支部(SCP Foundation)

登録日:2020/11/01 Sun 23:37:58
更新日:2024/03/19 Tue 21:05:19
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ここでは、SCP Foundationにおける英語以外の他言語版Wiki及びそこで行われる創作について解説する。


■概要――そもそも『支部』ってなんなのか


SCP Foundationは2007年にMoto42氏が4chanの/x/に投稿された、不気味な彫像(後にそれは加藤泉氏の『無題2004』と判明する)に、
『SCP-173』というキャプションなどをつけ、やがてそれらが同じ/x/住民によって面白がられてミームと化したあと、
それらをまとめるためにEditthisに最初のWikiが作成された。
そしてその中で多くの内輪ネタも生まれたがやがてそれらは洗練され、一部は排斥され、Wikidotに移行後今の創作コミュニティにつながる。
……なんて話は正直アニヲタ支部職員の皆々様におかれては耳タコな話であろうと思う。

ここからが重要なのだが、この創作コミュニティに注目したのは英語圏の人間だけではなかった。
あるものは純粋に創作そのものに、あるものはまたSCPの二次創作ゲーム『SCP: Containment Breach』などから興味を持ち、
やがて自分の母国語でのSCP翻訳・創作コミュニティを築き上げるようになる。
そういった『翻訳サイト』(ここが重要なのだが、あくまで『創作サイト』ではない)がBranch(支部)である。
このBranchにはSCP-ENが認めた『Official Branch(公式支部)』と『Unofficial Branch(非公認支部)』が存在する。

■支部の発展とENからの扱いの変遷


さて、Branchというものの、そもそもSCP-ENはHeadquarters(本部)を名乗ったことはない。
そもそもSCP-ENからの扱いはあくまで先述の通り『翻訳サイト』であり、
また支部も対SCP-ENにおいて『翻訳サイト』として振る舞っていることが多かったからである。
各支部は支部独自のオブジェクトを創作するようになったが、これらは極一部の例外を除いてSCP-ENには認知されることはなかったし、
各支部は自身の創作コミュニティにおいて支部という存在を仮定することはメジャーではなかった(CNやJP、DEなどの支部を作品世界内で仮定する支部もあったが)。
支部は一定の領分を守った上でENと付き合おうとしていたのである。
かつてENを表現するとき日本でも「本部」や「本家」という表現のほうがメジャーであった。

しかし一方で、各支部同士の創作は互いに(母国語でも英語でもないのに)翻訳するのが盛んだった。
この結果、ENではほとんど触れられもしないのに、各国支部創作同士は影響を与え合い続けた。
何しろ日本語という特殊な言語で書かれているのにアイスヴァインちゃんの黒歴史は海を超えロシアや韓国、中国でさらされてしまっているのである。

面白い話がある。日本でSCPを題材としたライトノベル『鏡の国のアイリス』が発売されたとき、
英語圏の掲示板サイトでは『ラノベ出るらしいけど、日本でSCPなんてそもそも流行ってんの?』という書き込みがなされた。
すると多くの同じ掲示板ユーザーたちは『どうせ日本だし擬人化とかされてキャッキャしてるんやろ』みたいな書き込みをしていた。
その時すでに日本はSCP-1000-JPの考察などに注目が集まっており、正直擬人化SCPはむしろクレフの中の人(DrClef氏)のほうが注力していた。

やがてこれらの取り組みはInternational Transration Archive(SCP-INT)として英語を通じて更に深く行われるようになった。
こうした各国支部の創作について、EN側も興味を示すようになった。というのも、そこにたくさんの「読み物」があるからである。
そしてそこにSCP-INTからの転載記事としていくつかの他言語版記事がSCP-ENに掲載されるようになったのである。
無論すべての人ではなく、「同一基準でのUV/DVを勝ち残らせるべきだ」としてメインリストへの投稿を要求する人もいたが、
「そもそも英語が母国語でもなければ話せもしない人もいるし、他言語話者の感性がENと一緒とも限らない」という考えもあり、
現状は別サイトとしてそれぞれに発展しつつも互いに協調していくという方向でまとまっている。
この際、ENもまた「Branch」と表現されており、ENを「本家」や「本部」と見なす人は現状多くないようである。

このため、この記事でも「SCP-EN」「SCP-JP」や単に「EN」「JP」と表現することにする。

■各国支部の自国語創作に対してのスタンス


SCP-RU(ロシア支部)やSCP-KO(韓国支部)、SCP-FR(フランス支部)など初期の支部の多くは
「自分たちはあくまで非英語圏における翻訳サイトである」というスタンスを強くとっている。
SCP-RUが1000番台から記事をスタートしたのは当時ENがシリーズIしかない頃であり、
故に「続き」としての1000から書き始めたのが由来である(最初の公式支部なのに2021年現在もSCP-001-RUが2つしかないのもこれが理由)。

SCP-KOもこのスタンスを強くとっており、そもそも他支部が「Branch」を名乗る中、一貫して「Korean Wiki」を名乗る。
言語コードの「KO」を採用し、国コード「KR」を採用しないのも、あくまで「ENの翻訳サイトである」ことを意識したものである。
(実際当初は翻訳サイトとしての役目を強く持っていた)

一方でSCP-CN(中国支部)は同じ初期の支部でありながらも、「ZH」ではなく「CN」を採用し、
かつ「O5-CN評議会」という独自の評議会のもと、中国支部という概念を創作内でも導入した最初の事例となっている。
もともと中国は政治的にもアメリカなどとは異なる共産主義を採用しており、外資の中国事業展開時も
現地企業との合弁企業にするのを求める傾向があることもあり、支部という概念を創作内で導入することに違和感は薄かったのだろう。
また後発支部であるSCP-JP(日本支部)、SCP-DE(ドイツ支部)、SCP-IT(イタリア支部)などはこぞってこの支部という概念を採用。

基本的に各国支部の創作はゆるやかなものである。これも、あくまで「翻訳サイトである」以上メインは翻訳にあるからである。
しかしSCP-CNとSCP-JPはどちらかといえば創作先行であり、すでに先行するRUやKOの記事数を遥かに抜いている。

■公式と非公認


基本的にこの項目は公式支部の話しかしない。アニヲタWiki(仮)では『非公認かつ非商業の二次創作』は記事としてNGだからである。
しかしここで重要なのが、そもそも公式支部は最初から『公式支部でございます』として建てられるわけではない。
そもそもENは基本的に自国語以外の翻訳・創作コミュニティを持とうという動きはなかったし、
このスタンスはSCP-ENを離反したRPC Authorityも同様に他言語話者よりBranchを作っていいかと聞かれた際一部の機構職員が
「Branchって何?やりたきゃここでやればいいんじゃないのん?」と主張していたりする。
(なお今は機構も財団同様公式支部が複数存在する)
英語話者にとって他言語話者のコミュニティは「やりたいなら好きにして、こちらに累が及ばないなら気にしないよ」というものである。

しかるに支部は最初は非公認支部として発足し、それがENから公認されることで公式化するのである。
また、RUはライセンス問題から一時期公認から外され、その後それが解決して復帰したという過去がある。

現時点でSCP-EL(ギリシャ支部)、SCP-ND(スカンジナビア支部)、SCP-TR(トルコ支部)、SCP-ID(インドネシア支部)が非公認となっている。
また上記でカバーできない言語群を管理するSCP-UN(Underrepresented Languages Incubator)も存在する。

■公式支部紹介

◆ロシア支部/SCP-RU


SCP最初の公式支部。ただし上述の通り一度公認が外されたのち、復帰した過去がある。
2010年にサイトはできていたがその後放置され、2011年に実質的な発足がなされた。
このときの創立者はすでに不在。ちなみにこの先の紹介を読めばわかるが、創立者が今のコミュニティには残っていない支部はそこそこある。
なんで各支部の創立者がこぞって行方不明になるんだ……これはアノマリーなのでは?
最初はENとことなり参加手順はなかったが、荒らしを経験したことで今の形式になっている。
それまでの作品群はENでいうところのEditthisに近いものが多いが、RUはそれら作品群の改稿には手を付けておらず、
新規作成記事群や翻訳の充実を優先している模様。

特徴の一つに、1000番台からスタートしているというのがある。
これは当初ENが1000を開放していなかったためであるが、ENが開放後もRUはリネームすることなく、
埋まったら999以前に遡ろうという決議をしており、現在も埋まっていない。CNとJPが早すぎるんでは
方向性はグロ目であるものが結構多い。

SCPのライセンスは『クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0(CC BY-SA 3.0)』であり、
このうち『継承』というのは「使ったものにもまったく同じライセンスを付与する必要がある」という意味なのだが、
RUはかつて『クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利-継承 3.0(CC BY-NC-SA 3.0)』を採用していた。
もとのCC BY-SA 3.0は「営利目的使用も可」であり、かつ「継承」条件上勝手に非営利にしてはいけないので*1
「ライセンスが同じになるまで公認外すね」という措置に至った。現在はライセンス問題を解決して復活している。
しかしその後、Andrey Duksin氏がユーラシア関税同盟にSCP-RUの商標登録を行い、SCP-RUの管理権限を手に入れようとした。
これはクリエイティブ・コモンズ上問題となるため、SCP各コミュニティがSCP-RUにクラウドファンディングを行い、
弁護士を雇った上でのDuksin氏との係争に発展した。
……と、ライセンス問題で度々話題になりがちだが、他方でENで消えた記事などを保管していたりするなど歴史を大切にしている模様。

なお韓国支部同様、あくまで翻訳サイトであるという点を強調しており、
「ロシア支部って言うけどロシア語話者の支部だからね」と綴っている。

◆韓国支部/SCP-KO


SCP第2の公式支部。前述のロシア支部が非公認化した時期には第1公式支部だったことも。かつてはSCP-KRとしていた。
もともとは『SCP: Containment Breach』『SCP-087-B』の流行がきっかけで元ネタを解説する目的で発足されたWikiである。
このとき別のサイトが先にWikidotでWikiを作成し、ENに自分のサイトを公式と認めさせようとする事態が発生した歴史がある。
しかし後発のSCP-KRがENから満場一致で公式と認定。

更にKOとは別に翻訳サイトを持っていた時期があるが(JPもかつてそうだった)、そちらが急遽消失してしまい、
一本化されたという歴史がある。これがDr Devan氏がJPの統一化を早期に推し進めようとした理由でもある。
この件については現在も詳細は不明だが、一説には非公式翻訳サイトサイドの設立者が嫌気が差して
ハッカーの仕業に見せかけて管理を放棄しようとしたともいわれている。
なおDr Devan氏はKO創設に関わった後、CN、TH、JP、DE、ITの創設にも大きく寄与した。
またSCP-1047-J - "The Troll"("釣り")を評価可能な状態にした功績もある。

創作コミュニティというよりはまず翻訳サイトとしての立場を強く取り、現在でもほかがBranchを名乗る中、
「Korean Wiki」を名乗る。当初はSCP-KRを名乗っていた時期もあるようだが、今は言語コードの「KO」である。
このため、「韓国支部」というよりは「朝鮮語版サイト」ということになる。

今となってはCNやJPに創作の数は水を開けられてしまっているがCNとJPが異常なだけだが
作成された創作のレベルは非常に高く、かつどこかシュールによった作品が多い傾向にある。

◆中国支部/SCP-CN


詳細は中国支部(SCP Foundation)を参照のこと

SCP第3の公式支部。ただし過去にはミラーサイトが複数あったり、なぜかフォーラムは別サイトに置かれてたりと渾沌としていた。
どうやら『基金会(財団)』という単語が共産主義的にアウトだった時期があるらしく、中国共産党の摘発を恐れていたのではと言われている*2
当初から地下活動が長い割にはオリジナルオブジェクトの創作が盛んだったのだが、
公式への集約後はスピードが格段に早くなっており、RUやKOを抜かすどころかJPにまで追いつき始めている。
ただし毛沢東や習近平をオブジェクト化しようとしてサイトメンバーがBANされるなど、中国らしいトラブルには事欠かない。
なおENはドナルド・トランプをオブジェクト化した

◆フランス支部/SCP-FR


第4公式支部。設立そのものは韓国支部あたりと近い。Anomalousアイテムへの傾倒が目立つ。
S/E/K分類だけでなく脅威度と呼ばれる独自の分類を有しており、かつてはENでもFRの脅威度を採用した記事もあった
これが由来でSafe詐欺が起きにくくなっており、その反動からか非常にインパクト重視の記事が多め。

◆ポーランド支部/SCP-PL


第5公式支部。おそらく公式支部中最も活動が少ない支部。シリーズをブロックの上から埋めていこうとするくらいには。
活動人員数の少なさからか記事が少ない一方で要注意団体の設定などは凝っていたりと特殊な環境を形成している。
創設者はアカウントを削除して失踪。

◆スペイン支部/SCP-ES


ポーランド支部に比べると発展しているが、それでも活動は少なめの支部。やはり創設者は失踪。
ただし自分たちの記事をENのメインリストに投げた功績がある(SCP-179/SCP-ES-026 - 太陽の姉妹サウエルスエソル)。

◆タイ支部/SCP-TH


こちらも支部の規模は小さいが、創設者・筆頭AdminのDrSSS氏が支部の存続に力を入れている。
画像のライセンスがかなり緩めであり、明らかにフリーではない素材が使われることが多々ある。
全体的にはタイの古い伝承などをベースにしたりしたオブジェクトが多いようだ。

◆日本支部/SCP-JP


我らが日本語の支部。創設時点から非公式翻訳サイトがあったことはKOと同じだが、
そのあとは翻訳と創作の棲み分けが行われており、結果SCP-JPが創作先行のコミュニティとなる土壌を作った。
もともと日本人は創作が好きな性質があり、かつ日本がさまざまな伝承や都市伝説の宝庫でもあるためか、
他支部と比較しても発展速度は眼を見張るものがあり、ENからも「日本にはSCPを生み出すSCPがいる」と言われたこともある。
だが最近は国土と国民数で上回る上日本以上に伝説を持つ中国をバックボーンとしたCNに追いつかれてきている。
なお翻訳サイトとはその後統合作業が行われたが、このときも大きなトラブルは起きていない。
ただし最高管理者が失踪しており、2019年11月に最高管理者が移行するまでは、実質的に管理者不在の状況が続いていた。

とはいえ、ライセンスというものを風土上あまりよく理解できていない日本人の中でのコミュニティであることもあり*3
かつSCPのはじまりといえるオブジェクトSCP-173の元作品が日本の作品であることもあって、
ライセンス絡みの問題ではRUと同等に巻き込まれることも多い。
そのせいもあってか、ENや他支部に比較しても画像類のライセンスには厳しく、過去の記事の画像も見直したり、
ENの記事のライセンス違反を指摘したりなど一番厳格な運営をしている。
一方で単にライセンス警察に堕ちず、ニコニコワークショップやニコニコ超会議への参加やMMD杯ZEROの審査員、
ライトノベルやアンソロジーコミックの監修など広める努力も欠かしていない。

◆ドイツ支部/SCP-DE


日本よりあとに公式化したドイツ支部。CNやJPの専売特許と思われた支部仮定創作を行い、
かつCNやJPに比較して支部の詳細な設定を行っている。
基本はシンプルな記事が多いが、『Hallo!』などの独特な記事もある。

他方、世界的に見てもENやCN以上に政治的にデリケートな記事もある。
その一つがカノンハブ『Sonderkommando für Paranormales(SKP)』である。
これは、ヒムラーが魔女狩りのための組織として作ったSKPが、ヒトラーに否定されてひっそりとした地下組織になり財団傘下になった世界と、
平行世界で第三帝国が世界を掌握してしまった世界の財団のいびつなデッドコピーとかしたSKPという分岐をテーマにしたカノンハブである。

◆イタリア支部/SCP-IT


一度2013年に創設されたものの、過剰な目標を立ててしまったことで一度運営が滞り、その後再生したという経歴を持つイタリア支部。
こちらも独特な支部設定を構築しており、創作でも支部が登場する。SCP-INTへの貢献度も大きく、活発である。

◆ウクライナ支部/SCP-UA


ロシアとはまた違うウクライナ語の支部。こちらも支部の規模は小さい。全体的に長い記事が多め。

◆ポルトガル支部/SCP-PT-BR


このポルトガル支部は2代目であり、PT-BR自体ブラジルポルトガル語のコード。
初代は設立者によってのみ翻訳が鋭意投稿されたがそれ以外のアクティブメンバーを獲得できなかった。
2代目のWikiは初代の内容の転記からスタートしたが、この際にも2人の管理者が降板せざるを得なくなった。
3代目最高責任者はブラジル在住であり、ポルトガル支部と言いつつ実際は南米担当というところである。

◆チェコ支部/SCP-CZ


チェコ語のWiki。……であると同時に、スロバキア(SCP-SK)語のWikiも兼ねているという特殊な公式支部。
このためふたつの独自シリーズを走らせている。
かつてはSCP-CSであったが言語コードに基づいた改名を行っている。

◆繁体中国語支部/SCP-ZH


繁体中国語のWiki。もとは台湾を意味するTWだったが、言語コードに基づいて改名した。
(他にも香港を拠点とするHKがあったが、TWと容易に統合可能&記事のレベルが高いとは言えなかったためか消滅)
日本での翻訳数はさほど多くないが、コンテストが開催されるなど着実に発展をとげている模様。
要注意団体の設定が凝っており、CN支部に比べ近現代中国史に沿ったものが多い。

◆ベトナム支部/SCP-VN


ベトナム語のWiki。支部の規模は小さいが、なにげにJPやKOの有名記事が翻訳されていたりする。


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最終更新:2024年03月19日 21:05

*1 例えばあなたがそのへんのSCP二次創作イラストをマグカップに印刷して販売しても、項目作成者とイラストレーターの名前を書いた上でライセンス表示しさえすれば何の問題もないのだ。ただし全く同じデザインのマグカップを別の人が作ってより安い値段で売ってもあなたは文句が言えないのだが。

*2 今はポケモンの中国語版でエーテル財団が『以太基金会』と訳されているので問題はないものと思われる。

*3 えっち絵や腐向け絵なんかでは検索避けのためにあえてひっそりやる、作品名も隠すなんていうのが二次創作上のマナーとしてよく使われがちな日本であるが、当然SCPに関してはこれをやるとライセンス違反である。