濃度(数学)

登録日:2023/08/11 Fri 11:06:00
更新日:2024/12/23 Mon 16:12:08
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無限には、「濃さ」があります。




0. 概要

数学における濃度(cardinality)とは、有限集合の元の「個数」の概念を無限集合に拡張したものである。自然数を一般化した基数(cardinal number)というものを使って表す。
ただしここでは「0」も自然数に含め、そのうえで空集合については「濃度0」と定義する。「何を当たり前のことを」と思うかもしれないが、空集合は元を持たないので「数える」や「写像の対応」が意味を成さないからである。


.........もちろんちゃんと説明します。

1. 集合の大小

例えばこんな問題を考えてみよう。
「ある2つのクラス、A組とB組の生徒の人数を比較するにはどうすれば良いか?」
これを解決するための2通りの方法を見よう。

① 数える
おそらく99%の人が最初に答えるだろう。「数えたらええやん」と。全くもってそのとおりである。
A組の人数を数えたら30人、B組も同じく30人。人数は同じ。そうじゃなければ同じじゃない。
これを読んでいる方々から「さすがにナメてんのか」と怒られそうであるが、ちょっと待ってほしい。
こっちの方法は重要じゃなく、メインは次の②の方法。

② ペアを作る
体育の授業の時のあのトラウマが蘇った?私もです......
A組とB組の生徒たちをまずは出席番号順に並べる。そして、同じ出席番号の人同士でペアを作らせる。もちろん違う番号の人とはペアにならない。
この時、全員がペアを作れたら人数は同じ、ぼっちが発生したら人数は同じじゃない
文字で書くと分かりにくいかもしれないが、考えれば当たり前のことである。ナメてません。
さて、このペアを作る方法だが、実はこれが超重要。それは、この記事のテーマである濃度を数えるときにも使えるから。

2. 濃度

さて、濃度の説明をする前に、少しだけ集合の概念について1つ説明しておきたい。
さっきの「ペアを作る」あれは、数学的には「全単射がある」という。
全単射とは、簡単に言うと「漏れもダブりもない写像」のこと。
イメージしにくい人は「漏れ」はペアを組めない仲間外れが生じる事、「ダブり」はペアの片割れが別の相手ともペアを組んでいる状態と考えれば問題ない。
写像とは、元から元の対応のことで、「数から数への対応」となっている写像が一般に関数と呼ばれる。
(ちなみに全単射とは、全射かつ単射であるような写像のことを言うのだが、この2つは今回は無視して大丈夫。)

  • 全単射の図

①──>➊
②──>➋
③──>➌
④──>➍
⑤──>➎

有限集合なら、全単射が存在することと、元の個数が同じことは同値。これは、さっきの生徒にペアを作らせたのを思い出せばわかる。
これが、なんと無限集合でも同じ主張が言える。つまり、


「2つの無限集合AとBについて、その間に全単射が存在するならば、AとBの濃度は同じ」

ことが言えるのだ。上の全単射の図が、6番以降もず~っと果てしなく下まであるイメージを持ってもらえたならOK。

3. 可算濃度 ~アレフ0~

いよいよ「濃度」の種類、すなわち無限の種類を見ていこう。

皆さんが思いつく最も簡単な無限集合は、おそらく自然数全体の集合Nだろう。
何を隠そうこのNが、基数アレフ0の濃度、「可算濃度」を持つ「可算無限*1だ。
(なお、本来の表記はヘブライ文字のアレフ「א」と、その右下に数字の0を小さく書くのだが、本記事では「アレフ0」と表記する。)
そして、このNこそ、可算濃度の代表なのである。先ほど


「2つの無限集合AとBについて、その間に全単射が存在するならば、AとBの濃度は同じ」

と言ったが、このAをNに変えた


「2つの無限集合NとBについて、その間に全単射が存在するならば、NとBの濃度は同じ」

がもちろん成り立つ。では、このBにいろんな無限集合を突っ込んでみよう。

偶数全体の集合

「自然数と偶数が同じ個数だけある」なんて話を聞いたことがあるだろうか?
「いやいや、2で割り切れる自然数が偶数なんだから、偶数は自然数の半分しかないやろ!」と思うが、実は上の主張は正しい。無限集合に「個数」というワードを使っていることを除けば、だが。
そう、この一見矛盾した主張は、「自然数全体の集合と偶数全体の集合は同じ濃度である」とするのが表現的にも正しいということ。
「いやいやいや、言うても偶数の方が"薄い"気がするけど?」と言われそうだが、ここで1つアドバイス。
数学には、直感的にはどう考えてもおかしいとしか思えないけど数学的に正しいなんてものはたくさんある。例えば「バナッハ=タルスキのパラドックス*2」とか。
特に今回のような、無限からが絡むものについては顕著にこの傾向がある。直感より数式を信じよう。

では、Nと偶数全体の集合を比べていこう。どんな風に全単射を作るかというと、ズバリこう。


1──>2
2──>4
3──>6
4──>8
5──>10
...

自然数1から順番に2,4,6,8,10,......つまり、自然数nに対して2nを対応させれば、これで全単射ができている。
1つの偶数に向かって2つ以上の自然数が対応していたり、逆にどの自然数とも対応していないような偶数もない。
すなわち、偶数全体の集合もNと同じ、アレフ0の可算濃度を持つことが分かった。

同じ理屈で「k(3以上の整数)の倍数全体の集合」や「奇数全体の集合」、「素数全体の集合」、「2以上の自然数全体の集合」の様なNからいくつか(有限個)の数を取り除いた虫食い状の集合も可算濃度であることを示せる。

要はNに含まれるか、あるいは同値な変形でNに含まれる様に書き換えができる無限集合は須く可算濃度で、これは言い換えると、可算濃度より小さい濃度は必ず有限の濃度になると言うことである。
そのため、有限集合と可算濃度の無限集合と抱き合わせで、高々可算であると表現することがある。

Nは言わば、「最も小さい無限集合」なのだ。

整数全体の集合Z

では整数はどうだろうか。整数全体の集合はZで表し、自然数に0とマイナスを加えたもの。先ほどの偶数が基準のNより直感的に小さいのに対し、こちらは大きい。
だが、結論から言ってしまえば、ZNと同じアレフ0の濃度を持つ。図のように書くのは省略するが、1から順番に

0, 1, -1, 2, -2, 3, -3, 4, -4, 5, -5, ...

と、0からスタートし、プラスマイナスを交互に変えながら数字の部分を増やしていきながら対応させると、これで全単射が出来上がる。

有理数全体の集合Q

有理数(整数/自然数と言う形の分数で表せる数のこと。整数nは「n/1」で表せるので有理数の仲間)は稠密性を持つ。
どういうことかと言うと、a<bを満たす有理数a,bに対し、a<r<bを満たす有理数rが無限に存在する。実際r=(a+b)/2は条件を満たす有理数である。
するとa<rあるいはr<bに対しても同様であるからこの議論を繰り返すことが出来る。だとすると直感的にはNよりはるかに多いように感じる。
だが、有理数全体の集合Qも、Nと同じアレフ0の濃度を持つ
付番方法の例として、次のような方法がある。ただしこの方法は直積集合N×Nの濃度がアレフ0であることを既知としている。

  • 最初を0とする。
  • 次に、第一象限の格子点の座標(n,m)を(1,1), (2,1), (1,2), (3,1), (2,2), (1,3), ...といった具合に並べる。
    その後格子点の座標(n,m)を有理数n/mに置き換え、既に同じ数が左にあればこれを消して詰めることで最初の0と併せて上の例では0, 1/1, 2/1, 1/2, 3/1, 1/3, ...となる。
    これで「非負の有理数」全体の集合の濃度がアレフ0となることがわかる。
  • 最後に負の有理数を整数の場合と同様にして0, 1/1, -1/1, 2/1, -2/1, 1/2, -1/2, 3/1, -3/1, 1/3, -1/3, ...とすることにより有理数全体に番号付けができる。よってQの濃度はアレフ0である。

4. 連続体濃度 ~ベート1~

ここまでNを基準に、ZQがアレフ0の濃度を持つことが分かった。この調子で実数全体の集合RNとの全単射を探すが......

実は、Rの濃度はアレフ0ではない

「無限には濃さがあるっちゅうのにアレフ0しか出てきてへんやないかい!」と思っていたそこのあなた、お待たせしました。

Rの濃度を「連続体濃度」と言い、基数「ベート1」で表す。
(「アレフ0」と同じく、本来はヘブライ文字のベート「ב」の右下に小さく1を書く。)

では、RNより"濃い"ことを証明しよう。

カントールの対角線論法

19世紀ドイツの数学者ゲオルグ・カントールが思いついた、トリッキーな証明。背理法を用いるので、まず
NRは同じ濃度である」と仮定しよう。さらに簡単のため、Rの範囲を狭くして「0より大きく1より小さい実数全体」の集合である開区間(0,1)に置き換えてよい。
実際、(0,1)とRは同じ濃度である。例えばy=tan(π(x-1/2))は(0,1)からRへの全単射写像である。

よって、Nと(0,1)が同じ濃度と仮定してもよく、ならば全単射が存在するはずである。こんな風に。


1──>0.12345...
2──>0.59817...
3──>0.31415...
4──>0.30458...
5──>0.15168...
...

ただし、以下の二点に注意する必要がある。
  • 小数点以下の少なくとも1つの位は0でない
  • 9が無限に続く表記は用いない*3

言い換えれば、上のリストには(0,1)内のすべての実数がリストアップされているはずだ。
ここで、ある実数Aを考える。それがこちら。

A = 0.22121...

こいつはいったい何なのか説明すると、「Aの小数第n位は、上のリストの自然数nに対応する実数の小数第n位が偶数なら1、奇数なら2」という実数だ。
他の例に漏れず言葉で書くとよく分からなく見えるのでちゃんと説明しよう。

1に対応する実数は0.12345...で、小数第1位は奇数なので、Aの小数第1位は2
2に対応する実数は0.59817...で、小数第2位は奇数なので、Aの小数第2位は2
3に対応する実数は0.31415...で、小数第3位は偶数なので、Aの小数第3位は1
4に対応する実数は0.30458...で、小数第4位は奇数なので、Aの小数第4位は2
5に対応する実数は0.15168...で、小数第5位は偶数なので、Aの小数第5位は1

こんな感じである。さて問題。このAは、このリストに入っているだろうか?
仮定より、(0,1)内のすべての実数はこのリストに含まれているので、もちろんAもその一員のはず。では具体的にどのnと対応しているだろう?
1ではないことはわかる。なぜなら小数第1位の偶奇が違うから。2ではないこともわかる。なぜなら小数第2位の偶奇が違うから。
3ではないこともわかる。なぜなら小数第3位の偶奇が違うから。4ではないこともわかる。なぜなら小数第4位の偶奇が違うから......
もちろん9が無限に続くなんてことも起こらない。なぜなら各位は1か2だから。

あれれ~?おっかしいぞ~?

Aはこのリストの一員のはずだ。それなのに、すでにnと対応しているどの実数とも等しくない。なぜなら小数第n位の偶奇が違うから。矛盾である。
よって背理法が成立し、(0,1)はNよりも"濃い"ことが証明できた。
これでRNよりも"濃い"ことが証明できたことになる。 Q.E.D.

ここまで来ると直感なんて全くあてにならないことがわかるだろう。
(0,1)の濃度ですら、自然数の濃度より大きい。「自然数」を「有理数」と読み替えても同じこと。
実数は、自然数、整数、ひいては有理数よりも、気の遠くなるほどはるかに「ぎっちり」と並んでいるのである。

ちなみに、実数から有理数だけ取り除いた無理数全体の集合は、ベート1の連続体濃度を持つ。つまり実数全体の集合と同じ。
「実数なんて濃すぎて、有理数程度のうっすい集合引っこ抜いたくらいじゃ濃度は変わらない」みたいなイメージだろうか。

5. 余談

  • 対角線論法を編み出したカントールであるが、晩年は精神に異常をきたしてしまいそれが原因で亡くなっている。その理由として、対角線論法が当時の数学界にとっては異質過ぎて誰にも賛同を得られなかったどころか「こんなの間違いだ!」と炎上してしまったことが原因という説がある。実際、この対角線論法が本当に数学的に正しいと証明されたのはカントールが世を去った後。存命中に功績は認められなかったのである。

  • 可算濃度と連続体濃度の間には明確に大小関係が存在するが、「この2つの間にあたる濃度は存在しないの?」と思った人もいるかもしれない。実際この問題は「連続体仮説」と言う名前で「可算濃度と連続体濃度の間にはどちらにも当てはまらない濃度は存在しない。」という形でカントールによって提示されているが、なんとこの問題、20世紀中盤に条件に当てはまる濃度は、存在することも存在しないことも証明できないと言うことが示されている。*4




追記・修正は濃度といったら食塩水より集合をイメージする人がお願いします。

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最終更新:2024年12月23日 16:12

*1 「可付番濃度」「可付番無限」と言う場合もある。

*2 詳細を省いてざっくりと言うと「3次元空間で球体1個をいくつかのパーツに分割し、各パーツを形を変えずにうまく組み合わせることで、同じ大きさの球体を2個作れる」と言うもの。

*3 この条件はまず1.00000000...=0.99999999...となる可能性を排除し、より一般に「2つの元が等しいのは各位の数がすべて等しいとき、かつそのときに限る」という状況にするために必要。

*4 厳密には「数学において一般に用いられるルールにおいて、連続体仮説は正しいと仮定しても間違っていると仮定しても既存のルールと矛盾しない。」ということである。