SCP-062-JP

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SCP-062-JP - (2021/08/12 (木) 11:58:25) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2017/11/14 (火曜日) 23:11:00
更新日:2024/04/29 Mon 23:30:57
所要時間:約 14 分で読めます


















被告人の左心房は、原告の保持する循環器系臓器との同一性保持権を侵害しており、その存在が原告の生存権を脅かしていることは明白であります。
また、被告人の右上腕および小腸の一部においても同一性保持権を意図的に侵害しており、これを放置されれば今後侵害箇所は増加していくものと見られます。
以上のことを踏まえ、被告人の保持する違法箇所を即刻没収ののち、然るべき判決を下すものとします。






























SCP-062-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」の日本支部によって生み出されたオブジェクトの一つである。
項目名は『生存権』。オブジェクトクラスは「Neutralized」に指定されている。

SCP-062-JPは、上に書いた内容のような裁判所の判決文を模した奇妙奇天烈な文章(財団ではSCP-062-JP-2と呼称)がなんの脈絡もなく出現する怪現象と、それを視認してしまった人間に一定確率で発生する致死性の高い認識災害を総称したものだ。
文章が現れるのは、紙に印刷された文面からパソコンなどの情報端末の画面までと非常に幅が広く、後述する元凶から半径数百キロ圏内に在住している限りほぼ逃れることは不可能であった。

そのため、財団の取ることができた収容方法は、昭和期の地上げ屋よろしく該当地域の土地を買収して工事を行い、その騒音によって住民が退去するように促して空いた土地を買収。
同時に、該当地域への送電を行なっている施設を傘下に収める事で定期的に送電を停止させ、電子機器の使用を制限するとともに住人に不便さを感じさせてやっぱり該当地域から退去する様に促す…という手間も予算もかかるうえ、住人にとっては嫌がらせ以外の何物でもない特別収容プロトコルを実行しなければならなかったのだ。

SCP-062-JPの致死性は九九.八パーセントであった。一度視認してしまった人間は、それから三日から七日以内に判決文もどきで『同一性保持権を侵害』と宣告されていた部位が何の前触れもなく消滅するというおぞましい現象に見舞われてしまうのだ。

…消えたのが心臓や肺といった重要な臓器だった場合即死である。

たとえ生き残ったとしても、消えたのが脳の一部や神経系統の様な重要な器官だった場合、その後の人生がどれほど悲惨なものになるかは想像に難くないだろう。

最悪の事例では、全身くまなくSCP-062-JPの対象とされたのか耳だけを残し全て消失した例も記録されている。

残念なことに、SCP-062-JP-2を視認してしまった人間に記憶処理を施したり、SCP-062-JPの影響が及ぶ範囲から連れ出したとしても消失を阻止することは不可能であった。
しかも、ターゲットの選定は完全にランダムであったため、あらかじめ予防策を張ることすら困難を極めていたのである。



我らが財団の戦い

もちろん、この様な傍迷惑極まりないSCiPを我らが財団が野放しにしておくわけがなかった。

SCP-062-JPがもたらす死が『人体の一部が消失したことによる死亡』というやたらと悪目立ちする死因であることを利用し、財団はまずSCP-062-JPによる死の実態調査を行った。
その結果明らかとなったのは、最低でも一週間で一人、ひどい時では1日で三人もの尊い命が奪われていたという、悪夢の方がよっぽどマシな恐怖の現実だったのであるが、同時に、SCP-062-JP-2が発生した箇所にはバラツキがあり、ある一点に近づけば近づくほど発生件数が増加していたことが判明したのであった。

過去、SCP-062-JPが発生した地点の中心にあったのは、既に役目を終えて放棄された電波塔(財団ではSCP-062-JP-1と呼称)であった。
財団がエージェントを送り込んで調査してみたころ、電波塔は半ばより上が常に雲で覆われた奇妙な状態となっており、晴天時に観測してみた結果、塔は地上から三十メートルほど上空で途切れていることが明らかとなったのだ。

財団は、見た目からしていかにも怪しすぎるこの電波塔の全体を遮蔽物で覆って無力化する作戦を実行したのであるが、残念ながら更なる犠牲者の発生を止めることはできなかった。

次の一手として、財団は電波塔を解体し、無人の離島へ移転させる作戦を発動させた。

方法 結果 分析
重機による解体 失敗 物理的な損傷を受け付けないと見られ、SCP-062-JP-1および土台となっている建造物には、わずかな損傷も与えられませんでした。
爆破による解体 失敗 同上。SCP-062-JP-1から20m離れた地面に、爆破による影響が見られました。
土台ごとの移動 失敗 SCP-062-JP-1を中心とした円筒形に、地面にもSCP-062-JP-1と同様の性質が発生しました。地下への影響範囲は不明です。

この通り、ありとあらゆる手を尽くしても電波塔はビクともしなかった。

財団職員が頭を抱えていると、電波塔の中心を貫いている梯子だけが何故か電波塔が途切れている30メートルよりも遥か上空にまで伸びている可能性が浮上したのであった。



派遣部隊の記録

梯子に関する報告を受けた財団は方針を変え、電波塔の梯子を登り、雲の中に潜むであろう全ての元凶を直接叩く作戦に出たのであった。

+ 第一次派遣部隊の記録を閲覧する
梯子を上って行った機動部隊を待ち受けていたのは、濃い雲に包まれた不気味な空間であった。
不審に思った隊員が警戒しつつ更に梯子を上っていくと、何とそこには…町が広がっていた。
目の前には国会議事堂を彷彿とさせる建造物まで聳え立っている。
機動部隊は、目の前にそびえる建物の中を探索する班と町そのものを探索する班の二つに分かれて行動を開始した。

なお、この文章は建造物を探索する班に配属された機動部隊員の報告書をもとに執筆したものである。
先に結果を書いてしまうことになるが、この第一次無力化作戦は失敗した。
派遣された八名の隊員のうち、半数にあたる四名の隊員が雲の中から帰還できずに死亡。
残りの四名も、帰還してから一週間以内に全員が死亡してしまったのである。

さて、四名の機動部隊員が建造物内に侵入すると、内部は裁判所の様な構造になっており、しかも実際に裁判らしきものが行われている最中であった。
係官らしき人物に呼び止められた隊員たちは、とりあえず控え室らしき部屋へ案内されて待機している様に指示された。

それを好機と捉えた隊員は、町の探索に出かけた隊員達と無線で情報のやり取りを行ったのだ。

その結果、この空間に広がっている町は現実世界とほぼ同様の建築物が立ち並んでおり、文化水準も現実世界とほぼ変わりがないことが判明した。

やがて、控え室に検察官らしき人物が現れると、おもむろにこう言った。

『貴方たちは同一性保持権を侵害している』

隊長の指示で事態の成り行きを静観することになった隊員達は、検察官らしき人物に案内されるまま建物内にある法廷へと導かれた。
そして、まずは隊長が証言台へと上がり、残りの隊員は傍聴席へと座らせられることになったのであった。

人定質問(本人確認)も罪状認否も何もなしに、いきなり論告から裁判は始まった。
その内容はこれまで財団が集めてきたSCP-062-JP-2の内容とほぼ同一のもの。
意見の陳述を求められた隊長は、法壇に鎮座している裁判官達に向かって「何故、あなた方は我々を攻撃するのか」という問いを投げかけたのであった。
すると、検事席に座っていた検察官らしき人物が険しい声で「おまえたちが生存権を侵害するからだ」と告げてきた。
その様な権利を我々は侵害していない、そう訴える隊長の後ろで…一人の隊員が気づいてしまったのであった。
裁判の原告らしき人物が、自分たちの機動部隊隊長と瓜二つの容姿をしているといることにーー

パニックを起こしかけたその隊員は、とりあえず頭を冷やそうと退出の許可をもらい、法廷の外へ出た。
トイレで一度落ち着いて、法廷に戻ろうとしたとき、法廷からなんと銃声が聞こえてきた。

慌てた隊員が法廷の前まで戻ると、この隊員と同じことに気づいて冷静的な判断力を失ったのか、法廷に残っていた隊長と隊員達が法壇に向かって銃を乱射している場面に出くわしてしまった。
しかし、いくら銃弾を撃ち込もうとも裁判官も検察官も、弁護士も誰一人傷を負わなかった…いや、まるで水面に映った月に弾丸を撃ち込んでいるように、全ての銃弾が彼らをすり抜けてしまっていたのであった。
戸の隙間からその様子を見ていた隊員がふと我に返ると、証言台に体のパーツを半分ほど失った隊長の亡骸が転がっていた。

唖然とする隊員の存在を知ってか知らずか、裁判長が厳かな声でこう告げた。

「法廷侮辱罪です」

刹那、彼らは装備と服を残して消滅してしまった。

今は逃げるしかない、そう思った隊員は、出来るだけ静かにその場から立ち去り、梯子を下って地上へと帰還したのであった。


第一次調査部隊が全滅したことにより、財団は機動部隊によるSCP-062-JP-1内部空間の、大規模かつ徹底的な破壊工作を行うことを決定した。

+ 第二次派遣部隊の記録を閲覧する
この作戦には財団の保持している大量破壊兵器…おそらくは核爆弾までが投入されたのであったが、それでもSCP-062-JPの被害は止まらなかった。
しかも、大量破壊兵器の投入は当時の部隊長の独断で行われたものであったため、最終的には部隊長の責任問題が取りざたされるオチがついてしまったのであった。

以上の事は機密です。

第三次派遣部隊の記録

先ほどから過去形でばかり記事が綴られている上に、オブジェクトクラスで既にバレバレであると思われるが、このSCiPは既に無力化されている。

この恐るべきSCiPを無力化したのは、財団に所属しているT博士である。
その方法とはーー

ん?

【 彼らを言いくるめました 】


+ ちょっと当人を呼んできます。
あのSCiPに関する報告書を提出した時も、今回と同じく【もっと詳細に書け】と怒られたのですよね、懐かしいな。
えっと、SCP-062-JPを無力化した…と言うより、無力化してしまった経緯をお聞きになりたいのでしたよね。
はっきり言って、あれは無茶苦茶な作戦でした。
第二次派遣で部隊長が使った大量破壊兵器がSCP-062-JP-1にどのような影響を与えたのかという実態調査を仰せつかったのですが、被害を最小限に抑えるという理由で、私と機動部隊員二人の計三人で任務に臨まなければならなくなってしまったのですからね。

仕方ないので、私たちはあの長い梯子を三人でえっちらおっちら登っていきましたよ。
雲を抜けたところで、我々は鉄格子のような物に出くわしました。
流石に、二回も攻撃されたら向こうも警戒しますよね。出入り口になっていた穴に鉄格子をはめ、鉄格子を覆うように監視施設を建造し、わざわざ見張りまで立てていたのですから。
おかげで、我々三人はあっという間に拘束され、拘置所みたいなところへぶち込まれてしまいました。

あー、こんなことなら、もっとお気に入りのSCiPと遊んでおくべきだったなーとか…ごほん!
色々な事を考えていたら、係官らしき人物に法廷まで連れ出されて、私が最初に証言台に立たされることになってしまったのです。
もちろん、作戦に参加する前にSCP-062-JPに関する情報には一通り目を通しておきましたから、その後自分の身に何が起こるかの予測はできていました。

まず、多くの人間の命を奪ってきたあの忌々しいSCP-062-JP-2と酷似した論告が読み上げられ、原告側に目をやると私のそっくりさんが座っているのが見えました。

私は、つい問いかけてしまったんです。
原告席に、「そんなに生き残りたいですか?」って。
私のそっくりさんは即座に私の言葉を肯定しましたが…その顔には生気がありませんでした。
彼だけではなく、検事も弁護士もそれから判事も、法廷の中にいた連中はイレギュラーである私たちを除いて誰もが生気のない虚ろな表情を浮かべていたのです。
その瞬間、私は悟ったんです、こいつらは生きてないって。

鸚鵡は巧みに我々の言葉を模倣してくるけど、言葉の意味まで理解して言葉を発しているわけではありません。
連中も同じです。
見た目や行動こそ我々と同一であるように見えるけど、それはただ、息をして動いているというだけで、そこには確固たる意志も信念も存在していない。
権利を主張するのは向こうの自由ですが、果たして猿真似しかできないような連中の主張してくる権利に意味なんてあるのかって。

そんな事を考えていたらですね、俄然やる気が湧いてきたんですよ!

私は、法壇に向かって思った事を全てぶちまけてやりました。

自分には使命があるんだ、と。
迂闊に声を荒げたらまた法廷侮辱罪で殺されかねませんから、私は努めて冷静に意見陳述を行いました。

生きる権利は万人に等しく存在しているが、明確な目的を持ったまま生きることは非常に難しいだろう。
私は財団に勤めてから命が惜しいだなんて思ったことは一度もないが、目的を果たすまでは絶対に死ねないんだ。

…そんなことを語ったと思います。

気がついたら、廷内は水を打ったようにシーンと静まり返っていました。
恐らく、今まで意見陳述をしてきた人間など一人も存在していなかったのでしょうね。
ということは、被告側の正当な権利であるこれだって行使されていなかったはず。
私は、法壇に向かってこう言いました。

「上告します」

その直後でした。裁判官や書記、弁護士までがみな、いきなり血まみれになったかと思うとその場にぶっ倒れてしまったんです。
銃撃されたのは一目瞭然でした。私は慌てて傍聴席を振り返ったのですが、機動部隊の二人は慌てたように首を横に振りました。

気がついたら、私たち三人を除く法廷内にいた殆どの人間が血まみれになって床に倒れていました。

私は、原告席で息も絶え絶えになっているもう一人の私に歩み寄ってみたんです。
手を触れてみたところ、もう一人の私は触れた部分から、霧のように消えていきました。
姿が完全に消えて無くなる刹那、もう一人の私に「あなたはどこへ行くのですか」と聞かれたのですが、私は答えることはできませんでした。

ですが、感傷に浸っている時間はありません。
銃を持った警備員らしき集団が法廷になだれ込んできたのです。
私は覚悟を決めました。
…が、ここでもまた奇跡が起こったのです。

突如地面が揺れ、建物の外から爆発音が聞こえてきました。
振動と爆発音はその後も何回か続き、慌てた警備員連中は町の方へ行ってしまいました。

私はその瞬間に理解しました。連中の力が弱まったことで、第一次と第二次派遣部隊が仕掛けた攻撃が時間差で発現したという事を。
その直後、もう一人の私がいた地点を中心に、建物全体が霧のように消え始めていきました。

私たちは裁判所のような建物から逃げ出しました。戦場さながらの様相を呈し始めていた町を抜け、必死になって梯子を監視していた施設へと走りました。

幸いなことに、爆発に気を取られたのか施設内にいた見張りはすべて出払っていました。
私は、機動部隊員たちと協力して施設の扉を内側から閉め、しっかりと閉鎖しました。
過去に派遣部隊が行っていた攻撃が今になって効力を発揮したのであれば、最後に稼働するのが大量破壊兵器だという事は容易に予測がつきましたから。
皮肉ですね。連中が我々の侵入を阻むために建造した監視施設が、今度はそっくりそのまま我々を守る盾となってくれたのです。
私たちは、施設が閉鎖されたことを確認すると、大急ぎで梯子に飛びついて下り始めました。

そして、最後に機動部隊員がこちら側から蓋を閉める直前、とてつもなく大きな揺れと爆音が聞こえましたが、蓋を閉めた瞬間、それらは消えました。

まるで、最初からそこには何も存在していなかったように…。

第三次派遣部隊が全員無事に帰還してきた直後、不意にSCP-062-JP-1を覆っていた雲は晴れた。
以後、五年に渡って財団はSCP-062-JP-1の監視を続けたが、新たな犠牲者が発生しなかったことからSCP-062-JPは無力化されたと判断し、当該オブジェクトをNeutralizedに再分類したのであった。


Neutralized

基本的には『確保・収容・保護』を理念としている財団であるが、長い歴史の中には財団が管理しているうちに無力化してしまったSCiPもいくつか存在している。
なかには、財団自身の手によって無力化してしまったものも少なくない。

SCP-1422「イエローストーンの怪」
財団職員の記憶から、何故かアメリカ合衆国にあるイエローストーン国立公園に関する情報がすっぽりと抜け落ちてしまうという怪現象。
再教育を施すことで無力化された。
それだけかって? …それだけですよ、ほかに何かありますか?

SCP-1983「先の無い扉」
Good luck. Morituri te salutant.
内部が異空間化しているうえに、不気味な怪物が次々と湧いて出て来る厄介極まりない農家だった家。
何人ものエージェントが内部の探索に送られたが、そのうちの一人がこのSCiPの無力化方法を発見して遺書に記載。
後に探索の為に派遣されたDクラス職員がその遺書を発見して彼の遺志を継ぎ、見事SCiPを無力化することに成功した。

SCP-240-JP「0匹のイナゴ」
厳密に言えば「現状はEuclidだが、Neutralizedへの再分類が検討されている」オブジェクト。*1
死んだ瞬間に過去改変を行う事で総数を維持する不滅の群れを作りたかったはずが、製造元のミスにより自滅してしまったイナゴの群れ。
しかし厄介な事に、周囲には「まだ0匹いる」と認識されており……。

SCP-548-JP「歌う雨音」
雨が降っている中で差すと、傘に当たった雨音がフレデリック・ショパンのピアノ曲、『エチュード作品10第3番ホ長調(通称・別れの曲)』に聞こえる不思議な傘。
雨の中、ピアノの発表会へ向かう途中で交通事故に遭って命を落とした少女の遺品だった。


追記・修正は、生きる目的を見つけられた人に。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-062-JP– 生存権
by ZeroWinchester
http://ja.scp-wiki.net/scp-062-jp

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