摩利支天

登録日:2025/11/13 Thu 22:18:06
更新日:2025/11/13 Thu 23:55:18NEW!
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■摩利支天

摩利支天(まりしてん)(梵:Mārīcī)』は、大乗仏教(顕教)の尊格の一つ。
摩利支天とは梵名マリーチの音写であり、マリーチとは陽炎を意味すると説明されることが多い。
よって、基本的には摩利支天とは陽炎を神格化した尊格である、として伝えられている。

かつての日本の武家社会では、楠木正成の伝説を始めとして、名だたる高名な武将達から末端の忍者までと、軍神や守り神として篤く信仰されていたことで有名である。

この他、高い功徳から禅宗や日蓮宗、更には山岳信仰(修験道)に於いても重要視された。


【由来】

日本では主に陽炎の神として伝えられるが、梵名のマリーチ(マリーチー)には激しい陽光怜悧な月光という意味も含まれるとされる。
また、現代までに武家社会での軍神としての信仰から男性形で顕されたりイメージされることが多いものの、梵名からも本来は光を司る女神であったと考えられている。

大乗仏教(顕教/密教)にて語られる仏尊・天部諸尊には古代インド地域にて信仰されていた神々(魔神/女神/悪鬼)をルーツとすると説明される尊格が多いが、実際にはバラモン〜ヒンドゥーにて言及される神々の目録からは外れた尊格も多く、摩利支天もその一つである。
……が、摩利支天に関しては確かに“マリーチ”なる女神の名は古代インドでは確認できないものの、恐らくはリグ・ヴェーダにも謳われる暁の女神ウシャスが原型なのではないか?とする考察がある。
ウシャスは、古代インド地域では主神格の一つでもあった太陽神スーリヤの母、或いは妹とされるが、本来はスーリヤの后の座(主神の王配)にあった女神であるとも考察されている。

大乗仏教では、そうした文字にも残っていないバラモン以前の信仰を取り込んでいたとも考察されており、実際にスーリヤ=摩利支天は梵天(ブラフマー)の子にして日天(スーリヤ)の后*1ともされ、更に天部諸尊でありながら摩里支菩薩、或いは威光菩薩の異名を持つなど、相当に力のあった女神であったことを窺わせる扱いがされている。
……もしかしたら、マリーチとはアーリア人流入以前の失伝されたウシャスの異名であったのかもしれない。

【軍神としての信仰】

摩利支天が司るのは護身と蓄財であるとされる。
特に、護身については光を操り実体のない陽炎の神……という発想をされたのか、戦場に於いて完全に姿を隠したままで移動が出来る方法(ステルス迷彩)を叶える摩利支天隠行法なる行法……というよりは魔術の主尊という捉え方をされると共に伝説が語り継がれるようになったようである。
殊に、摩利支天信仰を広める切欠となった楠木正成は現代で言うゲリラ戦法を得意としていた武将という事実もあってか、その戦果が摩利支天の隠行法の功徳(魔力)によるものという評伝に説得力を与えてしまったらしい。

……何れにせよ隠行法の効果の真贋はともかくとして、楠木正成の他にも毛利元就や立花道雪といった高い戦果を挙げた武将達に摩利支天が信仰されていたことは紛れもない事実であり、それを受けて隠行法抜きでも軍神としての信仰が高まっていったようである。
そして、刀で宙を切り鞘に収めるまでの動作から発想された「摩利支天の法」は、元々は武士が行っていたのが、その武士の下で働く忍者にも引き継がれ、やがては忍者の印の作法になっていったと考えられている。

【像容】

元来は一面二臂の普通の優美な女神の姿であったようなのだが、軍神としての信仰が高まったことで三面六臂、或いは三面八臂で月と数頭の猪に乗るという密教的な男神(女神)として作成されることも増えていった。
持物としては完全に定まっている訳ではないものの、天扇と、他には針と糸が固有のものとして挙げられる。
天扇は摩利支天の「姿を見えなくする」効果を示すという。
針と糸は悪人の目と口を縫い付けて塞いでしまうという、過激な仕置の為に使われるのだとか。

【種字】



【真言・陀羅尼】


  • オン・マリシエイ・ソワカ/オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ(小咒)

  • ナモアラタンナ・タラヤヤ・タニヤタ・アキャマシ・マキャマシ・アトマシ・シハラマシ・マカシハラマシ・アタンダナマシ・マリシヤマシ・ナモソトテイ・アラキシャアラキシャタマン・サラバサトバナンシャ・サルバタラ・サルババユ・ハダラベイ・ビヤクソワカ(大咒)



追記修正はステルス迷彩を身に着けてからお願い致します。

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最終更新:2025年11月13日 23:55

*1 つまりは神々の王の娘にして主神の后ということ。