認めよう。自分が浮かれていたのは。神官や先生にエリートに選ばれたことに浮かれていたことは。両親にも生まれて初めて褒められて、たくさんの激昂をもらって。そして背中を押されてたどり着いた場所で見た自分の半身は、控えめに言って醜怪だった。
食欲を全力で減退させてくるぬめりを全身にたたえ、時折ぶるりと震える姿は正直、精神をゴリゴリと削られる。特に赤黒いところとピンク色のところが見頃に混ざっている、あちこちの脂肪と肉をかき集めたような姿をしているところがあまりにも生物的で不気味だった。
「え、これはオブジェクトですか?」
「はいこれはオブジェクトです」
「このオブジェクトのコンセプトはなんですか?」
「このオブジェクトは、自己再生可能な装甲を持った生物的特徴を備えたオブジェクトです」
「……この肉は何を模倣しているんですか?」
「多数の生物です。そもそも脂肪というものの役割はエネルギー源であり肉体の保護機構でもあります。強いて言えば鯨などの海の生物の脂肪に近いでしょうか」
「機体の名前はなんですか?」
「『コントン』です」
「え、なんでそんな名前」
「この機体のコンセプトを作った設計士が亡命しまして」
「え、不吉」
言語機能を微妙に失いつつ一つ思ったことがある。え、この脂肪生きてんの、という単純な疑問。
ぶよぶよと蠢動するそれは、確かに生きているようで。なんというか、皮膚をひっくり返したような不気味さをたたえている。
「特殊スーツはこちらです」
そう言って手渡されたのは、どことなく宇宙服に似ている。が、唯一大きく違うところをあげるのであれば、ピッタリと全身を覆っているところとピンク色なところか。頭を覆うヘルメットを触って確かめていると、上司は淡々と続ける。
「コックピットに席はありません、擬似的に無重力空間を再現していますので、まずは無重力に慣れる訓練から行います」
「すみません、なんでコックピットで無重力を再現する必要があったのですか?」
「神話とはそういうものです」
「いや、実用性……」
「『コントン』の副砲は火炎放射器です、自身の脂肪を焼くことであたり一面の焼け野原を作ることが可能です。その際に、脂肪装甲部分から抜け出して小型の機体としての活動が可能になります。二段変形式ですね」
「待って、なんで初めから脂肪装甲抜きの小型の方で作らな買ったんですか?」
「それだと神話の再現が甘いじゃないですか。それにこの機体のコンセプトは、再生機体。脂肪装甲部分を削られても問題なく、不気味な外見での威圧効果を狙っていることもあってペイントの塗り直しも必要ない。ローコストな機体なんですよ」
「今からその機体に乗る人間にそれを告げるのはなかなか人の心がないんですけど」
淡々と告げる上官とこれからどう付き合っていくのか考える必要性について脳内で何度も考え直す。ゲテモノオブジェクト。そう表現するしかない機体だ。それを理解して、これからの人生、この機体と一心同体として生きていく事実を噛み締めて。そして思った。
神は死んだ、信じられるのは自分だけだ、と。
食欲を全力で減退させてくるぬめりを全身にたたえ、時折ぶるりと震える姿は正直、精神をゴリゴリと削られる。特に赤黒いところとピンク色のところが見頃に混ざっている、あちこちの脂肪と肉をかき集めたような姿をしているところがあまりにも生物的で不気味だった。
「え、これはオブジェクトですか?」
「はいこれはオブジェクトです」
「このオブジェクトのコンセプトはなんですか?」
「このオブジェクトは、自己再生可能な装甲を持った生物的特徴を備えたオブジェクトです」
「……この肉は何を模倣しているんですか?」
「多数の生物です。そもそも脂肪というものの役割はエネルギー源であり肉体の保護機構でもあります。強いて言えば鯨などの海の生物の脂肪に近いでしょうか」
「機体の名前はなんですか?」
「『コントン』です」
「え、なんでそんな名前」
「この機体のコンセプトを作った設計士が亡命しまして」
「え、不吉」
言語機能を微妙に失いつつ一つ思ったことがある。え、この脂肪生きてんの、という単純な疑問。
ぶよぶよと蠢動するそれは、確かに生きているようで。なんというか、皮膚をひっくり返したような不気味さをたたえている。
「特殊スーツはこちらです」
そう言って手渡されたのは、どことなく宇宙服に似ている。が、唯一大きく違うところをあげるのであれば、ピッタリと全身を覆っているところとピンク色なところか。頭を覆うヘルメットを触って確かめていると、上司は淡々と続ける。
「コックピットに席はありません、擬似的に無重力空間を再現していますので、まずは無重力に慣れる訓練から行います」
「すみません、なんでコックピットで無重力を再現する必要があったのですか?」
「神話とはそういうものです」
「いや、実用性……」
「『コントン』の副砲は火炎放射器です、自身の脂肪を焼くことであたり一面の焼け野原を作ることが可能です。その際に、脂肪装甲部分から抜け出して小型の機体としての活動が可能になります。二段変形式ですね」
「待って、なんで初めから脂肪装甲抜きの小型の方で作らな買ったんですか?」
「それだと神話の再現が甘いじゃないですか。それにこの機体のコンセプトは、再生機体。脂肪装甲部分を削られても問題なく、不気味な外見での威圧効果を狙っていることもあってペイントの塗り直しも必要ない。ローコストな機体なんですよ」
「今からその機体に乗る人間にそれを告げるのはなかなか人の心がないんですけど」
淡々と告げる上官とこれからどう付き合っていくのか考える必要性について脳内で何度も考え直す。ゲテモノオブジェクト。そう表現するしかない機体だ。それを理解して、これからの人生、この機体と一心同体として生きていく事実を噛み締めて。そして思った。
神は死んだ、信じられるのは自分だけだ、と。