登録日:2023/12/23(土) 13:33:01
更新日:2025/02/18 Tue 03:56:24
所要時間:約 10 分で読めます
「はい、三坂」
『駐車場に置いた』
「なんだ? 知らない番号だ」
(第1話「宇賀田班初事件」)
概要
2022年6月20日発売の月刊少年マガジンRで連載され、同誌が2023年1月20日号で休刊したことに伴い、
同年2月14日にWeb漫画サイト「月マガ基地」へと移籍。同年12月1日で連載終了。全41話。単行本全6巻。
ざっくり言えば「警察もの」の漫画ではあるが警察と犯人のリアルタイムの攻防を描くのではなく、真犯人が最後に起こした事件を元に
過去の事件を辿り、警察側・犯人側それぞれの視点で「1つの事件」を振り返る構成。
第1話~第20話までが警察編、第21話~第40話までが犯人編、最終話である第41話が警察編のその後の話となっている。
前々作「ROUTE END」で出てきた超常的な要素は本作では一切登場しない。
馬場・古田が持つiPhoneを除いて、作中に登場する地名や施設は架空のものとなっている。
あらすじ
警察署に置かれたバケツの中には12リットルの血液と1本の腕が入っていた。
超ベテラン刑事と女性やり手・警察官のバディが片腕のない男を追い詰める。
警察にケンカを売り続ける片腕の男。
捜査を進めれば進めるほど謎は深まり過去に起きた事件も次々と関連を見せ始めた……。
この事件、根が深い!
『ROUTE END』でサイコ・サスペンスの実力を示した中川海二、最新作。
(月マガ基地 作品ページより引用)
登場人物
警察編
三坂 重遠
警察編の主人公。遠木県警本部捜査一課宇賀田班所属。
数々の事件を解決したベテラン刑事で冷静且つ培った知識で捜査にあたる。
宇賀田から「
ミサちゃん」「
ミーちゃん」と呼ばれているが特に意に介さず。
休日は被害者遺族のところへ線香あげに行っている。
高齢ながらも巡査部長の地位に留まっており、大木が推測するには「
現場から離れたくない昔気質」。
携帯電話が普及し始めた時に仕事用の番号を名刺に記載し、事件の関係者や目撃者に配っているため、三坂の番号を知っている人間は本人でも把握しきれないぐらいに存在している。
規律を重んじる性格でもあるため自分より年下でも階級が上であれば敬語を使っている。
50年前の幼少期、自分の不注意で弟の良樹を不審者に殺害されており、その犯人を捕まえるために刑事の道を選んだ。
宇賀田 怜悧
警察編のヒロイン。遠木県警本部捜査一課宇賀田班班長。
明るくサバサバした性格で班長を務める。
部下に対しても「~ちゃん」付けで呼ぶなど警察官とは思えないフランクな部分も。
小畑と田島のW不倫により、捜査一課の穴埋めとして火鷹署から呼び出された。
夫で専業主夫の春樹、娘で高校生の真理と共に一軒家に住んでおり、夫婦仲・親子仲は良好だが直情的・感情的な部分もあり、良くも悪くも気持ちをストレートに表すこともある。
警察編の20年前は女子高生で死亡していた女性を犯そうとしていた殺人犯の股間を蹴り上げて捕縛した。
その時に三坂と出会っており、彼から「警察に向いている」と言われたことで高校卒業後に警察官となった。
合田
遠木県警本部の係長。
宇賀田班含めた人員をまとめ上げる。
榎本
遠木県警捜査本部第一課宇賀田班班員。
ややお調子者な性分で三坂や大木に叱られていることが多い。
大木
遠木県警捜査本部第一課宇賀田班班員。
榎本のお目付け役のようなポジション。
太田
遠木県警の鑑識の女性。
馬場 淳
遠木県警の駐車場に血液と腕の入ったバケツを置いた「バケツ男」。
警察編開始の6年前にはスーパーマーケットに勤務していたが客の女性が殺害された事件で聴取され、犯人扱いされて辞めた過去がある。
筋肉質な身体に肩まで伸びた髪の毛とぼさぼさの髭と一見すると殺人犯と見間違えるかのような容姿だが馬場の母や同僚らは「優しい性格」「真面目」、宇賀田も「怯えた感じ」と評している。
バケツを置いた後はパーキングエリアで謎のメモを放置、更に県内を移動―――と警察を挑発するような行動をとっている。
吉野 コウ
1989年に殺害された広村千代の事件で犯人として逮捕された男。
一部では冤罪であるとの声が上がっていた。
警察編では9年にわたる刑期を終え出所している。
冨浦 靖
フリーライターの男性。
週刊講壇という週刊誌に記事を載せており、かつての遠木県警で起きたW不倫をすっぱ抜いた当人。
馬場から連絡を受け、彼が指定した場所に出向くが……
小畑
遠木県警の元警部補。
三坂とは仲が悪かったが名コンビだったようで「あの二人がいれば捜査一課は安泰」と言われるほど。
しかし、巡査部長の田島とのW不倫が原因で警察を辞め、親戚が役員をしている会社の警備員職に就く予定。
後藤 信二
遠木県警捜査一課OB。
吉野の事件の捜査指揮もしており、彼を犯人と断定している。
馬場 康子
馬場 淳の母親。
過去に馬場が警察から容疑をかけられた件から警察を毛嫌いしている。
バケツの件でも「優しいあの子が自分の腕を切るどころか殺人なんて」と息子の無実を信じている。
江土 健太郎
山久 早苗
丘辺
宇賀田家の近隣に住んでいる。
近所仲は良く、何かしらのパーティを常々行っているほど。
山久は過去に妹の由紀を殺人事件で失っており、江土は第5話で脳梗塞を発症し病院へ搬送された。
【松森美絵子】
【西住春日】
【渡辺弘枝】
【西尾晴海】
【角谷みか】
【庄盛麻奈美】
【永谷佑佳子】
【二川小雪】
【谷野里奈】
【川辺涼香】
【山久由紀】
【広村千代】
【古田美輪子】
「覚えてるか?」
「たからもの」
(第19話「宝物」)
一連の内腿切りの犯人は江土健太郎であった。
その事実が判明したのは馬場が自死した後に彼が遺した携帯電話の解析により、古田美輪子とのやり取りを復元。
そこから「先生」と呼ばれる人物が浮かび上がる。
江土が脳腫瘍を患ったことでそれが血管性認知症となり、意識もはっきりとしないことから「訴訟能力がない」ことが明らかとなる。
書類送検はされたものの法から逃げ仰せた結果となったことで実質、江土の一人勝ちになってしまった。
「吉野コウは犯人じゃないかもってね」
「当時からそういう話はあった」
(第24話「ファミリーレストラン」)
犯人編
馬場淳
犯人編の主人公。フリーター。
犯人編開始の3年前に警察が職場に来たことで店側から犯人扱いされ解雇。
その後は自信をつけるために筋トレしていたが性格はあまり変わらず。
SNSを通じて古田と、広村千代の死体遺棄現場で真犯人である内腿切りと出会う。
その後は内腿切りが起こした事件の自白をまとめて、最終的に自首させるために会うようになる。
古田 美輪子
犯人編のヒロイン。
冨浦から貰った取材資料がきっかけで馬場と共に内腿切りに接触し、「レポート」をまとめていく。
馬場と交際していたが彼の迷いが原因で一度は破局するものの、馬場が再起を約束し再び交際する。
男性の髪の長さにはこだわりがあるらしく、馬場が髪を伸ばしていたのもそのため。
幼い頃に三坂に助けられた過去がある。
内腿切り
警察編・犯人編に於いての真犯人。
後の馬場が残したリストよりも前に5件ほどの殺人事件を行っており、警察編で三坂たちが彼に行き当たるまでは被害者の女性たちは行方不明として処理されていた。
馬場らと接触し、「12の殺人」の自白を聞いてもらう代わりに自首を約束するが……
真犯人は上述の通り、江土健太郎本人。証拠を残し始めたのは1976年10月の松森美絵子の事件からでそれ以前にも5人殺害している。
手口は至って単純で声をかけ気絶させて拉致、睡眠薬を飲ませた後に浴槽に滑車を使って吊るし、右腿の大動脈を切断。
その後は被害者の血液と死姦している白黒写真をコレクションしていた。
両親に対しては「最悪だ」「愛の無い人権剝奪(をされた)」としており、自身の内腿切りを「母親を殺害ターゲットにしたかった代償行為」としていた。
その母親も病気で他界し、ブレーキが無くなったことで継続。
反省の弁らしき言葉は述べているものの、真意であるかどうかは全く不明。
自身の性欲の減退もあってか広村千代殺害ではわざとらしい証拠を残すが当時のDNA鑑定の精度の低さが仇となり失敗。
馬場たちが接触してきたことで衝動が復活、馬場の左腕を小型の斧で切断すると同時に「最後の」殺人を行うことになる。
馬場曰く「コントロールがしたいんだろ」「女が怖いんだろ」。
これに対し江土は「理解者がいてくれて嬉しいよ」と返している。
警察
お前らが自力であいつを捕まえなきゃいけないんだ
お前らが…捕まえてくれよ…!
あいつの―――あいつの思い通りにさせないでくれよ…!
(第39話「逃避行」)
用語
内腿切り
作中で発生した殺人事件。作中判明分だけでも13人殺害されている。
若い黒髪の女性だけが狙われ、被害者たちは右足の内腿切られたことによる出血多量で死亡。
被害者の中には膣内に体液が残されているパターンもあったが犯人は捕まらないでいた。
バケツ男
遠木県警の駐車場に12リットルの血液と切断した自身の左腕の入ったバケツを置いた長髪・髭面・片腕の男。
どうやら三坂・宇賀田と少なからず「接点」があるようで駐車場に来た際も警察ではなく、三坂に直接電話している。
それ以降は何をするわけでもなく、県内を移動しているようだが……
自分と古田が迂闊に近づいたせいで江土の衝動を復活させてしまい、彼女の命と自身の左腕を失うこととなってしまった。
警察が江土のような殺人鬼を今でも取り逃していることに怒り、江土の指示でバケツを置いた以降は古田の幻影と共に逃亡。
彼女とのデートコースを渡り歩いた後に江土の殺害を決心するが古田を失ったことに耐え切れずに自殺した。
余談だがマガジン基地配信の第36話「作業」にて左腕を切断された馬場を江土が引きずっているシーンがあるが作画ミスにより右腕が切断されてしまっている。
12人の名前が載ったリスト
バケツ男が自身が乗ってきた車の中に置いた紙。
女性11人と男性1人の名前が記載されており、三坂たちはこれが古田美輪子殺害事件に関連があるとして調べることになる。
リストの正体は馬場が警察に江土を逮捕させるために与えようとしたヒント。
リストに載っているのは江土がこれまでに自白した12人の内の10人と被害者の1人「山久由紀」の姉・早苗(宇賀田の近くに犯人がいるというヒント)、
冤罪事件で逮捕された吉野=萩本芳雄(吉野は全くの無罪であるというヒント)の計12人。
このリストがきっかけで三坂たちは過去の事件の洗い出しを行うこととなった。
DNA鑑定
広村を殺害した吉野の逮捕の決め手になったとされる現実でも知られている捜査方法。
しかし、それが精度に難がある「MCT118法」であったことが原因で吉野の誤認逮捕に繋がってしまった。
第1染色体上にあるMCT118部位の16塩基の繰り返し数から個人を識別する方法。その一致率は「1,000人に1、2人」というもの。
現実の日本に於いては「西の飯塚」「東の足利」とも呼ばれる飯塚事件・足利事件で有名。
この「繰り返し数」が厄介なもので個人によって幅があること、PCR法にかけると短い鎖長のものが優先的に増幅されることで長い繰り返しの配列が検出できなくなる、塩基の図り方が不適切だった、技術的に未熟な部分もあった―――という欠点から精度には難があるとされている。
作中の事件で言うと江土が広村の体内に残した精液がこの識別方法で検査された結果、「吉野のDNAと一致している」と判断を下してしまった。
『パンドラの箱』って寓話があるだろ?
箱を開けるとあらゆる災いが飛び出して世に蔓延してしまったが
箱の底を見ると“希望”が残っている
そういう“希望”のある話だ
だが―――
その“希望”の解釈次第で色々と意味が変わるんだ
聞いた中で一番好きな解釈がある
『幸福そのものではなく
いつか幸福が手に入るという“希望”だけが残った』
君ら警察にとってのあのバケツと一緒さ
幸福そのものは失われた後だ
(第1話「宇賀田班初事件」)
追記・修正よろしくお願いします。
- 前半の謎バラ撒きサスペンスはめちゃくちゃおもしろかった。後半の長い回想入ってから回収はされてるんだけど・・・枯尾花っぽく呆気なく終わったというか。「ROUTE END」のような超常は出てこなかったのは評価点だし、またこの手の書いて欲しい -- 名無しさん (2023-12-24 03:00:03)
最終更新:2025年02月18日 03:56