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更新日:2023/09/30 Sat 19:57:50
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セブンスカラー
セブンスカラー
「……珍しく君からラブコールがあったかと思ったら……どういう状況なんだいこれ。」
「どうもこうも見た通りよ。黒鳥が男の子拾ったって言うから心配で見に来たら、変な奴らの襲撃にあったのよ。」
赤羽より連絡を受けた月乃助が車で指定された場所で駆けつけると、辺りは騒然としており、向こうには壁に穴が開いた旅館に警戒線を引く警察、そしてそれを面白そうに見る野次馬達だった。
何事かと呆然としていた月乃助に物陰に隠れていた赤羽が話しかけてきたと言うわけだ。
車の中で話を聞いていた月乃助は額に指を当てて唸りながら、情報を整理した彼女はハァと溜息をつくと。
「……雪花姉妹と言い、君達はこの世界でも厄介ごとを持ってくるね…。」
「しょうがないでしょ。文句なら黒鳥に言いなさいよ。アイツが持って来たんだから。」
後部座席に座り、何処から取り出したのか絆創膏を貼りながら赤羽がそう言った瞬間、コンコンと車の扉がノックされる。
「うおっ。」
ノックされた方を振り向いた月乃助が思わず声を漏らす。
何故ならそこには多少傷だらけだが、えらく目の座っている黒鳥がそこにいたからだ。
「びっくりした、どうしたんだい君。」
「…月乃助さん、来てたんですね。」
雰囲気に気圧されながら、月乃助が尋ねると、黒鳥は車の中に入り、乱れた髪を掻き上げながら。
「彼が攫われた。追いかけて、彼を取り戻して、家に帰す。」
「攫われたって言うのは、君が拾った彼かい?しかし、追いかけるって言ったって、心当たりでもあるのかい?」
月乃助がそう言うと、黒鳥は窓の外に目をやる。彼女の視線には烏がおり、見つめられた烏はカァッと、彼女に呼応する様に鳴く。
「…烏に追跡させてます。移送させた場所を突き止めたら、彼らが何かをする前に仕掛けます。」
「そういや君感知担当だったね…。」
月乃助の言葉をよそに黒鳥は口に手を当て、何かを思案するうに険しい顔をする。
「何考えてるのよ。」
赤羽が尋ねると、黒鳥は。
「……さっき戦ってた相手の言葉が気になって。」
「言葉?」
「“普通の世界では、彼は生きられない”……」
「なに、それ?」
「分からない……だから、ソイツに聞くしかない。……けど。」
黒鳥は自分の掌に視線を落とす。
「……私の力は、“強すぎる”…。」
黒鳥達の力はそもそも人間よりか遥かに強力なシードゥス達に対抗する為のものだ。
その力を人間相手に向ければ、その命を奪う事は容易い。先程の戦いも黒鳥達が本気になれば、これ程傷を負う事も無かった。
しかし、それは彼女達の望むところではない。だが、二人が戦った相手は手加減して勝てるような相手ではない。
その事に赤羽も黙ってしまう。
二人が思案していると、月乃助が言う。
「なら、お手本になりそうな“彼女達”に聞いてみるかい?」
「?」
「彼女達?」
「君達もよく知っている二人だよ。」
彼女の言葉に疑問符を浮かべる彼女に、月乃助はそう笑って返した。
「どうもこうも見た通りよ。黒鳥が男の子拾ったって言うから心配で見に来たら、変な奴らの襲撃にあったのよ。」
赤羽より連絡を受けた月乃助が車で指定された場所で駆けつけると、辺りは騒然としており、向こうには壁に穴が開いた旅館に警戒線を引く警察、そしてそれを面白そうに見る野次馬達だった。
何事かと呆然としていた月乃助に物陰に隠れていた赤羽が話しかけてきたと言うわけだ。
車の中で話を聞いていた月乃助は額に指を当てて唸りながら、情報を整理した彼女はハァと溜息をつくと。
「……雪花姉妹と言い、君達はこの世界でも厄介ごとを持ってくるね…。」
「しょうがないでしょ。文句なら黒鳥に言いなさいよ。アイツが持って来たんだから。」
後部座席に座り、何処から取り出したのか絆創膏を貼りながら赤羽がそう言った瞬間、コンコンと車の扉がノックされる。
「うおっ。」
ノックされた方を振り向いた月乃助が思わず声を漏らす。
何故ならそこには多少傷だらけだが、えらく目の座っている黒鳥がそこにいたからだ。
「びっくりした、どうしたんだい君。」
「…月乃助さん、来てたんですね。」
雰囲気に気圧されながら、月乃助が尋ねると、黒鳥は車の中に入り、乱れた髪を掻き上げながら。
「彼が攫われた。追いかけて、彼を取り戻して、家に帰す。」
「攫われたって言うのは、君が拾った彼かい?しかし、追いかけるって言ったって、心当たりでもあるのかい?」
月乃助がそう言うと、黒鳥は窓の外に目をやる。彼女の視線には烏がおり、見つめられた烏はカァッと、彼女に呼応する様に鳴く。
「…烏に追跡させてます。移送させた場所を突き止めたら、彼らが何かをする前に仕掛けます。」
「そういや君感知担当だったね…。」
月乃助の言葉をよそに黒鳥は口に手を当て、何かを思案するうに険しい顔をする。
「何考えてるのよ。」
赤羽が尋ねると、黒鳥は。
「……さっき戦ってた相手の言葉が気になって。」
「言葉?」
「“普通の世界では、彼は生きられない”……」
「なに、それ?」
「分からない……だから、ソイツに聞くしかない。……けど。」
黒鳥は自分の掌に視線を落とす。
「……私の力は、“強すぎる”…。」
黒鳥達の力はそもそも人間よりか遥かに強力なシードゥス達に対抗する為のものだ。
その力を人間相手に向ければ、その命を奪う事は容易い。先程の戦いも黒鳥達が本気になれば、これ程傷を負う事も無かった。
しかし、それは彼女達の望むところではない。だが、二人が戦った相手は手加減して勝てるような相手ではない。
その事に赤羽も黙ってしまう。
二人が思案していると、月乃助が言う。
「なら、お手本になりそうな“彼女達”に聞いてみるかい?」
「?」
「彼女達?」
「君達もよく知っている二人だよ。」
彼女の言葉に疑問符を浮かべる彼女に、月乃助はそう笑って返した。
「うん……」
尾白が全身で感じる振動で目を覚まして、辺りを見回すとそこは見知らぬ灰色の天井があった。
窓もあるが、黒いカバーで覆われ、見る事は出来ない。どうやら車の中にいるらしいと、目覚めたばかりの頭でぼんやりと知覚したその時。
「目が覚めたか。」
声をかけられる。その方を振り向くと、そこには赤い布で顔まで全身を覆った人物がいた。
「うわぁっ」
驚いた彼は悲鳴をあげて仰反る。その拍子にバランスを崩し、椅子から転げ落ちそうになり、数秒後に来るであろう衝撃に彼が目を瞑った瞬間。
「危ないッ」
咄嗟に赤いマスクの人物が彼の身体を抱き止め、床との衝突を防ぐ。
「怪我はないか?」
「え、あっ……はい……」
突然の事に、呆然としながら彼がそう返すと、赤いマスクの人物はゆっくりと彼を椅子に座らせる。
「暴れるな。怪我をするぞ。」
その人物の言葉に、尾白は気づく。自分はあの研究所に連れ戻されようとしている。
顔を硬くする彼に対し、赤いマスクの人物は何故かどこか彼を気遣うように。
「落ち着け。我々は別に君を殺そうとしている訳ではない。」
人物がそう言った瞬間、そのやり取りを横目で見ていた灰色の髪の女が嘲るように笑いながら。
「そうさ、“お前に利用価値がある”までは、殺さねぇ。」
彼女がケラケラ笑ってそう言うと、マスクの人物の瞳がギロリと睨みつけた、その次の瞬間。
マスクの人物が目にも止まらぬ速さで腰のナイフを抜き取り、灰色髪の女の額に突きつけると同時に、彼女も同じ様に抜いた小刀をその喉元に突き付ける。
「……!」
「見た目通り血気盛んな奴はこれだからいけねぇ。」
車内が一気に殺気立つ。氷の様な冷たい殺気を互いにぶつけ合いながら睨み合っていたが、女、“灰被姫”がハァと溜息をついて小刀を下ろす。
「洒落が通じねぇでやんの。」
「次ふざけた真似をしたら、二度とその軽い口を叩けないようにするぞ。」
「おお怖。」
同じようにナイフを下ろしながら、ドスの効いた声でマスクの人物“赤ずきん”がそう言うと、彼女はヒラヒラと手を振りながらおどけたように返す。
「全く……デリカシーのない奴め。すまないな。見苦しいところを見せた。」
“赤ずきん”が彼女を忌々しそうに睨む中、尾白がポツリ、と呟く。
「……ん。」
「?」
「ボクは、もう怖くありません。」
「何?」
尾白の真っ直ぐな瞳で“赤ずきん”を見つめ、言う。
「あの人は約束してくれたから……絶対に僕を家に返す、って。だから、僕はあの人を信じています。」
「………。」
彼のこちらを見る瞳。“赤ずきん”はその瞳から眼を逸らし、そうか、とだけ答えた。
尾白が全身で感じる振動で目を覚まして、辺りを見回すとそこは見知らぬ灰色の天井があった。
窓もあるが、黒いカバーで覆われ、見る事は出来ない。どうやら車の中にいるらしいと、目覚めたばかりの頭でぼんやりと知覚したその時。
「目が覚めたか。」
声をかけられる。その方を振り向くと、そこには赤い布で顔まで全身を覆った人物がいた。
「うわぁっ」
驚いた彼は悲鳴をあげて仰反る。その拍子にバランスを崩し、椅子から転げ落ちそうになり、数秒後に来るであろう衝撃に彼が目を瞑った瞬間。
「危ないッ」
咄嗟に赤いマスクの人物が彼の身体を抱き止め、床との衝突を防ぐ。
「怪我はないか?」
「え、あっ……はい……」
突然の事に、呆然としながら彼がそう返すと、赤いマスクの人物はゆっくりと彼を椅子に座らせる。
「暴れるな。怪我をするぞ。」
その人物の言葉に、尾白は気づく。自分はあの研究所に連れ戻されようとしている。
顔を硬くする彼に対し、赤いマスクの人物は何故かどこか彼を気遣うように。
「落ち着け。我々は別に君を殺そうとしている訳ではない。」
人物がそう言った瞬間、そのやり取りを横目で見ていた灰色の髪の女が嘲るように笑いながら。
「そうさ、“お前に利用価値がある”までは、殺さねぇ。」
彼女がケラケラ笑ってそう言うと、マスクの人物の瞳がギロリと睨みつけた、その次の瞬間。
マスクの人物が目にも止まらぬ速さで腰のナイフを抜き取り、灰色髪の女の額に突きつけると同時に、彼女も同じ様に抜いた小刀をその喉元に突き付ける。
「……!」
「見た目通り血気盛んな奴はこれだからいけねぇ。」
車内が一気に殺気立つ。氷の様な冷たい殺気を互いにぶつけ合いながら睨み合っていたが、女、“灰被姫”がハァと溜息をついて小刀を下ろす。
「洒落が通じねぇでやんの。」
「次ふざけた真似をしたら、二度とその軽い口を叩けないようにするぞ。」
「おお怖。」
同じようにナイフを下ろしながら、ドスの効いた声でマスクの人物“赤ずきん”がそう言うと、彼女はヒラヒラと手を振りながらおどけたように返す。
「全く……デリカシーのない奴め。すまないな。見苦しいところを見せた。」
“赤ずきん”が彼女を忌々しそうに睨む中、尾白がポツリ、と呟く。
「……ん。」
「?」
「ボクは、もう怖くありません。」
「何?」
尾白の真っ直ぐな瞳で“赤ずきん”を見つめ、言う。
「あの人は約束してくれたから……絶対に僕を家に返す、って。だから、僕はあの人を信じています。」
「………。」
彼のこちらを見る瞳。“赤ずきん”はその瞳から眼を逸らし、そうか、とだけ答えた。
「よしっ、着いたよ。」
「ここは…」
月乃助が車をつけた場所。そこは河川敷だった。
「ここで待ち合わせをしていてね。時間的にそろそろ着く頃か、な。」
月乃助がそう言いながら車から降り、辺りを見回していると。
「おーい、月乃助さーん。」
「来ましたよ。」
声がする方を向くと、桃色の髪をポニーテールに纏めたあどけない顔立ちの少女、紫水龍香と薄紫色の髪を一つに纏めた少し幸薄そうな細身の青年、紫水龍斗だった。
「おー、ごめんねー。いきなり呼び出して。」
二人に向かって手を振りながら、月乃助が呼び掛ける。
《なんでだって俺達をこんなところに?》
龍香の頭についている恐竜の頭蓋骨を模したヘアアクセのような外見をしているカノープスが月乃助に尋ねると。
「うん、よくぞ聞いてくれた。今回君達には、講師を頼みたいのだ。」
「講師?」
「うん、この二人に、状態変化のイロハを教えてあげて欲しいのだよ。」
「へ?」
月乃助がそう言うと同時に赤羽と黒鳥を前に出す。そう言われた黒鳥は月乃助に尋ねる。
「その……彼女に?」
「うん。だって考えて見たまえ。この中で、シードゥスの力を使っていて、一番衣装持ちなの彼女だぞ。」
「言われてみれば確かに…。」
月乃助の言葉に黒鳥達は最初こそ驚きはしたが、続く言葉を冷静に思い直せば、確かに龍香は複数の形態がある。
状況に応じて手札を切り替えて戦うのが、龍香とカノープスの基本スタイルだ。
だが、月乃助に話を振られた龍香は少し困ったような顔をする。
「えっ、でも。私が形態を変えてる訳じゃないし…」
《まぁ、切り替えているのは基本俺だが…。しかし、なんだってたって今更形態変化を?》
カノープスの問いに黒鳥は深刻そうに顔を歪めて、答える。
「……助けたい子がいて…そのためには新しい力が今、必要なの。」
「助けたい……」
《…そうか。なら、俺でよければ力になろう。》
「……ありがとうございます。」
黒鳥の言葉にカノープスが応える。
《よしっ。んじゃあまず形態変化のコツだが……まずは自分がなりたい形態をより強くイメージすること、頭のてっぺんからつま先まで、より細かく、鮮明にイメージする事だな。》
「細かく、鮮明に……」
《ま、いきなりイメージと言っても難しいわな。まず、自分がやりたい事を列挙して、それに適した身体、能力を考える。なんだったら絵にでも起こしてみるか?視覚的情報があった方がイメージしやすいかもな。》
「うーん……。」
「あっ、私ノートとペン持ってきてますよ。」
カノープスと黒鳥達がわいわいやっているのを月乃助は腕を組んで見ながら。
「うむうむ。私の目に狂いはなかったようだな。」
などと言っていると、軽快な電子音が鳴る。音がする方を見れば、赤羽が携帯を取り出し、画面を確認していた。
彼女はそれを見ると、月乃助に言う。
「……ちょっといい?パパから電話。どうせ今日は家に帰れないと思うから伝えてくる。」
「うむ。あいわかった。」
そう言うと月乃助は赤羽を見送る。それを流し目で見ていると、今度はおずおずと龍斗が手を上げる。
「あの〜」
「ン、なんだね?」
「あの、俺が呼ばれたのは?」
龍斗の質問に対し、月乃助は振り返って答える。
「うむ。君は確か回復能力があったね。」
「えぇ。…あっ、成る程、俺は回復要員……」
「兼黒鳥君の練習台だ。」
「それ要するにサンドバッグってコトっすよね!?」
まさかの役割に龍斗が声を上げる。しかし、月乃助は特に意に介した様子もなく言う。
「ならなんだね。龍香君に代われとでも言うのかね?」
「え゛ッ。いや、そんな事は…」
「無論、タダとは言わない。協力してくれれば……」
月乃助は龍斗に近づくと、コッソリ耳打ちをする。
「深春とスケジュールを合わせるよう掛け合ってやってもいい。」
「サンドバッグでもなんでやりまァすッ!!」
「うむ。いい返事だ。」
(なんとまぁ単純な男だこと……)
さっきまでの優柔不断はどこへやら。俄然やる気になった彼を見て月乃助は内心少し呆れつつ、黒鳥達に視線を戻す。
「なるべく殺傷能力を抑えつつ、相手を無力化したい。」
《ならお前の翼も爪も使えないな。力が強すぎる。》
「なら、糸を出す奴を使って…!」
やいのやいの言いながら、話す三人を月乃助は微笑んで見つめるのだった。
「ここは…」
月乃助が車をつけた場所。そこは河川敷だった。
「ここで待ち合わせをしていてね。時間的にそろそろ着く頃か、な。」
月乃助がそう言いながら車から降り、辺りを見回していると。
「おーい、月乃助さーん。」
「来ましたよ。」
声がする方を向くと、桃色の髪をポニーテールに纏めたあどけない顔立ちの少女、紫水龍香と薄紫色の髪を一つに纏めた少し幸薄そうな細身の青年、紫水龍斗だった。
「おー、ごめんねー。いきなり呼び出して。」
二人に向かって手を振りながら、月乃助が呼び掛ける。
《なんでだって俺達をこんなところに?》
龍香の頭についている恐竜の頭蓋骨を模したヘアアクセのような外見をしているカノープスが月乃助に尋ねると。
「うん、よくぞ聞いてくれた。今回君達には、講師を頼みたいのだ。」
「講師?」
「うん、この二人に、状態変化のイロハを教えてあげて欲しいのだよ。」
「へ?」
月乃助がそう言うと同時に赤羽と黒鳥を前に出す。そう言われた黒鳥は月乃助に尋ねる。
「その……彼女に?」
「うん。だって考えて見たまえ。この中で、シードゥスの力を使っていて、一番衣装持ちなの彼女だぞ。」
「言われてみれば確かに…。」
月乃助の言葉に黒鳥達は最初こそ驚きはしたが、続く言葉を冷静に思い直せば、確かに龍香は複数の形態がある。
状況に応じて手札を切り替えて戦うのが、龍香とカノープスの基本スタイルだ。
だが、月乃助に話を振られた龍香は少し困ったような顔をする。
「えっ、でも。私が形態を変えてる訳じゃないし…」
《まぁ、切り替えているのは基本俺だが…。しかし、なんだってたって今更形態変化を?》
カノープスの問いに黒鳥は深刻そうに顔を歪めて、答える。
「……助けたい子がいて…そのためには新しい力が今、必要なの。」
「助けたい……」
《…そうか。なら、俺でよければ力になろう。》
「……ありがとうございます。」
黒鳥の言葉にカノープスが応える。
《よしっ。んじゃあまず形態変化のコツだが……まずは自分がなりたい形態をより強くイメージすること、頭のてっぺんからつま先まで、より細かく、鮮明にイメージする事だな。》
「細かく、鮮明に……」
《ま、いきなりイメージと言っても難しいわな。まず、自分がやりたい事を列挙して、それに適した身体、能力を考える。なんだったら絵にでも起こしてみるか?視覚的情報があった方がイメージしやすいかもな。》
「うーん……。」
「あっ、私ノートとペン持ってきてますよ。」
カノープスと黒鳥達がわいわいやっているのを月乃助は腕を組んで見ながら。
「うむうむ。私の目に狂いはなかったようだな。」
などと言っていると、軽快な電子音が鳴る。音がする方を見れば、赤羽が携帯を取り出し、画面を確認していた。
彼女はそれを見ると、月乃助に言う。
「……ちょっといい?パパから電話。どうせ今日は家に帰れないと思うから伝えてくる。」
「うむ。あいわかった。」
そう言うと月乃助は赤羽を見送る。それを流し目で見ていると、今度はおずおずと龍斗が手を上げる。
「あの〜」
「ン、なんだね?」
「あの、俺が呼ばれたのは?」
龍斗の質問に対し、月乃助は振り返って答える。
「うむ。君は確か回復能力があったね。」
「えぇ。…あっ、成る程、俺は回復要員……」
「兼黒鳥君の練習台だ。」
「それ要するにサンドバッグってコトっすよね!?」
まさかの役割に龍斗が声を上げる。しかし、月乃助は特に意に介した様子もなく言う。
「ならなんだね。龍香君に代われとでも言うのかね?」
「え゛ッ。いや、そんな事は…」
「無論、タダとは言わない。協力してくれれば……」
月乃助は龍斗に近づくと、コッソリ耳打ちをする。
「深春とスケジュールを合わせるよう掛け合ってやってもいい。」
「サンドバッグでもなんでやりまァすッ!!」
「うむ。いい返事だ。」
(なんとまぁ単純な男だこと……)
さっきまでの優柔不断はどこへやら。俄然やる気になった彼を見て月乃助は内心少し呆れつつ、黒鳥達に視線を戻す。
「なるべく殺傷能力を抑えつつ、相手を無力化したい。」
《ならお前の翼も爪も使えないな。力が強すぎる。》
「なら、糸を出す奴を使って…!」
やいのやいの言いながら、話す三人を月乃助は微笑んで見つめるのだった。
赤羽が電話に出ると、裕司が話しかける。
「あっ、もしもしパパ?」
『もしもし赤羽?今どこにいるんだい?そろそろ暗くなるから帰っておいで。』
「……ごめんなさい。ちょっと友達に誘われちゃって……今日、泊まって行ってもいい?」
『お泊まり?別に構わないが…どこに泊まるかだけ教えて貰っていいかい?』
「ん、結衣さんの家。」
『分かった。後で僕の方からも連絡を入れておくから。』
「ごめんなさい。いきなりで。」
赤羽が謝ると、裕司は特に気にした様子もなく。
『気にしないで。パパより友達のことを優先してくれて良いからね。あっ、でも向こうの人によろしく伝えておいてね。』
「ありがとう。」
朗らかに言う父に赤羽は感謝を述べる。そして尋ねる。
「…あのね、パパに聞きたいことがあるの。」
『なんだい?』
父が聞き返すと、赤羽は少し間を置き、話す。
「…もし、もしもだけど……パパが悪い人に傷つけられて、私が復讐をするとしたら……パパは私をどう思う?」
『随分と難しい質問だね。……そうだねぇ。』
赤羽の質問に裕司は少し考え込むと。
『……まぁ、正直な話、赤羽には迷惑をかけたくないから、復讐は忘れて、平和に過ごしてくれるのが一番だけど……』
「……うん。」
そう、前置きをして、裕司は続けた。
『ただ、一つ忘れないで欲しいのは、パパは、赤羽がどんな道を歩もうと、ずっと赤羽の味方だってこと。』
「……え。」
『離れ離れになっても、僕は赤羽の事をずっと大切に想っているし、寄り添うよ。だから、赤羽は自分がしたいと思う事に全力を注いで欲しい。……って、思ってるんだけど、どうかな?少しクサいかな。』
たははと恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる裕司の言葉に、赤羽は少し驚いた顔をした後、口元を綻ばせ。
「ううん。そんなことないよ。ありがとうパパ。じゃあね。」
『うん、楽しんでおいで。』
そう言って赤羽は電話を切る。携帯をちょっと見つめて、空を見上げてみる。空はいつの間にか紅蓮から紫色へと変わりつつあった。
「……大切に想う、か。」
赤羽が空に思いを馳せていると、ドォンッと爆発音が響く。彼女が音をした方を振り向いてみると、そこには黒鳥と、ノびている龍斗の姿が。
「……出来た。」
「やった!やったよ黒鳥さん!」
《うん。大したもんだ。》
どうやら黒鳥の方も何かを掴んだらしい。龍香とカノープスが黒鳥を囲んではしゃぐ中、月乃助が倒れている龍斗の側に来るとしゃがみ込み。
「うむ。ご苦労様。約束通り妹には私が掛け合っておこう。」
「お、お願いします……じゃあ、俺気絶しますんで…がくっ」
そう言って白目を剥いて気絶した龍斗の肩をポンっと叩くと、月乃助は赤羽と黒鳥の二人に言う。
「黒鳥君、赤羽君、やりたいことは済んだかい?そろそろ日も暮れる。仕掛けるなら、そろそろ向かうぞ。」
「はい。私は大丈夫です!」
「ん。私もやりたいはもう特に無いわ。」
二人がそう答えると、月乃助は車のエンジンをかける。
「あの、どこかに行くんですか?」
龍香が声をかけると、月乃助はフッと笑うと。
「今からちょいと野暮用でね。龍香君には、呼び出しておいて申し訳ないけど、龍斗君を連れて帰って貰って良いかい?」
「えっ、それは構いませんけど……」
《また、敵か?》
カノープスが尋ねると、月乃助は。
「今からちょっと囚われの王子様を助けに行くだけだよ。」
「あっ、もしもしパパ?」
『もしもし赤羽?今どこにいるんだい?そろそろ暗くなるから帰っておいで。』
「……ごめんなさい。ちょっと友達に誘われちゃって……今日、泊まって行ってもいい?」
『お泊まり?別に構わないが…どこに泊まるかだけ教えて貰っていいかい?』
「ん、結衣さんの家。」
『分かった。後で僕の方からも連絡を入れておくから。』
「ごめんなさい。いきなりで。」
赤羽が謝ると、裕司は特に気にした様子もなく。
『気にしないで。パパより友達のことを優先してくれて良いからね。あっ、でも向こうの人によろしく伝えておいてね。』
「ありがとう。」
朗らかに言う父に赤羽は感謝を述べる。そして尋ねる。
「…あのね、パパに聞きたいことがあるの。」
『なんだい?』
父が聞き返すと、赤羽は少し間を置き、話す。
「…もし、もしもだけど……パパが悪い人に傷つけられて、私が復讐をするとしたら……パパは私をどう思う?」
『随分と難しい質問だね。……そうだねぇ。』
赤羽の質問に裕司は少し考え込むと。
『……まぁ、正直な話、赤羽には迷惑をかけたくないから、復讐は忘れて、平和に過ごしてくれるのが一番だけど……』
「……うん。」
そう、前置きをして、裕司は続けた。
『ただ、一つ忘れないで欲しいのは、パパは、赤羽がどんな道を歩もうと、ずっと赤羽の味方だってこと。』
「……え。」
『離れ離れになっても、僕は赤羽の事をずっと大切に想っているし、寄り添うよ。だから、赤羽は自分がしたいと思う事に全力を注いで欲しい。……って、思ってるんだけど、どうかな?少しクサいかな。』
たははと恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる裕司の言葉に、赤羽は少し驚いた顔をした後、口元を綻ばせ。
「ううん。そんなことないよ。ありがとうパパ。じゃあね。」
『うん、楽しんでおいで。』
そう言って赤羽は電話を切る。携帯をちょっと見つめて、空を見上げてみる。空はいつの間にか紅蓮から紫色へと変わりつつあった。
「……大切に想う、か。」
赤羽が空に思いを馳せていると、ドォンッと爆発音が響く。彼女が音をした方を振り向いてみると、そこには黒鳥と、ノびている龍斗の姿が。
「……出来た。」
「やった!やったよ黒鳥さん!」
《うん。大したもんだ。》
どうやら黒鳥の方も何かを掴んだらしい。龍香とカノープスが黒鳥を囲んではしゃぐ中、月乃助が倒れている龍斗の側に来るとしゃがみ込み。
「うむ。ご苦労様。約束通り妹には私が掛け合っておこう。」
「お、お願いします……じゃあ、俺気絶しますんで…がくっ」
そう言って白目を剥いて気絶した龍斗の肩をポンっと叩くと、月乃助は赤羽と黒鳥の二人に言う。
「黒鳥君、赤羽君、やりたいことは済んだかい?そろそろ日も暮れる。仕掛けるなら、そろそろ向かうぞ。」
「はい。私は大丈夫です!」
「ん。私もやりたいはもう特に無いわ。」
二人がそう答えると、月乃助は車のエンジンをかける。
「あの、どこかに行くんですか?」
龍香が声をかけると、月乃助はフッと笑うと。
「今からちょいと野暮用でね。龍香君には、呼び出しておいて申し訳ないけど、龍斗君を連れて帰って貰って良いかい?」
「えっ、それは構いませんけど……」
《また、敵か?》
カノープスが尋ねると、月乃助は。
「今からちょっと囚われの王子様を助けに行くだけだよ。」
「それでは、オペの準備に取り掛かります。」
「うむ。頼んだよ。」
青色のビニールの手術衣に身を包んだ医師に、貝塚がそう言うと、医師はその場を後にする。
「さて……正直あまり期待はしていなかったが……中々どうして、やるじゃないか、君の“玩具”は。」
「いいえぇ。こっちも色んなデータが取れて満足ですよ。ねぇ“灰被姫”?」
「えぇ。久々に楽しめる相手でした。」
貝塚と氷室の言葉に“灰被姫”がニコリと微笑んで答える。
「あら、ところで“赤ずきん”は?」
「彼女なら、少し用がある、と。」
「あぁ、彼のところに行っているのね。」
氷室がそう言うと、貝塚に塩田がコソッと話し掛ける。
「それにしても……よろしいので?」
「なにがだ?」
「今回の手術……彼の臓器の一部を摘出するこのオペは、彼の死亡する確率が極めて高いハズですが。この事を知れば、彼女は黙ってないのでは?」
塩田の問いに貝塚はフッと鼻で笑うと。
「構わん。彼女には彼は致死率の高い病にかかっており、それを治せるのは私の組織の最新医療だけと言っている。死んでしまったら、手術は失敗した、申し訳ない、とでも言っておくさ。」
「成る程。」
貝塚の外道な企みを聞いても、塩田は特に表情を動かさずに言うが、それを聞いた“灰被姫”はニヤリと笑い。
「仮に彼女が反旗を翻しても、私がおります。その際の始末は是非、私に。」
「任せる。」
“灰被姫”の提案を貝塚は了承する。
「このプロジェクトは、上から通達されたものだ。何としても成功させねばならんからな。」
「うむ。頼んだよ。」
青色のビニールの手術衣に身を包んだ医師に、貝塚がそう言うと、医師はその場を後にする。
「さて……正直あまり期待はしていなかったが……中々どうして、やるじゃないか、君の“玩具”は。」
「いいえぇ。こっちも色んなデータが取れて満足ですよ。ねぇ“灰被姫”?」
「えぇ。久々に楽しめる相手でした。」
貝塚と氷室の言葉に“灰被姫”がニコリと微笑んで答える。
「あら、ところで“赤ずきん”は?」
「彼女なら、少し用がある、と。」
「あぁ、彼のところに行っているのね。」
氷室がそう言うと、貝塚に塩田がコソッと話し掛ける。
「それにしても……よろしいので?」
「なにがだ?」
「今回の手術……彼の臓器の一部を摘出するこのオペは、彼の死亡する確率が極めて高いハズですが。この事を知れば、彼女は黙ってないのでは?」
塩田の問いに貝塚はフッと鼻で笑うと。
「構わん。彼女には彼は致死率の高い病にかかっており、それを治せるのは私の組織の最新医療だけと言っている。死んでしまったら、手術は失敗した、申し訳ない、とでも言っておくさ。」
「成る程。」
貝塚の外道な企みを聞いても、塩田は特に表情を動かさずに言うが、それを聞いた“灰被姫”はニヤリと笑い。
「仮に彼女が反旗を翻しても、私がおります。その際の始末は是非、私に。」
「任せる。」
“灰被姫”の提案を貝塚は了承する。
「このプロジェクトは、上から通達されたものだ。何としても成功させねばならんからな。」
水色の手術衣に身を包んだ尾白がベッドと便器しかない殺風景な独房のような部屋で座って下を向いていると。
コンコン、と部屋をノックする音が鳴る。
尾白が扉の方へ顔を向けると、扉の覗き窓から赤いフードに身を包み、マスクを着けた“赤ずきん”がいた。
「……調子はどうだ?」
「………。」
彼女が尾白に尋ねるが、彼はそれに答えず、無言を貫く。
「……まぁ、答えたくはない……よな。」
どこか寂しそうな“赤ずきん”の声音に尾白は少し違和感を覚える。彼女は何故か敵であるにも関わらず、自分を気遣うような素振りを見せる。
それに何となく、本当に何となくだが、どこかで聞いた事があるような声の気がした。
「……あの。気のせいかもしれないんですけど……僕、あなたと会ったことあります?」
「………!」
尾白の問いに、“赤ずきん”が反応を示す。だが、すぐに取り繕うようにボソリと。
「……いや、多分……気のせいだろう。」
「そう……ですかね……」
“赤ずきん”がそう答えると、二人の間に静かな沈黙が流れる。
「……心配するな。もう少しすればお前は自由だ。」
「……え?待って、それはどう言う……」
“赤ずきん”の言葉に尾白は思わず顔を上げる。だが、“赤ずきん”はそれだけ言うとその場から離れる。
尾白の声を背後に受けながら、“赤ずきん”はマスクに手を添える。
「……そうだ。この手術が終われば……もう、何も怯えなくて済むんだ。」
コンコン、と部屋をノックする音が鳴る。
尾白が扉の方へ顔を向けると、扉の覗き窓から赤いフードに身を包み、マスクを着けた“赤ずきん”がいた。
「……調子はどうだ?」
「………。」
彼女が尾白に尋ねるが、彼はそれに答えず、無言を貫く。
「……まぁ、答えたくはない……よな。」
どこか寂しそうな“赤ずきん”の声音に尾白は少し違和感を覚える。彼女は何故か敵であるにも関わらず、自分を気遣うような素振りを見せる。
それに何となく、本当に何となくだが、どこかで聞いた事があるような声の気がした。
「……あの。気のせいかもしれないんですけど……僕、あなたと会ったことあります?」
「………!」
尾白の問いに、“赤ずきん”が反応を示す。だが、すぐに取り繕うようにボソリと。
「……いや、多分……気のせいだろう。」
「そう……ですかね……」
“赤ずきん”がそう答えると、二人の間に静かな沈黙が流れる。
「……心配するな。もう少しすればお前は自由だ。」
「……え?待って、それはどう言う……」
“赤ずきん”の言葉に尾白は思わず顔を上げる。だが、“赤ずきん”はそれだけ言うとその場から離れる。
尾白の声を背後に受けながら、“赤ずきん”はマスクに手を添える。
「……そうだ。この手術が終われば……もう、何も怯えなくて済むんだ。」
「黒鳥君。奴等の居場所は掴めたかい。」
「はい。奴等、山の中に拠点がありました。場所は…ここから上がれば行けるかと。」
「うむ。敵もまさかカラスが尾けているとは思うまいて。」
日も暮れて、漆黒の帷が下りる中、車中にて月乃助と黒鳥が敵の拠点を確認する。そして、山の麓に車をつけると、車から降りて、拠点の場所を目指して歩き出す。
“サダルメリクの瞳”で赤羽が探索しながら先陣を切る。
「……今の所敵は見当たらないわね。」
「うむ。ご苦労。警戒は緩めないでくれたまえ。」
山の中を三人が進む。そんな中、ふと黒鳥が口を開く。
「……すみません。月乃助さんまで付き合わせてしまって。」
「ん?あぁ。気にしないでくれたまえ。この件は私の私情も入っているからね。」
「私情?」
赤羽が聞き返すと、月乃助は何処か忌々しげに言う。
「黒鳥君が対決した奴が使っていたと言う無人兵器なんだがね。アレ、多分私が前に開発を進めた“ピーコック”が元になっている。」
「え、“ピーコック”?」
そうだ、と月乃助が忌々しげに答える。“ピーコック”とは肉体を失い、代わりに機械の身体を手に入れたシードゥスで、月乃助とコンビを組んでいた。
「ま、と言っても彼が依代とする前のプロトタイプだがね。本来災害救助や、より高度な空中撮影等平和的利用を主にしていたが……まさかよりによって私に無断で兵器転用されているとはね。」
珍しく怒っているような雰囲気の月乃助に赤羽が尋ねる。
「でもアレシードゥス由来の知識でしょ?アンタ情報抜かれた訳?」
そう、“ピーコック”の義体は月乃助とピーコックの共同作業で作り出したものだ。普通の人間がおいそれと作れるものでない。
「いや、その可能性もなくは無いが……コスト以外全部劣化版とは言え、私の作品をコピー出来る奴は一人、心当たりがある。今回はそれを確かめに来た、と言う訳だ。……まぁ、無駄話はこの位かな。」
月乃助がそう言うと、三人が止まる。見れば落ち葉をくっつけたギリースーツのようなもので隠しているものの、扉のようなものが見えてくる。
「敵の本拠地に到着した訳だが……どうするかね。」
月乃助が尋ねると、赤羽、黒鳥はガサガサと移動を始めて、それぞれのポイントに着く。
『位置につきました。』
『いつでもいけるわ。』
二人が通信機越しに月乃助に伝える。月乃助はそれを確認すると、ブレスレット状のツールのスイッチを押し込む。
次の瞬間、月乃助の身体を翡翠色をベースにしたパワードスーツに、外套のように上から臙脂色の装甲が装着される。
黒鳥も蜘蛛のマスクを身につけ、蜘蛛の顔を模した手甲を装着し、赤羽も“雨四光”を装着し、刀に手を掛ける。
「ふむ。では、派手に始めようか!!」
月乃助がそう言うと、新たに追加された臙脂色の装甲…“マルチパーパスクリアツール”が展開され、彼女の身の丈程もある巨大な銃へと変貌する。
そして月乃助がカチリと、引き金を押し込むと、バチッと電気が弾けるような音がしたと同時に放たれた荷電粒子砲が隠された扉を焼き切り、そのまま爆散させる。
轟音が辺りに鳴り響き、物音に驚いた鳥達が飛び立つ。
「うむ。燃費が悪過ぎるのを除けば中々の威力だな。」
“マルチパーパスクリアツール”を元の外套のような形態に戻して、破壊痕を観察していると、ドタドタとこの基地の施設員達が駆けつけてくる音が聞こえる。
「ふむ。次は私の役目を果たすとしようか。」
破壊の痕を見て何じゃこりゃと困惑している施設員達に向けて月乃助は容赦無く強烈な暴徒鎮圧用のゴム弾入りの銃を取り出すと、思い切り彼らに向けて発砲する。
放たれたゴム弾は施設員達の一人を不意打ち気味に打ちのめすとその意識を刈り取る。
「ふっ!」
さらに混乱が広がる中、月乃助は一気に駆け出すと、狼狽える施設員の一人の顔面に蹴りを入れて、銃をぶっ放して端から薙ぎ倒していく。
「さぁさ、どんどん行くぞ!殺しはしないが、ちょっと痛い目をみることは覚悟したまえ!」
そう言って天才は笑いながら、狼狽える施設員達に襲いかかる。そして一人の施設員をひっ捕まえると物陰に引き摺り込む。
勿論パワードスーツを着込んだ彼女に抑え込まれた施設員は逃げ出そうと暴れるが、ピクリとも動かない。
月乃助は必死で暴れる施設員を見て、ふぅ、と一息つくと、ガンッ!と施設員の顔のすぐ横にナイフを突き立てる。
「おっと。暴れないでくれたまえ。暴れなければ危害は加えない。ちょっと質問に応えてくれるだけでいい。紳士的に話し合おうじゃないか。」
怯えてる彼女に月乃助はそう、微笑みかけて言った。
「はい。奴等、山の中に拠点がありました。場所は…ここから上がれば行けるかと。」
「うむ。敵もまさかカラスが尾けているとは思うまいて。」
日も暮れて、漆黒の帷が下りる中、車中にて月乃助と黒鳥が敵の拠点を確認する。そして、山の麓に車をつけると、車から降りて、拠点の場所を目指して歩き出す。
“サダルメリクの瞳”で赤羽が探索しながら先陣を切る。
「……今の所敵は見当たらないわね。」
「うむ。ご苦労。警戒は緩めないでくれたまえ。」
山の中を三人が進む。そんな中、ふと黒鳥が口を開く。
「……すみません。月乃助さんまで付き合わせてしまって。」
「ん?あぁ。気にしないでくれたまえ。この件は私の私情も入っているからね。」
「私情?」
赤羽が聞き返すと、月乃助は何処か忌々しげに言う。
「黒鳥君が対決した奴が使っていたと言う無人兵器なんだがね。アレ、多分私が前に開発を進めた“ピーコック”が元になっている。」
「え、“ピーコック”?」
そうだ、と月乃助が忌々しげに答える。“ピーコック”とは肉体を失い、代わりに機械の身体を手に入れたシードゥスで、月乃助とコンビを組んでいた。
「ま、と言っても彼が依代とする前のプロトタイプだがね。本来災害救助や、より高度な空中撮影等平和的利用を主にしていたが……まさかよりによって私に無断で兵器転用されているとはね。」
珍しく怒っているような雰囲気の月乃助に赤羽が尋ねる。
「でもアレシードゥス由来の知識でしょ?アンタ情報抜かれた訳?」
そう、“ピーコック”の義体は月乃助とピーコックの共同作業で作り出したものだ。普通の人間がおいそれと作れるものでない。
「いや、その可能性もなくは無いが……コスト以外全部劣化版とは言え、私の作品をコピー出来る奴は一人、心当たりがある。今回はそれを確かめに来た、と言う訳だ。……まぁ、無駄話はこの位かな。」
月乃助がそう言うと、三人が止まる。見れば落ち葉をくっつけたギリースーツのようなもので隠しているものの、扉のようなものが見えてくる。
「敵の本拠地に到着した訳だが……どうするかね。」
月乃助が尋ねると、赤羽、黒鳥はガサガサと移動を始めて、それぞれのポイントに着く。
『位置につきました。』
『いつでもいけるわ。』
二人が通信機越しに月乃助に伝える。月乃助はそれを確認すると、ブレスレット状のツールのスイッチを押し込む。
次の瞬間、月乃助の身体を翡翠色をベースにしたパワードスーツに、外套のように上から臙脂色の装甲が装着される。
黒鳥も蜘蛛のマスクを身につけ、蜘蛛の顔を模した手甲を装着し、赤羽も“雨四光”を装着し、刀に手を掛ける。
「ふむ。では、派手に始めようか!!」
月乃助がそう言うと、新たに追加された臙脂色の装甲…“マルチパーパスクリアツール”が展開され、彼女の身の丈程もある巨大な銃へと変貌する。
そして月乃助がカチリと、引き金を押し込むと、バチッと電気が弾けるような音がしたと同時に放たれた荷電粒子砲が隠された扉を焼き切り、そのまま爆散させる。
轟音が辺りに鳴り響き、物音に驚いた鳥達が飛び立つ。
「うむ。燃費が悪過ぎるのを除けば中々の威力だな。」
“マルチパーパスクリアツール”を元の外套のような形態に戻して、破壊痕を観察していると、ドタドタとこの基地の施設員達が駆けつけてくる音が聞こえる。
「ふむ。次は私の役目を果たすとしようか。」
破壊の痕を見て何じゃこりゃと困惑している施設員達に向けて月乃助は容赦無く強烈な暴徒鎮圧用のゴム弾入りの銃を取り出すと、思い切り彼らに向けて発砲する。
放たれたゴム弾は施設員達の一人を不意打ち気味に打ちのめすとその意識を刈り取る。
「ふっ!」
さらに混乱が広がる中、月乃助は一気に駆け出すと、狼狽える施設員の一人の顔面に蹴りを入れて、銃をぶっ放して端から薙ぎ倒していく。
「さぁさ、どんどん行くぞ!殺しはしないが、ちょっと痛い目をみることは覚悟したまえ!」
そう言って天才は笑いながら、狼狽える施設員達に襲いかかる。そして一人の施設員をひっ捕まえると物陰に引き摺り込む。
勿論パワードスーツを着込んだ彼女に抑え込まれた施設員は逃げ出そうと暴れるが、ピクリとも動かない。
月乃助は必死で暴れる施設員を見て、ふぅ、と一息つくと、ガンッ!と施設員の顔のすぐ横にナイフを突き立てる。
「おっと。暴れないでくれたまえ。暴れなければ危害は加えない。ちょっと質問に応えてくれるだけでいい。紳士的に話し合おうじゃないか。」
怯えてる彼女に月乃助はそう、微笑みかけて言った。
「た、大変です貝塚所長!て、敵襲です!」
バァンと所長室の扉を開けて、駆け込んできた職員の言葉に貝塚は狼狽えながら立ち上がる。
「な、何!?どうしてここが…!?」
「今現在侵入者はAブロック入り口付近で暴れ回っている模様です!」
「ええい、敵は……!」
貝塚が職員が報告した地区のモニターをチェックすると、そこには翠色のスーツを着込み、暴れ回る亜麻色の髪の女がいた。
それを見た貝塚が目を丸くする。
「なっ……こ、こいつは結衣月乃助ではないか!!」
「大方、“ハンター”の流用元がバレたせいではないかと存じます。」
驚く貝塚に秘書の塩田が静かに言う。
「えぇい、しかし敵はたった一人ではないか!今すぐ“赤ずきん”と“灰被姫”を投入して…!!」
「あいや、お待ちください。」
指示を出そうとした貝塚を遮り、氷室が現れる。彼女はモニターに映る彼女を観察するように見つめながら言う。
「奴がどうやってこの場所を暴いたかは分かりませんが、奴がたった一人、無策で真正面から突っ込んで来るとは考えられません。確実に伏兵か別働隊を用意しているでしょう。B、C、あるいは両方からも敵が来ているでしょう。」
「な、なんだと。なら、どうすれば…クソッ、あのガキの手術はもう始まっていると言うのに!」
「結衣の奴は恐らく囮です。本命はBとCだと見ました。この二つの進路に“赤ずきん”と“灰被姫”を配置し、侵入者を撃退させます。結衣の目的は陽動と時間稼ぎ。なら下手に攻めず、二人が戻るまで防衛戦の維持に務めさせて下さい。」
次々と矢継ぎ早に指示を出す氷室に貝塚はポカンとなるが、塩田が代わりに部下達に指示を伝える。
「分かりました。では、そのように。」
「うむ。あと、最悪サンプルだけは採取したい。オペチームには最悪検体は死亡しても構わないから急げと伝えて。」
「承りました。」
「あれ、私が所長なんだが……まぁ、良い!とにかく早急に対処しろ!」
怒鳴り立てる貝塚をよそにやれやれと肩を竦めながら、インカムに話しかける。
「りょーかい。さて、二人とも聞こえているかな?」
バァンと所長室の扉を開けて、駆け込んできた職員の言葉に貝塚は狼狽えながら立ち上がる。
「な、何!?どうしてここが…!?」
「今現在侵入者はAブロック入り口付近で暴れ回っている模様です!」
「ええい、敵は……!」
貝塚が職員が報告した地区のモニターをチェックすると、そこには翠色のスーツを着込み、暴れ回る亜麻色の髪の女がいた。
それを見た貝塚が目を丸くする。
「なっ……こ、こいつは結衣月乃助ではないか!!」
「大方、“ハンター”の流用元がバレたせいではないかと存じます。」
驚く貝塚に秘書の塩田が静かに言う。
「えぇい、しかし敵はたった一人ではないか!今すぐ“赤ずきん”と“灰被姫”を投入して…!!」
「あいや、お待ちください。」
指示を出そうとした貝塚を遮り、氷室が現れる。彼女はモニターに映る彼女を観察するように見つめながら言う。
「奴がどうやってこの場所を暴いたかは分かりませんが、奴がたった一人、無策で真正面から突っ込んで来るとは考えられません。確実に伏兵か別働隊を用意しているでしょう。B、C、あるいは両方からも敵が来ているでしょう。」
「な、なんだと。なら、どうすれば…クソッ、あのガキの手術はもう始まっていると言うのに!」
「結衣の奴は恐らく囮です。本命はBとCだと見ました。この二つの進路に“赤ずきん”と“灰被姫”を配置し、侵入者を撃退させます。結衣の目的は陽動と時間稼ぎ。なら下手に攻めず、二人が戻るまで防衛戦の維持に務めさせて下さい。」
次々と矢継ぎ早に指示を出す氷室に貝塚はポカンとなるが、塩田が代わりに部下達に指示を伝える。
「分かりました。では、そのように。」
「うむ。あと、最悪サンプルだけは採取したい。オペチームには最悪検体は死亡しても構わないから急げと伝えて。」
「承りました。」
「あれ、私が所長なんだが……まぁ、良い!とにかく早急に対処しろ!」
怒鳴り立てる貝塚をよそにやれやれと肩を竦めながら、インカムに話しかける。
「りょーかい。さて、二人とも聞こえているかな?」
「ふんっ。」
「ぐべっ」
たまたま見回りに来ていた施設員を逆刃で打ちのめした赤羽が先へと進むと、白い天井にガラス張りの壁、そしてコンクリートが打ち付けられた床と、殺風景な体育館ほどの広さの空間に出る。
「……チッ。」
だが、その空間にいる一人の女性を見て、赤羽は露骨に舌打ちして顔を顰める。
「ようこそクソガキ。歓迎するぜ。」
そこにいたのは灰色の髪を片目が隠れる程伸ばし、黒と赤のスーツに身の丈もある刀を持つ“灰被姫”だった。
だが、前戦った時と違うのは薄い紫の装甲を持ち、口から鋭利な刃物を思わせる牙を覗かせる四足歩行で、機械仕掛けの獣を二頭侍らせている事だ。
「今回は確実にお前を仕留めるために可愛い私のペットも来てくれたんだ。可愛いだろう?」
「ふん、飼い主に似て随分とブサイクなペットね。」
「ほら、テメェら!あのお姉ちゃんに可愛がってもらいな!」
赤羽が剣を構えながら憎まれ口を叩くと、“灰被姫”はニヤリと笑って二匹の獣をけしかける。
獣は素早い動きで二方向から赤羽へと攻撃を仕掛ける。一匹は鋭い牙が並ぶ口を開け接近し、もう一匹が背中にマウントされた機関銃から弾丸をばら撒いて赤羽の動きを制限する。
「チッ、面倒な!」
赤羽は放たれた弾丸を走りながら避ける。だが、もう一匹が赤羽を仕留めようと追いかけてくる。
「邪魔よ!」
赤羽は太腿のホルスターから貫通徹甲弾“椿”を抜き取ると獣の足元に向けて投擲する。
「!」
だが獣はその攻撃を飛び上がって回避する。しかし赤羽の狙いは始めから直撃させる事ではない。
「飛び上がったわね!」
回避した獣は空中にその身を投げ出しており、回避行動が著しく制限されている。それを見越して赤羽は近づいてきた獣を逆に切り捨てようと刀構える。
「まずは一匹──!」
「おっと。ソイツはいけねぇなぁ。」
声と同時に赤羽のサイドからいつの間にか距離を詰めていた“灰被姫”が現れる。
その手に握られた太刀は構えられており、赤羽の首を刎ね飛ばさん勢いで振るわれる。
「くっ!」
直前で気付いた赤羽は身体を低くしてその攻撃を避けると続いて突っ込んでくる獣の噛みつき攻撃を後ろへとバックステップを踏んで回避する。
「おぉ!反応が若いねぇ!」
しかし、“灰被姫”は続け様に刀を上段から振り下ろす。
(ヤバいっ、避けられない!)
回避で体勢を崩した赤羽に凶刃が迫るが、彼女は間一髪刀を滑り込ませて防御に成功する。
「おっと、ならコイツを持っていきな!」
そう言いながら“灰被姫”は赤羽に蹴りを放つ。喉元目掛けて放たれた蹴りを彼女は身を捩らせて逃げようとするも、完全には回避出来ず、左肩にその一撃を食らってしまう。
「ぐうぅっ……!」
大きく吹き飛ばされ、地面を転がる彼女。しかし、彼女に蹴られた痛みとは別に、灼熱のような激痛が走る。
彼女が蹴られた箇所を押さえると液体を触った感触があり、掌が真っ赤に染まっていた。
「どうだい?特製の仕込み刃の靴の味は?」
“灰被姫”の履いている靴の爪先から刃が飛び出しており、その刃には赤い液体が滴っている。
さらに先ほどの獣が休む暇を与えまいと機関銃を赤羽に対して放つ。
「クソッ……!」
放たれた銃弾の嵐を赤羽は横へと転がって回避する。そして素早く立ち上がり、“灰被姫”を睨み付ける。
「はぁっ……はぁっ……!」
「私達の歓迎、喜んで貰えたみたいだな。」
傷だらけの赤羽を見て、“灰被姫”が嘲るように笑う。三対一、さらに手傷を負わされ、圧倒的不利な立場に追い込まれるが、赤羽の目から闘志の炎が消える事はない。
「……この程度、あの戦いに比べたらどうって事ないわ。」
赤羽は刀を構えて、鬼のような形相で叫ぶ。
「この程度で私はやられはしない!!どっからでもかかってきなさい!三匹まとめて叩き斬ってやる!」
「ぐべっ」
たまたま見回りに来ていた施設員を逆刃で打ちのめした赤羽が先へと進むと、白い天井にガラス張りの壁、そしてコンクリートが打ち付けられた床と、殺風景な体育館ほどの広さの空間に出る。
「……チッ。」
だが、その空間にいる一人の女性を見て、赤羽は露骨に舌打ちして顔を顰める。
「ようこそクソガキ。歓迎するぜ。」
そこにいたのは灰色の髪を片目が隠れる程伸ばし、黒と赤のスーツに身の丈もある刀を持つ“灰被姫”だった。
だが、前戦った時と違うのは薄い紫の装甲を持ち、口から鋭利な刃物を思わせる牙を覗かせる四足歩行で、機械仕掛けの獣を二頭侍らせている事だ。
「今回は確実にお前を仕留めるために可愛い私のペットも来てくれたんだ。可愛いだろう?」
「ふん、飼い主に似て随分とブサイクなペットね。」
「ほら、テメェら!あのお姉ちゃんに可愛がってもらいな!」
赤羽が剣を構えながら憎まれ口を叩くと、“灰被姫”はニヤリと笑って二匹の獣をけしかける。
獣は素早い動きで二方向から赤羽へと攻撃を仕掛ける。一匹は鋭い牙が並ぶ口を開け接近し、もう一匹が背中にマウントされた機関銃から弾丸をばら撒いて赤羽の動きを制限する。
「チッ、面倒な!」
赤羽は放たれた弾丸を走りながら避ける。だが、もう一匹が赤羽を仕留めようと追いかけてくる。
「邪魔よ!」
赤羽は太腿のホルスターから貫通徹甲弾“椿”を抜き取ると獣の足元に向けて投擲する。
「!」
だが獣はその攻撃を飛び上がって回避する。しかし赤羽の狙いは始めから直撃させる事ではない。
「飛び上がったわね!」
回避した獣は空中にその身を投げ出しており、回避行動が著しく制限されている。それを見越して赤羽は近づいてきた獣を逆に切り捨てようと刀構える。
「まずは一匹──!」
「おっと。ソイツはいけねぇなぁ。」
声と同時に赤羽のサイドからいつの間にか距離を詰めていた“灰被姫”が現れる。
その手に握られた太刀は構えられており、赤羽の首を刎ね飛ばさん勢いで振るわれる。
「くっ!」
直前で気付いた赤羽は身体を低くしてその攻撃を避けると続いて突っ込んでくる獣の噛みつき攻撃を後ろへとバックステップを踏んで回避する。
「おぉ!反応が若いねぇ!」
しかし、“灰被姫”は続け様に刀を上段から振り下ろす。
(ヤバいっ、避けられない!)
回避で体勢を崩した赤羽に凶刃が迫るが、彼女は間一髪刀を滑り込ませて防御に成功する。
「おっと、ならコイツを持っていきな!」
そう言いながら“灰被姫”は赤羽に蹴りを放つ。喉元目掛けて放たれた蹴りを彼女は身を捩らせて逃げようとするも、完全には回避出来ず、左肩にその一撃を食らってしまう。
「ぐうぅっ……!」
大きく吹き飛ばされ、地面を転がる彼女。しかし、彼女に蹴られた痛みとは別に、灼熱のような激痛が走る。
彼女が蹴られた箇所を押さえると液体を触った感触があり、掌が真っ赤に染まっていた。
「どうだい?特製の仕込み刃の靴の味は?」
“灰被姫”の履いている靴の爪先から刃が飛び出しており、その刃には赤い液体が滴っている。
さらに先ほどの獣が休む暇を与えまいと機関銃を赤羽に対して放つ。
「クソッ……!」
放たれた銃弾の嵐を赤羽は横へと転がって回避する。そして素早く立ち上がり、“灰被姫”を睨み付ける。
「はぁっ……はぁっ……!」
「私達の歓迎、喜んで貰えたみたいだな。」
傷だらけの赤羽を見て、“灰被姫”が嘲るように笑う。三対一、さらに手傷を負わされ、圧倒的不利な立場に追い込まれるが、赤羽の目から闘志の炎が消える事はない。
「……この程度、あの戦いに比べたらどうって事ないわ。」
赤羽は刀を構えて、鬼のような形相で叫ぶ。
「この程度で私はやられはしない!!どっからでもかかってきなさい!三匹まとめて叩き斬ってやる!」
黒鳥は施設員達を蜘蛛の糸で縛り付けて固定しながら、最奥目掛けて進んでいく。
「待っていてくれ……!尾白君…!」
そしてとある扉を蹴破り、中へと入るとそこは足場が乱雑に入り乱れる、工事現場のような部屋だった。
「ここは…?」
薄暗い明かりが明滅する謎の空間を黒鳥が見回していたその時。
空気を切り裂き、苦無が黒鳥目掛けて投げ掛けられる。
「!」
それに気付いた黒鳥が手甲でその苦無を弾き飛ばす。そして、投げられた方へと視線を向けると、そこには赤いローブに身を包んだ“赤ずきん”の姿があった。
「やはり、あなたか!」
「……ここまで来たのだ。例え悪魔に魂を売り、身を獣に窶しても……!」
“赤ずきん”のゴーグルの奥の目が見開かられる。
「邪魔はさせん!」
“赤ずきん”がそう叫んだ次の瞬間、彼女の後ろから鳥を模したドローン兵器“ハンター”がゾロゾロと現れる。
「くっ!」
現れたハンターの厄介さが前の戦いで身に染みている黒鳥は向かってくる“ハンター”達に両腕の手甲から放った糸を浴びせ掛ける。
放たれた糸はこちらへと向かって来る“ハンター”達の数機を捉え、その機動力を奪い取るが、まだ潰されていない“ハンター”達がこれでもか、と機銃を黒鳥に浴びせかけて来る。
「くっ!」
黒鳥は柱の影へと横っ飛びに跳躍し、それを盾にする事で機銃から身を守る。
「ふん。それで逃げたつもりか。お前は今、私の罠地獄に足を踏み入れているのだ!」
柱に身を隠した黒鳥はその足元に深緑色の何かがくっついていることに気づく。そして、それを見た黒鳥の顔が青ざめる。
「手榴弾……!?」
それに気づき、急いで柱から離れようとした黒鳥がスタートダッシュを斬ったのと“赤ずきん”がそれのピンに繋がっている糸を引いたのはほぼ同時だった。
次の瞬間舐めるように爆炎が黒鳥に襲いかかる。炎と爆風に煽られ、黒鳥は大きく吹き飛ぶ。
「うおおおっ!!?」
爆風を受けた彼女が転がり、それに追撃するように“ハンター”達が猛襲を仕掛ける。
「くっ!!」
これは避けられないと悟った黒鳥がマスクに触れ、嘴を模したマスクに変えると、背中から生えた翼を瞬時に折り畳み、機銃の掃射から身を守る盾にする。
火花が散る甲高い音が鳴り響く。だが、鋼鉄をも両断する硬度にする事が出来る黒鳥の翼は表皮に少し傷がつく程度で、その攻撃の全て受け切る。
「ちぃっ、面妖な!」
そう叫ぶと“赤ずきん”は懐から手榴弾を取り出し、黒鳥へと投げつける。
「させないっ!」
機銃の雨が止んだ一瞬の隙をつき、黒鳥が拡げた翼から硬質化した羽根が発射され、次々と“ハンター”を撃墜していく。
放たれた手榴弾も羽根の一枚と激突し、空中で爆発する。
だが、残った“ハンター”達は羽根の攻撃から身を守る為に柱の影へと隠れながら、黒鳥へと迫る。
「くっ、そんな複雑な操縦が!」
一体一体は大したことは無いが、纏って来られると面倒だ。次の柱の影へと逃げようと黒鳥が走り出す。
だが、黒鳥はある違和感に気づく。丁度彼女の首の位置に当たる部分の前の空間が一瞬光ったように見えたのだ。
(何か、まずいっ……!!)
脳内で鳴り響くアラートに従い、黒鳥は急ブレーキをかけつつ頭を下げる。
だが、ギリギリのところで彼女は止まれず、その輝く何かが黒鳥の額を切り裂く。
「ぐっ…!ピアノ線……!!」
右眼の上の額部分から激しく出血し、黒鳥の片目の視界が潰れる。そう、黒鳥の手前にあったのはピンと張り詰められたピアノ線だ。もし、気づかず進めば黒鳥の首は胴体と泣き別れになっていただろう。
(右の視界が……!)
「右眼が見えていないようだな!」
次の瞬間、右の視界を失った黒鳥に向けて“赤ずきん”が警棒を構えて突っ込んでくる。向かって来る彼女に対し、黒鳥が迎撃しようと翼を構え、止まる。
(ダメだ!翼で攻撃したら彼女を殺してしまう!)
「ふんっ!」
黒鳥の逡巡が、翼の動きを一瞬止めてしまう。“赤ずきん”はそれを見逃さず、警棒を振るう。
「くっ!」
黒鳥はそれを飛んで逃げようとするが、飛び上がると同時に上にある足場にぶつかり、一瞬止まる。すると今度はいつの間にか右から来ていた“ハンター”が黒鳥に突っ込んで来る。
機銃を警戒して翼で防御しようとするが、“ハンター”は勢いを緩めず、さらに加速すると、黒鳥の翼にぶち当たり、大爆発を起こす。
「なっ」
引き起こされた爆発により、黒鳥の翼が跳ね上げられ、防御が崩れる。
「この“鳥籠”ではお得意の飛翔も生かせまい!」
次の瞬間、“赤ずきん”の突き出した警棒の一撃が黒鳥の鳩尾を捉える。
「かっ……!!?」
打ち込まれた一撃は激痛と共に黒鳥の呼吸を一瞬止める。呼吸困難に陥った彼女に、更なる警棒の一振りが叩き込まれる。
打たれた衝撃に身体を痙攣させながらも、黒鳥はその一撃を放った腕を掴むと腕を振るう。
「このっ!」
「しっ!タフな奴め!」
だが“赤ずきん”は素早く警棒を手放し、腕を振り払って後ろへと下がる。そして素早く太腿のホルスターから拳銃を引き抜くと、続け様に彼女に向けて発砲する。
「ッ!」
放たれた弾丸を黒鳥は左翼を盾にして防ぐ。それを見た“赤頭巾”が腕を振ると右から“ハンター”達が迫る。
「ふっ!」
だが、黒鳥はフリーとなっている右翼を振るい、特攻を仕掛けて来る“ハンター”達を弾き飛ばす。
吹き飛ばされてひしゃげた“ハンター”が爆炎を上げる中、黒鳥も“赤ずきん”から距離を取る。
「……やっぱり、手強い。」
額の血を拭いながら、思わず呟く。目の前にいる彼女はかなり戦い慣れている。手加減して勝てるような相手ではない。
「…けど、このまま負ける訳にはいかない。」
黒鳥はそう呟くと、スッと腕をクロスさせる。
「彼の願いの為にも!うおおおおお!」
彼女が叫ぶと同時にマスクは彼女の顔を覆う三眼の蛇のような仮面へと変貌し、彼女の脚が鳥のような逆関節で鋭い爪を持ったものに変わり、両腕には蛇を模した手甲が装着され、背中から蜘蛛のような脚が4本突き出す。
「ふぅぅぅ……」
大きくシルエットを変えたその姿に“赤ずきん”は拳銃を構えながらボヤくように言う。
「……やはり、怪物の類か、貴様。」
「誰かを助けるためなら、私は怪物にでもなるよ。」
黒鳥は“赤ずきん”を見据え、構える。
「通らせてもらう!」
「待っていてくれ……!尾白君…!」
そしてとある扉を蹴破り、中へと入るとそこは足場が乱雑に入り乱れる、工事現場のような部屋だった。
「ここは…?」
薄暗い明かりが明滅する謎の空間を黒鳥が見回していたその時。
空気を切り裂き、苦無が黒鳥目掛けて投げ掛けられる。
「!」
それに気付いた黒鳥が手甲でその苦無を弾き飛ばす。そして、投げられた方へと視線を向けると、そこには赤いローブに身を包んだ“赤ずきん”の姿があった。
「やはり、あなたか!」
「……ここまで来たのだ。例え悪魔に魂を売り、身を獣に窶しても……!」
“赤ずきん”のゴーグルの奥の目が見開かられる。
「邪魔はさせん!」
“赤ずきん”がそう叫んだ次の瞬間、彼女の後ろから鳥を模したドローン兵器“ハンター”がゾロゾロと現れる。
「くっ!」
現れたハンターの厄介さが前の戦いで身に染みている黒鳥は向かってくる“ハンター”達に両腕の手甲から放った糸を浴びせ掛ける。
放たれた糸はこちらへと向かって来る“ハンター”達の数機を捉え、その機動力を奪い取るが、まだ潰されていない“ハンター”達がこれでもか、と機銃を黒鳥に浴びせかけて来る。
「くっ!」
黒鳥は柱の影へと横っ飛びに跳躍し、それを盾にする事で機銃から身を守る。
「ふん。それで逃げたつもりか。お前は今、私の罠地獄に足を踏み入れているのだ!」
柱に身を隠した黒鳥はその足元に深緑色の何かがくっついていることに気づく。そして、それを見た黒鳥の顔が青ざめる。
「手榴弾……!?」
それに気づき、急いで柱から離れようとした黒鳥がスタートダッシュを斬ったのと“赤ずきん”がそれのピンに繋がっている糸を引いたのはほぼ同時だった。
次の瞬間舐めるように爆炎が黒鳥に襲いかかる。炎と爆風に煽られ、黒鳥は大きく吹き飛ぶ。
「うおおおっ!!?」
爆風を受けた彼女が転がり、それに追撃するように“ハンター”達が猛襲を仕掛ける。
「くっ!!」
これは避けられないと悟った黒鳥がマスクに触れ、嘴を模したマスクに変えると、背中から生えた翼を瞬時に折り畳み、機銃の掃射から身を守る盾にする。
火花が散る甲高い音が鳴り響く。だが、鋼鉄をも両断する硬度にする事が出来る黒鳥の翼は表皮に少し傷がつく程度で、その攻撃の全て受け切る。
「ちぃっ、面妖な!」
そう叫ぶと“赤ずきん”は懐から手榴弾を取り出し、黒鳥へと投げつける。
「させないっ!」
機銃の雨が止んだ一瞬の隙をつき、黒鳥が拡げた翼から硬質化した羽根が発射され、次々と“ハンター”を撃墜していく。
放たれた手榴弾も羽根の一枚と激突し、空中で爆発する。
だが、残った“ハンター”達は羽根の攻撃から身を守る為に柱の影へと隠れながら、黒鳥へと迫る。
「くっ、そんな複雑な操縦が!」
一体一体は大したことは無いが、纏って来られると面倒だ。次の柱の影へと逃げようと黒鳥が走り出す。
だが、黒鳥はある違和感に気づく。丁度彼女の首の位置に当たる部分の前の空間が一瞬光ったように見えたのだ。
(何か、まずいっ……!!)
脳内で鳴り響くアラートに従い、黒鳥は急ブレーキをかけつつ頭を下げる。
だが、ギリギリのところで彼女は止まれず、その輝く何かが黒鳥の額を切り裂く。
「ぐっ…!ピアノ線……!!」
右眼の上の額部分から激しく出血し、黒鳥の片目の視界が潰れる。そう、黒鳥の手前にあったのはピンと張り詰められたピアノ線だ。もし、気づかず進めば黒鳥の首は胴体と泣き別れになっていただろう。
(右の視界が……!)
「右眼が見えていないようだな!」
次の瞬間、右の視界を失った黒鳥に向けて“赤ずきん”が警棒を構えて突っ込んでくる。向かって来る彼女に対し、黒鳥が迎撃しようと翼を構え、止まる。
(ダメだ!翼で攻撃したら彼女を殺してしまう!)
「ふんっ!」
黒鳥の逡巡が、翼の動きを一瞬止めてしまう。“赤ずきん”はそれを見逃さず、警棒を振るう。
「くっ!」
黒鳥はそれを飛んで逃げようとするが、飛び上がると同時に上にある足場にぶつかり、一瞬止まる。すると今度はいつの間にか右から来ていた“ハンター”が黒鳥に突っ込んで来る。
機銃を警戒して翼で防御しようとするが、“ハンター”は勢いを緩めず、さらに加速すると、黒鳥の翼にぶち当たり、大爆発を起こす。
「なっ」
引き起こされた爆発により、黒鳥の翼が跳ね上げられ、防御が崩れる。
「この“鳥籠”ではお得意の飛翔も生かせまい!」
次の瞬間、“赤ずきん”の突き出した警棒の一撃が黒鳥の鳩尾を捉える。
「かっ……!!?」
打ち込まれた一撃は激痛と共に黒鳥の呼吸を一瞬止める。呼吸困難に陥った彼女に、更なる警棒の一振りが叩き込まれる。
打たれた衝撃に身体を痙攣させながらも、黒鳥はその一撃を放った腕を掴むと腕を振るう。
「このっ!」
「しっ!タフな奴め!」
だが“赤ずきん”は素早く警棒を手放し、腕を振り払って後ろへと下がる。そして素早く太腿のホルスターから拳銃を引き抜くと、続け様に彼女に向けて発砲する。
「ッ!」
放たれた弾丸を黒鳥は左翼を盾にして防ぐ。それを見た“赤頭巾”が腕を振ると右から“ハンター”達が迫る。
「ふっ!」
だが、黒鳥はフリーとなっている右翼を振るい、特攻を仕掛けて来る“ハンター”達を弾き飛ばす。
吹き飛ばされてひしゃげた“ハンター”が爆炎を上げる中、黒鳥も“赤ずきん”から距離を取る。
「……やっぱり、手強い。」
額の血を拭いながら、思わず呟く。目の前にいる彼女はかなり戦い慣れている。手加減して勝てるような相手ではない。
「…けど、このまま負ける訳にはいかない。」
黒鳥はそう呟くと、スッと腕をクロスさせる。
「彼の願いの為にも!うおおおおお!」
彼女が叫ぶと同時にマスクは彼女の顔を覆う三眼の蛇のような仮面へと変貌し、彼女の脚が鳥のような逆関節で鋭い爪を持ったものに変わり、両腕には蛇を模した手甲が装着され、背中から蜘蛛のような脚が4本突き出す。
「ふぅぅぅ……」
大きくシルエットを変えたその姿に“赤ずきん”は拳銃を構えながらボヤくように言う。
「……やはり、怪物の類か、貴様。」
「誰かを助けるためなら、私は怪物にでもなるよ。」
黒鳥は“赤ずきん”を見据え、構える。
「通らせてもらう!」
血を流す赤羽を見て、“灰被姫”は笑みを浮かべると、刀を彼女に突きつけ。
「さぁて、トドメを刺してやろう!」
次の瞬間彼女の指示の元、獣二匹が走り出す。一匹が牽制の弾幕を、もう一匹が赤羽へと迫る。
「…調子に乗るなよ。」
赤羽は太腿のホルスターから素早く徹甲弾“椿”を引き抜くと、獣と“灰被姫”に向けて扇状に複数本を投げる。
放たれたそれらはそれぞれの足元に突き刺さるとプシュぅぅぅと音を立てて、煙を撒き散らす。
「!目眩しか!」
目の前に広がる白煙に“灰被姫”の動きが止まる。その隙を突くように煙を突き破り赤羽が躍り出る。
「はっ、真正面!」
だが、“灰被姫”はニヤリと笑うと横薙ぎに刀を振るう。果たして、振るわれた一撃は赤羽を真っ二つにする。
「…あ?」
だが、切り裂いたハズの本人から間の抜けた声が出る。
(手応えが、ない?)
そう感じた次の瞬間金属同士がぶつかり合う甲高い音とバチィッという電気が弾ける音がする。
「なっ…!」
煙が晴れると、そこには先程斬られた筈の“赤羽”が刀で機械の獣を串刺しにしていた。だが、獣は串刺しにされ、動きがぎこちないながらも、脚を振るって反撃しようとする。
「獣風情が!」
赤羽はその一撃を避けつつ、刀を引き抜くと、その顔面に蹴りを叩き込む。それと同時にカチリ、と音が鳴った次の瞬間赤羽の踵部分の装甲から炸裂式パイルバンカー“蛍火”が炸裂し、獣の頭部と上半身を木っ端微塵に粉砕せしめた。
一瞬でスクラップと化した獣を見て、“灰被姫”は顔を顰める。
「おいおい、ひでぇことしやがるな?」
「躾のなってないペットけしかけたアンタに比べりゃマシよ。」
そう言った次の瞬間、赤羽がスタートダッシュを切る。刀を構え、向かって来る彼女に対し、“灰被姫”は思考を巡らせる。
(コイツ、どういう技術かは知らんが幻を出せるらしい…だが、そう仮定したとして、今向かって来る“ビースト”を倒したコイツは本体のハズだ!)
迎撃に彼女が移ろうとした次の瞬間、赤羽の右眼の“サダルメリクの瞳”が輝く。すると赤羽の身体の輪郭が一瞬ブレたと同時にその身体が10体に分身した。
「はぁッ!?」
目の前で起きた不可解な現象に思わず“灰被姫”が叫ぶ。だが、彼女も戦闘のプロだ。すぐさま対応すべく、後ろに下がりながら腰の袋から黒い粉を振り撒く。
「やれ!」
彼女が指示を出した次の瞬間、機械の獣、“ビースト”が火種を発射する。それが粉に触れた瞬間、粉から粉へと着火し、粉塵爆発を引き起こす。
広範囲に舐めるように広がる炎が次々と赤羽達を燃やし、消滅させていく。
「はっ。いくら分裂しようが、纏めて焼き払っちまえば何の問題も──」
燃え盛る炎を見て、“灰被姫”が勝ちを確信したその時。後方からまたもや金属同士がぶつかる甲高い音がする。
「──あ?」
振り返ると、“ビースト”の機銃部分からバチバチと火花が散っている。さらに何かに刺し突かれているかのようにガクガクと震え、アイカメラがチカチカと点滅している。
「何だと?」
何事かと、“灰被姫”が困惑していると、スーッと風景から染み出すように赤羽が現れる。
「なっ、透明化──!?」
驚きながらも“灰被姫”は懐から六角手裏剣を取り出すと、彼女に向けて投擲する。
「はっ。」
だが赤羽はそれを飛び上がってかわすと同時にホルスターから抜いた“椿”を“ビースト”に向けて投擲する。
装甲を貫いて突き刺さったそれは、すぐさま起爆し、内部からその内部を破壊すると同時に、弾薬に着火し、大爆発を引き起こさせた。
「おおおおお!?」
“灰被姫”は素早くバックステップを踏んで、爆発から逃れる。
「はっ、これでご自慢のペットはいなくなったわね!」
赤羽はそう叫ぶとまたもや“サダルメリクの瞳”を光らせ、大量の分身を生み出す。分身に紛れ、透明化した赤羽は右眼が髪の毛で隠れている右サイドから攻め込む。
(これで終わりよ!)
赤羽が逆刃で“灰被姫”を打ち据えようと振りかぶる。
「──チッ、まさか右眼を使わさられるたぁな。」
そう“灰被姫”が呟くと、振るわれた刀を自身の刀で受け止める。
「ッ!?」
「どうした?透明になっているのに防がれたのがそんなに驚きか?」
ニヤリと笑う“灰被姫”に対し、赤羽は透明化を解除しながら後ろへと下がると、太腿のホルスターから“椿”を投擲し、またもや煙で視界を奪う。白煙に包まれる中、“灰被姫”の目の前に赤羽が飛び出る。
「もう見たんだよそいつァッ!」
そう言うと彼女は懐から円形の刃物を取り出すと、目の前の赤羽ではなく、煙の奥の方に向けて投げ飛ばす。
「!」
飛びかかってきた赤羽は“灰被姫”とぶつかる事なくすり抜ける。そして、放たれた円形の刃は“本物”の赤羽へと向かっていく。
「くっ!?」
赤羽は咄嗟の判断で、腕の手甲部分で刃を弾く。だが、不意の一撃を防いだ事で体勢を崩した一瞬の隙を突き、“灰被姫”は接近すると、刀を振り下ろす。
「シュゥッ!」
「喰らうか!」
振り下ろされた一撃を赤羽は今度は刀で受け流すようにしてかわす。さらに続けた繰り出された仕込み靴の蹴りもサイドステップを踏んでかわす。
「はははっ!しぶといなぁっ!」
「ちっ!なんで私の技が……!」
「知りたいか!?はははははは!知りたいだろうな!」
“灰被姫”が髪を掻き上げ、隠れていた右眼を顕にする。そして、その眼を見た赤羽は思わずギョッとする。
そう……彼女の右眼は機械のカメラのレンズのような無機質なものだったのだ。
「くっくっくっ。どうだ?イカすだろう?“グライアイの瞳”って言うんだがね。」
喋る“灰被姫”に赤羽が斬りかかり、激しく斬り結ぶが、彼女は喋る口を止めない。
「ちょいと右眼と脳を弄られたが、中々に使いごごちはいいぞ!セキュリティが甘い機械なら同期して乗っ取る事も出来るし、何より各種センサーを組み合わせたこの瞳!」
そう言う彼女には赤羽の姿がハッキリと見えている。いくら幻を使おうが、確実にその実体を捉え続ける。
「もうお得意の幻は私には効かねぇぞ!」
“灰被姫”の振るう一撃は重く、下手に受け止めようものなら、赤羽の腕の方が先に参ってしまう。
「気色悪い眼ね!」
「ソイツはお互い様だろう嬢ちゃん!」
互いに凄まじい気迫と共に斬り結び、少しずつ削られていく。拮抗した勝負に見えたが、真正面からぶつかり合うパワーにおいては“灰被姫”の方が上のようで、赤羽は徐々に押し込まれる。
「くそっ……!」
「ははは!中々に面白かったが、ケツの青いガキが私に勝とうなんざ!」
“灰被姫”が渾身の一撃を放つ。それは完璧なタイミングで仕掛けられた一撃だった。赤羽は避け切れず、防ごうと構えたその瞬間。
バギッと鈍い音がしたと同時に赤羽の刀が真っ二つにへし折られてしまう。
「なっ──」
「十年早いんだよォッ!!」
続け様に放たれた蹴りが赤羽を捉えて大きく吹き飛ばす。そのまま地面へと叩きつけられ、肺から空気が漏れ、鈍痛が彼女を襲う。
「ごぉっ……!?」
「勝負アリ、だなぁっ!」
赤羽も鈍い痛みに耐えながら、すぐさま立ち上がるが、体勢を立て直す時間はなく、回避は間に合わない。かと言って刀はへし折られており、防御も受け流しも不可能だ。
(なら、酔生夢死で…!!)
自らを一瞬だけ幻に変えてあらゆる攻撃を回避する技を発動しようとするが、体力をいちぢるしく消耗する。
この一撃を避けたところで、次を避けれる可能性は限りなく低い。
「楽しみだ!お前を殺した後、その透明技術を解析するのが楽しみで仕方ないなぁっ!」
(このままだと、負ける──)
詰みに近い状況。王手をかけられたに等しい状況で赤羽は迫り来る死を睨み付ける。
(──負けられない。)
そんな状況においても、赤羽の闘志は些かも衰えない。刀を握る手に力が籠る。負けられない。死ねない。今も戦っている仲間の為にも、自分の信念のためにも、自分を待っている家族の為にも──!!
(どんなに不利な状況でも、私は──!!)
「私は──生きる!!」
その瞬間“サダルメリクの瞳”を装備していない左眼が宝石のように煌めいて蒼色に輝く。その瞬間赤羽の脳裏にある情報が流れる。
「これは…!?」
「今更何をしようと──!」
構わず“灰被姫”は刀を振り上げる。それに対し、赤羽は折れた刀を居合いのように腰溜めに構える。
「そんなナマクラでぇっ!受けようってかぁっ!?」
(これが私の、最後の足掻き!)
赤羽の左眼がより大きく見開かれ、一際強く輝く。
「無駄な足掻きを──!」
そう叫んで、“灰被姫”が武器を振り下ろそうとして、気づく。
「──あ?」
振おうとした刀が妙に軽くなる。そして、それを振り下ろして気づく。いつの間にか握っていた刀が“赤羽の折れた刀”にすり替わっていることを。
自身の大太刀のリーチで目測した斬撃は、当然赤羽に当たる事はなく、空を斬る。それによって生じた隙を突くように赤羽は“先程まで“灰被姫”が持っていた大太刀”を逆刃にして振り抜く。
「いい刀ね。私にはちょっと、大きいけど!」
振り抜かれた一撃は“灰被姫”の脇腹を捉える。かなりの膂力で振るわれた一撃は彼女の身体に凄まじい衝撃を与え、体内からメリッ、といやな音が鳴り、軋ませる。
「がっ……!?あっ…!こ、のっ、クソガ、キ…!?」
身体を軋ませ、意識を半分消し飛ばされそうになりながらも、意地と言わんばかりに殴り掛かってくる。
「がぁあぁぁぁぁっ!私がこんな、ガキに負けてたまるかぁぁぁっ!」
鬼の形相で、凄まじい執念と共に“灰被姫”は拳を振るう。だが、赤羽はそれに全く動じず、床の小石を拾い上げて彼女の顔に向けて投げつける。
「喰らうかぁ!」
投げつけられた小石を首を横へと傾けてかわす。小石はそのまま彼女の上へと飛んでいく。それを見ていた赤羽の左眼が再び輝く。その瞬間赤羽の姿が消え、代わりに小石が落ちる。その結果“灰被姫”の拳は虚しく空を切る。
「なっ、どこへ……!?」
消えた赤羽を探そうと“灰被姫”は辺りを見回そうとする。だが、赤羽は既に彼女の背後で宙にいた。
「これで、しまいよっ!」
赤羽がソバットの要領が蹴り下ろした一撃がゴンッ!と“灰被姫”の後頭部に炸裂する。
「ごっ……!?」
流石にこれは耐え切れなかったのか、彼女の身体から力が抜け、白目を剥く。
「こ、のっ……ガ……キィ……!?」
恨み言を呟いて、彼女はそのまま前のめりに倒れる。着地した赤羽は倒れて気絶した“灰被姫”を見下ろして、一息つく。
「……ふぅ。面倒な奴だったわ。」
そして、赤羽はそっと、左眼に手を沿わせる。
「……これが、パパが使っていた力…。」
先程赤羽が使ってみせた“無機物同士、もしくは自分”の位置を入れ替える力。これは前の世界で父の裕司が使っていた技だ。あの必殺の一撃を受ける寸前、彼女の脳裏に技の使い方が浮かんで来たのだ。
何故、使えるようになったかは分からない。だが、父が使っていた技が、彼女の起死回生の一手となった。
だが、何故使えるようになったかは、赤羽にとってはどうでも良かった。この技を使えた事に、父からの愛を感じれた。それだけで彼女の顔は綻ぶ。
「ありがと……パパ。」
左眼に指を添えたまま、彼女はそう呟いて、微笑んだ。
「さぁて、トドメを刺してやろう!」
次の瞬間彼女の指示の元、獣二匹が走り出す。一匹が牽制の弾幕を、もう一匹が赤羽へと迫る。
「…調子に乗るなよ。」
赤羽は太腿のホルスターから素早く徹甲弾“椿”を引き抜くと、獣と“灰被姫”に向けて扇状に複数本を投げる。
放たれたそれらはそれぞれの足元に突き刺さるとプシュぅぅぅと音を立てて、煙を撒き散らす。
「!目眩しか!」
目の前に広がる白煙に“灰被姫”の動きが止まる。その隙を突くように煙を突き破り赤羽が躍り出る。
「はっ、真正面!」
だが、“灰被姫”はニヤリと笑うと横薙ぎに刀を振るう。果たして、振るわれた一撃は赤羽を真っ二つにする。
「…あ?」
だが、切り裂いたハズの本人から間の抜けた声が出る。
(手応えが、ない?)
そう感じた次の瞬間金属同士がぶつかり合う甲高い音とバチィッという電気が弾ける音がする。
「なっ…!」
煙が晴れると、そこには先程斬られた筈の“赤羽”が刀で機械の獣を串刺しにしていた。だが、獣は串刺しにされ、動きがぎこちないながらも、脚を振るって反撃しようとする。
「獣風情が!」
赤羽はその一撃を避けつつ、刀を引き抜くと、その顔面に蹴りを叩き込む。それと同時にカチリ、と音が鳴った次の瞬間赤羽の踵部分の装甲から炸裂式パイルバンカー“蛍火”が炸裂し、獣の頭部と上半身を木っ端微塵に粉砕せしめた。
一瞬でスクラップと化した獣を見て、“灰被姫”は顔を顰める。
「おいおい、ひでぇことしやがるな?」
「躾のなってないペットけしかけたアンタに比べりゃマシよ。」
そう言った次の瞬間、赤羽がスタートダッシュを切る。刀を構え、向かって来る彼女に対し、“灰被姫”は思考を巡らせる。
(コイツ、どういう技術かは知らんが幻を出せるらしい…だが、そう仮定したとして、今向かって来る“ビースト”を倒したコイツは本体のハズだ!)
迎撃に彼女が移ろうとした次の瞬間、赤羽の右眼の“サダルメリクの瞳”が輝く。すると赤羽の身体の輪郭が一瞬ブレたと同時にその身体が10体に分身した。
「はぁッ!?」
目の前で起きた不可解な現象に思わず“灰被姫”が叫ぶ。だが、彼女も戦闘のプロだ。すぐさま対応すべく、後ろに下がりながら腰の袋から黒い粉を振り撒く。
「やれ!」
彼女が指示を出した次の瞬間、機械の獣、“ビースト”が火種を発射する。それが粉に触れた瞬間、粉から粉へと着火し、粉塵爆発を引き起こす。
広範囲に舐めるように広がる炎が次々と赤羽達を燃やし、消滅させていく。
「はっ。いくら分裂しようが、纏めて焼き払っちまえば何の問題も──」
燃え盛る炎を見て、“灰被姫”が勝ちを確信したその時。後方からまたもや金属同士がぶつかる甲高い音がする。
「──あ?」
振り返ると、“ビースト”の機銃部分からバチバチと火花が散っている。さらに何かに刺し突かれているかのようにガクガクと震え、アイカメラがチカチカと点滅している。
「何だと?」
何事かと、“灰被姫”が困惑していると、スーッと風景から染み出すように赤羽が現れる。
「なっ、透明化──!?」
驚きながらも“灰被姫”は懐から六角手裏剣を取り出すと、彼女に向けて投擲する。
「はっ。」
だが赤羽はそれを飛び上がってかわすと同時にホルスターから抜いた“椿”を“ビースト”に向けて投擲する。
装甲を貫いて突き刺さったそれは、すぐさま起爆し、内部からその内部を破壊すると同時に、弾薬に着火し、大爆発を引き起こさせた。
「おおおおお!?」
“灰被姫”は素早くバックステップを踏んで、爆発から逃れる。
「はっ、これでご自慢のペットはいなくなったわね!」
赤羽はそう叫ぶとまたもや“サダルメリクの瞳”を光らせ、大量の分身を生み出す。分身に紛れ、透明化した赤羽は右眼が髪の毛で隠れている右サイドから攻め込む。
(これで終わりよ!)
赤羽が逆刃で“灰被姫”を打ち据えようと振りかぶる。
「──チッ、まさか右眼を使わさられるたぁな。」
そう“灰被姫”が呟くと、振るわれた刀を自身の刀で受け止める。
「ッ!?」
「どうした?透明になっているのに防がれたのがそんなに驚きか?」
ニヤリと笑う“灰被姫”に対し、赤羽は透明化を解除しながら後ろへと下がると、太腿のホルスターから“椿”を投擲し、またもや煙で視界を奪う。白煙に包まれる中、“灰被姫”の目の前に赤羽が飛び出る。
「もう見たんだよそいつァッ!」
そう言うと彼女は懐から円形の刃物を取り出すと、目の前の赤羽ではなく、煙の奥の方に向けて投げ飛ばす。
「!」
飛びかかってきた赤羽は“灰被姫”とぶつかる事なくすり抜ける。そして、放たれた円形の刃は“本物”の赤羽へと向かっていく。
「くっ!?」
赤羽は咄嗟の判断で、腕の手甲部分で刃を弾く。だが、不意の一撃を防いだ事で体勢を崩した一瞬の隙を突き、“灰被姫”は接近すると、刀を振り下ろす。
「シュゥッ!」
「喰らうか!」
振り下ろされた一撃を赤羽は今度は刀で受け流すようにしてかわす。さらに続けた繰り出された仕込み靴の蹴りもサイドステップを踏んでかわす。
「はははっ!しぶといなぁっ!」
「ちっ!なんで私の技が……!」
「知りたいか!?はははははは!知りたいだろうな!」
“灰被姫”が髪を掻き上げ、隠れていた右眼を顕にする。そして、その眼を見た赤羽は思わずギョッとする。
そう……彼女の右眼は機械のカメラのレンズのような無機質なものだったのだ。
「くっくっくっ。どうだ?イカすだろう?“グライアイの瞳”って言うんだがね。」
喋る“灰被姫”に赤羽が斬りかかり、激しく斬り結ぶが、彼女は喋る口を止めない。
「ちょいと右眼と脳を弄られたが、中々に使いごごちはいいぞ!セキュリティが甘い機械なら同期して乗っ取る事も出来るし、何より各種センサーを組み合わせたこの瞳!」
そう言う彼女には赤羽の姿がハッキリと見えている。いくら幻を使おうが、確実にその実体を捉え続ける。
「もうお得意の幻は私には効かねぇぞ!」
“灰被姫”の振るう一撃は重く、下手に受け止めようものなら、赤羽の腕の方が先に参ってしまう。
「気色悪い眼ね!」
「ソイツはお互い様だろう嬢ちゃん!」
互いに凄まじい気迫と共に斬り結び、少しずつ削られていく。拮抗した勝負に見えたが、真正面からぶつかり合うパワーにおいては“灰被姫”の方が上のようで、赤羽は徐々に押し込まれる。
「くそっ……!」
「ははは!中々に面白かったが、ケツの青いガキが私に勝とうなんざ!」
“灰被姫”が渾身の一撃を放つ。それは完璧なタイミングで仕掛けられた一撃だった。赤羽は避け切れず、防ごうと構えたその瞬間。
バギッと鈍い音がしたと同時に赤羽の刀が真っ二つにへし折られてしまう。
「なっ──」
「十年早いんだよォッ!!」
続け様に放たれた蹴りが赤羽を捉えて大きく吹き飛ばす。そのまま地面へと叩きつけられ、肺から空気が漏れ、鈍痛が彼女を襲う。
「ごぉっ……!?」
「勝負アリ、だなぁっ!」
赤羽も鈍い痛みに耐えながら、すぐさま立ち上がるが、体勢を立て直す時間はなく、回避は間に合わない。かと言って刀はへし折られており、防御も受け流しも不可能だ。
(なら、酔生夢死で…!!)
自らを一瞬だけ幻に変えてあらゆる攻撃を回避する技を発動しようとするが、体力をいちぢるしく消耗する。
この一撃を避けたところで、次を避けれる可能性は限りなく低い。
「楽しみだ!お前を殺した後、その透明技術を解析するのが楽しみで仕方ないなぁっ!」
(このままだと、負ける──)
詰みに近い状況。王手をかけられたに等しい状況で赤羽は迫り来る死を睨み付ける。
(──負けられない。)
そんな状況においても、赤羽の闘志は些かも衰えない。刀を握る手に力が籠る。負けられない。死ねない。今も戦っている仲間の為にも、自分の信念のためにも、自分を待っている家族の為にも──!!
(どんなに不利な状況でも、私は──!!)
「私は──生きる!!」
その瞬間“サダルメリクの瞳”を装備していない左眼が宝石のように煌めいて蒼色に輝く。その瞬間赤羽の脳裏にある情報が流れる。
「これは…!?」
「今更何をしようと──!」
構わず“灰被姫”は刀を振り上げる。それに対し、赤羽は折れた刀を居合いのように腰溜めに構える。
「そんなナマクラでぇっ!受けようってかぁっ!?」
(これが私の、最後の足掻き!)
赤羽の左眼がより大きく見開かれ、一際強く輝く。
「無駄な足掻きを──!」
そう叫んで、“灰被姫”が武器を振り下ろそうとして、気づく。
「──あ?」
振おうとした刀が妙に軽くなる。そして、それを振り下ろして気づく。いつの間にか握っていた刀が“赤羽の折れた刀”にすり替わっていることを。
自身の大太刀のリーチで目測した斬撃は、当然赤羽に当たる事はなく、空を斬る。それによって生じた隙を突くように赤羽は“先程まで“灰被姫”が持っていた大太刀”を逆刃にして振り抜く。
「いい刀ね。私にはちょっと、大きいけど!」
振り抜かれた一撃は“灰被姫”の脇腹を捉える。かなりの膂力で振るわれた一撃は彼女の身体に凄まじい衝撃を与え、体内からメリッ、といやな音が鳴り、軋ませる。
「がっ……!?あっ…!こ、のっ、クソガ、キ…!?」
身体を軋ませ、意識を半分消し飛ばされそうになりながらも、意地と言わんばかりに殴り掛かってくる。
「がぁあぁぁぁぁっ!私がこんな、ガキに負けてたまるかぁぁぁっ!」
鬼の形相で、凄まじい執念と共に“灰被姫”は拳を振るう。だが、赤羽はそれに全く動じず、床の小石を拾い上げて彼女の顔に向けて投げつける。
「喰らうかぁ!」
投げつけられた小石を首を横へと傾けてかわす。小石はそのまま彼女の上へと飛んでいく。それを見ていた赤羽の左眼が再び輝く。その瞬間赤羽の姿が消え、代わりに小石が落ちる。その結果“灰被姫”の拳は虚しく空を切る。
「なっ、どこへ……!?」
消えた赤羽を探そうと“灰被姫”は辺りを見回そうとする。だが、赤羽は既に彼女の背後で宙にいた。
「これで、しまいよっ!」
赤羽がソバットの要領が蹴り下ろした一撃がゴンッ!と“灰被姫”の後頭部に炸裂する。
「ごっ……!?」
流石にこれは耐え切れなかったのか、彼女の身体から力が抜け、白目を剥く。
「こ、のっ……ガ……キィ……!?」
恨み言を呟いて、彼女はそのまま前のめりに倒れる。着地した赤羽は倒れて気絶した“灰被姫”を見下ろして、一息つく。
「……ふぅ。面倒な奴だったわ。」
そして、赤羽はそっと、左眼に手を沿わせる。
「……これが、パパが使っていた力…。」
先程赤羽が使ってみせた“無機物同士、もしくは自分”の位置を入れ替える力。これは前の世界で父の裕司が使っていた技だ。あの必殺の一撃を受ける寸前、彼女の脳裏に技の使い方が浮かんで来たのだ。
何故、使えるようになったかは分からない。だが、父が使っていた技が、彼女の起死回生の一手となった。
だが、何故使えるようになったかは、赤羽にとってはどうでも良かった。この技を使えた事に、父からの愛を感じれた。それだけで彼女の顔は綻ぶ。
「ありがと……パパ。」
左眼に指を添えたまま、彼女はそう呟いて、微笑んだ。
「行くぞ!」
「チッ!」
黒鳥はそう叫ぶと“赤ずきん”に向けて走り出す。一方の“赤ずきん”は近寄らせてはまずいと判断したのか、“ハンター”をけしかける。
柱の隙間を縫うようにして、“ハンター”達が機銃を乱射しながら迫る。だが、黒鳥は接近をやめ、機銃を避けるべく飛び上がる。
(バカめ!この“鳥籠”では貴様の機動力を活かすことは…!)
飛行能力を有している黒鳥を対策するために障害物を多く設置したこの部屋に誘い込んだのだ。
飛び上がった黒鳥が先程と同じように柱にぶつかり、機動力が殺される……そのハズだった。
次の瞬間黒鳥の背後の四本脚がフレシキブルに動いたかと思うと、柱に爪を突き立て、そのまま器用に柱から柱へと素早く移動する。
「何!?」
しかもそれだけではなく、黒鳥は移動しながら両腕の蛇の手甲を“ハンター”へ向ける。
「ヴェレーノ・ネヴィア!」
手甲から紫色の毒々しい液体が噴霧される。それが“ハンター”に触れると、触れた箇所からジュッと音と煙をあげてドロリと腐食して溶け始める。
「何!?」
溶けて飛行出来なくなった“ハンター”達は次々と落下していく。
「ヴェレーノ・ピオッジャ!」
さらに黒鳥は液体を精製すると、それをドッヂボール大の大きさの水玉にして次々と発射する。放たれた水玉は直撃した“ハンター”を当たった箇所から溶かして削り取りながら、“赤ずきん”へと向かう。
「強酸性の液体か!?」
金属すら容易く溶かしてしまう液体に、脅威を覚えた“赤ずきん”は慌ててその場から離れる。
放たれた水玉は柱にぶつかると、直撃した柱がドロリ
溶け出す。あまりの強烈な威力に思わず“赤ずきん”がゾッと背筋を凍らせていると、いつの間にか黒鳥が距離を詰めていた。
「うおおおっ!」
「何ッ、バカなワイヤートラップは……!?」
上から襲い来る黒鳥に、自身が仕掛けた罠が一つも炸裂した様子がない事に“赤ずきん”は困惑するが、すぐにある事に思い至る。
そう、今黒鳥が向かってくる場所は先程“ハンター”達を迎撃する際に彼女が羽根を飛ばした場所である事に。
「くっ、そうか、あの羽根は迎撃だけじゃなくて罠の解除も……!!」
“赤ずきん”は顔を歪めながらも、拳銃を発砲する。だが黒鳥はそれを手甲で防ぎ、背中の蜘蛛の脚二本が“赤ずきん”へと迫る。
「インファイトがお望みなら!付き合ってやる!」
遠距離では埒が明かないと判断した“赤ずきん”は弾切れの拳銃を捨てると拳を握り締めて、向かってくる脚を掻い潜り、黒鳥の真正面から突っ込む。
「!」
「おおおお!」
振るわれた拳を黒鳥は手甲で受ける。拳と手甲がぶつかり合った瞬間カァンッと甲高い音が鳴る。
「チッ」
(やっぱり何か仕込んでいたか!)
黒鳥の読み通り、“赤ずきん”が繰り出した拳はもちろんただの拳ではなく、見えにくいよう磨き上げられた鋭く尖った暗器を握り締めた殺意の塊だ。
「おおおっ!」
だが、一回弾かれた程度で“赤ずきん”は攻撃の手を緩めない。黒鳥へ怒涛のラッシュを振りかぶる。
「負けられない!」
黒鳥も負けじとその連撃を手甲を盾にして受ける。防御に回る黒鳥を見て、“赤ずきん”はすぐさま次の攻撃の布石を打つ。
(今奴の意識は私の拳に行っている!意識外、鉄板を仕込んだこの靴で奴の脚を潰す!)
“赤ずきん”が脚を振り上げ、彼女の脚を潰そうとしたその瞬間、ゾクリ、と彼女の背筋を冷たいものが走り、本能のアラートが危険を伝える。
「なっ」
その危険なものに“赤ずきん”はすぐ気づく。それは黒鳥の背から伸びた四本の脚が残らず彼女へと爪先を向けていた。
(やばいっ)
“赤ずきん”が後ろへとバックステップを踏んだと同時に爪先が一瞬前まで彼女がいたところに爪が雪崩れ込む。
「ぐっ、考える事は一緒か!」
「逃がさないっ!」
態勢を立て直すべくさらに後ろへと下がろうとした“赤ずきん”へと向けて黒鳥が腕を構える。すると、彼女の腕が伸び、まさしく蛇のように“赤ずきん”へと襲い掛かる。
「ッ!?」
不意の一撃に“赤ずきん”が咄嗟に顔を反らすが、手甲の牙がザックリとそのマスクを引き裂く。
「……!やってくれたわね…!」
引き裂かれたマスクが落ち、その顔が露わになる。そして、その顔を見た黒鳥は思わず目を見開く。
薄橙色の長い髪、猫目のように吊り上がったその瞳、そう、その顔は…驚く程“尾白にそっくり”だったのだ。
「……なっ…」
「何を驚いている?……攫おうとしている少年と私の顔がそっくりだからか?」
「……貴方はあの子の、何?」
黒鳥の問いに、“赤ずきん”はフッと笑うと。
「私は尾白莉虎(おしろ りこ)……あの子の姉よ。」
「姉……?なら、なんで、あの子をこんな、怪しい施設に入れるの!?あの子は、泣いていたのよ!」
そう叫ぶ黒鳥に“赤ずきん”改め、莉虎は武器を構えながら、黒鳥に言う。
「弟は、病気なの。臓器の病気。普通の病院じゃ、治せない!」
「あの子が、病気?」
彼女の言葉に黒鳥は少し違和感を覚える。ほんの少しだけ彼と触れ合ったが、彼に身体的異常は見受けられなかった。
「そう、彼は膵臓の病気。可哀想に、あの子は何度も何度も血反吐を吐いていた!その病気はここにいる医者にしか治せない!」
「……彼に、そんな症状は見受けられなかったわ。」
「嘘をつくな!弟は薬が無ければ1日も生きられない!」
「そんな馬鹿な!1日過ごしたけど、そんな様子は…!」
黒鳥が事情を整理しようとするが、莉虎は暗器を構え、敵意を剥き出しにして彼女へと突っ込む。
「もう良い!貴様と話す事など何もない!!」
向かってくる彼女を見て、黒鳥は逡巡する。もしや、彼女は騙されているのでは?いや、彼女の言ったことが本当なら自分はどうすべきか…
複雑な思いが黒鳥の胸中を巡る。だがそんな彼女の脳裏に尾白のあの言葉が浮かぶ。
《帰りたい》
「!」
その言葉を思い返した黒鳥は腹を決める。蜘蛛の脚を構えると、そこから糸を射出する。放たれた糸は両腕を絡め取り、拘束する。
「なっ」
まさか糸が発射されるとは思っていなかった予想外の一手に莉虎が思わず虚を突かれる。黒鳥はしっかり彼女を拘束すると、地面を大きく蹴り、鳥のように強靭な脚を彼女に向け、迫る。
「ぐっ!?」
「確かに、貴方はきっと、彼を思いやっているんだと思う。大切にしている。それはすごく感じた、けど。」
迫る彼女の一撃を避ける手段はもはや莉虎に存在しなかった。
「それは弟さんの意思を無視してやって良いことの理由にならないっ!!」
「──ッ」
黒鳥の言葉に莉虎は目を見開く。豹一の顔はこの施設に無理矢理連れて来てから一度でも笑顔になっただろうか?両親の反対を押し切り、半ば無理矢理拉致するようなやり方で。薄汚い手しか知らない自分にはこれしか弟を救う手はないと思い。
……弟があんな力強い瞳を見せたのは、初めてだ。
(……分かってる。分かっていたさ。)
自分より目の前にいる少女の方が、よっぽど弟に寄り添えていたと。
「カルニヴォーロ・ラパーチェ・アルティッロ!!」
黒鳥の蹴りが莉虎に炸裂する。メキィッと身体に脚がめり込み、骨が軋む嫌な音が響く。
「がふぅっ…!」
凄まじい衝撃が走り、思わず呻く。
「おおおおおおおおお!!!」
渾身の一撃が彼女に蹴り抜かれ、その身体は大きく吹き飛んで壁に叩きつけられる。
「がっ……はっ……!」
壁に叩きつけられた衝撃と同時に莉虎の身体から力が抜け、ズルズルと倒れる。座り込むように倒れた彼女の前に変身を解いた黒鳥が立つ。
「……先に、進ませて貰うよ。」
黒鳥の言葉に、彼女は俯いて、力なく笑いながら。
「……あぁ。先に、進むと良い……。これだけ、時間を稼げば、手術はもう終わった頃だろう……弟は、これで…」
そう言った次の瞬間、ぶぶっと震える音がする。
『はぁい。足止め、ご苦労様。出来れば勝って欲しかったんだけどね。あなたにも、“灰被姫”にも。』
それは自分の雇い主、氷室からの通信だった。その口ぶりからしてどうやら“灰被姫”も負けてしまったらしい。
「……どう、でもいい……あの子の、あの子の手術は…」
最早立ち上がる力すら無く、項垂れながら彼女がそう言うと、氷室はあー、と悪戯っぽく笑いながら。
『うん、ついさっきあの子の手術は成功したよ。いやー、彼の“心臓”がどうしても欲しくてね。うん。』
「心……臓…?」
氷室の言葉を莉虎は一瞬理解が出来なかった。
「は……?あの子は、膵臓の病気じゃ……」
『あぁ。彼の病気の話なんだけどね。あれ全部嘘なんだ。彼は至って健康だよ。』
氷室の発言に莉虎はますます混乱する。
「は……?だって、血を吐いて……」
『あー、あれね。彼にね。遅効性の毒を接種させたんだよ。意外と混入するのは簡単だったがね。』
騙されていた。その言葉を聞いた彼女はカッとなり、怒りを露わにする。
「き、さま……!!」
『いやー、“灰被姫”が負けた時はどうしようかと思ったけど。日頃の行いのお陰かな。まぁ、彼は手術室に置いておくから、後で取りにおいで。』
そう言うと、ブツリ、と通信が途切れる。
「くっ……!氷室!貴様…!」
莉虎は激昂するが、すぐにどうしようもない絶望感が彼女を奈落へと突き落とす。
「……私だ、私のせいで……」
力なく項垂れる莉虎。そんな彼女の前に黒鳥が立つ。
「……彼はどこ?」
「……今更、なんだ。もう、彼を救う方法は…」
「良いからどこ!?」
黒鳥は莉虎の胸ぐらを掴むと無理矢理立たせる。最早精魂尽き果てた言わんばかりに俯く彼女に鬼気迫る表情で黒鳥は言う。
「早く言いなさい!彼を救いたくないの!?」
「……何?」
黒鳥の言葉に莉虎はピクっと反応する。
「私なら彼を救える!早く案内しなさい!時間との勝負なんだから!」
そう言うと黒鳥は彼女を抱え上げる。莉虎は一瞬逡巡するが、スッと腕を上げる。
「……手術室は、あっちだ。」
「分かった!」
黒鳥は彼女を抱えたまま走り出す。部屋を飛び抜け、高速で手術室へと向かう。
そしてものの数十秒で彼女達は手術室を見つける。
「……あそこ、だ。」
「あそこか!」
そう言うと、黒鳥は扉を蹴破って中へと入る。そしてそこに広がる光景に彼女達は思わず息を呑む。
「あぁ……そんな……」
そこには目を閉じ、手術台に血塗れで横たわっている尾白の姿があった。心臓を取り出してすぐに撤収したのだろう。彼の胸は無残に開かれ、血を垂れ流し続けている。
「すまない豹一、私の、私のせいで……!」
「……貴方、傷の縫合は出来る?」
「……出来たところで、何だ!もう弟は……!」
「…これから先は、貴方の力も必要だ。」
黒鳥はそう言うと、彼の前に立つ。そして一回深呼吸をして、特訓をしていた時のカノープスの言葉を思い出す。
《俺達シードゥスの力は、絶対出来る、そうイメージし、思い込む事が大事だ。そうすりゃ並大抵のことは出来るし、変化する。適合率の問題もあるが……お前なら問題ないだろう。自分を信じろ。それこそが力を最大限に引き出すんだ。》
(絶対出来る!やってみせる!……自分を、信じて!)
そう自分に言い聞かせると、彼女は決意を込めて目を見開くと、思い切り自分の胸に手甲を突き立てる。
「ごっ、おおおおおおおお!!」
文字通り血を吐きながら、体内にある“何か”を掴むと思い切りそれを引っ張り出す。その手に握られているのは、ドクンドクン、と鼓動する彼女の心臓だった。
「ああああっ!」
「貴様、何を……!?」
彼女は激痛を堪えながら、その心臓を尾白の身体に捩じ込む。そして彼女は心臓に当たる部分を押さえながら、絶叫してのたうち回る。
「……お前のやりたい事は…!?」
莉虎は彼女の意図を測りかねつつも、尾白に駆け寄る。そして彼の身体を覗き込むと、なんと、黒鳥の心臓は尾白の血管と融合し、ドクンドクンと鼓動し始める。
「……!!」
それを見た彼女は近くの手術用具を手に取ると、糸を縫って応急処置として彼の身体を縫合する。
「見様見真似だが……!」
まだ動かない彼に軽く心臓マッサージを始める。しばらく続けると彼はゴフッと血を吐くと、ゲホゲホッと咳き込む。
「豹一……!」
莉虎が声をかけると、尾白はうっすらと目を開けると彼女の顔を見て、どこか朧げな意識のまま呟く。
「……姉さん…?」
意識を取り戻した彼を見て、莉虎は目に涙を浮かべながら彼の身体を抱き締める。
「ごめんな豹一…!怖くて、辛い思いを沢山させてしまった…!情けない姉を許してくれ……!」
「……ううん。確かに辛かったけど、天使様のお陰で、ボク。怖くなかった。」
莉虎は彼をしばらく抱きしめていたが、黒鳥の方を振り向く。
心臓を自ら引き抜き、他者に移植すると言う自殺に等しい行為をやってのけた彼女は蹲ったまま静かに震えているだけだ。
「……すまない。私は、お前……いや、君を……」
莉虎が申し訳なさそうに目を伏せながらそう、絞り出したように呟いたその時。
「……ゴフッ、ごっほっ……!」
「なっ……」
心臓に当たる部分を押さえ、咳き込みながら黒鳥が立ち上がる。マスクは外れ、元の人間の姿に戻っている。
「な、ぜ?生きている?お前は、心臓を……」
「……私の力のリソースの全てを心臓の再生に注ぎ込んだ。四肢の再生は何回かやったことはあるけど……意外とやれば出来るものね……」
「……いや、君は……ホントに……怪物だな…」
「いいや、天使様だよ。……ね?」
「うん。」
黒鳥がそう言うと、尾白は笑顔でそう応える。
「……で、一つ相談なんだけど……私、自分の心臓を直して……今、動けないの。だから……運んでくれないか?」
「……申し訳ないが、私も君につけられた傷で結構辛いんだが。立つのがやっとだ。」
「あぁごめん……。でも貴方も私に散々ワイヤートラップやドローンをけしかけて来たし……」
「……そうか、悪いことをした。」
緊張が解けたのか、莉虎も、どさりと力なくその場に座り込む。誰一人動ける者がいないその時。一人の少女が入り口に立つ。
「……あんたら何してんの?」
そこにいたのは身の丈程の刀を持ち、傷だらけの赤羽だった。
「チッ!」
黒鳥はそう叫ぶと“赤ずきん”に向けて走り出す。一方の“赤ずきん”は近寄らせてはまずいと判断したのか、“ハンター”をけしかける。
柱の隙間を縫うようにして、“ハンター”達が機銃を乱射しながら迫る。だが、黒鳥は接近をやめ、機銃を避けるべく飛び上がる。
(バカめ!この“鳥籠”では貴様の機動力を活かすことは…!)
飛行能力を有している黒鳥を対策するために障害物を多く設置したこの部屋に誘い込んだのだ。
飛び上がった黒鳥が先程と同じように柱にぶつかり、機動力が殺される……そのハズだった。
次の瞬間黒鳥の背後の四本脚がフレシキブルに動いたかと思うと、柱に爪を突き立て、そのまま器用に柱から柱へと素早く移動する。
「何!?」
しかもそれだけではなく、黒鳥は移動しながら両腕の蛇の手甲を“ハンター”へ向ける。
「ヴェレーノ・ネヴィア!」
手甲から紫色の毒々しい液体が噴霧される。それが“ハンター”に触れると、触れた箇所からジュッと音と煙をあげてドロリと腐食して溶け始める。
「何!?」
溶けて飛行出来なくなった“ハンター”達は次々と落下していく。
「ヴェレーノ・ピオッジャ!」
さらに黒鳥は液体を精製すると、それをドッヂボール大の大きさの水玉にして次々と発射する。放たれた水玉は直撃した“ハンター”を当たった箇所から溶かして削り取りながら、“赤ずきん”へと向かう。
「強酸性の液体か!?」
金属すら容易く溶かしてしまう液体に、脅威を覚えた“赤ずきん”は慌ててその場から離れる。
放たれた水玉は柱にぶつかると、直撃した柱がドロリ
溶け出す。あまりの強烈な威力に思わず“赤ずきん”がゾッと背筋を凍らせていると、いつの間にか黒鳥が距離を詰めていた。
「うおおおっ!」
「何ッ、バカなワイヤートラップは……!?」
上から襲い来る黒鳥に、自身が仕掛けた罠が一つも炸裂した様子がない事に“赤ずきん”は困惑するが、すぐにある事に思い至る。
そう、今黒鳥が向かってくる場所は先程“ハンター”達を迎撃する際に彼女が羽根を飛ばした場所である事に。
「くっ、そうか、あの羽根は迎撃だけじゃなくて罠の解除も……!!」
“赤ずきん”は顔を歪めながらも、拳銃を発砲する。だが黒鳥はそれを手甲で防ぎ、背中の蜘蛛の脚二本が“赤ずきん”へと迫る。
「インファイトがお望みなら!付き合ってやる!」
遠距離では埒が明かないと判断した“赤ずきん”は弾切れの拳銃を捨てると拳を握り締めて、向かってくる脚を掻い潜り、黒鳥の真正面から突っ込む。
「!」
「おおおお!」
振るわれた拳を黒鳥は手甲で受ける。拳と手甲がぶつかり合った瞬間カァンッと甲高い音が鳴る。
「チッ」
(やっぱり何か仕込んでいたか!)
黒鳥の読み通り、“赤ずきん”が繰り出した拳はもちろんただの拳ではなく、見えにくいよう磨き上げられた鋭く尖った暗器を握り締めた殺意の塊だ。
「おおおっ!」
だが、一回弾かれた程度で“赤ずきん”は攻撃の手を緩めない。黒鳥へ怒涛のラッシュを振りかぶる。
「負けられない!」
黒鳥も負けじとその連撃を手甲を盾にして受ける。防御に回る黒鳥を見て、“赤ずきん”はすぐさま次の攻撃の布石を打つ。
(今奴の意識は私の拳に行っている!意識外、鉄板を仕込んだこの靴で奴の脚を潰す!)
“赤ずきん”が脚を振り上げ、彼女の脚を潰そうとしたその瞬間、ゾクリ、と彼女の背筋を冷たいものが走り、本能のアラートが危険を伝える。
「なっ」
その危険なものに“赤ずきん”はすぐ気づく。それは黒鳥の背から伸びた四本の脚が残らず彼女へと爪先を向けていた。
(やばいっ)
“赤ずきん”が後ろへとバックステップを踏んだと同時に爪先が一瞬前まで彼女がいたところに爪が雪崩れ込む。
「ぐっ、考える事は一緒か!」
「逃がさないっ!」
態勢を立て直すべくさらに後ろへと下がろうとした“赤ずきん”へと向けて黒鳥が腕を構える。すると、彼女の腕が伸び、まさしく蛇のように“赤ずきん”へと襲い掛かる。
「ッ!?」
不意の一撃に“赤ずきん”が咄嗟に顔を反らすが、手甲の牙がザックリとそのマスクを引き裂く。
「……!やってくれたわね…!」
引き裂かれたマスクが落ち、その顔が露わになる。そして、その顔を見た黒鳥は思わず目を見開く。
薄橙色の長い髪、猫目のように吊り上がったその瞳、そう、その顔は…驚く程“尾白にそっくり”だったのだ。
「……なっ…」
「何を驚いている?……攫おうとしている少年と私の顔がそっくりだからか?」
「……貴方はあの子の、何?」
黒鳥の問いに、“赤ずきん”はフッと笑うと。
「私は尾白莉虎(おしろ りこ)……あの子の姉よ。」
「姉……?なら、なんで、あの子をこんな、怪しい施設に入れるの!?あの子は、泣いていたのよ!」
そう叫ぶ黒鳥に“赤ずきん”改め、莉虎は武器を構えながら、黒鳥に言う。
「弟は、病気なの。臓器の病気。普通の病院じゃ、治せない!」
「あの子が、病気?」
彼女の言葉に黒鳥は少し違和感を覚える。ほんの少しだけ彼と触れ合ったが、彼に身体的異常は見受けられなかった。
「そう、彼は膵臓の病気。可哀想に、あの子は何度も何度も血反吐を吐いていた!その病気はここにいる医者にしか治せない!」
「……彼に、そんな症状は見受けられなかったわ。」
「嘘をつくな!弟は薬が無ければ1日も生きられない!」
「そんな馬鹿な!1日過ごしたけど、そんな様子は…!」
黒鳥が事情を整理しようとするが、莉虎は暗器を構え、敵意を剥き出しにして彼女へと突っ込む。
「もう良い!貴様と話す事など何もない!!」
向かってくる彼女を見て、黒鳥は逡巡する。もしや、彼女は騙されているのでは?いや、彼女の言ったことが本当なら自分はどうすべきか…
複雑な思いが黒鳥の胸中を巡る。だがそんな彼女の脳裏に尾白のあの言葉が浮かぶ。
《帰りたい》
「!」
その言葉を思い返した黒鳥は腹を決める。蜘蛛の脚を構えると、そこから糸を射出する。放たれた糸は両腕を絡め取り、拘束する。
「なっ」
まさか糸が発射されるとは思っていなかった予想外の一手に莉虎が思わず虚を突かれる。黒鳥はしっかり彼女を拘束すると、地面を大きく蹴り、鳥のように強靭な脚を彼女に向け、迫る。
「ぐっ!?」
「確かに、貴方はきっと、彼を思いやっているんだと思う。大切にしている。それはすごく感じた、けど。」
迫る彼女の一撃を避ける手段はもはや莉虎に存在しなかった。
「それは弟さんの意思を無視してやって良いことの理由にならないっ!!」
「──ッ」
黒鳥の言葉に莉虎は目を見開く。豹一の顔はこの施設に無理矢理連れて来てから一度でも笑顔になっただろうか?両親の反対を押し切り、半ば無理矢理拉致するようなやり方で。薄汚い手しか知らない自分にはこれしか弟を救う手はないと思い。
……弟があんな力強い瞳を見せたのは、初めてだ。
(……分かってる。分かっていたさ。)
自分より目の前にいる少女の方が、よっぽど弟に寄り添えていたと。
「カルニヴォーロ・ラパーチェ・アルティッロ!!」
黒鳥の蹴りが莉虎に炸裂する。メキィッと身体に脚がめり込み、骨が軋む嫌な音が響く。
「がふぅっ…!」
凄まじい衝撃が走り、思わず呻く。
「おおおおおおおおお!!!」
渾身の一撃が彼女に蹴り抜かれ、その身体は大きく吹き飛んで壁に叩きつけられる。
「がっ……はっ……!」
壁に叩きつけられた衝撃と同時に莉虎の身体から力が抜け、ズルズルと倒れる。座り込むように倒れた彼女の前に変身を解いた黒鳥が立つ。
「……先に、進ませて貰うよ。」
黒鳥の言葉に、彼女は俯いて、力なく笑いながら。
「……あぁ。先に、進むと良い……。これだけ、時間を稼げば、手術はもう終わった頃だろう……弟は、これで…」
そう言った次の瞬間、ぶぶっと震える音がする。
『はぁい。足止め、ご苦労様。出来れば勝って欲しかったんだけどね。あなたにも、“灰被姫”にも。』
それは自分の雇い主、氷室からの通信だった。その口ぶりからしてどうやら“灰被姫”も負けてしまったらしい。
「……どう、でもいい……あの子の、あの子の手術は…」
最早立ち上がる力すら無く、項垂れながら彼女がそう言うと、氷室はあー、と悪戯っぽく笑いながら。
『うん、ついさっきあの子の手術は成功したよ。いやー、彼の“心臓”がどうしても欲しくてね。うん。』
「心……臓…?」
氷室の言葉を莉虎は一瞬理解が出来なかった。
「は……?あの子は、膵臓の病気じゃ……」
『あぁ。彼の病気の話なんだけどね。あれ全部嘘なんだ。彼は至って健康だよ。』
氷室の発言に莉虎はますます混乱する。
「は……?だって、血を吐いて……」
『あー、あれね。彼にね。遅効性の毒を接種させたんだよ。意外と混入するのは簡単だったがね。』
騙されていた。その言葉を聞いた彼女はカッとなり、怒りを露わにする。
「き、さま……!!」
『いやー、“灰被姫”が負けた時はどうしようかと思ったけど。日頃の行いのお陰かな。まぁ、彼は手術室に置いておくから、後で取りにおいで。』
そう言うと、ブツリ、と通信が途切れる。
「くっ……!氷室!貴様…!」
莉虎は激昂するが、すぐにどうしようもない絶望感が彼女を奈落へと突き落とす。
「……私だ、私のせいで……」
力なく項垂れる莉虎。そんな彼女の前に黒鳥が立つ。
「……彼はどこ?」
「……今更、なんだ。もう、彼を救う方法は…」
「良いからどこ!?」
黒鳥は莉虎の胸ぐらを掴むと無理矢理立たせる。最早精魂尽き果てた言わんばかりに俯く彼女に鬼気迫る表情で黒鳥は言う。
「早く言いなさい!彼を救いたくないの!?」
「……何?」
黒鳥の言葉に莉虎はピクっと反応する。
「私なら彼を救える!早く案内しなさい!時間との勝負なんだから!」
そう言うと黒鳥は彼女を抱え上げる。莉虎は一瞬逡巡するが、スッと腕を上げる。
「……手術室は、あっちだ。」
「分かった!」
黒鳥は彼女を抱えたまま走り出す。部屋を飛び抜け、高速で手術室へと向かう。
そしてものの数十秒で彼女達は手術室を見つける。
「……あそこ、だ。」
「あそこか!」
そう言うと、黒鳥は扉を蹴破って中へと入る。そしてそこに広がる光景に彼女達は思わず息を呑む。
「あぁ……そんな……」
そこには目を閉じ、手術台に血塗れで横たわっている尾白の姿があった。心臓を取り出してすぐに撤収したのだろう。彼の胸は無残に開かれ、血を垂れ流し続けている。
「すまない豹一、私の、私のせいで……!」
「……貴方、傷の縫合は出来る?」
「……出来たところで、何だ!もう弟は……!」
「…これから先は、貴方の力も必要だ。」
黒鳥はそう言うと、彼の前に立つ。そして一回深呼吸をして、特訓をしていた時のカノープスの言葉を思い出す。
《俺達シードゥスの力は、絶対出来る、そうイメージし、思い込む事が大事だ。そうすりゃ並大抵のことは出来るし、変化する。適合率の問題もあるが……お前なら問題ないだろう。自分を信じろ。それこそが力を最大限に引き出すんだ。》
(絶対出来る!やってみせる!……自分を、信じて!)
そう自分に言い聞かせると、彼女は決意を込めて目を見開くと、思い切り自分の胸に手甲を突き立てる。
「ごっ、おおおおおおおお!!」
文字通り血を吐きながら、体内にある“何か”を掴むと思い切りそれを引っ張り出す。その手に握られているのは、ドクンドクン、と鼓動する彼女の心臓だった。
「ああああっ!」
「貴様、何を……!?」
彼女は激痛を堪えながら、その心臓を尾白の身体に捩じ込む。そして彼女は心臓に当たる部分を押さえながら、絶叫してのたうち回る。
「……お前のやりたい事は…!?」
莉虎は彼女の意図を測りかねつつも、尾白に駆け寄る。そして彼の身体を覗き込むと、なんと、黒鳥の心臓は尾白の血管と融合し、ドクンドクンと鼓動し始める。
「……!!」
それを見た彼女は近くの手術用具を手に取ると、糸を縫って応急処置として彼の身体を縫合する。
「見様見真似だが……!」
まだ動かない彼に軽く心臓マッサージを始める。しばらく続けると彼はゴフッと血を吐くと、ゲホゲホッと咳き込む。
「豹一……!」
莉虎が声をかけると、尾白はうっすらと目を開けると彼女の顔を見て、どこか朧げな意識のまま呟く。
「……姉さん…?」
意識を取り戻した彼を見て、莉虎は目に涙を浮かべながら彼の身体を抱き締める。
「ごめんな豹一…!怖くて、辛い思いを沢山させてしまった…!情けない姉を許してくれ……!」
「……ううん。確かに辛かったけど、天使様のお陰で、ボク。怖くなかった。」
莉虎は彼をしばらく抱きしめていたが、黒鳥の方を振り向く。
心臓を自ら引き抜き、他者に移植すると言う自殺に等しい行為をやってのけた彼女は蹲ったまま静かに震えているだけだ。
「……すまない。私は、お前……いや、君を……」
莉虎が申し訳なさそうに目を伏せながらそう、絞り出したように呟いたその時。
「……ゴフッ、ごっほっ……!」
「なっ……」
心臓に当たる部分を押さえ、咳き込みながら黒鳥が立ち上がる。マスクは外れ、元の人間の姿に戻っている。
「な、ぜ?生きている?お前は、心臓を……」
「……私の力のリソースの全てを心臓の再生に注ぎ込んだ。四肢の再生は何回かやったことはあるけど……意外とやれば出来るものね……」
「……いや、君は……ホントに……怪物だな…」
「いいや、天使様だよ。……ね?」
「うん。」
黒鳥がそう言うと、尾白は笑顔でそう応える。
「……で、一つ相談なんだけど……私、自分の心臓を直して……今、動けないの。だから……運んでくれないか?」
「……申し訳ないが、私も君につけられた傷で結構辛いんだが。立つのがやっとだ。」
「あぁごめん……。でも貴方も私に散々ワイヤートラップやドローンをけしかけて来たし……」
「……そうか、悪いことをした。」
緊張が解けたのか、莉虎も、どさりと力なくその場に座り込む。誰一人動ける者がいないその時。一人の少女が入り口に立つ。
「……あんたら何してんの?」
そこにいたのは身の丈程の刀を持ち、傷だらけの赤羽だった。
「くっ、全く!私が逃げなくてはならんとは!」
「まぁ、目的のものは手に入れましたし。良しとしましょう。」
護衛数人に囲まれながら、貝塚と塩田、そして氷室は秘密の脱出口へと向かっていた。
そして脱出用の車の前まで来て、乗り込もうとしたその時。
「成る程。やっぱり君が一枚噛んでいたか、氷室。」
上から声を掛けられる。見れば上の昇降台の上に一人の女性、月乃助が立っていた。
その腕には銃が握られており、その銃口は氷室達ではなく、車に向けられていた。
「結衣、月乃助……!?何故ここに…!?」
「たまたま気の合う友人を見つけてね。仲良くなって教えて貰ったんだ。」
驚く貝塚、無感情に彼女を見つめる塩田。そしてどこか怒気が篭った視線を氷室が月乃助に向ける。
「よくもまぁ、私の作品をあそこまで低俗にパクってくれたものだ。前の亜美君のスーツのパクリも君の仕業だろう?」
「パクリ!?パクリだと!?貴様…私の発明を…!」
激昂する彼女を無視して、彼女はザッと敵全体を俯瞰する。
(……護衛は四人……三人は銃で武装した兵士。そして…何よりも気になるのは……“黄金の兵士”。)
四人の内、一人。一人だけ明らかに放つオーラが違う存在がいる。それはフルフェイスのマスクを被り、肩のマントをたなびかせる“黄金の兵士”だ。
その存在に警戒しつつ、月乃助は質問を投げかける。
「だが私はね。君の才能は結構尊敬していたんだよ。私や亜美のように0から1を生み出せなくても……1を100にできる。特に……私達のオリジナルから廉価版を生み出す、その才能は感嘆に値する。」
「な、ん、だ、と……!?」
「その“黄金の兵士”君は何処からパクったものだい?見てくれは随分とまぁ豪華だが。」
月乃助がそう言うと、“黄金の兵士”は少し反応するが特に動かない。
「そう言えば、友人から色々聞いたんだが、気になる事があってね。……何故、彼の心臓を欲しがる?君は生物学専攻に鞍替えでもしたのかい?」
「昔から貴様と雪花は気に食わなかった!私の発明がパクリだと!?私の発明にくだらないケチを……!!」
そう、尋ねるが氷室はどうやら極度の興奮状態に陥っているらしく恨み言を喚き散らすのみで、会話にならない。
その様子を見た月乃助ははぁとため息をついて、頭を抱える。
「…そうだった。君、癇癪起こすと会話が成立しないんだった。」
喚き散らす彼女に、呆れたような視線を向けるのは月乃助だけで無く、貝塚達もハァとため息をつく。
すると、“黄金の兵士”が頭をかきながら。
「……後はボクが護衛致しますので、先に乗ってください。」
他の者達に車に乗るよう催促する。
「おおっと。そうはさせないぞ。」
脱出手段を潰すべく彼女が車に向けて発砲した次の瞬間。俊敏な動作で腰の剣を引き抜いた“黄金の兵士”が割って入り、全ての弾丸を剣で受け止める。
「なにっ」
「早く乗って下さい。」
「う、うむ。助かる。ほら、行くぞ氷室君。」
「結衣ー!お前覚えてろ!いつか!いつかお前を!」
彼がもう一度そう言うと、他の者達もすぐに車に乗り込む。月乃助も逃すまいと銃を構えるが、“黄金の兵士”はそうはさせないと剣の切先を月乃助に向け、牽制する。
そして、そのまま車は何処かへと走り去ってしまう。残された“黄金の兵士”はそれを確認すると、剣の切先を下ろす。
「さて、貴方のような美人とはまだ見つめ合っていたいが……残念だ。またお会いしたいものだ。」
兵士はそう言うと剣を納め、“黄金の兵士”も車を追いかけるようにその場を去る。
彼女はその後ろ姿をしばらく睨んでいたが…はぁ、とため息をついて銃を下ろす。
「……見た目に反して随分と軟派な……。」
そうしていると、耳の通信機から赤羽の声が聞こえる。
「ちょっとアンタ今どこにいる?もし暇なら手伝って欲しいんだけど。」
「うむ。タイミングよく丁度今暇になった。どうした?」
「それがさぁ、黒鳥のアホがさぁ、動けなくなってんの。それに追加で後二人動けない奴いるから。手伝ってほしいの。手術室ってところにいるから。」
「成る程。今向かう。」
そう言って月乃助は通信機を切り、車が去って行った方を見る。
「…これは、もう一波乱ありそうだな。」
そう遠くない未来、訪れるであろう動乱を予期し、月乃助はその身を翻し、赤羽達の元へと向かうのだった。
「まぁ、目的のものは手に入れましたし。良しとしましょう。」
護衛数人に囲まれながら、貝塚と塩田、そして氷室は秘密の脱出口へと向かっていた。
そして脱出用の車の前まで来て、乗り込もうとしたその時。
「成る程。やっぱり君が一枚噛んでいたか、氷室。」
上から声を掛けられる。見れば上の昇降台の上に一人の女性、月乃助が立っていた。
その腕には銃が握られており、その銃口は氷室達ではなく、車に向けられていた。
「結衣、月乃助……!?何故ここに…!?」
「たまたま気の合う友人を見つけてね。仲良くなって教えて貰ったんだ。」
驚く貝塚、無感情に彼女を見つめる塩田。そしてどこか怒気が篭った視線を氷室が月乃助に向ける。
「よくもまぁ、私の作品をあそこまで低俗にパクってくれたものだ。前の亜美君のスーツのパクリも君の仕業だろう?」
「パクリ!?パクリだと!?貴様…私の発明を…!」
激昂する彼女を無視して、彼女はザッと敵全体を俯瞰する。
(……護衛は四人……三人は銃で武装した兵士。そして…何よりも気になるのは……“黄金の兵士”。)
四人の内、一人。一人だけ明らかに放つオーラが違う存在がいる。それはフルフェイスのマスクを被り、肩のマントをたなびかせる“黄金の兵士”だ。
その存在に警戒しつつ、月乃助は質問を投げかける。
「だが私はね。君の才能は結構尊敬していたんだよ。私や亜美のように0から1を生み出せなくても……1を100にできる。特に……私達のオリジナルから廉価版を生み出す、その才能は感嘆に値する。」
「な、ん、だ、と……!?」
「その“黄金の兵士”君は何処からパクったものだい?見てくれは随分とまぁ豪華だが。」
月乃助がそう言うと、“黄金の兵士”は少し反応するが特に動かない。
「そう言えば、友人から色々聞いたんだが、気になる事があってね。……何故、彼の心臓を欲しがる?君は生物学専攻に鞍替えでもしたのかい?」
「昔から貴様と雪花は気に食わなかった!私の発明がパクリだと!?私の発明にくだらないケチを……!!」
そう、尋ねるが氷室はどうやら極度の興奮状態に陥っているらしく恨み言を喚き散らすのみで、会話にならない。
その様子を見た月乃助ははぁとため息をついて、頭を抱える。
「…そうだった。君、癇癪起こすと会話が成立しないんだった。」
喚き散らす彼女に、呆れたような視線を向けるのは月乃助だけで無く、貝塚達もハァとため息をつく。
すると、“黄金の兵士”が頭をかきながら。
「……後はボクが護衛致しますので、先に乗ってください。」
他の者達に車に乗るよう催促する。
「おおっと。そうはさせないぞ。」
脱出手段を潰すべく彼女が車に向けて発砲した次の瞬間。俊敏な動作で腰の剣を引き抜いた“黄金の兵士”が割って入り、全ての弾丸を剣で受け止める。
「なにっ」
「早く乗って下さい。」
「う、うむ。助かる。ほら、行くぞ氷室君。」
「結衣ー!お前覚えてろ!いつか!いつかお前を!」
彼がもう一度そう言うと、他の者達もすぐに車に乗り込む。月乃助も逃すまいと銃を構えるが、“黄金の兵士”はそうはさせないと剣の切先を月乃助に向け、牽制する。
そして、そのまま車は何処かへと走り去ってしまう。残された“黄金の兵士”はそれを確認すると、剣の切先を下ろす。
「さて、貴方のような美人とはまだ見つめ合っていたいが……残念だ。またお会いしたいものだ。」
兵士はそう言うと剣を納め、“黄金の兵士”も車を追いかけるようにその場を去る。
彼女はその後ろ姿をしばらく睨んでいたが…はぁ、とため息をついて銃を下ろす。
「……見た目に反して随分と軟派な……。」
そうしていると、耳の通信機から赤羽の声が聞こえる。
「ちょっとアンタ今どこにいる?もし暇なら手伝って欲しいんだけど。」
「うむ。タイミングよく丁度今暇になった。どうした?」
「それがさぁ、黒鳥のアホがさぁ、動けなくなってんの。それに追加で後二人動けない奴いるから。手伝ってほしいの。手術室ってところにいるから。」
「成る程。今向かう。」
そう言って月乃助は通信機を切り、車が去って行った方を見る。
「…これは、もう一波乱ありそうだな。」
そう遠くない未来、訪れるであろう動乱を予期し、月乃助はその身を翻し、赤羽達の元へと向かうのだった。
数ヶ月後。黒鳥の家を赤羽と月乃助が訪ねて来た。
「いらっしゃい二人とも。」
「ふん。」
「うむ。お邪魔するよ。今日は報告したい事があったからね。」
黒鳥が二人を上げ、居間へと通す。皆が席につくと、月乃助が語り出す。
「うむ。まずは私達で先日潰した基地だがね。まぁ、結果から言うと一応警察に通報して、武器所持、非合法な手術や技術流出を行っていたってことで、あの場で私達がノした施設員達は逮捕されたよ。赤羽君が倒した女もお縄だ。」
「ふんっ。まぁせいせいしたわ。」
月乃助の言葉に赤羽が鼻を鳴らす。まぁ黒鳥も祖母の旅館を吹っ飛ばされたのでちょっと清々したのだが。
「と、言っても首謀者である氷室達には逃げられたから、全部マルッと解決と言う訳ではないが。」
月乃助はそう言うと、ガサゴソと鞄を漁り始める。そして一枚の写真を取り出すと二人に見せる。
「昨日送られて来たんだがね。多分君達が一番知りたい事じゃないかな、と思ってね。」
その写真を見た赤羽は腕を組みながら、ふんっと鼻を鳴らし、黒鳥はその写真を手に取り、思わず笑みをこぼす。
「それと、伝言を預かって来た。姉の方からは故郷に戻って足を洗い、家族と一からやり直して見るとのことだ。そして、弟からは……いつか、お礼を言いに会いに行く。天使様もお元気で……だそうだ。……なんだけど。まぁ、その。なんだ。私もあまり人の趣味はとやかく言いたくないが……流石に年下の子に自分を天使とか言わせるのはどうなんだ?」
月乃助の指摘に黒鳥はボッと顔を紅くして。
「ち、違います!いや、違くはないけど、アレはその場のノリと言うか…!」
「やっぱりアンタもそう思う?私もヤバいと思ってたのよ。」
「だーかーらー!誤解なんですってー!」
黒鳥が誤解を解くべく二人に説明しようと腕を振ると、机の上の写真がヒラリと舞い上がる。
そこには笑顔を浮かべる尾白と莉虎の二人が写っていたのだった。
「いらっしゃい二人とも。」
「ふん。」
「うむ。お邪魔するよ。今日は報告したい事があったからね。」
黒鳥が二人を上げ、居間へと通す。皆が席につくと、月乃助が語り出す。
「うむ。まずは私達で先日潰した基地だがね。まぁ、結果から言うと一応警察に通報して、武器所持、非合法な手術や技術流出を行っていたってことで、あの場で私達がノした施設員達は逮捕されたよ。赤羽君が倒した女もお縄だ。」
「ふんっ。まぁせいせいしたわ。」
月乃助の言葉に赤羽が鼻を鳴らす。まぁ黒鳥も祖母の旅館を吹っ飛ばされたのでちょっと清々したのだが。
「と、言っても首謀者である氷室達には逃げられたから、全部マルッと解決と言う訳ではないが。」
月乃助はそう言うと、ガサゴソと鞄を漁り始める。そして一枚の写真を取り出すと二人に見せる。
「昨日送られて来たんだがね。多分君達が一番知りたい事じゃないかな、と思ってね。」
その写真を見た赤羽は腕を組みながら、ふんっと鼻を鳴らし、黒鳥はその写真を手に取り、思わず笑みをこぼす。
「それと、伝言を預かって来た。姉の方からは故郷に戻って足を洗い、家族と一からやり直して見るとのことだ。そして、弟からは……いつか、お礼を言いに会いに行く。天使様もお元気で……だそうだ。……なんだけど。まぁ、その。なんだ。私もあまり人の趣味はとやかく言いたくないが……流石に年下の子に自分を天使とか言わせるのはどうなんだ?」
月乃助の指摘に黒鳥はボッと顔を紅くして。
「ち、違います!いや、違くはないけど、アレはその場のノリと言うか…!」
「やっぱりアンタもそう思う?私もヤバいと思ってたのよ。」
「だーかーらー!誤解なんですってー!」
黒鳥が誤解を解くべく二人に説明しようと腕を振ると、机の上の写真がヒラリと舞い上がる。
そこには笑顔を浮かべる尾白と莉虎の二人が写っていたのだった。
END