オブジェクトクラスはJerusalem、聖地。
特別収容プロトコルは以下の一文。
SCP-CN-001は毎日午前9時から午後6時まで見学のため開放されます。
……これは収容プロトコルなのか? と思うかもしれないが、理由がちゃんとある。
これが何かと言うと、中国支部の最初の出発点である建物そのもので、旧歴史時代においては中国の北京に当たる場所に位置する。設立当時はサイトCN-01が設置されていたが現在は移転済み。
財団中国史部の最初の一歩として、アドミニストレータ-CN(管理者)によって125年に設立され、以来57年に渡って拡張を繰り返した結果現在の規模になっている。
全盛期には186の収容物を有していた。その後、支部の発展拡大に伴いサイトCN-01は移転し、残された建物はSCP-CN-001と分類された上で、財団中国支部の歴史を語る博物館として解放されているのである。
内部にはメインの展示エリアが5つあるが、注意点として「管理者」に合わせて人型を前提としたデザインになっている。そのため、それ以外の形態を持つ種族が見学に来た場合、入り口で人型に変わってもらうか、無理なら注意して見学してもらうことになる。
ちなみにこれ自体には関係ないが、コイツの周辺は「童謡砂漠」という特殊な地帯になっている。
専門用語が多すぎるので省くが、ここでは一般的な電気的・化学的素子などは損耗が激しくなり、光学機器による記録も歪みが大きくなる。ここには「管理者」が作り上げたカバラ共振器なるアイテムによってその有害性が抑えられた道路が建造されている。
共振器が開発されるまではここに生物はおらず、砂漠の周りに機械族や非魚族、肉編骨族などが点々と暮らしていた。
「管理者」はこれら部族の間を奔走した挙句カバラ共振器の開発に成功、同時にSCP-CNオブジェクトの製作に必要な材料を収集。
共振器の完成と大量導入により部族間の交流は活発になり、現在はSCP-CN-001を中心とした経済体型が作られつつあるものの、各部族の意見は一致を見ていない。
この記事の最後には、フットノートの下に「旧世界より来るあなたへ」というメッセージが残されている。
これは、「管理者」により、ある特定の生命反応を検知した場合にのみ、データベース上に開示される「管理者」のメッセージである。
冒頭にはミーム殺害エージェントを模倣したフラクタルアートがあり、その先にメッセージがある。
簡潔に言えば、「管理者」の正体はある名もなき財団研究員である。
かつて、平谷市のサイト-CN-96で大規模な収容違反が起き、これが連鎖的に広がった結果、北京は廃墟と化し、荒野は世界中に広がった。XK-クラスが起きたのである。
暴走するアノマリーとその猛威に晒されて死んでいった無辜の人々の怨念や悪意は、砂粒のように結晶化し、それら全てがそれぞれの生前の悪意に基づき、強力極まる現実改変を起こすようになった。これが童謡砂漠である。
研究員は幸か不幸かそれ以上に強力な現実改変能力を手に入れて生き延びたが、他の生き残りは発見できず、どころか収容していたオブジェクトは本部・支部を問わずひとつ残らず消えてなくなっていた。
おまけに童謡砂漠は現実改変する砂粒の海である、そんなもんがあっては現実性など濡れた紙の如し。
数えきれないほどのCK-クラスを経験した後、かつてとは全く異なる生命が発生し、やがて文化が生まれ、文明が生まれた。
童謡砂漠に居座った研究員は、現実改変能力により煉瓦を作り、椅子を作り、壁を作った。そして流した血で財団のマークを書き、あたかも財団でそうしていたように、一人で仕事を作っては一人で仕事をこなすようになった。
童謡砂漠で生きるためにカバラ共振器を作った。
財団として機能させるためにオブジェクトを自ら作り、収容の手順と設備を整えた。
その後長い時間が過ぎただろうか、遠方の部族が彼らの高塔を建てだした。その後の事を、あなたは博物館の公開情報で見つけることが出来た、もう言うことは無い。
喜劇のように聞こえるか?
これは喜劇かもしれない。そうだ、事実上この状況は間違いないだろう。
だが私はもう満足した、だから決定権をあなたに与える。あなたが望みさえすれば、この異常がのさばる世界は再び静寂に戻すことができる。この喜劇に幕を下ろすべきかあなたに決めてもらおう。
それから、どうしても頼む、私を探さないでくれ。
このメッセージを読んだ「生き残り」には、「管理者」が建設したサイトすべてに、かつての財団の如く設置された機密保持用の核兵器点火システム、そして童謡砂漠で生存圏を造り出すカバラ共振器の制御権が付与された。
異常が蔓延る新たな世界を、存続させるべきか? 再び何もない無に戻すべきか?
その結論は「生き残り」に託された。