ムネアカハラビロカマキリ

登録日:2017/10/11 (水曜日) 5:19:00
更新日:2024/11/23 Sat 07:00:19
所要時間:約 ? 分で読めます




日本には現在も多くの外来種が侵入しており、昆虫の世界においてもツマアカスズメバチ、
アルゼンチンアリ等といった肉食性の昆虫の脅威に悩まされているが
そうした外来昆虫はほとんどの種類が小柄であり、大きな肉食昆虫はあまり確認されていない。

仮にそうした大きな肉食昆虫が入ってきても日本の、それもソフトインセクトで言えば
オオスズメバチ、オニヤンマ、シオヤアブと並んで最強(ソフトインセクトのみで言えば)の肉食昆虫の一角に挙げられるオオカマキリ(以降ソフトインセクト四天王と呼ぶ)に
駆逐されると言われている。

もし在来種であるオオカマキリクラスの獰猛かつ食欲旺盛な大型のカマキリが外国に生息していたとする。
それが何らかの形で日本に侵入した上に何かの間違いで定着したらどうなるか?
体格で劣る小さい種類のカマキリは当然駆逐され、他の硬い甲殻を持たないor対抗手段がない昆虫たちは食い荒らされてしまうだろう。
そんな悪夢が実際に起こり得るかもしれない、いや現在進行形で起きつつある例として
ムネアカハラビロカマキリ(タイリクハラビロカマキリとも)(Hierodula chinensis.)のケースがある。


▽概要


本来の生息地は諸説あるが有力な説として中国南部説があり、仮にそうならオオカマキリ同様に東アジア原産ということになる。
学名はHierodula chinensis
ハラビロカマキリの仲間でありぱっと見はそっくりだが名前の通り胸部が赤くなっており、
本家ハラビロカマキリに存在するイボ状の突起も小さくより多いなど間近で見れば明らかに異なる。

特筆すべき彼らの特徴がその体の大きさである。
よくSNS等に載っている比較画像から見る限り平均的な個体でも
在来種のハラビロカマキリより一回り大きく、
大型個体になると最大で9㎝程とオオカマキリの最大個体ほどではないにせよ
それでもかなり大きくなるようだ。

性格も様々な声があるのだが、非常に凶暴性が高いという報告が多く、人間に対しても臆することなく威嚇し噛みつくほどだとか。
その体格から想像できる通り食欲も旺盛でハラビロカマキリでは苦戦するアブラゼミを難なく捕食し、
恐らくだがオオカマキリ同様自分より小さなカエルやトカゲも捕食すると思われる。

また、温暖な中国南部原産説が有力でありながら寒さに対する耐性も高く、
これが日本各地へ広がった要因ともいわれているようだ。

▽侵入経路


先述した通り原産地は中国南部が有力で
現地で作られた竹細工等に産み付けられた卵のうが貨物船によって運ばれ、
日本列島に運ばれた際に孵化して広まったのが始まりと推測がされている。
実際に竹細工を買ったら見慣れないカマキリの卵のうがついていて調べたら
ムネアカのものだったなんていうケースもあったが公式な情報ではなくあくまで推測に過ぎなかった…

過ぎなかったのだが2018年の調査において実際に竹箒に産み付けられているのが
調査チームによって確認され、当初は単なる推測に過ぎなかった竹箒によって侵入説が
真実であることが証明されたたのである。
ちなみに同じような侵入経路を持つ昆虫として
同じく中国原産であるタケオオツクツクというセミの仲間
中国原産のタイワンタケクマバチというハチの仲間が存在する。


▽外来種


彼らが侵入したのは2000年以前と推測され、
2011年から一部でハラビロカマキリに似た謎のカマキリがいると話題になっており、
当時2ちゃんねるの昆虫板にて建てられたあるスレッドでチョウセンカマキリとも
オオカマキリとも違うやたら大きなカマキリを捕まえたと一人のユーザーが画像を載せた。
それに伴う形で以前から調査をおこなっていた研究者がウェブサイトで一部の情報を公開し、その時点で存在が確定された。

その後上述した特徴からハラビロカマキリと区別するため
仮称ではあるがムネアカハラビロカマキリと名前が付けられることとなる。

それ以降日本各地で目撃談や実際に捕獲したという報告が相次ぎ、
専門家も目撃や捕獲したという場所への調査を開始、その結果恐ろしい事実が発覚した。

なんとその地域に元々いたハラビロカマキリは生存競争に敗れた為にほとんど姿を消し、
ムネアカハラビロカマキリと入れ替わってしまっていたのである。
もっともこれは昆虫類に限らず外来種ではよくあることだが。
そして2006年以前には既に日本に定着していたことも明らかになったのである。

▽現状


残念ながら既に日本各地に広がっていることが専門家によって確認されている。
現在のところ定着が確認された地域でハラビロカマキリが姿を消したという以外の昆虫の生態系への
影響は確認されておらず、日本各地に広がっているといっても今のところは局地的な範囲に留まっている。
しかしそこで安心してはいけない。
現時点では局地的な範囲に留まっているとはいえそれも時間の問題であり、
もしこのまま増え続ければ先述の通り小型~中型の在来カマキリを
駆逐し、オオカマキリやチョウセンカマキリといった在来の大型のカマキリ類と
競合する可能性が高いのはもちろんのこと、元々いた他の昆虫を食い荒らす懸念も拭えない。
対策としては輸入された竹細工のチェックをより厳しくし、彼らの卵のうが付いていないか目を光らせることが一番。
成虫の場合はアルゼンチンアリやツマアカスズメバチと違って大型の為よく目立ち、発見しやすいのも幸いか。


大柄なうえに力も非常に強いことから日本最大のカマキリであるオオカマキリとも
いずれ全面戦争になる可能性も否定できない。
つまるところ日本の緑の巨人大陸の緑の巨人が激突するかもしれないということなのだ。
というか、そもそも彼らとまともに渡り合えそうな体格のカマキリがオオカマキリ位しかいないという事でもあるのだが…

▽判明した衝撃の事実

この種が定着した地域ではハラビロカマキリが減ってしまうのは先述した通り。
だがそれが何故なのかは明らかにならず、捕食説、ウイルス説など様々な説が挙げられたが
どれも決定的なものにはならなかった。
しかし近年その理由が明らかになると同時に恐ろしい事実が明らかになる。
なんとムネアカハラビロカマキリのオスがハラビロカマキリと交尾をしようとすると
体格差や生殖器の形状の違い故にハラビロカマキリのメスの生殖器を破壊してしまい、
死に追いやってしまうのである。
一見すると珍しいように見えるこの現象であるがこうした現象はムネアカハラビロに限らず、
実は昆虫の世界ではよくあることのようで実際にアカボシゴマダラという蝶の仲間で確認されていたりするのだ。


▽天敵?


さて、在来種への被害が懸念されるムネアカハラビロだが捕食しうる天敵やライバルの肉食昆虫もちゃんと存在している。
大型のソフトインセクトは上で挙げたオオスズメバチ、オニヤンマ、シオヤアブ、オオカマキリのソフトインセクト四天王に駆逐されると書いたがすでに定着した彼らも例外ではなく、オオスズメバチに殺されてミンチにされているのを見たという目撃談があるし
報告はされていないが雄であれば飛行中にシオヤアブやオニヤンマに掻っ攫われたり、個体によっては運悪くオオカマキリに力負けして捕食されている可能性も否定できない。
そんな怪物揃いの肉食昆虫がいる中で局地的とはいえ定着することに成功したムネアカハラビロカマキリは、とてつもないポテンシャルを秘めた昆虫なのかもしれない。


余談

実は本種はほかのカマキリにはあまり見られないかなり珍しい特徴がある。
それは雄の方が大型個体が多いという事だ。
通常カマキリという昆虫は種として通常は雄の方が小さいのだが
本種は個体差こそあるが9㎝に達する大型個体は大抵が雄のようで
雌は8㎝程とそれよりも小さいようである。
雌雄の体長の誤差もほかのカマキリと比べると
さほど大きくはなく、10㎜程度であまり差はないようだ。

そう考えれば彼らが日本全国へ定着することが懸念されている要因は
在来種を上回る捕食能力ではなく繁殖力と適応力ということかもしれない。



追記・修正はアジアの怪物カマキリについて思うところがある方にお願いします。



この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • アニヲタ動物図鑑
  • カマキリ
  • 外来種
  • 謎が多い昆虫
  • 謎のカマキリ
  • 詳細不明
  • 巨大
  • 昆虫
  • タイリクハラビロカマキリ
  • ムネアカハラビロカマキリ
  • 進撃の巨人
  • 怪力
  • パワーファイター
  • 虫項目
  • 中国原産?
  • アニヲタ昆虫図鑑
  • 肉食
最終更新:2024年11月23日 07:00