スーリヤ(インド神話)

登録日:2025/11/15 Sat 00:59:56
更新日:2025/11/15 Sat 02:18:00NEW!
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■スーリヤ

『スーリヤ/スーリア(Sūrya)』とは、インド神話に登場してくる太陽神。
単に“スーリヤ(ア)”でも、サンスクリット語で此の神格ではなく“太陽”を意味する一般名詞となる。


【概要】

黄金の髪と三つの目、四本の腕を持つ美しい男神として顕される。
全身から高熱を放ち、手には蓮華を持つ。
七頭立ての馬に引かれた戦車に乗る。
身から放つ高熱ゆえに生まれ落ちた時に母親から投げ捨てられたとも言われる。

実際、現在では単独の太陽神として扱われているものの、神話の多くを別の太陽神であるヴィヴァスヴァットと共通していたり、元は太陽の一作用の神格化であるヴィシュヌにスーリヤの神話が含まれるなどしており、他にも同じく太陽神としての属性を持つヴァルナミトラとも関係が深いことから、下手をすると古代インド地域にて各地(或いは部族毎)に存在していた太陽神の主体となる一柱か、その太陽神達の総称がスーリヤだったという可能性もある。

バラモン以降の単独の太陽神としても、雷帝インドラや風神ヴァーユと共にバラモン時代の『リグ・ヴェーダ』の頃から主神格の一柱としての威勢を誇っており、その二神と並ぶほどの軍神としての信仰も集めていた。

【由来】

古代インド地域に由来する太陽神であり、アーリア人流入後に再編された当該地の神話体系でも、太陽神として古来より高い神格と人気を誇っている。
系譜については幾つかの説があり、天空神ディヤウスの子とも、
大女神アディティの子らであるアーディティヤ神群の一柱ともされる。
尚、アーディティヤ神群には元々は加えられていなかったものの、寧ろアーディティヤ(アディティの子)=スーリヤとする記述があり、これは後述の仏教にも引き継がれている。

……が、この系譜の内で同じく古代インド地域に起源を持つ神々により形成されたアーディティヤ神群の一柱としての括りはともかく、元々は流入したアーリア人の主神である天空神ディヤウス(デウス)の子というのは再編後の神話体系での区分と考察できることから、スーリヤの立ち位置と神格については『リグ・ヴェーダ』が記録される以前の段階で①古代インド地域の土着の神々の主神格となる太陽神→②主神格なのは変わらないがアーリア人の信仰を加えたディヤウスの子→③結局は土着の神々の人気が無くなることもなかったのでアーディティヤ神群の一柱に復帰……という流れがあったと予想されている。
アーディティヤ神群はヴァルナとミトラを筆頭とした非アーリア人系の神々(アスラ)により構成された神群であり、スーリヤは神群に含まれた場合には全能のヴァルナと全知のミトラに次ぐ三番手となり、彼等の目として地上の全てを監視する役目を担ったという。

事実、スーリヤ信仰はバラモン時代はおろかインダス文明の創成以前にすら遡る程に古くから存在していたと予想され、信仰が失われることがなかったことからデーヴァ神属に含まれるが、本来的にはアスラ神属の主神格の地位にあった存在であり、仏教の開祖であるブッダ(ゴータマ・シッダールタ)の出身部族であるシャカ族は日月信仰を持つ農耕民族であったことからスーリヤ・ヴァンシャ(太陽の親族)と呼ばれていたと解説する初期仏典が存在していたりする。
そして、スーリヤには雷帝インドラとの戦車勝負に負けたとする神話があるのだが、この時の敗北までの流れ(インドラが工作によりスーリヤの戦車の車輪を外すか動かないように埋め込んだ。)が、同じく車輪が外れたことにより敗北したアスラ王ヴィローシャナの神話と似通っており、このヴィローシャナは仏典では遍照と訳されることから本来は太陽神の名=スーリヤ(やヴィシュヌ)の異名であるとする解釈も存在している。

尚、バラモンよりも更に古い神話では原初の巨人プルシャの目から生まれたというものがあり、古代オリエントに共通する類型神話の系譜からも、此れが本来のスーリヤ(太陽)の誕生譚であった可能性が高い。
ちなみに、その場合には(類型神話的にも)同時に月も生まれている筈なのだが、インド神話では不自然に失伝したかのように月神チャンドラの神話が残っておらず、やはり本来のスーリヤやチャンドラの誕生譚が上書きされてしまったと考える方が自然である。

何れにしても、バラモン時代の神々はヒンドゥー時代には役割を代替されたり失って名前が聞かれなくなることが多いのだが、スーリヤの場合はヴィシュヌに太陽神としての属性の多くを移されても尚も人気を失うことがなかった。

【関連が深いと思われる神々】

一方で、此れ程に力のある神格であるにも関わらず、神話ではイマイチ家族関係がハッキリしておらずに据わりの悪いものとなっている。

先ず、現在の神話では配偶者(妻)は鍛冶神ヴィシュヴァカルマンの娘であるサンジュニャーとされているものの、彼女は一般的には別の太陽神であるヴィヴァスヴァットの妻である。(ヴィヴァスヴァットとサンジュニャーの子がヤマとヤミーであるので、神話的にも重要なカップルである。)

しかも、正妻扱いされながらもサンジュニャーとの間にはスーリヤの系譜が紡がれておらず、主神格の王配としては何とも寂しい以前に不自然なものとなっている。

子らには、大叙事詩『マハーバーラタ』に登場してくる英雄カルナと、同じく大叙事詩『ラーマヤーナ』に登場してくる猿王スグリーヴァが居る。

しかし、彼等もスーリヤの正式な系譜の子という訳でもなく、前者のカルナは物語上では敵側の英雄であり、その誕生も母であるクンティーが若い頃に好奇心からマントラ(真言/呪文)を用いて呼び出して交わり生むことになってしまった存在を秘匿された上に捨てられた不幸な生い立ちを持つ子であり、
後者のスグリーヴァは雷帝インドラ、風神ヴァーユと共に将来に起きるラーマ王子と羅刹王ラーヴァナの争いを見据えて、各々が(ヴァナラ)族の有力な♂に憑依して有力な♀に生ませた子の一人(一匹)である。(ちなみに、インドラの精を受けて生まれたのがヴァーリンでヴァーユの精を受けて生まれたのが何のハヌマーンである。)

……以上のように、有力なというか主神格級の神にしては正式な妻や子と呼べる存在を持っていないという不自然なことになっているのだが、実はバラモン以前には信仰上の系譜でも納得のいく正式な妻や子、更には兄弟の系譜があったのでは?とも考察されている。

■ウシャスとの関係

同じく『リグ・ヴェーダ』にて讃歌を捧げられている“暁の女神”ウシャスは、暁を司る……ということこらスーリヤの母か姉ともされる女神であるが、肉親でありながらスーリヤから常に追いかけられているとも語られている。(暁の幻を太陽が追いかけ、追いつき抱きしめることで宵闇(ラートリー)が訪れることを繰り返す→一昼夜を表したもの。)
『リグ・ヴェーダ』に於けるウシャスはスーリヤと同じくディヤウスの子であるが、スーリヤと同じく更に古くから信仰があった女神であるとも考察されており、そこから本来はウシャスこそがスーリヤの王配であったとする考察がある。
事実、スーリヤとは恋人であるとする説も残ったままとなっており、大乗仏教にてこのウシャスが取り入れられた尊格と考えられている摩利支天は、スーリヤが名を変えた日天の后にして妹とされている。

……ちなみに、本来はウシャスも含めてバラモン以降は医術の神としても伝えられるアシュヴィン双神など、本来は文字にも残っていない時代から古代インド地域に根付いていた星や光を司る主神格の王配が存在していたのが、後のアーリア人流入後のバラモン以降は一部を残したままで封印されたり上書きされる中で『リグ・ヴェーダ』以降の据わりの悪い形となってしまったのではないかとも考えられている。
この、敢えて失伝させられてしまったとも考えられる神々は以下の通り。スーリヤ(太陽)/チャンドラ(月)/ウシャス(暁)/ラートリー(宵闇)/アシュヴィン双神(明星/金星)/アグニ(炎)……etc.

【日天・日光菩薩】

スーリヤは(アスラ信仰があった)シャカ族出身の釈迦牟尼により開かれた仏教(大乗仏教)にも取り入れられた訳だが、スーリヤとしての恐らくはバラモン以前からの元来に近い姿日天(子)(梵:Sūrya/ Āditya)として、明言はされていないものの、更に仏教化して菩薩とされた姿が日光菩薩(梵:Sūrya-prabhā)となっている。
仏教での日天と日光菩薩は常に月天(子)(梵:Candra)と月光菩薩(梵:Candra-prabha)と共に配される……とされていることからも、矢張り古代インドの時点でもスーリヤとチャンドラは共に祀られていたと考える方が自然なようである。

日天としては月天と共に十二天の一つとして各々に日と月を守護する。
日光菩薩としては月光菩薩と共に薬師如来の脇侍として付けられ、薬師三尊像を形成する。

また、日天は観世音菩薩の化身でもあるとされる。

【余談】

インド・オリッサ州コナーラクには13世紀に建造された荘厳なスーリヤ寺院が存在しており、1984年から世界遺産として登録されている。
このスーリヤ寺院に記されたインド暦が2020年3月までで終わっていたことから、予てより噂になっていたマヤ暦の終わりと合わせて世界滅亡のカウントダウンとして一時期だけだが騒がれていた。



追記修正は暁を捕まえてからお願い致します。

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最終更新:2025年11月15日 02:18