男色一本饂飩

登録日:2012/05/14(月) 22:27:30
更新日:2018/04/21 Sat 13:10:33
所要時間:約 4 分で読めます




「う~~一本饂飩一本饂飩」

今昼飯を求めて全力疾走している僕は幕府に仕えるごく一般的な武士。
強いて違うところをあげるとすれば火盗改同心だってことかナ―。
名前は木村忠吾。

そんなわけで海福寺門前にあるうどん屋「豊島屋」にやって来たのだ。
ふと見ると一人の大男の武士が相席を求めてきた。
ウホッ! 気持ち悪い男……。



やらないか



男色一本饂飩(なんしょくいっぽんうどん)は池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」のエピソード。
文春文庫版11巻に収録。中村吉右衛門主演のドラマでは第9シリーズ4話に「一本饂飩」のタイトルで放映された。

池波作品において江戸時代の風俗として同性愛が取り上げられたことは他にもあるが、
鬼平レギュラーキャラの木村忠吾がホモの盗賊に尻を狙われるという笑撃的な内容からファンの間ではカルト的人気を誇っている。



◆あらすじ
市中見廻りの途中うどん屋に立ち寄った同心・木村忠吾に怪しげな大男が近づいてきた。

「同席かまわぬかしら……?」

堂々たる体驅にオカマ口調の不気味な男は浪人姿の忠吾を色子(男娼)とカン違いしたらしく尻を撫でて迫る。
忠吾はビビりながら店を出るが、背後から襲われて気を失い穴蔵に監禁されてしまう。

「長官(おかしら)ならきっとおれを見つけてくれるに違いない……」

――火盗改同心、失踪す!

「奴の事だ、どこぞの岡場所の女に鼻毛を抜かれているやも知れぬ」

火付盗賊改方長官・長谷川平蔵は忠吾(の貞操)を救えるのか?


◆登場人物
  • 長谷川平蔵宣以(ドラマ版……中村吉右衛門)
「知れたことよ。俺にはすぐわかった」

主人公。事件解決後に人の噂を気にする忠吾を優しく気遣うが、
恨みを買うことの多い同心の失踪は危険だと言いながら捜索を始めたのは三日後であった。
もっと早く助けてやれよ。

  • 木村忠吾(尾美としのり)
「わたしは操を守り抜きました! 真でございます!」

うさぎ、兎忠(うさちゅう)の渾名で愛されるひょうきん者の若手同心。
女好きで失敗することも多いが、今回は色白にぽっちゃりした容姿が災いしデカいオカマ・武兵衛に貞操を狙われる羽目になる。
武兵衛一味が盗賊であることに気づいて火盗改同心の身分を隠し必死に耐えるが

不幸せなキス
浴びせた唾を目の前でおいしそうに啜られる
血舐めプレイ

とフルコースをお見舞いされる。
あわや一本饂飩よりぶっといブツを下の口で味わわされる危機に好物だった一本饂飩がすっかりトラウマになってしまった。

  • 寺内武兵衛(石橋蓮司)
「ああ、早う押し込みを済ませてあの若者をおもうさまなぶってみたい、みたい……」

濃い眉毛に体毛、筋骨たくましい肉体をもつ中年の浪人。
両刀使いで「どちらかというと女のほうがきらい」。
算者指南(会計・経営コンサルタント)を掲げて商人や武家の相談に乗るのを生業とするが、その正体は狙った獲物の内情を探って押し込みをかける凶賊の首領である。

最期は平蔵と戦って斬られるが、死ぬまでさらった忠吾が火盗改の人間でそのせいで手が回ったことを知ることはなかった。
剣術の腕もなかなかで一刀流免許皆伝の平蔵が一目で「生かして捕らえるのは無理だ」と考えるほど。

入り込んでいた大店「尾張屋」襲撃計画については火盗改はまったく感知しておらず、
事を終えてすぐ江戸を出る準備もしてあったのでホモ趣味がなければ完全犯罪が成功していた可能性が高い。


◆漫画
さいとう・たかを氏作画による劇画版鬼平でもこのエピソードは取り上げられており、
武兵衛に全裸の忠吾がバックからガン掘りされる(という武兵衛の妄想)場面が描かれるなど一読の価値ありに仕上がっている。


◆一本饂飩
事件のきっかけになった一本饂飩(親指大の太さのうどんを丸々一本とぐろを巻いて盛る)は存在が文献に見えるのみで現代に残っていなかった。
現在は「鬼平」の再現料理という形で復活しいくつかの店で食べることができる。

◆余談
鬼平犯科帳には他にも、「レズで凄腕剣士な男装の麗人盗賊」(『白蝮』)や「強姦する様に妻を抱くのが癖になってしまった同心」(『夜針の音松』)という
「性」に関わって事件が起こる話が多めである。




追記・修正は極太の一本饂飩を下の口で味わってからお願いします。

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