登録日:2026/03/20 Fri 11:26:18
更新日:2026/03/26 Thu 10:34:20
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笠碁とは、古典落語の演目である。
元々は上方落語の演目だったが、三代目柳家小さんが東京に持ち帰ったことで、現在は江戸落語の演目の中でも名高いものとなっている。
あらすじ
隠居暮らしをしている大店の旦那がいた。この旦那は囲碁が趣味で、同じく大店の旦那をしている友人と碁を打つことが何よりの楽しみだった。
しかしこの旦那はいわゆる「下手の横好き」で、しかも対局中に「待った」を連呼する癖があるので、なかなか勝てないのである。
そういうわけで、旦那は友人に
「それじゃあ、今日は『待った』なしで打ち合いましょうか」
と持ち掛ける。友人も
「そりゃあいいですな。それじゃあ、始めますか」
と、すっかり乗り気である。
しばらくは無言で打ち続けていた二人。すると、次第に旦那の戦局が思わしくないものとなっていく。ここで、旦那の悪い癖が出た。
「悪いけど、その手はちょっと待ってくれない?」
「今日は『待った』なしでやろうといったじゃありませんか。この対局ではだめですよ。次の対局の時に、また考えますから。」
「いえね、『待った』っていうわけじゃないんだけど、ちょっと都合が悪くてね‥‥‥」
「あなたもこっちが『待ったなしでやろう』って言ったら、乗り気だったじゃないですか。とにかく、『待った』は通じませんよ。だめです。」
と、こんな風に言い合ううちに、互いにイライラしていき、雰囲気が悪くなってくる。
ここで旦那は、
「あんたがそんな強情張りだとは思いませんでしたよ。確か3年前に、あなたが『どうしてもお金が足りないから貸してくれ』と私に泣きついて来たとき、あのとき私は『待った』とは言わず、快くあなたに貸しましたよね?返済の日が延びたとしても、私ぁあんたに一言も文句を言わなかったでしょう?」
と、苛立ちのあまり、とうとう碁とは関係ないことを言ってしまう。
この旦那の一言にカチンときた友人。
「それとこれとは話が別でしょう。それだって、ちゃんと返済日に返したじゃないですか。それならこっちも言わせてもらいますがね、日ごろお世話になっているお礼にと、大掃除の手伝いに出したうちの若い衆をこき使って、大掃除が終わっても年越しそば一杯すら食べさせちゃくれなかった、あんたのようなケチには言われたかないですよ」
「何をおっしゃる。むしろね、ああいう風な、ものの勝手がわからないような連中をよこされて、こっちはむしろ迷惑でしたよ。」
「何ですと?こっちがいつも世話になっているからと、わざわざあんたのようなヘボの相手をしに碁を打ちに来ているのに、その言い草は何ですか!」
「ヘボだと!?ああそうかい!俺がヘボなら、てめえはザルだ!この、大ザル!」
「ザルだと!?よくも言ったな!もういい!俺は帰る!こんなところ、二度と来るもんか馬鹿野郎!」
「おう、帰れ帰れ!金輪際てめえにはこの家の敷居は跨がせねえ!」
こうして、二人はほんの些細なことから口論に発展し、お互い険悪な雰囲気のまま別れてしまった。
数日後。旦那は暇を持て余していた。
お店の管理を番頭に任せ、何の張り合いもない生活を送っている旦那は、せいぜい人と会うくらいしか仕事がないのだが、三日間降り続いている雨のせいで誰も人は来ないから、退屈でしょうがない。
おまけに、旦那は先だっての友人との口論の一件を未だに引きずって暗い気分でいた。
そんな矢先、菅笠をかぶった一人の男が、家の前をうろうろしていることに気が付く。この菅笠の男こそ旦那の友人だったが、なかなかこっちに向かって来ずに何度も立ち止まり、過ぎ去っていく。
友人が自宅の前にいることに気が付いて嬉しくなった旦那は、使用人にお茶とお茶菓子を用意させ、碁盤を構えて様子を窺う。しかし、自宅の前をうろうろするばかりでなかなかやってこない友人にしびれを切らし、とうとう自分から外に出て迎えに行く。
「おい、あんまりうちの前をうろうろしねえでくれねえか?目障りだからよ。」
「何だ、ヘボか。勘違いするな。俺ぁてめえの家に煙草入れを忘れちまったからよ、それを取りに来たんだ。」
「この野郎、またヘボと言ったな?よぉし、俺がヘボかどうか、一番打って見せようじゃあねえか!」
「おう、望むところだ!かかってこい!」
こうして、二人は喧嘩別れしたことなど忘れたかのように、いつものように仲良く囲碁を打ち始めた。しかしふと、盤の上に雫が降ってくることに気づく。
「畜生、雨が漏ってるじゃねえか」
何度拭っても雫が降ってくるので、旦那は気になってふと顔を上げる。
「なんですあんた、まだ笠を被ったままじゃないですか」
オチの意味
「不思議と碁盤が濡れているので、雨漏りかと思えば相手の笠から滴り落ちた雫だった」というオチだが、普通は座敷に雨具を纏ったまま上がったりはしないので、やや不自然に感じられるだろう。
しかし、旦那の「雨が漏ってるじゃねえか」というセリフや、「まだ笠を被ったままじゃないですか」というセリフに着目すると、その雫が「涙」の暗喩であることを意味していることに気づかされる。
旦那は仲直りできた嬉しさで流した涙で目が潤んでいるのを雨漏りのせいにしており、照れ隠しをしている。友人の方も、旦那と激しく口論したことできまりが悪く、菅笠を被りっぱなしで素顔を見せられなかったのである。なかなか菅笠を取ろうとしない友人がどんな表情をしているかは、大方このページの読者の皆さんにもご想像できるだろう。
追記・修正は仲直りしてからお願いします。
- いい話だなぁ~・・・ -- 名無しさん (2026-03-20 21:28:37)
最終更新:2026年03月26日 10:34