9. 1人の少女、2つのこころ(前編) - 創作女児小学生ズ@wiki | 女児ズwiki

9. 1人の少女、2つのこころ

「はぁ、はぁ、はぁ……！」
走る。走る。走る。
息を切らし、腕を振り上げ、ただ、
形振り構わずに、走る。

オレは、まだ。
こんなところでは終われない。
やらなきゃいけない事がある。
救わなきゃいけない人がいる。
だから。
先へ────。

「アアア"アアア"ア"アアアア"ァァァ"───────ッ！！！！」

「……チッ。うるせぇ声あげやがって。
何が起きてんのか知らねぇが、
とにかく、一旦退いて状況の立て直しだ」

後ろの部屋からは、まるで獣の咆哮のような声が響いて来る。
Dr.マッドの精神が不安定になった事で、
禁忌符号が暴走しているのか…………？

「私は、。なんで……違う，……"".,@"))))
私はただ¿%°°°°°こノ世界ヲ%%%-//::……
守り,,,?たカっただケなのに……．．．」

口から出る音は、言葉にすらなっていない。
もう、一思いに倒してやるべきだ。
覚悟を決め、はもはもから託されたエネルギーを拳に込めながら、後ろを振り返る。

…………そこにいたのは、もはやさっきまでの
Dr.マッドではなかった。

彼女の身体は黒い霧に包まれ、
口からも常に「ソレ」が漏れ出していた。
目は虚ろを見つめ、足取りもおぼつかない。
まるで、ゾンビのような姿に
変わり果ててしまっていた。

「ッ……どうなってんだ、クソッタレ……。
あいつを倒せば、全て解決するのか……？」
「……………………」
スッ、と。
Dr.がこちらに手を伸ばす。

次の瞬間。
ドゴッ！！！！
「ごはぁっ！？」

何か巨大なものに、
体当たりされたような感覚。

オレはいとも簡単に吹き飛ばされ、
地下の壁に叩きつけられる。

「ぐっ………………！」
再び、Dr.の手が、今度は上に掲げられる。
すると……。

「ギギギギギィ！！」
目の前に、突如として機人が出現した！？

「なっ……！？なんだコリャ……！！
まさか、これは…………」

夢の世界の力、か……！！
元々Dr.がこの世界を「現実の世界」に上書きするために割いていたリソースを、
正気を失った今、無意識に敵であるオレ達を排除するために使っているのだとしたら。
夢の世界そのものが、オレ達の敵に回ったようなものだ。

…………それでも。
オレははもはもに、奴を倒すと誓った。
諦めるわけには、行かねぇ！！

「おおおおぉらあああああぁぁっ！！！！」
2人分のエネルギーを拳に纏わせ、
Dr.に向かって突撃する。

「°###邪.!魔」

今度は、ガラガラと音を立てながら
巨大な門が出現した。

ドガァン！！！！！

オレの渾身のパンチは、その門によって阻まれてしまう。
「っぐ…………！！
メチャクチャだろ、こんなん……！！」

と。
何かの影が、オレの上にかかる。
思わず、上を見上げると。

巨大な岩が、降ってきている！？
「っクソッ！！」

ズズゥ……ン……！！

呼吸を整える暇もなしかよ！！
ヤツはオレ達の事を、
完全に敵と捉えたわけだ。

「--//>==><<消えて::」

一瞬にして、無数の機人がオレ達を取り囲むように現れた。
本ッ当に……何でもアリか！
「チッ……こりゃ、キツイかも、な……」

無数の銃口が、こちらに向けられる。
ぐれあ達の力でも、これら全てを防ぐのは不可能だろう。

………………万事休す、か。

ズガガガガガガガ！！！！！！！

「『絶対不可侵領域』！！！！」
ズォッ！！！！

目の前に、ずっとオレ達を守ってくれていた
結界が、展開される。

ガキギギギギギン！！！！！
バギバギバギン……！！！

銃弾は全て結界に弾かれ、跳弾が機人たちの同士討ちを起こしている……！

「かっ………………
神楽坂さんっ！？」

「なんとか、間に合った、わね……！
みんな、怪我はない？」
「どっ、どうしてここに！？
神楽坂さん、学園の外には出られないはずじゃ……」
「詳しい話は後。
外では私の結界は短い間しか展開できない。
今はとにかく、この場を切り抜けるわよ！」

「ふん、まともに戦えないヤツが
何を言ってる。ここは私達に任せろ！！」
「カカカ、オヌシも丸くなったもんじゃの。
良い良い。さぁ、行くぞ！！」

あそこにいるのは……
消えたはずののじゃ猫と、
消した当人の純乃……！？
なんだあの組み合わせ！？

「色々あってね。
みんな、本当に大変だったわね……。
こんな場所に送り出してしまって、ごめんなさい。
……後は、私達に任せて！」

「随分と醜い姿になったのぉ、Dr.マッド！
たった１つの悲願すら忘れたか！！」
「#°°°°°のじゃ……|\\|\\ロリ、猫<==！！」

「Dr.、我が生みの親よ。
すまない。私は貴女よりも……あの子達を、
守りたくなってしまった。
これより私は、貴女の敵となる！！
……『異界侵門』！！！」

ズォッ……！！！

機人たちが、純乃の手から現れた黒い穴へと
次々に吸い込まれていく。
相変わらず、とんでもねぇ能力だ……。

「…………なんで」
「……ん？」
「なんで、どいつもこいつも、
私の敵になるんだ！！！！！
私が、何をしたと言うんだ！！？？
私の何がいけないんだよ！！！！！！
なんで……私が…………こんな目に遭わなきゃいけないんだ…………ッ！！！」

突然、Dr.が感情を露わに叫び出した。
さっきまでの様子とは打って変わって、
普通に話すことが、できている……？

「私は！！！誰にも迷惑を
かけていなかったのに！！！
なんで、皆して私を拒絶するんだ！！！
私は…………ッ！！！
私は、ただ。
はもはもちゃんに、
笑っていて欲しかっただけなのに……！！」

「………………！！」
思わず、はもはもの最期の顔が頭を過る。

「なんで…………ッ！！
なんで、死んじゃうんだよぉっ……！！
はもはもちゃん………………！！」

「っ……、顔が見えんから、まさかとは
思うておったが…………！！」
「……気付いて、いたのね。
私達が、あの子に隠していたこと……。
うっ、うううっ…………！！」

「お前たちが…………
お前たちが余計な口出しさえしなければ！！！
誰も死なずに済んだんだぞ！！！！
あの子を殺したのは……お前たちだ！！！！！」

ズォッ！！！！

再び、Dr.の周りを黒いオーラが覆う。
精神がかなり不安定になってやがる。
このままじゃヤベェぞ……！

「とにかく、全員走るのじゃ！！
Dr.からも、機人からも離れろ！
この地下空間から、地上に出る！！」

……………………

………………………………

…………………………………………

外は、酷い有様だった。
大地震でも起きたように、
学園そのものが潰れてしまっている。
「なんだこりゃ……！さっきのは
ここまで大きな揺れじゃなかっただろ？」
「ワシらがここに辿り着いた時には、
まだ学園は存在していた。
……Dr.マッドの精神が不安定になった事で、
この夢の世界の基盤自体も脆くなっておるのじゃろうな」

ぐらりと、大きく地面が揺れる。
なにか、尋常じゃない事が起きている。
そんな気がした。

「…………来たか。
はもはもちゃんという『楔』が消えて
しまった事で……夢の崩壊が始まっておる。
Dr.マッドが生きておる限り、完全に消滅は
せんじゃろうが……」
「崩壊に巻き込まれてしまったら、無事ではいられない。
……とにかく、符号の持ち主であるDr.を倒さなきゃ
いけないという事実は変わらないわ」

「……お前達は、冷静だな。
所詮は子供1人の命。
世界には代えられない、ってわけか？」
さっきまで増え続ける機人と戦っていた
純乃が、会話に割り込んで来た。
「そんな事ない！！私にとってあの子は、
大切な……本当に大切な、子供のような存在だった！！
……だけど、今は悲しんでいる場合じゃない。今にも消されてしまいそうな現実の世界を救わなくちゃ、はもはもちゃんの死が無駄になってしまう」
「ウム。ワシにとってもあの子は…………
可能性じゃった。光り輝く未来そのもの。
……あの子を失った悲しみは、心の一部を
抉られたような感覚じゃ。
じゃが、それをいつまでも引きずっていてもはもはもちゃんが生き返るわけでもない。
今ワシらに出来る事をやるしかないんじゃ」

「それが、Dr.を倒してこの世界を滅ぼす
事だと？私はあくまでこの子達を救うために
ここまで来た。仮定符号を使って、お前を学園から出してもやった。
私に世界を崩壊させるのを手伝えと言うのなら、お断りだ。
……お前達は、なぜ最初から諦める？
なぜ他の策を探さない？
この世界と現実の世界、どちらかを諦めなければならない理由があるのか？」

……なんてこった。
コイツは、まだ諦めていないのか。
「全てを救う」という、普通なら誰もがすぐに諦めるであろう選択肢を……！

「……方法が、あると言うの？
そんな魔法みたいな解決策が……！」
「可能性は、ゼロじゃない。
お前達、そして子供達の協力が要る。
それと……える、君の力もだ」
「えっ？わた、わたし……？」
「待て。その作戦、成功率はどのくらいなんじゃ？水を差すようで悪いが、奇跡を信じるレベルの話なら……」

ちらり、と純乃がこちらを見る。

「案ずるな。成功率は今の時点で五分五分と言ったところだ。Dr.の符号の不安定さだけは予測がつかない要素だが、それでも……奇跡を信じるよりはマシだろう」
「……良いじゃろ。乗った。
オヌシを信じよう。夢の住人、星降純乃」

「私の作戦はシンプルだ。
私の能力を使い、ここにいる全員を
別世界に飛ばす。そうすれば、お前達は
夢の世界の崩壊に巻き込まれる事なく、
生き残る事ができるはずだ」
「な、ここにいる全員をじゃと！？
簡単に言うがの、オヌシはワシ1人を飛ばすだけでも相当なエネルギーを使っておったではないか。
全員となればどれほどの……」
「私1人では、命を使い果たしても不可能
だろうな。だが、ここの地下には
この作戦にうってつけの物があるだろう？」
「！…………時空転移装置……！」

あの機械を、純乃の能力の
補助に使うってわけか……！

「もちろんそのままでは使えないから調整が必要だ。そこで、える。君の力を借りたい。
あれの動作対象を、Dr.マッドから私に切り替える必要がある。時間との勝負だ。
失敗は許されない。いけるか？」
「…………うんっ、わたし、やるよ！
みんなを助けるためだもん！」
「よく言った。流石は私達の命の恩人だ」
「そうなると、チーム分けが必要ね。
装置の調整をする間Dr.マッドを
引きつけておく班、えるちゃんを1人きりにはできないから彼女を守る班、湧き出て来る機人に対応する班、いざという時に他の班を助けられるように待機する班……ってところかしら？」
「えるの事は私が守る。何があってもだ。
だから班は必要ない。その分、他の班の人員を増やしてくれ」

状況が状況だけにじっくりと班分けを考えている時間はない。今のところDr.が地上まで追って来る様子はないが、駆動音を聞く限り機人は増え続けているようだ。
今となっては1体1体は大した敵ではないが……それでも、銃撃されれば危険な存在である事に変わりはない。

「よし、急拵えのチームじゃが……各々、自分の役割を果たすのじゃ！！せっかく生き残る希望が見えたのじゃから、絶対に死ぬな！行くぞ！！！」
「「「うん！！」」」

第9章(中編)へ