登録日:2024/08/17 Sat 01:58:47
更新日:2024/10/11 Fri 14:42:47
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「ギリシャの三大作図問題」とは、図形の作図に関する数学の3つの問題、「角の3等分問題」「立方体倍積問題」「円積問題」の事。
単に「三大作図問題」と言われることもある。
概要
小学校や中学校で角の2等分線や垂直2等分線、垂線などの作図方法についてを学ぶが、「ギリシャの三大作図問題」はそれらの延長線上の考えに当たる操作として次の3件の作図が定木とコンパスだけを使って出来るかどうかに関する問題として提示がなされている。
具体的な内容としては以下の通り。
①:与えられた角度に対して、その角度を三等分する様な線を作図することは可能か? (角の3等分問題)
②:与えられた立方体の2倍の体積を持つ立方体を作図することは可能か?(立方体倍積問題)
③:与えられた円と同じ面積を持つ正方形を作図することは可能か?(円積問題)
①については「どんな角度であっても成り立つ」事を示さなければならない。
各問題は紀元前の古代ギリシャ時代に起源を持っており、多くの数学者達が作図法についてを模索してきた。
問題内で言っている内容自体は特段難しい訳ではないため、一見すると作図自体も出来そうに思えるかもしれないが、なんとこの3問、どれも作図することが出来ないことが証明されている。
作図の条件
作図に関する条件だが、教科書で習う内容と少し違う点がある。
①:定木の扱いについて
誤記か何かと疑った人もいるかもしれないが、定規ではなく、定「木」である。
定規との違いはズバリ「目盛りの有無」である(そのため、目盛りを使用しないようにすれば定規で代用できる)。
そのため、定規ではできた「目盛りを元に特定の長さの線分を作図する」と言った事は出来ず、特定の2点を通る直線を引く、もしくは2点を元に半直線や線分を引くと言った作業に用いられる。
また数学的な作図で考える場合、物理的な定木そのものの長さと言うのはあまり考えず、いくらでも長いあるいは短い線を引くことが出来るものとして話を考える。
②:コンパスの扱いについて
機能で言えば現実で用いられるコンパスと大きく差はないが、半径として取れる長さには制限がなく、いくらでも大きいあるいは小さい半径の円でも書くことが出来る。
こちらは「中心となる1点」から別の1点を通る円を作図するのに用いられる。
定木とコンパスで出来る作業は以上なのだが、上記2点を組み合わせることで次の操作ができるようになる。
A:平行でない直線2本の交点1点を新たに作成する。
B:円と直線から共有点(交点2点、もしくは接点1点)を新たに作成する。
C:円と円から共有点(交点2点、もしくは接点1点)を新たに作成する。
作図する時には「既知の点(座標)」を元に長さなどの情報を作り出していく事になるのだが、定木とコンパスの作図では上記の方法によって新規に点を作っていき、最終的に求めたい長さや角度に該当する場所の点を求めていくのが必要な作業となる。
もう1つ欠かすことのできない大前提として「定規とコンパスの操作は有限回で終了する」と言う条件が挙がる。
もしも無限回の作業が可能ならば求めたい角度や長さの値を極限値としてその値に近づけることのできる操作をずっと繰り返して値を作る事が出来る。
だがそれでは作図できる/できないの判定をする意味がなくなってしまう上に、実際の作図作業の観点から言っても現実的でないため、あくまで「有限回の処理」で完結させられることを条件とする必要がある。
各問題の深掘り
ここで改めて3つの問題について振り返っていく。
角の3等分問題について、「元の角度の1/3の大きさの角度を作図する」事をゴールとしているが、「角度を作図する」為に必要なのは何かをより噛み砕いてみる。
厳密さを欠いた表現になるが、これは「基準となる直線から求めたい角度の数値分だけ傾いた直線(斜線)」が引ければこの条件はクリアできる事になる。
この「斜線の傾き」の部分を更に噛み砕くと「傾き」は、2直線の交点Aと新しく作成した斜線上の(A以外の)任意の1点Bで線分ABを作り、その長さを1と考えた時の (基準とした直線から見て)「ABの水平方向(横向き)の線分の長さ」と「AB垂直方向(縦向き)の線分の長さ」の比で表現することが出来る。
2本の直線によって決まる角度をθとすると、この水平方向・垂直方向の三角比によって水平成分はcosθ、垂直成分はsinθとして決定できる。
つまりこの2つの値を(2点による線分の長さとして)作図することが出来れば元の角度も作図できる事になる。
ただ詳細は後述するが、cosθが作図できるならばsinθの作図することが出来る(逆も同様)ので、この問題に対するゴールは「元の角度の1/3の角度θに対するのcosθの長さ」の線分が作図できれば問題が解けることになる。(実際には座標や数直線での向きによって正負が決まるが、長さの観点で考える場合作図によって出る値は「絶対値」として出てくる点には注意が必要。)
続いて立方体倍積問題・円積問題についてだが、2次元・3次元による正方形・立方体の違いはあるものの、どちらも「1辺の長さが全て等しい四角形で構成される図形」を作図するのがゴール。
ここで肝心になってくるのは「1辺の長さ」であり、この長さが分かれば対称の図形を作図することが出来る。
立方体倍積問題の場合は「与えられた立方体の2倍の体積を持つ立方体」を作図するのがゴールで、立方体の体積は「(1辺の長さ) ×(1辺の長さ)×(1辺の長さ)」である事から、各辺の長さを「2の立方根3√2( = 1.259921049894873…)」倍できれば答えの図形を作図するができるようになる。(厳密には2の立方根は3種類あるのだが、ここではそのうち値が実数になる1種だけを考える。)
続いて円積問題は元になる「与えられた円と同じ面積を持つ正方形」を作図するのがゴール。
円の面積は「(半径の長さ)×(半径の長さ)×π(
円周率)」で、正方形の面積が「(1辺の長さ) ×(1辺の長さ)」であるため、正方形の1辺の長さを「(半径の長さ)×√π( = 1.772453850905516…)」と定めてやればそこから作図を行う事ができる。
このため、3つの問題を解く行為はそれぞれこの様に言い換えられる。
- 角の3等分問題→与えられた角度に対し、その1/3の角度θに対するcosθ(sinθでも可)の値の長さの辺を作図する。
- 立方体倍積問題→与えられた立方体の1辺の長さの3√2倍の長さの辺を作図する。
- 円積問題→与えられた円の半径の√π倍の長さの辺を作図する。
作図可能or不可能とは?
各問題の内容を言い換えることでゴールがある程度分かりやすくなったが、「そもそもどういった図形が定木とコンパスで作図可能なのか?」という点について考える必要がある。
今回作りたい図形は角度・立方体・正方形であり、いずれも特定の長さの線分を作図することが出来れば解くことが出来ることがここまでで確認できている。
まず大前提として「1」は基準の長さとして最初に与えられているため、ここから作図できる数について考えていく必要があり、求めたい長さが「定規とコンパスだけで作図できる」数である事を確認できれば作図ができ、逆に作図できない数であれば作図できないことが示せる。
ここで定木とコンパスで出来ることを再度確認すると、
定木:特定の2点を通る直線を引く。
コンパス:中心の1点から別の1点を通る円を引く。
であり、xy座標上で直線と円の方程式を考えると、
直線の方程式:y = ax + b(傾きa,y切片bの直線。) もしくは x = d(点(d,0)を通り、x軸に垂直な直線)
円の方程式:(x - p) 2 + (y - q) 2 = r 2 (中心(p,q)、半径rの円)
であり、それぞれx,yの1次式と2次式にまとまる。
そして直線・円から共有点を導き出すという事は直線2本の方程式、直線と円の方程式、円2本の方程式、のいずれかで連立方程式を作り、解を求めることなので、やはり組み合わせて出来る方程式は1次か2次の方程式になるため、解くことで得られる結果もそれに応じたものになる。
詳細は省略するが、上記の方程式の解を求める観点から定木とコンパスでの作図を見ると、以下の作図できる。
①:A,Bを元にA+Bを作図する。(加法)
②:A,B(A≧B)からA-Bを作図する。(減法)
③:A,BからA×Bを作図する。(乗法)
④:A,B(B≠0)からA÷Bを作図する。(除法)
⑤:Aから√Aを作図する。(開平)
これらの基準で考えた場合、「1」が基準値として存在する為、①~③によって「0以上の任意の整数」が作れることになる。
続いて①~③でできた数に対して④を適用することで「(0以上の整数)/(1以上の整数)」、即ち「0以上の任意の有理数」が作れる事が分かる。
最後に⑤によって①~④に対する「0以上の任意の有理数」の平方根も作図できるようになる。
この時出来た数に対して分母の有理化で通分をしてやれば「(√(0以上の整数))/(1以上の整数)」も作成ができる。(根号は分子側にしかつかない点に注意。)
ここで終わりと言いたいところだが、ここまででできた数に対してもさらに①~⑤を作れるため、「作図可能な数」と言うのは「整数に対して加減乗除と開平を有限回行って得られる数」となる。
(因みにここまでで何度か述べてきたとおり、負の数に対しても向きを考慮することで考えることが出来るため、これらによって①~⑤で出来た数に対してマイナスを付加した数もまた作図可能な数になる。ただし作図という観点上、あくまで実数で議論を進めるため、負の作図可能数に対しては開平の処理は行わない。)
上記の内容だとピンときにくいかもしれないが、その数を解に持つ有理数係数の方程式の最小の次数が1,2,4,8……と言った2の冪乗になっていれば、その数は作図が出来る。
具体例で言うと、
1はx – 1 = 0という有理数係数の1次方程式で書ける。
(2次以上の方程式にもできるが、最小次数は1。)
3/7は7x – 3 = 0という有理数係数の1次方程式で書ける。
√2はx2 – 2 = 0という有理数係数の2次方程式で書ける。
√3 + √5はx4 – 60x2 + 4 = 0という有理数係数の4次方程式で書ける。
これらの数は全て定木とコンパスだけで作図することが出来る。
また、角の3等分問題の所で出た垂直成分・水平成分のどちらか片方だけを調べれば作図可能かどうか判定できる点については、「cos2θ + sin2θ = 1」という2次式の公式によって、cosθ、sinθが式変形でもう一方の値に対する加減乗除と開平で表現できることが理由として挙げることが出来、一方が作図可能な数であればもう一方も作図が出来るという結果につながる。(逆に一方が作図可能な数でない場合、もう片方も作図可能な数にならない。)
各問題の作図不可能性について
ここまで述べた観点からそれぞれの問題を再度見ていく。
(厳密な証明ではなく作図できない事の直観的な説明に留めるため、興味のある人は文献などから証明を確認されたし。)
①:角の3等分問題
ここでは求めたい角度θに対してcosθを考えると、「3倍角の公式」と呼ばれる以下の式を考えることが出来る。
4cos3θ – 3cosθ = cos3θ
ここで、cosθを変数xに、cos3θを定数α(-1≦α≦1)に置き換えると
4x3 – 3x – α = 0
と言う3次方程式になる。
αの値次第ではxの解が作図可能な数になる事もある。
例えばαが1であった場合、
4x3 – 3x – 1 = (x – 1)(4x2 + 4x + 1) = (x – 1)(2x + 1) 2 = 0
となって、それぞれの解(x = 1, -1/2)は作図が出来る。
(ちなみにこの値の場合、「3θ = 0°に対するθ = 0°」や「3θ = 360°に対するθ = 120°」の作図などの状況に該当する。)
証明は割愛するがどんなαに対しても上記のようにできるわけではなく、元々の方程式は基本的に3次式の形になる。
3は2の冪乗にはなっていないため、作図可能な数の条件に当てはまっていない。
そのため、任意の角に対する角の3等分は定木とコンパスだけでは作図出来ないという結果になる。
②:立方体倍積問題
2倍の体積を持つ立方体を作図する上で必要になるのが3√2だが、値を求めるために解くべき方程式の形を考えると、
x3 – 2 = 0
となり、こちらも角の3等分問題同様に方程式が3次となってしまう。
よってこの問題も定木とコンパスだけでは作図が出来ない。
③:円積問題
この問題の場合、他2問とは作図が出来ない理由の毛色が異なる。
立方体倍積問題と同じ様に辺の長さの倍率として√πを考える為には
x2 – π = 0
を解く必要がある。
先ほどまでと異なり解く方程式は2次になっており、整理することで作図可能かどうかの判定に持ち込めそうであるが、残念ながらこの問題もまた、定木・コンパスでの作図が出来ないという結果に行きつく事が分かっている。
具体的にはπは「超越数」と呼ばれる特殊な数のカテゴリーに属しており、有理数係数の方程式の解にそもそもならないという性質を持っている。(反対に有理数係数の方程式の解になる数は「代数的数」と呼ばれる。)
「今回求めようとしているのはπではなく√πじゃないの?」と思った人もいるかもしれないが、もし仮に√πが超越数でなく代数的数と仮定した場合、代数的数の集合では「代数的数に含まれる数同士を掛け合わせても代数的数になる」と言う性質が存在し、√π同士をかけて出来るπも代数的数になってしまい矛盾するため、πが超越数と分かった時点で自動的に√πも超越数になると分かる。
つまり、角の3等分問題や立法体倍積問題と違って√πは有理数係数の方程式の形で表現すること自体が出来ないため、結果として作図可能な数のカテゴリに含まれず、定木とコンパスでの作図が出来ないことが示される。
ちなみに角の3等分問題・立方体倍積問題については作図が出来ないことが証明されたのは19世紀前半の話だったが、円積問題の作図が出来ない事の証明はそこから更に半世紀ほどたった19世紀後半の出来事になっている。
各問題が議論され始めたのは紀元前のギリシャからであり、最終的な証明が3問全て19世紀になっているため、解決には2000年以上の歳月がかかっていることになる。
数学の問題で解決までにかなりの時間を要した問題は数多くあるが、これだけの長い期間未解決だった問題は稀であり、簡単そうに見える問題内容からの難易度のギャップも含め、数学という学問の不思議さが窺い知れる。
別方法による作図
この様に、3問全て作図することが出来ないことが現在では分かっているが、「定木」「コンパス」を「有限回」用いると言う条件を緩和、もしくは別のルールに置き換えて考えることで作図が可能になるパターンがある。
方法としては以下が挙がる。
①:無限回の定木・コンパスの操作を許す。
あくまで思考実験の域を出ないが、求めたい値を極限値に持つようなコンパス・定木の操作で得られる値の数列を作り、その通りに操作を行う事で作図を行う事が出来る。
②:目盛りのある定規を使う。
角の3等分問題・立方体倍積問題に適用可能。
ここでは正真正銘の「定規」を使用して作図を行う。
これは「ネウシス作図」と呼ばれる方法で、ある点を通る直線上に特定の条件が成り立つように決まった長さの線分を作図する。
目盛りによって特定の長さの値を取りつつ、スライドや回転を利用して線分を作っていく事で、条件に合う図形などを作る事が出来る。
③:
折り紙を使う。
角の3等分問題・立方体倍積問題に適用可能。
別ツールとして
折り紙を折り、その際にできる折り目を使用して交点を作ったりすることで、3次方程式などの解を構成することができる。
折り方に関しては「折り紙公理」としてルールが定められており、定木とコンパスによる作図で出来ることは折り紙での作図でもできるとされており、実際に定木とコンパスの作図を使用するよりも強力な結果を得ることが出来る。
④:バラバラにして組み替える。
円積問題に適用可能。
最早「作図」と呼んでいいか怪しいのだが、これは「タルスキーの円積問題」として提示されている。(現在では解決されているが、解決には半世紀以上の年月を要している。)
ただしこのためには選択公理などの条件などが必要で、実行するのは非常に困難。
当初は1050個ほどの非可測なピースに分解することで実施が可能とされていたが、近年の研究では10200個ほどのピース分割によってより構成的な正方形の作図方法が見つかっている。
その他にも特殊な曲線やツールを使う事で作図を可能にすることが可能になっており、例えば角の3等分問題はトマホークと呼ばれる斧の様な形状をした半円と長方形を組み合わせたような作図機器で作図を行う事が出来る。
余談
- 角の3等分問題については、上記で説明をしたように特定の角度であれば定木とコンパスだけでも作図することが出来るのだが、この事実を引き合いに出して角の3等分問題が解けたと主張する人が今なおいる。これは「定木とコンパスだけで3等分出来る様な角が少なくとも1つ存在する」と誤った解釈をしている事が原因になっており、このような人達を「角の3等分家」と呼ぶことがある。
- 立方体倍積問題には「デロス島の問題」と言う別名が存在している。これはギリシャのデロス島で、当時疫病に悩むデロス市民に与えられた神託として「神殿内の立方体の祭壇の大きさを2倍にせよ。」と言うものがあり、当初は祭壇の1辺を2倍にしたが疫病は収まらず、「辺ではなく体積を2倍にしなければならない」と言う事に気付き、あれこれ試しても上手く行かず最終的にプラトンに助けを求めたという逸話に基づいている。
- 円積問題に関連する英語の慣用句に「square the circle(円を正方形化する)」と言うものが存在する。意味は「無駄な努力をする」「実行不可能な事を企てる」などが存在しており。その由来は円積問題に対する定木とコンパスだけでの作図方法が存在しない(=やっても実現できない)事から来ている。
- この他、正n角形の作図問題(与えられた線分を半径とする円に内接する正n角形を同じルールで作図出来るか?)についてもその必要十分条件が既に発見されており、正十七角形を作図可能であることが特に有名である。
追記・修正は全ての文字を定木とコンパスで作図することで文章を作りながらお願いいたします。
- 証明されてから100年以上経つが未だに数学者の下には「証明できたから見てほしい」という手紙が届くそうな。たいがい問題を読み違えていることがほとんどだとか。 -- 名無しさん (2024-08-17 15:41:48)
- 読みやすく、ためになる項目でした。あと、10の200乗(タルスキーの円積問題)とか桁多すぎワロスw -- 名無しさん (2024-08-17 16:03:42)
最終更新:2024年10月11日 14:42