登録日:2025/07/18 (Fri) 21:08:40
更新日:2025/07/21 Mon 21:15:50
所要時間:約 4 分で読めます
「恋愛曲線」とは、小酒井不木による小説作品であり、そこに登場する記念品の名称。1926年(大正15年)に「新青年」1月号にて発表された。
【概要】
全編が「語り手であり主人公である『僕』が友人(?)に宛てて書いている手紙」という設定で書かれた短編作品。
オチは読み進めていけば予想しやすいものではあるが、予想が的中した際はなんとも言えない重苦しい気持ちになるのではなかろうか。
以下「僕」のことは「主人公」と表記させていただく。
【あらすじ】
貧しい医学者である主人公は、結婚を控えた「A」君に、とある記念品を贈ろうと考えた。その記念品の名は「恋愛曲線」
主人公が研究の末に作り方を編み出した、世界で史上初の贈り物なのだが、いつでも作れる物ではないため、製作が今夜……つまり、Aが結婚する前夜になってしまった。
そこで主人公は、贈り物の製作と同時進行でAに宛てた手紙を書き始める。
手紙の内容は、この贈り物をしようと決めた経緯と「恋愛曲線」がどんな物であるかの説明。そして……?
【登場人物】
主人公
本作の語り手。上述のように医学者であり、心臓の働きについての研究に打ち込んでいる。
物語開始の半年前に失恋を経験して以来、Aを含む誰とも会わず連絡も取らずに研究室に引きこもり、研究が生きがいであり恋人になっていた。それでも最近ようやく失恋の悲しみ(と、Aが結婚する日がいつであるか)を忘れかけていたが、とある人から届いた手紙により、悲しい記憶と、結婚の日取りを思い出す。
A
主人公の友人(?)である実業家。
主人公いわく「女に対して不思議な力を持った男」であり、多数の女性に失恋を経験させながら自身はこれまで多くの恋をし、その全てを実らせてきたという失恋知らずの男。
大富豪の長男であり、金で買える物はだいたい何でも手に入れられるため「自分程度の財力で用意できる品では、彼を満足させることは到底不可能だ」と考えた主人公は、悩んだ末に恋愛曲線を贈ることを思いつく。
雪江
Aの婚約者であり、主人公とも親交がある女性。
容姿や人柄については作中に描写が無いので不明だが、実家がAの実家に比べれば貧しいにもかかわらずAから結婚を強く望まれ、主人公からも好い感情を持たれていることから、顔も心も醜くはないのだろう。
心臓の提供者
結核で他界した19歳の女性。
失恋したショックで体調を崩し、生きる気力も失った彼女は「私の心臓にはきっと大きなひびが入って居ます。どうか、死んだら、くれぐれも心臓を解剖して医学の参考にして下さい」と言い遺してこの世を去ったらしい。
死後、彼女の心臓は担当医(主人公の友人)によって主人公に差し出され、完全に動かなくなる瞬間まで実験に役立てられた。
この実験で、後述の「失恋曲線」が作られることになる。
【作中用語としての「恋愛曲線」】
心臓というものは肉体から切り取って体外に出したとしてもしばらくの間は生きており、適当な条件が揃えば再び動き出す。そして、鼓動を打つたびに電気信号を放たれ、その信号は喜びや悲しみなど、持ち主の感情によって変化する。
「恋愛曲線」とは、恋をしている人の心臓から放たれる信号を心電図のように曲線として表し、恋心を視覚で確認できるようにしたもの。
主人公がこの贈り物を思いついたきっかけは、電気信号の変化と感情の関係について動物実験を繰り返した後、初めて人間の心臓で実験をする際に、心臓の提供者が失恋を経験していたことであった。
実験を終えて「失恋曲線」を手に入れた主人公は、医学者としての好奇心から、失恋曲線とは対極の「恋愛曲線」を作ってみたいと考える。
【結末】
僕の血が尽きたときは彼女の心臓は停止するのだ。これが恋愛の極致でなくて何であろう。
世界で史上初にして、主人公の最期の贈り物は完成した。
唯一の愛する人を失った主人公の全ての血液と、唯一の愛する人をAの結婚によって失い、死を望んでいた女性の心臓を使って。
その女性こそ、Aが結婚する日を主人公に手紙で伝えた張本人であり、主人公が「恋愛曲線を作りたい」と打ち明けると、彼女は喜んで協力を申し出てくれた。そして……
恋愛曲線は、明朝同僚の手で現像されて、君の許に送られるから、永久に保存してくれたまえ。(以下略)
Aに伝えたい事を全て書き終えた主人公は、協力者であり最愛の人と共に永遠の眠りにつくのであった。
著作権切れの作品とはいえ、詳しくは記載しないので、ぜひ実際に読んで、ある種の美しさを感じていただきたい。
追記・修正は、愛し合う人と協力してお願いします。
最終更新:2025年07月21日 21:15