SCP-752

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SCP-752 - (2019/08/15 (木) 07:16:55) の編集履歴(バックアップ)


登録日: 2017/09/22 Fri 15:42:57
更新日:2024/03/04 Mon 16:00:52
所要時間:約 11 分で読めます






SCP-752は、シェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)。
オブジェクトクラスはKeter。



概要

SCP-752は、とある山脈の北に存在する地下都市である。
人口は10000人ほどと見積もられている。
地下ではあるのだが、地熱発電で電力をまかない、照明装置を使うことで外界と連動した昼夜が人工的に作られている。
地下都市自体は未知の金属で覆われており、既知の信号全てと放射線を遮断する。
財団は金属の調査について、その中にいる10000人の人たちの収容違反を恐れ消極的である。

この10000人の人々なのだが、見た目は人間にそっくりである。
しかし人間やその他の社会的行動を取る哺乳類との行動特性とは類似しておらず、
むしろ昆虫のような社会を形成する。
基本的に利己的な人はおらず、皆社会の大きな利益のために活動している。
彼らの勤勉さにより、地下都市は外界に比べ非常に発展しているが、近年はその速度も落ち着いているようだ。

地下都市で回収された文書によれば、これらの10000人の人々は、
こちら側の人類の科学者や哲学者らによって構成される、”エウダイモン”なるグループによって作られた存在らしい。
エウダイモンは4つのグループ、アルファベータガンマデルタで構成されていて、各グループで担当した部分が違う模様。
彼らがSCP-752を作った年代は黒塗り編集されている為正確には分からないが、███年前と記述されているため100年以上昔の出来事ではあるようだ。

エウダイモンたちはこの地下都市SCP-752のことを『エウダイモニア』、そしてそこに住んでいる人々を『ホモ・エウダイモニア』と呼称していた。
対比としてエウダイモンたちは自分たちを『ホモ・サピエンス』とよんでいるため、ホモ・エウダイモニアを作った『神(エウダイモン)』は別に
どこぞのビックフットではないようだ。財団が読める言語で書いてあるので、ホモ・サピエンス・ディセンサスでもないと思われる。


本題に入る前に

本オブジェクトでは、ギリシャ哲学的な幸福論について多少知っておくと理解がしやすくなる。

エウダイモニアとは簡単に言えばギリシャ哲学上の「幸福」のことで、アリストテレスが提唱した。
しかしこの幸福とはいわゆる「いっぱいガチャ引いたらSSR森久保を引いた」とか「コミケでめっちゃ好みの戦利品を手に入れた」みたいな物質的な快楽ではない。
アリストテレスは快楽を否定したわけではないが(この快楽からして現代人とは結構定義が異なるが)、
快楽の上に置いた最高善こそが「幸福(エウダイモニア)」であり、エウダイモニアは人が生きる上での「徳(アレテー)」の追求によって得られるものであるとした。
つまり道徳的に生きようねということなんだけど、その道徳的という考えは共同体への帰属意識からくるものであるといえる。

ちなみにエウダイモニアという言葉自体の原義は「よき守護者(ダイモン)に守られている状態」のこと。


エウダイモンたちの記述

以下、「アルファ」「ベータ」「ガンマ」「デルタ」とだけある場合はエウダイモン内のグループ、
数字が付記されている場合はグループ内のメンバーであることを注記しておく。

1日目
エウダイモン-アルファ-1
エウダイモニアの人口: 100

なんと輝かしい一日の始まりだろう。ホモ・エウダイモニア(Homo eudaimonia)が自らの暦を記す日だ。最後の一連の大規模実験のあと、50人の男性及び50人の女性を最終実験エリアへ導入した。あるのは、彼らと、人工太陽と、寺院と、我々が家畜化のために導入した動物及び植物数種のみ。

いまや観察以外にエウダイモンが行うべきことはない。

アルファ-1はアルファの指導者であり、同時にアルファはベータ・ガンマ・デルタへの協力を要請し取り付けた中核のグループであったようだ。
すなわちアルファ-1は実質的なトップである。

彼らがエウダイモニアにホモ・エウダイモニアを導入した時点では彼らは100人しかいなかったようだ。これがどう10000人になったのだろうか?


8年、24日目
エウダイモン-ガンマ-1
エウダイモニアの人口: 124

我々の幸福論による推測通り、人口増加は平均以上であった。生存競争を行う代わりに、彼らはあらゆる点で協力し合う。提供した全ての動物種は、食料及び労働力として成功裏に家畜化された。まだ農業活動の徴候は見受けられない。技術的発展は、期待された通り寺院に残したデータに基づいて進行している。

エウダイモニアに作られた『寺院』はホモ・エウダイモニアが速やかに技術を獲得するための書物を置いておく場所だったのだろうか。
生存競争を行わず協力的であるということを幸福と位置づけているあたり、もしかしたら共産主義的グループだったのかもしれない。


15年、212日目
エウダイモン-デルタ-4
エウダイモニアの人口: 170

さて次はデルタ-4の記述だがこれは長いので要約する。
15年目に突入したエウダイモニアでは、ホモ・エウダイモニアが農業を行っていた。
驚異的なことに、ホモ・エウダイモニアは何人でも正常に組織が成立してしまうらしい。
しかし一方で、ホモ・エウダイモニアは死んだ人を食べるという行為に関してタブーとは見なさず、また障害のある個体や衰弱個体は自殺するか殺される。
これはそういった個体は「社会の発展」の阻害要因になりうるからとされる。

これに関してベータ-1は見るに耐えなかったのか介入をしようとしていたようだ。
しかしアルファ-1ベータ-1にたいして「それはこっちの世界の道徳の話であって向こうには汚染になりうる」と説得したようだ。
エウダイモニアにはそれまでなかった建造物群が建つようになったことはデルタの想像した以上の発展であったようだ。


24年、4日目
エウダイモン-ベータ-4
エウダイモニアの人口: ~300

24年目になると、一気に300人弱まで増加。
しかしこのころになると、ベータ・ガンマ・デルタの望まない方向にホモ・エウダイモニアは進化を遂げていた。
彼らはほぼ「自発的に」自分たちの能力によってカースト制を構築し始めたのである。
ベータ・ガンマ・デルタは平等な社会を希求していたらしく、「なんか違うよなあ?」と不満を持った。
そして基本的に「社会の発展」を第一の目的としているホモ・エウダイモニアは、普通に生きれば150年は生きるとされるらしいのだが、現状での推定寿命は45歳と短命種となっていた。
早い話が過労死である。
こうしてベータ・ガンマ・デルタからは常軌を逸してるとしか思えない生活様式がそこでは繰り広げられていたのだが、
ホモ・エウダイモニアたち自身はそれに何の疑いもないようであり、そして――アルファからはあるがままの姿として捉えられている。


40年、325日目
エウダイモン-アルファ-1
エウダイモニアの人口: ~1000

人口は増加し続けている。技術力は指数関数的に向上し続けている。この分だと、公表日のかなり前に我々の水準に達するであろう。

ベータ、ガンマ及びデルタには展望がない――私の素晴らしい創造物に対して、彼らはますます嫌悪感を高めている。彼らをこの計画の仲間として迎え入れた覚えはない。開発室を構築するために、その専門知識を必要としただけだ。私は、彼らが決してエウダイモニアの新生児室の中身を嗅ぎつけないよう手段を講じている。反抗を未然に防ぐのに十分だといいのだが。

アルファは明らかに何かを企んでいる。
アルファが元々エウダイモニア及びホモ・エウダイモニアを作ろうとした背景には何かしらの目的があったようだ。
本報告書(SCP-752のページ)だけでは残念ながらそれが商売なのか思想的なものなのか、はたまた軍事的なのかなどはさっぱりわからないが。

ここに来てアルファはベータ・ガンマ・デルタの三者からの反抗を恐れ、何かしらの工作をしていることがわかる。
そしてアルファの想定通り、ベータ・ガンマ・デルタは30年後にアルファに蜂起することになる。


70年、87日目
エウダイモン-デルタ-1
エウダイモニアの人口: ~3000

人口増加は減速の徴候を示していない。未知の建築物に加えて、更なる増加を可能とするために、高層型のシェルターが現在構築されている。技術的進歩は、全ての予想を上回り続けている。我々は、寺院に残したものを消費し尽くした時点で成長が止まるのを祈ることしかできない。望ましくない行動は悪化している。ガンマは介入を試みて虐殺された。我々の残りは、アルファに対するクーデターを試みた。アルファ-3は同調を装い、大部分のベータへ致命的に毒を投与してのけた。

にも関わらずクーデターは成功した。我々は、まだそれらの建築物で行われていることを承知していない。しかし、ガンマに起こったことを考慮して、接触はしていない。アルファ-1、-2及び-5は逃亡した。その他は殺害あるいは捕獲されている。我々は解放メカニズムを動作不能とし、可能な限りこの場所を封鎖した。

エウダイモニアの人口は既に4桁にのぼった。「寺院に残したものを消費し尽くした時点で成長が止まるのを祈るしかできない」とあるが、
ここまで発展できるホモ・エウダイモニアがそんな程度で止まるんだろうか。甚だ疑問である。
ガンマはホモ・エウダイモニアの方向性を憂慮して介入しようとしたが、どうやらホモ・エウダイモニアに侵入者として殺されたようだ。
アルファへの不満を察知したアルファ-3は、「俺もアルファの方向性はやばいと思ってたんだよ」と近づきつつ、ベータの大半を毒殺して処分したという。
ここで生き残ったのはデルタと極小数のベータだが、彼らはなんとかアルファへの反逆に成功したようだ。
しかしアルファから数名、特にトップであるアルファ-1は逃亡してしまった。
トップが生き残っている以上、別の場所で似たようなことをしないとは考えにくい。
アルファ-1がホモ・サピエンスである以上は同じことをやろうとしても寿命のほうが先に来るから大丈夫だろうと信じたいところだが。

どうやらエウダイモニアには解放メカニズムというものがあったらしい。
もしかしたら、「人間の行く末に悲観的になった人たちが、理想郷をつくりだしてそれを地球に広めようとした」ということなのかもしれない。

しかし今や出来上がったのは、「ヒトならざるもの」でしかなかった。

脳味噌だけは人間に匹敵するが、人間以上に階層社会を構築し、人間以上に社会に貢献できないものには冷淡。

そして人間以上に自分たちの社会に疑いを持たない。
個々人の理想などはなく、常に共同体の発展にだけ力を注いでいる。


これではディストピアとしか言いようがない。誰もこんな世界望んでない。

だがホモ・エウダイモニアにとってそれは「当たり前」であり、疑う余地はない。
彼らにとってのエウダイモニアはまさしくユートピアであった。
そもそもディストピアもユートピアの対義語として扱われながらも、どちらかといえばユートピアの限界、反転したものというものであり、
「ヒトならざる」ホモ・エウダイモニアにとってはまさしく理想郷であるのかもしれない。

最後にデルタ-1はこのように綴ってしめている。

エウダイモニア人は、いまだガンマが構築した防御壁の向こうには世界が存在しないと信じている。
ああ、願わくは、彼らが別の方法で学ぶことのなからんことを。



エウダイモニアの今後

財団はエウダイモニアを調査するため、ガンマに起きたことを想定してか無人機で写真を撮っていた。
しかしその無人機がロスト。そして2ヶ月以内に、エウダイモニアでは無人機由来の技術が拡散していたという。
ホモ・サピエンスにとっては競争意識こそが発展の源だが、ホモ・エウダイモニアにとっては共同体意識こそが発展の源である。
としたら、ホモ・サピエンス以上に発展速度が早いのはよく考えれば当然なのかも知れない。
対立しなければやる気を出せないのが競争だが、対立そのものは協力すれば早く進むことを遠回りさせる要因でもあるのだから。

しかしもともとエウダイモニアにないものを2ヶ月以内に実用に持っていく技術力は危惧すべきものであり、
財団はエウダイモニアの調査のためにハイ・テクノロジーを使うことはできるだけ避けることを決めた。
また財団職員自身は立ち入っても無駄死にする可能性が高いため入っていない。

しかしである。

ガンマは入って死んだ。
無人機は解析され、実用化された。

この時点でホモ・エウダイモニアが外界に気付いていないという確証はあるのだろうか?
財団はホモ・エウダイモニアの収容違反に細心の注意を払っている。
外界に進出したホモ・エウダイモニアが外の技術を見れば圧倒的速度でそれを吸収し、
またたく間にホモ・サピエンスを殺害しうることは予想されるからだ。
最後はSK-クラス:支配シフトシナリオをもたらすことは想定できる。

ホモ・サピエンス及びSCP-752-1間の直接的な生存競争はSK-クラス支配シフトシナリオへ至ると予測されており、いかなる代償を払ってでも、SCP-752-1が彼らの大洞窟より外部の世界について無知なままであるよう保たれなければなりません。

また、アルファがエウダイモニアの新生児室に残したものも気になるところである。
ベータ・ガンマ・デルタに隠さなきゃいけないものとはなんだったのか?
報告書では大量の受精前かつ表面上は自発的な[データ削除済]とだけしか書かれておらず不明である。
受精前ということは卵細胞であることが伺えるが、データ削除しなければならないとしたらなにがあったというのだろうか。





SCP-752 - Altruistic Utopia(ヒトならざる者の理想郷)




CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-752 - Altruistic Utopia
by Alias Pseudonym
http://www.scp-wiki.net/scp-752
http://ja.scp-wiki.net/scp-752

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