SCP-3305

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SCP-3305 - (2019/09/21 (土) 20:39:14) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2018/07/02 (月) 23:30:58
更新日:2024/02/26 Mon 16:39:58
所要時間:約 14 分で読めます





パンを食べましょう。生まれて、こうして出会ったんですから!
――あるアイドル


SCP-3305とは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に投稿されたオブジェクトの一つである。
オブジェクトクラスはEuclid。

概要

SCP-3305はとある森の中に存在する5本の木である。
スライスされた精白パン(一般的な食パンをイメージしてもらえればOK)がU字釘で幹に打ち付けられているのが特徴だ。本家サイトには写真も添付されている。
…えっ?樹皮が白く剥げているようにしか見えないって?おいおい冗談だろ…まさか空気中のフランスパンにも気付いてないんじゃないだろうな?

例によって謎の破壊耐性を持っており、パンを木から取り外す試みは失敗している。が、今回はこのオブジェクト自体はそこまで重要ではない。
調査の結果、この木々は未知の宗教団体が儀式に使ったものであることがわかった。この儀式が異常を呼び込むので、また誰かがやり始めないように周辺一帯を封鎖しているというわけだ。


この宗教団体の名前やルーツは不明なのだが、彼らの儀式の手順、および実行したときの結果については十分な記録がとれている。

後述する儀式を正確に行うことで、木々の前に、

パンで構成されたヒト型実体が出現する(アンパンマンかな?)

この実体(SCP-3305-1と指定)は自らの身体部位を食用として提供し(アンパンマンかな)

また身体に穴を空けて、血のかわりにワインを流す。キリストだ!!)

このパンおよびワインにはあらゆる身体的・精神的な病気を治癒する神秘的な効果があるキリストだー!!!!)

そしてこのパンやワインを摂取したすべての人物は、やがて…

パン全般を崇拝し始めるようになるのだ。(ごめんやっぱパンだったわ)


SCP-3305

父、御子、そして聖焼麺麭(トースト)
The Father, The Son, and The Holy Toast


事件記録

ただしこのパンは食べた人の信仰心を目覚めさせるだけで、精神を直接支配したりするわけではない。
なのでパン崇拝の仕方は個人の性格や社会環境によりばらつきが生じる。単にパン大好きになるだけの人もいれば、過激な原理主義に走る人もいるということだ。

たとえば、収容のきっかけとなった近隣の町での事案記録を見てみよう。
まず何者か(東方のパン賢者とでも呼ぶべきだろうか)がひそかに儀式を執り行い、神の子たるSCP-3305-1を召喚して町に遣わした。儀式を行った人物はそのまま住民に気付かれることなく町を去っている。
翌朝、教会のミサに集まった人々をSCP-3305-1が出迎える。みずからの身体を切り落としてパンを振る舞うその奇蹟を目の当たりにして、人々は救世主の到来を認識。わずか数日のうちに町民の90%がパン信者となった。

だが信者のうちおよそ40%は、誰にそそのかされたというわけでもないのに過激な言動を行うようになる。(おそらく以前から彼らの好みであったのだろう)白パンを特別視しはじめ、他の町民たちと軋轢を起こすようになったのだ。
そのリーダーであるウェスティング氏と取り巻きたちは、やがて「ワンダーブレッド*1・ウェスティング教会」という分派を立ち上げ、好みの異なる者を異教徒として糾弾するようになってしまった。

ウェスティング教会の信者たちが町のパン屋を「異教のものなる全粒パンを販売している」という理由で襲撃。
2名が先を尖らせた古いフランスパンで刺殺され、4人が同武器で殴打された。

やむなくここで財団が介入し、記憶処理で事態を沈静化した。もっとも記憶処理だけでは完全にパン信仰を捨てさせることはできないようで、彼らは今度は「キングスハワイアン*2信徒団」なる派生団体を作り始めてしまったが…。


付属資料

おっと、肝心の儀式の説明がまだだったね。
材料も手順書も揃っているのだし、ひとつ実際にやってみることにしよう。じゃあ博士、お願いします。

…え?僕も参加するんですか?Dクラス職員じゃなくて?
Dクラスの連中はやんちゃしてたDQNばっかりだから適任者がいない?そっかー、仕方ないなー。わかりました。この五芒星の真ん中に立てばいいですか?

必要素材: 精白パン50斤、赤ワイン3.79リットル、童貞1人*3、自家製パン生地18.14kg、小麦粉14.4㎤分、ガソリン3.79リットル、マッチ、聖書1冊。

  • パンの塊を釘止めされたパン切れの間に並べ、五芒星を形成する(各パンを約30.48cmと仮定すると、50斤全てが必要とされる)。
  • ワインを全てのパン塊に注ぐ。
  • 童貞を五芒星の中心に移動させる。
  • 童貞を肌の露出が無くなるまで生地で覆う。
  • 童貞と全てのパン塊に小麦粉を振りかける。
  • 童貞に3.03リットル、各パン塊に0.19リットルのガソリンを浴びせる。
  • 5つのパン切れ全てを燃やす。
  • 童貞を燃やす。
  • 聖書より、マルコによる福音書 14章22節から24節*4を朗読する。


ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛
あついいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい


…………ハッ!?……ああ……パンが見える……!

そっか…僕もパンなんだ。地球に生きるパンメイト…命の光!

博士!この仕事を通じて、僕、もっとパンになります!


焼き上がった生地はSCP-3305-1の形態になります。童貞に何が起きているかは不明であり、全ての検査はSCP-3305-1が完全にパンとワインでのみ構成されていることを示しています。


SCP-3305-1(童貞)爆誕


SCP-3305-1の特性

助手がパンになってしまったので後を引き継ぐ。
こうして生まれたSCP-3305-1は救世主としての明確な人格と知性を備えており、通常の言語による会話が可能である。また過去に召喚された時のことについても言及できるなど、記憶にも連続性がみられる。一方、元の童貞人間の記憶は完全に上書きされて消えてしまうようだ。

インタビューから、彼の人となり(パンとなり?)がわかる発言をいくつか引用してみよう。

SCP-3305-1: 私は「大いなるパン屋〈Great Bakery〉」から参りました。士女の皆様を、かの「パン職人〈The Baker〉」の道に沿うように教え導き、彼らに私の身体を味わっていただくために再び帰還したのです。

SCP-3305-1: 私はかのパン職人の御言葉を広める一介のバターナイフに過ぎません。

博士: 君は自分の身体を千切り取る時、痛みを感じているのか?
SCP-3305-1: 感じます、しかし慣れました。他の恐ろしいやり方で民衆のために苦しんだこともあります。空腹を満たすために血肉を与えるのは、それとは比較にすらなりません。

また、前述のワンダーブレッド・ウェスティング教会の蛮行について問われたときは、彼らに対してはっきりと非難を表明した。

SCP-3305-1: 言わねばなりません。私は彼らの意図するところに対しては容赦しません。ワンダーブレッドは淡白に過ぎます。私はペパリッジファーム*5のほうがずっと好みです。

(救世主にもパンの好みとかあるんだ…)
SCP-3305-1自身は争いを好まない良識的な性格であり、ただ純粋に人々にパンを分け与えることを喜びとしていることがうかがえる。
博士がパンを断ったときも無理強いをすることはなかったし、知性SCiPとしてはかなり穏やかな部類だ。治世において人々を支える宗教的指導者とは元来こういうものなのかもしれない。いつの世も、争いのパン種はそれを受け止める民衆の心の生地のほうに眠っているものなのだ…

とはいえ精神影響があるのは確かだし、むやみに信者を増やされても困る。
よって聖地周辺は封鎖。万一SCP-3305-1個体が現れた場合は拘束、必要に応じて焼却処分という収容プロトコルにしている。
なおSCP-3305-1は自らの再臨を信じているためか(それとも単に焼かれ慣れているのか)、焼却の試みに対しては抵抗しないようだ。救世主がいない時期なら信者への記憶処理が効くということもわかっている。

まとめ

全体的にコミカルに描かれたオブジェクトであるが、「白パン派と全粒粉派の争いで人死にが出る」というストーリーは必ずしも荒唐無稽とは言い切れない。現実のカトリックと正教の間にも、ミサに使うパンに種(イースト)を入れるべきか否かで長く対立してきた歴史があるからである。
といってももちろんこちらはただの好みの差ではない。洋の東西を問わず、身近な食べ物はしばしば「生命の糧」の象徴として扱われる。そんな象徴の解釈の違いともなれば、それはすなわち思想の根本的違いになりうるのだ。

手短に紹介すると、カトリックは種なしパンを儀礼に用いる。なぜならわずかに入れただけで爆発的にパンをふくらませるイーストは罪の象徴だからである*6。またユダヤには種なしパンを用いる「過越祭」の慣習があり、キリストの最後の晩餐も過越祭の日だったので種なしパンを食べていただろうとされる。

一方、正教は種を入れたパンを使う。なぜなら最後の晩餐が過越祭当日であったことは疑わしく、ゆえにキリストが食べたパンは種ありだったと考えられるからである。またモーセに由来するユダヤの習慣よりも、キリストによって更新された「新約」を重視すべきとする。さらに言えばイーストは神の国のたとえにも使われるので*7むやみにタブー視する必要はない。現に我々は2000年以上イースト入りパンを食べ続けているではないか。

(ちなみに戒律主義のカトリックや正教諸派と異なりプロテスタントは「重要なのは神様を信仰する心であって戒律ではない」という立場なのでこだわらない宗派が多い。)

このように一見すると些細な言い争いであっても、その裏には膨大な文脈が隠れている、ということはしばしばある。
こういったことに外野が「どっちでもいいじゃないか」と無責任な口を挟んでも解決には結びつかない。人々がわかり合うためには、結論を急がず根気強く対話を続けるしか方法はないのだ。

20世紀後半に入り、カトリックと正教はようやく少しずつ和解の道を探り始めた。皆さんもおいしいパンを食べながら、世界平和について考えてみてはいかがだろうか。
何?ごはん派だと!?パンを信じないのか貴様!ファックオフこのグルテンフリー野郎め!!地獄のオーブンで焼かれろ!!!

この町でSCP-3305-1の部位の摂取を拒否した者たちは、しばしば急進派(ウェスティング教会を立ち上げた人々)から差別を受け、社会サービスへの参加を拒絶された。急進派は彼らを“グルテンフリー”の蔑称で呼んでいた。

ほんと、原理主義さえなければねぇ…


関連オブジェクト

先程「食べ物は生命の糧の象徴」と述べた通り…かどうかは知らないが、「動く食べ物」のオブジェクトは枚挙にいとまがない。日本にも動くスシ複数いるしね。
なので今回はもうちょっと絞り込み、キリストの聖体拝領をモチーフにしたオブジェクトを紹介して締めくくりたい。

SCP-804-JP - パンを踏むべからず

不思議なパンを売る店。この店のパンを食べると道徳心が育まれるが、パンを粗末にすると地獄めいた異常空間に送られる。
このパンの正体はイエスの力を切り分けたもの。唯一の店員である夫人はイエスの教えを広めるため永遠にパン屋を経営するという試練(もしくは罰?)を課せられているが、どれだけパンを広めても人々は諍いをやめないという現実に苦悩してもいる。
アンデルセン童話「パンを踏んだ娘」をベースに、キリスト教的テーマを真っ向から描いたオブジェクト。

SCP-3250 - ジーザス・フライドチキン

1974年にアメリカで発生した、「ケンタッキーフライドチキンを食べると、キリストに関するありとあらゆる描写がカーネル・サンダースに見えてしまう」という謎現象。なおこの頃サンダース氏は存命だったが、自社商品が突然異常性を持ち始めたことには気付いていなかった様子。
KFCの親会社に圧力をかけ、スパイスのレシピを変更させることで封じ込めに成功したが、対処が遅れた村では「両手にチキンを持たせて磔にしたサンダース像」を崇めるカルト教団が誕生。自分たちの身体に衣をつけてこんがり揚げることを洗礼と言い張っていたため重度の火傷者が続出していた。ヒェッ



お腹がすいて追記・修正する力が出ない?ぼくの顔をお食べ!



SCP-3305 - The Father, The Son, and The Holy Toast
by Captain Kirby
http://www.scp-wiki.net/scp-3305
http://ja.scp-wiki.net/scp-3305 (翻訳)

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