作りたい女と食べたい女

登録日:2024/08/05 (月曜日) 03:29:36
更新日:2024/08/22 Thu 12:05:49
所要時間:約 7 分で読めます




「作りたい女と食べたい女」とは、ゆざきさかおみによる漫画作品。
略称は「つくたべ」

元々は2020年3月に作者がSNSに投稿した作品であったが、反響が大きかったことから2021年1月にCOMICitにて商業連載開始。
2024年8月現在は不定期連載中であり、単行本は5巻まで発売中。
NHK総合の「夜ドラ」枠でドラマ化もされ、2022年11月から12月にシーズン1が、2024年1月から2月にシーズン2が放送された。

【概要】

料理を通じて知り合った2人の女性の恋愛を描いた百合漫画であり料理漫画
また、マイノリティの人が抱える生きにくさや、それに対する理解もテーマとなっている*1
登場する料理は初期は手の込んだ物やイベント料理が多かったが、物語が進むにつれて主人公2人が一緒に食卓を囲むことが「特別なイベント」から「いつもの日常」になったからか、おにぎりなどの簡単な物や外食も増えてきている。

【あらすじ】

都内のマンションに住む会社員の野本さんは、料理を作ることが大好きな女性。デカ盛りやパーティ料理など、大人数で食べる料理を作ってみたいと日頃から思っているが、自身は小食な上にひとり暮らしのため「作っても食べてくれる人がいない」という理由で実行できずにいた。
そんなある日、職場の男性に悪気なく言われた言葉に落ち込んだ野本さんは、ストレス発散のために衝動的に大量の夕飯を作ってしまう。
どうすればいいのか途方に暮れていたところ、2つ隣の部屋に住む大食い女性、春日さんの顔が思い浮かんだので、ダメ元でお裾分けしたことから2人の交流が始まり……

【登場人物】

野本 ユキ(のもと ゆき)
演:比嘉愛未
主人公の1人で、小食ではあるが料理をすることが大好きな「作りたい女」
自作の料理の写真をSNSに投稿しており、フォロワーもそれなりにいる。
何の会社かは明言されていないが、都内の会社に契約社員として勤め、デスクワークをしている。
職場で弁当の出来を褒められたり実家の母からはらこ飯セットを送ってもらったりと周囲との関係は悪くはないが、ことあるごとに結婚をせっつかれたり、自分がやりたくてやっている料理を「いい奥さんになる(男性に媚びを売る)ための努力」と思われることにもやもやを感じてもいる。
今まで他者に恋愛感情を抱いたことがなく、春日さんへの想いを自覚した時も漠然と「(周りの女性が)みんなそうであるように、自分も男性を好きになるのだろう」と思っていたこともあり初めは戸惑うが、自分の気持ちにしっかりと向き合って春日さんに告白し、晴れてカップルになったことで、住んでいたマンションを出て同棲を始める。
料理好きになったきっかけは、幼少期に絵本を読んで、大鍋いっぱいのカステラをみんなにふるまうことに憧れたこと。
仙台市出身で、好きな食べ物は味噌焼きおにぎり。

春日 十々子(かすが ととこ)
演:西野恵未
もう1人の主人公。大食いで健啖家な「食べたい女」
酒のルート配送ドライバーをしている。
男尊女卑が根強く残る田舎で育ち「女だから」という理由で父や弟とは食事の質や量に差をつけられ、父からは関心を向けられなかった過去がある。
その反動で、野本さんと出会うまでは月に数回ファストフードなどをドカ食いしており「春日さんは大食いだ」と野本さんが知ったのも、たまたま2人きりでエレベーターに乗った時に春日さんが大量のフライドチキンを持っており、雑談でそれを1人で食べると聞いたから。
そんな食生活ではあるが「食べたい時に食べたい物を食べられない体になっては困る」という理由で健康に注意しているらしい。
絶縁状態の父からは祖母の介護のためだけに実家に帰ることを望まれており、ついに住所を知られてしまったので、引っ越しを決意する。
そのことを野本さんに打ち明けて
「野本さんと2人で暮らせないか」
 と相談しようとした際に野本さんから告白されてそれを了承し、自分も同じ想いだと伝えたことで同棲を始める。
下戸という訳ではないが「酒を飲むより、ご飯を沢山食べたい」という理由で、積極的に飲酒はしない。

矢子 可菜芽(やこ かなめ)
演:ともさかりえ
野本さんたちとは別のマンションの住人。美味しい物を食べること、見ることが大好きだが、自炊にはまるで興味が無い「作りたくない女」
料理(外食や惣菜)の写真をSNSに投稿しており、野本さんとは最近まで面識は無かったが、長年の相互フォロワーである。
同性愛者(レズビアン)かつアセクシャル*2であり、セクシャルマイノリティについて広く深い知識を持つ。
幼少期から同性愛者(レズビアン)だという自覚はあったが、「アセクシャル」という言葉や概念を知らなかった学生時代、恋人とすれ違いを起こして破局してしまった。
それをきっかけにセクシャルマイノリティについて必死で調べたことが現在の彼女につながっている。
マイノリティが苦労を強いられたり、いないもののように扱われる世の中に怒りを抱いてはいるが*3けして人間嫌いではなく、性格は面倒見が良くさばさばした姉御肌。
野本さんと知り合ってからは彼女の恋路を温かく見守りながら要所要所でアドバイスをしており、野本さんにとって、頼れる先輩といった存在になっている。
「素人である自分がわざわざ作るよりも、プロの人が作った美味しい物を食べたい」という考えから調理や後片付けに手間をかけることを嫌い、自宅には紙皿や割り箸が常備されており、調理器具は炊飯器と滅多に使わないフライパンが1つくらいしかない。野本さんたちとカレーパーティ(ナンを焼いて食べる)やたこ焼きパーティをしても調理には参加しないが、代わりにみんなの分の飲み物やたこ焼き器を用意している。

南雲 世奈(なぐも せな)
演:藤吉夏鈴(櫻坂46)
野本さんと春日さんの間の部屋に引っ越してきた住人。食への興味と食欲がほとんど無い「食べたくない女」
幼少期から極端な小食であり「食事をするよりも遊んでいたい」と考える子どもだった。それだけならまだ良かったが、家での食事や給食の時間に両親や教師から完食を強要されたトラウマから会食恐怖症を発症*4してしまい。人前では飲み物しか口にできなくなった。
そのため「みんなで集まって何かをすること」や「人と話すこと」は好きなのだが、大人になるにつれて「人づきあい」と「会食」が深く結びついていったこともあって人の輪に入れずにいた。
両親から愛情や心配する気持ちを向けられており、本人もそれは理解しているが、小食を心配するあまり食べ切れないほどの食事を出されたり、自身の好みに反してピンク色やフリル付きなど、両親の思う「女の子らしい」服や持ち物ばかり与えられたり、髪型はロングしか許されなかったりした経験から「望まないことを強いられる苦しみ」「両親が与えてくれるものを喜べない罪悪感」に耐えられなくなり、ひとり暮らしを始める。
野本さん、春日さんとは、実家から届いた食材をお裾分けしたり、ドーナツ作りに誘われたりして交流が深まり、のちに春日さんから(「野本さんが春日さんを矢子さんに紹介する」という目的もあって)矢子さんの家で開かれるカレーパーティに誘われる。
それに対し「食べなくても参加していいのなら」と返答したことで、主要キャラ4人全員が知り合いとなった。
食べられないことを受け入れ、妙に気を遣うことなく輪の中に入れてくれる友人たちを得て「食事」と「楽しい思い出」が結びついたからか、たこ焼きパーティの最中にたこ焼きを1つだけとはいえ食べたり、矢子さんからヴィーガンについての話を聞いて気になったからとソイミートの冷凍から揚げを買って食べたりと、少しずつ食への興味や食欲が増している様子。
野本さんと春日さんの引っ越しが決まった際は、2人が離れていくことに寂しさを感じながらも心から祝っていた。その直後、矢子さんと2人きりで話したことがきっかけで距離が縮まり「友人の友人」から「歳の離れた*5友人」になっていった。
「食べられないこと」が以前ほどの悩みでなくなった後は「自分らしさ」「自分の状態を言い表す言葉」を模索する。

追記·修正は、大切な人と食卓を囲みながらお願いします。




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最終更新:2024年08月22日 12:05

*1 ただし本漫画におけるこれらの扱いに関しては、「誤解や差別、対立を助長する」「むしろマイノリティに対する攻撃になっている」等の批判も少なくない(当のマイノリティからも、それ以外の層からも)。この辺りを気にする方は、良く調べて判断して頂きたい。

*2 「他人に対して恋愛感情は抱くが『肌を触れ合わせたい』などの性的欲求を抱かない人」を指す。

*3 漫画的表現ではあるが、たまに両目が「殺」の字になる。

*4 現実の「会食恐怖症」の症状とは大きく異なるので注意。

*5 主要キャラ全員が年齢不明だが、作者のSNSの投稿によると、矢子さん→野本さん→春日さん→南雲さんの順で年上なので、最年長と最年少。ちなみにドラマ版の中の人同士は22歳差