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SCP-CN-4000

登録日:2026/09/13 Sun 12:15:00
更新日:2026/09/17 Thu 02:08:16
所要時間:約 50 分で読めます





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SCP-CN-4000は宇宙の果てであり、あなたの旅の終着点です。

この場所に馴染みはありますか? ここへ辿り着くまでに、どれほどの時を費やしたか、あなたは覚えていますか?

いったいどこから発ったのか、まだ覚えていますか? あなたの家は、どこにありますか?

どれほどの道のりを、あなたは歩いてきたのですか?



SCP-CN-4000とは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクト(SCiP)の一つ。
項目名は「宇宙尽头的小屋 (宇宙の果ての小屋)」。
中国支部で開催されたSCP-CN-4000コンテストにおいて見事優勝を果たし、キリ番ナンバーを勝ち取った大作である。

SCP-CNのキリ番ではありがちだが、日本語訳で約8万3000字と、ちょっとした文庫本並みのボリュームがあるので、元記事を読むときは時間配分に注意されたし。
本アニヲタ記事ではおよそ2万字程度にまとめて解説させていただく。


予備知識

本記事は、SCP-ENの有名記事・SCP-5000(Why? / どうして?)に一回だけ触れられた財団の極秘プロジェクト「PNEUMA」について掘り下げている。
参考までに、SCP-5000での描写を引用しておく。

2019/12/16 - 出来事:O5が“PNEUMA”というプロジェクトを上級スタッフの特殊機密に指定する。どうやら、これはKALEIDOSCOPEと同じような大規模記憶処理プロジェクトで、専ら人間の集合的無意識、心理空間、何と呼ぼうと勝手だがそういう方面を重視していたようだ。その心理空間をマッピングするにあたり、何らかの重大な発見があったらしい - 編集済にされているせいで、それが何なのかは分からない。典型的だ。

※KALEIDOSCOPEもここだけの言及である。

なお、SCP-CN-4000コンテストのテーマは「難題」であり、SCP-5000コンテストのテーマ「Mystery / 謎」に類似している。
コンテストページでは難題の例として「20回も改稿してまだボスを満足させられないパワポ資料」「失敗した収容プロトコル」「Kクラスシナリオ」
といったものが挙げられており、理解できない・不思議な事柄というよりも、解決が容易でない、処理が困難な事柄へフォーカスしている。

冒頭


まずページを開くと、真っ黒な背景に「思考転写進行中……」というメッセージと、テンプレートだけの白紙の報告書が目に入る。
文末には「目を覚ます?」と呼びかける折り畳み構文。これ以上の情報はないので、折り畳みを開いて先に進もう。

第一層


BLUE:

BLUE: 起きてよ

BLUE:

BLUE: 起きてってば

BLUE:

BLUE: そろそろ帰ろう

思考接続、同期完了。

誰かの呼びかけの後、報告書の説明部分が出てくるが、滲んでしまってよく見えない。
PCブラウザではドラッグすることでなんとか読み取れるものの、一部文字化けしてしまっている上、次の情報くらいしか書かれていない。

  • SCP-CN-XXXX(恐らく4000)は、ヒト精神空間における1地点である。
  • オブジェクトは探索原点から4999812035068.19単位距離に位置している。
  • オブジェクトは精神空間内に安定して出現する特性を持つ。

「ヒト精神空間」というのは、SCP-5000で言及された「人間の集合的無意識、心理空間」を指しているとみられる。
距離の桁数を見るに、精神空間のず~~~っと奥にSCP-CN-4000がいる、ということだろう。
「安定して出現」とはつまり、人間の心の中には普遍的にオブジェクトが存在するという解釈で良さそうだ。

BLUE:

BLUE: 起きてよ。体調でも悪いの?

BLUE:もう帰らなきゃ。みんな行っちゃったし、じきに夜になる

BLUE: 外はもう真っ暗だよ。だから急がないと

BLUE: 僕たち、/明/日/も/また[文字化け]

思考接続不安定。再接続中……

君はまだ、覚えているだろうか? あの、薄藍色の夕暮れを。皆で一緒に帰った、あの時のことを。

暖房であたたまったソファに帰る。ザアザアと流れるのは、トランジスタテレビのノイズだ。 水の滴る蒸し器の中で、マントウとトウモロコシが湯気を立てている。茶卓の丸い金魚鉢の底に、色とりどりの小石が敷き詰められている。

思考状態を示すシステムメッセージと、唐突に挟まれる断片的なセリフや情景描写。
読み手である「君」は恐らく、何らかの技術を用いてヒト精神空間へ意識を潜入させていると思われる。
中国支部の記事なので、描写にはマントウ(北方の中国人が朝ごはんによく食べる蒸しパン)といったお国柄な要素が散見される。
ちなみに、中国北方のトウモロコシは餅米の如く粘りの強い品種が主流である。

その後の描写を列挙すると、

  • 学校で何らかの除染活動に従事する、軍隊らしき人物たちの会話。
  • フォーマットこそ報告書の説明部分だが、「ここに来るまでどれだけ経ったか覚えているか?」と呼びかけてくる怪文書。
  • 一面青に染まった、窓辺らしき写真。

とまあ、てんでバラバラな内容である。

次に、再び「思考接続、同期完了。」のメッセージが表示され、ようやくまとまりのある文章が展開される。
内容は、誰もいない教室で目覚めた君が、頭痛と眠気に襲われながら、一人校舎を出て帰路につくというもの。
途中、回想でBLUEが現れ、君の顔色の悪さを指摘するとともに、じきに寒くなるから急いで帰るよう促してくる。
通りかかった電柱には「ヒト精神空間探索計画」という文字が滲んでおり、純粋な記憶の再現ではないことが伺われる。

君は数学の宿題について、親しげにBLUEと語りながら、自宅のあるアパートに辿り着く。一家揃った夕食の場でも、君はその難問について考えていた。

「Aさんが原点からある座標へ移動した。しばらくして、彼は宇宙の果てへと墜落し、二度と戻れなくなった。この時の道のりを求めなさい」

食事を終え、自室に戻った君は、答案用紙を広げてこの問いに取り組み始める。用紙には、次のような問題文が記されていた。

1. 莫 望宇(モー・ワンユー)博士の現在位置は精神空間中部、意識と個人的無意識の境界層付近です。管制室は現在、対象との接続を試行中。前回の通信から約16分経過。あなたの回答は:( )

どう見ても数学ではなく、財団からのシステムメッセージだが、ここで「君」の名前と現在の状況が明らかになる。
精神空間にダイブしているのは「莫望宇博士」という財団職員のようだ。
続いて、管制室との交信ログが示されるが、管制室は16分間、博士の信号を受信できていなかったと報告する。
この16分間の間に、冒頭から今までの不可解な描写が展開されていたのだろう。

君: 質問を繰り返します。現在、探索原点からの距離は? 正確な数値は?

管制室: もしもし? 聞こえますか?

君: 何が起きている?

管制室: 違う、あなたは

接続は依然として不安定であり、管制室との会話はどこか噛み合わない。

いいや、違う。

ここは家じゃない。君はまだ、家に戻っちゃいない。

帰らなければ。早く帰らなければ。

管制室とのやりとりを受け、どういうわけか「ここは家ではない」と判断した望宇は、「硬心ミーム(Heart-hardening Memeplex)」なるものを起動する。
すると、部屋の外から陶器やガラスの砕ける音、激しくドアを叩く音、絶叫が聞こえ、君は息を殺してベッド下に隠れる。
静かになった後、家の中を探索すると、顔が溶けて皿に沈み込んでいる父親を目撃する。「ハマグリのスープ」と形容されているが、実際はかなり猟奇的な光景だろう。
その直後、のっぺらぼうの母親が包丁で切りかかってくるが、望宇は財団での訓練で染み付いた経験を思い出し、反射的にかわして家を飛び出す。
4階から1階へ勢いよく駆け下り、自転車に乗って一路、街へ漕ぎ出したところ……

最後の一瞬、小柄な、白い霧のような人影を目にする。

視界の中心に重なるやいなや、それは跡形もなく消え失せてしまった。

そうして、君は深淵へと堕ちていく。

第二層


管制室: 先ほどは何事で? 何かが追いかけてきたのですか?

君: ……何でもない。

君: 誰もが持っている、感情のカスに過ぎないさ。

管制室: そんなはずは……博士の硬心ミームは、いつ起動しました? プログラムのエラーでしょうか。

2つ目の折り畳みを開くと、管制室との通信が再開していた。心配する管制室をよそに、望宇は先ほど見た光景を「感情のカス」と表現し、意に介さない。
望宇は精神空間へ潜るにあたり、「硬心ミーム」というミーム技術を導入していた。
しかし、硬心ミームを起動するタイミングが一瞬遅れ、何かからの襲撃を許してしまったようだ。

管制室: 何か、隠してはいませんか? 莫望宇博士。

管制室: ご自宅に接続復旧地点を設定されていますが、これは研究計画書において、あなた自身が指定したものです。ここで問題が起きる可能性を、事前に察知していなかったのですか?

安全なはずの自宅でトラブルに遭ったことを危惧した管制室は、探索続行を主張する望宇を押し切り、精神空間からの浮上プロセスを実行する。

アイテム番号: SCP-CN-4000

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-CN-4000の本質の解明は現在、PNEUMA計画における3つの主要任務の1つに数えられており、財団中国支部がその任を負っています。

説明: SCP-CN-4000は、ヒト精神空間における1地点であり、探索原点から4999812035068.19単位距離に位置しています。(中略)

個人の無意識領域における一定の範囲("事象の地平線"(イベント・ホライゾン)と呼称)を越えた探索者は、例外なく不可逆的にオブジェクトへと滑落します。このプロセス以降、外界から対象の思考活動を観測することは不可能となります。したがって、本オブジェクトの存在により、ヒト精神空間深部(特に集合的無意識領域)を探索するあらゆる試みは実行不能となっています。

SCP-CN-4000に進入した既知の 14 15 16名の探索者は現在、いずれも昏睡状態にあります。

ここでようやく、滲んで読めなかった報告書の全体が表示される。
SCP-CN-4000の解明はPNEUMA計画の主要任務の一つであること、精神空間のある一線を越えた探索者は、オブジェクトへ滑落し、昏睡状態に陥ることが判明する。
しかし、オブジェクトが具体的に何であるかは分からず、解析待ちの状況にある。

その後、強制浮上させられた望宇は、寒々しい実験室で目を覚ます。
傍らにいた「先輩」に対し、望宇は探索の続行を求めるが、先輩は体調を気遣い、ただ休息を促すだけだった。
不満を抱きつつ部屋を出ようとした瞬間、頭をハンマーで殴られたような鈍痛が走る。振り返ると、先輩は実験室からいなくなっていた。

もう、手遅れだった。

君は後悔しているか?

自らが成してきたことのすべてを、これほど遠くに来てしまったことを、悔やんでいるか?

そのまま足を踏み外し、望宇は暗闇の階段を転がり落ちていく。
実のところ、実験室の光景は精神空間が構築したもので、現実に戻れてはいなかった。覚醒の途中でスタックし、再び深層へ沈み始めていたのだ。

ここで、莫望宇博士の心理面談の記録が挿入される。
彼は中学一年の秋、遠足のバス事故で唯一生き残り、事故のショックで中学入学からの記憶を失っていた。
さらに、両親が働く工場で何らかの漏洩事故疑惑が持ち上がる。
化学物質の影響か、父は鬱のあまり命を絶ち、母も正気を失い、精神病院に入るという壮絶な過去を持っていた。
大学生になった望宇は、「何かが欠けている」感覚や、特定の物や場所に抱く既視感の謎を解明するため、財団の心理認知科に入ったという。

制服から伸びた無数の首が、不格好に歪み、揺れ動く。それらは群れをなし、舞台の両袖から一段ずつ、緩慢な足取りで上がってくる。

次に、場面がどこかの学校の大講堂へと移る。そこでは、不気味に揺れ動く生徒たちによる学芸発表会が行われていた。

管制室: このような場面には、一度も遭遇したことがありません。心理診断レポートにおいて、何か秘匿している事項があるのでは?

君: 思い出せない何かが、この近くに潜んでいる。それらが、ここからの離脱を阻んでいるんだ。

君: 潜行を続けるには、奴らを排除する必要がある。わかるか? 私の精神空間から削除しなければならない。これらのモノを、忘れてやるんだよ。

望宇はバス事故のせいで記憶が抜け落ちており、そこに潜む「何か」が、精神空間からの離脱を阻んでいると推察する。
そして、それらを削除=忘却することで潜行を続けると宣言し、状況を怪しむ管制室を説得する。

一方舞台上では、プッチーニのオペラ『トゥーランドット』が進行していた。風船の頭を持つヒロインの少女は、主人公である仮面の王子に原作通り、難しい謎を出す。
時には鳥の力を借り、時には何故か財団のデータベースを参照し、王子は順調に答えていく。しかし、3問目に入ったところで、少女の台詞に異変が現れる。

VIOLET: 次の問い……否、"激情に燃え上がる氷とは何か"などとは問いますまい。貴方はとうに、その答えを知っているはずだ!

VIOLET: 私の名がトゥーランドットじゃないことくらい、知ってるでしょう。

VIOLET: 私は、だあれ?

王子が仮面を外すと、望宇と瓜二つの顔が露わになる。君は、彼女の問いに答えられない。そもそも彼女を知らないからだ。
すると、精神空間が震え出し、正体不明の白い影が、パニックに陥る観客を次々と襲い始める。触れられた人間は皆、「生気のない人型の物体と、生臭い赤黒の液体」へと変わっていった。

背後の大講堂の門から、爆裂音が聞こえる。[文字化け]の一隊が雪崩れ込み、SF映画じみた武器を手に、影たちに向かって猛烈に撃ち始める。

混乱の最中、望宇は白い影も銃弾の雨も気にせず、舞台上の少女へと近づく。
望宇は王子役として稽古を重ねていたこと、劇に参加したクラスメイトのことを思い出すが、その記憶が本当なのか、逆に疑問を抱き始める。
次の瞬間、部隊の放つ弾丸が望宇の頭を打ち抜き、轟く風が講堂を吹き飛ばしていった。

存在するはずのないものは、取り除かねばならない。

君は、彼らを知らない。

君は、彼らを知っていたことなどない。

君は、彼らを知るべきではないのだ。



君は、後悔するだろうか?

第三層

PNEUMA計画が正式に立ち上がった件については、君も多少は耳にしているだろう。 孟(モン)先生は中国支部における本計画の総責任者であり、その重責は間違いなく、君と私の双肩にかかることになる。

3つ目の折り畳みを開くと、易 正陽(イー・ジェンヤン)研究員から望宇へ宛てた、2014年の手紙が表示される。

手紙によれば、PNEUMA計画とは人間の集合的無意識を改造することで、記憶処理の効率を劇的に向上させる一大プロジェクトであるらしい。
一般的な記憶処理はもちろん、「青い、青い空」のアンニュイ・プロトコルや、「機械仕掛けの神」を起動した後の記憶の調整にも応用が効くという。


画像出典:http://scp-wiki-cn.wikidot.com/scp-cn-4000 ,by Re_spectators, Odeo, wlft,2026/09/13閲覧
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ダッシュボードに置かれた安っぽいオルゴールの音色が、君を呼び覚ます。プラ製の背もたれが硬く当たり、身体中がじんじんと痛む。記憶が確かなら、いま君は遠足で移動している最中だ。先ほどまでのすべては、夢だったのだろうか?

君は遠足のバスの中で目を覚ますが、窓の外の光景はひどく奇怪で、単純な造りのカラフルな小屋が立ち並んでいた。他のクラスメイトは皆、パンパンに膨らんだ恐ろしい姿で座席に縛り付けられている。
やがて、地平線から巨大な赤風船が昇り、バスはぐにゃりと風船に突っ込み、盛大に破裂する。クラスメイトは笑いながら空へ飛んでいき、君自身も粉々に砕け散ってしまった。
これは本当に、遠足の記憶なのだろうか?それとも狂った夢なのだろうか?

????: どう? このお話、まだ好きかな?

場面はどこかの部屋に移る。向かいには少女がいて、望宇に黄色いプラスチックのミニカーを渡してくる。ドア向こうから漂うスペアリブの香りには、鼻をつく消毒液の匂いも混ざっていた。
さらに遠く、玄関のドアの方から、望宇の母が「晩御飯だから家に帰りなさい」と急かす声がする。どうやら、アパート階下にある少女の家に上がり込み、彼女と何らかの話をしていたようだ。

君はまだ、帰りたくない。宿題が片付いていないし、もう少しだけ、ここにいたいのだ。君は少女の顔を見る、彼女は

彼女は、誰だ?

望宇は少女に見覚えがない。彼女の顔は、滑らかな青色の風船になっていた。

管制室は、望宇の座標が原点より急速に遠ざかっていると警告する。
頭が割れるような激痛の中、精神空間の深層へと沈んでいく望宇は、管制室へ「プロトコル・ライフボート」の早期起動を指示する。浮上プロセスの緊急版のようなものだろう。
しかし管制室からは、沈下があまりにも速すぎて、比較的浅い意識層までの引き上げで精一杯との回答が返ってくる。

黒衣を纏った機動部隊員たちが講堂を行き来する。彼らは白い影の欠片を引きずって、それらを通用口から運び出していく。まるで水揚げを終えた漁師のように。しかし、舞台の真ん中で演技を続けている主演女優のことは、まるっきり無視している。

肩を叩かれ、意識が引き戻された先は、2015年11月17日の、ある学校の講堂だった。そこは凄惨な殺戮の現場と化しており、死体があちこちに転がり、生き残った子供たちは恐怖に縮こまっている。
一方、舞台には演技を続ける、主演女優の姿が見えた。機動部隊はそんな彼女を無視して、何かの残骸を片付けている。傍らの易先輩は何も言わず、白いスプレー缶を望宇に投げ、視線をどこかへと逸らした。

君はかじかんだ左手で拳銃を握りしめ、右手にあるそのスプレーを見下ろす。

記憶処理用エアロゾル剤。作戦の時間だ。

続くインタビュー記録から、この惨劇は現実改変者と思しきアノマリーが起こしたもので、財団が生存者にスプレーを吹きかけ、記憶処理を施していることが示される。
人によっては脳損傷などの後遺症が残ること、惨劇の記憶を削除しきれなかった者には、注射で再び記憶処理を施していることも書かれていた。
インタビュアーは易先輩だが、備考欄で「あといったい何回繰り返せば、終わらせられるんだ?」と、延々と続く事後処理に狼狽するコメントを残している。

問: 爆発が起きた時、どこにいた?

答: 爆発じゃないよ、地震だよ。委員長が地震だって言ったから、みんなで走って逃げたの。

問: 何を見た?

答: 張先生の体に、火が点いてた。

問: ありがとう、雪華ちゃん。医者のおじさんが注射をするから、良い子で待っててね。

答: はーい。おじさん、もうちょっと大きな声で喋ってくれる? なんかよく聞こえないの。



問: 望宇。

問: 望宇。

問: 望宇、外にはあと何人いる?

呼びかけられた当の望宇は、無表情で淡々と、怯える子供たちにスプレーを浴びせていた。
それがもたらす悪影響も構わず、望宇は息を吸うように記憶処理をこなす。それは、次のような財団の論理に基づいていた。

死者よりも生者が重要だ。少数よりも多数が重要だ。個人の運命よりも人類の命運が重要だ。暴走するトロッコなど、財団においてはちっとも難題ではない。生き残った者たちにとって、苦痛に満ちた記憶を捨てて歩ませることは、ひとつの慈悲なのだ。

望宇はこの日が、衆人環視の学校でアノマリーを直接終了する作戦の、最後の実施日であることを思い出す。
「終了の過程で引き起こされ得る甚大なリスク」と「現行の記憶処理手段の不完全性」を理由に、易先輩が主導して、これ以降の作戦を凍結させたのだ。
望宇はそんな先輩を「軟弱な人間」と評価し、複雑な感情を投げかけていた。

なお、ここでは類似のオブジェクトとして、SCP-CN-2982「第三高校」(現実改変者が学校で殺戮を行うオブジェクト)が引き合いに出されている。
本記事で登場する学校内のアノマリーは、おおよそ似たような凶悪な現実改変者と推定して良いだろう。

君は舞台上の主演女優を見る。彼女の姿が、記憶処理の白い霧から再び浮かび上がる。煌びやかな衣装を纏ったまま、依然として我関せずに、台詞を吐き続けている。

どうして彼女は、まだここにいる?

君は銃を抜き、彼女の頭に狙いを定める。彼女は青白いポリ塩化ビニルの風船を回し、黒いマーカーで塗りつぶされた瞳で、君を見つめている。

どうすべきかは、分かっているな?

君は躊躇わず、心を固めてトリガーを引いた。

NPCのように劇を続ける彼女を怪しんだ望宇は、持っていた銃で狙撃する。
なお、文章がところどころ赤くなっているが、これは元記事の構文に由来するものである。
この赤色には意味があるとみられ、「”心”を”固めて”」から察するに、「硬心ミーム」に関連したものだろう。
望宇は彼女を精神空間から排除すべき存在とみなし、首尾よく取り除けるよう、精神的な障壁を強めたのだ。

※補足として、SCP-5000においても、幹部職員に送付されたファイルに「心を固めよ」というメッセージが付随している。
このファイル配布を境に、財団職員は洗脳されたかのように豹変し、人類抹殺へ動くようになった。

望宇の放った弾丸は彼女を貫き、風船の頭が破裂する。
風がほとばしり、何もかも吹き飛んでいくが、望宇は観客席に座る、自分と瓜二つの顔をした少年を目撃する。
その直後、望宇は少年の瞳の穴へと吸い込まれ、ひたすらに下へと墜ちていく。

  • 401号室の前で名残惜しそうに手を振る、見知らぬポニーテールの少女。
  • 冒頭にも出た、自宅と思わしきリビング。頭蓋骨と吐しゃ物が蒸し器の中で湯気立ち、金魚鉢には血色の小石が敷き詰められている。
  • 数本の注射器が置かれた、消毒液の臭いに染まる部屋。
  • 宇宙の果てに生えた、色とりどりの小屋。君はまだ、ここを覚えているか?いったいどこから発ったのか、君は覚えているか?

景色が目まぐるしく切り替わった末、管制室とのコンタクトが回復する。

管制室: ……消えた! 抵抗が消失したようです! ですが──

君: 何だ?

管制室: ……少々お待ちを、博士。緊急浮上システムがどうも……この、どうなってるんだ、こっちは

主演女優を打ち抜いたことで、浮上の抵抗が無くなったようだ。しかし、浮上システムの反応が芳しくない。
管制室が自分を引き上げようと格闘している最中、望宇はあることに思い至る。

君は過ちを犯した。

君は本来、その名を忘れているべきだった。そうだろう?

君: ……そうだ。

君: 手が空いたらでいい、調べ物を頼む。昔、私が記憶喪失となった例の交通事故の、死亡者名簿だ。

誰かからの警告をよそに、望宇は管制室へ調査を依頼する。
記憶を失う原因となった、例のバス事故の死亡者名簿に、「陳 曦(チェン・シー)」という少女の名前があるかどうかを。

第四層

2011年、僕は大学三年生でした。指導教員選びを始めた頃、僕はクラスメイトについて回って、付属病院の迷宮めいた廊下をふらふらと彷徨っていました。そして、孟先生のオフィスに足を踏み入れました。先生の机に白いスプレーが1本、置かれていたんです。

予期せぬ時と場所で、あの馴染み深い感覚が、大波となって押し寄せてきました。僕は突然、長らく自分を悩ませてきたあの難題を思い出したんです。

2017年の望宇の面談記録から、第四層は始まる。
孟教授(財団職員)のオフィスにあったスプレーに既視感を覚え、それがきっかけで財団に入職したことが明かされている。
望宇は多忙な教授よりも、教授の愛弟子・易先輩に指導を受けることが多かった。若くしてサイト副管理官に昇進するほど、先輩は優秀だったものの……

やめましょう。死者を悪く言いたくはありませんし、僕たち2人の確執も、せいぜい理念の不一致といったところです。この話は、もう、いい。

何らかの理由で、先輩は故人となっていた。思ったよりも、2人の間の溝は根深かった様子だ。

その後、精神空間のサイトで目覚めた望宇に対し、管制室は陳曦という名が記載された死亡者名簿を「2件」見つけ出したと報告する。
一つは、2001年9月に起きたバス事故のもので、もう一つは、同年11月に実行された、財団の秘密作戦によるものだった。
後者の書類は暗号化されており、管制室にはアクセス権限がない。望宇は自分のアカウントを使うように命じるも、不正利用となるため、管制室は躊躇する。
まもなく、望宇は別の策を思いついたようで、物理的なコピーが保管されている資料室へと歩き始めた。

面接の終わり際、先輩は君に尋ねた。「どうして財団に入りたいと思った?」。君は口を開きかけたのち、「財団とは、ご縁があるような気がしまして」と言った。先輩はフッと笑う。まるでそれが、お決まりの質問に対する、お決まりの冗談めいた答えだとでも言うように。だが、それは冗談ではなかった。君は俯き、あの難題のことを思い浮かべていた。

精神空間のサイト-CN-100を進むうちに、そこでの様々な記憶がフラッシュバックする。
「財団とは縁がある」と言ったが、望宇は当時、初めて訪れたはずのサイト-CN-100に既視感を抱いていた。
時期も理由も曖昧だが、確かにここへ来たことがあると、財団ロゴやくすんだ色の廊下を見て感じていたのだ。

君は目を閉じていても、記憶の中でサイトの全容を再現し、資料室への順路を見つけ出すことができた。

記憶の専門家である望宇は、サイト-CN-100を隅々まで覚えており、不安定な精神空間の中でも、精巧な模倣を作り上げていく。
自分が過去、死亡者名簿を見ていたのではないかと考え、資料室に至ることで詳細を思い出そうとしているようだ。

道中、易先輩からの2014年のメールが挿入され、特殊なDクラス職員を用いた精神空間の潜入実験が語られる。
共感能力が著しく欠如したDクラスを潜らせたところ、前人未踏の領域へスイスイと辿り着いた。
一方で、個人的無意識層へと進んだDクラスは、過去の記憶処理で消されていたはずの祖父を目撃する。
唯一親しい親族と言えた祖父に会ったことで、彼はうずくまって泣き出し、それ以上の探索を拒否。そのまま昏睡状態に陥った。
これこそが、財団とSCP-CN-4000のファースト・コンタクトであったとみられる。

  • 2002年、例のバス事故で入院した望宇の回想。車椅子に座った仮面の少年が「兄さん、[文字化け]」と呟く。
  • 財団の内部資料。SCP-CN-4000について、人類に共通する"ある場所へ回帰したい"という深層的願望を象徴しているのではないかと推察がなされる。
  • 陳曦に関する記録を読んでおけば、硬心ミームの防御対象になると、現実への浮上を勧める管制室。
    • それに対し、「硬心ミームに隔離されたら、記憶への干渉そのものができなくなる!」と、声を荒げて浮上を拒む望宇。

場面が何度か切り替わった後、資料室へ向かう階段をひたすらに降りていく望宇。
壁には、ここで何らかの収容インシデントに遭った職員による、呪いの言葉が書きなぐられている。
心理認知課の多くの職員は、自らを実験台に記憶処理を試しており、望宇も例外ではなかった。
そして、精神空間の要所要所で漂っていた消毒液の塩素臭が、Y-909記憶処理薬の匂いであることが明かされる。

君は思い出せない。なぜ先輩の実験ログから、あの潜行実験記録を見つけてしまったのかを。探索者の氏名が「莫望宇」と記された、あの記録を。

理解できない。なぜその記録に、君をここに潜らせ、あの難題に関するすべての記憶を削除するよう、指示書きがあったのか。

ある日、望宇は先輩が保管していた実験ログの中に、自分が精神空間に潜ったとされる記録を発見する。
そこには、中学時代から抱える「難題」に繋がる記憶をすべて削除するよう、自分自身に指示する記述が残っていた。
望宇は身に覚えのない記録を読み、自分が精神空間で「何か」に遭遇したこと、それが自分の苦痛、ひいては全人類の苦痛の根源かもしれないと思案する。
それを確かめるためには、精神空間を下へ下へ進み続けるしかない。

そんな中、バス事故の方の名簿を調べていた管制室から、慌てて連絡が入る。

管制室: ちょっと待ってください。あなたには、亡くなったご兄弟がいらしたのですか? なぜ一度も、こちらにその話をなさらなかったのです?

管制室: ありました、莫 思宇(モー・スーユー)。1989年8月27日生まれ、2001年11月23日死亡。ご存知ですか?

君: 8月27日? それは私の

君:

君:

君:

管制室: まだそこにいますか? もしもし?

名簿には、望宇と同じ生年月日の「莫思宇」という少年が載っていた。
死体が人形のように転がる階段を下りながら、望宇は忘却していた真実を少しずつ思い出していく。

君は知っている。彼らの多くが、虚偽の記憶を植え付けられ、記憶の空洞を抱えることになるのを。彼らは自分の一時代を忘れ、決して忘れてはならない人々を忘れてしまうのだ。

財団の一員となった望宇は、無数の市民や同僚に記憶処理を施してきた。それが彼らへの「慈悲」だと信じていたが、実際には大切な記憶を奪い、自分と同じような「記憶の空洞」=難題を負わせていた。

さらに、下へ。さらに、下へ。さらに、下へ。ついに資料室に辿り着き、望宇は自分に課された「難題」の起源を思い出す。それは、財団職員とみられる者達の会話だった。

: ……莫望宇、この子の名前か。

: 講堂で死んだ子の、双子の兄弟だったか。名前も似たようなもんだな。こっちが兄貴か?

: それで、どうします? どの記憶を消しましょうか。

: 中学時代の記憶を丸ごと消そう。この学校に通っていたこと自体、忘れさせりゃあいい。

: この子と親しかった死者数名については、どう処理します? 思い切って、遠足でのバス事故ってことにして、他は全員死に、1人だけ生き残ったことにしますか?

: 誰がいたっけか、弟? それと、陳曦っていう女の子。確か、下の階の隣人でしたっけ。2人とも、バス事故で死んだことにしましょう。

: いや……駄目だ。そんなことしたら、親御さんに死体を確認させなきゃならなくなる。

: それに、記憶処理は万能じゃない。万が一思い出して、そこから終了作戦のことまで芋づる式に思い出されたら、また後始末が必要になる。

: 面倒だな。トラブルは極力減らしたい。言わなくても、わかるな?

:

:

: ならいっそ、全部消してしまおう。その2人は、最初から存在しなかったことにするんだ。親の方も、彼らを知る他のクラスメイトの方も、合わせて調整しておけ。

: まったく、難題を押し付けてくれますねえ。

: 生き延びただけでも御の字だろう。いつだって、死者よりも生者の方が重要なんだから。

2001年に起きたのは、遠足のバス事故ではなかった。学校内で発生したアノマリーを排除するための、財団による終了作戦だったのだ。
彼らは作戦の露呈を避けるため、望宇や親類縁者、他の生徒の記憶から、死んだ人間の存在を丸ごと削除してしまった。
「死者より生者が重要」という、後に望宇自身が信奉することになる財団の論理によって、望宇の過去は奪われ、別の人間に作り変えられていたのだった。

第五層


監督評議会は、財団のため、正常性のため、そして人類の命運のために諸君が捧げた努力と犠牲に、心より感謝の意を表します。記憶工学は、世界をより美しき場所へと変えるでしょう。

第五層は、PNEUMA計画の初期成果を祝う、2015年の監督評議会によるメッセージから始まる。
ここでは記憶工学の発展により、全人類規模での記憶処理が可能になりつつあるという輝かしい成果が語られている。
他方、計画に貢献したであろう望宇の精神は、過去の記憶によって崩壊しつつあった。

資料室の明かりが瞳孔から流れ込み、君を闇の中から引き戻す。白衣を着た長身の背中が、書架の列へと曲がり、消えていくのが見えた。まるで、君をどこかへ導こうとしているようだ。

望宇は白衣の背中を追い、精神空間のサイト-CN-100を駆けずり回った末、「トラウマ科」と書かれた部屋に辿り着く。そこは2016年6月3日、易先輩が青酸カリを飲んで自殺した現場だった。

共に働いてきた数年間、彼に対する君の態度は、尊敬から困惑へ、そして嫌悪に憎悪へと変わっていった。易正陽は軟弱で、無能で、偽善の仮面の下に怠惰な本質を隠した人間だと、そう思っていた。彼さえいなければ、多くの業務がこれほど収拾のつかない事態にはなっていなかっただろうし、心理認知課とPNEUMA計画にとっても、巨大な足かせが無くなっていただろう。

まさか、彼の亡霊がここまで執拗だとは。時空を越え、硬心障壁をも貫いて、再び君に責め苦をもたらそうとは、思いもしなかったのだ。

望宇は先輩を軽蔑していたが、同時に彼こそが、自分にとって最大の障壁であることも自覚していた。
毒をあおる直前、先輩は望宇に宛てた手紙を書き残していた。その手紙の内容が原因で、先輩は硬心ミームを無効化する亡霊と化し、望宇を動揺させる脅威になっていたようだ。

: 先輩、実験への参加を志願します。1回だけでいいんです。

: あのファイルを見てから、もう1週間ずっと、悪夢を見続けています。

: 彼らは僕に……聞いてくるんです。なぜあんなことをしたのかと。どうして彼らを[文字化け]たのか、どうして他の人に、彼らを[文字化け]させたのかと。僕はやってない。あらゆる職員が正しいと思ってることをしたまでです。死者よりも生者が重要だ。生きている者は、重荷を下ろして進まなきゃいけないんだ。

ある日の回想。終了作戦の記録を見つけた望宇は、記憶から消された死者の幻影に悩まされた。
そして、ヒト精神空間探査計画の被験者となり、死者についての記憶を取り除きに行こうと、上司である先輩に承認を求めた。

: 先輩、これから探索者に志願します。例の計画の。

: ええ、そうですよ。それが何か? 今みたいに、あのことばかり何度も何度も思い出したくないんです。綺麗さっぱり消してしまいたい。僕は——(中略)

: 易正陽、あなたのことはずっと尊敬していました。でも——じゃあ、教えてくださいよ! あなたがそこまで腰抜けになったわけを! 笑えるくらいの腰抜けに! 死人よりも、生きてる人の方が大事なのは当たり前でしょう? ええ? あなたは根本のところがわかってないんですよ。そんな経験なんかしてないから。そんなの傲慢にすぎますよ。

: 僕たちはどうして、あんなにも苦しい記憶を背負ったまま生きていかなきゃならないんです? 僕らみたいな人間が、来る日も来る日も悪夢に苛まれるのを見て、あなたは楽しいんですか?

: 恨みます。あなたのことを。

先輩に断られた望宇は、独断で計画に志願しようと決意する。この時点で、2人の関係は完全に決裂してしまった。

君はあの夜のことを思い出す。先輩のアカウントを使って彼のPCにログインし、ある文書を書き記した。彼の死体は、すぐそばの机に突っ伏していたが、君は振り向きもせずキーボードを叩いた。

君は思う。こんなこと、さっさと忘れてしまえばいいのに。遅かれ早かれ、度重なる記憶処理によって消し去られてしまうことは分かっている。だから君は、未来の自分に書き残した。手段を選ばず精神空間へ潜れ、と。「テストのため」だとか、「SCP-CN-4000への挑戦」だとか、口実は何でもいい。中に入ったら、硬心ミームの導きに従うように、と。

君は記憶の宮殿(マインド・パレス)の地図を、複雑な動的フラクタルの中に隠した。線と色の塊がうねり、明滅し、現実の裂け目から無数の手が伸びてくるかのように、君の差し出した地図を呑み込み、探索のための命綱へと変えた。

そうだろう? 硬心ミームよ。

君は完璧なペテンを仕掛けた。君自身さえも、自身の記憶さえも欺くペテンを。君はそれらの記憶を抱えて生きていくことはできなかった。かといって、完全に忘れ去ることもできなかった。君は脳内の亡霊を根こそぎ引き抜き、マリアナ海溝へ永遠に沈めようとした。

さあ行け。君が元々やりたかったことを、成し遂げに行くんだ。

「記憶の宮殿」とは、馴染みのある場所を「宮殿」のように思い描き、覚えたい情報をその場所の特定の位置に対応させることで、記憶効率を高める技術を指す。
望宇は直視できない記憶を「トラウマ科」に対応させ、そこまでの道筋を暗号化し、硬心ミームに組み込んだ。
SCP-CN-4000の攻略に不可欠な硬心ミームを、無意識的に特定の記憶へと行き着かせるガイドに仕立て上げたのである。
すべては、脳内のトラウマを完全に削除するために。


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望宇はトラウマ科のドアを開ける。管制室によると、すでに事象の地平線に差し掛かっているらしい。
診療室は塩素臭のする海水に沈んでおり、机の上には望宇を絶望させ、逃げ場を失わせるまでに至った、先輩の遺書が置かれている。
当時、望宇は記憶処理薬を続けざまに七本も打って、ようやく遺書の記憶を頭から消し去った。
しかし、よほど中身が衝撃的だったのだろう。翌朝にはもう、遺書の存在を思い出してしまう有様であった。

望宇は遺書を読まずに引き裂き、海水に沈めることで、内容をきっぱり忘れ去ろうと試みる。

こうして、すべては無かったことになり、明日も太陽はいつも通り昇り、君は再び歩み続けることができる。



と、君は考えていた。そうだよな?

安堵したのも束の間、水位が上昇していることに気づいた望宇は、一転してパニックに陥った。
やがて、遺書の文字が海水とともに、肺から血管、そして脳へと流れ込んでくる。
真実の重みを象徴するであろう、海水の凄まじい水圧によって、逃げ道のドアが粉砕される。
そのドアは赤く塗られており、精神を守る硬心ミームが完全に崩壊したことを意味していた。
管制室からの警告もむなしく、望宇は事象の地平線を超え、精神空間の深淵に堕ちていく。

なお、だいぶ端折っているが、元記事では地の文が豹変し、完全に望宇の語り口ではなくなっている。
元々、ちょいちょい片鱗を見せており、二人称の「君」で統一されているのも怪しいものがあったが……。
いずれにしても、精神に潜む何者かにこっぴどく煽られており、硬心ミームの崩壊をダメ押しされた印象を受ける。

00:02:05 君は独りで鉄のドアを押し開け、暗闇の中をよろめきながら実験室へ入り、隅にある保冷庫の方へ向かう。

00:07:07 君の肩が小刻みに震え出し、サイト内放送から低いすすり泣きが聞こえてくる。

00:10:44 君の肩に、もう1つの影が重なる。易正陽だ。彼は実験室に入り、照明を点けると、身をかがめて君の腕を持ち上げ、確認する。それから、一つ溜息をついて、君の隣に座り込んだ。

00:14:24 君は顔を上げ、先輩に問いを投げかける。彼は長い間君を見つめ、最後には頷いた。

00:16:07 先輩は眼前で腕を上げ、君の血管から注射器を引き抜く。そして、二度と見たくないかのように、その顔を背けた。

00:02:45 君は白い包み紙から2錠の白いタブレットを取り出し、一息に飲み下す。

00:01:11 手元から真新しいスプレー缶が転がり落ち、ゆっくりと遠くまで転がっていく。

00:00:00 君は顔を上げ、監視カメラを見据えながら、チューブ入りの液体を体内に注入する。

硬心ミームが崩壊した直後、映像記録が連続して再生される。
そこに映っていたのは、先輩に頼んで記憶処理を受けた後、自分で記憶処理を繰り返す、望宇自身の姿だった。

とっくに、勘づいてたんだろう? 上席研究員である君が、なぜいつまで経っても、あの難題の答えを解明できなかったのか。

この行為を、自分が何度繰り返してきたか、覚えているか?

第六層


君は疑問に思っていたはずだ。財団の研究者である私が、なぜ自分たちの事業に反対し、財団の誰もが当たり前のように行う記憶処理に異を唱えたのか。君が私の元を訪れ、初めて自分に記憶処理をしてほしいと頼んだ時、私は君にこう言った。「それは規定違反だ、財団にそんなことをした前例はない」と。

あれは、嘘なんだ。記憶処理による心的外傷の治療は、通例として行われている。(中略)君に泣きつかれて、たった一度だけ願いを聞き入れた、あの時のようにね。

第六層では、易先輩の遺書の全貌が明らかになっていく。自身が記憶処理に慎重になった転換点として、先輩は大学生の望宇と出会った2011年を挙げる。
研究室のスプレーを見つめ、デジャヴを感じていると語る望宇を見て、先輩は彼の正体に気づいてしまったのだという。

頭がぼんやりとする中、時計のジリリという音で目を覚ます。

顔を洗い、リビングへと向かう。そこには、君と瓜二つの少年がすでに座っており、手にした揚げパンをかじっていた。

彼の皿からもう一本の揚げパンを奪い取ると、勝手にかじり始める。少年は殴るふりをし、笑って「魔王魚(モー・ワンユー) め」とからかう。

今夜は学芸会の練習がある。君と少女は、クラスの出し物の主役同士だ。君たちは今日、一緒に登校する約束をしていた。

分厚い冬の制服に身を包み、校庭を歩いていく君は、薄雲に遮られた太陽を見上げ、そして思った。北国の冬、それはまるで、冷蔵庫の中のライトのようだ、と。

遺書の合間に、終了作戦当日の記憶が挟まれる。双子の弟である思宇や、隣の席の少女・陳曦とのささやかな思い出が綴られていく。
俳優志望の思宇にコーラ1本で買収され、主演男優の代役を任せたこと、
劇の練習のため、思宇たちを含む十数人のクラスメイトが教室を出たこと、
自習となった7限目、暇な望宇は寝落ちし、下校時間になっても起きなかったことが明らかとなる。

廊下から泣き叫ぶ声と足音が微かに聞こえてくる。陶器が砕ける音、鋭利な物体が床を擦る音、何かを引き裂く鈍い音、水の詰まった袋を殴る音、人の叫び。最後に重々しく閉ざされる、冷蔵庫のドアの音。

きっと君は、夢を見てるんだろう?

そうだよな?

2001年11月。私は20歳で、今の君と同じく、大学三年生だった。ゼミに入ったばかりの私は、孟先生に随行し、北方のとある地方都市へと飛んだ。財団による、無様な失敗に終わった終了作戦の後処理をするために。作戦を指揮していた責任者は、傲慢かつ無能だった。銃をぶっ放すこと以外、何ひとつ頭にないような奴だったよ。

彼の愚かさの代償は、1つの学校そのものだった。生徒・教職員の9割以上、そして、多くの家族の命もだ。

午後5時30分、誰もいない教室で目覚めた望宇は、キャンパスに立ち込める水色の煙と財団職員、地面に倒れた赤色の影を目にする。
急ぎ向かった大講堂で、望宇は舞台に横たわる陳曦を見つける。彼女の首から上は、水風船のように破裂していた。
望宇は続けて、弟の思宇を見つけるも、彼は重傷を負い、片目から血を流していた。思宇は残りの力を振り絞り「兄さん、逃げて」と叫ぶ。
その視線の先には、スプレーを手に迫りくる、黒服の財団職員の姿があった。
記憶処理薬の濃霧で呼吸を妨げられたのか、思宇は力尽き、崩れ落ちる。望宇は黒服から逃れようと、狂ったように走り出した。
生存者に記憶処理を施す職務上、財団目線ではおかしくない動きだが、今現在の望宇にとっては「記憶処理で弟の存在を消し去られた」、トラウマの暗喩としても働いてしまっている。

それから十年後、あの時の私と同じ、大学三年生になった彼が、再び私の向かいに座り、孟先生のゼミに入りたいと告げてきた。

その瞬間、私は悟ったんだ。

因果は巡る。私への報いは、いまだに私を追いかけてきたのだと。

終了作戦に居合わせ、望宇の記憶処理を担当したであろう易先輩は、10年後に再び望宇と巡り合う。
そして、記憶の専門家を志す彼の動機が、自身の施した記憶処理によるものだと悟ってしまった。
これを境に、先輩は「死者よりも生者が重要」という財団の論理を脱し、記憶処理の使用削減を主張するようになったと思われる。

君は力を振り絞って床を這い、一階廊下にある木扉へと近づく。扉は長らく閉ざされており、隙間からは漆黒の闇が覗いている。級友たちは言っていた。扉の向こうの部屋では、十年前、白い靴を履いた女子生徒が首を吊ったのだと。

もし弟の頼みを聞き入れていなければ、すべては違っていたのだろうか? 彼は難を逃れ、大人になることができたのだろうか? あの場で異変に気づいていれば、すべてを変えるチャンスがあったのでは? 少女が逃げる時間を稼げたのでは?

なぜ、たかがコーラ一本で弟に買収されてしまったのか、君には分からない。本来なら、先生にあんな嘘をつくべきではなかったのだ。つまるところ、君が彼らを死に追いやった元凶なのではないか?

望宇は後悔を噛みしめながら、黒服から逃れようと疾走する。校舎一階にある開かずの扉を、この惨劇から逃れる出口と見込むが、あと一歩のところで黒服に捕まり、記憶処理を施されてしまう。

上席研究員に昇格してからの3年間で、君は計15回、私の元を訪れた。そのたびに君は、「あの難題を解き明かした」と言い、「真実があまりに苦痛だから、記憶処理をしてほしい」と懇願した。私が拒めば、君は隠れて、自分自身でそれを実行していた。

思うに、それでも君は、何かを勘づいていたに違いないんだ。なにせ、上席研究員である君には、長年君を悩ませてきた難題の答えが何なのか、調べ上げる能力も、権限も、とっくに備わっていたのだから。君自身、よく分かっているはずだよ。それを知らない唯一の理由は、君自身が答えを受け入れられず、脳内から消し去り続けているからに他ならない。

君: 個人的無意識層に落ち込んでいた。自力ではとても抜け出せない。ここは無限ループだ。

管制室: 先ほどの位置は、事象の地平線に極めて近かったのですから、そのような事態も起こり得ます。

君: 一刻も早くここから出たいんだ。早く僕を引き上げてくれ! 早く、早く、早く!

また目を覚ます。何だか、とても長い夢を見ていた気がした。左手の窓は一面の藍色に染まっている。薄茶色の机が八列、整然と並んでいるだけで、教室には誰もいない。先生もクラスメイトも去ってしまった。ここには君しかいない。

黒服に捕まり、記憶処理を受けた望宇は、またしても誰もいない教室で目を覚ます。
そして、出口の扉を目掛けて走るも、辿り着く寸前で黒服に捕まり、再び記憶処理を施されてしまう。
現実において、何度も真実を思い出し、何度も忘れ去ろうとしたように、望宇は2001年11月23日から抜け出せなくなってしまった。

君: どうして彼らは、自分を襲うんだ?

管制室: 襲わない理由がありますか? あなたは現場の目撃者じゃありませんか。

君: けれど、僕だって同じ——

管制室: おや? そうですかね?

管制室: つまりあなたは、サイト-CN-100心理認知課の上席研究員・莫望宇であり、同時に、一年三組の優等生・莫望宇でもある、と。そうおっしゃるのですか?

管制室: あなたがそう主張したとして、果たして"彼"は、納得するでしょうか?

地の文に続き、管制室の口ぶりもおかしいものになっていく。
事象の地平線に達した時点で、現実との交信が絶たれると考えれば、通信の主は財団でない可能性が高い。

君は校庭の怪物をかわし、黒服の電気ショック弾を避け、待ち伏せをやり過ごし、窓を乗り越え、黒服と不明な存在との乱戦を迂回し、級友の死体を飛び越え、壁の陰で銃弾の雨をしのぎ、そしてついに、あの扉の前へと辿り着く。

君は、この中学生の肉体が持つありったけの力を振り絞り、堅く閉ざされた木扉を一撃で蹴り開ける。

あらゆる試行錯誤の果てに、どうにか出口に辿り着いた望宇は、死に物狂いで中へと踏み込んだ。
そこには下へ続く螺旋階段があり、どうにも安全には見えないが、望宇は一気に駆け下りていく。

管制室: 彼が子供の頃、何が好きだったか覚えていますか?

管制室: 彼が子供の頃、弟に何と呼ばれていたか覚えていますか?

管制室: 彼が子供の頃、どんな願い事をしたか覚えていますか? あなたは、それを叶えましたか?

君: そんなもの、ハナから存在しな——

管制室: はて? もしあなたが本当に"彼"だと言うなら、当然知っているはずでしょう?

管制室: あなたが殺した"彼"の一人一人は、皆そのことを知っていらっしゃいましたよ。

管制室: この行為を、あなたは何度繰り返したのですか……

管制室は子供の頃の望宇について問い詰め、それらを覚えていない事実を指摘する。
ここで強調されている「彼」とは、真実を知るたびに記憶処理で殺してきた、過去の望宇自身のことだろう。

君: 待て、お前……僕は——

君: 畜生、会議で奴らが触れた時、気づくべきだった! 精神空間にはクソ忌々しいナニカが潜んでいると! お前は、そいつ

「クソ忌々しいナニカ」の部分には、SCP-5000へのリンクが貼られている。
アニヲタの解説記事でも触れられているが、謎めいたSCP-5000の正体として、「人間性は異常存在である」仮説が存在する。
ここで言う人間性とは、「痛みを感じる性質」や「人の痛みを思いやる性質」であり、平たく言えば「心の痛み」を指す。
硬心ミームで感情を殺し、他者にも自分にも冷徹に記憶処理を施してきた望宇にとって、
後悔や罪悪感、先輩の遺書に対する共感といった心の痛みをもたらすSCP-5000は、まさに我を忘れて罵りたい、クソ忌々しい存在であったと言えよう。

だが、地の文は望宇の激高を制止し、さらなる追い打ちをかける。

君は単に、現実と向き合いたくないだけだろう。だからこそ、この漆黒の階段をひたすら駆け下り、ここから永遠に逃れられる出口を探し求めている。雪だるま式に膨れ上がったその罪悪を、もう背負わなくて済むように。

ここまで来てもなお、まだ逃げ続けようとしている。これは自分の責任ではないと言いたいのだろう? 自分は純粋な被害者で、精神空間において人類の集合的無意識に侵入した「怪物」に遭遇しただけなんだ、と。

君は今でも、自分は間違っていない、これまで一度も間違ったことなどないと信じている。そうなんだよな?

自身を被害者と意識し、異常存在に責任を転嫁することで、記憶処理の加害者でもある現実を無視していると、そう指摘したのだ。
そんな地の文の主張を押し固めるかのように、先輩の遺書の続きが展開される。そこには、記憶処理技術の根本的な欠陥が記されていた。

そろそろ現実を見ようじゃないか、望宇。これだけの回数を重ねたんだ。君もいい加減、理解しているはずだ。もはや逃げ場などない、向き合うしかないのだと。

「記憶処理は慈悲である」「死者よりも生者が重要だ」。これらのもっともらしいお題目は、理屈の上では何ら問題ないように聞こえる。ただ一つの問題は、君も私も、実際は痛いほど分かっているということだ。

それらは徹頭徹尾、嘘っぱちであることに。

記憶処理は指定した一部の記憶を削除するだけで、それに付随する感情等といった記憶を一掃することはできない。
死者にまつわる記憶を消しても、その分の「空洞」が記憶には残され、ひも付く先を失った苦痛は、亡霊のように生者を苛み続ける。
記憶処理は決して心の傷を癒やさず、破れたカサブタから血を垂れ流し続ける「不治の傷」を生むだけなのだ。
望宇が既視感に執着し、何度も真実に辿り着いては、記憶処理を繰り返している事実が、その何よりの証拠であった。

その上、先輩の論に基づけば、両親の気が狂った原因にも説明が付いた。
我が子を喪って苦しい感情はあるのに、なぜ苦しいかは思い出せない。こうした矛盾が、両親を狂気に陥らせてしまったのだ。

親しい人間を記憶処理で喪ったにもかかわらず、望宇ははるかに大勢の人間を、人々の記憶から消し続けている。
それでも望宇は、自分が加害者である現実から逃げようとしていた。漆黒の螺旋階段を、望宇はどこまでも、どこまでも駆け下りていく。
だがその中で、少しずつ、望宇は自分が背負った罪を自覚し、葛藤し始める。

財団の常套句——いわゆる「死者よりも生者が重要だ」という言葉は、単なる言い訳に過ぎない。難題から逃れるための道であり、彼らはその道をどこまでも突き進んでしまっている。

被害者に1針注射を打てば、我々の顔を忘れさせることができる。ボタンをポチッと押せば、1つの都市を、1つの国家を、果ては全世界さえもリセットできる。自分たちが作り出し、解決不能となった難題に対し、逃避することこそが、我々の経路依存性(パス・ディペンデンス)になってしまったようだ。

悲劇の隠蔽のため、関係者に記憶処理を施し、カバーストーリーを流布して済ませる財団のシステムは、すでに引き返せない「経路依存性」に陥っていると先輩は指摘する。
つまり、隠蔽の仕方に問題があると分かっていても、解決策が記憶処理を大前提に固まっているため、「さらに強力な記憶処理を開発し、覆い隠す」道しか選べなくなっているのだ。

度重なる記憶処理薬の改良、高まる薬効。それは我々にとって、単なる逃避であり、無害な非常口に過ぎない。

君が私の前に現れ、かつての私のように、冷徹なアイデアを推し進める姿を見た時、悟ったんだ。自分はもう、引き返すことなどできないのだと。

財団の逃避とは、1本の鎖だ。望宇、君は記憶処理の被害者で、その責任は私にある。君は記憶処理の加害者となり、その罪は日に日に積み上げられている。その責任もまた、私にある。君が手掛けた被害者たちも、やがて多くの悲劇を引き起こすだろう。その責任も、君と私にはあるんだ。

望宇は凄惨な事件の被害者であったが、財団の論理に染まることで、さらなる悲劇を生み出す加害者へと成り果てた。
この逃避の連鎖は、先輩にも、財団の誰にも、もはや止められない状態にあった。

君は暗闇の中を、ひたすら下へ、下へと駆け下りる。ついに逃げ道を失い、巨大なドアが行く手を阻むまで。君はドアを撫で、自分の顔に触れる。そして、自分が大人の姿に戻っていることに気づく。君は、かつての君が抱いていた願いを忘れ、かつての君の何もかもを忘れてしまった。それらを取り戻す機会は無数にあったというのに、君はそれを拒んだのだ。

記憶の中で君は、最愛の人々を殺し、誰かにとっての最愛の人々をも殺し、数多の人々に傷跡を残した。だが君は、よく分かっているはずだ。君が真に逃れようとしている相手は、彼らではないことを。

君は財団に乗っ取られた、空虚な抜け殻に過ぎない。

少年時代の莫望宇に連なる要素の一切は、度重なる記憶処理によって、とうに今の人格から抜け落ちていた。
現在の莫望宇博士は、財団の歯車として動くだけの、「空虚な抜け殻」でしかない。
記憶処理で殺された・殺した人々ではなく、自分自身の正体に対して、望宇は必死に逃れようとしていたのだ。
だが、精神空間の最深部まで行き着き、望宇はとうとう、自身と向き合いざるを得なくなった。

NaN:NaN:NaN ドアの向こうでは、かつての君の死体が層をなして積み上がっている。それらは山肌のような斜面を成し、視界の届かぬ彼方、宇宙の果てまで延々と続いている。

NaN:NaN:NaN 君は莫望宇という名の抜け殻に寄生する、一塊の虚無だ。

ドアの先に広がっていたのは、自らの正体を受け入れられず、記憶を消して死を選んだ、過去の自分の死体の山であった。
彼らは皆一様に、現在の望宇を凝視していた。
ここで望宇は、自身がもはや人間とは言えず、望宇の抜け殻に寄生する「虚無」である現実を、改めて突きつけられる。
真実を否応なく直視させられたことで、望宇を支えていた精神空間の大地が重みに耐えきれず、崩壊する。

無数の穴と、無数の顔が見える。

光源はたちどころに縮み、不可視の点となり、虚無の中に広がる星空へと変わっていく。

すべての穴から誰かが吐き出され、墜ちていく。見覚えのある顔もあれば、知らない顔もあった。

個人の無意識領域から墜落し、ヒト精神空間深部・集合的無意識領域へと向かう望宇。視界には無数の穴と、自分と同じように落下する、記憶処理の犠牲者たちの姿があった。
すべての逃げ場を失った望宇は、宇宙の最果てにある「小屋」へ、真っ逆さまに落ちていく。

目を覚ます?

もう戻れない。

第七層


15年後の自分へ:

こんにちは! 僕は莫望宇。歳は12で、陳河第一小学校の六年三組を卒業しました。あと2ヶ月で中学生になります。

この手紙を読んでいる時、君はどんな人になっていますか? どこにいて、何をしていますか?

第六層までの描写で、SCP-CN-4000の背景や莫望宇にまつわる謎には、一通りの答えが提示された。
最後となる第七層は、物語のエピローグにあたるもので、これまでのサスペンスに溢れた文体から一転、穏やかな筆致で進行していく。
ざっくり要約すると、望宇が少年時代の記憶を追体験しながら、宇宙の最果てにある我が家……「小屋」に向かう話である。
道中に挿入される、将来の自分に宛てた手紙の中で、これまで断片的だった思宇や陳曦のプロフィールが文字化けなしで明かされている。
非常にノスタルジックかつ胸に迫るパートのため、詳細は元記事に譲るが、一つだけ考察ポイントを取り上げておきたい。

宇宙の果てに立つこの小屋は、君の最後の避難場所であり、同時に、逃げ場のない結末でもある。家に着いたはいいが、君は遠くへ来すぎてしまった。だから君は永遠に、また家に帰ることができなくなった。

小屋=家に帰ったはずのに、どういうわけか、また家に帰ろうとしている。
事象の地平線を超え、現実への帰還が叶わなくなったことを意味しているのだろうか?
それとも、「現実」とも「逃げ場のない結末」とも異なる、真に求めた避難場所があったのだろうか?

しかしもう、望宇に外に出る気力は無い。望宇は宇宙の果ての小屋の中で、暖かい思い出の数々と共に、胎児のように丸まることを選んだ。

進んで行ける道は、もうない。彼らは皆、行ってしまった。彼らはもう、ここにはいない。

宇宙の果ての小屋には、誰一人としていない。

アイテム番号: SCP-CN-4000

オブジェクトクラス:

特別収容プロトコル: ここに留まること。

説明: SCP-CN-4000は、宇宙の果てにある小屋です。

最後、報告書が簡素なものに書き換えられ、SCP-CN-4000と莫望宇の物語は静かに幕を閉じる。

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Tale-JP: 宇宙の果ての怖すぎ屋敷


SCP-CN-4000は宇宙の最果てであり、貴様の旅の始発点だ。こんな危険極まりないところに、旧友を置いてはいけない──貴様は博士をかつぎ上げ、 茫漠たる水面をソリを引くエスキモー犬の足捌きで走り出した。

もう一度、屋敷に、帰ろう。

日本支部の夢のコンテストで投稿されたTale記事。タイトルで一目瞭然だが、SCP-JPのお騒がせ概念・恐怖!怖すぎ屋敷!!との悪魔合体作品である。
SCP-CN-4000本家の結末から始まる物語で、メリーバッドエンドからの大胆な軌道変更が図られている。


追記・修正は目を覚ましてからお願いします。

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最終更新:2026年09月17日 02:08
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