Primal Land(クトゥルフ神話シリーズ)

登録日:2025/08/16 Sat 04:15:54
更新日:2025/08/16 Sat 07:24:16NEW!
所要時間:約 9 分で読めます




※日本語未翻訳の作品のため、解説に意訳を含みます


Primal Landは、ブライアン・ラムレイによるクトゥルフ神話小説シリーズ。
ラムレイの『タイタス・クロウ・サーガ』シリーズや『幻夢郷』シリーズとも関連を持つ。


■概要

始原の時代の地球に存在した大陸ティームドラ(Theem'hdra)を舞台としており、既存のクトゥルフ神話の神々の名も挙がるが、
本作独自の神々や種族の活躍が多いファンタジー色の強い作風。サキュバスやジン、エルフなどクトゥルフではない神話や伝承の存在の名も挙がる。
タラ・カッシュが主人公のものでは冒険活劇色も強くなる。

魔術師マイラクリオンの時代と、1100年後のタラ・カッシュと魔術師テ・アトの2つの時代が中心として描写されている。


ティームドラ大陸時代が存在した具体的な年代、似たようなアトランティスやムー大陸より後か先かも不明。
『All over クトゥルー』のインタビューで著者のラムレイ自身が「わからない」と述べている。


中短編が複数と長編が1作発表されており原語では3巻と、それらを一つにした合本版が発売されている。
+ 3巻内約
  • The House of Cthulhu
マイラクリオンの時代から、テ・アトの時代まで作中年代順に魔術師たちの物語を纏めた短編集。

  • Tarra Khash: Hrossak!
神々や怪物に愛され後に英雄と呼ばれるフロサック族のタラ・カッシュの登場作が纏められた短編集。

  • Sorcery in Shad
マイラクリオンからテ・アトの時代まで生き続ける不死身の黒魔術師ブラック・ヨッパロスに、タラ・カッシュやテ・アト、これまでに登場した人々が立ち向かう集大成的な長編。


■ティームドラ大陸の地形

原語各巻冒頭には地図が掲載されている。

まず、大陸西部には未知の海と呼ばれる大洋が拡がっており、そこから大きく大陸を引き裂く形で東にまで海が伸びる。

海峡より北部は氷河地帯が拡がっており、海峡よりも南部が物語の舞台となる。以下の説明は南部に対するもの。

首都クリューンは大陸北東部に存在するが西は山脈、北はシェブ砂漠が広がり外との行き来は少々困難。

クリューンより北西にはクトゥルフが棲むアールイエ島が浮かぶ。

クリューンから山脈沿いに南に進むとフロサック族が住む草原が拡がり、南東には毒沼だらけのジャングルが存在。

クリューンから山脈を隔ててすぐ西、シェブ砂漠の真下にはクランギの街が存在。
かつては栄えていたが、ラミアのオルビキータが街を出てすぐの砂漠に居城を築いたため人々が逃げ去り現在は盗賊に占拠されたスラムと化している。

大陸中央西には巨大なクレーターに海水が流入した内海が存在。周囲をグレートサークルマウンテンと呼ばれる山脈に囲われている。
大陸中央東にはエルの砂漠と名前のない砂漠が広がる。

内海より北のマンモス草原、北西のイブの歯近辺は蛮族の住む土地となっている。

内海真下の南端にはティンハラの街が存在。そこから少し東に進むとジャングルが広がる。


大陸西部には登ると幽霊に呪い殺される断崖に囲まれた港町ブール・エシュが存在したが、テ・アトの時代には付近の火山島の噴火で滅び、生き残った住人によってニュー・ブール・エシュとして再建されている。


■主な人種・種族

  • フロサック族(Hrossak)
無口で粗暴、多少残忍なところのある人種。草原に住み自由を愛する気風。
他人種からは野蛮人と呼ばれることもあるが交友は持っており「フロサック族を共にすれば生涯の友になる」という諺も伝わっている。

  • 北方の野蛮人
イブ=ツトゥルを信仰する金髪の野蛮人。
略奪、殺人当たり前で女子供にも容赦がない。

  • シュム・イ(Suhm-yi)
内海に住む伝説的な人型種族。服装など偽装すれば人間に紛れて生活できるほどに人に近い姿をしているが指が4本で目は金色。
神々に通じており、膨大な宝石が眠る鉱脈の在り処をしると伝えられる。

  • イェムニス族(Yhemnis)
南東のジャングルに住む野蛮な人食いの黒色人種。排他的で蘭の花の根から煎じた毒を塗った吹き矢を扱う。
悪徳宝石商に雇われた者も登場しており、他人種と交流を持つ者もいるようだ。

  • ン・ドラ族(N'dolas)
グレートサークルマウンテン麓のジャングル奥地に住む小柄な種族。排他的で蘭の花の根から煎じた毒を塗った吹き矢を扱う。


■神々や怪物

『タイタス・クロウ・サーガ』同様に旧神の元同胞で、旧神に封じられた設定。
アールイエの館で眠る。
菌糸で穢れており接触した人間は、皮膚の下で寄生虫が這い回る醜い怪物へと変貌する。
真の不死身の存在で、人間を不死にする方法も知るとされている。

  • ドロンブ(Thromb)
星々の狭間の闇の領域に棲まう悪魔。
見えざる彼方の世界の闇と惨劇と恐怖の落とし子で、地上に現れれば全ての生命が溶け滅び去ると伝えられている。

  • リース(Gleeth)
盲目で耳の遠い穏やかな性格の月の神。ティームドラの神々の長とされている。
夜になると空に昇り、朝が近付くと去っていく。
基本的に眠りに就いており地上に関心を向けることはないが、シュム・イ族の神官に呼びかけられると返事を返すことがある。寝起きの機嫌は悪い。
強力な守護のルーンを司ると信じられており、空間を歪めるテレポートの力も持つ。
ムノムクァの別名ともされるが、本当に同一存在なのかは不明。幻夢郷の人々には原始人の空想の産物で実在しないと思われている。

  • アホラー・イズ(Ahorra Izz)
ティームドラ全土のサソリを統べるサソリの神。普段は深紅のサソリの石像の姿をしているが、自在に姿を変えることができる。
ティンハラ東のジャングル内にある崩落した神殿の、ルビーの鉱脈に繋がる地下階層で眠りに就いている。
侵入者によって眠りを妨げられることに辟易としていると語り、ルビーを目当てに入り込んだ者には容赦しないが、偶然迷い込んだ者には寛容で会話を楽しみ去ろうとすれば寂しがる様子も見せる。

  • 偉大なナメクジの神々(great slug-gods)
ン・ドラ族が神と崇めるマンモス並に巨大なナメクジ。
食したものによって性格や知性が変化する体質をしており、ン・ドラ族は捧げ物で温厚になるように調節している。

  • クトン(Cthon)
世界の果てを住処にして、太陽を網で捕らえると伝えられる神。
クトンが太陽を捕らえることで夜が訪れリースが現れ、リースが去る際にクトンが太陽を解放すると信じられている。

  • ショーシュ(Shoosh)
眠りの女神。ティームドラでは眠りに就くことを「ショーシュの腕に抱かれる」と表現する。

  • ラミア(lamia)
魔術師と怪物の異種交配で生まれたとされる吸血鬼とサキュバスを足して割ったような種族。
幻覚で美しい女のように見せかけているが、本性は見ただけで人間の正気が蝕まれるような姿。
主にオルビキータという名のラミアが活躍する。

  • ナイト・ゴーント
魔術師が移動に使うことがあるが、イブ=ツトゥルに通じているとされ白魔術師にはあまり好かれていない。

  • イブ=ツトゥル
北方の野蛮人が信仰しているとして名前だけ挙がる。

  • ガタノトーア
ガタノトーアを信仰する闇の神殿が存在すると名だけ挙がる。

  • 爬虫人類
更に太古のティームドラ大陸に王として君臨した種族。強力な魔術を操った。
既に滅び大量の黄金と共に隠された王墓に埋葬されている。


■主な登場人物

  • マイラクリオン(Mylakhrion)
「不滅のマイラクリオン(Mylakhrion the Immortal)」の異名で知られるティームドラ大陸史上最も偉大な魔術師。
不死の研究を優先したいが仕えた王を見捨てられずに国を離れられずにいたり、命を狙う刺客も取るに足らない相手であれば殺さずに転移の魔術で送り返すなど魔術師としては甘く善良な部類。
ただし度を越した敵対者に対しては動物と融合させて自身の使い魔に変える対応を取る。
異名に反して不死に至っておらず、最後には不死となる方法を教えてもらう代わりに配下となる契約をクトゥルフと結び、それを反故にしようとしたことでクトゥルフの怒りに触れ逃れるために自殺した。

  • エクシオール・クムール(Exior K'mool)
Primal Landシリーズでは「The Sorcerer's Book」の1作にのみ登場。
魔術師としては未熟だが、100%的中する予知夢の才能を持つ善良な少年。
最初の師を亡くした後、マイラクリオンに弟子入りし彼の財を全て引き継ぎ王に寵愛される偉大な魔術師となる未来を夢に見てマイラクリオンの弟子になろうとするが伝説の「大いなるルーン書」を見つけ出すことを条件に出される。
「ルーン書」を発見するも、それが適切な守護呪文を使ってから読まなければ持ち主を発狂させ破滅させる代物と知り、記された叡智を全て記憶すると、警告のページを破り捨てマイラクリオンを誅殺し立場を乗っ取ろうと企てる。寸前で良心の呵責に耐えきれなくなり自白し、善良さを気に入ったマイラクリオンにルーン書と使い魔以外の全ての家財道具と王の相談役の立場を譲られた。
タイタス・クロウ・サーガ『旧神郷エリシア』にも老人となって登場する。

  • テ・アト(Teh Atht)
マイラクリオンより1100年後の善の魔術師で彼の子孫。
祖先から知識を得ようとマイラクリオンを降霊した際に、クトゥルフが彼に授けた転生の条件*1を満たしたため取り憑かれそうになるが、マイラクリオンの意識を抑え込み、魔術の知識だけを継承することに成功している。
その後遺症かクトゥルフの呼び声に悩まされるようになり、解決のため過去や未来に意識を飛ばした際にクトゥルフと目が合い、祖先同様に狙われることとなる。
彼の記した書物『伝説の古きルーン(Legends of the Olden Runes)』が後世まで伝わりテルデッド・グスター(Thelred Gustau)に現代語訳されたことで作中世界ではティームドラの存在が現代にも伝わっている。

  • ハトル・アド(Hatr-ad)
ティームドラの魔術師の頂点に立つ野心を持つ邪悪な魔術師。テ・アトの兄弟子。
大陸中全ての魔術師の殺害と、テ・アトがミラクリオンから継承した守護のルーンの簒奪を目論むが、
長年没交渉だったテ・アトに急に連絡を取ったこと、修行時代に野心を何度も口にしていたこと、自城から黒魔術が放射されまくっていることが外部から目視できたことで怪しまれ、テ・アトが呪いで倒れたと虚偽の連絡を取った際に調子に乗り全てを自白して黒と確定したことで大陸全土の魔術師からの呪い返しを受ける。
その他、アホラー・イズからのルビーの簒奪に協力し安全圏から高みの見物を決めていたら、監視魔術ごしにアホラー・イズに睨みつけられ脳内に直接「協力を続けるならお前も殺す」と声を送られビビリ散らし、3日間閉じ籠もったりもしている。

  • タラ・カッシュ(Tarra Khash)
草原を追われティームドラ大陸中を旅して回るフロサック族。
怪物や悪人による数え切れないほどの窮地を乗り越え神々にも愛される英雄。

  • エイミール・アーン(Amyr Arn)
死の灰から妻と2人逃げ延びたシュム・イ族。釣りに出ている際に北方の野蛮人が島を襲い妻を強殺し、種族最後の一人となる。
タラと共に野蛮人と戦い友となり、タラが去った後島を離れクリューンに向かう。



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最終更新:2025年08月16日 07:24

*1 血の繋がった子孫に召喚され、還ろうとした際に10回連続で呼び止められれば肉体を共有する形で蘇れる