丸山圭三郎『言葉と無意識』(1989)講談社現代新書


深層のロゴス・アナグラム・生命の波動

 現代思想の問いは、言葉の問題に収斂する。
 世界を分節し、文化を形成する「言葉」は無意識の深みで、どのように流動しているのか?
 光の輝き(ロゴス)と闇の豊饒(パトス)が混在する無限の領域を探照する知的冒険の書。


●目次



 Ⅰ 情念という名の言葉-ロゴスとパトス-

  ●頭と気持

  1 ロゴスと言葉
   ハイデガーの言語観
   カタログに整理する
   神(エホバ)の言葉とアダムの言葉
   言霊の力
   電車は人間か、人形か?
   ヘレン・ケラーの“最初の一語”
   語る=聞く、書く=読む
   <読む>ことは<創る>ことである

  2 属性と考えられたパトス
   文化と自然の対立
   <生ける自然>観
   歴史的産物としての<子供>
   文化化された自然
   情念と受苦
   身体に原因する心の乱れ


 Ⅱ-ソシュール・人と思想


  1 西欧における言語観の変遷
   ソシュール以前
   契約か、真理の黙示か
   サンスクリットの発見
   音変化の法則に例外なし
   形而上学と科学に共通するポリア

  2 ソシュールの生涯
   自然科学者と詩人の血を引くフェルディナン
   ライプツィッヒと留学の俊英
   謎の沈黙
   三回にわたる一般言語学講義と死

  3 一般言語学理論
   『講義』の成立事情
   言語能力と社会制度と個人の実践
   言葉による二重の疎外
   <体系(システム)>というキー・コンセプト
   <現前の記号学>批判
   記号とは何か
   共同幻想としての文化
   自存的意味の否定
   表層言語=ラング、深層の言葉=ランガージュ

 Ⅲ-アナグラムの謎

  ●二人のソシュール●

  1 アナグラムとは何か
   文字の入れ替えによる<言葉遊び>
   歌織物としての「百人一首」
   水無瀬の里の景観
   亡びゆく王朝への挽歌

  2 詩法としての<音>の法則
   古代ローマのサトゥルヌス詩
   従来の詩法-律動(リズム)と諧調(ハーモニー)
   畳韻法(アリテラシオン)ではない音の法則
   アナグラム研究の事実経過と原資料
   現実か、空想の産物か
   パスコリへの手紙
   パラグラム概念の重要性
   アナグラムの具体例
   暗号文(クリプトグラフ)としてのアナグラム
   ソシュールの確信
   浮かび上がる関係者の名前
   フランスの詩に現れたアナグラム
   神話的思考としての試作
   伊勢物語の“かきつばた”

  3 深層意識の働き
   音楽の双生児
   意識的か、偶然か
   言語=意識の深層
   詩人たちの証言
   <間テクスト性>と意味生成
   <本歌取り>も間テクストの一種である
   引用の無限の連鎖
   言葉と言葉はエロティックな恋をする
   テクストの裏側に潜む力
   アナグラムとポリフォニー
   謡曲の声や能管の音色の幽玄

  4 複数の主体<私>=<他者>
   語るものは誰か?
   非人称的空間-マラルメ、ヴァレリー、ニーチェ、アルトー
   私はもう一人の他者である
   <意味>の不在
   イエスと葉巻とセックス

 Ⅳ-無意識の復権

  ●心の奥にかくれているx●

  1 非合理的なもの
   既視現象・無意志的想起・集合的無意識
   <光>の文化としての西欧の伝統
   <気>と<影>をめぐって
   東洋の優等生たち
   表層の言葉(ロゴス)=ラングのみを対象とする学問
   東洋の言語思想
   唯識派の<アラヤ識>

  2 無意識と身体
   理性は万人の狂気である
   精神分析学の登場-フロイトとユング
   無意識は本能的なものか?
   ヒトと動物の間
   ゲシュタルトとは何か
   二つのゲシュタルト
   過剰なシンボル化能力とその所産
   同類殺しをする動物
   逆ホメオスタシス
   言分けられた身

  3 人間存在の重要性
   自覚せざる精神分析学者・ソシュール
   出来事(エヴエヌマン)としての言葉
   ラング=ランガージュと意識=下意識
   言葉の産物である<無意識>
   欲動は言葉の産物か?
   カオス・コスモス・ノモス
   コスモスとランガージュの世界
   <カオスモス>の現出
   意味化の円環的運動

 Ⅴ-文化と言葉の無意識

  ●金と性(セックス)と死●

  1 心身を蝕む<物>信仰
   貨幣は言葉である
   価値は関係から成立する
   関係が<物>を生み出す
   人間の性(セックス)も言葉である
   想像力が生み出す性感
   動物も神も羞恥しない
   自我の崩壊がもたらす羞恥の苦痛と快楽
   関係の産物であるエロティシズム
   <死>も言葉である
   最初の神秘である<死>の目撃
   人間は二度<死>を体験する
   動物は死なない
   万人が<心の病い>にかかっている
   管理社会とストレス

  2 無意識の開放
   科学という<物神>
   脳死判定と臓器移植
   <正常><異常>とは何か
   マーラーの音楽と狂気
   <表層のロゴス>の産物
   臨床心理学の治療は抑圧でしかない
   <カタルシス>精神療法の効用と限界
   <昇華>という存在喚起作用
   <知る>ことは<創る>喜びをもたらす
最終更新:2008年09月10日 20:13