姿へと変身した龍賢に月乃助が興奮したように目を輝かせる。
「おおっ!すごい!自力で進化を成し遂げるとは!」
パワーアップした龍賢を見て、騎真は微塵も怯えず、剣を構えて龍賢を見据える。
「……まさしく魔王のような形相だな。」
「おとなしく彼女を解放しろ。そうすれば俺は退くぞ。」
「するわけないだろう。むしろますます倒しがいがある。」
そう言うと騎真が龍賢へ迫る。一方の龍賢も騎真目掛けて走り出す。
「そうか。ならば打ちのめすだけだ!」
そう言うと龍賢の持つ大剣が二つに分かれ、柄が展開し、刃が折り畳まれ、二つの双斧に変わる。
龍賢が斧を振るう。しかし、騎真はその一撃を剣で直撃から逸らすと、もう片方の剣で反撃を繰り出す。
繰り出された一撃は龍賢を切り裂く。だが、龍賢は少しもたじろがず、もう片方の斧を騎真へと叩きつける。
「ぐうぅ!」
火花が散り、装甲越しとは言え、衝撃が彼を襲う。よろめく彼に龍賢が再び攻撃を仕掛ける。
だが、同じように騎真の剣が龍賢の攻撃を逸させ、反撃の剣が彼の身体を切り裂く。
するとまたもや攻撃後の硬直に斧が騎真に炸裂する。
「ぐっ…!」
「…俺はお前のように高度な技術は持っていない。そのガードを無傷で越えることは今の俺には出来ない。ならば」
龍賢は斧を構え直す。
「男らしく我慢比べと行こうか!」
再び攻撃が放たれる。その一撃を騎真はまた逸らせる。
「俺に同じ手は何度も通じん!」
騎真は今度は剣ではなく、蹴りを繰り出す。龍賢の脚を目掛けて放たれるローキックが龍賢に直撃する。
「むっ……」
意識外からの攻撃に意表を突かれた龍賢の体勢が崩れる。その隙を逃さず、騎真は剣を突き出す。龍賢はそれを斧で防ぐ。
だが続くもう片方の剣はかわしきれず、鮮血が飛び散る。
転がりながらも距離をとって龍賢は立ち上がる。
「龍爪双雷斧(りゅうそうそうらいふ)!」
すると龍賢は騎真に向けて斧を投げつける。それは赤黒い雷を纏った二振りの斧は騎真へと向かう。
「チィッ!」
これは防げないと見た騎真は床を蹴ってかわす。先程まで彼が立っていた場所に斧が炸裂し、大爆発を起こす。
その爆風に押されて、転がりながらも騎真はなんとか立ち上がる。だが、立ち上がったその先には龍賢が目と鼻の先に来ていた。
「なっ」
「場所を変えようか。建物を壊しかねん。」
そう言うと龍賢は騎真に掴みかかる。そしてそのまま壁を突き破り、外へと二人は飛び出る。
それと同時に龍賢は騎真を思い切り殴り飛ばす。しかし、騎真も負けじと剣の一撃を放つ。
「俺は負けん!世界を守る……!それが緋威の使命…!俺は立ち止まる訳にはいかんのだ!」
騎真が雄叫びをあげながら二振りの剣を振るう。その攻撃は龍賢に炸裂する。だが、龍賢は攻撃を喰らいながらもその腕を両腕で絡め取って拘束する。
「それがお前の決意なら…!俺は敬意を持って貴様を打ち倒す!」
「武器もない貴様が何を!」
腕を掴まれて、身動き出来ない騎真が吼える。だが、次の瞬間龍賢の角から光の刃が噴出する。
「この一撃で終わらせる!」
龍賢が頭を振り下ろす。避けようにも騎真は両腕を掴まれていて動けない。
「ぐっ…!こんなところで…!」
次の瞬間、光の刃が騎真に直撃する。爆発が起き、騎真は吹き飛ばされて変身が解除される。
「ぐおおっ…!」
地面に倒れ伏した彼の前に同じく変身解除した龍賢が立つ。
「…勝負ありだ。」
「ぐっ……」
傷だらけになりながらも騎真は龍賢を睨む。その時。
「おっ。決着は着いたようだね。」
月乃助がひょっこりと顔を表す。
「月乃助さん。どうやって。」
「ふっ。天才は一手二手自体を予測しているものさ。」
月乃助の横に機械の鳥が止まる。その翼に着いている鋭い刃がキラリも光る。
「…成る程な。」
「助けてくれて感謝するよ。…礼をしたいが、その前に。」
月乃助はかがみ込むと倒れ込む騎真に手を差し伸べる。
「……何の真似だ。」
「乱暴な手段を取られた事は気に入らないが…君の決心は見せて貰った。ならば私が君に言える事はただ一つだ。君に協力しよう。」
「なっ」
「えっ」
月乃助の言葉に騎真だけでなく龍賢も驚く。
「いいのか……私は負けたんだぞ…?」
困惑気味の騎真の手を取り、立たせて月乃助はフッと笑うと。
「私は君に力を見せて欲しいとは言っただけ。負けたからと言って協力しないとは言ってないぞ?」
「確かにそうだが……良いのか?」
「うむ。天才に二言はない。」
どうも釈然としていない騎真にニコニコする月乃助に龍賢が尋ねる。
「……いいんですか?」
「うむ。…どうにも、彼が抱えている案件に少し懸念があってね。それこそ……“シードゥスの再来”かもしれん。」
「!」
月乃助の言葉に龍賢は冷や水をかけられたような衝撃を受ける。シードゥス。前の世界で多くの人の人生を狂わせ、悲劇を生み出した最悪の宇宙寄生体。
それの再来とまで言わせうる事態が迫っていることに龍賢は強い危機感を抱く。
「お姉ちゃん!」
どこかから声がする。声がした方を向くと、そこには龍斗に肩を貸してこちらへと向かってくる龍斗と深春がいた。
「深春!」
「龍斗!」
龍賢が二人に駆け寄る。そんな彼に龍斗は親指を立てて、ニッと笑う。
「どうだ……深春さんを助け出せたぜ。」
「あぁ。やったな、龍斗。」
「うん。龍斗君が助けてくれたの。」
三人が和気藹々とする中、騎真の方にも。
「兄さん!」
「……騎助か。」
「任せて兄さん。今度こそ…!」
騎助を筆頭に三人娘と部下達が現れる。騎助は傷だらけだが、四人を見るとブレスレットを構える。
「いや、いい。もう大丈夫だ。」
そんな彼を騎真は腕で制する。制された彼はブレスレットを下ろし、尋ねる。
「…良いのかい?」
「あぁ。彼女は私達に協力すると言ってくれた。ならばもう戦う必要もない。」
騎真は弟達を下がらせると、月乃助に右手を差し出す。
「ふっ。話が早い男は好きだよ。」
月乃助もそれに応えようと手を差し出した。
──その時だった。パァンッと渇いた弾けるような音が鳴り、月乃助の顔にピチャリと生暖かい液体がかかる。
「──な」
「え。」
目の前にいた騎真が崩れ落ち、ブレスレットがどこかへと転がっていく。倒れた彼から血の赤い波紋が広がっていく。月乃助は顔にかかった彼の血を拭うことも忘れ、彼に寄り添う。
「お、おい!君!」
「兄さん!」
「騎真様!」
倒れた彼に弟を始めとした部下達が駆け寄る。
「あーらあらあら。騎真様ぁ。いけませんねぇ。」
カラカラと鈴を転がしたような声がする。嘲りと憤怒が混じったような笑いと共に一人の女性が転がっていたブレスレットを拾い上げる。
そこにいたのは銃口から硝煙を立ち昇らせる銃を握ったメガネをかけ、青のメッシュが入った銀髪の女性……氷室とその付き人“灰被姫”、そして少し驚いたような男、貝塚だった。
そんな彼女を見た騎助が睨み、憤怒の表情で叫ぶ。
「お前…!誰がお前を拾い、研究資金を提供したと思っているんだ!」
騎助の怒りに当てられても、氷室はどこ吹く風と言った様子で飄々と応える。
「えぇ。ええ。それはそこに倒れている騎真様ですとも。それについてはもちろん感謝してるわ。けど。」
次の瞬間先程までの態度から豹変して、怒りの表情を表に出す。
「“私を捨てて、その女を取る”なんて、許せるハズないでしょう?」
そう吐き捨てる氷室に月乃助が立ち上がる。
「…氷室、君って奴は……!」
「ひ、氷室君。怒る気持ちは分かるが、今その行動を取るのはどう考えても悪手だよ…!」
怯える貝塚の言う通りで、相手は殺気立つ騎助達にそれらを打ち負かした龍賢達。それに対して戦えるのは“灰被姫”のみ。
“灰被姫”もそれを理解しているのか、若干冷や汗をかいている。
月乃助が絡むと爆発するのは知っていたが、ここまでとは思わなかった二人がどうしたものかと思案しつつ、一触即発の雰囲気が流れるその時。
ピリッと。龍賢と龍斗、月乃助の戦いの中で研ぎ澄まされた直感が警鐘を鳴らす。
「なんだ…!」
三人が思わず構えたと同時に空から黒いモヤのような闇が降ってくる。
「なっ、えぇっ…」
突然降り注いだ闇に皆が警戒する中、降り注いだ闇の中から一人の女性が現れる。
整った切れ目に長い黒髪、漆黒のドレスに身を包んでいるが、何より彼女の纏う死の気配がこの場にいる全員を威圧する。
「ふふふっ。良いわぁ。衝動的で、暴力的で、無鉄砲な貴女の怒り。いつ見てもたまらない…。」
黒い女は黒く濁った瞳で氷室を見ながら、冷たい笑みを浮かべる。だが、そんな彼女を見た貝塚があることに気づく。
「…えっ。君、塩田君か…?」
「あら。気づかれました?」
黒い女……塩田が貝塚にニコリと微笑みかける。自分といた時は鉄仮面のように無表情だった彼女の笑みは彼に薄気味悪い恐怖を掻き立てる。
「ですが貝塚様。私の本当の名前は塩田ではありません。」
彼女は両腕を広げ、言う。
「私の名前は“グリムネビュラ”。闇より出し、闇に還るもの。」
「グリム…ネビュラ…?」
グリムネビュラと名乗った彼女は右手をかざすと、そこから黒いモヤのような闇を噴出し、その闇は氷室と“灰被姫”を包み込み、その闇が晴れると、そこに二人の姿は無かった。
「えっ……、二人は?」
「ええ。彼女達は別の場所に移動させました。まだやって貰いたいことがありますので。」
「わ、私は?」
貝塚が尋ねると、彼女はニコッと微笑みかける。
「貴方は良い“隠れ蓑”でした。私が力を取り戻すために必要な人材を持つ組織を動かせる駒。その気があったにしても無かったにしても大いに役立ったのは事実です。ならばそれに報いるのが私の務め。」
彼女はスッと彼に手を翳す。すると彼女の手から黒いモヤのようなものが溢れ出す。
「祝福を授けましょう。古い体を捨て、“新人類”として生まれ変わるのです。」
次の瞬間黒いモヤが爆発的に広がり、貝塚を包み込む。暗黒に包まれ、何かを潰すような、液体が弾けるような音に混じり、彼の悲鳴が辺りに響く。
「貴様っ、何を……!」
龍賢が叫ぶ。しかし、彼女は恍惚な笑みを浮かべながら言う。
「すぐに分かりますわ。」
しばらくすると暗闇が晴れる。だが、そこにいたのは太り気味の中年の男性だった貝塚ではなく、醜く隆起した筋肉に、飛び出んばかりにまで見開いた双眸をもち、口から涎を垂れ流す鋭い剣のような右腕と熊のように太く強靭な左腕を持った怪物だった。
「────ッッ!!!」
怪物は低く、くぐもった悍ましい声にもならない声で叫ぶと剣を振るう。
振るわれた斬撃は周囲のあちこちの壁や建造物を切り裂いて砕き、辺りで悲鳴が上がる。
「ふふふっ。良いお姿ですわ貝塚様。それでは、後はお任せしますね。」
そう言うとネビュラは闇を噴き出し、それに紛れて姿を消す。
驚く騎助の部下達に怪物は狙いを定めたのか、咆哮を上げながら突撃してくる。
「龍斗!彼を頼んだ!」
「は?っておい!?」
龍賢はそう言うと赤黒い龍人に変身すると、剣を構えて怪物に掴み掛かり、部下達から狙いを外す。
「あぁ、もう!なんだか知らねぇけど!」
一方の龍斗も魚人に変身すると、倒れている騎真に手を翳す。
すると彼の手から水が放たれ、それは傷口へとかかると、みるみる内にその傷を修復していく。
「兄さん!……治してくれた、のか。」
尋ねる彼に龍斗は少しバツが悪そうに頭をかくと、ぶっきらぼうに言う。
「…目の前で死なれちゃ気分悪いからだよ。…月乃助さん、彼らを頼みます!」
「任せたまえ。」
龍斗はそう言うと、怪物と化した貝塚を抑える龍賢に加勢しに走り出す。
一方龍斗に治療された騎真はムッ…と唸った後、薄く目を開ける。
「兄さん!大丈夫かい!?」
「騎助……。」
彼は震えながら上半身を起こすと、騎助の胸に拳を当てて、言う。
「……彼らに、力を貸してやれ。世界を……救うんだ。緋威家の……使命を……果たせ…。」
騎真はそう言うと、フッと糸が切れたように再び倒れる。
「兄さん!」
「心配しなくていい。気絶しただけ。」
倒れた彼の脈を測った月乃助は騎助にそう言い、深春に目配せをすると。
「深春。取り敢えず彼らが気兼ねなく戦えるようこの場を離れるぞ。」
「うん。」
月乃助と深春は気絶した騎真の肩に手を回して支えながらその場を去ろうとする。
そんな彼女達に騎助が頭を下げる。
「……感謝する。そして、すまない。僕は……」
「…今は、良いわ。それより、貴方にはやるべきことがあるんでしょう?」
「すまない。アンリ、イユ、ウツキ!みんなの避難を頼む!」
「「「了解!」」」
深春がそう返すと、騎助はぺこり、と頭を下げ、部下に指示を出すと、戦いの場へと走り出す。
そんな彼を背に月乃助が深春に言う。
「すまないな深春。私のせいで迷惑をかけた。」
「ううん。良いのお姉ちゃん。確かにびっくりしたけど。」
深春は少し照れ臭そうにはにかんで。
「おかげで、龍斗君の良いとこ、知れたし。ちょっと見直しちゃったと言うか、男らしいとこ見れたって言うか。」
「………へぇ。ふーん。」
嬉しそうにそう言う深春を見た月乃助の胸に、何故か龍斗への敵意が渦巻いた。
「うおおっ」
「なんて力だっ」
二人がかりで貝塚を抑えこもうとするが、見た目通りの怪力を誇る彼の攻撃は凄まじく、ただでさえ緋威兄弟との戦いで消耗している二人は圧倒される。
貝塚の振るう右腕の剣が龍賢を切り裂き、左手の爪が龍斗を吹き飛ばす。
「ぐおわっ!」
龍賢は地面を転がり、龍斗は壁に叩きつけられる。
「くっ…」
「あーくそっ!万全だったらこんな奴…!」
愚痴りながらも二人は立ち上がり、武器を構える。そんな二人へ貝塚が絶叫しながら攻撃を仕掛けようとしたその時。
「ハァァッ!」
雄叫びと共に黄金の騎士が貝塚に飛び掛かる。黄金の戦士こと騎助は勢いそのまま剛剣を振り下ろす。凄じい一撃は貝塚の身体を大きく切り裂き、後退させる。
「……お前っ」
「……緋威騎助。恥を承知で、義によって助立ちさせてもらう。」
そんな彼の肩に手を置くと、龍斗は言う。
「…頼んだぜ。」
「うむ。一緒に戦おう。」
龍賢もそれに呼応するように、立ち上がるとマントを翻した強化形態へと変貌し、三人は並び立つ。
「…感謝するよ。」
「よっしゃ、行くぞっ!」
龍賢達が走り出す。先陣を切ったのは騎助だった。
「我が一撃!受けてみよ!」
騎助は先行すると剛剣を振り下ろす。
先程その一撃を受けた貝塚はまともに受ける訳にはいかぬと防御の構えを取る。しかし、その一撃は──防御不可の渾身の一撃。
振り下ろされた斬撃は貝塚の身体を切り裂きこそ出来なかったが、右腕の剣をへし折って砕く。
「相変わらずヤベェなアレ…。」
その恐ろしさをよく知っている龍斗が若干引き気味に呟く。剣をへし折られた貝塚が悲鳴に近い叫びを上げながら後退する。
だが、追撃せんと龍賢が赤い閃光となって駆ける。
「気の毒だが…倒す!」
それに気づいた貝塚は左腕の爪を振るう。それに対して龍賢は大剣に雷を纏わせてぶつける。
「赤雷龍斬閃!」
攻撃がぶつかり合う。剣と爪は一瞬せめぎ合う。だが、その均衡は崩れ、龍賢の一撃は爪を粉々に砕く。
絶叫する貝塚に、龍斗は剣を向ける。
「亡海荼毘死突!」
龍斗の背後から上がった水柱が貝塚に向かって行き、次々とその身体に突き刺さり、大きく吹き飛ばす。
「即席にしちゃ、中々良いんじゃないか?」
「前から思ってたんだが。君達のネーミングセンス中々いいね。亡海荼毘死突…とか、赤雷龍斬閃とか。僕も技名には一家言あってね…」
「やめろ改めて言われるとなんか恥ずかしい。」
そう言いながら三人は改めて武器を構える。
「終わりにするぞ。」
龍賢は大剣を構えると、腕の筋肉を隆起させると、凄じい勢いで貝塚へと投擲する。
大剣は狙い違わず貝塚に炸裂すると、赤黒い雷を発して彼の身体の拘束する。
「行くぞ!」
「任せろ!」
「合わせる!」
龍賢達は飛び上がって渾身の蹴りを放つ。騎助と龍斗が続けざまに蹴りを放ち、貝塚は大きくよろめく。
そして体勢を崩し、隙だらけとなった彼に龍賢はトドメの蹴りを繰り出す。
「雷電凶撃貫爪脚!!」
龍賢の放った一撃は大剣に当たると、赤黒い雷と衝撃が大剣を通して貝塚を灼き、そして貫いた。
そして三人が着地すると、同時に背後で貝塚はくぐもった声を上げながら倒れて大爆発を引き起こす。
背に爆発の熱を感じながら、三人は互いに腕を合わせて、健闘を称えた。
「なんて力だっ」
二人がかりで貝塚を抑えこもうとするが、見た目通りの怪力を誇る彼の攻撃は凄まじく、ただでさえ緋威兄弟との戦いで消耗している二人は圧倒される。
貝塚の振るう右腕の剣が龍賢を切り裂き、左手の爪が龍斗を吹き飛ばす。
「ぐおわっ!」
龍賢は地面を転がり、龍斗は壁に叩きつけられる。
「くっ…」
「あーくそっ!万全だったらこんな奴…!」
愚痴りながらも二人は立ち上がり、武器を構える。そんな二人へ貝塚が絶叫しながら攻撃を仕掛けようとしたその時。
「ハァァッ!」
雄叫びと共に黄金の騎士が貝塚に飛び掛かる。黄金の戦士こと騎助は勢いそのまま剛剣を振り下ろす。凄じい一撃は貝塚の身体を大きく切り裂き、後退させる。
「……お前っ」
「……緋威騎助。恥を承知で、義によって助立ちさせてもらう。」
そんな彼の肩に手を置くと、龍斗は言う。
「…頼んだぜ。」
「うむ。一緒に戦おう。」
龍賢もそれに呼応するように、立ち上がるとマントを翻した強化形態へと変貌し、三人は並び立つ。
「…感謝するよ。」
「よっしゃ、行くぞっ!」
龍賢達が走り出す。先陣を切ったのは騎助だった。
「我が一撃!受けてみよ!」
騎助は先行すると剛剣を振り下ろす。
先程その一撃を受けた貝塚はまともに受ける訳にはいかぬと防御の構えを取る。しかし、その一撃は──防御不可の渾身の一撃。
振り下ろされた斬撃は貝塚の身体を切り裂きこそ出来なかったが、右腕の剣をへし折って砕く。
「相変わらずヤベェなアレ…。」
その恐ろしさをよく知っている龍斗が若干引き気味に呟く。剣をへし折られた貝塚が悲鳴に近い叫びを上げながら後退する。
だが、追撃せんと龍賢が赤い閃光となって駆ける。
「気の毒だが…倒す!」
それに気づいた貝塚は左腕の爪を振るう。それに対して龍賢は大剣に雷を纏わせてぶつける。
「赤雷龍斬閃!」
攻撃がぶつかり合う。剣と爪は一瞬せめぎ合う。だが、その均衡は崩れ、龍賢の一撃は爪を粉々に砕く。
絶叫する貝塚に、龍斗は剣を向ける。
「亡海荼毘死突!」
龍斗の背後から上がった水柱が貝塚に向かって行き、次々とその身体に突き刺さり、大きく吹き飛ばす。
「即席にしちゃ、中々良いんじゃないか?」
「前から思ってたんだが。君達のネーミングセンス中々いいね。亡海荼毘死突…とか、赤雷龍斬閃とか。僕も技名には一家言あってね…」
「やめろ改めて言われるとなんか恥ずかしい。」
そう言いながら三人は改めて武器を構える。
「終わりにするぞ。」
龍賢は大剣を構えると、腕の筋肉を隆起させると、凄じい勢いで貝塚へと投擲する。
大剣は狙い違わず貝塚に炸裂すると、赤黒い雷を発して彼の身体の拘束する。
「行くぞ!」
「任せろ!」
「合わせる!」
龍賢達は飛び上がって渾身の蹴りを放つ。騎助と龍斗が続けざまに蹴りを放ち、貝塚は大きくよろめく。
そして体勢を崩し、隙だらけとなった彼に龍賢はトドメの蹴りを繰り出す。
「雷電凶撃貫爪脚!!」
龍賢の放った一撃は大剣に当たると、赤黒い雷と衝撃が大剣を通して貝塚を灼き、そして貫いた。
そして三人が着地すると、同時に背後で貝塚はくぐもった声を上げながら倒れて大爆発を引き起こす。
背に爆発の熱を感じながら、三人は互いに腕を合わせて、健闘を称えた。
──数日後。暖かい春の陽気に撫でるような心地よい風を受けて、木々がそよぐ、並木道を龍賢、龍斗、深春が歩いていた。
「いやー、あの後色々大変だったね。」
「うん。あーいうはちゃめちゃはもう懲り懲りなんだけどね。」
深春が言う通り、あの後三人は月乃助と共に後日緋威兄弟に呼ばれ、改めて謝罪を受けた。
兄の方は龍斗がすぐに治癒を行ったおかげで大事にならずに済んだが、しばらくは安静の必要があり、騎助が代理に務めることなっている。
「ま、彼女達がいるからなんとかなるよ!兄さんはゆっくり休んでくれ!」
「「「任せてくださーい!」」」
そう言いながら笑う騎助と彼の周りで囃す彼女達を見て、騎真ははぁとため息をついて。
「女癖とすぐ調子に乗る悪癖が無ければもっと安心なんだがな…。」
と、頭を抱えていた。そんな事を語り合う龍斗と深春を見て、龍賢が尋ねる。
「それにしても、二人とも、随分と近いが、付き合っているのか?」
龍賢が尋ねると、二人はビクッと驚き、顔を赤くするが、一呼吸おいて。
「…あぁ。その…実は。」
「つい昨日からだけど、うん。」
照れ臭そうに龍賢に告白する二人。二人が恋仲になった。それを聞いた龍賢は、少し間を置いてニコリと笑うと。
「そうなのか。それはめでたいな。龍斗のケツをシバいた甲斐があった。」
「ケツを…?」
「あぁ。実はな……」
「わーっ、わーっ!!そーいうのは言わなくて良いんだよ!」
喋ろうとする龍賢を阻止しようとする龍斗。そしてそれを可笑しそうに笑う深春。ついぞ前の世界では見られなかった光景を前に龍賢の胸に去来するのは感無量の喜びと少しの喪失感。
(そうか……おめでとう深春さん、龍斗。そしてさようなら。俺の……初恋。)
見上げれば憎々しいほど、呆れるほどに青空が晴れ渡っていた。
「いやー、あの後色々大変だったね。」
「うん。あーいうはちゃめちゃはもう懲り懲りなんだけどね。」
深春が言う通り、あの後三人は月乃助と共に後日緋威兄弟に呼ばれ、改めて謝罪を受けた。
兄の方は龍斗がすぐに治癒を行ったおかげで大事にならずに済んだが、しばらくは安静の必要があり、騎助が代理に務めることなっている。
「ま、彼女達がいるからなんとかなるよ!兄さんはゆっくり休んでくれ!」
「「「任せてくださーい!」」」
そう言いながら笑う騎助と彼の周りで囃す彼女達を見て、騎真ははぁとため息をついて。
「女癖とすぐ調子に乗る悪癖が無ければもっと安心なんだがな…。」
と、頭を抱えていた。そんな事を語り合う龍斗と深春を見て、龍賢が尋ねる。
「それにしても、二人とも、随分と近いが、付き合っているのか?」
龍賢が尋ねると、二人はビクッと驚き、顔を赤くするが、一呼吸おいて。
「…あぁ。その…実は。」
「つい昨日からだけど、うん。」
照れ臭そうに龍賢に告白する二人。二人が恋仲になった。それを聞いた龍賢は、少し間を置いてニコリと笑うと。
「そうなのか。それはめでたいな。龍斗のケツをシバいた甲斐があった。」
「ケツを…?」
「あぁ。実はな……」
「わーっ、わーっ!!そーいうのは言わなくて良いんだよ!」
喋ろうとする龍賢を阻止しようとする龍斗。そしてそれを可笑しそうに笑う深春。ついぞ前の世界では見られなかった光景を前に龍賢の胸に去来するのは感無量の喜びと少しの喪失感。
(そうか……おめでとう深春さん、龍斗。そしてさようなら。俺の……初恋。)
見上げれば憎々しいほど、呆れるほどに青空が晴れ渡っていた。
とある喫茶店の個室で、二人の少女が向かい合って座っていた。
少女、月乃助が対面に座っている相手に向けて、資料を見せながら、言う。
「……これは先日の一件で、緋威騎真から得た情報を解析したものだがね。」
相手はつまらなさそうに資料を受け取ると、ペラペラと読み始める。
「この世界で8年前に宇宙から降り注いだ隕石。恐らくこれに乗って地球に飛来したのが先日現れた謎の人型怪生物、奴は自身を“グリムネビュラ”と名乗っていた。そして奴は人間を怪物へと変貌させる能力を所持している。恐らくだが、まだ他にも色々隠し持っているだろうが……まぁ人類にとって非常に危険な存在だと断定して間違いないだろうな。」
月乃助が黙々とそこまで語ると、対面の少女は資料を机に置くと、少々めんどくさそうに言う。
「……んで?そんなこと私に話してなんだって言うのよ。」
対面にいた紫の長髪に翡翠色の瞳の少女、紫水龍姫が月乃助に尋ねる。
「なーに。私も人の子でね。ただでさえ、“どこの誰かさん”のせいで、あんなに苦労したいたいけな少年少女をこれ以上巻き込むのは少々気が引けてね。」
「あら、チクチク言葉をどうもありがとう。嫌味を言いに来たなら、帰らせて貰うわよ。言っとくけど私がいなかったらあのクソ爬虫類の洗脳からアンタら帰ってないからね。」
若干不機嫌そうに龍姫が言い返す。正直前の世界でのいざこざは先日の一件で精算したのは月乃助も重々承知しているが、前の世界で妹を殺された事を思うと、つい、語気に嫌味が混じってしまう。
月乃助は少し、呼吸を整えて落ち着くと、フッと笑って答える。
「なぁに。君には付き合って欲しいのさ。怪物退治にね。」
少女、月乃助が対面に座っている相手に向けて、資料を見せながら、言う。
「……これは先日の一件で、緋威騎真から得た情報を解析したものだがね。」
相手はつまらなさそうに資料を受け取ると、ペラペラと読み始める。
「この世界で8年前に宇宙から降り注いだ隕石。恐らくこれに乗って地球に飛来したのが先日現れた謎の人型怪生物、奴は自身を“グリムネビュラ”と名乗っていた。そして奴は人間を怪物へと変貌させる能力を所持している。恐らくだが、まだ他にも色々隠し持っているだろうが……まぁ人類にとって非常に危険な存在だと断定して間違いないだろうな。」
月乃助が黙々とそこまで語ると、対面の少女は資料を机に置くと、少々めんどくさそうに言う。
「……んで?そんなこと私に話してなんだって言うのよ。」
対面にいた紫の長髪に翡翠色の瞳の少女、紫水龍姫が月乃助に尋ねる。
「なーに。私も人の子でね。ただでさえ、“どこの誰かさん”のせいで、あんなに苦労したいたいけな少年少女をこれ以上巻き込むのは少々気が引けてね。」
「あら、チクチク言葉をどうもありがとう。嫌味を言いに来たなら、帰らせて貰うわよ。言っとくけど私がいなかったらあのクソ爬虫類の洗脳からアンタら帰ってないからね。」
若干不機嫌そうに龍姫が言い返す。正直前の世界でのいざこざは先日の一件で精算したのは月乃助も重々承知しているが、前の世界で妹を殺された事を思うと、つい、語気に嫌味が混じってしまう。
月乃助は少し、呼吸を整えて落ち着くと、フッと笑って答える。
「なぁに。君には付き合って欲しいのさ。怪物退治にね。」
To be continued…
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(続編や派生作品が有れば、なければ項目ごと削除でもおk)