ビースピ(速度計)

登録日:2023/10/09 Mon 18:21:03
更新日:2024/09/02 Mon 18:30:33
所要時間:約 10 分で読めます






古来より玉には魂が宿るという

それゆえ戦う男は速度(スピード)をこめる

己の宝玉(ビーダマ)


ビースピとは当初はハドソンが販売した遊戯機器である。タカラ社の玩具ビーダマンの関連商品として1997年にリリースされた。

ビーダマンとは

ビーダマンについては項目があるので詳しくはそちらを見てもらうとして必要なことだけ説明すると
ハドソンが音頭を取りタカラが発売した玩具がビーダマンで、ボンバーマンなどのハドソンのキャラを立体化したものが当初は多かった。
その名の通りフィギュア内にビー玉を格納して人力やバネなどの様々な機構で ビー玉を勢いよく撃ち出す のが特徴。

最初はおそらく着せ替えやコレクションを楽しめる玩具にビー玉を飛ばすギミックが付いたくらいの考えだったろうが
それが大ヒットし、ビーダマンには様々なバリエーションやシリーズが誕生した。
ビックリマンのようにそれ自体に物語や設定を深く取り入れたビーダマンや、競技や遊戯性を高めたビーダマン、
様々なカスタマイズが可能で、遊び手によって異なる形に改造して楽しめるビーダマンも誕生した。
黎明期はビー玉を飛ばせるボンバーマンフィギュアだったビーダマンもタカラ(JBA)が独自色を出すようになりハドソン色は薄れていったのだった。

しかしここで問題となるのは飛ばす「弾体」はビー玉だということである。そう、 硬くて重いビー玉。

昭和の頃のビー玉遊びは指ではじいて転がす程度のものを想定していただろうが、それをはるかに越えるパワーで撃ち出すビーダマンは子供に扱わせるには危険な香り漂うおもちゃだった。
もちろんビーダマン公式は「ビーダマンを人に向けて撃つのは 絶対に やってはいけない」と再三に渡り注意喚起しているし公式ルールで改造できる範囲も定めているが
デフォルトのビーダマンでも 子供の目に当てたらタダでは済まない 上に、危険な改造や遊び方ができてしまうという時点で
年々厳しくなっていく児童用玩具の安全基準的には逆風となるのであった。
球を飛ばすために自分の指の骨が砕けるのも気にしないビー玉戦士とかいるし

それだけが理由では無くあくまで一因だが、現物のビー玉を飛ばす玩具としてのビーダマンは事実上シリーズが終了して
ビー玉よりはるかに軽くて柔らかい ペットボトルの蓋 を「弾」としたボトルマンが実質的な後継となっていった。

この門を通る者、一切の速度が測られる

そして前述の通りビーダマンの周辺機器としてハドソンが出したのがこの記事の主題となるビースピである。
ビーダマンが射出したビー玉の速度を計測する機器で、ビースピの中を通したビー玉が「時速◯km」というのを表示することができる。

の形を上下逆にしたような形状で 左右の壁+天井 で構成されており、床や机に設置すると四角い筒のようになる。
電源を入れてその筒の中にビー玉を転がすと、転がった速度を計測するのだ。

構造を詳しく解説すると、左右の壁にはそれぞれ赤外線を発する発光部と、それを感知する受光部があり、
スイッチを入れると発光部から赤外線を発し続けて、受光部はそれを受信し続ける。
もし発光部と受光部の間に なにかが置かれて 赤外線が遮られると、受光部は赤外線が来なくなったという事実にも反応する。
ビースピ内にはこれらの発光部+受光部が少しだけ位置をズラして2組あるため、起動したビースピ内を物体が通ると
2組の発光部と受光部がそれぞれ時間がズレて赤外線が遮断される。その時間差を利用して移動速度を計測する仕組みである。

1997年時点であっても 非常に安価なパーツで組み上げることができ、
赤外線を遮断できるなら どんな物質の速度でも計測する ことができ、
それで一般レベルとしては 充分すぎるほどの精度が出る というのがビースピの特徴である。

子供は何かの数値を高めることで楽しむことができる才能がある生物である。
同じハドソンが出した 規定時間内にボタンを押した回数を計測できる時計 秒間16連打を目指して盛り上がった前例があり
自分が愛用している 機体 (ビーダマン)がどれだけの 威力 (スピード)で球を撃てるのかを測れるビースピは格好の 機器 (マシン)だった。
赤外線センサを遮断できるものなら何でも測定するため、ビーダマンが撃ったビー玉以外にも、
同じタカラが出したベストセラー玩具のチョロQにも対応し、さらにパーツを付け加えればミニ四駆の速度計測もできる。
当時のアクション要素がある男子ホビーは網羅したと言っても過言ではなく、どれもかじっている当時の男子諸君憧れのアイテムと言ってもいい。
回転速度を測るのは苦手なのでベイブレードは無理。

前述の通りビーダマン自体が廃れるよりも先にビーダマンからハドソン色が抜ける方が早く、
それに合わせてハドソンが2000年の前に販売終了したが、おもちゃ屋の在庫として相応に残っていたため子供達(ビーダー)には思い入れのある製品だった。
ビースピやビーダマンは少年たちの思い出と共に今も押入れの中で眠っているのだろう…。


追記・修正はビーダマンで時速50km以上の球速を叩き出してからお願いします。

















































ほらケンちゃん、このオモチャもう使ってないみたいだし捨てちゃうよ。

……

このビー玉のオモチャや、これも…

………

…ビースピは……

えっ?

ビースピは、 オモチャなんかじゃない!

え…?

ビースピは…立派な研究・実験器具なんだっ!









登録日:2023/10/09 Mon 18:21:03
更新日:2024/09/02 Mon 18:30:33
所要時間:約 10 分で読めます





ビースピとは、現在は株式会社ナリカが販売する 科学実験機器 である。


決して滅びぬ堅守の門

ここまでにした説明は事実であり、当時ビーダマンにハマっていた子供達ならば
自分は持ってないとしてもビースピという機器があったことは覚えているだろう。
だが当時の子供達以外にもビースピに対して熱い視線を送っていた者たちがいた。

それはホビーに興じる少年とは対照的な存在… 小中高から大学に至るまでの理科・物理を教えていた教師や研究者たちである。 Dr.タマノではない

もう一度ビースピの特徴や利点を挙げてみよう。
希望価格1800円で買えてしまう 安くシンプルな構成 で、 そこそこな精度で速度が測れてしまう こと。
それもスイッチを入れてセンサー間を通すだけで測れるという 簡便 さ。

教師たちは気づいた。
これは子供に速度について 教育したり実験するのにすごく便利な道具ではないか?

ちょっと中高の物理の重力加速度について思い返してもらうとしよう。

地上から 20m上 の高さから小さな鉄球を自然に手を離して落とします。空気抵抗は無視します。
手を離した瞬間の鉄球の速度は 0 ですが、そこから重力加速度( 約9.8m/s2乗 )の分だけ加速していくので
落下開始から 1秒 経過した瞬間の鉄球は、当初より 4.9m下 に位置し、速度は 秒速9.8m になって、
2秒 経過すると 19.6m 落下し(もう地上に激突寸前だね)速度は 秒速19.6m になります。

…知識の上ではこうなるのだが、これを実験してわかりやすく実証するって結構手間じゃね?
という時に高さを2mにして落下から50cm下と2m下の壁の側面にビースピを貼り付けてやると
鉄球を落として速度を測ることで逆算ができる。(空気抵抗や空気の粘性の考慮が必要だが)

速度計というのは意外と高価で大掛かりになるところ*1を1800円のビースピを複数用意すれば加速度のような 変化する速度まで測れる ため
ビースピのことを知った教師たちは教育用途や実験機材として買い集め、あるいは自分の子供や生徒たちから取り上げ借りて活用していた。

ハドソンがビースピの販売終了を表明した時には慌てて在庫の確保に走った者もいたが
そこで 理科の実験器具等を販売している ナリカが手を挙げて交渉し、ハドソンの倉庫内にある在庫を買い上げて、
ハドソン製のビースピ本体には契約終了後には表示できないビーダマン・チョロQ・ミニ四駆などのブランド名が載っているため
外装シールを貼り替えて測定機器としてナリカが販売した。
その際に権利的な意味でも買い上げたようでナリカが新たに製造して販売を継続している。ビースピとしての名称もそのままで。*2
嘘だと思ったならビースピで検索してみるといい。モノタロウとかのガチで業務用・研究用資材の流通網で売られてるから。

一応小規模な改良はしており、ハドソンのビースピは時速kmでしか表示しなかったが*3
実験器具であれば秒速mや秒速kmでの表記も欲しいためそちらも選択できるなどに対応した。
全国向けの玩具と教育機関向けの実験機器では販売ニーズの桁が違うため価格が4000円超えもしてたり。
とはいえそれ以外は20年以上前のものと基本構造が変わらぬまま令和の時代にもそのまま新造されて各地の学校や研究機関で速度を測っているのだ。

たとえビー玉戦士(ビーダー)がいなくなったとしても速度を求める戦士達は消えない。
だから今日も測り続けるのだ。


追記・修正は無風状態の地上10m上の地点から100gの鉄球を自然に落として、(重力加速度gは9.8m/s2、空気抵抗係数は0.24kg/mとします)
落下から3秒後の落下位置と速度の理論値を算出した上で実際に測定してからお願いします。


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最終更新:2024年09月02日 18:30

*1 野球の球速を測ったり道路で速度超過を測る「電波発射式速度計」は数万円から数百万する上に、机の上で転がすビー玉のような目の前の小型目標を図るには不向き。

*2 ハドソンのビースピはビーダマンスピードスケールの略らしいが、ナリカのBeeSpiについては単純に踏襲したから以外の理由があるかは不明。

*3 当時の子供には速度の単位といえば時速kmくらいしか馴染みがなかったためと思われる。