厄運のすねこすり(ゲゲゲの鬼太郎)

登録日:2018/5/13 (日) 13:29:15
更新日:2019/07/26 Fri 22:24:25
所要時間:約 7 分で読めます





もう、私の家族はこの子だけだよ……。



「厄運のすねこすり」とは、2018年から放送中のアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」の第6話である。

6期の鬼太郎は「人間と妖怪の世界の境界」を明確に描いているが、
今回はお互いがその境界を踏み越えてしまったが故に起きてしまった悲劇の物語である。


放送日:2018/5/6
脚本:井上亜樹子
演出(絵コンテ):古賀豪
作画監督:小泉昇



【あらすじ】


今や日本のどこにでもある、過疎化の進行したとある山村。
障子越しに苦しむ老人の影が映る所から物語は始まる。
そこへ、一匹の猫が開いた障子の隙間から老人のいる部屋へと入っていく。
その直後、老人は悲鳴と共に手で障子を突き破り、そのまま倒れ息絶えてしまう。
次の瞬間、老人はまるでミイラの様に干からびていき、部屋に入ってきた猫の影は巨大な狼のような影に変わり、恐ろしい叫び声をあげるのだった…。

そして月日は流れ、同じ村に住む夫を亡くした老婆「マサエ」が、「シロ」と名付けた猫のような生き物と仲睦まじく暮らしているところに、息子の翔が訪ねてくる。
しかし、翔が勝手に東京に出ていってから折り合いが悪かった上に、咳き込むマサエに「汚い猫なんか飼ってるから病気を移されたのか」とシロを馬鹿にした発言をした事で翔は家をたたき出されてしまった。
ブツクサ文句を言いながら村を出ようとする翔だが、たまたま出会った村の女性から妙な話を聞くことになる。

それは、去年の冬にとある男性がミイラのような妙な変死体で見つかったという事件だった。(アバンの老人がこの時の様子)
怪訝に思いながらも女性と別れた翔は、自分の後をつけてきたシロに出くわす。
そして、シロの本当の姿を目の当たりにしたことで、翔は母を救うべく妖怪ポストに手紙を送る……。


【登場人物】



「どういうつもりであの人間と一緒にいるんだ?」
「黙っているなら、僕は力づくでも、お前とマサエさんを引き離さなくちゃならない。」

翔から手紙を受け取り、カランコロンと下駄を響かせ村にやってきた。
シロが只の猫ではないことを瞬時に見破り、シロと接触を図るが……。
尚、マサエの家に上がる際はちゃんと下駄を脱いでいた。
(歴代の鬼太郎は下駄を履いたまんまで上がり込むことが多かった。)


「猫なんてロクなのがいなんだから。」
「冷酷で凶暴で、心なんてものは持っちゃいねぇ……。」

村に向かった鬼太郎に勝手についてきた。
翔に対して「素敵にしけた村」と失礼なことを抜かしたり、依頼料として高額な料金を吹っ掛けたりしていたが鬼太郎にたしなめられる。
猫のことはいつもひどい目に遭っているからか上記の言葉で罵りまくっていたが、その直後にシロに見つかり散々追い回される羽目に……。それ以降は特に今回の事件には関わらず実質フェードアウト。


「鬼太郎の父親はわしじゃぞ?目元の辺りがそっくりじゃろ」

ご存知鬼太郎の父親。目元というより顔自体が目なんですが……
今回もその知識と人生経験で鬼太郎を的確にサポートする。


  • マサエ
CV:斉藤貴美子
「私の子でいてくれるのは、お前だけだよ……。」

とある限界集落に暮らす老婆。左目に泣き黒子があり、それは息子にも遺伝している。
夫に先立たれ、息子の翔が半ば家出同然に東京に行ってしまい、長らく1人で生活してきた。
そんな中、ある日シロを家に招き入れたことでささやかな幸せを噛み締めていたが、
どういうわけかどんどん衰弱していき……。


CV:金本涼輔
「誰が好き好んで帰ってくるかよ!こんな村……!」

マサエの1人息子。
夢を追って家出同然に村を出ていったが、その後は目的もなくフリーター生活を送っていた。
家を出た経緯もあって現在マサエとの関係は冷え切っており、久しぶりに帰省してもむべもなく追い出されてしまう。
その後シロの正体を知ったことで鬼太郎に手紙を出すが、自分は隣町の民宿にいると全てを押し付けて後を去ってしまう。
口は悪いが、本人は未だに家族の温もりにあこがれているようで……。


  • シロ
CV:内山夕実
「ニャーン♪」

マサエと共に暮らす猫のような生き物。首にはマサエ手作りの鈴とネームプレートがついた首輪をしている
どういうわけか食べ物を一切口にしない。
とても人懐っこく無邪気な性格で、多少いたずら好きな面もあるが優しい性格の持ち主。
一方で自分に悪意を向ける人間には容赦のない一面もある。
しかし……






「引き離す……?」
「なぜ俺から母ちゃんを奪おうとする!!」

その正体は、古より生きる妖怪「すねこすり」
……が、後術する理由で自分が妖怪だと気が付いていなかった。
普段は愛らしい猫の姿をしているが身体能力はネコのそれとはかけ離れた高さを持ち、そして怒ると巨大なオオカミのような姿に変身する。

その身体能力で鬼太郎のリモコン下駄を跳び箱を飛ぶように避け、鬼太郎に詰め寄られても猫として振る舞い続けるも、鬼太郎に「黙っているなら力づくでも引き離さなければならない」と言われると態度を一変し変身。

人間に触れることでその人間の生気を奪い取る能力を持っているが、当のすねこすり本人に鬼太郎に言われるまでこの能力の自覚が全く無く、能力の制御も出来ていない。
それゆえマサエの体調不良も「長い間風邪を引いているだけ」と認識しており、自分のせいだとは想像すらしていなかった。
男性の変死もマサエの衰弱も1人の人間から悪意無く生気を奪い続けてしまったことで起きてしまった悲劇だった。

鬼太郎から、自分が妖怪である事、このままだとマサエが自分のせいで死んでしまうことを告げられる。
すねこすりは水に移っている狼のような自分を見ながら、言われてみれば人が栄えていた頃は人々の足元をすり抜けて歩くだけで丸々と太り元気になった事や、飼い主達は自分が近くによった時に咳き込んだり死んだりした事を思い出す。
しかしそれを信じられず、そして認められずにマサエの元へ戻っていくが……。



以下、ネタバレ注意








鬼太郎から逃れ、マサエの元に戻ってきたシロ。
しかし、自分が触れた瞬間にマサエが激しく衰弱する様子を見て、ついにシロは確信してしまう。
自分が人間とは一緒にいられない存在なのだと。
絶望したシロはそのままマサエの元を離れてしまう……。




一方、翔の元を訪れた鬼太郎は、マサエが家からいなくなっていることを伝え、彼と共にマサエを探し雨の中森をさまよっていた。
自分が妖怪である事に気が付かなかったすねこすりを怪訝に思う鬼太郎に、目玉親父はこう考察した。

「この村も、昔は栄えていたようじゃ。道を行き交う不特定多数の人間から、知らぬ間に気力を得ていたのだろう。」
「そうか…、時代が変わるとともに、村の人通りも減って……。」
「たった一人の人間から気力を奪い続ければ、今回のようなことにもなろう……。」


すると、突如として山にマサエの悲鳴が響き渡る。
シロを探して山に入ったマサエが巨大な熊に遭遇したのだ。
腰を抜かして動けないマサエに、熊の巨大な爪が襲い掛かり……。



間一髪のところでマサエを救ったのは、深手を負いながらも巨大化して熊を追い払ったシロだった。
マサエは驚きながらも、その巨大な妖怪がシロである事を瞬時に見抜き、涙ながらにシロを抱きしめる。
シロもそれに答えるように尻尾でマサエを抱きしめるが、シロに触れたことでマサエはさらに生気を吸われていき……。

「……ダメだ!」

マサエを振り払うと同時に、悲鳴を聞いて駆け付けた鬼太郎と遭遇してしまう。
どう見ても、シロがマサエを襲っているようにしか見えない状況。

「母ちゃん!」

シロの前に立ちふさがったのは、マサエを守ろうと傘を構えた翔だった。


「お……俺の母ちゃんに手を出すな!」
「母ちゃんは俺の家族だ!お前のもんじゃない!!」
「取り付くなら他の人にしろよ!俺だっていい!!」
「だけど母ちゃんだけは……、母ちゃんだけはやめてくれ!!」

「翔……、おまえ……!」
「母ちゃんは後ろにいろ!!」


自分が立ち入れない、「本当の家族」の絆を見たシロ。
すると彼は、さらに巨大化してマサエとの絆の証である首輪を引き千切り……。

「ククク……!ついに正体がバレちまったなぁ…。」
「ばあさんよく聞け。俺はな、人間の生気を喰らう妖怪なんだよ!」
「それを知らずにシロやシロやと……。」
「寂しい婆さんを騙すのは……、」
「簡単だったよ!!」

声と瞳を震わせながら、マサエが自分と後悔なく別れられるよう、マサエを騙していた卑劣で凶悪な妖怪を演じ始めたのだ。
シロの心無い発言に激怒する翔だが……。


「それでもお前は私のシロだ……。」

「大切な私の、かわいいシロだよ……。」

姿かたちがどうであれ、その本心が何であれ、マサエにとってシロは大事な家族である事に変わりはなかった。


「ど……、どこまでも救いようのないばあさんだ……!そんなに俺が大切なら、最後に……、」

「最後にお前の全てを喰ってやる!!」

「すねこすり!?」

「死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

悲痛な叫びをあげながらマサエに襲い掛かるが、翔の必死の一撃を喰らい……。

「う、うわあぁ~!助けてくれぇ~!!」

やられたふりをしてそのまま森の奥に去っていった。
その後ろ姿を、鬼太郎たちはただ茫然と眺めるしかなかった。






降りしきる雨の中、元の姿に戻ったシロは、首輪を咥えながら1人よろよろと森を歩いていた。
肩には先程の熊との戦いで出来た傷から妖気が漏れ出ている。
その中で、シロは今までの出来事を思い出していた。

以前ともに暮らしていた老人が亡くなり路頭に迷っていたところをマサエに拾われたあの日を。
首輪をもらい、家族としてマサエに受け入れられたあの日を。
一緒に遊んでくれたり、悪戯しても笑って許してくれたあの日を。
彼女と共に静かに楽しく暮らしていたあの日を……。

決して戻れない、でも確かに存在した幸せな記憶を胸に、シロは闇の中に消えていった。
誰にも見送られることなく、大粒の涙を流しながら……。




全てが解決し、体調も回復したマサエ。
憎まれ口を叩きあいながらも、マサエと翔の間にわだかまりは無くなり、失われかけていた家族の絆があった。
自分たちにできる事はここまでだと伝え、騒動中どこにいたかも分からず何もしていないにも関わらず妖怪退治料を請求しようとするねずみ男を引っ張りながら去っていく鬼太郎たちに翔とマサエは頭を下げる。
そして、自分を助けてくれたシロにも、涙を浮かべてお礼を言うのだった。


「シロ……。ありがとうね……!」



村を後にしようとする鬼太郎。
すると、小さな風が吹くと同時に、どこからか鈴の音が聞こえてきた。
それを聞いて鬼太郎はふと足を止めるが、しばらくすると再び歩き出した。

その憂いを帯びた瞳の中で、彼は一体何を想っていたのだろうか……?






人間と妖怪の共存の難しさを描いた一作。

次回予告を含めた事前情報ではどうみてもすねこすりが悪役にしか見えず、
「どうせ鬼太郎がすねこすりを倒して終わりだろう」とほとんどの視聴者が思っていたが、
その予想を完全に(いい意味で)裏切った今話は視聴者全員を感動に包み込み、大変な好評を得るに至った。
今作での鬼太郎はこれまでのシリーズとは異なり「人間と妖怪は交わってはいけない」と常々語っていたが、
誰に悪意が無くとも相手を死に至らしめてしまうすねこすりの特性を見ると、彼の考えが間違っていないことがわかるだろう。
極稀に見られる妖怪側にとっては救いのない終わりを迎えた本エピソードだが、最後にすねこすりが敢えて邪悪な妖怪のフリをしたことで関係が冷え切っていたマサエと翔が仲直りできたこと、マサエがすねこすりの真意を理解していたことがせめてもの救いかもしれない。


【余談】

  • 今回は猫娘犬山まなとついでに砂かけ婆といった女性レギュラーが2話連続で未登場であり、彼女たち目当てで見ていたファンは血の涙を流して悲しんだとか
    しかし、逆に言えばヒロインたちに頼らずともここまでの完成度の作品を描けることの証左とも言え、ほとんどの視聴者たちはあまり気にならなかったようである。

  • 今回はシナリオもさることながら、鬼太郎とすねこすりの中盤の戦闘シーンを初めとした演出面も非常に評価が高い。
    流れるような動きと迫力のある破壊シーンはおまけにするにはもったいない完成度を秘めている。
    さらに、シロが森の中を歩き慟哭して闇の中に消えていくシーンはBGMのみとなっており、物悲しいシーンをより悲壮に引き立てている。

  • すねこすりの特性や熊との戦いで出来た傷、森に消えていったシーン、そして風に乗って聞こえた鈴の音と鬼太郎のラストの反応から、すねこすりは死んでしまったのではないかと推測されていたが、『月刊ニュータイプ』2018年10月号の付録「ゲゲゲの鬼太郎 伝承大集成」に掲載された本話脚本家の井上亜樹子氏へのインタビューによれば、この話の後にゲゲゲの森に移住しているとのことである。シリーズディレクターの小川孝治氏は本話の最後に鬼太郎がすねこすりをゲゲゲの森に誘うシーンを入れることを提案したのだが、最終的に「このまま終わらせたほうがいいだろう」ということになり、その後の第8話でゲゲゲハウスの前をすねこすりが横切るという形でフォローされている。
    シリーズ作品内で同種族の妖怪が複数登場するのは珍しくなかった為、当初は別個体だと思われていたが、彼の無事を知ったファンは大いに喜んだとか。

  • 感動の渦に視聴者を巻き込んだ直後に流れた次回予告はなんと、あのシリーズ毎にほぼ必ず(第1期と同じ世界観である第2期を除いて)アニメ化された恐怖回「幽霊電車」だった。
    タイトルも捻りを加えずそのままな所にスタッフのこだわりが伺える。更に予告の鬼太郎の声のトーンもいつもより低くなっていた。
    この話も鬼太郎らしいホラーなものであり非常に評価が高い一方で放送日がよりによって母の日だった為、「順番を逆にした方が良かったのでは」という声も。

  • 元々の伝承では、すねこすりは「すねをこすられるとなんだか歩きにくくなるだけの、無害な妖怪」とされており、本作で解説されたような性質はない。
    しかし本作ではそれを「歩きにくくなるのは生気を奪われるから」「昔は地方にも人が多く居たので、本当の性質に気づかれなかった」と解釈する事で、すねこすりに新たな性質を与えている。



追記・修正は不思議な猫を拾った事で家族の絆を思い出してからお願いします。

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