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ジャイアント・ホグウィード

登録日:2026/06/08 Mon 00:59:22
更新日:2026/07/03 Fri 21:11:29
所要時間:約 7 分で読めます




『ジャイアント・ホグウィード』(Giant Hogweed)、または『バイカルハナウド』とは、セリ科ハナウド属の植物。

ハナウド属というのは北半球温帯~亜寒帯に広く分布する、別段珍しくもない植物の一種である。
しかしジャイアント・ホグウィードは、そんな中にあって西欧・北米のニュースで毎年騒がれるレベルのヤバイ植物


【ハナウド属の概要】

先にハナウド属について話をしておこう。
通常のハナウド属というのは概ね50cm~1.5mに成長する植物である。あまり環境を選ばず育つ、いわゆる雑草の一種。

ベーシックなセリ科の特徴を多く持つ。春先からすくすく成長し、春の温かくなりきった頃に花を咲かせる種が多い。
地面に這うように大きな葉を持ち、まっすぐ太い茎に細長い毛が生えている。そして、その先端には白く小さいたくさんの花を傘のように咲かせる(複散形花序)。
地面の下では非常に太く頑丈な根を張る。この根のおかげで、多少は水はけの悪さなどにも耐えられるらしい。
花を終えた後の種子は扁平で風に乗って飛ばされることで遠くまで子孫を残す。種子を豊富に作るため、放っておくとわっさわっさと大群落を作ることもある。

そしてこのハナウド属の多くは、フロクマリン(フラノクマリン)という物質を含んでいる。
これは紫外線(特にUVA)に反応する物質で、これを含む植物の汁が皮膚に付着したりするとヒリヒリしたり炎症を起こしたりする。ひどい場合は軽いやけどのような状態になることもある。
これを光毒性といい、これによって起こる炎症を植物性光線皮膚炎(フィトフォトダーマタイト)と言う。

この話、覚えておいてね。

余談だが、柑橘類の汁にもフロクマリンが含まれており、これら汁が大量についた状態で日光を浴びると同じく炎症を起こすことがある。今の話とはあまり関係ないが、ついでなので注意喚起だ。


【ジャイアント・ホグウィードの概要】

さて、本題に話を戻そう。

ジャイアント・ホグウィードは、ハナウド属の一種。コーカサス原産で、19世紀に観賞用植物として欧州に持ち込まれたものが野生化した。現在では西欧・北米の河川敷や空き地などにびっしり生えていることもある。

どんな植物かというと、至極シンプルに言えばその名の通りハナウド属の中でも飛びぬけてクソでかいやつである。
種が育つ環境であれば放っておいても5メートルを超えることほど成長する怪植物。一応言っておくと木ではない、こんなサイズでも草本植物だ。

サイズ以外の特徴は概ねは上述したハナウド属の特徴と一致する。
問題はコイツのフロクマリン含有量である。

その量、殺人レベル。

こいつの汁に含まれるフロクマリンは濃度が非常に高い。
ひとたび汁に触れると、僅かな紫外線とも過剰に反応し、重症火傷のような水疱と損傷・色素沈着を引き起こす。目に入れば失明することもある。

それに加えてこいつ本体のデカさと構造である
セリ科の特徴として、茎の太い管の中には液汁が潤沢に満たされている。それが5メートルもあるのだから、つまりこいつは電柱みたいなデカさの中に毒液をたっぷり詰めたストローも同然なのだ。
こんなものを下手に切ったり折ったりすれば、大量の汁が飛び散り大惨事を引き起こすという、まるでトラップのような超危険植物なのである。


【世界におけるジャイアント・ホグウィード】

これら特性とハナウド属の繁殖力の高さによる危険性から、西欧や北米で厄介な侵略的外来種として取り扱われている。
欧州では毎年のようにこの植物による人的(ペット含む)被害のニュースと注意喚起が取り上げられ、河川敷や道路で発生した際には場合によっては自治体が駆除に取り組むことも珍しくない。

こんなヤバイ植物であることから、イギリスでは『The Return of the Giant Hogweed』という「ジャイアント・ホグウィードが人類を滅亡させようとする」B級SFパニック映画みたいな内容の楽曲が存在する。GenesisのNursery Cryme収録(1971)。


【日本におけるジャイアント・ホグウィード】

日本でも知名度が高い植物であり、特にテレビやネット記事などで「世界の凶悪植物」として紹介されることも多い、代表的な「海外に存在する危険植物」の1つであった。

なぜ過去形なのかというと、2025年6月、北海道の北海道大学にて、ジャイアント・ホグウィードとみられる植物が10株以上も発見されたのである。さらに、調査したところ札幌市内の他の場所でも類似植物が見つかった。
これにより、大学・環境省などが調査を実施中(2026年現在進行形)。

なお、行政によって除去は完了済。同定はできなかった。よって、あくまで「ジャイアント・ホグウィードとみられる植物」の段階で、正式に定着が確認されたわけでもない。
それでも、これまで恐怖を煽ってきた反動のせいか、「海外の危険植物だったジャイアント・ホグウィードが、突然『もしかすると日本にもいるかもしれない植物』になった」というインパクトからか、一時世間を騒がせるバッドニュースになってしまった。
特にYoutubeなどで過剰に広く拡散されてしまったのも痛い。時世である。


【ソスノースキー・ホグウィード】

ジャイアント・ホグウィードの近縁種。ジャイアント・ホグウィードに匹敵する大型種で毒性も同程度に強い。

植物マニアの間では、「東ヨーロッパを支配したホグウィード」として有名である。

この植物は、第二次世界大戦後の旧ソ連にて、家畜飼料・サイレージ用作物として大規模に栽培された。
理由は「デカいし成長が早いし種がたくさん採れるから」平常運転の旧ソ連。
ところが、上述した通り毒性が強いことから管理はあまりにも困難を極めた。牛を育てる片手間で際限なく増えて木みたいなサイズになる猛毒植物を一緒に育てろとか無理に決まってるのである。

結果、ソスノースキー・ホグウィードはあっという間に農園から飛び出して各地に広まり、根絶不可能なレベルで各地に定着。
その被害は、ベラルーシやポーランド、バルト三国、ウクライナにまで広がっている。
これにより「スターリンの復讐」「クマより遭遇率が高い危険植物」「プーチンより勢力拡大してる」などと今なお散々な言われようの侵略的外来種として忌み嫌われているのだそうである。


【調理法】

食べられない。

話を聞いてましたか!?

どうにかして食べる方法とかない。
いや、食べる方法はもしかしたらあるかもしれないが……実際食べた時にどのような有毒性があり、それをどのように処理すると安全かなどの研究は世界中をみてもほぼ進められてはいない。


【なぜ食材としての研究が進んでいない?】

逆になんでその研究が進められてると思ったんだ。
とりあえず食えるかどうかを考えるのはやめなさい、これだから日本人は!

なんのことはない、食べられる食べられない以前に調理過程でほぼ確実に大怪我するからである
安全に調理をしたければ、液体がしみこまない長袖は必須。耐薬品性手袋をはめ、丈夫なゴーグルと顔面防護具をつけて採取から調理まで行わなければならない。
つまり駆除作業と同じ装備をして挑まなければいけないということである。

一応、フロクマリンをはじめとする光毒性のある物質は食べて食中毒を起こすものではないので、この物質そのものも食べられなくはないということになる。
だが、それでも食べた時に跳ねた汁で怪我をしては料理にならないため、調理過程で完全に除去する必要はあるだろう。


【食べたらどんな感じか、どうしても気になる】

…………。

おそらくだが、セリの近縁種で構造も近いので、セリのような食感と味であると考えられる。
茎は若いうちならシャキシャキ系で、水分が多くて青臭いだろう。葉っぱもおそらくそう。
大きく育ったものは鉈で切らなければならないほど硬いので、食べられないと考えられる。

これの近縁種の根には甘味成分を持つものもあるため、根はもしかしたら甘い可能性もなくはない。
が、食べるための品種改良なんか誰も行っていないため「食えるもんだったとしても、ぜんぜん美味しくないニンジン」のようなものかと思われる。

栄養面にもまず期待できない。
前述の通り、調理過程で汁を全部抜かなければならないため、水溶性のビタミンやカリウム・糖類・アミノ酸・有機酸などはほぼすべて失われ、残るものは植物の繊維(セルロース)くらいしかないのである。


【…と言ったが、実は】

ソスノースキー・ホグウィードの原種のほうの話だが、実は歴史的には、原産地のコーカサスでは食用としての利用例があったとされている。
どうやら若い葉をスープに入れたり、若芽を漬物にしたりしたらしい。ただ、残念ながら有力なソースはあまり残っていないのだとか。
原種もソスノースキー・ホグウィードと同様に毒性は強かったと思われるのだが、まったく人間の食への探求というものには恐れいるばかりである。

及び、ソスノースキー・ホグウィードは前述の通り牛の飼料にされていたことから、のっけから生物にとって毒というわけではないと思われる*1
ただ、その頃の牛のミルクはまずくて飲めないほど質が悪くなり、牛にも病気や衰弱が発生したと言われている。
(原因を特定していないためソスノースキー・ホグウィードのせいかどうかが分からないだけ)


念のためにもう一度言うが、食べるなよ!

あと、駆除しなければならない時には絶対に個人で行わず、自治体・行政などに頼むこと。約束だ!


食べないと心に誓った人も、それでも食べる方法を探したい人も、追記・修正よろしくお願いします。

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最終更新:2026年07月03日 21:11

*1 牛は人間と違って体毛と厚い皮膚をもつため、人間ほど簡単に光毒性被害を受けることがない。ただし、牛でも鼻先やまぶたなどが炎症する現象は見られたという