SCP-3002

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SCP-3002 - (2018/07/26 (木) 16:23:07) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2017/08/23 (火) 17:48:20
更新日:2024/04/10 Wed 01:52:44
所要時間:約 8 分で読めます




SCP-3002は、シェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスは後述。


はじめに

まず、この記事は「アーカイブされた過去の報告書を、O5の命令で引っ張り出して転送しましたよ」というメッセージから始まる。
つまり、ここからしばらくは、過去の文書に付き合ってもらうことになる。


文書その1 作成日:2014/07/20 作成者:ダリル・ロイド

オブジェクトクラスはSafe。
特別収容プロトコルは以下。
試験および分析のため、SCP-3002の影響を受けた受刑者を1名だけ確保してください。この受刑者はサイト-41の標準人型収容室に収容されます。言語的・物理的接触は認可を受けた試験でのみ認められます。
サウス・ロック刑務所にいたその他の受刑者および職員は既にクラスB記憶処理を施されていますが、SCP-3002の再発がないか監視してください。

このオブジェクトが何かというと、インディアナ州ラファイエット近辺に位置するサウス・ロック刑務所の受刑者の85%が共通して有していた特定の記憶である。財団世界恒例、「どうやって収容するんだシリーズ」の概念系オブジェクトの一つと言える。

具体的にどんな影響が起きるのかというと、曝露者は本当は存在しない特定の日の記憶を思い出すことが出来るようになる。
それは、大体10~13歳のいずれかの時期の、特定の一日である。
報告されている記憶はいずれも、
  • 森のある公園を、その頃一番仲良しだった友達と一緒にいた。
  • その友達と口論になってしまった。
というエピソードが含まれている。
予想はつくだろうが、曝露者がそこに行ったことがない、住んでいたことがない、というケースも多い。

これを発見したのは、スーザン・フェアバンク博士である。
彼女はサウス・ロック刑務所の心理学担当だったのだが、受刑者たちが同一の記憶について頻繁に口にするのを聞きとがめ、心理学の掲示板に投稿したところこれが財団の目に留まった。

初期収容に置いては、曝露者はその詳細を鮮明に思い出すことが出来た。
しかし、インタビューを繰り返すにつれてどんどんそれが不鮮明になっていき、最後には思い出せなくなった。
普通の記憶と同じように、である。
以下は、曝露者の一人であるジョン・ベイレッシュへのインタビューの抜粋となる。

ベイレッシュ:ちょっと考えてみたが、1997年の1月17日のことを思い出した。俺はジョンと一緒にブラム・ウッズで遊んでて、あっ、えーと、ブラム・ウッズっていうのは俺たちが育った公園だ。この公園はちょうど俺とジョンの家の間にあったから−
ロイド博士: ジョン?
ベイレッシュ: ああそうか、すまない。ジョンっていうのは子供の頃俺と仲良くしてた奴だ。その頃俺はジョーイって呼ばれてた。あいつはジョン・ディナンジオって名前だったかな、確か。

ちなみにこのジョンという人物は実在したが、異常性はなかった。

ベイレッシュ: それはともかく、俺たちは馬鹿みたいにはしゃぎながらふざけてた。しばらくは曇ってたけどそれ以外は最高の天気だったから、とにかく家から出たくて仕方がなかったんだ。喋ってるうちに学校の話になった。新しくクラスに入ってきた女の子がいたんだ。
確かその子の家族はスロバキアらへんから引っ越してきたんだったと思う。だけどジョンの奴、その女の子はとんでもないクソ女だって何度も何度もレイシストみたいにわめき出したんだ。
それがとにかくすごく妙だった。もうジョンのことは一生記憶に残るだろうな。あいつはいつも誰にでも優しかったのに。
ロイド博士: 彼に何かしたりしましたか? 声を上げるとか?
ベイレッシュ: あ、ああしたよ。俺は悪口のことを怒った。お前の母ちゃんもポーランド人だろって。クソッ、今でも何があったのかは分からないけど、奴の言い草には頭来たんだ。俺がどなってやったら、しいんと静まり返っちゃって。あとはもうそれっきりだね。
ロイド博士: 他に何か変わったことはありましたか?
ベイレッシュ: あー……リリーに見つかったことかな。
ロイド博士: その女性はあなたのご友人ですか?
ベイレッシュ: ああ、彼女はいつもちょっと変だった。知恵遅れみたいな感じだったんだと思う。何でそう思ったかっていうと、あいつは最初に俺を公園で見つけたとき、両手が肩に触るんじゃないかってくらいものすごく近寄ってきて、「私を覚えてるか」ってめっちゃ真剣に聞いてきて、学校か何かのプロジェクトについて何度も話してきたんだ。
なんというか、正直言ってどうして俺はリリーのことを忘れたりしたんだろうな? あいつはいつだって……(数秒沈黙する) あれっ、リリーがどんな奴だったのか全然思い出せない。
ロイド博士: 外見だけでも思い出せませんか?
ベイレッシュ: それなら分かる。すごいブロンドの髪、だったと思う。それとあいつは-(混乱した様子を見せ、数秒間沈黙する) あ、あいつと何を喋ってたのか思い出せない。いやそんなはずはない、あいつは俺の親友だった。そうだったか? あいつを知ってることは確かなのに、俺は−(顔を覆う)
ロイド博士: 落ち着いてください。すぐにあなたの房までお帰しします。

このインタビューを含む数回のインタビューにより、偽の記憶の共通項が拾い出された。
上記したエピソードに加え、

  • 天気は曇っていたが温かった
  • 学校の新入生のことで友達とケンカになった
  • 金髪の少女がいた

というものである。



文書その2 作成日:2015/12/13 作成者:ダリル・ロイド

この文書の冒頭には、以下のようなメッセージがある。
O5-1から同僚へあてたものである。なお、日付は2015/12/15である。

彼女が戻って来たということなのか、それとも彼女の記憶の寄せ集めにすぎないのか私には分からない。思考? レテ・プロジェクトが予期せぬ副作用を有していた可能性があるということだろうか?
彼女が戻ってきて我々を害することがないようにしたい。本件には目を光らせておくように。

カンのいい財団職員の諸兄ならば、おぼろげに輪郭が見えてきたのではないだろうか?
さておき、新たに判明した事実を以てオブジェクトクラスはEuclidへと格上げされた。
それに伴い、SCP-3002がミーマチックエフェクトを含んだ情報災害であると判明したため、報告書そのものにミーム安全化プロトコルが設定されている。

そして当然、特別収容プロトコルも改訂。
SCP-3002に関する唯一の報告書がサイト-41の異常文書保管庫に格納されています。試験は03/3002クリアランスを持つ職員3名以上によって行わなければなりません。被験者および活性CL-IIミーム対抗因子を持たない職員には実験後にクラスC記憶処理を施さなければなりません。
SCP-3002に関する全ての文書は、クラス2情報災害を抑制可能なミーム対抗因子を有していなければなりません。また文書をSCP-3002研究エリアから持ち出すこと、ならびにSCP-3002プロジェクトと無関係の職員に見せることは禁止されています。

SCP-3002への曝露による長期的な研究および分析のため、最初にSCP-3002の影響が確認されたグループのうち1名だけを標準人型収容室に収容してください。

SCP-3002の被影響者が発見された場合、最初に汚染が確認された時期に応じてクラスCまたはクラスB記憶処理を施さなければなりません。現在、言語を用いた確認をせずともミーム的・物理的にSCP-3002の被影響者を判別できる手法を研究中です(暫定的にヴェセルカ・プロジェクトと命名)。このプロジェクトについてさらに情報を得たい場合はロイド博士に尋ねてください。

要は、「情報そのものがオブジェクトです。なのでミーム措置を含めて厳重に管理します。曝露者を発見するためのプロジェクトを立ち上げました」という話である。
ちなみにヴェセルカ・プロジェクトについては、年が明けてからの更新がある。
ヴェセルカ・プロジェクトは初期試験の段階でインタビューの必要なく被影響者を判別するという大きな成功を見せており、最終試験が始まっています。
プロジェクトを適切に活用するための機材とマニュアルが財団サイト、ならびにイリノイの数ヶ所とインディアナに存在する工作員に届けられています。
担当エージェントはまずインディアナポリスやシカゴなどの人口の多い地域から調査を始め、その後人口の少ない地域へと移るようにするべきです。

さて、ここまでの措置が必要となるSCP-3002とはなんだったのか?
それは、曝露者の記憶にのみ影響を及ぼす、クラスIIの伝染性ミーム災害である。
曝露者の精神に偽の記憶を挿入し、それを自分のものだと確信させる効果を持っている。伝染ルートはずばり、「SCP-3002について述べる、文書・発話・音声記録を含むあらゆる情報媒体」である。そりゃ対策なしでは読めるはずもない。

記憶の中身についてはその1で述べたとおりだが、例の金髪少女が「リリー・ヴェセルカ」という名前であることが新たに判明している。
そのリリーが何をしたか、については個々人でバラバラだが、共通しているのは「リリーを覚えているか」「学校にまつわるとされる、あるプロジェクトについて知っているか」という質問をされたことである。

それ以外についてはその1以上のことはわかっていないが、事案が一つ。
Euclidへの再認定に際し、セキュリティクリアランスの制限がかけられたのだが、何と3人の職員が適切なクリアランスなしに情報へのアクセスを試みたのである。

そのうちの一人、ヴァンダービルト博士へのインタビュー記録がある。
ここに全文を引用する。なお、インタビュアーのワイトリー博士はRAISAの幹部である。
RAISA・ワイトリー: ダミアン・ヴァンダービルト博士、私は記録情報セキュリティ管理室のオフィサーのワイトリーと申します。こうしてお話ししておりますのは、最近あなたがなさった、あるアノマリーの文書に対する編集について懸念があったためです。
ヴァンダービルト: (困惑した様子を見せる) 何の話をしてるのかよく分かりませんね、ワイト。
RAISA・ワイトリー: ヴァンダービルト博士、私のことはワイトリーかオフィサー・ワイトリーと呼んでいただきたく存じます。今お話ししておりますのはSCP-3002の文書のことです。昨日の夕方、あなたのアカウントと個人用端末から文書への編集がありました。
ヴァンダービルト: すみません、オフィサー。しかしそれがどのアノマリーなのかがまだ分かりません。今現在複数のプロジェクトに参加しておりまして。取り組んでいるファイルや報告書はいくつかありますが、どれも私の編集権限の範囲内です。

RAISAオフィサー・ワイトリーはブリーフケースを開き、1枚のファイルを取り出す。ファイルにはSCP-3002に関する紙媒体の文書が入っている。

ヴァンダービルト: ああ……なるほど、このアノマリーですね。些細な間違いを見かけたのを思い出したので、暇を見つけて修正を入れました。
RAISA・ワイトリー: 我々の記録によれば、あなたがSCP-3002の文書にアクセスしたのはこのときが初めてとされていますが。
ヴァンダービルト: 本当ですか? いや、確かに見たことはあるはずです。(数秒間沈黙する) あっ、待ってください! はっきり覚えています。昼食を食べに行く途中でロイドの背後から報告書が見えました。
RAISA・ワイトリー: それはありえません。SCP-3002の性質上、全ての情報と文書は制御された環境下でしかアクセスできません。本来は特製のミーム的ロックによってアクセスを防いでいるのですが、あなたは管理権限を用いてロックを回避しています。
ヴァンダービルト: いいでしょう。ですが私が行なったのは些細な文法的編集であるという事実に変わりはありません。
RAISA・ワイトリー: それも事実とは異なっているようです。確かに文法的な編集も行われてはいますが、「SCP-3002」というフレーズや同様の箇所が「リリー・ヴェセルカ」に編集されています。また集合記憶内の存在がスロバキア人であるという記述を削除してもいますね。
ヴァンダービルト: しかし彼女はスロバキア人ではありません。子供の頃から彼女のことは知っていますし、話す声に訛りがあることも分かっています。彼女はスロバキア人ではありません。我々の報告書は事実に基づいたものであるはずです。だから私は事実に則り……考えて見たら彼女がどこから来たかなんて覚えてない。
RAISA・ワイトリー: ご協力ありがとうございました、ヴァンダービルト博士。

こののち、ヴァンダービルト博士はSCP-3002に曝露していることが判明した。
その後、ロイド博士が文書をぞんざいに扱ってるんじゃねーか? と疑った財団は彼についても調査をしたが、結果はシロ。文書の取り扱いには何の遺漏もなかった。




さて、アーカイブファイルはまだあるのだが、この時点で財団はSCP-3002そのものをどうにかする方法を一つも見出していない。
であれば、次の展開は、アニヲタ諸兄ならば想像がつくだろう。




文書その3 作成日:2016/08/04 作成者:ダリル・ロイド

ここにもO5の同僚へのメッセージがある。
今度はツーからである。

ヴェレスの思っていた通り、これは副作用ではないようです。彼女はレテを知っている人間を優先して狙っていると思われます。
我々がプロジェクトに参加させていた全職員とサイト-Eに残っている全物品を処理するために私の方でrrhを派遣しましたが、時間が足りなかったためrrhは途中妨害を避けるために現地を離れざるを得ませんでした。

rrhとは、最重要な機密任務にのみ駆り出される、O5直属の機動部隊アルファ-1“赤い右手”の略称である。
そんなものを動かして「職員と物品を処理」させようとした。つまり証拠隠滅である。

その答えを発表する前に文書の続きを見よう。

オブジェクトクラスは諸兄の想像通り、Keterへ再認定。
そして、ロイド博士からの警告が一つ。

以下の文書はクラスX情報災害(危険度極大)を含んでいます。ミーム安全化プロトコルを実行しました。適切なクリアランスを持つ職員に対しては、文書を通して複数の高強度ミーム対抗因子を無作為に拡散しています。不適切なクリアランスによってこの文書のアクセスを試みた場合反ミーム的鎮静という結果に終わります。

クラスX情報災害発生。
予想をはるかに超えるバケモノだったSCP-3002に対する、新たなプロトコルはこちら。

SCP-3002を内包する全ての文字媒体は公式のSCP文書を除いて破棄しなければなりません。SCP-3002の文書へのアクセスはレベル4/3002以上のセキュリティクリアランスを持つ職員に制限されます。管理権限によるオーバーライドは、O5司令部と記録情報セキュリティ管理室の現職の室長を除き拒絶されています。

ヴェセルカ・プロトコルは更新され、被影響者を判別するために使えるミームトリガーが追加されました。被影響者を検出した場合は遠距離武器を用いて鎮静し、回収または終了します。被影響者の重要性や重大さによっては、外科的な記憶処理を行っても構いません。

全ての記憶が汚染された(あるいは外科的に大部分を摘出したことで手術後通常の機能に支障が出た)際は、被影響者の死を隠蔽するため財団標準プロトコルによって終了しても構いません。レベル4以上のクリアランスを持つ職員は、影響が発見された場合"重要人物"とみなされます。
外科的な記憶消去は人間の中にいるSCP-3002を除去する唯一の信頼できる方法であることが示されています。2016/██/██以降、薬剤やエアロゾルを用いた記憶処理によるSCP-3002の除去は全て失敗に終わっています。

SCP-3002を内包するコンテンツを積極的に作成している印刷会社およびウェブサイトは意図的であるか否かを問わず閉鎖させ、運営者を終了してください。
当該会社・ウェブサイトが作成したコンテンツは全て破棄してください。SCP-3002に関する実験およびインタビューは現職のプロジェクト責任者が許可を出した場合を除き実施してはなりません。

要約すると、情報制限に加えて「記憶処理は効かないから物理的に消せ。無理なら曝露者を殺せ」という話である。
そんなトンデモ情報がなんなのかというと、ロイド博士が述べたとおり、非常識外れの感染力と拡大力を持つ、クラスX侵襲型ミーム災害である。
これは、曝露者のいかなる記憶も自由自在に改変することが出来、実体験を伴わない記憶すらも、肉体に刻まれた経験もろとも作り出してしまうのだ。

つまりこれは、全人格の書き換えに等しい。
情報の中身についてはこれまでわかっていた通りの、「リリー・ヴェセルカに関する偽記憶」だが、問題は感染経路。
この偽記憶に関する伝達だと思いきや、何と曝露者の持つあらゆる情報の伝達が感染経路となるのだ。
発話、文章、数式、暗号、さらにはテレパシーなどによる思考すらも。

要するに、曝露者とほんのわずかにでも情報をやり取りしたら曝露するのである。
そんなもんどうせえと。情報災害のバケモノと言えば日本支部のSCP-444-JPを思い起こす方もいるだろうが、そのレベルでタチが悪い。

さらにこの情報、非常に高度な適応能力を持っており、これを駆使して収容の試みをことごとくすり抜けてきた問題児である。このことからSCP-3002は知性を持っており、特定の条件にあてはまる人物を狙い撃ちにしているらしい、ともわかった。

……で、これらの新たな事実は、わかっていなかっただけで当初から存在していた。
財団が泡を食って再調査に乗り出したところ、例の刑務所にいたすべての人間は曝露しており、どころかアメリカ中西部の人口はほぼ全て曝露者となっていた。
もはや収容どうこうの段階ではない。

さらにここで事案が一つ。
前回のインタビューを行ったワイトリー博士だが、それから三か月ほど後になって交通事故を起こした。
脊髄を損傷してしまったワイトリー博士は、その後とった異常な行動をRAISAに見とがめられ、財団によるインタビューを受けた。
以下がその内容である。なお、インタビュアーのロイド博士は事前に対抗ミームを用意している。

ワイトリー: ロイド博士。お会いできて嬉しいです。
ロイド博士: 私もです、ワイト。ここの扱いは満足ですか? 快適ですか? 食べ物は十分ですか?
ワイトリー: ええ、もちろん。言うことなしです。
ロイド博士: (両手を打ち鳴らす)ところで、ジェンから具合が少し悪いと聞きました。あなたのここのことです(自分の頭を指差す)。
ワイトリー: 私の知る限りそんなことはないですね。
ロイド博士: そうですか。ふむ、では少し前にリリー、つまりSCP-3002についてヴァンダービルトと話したことは覚えていますか?
ワイトリー: ええ、覚えています。申し訳ないですが、怪我のせいで最近記憶が曖昧になってきていますね。
ロイド博士: 子供の頃あるいはそれ以外のときでも構いませんので、リリー・ヴェセルカという名前の女の子に会った記憶はありませんか? よく思い浮かべてください。彼女が思い出されないことを望めば、思い出すことはできません。
ワイトリー: そのような名前の人物は記憶にありません。
ロイド博士: (ため息をつく) オーケイ、話題を変えましょう。あなたの最近の行動は少し妙ですし不自然です。最近になって何をしていたのですか? 何故休暇に行ったのですか?
ワイトリー: ずいぶん長い間、ある一つの問題について研究したいという軽い衝動を感じていました。特に財団のファイルとデータベースの中を。
ロイド博士: 衝動に駆られるままに行動していたということですか、ワイト? 私には知る義務があります。
ワイトリー: 否です、博士。有害なミームが存在している可能性は認識していましたし、ミーム排除のための適切な対抗因子も摂取しました。
ロイド博士: (顔をしかめる)それで全部ですか?
ワイトリー: いえ、ミームの脅威を適切に除去した後、自分の意志でこの研究を実行しました。好奇心を満たすために。そしてSCP-3002と類似する実体に関する文献とレテという名前のプロジェクトを見つけました。
ロイド博士: なるほど、しかし何を見つけたんですか、ワイト? 時間がないんです。リリーについて何が分かったんですか?
ワイトリー: お答えできません。私の自動車の追突事件。あれは監視映像では事故ということになっていますが、事故ではありません。無関係の車が急に3台同時に向かってきて道路から飛ばされたのです。
ロイド博士: ワイトリー、これが回答する最後のチャンスです。あなたはSCP-3002に汚染されていて、研究を妨害するためにわざと情報を隠しているのではないですか?
ワイトリー: ロイド博士。私はあなたをあまり信用する気になれません。申し訳ありませんがもうインタビューを続けたくはありません。(ワイトリーはその後全ての質問に無反応となった)

こののち、ワイトリーはヴァンダービルトとの接触直後から曝露者だったことが判明し、2016年に終了された。


O5が証拠隠滅のためにアルファ-1を動かしたのは、ワイトリーが「レテ・プロジェクト」の存在にたどり着いてしまったからだろう。
しかし疑問なのは、ワイトリーが曝露者だと確定された経緯。そりゃ、曝露者だったらしいヴァンダービルトと会話したのだからほぼクロである。
ヴェセルカ・プロジェクト、曝露者を見分けるあれが使われただろうことは想像に難くない。
だが、それはインタビューを介する必要はない。にも拘わらず、ワイトリーが曝露者だと確認されたのはインタビューの後だ。
そして、ロイド博士の態度にも疑問が残る。頭から、ワイトリーが曝露者だと決めつけて、その結論へ向けて話を進めているように見えないだろうか?

何よりも、SCP-3002は擬態するミームである。
記憶を改変し、その中に潜伏する。ならば、問答では感染の有無は判断不可能である。
ワイトリーは適切な策を講じたというが、それですら材料にはならない。もちろん、ロイド博士の用意した物理的ミーム対抗因子もである。

ワイトリーは曝露者だったのか? 真実を知ったために財団に消されたのか?

真相はわからない。
だがここまで来ると、もはや曝露者と健常者を見分ける手段はない。
O5の思惑まで絡んできた以上、それを判別することは出来ないのだ。


混乱の中、財団―――おそらくはO5の意図が絡まない部分が、別のルートから引き出した情報をもとに、ウクライナの地下にあった、2013年に放棄された施設の調査に乗り出した。
明らかに財団の施設だったが、ウクライナにも財団にもこんな施設の記録はない。
バレバレなので言うが、アルファ-1に証拠を消されたのである。

しかし、O5-2の言った通りそれは不完全。焼却炉は機動部隊が到着する直前まで稼働しており、恐らく接近を察知したアルファ-1は事後処理もそこそこに慌てて撤収したのであろう。

発見されたのはかろうじて読める状態にまで復元された文書が1枚と、焼却炉の中にあった、ある人型オブジェクトのDNA。
そして、その人型実体の処置に使われただろう手術台と、頻繁に使われた形跡のある器具。
読み取れた情報からすると、人型実体の処置の際に、麻酔の類は一切使用されなかったらしい。

文書の中身は以下。
ヴェレス、

レテ・プロジェクトの活動を積極的に続けていくのはリソースの有効利用とは言い難いと考えています。レテが"壊された虚構"型シナリオを回避する上で極めて有効な手段であることは確かですが、プロジェクトを単一のアノマリーに頼ったことで対象に過度なストレスを与えてきました。
手術に侵襲的な機器を用いているせいか、彼女の運動能力と認識機能は次第に低下しています。認識機能の悪化の一例として、彼女は自身のかつての名前や呼称に返答することもそれらを名乗ることもなくなりました。

それに加えて彼女は技術者と働くことに対しいっそう消極的になっており、手術を逃れようと自傷行為に訴えるまでに及んでいます。彼女は数日前に自殺を試みたため、現在は常に監視下にあります。具体的な方法ははっきりしていませんが、現時点では食事中に食器を隠し持ち、数週間経った後にそれを自身に刺したと考えられています。

これまでは、彼女が収容以前に楽しんでいた様々な趣味や活動、具体的には写真や読書などをさせてやることでこの種の精神的苦痛を与えないようにしていました。

とはいうもののしかし、私としては"壊された虚構"の際にはコントロール可能な大量記憶処理や記憶改変アノマリーが適していると確信しています。よってこの分野の研究開発の続行は賢明なものと言えるでしょう。知っての通りレテで使用されているミームトリガーはごく一部を除き全ての人類に存在しているため、人類の記憶の基準点として機能させるだけでなく、人類の記憶を制御できるよう改造することもできるかもしれません。
このミームトリガーはイエローストーンの神経学的アーキタイプスキャンに組み込んでありますので、人間に依存しないプロトコルを現行人類の寿命より長く継続的に使用することも可能となるでしょう。

  • ペルーン

この文書は何を意味しているのか?
その答えは、現在の文書が明らかにしてい



現在の文書 作成日:2017/04/20 作成者:コナー・ティーチ


オブジェクトクラスはKeterのまま。
特別収容プロトコルはこうなった。

文書3002-6を参照してください。被汚染者は前任職員、家族、知人も含めて全員殺処分しなければなりません。O5-1またはO5-2による審査を受けた職員でなければ本文書および残存する職員にアクセスしてはなりません。

曝露者は関係者を含めて皆殺しにしろ、という話である。
要するに、収容の試みは全て失敗したのだ。

そして、ようやく明らかになったSCP-3002の正体。
この際なので一気にネタバレをするが、レテ・プロジェクトの被験体だったリリー・ヴェセルカという少女である。
ただしただの女の子ではなく、現実改変能力を持ったアノマリーだった。

そもそもレテ・プロジェクトとは、要するにK-クラスシナリオへの対抗策である、「全人類への同時一斉記憶処理」というジョーカーを作り出す計画である。
お分かりだろうが、この記事のヘッドカノンはSCP-2000、アニヲタ諸兄が終末への対抗策としてしょっちゅう話題にしては「それじゃどうしようもない」と却下される、元祖Thaumelのアレが存在する世界である。

が、そのための処置はリリーの心身に極度の負担をかけた。というか麻酔なしで体を切り刻まれて発狂しない子供などいない。
結局、リリーは自らの意識をミーム実体に変化させて肉体から逃げ出したわけだが、これに伴い肉体の方は終了され、アルファ-1によって他の情報とともに焼却処分されたのである。

……SCP-1730を思い出した諸兄に告ぐ。その通りだ。

リリーの質問の中には「あのプロジェクトは終わった?」というものがあった。
恐らく彼女は、計画が失敗すれば、財団が残されたリリーの肉体を放棄すると踏んで、そこに帰ろうとしたのだろう。
ところが、アルファ-1によってそれは燃やされ、リリーは帰るべき肉体を失った。

その事実は知らないまま、しかし自分をこんな目にあわせた財団を深く憎んだリリーは、自らの記憶を持つ人間=財団職員を探して抹殺するべく、思考から思考へ、情報から情報へ乗って拡大し続けた。
その手法の一つが、情報の変形である。リリーは自らという情報を、別の記憶や情報に変化させて人間の精神に潜む。その時、モデルとした情報、オリジナルの情報もまた、リリーと同様の特性を持った端末になるのである。

そして、リリーはSCP財団に行きついた。
そこからどんどん職員を乗っ取り、財団の手法に沿って、もっともらしい理屈をつけて関係者を抹殺し続けたのである。
ちなみに、完全暴露した人間はどうなるのか?

  • 意識して肉体を動かせなくなる
  • 自己生存本能が消える
  • 曝露していない人間と出会ったら、曝露させるようリリーに操られる
  • それ以外の時は、自らの意志で普通に生きているように見せかけられる

要は、完全にリリーの操り人形になってしまうのである。
こんな怪物が野放しである以上、待っているのはK-クラスシナリオ。しかも、MK-クラスの、人類の思考消滅である。
それは、世界の終わりに等しい。
実際、この報告書が書かれた時点で、世界人口の7割以上が乗っ取られていた。


収容が無理なら終了してしまえ、とO5司令部は生き残りの職員に、終了方法を募った。
その提言は以下。

  • 提言その1
内容:要注意団体とコンタクトを取る 
提案:ケント・メイフィールド
結果:承認(9-4)

異常事件捜査課とマーシャル・カーター&ダーク社からは返答があった。
が、O5-1がSCP-3002の存在を確認。どちらの解答も破棄された。

AWCY? は箱詰めにした自分たちの作品を贈ってきた。どうやら存続を諦めたらしい。
蛇の手は「我々の中にも潜んでいるかもしれない、手伝えない」との返答。
「何者でもない」はただ一言。

こうなることは予想してしかるべきだったろうに。

+ 関係ないかもしれない話
気になることがひとつ。なぜO5-1がSCP-3002への感染を確認しているのだろうか?
O5がオブジェクトへの接触を禁止されているのは有名な話だし、そもそも情報で感染するSCP-3002を、O5のトップが確認するなど不審である。
文書その2の冒頭のメールにて、O5-1がリリー・ヴェセルカを「彼女」と呼んでいるのも合わせると、O5-1には何らかのSCP-3002への耐性があるのだろうか。*1
最初からO5-1はSCP-3002に感染しているという可能性もなくはないが、流石にそれは本気でどうしようもないので考えないことにする。

  • 提言その2
内容:SCP-2000でリセットする
提案:コナー・ティーチ
結果:却下(2-8)

「機械仕掛けの神」、読者には有名な財団の最終兵器だが、これも使えなかったようだ。どうも知性を持っているらしいあの機械仕掛けの神が、担当スタッフもろとも乗っ取られたらしい。リリーさんマジパねぇ。
ちなみに結果の部分の数字は、O5司令部の中で賛成と反対を示した人数である。……減ってますね。


  • 提言その3
内容:一時的にSCP-3002を抑制できる反ミームを作る
提案:ケント・メイフィールド
結果:承認(5-4)

RAISAで使用していた別の対抗ミームをベースに急きょ作成されたこの反ミームは、リリーによってあっさりと改変されてしまった。
このことからSCP-3002が反ミームとして人間の精神に潜み、効率的に対象を無自覚な汚染因子へと仕立て上げている可能性が浮上。
そのセンで調査したところ……7人以上が汚染され、O5も複数人乗っ取られていたことが判明。もうダメだろこれ。


  • 提言その4
内容:ガニメデ・プロトコル発動
提案:コナー・ティーチ
結果:却下(2-6)

そこまで過激なことをしなくてもいいだろう」との理由らしい。
いや、あの、全人口の7割以上が乗っ取られてるんですが……。
ちなみにガニメデ・プロトコルというとSCP-1945-JPを思い浮かべる人もいるだろうが、この単語の初出はSCP-2000である。


  • 提言その5
内容: 彼女 を止め得る方法を見つけ出すため、レテ・プロジェクトの再調査を行う。
提案:コナー・ティーチ
結果:却下(1-3)

リリー、いやSCP-3002の起源というべきプロジェクト。
それを調べなおすのは決して無意味ではない。何しろ、彼女の能力の大本たる改変能力についての記録が残されているかもしれない……という主張。
が、結果は却下。

プロジェクトの再調査をする理由はない。そこから得られるものは何もないだろう。さらに言えばO5司令部は君が汚染されていると信じるに足る十分な証拠を持っている。終了は直ちに行われる。

博士は既に汚染されており、プロジェクトの再調査もそこから出たものだったらしい。
ちなみに『オブジェクトを彼女と呼んでいるのが汚染の証拠』という話もあるが、「文書その2」を見てもらえばわかるがO5-1も『彼女』という呼称を使っているのでそれ自体はおかしなことではない。
(この記事の提言内ではリリー・ヴェセルカがSCP-3002と呼称されている以上、影響のひとつである可能性はある)


  • 提言その6
内容:再始動
提案:-
結果:合意に達せず(1-1)

この提言のみ、提案者の名前はなし。
それもおかしなことだが、ここまでの状況になってなお選択肢に上がる「再始動」とは何なのか?
SCP-2000が使用不能な以上、それ以上の何かだろうか?
気になるところではあるが……、結果は「合意に達せず(1-1)」。
O5は既に二人しか残っておらず、投票はもはや意味を為さない。
打開策が存在したとして、それが決定されることはほぼないだろう。


SCP財団は、その力を失ったのである。







SCP-3002

Attempts to Assassinate Thought(思考抹殺計画)




+ 隠された真実……?
リリー・ヴェセルカは、SCP-3002の本名ではない。
文書その3の後半を見て欲しいが、
例として、彼女は自身のかつての名前や呼称に返答することもそれらを名乗ることもなくなりました。
SCP-3002は自らの本名を名乗れなくなっており、それは財団への攻撃を始めた後も同じだと思われる。
「リリー・ヴェセルカ」になる前の彼女の本名とは、いったいなんだったのか?
作者の発言に曰く、彼女には正体がちゃんと存在し、それはリストに載っている「シリーズ1のSCP」らしい。
この発言や、その他の考察から考えられた正体の候補がふたつ。
ひとつはちいさな魔女/SCP-239
その強い現実改変能力からすれば、有り得なくもない話である。
そして、もう一つ。
かつては写真や読書が趣味であったこと。
ヴェセルカ……Veselkaとは、ウクライナ語で虹を意味すること。
……ちょうど虹の神に由来する名前の少女が、三桁ナンバーに存在する。
あるいは、別の正体が存在するのかもしれないが……なんにしろ、答えは現在は謎に包まれている。



  • 提言その7
内容:この記事の追記・修正
提案:アニィ・ウォーター・ノ・アイン
結果:承認(1-0)


SCP-3002 - Attempts to Assassinate Thought
by tretter
ja.scp-wiki.net/scp-3002
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