SCP-3017

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SCP-3017 - (2020/09/22 (火) 08:44:47) の編集履歴(バックアップ)


登録日: 2017/05/31 Wen 21:08:40
更新日:2024/04/11 Thu 14:08:27
所要時間:約 5 分で読めます





ヤツは何一つ悪くなかった。強いて言うなら、運が悪かったんだ。


SCP-3017とは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」において登録されたオブジェクトの一つである。
項目名は「Person of Interest(要注意人物)」。
オブジェクトクラスは「Euclid」を経ての「Neutralized」。


概要

項目名の時点で察しはついただろうが、これは人型実体、というかまんま人間である。
もちろん、そういうオブジェクトは財団にはたくさんいる。もっとも「カイン」「アベル」に代表される特殊能力持ちや、「人でなし、でく人形」のような「生物的にはヒト」だったり、あるいは「サイレン」みたいな元・人間だったりする。

そこに行くとコイツは、本当に人間である。というか、この手の報告書には珍しくフルネームが判明している。
フレイザー・メルブルック、それが彼の名である。報告書では本来、人型オブジェクトに対しても「対象」などを使うことが決められているが、ここではあえてこれで通す。

で、Neutralized認定という時点で既に察しはついただろうが、メルブルックは既に故人である。
一体彼はどういうわけでオブジェクトとなり、財団に収容され、そして死んだのか?
それをこれから説明することにする。


まず、SCP-3017はメルブルック個人に与えられたナンバーであり、オブジェクト自体の異常特性は認識災害ベクターである。
これは、メルブルックを目で見た、あるいは直接会話した人物は、一定の周期でメルブルックの犯罪歴を認識させられることになる。ただし、個々の詳細まではわからず、その犯罪がいかに暴力的であったか、という大雑把な知覚にとどまる。
さらに曝露が1時間以上続くと、メルブルックを拘束しなければならない、という衝動に襲われる。これが認識災害の中身である。
曝露が続いた場合、身体的または精神的な暴力・強迫的行為に走るケースもあるが、これはAクラス記憶処理による除去が可能である。

ただ、副次的な効果として、詳細不明の情報災害ベクターを内包しており、これがために犯罪歴および23度の逮捕にも拘わらず、起訴されたことは一度もない。これはどうやら、長期の収監を回避するために発動しているらしいことが収容後に判明している。

そして、上に挙げた主要な効果を全く受けず、メルブルックの犯罪について納得させることが不可能である、つまりSCP-3017-Aとされた犯罪歴の強制認識を受けない人物をSCP-3017-1と分類している。
これらはメルブルックの両親と妹、二人の弟、母方の祖母、婚約者、元交際相手の男性と女性一名ずつ、学生時代のクラスメイト、隣の住民、とメルブルックとのかかわりが強い人間である。
これら、SCP-3017-1を用いた脅迫は、収監を回避する副次能力を大きく減退させることが、これも収容後に判明している。


しかし注目すべきは、どうやらメルブルックは複数の要注意団体と深い関連を持っているらしい疑いがきわめて強いことである。
というわけで、財団は特別収容プロトコルを以下のように策定した。

SCP-3017はエリア-55の標準的ヒト型生物収容室に収容されています。収容室への入場は常に最低3名の武装保安職員による警備の下で行わなければいけません。室内の視覚・聴覚情報は常に最低3名の保安職員によって監視されます。カメラやマイクの故障は遅滞なく修理しなければいけません。

SCP-3017と交流する職員は、レベル4の承認なしに交流を1時間以上継続してはいけません。SCP-3017に対して暴力的または強迫的な行動を示す職員にはクラスA記憶処理が施されます。

SCP-3017-1個体群は財団の秘匿資産による監視下に保ちます。SCP-3017または他のSCP-3017-1個体群の収容状態への関心を高めようとするSCP-3017-1の試みには、保安上の情報違反を防ぐための標準的な情報抑制テクニックで対処します。個々のSCP-3017-1個体は、SCP-3017から更なる情報を抽出する、もしくは協力の欠如を防ぐ目的で収容下に置かれる場合があります。

SCP-3017に対して模範的行動に対する追加の特権を与える必要はありません。SCP-3017による協力姿勢の欠如には、最大24時間の配給食の差し止め、基本的な備品の除去、睡眠妨害、体罰、SCP-3017-1個体群の収容、SCP-3017-1個体に危害を加えるという旨の脅迫で対処します。


……最後の方が何かおかしくないだろうか? 
当WikiのSCP記事でも何度か言及されているが、人型オブジェクトについてはふつうの人間同様に接するのが常識である。どんな異常性があるかわからないのに敵対心を煽るような行動をする意味はない。
SCP-1730はそれを忘れた結果、財団が辿った末路の一つである。

にも拘わらずこんなプロトコルになったのは、ずばりメルブルックが隠しているだろう要注意団体の情報を引き出すためであり、SCP-3017-1を用いた脅迫でそれを実行せよ、という話である。
……違和感を覚えたのなら、この先を読んでいただきたい。


補遺

記事のメイン部分は以上だが、この報告書は補遺が長い。
まず当初、キャスリーン・ライアン研究員により、メルブルックに「祖母が肺癌と診断されたが、お前が協力しないなら治療を阻止する」と脅迫するという試みが行われた。
結果、それまで頻発していた収容違反未遂がぴたりと止んでおり、この事から上記の副次効果抑止のからくりが判明したわけだ。
ちなみに、祖母は至って健康体であったことを付記しておく。

そして、要注意団体との接点に目をつけたパリス・キラン博士の提言がこちら。

SCP-3017と異常な団体の既知および疑わしい接点を考慮すると、対象は潜在的な情報の金鉱です。しかし、これまでのところ、従来のどの尋問手段でも有用な情報は得られていません。これほど重要な情報を取得するためには、必要な情報を対象に明かさせるための代替手段を探さなければいけません。

SCP-3017の副次特性は、SCP-3017-1個体が何らかの形で危険に晒されていると信じている時は軽減されることが示されています。副次的効果はSCP-3017が自発的に発現させる能力であり、SCP-3017が逃げることを望んでいない、或いはもっと他の事柄に気を取られている場合に減退します。従って、SCP-3017のSCP-3017-1個体群に関する懸念は逃げたいという欲望よりもかなり重大なものです。SCP-3017の心理的評価は、この気質を人格に占める支配的要素として強調しています。

ここで我々が適用すべき手段は明白です。SCP-3017-1は我々が必要とする情報を最終的に抽出するための動機付けになり得ます。SCP-3017-1個体を封じ込めして、SCP-3017に対して彼らの身に危険が迫っていると納得させれば、対象は遥かに協力的になるでしょう。

SCP-3017-1は異常な存在として分類されているので、必要に応じて我々の裁量で収容できます。必要に応じて一時的に各個体を収容し、後に記憶処理を施して解放することを提案します。ごく僅かなリソースの出費で、すぐにも膨大な情報にアクセスできるようになるでしょう。

要注意団体は、財団にとってはっきりと「敵」と言える存在である。国ごとに差異はあれど、彼らに絡むオブジェクトを探せばキリがない。それについての貴重な情報源があるのだから手を出したくなる気持ちはわかるが、あとでしっぺ返しを食らわないかが心配である。

ともあれこの提言はエリア-55の管理官によって承認されたが、予想に反してメルブルックから情報を引き出す試みは全く進展しなかった。
そこでパリス・キラン博士により、彼の婚約者を一時的に収容し、その状況を用いた尋問実験が行われた。
以下はその音声ログの一部である。

キラン: よろしい。さて、貴方は収容されて以来、私たちが要求してきた情報の提供を拒否していますね。私たちはその情報を今すぐにでも必要としています。新しいインセンティブがあればもっと協力的になるかどうか見極めることを決めたのはそのためです。

SCP-3017: あの子にこんな事をするんじゃない、まだあの子は何もしてないだろう! 頼む、お願いだよ、ここにいたらあの子はきっと気が狂って死んじまうよ! お前らにこんな事させてたまるか!

キラン: もし私たちの求める情報を明かすなら、SCP-3017-1-7は…

SCP-3017: あの子にはちゃんと名前がある! お前らは本当に…

キラン: もし私たちの求める情報を明かすなら、彼女に危害を加えることはありません。彼女は拘留下から解放され、この一件に関する記憶を持たずに家へ帰ることになるでしょう。

SCP-3017: でももう言っただろ、俺は何も知らない! 何で初めから知ってもいないことを話せるっていうんだ?

キラン: 貴方が情報を知っていることはお互いに承知の上です。

SCP-3017: そんな訳があるか! だいたい、お前らがあの子を解放するってことを俺が信用するとどうして思ったんだ? お前らは俺をここにもうずっと長いこと閉じ込めて、それで何の得をした? ゼロだ! そして今度はあの子にも同じことをしようってのか?! 俺にどうして分かるっていうんだ、もしお前らが…

キラン: SCP-3017、非協力的な態度を取り続ければ彼女に何が起こるかを知りたいですか?

SCP-3017:(沈黙の後)俺… 何かしら話してみるよ。あれについちゃあまり知らないけれど、話せる限りは話す。

この後、SCP-3017-7は記憶処理の後釈放された。
というわけで幾ばくかの情報が入手できたわけだが、どうもSCP財団の取る手順としては段取りがおかしい。
そもそもこれまでSCPに親しんできた諸兄ならば、むしろキラン博士の言動にこそ違和感を覚えるだろう。


ここでもう一度、確認しておこう。メルブルックの持つ異常特性は認識災害ベクターである。

そして、この実験を受けてのライアン研究員の提言がある。
20█6/03/13のインタビューでSCP-3017が提供した情報を見ていく中で、相当数の矛盾点が見つかりました。特に、[編集済]は[編集済]を考えると、正直なところ意味を成しません。更に、彼の話の多くはフィールドエージェントたちや[編集済]の構成員から得た情報とは全く一致していません。

SCP-3017の情報が信頼に値するかどうかを真剣に疑い始めています。対象が実際に何も知らないのか、未だに真の情報から私たちを遠ざけようとしているのかは分かりません。しかし今の私としては後者ではないかと思います。


何が正しいのか?
その答えが出る前に、キラン博士による尋問がもう一度行われた。
ここでは、彼の元交際相手を収容下に置き、使用済みの弾丸を用意して「お前が協力しないからあれを撃った、どうしても拒否するなら射殺する」と脅迫したのである。
メルブルックは敵意をあらわにしつつも「何も知らない」と繰り返したが、それに関するやり取りがこちら。


キラン: 貴方が嘘を吐けば吐くほど、貴方にとっての状況は悪化するでしょう。さて、私たちが求める情報を提供する気になりましたか?

SCP-3017: 俺は何も知らない。すまない。頼むから…

キラン: そんなのはデタラメだとお見通しです。

SCP-3017: さっさと俺を撃てばいいだろう!?

(キラン博士はアクリルガラス製の観測窓に向けて発砲する)

キラン: 貴方のゲームにはうんざりです。真実を話さないようならあいつをもう一発撃ってもいいんですよ。

SCP-3017: できない… 何で… そんな…


さて、いい加減、というかとっくに気付いていただろうが、キラン博士の言動はどうにもおかしい。
メルブルックが要注意団体の情報を知っている、と確信しているようだがその根拠が報告書のどこにも書いていない。
キラン博士は「知らない」と繰り返すメルブルックの言動を「デタラメ」と一蹴しているが、やはり根拠が提示されていない。

つまり、メルブルックの収容に携わる職員は揃いも揃って、明確な根拠を持たないまま彼を収容しているのである。はたしてこれは財団のすべき仕事なのか?
ログを見る限り、前提情報があってもキラン博士がパラノイアを発症したようにしか思えないのである。

そして、ここでまたもライアン研究員の提言がある。
文書の見直しを行いましたが、SCP-3017の犯罪歴が ― 異常か否かに関わらず ― 実際に存在するという具体的証拠が事実上存在していないということに衝撃を受けています。私は物証も、写真記録も、録画や録音も発見できませんでした。我々が有しているのは目撃者の証言のみですが、SCP-3017の精神影響特性を鑑みると、これらはいずれも有効と見做し得る証言だとは思えません。

SCP-3017に関する私の以前の結論が間違っていたことを強く確信しつつあります。SCP-3017は実際に私たちが聞き出そうとしている情報のことを知らず、SCP-3017-1を守るために一から嘘の情報をでっちあげて話しているのではないかと思うのです。

SCP-3017から情報を得るためのこれ以上の努力が徒労であるというだけでなく、私は現在の試みが倫理規程に違反しているのではないかと感じています。現在もSCP-3017は祖母が癌を患っていると思い込んでいますし、私たちは対象の元ボーイフレンドを目と鼻の先で狙撃したのです。この件に関して言えば、2週間前のキラン博士の行為が配置換えの根拠にすらなっていないというのは一体どういう事ですか?

より詳細な調査ができるようになるまで、全てのSCP-3017-1個体を解放するよう正式に要請します。いくらなんでもこれはやり過ぎです。

財団の基本方針に従えば、キラン博士の行動はプロトコル違反どころではない。
財団世界では当然のように用いられているので見落としがちだが、オブジェクトに割り振られる手順は特別収容プロトコルである。
つまり、その下敷きとなる「基本収容手順」、BCPがちゃんと存在するのだ。それにすら違反している。

SCP-3017-1以降に分類されているのは、SCP-3017の影響を受けないというだけの一般人である。それ自体が何かしらアクティブな特性を持っているならまだしも、一つのベクターの影響から完全にブロックされる、というだけでは、収容対象には普通ならない。
にもかかわらずそれを、よりによってオブジェクトを脅迫するために収容し、さらに危害を加えるというのは財団の姿勢を踏まえてもやり過ぎである。
そりゃ、オブジェクトによってはその影響を緩和するため、特性を発動させないために暴力的行為を行うこともあるが、それでもである。

で、これらを踏まえた提言に対し、キラン博士の勧告によりライアン研究員もまたオブジェクトの一部となったと判断され、SCP-3017-1-13として収容されることになった。




しかし、結局財団はメルブルックから有用な情報を引き出すことは出来なかった。
収容違反が起きたのである。


収容違反、そして

2000年代のある年の5月16日である。
保安職員の一人であるルドルフ・カリダッドにより、ライアン研究員が脱走した。カリダッド保安員は収容違反警報を主導で動かし、さらに他のメンバーにシェルターを捜索するよう指示を出してライアン研究員を逃がしたのである。
ライアン研究員はその後、メルブルックの脱走を手引きして共にエリア-55から逃走。
財団は結局二人を捕捉できず、カリダッド保安員はSCP-3017-1-14として収容された。

ところで、この事件に続いてキラン博士が姿を消すという事案も発生したが、こちらは8日後に無事帰還している。


そしてここに、一つのインタビュー記録がある。
脱走後、死亡したメルブルックのそばで発見されたライアン研究員に対する、キラン博士のインタビューの後半部分である。

SCP-3017-1-13: そうね、郊外に着いたのが朝の3時か4時頃だった。もうその時に火災は始まってて、私たちの場所からも光が見えた。フレイザー*1は道を先導していたけれど、ますますパニックになっていって、私も火災が彼の家の近くで起きていることに気付いた。彼は走り始めて、少しの間見失ったけれど、炎の方角に向かって行ったら、現場を見つめている彼を見つけたのよ。

キラン: 近付いた時、怪しげな人物の姿は全く無かったのですか?

SCP-3017-1-13: 見たのは消防士だけ。

キラン: それは確かな事ですか?

SCP-3017-1-13: ええ、確かに決まってるじゃない。私が到着した時、家はもう全焼寸前だった。誰かが放火したのなら、その時にはもう遠くまで逃げおおせているはず。

キラン: それで、その、SCP-3017はその時どういう行動をとっていましたか?

SCP-3017-1-13: 貴方は何を期待している訳? 私は彼が家の中に走り込もうとしていると思ったから、それを抑えに行ったわ。でも次第に力が抜けていって、彼はただそこに膝をついた。もうあの時には遅すぎるって気づいたんでしょうね。彼は長いこと泣き喚いて、その時の私にはただ彼を火から遠ざけることしかできなかった。

キラン: どのぐらい長く現場に留まっていましたか?

SCP-3017-1-13: 見当もつかない。通りを少し下った場所まで動かすことはできたけれど、その後は太陽が昇るまで動こうとしなくなった。

キラン: その時の… その時のSCP-3017の様子はどうでしたか。

SCP-3017-1-13: 貴方はどう思う?

キラン: お願いです、その時の様子を述べてください。

SCP-3017-1-13: 彼は… 恐れていて、心が折れてた。通りを歩かせていると「死にたくない」って独り言を呟き始めたから、私は彼は安全だって言い聞かせようとしたけれど、彼はもう完全に挫けてた。今まで… 嗚呼、今まであんなに… あんなに打ちのめされた人を見たことが無かった。

(中略)

SCP-3017-1-13: 私は… 彼を少し近くのモーテルに連れていって、ルディ*2がくれた現金の一部で部屋を借りた。彼が十分落ち着いた時点で、彼を部屋に残して火災の情報が得られないか、逃げ延びた人がいるかを確認しに行ったけれど… 正直彼には嘘を吐きたかった、彼を傷付けないような何かをね。でも皆…

(中略)

SCP-3017-1-13: 貴方には彼が見えてなかった。何一つ見ようともしなかった、でも私は見たのよ。彼は… その晩私が眠って、翌朝目を覚ました時、彼は姿を消していた。もう死んでいたわ。

キラン: 何故SCP-3017が自らの命を絶つことにしたのか、どんなものでもいいです、貴方には考えがありますか?

SCP-3017-1-13: さぁ、分からないわ。彼は家に帰って家族を一目見るために5日間費やして、ただ彼らが火に巻かれて死ぬのを目の当たりにした。多分それが理由じゃないかしら? 或いは、もしかしたら、彼らはもう大丈夫なんだ、とうとう家族は命の心配をしなくても良くなったんだと思ったからかもしれない。これで十分な理由になるでしょう? そうでしょう!?


メルブルックは、家族の無事を確かめるために家に帰ろうとしたのだ。
しかし、その時既に、家は何者か―――明言されていないが、ほぼ間違いなくキラン博士による放火で全焼しており、メルブルックの両親、弟妹、祖母、婚約者、元交際相手の男性、隣の住民は逃げ遅れて死亡してしまっていた。

絶望したメルブルックは心が完全に折れてしまい、ライアン研究員から全てを聞かされても反応せず、結局彼女の目が離れた夜の間に投身自殺してしまった。


そしてこの後、オブジェクトクラスはNeutralizedへと再分類された。


真相

結論からというと、フレイザー・メルブルックは確かに、認識災害ベクターを持つSCPオブジェクトだった。
ただし、その内容は財団が当初考えていたものとは全く違ったものであった。

メルブルックの持つ異常な特性の正体は、メルブルックを直接目視した、ある程度会話した人物に、つまり曝露者に対して「メルブルックを拘留せねばならない」という衝動を植え付け、それに対してもっともらしい理由づけを行わせるミーマチックエフェクトだったのである。
一般社会に対しては犯罪者として、SCP財団に対しては要注意人物として、拘留すべき対象だという思い込みを発生させてしまうのだ。

この症状、SCP-3017-Aは曝露者にメルブルックに対する執着をもたらし、引き離す試みに対しては抵抗を誘発した。
クラスA記憶処理は一時的にしか効果がなく、施しても再度曝露すると再発していた。

度重なる逮捕にもかかわらず全く起訴されなかった。
なぜなら彼は犯罪など犯してはいなかったからだ。

要注意団体の情報が全く出てこないか、でたらめだった。
なぜなら彼は要注意団体のことなど何も知らなかったからだ。

全ては、彼の特性による周囲の強固な思い込みに過ぎなかったのだ。
メルブルックが死亡したことによりこの認識災害は効果が消え、生き残りのSCP-3017-1らは全て解放、ライアン研究員とカリダッド保安員は財団の雇用下に戻ることになった。

メルブルックに対して疑われていた犯罪歴と要注意団体との関わりは、その後の調査の結果全くの無根拠、事実無根であったことが判明、全ての追跡調査は打ち切られた。

そして、プロトコルは以下のように改訂された。
フレイザー・メルブルックの火葬された遺体は、█ヶ所以上に散在した状態で自動監視下に置かれています。各場所の情報はレベル█クリアランスの個別サブディレクトリで個々のファイルに保管されます。遺体の場所に関するファイルにアクセスを試みた場合、意図的か否かに依らず、RAISA管理者に自動で警告が送られます。ファイルへのアクセスを試みた職員はクラスA記憶処理の後、現場勤務から最低2週間は外されます。

SCP-3017-Aの症状が財団職員に現れ、クラスA記憶処理以後も継続する場合は、SCP-3017はEuclidとして再分類され、新たな収容プロトコルが起草され、全ての影響された職員にはケースバイケースで更なる記憶処理治療が施されます。曝露の症状にはこのファイルや関連するファイル群への繰り返しまたは長期間のアクセス、メルブルックの遺体の場所に関わるファイルへのアクセス試行、遺体そのものへの接触の試み、SCP-3017に関連する追加資料の作成、上記収容プロトコルへの違反の試みが含まれる場合があります。

認識災害そのものは解消されたが、ベクターとしての能力が残存している可能性が否定できないため、彼の遺骨は分骨された状態で葬られ、それぞれの場所は秘匿されている。
今のところはその上で、再び認識災害が発生していないかを監視するのが主要な内容である。

で、どうやら報告書自体にも認識災害ベクターがあるのでは? という疑いが捨てきれないため、長時間の閲覧は推奨されていない。



SCP財団は一般社会の「常識」を守るために存在している。
しかし、そんな彼らもまた、人間の集まりには違いない。失敗することだって当然ある。
オブジェクトの影響に引っかかってやらかすこともあるだろう。


―――それでもどこかやるせない気持ちになるのは、建て主だけだろうか?



SCP-3017

Person of Interest(要注意人物)


追記・修正をお願いします。


SCP-3017 - Person of Interest
by Waterfire
www.scp-wiki.net/scp-3017
ja.scp-wiki.net/scp-3017(翻訳)
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